(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171659
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/542 20230101AFI20241205BHJP
H04W 72/0453 20230101ALI20241205BHJP
H04W 84/10 20090101ALI20241205BHJP
【FI】
H04W72/542
H04W72/0453
H04W84/10 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088790
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】松本 翔
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】本多 由宇人
(72)【発明者】
【氏名】中島 肇
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067AA41
5K067CC02
5K067DD45
5K067EE02
5K067EE10
5K067JJ37
(57)【要約】
【課題】マスタ装置が複数のスレーブ装置と通信する無線通信システムにおいて、チャネルマップ制御の有効性を保ちながら、無線通信システムのコストアップを抑制すること。
【解決手段】マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30の中の一部のスレーブ装置30を選択して、選択した一部のスレーブ装置30を対象として、一定の通信品質が確保された通信チャネルだけを含むチャネルマップを作成するためのチャネルマップ制御を実施する。チャネルマップ制御の実施対象となるスレーブ装置30の選択は、繰り返し実施される。マスタ装置20と複数のスレーブ装置30とは、チャネルマップに含まれる通信チャネルを介して通信する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置(20)とスレーブ装置(30)との間で無線通信を実行する無線通信システムであって、
前記スレーブ装置は複数設けられ、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行い、
前記マスタ装置と複数の前記スレーブ装置との無線通信において、各々の前記スレーブ装置毎に、各通信チャネルの通信品質を判定し、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づいて、無線通信に使用する通信チャネルを決定する通信チャネル決定部(S70、S80、S100)と、
複数の前記スレーブ装置の中の一部の前記スレーブ装置を、前記通信チャネル決定部による通信チャネル決定の実施対象として選択する選択部(S410、S420、S430、S440、S450、S510、S520)と、を備え、
前記選択部は、実施対象となる前記スレーブ装置の選択を繰り返し実施する無線通信システム。
【請求項2】
前記通信チャネル決定部は、実施対象となった各々の前記スレーブ装置毎に、通信品質の低下した通信チャネルを判定し、通信品質の低下が判定された通信チャネルを除外するように、無線通信に使用する通信チャネルを決定する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記通信チャネル決定部は、通信品質の低下が判定され、無線通信に使用する通信チャネルから除外された通信チャネルの復帰の可否を判定し、復帰可と判定された通信チャネルを含むように、無線通信に使用する通信チャネルを決定する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記選択部は、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行ったときの、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする順位付け部(S440)を備え、
前記選択部は、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けに基づいて、実施対象となる前記スレーブ装置を選択する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記選択部は、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けに従い、スレーブ装置通信品質が悪い方から所定数の前記スレーブ装置を選択して、選択した所定数の前記スレーブ装置を実施対象とする、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けは、定期的に更新され、
前記選択部は、前記順位付け部により複数の前記スレーブ装置のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新される毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を選択し直す、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記順位付け部は、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行ったときの、パケットエラーレート(PER)、ビットエラーレート(BER)、パケットアライバルレート(PAR)、受信信号強度インジケータ(RSSI)、信号雑音比(SNR)、信号干渉雑音比(SINR)の少なくとも1つに基づいて、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記順位付け部は、複数の前記スレーブ装置毎の無線通信に使用可能な通信チャネルの数に基づいて、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記マスタ装置と複数の前記スレーブ装置との少なくとも一方は移動体に搭載され、
前記移動体の状態と前記移動体の周囲環境の状態の少なくとも一方が変化することに応じて、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新され、
前記選択部は、前記順位付け部により複数の前記スレーブ装置のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新される毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を選択し直す、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記移動体の状態の変化は、前記移動体の起動の有無、前記移動体に搭載された機器の起動の有無、前記移動体に搭載された無線機器による無線通信の有無、前記移動体の速度、前記移動体の移動距離、前記移動体の温度、前記移動体の振動の少なくとも1つに基づいて判定される、請求項9に記載の無線通信システム。
【請求項11】
前記移動体の周囲環境の状態の変化は、前記移動体の環境温度、前記移動体の環境湿度、前記移動体の位置、前記移動体への搭乗者の接近の少なくとも1つに基づいて判定される、請求項9に記載の無線通信システム。
【請求項12】
