(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171643
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20241205BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241205BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20241205BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20241205BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241205BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241205BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16C43/04
C10M105/32
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088768
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
(72)【発明者】
【氏名】明渡 悠
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J117HA02
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701CA13
3J701EA03
3J701EA06
3J701EA63
3J701EA67
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA24
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104LA03
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、内輪10および外輪20と、転動体30と、シール部材50と、グリース60と、を備える。転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されている。シール部材50は、内輪10および外輪20のうち一方の軌道輪に装着されている。シール部材50は、内輪10と外輪20との間を軸方向の外側から覆う。グリース60は、基油および増ちょう剤を含む。グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。内輪10と外輪20との間に、流動可能なオイル70が塗布されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、
基油および増ちょう剤を含み、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、
を備え、
前記内輪と前記外輪との間に、流動可能なオイルが塗布されている、
転がり軸受。
【請求項2】
前記オイルは、前記基油と同種の油を含む、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記基油は、エステル油を含み、
前記オイルは、エステル油を含む、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記グリースに、添加剤が添加され、
前記オイルに、前記添加剤と同種の添加剤が添加されている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記オイルの粘度は、前記基油の粘度以下である、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記転動体を回転可能に保持する保持器をさらに備え、
前記グリースは、前記転動体および前記保持器に対して非接触とされている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項7】
回転可能に配置された回転体と、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記回転体と前記支持体との間に介在する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の転がり軸受と、
を備える、回転機器。
【請求項8】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、を組み立てる組立工程と、
前記内輪と前記外輪との間に、流動可能なオイルを供給する第1塗布工程と、
前記内輪と前記外輪との間に、基油および増ちょう剤を含むグリースを塗布する第2塗布工程と、
前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材を装着する装着工程と、を有し、
前記第1塗布工程は、前記装着工程に先だって行う、
転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受として一対の軌道輪(内輪および外輪)の間にグリースを保持するものがある。この種の転がり軸受においては、グリースの抵抗が回転抵抗を増大させる要因となる場合がある。ところで、転がり軸受においては、搭載される回転機器の省電力化を目的として回転抵抗の低減が望まれる。特にファンモータ等の各種モータで使用される小型の転がり軸受においては、回転抵抗の低減の要望が強い。
【0003】
転がり軸受の回転抵抗を低減するために、相対回転し合う部材の両方に接触しないようにグリースを配置することが有効である。そこで転がり軸受の固定輪(多くの場合で外輪)における軸方向の端部や、この端部側に配置されるシール部材にグリースを塗布し、転動体(玉)および転動体を保持する保持器に接触するグリースの量の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の転がり軸受では、グリースは、外輪の転動体に接触する軌道面を避けた内周面に付着し、かつ、内輪の外周面に接触しないように、外輪の内周面側に偏って円環状に充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転抵抗を低減するためにグリースの量を低減すると、グリース切れによって転がり軸受の寿命が低下する可能性がある。したがって、従来の転がり軸受にあっては、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立するという課題がある。
【0006】
