(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017160
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】電極、全固体電池、および電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240201BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240201BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240201BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240201BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240201BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119622
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】矢部 裕城
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】上武 央季
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕太
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029EJ11
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA22
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】耐久後の抵抗増加率を低減すること。
【解決手段】電極は、活物質層を含む。活物質層は、複合粒子とイミダゾリン系化合物とを含む。複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含む。被覆層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コア粒子は、活物質を含む。被覆層は、第1層と第2層とを含む。第1層の少なくとも一部は、コア粒子と第2層との間に配置されている。第1層は、第1固体電解質を含む。第2層は、第2固体電解質を含む。第1固体電解質は、フッ化物である。第2固体電解質は、硫化物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質層を含み、
前記活物質層は、複合粒子とイミダゾリン系化合物とを含み、
前記複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含み、
前記被覆層は、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コア粒子は、活物質を含み、
前記被覆層は、第1層と第2層とを含み、
前記第1層の少なくとも一部は、前記コア粒子と前記第2層との間に配置されており、
前記第1層は、第1固体電解質を含み、
前記第2層は、第2固体電解質を含み、
前記第1固体電解質は、フッ化物であり、
前記第2固体電解質は、硫化物である、
電極。
【請求項2】
前記イミダゾリン系化合物は、式(1):
【化1】
により表され、
前記式(1)中、
R
1は、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、1~22の炭素数を有し、
R
2は、アルキル基またはアルケニル基であり、10~22の炭素数を有する、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
100質量部の前記複合粒子に対して、前記イミダゾリン系化合物は、0.05~0.1質量部である、
請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記第1固体電解質は、式(2):
Li6-nxMxF6 …(2)
により表され、
前記式(2)中、
xは、0<x<2を満たし、
Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種であり、
nは、Mの酸化数を示す、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記式(2)中、
Mは、+4の酸化数を有する原子を含む、
請求項4に記載の電極。
【請求項6】
前記式(2)中、
Mは、+3の酸化数を有する原子を含む、
請求項4に記載の電極。
【請求項7】
前記式(2)中、
Mは、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項4に記載の電極。
【請求項8】
請求項1に記載の電極を含む、
全固体電池。
【請求項9】
(a)複合粒子とイミダゾリン系化合物と分散媒とを含むスラリーを準備すること、および
(b)前記スラリーを塗布することにより、活物質層を形成すること
を含み、
前記複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含み、
前記被覆層は、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コア粒子は、活物質を含み、
前記被覆層は、第1層と第2層とを含み、
前記第1層の少なくとも一部は、前記コア粒子と前記第2層との間に配置されており、
前記第1層は、第1固体電解質を含み、
前記第2層は、第2固体電解質を含み、
前記第1固体電解質は、フッ化物であり、
前記第2固体電解質は、硫化物である、
電極の製造方法。
【請求項10】
前記(a)は、
(a1)前記イミダゾリン系化合物と前記分散媒とを含む第1スラリーを準備すること、および
(a2)前記第1スラリーに前記複合粒子を分散させることにより、第2スラリーを準備すること、
を含む、
請求項9に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、全固体電池、および電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-154407号公報(特許文献1)は、活物質を被覆する酸化物固体電解質を含有する複合粒子と、該複合粒子を被覆する硫化物固体電解質と、を備える複合活物質を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下、固体電解質(Solid Electrolyte)が「SE」と略記され得る。例えば、硫化物固体電解質は「硫化物SE」と略記され得る。
【0005】