前記選択部(S510、S520)は、切り替え周期毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を複数の前記スレーブ装置の中でシフトさせて、複数の前記スレーブ装置が、それぞれ実施対象となる頻度を均等化させる、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項13】
複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置(20)とスレーブ装置(30)との間で無線通信を実行する無線通信方法であって、
前記スレーブ装置は複数設けられ、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行い、
前記マスタ装置と複数の前記スレーブ装置との無線通信において、各々の前記スレーブ装置毎に、各通信チャネルの通信品質を判定し、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づいて、無線通信に使用する通信チャネルを決定する通信チャネル決定ステップ(S70、S80、S100)と、
複数の前記スレーブ装置の中の一部の前記スレーブ装置を、前記通信チャネル決定ステップにおける通信チャネル決定の実施対象として選択する選択ステップ(S410、S420、S430、S440、S450、S510、S520)と、を備え、
前記選択ステップにおいて、実施対象となる前記スレーブ装置の選択が繰り返し実施される無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置とスレーブ装置との間で無線通信を実行する無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の無線通信システムとして、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1の無線通信システムは、パケットエラーが生じたとき、そのパケットの無線信号のRSSI値が、予め設定された閾値Th1より大きい場合、このパケットを受信した受信動作が他の電波との干渉による受信エラーであると判断する。そして、受信回数と受信エラー回数とを計数して、各周波数チャネルにおける干渉による受信エラーの頻度(受信エラー回数/受信回数)を記憶する。受信エラー頻度が閾値Th2を越えた場合、干渉による受信エラー頻度が閾値Th2を越えた周波数チャネルに干渉源が存在すると判断して、この周波数チャネルを使用不可チャネルとして記憶する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1の無線通信システムは、他の電波との干渉により通信品質が低下した周波数チャネルを使用不可チャネルとする。また、特許文献1の無線通信システムは、使用不可チャネルとした周波数チャネルを、設定期間が経過すると、使用可能な周波数チャネルに戻す。このような、周波数チャネルを使用不可チャネルとして設定したり、使用可能チャネルに復帰させたりする制御を、以下、本明細書ではチャネルマップ制御と呼ぶ。
【0005】
ここで、無線通信システムが、少なくとも1つのマスタ装置と、少なくとも2つ以上のスレーブ装置とを含み、複数のスレーブ装置がそれぞれマスタ装置と無線通信を行う場合、複数のスレーブ装置毎に、チャネルマップ制御を行う必要が生じる。チャネルマップ制御は、主として、プロセッサを備えるコンピュータによって、プログラムに従ったソフトウェア処理により実現される。従って、スレーブ装置の数が多くなるほど、チャネルマップ制御のためのコンピュータ処理負荷が増加することになる。このため、全てのスレーブ装置についてチャネルマップ制御を実施しようとすると、高性能なコンピュータを用いることが必要となり、無線通信システムのコストアップを招く虞がある。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、マスタ装置が複数のスレーブ装置と通信する無線通信システムにおいて、チャネルマップ制御の有効性を保ちながら、無線通信システムのコストアップを抑制することが可能な無線通信システム及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示による無線通信システムは、複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置(20)とスレーブ装置(30)との間で無線通信を実行する無線通信システムであって、
スレーブ装置は複数設けられ、複数のスレーブ装置がそれぞれマスタ装置と無線通信を行い、
マスタ装置と複数のスレーブ装置との無線通信において、各々のスレーブ装置毎に、各通信チャネルの通信品質を判定し、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づいて、無線通信に使用する通信チャネルを決定する通信チャネル決定部(S70、S80、S100)と、
複数のスレーブ装置の中の一部のスレーブ装置を、通信チャネル決定部による通信チャネル決定の実施対象として選択する選択部(S410、S420、S430、S440、S450、S510、S520)と、を備え、
前記選択部は、実施対象となる前記スレーブ装置の選択を繰り返し実施するように構成される。
【0008】
また、本開示による無線通信方法は、複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置(20)とスレーブ装置(30)との間で無線通信を実行する無線通信方法であって、
スレーブ装置は複数設けられ、複数のスレーブ装置がそれぞれマスタ装置と無線通信を行い、
マスタ装置と複数のスレーブ装置との無線通信において、各々のスレーブ装置毎に、各通信チャネルの通信品質を判定し、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づいて、無線通信に使用する通信チャネルを決定する通信チャネル決定ステップ(S70、S80、S100)と、
複数のスレーブ装置の中の一部のスレーブ装置を、通信チャネル決定ステップにおける通信チャネル決定の実施対象として選択する選択ステップ(S410、S420、S430、S440、S450、S510、S520)と、を備え、
選択ステップにおいて、実施対象となる前記スレーブ装置の選択が繰り返し実施されるように構成される。
【0009】
上述したように、本開示による無線通信システム及び無線通信方法では、同時期に全てのスレーブ装置を対象として、各通信チャネルの通信品質の判定及び判定結果に基づく通信チャネルの決定を実施するのではなく、複数のスレーブ装置の中の一部のスレーブ装置を選択し、選択した一部のスレーブ装置を対象として、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づく通信チャネルの決定を実施する。このため、マスタ装置が複数のスレーブ装置と通信を行う場合であっても、通信チャネルを決定するための処理負荷を低減することができる。これにより、高性能なコンピュータを用いることによるシステムのコストアップを回避することができる。
【0010】
そして、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づく通信チャネルの決定を実施するスレーブ装置の選択は、繰り返し実施される。従って、実施対象として選択されるスレーブ装置は固定されず、可変である。このため、特定のスレーブ装置だけが、通信チャネル決定の実施対象外となって、それにより、継続的に、通信品質が低下した通信チャネルを介してマスタ装置との通信を行う事態の発生も抑制することができ、チャネルマップ制御の有効性を確保することができる。