本実施形態は、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の転がり軸受は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、基油および増ちょう剤を含み、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記内輪と前記外輪との間に、流動可能なオイルが塗布されている。
【0008】
この構成によれば、オイルによって、被塗布物における摩耗を抑制できる。そのため、転がり軸受の耐久性を高めることができる。オイルは流動性を有するため、転がり軸受の回転抵抗を抑えることができる。
【0009】
前記オイルは、前記基油と同種の油を含むことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、オイルとグリースとの親和性は高くなる。特に、グリースに含まれる基油と、オイルとの親和性が高い。そのため、グリースやグリースに含まれる基油は、オイルが付着した被塗布物の表面を流動しやすくなる。したがって、例えば、グリースが転動体から離れた位置にあった場合でも、転動体に対するグリースや基油の供給が可能となる。よって、転がり軸受の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0011】
前記基油は、エステル油を含み、前記オイルは、エステル油を含むことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、オイルは、金属からなる被塗布物の表面で流動しやすくなる。そのため、被塗布物にオイルが拡がって供給されやすくなる。よって、転がり軸受の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0013】
前記グリースに、添加剤が添加され、前記オイルに、前記添加剤と同種の添加剤が添加されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、グリースに対するオイルの親和性は高くなる。そのため、グリースやグリースに含まれる基油は、オイルが付着した被塗布物の表面を流動しやすくなる。したがって、例えば、グリースが転動体から離れた位置にあった場合でも、転動体に対するグリースや基油の供給が可能となる。よって、転がり軸受の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0015】
前記オイルの粘度は、前記基油の粘度以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、オイルの流動性を高めることができる。そのため、被塗布物にオイルが供給されやすくなる。よって、転がり軸受の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0017】
前記転がり軸受は、前記転動体を回転可能に保持する保持器をさらに備え、前記グリースは、前記転動体および前記保持器に対して非接触とされていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、グリースによる回転抵抗を抑えることができる。
【0019】
回転可能に配置された回転体と、前記回転体を回転可能に支持する支持体と、前記回転体と前記支持体との間に介在する、前記転がり軸受と、を備える、回転機器。
【0020】
この構成によれば、オイルによって、被塗布物における摩耗を抑制できる。そのため、転がり軸受の耐久性を高めることができる。オイルは流動性を有するため、転がり軸受の回転抵抗を抑えることができる。
【0021】
実施形態の転がり軸受の製造方法は、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、を組み立てる組立工程と、前記内輪と前記外輪との間に、流動可能なオイルを供給する第1塗布工程と、前記内輪と前記外輪との間に、基油および増ちょう剤を含むグリースを塗布する第2塗布工程と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材を装着する装着工程と、を有し、前記第1塗布工程は、前記装着工程に先だって行う。
【0022】
この製造方法によれば、目的とする被塗布物にオイルを確実に塗布することができる。この製造方法では、第1塗布工程において転がり軸受の内部にオイルを供給するため、転がり軸受の外面にオイルは付着しにくい。そのため、オイルの粘度が高い場合でも、転がり軸受の外面におけるべたつきは生じにくい。
【発明の効果】
【0023】
本実施形態によれば、耐久性の確保および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受、回転機器および転がり軸受の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る転がり軸受の製造方法を説明する転がり軸受の断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る転がり軸受の製造方法を説明する転がり軸受の断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る転がり軸受の製造方法を説明する転がり軸受の断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る転がり軸受の製造方法を説明する転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0026】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態について
図1から
図4を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。なお、
図2では、転がり軸受1が装着される回転機器2を仮想線で示している。
【0027】
図1および
図2に示すように、転がり軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、グリース60と、を備えた玉軸受である。転がり軸受1は、ファンモータ等の回転機器2に設けられている。回転機器2は、シャフト3(回転体)と、筐体4(支持体)と、を備える。シャフト3は、共通軸線Oを中心に回転可能に形成されている。筐体4は、固定的に設置されてシャフト3を回転可能に支持する。転がり軸受1は、シャフト3と筐体4との間に介在している。なお、以下では転がり軸受を単に軸受という場合がある。
【0028】
内輪10および外輪20は、それぞれの中心軸線が共通軸線Oに一致するように、互いに同軸に配置されている。本実施形態では、共通軸線Oの延びる方向を軸方向という。共通軸線Oに直交して共通軸線Oから放射状に延びる方向を径方向という。共通軸線O回りに周回する方向を周方向という。軸方向に平行、かつ互いに反対方向を指向する方向のうち一方を上方と定義し、他方を下方と定義する。