硫化物SEは、高いイオン伝導性と、優れた成形性とを併せ持つ。硫化物SEは、バルク型全固体電池に好適である。しかし、電極中において硫化物SEが活物質と直接接触することにより、硫化物SEの劣化が促進され得る。硫化物SEの劣化により、例えばイオン伝導性が損なわれる可能性がある。
【0006】
硫化物SEと活物質との直接接触を低減するため、活物質を酸化物SEで被覆することにより、複合粒子を形成することが提案されている。さらに、複合粒子と硫化物SEとの界面形成を促進するため、複合粒子を硫化物SEで被覆することも提案されている。活物質、酸化物SE、および硫化物SEの複合化により、初期抵抗の低減が期待される。ただし、耐久後の抵抗増加率に改善の余地がある。
【0007】
本開示の目的は、耐久後の抵抗増加率を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0009】
1.電極は、活物質層を含む。活物質層は、複合粒子とイミダゾリン系化合物とを含む。複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含む。被覆層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コア粒子は、活物質を含む。被覆層は、第1層と第2層とを含む。第1層の少なくとも一部は、コア粒子と第2層との間に配置されている。第1層は、第1固体電解質を含む。第2層は、第2固体電解質を含む。第1固体電解質は、フッ化物である。第2固体電解質は、硫化物である。
【0010】
活物質は、充放電により膨張し収縮する。活物質層において、活物質の周囲には、イオン伝導パスおよび電子伝導パスが形成されている。例えば、硫化物SE等のイオン伝導材がイオン伝導パスを形成し、例えばカーボンブラック等の電子伝導材が電子伝導パスを形成し得る。イオン伝導パスおよび電子伝導パスは、活物質の体積変動に、ある程度追随し得る。
【0011】
活物質層内において活物質が凝集していると、局所的に大きな体積変動が生じることになる。大きな体積変動にイオン伝導パスおよび電子伝導パスが追随できなくなり、抵抗の増加が促進されると考えられる。
【0012】
本開示の活物質層は、複合粒子およびイミダゾリン系化合物を含む。活物質層の形成過程において、イミダゾリン系化合物は、活物質層の構成材料に対して、分散剤として作用し得る。本開示の新知見によると、イミダゾリン系化合物は、とりわけ硫化物SEに良好な分散性を付与し得る。
【0013】
複合粒子は、被覆層に覆われている。被覆層は、硫化物SEを含む。よって、イミダゾリン系化合物が、複合粒子に良好な分散性を付与し得る。複合粒子(活物質)が分散することにより、体積変動が分散し得ると考えられる。したがって、イオン伝導パスおよび電子伝導パスが維持されやすく、抵抗増加率が低減すると考えられる。
【0014】
さらに、本開示の複合粒子は、フッ化物SEも含む。従来の複合粒子においては、活物質と硫化物SEとの間に、酸化物SE(例えばLiNbO3等)が介在する。本開示の新知見によると、フッ化物SEは、酸化物SEに比して、耐久時に反応抵抗が増加し難い。複合粒子において、活物質(コア粒子)と硫化物SE(第2層)との間にフッ化物SE(第1層)が介在することにより、抵抗増加率がいっそう低減することが期待される。
【0015】
2.上記「1」に記載の電極において、イミダゾリン系化合物は、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
【0016】
【0017】
上記式(1)中、R1は、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、1~22の炭素数を有する。R2は、アルキル基またはアルケニル基であり、10~22の炭素数を有する。
【0018】
3.上記「1」または「2」に記載の電極において、100質量部の複合粒子に対して、イミダゾリン系化合物は、0.05~0.1質量部であってもよい。
【0019】
4.上記「1」~「3」のいずれか1項に記載の電極において、第1固体電解質は、例えば、下記式(2)により表されてもよい。
Li6-nxMxF6 …(2)
上記式(2)中、xは、0<x<2を満たす。Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種である。nは、Mの酸化数を示す。
【0020】
5.上記式(2)中、Mは、+4の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。
【0021】
6.上記式(2)中、Mは、+3の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。
【0022】
7.上記式(2)中、Mは、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0023】
8.全固体電池は、上記「1」~「7」のいずれか1項に記載の電極を含む。
【0024】
全固体電池は、耐久時の抵抗増加率が低いことが期待される。
【0025】
9.電極の製造方法は、下記(a)および(b)を含む。
(a)複合粒子とイミダゾリン系化合物と分散媒とを含むスラリーを準備する。
(b)スラリーを塗布することにより、活物質層を形成する。
複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含む。被覆層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コア粒子は、活物質を含む。被覆層は、第1層と第2層とを含む。第1層の少なくとも一部は、コア粒子と第2層との間に配置されている。第1層は、第1固体電解質を含む。第2層は、第2固体電解質を含む。第1固体電解質は、フッ化物である。第2固体電解質は、硫化物である。
【0026】
イミダゾリン系化合物は、スラリー中で、複合粒子に良好な分散性を付与し得る。複合粒子が凝集体を形成し難いことにより、複合粒子の分散状態が良好な活物質層が形成され得る。
【0027】
10.上記(a)は、例えば、下記(a1)および(a2)を含んでいてもよい。
(a1)イミダゾリン系化合物と分散媒とを含む第1スラリーを準備する。
(a2)第1スラリーに複合粒子を分散させることにより、第2スラリーを準備する。
【0028】
イミダゾリン系化合物よりも後に、複合粒子がスラリーに投入されることにより、複合粒子の分散性がいっそう向上することが期待される。
【0029】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本実施形態における複合粒子の一例を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<用語およびその定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0032】
「AおよびBの少なくとも一方」は、「AまたはB」ならびに「AおよびB」を含む。「AおよびBの少なくとも一方」は、「Aおよび/またはB」とも記され得る。
