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特開2024-171638分光装置、連続発振超放射レーザー装置および分光方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171638
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】分光装置、連続発振超放射レーザー装置および分光方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/06 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01S1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088759
(22)【出願日】2023-05-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和五年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「研究題目名:クラウド光格子時計による時空間情報基盤の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】香取 秀俊
(57)【要約】
【課題】磁場を必要とせずに、冷却光による光シフトを受けた原子が分光対象から除去された分光領域を定義する。
【解決手段】分光装置1は、原子供給部10を備えた第1原子移動経路11と、第1交差位置P1で第1原子移動経路11と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路12と、第2交差位置P2で第2原子移動経路12と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路13と、第2原子移動経路12に原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL20を供給するクロックレーザー光源20と、を備える。第2原子移動経路12上の第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に、クロックレーザーL20が原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域SPが形成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子供給部を備えた第1原子移動経路と、
第1交差位置で前記第1原子移動経路と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路と、
第2交差位置で前記第2原子移動経路と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路と、
前記第2原子移動経路に原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、を備え、
前記第2原子移動経路上の前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成されることを特徴とする分光装置。
【請求項2】
原子供給部と、
第1原子移動経路と、
第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第2原子移動経路と、
第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第3原子移動経路と、
第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第1クロックレーザー光源と、
を備え、
前記原子供給部は、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
前記第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源および前記第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源は、前記第1原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第1原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第1移動光格子を形成し、
前記第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源および前記第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源は、前記第2原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第2移動光格子を形成し、
前記第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源および前記第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源は、前記第3原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第3移動光格子を形成し、
前記第1クロックレーザー光源は、前記第2原子移動経路内に、前記第2原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、
前記第1原子移動経路と前記第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第2原子移動経路と前記第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記第1クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成されることを特徴とする分光装置。
【請求項3】
周辺に磁場が存在するとき、前記第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に備えることを特徴とする請求項2に記載の分光装置。
【請求項4】
周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えることを特徴とする請求項3に記載の分光装置。
【請求項5】
前記第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを前記第2交差位置の後に備えることを特徴とする請求項4に記載の分光装置。
【請求項6】
前記第3原子移動経路内に、前記第3原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の分光装置。
【請求項7】
前記第1クロックレーザーの強度と前記第2クロックレーザーの強度とはそれぞれ異なり、これにより前記第1分光領域および前記第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得することを特徴とする請求項6に記載の分光装置。
【請求項8】
前記光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定されることを特徴とする請求項2に記載の分光装置。
【請求項9】
前記第1交差位置において、前記第1原子移動経路内に形成される電場と、前記第2原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていること、または、前記第2交差位置において、前記第2原子移動経路内に形成される電場と、前記第3原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていることを特徴とする請求項2に記載の分光装置。
【請求項10】
原子供給部と、
第1原子移動経路と、
第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第2原子移動経路と、
第3原子移動経路と、
第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、
第1クロックレーザー光源と、
を備え、
前記第1原子移動経路の一方の端部と、前記第2原子移動経路の一方の端部とは、光学的に結ばれており、
前記第3原子移動経路の一方の端部と、前記第2原子移動経路の他方の端部とは、光学的に結ばれており、
前記原子供給部は、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
前記第1原子移動経路用光格子レーザー光源および前記第3原子移動経路用光格子レーザー光源は、前記第1原子移動経路、前記第2原子移動経路および前記第3原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第1原子移動経路、前記第2原子移動経路および前記第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1クロックレーザー光源は、前記第2原子移動経路内に、前記第2原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、
前記第1原子移動経路と前記第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第2原子移動経路と前記第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記第1クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成されることを特徴とする分光装置。
【請求項11】
周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えることを特徴とする請求項10に記載の分光装置。
【請求項12】
前記第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に備え、
前記第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを前記第2交差位置の後に備えることを特徴とする請求項11に記載の分光装置。
【請求項13】
前記第3原子移動経路内に、前記第3原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載の分光装置。
【請求項14】
前記第1クロックレーザーの強度と前記第2クロックレーザーの強度とはそれぞれ異なり、これにより前記第1分光領域および前記第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得することを特徴とする請求項13に記載の分光装置。
【請求項15】
原子供給部を有する第1原子移動経路と、第2原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む光共振器と、
第1の光格子レーザー光源と、
第2の光格子レーザー光源と、
第1クロックレーザー光源と、
を備え、
前記原子供給部は、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
前記第1の光格子レーザー光源および前記第2の光格子レーザー光源は、前記光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第1原子移動経路、前記第2原子移動経路および前記第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1クロックレーザー光源は、前記第2原子移動経路内に、前記第2原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、
前記第1原子移動経路と前記第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第2原子移動経路と前記第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記第1クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成されることを特徴とする分光装置。
【請求項16】
周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えることを特徴とする請求項15に記載の分光装置。
【請求項17】
前記第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に備え、
前記第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを前記第2交差位置の後に備えることを特徴とする請求項16に記載の分光装置。
【請求項18】
前記第3原子移動経路内に、前記第3原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の分光装置。
【請求項19】
前記第1クロックレーザーの強度と前記第2クロックレーザーの強度とはそれぞれ異なり、これにより前記第1分光領域および前記第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得することを特徴とする請求項18に記載の分光装置。
【請求項20】
前記光共振器は、リング型光共振器であることを特徴とする請求項15に記載の分光装置。
【請求項21】
原子供給部を有する第1原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む第1光共振器と、
第2原子移動経路を光路として含む第2光共振器と、
前記第1光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第1光格子レーザー光源と、第2の第1光格子レーザー光源と、
前記第2光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第2光格子レーザー光源と、第2の第2光格子レーザー光源と、
第1クロックレーザー光源と、
を備え、
前記原子供給部は、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
前記第1の第1光格子レーザー光源および前記第2の第1光格子レーザー光源は、前記第1光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第1原子移動経路および前記第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1の第2光格子レーザー光源および前記第2の第2光格子レーザー光源は、前記第2光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1クロックレーザー光源は、前記第2原子移動経路内に、前記第2原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、
前記第1原子移動経路と前記第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第2原子移動経路と前記第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記第1クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成されることを特徴とする分光装置。
【請求項22】
前記第1光共振器および前記第2光共振器が、それぞれ原子のローディングおよび原子の分光に適した光格子のポテンシャル深さを個別に設定できることを特徴とする請求項21に記載の分光装置。
【請求項23】
周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えることを特徴とする請求項21に記載の分光装置。
【請求項24】
前記第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に備え、
前記第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを前記第2交差位置の後に備えることを特徴とする請求項23に記載の分光装置。
【請求項25】
前記第3原子移動経路内に、前記第3原子移動経路と同軸上を前記原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えることを特徴とする請求項24に記載の分光装置。
【請求項26】
前記第1クロックレーザーの強度と前記第2クロックレーザーの強度とはそれぞれ異なり、これにより前記第1分光領域および前記第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得することを特徴とする請求項25に記載の分光装置。
【請求項27】
前記第1光共振器は四角型光共振器であり、前記第2光共振器は三角型光共振器であることを特徴とする請求項21に記載の分光装置。
【請求項28】