【0029】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、シャフト3に外挿されるとともに、シャフト3に固定される。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、筐体4の凹部(または貫通孔)に嵌入されるとともに、筐体4に固定される。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、外輪20に装着され、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。
【0030】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、外輪20は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。外輪20は、外輪本体21と、突出部22と、を有する。外輪本体21は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされている。突出部22は、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出するとともに周方向の全体にわたって延びる。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0031】
突出部22は、軸方向の外側を向く一対の端面22aと、一対の端面22aの内周縁同士を接続する内周面22bと、を備える。各端面22aは、径方向および周方向の双方向に平行とされている。内周面22bには、径方向の外側に向かって窪む外輪軌道面23が形成されている。外輪軌道面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視円弧状に形成されている。外輪軌道面23は、内周面22bの全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪軌道面23は、内周面22bのうち、軸方向の中央に形成されている。内周面22bのうち外輪軌道面23を除く部分は、一定の内径であって軸方向に沿って形成されている。
【0032】
外輪本体21は、突出部22の各端面22aの外周縁から外輪20の開口縁まで延びる一対の内周面21aを有する。各内周面21aにおける軸方向の内側に位置する部分は、軸方向の外側に位置する部分よりも径方向の外側に位置している。
【0033】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、内輪10は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪軌道面11が形成されている。内輪軌道面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視円弧状に形成されている。内輪軌道面11は、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪軌道面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に形成されている。内輪軌道面11は、外輪軌道面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の外周面のうち内輪軌道面11を除く部分は、一定の外径であって軸方向に沿って形成されている。
【0034】
外輪20の内周面22bのうち外輪軌道面23を除く部分の内径は、内輪10の外径より大きい。そのため、外輪20の内周面22bと内輪10の外周面とは離間している。内輪10と外輪20との間には環状の空間が形成されている。
【0035】
図2に示すように、複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。ただし、転動体30は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。複数の転動体30は、外輪軌道面23と内輪軌道面11との間に配置され、外輪軌道面23および内輪軌道面11によって転動可能に支持される。複数の転動体30は、保持器40によって周方向の間隔を保たれている。
【0036】
転動体30の表面の一部は、内輪10と外輪20との間の環状の空間に露出している。例えば、転動体30の表面のうち、外輪軌道面23および内輪軌道面11に収容されていない部分は、内輪10と外輪20との間の環状の空間に露出している。
【0037】
保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、共通軸線Oを中心として配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して下方に配置された環状部41と、環状部41から上方に突設されているとともに周方向に間隔をあけて設けられた複数の柱部42と、を備える。柱部42は、周方向に均等に配列されている。周方向に隣り合う一対の柱部42は、互いの間にボールポケットを形成している。ボールポケットは、保持器40を径方向に貫通するとともに、保持器40の上端面において上方に開口している。ボールポケットは、転動体30の数に対応して設けられ、転動体30を各別に転動可能に保持する。これにより保持器40は、転動体30を周方向に間隔をあけて均等配列させる。保持器40は、内輪10および外輪20に干渉しないように、内輪10および外輪20に対して隙間をあけて配置されている。本実施形態では、保持器40の全体は、外輪20の突出部22の一対の端面22aよりも軸方向の内側に位置している。
【0038】
図1および
図2に示すように、シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、共通軸線Oを中心として配置されている。シール部材50は、全周にわたって一様に形成されている。シール部材50は、外輪20に軸方向の外側から嵌入されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、環状の台座部51と、延出部52と、平面部53と、係止部54と、を有する。台座部51は、突出部22の端面22aに軸方向の外側から接触する。延出部52は、台座部51の内周縁から軸方向の外側に延びる。平面部53は、延出部52における軸方向の外側の端縁から内輪10に向かって径方向に沿って延びる。係止部54は、台座部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びる。
【0039】