【0033】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0034】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0035】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0036】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0037】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0038】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0039】
「半金属」は、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeを含む。「金属」は、周期表の第1族元素~第16元素のうち、「H、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSe」以外の元素を示す。無機化合物が、半金属および金属の少なくとも一方と、Fとを含む時、半金属および金属は、正(+)の酸化数を有し得る。
【0040】
「電極」は、正極および負極の総称である。電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。
【0041】
被覆層、第1層、および第2層の「厚さ」は、次の手順で測定され得る。複合粒子が樹脂材料に包埋されることにより、試料が準備される。イオンミリング装置により、試料に断面出し加工が施される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「Arblade(登録商標)5000」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。試料の断面がSEM(Scanning Electron Microscope)により観察される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「SU8030」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。10個の複合粒子について、それぞれ、20個の視野で対象部分(被覆層、第1層、第2層)の厚さが測定される。合計で200箇所の厚さの算術平均が、対象部分の厚さとみなされる。
【0042】
SEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)による元素マッピング画像において、各層の厚さが測定されてもよい。元素マッピング画像においては、各部を代表する元素が選択される。一例として、コア粒子(活物質)の代表元素としてNi、第1層(フッ化物SE)の代表元素としてF、第2層(硫化物SE)の代表元素としてSが選択され得る。
【0043】
「被覆率」は、次の手順で測定される。被覆層の厚さの測定用試料と同様に、複合粒子の断面試料が準備される。断面SEM画像において、コア粒子(活物質)の輪郭線の長さ(L0)が測定される。コア粒子の輪郭線のうち、フッ化物SEおよび硫化物SEの少なくとも一方によって、被覆されている部分の長さ(L1)が測定される。L1がL0で除された値の百分率が被覆率である。20個の複合粒子について、それぞれ、被覆率が測定される。20個の被覆率の算術平均が「被覆率」とみなされる。
【0044】
例えば、SEM-EDXによる元素マッピング画像に画像処理が施されることにより、L0およびL1が算出されてもよい。
【0045】
「中空粒子」は、粒子の断面画像(例えば断面SEM画像等)において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%以上である粒子を示す。「中実粒子」は、粒子の断面画像において、中心部の空洞の面積が、粒子全体の断面積の30%未満である粒子を示す。
【0046】
「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0047】
「平均フェレ径」は、粒子の二次元画像(例えばSEM画像等)において測定される。20個以上の粒子における最大フェレ径の算術平均が「平均フェレ径」である。
【0048】
「固形分率」は、スラリー全体の質量に対する、分散媒以外の成分の合計質量の比率を示す。固形分率は、百分率で表示される。
【0049】
<電極>
電極は、活物質層を含む。電極は、例えば、基材等をさらに含んでいてもよい。例えば、基材の表面に活物質層が配置されていてもよい。基材は、例えばシート状であってもよい。基材は、例えば電子導電性を有していてもよい。基材は、例えば、集電体として機能してもよい。基材は、例えば、金属箔等を含んでいてもよい。金属箔は、例えば、Al、Cu、Ni、Fe、およびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。金属箔は、例えば、Al箔、Al合金箔、Ni箔、Cu箔、Cu合金箔、またはステンレス鋼箔等であってもよい。電極が正極である時、基材は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。電極が負極である時、基材は、例えば、Ni箔、Cu箔等を含んでいてもよい。基材は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0050】
活物質層は、例えば、1~1000μm、または10~500μmの厚さを有していてもよい。活物質層は、複合粒子とイミダゾリン系化合物とを含む。活物質層は、補助材をさらに含んでいてもよい。補助材は、例えば、イオン伝導材、電子伝導材、およびバインダからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。活物質層は、質量分率で、例えば、1~50%の補助材と、0.01~0.3%のイミダゾリン系化合物と、残部の複合粒子とからなっていてもよい。
【0051】
《イミダゾリン系化合物》
活物質層は、イミダゾリン系化合物を含む。イミダゾリン系化合物は、分散剤として作用し得る。イミダゾリン系化合物は、とりわけ硫化物SEに対して、良好な分散性を付与し得る。イミダゾリン系化合物の存在により、複合粒子は、良好な分散状態を有し得る。複合粒子(活物質)が良好な分散状態を有することにより、耐久時の抵抗増加率が低減し得る。
【0052】
イミダゾリン系化合物は、イミダゾリン骨格を有する。イミダゾリン骨格は、含窒素複素環構造を含む。イミダゾリン骨格は、イミダゾールから誘導され得る。イミダゾリン系化合物は、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
【0053】
【0054】