前記第1光共振器および前記第2光共振器は三角型光共振器であることを特徴とする請求項21に記載の分光装置。
【請求項29】
前記分光領域に冷却光が侵入することを防ぐための遮光板を備えることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項30】
前記分光領域を取り囲む磁気シールドを備えることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項31】
前記磁気シールドの内壁は光を吸収するコーティングが施されていることを特徴とする請求項30に記載の分光装置。
【請求項32】
前記分光領域を取り囲む黒体輻射シールドを備えることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項33】
前記黒体輻射シールドの内壁は光を吸収するコーティングが施されていることを特徴とする請求項32に記載の分光装置。
【請求項34】
原子供給部を有する第1原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む第1光共振器と、
第2原子移動経路を光路として含む第2光共振器と、
前記第1光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第1光格子レーザー光源と、第2の第1光格子レーザー光源と、
前記第2光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第2光格子レーザー光源と、第2の第2光格子レーザー光源と、
を備え、
前記原子供給部は、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、
前記第1の第1光格子レーザー光源および前記第2の第1光格子レーザー光源は、前記第1光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第1原子移動経路および前記第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1の第2光格子レーザー光源および前記第2の第2光格子レーザー光源は、前記第2光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、前記第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、
前記第1原子移動経路と前記第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第2原子移動経路と前記第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、
前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、時計遷移空間が形成され、
前記時計遷移空間を含む前記第2光共振器で超放射レーザーの連続発振がされることを特徴とする連続発振超放射レーザー装置。
【請求項35】
前記第2原子移動経路に第1時計遷移空間を形成するための第1磁気シールドと、前記第3原子移動経路に第2時計遷移空間を形成するための第2磁気シールドと、磁場発生器と、ポンプ領域と、をさらに備え、
前記第1時計遷移空間を含む前記第2光共振器で第1の超放射レーザーの連続発振がされ、
前記第2時計遷移空間を含む前記第1光共振器で第2の超放射レーザーの連続発振がされることを特徴とする請求項34に記載の連続発振超放射レーザー装置。
【請求項36】
分光装置を用いた分光方法であって、
前記分光装置は、原子供給部を備えた第1原子移動経路と、第1交差位置で前記第1原子移動経路と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路と、第2交差位置で前記第2原子移動経路と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路と、第2原子移動経路にクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、を備え、
前記原子供給部を用いて、前記第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップS1と、
前記クロックレーザー光源を用いて、前記第2原子移動経路内に、当該第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するステップS2と、
前記第2原子移動経路上の前記第1交差位置と前記第2交差位置との間に、前記クロックレーザーが前記原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域を形成するステップS3と、を含むことを特徴とする分光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光装置、連続発振超放射レーザー装置および分光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子の性質を精密に調べるための分光法として、ラビ分光、ラムゼー分光が知られている(例えば、非特許文献1参照)。以下、本明細書では、原子、分子、イオンも含めた状態の遷移を「原子遷移」と呼ぶ。
【0003】
これらの分光法では、原子にコヒーレントな励起光(プローブ光)をパルス的に照射することにより、原子を励起する。プローブ光の周波数に応じて原子の遷移確率が鋭敏に変化するので、遷移確率を測定することにより、高い精度で遷移周波数を観測することができる。
【0004】
本発明のもう1つの背景技術に、光格子時計がある。光格子時計は、2001年に本発明者によって提案された原子時計である。高精度な原子時計は、精密計測を通して科学技術の発展を支えるだけでなく、衛星搭載によるナビゲーションシステムや大容量高速通信ネットワークの構築など、現代社会を支える基盤システムとして重要な役割を担っている。「秒」がセシウム原子のマイクロ波遷移の遷移周波数で定義された1967年以来、半世紀にわたって、セシウム原子時計が時間・周波数の基準として用いられてきた。その間にセシウム原子時計は、レーザー冷却技術の導入や原子泉型時計の開発によって、10年に一桁の割合で精度を上げ、現在ではおよそ15桁の不確かさを実現し、国際原子時として全世界で共有されている。
【0005】
一方、近年の原子時計の研究は、光周波数コム、狭線幅レーザー光源、光ファイバー周波数伝送に代表される光周波数制御技術の急速な発展とともに、光周波数領域の原子遷移を基準とする光時計の開発に移行しつつある。時計の正確さは、基準とする周波数に比例する。このため、光周波数を基準とする光時計は、マイクロ波を基準とするセシウム時計に対してさらに数桁の高精度化を可能とする。
【0006】
光格子時計は、レーザー光で生成した光格子内に閉じ込められた数100万個の原子の光領域の共振周波数を基準とすることにより、短時間で高い精度を実現できる原子時計である、2001年に本発明者によって提案された。光格子時計は、セシウム時計の精度をはるかに凌駕する18桁の精度を、わずか数秒の短い平均時間で実現可能な次世代原子時計と位置付けられる。
【0007】
一般に光原子時計の原理は、レーザー光を原子に照射し、時計の基準となる原子の共鳴遷移に常に共鳴するように、レーザー光の光周波数を制御することによって、原子固有かつ不変な周波数あるいは時間を実現することである。一方で、正確な時計を実現するためには、原子を取り巻く摂動を排除し、その周波数を正確に読みだす必要がある。特に重要なのが、原子の熱運動によるドップラー効果が引き起こす周波数シフトの除去である。
【0008】
光原子時計の一種である光格子時計は、レーザー光の干渉によって作る微小空間内に原子を閉じ込めることによって、原子の運動を完全に凍結させる。一方で、原子をレーザー光で閉じ込めると、そのレーザー光によって原子の共振周波数がずれてしまう。これを相殺するような「魔法波長」と呼ばれる特定の波長を選ぶことによって、光格子自体の影響も排除することができる。実際に、ストロンチウム、イッテルビウム、水銀、カドミウム、マグネシウムなどで、魔法波長が理論的かつ実験的に決定されている。
【0009】
実現した時計の精度を評価し、光格子時計の周波数を国際原子時へとつなぐために、ストロンチウム原子の共鳴遷移の絶対周波数測定が行われた。その後この測定は、米、仏の研究機関の追試により再現性が確認され、2006年には「秒」の再定義の有力な候補として、ストロンチウム原子を用いた光格子時計が「秒の二次表現」に採択されるに至っている。光格子時計の精度が向上するとともに、セシウム時計の不確かさが計測精度を制限するようになってきている。従って、さらなる高精度な評価を行うためには、複数台の光格子時計を開発してそれらを直接比較することが不可欠となっている。
【0010】
光格子時計の最近の技術は、例えば特許文献1~3に開示されている。特許文献1には、原子を光格子の格子点付近にトラップし、これを原子移動経路上で移動させて運ぶ「移動光格子」が記載されている。特許文献2には、実効的魔法周波数を設定する態様が記載されている。特許文献3には、周囲の壁から放射される黒体輻射からの影響を低減する輻射シールドが記載されている。
【0011】
光格子時計の応用上の次のステップは、高精度な時計の新たな応用を開拓し、その実用化を図ることである。18桁もの高い精度で時計計測が可能になると、例えば重力による一般相対性理論的な効果によって、地上のわずかな1cmの高さの違いを、時間の進み方のずれとして検出できるようになる。このような相対論的効果を利用すれば、高精度な時計が、高精度な重力ポテンシャル計として新たな世界をプローブする精密計測ツールとなる。一例として、光格子時計を可搬化してフィールドで利用できるようになれば、地下資源探索、地下空洞、マグマたまりの検出など、新たな測地技術への応用の可能性が広がる。また高信頼化した小型時計を量産して各地に配置し、重力ポテンシャルの時間変動を連続監視することにより、地殻変動の検出、重力場の空間マッピングに応用することも考えられる。今後、時計の小型化、可搬化によって、新たな基盤技術として社会に貢献することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2014/027637号
【特許文献2】特表2018-510494号公報
【特許文献3】特開2019-129166号公報
【特許文献4】国際公開第2022/181408号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】F. Riehle, “Frequency standards: basics and applications” John Wiley & Sons (2006), ISBN: 978-3-527-60595-8
【非特許文献2】G. Santarelli, C. Audoin, A. Makdissi, P. Laurent, G.J. Dick, A. Clairon, “Frequency stability degradation of an oscillator slaved to a periodically interrogated atomic resonator”, IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, 45 (1998) 887-894.
【非特許文献3】Hidetoshi Katori, “Longitudinal Ramsey spectroscopy of atoms for continuous operation of optical clocks”, Applied Physics Express 14, 072006 (2021).
【非特許文献4】T. Kishimoto, H. Hachisu, J. Fujiki, K. Nagato, M. Yasuda, H. Katori, “Electrodynamic trapping of spinless neutral atoms with an atom chip”, Physical Review Letters, 96 (2006) 123001.
【非特許文献5】R. H. Dicke, “Coherence in Spontaneous Radiation Processes” Phys. Rev. 93, 99 (1954)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ラムゼー分光では、原子と励起光とが2回相互作用する。これらの相互作用間の時間的または空間的間隔が大きいほど、分光計測の測定精度は高くなることが知られている。しかしながら、励起光を空間的に隔てる場合、光を分割、反射させるミラーの機械的安定度が、励起光のコヒーレンスを劣化させる。このため、精度を上げようとして間隔を広げれば広げるほど、ミラーの機械的安定度を高めることが要求される。このため、コヒーレンスの維持が困難となる。一方、励起光を時間的に隔てる場合は、ミラーの機械的安定度の問題からは解放される。しかしその一方で、ラムゼー分光と原子の状態検出とを時間的に分けることが必要となる。この場合、連続的な周波数測定ができないこと、極低温原子の生成と捕獲および状態検出に要する時間はラムゼー分光に対して無駄な時間となることに起因して、Dick雑音限界と呼ばれる安定度の限界が生じることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。このように、ラビ分光やラムゼー分光を用いる従来の方式では、高精度の周波数測定を連続的に行うことが難しい。さらに、測定精度を上げる目的で原子とレーザー光との相互作用時間を長くするほど、レーザー光には高い周波数安定度が要求される。このようなレーザー光の生成には、数10cmの長さの光共振器の参照が不可欠なため、装置が大型化する原因となる。すなわち従来の分光手法では、コンパクトな装置で高精度な原子遷移周波数測定をすることが困難である。
【0015】
こうした課題を解決するために、本発明者は、第1の光格子レーザー光源と、第2の光格子レーザー光源と、原子移動経路と、原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給する原子供給部と、原子移動経路内に原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、磁場生成部と、を備えた電子状態スプリッターを開発した(例えば、特許文献4または非特許文献3参照)。この電子状態スプリッターでは、第1の光格子レーザー光源と第2の光格子レーザー光源とが、原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対を供給することにより、定在波のなす光格子が形成されている。この光格子は、原子移動経路に沿って移動する移動光格子である。磁場生成部が、原子移動経路に当該原子移動経路と直交する磁場を生成し、電気双極子遷移許容な電子状態との波動関数の混合を引き起こす。これにより、クロックレーザーによる時計遷移の励起が可能となる。
【0016】
この電子状態スプリッターでは、クロックレーザーの伝播方向と原子の運動方向とが同軸上にあるという独自の特徴を持つ。これにより、原子は「縦励起」される。これに対し、従来のラムゼー分光では、クロックレーザーの伝播方向と、原子の運動方向とが直交している(すなわち原子は「横励起」される)。このため、装置的な位相関係が固定された複数のクロックレーザーを与えることが要求される。これに対し、本発明者の考案した原子の縦励起を用いた手法(以下、「縦励起ラムゼー分光」と呼ぶ)によれば、1本のクロックレーザーで原子ビーム全域をカバーできるため、従来のような複数のクロックレーザー間における位相関係を確定させるための機械的安定度が不要となる。これにより、コンパクトな装置を用いて、高精度な原子遷移周波数測定を実現することができるようになった。
【0017】
縦励起ラムゼー分光の利点についてさらに説明する。光格子中のレーザー分光では、ラムディッケ束縛によりドップラー効果が生じないため、精密分光に最適である。連続的なレーザーの位相計測を行えば、原子時計の安定度を1/τ(τは積算時間)で改善可能となる。ただし、原子は光格子中で残留気体と衝突することにより、10秒程度の有限の寿命を持つ。従って連続運転のためには、原子の供給(ローディング)が必要となる。このために冷却原子装置から、移動光格子による引き出しが必須である。ラムディッケ束縛の要請を満たすためには、移動光格子の移動方向に対して、同軸上で分光を行う必要がある。縦励起分光では、低温原子の移動光格子へのローディング位置も分光の対象になる。このため、冷却光による光シフトを受けた原子が、精密分光を阻害することが問題となっていた。これに対し、縦励起ラムゼー分光を用いることにより、冷却光による光シフトを受けた原子を分光対象から除去してラムゼー分光領域を定義することができる。
【0018】