図2に示すように、台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から重なっている。台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aと略平行に延びている。台座部51は、軸方向から見た平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出している。台座部51が突出部22の端面22aから径方向内側に突出した距離は、内輪10と外輪20との径方向の間隔の10%以下であり、5%以下であることが望ましい。延出部52は、台座部51の内周縁から軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。
【0040】
平面部53は、平面視で転動体30の中心を包含する。平面部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。平面部53のうち軸方向の内側を向く面は、周方向および径方向に延びる平坦面である。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定されている。
【0041】
グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。グリース60は、内輪10と外輪20との間の環状の空間のうち、転動体30に対する軸方向の片側のみに配置されている。本実施形態では、グリース60は、軸方向で転動体30を挟んで保持器40の環状部41とは反対側に配置されている。つまり、グリース60は、転動体30に対する上方に配置されている。グリース60は、円環状または円弧状に延び、共通軸線Oと同軸に配置されている。
【0042】
グリース60は、外輪接触部61(軌道輪接触部)と、シール部材接触部62と、を備える。外輪接触部61は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触している。シール部材接触部62は、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触している。外輪接触部61およびシール部材接触部62は、グリース60の全長にわたって周方向に延びている。
【0043】
外輪接触部61は、周方向の全体にわたって軸方向に幅を持つ。外輪接触部61は、突出部22の内周面22bのうち外輪軌道面23から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。外輪接触部61は、突出部22の内周面22bのうち上方の端面22aの内周縁から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。すなわち、外輪接触部61は、外輪20とシール部材50の台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。
【0044】
シール部材接触部62は、周方向の全体にわたって径方向に幅を持つ。シール部材接触部62は、シール部材50における延出部52と平面部53との接続部から径方向に間隔をあけた箇所において平面部53と接触している。
シール部材接触部62の面積は、グリース60と、延出部52および台座部51との接触面積よりも大きい。
【0045】
グリース60は、外輪接触部61からシール部材接触部62に向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。グリース60は、内面63および外面64を有する。
内面63は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁と、シール部材接触部62における径方向内側の端縁と、を接続している。内面63は、内輪10の外周面、および転動体30に対向している。内面63の上半部は、シール部材接触部62における径方向内側の端縁から軸方向の内側かつ径方向内側に延びている。内面63の下半部は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁から軸方向の外側かつ径方向内側に延び、上半部における下端縁に接続している。内面63の上半部および下半部の境界部は、グリース60における最も径方向の内側に位置する内周縁を形成している。内面63は、内輪10、転動体30および保持器40から離間している。これにより、グリース60は、内輪10、転動体30および保持器40に対して非接触とされている。グリース60が転動体30および保持器40に対して非接触であることにより、転がり軸受1の回転抵抗を抑えることができる。但し、この状態を理想として、転がり軸受1の回転抵抗を大きくしないようにしながら転動体30にグリースの一部が接触しても構わない。
【0046】
外面64は、外輪接触部61における軸方向外側の端縁と、シール部材接触部62における径方向外側の端縁と、を接続している。外面64は、外輪20の突出部22の内周面22b、およびシール部材50に対向している。外面64は、シール部材接触部62における径方向外側の端縁から軸方向の内側かつ径方向外側に延びて、外輪接触部61における軸方向外側の端縁に接続している。外面64は、シール部材50の台座部51および延出部52から離間している。これにより、グリース60は、シール部材50のうち平面部53よりも外輪20側に位置する台座部51および延出部52に対して非接触とされている。
【0047】
グリース60の少なくとも一部は、共通軸線Oに直交する断面積が軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い漸次増加するように形成されている。本実施形態では、グリース60は、内面63の上半部に対応する部分で、共通軸線Oに直交する断面積が軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い漸次増加するように形成されている。
【0048】
グリース60は、基油および増ちょう剤を含む。
基油としては、特に限定されないが、鉱油、合成油等が挙げられる。鉱油としては、基油として用いられる公知の鉱油を使用できる。鉱油としては、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、水素化系鉱油、溶剤精製鉱油、高精製鉱油等が挙げられる。鉱油としては、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種類の鉱油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0049】