上記式(1)中、R1は、例えば、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であってもよい。R1は、例えば、1~22の炭素数を有していてもよい。ヒドロキシアルキル基において、例えばN(窒素原子)に結合している炭素原子とは反対側の末端の炭素原子にヒドロキシル基が結合していてもよい。
【0055】
上記式(1)中、R2は、例えば、アルキル基またはアルケニル基であってもよい。R2は、例えば、10~22の炭素数を有していてもよい。アルケニル基において、二重結合の位置および個数は任意である。
【0056】
イミダゾリン系化合物は、例えば、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン等を含んでいてもよい。活物質層は、1種のイミダゾリン系化合物を単独で含んでいてもよいし、2種以上のイミダゾリン系化合物を含んでいてもよい。
【0057】
イミダゾリン系化合物の配合量は、任意である。例えば、100質量部の複合粒子に対して、イミダゾリン系化合物は、0.01~0.3質量部であってもよいし、0.01~0.2質量部であってもよいし、0.05~0.1質量部であってもよい。イミダゾリン系化合物の配合量が0.05質量部以上であることにより、例えば、抵抗増加率の低減が期待される。イミダゾリン系化合物の配合量が0.1質量部以下であることにより、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0058】
《複合粒子》
活物質層は、複合粒子を含む。複合粒子は、活物質とフッ化物SEと硫化物SEとを含む。硫化物SEは、被覆層の一部を形成している。イミダゾリン系化合物が被覆層に作用することにより、複合粒子に良好な分散性が付与され得る。活物質層において、複合粒子の分散状態が良好であることにより、耐久時の抵抗増加率が低減することが期待される。
【0059】
図1は、本実施形態における複合粒子の一例を示す概念図である。
複合粒子30は、コア粒子10と被覆層20とを含む。複合粒子30のD50は、例えば、1~30μm、2~20μm、3~15μm、3~6μm、または4~5μmであってもよい。複合粒子30は、任意の形状を有し得る。複合粒子30は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または繊維状等であってもよい。
【0060】
複合粒子30は任意の方法により形成され得る。例えば、メカノケミカル法により、複合粒子が形成されてもよい。例えば、粒子複合化装置によって、二段階の被覆処理が実施されてもよい。すなわち、粒子複合化装置において、コア粒子10、フッ化物SE、および硫化物SEが順次投入され、混合されることにより、被覆層20が形成され得る。粒子複合化装置の一例として、例えば、ホソカワミクロン社製の「ノビルタNOB-MINI」等が挙げられる。ただし粒子の複合化が可能である限り、任意の混合装置、造粒装置等が使用され得る。
【0061】
《被覆層》
被覆層20は、コア粒子10の表面の少なくとも一部を被覆している。例えば、コア粒子10の表面の凹凸を埋めるように、被覆層20が形成されていてもよい。被覆層20は、コア粒子10の表面の全部を被覆していてもよい。被覆層20は、コア粒子10の表面の一部を被覆していてもよい。被覆層20は、コア粒子10の表面に島状に分布していてもよい。被覆率は、例えば、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、または90~100%であってもよい。被覆率が高い程、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0062】
被覆層20の厚さは、例えば、6~300nm、または11~150nmであってもよい。被覆層20が薄い程、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0063】
被覆層20は、第1層21と第2層22とを含む。第1層21の少なくとも一部は、コア粒子10と第2層22との間に配置されている。例えば、第1層21は、コア粒子10の表面を直接被覆していてもよい。例えば、第2層22は、第1層21の全部を被覆していてもよい。第2層22は、第1層21の一部を被覆していてもよい。第1層21が第2層22から露出している部分があってもよい。第2層22がコア粒子10に直接接触している部分があってもよい。
【0064】
(第1層、フッ化物SE)
第1層21は、いわば「下層」である。第1層21は、例えば、コア粒子10の全体を隙間なく被覆していてもよい。第1層21は、例えば、1~100nmまたは1~50nmの厚さを有していてもよい。第1層21が薄い程、例えば初期抵抗の低減が期待される。
【0065】
第1層21は、第1固体電解質(第1SE)を含む。第1SEはフッ化物である。フッ化物SEは、耐久時、反応抵抗が増加し難い傾向がある。
【0066】
第1SEは、Fを含む限り、任意の組成を有し得る。第1SEは、例えば、LiとFとを含んでいてもよい。第1SEは、例えば、下記式(2)により表されてもよい。
Li6-nxMxF6 …(2)
上記式(2)中、xは、0<x<2を満たす。Mは、半金属原子と、Liを除く金属原子とからなる群より選択される少なくとも1種である。nは、Mの酸化数を示す。
【0067】
Mは、単一の原子からなっていてもよいし、複数種の原子からなっていてもよい。Mが複数種の原子からなる場合、nは、各原子の酸化数の加重平均を示す。例えば、Mが、Ti(酸化数=+4)およびAl(酸化数=+3)を含み、TiとAlとのモル比が「Ti/Al=3/7」であり、かつx=1である時、算式「n=0.3×4+0.7×3」により、nは3.3となる。
【0068】
xは、例えば、0.1≦x≦1.9、0.2≦x≦1.8、0.3≦x≦1.7、0.4≦x≦1.6、0.5≦x≦1.5、0.6≦x≦1.4、0.7≦x≦1.3、0.8≦x≦1.2、または0.9≦x≦1.1を満たしていてもよい。
【0069】
Mは、例えば、+4の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。Mは、例えば、+3の酸化数を有する原子を含んでいてもよい。Mは、例えば、+4の酸化数を有する原子と、+3の酸化数を有する原子とを含んでいてもよい。
【0070】
Mは、例えば、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Mは、例えば、Al、Y、およびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Mは、例えば、AlおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0071】
第1SEは、例えば、下記式(3)で表されてもよい。
Li3-xTixAl1-xF6 …(3)