しかしながら、特許文献4に開示された縦励起ラムゼー分光では、分光領域を定義するために磁場の生成を必要であり、これが残された課題の1つとなっている。すなわち、磁場を必要とせずに、冷却光による光シフトを受けた原子が分光対象から除去された分光領域を定義できれば、分光精度のさらなる向上や装置の小型化といったさらなる効果が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の分光装置は、原子供給部を備えた第1原子移動経路と、第1交差位置で第1原子移動経路と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路と、第2交差位置で第2原子移動経路と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路と、第2原子移動経路に原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、を備える。第2原子移動経路上の第1交差位置と第2交差位置との間に、クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成される。
【0020】
本発明の別の態様もまた、分光装置である。この装置は、原子供給部と、第1原子移動経路と、第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、第2原子移動経路と、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源と、第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源と、第3原子移動経路と、第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、第1クロックレーザー光源と、を備える。原子供給部は、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源および第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源は、第1原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第1原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第1移動光格子を形成し、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源および第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源は、第2原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第2移動光格子を形成し、第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源および第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源は、第3原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす第3移動光格子を形成し、第1クロックレーザー光源は、第2原子移動経路内に、第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、第1原子移動経路と第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、第2原子移動経路と第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、第1交差位置と第2交差位置との間に、第1クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成される。
【0021】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、周辺に磁場が存在するとき、第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを第1交差位置と第2交差位置との間に備えてもよい。
【0022】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えてもよい。
【0023】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを第2交差位置の後に備えてもよい。
【0024】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第3原子移動経路内に、第3原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えてもよい。
【0025】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1クロックレーザーの強度と第2クロックレーザーの強度とはそれぞれ異なり、これにより第1分光領域および第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得してもよい。
【0026】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1原子移動経路、第2原子移動経路または第3原子移動経路内で移動光格子を形成する光格子レーザーが、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定されてもよい。
【0027】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1交差位置において、第1原子移動経路内に形成される電場と、第2原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていてもよく、または、第2交差位置において、第2原子移動経路内に形成される電場と、第3原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていてもよい。交差位置で偏光が揃っていることで、干渉効果によって光格子のポテンシャル深さが増大し、交差・移動光格子間での原子の移行効率が増大する。
【0028】
本発明のさらに別の態様もまた、分光装置である。この装置は、原子供給部と、第1原子移動経路と、第1原子移動経路用光格子レーザー光源と、第2原子移動経路と、第3原子移動経路と、第3原子移動経路用光格子レーザー光源と、第1クロックレーザー光源と、を備える。第1原子移動経路の一方の端部と、第2原子移動経路の一方の端部とは、光学的に結ばれており、第3原子移動経路の一方の端部と、第2原子移動経路の他方の端部とは、光学的に結ばれており、原子供給部は、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、第1原子移動経路用光格子レーザー光源および第3原子移動経路用光格子レーザー光源は、第1原子移動経路、第2原子移動経路および第3原子移動経路を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第1原子移動経路、第2原子移動経路および第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1クロックレーザー光源は、第2原子移動経路内に、第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、第1原子移動経路と第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、第2原子移動経路と第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、第1交差位置と第2交差位置との間に、第1クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成される。
【0029】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えてもよい。
【0030】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを第1交差位置と第2交差位置との間に備えてもよく、第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを第2交差位置の後に備えてもよい。
【0031】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第3原子移動経路内に、第3原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えてもよい。
【0032】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1クロックレーザーの強度と第2クロックレーザーの強度とがそれぞれ異なり、これにより第1分光領域および第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得してもよい。
【0033】
本発明のさらに別の態様もまた、分光装置である。この装置は、原子供給部を有する第1原子移動経路と、第2原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む光共振器と、第1の光格子レーザー光源と、第2の光格子レーザー光源と、第1クロックレーザー光源と、を備える。原子供給部は、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、第1の光格子レーザー光源および第2の光格子レーザー光源は、光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第1原子移動経路、第2原子移動経路および第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1クロックレーザー光源は、第2原子移動経路内に、第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、第1原子移動経路と第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、第2原子移動経路と第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、第1交差位置と第2交差位置との間に、第1クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成される。
【0034】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えてもよい。
【0035】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを第1交差位置と第2交差位置との間に備えてもよく、第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを第2交差位置の後に備えてもよい。
【0036】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第3原子移動経路内に、第3原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えてもよい。
【0037】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1クロックレーザーの強度と第2クロックレーザーの強度とがそれぞれ異なり、これにより第1分光領域および第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得してもよい。
【0038】
いくつかの実施の形態では、光共振器は、リング型光共振器であってもよい。
【0039】
本発明のさらに別の態様もまた、分光装置である。この装置は、原子供給部を有する第1原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む第1光共振器と、第2原子移動経路を光路として含む第2光共振器と、第1光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第1光格子レーザー光源と、第2の第1光格子レーザー光源と、第2光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第2光格子レーザー光源と、第2の第2光格子レーザー光源と、第1クロックレーザー光源と、を備える。原子供給部は、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、第1の第1光格子レーザー光源および第2の第1光格子レーザー光源は、第1光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第1原子移動経路および第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1の第2光格子レーザー光源および第2の第2光格子レーザー光源は、第2光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1クロックレーザー光源は、第2原子移動経路内に、第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第1クロックレーザーを供給し、第1原子移動経路と第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、第2原子移動経路と第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、第1交差位置と第2交差位置との間に、第1クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域が形成される。
【0040】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1光共振器および第2光共振器が、それぞれ原子のローディングおよび原子の分光に適した光格子のポテンシャル深さを個別に設定できてもよい。
【0041】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、周辺に磁場を生成するための磁場生成器を備えてもよい。
【0042】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第2原子移動経路に第1分光領域を形成するための第1磁気シールドを第1交差位置と第2交差位置との間に備えてもよく、第3原子移動経路に第2分光領域を形成するための第2磁気シールドを第2交差位置の後に備えてもよい。
【0043】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第3原子移動経路内に、第3原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播する第2クロックレーザーを供給するための第2クロックレーザー光源をさらに備えてもよい。
【0044】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1クロックレーザーの強度と第2クロックレーザーの強度とがそれぞれ異なり、これにより第1分光領域および第2分光領域にそれぞれ異なる相互作用時間が設定されることで、広帯域制御信号と狭帯域かつ高精度制御信号とをそれぞれ取得してもよい。
【0045】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1光共振器が四角型光共振器であり、第2光共振器が三角型光共振器であってもよい。
【0046】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、第1光共振器および第2光共振器が三角型光共振器であってもよい。
【0047】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、分光領域に冷却光が侵入することを防ぐための遮光板を備えてもよい。
【0048】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、分光領域を取り囲む磁気シールドを備えてもよい。
【0049】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、磁気シールドの内壁に、光を吸収するコーティングが施されていてもよい。
【0050】
いくつかの実施の形態では、分上記の光装置は、分光領域を取り囲む黒体輻射シールドを備えてもよい。
【0051】
いくつかの実施の形態では、上記の分光装置は、黒体輻射シールドの内壁に、光を吸収するコーティングが施されていてもよい。
【0052】
