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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171599
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】状態推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20241205BHJP
   G01S 19/14 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G01S19/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088688
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】室井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 渉
(72)【発明者】
【氏名】福場 俊和
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB08
5J062CC07
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち観測環境に応じて可変的にパラメータを設定しながら、カルマンフィルタによって状態を推定する状態推定システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の状態推定システムは、定期的に観測して得られる観測値に基づいて観測対象の状態を推定するシステムであって、観測評価値算出手段と観測ノイズ分散算出手段、状態算出手段を備えたものである。観測評価値算出手段は「観測評価値」を算出する手段であり、観測ノイズ分散算出手段は観測評価値に基づいて「観測ノイズ分散」を算出する手段である。状態算出手段は、観測ごとに得られる観測ノイズ分散を用いたカルマンフィルタによって、観測時における状態を算出する手段である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定期的に観測して得られる観測値に基づいて、観測対象の状態を推定するシステムであって、
今回の観測から遡った一定期間に取得された前記観測値に基づく統計値である「観測評価値」を算出する観測評価値算出手段と、
前記観測評価値に基づいて、カルマンフィルタに用いられる観測方程式のノイズの分散である「観測ノイズ分散」を算出する観測ノイズ分散算出手段と、
観測ごとに得られる前記観測ノイズ分散を用いたカルマンフィルタによって、観測時における前記状態を算出する状態算出手段と、を備えた、
ことを特徴とする状態推定システム。
【請求項2】
前記観測値が、測位衛星を利用して前記観測対象を測位した結果得られる値であり、
前記状態が、前記観測対象の変位である、
ことを特徴とする請求項1記載の状態推定システム。
【請求項3】
前記観測評価値算出手段は、前記観測値に基づく分散を前記観測評価値として算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の状態推定システム。
【請求項4】
前記観測ノイズ分散算出手段は、前記観測評価値にあらかじめ定めた定数を乗じた値に基づいて、前記観測ノイズ分散を算出する、
ことを特徴とする請求項3記載の状態推定システム。
【請求項5】
前記観測評価値に基づいて、カルマンフィルタに用いられる状態方程式のノイズの分散である「状態ノイズ分散」を算出する状態ノイズ分散算出手段を、さらに備え、
前記状態算出手段は、観測ごとに得られる前記観測ノイズ分散、及び前記状態ノイズ分散を用いたカルマンフィルタによって、観測時における前記状態を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の状態推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、カルマンフィルタを用いた状態推定に関する技術であり、より具体的には、実際の観測値に応じて所定のパラメータを変化させながらカルマンフィルタにより状態を求める状態推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば斜面の挙動を把握するため、定期的に定点測位を行うことがある。この場合、従来ではトータルステーションなどを用いて人が観測点を測位していたが、近年では全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いた動態観測も実施されている。例えば特許文献1や特許文献2では、GNSS測位によって観測点の座標を定期的に取得し、多時期に得られた座標を継続的に比較することで斜面を監視する技術について提案している。これにより、斜面崩壊のおそれや地すべりの兆候がある斜面はもちろん、特段の動きがみられない斜面であっても監視することができ、しかも直接的かつ定量的に異常を把握することができるうえ、トータルステーション計測のように大きな手間とコストがかからないという長所がある。