【0011】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0012】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】マスタ装置とスレーブ装置との通信環境の電界強度分布の一例を示す図である。
【
図3】各通信チャネルの受信信号強度の一例を示す図である。
【
図4】マスタ装置とスレーブ装置との通信シーケンスを示すフローチャートである。
【
図5】通信チャネルの削除判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態において、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置を選択する処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図6のフローチャートに示す処理を説明するための説明図である。
【
図8】
図6のフローチャートに示す処理を説明するための別の説明図である。
【
図9】第2実施形態において、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置を選択する処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図8のフローチャートに示す処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本開示の好ましい実施形態について説明する。なお、同一又は類似の構成については、複数の図面に渡って同じ参照番号を付与することにより、説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せても良い。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態の無線通信システムは、少なくとも1つのマスタ装置と少なくとも2つのスレーブ装置とを含む。少なくとも2つのスレーブ装置は、それぞれ、1つのマスタ装置と無線通信する。マスタ装置と複数のスレーブ装置との少なくとも一方は、移動体に搭載されて使用され得る。移動体は、例えば、自動車や鉄道車両などの車両、電動垂直離着陸機やドローンなどの飛行体、船舶、建設機械、農業機械などを含む。
【0016】
車両における具体的な用途として、本実施形態に係る無線通信システムは、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車などの電動車両に電池パックとして搭載される電池を管理する電池管理システムに適用することができる。電池管理システムに適用される場合、例えば、マスタ装置は、電池制御装置に接続され、複数のスレーブ装置が、電池パックを構成する複数の電池スタックに設けられる監視装置にそれぞれ接続される。この場合、マスタ装置と複数のスレーブ装置とはともに車両に搭載される。
【0017】
複数の電池スタックごとに設けられる各監視装置は、対応する電池スタックに含まれる各電池セルの電圧及び電流、電池スタックの温度などの電池情報を各種のセンサ等によって取得する。そして、各監視装置は、無線通信システムを介して、電池制御装置から電池情報を要求するデータを受信すると、取得した電池情報を電池制御装置へ向けて、無線通信システムを介して送信する。電池制御装置は、取得した電池情報に基づいて、電池スタック全体の充電量(SOC)を算出したり、電池パックの温度を適正範囲に調整するため、昇温・冷却機構を駆動したり、各電池セルの電圧を揃えるいわゆる均等化処理の実行要否を判断したりする。電池制御装置は、少なくとも1つの電池スタックにおいて均等化処理の実行が必要と判断した場合、無線通信システムを介して、該当する監視装置に均等化処理の実行を指示する。また、各監視装置は、各種のセンサの異常や、自身の動作の異常を判定する処理を行い、異常が判定された場合には、無線通信システムを介して、異常情報を電池制御装置に送信する。
【0018】
あるいは、本実施形態に係る無線通信システムは、車両において、いわゆるスマートキーシステムやタイヤ空気圧監視システムに適用されても良い。スマートキーシステムに適用される場合、例えば、マスタ装置は車両に搭載され、車両ドアのロック、アンロックや車両のエンジン等の駆動源のオン、オフを制御する制御装置に接続される。複数のスレーブ装置は、複数のユーザによって保有される携帯キーや携帯端末に搭載される。タイヤ空気圧監視システムに適用される場合、マスタ装置は車両に搭載され、タイヤ空気圧の表示や空気圧が異常である場合の警告等を行なう制御装置に接続される。複数のスレーブ装置は、各タイヤ内に設けられ、同じく各タイヤ内に設けられた空気圧検出装置に接続される。
【0019】
さらに、本実施形態に係る、無線通信システムは、車両の診断システムに適用されても良い。この場合、例えば自己診断機能を備えた複数の車載装備に複数のスレーブ装置が接続され、マスタ装置は、サービス工場に設置された診断制御装置に接続される。これらの例では、マスタ装置と複数のスレーブ装置の少なくとも一方が固定した位置に配置され、及び/又は、少なくとも一方が車両に搭載される。
【0020】
ただし、本実施形態に係る無線通信システムの適用例は車両に限られず、上述したように、車両以外の移動体、例えばドローンなどの飛行体、船舶、建設機械、農業機械などの各種装備の制御や管理を行なうシステムへの適用も可能である。さらに、本実施形態に係る無線通信システムは、ビルなどの建物の各種装備や工場などの生産設備などの制御や管理を行なうシステムへの適用も可能である。
【0021】
図1は、無線通信システム10の概略構成を示すブロック図である。無線通信システム10のマスタ装置20とスレーブ装置30は、ともに、例えば車両(自動車)に搭載される。この際、マスタ装置20及びスレーブ装置30は、共通の筐体内に配置される構成としても良いし、共通の筐体に配置されない構成としても良い。マスタ装置20は、1つであっても良いし、複数であっても良い。複数のマスタ装置20が設けられる場合、複数のマスタ装置20は、それぞれ、異なるグループに属する複数のスレーブ装置30と通信しても良いし、複数のマスタ装置20が、同じグループに属する複数のスレーブ装置30と通信しても良い。マスタ装置20とスレーブ装置30とは、例えばブルートゥースローエナジー(ブルートゥースは登録商標、以下、ブルートゥースLEと表記する)通信のように、複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、無線通信を行う。
【0022】
一例として本実施形態の無線通信システム10は、1つのマスタ装置20と、複数のスレーブ装置30を備える。なお、
図1には、図示の簡略化のため、1つのスレーブ装置30しか示されていないが、複数のスレーブ装置30は、いずれも同様に構成され得る。
【0023】
マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信では、近距離通信で使用される周波数帯、たとえば2.4GHz帯や5GHz帯などを用いることができる。このような高周波帯の電波は、LF帯の電波に比べて直進性が強く、車両のボディなどの金属体で反射されやすい性質をもつ。LFは、Low Frequencyの略称である。近距離通信の規格としては、例えば、ブルートゥースやブルートゥースLEなどを採用することができる。一例として、本実施形態のマスタ装置20及びスレーブ装置30は、ブルートゥースLE規格に準拠した無線通信(以降、ブルートゥースLE通信)を実施可能に構成されている。通信接続及び暗号通信などに係る通信方法の細部は、ブルートゥースLE規格で規定されるシーケンスに従って実施される。