本発明のさらに別の態様は、連続発振超放射レーザー装置である。この装置は、原子供給部を有する第1原子移動経路と、第3原子移動経路と、を光路として含む第1光共振器と、第2原子移動経路を光路として含む第2光共振器と、第1光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第1光格子レーザー光源と、第2の第1光格子レーザー光源と、第2光共振器に光格子レーザーを供給する第1の第2光格子レーザー光源と、第2の第2光格子レーザー光源と、を備える。原子供給部は、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給し、第1の第1光格子レーザー光源および第2の第1光格子レーザー光源は、第1光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第1原子移動経路および第3原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1の第2光格子レーザー光源および第2の第2光格子レーザー光源は、第2光共振器内を互いに逆向きに進む光格子レーザーの対であって光周波数が互いにシフトされている光格子レーザーの対を供給することにより、第2原子移動経路に沿って移動する定在波のなす移動光格子を形成し、第1原子移動経路と第2原子移動経路とは、第1交差位置で有限の角度をなして交差し、第2原子移動経路と第3原子移動経路とは、第2交差位置で有限の角度をなして交差し、第1交差位置と第2交差位置との間に、時計遷移空間が形成され、時計遷移空間を含む第2光共振器で超放射レーザーの連続発振がされる。
【0053】
いくつかの実施の形態では、上記の連続発振超放射レーザー装置は、第2原子移動経路に第1時計遷移空間を形成するための第1磁気シールドと、第3原子移動経路に第2時計遷移空間を形成するための第2磁気シールドと、磁場発生器と、ポンプ領域と、をさらに備えてもよい。第1時計遷移空間を含む第2光共振器で第1の超放射レーザーの連続発振がされ、第2時計遷移空間を含む第1光共振器で第2の超放射レーザーの連続発振がされてもよい。
【0054】
本発明のさらに別の態様は、分光方法である。この方法は、分光装置を用いた分光方法であって、分光装置は、原子供給部を備えた第1原子移動経路と、第1交差位置で第1原子移動経路と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路と、第2交差位置で第2原子移動経路と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路と、第2原子移動経路にクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、を備える。原子供給部を用いて、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップS1と、クロックレーザー光源を用いて、第2原子移動経路内に、当該第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するステップS2と、第2原子移動経路上の第1交差位置と第2交差位置との間に、クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域を形成するステップS3と、を含む。
【0055】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、冷却光による光シフトを受けた原子が分光対象から除去された縦励起分光領域を定義することができる。この縦励起分光の一例として、縦励起ラビ分光、縦励起ラムゼー分光が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】従来手法のラムゼー分光による原子遷移周波数測定装置の模式図である。
図2】第1の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図3】第2の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図4】第3の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図5】第4の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図6】第5の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図7】第6の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図8】第7の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図9】第8の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図10】第9の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図11】第10の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図12】第11の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図13】第12の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図14】第13の実施の形態に係る分光装置の模式図である。
図15】第14の実施の形態に係る連続発振超放射レーザー装置の模式図である。
図16】第15の実施の形態に係る連続発振超放射レーザー装置の模式図である。
図17】第16の実施の形態に係る分光方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項の中で「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するだけのためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0059】
具体的な実施の形態を説明する前に、基礎となる知見を述べる。図1は、従来手法のラムゼー分光による原子遷移周波数測定装置1000の模式図である。原子遷移周波数測定装置1000は、原子供給部(例えば、原子を加熱するためのオーブン)1001と、4本の平行なクロックレーザー1002a、1002b、1002cおよび1002dと、検出器9000と、を備える。原子供給部1001で供給された原子ビームは、紙面の右向きに速度vで運動する。クロックレーザー1002aおよび1002bは紙面の上向き、クロックレーザー1002cおよび1002dは紙面の下向きであるが、これらはいずれも原子の運動方向と直交する。基底状態の原子は、クロックレーザー1002aと相互作用し基底状態と励起状態の重ね合わせ状態に遷移する。このうち励起状態に遷移する際には、プローブ光子の運動量を付与される結果、原子の軌道も2つに分岐する。同様の電子状態と運動状態の遷移が1002b-1002cで起こる結果、2つの閉じた原子軌道Tr1およびTr2が形成される(図1では2つの台形で示されている)。これらは2つの独立な干渉計となっている。この干渉計を用いて、原子遷移の周波数を測定することができる。このとき、原子とクロックレーザーとの相互作用時間が長ければ長いほど測定精度は向上する。しかしその反面、クロックレーザー照射の機械的安定性が損なわれる。その結果、計測精度が劣化する。すなわち、測定精度を上げようとすればするほど、4本のクロックレーザー間の位相制御を機械的に行うことが難しいというトレードオフが発生する。これにより、測定精度の向上に限界が生まれる。さらにこうした干渉計を原子時計に使う場合、干渉計が有限な面積を囲むため、サニャック効果による回転加速度が検出される。これは、原子時計にとってはノイズとなる。
【0060】
[第1の実施の形態]
図2は、第1の実施の形態に係る原子の分光装置1の模式図である。分光装置1は、原子供給部10と、第1原子移動経路11と、第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源111と、第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112と、第2原子移動経路12と、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121と、第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122と、第3原子移動経路13と、第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源131と、第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132と、クロックレーザー光源20と、を備える。
【0061】
第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、内部を原子が移動するためのガイドとして機能する。第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、それぞれ同様の材料または構造で構成されていてもよい。
【0062】
図2の例では、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、自由空間または中空コアファイバーなどを用いた光導波路により構成してもよい。
【0063】
第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源111は、第1原子移動経路11に、光格子レーザーL11を供給するように配置される。第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112は、第1原子移動経路11に、光格子レーザーL12を供給するように配置される。第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121は、第2原子移動経路12に、光格子レーザーL21を供給するように配置される。第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122は、第2原子移動経路12に、光格子レーザーL22を供給するように配置される。クロックレーザー光源20は、第2原子移動経路12に、クロックレーザーL20を供給するように配置される。第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源131は、第3原子移動経路13に、光格子レーザーL31を供給するように配置される。第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132は、第3原子移動経路13に、光格子レーザーL32を供給するように配置される。
【0064】
第1原子移動経路11と第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差する。第2原子移動経路12と第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差する。なお図2では、第1原子移動経路11と第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で90度の角度をなして交差している。そして第2原子移動経路12と第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で90度の角度をなして交差している。しかしこれに限られず、これらの原子移動経路同士のなす角度は、任意の有限の大きさであってよい。
【0065】
原子供給部10は、原子供給源と、レーザー冷却用のレーザー光源と、を含んで構成される。原子供給源は、第1原子移動経路11を一定速度で移動する原子(例えば88Srまたは87Sr)を供給する。すなわち原子は、原子供給部10内のレーザー冷却用のレーザー光源と相互作用して冷却された後、第1原子移動経路11に送られる。この原子は、第1原子移動経路11を一定速度vで移動する。
【0066】
第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源111および第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112は、互いに逆向きに進む光格子レーザーの対(光格子レーザーL11および光格子レーザーL12)を供給する。これにより、第1原子移動経路11に、定在波のなす光格子が形成される。
【0067】
光格子レーザーの周波数は、例えば、魔法周波数からドップラーシフト分ずれた周波数に設定してもよい。
【0068】
光格子レーザーL11および光格子レーザーL12は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第1原子移動経路11に沿って移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子供給部10で供給された原子を、第1原子移動経路11に沿って一定速度vで運ぶ。
【0069】
第1原子移動経路11に沿って紙面の左から右に移動した原子は、第1交差位置P1で、第2原子移動経路12に乗り移る。その結果、原子の運動方向は、紙面下側に向って90度曲がる。
【0070】
第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121および第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122は、互いに逆向きに進む光格子レーザーの対(光格子レーザーL21および光格子レーザーL22)を供給する。これにより、第2原子移動経路12に、定在波のなす光格子が形成される。
【0071】
光格子レーザーの周波数は、例えば、魔法周波数からドップラーシフト分ずれた周波数に設定してもよい。
【0072】
光格子レーザーL21および光格子レーザーL22は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第2原子移動経路12に沿って移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、第1原子移動経路11から来た原子を、第2原子移動経路12に沿って一定速度vで運ぶ。
【0073】
クロックレーザー光源20は、第2原子移動経路12内に、第2原子移動経路12と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL20を供給する。すなわちクロックレーザーL20の伝播方向は、第2原子移動経路12と平行または反平行である。一例として、図2では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0074】
第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に、分光領域SPが形成される。この分光境域において、クロックレーザーL20が、第2原子移動経路12に沿って動く原子に時計遷移の励起を生じさせる。図2に示されるように、クロックレーザーL20の伝播方向と原子の運動方向とが同軸上にあるので、この原子は「縦励起」される。
【0075】
第1原子移動経路11と第2原子移動経路12とが、有限の角度をなして交差していることにより、原子供給部10で用いられたレーザー冷却光の迷光が第2原子移動経路12に侵入し、分光対象の原子が光シフトを被ることが防げる。また、冷却光による光シフトを受けた原子が、分光対象から除去されている。
【0076】
第2原子移動経路12に沿って紙面の上から下に移動して、分光領域SPで縦励起された原子は、第2交差位置P2で、第3原子移動経路13に乗り移る。その結果、原子の運動方向は、紙面左側に向って90度曲がる。
【0077】
第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源131および第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132は、互いに逆向きに進む光格子レーザーの対(光格子レーザーL31および光格子レーザーL32)を供給する。これにより、第3原子移動経路13に、定在波のなす光格子が形成される。
【0078】
光格子レーザーの周波数は、例えば、魔法周波数からドップラーシフト分ずれた周波数に設定してもよい。
【0079】
光格子レーザーL31および光格子レーザーL32は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第3原子移動経路13に沿って移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、第2原子移動経路12から来た原子を、第3原子移動経路13に沿って一定速度vで運ぶ。
【0080】
第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の任意の測定位置(例えば、図2の測定位置P3)で、検出器90を用いて射影測定することができる。この射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0081】
この実施の形態では、第1原子移動経路11上で原子を供給し、第2原子移動経路12上で分光を行い、第3原子移動経路13上で測定を行っている。この意味で、第1原子移動経路を原子供給経路と呼び、第2原子移動経路を分光経路と呼び、第3原子移動経路を測定経路と呼ぶこともできる。