上記式(3)中、xは、例えば、0≦x≦1、0.1≦x≦0.9、0.2≦x≦0.8、0.3≦x≦0.7、または0.4≦x≦0.6を満たしていてもよい。
【0072】
第1SEは、例えば、粒子状であってもよい。すなわち、第1層21は、例えば粒子層であってもよい。粒子層は、粒子の集合体である。第1SEの平均フェレ径は、例えば、第1層21の厚さの0.1~1倍であってもよい。
【0073】
(第2層、硫化物SE)
第2層22は、いわば「上層」である。第2層22は、複合粒子30の最外層を形成していてもよい。第2層22は、コア粒子10の周囲を隙間なくとり囲んでいてもよい。第2層22は、例えば、第1層21に比して厚くてもよい。第2層22は、例えば、5~200nm、または10~100nmの厚さを有していてもよい。
【0074】
第2層22は、第2固体電解質(第2SE)を含む。第2SEは硫化物である。硫化物SEは、高いイオン伝導性を示し得る。第2SEは、S(硫黄)を含む限り、任意の組成を有し得る。第2SEは、例えば、Li、P、およびSを含んでいてもよい。第2SEは、例えば、O、Ge、Si等をさらに含んでいてもよい。第2SEは、例えばハロゲン等をさらに含んでいてもよい。第2SEは、例えばI、Br等をさらに含んでいてもよい。第2SEは、例えばガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。第2SEは、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-P2S5、Li4P2S6、Li7P3S11、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0075】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物SEを示す。例えば、メカノケミカル法により第2SEが生成されてもよい。「Li2S-P2S5」はLi3PS4を含む。Li3PS4は、例えばLi2SとP2S5とが「Li2S/P2S5=75/25(モル比)」で混合されることにより生成され得る。LiI等の前に数字が付されることにより、モル比が特定されてもよい。例えば、「10LiI-15LiBr-75Li3PS4」は、「LiI/LiBr/Li3PS4=10/15/75(モル比)」で混合されていることを示す。
【0076】
第2SEは、例えば、粒子状であってもよい。すなわち、第2層22は、例えば粒子層であってもよい。粒子層は、粒子の集合体である。第2SEの平均フェレ径は、第2層22の厚さ以下であってもよい。第2SEの平均フェレ径は、コア粒子10の最大フェレ径の1/3(3分の1)以下であってもよい。第2SEのサイズが、コア粒子10のサイズに比して十分に小さいことにより、被覆層20がコア粒子10の表面の凹凸を埋めやすくなる傾向がある。これにより、例えば被覆率の向上が期待される。第2SEの平均フェレ径は、例えば5~200nm、または10~100nmであってもよい。
【0077】
《コア粒子》
コア粒子10は、複合粒子30の基材である。複合粒子30は、1個のコア粒子10を単独で含んでいてもよい。複合粒子30は、複数個のコア粒子10を含んでいてもよい。コア粒子10は、例えば、二次粒子であってもよい。二次粒子は、一次粒子の集合体である。二次粒子のD50は、例えば、1~30μm、2~20μm、3~15μm、3~6μm、または4~5μmであってもよい。一次粒子の平均フェレ径は、例えば、0.01~3μmであってもよい。
【0078】
コア粒子10は、任意の形状を有し得る。コア粒子10は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または繊維状等であってもよい。コア粒子10は、中実粒子であってもよいし、中空粒子であってもよい。
【0079】
コア粒子10は、活物質を含む。活物質は、電極反応を生起し得る。コア粒子10は、例えば正極活物質を含んでいてもよい。すなわち電極は、正極であってもよい。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMnAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2、LiNi0.5Co0.4Mn0.1O2、LiNi0.5Co0.1Mn0.4O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.6Co0.3Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.1Mn0.3O2、LiNi0.7Co0.1Mn0.2O2、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、およびLiNi0.9Co0.05Mn0.05O2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)O2は、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2等を含んでいてもよい。
【0080】
正極活物質は、例えば下記式(4)により表されてもよい。
Li1-yNixM1-xO2 …(4)
0.5≦x≦1
-0.5≦y≦0.5
上記式(4)中、Mは、例えば、Co、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。xは、例えば、0.6以上であってもよいし、0.7以上であってもよいし、0.8以上であってもよいし、0.9以上であってもよい。
【0081】
正極活物質は、例えば添加物を含んでいてもよい。添加物は、例えば、置換型固溶原子、または侵入型固溶原子であってもよい。添加物は、正極活物質(一次粒子)の表面に付着する付着物であってもよい。付着物は、例えば、単体、酸化物、炭化物、窒化物、ハロゲン化物等であってもよい。添加量は、例えば、0.01~0.1、0.02~0.08、または0.04~0.06であってもよい。添加量は、正極活物質の物質量に対する、添加物の物質量の比を示す。添加物は、例えば、B、C、N、ハロゲン、Sc、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、W、およびランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0082】
コア粒子10は、例えば負極活物質を含んでいてもよい。すなわち電極は、負極であってもよい。負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiOx(0<x<2)、Si基合金、Sn、SnOx(0<x<2)、Li、Li基合金、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。SiOx(0<x<2)は、例えばMg等がドープされていてもよい。合金系活物質(例えばSi等)が、炭素系活物質(例えば黒鉛等)に担持されることにより、複合材料が形成されてもよい。