【0003】
【特許文献1】特許第3742346号公報
【特許文献2】特許第6644970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GNSS測位によって得られる座標値など、多くの観測値には誤差が含まれている。つまり、定期的に観測を行ったとしても、真の「状態」を把握することはできず、いわば不確実な状態を推定するにすぎない。このように、誤差を含む(真値ではない)観測値に基づいて、より適切に状態を推定する手法としてカルマンフィルタが知られている。カルマンフィルタは、特に制御や分析を行う場面で用いられる手法であり、例えば、走行中におけるロボットの測位情報(観測値)から自己位置(状態)を推定することによってその走行を制御したり、商品の売上額(観測値)からその企業の株価(状態)を分析したりするために用いられている。
【0005】
カルマンフィルタは、「状態空間モデル」を用いることがひとつの特徴とされている。この状態空間モデルは、得られる観測値から状態を推定するためのもので、いわば対象とする推定問題の現象をモデル化したものである。この状態空間モデルは、図7の式(1)で示す「観測方程式」と、図7の式(2)で示す「状態方程式」によって構成される。なお式中の「t」は、「第t回目の観測」と表現されるように観測回数(序数)を示している。
【0006】
図8は、カルマンフィルタによる状態推定を説明するためのモデル図である。この図に示すようにカルマンフィルタでは、観測値が得られるたびに(図ではt回目)、次回の観測時(図ではt+1回目)の状態(補正前の状態)を推定する。このとき、ローカルレベルモデルを採用し、次回(t+1回目)の状態は今回(t回目)と同じ状態であると推定することができる。そして、次回(t+1回目)の観測値が得られると、状態空間モデルに基づいて「補正前の状態」を補正することによって「補正後の状態」が得られる。
【0007】
以下、図9に示すフロー図と、図7に示す数式図を参照しながら、カルマンフィルタによって状態を推定する手順についてさらに詳しく説明する。まず、対象となる推定問題の現象に適した「観測方程式のノイズの分散R(以下、単に「観測ノイズ分散R」という。)」と、「状態方程式のノイズの分散Q(以下、単に「状態ノイズ分散Q」という。)」を設定する(図9のStep11)。なお、これら「観測ノイズ分散R」と「状態ノイズ分散Q」は、その値が変化しない定数(固定値)である。そして、t=0回目としたうえで、「状態X」の初期値Xと、「状態の予測誤差の分散M(以下、単に「状態誤差分散M」という。)」の初期値(状態誤差分散M)を設定する(図9のStep12)。
【0008】
所定の設定処理が行われると、観測を行うたびにtを1ずつ増やしながら観測値Yを取得していく(図9のStep13)。観測値Yが得られると、図7に示す式(6)によって「補正前の状態誤差分散M 」を算出する(図9のStep14)とともに、図7に示す式(5)によって「カルマンゲインK」を算出する(図9のStep15)。次いで、図7に示す式(3)と式(4)によって「補正後の状態X」を算出する(図9のStep16)とともに、図7に示す式(7)によって「補正後の状態誤差分散M」を算出する(図9のStep17)。そして、今回得られた「補正後の状態X」と「補正後の状態誤差分散M」を用いた一連の処理(Step13~Step17)を行うことによって、次回観測時における状態Xt+1(補正後の状態Xt+1)を求める。
【0009】
このように、従来のカルマンフィルタによれば、推定問題の現象に適した「観測ノイズ分散R」と「状態ノイズ分散Q」を設定しなければならない。そして、これら観測ノイズ分散Rと状態ノイズ分散Q(以下、単に「パラメータ」という。)が適切でないと、当然ながら適切な状態を推定することはできない。例えば、GNSS測位によって斜面の変位(状態)を推定するケースでは、観測環境が良好な「A現場」で設定されたパラメータを、観測環境が良好でない「B現場」にそのまま適用したとしても適切な変位を推定することができない。また、同じA現場であっても、例えば植生繁茂による上空視界(天空率)の変化にかかわらず同じパラメータを用いて処理すると、やはり適切な変位を推定することができないことも考えられる。
【0010】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち観測環境に応じて可変的にパラメータを設定しながら、カルマンフィルタによって状態を推定する状態推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、一定期間に取得された観測値に基づく統計値(特に、分散)である「観測評価値」を算出し、この観測評価値に基づいていわば動的にパラメータを設定しながら状態を推定する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0012】