【0024】
マスタ装置20は、
図1に示すように、制御回路(CNT)21と、無線通信回路(WC)22と、アンテナ23を備える。マスタ装置20は、上記した要素以外にも、スレーブ装置30以外の機器と有線又は無線で通信するための入出力インターフェースや、バスラインを備える。
【0025】
制御回路21は、たとえばプロセッサ211と、メモリ212を備えるコンピュータである。メモリ212は、例えばRAM、ROMを含む。RAMは、Random Access Memoryの略称である。ROMは、Read Only Memoryの略称である。
【0026】
制御回路21においてプロセッサ211は、RAMを一時的な記憶領域として用いつつROMに記憶されたプログラムを実行することで、所定の処理(制御)を実行する。プロセッサ211は、プログラムに含まれる複数の命令を実行することで、複数の機能部を構築する。プログラムの保存媒体は、ROMに限定されない。たとえばHDDやSSDなど、多様な記憶媒体を採用可能である。HDDは、Hard-disk Driveの略称である。SSDは、Solid State Driveの略称である。
【0027】
プロセッサ211は、例えばCPU、MPU、GPU、DFPなどである。CPUは、Central Processing Unitの略称である。MPUは、Micro-Processing Unitの略称である。GPUは、Graphics Processing Unitの略称である。DFPは、Data Flow Processorの略称である。制御回路21は、CPU、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合わせて実現されてもよい。あるいは、制御回路21は、SoCとして実現されてもよい。SoCは、System on Chipの略称である。制御回路21は、ASICやFPGAを用いて実現されてもよい。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。FPGAは、Field-Programmable Gate Arrayの略称である。
【0028】
制御回路21は、スレーブ装置30に対して処理を要求するコマンド(例えば、データを要求するコマンド、所定の処理の実行を要求するコマンドなど)を生成し、該コマンドを含む送信データを、送信パケットにより無線通信回路22に送信する。また、制御回路21は、スレーブ装置30から送信されるパケットを受信し、受信したパケットに含まれるデータに基づき、所定の処理を実行する。すなわち、マスタ装置20とスレーブ装置30とが行う無線通信はパケット通信である。
【0029】
無線通信回路22は、パケットを無線で送受信するために、図示しないRF回路を含む。無線通信回路22は、送信信号を変調し、RF信号の周波数で発振する送信機能を有する。無線通信回路22は、受信信号を復調する受信機能を有する。RFは、radio frequencyの略称である。
【0030】
無線通信回路22は、制御回路21から送信されたデータを含むパケットを変調し、アンテナ23を介してスレーブ装置30に送信する。制御回路21は、例えば、後述する接続確立処理において交換される暗号化情報を用いて電池情報要求データなどの送信データを暗号化したデータを、無線通信回路22に出力する。無線通信回路22は、送信パケットに、通信制御情報などの無線通信に必要なデータを付与して送信する。無線通信に必要なデータは、例えば識別子(ID)、シーケンス番号、次のシーケンス番号、誤り検出符号などを含む。無線通信回路22は、マスタ装置20とスレーブ装置30との間の通信のデータサイズ、通信形式、スケジュール、エラー検知などを制御しても良い。これら通信に関する制御は、制御回路21が行っても良い。
【0031】
無線通信回路22は、スレーブ装置30から送信されたパケットを、アンテナ23を介して受信し、復調する。そして、復調したパケットを制御回路21に送信する。アンテナ23は、電気信号を電波に変換して空間に放射する。アンテナ23は、空間を伝搬する電波を受信して、電気信号に変換する。
【0032】
スレーブ装置30は、
図1に示すように、制御回路(CNT)31と、無線通信回路(WC)32と、アンテナ33を備える。スレーブ装置30は、上記した要素以外にも、マスタ装置20以外の機器と有線又は無線で通信するための入出力インターフェースや、バスラインを備える。制御回路31は、マスタ装置20の制御回路21と同様の構成を有する。制御回路31は、たとえばプロセッサ311と、メモリ312を備える。メモリ312は、たとえばRAM、ROMを含む。
【0033】
制御回路31は、無線通信回路32を介して取得する要求コマンドに基づいて、要求された処理(要求されたデータを取得して返送するなどの応答処理、要求された処理の実行処理など)を実行する。例えば、受信したデータに含まれる要求コマンドが、電池情報の送信要求であった場合、スレーブ装置30の制御回路31は、その送信要求を対応する電池スタックの監視装置に送信し、監視装置から電池情報を取得する、そして、制御回路31は、要求に対する応答として、処理結果(例えば、取得した電池情報)を含む、暗号化情報を用いて暗号化されたデータを無線通信回路32に送信する。制御回路31は、要求された処理に従い、例えば車両に搭載された機器の制御を実行することも可能である。
【0034】
無線通信回路32は、パケットを無線で送受信するために、図示しないRF回路を含む。無線通信回路32は、無線通信回路22と同様に、送信機能及び受信機能を有する。無線通信回路32は、マスタ装置20から送信されたパケットを、アンテナ33を介して受信し、復調する。そして、復調したパケットに含まれるデータを制御回路31に送信する。無線通信回路32は、制御回路31から送信されたデータを含むパケットを変調し、アンテナ33を介してマスタ装置20に送信する。無線通信回路32は、送信パケットに、通信制御情報などの無線通信に必要なデータを付与して送信する。
【0035】
無線通信回路32は、マスタ装置20とスレーブ装置30との間の通信のデータサイズ、通信形式、スケジュール、エラー検知などを制御してもよい。これら通信に関する制御は、制御回路31が行ってもよい。アンテナ33は、電気信号を電波に変換して空間に放射する。アンテナ33は、空間を伝搬する電波を受信して、電気信号に変換する。
【0036】
図2は、マスタ装置20とスレーブ装置30との通信環境の電界強度分布の一例を示す図である。
図2は、所定周波数における所定タイミングの電磁界シミュレーション結果を示している。以下では、電界強度分布を電界分布と示すことがある。
【0037】
マスタ装置20及びスレーブ装置30は、例えば、車両における所定の位置に配置される。それぞれ所定位置に配置されたマスタ装置20及びスレーブ装置30から所定周波数の無線電波信号を送信すると、送信波と反射波との干渉や外部ノイズとの干渉により、使用環境において電界強度の高い部分と低い部分が生じる。反射波は、マスタ装置20及びスレーブ装置30の周辺に存在する車両の金属要素による反射、例えば車両ボディによる反射、金属筐体による反射、ハーネスによる反射などによって生じる。このような理由から、マスタ装置20とスレーブ装置30の通信環境には、