【0083】
《イオン伝導材》
活物質層は、例えば、イオン伝導材を含んでいてもよい。イオン伝導材は、活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。イオン伝導材は、粒子状であってもよい。イオン伝導材は、例えば、0.01~1μm、0.01~0.95μm、または0.1~0.9μmのD50を有していてもよい。イオン伝導材の配合量は任意である。イオン伝導材の配合量は、100体積部の複合粒子に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、50~100体積部であってもよい。イオン伝導材は、例えば、硫化物SE、フッ化物SE等を含んでいてもよい。イオン伝導材に含まれる硫化物SEおよびフッ化物SEは、複合粒子に含まれる硫化物SEおよびフッ化物SEと同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0084】
《電子伝導材》
活物質層は、例えば、電子伝導材を含んでいてもよい。電子伝導材は、活物質層内に電子伝導パスを形成し得る。電子伝導材の配合量は任意である。電子伝導材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。電子伝導材は、任意の成分を含み得る。電子伝導材は、例えば、カーボンブラック(CB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。CBは、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)、およびファーネスブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0085】
《バインダ》
バインダは、固体同士を結合し得る。バインダの配合量は、任意である。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ゴム系バインダ、およびフッ素系バインダからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0086】
ゴム系バインダは、例えば、ブタジエンゴム(BR)、水素化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルブタジエンゴム、およびエチレンプロピレンゴム(EPM)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0087】
フッ素系バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダは、ここに例示される各材料のポリマーブレンド、ポリマーアロイ、共重合体等を含んでいてもよい。
【0088】
SBR由来成分を含むバインダは「SBR系バインダ」とも記される。SBR系バインダは、質量分率で、例えば10%以上のSBR由来成分を含んでいてもよいし、30%以上のSBR由来成分を含んでいてもよいし、50%以上のSBR由来成分を含んでいてもよいし、70%以上のSBR由来成分を含んでいてもよいし、90%以上のSBR由来成分を含んでいてもよい。SBR系バインダは、SBRからなっていてもよい。
【0089】
バインダは、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。例えば、熱可塑性樹脂を含む活物質層に対して、熱間プレス加工が施されることにより、熱可塑性樹脂が液状化し、その後再固化し得る。その結果、活物質層が緻密になることが期待される。活物質層が緻密になることにより、電池特性(例えば入出力特性等)の向上が期待される。熱可塑性樹脂は、例えば、SBRを含んでいてもよい。SBRは、熱間プレス加工に好適な軟化点を有し得る。
【0090】
各種材料間の親和性は、ハンセン空間における距離(Ra)により評価され得る。「ハンセン空間」は、ハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter, HSP)によって表される3次元空間である。ハンセン空間において、2つの材料間の距離(Ra)が小さい程、2つの材料の親和性が高いと考えられる。例えば、硫化物SEとイミダゾリン系化合物との距離(Ra1)が、硫化物SEとバインダとの距離(Ra2)に比して小さくてもよい。すなわち「Ra1/Ra2<1」の関係が満たされていてもよい。「Ra1/Ra2<1」が満たされることにより、分散効果の向上が期待される。バインダに比して、イミダゾリン系化合物が硫化物SEに優先的に吸着し得ることにより、分散効果が高まると考えられる。例えば「Ra2-Ra1≧0.5MPa0.5」の関係が満たされていてもよい。ゴム系バインダは、フッ素系バインダに比して、距離(Ra2)が大きい傾向がある。すなわちゴム系バインダは、フッ素系バインダに比して、硫化物SEに対する親和性が低い傾向がある。活物質層がゴム系バインダを含む場合、イミダゾリン系化合物の分散効果が得られやすいと考えられる。
【0091】
以下に、ハンセン空間における距離の計算例が示される。
硫化物SEとイミダゾリン系化合物との距離(Ra1)=10.7MPa0.5
硫化物SEとゴム系バインダとの距離(Ra2)=11.6MPa0.5
硫化物SEとフッ素系バインダとの距離(Ra2)=3.8MPa0.5
【0092】
<電極の製造方法>
図2は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
本実施形態における電極の製造方法(以下「本製造方法」と略記され得る。)は、「(a)スラリーの準備」および「(b)活物質層の形成」を含む。本製造方法は、例えば、「(c)プレス」等をさらに含んでいてもよい。
【0093】
《(a)スラリーの準備》
本製造方法は、複合粒子とイミダゾリン系化合物と分散媒とを含むスラリーを準備することを含む。スラリーは、補助材(バインダ等)をさらに含んでもよい。例えば、分散媒に、複合粒子、イミダゾリン系化合物、および補助材が分散されることにより、スラリーが形成されてもよい。本製造方法においては、任意の混合装置、混練装置、分散装置等が使用され得る。例えば、超音波ホモジナイザ等が使用されてもよい。
【0094】
各材料は一括して投入されてもよいし、順次投入されてもよい。材料が順次投入される場合、投入の都度、分散処理が実施されてもよい。材料が順次投入される場合、複合粒子の投入に先立って、イミダゾリン系化合物が投入されてもよい。すなわち、本製造方法は、「(a1)第1スラリーの準備」および「(a2)第2スラリーの準備」を含んでいてもよい。第1スラリーは、イミダゾリン系化合物と分散媒とを含むように準備される。第2スラリーは、第1スラリーに複合粒子が分散されることにより準備される。イミダゾリン系化合物の分散後、複合粒子が投入されることにより、分散効果の向上が期待される。補助材は、第1スラリーに混合されてもよいし、第2スラリーに混合されてもよい。