合成油としては、基油として用いられる公知の合成油を使用できる。合成油としては、例えば、ポリαオレフィン(PAO)、ポリブテン等の脂肪族炭化水素油;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素油;ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル油;ポリフェニルエーテル等のエーテル油;ポリアルキレングリコール油;シリコーン油;フッ素油等が挙げられる。合成油としては、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種類の合成油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0050】
増ちょう剤は、グリース60を半固体状に保つ役割を果たす。増ちょう剤としては、転がり軸受用グリースに通常使用される公知の増ちょう剤を制限なく使用できる。増ちょう剤としては、例えば、ウレア化合物や、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、複合リチウムセッケン、複合カルシウムセッケン、シリカゲル、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト等が挙げられる。増ちょう剤としては、耐熱性に優れる点から、ウレア化合物が好ましい。増ちょう剤としては、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種類の増ちょう剤を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0051】
グリース60は、必要に応じて基油および増ちょう剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、金属不活性化剤等の添加剤が挙げられる。添加剤は、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、および金属不活性化剤のうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
極圧剤としては、例えば、有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェート等)、有機脂肪酸化合物(オレイン酸、ナフテン酸、コハク酸等)、有機リン化合物(トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等)、リン酸エステル等が挙げられる。極圧剤としては、亜鉛ジチオカーバメート、アンチモンジチオカーバメート等を使用してもよい。極圧剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。
【0053】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン等)等が挙げられる。酸化防止剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤とは組み合わせて使用することが好ましい。この場合、グリース中のアミン系酸化防止剤の含有量がフェノール系酸化防止剤の含有量よりも多いことがより好ましい。
【0054】
防錆剤としては、例えば、有機スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等)、多価アルコール(ソルビタンモノオレエート等)の部分エステル等が挙げられる。防錆剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。
【0055】
転動体30とシール部材50との間には、オイル70が塗布されている。オイル70は、被塗布物に塗布されている。被塗布物は、例えば内輪10、外輪20、転動体30、およびグリース60のうち少なくとも一つである。オイル70は、被塗布物の表面の少なくとも一部に塗布され、被塗布物の表面には、オイル70からなるオイル層71が形成されている。
【0056】
本実施形態では、オイル70は、転動体30の表面の一部に塗布されている。オイル70は、転動体30の表面のうち外輪軌道面23および内輪軌道面11に収容されていない部分の一部領域に塗布されている。これにより、この領域にはオイル層71が形成されている。オイル70は、グリース60に接触する位置に塗布されることが望ましい。本実施形態では、オイル70は、グリース60の基端部付近でグリース60と接触している。
オイル70の使用量は、例えば、グリース60の100質量部に対して0.1~50質量部とすることができる。オイル70の使用量は、例えば、グリース60の100質量部に対して、好ましくは5~30質量部とすることができる。
【0057】
オイル70は液状であり、流動可能である。オイル70としては、特に限定されないが、鉱油、合成油等が挙げられる。鉱油としては、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、水素化系鉱油、溶剤精製鉱油、高精製鉱油等が挙げられる。鉱油としては、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種類の鉱油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0058】
合成油としては、例えば、ポリαオレフィン(PAO)、ポリブテン等の脂肪族炭化水素油;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素油;ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル油;ポリフェニルエーテル等のエーテル油;ポリアルキレングリコール油;シリコーン油;フッ素油等が挙げられる。合成油としては、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種類の合成油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0059】
オイル70は、グリース60の基油と同種の油を含むことが望ましい。例えば、オイル70はエステル油を含み、グリース60の基油もエステル油を含む。オイル70がグリース60の基油と同種の油を含むと、オイル70とグリース60との親和性は高くなる。特に、グリース60に含まれる基油と、オイルとの親和性が高い。そのため、グリースやグリースに含まれる基油は、オイルが付着した被塗布物の表面を流動しやすくなる。したがって、例えば、グリース60や基油が転動体30から離れた位置にあった場合でも、転動体30に対するオイル70またはグリース60の供給が可能となる。よって、転がり軸受1の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0060】
エステル油は金属製の被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)の表面における濡れ性が良いため、オイル70およびグリース60の基油がいずれもエステル油を含む場合、オイル70は、金属からなる被塗布物の表面で流動しやすい。そのため、被塗布物にオイル70が拡がって供給されやすくなる。よって、転がり軸受1の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0061】