図2に示すような、電界強度の強い部分と、電界強度の低い部分である所謂NULL点が複数生じる。
【0038】
スレーブ装置30が、マスタ装置20との電界分布において、電界強度の低い部分もしくはその近傍に位置すると、スレーブ装置30は、マスタ装置20からの無線信号を正しく受信できない可能性が高くなり、通信エラーが生じ得る。このような通信エラーが生じる可能性が高い通信チャネルは、通信品質が低下した通信チャネルである。
【0039】
ここで、マスタ装置20とスレーブ装置30とが、複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、無線通信を実行する場合、各通信チャネルの周波数が異なるため、各通信チャネルの電界分布も変化し得る。この結果、各通信チャネルで通信品質が異なり得る。
【0040】
例えば、
図3に示すように、通信チャネルAを介した無線通信においては、通信品質を示すパラメータの1つである受信電力(受信信号強度)は良好である。また、通信チャネルCを介した無線通信においては、受信電力は非常に高い値を示す。従って、マスタ装置20とスレーブ装置30は、通信品質が良好又は非常に高い通信チャネルA、Cを利用する場合、通信エラーが十分に抑制された高品質の無線通信を行い得る。一方、通信チャネルB、Nを介した無線通信においては、受信電力が低くなっている。このため、マスタ装置20とスレーブ装置30が通信品質が低下している通信チャネルB、Nを利用する場合、無線通信において通信エラーが発生する可能性が高くなる。なお、
図3では、理解を容易にするため、周波数に対する受信信号強度の一例を実線にて示している。
【0041】
従って、マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信は、通信品質が低下した通信チャネルを避けて、高品質の無線通信を行い得る通信チャネルを使用して行うことが好ましい。
【0042】
ただし、マスタ装置20とスレーブ装置30との間の電界分布は、外部環境(外部からのノイズなど)や、マスタ装置20及び/又はスレーブ装置30の振動(ハーネスの振動を含む)などによって変化する。このため、マスタ装置20及びスレーブ装置30が車両に搭載されたときには、マスタ装置20とスレーブ装置30との通信環境の電界分布は、例えば、車両の状態や車両の周囲環境の状態などに応じて変化する。この結果、通信品質が良好な通信チャネル及び通信品質が低下した通信チャネルも、固定的なものではなく、刻々と変化する可能性がある。従って、通信品質が低下したことに応じて、該当する通信チャネルを無線通信に使用する複数の通信チャネルから削除するとともに、通信品質が回復したことに応じて、該当する通信チャネルを無線通信に使用する複数の通信チャネルの一つとして復帰させることが求められる。
【0043】
本実施形態の無線通信システム10において、無線通信に使用する複数の通信チャネルとして、チャネルマップ制御により通信品質が低下した通信チャネルを除き、一定の通信品質が確保された通信チャネルを使用して、マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信を実現するための制御処理が、
図4に示すマスタ装置20とスレーブ装置30との通信シーケンスを示す図を参照して説明される。
図4では、マスタ装置20をMASTER、スレーブ装置30をSLAVEと示している。また、
図4は、マスタ装置20と、1つのスレーブ装置30との間で実行される通信シーケンスを示している。マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30と
図4に示す通信シーケンスを個別に実施する。
【0044】
まずマスタ装置20及びスレーブ装置30は、
図4に示す通信シーケンスを実行する前に、接続確立処理を実行する。例えば、無線通信システム10が車両に搭載される場合、例えばユーザの操作によってIG信号がオフからオンに切り替わると、接続確立処理が実行される。この接続確立処理は、マスタ装置20と、マスタ装置20との無線通信の接続対象であるすべてのスレーブ装置30との間で実行される。なお、マスタ装置20とスレーブ装置30とが常時接続される場合は、接続確立処理は、所定のタイミングで1回だけ実施される。ただし、通信中にエラーが発生して、マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信接続が切断された場合は、再接続のために接続確立処理が実施される場合がある。
【0045】
接続確立処理では、例えば、スレーブ装置30が、アドバタイズ用の通信チャネルを介してアドバタイズ信号を送信するアドバタイズ動作を実行し、マスタ装置20がアドバタイズ信号をスキャンするスキャン動作を実行する。アドバタイズ用の通信チャネルは、複数(例えば、ブルートゥースLEの場合3つ)の通信チャネルを含む。マスタ装置20は、スキャン動作によりアドバタイズ信号を受信すると、当該アドバタイズ信号を送信したスレーブ装置30へ接続要求を送信する。これにより、マスタ装置20とスレーブ装置30との間に、通信接続が確立される。さらに、マスタ装置20とスレーブ装置30とは、通信接続が確立された後、暗号化情報の交換を行ったり、周波数チャネルホッピングに関する初期情報の共有処理を行ったりする。初期情報は、例えばホッピングパターン又はホッピングのための関数などを含む。
【0046】
接続確立処理が終了すると、マスタ装置20及びスレーブ装置30は、周期的に生じる通信イベント毎に、複数の通信チャネルから順次に選択されるデータ用の通信チャネルを介して、データ通信を実行する。マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30に対して、順番に通信期間を割り当てることで、複数のスレーブ装置30との通信イベントが所定の順序で生じる。
【0047】
図4に示すように、マスタ装置20は、ステップS10において、スレーブ装置30に対して、例えば、データの要求コマンドの送信、つまりデータ要求を送信する。スレーブ装置30は、ステップS210にてデータ要求を受信すると、ステップS220にて、応答するために必要な所定処理、つまり要求されたデータを取得して送信する処理を実行する。
【0048】
なお、マスタ装置20及びスレーブ装置30は、通信イベント毎に、周波数チャネルホッピングを行って使用するデータ用の通信チャネルを切り替えて、データ要求の送受信や要求したデータの送受信を行う。この際、マスタ装置20及びスレーブ装置30は、例えば、後述するチャネルマップに従って、周波数チャネルホッピングによって切り替えられる通信チャネルを決定する。なお、ブルートゥースLEの場合、データ用の通信チャネルとして37の通信チャネルが用意されている。
【0049】
マスタ装置20は、ステップS20において、要求したデータを受信する。そして、ステップS30において、マスタ装置20は、データが正しく受信できたか否かを確認するため、受信したデータに含まれる誤り検出符号に基づいて、例えばチェックサム判定を行う。続くステップS40では、マスタ装置20は、ステップS30の処理においてデータが正しく受信できていないと判定された場合に、同一の通信イベント内での再送のための処理を実行するか否かを判定する。例えば、マスタ装置20は、今回の通信イベントの終了時間まで再送を行う程度の余裕があれば、再送を行うと決定し、余裕がなければ再送は行わないと決定することができる。ステップS40において、マスタ装置20は、再送を行うと決定した場合、ステップS10からの処理を再度実行する。ステップS30の処理においてデータが正しく受信できたと判定された場合、又は、ステップS40で再送を行わないと決定した場合、マスタ装置20は、ステップS50の処理に進む。