【0095】
スラリーの固形分率は、例えば、塗工方式等に応じて任意に調整され得る。スラリーの固形分率は、例えば、50~70%であってもよい。
【0096】
スラリーにおいて、分散媒以外の成分の詳細は、前述のとおりである。分散媒は、任意の成分を含み得る。分散媒は、例えば、芳香族炭化水素、エステル、アルコール、ケトン、およびラクタムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。分散媒は、例えば、テトラリン、酪酸ブチル、ヘプタンおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0097】
酪酸ブチルは、例えば、NMP等に比して、硫化物SEを劣化させ難いことが期待される。テトラリンは、例えば、酪酸ブチルおよびNMP等に比して、硫化物SEを劣化させ難いことが期待される。分散媒がテトラリンを含むことにより、例えば、初期抵抗の低減が期待される。
【0098】
《(b)活物質層の形成》
本製造方法は、スラリーを塗布することにより、活物質層を形成することを含む。例えば、基材の表面にスラリーが塗布され、乾燥されることにより、活物質層が形成され得る。基材の詳細は、前述のとおりである。本製造方法においては、任意の塗工装置が使用され得る。例えば、ダイコータ、ロールコータ等が使用されてもよい。本製造方法においては、任意の乾燥装置が使用され得る。例えば、熱風乾燥装置、ホットプレート、赤外線乾燥装置等が使用されてもよい。
【0099】
《(c)プレス》
本製造方法は、例えば、活物質層にプレス加工を施すことを含んでいてもよい。例えば、冷間プレス加工が実施されてもよいし、熱間プレス加工が実施されてもよい。本製造方法においては、任意のプレス装置が使用され得る。例えば、ロールプレス装置等が使用されてもよい。熱間プレス加工が実施される場合、例えば、バインダの種類等に応じて、プレス温度が調整され得る。プレス温度は、例えば、80~180℃であってもよい。
【0100】
以上より、電極が製造され得る。電極は、全固体電池の仕様に応じて、所定のサイズに切断され得る。
【0101】
<全固体電池>
図3は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
全固体電池200は、発電要素150を含む。全固体電池200は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が、発電要素150を収納していてもよい。外装体は、任意の形態を有し得る。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。
【0102】
全固体電池200は、1個の発電要素150を単独で含んでいてもよいし、複数個の発電要素150を含んでいてもよい。複数個の発電要素150は、例えば、直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0103】
発電要素150は、正極110とセパレータ層130と負極120とを含む。すなわち全固体電池200は、電極を含む。正極110および負極120の少なくとも一方は、複合粒子およびイミダゾリン系化合物を含む。
【0104】
セパレータ層130は、例えば、1~100μmの厚さを有していてもよい。セパレータ層130は、正極110と負極120との間に介在している。セパレータ層130は、正極110を負極120から分離している。セパレータ層130は、イオン伝導性を有し、かつ電子伝導性を有しない。セパレータ層130は、イオン伝導材を含む。セパレータ層130は、例えば硫化物SE等を含んでいてもよい。セパレータ層130は、例えばフッ化物SEおよびバインダ等をさらに含んでいてもよい。各材料の詳細は、前述のとおりである。セパレータ層130と正極110との間で、硫化物SEは同種であってもよいし、異種であってもよい。セパレータ層130と負極120との間で、硫化物SEは同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0105】
全固体電池200は、拘束部材(不図示)を含んでいてもよい。拘束部材は、外装体の外部から発電要素150に圧力を加える。発電要素150に加わる圧力は、「拘束圧」とも称される。拘束圧は、例えば、0.1~50MPa、または1~20MPaであってもよい。拘束部材は、任意の構造を有する。拘束部材は、例えば、2枚のエンドプレート、ボルト、およびナット等を含んでいてもよい。2枚のエンドプレートは、発電要素150を挟持し得る。ボルトは、2枚のエンドプレートを接続し得る。ナットは、ボルトを締結し得る。
【実施例0106】
<試料の作製>
以下のように、No.1~4に係る電極、および全固体電池が製造された。以下、例えば「No.1に係る電極」等が、単に「No.1」とも記される。
【0107】
《No.1》
(負極用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
活物質:Li4Ti5O12
塗料用添加剤:ビックケミー社製「DISPERBYK(登録商標)-109」
イオン伝導材:10LiI-15LiBr-75Li3PS4(D50=0.9μm)
電子伝導材:VGCF
バインダ:SBR系バインダ
分散媒:テトラリン
【0108】
塗料用添加剤は、イミダゾリン系化合物(1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン)を含んでいた。
【0109】
超音波ホモジナイザ(SMT社製「UH-50」)により、活物質、塗料用添加剤、イオン伝導材、電子伝導材、バインダ、および分散媒が混合されることによりスラリーが準備された。固形分の配合比は、「活物質/塗料用添加剤/イオン伝導材/電子伝導材/バインダ=100/1.88/33.6/1.1/0.86(質量比)」であった。スラリーの固形分率は、56%であった。
【0110】
(正極用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
複合粒子:コア粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)/第1層(Li2.7Ti0.3Al0.7F6)/第2層(Li3PS4)
塗料用添加剤:ビックケミー社製「DISPERBYK(登録商標)-109」
イオン伝導材:10LiI-15LiBr-75Li3PS4(D50=0.9μm)
電子伝導材:VGCF、AB
バインダ:SBR系バインダ
分散媒:テトラリン
【0111】
超音波ホモジナイザにより、複合粒子、塗料用添加剤、イオン伝導材、電子伝導材、バインダ、および分散媒が混合されることによりスラリーが準備された。固形分の配合比は、「複合粒子/塗料用添加剤/イオン伝導材/VGCF/AB/バインダ=100/0.05/32.0/3.06/0.3/0.42(質量比)」であった。スラリーの固形分率は、65.5%であった。