【0082】
上記の例では、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、自由空間中の移動光格子または中空コアファイバーなどを用いた光導波路により構成された。しかしこれに限られず、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、供給された原子が紙面の左から右に向かって移動するガイドとして機能するものであれば、任意の好適な材料で形成されてもよい。例えば第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13は、自由空間中の移動定在波、光共振器中の移動定在波、光導波路中の移動定在波などを用いて形成することができる。これらの定在波を構成する光格子レーザーは、時計遷移のシュタルクシフトを生じない魔法周波数に設定してもよい。
【0083】
あるいは、原子ガイドは、2次元の磁場トラップ、2次元の電場トラップによって形成してもよい(例えば、非特許文献4参照)。
【0084】
第1交差位置P1において、第1原子移動経路内に形成される電場と、第2原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていてもよい。同様に、第2交差位置P2において、第2原子移動経路内に形成される電場と、第3原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていてもよい。このように、2つの原子移動経路の交差位置で、2つの原子移動経路内に形成される電場の偏光方向が揃っていることにより、電場同士で強め合う干渉が発生する。これにより、原子は、一方の原子移動経路から他方の原子移動経路に、より確実に乗り移ることができる。
【0085】
分光領域SPでは、縦励起ラムゼー分光の他、ラビ分光が可能である。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態では、移動光格子で形成した3本の原子移動経路のうち、原子供給経路と分光経路、および、分光経路と測定経路を、それぞれ有限の角度をなして交差させている。これにより、2つの交差位置の間の分光経路上に分光領域が形成される。この分光領域には、レーザー冷却光の迷光が侵入しないという顕著な利点がある。
【0087】
従って、本実施の形態によれば、縦励起ラムゼー分光において、磁場を必要とすることなく、冷却光による光シフトを受けた原子が分光対象から除去された分光領域を定義することができる。
【0088】
このような分光方法は、原子遷移周波数測定装置、原子発振器、光格子時計、量子コンピュータなど様々な用途に応用することができる。
【0089】
[第2の実施の形態]
上で説明した第1の実施の形態は、分光装置1の周辺に磁場が存在しないことを仮定した。しかし実際には、原子供給部10の冷却領域の周辺にしばしば10G程度のトラップ磁場が発生し、その周囲数cmの領域に残留磁場が存在する。このような磁場の存在下では、分光を目的とする領域に磁気シールドを設けることで、分光領域を定義することができる。
【0090】
図3は、第2の実施の形態に係る原子の分光装置2の模式図である。分光装置2は、原子供給部10と、第1原子移動経路11と、第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源111と、第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112と、第2原子移動経路12と、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121と、第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122と、第3原子移動経路13と、第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源131と、第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132と、クロックレーザー光源20と、磁気シールドMSと、を備える。すなわち、分光装置2は、図2の分光装置1に対して、磁気シールドMSを追加的に備えている。分光装置2のその他の構成は、分光装置1の構成と共通である。
【0091】
第2原子移動経路12の周辺には磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための磁気シールドMSが、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0092】
第2原子移動経路12は、磁気シールドMSの内部には磁場が存在せず、それ以外の領域には磁場が存在する。その結果、第2原子移動経路12を移動する原子は、磁気シールド以外の領域では残留磁場によるゼーマンシフトによってクロックレーザーL20と非共鳴になる一方、磁気シールドMSの内部では近共鳴となりクロックレーザーL20と相互作用する分光領域SPとなる。磁気シールドMSから出た原子は再び非共鳴となるので、このときの第2原子移動経路12は非分光領域である。このように、分光装置2の周辺に磁場が存在する場合は、第2原子移動経路に磁気シールドMSを設けることにより、分光領域を定義することができる。
【0093】
分光装置2では、原子が分光領域SPを通過した後の第2原子移動経路12の非分光領域に測定位置を設けることができる。すなわち、第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の分光領域SPより後の任意の測定位置(例えば、図3の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。この射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0094】
磁場Bは、冷却領域の周辺に存在するトラップ磁場に限られない。磁場Bは、例えばコイルなどの磁場発生器を用いて、意図的に分光装置全体に印加したものであってもよい。
【0095】
図4は、周辺に磁場を生成するための磁場発生器BGを備える分光装置3の模式図である。
【0096】
[第4の実施の形態]
図5は、第4の実施の形態に係る原子の分光装置4の模式図である。分光装置4は、原子供給部10と、第1原子移動経路11と、第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源111と、第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112と、第2原子移動経路12と、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121と、第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122と、第3原子移動経路13と、第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源131と、第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132と、クロックレーザー光源20と、クロックレーザー光源201と、第1磁気シールドMS1と、第2磁気シールドMS2と、磁場発生器BGと、ポンプ領域P6と、を備える。すなわち、分光装置4は、図4の分光装置3に対して、クロックレーザー光源201と、第2磁気シールドMS2と、ポンプ領域P6と、を追加的に備えている。分光装置4のその他の構成は、分光装置3の構成と共通である。
【0097】
第2原子移動経路12および第3原子移動経路13の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。同様に、磁場Bを遮蔽するための第2磁気シールドMS2が、第3原子移動経路13の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0098】
クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13に、クロックレーザーL201を供給するように配置される。具体的には、クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13内に、第3原子移動経路13と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL201を供給する。すなわちクロックレーザーL201の伝播方向は、第3原子移動経路13と平行または反平行である。一例として、図5では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0099】
ポンプ領域P6は、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の後方に配置される。第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、ポンプ領域P6で基底状態に光ポンプされる。
【0100】
第2の実施の形態と同様の議論により、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1分光領域SP1となり、第3原子移動経路13の第2磁気シールドMS2の内部は第2分光領域SP2となる。それ以外の領域は非分光領域となる。
【0101】
第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の第1分光領域SP1より後の任意の測定位置(例えば、図5の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。同様に、第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の第2分光領域SP2より後の任意の測定位置(例えば、図5の測定位置P5)で、検出器92を用いて射影測定することができる。これらの射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0102】
第1分光領域SP1に対するクロックレーザーL20のラビ周波数をΩ1、第2分光領域SP2に対するクロックレーザーL201のラビ周波数をΩ2とする。このとき、第1分光領域SP1、第2分光領域SP2でのラビ分光時間は、それぞれ、T1=π/Ω1、T2=π/Ω2と表される。このとき、例えば、Ω1<Ω2と設定することで、T1>T2を実現すれば、SP1では狭帯域の高精度周波数制御に必要な信号を取得し、SP2では高速周波数制御に必要な信号を取得することができる。
【0103】
このように、分光装置内に複数の分光領域を定義することができる。これにより、分光装置内に複数の測定位置を設けることができる。さらに複数の強度の異なるクロックレーザーを用いることにより、異なる相互作用時間(すなわち、ラビ分光時間T1、T2)を設定することができる。これにより、「広帯域制御信号」と「狭帯域かつ高精度制御信号」とをそれぞれ取得することができる。
【0104】
[第5の実施の形態]
図6は、第5の実施の形態に係る原子の分光装置5の模式図である。分光装置5は、図1の分光装置1に対して、第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源112、第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源121、第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源122、第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源132を備えない。すなわち、分光装置5は、第1原子移動経路用光格子レーザー光源111と、第3原子移動経路用光格子レーザー光源131と、を備える(「第1の」「第2の」という文言は省略した)。さらに分光装置5は、分光装置1の構成に加えて、ミラーM1と、ミラーM2と、ミラーM3と、ミラーM4と、を備える。
【0105】
以下、分光装置5について、分光装置1との相違点に焦点を当てて説明する。分光装置1と重複する事項については、適宜説明を省略する。
【0106】
ミラーM1は、第1原子移動経路11の、第1原子移動経路用光格子レーザー光源111と反対側に設置される。ミラーM2は、第2原子移動経路12の一方の端部に設置される。ミラーM3は、第3原子移動経路13の、第3原子移動経路用光格子レーザー光源113と反対側に設置される。ミラーM4は、第2原子移動経路12のミラーM2と反対側の端部に設置される。ミラーM1とミラーM2とは、光路を介して光学的に結ばれる。ミラーM3とミラーM4とは、光路を介して光学的に結ばれる。
【0107】
第1原子移動経路11と、第2原子移動経路とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差している。第2原子移動経路12と、第2原子移動経路とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差している。
【0108】
第1原子移動経路用光格子レーザー光源111は、光格子レーザーL11を第1原子移動経路11に供給する。第3原子移動経路用光格子レーザー光源131は、光格子レーザーL31を第3原子移動経路13に供給する。
【0109】
第1原子移動経路用光格子レーザー光源111からの光格子レーザーL11は、第1原子移動経路11内を紙面の左から右に伝搬した後、最初にミラーM1で反射され、次にミラーM2で反射された後、第2原子移動経路12に入射する。その後、光格子レーザーL11は、第2原子移動経路12内を紙面の上から下に伝搬する。すなわち光格子レーザーL11は、ここでは図2の光格子レーザーL21として振る舞う。
【0110】
光格子レーザーL11(すなわち光格子レーザーL21)は、第2原子移動経路12内を紙面の上から下に伝搬した後、最初にミラーM4で反射され、次にミラーM3で反射された後、第3原子移動経路13に入射する。その後、光格子レーザーL11は、第3原子移動経路13内を紙面の右から左に伝搬する。すなわち光格子レーザーL11は、ここでは図2の光格子レーザーL31として振る舞う。
【0111】
第3原子移動経路用光格子レーザー光源131からの光格子レーザーL31は、第3原子移動経路13内を紙面の左から右に伝搬した後、最初にミラーM3で反射され、次にミラーM4で反射された後、第2原子移動経路12に入射する。その後、光格子レーザーL31は、第2原子移動経路12内を紙面の下から上に伝搬する。すなわち光格子レーザーL31は、ここでは図2の光格子レーザーL22として振る舞う。
【0112】
光格子レーザーL31(すなわち光格子レーザーL22)は、第2原子移動経路12内を紙面の下から上に伝搬した後、最初にミラーM2で反射され、次にミラーM1で反射された後、第1原子移動経路11に入射する。その後、光格子レーザーL31は、第1原子移動経路11内を紙面の右から左に伝搬する。すなわち光格子レーザーL31は、ここでは図2の光格子レーザーL12として振る舞う。
【0113】
第1原子移動経路用光格子レーザー光源111および第3原子移動経路用光格子レーザー光源131は、互いに逆向きに進む光格子レーザーの対(光格子レーザーL11および光格子レーザーL31)を供給する。これにより、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13に、定在波のなす光格子が形成される。
【0114】
光格子レーザーの周波数は、例えば、魔法周波数からドップラーシフト分ずれた周波数に設定してもよい。
【0115】
光格子レーザーL11および光格子レーザーL31は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13に沿って移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第1原子移動経路11、第2原子移動経路12および第3原子移動経路13に沿って一定速度vで運ぶ。
【0116】
第2原子移動経路12の、第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に分光領域SPが定義される。
【0117】
第3原子移動経路13に沿って運動する原子は、第3原子移動経路13上の任意の測定位置(例えば、図4の測定位置P3)で、検出器90を用いて射影測定することができる。この射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0118】
この実施の形態によれば、図2の分光装置1と同等の効果を発揮しつつ、分光装置1に比べて、光格子レーザー光源を削減することができる。
【0119】
[第6の実施の形態]
図7は、第6の実施の形態に係る原子の分光装置6の模式図である。分光装置6は、図6の分光装置5に対して、クロックレーザー光源201と、第2磁気シールドMS2と、磁場発生器BGと、ポンプ領域P6と、を追加的に備える。分光装置6のその他の構成は、分光装置5の構成と共通である。