【0050】
ステップS50では、マスタ装置20は、受信したデータに含まれる情報に基づく処理を実行する。なお、ステップS30の処理で、データが正しく受信できていないと判定され、かつステップS40の処理で、再送は行わないと決定した場合、ステップS50の処理は省略されても良いし、以前に受信したデータに基づいてステップS50の処理が実行されても良い。
【0051】
ステップS60では、マスタ装置20は、スレーブ装置30から受信した信号の通信品質を示す特性データとして、受信信号強度(RSSI)と、パケットエラーレート(PER)を検出する。RSSIは、スレーブ装置30から送信され、マスタ装置20にて受信した信号の強度を示す指標である。PERは、マスタ装置20の受信パケット数に対するエラーパケット数の割合をパーセンテージで示したものである。マスタ装置20は、RSSIに代えて、信号雑音比(SNR)/信号干渉雑音比(SINR)を検出しても良い。SNR/SINRは、例えば、マスタ装置20が、スレーブ装置30からの無線信号を受信したときのRSSI値と、無線信号を受信していないときのRSSI値との比によって検出することができる。また、マスタ装置20は、PERに代えて、ビットエラーレート(BER)もしくはパケットアライバルレート(PAR)を検出しても良い。マスタ装置20は、通信チャネル毎に、検出したRSSI又はSNR/SINRと、PER又はBERを保存して蓄積する。なお、通信品質を示す特性データは、上述したようにマスタ装置20が検出することに加えて、もしくは代えて、スレーブ装置30が、マスタ装置20からの信号を受信したときのRSSIやPERなどを検出して、マスタ装置20へ送信することによって取得することも可能である。
【0052】
ステップS70では、マスタ装置20は、ステップS60で検出した通信チャネルの通信品質を示す特性データに基づいて、スレーブ装置30との無線通信に使用した通信チャネルの通信品質の低下を判定する。そして、マスタ装置20は、通信品質が低下していると判定した通信チャネルを、マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信に使用する通信チャネルから削除する。なお、削除される通信チャネルは、データ用の通信チャネルである。この通信チャネルの削除判定処理は、後に説明される。
【0053】
ステップS80では、マスタ装置20は、これまでの通信イベント時において削除判定により削除済みの通信チャネルの復帰判定を実行する。この復帰判定において、所定の復帰条件が満たされると、削除済みの通信チャネルが、無線通信に使用する通信チャネルとして復帰される。例えば、所定の復帰条件の一例として、通信チャネルを削除してから所定時間が経過したことに応じて、削除済みの通信チャネルが復帰するようにしても良い。あるいは、所定の復帰条件の別の例として、削除済みの通信チャネルに隣接する通信チャネルが良好な通信品質を示すことに応じて、削除済みの通信チャネルが、無線通信に使用する通信チャネルとして復帰されても良い。このようにして、無線通信に使用する通信チャネルとして復帰可と判定された通信チャネルは、チャネルマップに組み入れられ、実際にマスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信に使用される。ただし、実際に無線通信に使用されたときの通信品質が低下したままであれば、再び、削除判定によって削除の対象となり得る。
【0054】
ステップS90では、マスタ装置20は、無線通信を行ったスレーブ装置30が、チャネルマップ制御の実施対象として選択されたスレーブ装置であるか否かを判定する。本実施形態におけるチャネルマップ制御とは、ステップS70の通信チャネルの削除判定の結果、及びステップS80の削除された通信チャネルの復帰判定の結果に基づき、一定の通信品質が確保された通信チャネルだけをチャネルマップに含むように、ステップS100にてチャネルマップを作成する制御処理を意味する。すなわち、ステップS70、S80、S100の処理が、通信チャネル決定ステップに相当する。
【0055】
ステップS90にて、スレーブ装置30はチャネルマップ制御の実施対象であると判定すると、マスタ装置20は、ステップS100の処理に進む。一方、スレーブ装置30はチャネルマップ制御の実施対象ではないと判定すると、マスタ装置20は、チャネルマップ制御を実行することなく、
図4のフローチャートに示す処理を終了する。従って、チャネルマップ制御の実施対象ではないスレーブ装置30のチャネルマップは、チャネルマップ制御により変更されない。
【0056】
ステップS100では、マスタ装置20は、ステップS70の削除判定結果、及びステップS80の復帰判定結果に基づいて、チャネルマップを作成する。本実施形態では、複数のスレーブ装置30に対して、個別のチャネルマップを作成する。ただし、複数のスレーブ装置30に対して、共通のチャネルマップを作成することも可能である。共通のチャネルマップを作成する場合、チャネルマップ制御の実施対象となっているスレーブ装置30のチャネルマップに含まれる通信チャネルのAND演算を行い、各チャネルマップのすべてに共通する複数の通信チャネルを抽出すれば良い。この場合も、チャネルマップ制御の実施対象となっていないスレーブ装置30のチャネルマップを除外して、共通チャネルマップを作成することにより、共通チャネルマップを作成する処理負荷を軽減することができる。
【0057】
チャネルマップは、無線通信に使用可能な通信チャネルを示すものであっても良いし、使用不可の通信チャネルを示すものであっても良い。さらに、使用可能な通信チャネルと使用不可の通信チャネルの両方を示すものであっても良い。また、チャネルマップの作成により、使用可能/使用不可の通信チャネルに変更があった場合、周波数チャネルホッピングパターンが更新されても良い。周波数チャネルホッピングパターンが更新されない場合、ホッピング予定の通信チャネルが使用不可の場合、例えば、次にホッピング予定の通信チャネルを使用すれば良い。
【0058】
ステップS110では、マスタ装置20は、チャネルマップ作成処理により作成されたチャネルマップをスレーブ装置30へ送信する。この際、個別のチャネルマップもしくは共通のチャネルマップに係わらず、マスタ装置20は、ステップS90においてチャネルマップ制御の実施対象となっているスレーブ装置30のみにチャネルマップを送信する。マスタ装置20は、ステップS90においてチャネルマップ制御の実施対象となっていないスレーブ装置30も含む全てのスレーブ装置30へ一斉送信によってチャネルマップを送信しても良い。チャネルマップの実施対象となっていないスレーブ装置30は、送信されたチャネルマップを破棄しても良い。
【0059】
ステップS230において、スレーブ装置30は、マスタ装置20から送信されたチャネルマップを受信する。ステップS240で、スレーブ装置30は、受信確認信号(Ack信号)をマスタ装置20に返送する。ステップS120で、マスタ装置20は、スレーブ装置30からのAck信号を受信する。そして、ステップS130において、マスタ装置20は、Ack信号が正しく受信できたか否かを確認するため、受信したAck信号に含まれる誤り検出符号に基づいて、例えばチェックサム判定を行う。続くステップS140では、マスタ装置20は、ステップS130の処理においてデータが正しく受信できていないと判定された場合に、同一の通信イベント内での再送のための処理を実行するか否かを判定する。ステップS140において、マスタ装置20は、再送を行うと決定した場合、ステップS110からの処理を再度実行する。ステップS130の処理においてデータが正しく受信できたと判定された場合、又は、ステップS140で再送を行わないと決定した場合、マスタ装置20は、