オイル70の動粘度は、グリース60の基油の動粘度以下であることが好ましい。動粘度は、JIS K2283に準拠して40℃で測定された値である。オイル70の動粘度は、グリース60の基油の動粘度以下であると、オイル70の流動性を高めることができる。そのため、被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)にオイル70が供給されやすくなる。よって、転がり軸受1の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。また、動粘度の小さいオイル70を用いることで回転抵抗をより低減できる。
【0062】
オイル70は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、金属不活性化剤等の添加剤が挙げられる。添加剤は、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、および金属不活性化剤のうち1つを単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。オイル70に対する添加剤の添加量(オイル70の総質量に対する添加剤の質量)は、例えば、0.2~4質量%とすることができる。
【0063】
極圧剤としては、例えば、有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェート等)、有機脂肪酸化合物(オレイン酸、ナフテン酸、コハク酸等)、有機リン化合物(トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等)、リン酸エステル等が挙げられる。極圧剤としては、亜鉛ジチオカーバメート、アンチモンジチオカーバメート等を使用してもよい。極圧剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。
【0064】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン等)等が挙げられる。酸化防止剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤とは組み合わせて使用することが好ましい。この場合、グリース中のアミン系酸化防止剤の含有量がフェノール系酸化防止剤の含有量よりも多いことがより好ましい。
【0065】
防錆剤としては、例えば、有機スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等)、多価アルコール(ソルビタンモノオレエート等)の部分エステル等が挙げられる。防錆剤としては、1つを単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。
【0066】
オイル70に含まれる添加剤は、グリース60に含まれる添加剤と同種であることが好ましい。オイル70がグリース60の基油の添加剤と同種の添加剤を含むと、グリース60に対するオイル70の親和性は高くなる。そのため、グリース60やグリース60に含まれる基油は、オイル70が付着した被塗布物の表面を流動しやすくなる。したがって、例えば、グリース60が転動体30から離れた位置にあった場合でも、転動体30に対するグリースや基油の供給が可能となる。よって、転がり軸受1の耐久性を高め、かつ回転抵抗を低減できる。
【0067】
オイル70が塗布される被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)が金属材料により形成されている場合、被塗布物は、予め、防錆油などにより防錆処理されていてもよい。防錆油はオイル70に比べて動粘度が低くてもよい。
【0068】
次に、第1実施形態に係る転がり軸受1の製造方法について説明する。この転がり軸受1の製造方法は、組立工程と、第1塗布工程と、第2塗布工程と、装着工程と、を備える。
【0069】
図3~
図5は、第1実施形態に係る転がり軸受1の製造方法を説明する転がり軸受の断面図である。
図3に示すように、組立工程では、内輪10、外輪20および転動体30を組み立てる。
【0070】
第1塗布工程は、シール部材50が外輪20に取り付けられていない状態で行う。すなわち、内輪10と外輪20との間の環状の空間が軸方向に開放され、転動体30が露出した状態で、内輪10と外輪20との間にオイル70を滴下する。環状の空間が軸方向に開放され、転動体30が露出した状態の内輪10、外輪20および転動体30を「組立体」という。シール部材50が装着される前の組立体にオイル70を滴下するため、オイル70を直接、被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)に供給することができる。
【0071】
第1塗布工程では、例えば、ノズルA1を外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルA1からオイル70を滴下する。オイル70は、例えば、転動体30に塗布される。
【0072】
図4に示すように、第2塗布工程では、ノズルA2を外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルA2からグリースを吐出する。このとき、ノズルA2からグリースが径方向の外側かつ軸方向の内側に吐出されるようにノズルA2の向きを調整する。さらに、吐出したグリースを外輪20の突出部22の内周面22bの所定位置に接触させ、かつグリースが転動体30および保持器40に接触しないようにノズルA2の位置を調整する。ノズルA2を外輪20に相対回転させながらグリースを吐出するので、外輪20に塗布されたグリース60は円環状または円弧状に延在する。グリース60は、ノズルA2からの吐出方向に倣い、外輪20との接触部から軸方向の外側かつ径方向の内側に突出するように塗布される。塗布されたグリース60の軸方向外側の端面は、軸方向の外側に膨らんだ凸状に形成される。
【0073】
第1塗布工程と第2塗布工程は、いずれが先でもよい。第1塗布工程が第2塗布工程より先である場合、オイル70は、グリース60が塗布される領域にも塗布してよい。
【0074】
続いて、装着工程を行う。
図5に示すように、装着工程では、シール部材50を軸方向の外側から外輪20に接近させて、シール部材50を外輪20に装着する。シール部材50を軸方向の内側に変位させる過程で、台座部51が外輪20の突出部22の端面22aに接触する前に、最初にグリース60全体のうち軸方向外側の端縁にシール部材50の平面部53を接触させる(接触工程)。この際、平面部53のうち径方向中間部にグリース60を接触させる。なお、径方向中間部は、平面部53の外周縁よりも径方向内側、かつ内周縁よりも径方向外側に位置していればよい。