本願発明の状態推定システムは、定期的に観測して得られる観測値に基づいて観測対象の状態を推定するシステムであって、観測評価値算出手段と観測ノイズ分散算出手段、状態算出手段を備えたものである。このうち観測評価値算出手段は「観測評価値(今回の観測から遡った一定期間に取得された観測値に基づく統計値)」を算出する手段であり、観測ノイズ分散算出手段は、観測評価値に基づいて「観測ノイズ分散(カルマンフィルタに用いられる観測方程式のノイズの分散)」を算出する手段である。また状態算出手段は、観測ごとに得られる観測ノイズ分散を用いたカルマンフィルタによって、観測時における状態を算出する手段である。
【0013】
本願発明の状態推定システムは、測位衛星を利用した測位結果を「観測値」とし、観測対象の変位を「状態」としたものとすることもできる。
【0014】
本願発明の状態推定システムは、観測値に基づく分散を観測評価値として算出するものとすることもできる。
【0015】
本願発明の状態推定システムは、観測評価値にあらかじめ定めた定数を乗じた値に基づいて観測ノイズ分散を算出するものとすることもできる。
【0016】
本願発明の状態推定システムは、「状態ノイズ分散(、カルマンフィルタに用いられる状態方程式のノイズの分散)」を算出する状態ノイズ分散算出手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合、状態算出手段は、観測ごとに得られる「観測ノイズ分散」と「状態ノイズ分散」を用いたカルマンフィルタによって、観測時における状態を算出する。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の状態推定システムには、次のような効果がある。
(1)所定のパラメータを設定することなく、観測対象の状態を推定することができる。その結果、パラメータの適否によって推定精度が左右されることがなく、また設定する者の重圧を回避することができる。
(2)観測値に基づく統計値に応じて可変的にパラメータを設定するため、観測の状況に応じた状態推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願発明の状態推定システムの主な構成を示すブロック図。
図2】それぞれの観測変換係数を用いた変位と実際の変位との差分をプロットしたグラフ図。
図3】本願発明の状態推定システムの主な処理の流れを示すフロー図。
図4】状態算出手段が変位を算出する処理の流れの一例を示すフロー図。
図5】本願発明のカルマンフィルタに係る数式を示す数式図。
図6】(a)は実際に斜面崩壊が発生した際の変位応答能力を従来手法によって検証した結果を示すグラフ図、(b)は実際に斜面崩壊が発生した際の変位応答能力を本願発明によって検証した結果を示すグラフ図。
図7】従来のカルマンフィルタに係る数式を示す数式図。
図8】カルマンフィルタによる状態推定を説明するためのモデル図。
図9】従来のカルマンフィルタの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の状態推定システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明の状態推定システムは、自然斜面や切土のり面、盛土のり面といった斜面や、橋梁やトンネルをはじめとする構造物などの状態を推定するケースのほか、カルマンフィルタによって制御や分析を行う場面などあらゆる状態推定問題に対して利用することができる。なお便宜上ここでは、GNSS測位で取得されるデータに基づく値を「観測値」とし、観測対象である斜面の変位を「状態」として推定する例で説明することとする。
【0020】
図1は、本願発明の状態推定システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の状態推定システム100は、主に解析装置110と測位装置120で構成され、これらは無線通信手段(又は有線通信手段)で接続されている。測位装置120は斜面(観測対象)上の観測点に設置され、一方の解析装置110は情報管理企業など斜面から離れた場所に設けられる。なおこの図では、1つの解析装置110に対して1つの測位装置120が接続されているが、複数の斜面の測位装置120と1つの解析装置110を接続することもできる。
【0021】
解析装置110は、観測評価値算出手段111と観測ノイズ分散算出手段112、状態算出手段114を含んで構成され、さらに状態ノイズ分散算出手段113や測位データ記憶手段115などを含んで構成することもできる。一方の測位装置120は、受信機121と通信手段122を含んで構成され、さらに発電手段123を含んで構成することもできる。
【0022】
解析装置110は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることによって、解析装置110を構成する各種手段の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)といったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、を具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0023】