図4のフローチャートに示す処理を終了する。
【0060】
このようにして、マスタ装置20とスレーブ装置30とで、チャネルマップの共有処理が行われる。なお、マスタ装置20は、上述したステップS70~S140までの処理を、通信イベント毎に行っても良いし、複数の通信イベントが経過する毎に行っても良い。また、ステップS70~S100までの処理は、マスタ装置20以外の処理装置によって実行され、その処理結果が、マスタ装置20に与えられるように構成しても良い。
【0061】
次に、上述した通信チャネルの削除判定処理について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
図5のフローチャートは、通信チャネルの削除判定処理の一例を示すものである。
【0062】
ステップS310では、マスタ装置20は、無線通信に使用した通信チャネルの通信品質を示すデータとして、例えば、RSSI値及びPER値を取得する。なお、RSSI値は大きいほど通信品質が良好であることを示し、PER値は小さいほど通信品質が良好であることを示す。また、RSSI値及びPER値は、通信チャネルが直前の無線通信に使用されたときに、ステップS60にて検出されたRSSI値及びPER値であっても良いし、過去の複数回の無線通信において検出された所定数のRSSI値及びPER値をそれぞれ平均化した値や、それらの中央値であっても良い。
【0063】
ステップS320では、マスタ装置20は、取得したRSSI値が、RSSI用のしきい値を満たす(RSSI用のしきい値よりも大きい)か否かを判定する。この判定処理において、RSSI値が、RSSI用のしきい値を満たすと判定すると、マスタ装置20は、ステップS330の処理に進む。一方、RSSI値が、RSSI用のしきい値を満たさないと判定すると、マスタ装置20は、ステップS340の処理に進む。
【0064】
ステップS330では、マスタ装置20は、取得したPER値が、PER用のしきい値を満たす(PER用のしきい値よりも小さい)か否かを判定する。この判定処理において、PER値が、PER用のしきい値を満たすと判定すると、削除判定処理を終了する。この場合、通信チャネルの通信品質は低下していないとみなし得るため、通信チャネルは、使用可能な通信チャネルの集合である通信チャネル群から削除されない。一方、PER値が、PER用のしきい値を満たさないと判定すると、マスタ装置20は、ステップS340の処理に進む。
【0065】
ステップS340では、RSSI値をRSSI用のしきい値と比較した結果、又はPER値をPER用のしきい値と比較した結果、RSSI値とPER値とのいずれかがしきい値を満たさないので、マスタ装置20は、通信チャネルを通信チャネル群から削除する。通信チャネル群は、RSSI値がRSSI用のしきい値より大きく、かつPER値がPER用のしきい値より小さい通信チャネルの集合である。換言すると、通信チャネル群は、RSSI値及びPER値に基づいて、通信品質が良好であると判定された通信チャネルの集合である。
【0066】
このように、削除判定処理では、RSSI値とPER値との両方が、所定の通信品質基準に対応するそれぞれのしきい値を満たす場合、通信チャネルは所定の通信品質基準を満たすとみなし、通信チャネル群に属したままとする。そうではなく、RSSI値とPER値との少なくとも一方が、それぞれのしきい値を満たさない場合、通信チャネルは、所定の通信品質基準を満たさないとみなし、通信チャネル群から削除される。
【0067】
なお、
図4のフローチャートのステップS80の復帰判定処理では、削除判定処理において削除済みの通信チャネルが復帰条件を満たしているか否かが判定される。そして、削除済みの通信チャネルが復帰条件を満たしていると判定した場合、その削除済みの通信チャネルを通信チャネル群に復帰させる。そして、ステップS100のチャネルマップ作成処理では、削除判定処理及び復帰判定処理後の通信チャネル群に基づいて、チャネルマップが作成される。
【0068】
次に、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30を選択する処理について、
図6のフローチャートを参照して詳しく説明する。なお、
図6のフローチャートに示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0069】
ステップS410では、マスタ装置20は、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30の選択を見直すタイミングであるか否かを判定する。本実施形態では、見直しタイミングは、定期的な見直しタイミングと、不定期な見直しタイミングとを含む。このように、本実施形態では、定期的な見直しタイミング及び不定期な見直しタイミングで、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30の選択を見直す。このため、チャネルマップ制御の実施対象として選択されるスレーブ装置30は固定されず、時間の経過に伴って可変である。このため、特定のスレーブ装置30だけが、チャネルマップ制御の実施対象外となって、それにより、継続的に、通信品質が低下した通信チャネルを介してマスタ装置20との通信を行う事態の発生も抑制することができる。
【0070】
定期的な見直しタイミングは、例えば、マスタ装置20と複数のスレーブ装置30とがそれぞれ所定回数(例えば8回)の通信を行う毎に到来するように定めることができる。定期的な見直しタイミングが到来した場合、マスタ装置20は、ステップS420の処理に進む。
【0071】
不定期な見直しタイミングに関しては、車両の状態と車両の周囲環境の状態の少なくとも一方が変化したときに、不定期な見直しタイミングが到来したとみなすことができる。車両の状態と車両の周囲環境の状態の少なくとも一方が変化すると、マスタ装置20と複数のスレーブ装置30との間の通信環境も変化する可能性が高いためである。そして、車両の状態と車両の周囲環境の状態の少なくとも一方が変化したとき、その変化後の各スレーブ装置30の通信品質データに基づいて、チャネルマップ制御の実施対象となるスレーブ装置30を選択し直すことで、変化後の状態に即した通信品質データに基づき、最適な選択を行うことができる。
【0072】
車両の状態の変化は、例えば、車両の起動の有無を示す車両のイグニッションスイッチのオン/オフによって判定することができる。車両のイグニッションスイッチがオンされたときと、オフされたときとでは、車両に搭載された機器の動作状態が変化し、その機器からのノイズの有無が変化するためである。さらに、車両の起動の有無に応じて、車両の振動状態が変化し、それによってマスタ装置20と複数のスレーブ装置30との間の電界強度分布も変化するためである。同様の理由から、車両の状態の変化は、車両に搭載された機器(例えば、エアコン)のオン/オフや、車両に搭載された無線機器による無線通信の実行/停止によっても判定することができる。さらに、最近では、運転者以外の搭乗者がスマートエントリのためのデジタルキーや通信機能を備えたデジタルデバイス(スマートフォンなど)を携帯していることも多い。そのため、搭乗者の有無によって、車両の状態の変化を判定しても良い。