【0112】
具体的な混合手順は次のとおりであった。
容器に、バインダ、電子伝導材(AB)、および分散媒が投入された。超音波ホモジナイザにより混合物に対して分散処理が施された。次いで、容器に複合粒子が投入され、再度、分散処理が施された。次いで、容器に塗料用添加剤(イミダゾリン系化合物)が投入され、再度、分散処理が施された。最後に、イオン伝導材(硫化物SE)および電子伝導材(VGCF)が投入され、再度、分散処理が施された。
【0113】
すなわちNo.1のスラリーの製造過程では、イミダゾリン系化合物より先に複合粒子が投入された。下記表1中、No.1における材料の投入順序は、「複合粒子→イミダゾリン系化合物」と記されている。
【0114】
(セパレータ用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
イオン伝導材:LiI-LiBr-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=2.5μm)
バインダ溶液:溶質 SBR系バインダ(質量分率 5%)、溶媒 ヘプタン
分散媒:ヘプタン
【0115】
ポリプロピレン製の容器内において、超音波ホモジナイザにより、イオン伝導材とバインダ溶液と分散媒とが、30秒間混合された。混合後、容器が振とう器にセットされた。容器が振とう器により3分間振とうされることにより、スラリーが準備された。
【0116】
(発電要素の作製)
ブレード式アプリケータにより、正極用スラリーが基材(Al箔、厚さ 15μm)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、活物質層が形成された。すなわち活物質層と基材とを含む正極が形成された。
【0117】
ブレード式アプリケータにより、負極用スラリーが基材(Ni箔、厚さ 22μm)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、活物質層が形成された。すなわち活物質層と基材とを含む負極が形成された。負極の目付量は、正極の充電比容量に対する、負極の充電比容量の比が、1.0となるように調整された。正極の充電比容量は、200mAh/gであった。
【0118】
正極にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、セパレータ用スラリーが正極の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。以上より第1ユニットが準備された。ロールプレス装置により、第1ユニットにプレス加工が施された。線圧は、2tоn/cmであった。
【0119】
負極にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、セパレータ用スラリーが負極の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。以上より第2ユニットが準備された。ロールプレス装置により、第2ユニットにプレス加工が施された。線圧は、2tоn/cmであった。
【0120】
セパレータ用スラリーが仮支持体(金属箔)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。
【0121】
仮支持体上のセパレータ層が、第1ユニットの表面に転写された。打ち抜き加工により、第1ユニットおよび第2ユニットの平面形状が調整された。第1ユニットのセパレータ層と、第2ユニットのセパレータ層とが対面するように、第1ユニットと第2ユニットとが積層された。これにより発電要素が形成された。ロールプレス装置により、発電要素に熱間プレス加工が施された。プレス温度は160℃であった。線圧は2tоn/cmであった。
【0122】
(全固体電池の作製)
外装体(Alラミネートフィルム製のパウチ)が準備された。発電要素が外装体に封入された。拘束部材が準備された。5MPaの拘束圧が発生するように、外装体の外側に拘束部材が取り付けられた。以上より、全固体電池が製造された。
【0123】
《No.2》
「正極用スラリーの作製」において、次の混合手順で正極用スラリーが準備された。
容器に、バインダ、AB、および分散媒が投入された。超音波ホモジナイザにより混合物に対して分散処理が施された。次いで、イオン伝導材およびVGCFが投入され、再度、分散処理が施された。次いで、容器に塗料用添加剤が投入され、再度、分散処理が施された。最後に、容器に複合粒子が投入され、再度、分散処理が施された。
【0124】
すなわちNo.2のスラリーの製造過程では、イミダゾリン系化合物の投入後に、複合粒子が投入された。下記表1中、No.2における材料の投入順序は、「イミダゾリン系化合物→複合粒子」と記されている。これらを除いては、No.1と同様に、電極および全固体電池が製造された。
【0125】
《No.3》
「正極用スラリーの作製」において、100質量部の複合粒子に対する、塗料用添加剤の配合量が0.1質量部に変更されることを除いては、No.2と同様に、電極および全固体電池が製造された。
【0126】
《No.4》
「正極用スラリーの作製」において、塗料用添加剤が使用されないことを除いては、No.1と同様に、電極および全固体電池が製造された。
【0127】
<評価>
全固体電池のSOC(State Of Charge)が50%に調整された。恒温槽(設定温度 25℃)内において、60.2Cの時間率で全固体電池が2秒間放電された。放電時の電圧降下量と、電流とから、初期抵抗が求められた。
【0128】
なお「C」は電流の時間率(レート)を表す記号である。1Cの時間率においては、電池の定格容量が1時間で放電される。
【0129】
初期抵抗の測定後、耐久試験が実施された。すなわち、下記条件でパルス充放電サイクルが実施された。
【0130】
試験温度:80℃
SOC範囲:50~60%
充放電サイクル回数:800
【0131】
耐久試験後、初期抵抗と同様に、耐久後抵抗が測定された。耐久後抵抗が初期抵抗で除されることにより、抵抗増加率が求められた。
【0132】
【0133】
上記表1に示されるように、No.1~3は、No.4に比して、抵抗増加率が低減していた。No.1~3の活物質層は、イミダゾリン系化合物を含む。No.4の活物質層は、イミダゾリン系化合物を含まない。
【0134】
No.2は、No.1に比して、抵抗増加率が低減していた。No.2のスラリーの製造過程では、イミダゾリン系化合物が複合粒子よりも先に投入されている。
【0135】
No.3は、No.2に比して、抵抗増加率が低減していた。No.3は、No.2に比して、イミダゾリン系化合物の配合量が多い。
10 コア粒子、20 被覆層、21 第1層、22 第2層、30 複合粒子、110 正極、120 負極、130 セパレータ層、150 発電要素、200 全固体電池。