また、測位データ記憶手段115は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0024】
以下、本願発明の状態推定システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0025】
(測位装置)
測位装置120を構成する受信機121は、GNSS測位に用いられるものであり、すなわち測位衛星Sからの電波(搬送波)を受信する機器である。この受信機121は、斜面(観測対象)上に計画される複数の観測点に設置され、さらに斜面以外の基準点(不動点)にも設置される。これら受信機121は同時に4個以上の衛星から受信することができ、しかもスタティック測位が可能であってキネマティック測位(特に、リアルタイムキネマティック測位)も可能なものとすることができる。さらには、単独測位や相対測位など、あらゆる測位手法について対応可能である。そして、受信機121が受信したデータ、つまりスタティック測位やキネマティック測位が可能なデータ(以下、「測位データ」という。)は通信手段122によって解析装置110に送信される。測位データの送信は、無線通信を利用することもできるし、もちろん有線通信を利用することもできる。そして通信手段122によって送信された測位データは、解析装置110の測位データ記憶手段115に記憶される(図1)。
【0026】
発電手段123は、測位装置120に供給するための電気を発電するもので、商用電力の利用も可能であるが、例えば太陽光発電装置などを利用することができる。発電手段123を配備することで商用電力の使用を回避でき、さらに斜面上の配電線を省略することができるため景観やメンテナンスの点で好適となる。また測位装置120は、演算手段を備えたものとすることもできる。この演算手段は観測点の座標を求めるものであり、すなわち現地(斜面)にて観測点座標を算出するわけである。この場合、通信手段122は、測位データに観測点座標を含めたうえで解析装置110に送信するとよい。
【0027】
(測位データ記憶手段)
通常、受信機121は、極めて短い間隔(例えば毎秒)で電波を受信し、すなわち極めて短い間隔で測位データが生成される。そして測位データは、通信手段122によって送信され、解析装置110の測位データ記憶手段115に記憶される。このとき、受信機121が受信した間隔ごとに測位データは記憶され、例えば受信機121が1秒間隔で受信する場合、測位データ記憶手段115も1秒ごとに測位データを記憶する。
【0028】
また測位データ記憶手段115には、受信機121が受信した測位データに加え、この測位データに基づいて算出された観測点(つまり、受信機121の位置)の座標が記憶される。例えば、受信機121がスタティック測位(静的干渉測位)を行う場合、その結果得られる測位データに基づいて座標(以下、「スタティック座標」という。)が求められ、測位データ記憶手段115はこのスタティック座標を記憶するわけである。通常、スタティック測位では、複数の受信機で4個以上の衛星を長時間(概ね1時間)観測し、衛星の時間的な位置変化を利用して整数値バイアスを決定する。そのためスタティック座標は、概ね1時間ごとに求められ、すなわち測位データ記憶手段115は概ね1時間ごとのスタティック座標を記憶する。
【0029】
同様に、受信機121がキネマティック測位を行う場合、その結果得られる測位データに基づいて座標(以下、「キネマティック座標」という。)が求められ、測位データ記憶手段115はこのキネマティック座標を記憶する。キネマティック測位のうちリアルタイムキネマティック測位では、観測開始時に整数値バイアスを決定(初期化)し、以後は受信機間で無線や携帯電話などを利用して観測データの交信を行い、即時に解析処理を行う。そのためリアルタイムキネマティック測位では、短期間(例えば毎秒)の測位が可能となる。これに伴い観測時刻(例えば、1秒)ごとにキネマティック座標が得られ、すなわち測位データ記憶手段115は観測時刻(例えば、1秒)ごとのキネマティック座標を記憶する。
【0030】
測位データ記憶手段115は、さらに観測点(つまり、受信機121の位置)の変位を記憶することもできる。この変位は、「初期(設置時)の座標」と「今回の測位データに基づく座標」との差分として求められる。したがって、スタティック座標によって変位を求める場合、測位データ記憶手段115には概ね1時間ごとにその変位が記憶され、キネマティック座標によって変位を求める場合、測位データ記憶手段115には観測時刻(例えば、1秒)ごとにその変位が記憶される。
【0031】
(観測評価値算出手段)
解析装置110の観測評価値算出手段111は、「観測評価値」を算出する手段である。ここで「観測評価値」とは、複数の測位データや座標、変位(以下、これらを総称して「観測値」という。)から得られる統計値であり、より詳しくは、今回の観測から遡った「一定期間」に取得された観測値に基づく統計値である。したがって観測評価値は、観測されるたび(観測値が得られるたび)に算出される。この「一定期間」はあらかじめ定めておくことができ、例えば一定期間を1日間として設定したり、一定期間を1週間として設定したり、あるいは月単位や年単位で一定期間を設定したりすることができる。