【0120】
第2原子移動経路12および第3原子移動経路13の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。同様に、磁場Bを遮蔽するための第2磁気シールドMS2が、第3原子移動経路13の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0121】
クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13に、クロックレーザーL201を供給するように配置される。具体的には、クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13内に、第3原子移動経路13と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL201を供給する。すなわちクロックレーザーL201の伝播方向は、第3原子移動経路13と平行または反平行である。一例として、図7では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0122】
ポンプ領域P6は、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の後方に配置される。第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、ポンプ領域P6で基底状態に光ポンプされる。
【0123】
第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1分光領域SP1となり、第3原子移動経路13の第2磁気シールドMS2の内部は第2分光領域SP2となる。それ以外の領域は非分光領域となる。
【0124】
第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の第1分光領域SP1より後の任意の測定位置(例えば、図7の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。同様に、第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の第2分光領域SP2より後の任意の測定位置(例えば、図7の測定位置P5)で、検出器92を用いて射影測定することができる。これらの射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0125】
第1分光領域SP1に対するクロックレーザーL20のラビ周波数をΩ1、第2分光領域SP2に対するクロックレーザーL201のラビ周波数をΩ2とする。このとき、第1分光領域SP1、第2分光領域SP2でのラビ分光時間は、それぞれ、T1=π/Ω1、T2=π/Ω2と表される。このとき、例えば、Ω1<Ω2と設定することで、T1>T2を実現すれば、SP1では狭帯域の高精度周波数制御に必要な信号を取得し、SP2では高速周波数制御に必要な信号を取得することができる。
【0126】
本実施の形態によれば、分光装置内に複数の分光領域を定義することができる。これにより、分光装置内に複数の測定位置を設けることができる。さらに複数の強度の異なるクロックレーザーを用いることにより、異なる相互作用時間(すなわち、ラビ分光時間T1、T2)を設定することができる。これにより、「広帯域制御信号」と「狭帯域かつ高精度制御信号」とをそれぞれ取得することができる。
【0127】
[第7の実施の形態]
図8は、第7の実施の形態に係る原子の分光装置7の模式図である。分光装置7は、リング型の光共振器30を含んで構成される。この光共振器30は、第1原子移動経路11、第2原子移動経路および第3原子移動経路を光路として含む。
【0128】
以下、分光装置7について、分光装置1および分光装置5との相違点に焦点を当てて説明する。分光装置1および分光装置5と重複する事項については、適宜説明を省略する。
【0129】
分光装置7は、光共振器30と、光格子レーザー光源141と、光格子レーザー光源142と、クロックレーザー光源20と、を備える。
【0130】
光共振器30は、第1原子移動経路11と、第2原子移動経路12と、第3原子移動経路13と、ミラーM5と、ミラーM6と、ミラーM7と、ミラーM8と、ミラーM9と、を備える。このうち、ミラーM5は光格子レーザーL41、L42を光共振器に結合する入射カプラーであり、ミラーM6はクロックレーザーを透過するダイクロイックミラーである。
【0131】
第1原子移動経路11と、第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差している。第2原子移動経路12と、第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差している。
【0132】
光格子レーザー光源141は、光共振器30に、光格子レーザーL41を供給する。光格子レーザー光源142は、光共振器30に、光格子レーザーL42を供給する。クロックレーザー光源20は、光共振器30に、クロックレーザーL20を供給する。
【0133】
ミラーM5は、第1原子移動経路11の一方の端部に設置される。ミラーM6は、第2原子移動経路12の一方の端部に設置される。ミラーM7は、第3原子移動経路13の一方の端部に設置される。ミラーM8は、第2原子移動経路12の、ミラーM6と反対側の端部に設置される。ミラーM9は、第1原子移動経路11の、ミラーM5と反対側の端部に(同時に、第3原子移動経路13の、ミラーM7と反対側の端部に)設置される。ミラーM5とミラーM6とは、光路を介して光学的に結ばれる。ミラーM7とミラーM8とは、光路を介して光学的に結ばれる。
【0134】
光格子レーザー光源141は、ミラーM5を透過して、第1原子移動経路11に光格子レーザーL41を入射する。光格子レーザー光源142は、ミラーM5を透過して、ミラーM5とミラーM6とを結ぶ光路に光格子レーザーL42を入射する。クロックレーザー光源20は、ミラーM6を透過して、第2原子移動経路12にクロックレーザーL20を入射する。
【0135】
光格子レーザー光源141から供給された光格子レーザーL41は、光共振器30内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源142から供給された光格子レーザーL42は、光共振器30内を時計回りに伝達してリサイクリングし、光共振器内のパワーを増強される。入射カプラーM5の反射率で決まる光共振器の線幅Γが狭いほど、パワー増強には有利であるが、2台の移動光格子レーザーの周波数差Δに比べて大きいこと(Γ>Δ)が望ましい。
【0136】
光格子レーザーL41および光格子レーザーL42は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、光共振器30内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、光共振器30に沿って一定速度vで運ぶ(図4の例では、時計回り)。
【0137】
第1原子移動経路11上の原子供給部10で供給された原子は、第1原子移動経路11を紙面の左から右に向かって移動する。原子は、第1交差位置P1に到達すると、第2原子移動経路12に乗り移る。
【0138】
その後原子は、第2原子移動経路12を紙面の上から下に向かって移動する。原子は、第2交差位置P2に到達すると、第3原子移動経路13に乗り移る。
【0139】
第2原子移動経路12の、第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に分光領域SPが定義される。
【0140】
光共振器30に沿って運動する原子は、第3原子移動経路13上の任意の測定位置(例えば、図4の測定位置P3)で、検出器90を用いて測定することができる。
【0141】
この実施の形態によれば、第1交差位置P1を始点、第2交差位置P2を終点とする分光領域SPで縦励起ラビ分光を行うことができる。また、分光領域SPで縦励起ラムゼー分光を行ってもよい。
【0142】
[第8の実施の形態]
図9は、第8の実施の形態に係る原子の分光装置8の模式図である。分光装置8は、図8の分光装置7に対して、クロックレーザー光源201と、第2磁気シールドMS2と、磁場発生器BGと、ポンプ領域P6と、を追加的に備える。分光装置6のその他の構成は、分光装置7の構成と共通である。
【0143】
第2原子移動経路12および第3原子移動経路13の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。同様に、磁場Bを遮蔽するための第2磁気シールドMS2が、第3原子移動経路13の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0144】
クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13に、クロックレーザーL201を供給するように配置される。具体的には、クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13内に、第3原子移動経路13と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL201を供給する。すなわちクロックレーザーL201の伝播方向は、第3原子移動経路13と平行または反平行である。一例として、図7では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0145】
ポンプ領域P6は、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の後方に配置される。第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、ポンプ領域P6で基底状態に光ポンプされる。
【0146】
第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1分光領域SP1となり、第3原子移動経路13の第2磁気シールドMS2の内部は第2分光領域SP2となる。それ以外の領域は非分光領域となる。
【0147】
第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の第1分光領域SP1より後の任意の測定位置(例えば、図9の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。同様に、第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の第2分光領域SP2より後の任意の測定位置(例えば、図9の測定位置P5)で、検出器92を用いて射影測定することができる。これらの射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0148】
第1分光領域SP1に対するクロックレーザーL20のラビ周波数をΩ1、第2分光領域SP2に対するクロックレーザーL201のラビ周波数をΩ2とする。このとき、第1分光領域SP1、第2分光領域SP2でのラビ分光時間は、それぞれ、T1=π/Ω1、T2=π/Ω2と表される。このとき、例えば、Ω1<Ω2と設定することで、T1>T2を実現すれば、SP1では狭帯域の高精度周波数制御に必要な信号を取得し、SP2では高速周波数制御に必要な信号を取得することができる。
【0149】
本実施の形態によれば、分光装置内に複数の分光領域を定義することができる。これにより、分光装置内に複数の測定位置を設けることができる。さらに複数の強度の異なるクロックレーザーを用いることにより、異なる相互作用時間(すなわち、ラビ分光時間T1、T2)を設定することができる。これにより、「広帯域制御信号」と「狭帯域かつ高精度制御信号」とをそれぞれ取得することができる。
【0150】
[第9の実施の形態]
図10は、第9の実施の形態に係る原子の分光装置9の模式図である。分光装置9は、四角型の第1光共振器40と、三角型の第2光共振器50と、を含んで構成される。
【0151】
以下、分光装置4について、分光装置1、5、7との相違点に焦点を当てて説明する。分光装置1、5、7と重複する事項については、適宜説明を省略する。
【0152】
分光装置9は、第1光共振器40と、第2光共振器50と、光格子レーザー光源151と、光格子レーザー光源152と、光格子レーザー光源161と、光格子レーザー光源162と、クロックレーザー光源20と、を備える。
【0153】
第1光共振器40は、第1原子移動経路11と、第3原子移動経路13と、第4光共振器経路14と、第5光共振器経路15と、ミラーM10と、ミラーM11と、ミラーM12と、ミラーM13と、を含んで構成される。このうち、ミラーM10は光格子レーザーL51、L52を光共振器に結合する入射カプラーである。
【0154】
ミラーM10は、第1原子移動経路11と第4光共振器経路14との間に設置される。ミラーM11は、第4光共振器経路14と第3原子移動経路13との間に設置される。ミラーM12は、第3原子移動経路13と第5光共振器経路15との間に設置される。ミラーM13は、第5光共振器経路15と第1原子移動経路11との間に設置される。
【0155】
第2光共振器50は、第2原子移動経路12と、第6光共振器経路16と、第7光共振器経路17と、ミラーM14と、ミラーM15と、ミラーM16と、を含んで構成される。このうち、ミラーM14はクロックレーザーL20を透過させるダイクロイックミラーおよびであり、ミラーM15は光格子レーザーL61、L62を光共振器に結合する入射カプラーである。ミラーM16は、凹面ミラーである。
【0156】
第1原子移動経路11と、第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差している。第2原子移動経路12と、第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差している。
【0157】
ミラーM14は、第2原子移動経路12と第6光共振器経路16との間に設置される。ミラーM15は、第2原子移動経路12と第7光共振器経路17との間に設置される。ミラーM16は、第6光共振器経路16と第7光共振器経路17との間に設置される。
【0158】
光格子レーザー光源151は、第1光共振器40に、光格子レーザーL51を供給する。光格子レーザー光源152は、第1光共振器40に、光格子レーザーL52を供給する。光格子レーザー光源161は、第2光共振器50に、光格子レーザーL61を供給する。光格子レーザー光源162は、第2光共振器50に、光格子レーザーL62を供給する。クロックレーザー光源20は、第2光共振器50に、クロックレーザーL20を供給する。
【0159】
光格子レーザー光源151は、ミラーM10を透過して、第1原子移動経路11に光格子レーザーL51を入射する。光格子レーザー光源152は、ミラーM10を透過して、第4光共振器経路14に光格子レーザーL52を入射する。
【0160】
光格子レーザー光源151から供給された光格子レーザーL51は、第1光共振器40内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源152から供給された光格子レーザーL52は、第1光共振器40内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0161】
光格子レーザー光源161は、ミラーM15を透過して、第7光共振器経路17に光格子レーザーL61を入射する。光格子レーザー光源162は、ミラーM15を透過して、第2原子移動経路12に光格子レーザーL62を入射する。
【0162】
光格子レーザー光源161から供給された光格子レーザーL61は、第2光共振器50内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源162から供給された光格子レーザーL62は、第2光共振器50内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0163】
クロックレーザー光源20は、ミラーM14を透過して、第2原子移動経路12にクロックレーザーL20を入射する。
【0164】
光格子レーザーL51および光格子レーザーL52は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第1光共振器40内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第1光共振器40に沿って一定速度vで運ぶ(図10の例では、時計回り)。
【0165】
光格子レーザーL61および光格子レーザーL62は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第2光共振器50内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第2光共振器50に沿って一定速度vで運ぶ(図10の例では、時計回り)。
【0166】
第2光共振器50の第2原子移動経路12の、第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に分光領域SPが定義される。