【0075】
その後、シール部材50をさらに外輪20に接近させて台座部51を外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から接触させる(装着工程)。この際、シール部材50の平面部53でグリース60を軸方向の内側に押す。これにより、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がり、グリース60のシール部材接触部62が形成される。
【0076】
以上により、転がり軸受1が形成される。なお、本実施形態の塗布工程では、ノズルA1,A2を外輪20に対して回転させながらオイル70およびグリース60を塗布しているが、周方向に延びる吐出孔を有するノズルからオイル70およびグリース60を吐出して、オイル70およびグリース60を円環状または円弧状に一括して塗布してもよい。
【0077】
前記製造方法では、シール部材50を組立体に装着する装着工程に先だって、組立体にオイル70を供給する。そのため、オイル70を直接、被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)に供給することができる。よって、目的とする被塗布物にオイル70を確実に塗布することができる。
【0078】
前記製造方法では、内輪10と外輪20との間にオイル70を供給する。オイル70は転がり軸受1の内部に供給されるため、転がり軸受1の外面にオイル70は付着しにくい。そのため、オイル70の粘度が高い場合でも、転がり軸受1の外面にべたつきは生じにくい。よって、第1塗布工程における組立体の取り扱い性は良好となる。転がり軸受1への異物の付着も抑制できる。
【0079】
本実施形態の転がり軸受1では、内輪10と外輪20との間にオイル70が塗布されているため、オイル70によって、被塗布物(内輪10、外輪20、転動体30等)における摩耗を抑制できる。そのため、回転抵抗を抑えるためにグリース60を転動体30等から離れた位置に形成した場合でも、転がり軸受1の耐久性を高めることができる。オイル70は流動性を有するため、転がり軸受1の回転抵抗を抑えることができる。よって、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受1を提供できる。
【0080】
転がり軸受1では、グリース60は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部61と、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部62と、を有する。シール部材接触部62の面積は、グリース60と、シール部材50のうち延出部52および台座部51との接触面積よりも大きい。この構成によれば、グリース60を所定の箇所に塗布した後、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52および台座部51に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリース60が内輪10側および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30および内輪10に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材50には平面部53と台座部51との間に延出部52が設けられているので、平面部が台座部から径方向内側に延びる構成と比較して、グリース60を転動体30からより離れた位置に配置できる。よって、グリース60の増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受1を提供できる。
【0081】
本実施形態の転がり軸受1の製造方法は、グリース60を外輪20に接触させるとともに、グリース60を外輪20との接触部から軸方向の外側かつ径方向の内側に突出するように塗布する塗布工程と、シール部材50を軸方向の外側から外輪20に接近させて、平面部53をグリース60における軸方向の外側の端縁に接触させる接触工程と、接触工程の後、シール部材50を外輪20に接近させて台座部51を外輪20に軸方向の外側から接触させるとともに、平面部53でグリース60を軸方向の内側に押す装着工程と、を備える。この製造方法によれば、接触工程においてシール部材50の平面部53がグリース60における軸方向外側の端縁に接触するので、装着工程において平面部53により軸方向の内側に押す過程で、グリース60がシール部材50の延出部52および台座部51に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリース60が内輪10側、および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30および内輪10に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材50には平面部53と台座部51との間に延出部52が設けられているので、平面部が台座部から径方向の内側に延びる構成と比較して、グリース60が転動体30側に押されにくい。よって、予めより転動体30に近い位置までグリース60を配置することが可能となるので、グリース60の増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立できる転がり軸受1を製造できる。
【0082】
シール部材接触部62は、平面視でグリース60における径方向の中心位置を含む。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がった結果、シール部材接触部62が平面視でグリース60における径方向の中心位置を含むので、グリース60が転動体30に向けて軸方向の内側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0083】
グリース60は、延出部52に対して非接触である。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52に向けて径方向に広がる余地をより大きく設けることができる。このため、グリース60が内輪10側、および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30および内輪10に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0084】
外輪接触部61は、外輪20と台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0085】