【0032】
また、観測評価値を得るための統計値としては、一定期間の観測値による分散とすることができ、また標準偏差や平均値など他の統計値(中央値や最頻値、加重平均値など)を採用することもできる。
【0033】
(観測ノイズ分散算出手段)
解析装置110の観測ノイズ分散算出手段112は、「観測ノイズ分散(カルマンフィルタに用いられる観測方程式のノイズの分散)」を算出する手段である。この「観測ノイズ分散」は、観測評価値算出手段111によって求められた観測評価値に基づいて算出される。したがって観測ノイズ分散は、観測評価値が得られるたび(観測されるたび)に算出される。例えば、観測評価値に所定の係数(以下、「観測変換係数」という。)を乗じた値を観測ノイズ分散としたり、観測評価値に観測変換係数を乗じたうえで所定の定数を加えた値を観測ノイズ分散としたり、そのほか観測評価値を説明変数、観測ノイズ分散を目的変数とする種々の関数によって観測ノイズ分散を算出することもできる。
【0034】
観測変換係数を定めるにあたっては、実際に斜面を観測した結果などに基づいた変位モデルを利用するとよい。より詳しくは、複数の観測変換係数を用意し、「観測変換係数を用いたカルマンフィルタによる変位」と「実際の変位(変位モデル)」を比較したうえで、適当な観測変換係数を決定するわけである。例えば図2では、n種類の観測変換係数が用意され、それぞれの観測変換係数を用いた変位と実際の変位との差分をプロットしている。したがって図2のケースでは、観測変換係数は「7」として設定されることになる。
【0035】
観測評価値算出手段111が一定期間の観測値による分散として観測評価値を算出し、さらに観測ノイズ分散算出手段112が観測評価値に観測変換係数を乗じることで観測ノイズ分散を算出する場合、観測評価値が小さいほど観測ノイズ分散の値も小さくなる。つまり、観測値のばらつきが小さいことから、観測ノイズ分散を小さく設定することができるわけである。このように、観測評価値が小さいほど観測ノイズ分散の値も小さくなり、観測評価値が大きいほど観測ノイズ分散の値も大きくなるように観測ノイズ分散が得られるとよい。
【0036】
(状態ノイズ分散算出手段)
解析装置110の状態ノイズ分散算出手段113は、「状態ノイズ分散(カルマンフィルタに用いられる状態方程式のノイズの分散)」を算出する手段である。この「状態ノイズ分散」は、観測評価値算出手段111によって求められた観測評価値に基づいて算出される。したがって状態ノイズ分散は、観測評価値が得られるたび(観測されるたび)に算出される。例えば、観測評価値の逆数に所定の係数(以下、「状態変換係数」という。)を乗じた値を状態ノイズ分散としたり、観測評価値の逆数に状態変換係数を乗じたうえで所定の定数を加えた値を状態ノイズ分散としたり、観測ノイズ分散の逆数をそのまま状態ノイズ分散としたり、そのほか観測評価値を説明変数、状態ノイズ分散を目的変数とする種々の関数によって状態ノイズ分散を算出することもできる。なお状態変換係数は、観測変換係数と同様に定めることができる(図2)。
【0037】
観測評価値算出手段111が一定期間の観測値による分散として観測評価値を算出し、さらに状態ノイズ分散算出手段113が観測評価値の逆数に状態変換係数を乗じることで状態ノイズ分散を算出する場合、観測評価値が大きいほど状態ノイズ分散の値は小さくなる。つまり、観測値のばらつきが大きいことから、状態ノイズ分散を小さく設定するわけである。このように、観測評価値が大きいほど状態ノイズ分散の値が小さくなり、観測評価値が小さいほど状態ノイズ分散の値が大きくなるように状態ノイズ分散が得られるとよい。
【0038】
(状態算出手段)
解析装置110の状態算出手段114は、観測ノイズ分散算出手段112によって算出された観測ノイズ分散を用いたカルマンフィルタによって、観測時における斜面(観測対象)の変位(状態)を算出する手段であり、観測されるたび(観測値が得られるたび)にその変位は算出される。このとき、状態ノイズ分散算出手段113によって算出された状態ノイズ分散を用いたカルマンフィルタとすることもできるし、あらかじめ定数(固定値)として設定された状態ノイズ分散を用いたカルマンフィルタとすることもできるが、いずれにしろ観測ノイズ分散は観測ノイズ分散算出手段112によって算出された値が用いられる。上記したとおり、観測ノイズ分散は観測評価値が得られるたびに算出され、状態ノイズ分散も観測評価値が得られるたびに算出されることから、状態算出手段114はその都度、観測ノイズ分散や状態ノイズ分散を変更しながら変位を算出することになる。
【0039】
(処理の流れ)
以下、図3図5を参照しながら、本願発明の状態推定システム100の主な処理について詳しく説明する。図3は本願発明の状態推定システム100の主な処理の流れを示すフロー図であり、図4は状態推定システム100のうち状態算出手段114が変位を算出する処理の流れを示すフロー図、図5は本願発明のカルマンフィルタに係る数式を示す数式図である。なお図3図4では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0040】