【0167】
第1原子移動経路11上の原子供給部10で供給された原子は、第1光共振器40の第1原子移動経路11を紙面の左から右に向かって移動する。原子は、第1交差位置P1に到達すると、第2光共振器50の第2原子移動経路12に乗り移る。
【0168】
その後原子は、第2原子移動経路12を紙面の上から下に向かって移動する。原子は、第2交差位置P2に到達すると、第1光共振器40の第3原子移動経路13に乗り移る。このように原子は、第1光共振器40および第2光共振器50をまたいで運動する。
【0169】
原子は、第3原子移動経路13上の任意の測定位置(例えば、図10の測定位置P3)で、検出器90を用いて射影測定することができる。この射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0170】
この実施の形態によれば、図8の分光装置7と同様に、第1交差位置P1を始点、第2交差位置P2を終点とする分光領域SPで縦励起ラビ分光を行うことができる。また、分光領域SPで縦励起ラムゼー分光を行ってもよい。さらにこの実施の形態では、原子供給部10と、分光領域SPとが、別々の光共振器を用いて構成されている。このため、例えば第1光共振器40のミラーで発生する散乱光が、第2光共振器50の分光領域に侵入することを防ぐことができる。
【0171】
さらにこのように二重の光共振器を用いることにより、原子供給に好適な深いラティス(ポテンシャル深さ100μK)と、分光に好適な浅いラティス(ポテンシャル深さ10μK)を使い分けることができる。
【0172】
深いラティスから浅いラティスへの効率的な移行のために、第1交差位置P1、第2交差位置P2では、時計遷移と電子状態を共有しない遷移を用いたレーザー冷却を行ってもよい。
【0173】
なお図10には第1光共振器40と第2光共振器50とが同一平面上にある例が示されているが、これに限られず、これら2つの光共振器は同一平面上になくてもよい。例えば、第1光共振器40のなす面と、第2光共振器50のなす面とが垂直となるように構成することにより、装置全体をより小型化できる。第1交差位置P1、第2交差位置P2での原子移行効率を高めるために、第1光共振器40と第2光共振器50の光格子を形成する電場の向きを合わせる偏光配置とするのが望ましい。
【0174】
[第10の実施の形態]
図11は、第10の実施の形態に係る原子の分光装置210の模式図である。分光装置210は、図10の分光装置9に対して、クロックレーザー光源201と、第2磁気シールドMS2と、磁場発生器BGと、ポンプ領域P6と、を追加的に備える。分光装置6のその他の構成は、分光装置9の構成と共通である。
【0175】
第2原子移動経路12および第3原子移動経路13の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。同様に、磁場Bを遮蔽するための第2磁気シールドMS2が、第3原子移動経路13の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0176】
クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13に、クロックレーザーL201を供給するように配置される。具体的には、クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13内に、第3原子移動経路13と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL201を供給する。すなわちクロックレーザーL201の伝播方向は、第3原子移動経路13と平行または反平行である。一例として、図11では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0177】
ポンプ領域P6は、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の後方に配置される。第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、ポンプ領域P6で基底状態に光ポンプされる。
【0178】
第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1分光領域SP1となり、第3原子移動経路13の第2磁気シールドMS2の内部は第2分光領域SP2となる。それ以外の領域は非分光領域となる。
【0179】
第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の第1分光領域SP1より後の任意の測定位置(例えば、図11の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。同様に、第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の第2分光領域SP2より後の任意の測定位置(例えば、図11の測定位置P5)で、検出器92を用いて射影測定することができる。これらの射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0180】
第1分光領域SP1に対するクロックレーザーL20のラビ周波数をΩ1、第2分光領域SP2に対するクロックレーザーL201のラビ周波数をΩ2とする。このとき、第1分光領域SP1、第2分光領域SP2でのラビ分光時間は、それぞれ、T1=π/Ω1、T2=π/Ω2と表される。このとき、例えば、Ω1<Ω2と設定することで、T1>T2を実現すれば、SP1では狭帯域の高精度周波数制御に必要な信号を取得し、SP2では高速周波数制御に必要な信号を取得することができる。
【0181】
本実施の形態によれば、分光装置内に複数の分光領域を定義することができる。これにより、分光装置内に複数の測定位置を設けることができる。さらに複数の強度の異なるクロックレーザーを用いることにより、異なる相互作用時間(すなわち、ラビ分光時間T1、T2)を設定することができる。これにより、「広帯域制御信号」と「狭帯域かつ高精度制御信号」とをそれぞれ取得することができる。
【0182】
[第11の実施の形態]
図12は、第11の実施の形態に係る原子の分光装置211の模式図である。分光装置211は、三角型の第3光共振器61と、三角型の第4光共振器62と、を含んで構成される。
【0183】
以下、分光装置211について、分光装置1、5、7、9との相違点に焦点を当てて説明する。分光装置1~4と重複する事項については、適宜説明を省略する。
【0184】
分光装置211は、第3光共振器61と、第4光共振器62と、光格子レーザー光源171と、光格子レーザー光源172と、光格子レーザー光源181と、光格子レーザー光源182と、クロックレーザー光源20と、を備える。
【0185】
第3光共振器61は、第1原子移動経路11と、第3原子移動経路13と、第8光共振器経路18と、ミラーM17と、ミラーM18と、ミラーM19と、を含んで構成される。このうち、ミラーM17は光格子レーザーL71、L72を光共振器に結合する入射カプラーである。ミラーM19は、凹面ミラーである。
【0186】
ミラーM17は、第1原子移動経路11と第8光共振器経路18との間に設置される。ミラーM18は、第8光共振器経路18と第3原子移動経路13との間に設置される。ミラーM19は、第3原子移動経路13と第1原子移動経路11との間に設置される。
【0187】
第4光共振器62は、第2原子移動経路12と、第9光共振器経路19と、第10光共振器経路191と、ミラーM20と、ミラーM21と、ミラーM22と、を含んで構成される。このうち、ミラーM20は光格子レーザーL81、L82を光共振器に結合する入射カプラーである。ミラーM21は、クロックレーザーL20を透過させるダイクロイックミラーである。ミラーM22は、凹面ミラーである。
【0188】
第1原子移動経路11と、第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差している。第2原子移動経路12と、第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差している。
【0189】
ミラーM20は、第2原子移動経路12と第9光共振器経路19との間に設置される。ミラーM21は、第2原子移動経路12と第10光共振器経路191との間に設置される。ミラーM22は、第9光共振器経路19と第10光共振器経路191との間に設置される。
【0190】
光格子レーザー光源171は、光格子レーザーL71を供給する。光格子レーザー光源172は、光格子レーザーL72を供給する。光格子レーザー光源181は、光格子レーザーL81を供給する。光格子レーザー光源182は、光格子レーザーL82を供給する。クロックレーザー光源20は、クロックレーザーL20を供給する。
【0191】
光格子レーザー光源171は、ミラーM17を透過して、第1原子移動経路11に光格子レーザーL71を入射する。光格子レーザー光源172は、ミラーM17を透過して、第8光共振器経路18に光格子レーザーL51を入射する。
【0192】
光格子レーザー光源171から供給された光格子レーザーL71は、第3光共振器61内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源172から供給された光格子レーザーL72は、第3光共振器61内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0193】
光格子レーザー光源181は、ミラーM20を透過して、第2原子移動経路12に光格子レーザーL81を入射する。光格子レーザー光源182は、ミラーM20を透過して、第9光共振器経路19に光格子レーザーL82を入射する。
【0194】
光格子レーザー光源181から供給された光格子レーザーL81は、第4光共振器62内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源182から供給された光格子レーザーL82は、第4光共振器62内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0195】
クロックレーザー光源20は、ミラーM21を透過して、第2原子移動経路12にクロックレーザーL20を入射する。
【0196】
光格子レーザーL71および光格子レーザーL72は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第3光共振器61内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第3光共振器61に沿って一定速度vで運ぶ(図12の例では、時計回り)。
【0197】
光格子レーザーL81および光格子レーザーL82は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第4光共振器62内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第4光共振器62に沿って一定速度vで運ぶ(図12の例では、反時計回り)。
【0198】
第4光共振器62の第2原子移動経路12の、第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に分光領域SPが定義される。
【0199】
第1原子移動経路11上の原子供給部10で供給された原子は、第3光共振器61の第1原子移動経路11を紙面の左下から右に上向かって移動する。原子は、第1交差位置P1に到達すると、第4光共振器62の第2原子移動経路12に乗り移る。
【0200】
その後原子は、第2原子移動経路12を紙面の上から下に向かって移動する。原子は、第2交差位置P2に到達すると、第3光共振器61の第3原子移動経路13に乗り移る。このように原子は、第3光共振器61および第4光共振器62をまたいで運動する。
【0201】
原子は、第3原子移動経路13上の任意の測定位置(例えば、図12の測定位置P3)で、検出器90を用いて射影測定することができる。この射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0202】
この実施の形態によれば、磁場を与えることなく縦励起ラムゼー分光が可能な光共振器構造を実現することができる。さらにこの実施の形態では、原子供給部10と、分光領域SPとが、別々の光共振器を用いて構成されている。このため、例えば第3光共振器61のミラーで発生する散乱光が、第4光共振器62の分光領域に侵入することを防ぐことができる。
【0203】
さらにこのように二重の光共振器を用いることにより、原子供給に好適な深いラティス(100μK)と、分光に好適な浅いラティス(50Er、10μK)を使い分けることができる。ここでErはラティス光子の反跳エネルギーである。
【0204】
さらに、例えば、光格子レーザーL81および光格子レーザーL72の振動数をν1、光格子レーザーL71の振動数をν2=ν1-ΔA、光格子レーザーL82の振動数をν3=ν1-ΔCとしたとき、ΔAとΔCとを独立にチューニングすることで、原子を分光領域に早く移動させつつ、分光領域では原子を長時間測定することが可能となる。このとき、それぞれの場合の原子の速度はvA=ΔA・c/(2f)、vC=ΔC・c/(2f)、ただし、cは光速、fは光格子レーザーの周波数である。
【0205】
なお図12には第3光共振器61と第4光共振器62とが同一平面上にある例が示されているが、これに限られず、これら2つの光共振器は同一平面上になくてもよい。例えば、第3光共振器61のなす面と、第4光共振器62のなす面とが垂直となるように構成することにより、装置全体をより小型化できる。このとき、2つの共振器の電場の方向が合うように偏光を設定することが望ましい。
【0206】
[第12の実施の形態]
図13は、第12の実施の形態に係る原子の分光装置212の模式図である。分光装置212は、図12の分光装置211に対して、クロックレーザー光源201と、第2磁気シールドMS2と、磁場発生器BGと、ポンプ領域P6と、を追加的に備える。分光装置6のその他の構成は、分光装置9の構成と共通である。
【0207】
第2原子移動経路12および第3原子移動経路13の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。同様に、磁場Bを遮蔽するための第2磁気シールドMS2が、第3原子移動経路13の分光を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0208】
クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13に、クロックレーザーL201を供給するように配置される。具体的には、クロックレーザー光源201は、第3原子移動経路13内に、第3原子移動経路13と同軸上を、当該原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーL201を供給する。すなわちクロックレーザーL201の伝播方向は、第3原子移動経路13と平行または反平行である。一例として、図13では、原子の運動と同じ向きに伝播するクロックレーザーを示している。
【0209】
ポンプ領域P6は、第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の後方に配置される。第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、ポンプ領域P6で基底状態に光ポンプされる。
【0210】
第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1分光領域SP1となり、第3原子移動経路13の第2磁気シールドMS2の内部は第2分光領域SP2となる。それ以外の領域は非分光領域となる。
【0211】
第2原子移動経路12に沿って移動する原子の電子状態は、第2原子移動経路12上の第1分光領域SP1より後の任意の測定位置(例えば、図13の測定位置P4)で、検出器91を用いて射影測定することができる。同様に、第3原子移動経路13に沿って移動する原子の電子状態は、第3原子移動経路13上の第2分光領域SP2より後の任意の測定位置(例えば、図13の測定位置P5)で、検出器92を用いて射影測定することができる。これらの射影測定には、電子シェルビング法による蛍光観測、または、光共振器を用いた分散型の測定を用いることができる。
【0212】
第1分光領域SP1に対するクロックレーザーL20のラビ周波数をΩ1、第2分光領域SP2に対するクロックレーザーL201のラビ周波数をΩ2とする。このとき、第1分光領域SP1、第2分光領域SP2でのラビ分光時間は、それぞれ、T1=π/Ω1、T2=π/Ω2と表される。このとき、例えば、Ω1<Ω2と設定することで、T1>T2を実現すれば、SP1では狭帯域の高精度周波数制御に必要な信号を取得し、SP2では高速周波数制御に必要な信号を取得することができる。
【0213】