グリース60は、台座部51に対して非接触である。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0086】
本実施形態の回転機器2によれば、耐久性の確保、および回転抵抗の低減を両立された転がり軸受1を備えるので、回転機器2の長寿命化、および筐体4に対するシャフト3の回転抵抗の低減による回転機器2の省電力化を達成することができる。
【0087】
なお、上記実施形態では、シール部材50の台座部51が平面視で外輪20の突出部22の端面22aから径方向内側に突出しているが、台座部は平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出しないように配置されていることが望ましい。この構成によれば、グリース60の外輪接触部61が軸方向の外側に広がって端面22aの内周縁を乗り越えた場合でも、グリース60が台座部に付着することを抑制できる。このため、グリース60が外輪20と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0088】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
図6は、第2実施形態に係る転がり軸受101の一部断面図である。
図6に示すように、転がり軸受101は、オイル70の塗布位置以外は、
図2に示す転がり軸受1と同様である。
【0089】
転がり軸受101では、オイル70は、グリース60の表面に塗布されている。オイル層71は、グリース60の表面全体に形成されている。
【0090】
図7は、転がり軸受101の製造方法を説明する断面図である。
図7に示すように、転がり軸受101を製造するには、
図3に示す組立体に、第2塗布工程によってグリース60を形成する。次いで、ノズルA1を用いて、グリース60の表面にオイル70を供給する。
【0091】
本実施形態の転がり軸受101であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0092】
[他の実施形態]
オイル70が塗布される被塗布物は、転動体30またはグリース60に限らない。
オイル70は、内輪10の外周面と外輪20の内周面とのうち少なくとも一方に塗布してもよい。
【0093】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。グリース60は固定輪である外輪20に接触している。しかし、グリースが接触する軌道輪は、固定輪でなくてもよい。すなわち、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが固定輪である内輪に接触していてもよい。また、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが回転輪である外輪に接触していてもよい。
【0094】
上記実施形態では、回転機器としてファンモータを例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器として、歯科用ハンドピースや、ハードディスクドライブのスピンドルモータ等に本発明を適用してもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【0095】
実施形態の転がり軸受は、以下の態様を含む。
(態様1)
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記シール部材は、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記内輪および前記外輪のうち他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有し、前記グリースは、前記一方の軌道輪における前記他方の軌道輪に対向する周面に接触した軌道輪接触部と、前記軌道輪接触部よりも前記軸方向の外側、かつ前記他方の軌道輪側で前記平面部に接触したシール部材接触部と、を有し、前記シール部材接触部の面積は、前記グリースと前記シール部材のうち前記延出部および前記台座部との接触面積よりも大きい、転がり軸受。
(態様2)
前記シール部材接触部は、軸方向から見て前記グリースにおける径方向の中心位置を含む、態様1に記載の転がり軸受。
(態様3)
前記グリースは、前記延出部に対して非接触である、態様1または態様2に記載の転がり軸受。
(態様4)
前記軌道輪接触部は、前記一方の軌道輪と前記台座部との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている、
態様1から態様3のいずれか1つに記載の転がり軸受。
(態様5)
前記グリースは、前記台座部に対して非接触である、態様1から態様4のいずれか1つに記載の転がり軸受。
(態様6)
前記一方の軌道輪は、前記他方の軌道輪側に突出するとともに軌道面が形成された突出部を有し、前記突出部は、前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続し、前記台座部に接触する端面を有し、前記台座部は、前記軸方向から見て前記端面よりも前記他方の軌道輪側に突出しないように配置されている、態様1から態様5のいずれか1つに記載の転がり軸受。
(態様7)
回転可能に配置された回転体と、前記回転体を回転可能に支持する支持体と、前記回転体と前記支持体との間に介在する、態様1から態様6のいずれか1つに記載の転がり軸受と、を備える回転機器。
(態様8)
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、前記転動体と前記シール部材との間に配置されたグリースと、を備え、前記シール部材は、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記内輪および前記外輪のうち他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有する転がり軸受の製造方法であって、前記グリースを前記一方の軌道輪に接触させるとともに、前記グリースを前記一方の軌道輪との接触部から前記軸方向の外側かつ前記他方の軌道輪側に突出するように塗布する塗布工程と、前記シール部材を前記軸方向の外側から前記一方の軌道輪に接近させて、前記平面部を前記グリースにおける前記軸方向の外側の端縁に接触させる接触工程と、前記接触工程の後、前記シール部材を前記一方の軌道輪に接近させて前記台座部を前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触させるとともに、前記平面部で前記グリースを前記軸方向の内側に押す装着工程と、を備える転がり軸受の製造方法。
【符号の説明】
【0096】
1,101…軸受 2…回転機器 4…筐体(支持体) 10…内輪(他方の軌道輪) 20…外輪(一方の軌道輪) 30…転動体 40…保持器 50…シール部材 60…グリース