本願発明の状態推定システム100によって斜面(観測対象)の変位(状態)を推定するにあっては、図3に示すようにまずt=0回目としたうえで、初期値としての「状態X」と、初期値としての「状態誤差分散M」を設定する(図3のStep210)。これらの設定処理が行われると、観測を行うたびにtを1ずつ増やしながら測位データYを取得していく(図3のStep220)。測位データYが得られると、その都度、観測評価値算出手段111によって観測評価値Eが算出され(図3のStep230)、観測ノイズ分散算出手段112によって観測ノイズ分散Rが算出される(図3のStep240)とともに、状態ノイズ分散算出手段113によって状態ノイズ分散Qが算出される(図3のStep250)。例えば、観測ノイズ分散算出手段112は図5に示す式(8)によって観測ノイズ分散Rを算出することができ、状態ノイズ分散算出手段113は図5に示す式(9)によって状態ノイズ分散Qを算出することができる。
【0041】
観測ノイズ分散Rと状態ノイズ分散Qが得られると、状態算出手段114によって斜面の変位が算出される(図3のStep260)。具体的には、図5に示す式(13)によって「補正前の状態誤差分散M 」を算出する(図4のStep261)とともに、図5に示す式(12)によって「カルマンゲインK」を算出する(図4のStep262)。次いで、図5に示す式(10)と式(11)によって「補正後の状態X」を算出する(図4のStep263)とともに、図5に示す式(14)によって「補正後の状態誤差分散M」を算出する(図4のStep264)。そして、今回得られた「補正後の状態X」と「補正後の状態誤差分散M」を用いた一連の処理(Step261~Step264)を行うことによって、次回観測時における状態Xt+1(補正後の状態Xt+1)を求める。
【0042】
(検証結果)
以下、本願発明の状態推定システム100の効果を検証確認するために実施した実験について説明する。
【0043】
図6は、実際に斜面崩壊が発生した際の変位応答能力を検証した結果を示す図であり、(a)は観測ノイズ分散Rと状態ノイズ分散Qを固定値とする従来のカルマンフィルタによって変位を推定した結果を表すグラフ図、(b)は観測ノイズ分散Rと状態ノイズ分散Qを動的に変化させる本願発明のカルマンフィルタによって変位を推定した結果を表すグラフ図である。なおこの現場では、7月27日の16時40分頃に斜面崩壊が発生している。
【0044】
当該事例では、崩壊当日の1時~2時頃に突発変位(おそらく衛星配置の切替による誤変位)が発生している。そして、従来手法はこの挙動に対して反応しているものの、本願発明ではこの挙動に対して反応していない。また、従来手法はその挙動以外の時間においても細かな突発変位(計測誤差)を示しているが、本願発明では特段の変位は示していない。さらに、GNSS以外の計器や現場の監視状況から、斜面崩壊発生前の16時前頃より下方向の微小変位が発生していることが分かっている。従来の手法はこの微小変位に対して反応している様に見えるものの、ノイズが大きいため実際に捉えているのかその判断は困難である。特に、崩壊直前には上向きの変位応答を示していることから、実際の斜面の動きを示しているとは考えにくい。これに対して本願発明では、同タイミング(面崩壊発生前の16時前頃)で下方向の変位応答を示しているうえ、斜面崩壊時にも相当の変位応答を示していることから、実際の斜面の動きを捉えることができているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の状態推定システムは、自然斜面や切土のり面、盛土のり面といった斜面や、橋梁やトンネルをはじめとする構造物などの状態を推定するケースに特に好適に利用することができる。さらに、カルマンフィルタによって制御や分析を行う場面など、あらゆる状態推定問題に対して利用することができる。本願発明を対象物の監視に利用すると、崩壊や地すべりなど斜面に起因する事故を未然に防ぐことができ、また橋梁などの建設インフラの異常を事前に察知し得ることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0046】
100 本願発明の状態推定システム
110 (状態推定システムの)解析装置
111 (状態推定システムの)観測評価値算出手段
112 (状態推定システムの)観測ノイズ分散算出手段
113 (状態推定システムの)状態ノイズ分散算出手段
114 (状態推定システムの)状態算出手段
115 (状態推定システムの)測位データ記憶手段
120 (状態推定システムの)測位装置
121 (測位装置の)受信機
122 (測位装置の)通信手段
123 (測位装置の)発電手段
S 測位衛星
図1
図2
図3
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図9