本実施の形態によれば、分光装置内に複数の分光領域を定義することができる。これにより、分光装置内に複数の測定位置を設けることができる。さらに複数の強度の異なるクロックレーザーを用いることにより、異なる相互作用時間(すなわち、ラビ分光時間T1、T2)を設定することができる。これにより、「広帯域制御信号」と「狭帯域かつ高精度制御信号」とをそれぞれ取得することができる。
【0214】
なお、図10~13の分光装置の実施の形態では、三角型光共振器および四角型光共振器を用いたが、これに限られない。すなわち実施の形態に用いる光共振器は、リング型の光共振器(3枚以上のミラーで構成された進行波電場が立つ光共振器)であれば形状は任意であってよい。
【0215】
[第13の実施の形態]
図14は、第13の実施の形態に係る原子の分光装置213の模式図である。分光装置213は、図12の分光装置211に、新たな構成を追加したものである。
【0216】
以下、分光装置213について、分光装置211に対して追加した構成に焦点を当てて説明する。分光装置5と重複する事項については、適宜説明を省略する。
【0217】
図14の分光装置213は、原子供給部10と第2原子移動経路12との間に遮光シールド80を備える。これにより、冷却光の散乱が分光領域SPに侵入するのを防ぎ、光シフトによる摂動を排除することができる。
【0218】
ある実施の形態では、分光装置6は、分光領域SPを囲む領域にSPシールドSPSを備える。SPシールドの内壁には、光を吸収するコーティングが施されてもよい。これにより、分光領域に侵入した冷却光などの迷光を吸収し、光シフトによる摂動を排除することができる。
【0219】
SPシールドSPSは、黒体輻射シールドを兼ねていてもよい。これにより、黒体輻射による摂動を排除することができる。
【0220】
SPシールドSPSは、磁気シールドを兼ねていてもよい。これにより、磁場の影響を防ぎ、zゼーマン効果による摂動を排除することができる。
【0221】
[第14の実施の形態]
図15は、第7の実施の形態に係る原子の連続発振超放射レーザー装置214の模式図である。連続発振超放射レーザー装置214は、図12の分光装置211と同様の形態で構成される。すなわち、連続発振超放射レーザー装置214は、三角型の第3光共振器61と、三角型の第4光共振器62と、を含んで構成される。
【0222】
超放射は、原子集団内の原子が自発的に位相を揃えて光を放射する現象で、1954年にディッケが理論的に提唱して以来、量子光学や量子情報などの分野で研究が進められている(例えば、非特許文献5参照)。超放射では、放射光の周波数が原子集団自身によって決定され、また放射光のピーク強度が原子数の2乗に比例する。このため、超放射レーザーは、安定した周波数・強度の光が放射できるレーザーとして実現が期待される。しかしながら超放射レーザーの連続発振は、従来実現が困難であった。
【0223】
連続発振超放射レーザー装置214は、第3光共振器61と、第4光共振器62と、光格子レーザー光源171と、光格子レーザー光源172と、光格子レーザー光源181と、光格子レーザー光源182と、を備える。
【0224】
第3光共振器61は、第1原子移動経路11と、第3原子移動経路13と、第8光共振器経路18と、ミラーM17と、ミラーM18と、ミラーM19と、を含んで構成される。
このうち、ミラーM17は光格子レーザーL71、L72を光共振器に結合する入射カプラーである。ミラーM19は、凹面ミラーである。
【0225】
ミラーM17は、第1原子移動経路11と第8光共振器経路18との間に設置される。ミラーM18は、第8光共振器経路18と第3原子移動経路13との間に設置される。ミラーM19は、第3原子移動経路13と第1原子移動経路11との間に設置される。
【0226】
第4光共振器62は、第2原子移動経路12と、第9光共振器経路19と、第10光共振器経路191と、ミラーM20と、ミラーM21と、ミラーM22と、を含んで構成される。このうち、ミラーM20は光格子レーザーL81、L82を光共振器に結合する入射カプラーである。ミラーM22は、凹面ミラーである。ミラーM21は超放射レーザー光を取り出す、出射カプラーである。
【0227】
第1原子移動経路11と、第2原子移動経路12とは、第1交差位置P1で有限の角度をなして交差している。第2原子移動経路12と、第3原子移動経路13とは、第2交差位置P2で有限の角度をなして交差している。
【0228】
ミラーM20は、第2原子移動経路12と第9光共振器経路19との間に設置される。ミラーM21は、第2原子移動経路12と第10光共振器経路191との間に設置される。ミラーM22は、第9光共振器経路19と第10光共振器経路191との間に設置される。
【0229】
光格子レーザー光源171は、光格子レーザーL71を供給する。光格子レーザー光源172は、光格子レーザーL72を供給する。光格子レーザー光源181は、光格子レーザーL81を供給する。光格子レーザー光源182は、光格子レーザーL82を供給する。
【0230】
光格子レーザー光源171は、ミラーM17を透過して、第1原子移動経路11に光格子レーザーL71を入射する。光格子レーザー光源172は、ミラーM17を透過して、第8光共振器経路18に光格子レーザーL51を入射する。
【0231】
光格子レーザー光源171から供給された光格子レーザーL71は、第3光共振器61内を反時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源172から供給された光格子レーザーL72は、第3光共振器61内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0232】
光格子レーザー光源181は、ミラーM20を透過して、第2原子移動経路12に光格子レーザーL81を入射する。光格子レーザー光源182は、ミラーM20を透過して、第9光共振器経路19に光格子レーザーL82を入射する。
【0233】
光格子レーザー光源181から供給された光格子レーザーL81は、第4光共振器62内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。光格子レーザー光源182から供給された光格子レーザーL82は、第4光共振器62内を時計回りに伝達してリサイクリングされる。
【0234】
光格子レーザーL71および光格子レーザーL72は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第3光共振器61内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第3光共振器61に沿って一定速度vで運ぶ(図15の例では、時計回り)。
【0235】
光格子レーザーL81および光格子レーザーL82は、それぞれの周波数が互いにシフトされている。その結果、形成された光格子は、第4光共振器62内を移動する移動光格子となっている。この移動光格子は、原子を、第4光共振器62に沿って一定速度vで運ぶ(図15の例では、反時計回り)。
【0236】
第4光共振器62の第2原子移動経路12の、第1交差位置P1と第2交差位置P2との間に時計遷移空間TRが定義される。
【0237】
原子は時計遷移空間TRにおいて時計遷移超放射を起こし、第4光共振器62によって超放射レーザーの連続発振が得られる。この超放射レーザーは、ミラーM21を透過して出力することができる。
【0238】
第1原子移動経路11上の原子供給部10で供給された原子は、第3光共振器61の第1原子移動経路11を紙面の左下から右上に向かって移動する。光ポンピングの手法によって、原子を時計遷移の励起状態に準備する。この励起状態原子は、第1交差位置P1に到達すると、第4光共振器62の第2原子移動経路12に乗り移る。
【0239】
その後原子は、第2原子移動経路12を紙面の上から下に向かって移動する。原子は、第2交差位置P2に到達するまでに、超放射により基底状態に遷移している。この基底状態原子は、第3光共振器61の第3原子移動経路13に乗り移る。このように原子は、第3光共振器61および第4光共振器62をまたいで運動する。
【0240】
使用済みの基底状態原子は、第3原子移動経路13上の任意の廃棄位置(例えば、図15の廃棄位置P10)で廃棄することができる。
【0241】
原子の時計遷移空間TRの移動時間t_TRに比べて、超放射緩和時間が短い超放射のときには、時計遷移空間TRの原子に対して、光ポンピングによる励起を行ってもよい。
【0242】
本実施の形態によれば、連続的に励起原子の注入と基底状態原子の取り出しを行い、連続的な超放射レーザー発振を実現することができる。
【0243】
[第15の実施の形態]
図16は、第15の実施の形態に係る連続発振超放射レーザー装置215の模式図である。連続発振超放射レーザー装置215は、図15の連続発振超放射レーザー装置214に対して、第1磁気シールドMS1と、磁場発生器BGと、を追加的に備える。連続発振超放射レーザー装置215のその他の構成は、連続発振超放射レーザー装置214の構成と共通である。
【0244】
第2原子移動経路12の周辺には、磁場発生器BGによって生成された磁場Bが存在する。磁場Bを遮蔽するための第1磁気シールドMS1が、第2原子移動経路12の分時計遷移を目的とする領域を取り囲んで設置される。
【0245】
第2原子移動経路12の第1磁気シールドMS1の内部は第1時計遷移領域TR1となる。それ以外の領域では時計遷移は発生しない。
【0246】
原子は第1時計遷移空間TR1において時計遷移で超放射を起こし、第4光共振器62によって第1の超放射レーザーの連続発振が得られる。この超放射レーザーは、ミラーM21を透過して出力することができる。
【0247】
第1原子移動経路11上の原子供給部10で供給された原子は、第3光共振器61の第1原子移動経路11を紙面の左下から右上に向かって移動する。光ポンピングの手法によって、原子を原子は、時計遷移の励起状態に準備する。この励起状態原子は、第1交差位置P1に到達すると、第4光共振器62の第2原子移動経路12に乗り移る。
【0248】
第1磁気シールドMS1を出た励起状態にある原子は、超放射により基底状態に遷移している。この基底状態の原子は、第2交差位置P2で第3光共振器61の第3原子移動経路13に乗り移る。このように原子は、第3光共振器61および第4光共振器62をまたいで運動する。
【0249】
原子の時計遷移空間TRの移動時間t_TRに比べて、超放射緩和時間が短い超放射のときには、時計遷移空間TRの原子に対して、光ポンピングによる励起を行ってもよい。
【0250】
その後原子は、第3原子移動経路13を紙面の右下から左上に向かって移動する。
【0251】
使用済みの基底状態原子は、第3原子移動経路13上の任意の廃棄位置(例えば、図16の廃棄位置P10)で廃棄することができる。
【0252】
なお図15および16には第3光共振器61と第4光共振器62とが同一平面上にある例が示されているが、これに限られず、これら2つの光共振器は同一平面上になくてもよい。例えば、第3光共振器61のなす面と、第4光共振器62のなす面とが垂直となるように構成することにより、装置全体をより小型化できる。
【0253】
[第16の実施の形態]
図17は、第16の実施の形態に係る分光方法のフローチャートである。この分光方法は、前述の実施の形態の分光装置を用いる。すなわち当該分光装置は、原子供給部を備えた第1原子移動経路と、第1交差位置で前記第1原子移動経路と有限の角度をなして交差する第2原子移動経路と、第2交差位置で前記第2原子移動経路と有限の角度をなして交差する第3原子移動経路と、第2原子移動経路にクロックレーザーを供給するクロックレーザー光源と、を備える。本実施の形態係る分光方法は、原子供給部を用いて、第1原子移動経路を一定速度で移動する原子を供給するステップS1と、クロックレーザー光源を用いて、第2原子移動経路内に、当該第2原子移動経路と同軸上を原子の運動と逆向きまたは同じ向きに伝播するクロックレーザーを供給するステップS2と、第2原子移動経路上の第1交差位置と第2交差位置との間に、クロックレーザーが原子に時計遷移の励起を生じさせる分光領域を形成するステップS3と、を含む。
【0254】
本実施の形態によれば、第1交差位置P1を始点、第2交差位置P2を終点とする分光領域SPを定義し、縦励起ラビ分光を行うことができる。また、分光領域SPで縦励起ラムゼー分光を行ってもよい。
【0255】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0256】
例えば、上記の実施の形態の発展形として、多重の移動光格子で原子の運動を分割、合波することにより、原子のリング共振器、原子干渉計、原子ジャイロスコープ、制御された衝突を利用して量子コンピュータなどを構成することが考えられる。
【0257】
上述した各実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる各実施の形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0258】
実施の形態および変形例を抽象化した技術的思想を理解するにあたり、その技術的思想は実施の形態及び変形例の内容に限定的に解釈されるべきではない。前述した実施の形態及び変形例は、いずれも具体例を示したものにすぎず、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施の形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。
【符号の説明】
【0259】
1・・分光装置。
2・・分光装置。
3・・分光装置。
4・・分光装置。
5・・分光装置。
6・・分光装置。
7・・分光装置。
8・・分光装置。
9・・分光装置。
10・・原子供給部。
11・・第1原子移動経路。
12・・第2原子移動経路。
13・・第3原子移動経路。
14・・第4光共振器経路。
15・・第5光共振器経路。
16・・第6光共振器経路。
17・・第7光共振器経路。
18・・第8光共振器経路。
19・・第9光共振器経路。
20・・クロックレーザー光源。
30・・光共振器。
40・・第1光共振器。
50・・第2光共振器。
61・・第3光共振器。
62・・第4光共振器。
80・・遮光シールド。
90・・検出器。
91・・検出器。
92・・検出器。
111・・第1の第1原子移動経路用光格子レーザー光源。
112・・第2の第1原子移動経路用光格子レーザー光源。
121・・第1の第2原子移動経路用光格子レーザー光源。
122・・第2の第2原子移動経路用光格子レーザー光源。
131・・第1の第3原子移動経路用光格子レーザー光源。
132・・第2の第3原子移動経路用光格子レーザー光源。
141・・光格子レーザー光源。
142・・光格子レーザー光源。
151・・光格子レーザー光源。
152・・光格子レーザー光源。
161・・光格子レーザー光源。
162・・光格子レーザー光源。
171・・光格子レーザー光源。
172・・光格子レーザー光源。
181・・光格子レーザー光源。
182・・光格子レーザー光源。
191・・第10光共振器経路。
201・・クロックレーザー光源。
210・・分光装置。
211・・分光装置。
212・・分光装置。
213・・分光装置。
214・・連続発振超放射レーザー装置。
215・・連続発振超放射レーザー装置。
1000・・原子遷移周波数測定装置。
1001・・原子供給部。
1002a・・クロックレーザー。
1002b・・クロックレーザー。
1002c・・クロックレーザー。
1002d・・クロックレーザー。
9000・・検出器。
B・・磁場。
BG・・磁場発生器。
L11・・光格子レーザー。
L12・・光格子レーザー。
L20・・クロックレーザー。
L201・・クロックレーザー。
L21・・光格子レーザー。
L22・・光格子レーザー。
L31・・光格子レーザー。
L32・・光格子レーザー。
L41・・光格子レーザー。
L42・・光格子レーザー。
L51・・光格子レーザー。
L52・・光格子レーザー。
L61・・光格子レーザー。
L62・・光格子レーザー。
L71・・光格子レーザー。
L72・・光格子レーザー。
L81・・光格子レーザー。
L82・・光格子レーザー。
M1・・ミラー。
M2・・ミラー。
M3・・ミラー。
M4・・ミラー。
M5・・ミラー。
M6・・ミラー。
M7・・ミラー。
M8・・ミラー。
M9・・ミラー。
M10・・ミラー。
M11・・ミラー。
M12・・ミラー。
M13・・ミラー。
M14・・ミラー。
M15・・ミラー。
M16・・ミラー。
M17・・ミラー。
M18・・ミラー。
M19・・ミラー。
M20・・ミラー。
M21・・ミラー。
M22・・ミラー。
MS・・磁気シールド。
MS1・・第1磁気シールド。
MS2・・第2磁気シールド。
P1・・第1交差位置。
P2・・第2交差位置。
P3・・測定位置。
P4・・測定位置。
P5・・測定位置。
P6・・ポンプ領域。
P10・・原子廃棄位置。
SP・・分光領域。
SPS・・SPシールド。
SP1・・第1分光領域。
SP2・・第2分光領域。
S1・・原子を供給するステップ。
S2・・クロックレーザーを供給するステップ。
S1・・分光領域を形成するステップ。
TR・・時計遷移領域。
TR1・・第1時計遷移領域。
TR2・・第2時計遷移領域。
Tr1・・原子軌道。
Tr2・・原子軌道。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17