【0073】
また、車両の速度が変化すると車両の振動状態も変化する。従って、車両の状態の変化は、車両の速度の変化に基づいて判定することもできる。車両の速度の変化によって車両の状態の変化を判定する場合、例えば、車両の速度範囲をいくつかの範囲(例えば、30km以下、30km-60km、60km以上など)に区分し、車両の速度が区分した範囲を超えた場合に、車両の状態が変化したと判定することができる。また、車両の上下、左右、前後方向の振動状態を、各種のセンサ(加速度センサ、ジャイロセンサ、など)を用いて直接的又は間接的に検出し、検出した振動状態の大きさが基準値以上又は以下に変化したことにより、車両の状態の変化を判定しても良い。
【0074】
さらに、車両の温度によって、無線通信システム10のハードウェア特性が変化する。従って、車両に搭載された温度センサ、車両に搭載された機器(例えば、バッテリ)の温度などから車両の温度を検出し、その車両の温度の変化に基づいて、車両の状態の変化を判定しても良い。
【0075】
また、車両の走行距離が所定距離増加すると、車両の走行環境が変化している可能性が高い。車両の走行環境が変化すると、マスタ装置20と複数のスレーブ装置30との無線通信に対する外乱の影響も変化する。従って、車両の走行距離が所定距離増加するごとに、車両の状態が変化したと判定しても良い。
【0076】
車両の周囲環境の状態の変化は、上述した理由と同様の理由から、車両の環境温度の変化から判定しても良い。車両の環境温度は、例えば、車外の情報センターから通信を介して取得しても良い。
【0077】
また、空気中の水分密度が高いと電波伝搬の障害となるので、車両の周囲環境の湿度に応じて、マスタ装置20と複数のスレーブ装置30との間の電界強度分布が変化し得る。そのため、湿度センサによって検出された車両周囲の湿度、ワイパーの稼働状態(雨)、フォグランプの稼働状態(霧)、あるいは、外部のサーバから取得した天気情報などから車両の周囲環境の湿度を検出(推定)し、検出した湿度の変化から車両の周囲環境の状態の変化を判定しても良い。
【0078】
さらに、車両が存在する位置に応じて、干渉波となる電波が多く存在する場合がある(例えば、電波塔付近など)。干渉波となる電波が多く存在する場合、ノイズフロアが上昇したり、相互変調歪が生じたりする。従って、車両の位置が、干渉波となる電波が多く存在するエリア内であるか否かにより、車両の周囲環境の状態の変化を判定しても良い。なお、車両の位置が、干渉波となる電波が多く存在するエリア内に属すると判定した場合、チャネルマップの更新自体を中止しても良い。また、搭乗者がデジタルキーを携帯している場合を考慮し、搭乗者が車両に接近しているか否かにより、車両の周囲環境の状態の変化を判定しても良い。
【0079】
不定期な見直しタイミングが到来した場合も、定期的な見直しタイミングが到来した場合と同様に、マスタ装置20は、ステップS420の処理に進む。一方、定期的な見直しタイミング及び不定期な見直しタイミングのいずれも到来していないと判定すると、マスタ装置20は、
図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0080】
ステップS420では、マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30の各々との無線通信に関する通信品質データを取得する。この通信品質データは、パケットエラーレート(PER)、ビットエラーレート(BER)、パケットアライバルレート(PAR)、受信信号強度インジケータ(RSSI)、信号雑音比(SNR)、信号干渉雑音比(SINR)の少なくとも1つである。
【0081】
ここで、定期的な見直しタイミングが到来したと判定された場合、通信品質データとして、前回の定期的な見直しタイミングと今回の定期的な見直しタイミングとの間で検出された複数回の通信の通信品質データを取得する。ただし、より新しい通信品質データを重視するために、新しい通信品質データほど重み係数を重くした通信品質データとしても良い。もしくは、通信品質データを取得する対象となる通信を、最新の通信から所定数に制限しても良い。
【0082】
不定期な見直しタイミングが到来したと判定された場合、通信品質データとして、不定期な見直しタイミングが到来した直後に検出された少なくとも1回、好ましくは複数回の通信の通信品質データを取得する。ただし、取得する通信品質データには、不定期な見直しタイミングが到来する直前の通信品質データが含まれても良い。不定期な見直しタイミングが到来する直前の状態は、変化後の車両の状態及び/又は車両の周囲環境の状態に近いためである。
【0083】
ステップS430では、ステップS420で取得した通信品質データに基づいて、各スレーブ装置30全体の通信品質を示すスレーブ装置通信品質を算出する。スレーブ装置通信品質として、マスタ装置20は、例えば、複数回の通信で検出されたPER、BER、PAR、RSSI、SNR、SINRの少なくとも1つの平均値を算出することができる。なお、1回の通信結果からスレーブ装置通信品質を求める場合、その1回の通信において検出されたPER、BER、PAR、RSSI、SNR、SINRをスレーブ装置通信品質としても良い。又は、スレーブ装置通信品質として、マスタ装置20は、各スレーブ装置30に対応するチャネル群に含まれる通信チャネルの数から、無線通信に使用可能な通信チャネルの数を算出しても良い。
【0084】
図7(a)は、4つのスレーブ装置30が設けられている場合に、各スレーブ装置30のスレーブ装置通信品質として、PER、RSSI、及び通信に使用可能な通信チャネル数を求めた例を示している。
【0085】
ステップS440では、マスタ装置20は、ステップS430で算出したスレーブ装置通信品質に従って、各スレーブ装置30を順位付けする。例えば、
図7(a)に示す例の場合、PER、RSSI、及び通信に使用可能な通信チャネル数の少なくとも1つの指標に基づき、通信品質が良い順又は悪い順に、各スレーブ装置30を順位付けすると、
図7(b)に示す結果となる。すなわち、スレーブ番号S2のスレーブ装置30が最も通信品質が悪く、以下、スレーブ番号S3のスレーブ装置30、スレーブ番号S4のスレーブ装置30、そして、スレーブ番号S1のスレーブ装置30の順に通信品質が良くなる。
【0086】
なお、複数の指標において各スレーブ装置30の通信品質の順序が食い違う場合は、例えば、3つ以上の指標に基づき、多数決にて各スレーブ装置30の通信品質の順位付けを行っても良い。
【0087】
ステップS450では、マスタ装置20は、ステップS440の順位付けの結果に基づいて、チャネルマップ制御の実施対象とする所定数のスレーブ装置30を選択する。具体的には、マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30毎の順位付けに従い、通信品質が悪い方から全数よりも少ない所定数のスレーブ装置30を選択して、選択した所定数のスレーブ装置30をチャネルマップ制御の実施対象とする。例えば、
図7(b)に示す例では、4つのスレーブ装置30の内、通信品質が悪い方からスレーブ番号S2、S3、S4の3つのスレーブ装置30を選択して、チャネルマップ制御の実施対象とする。通信品質が悪いスレーブ装置30ほど、チャネルマップ制御により、一定の通信品質基準を満たす通信チャネルを選別する必要性が高いためである。そして、結果的に、
図8に示すように、スレーブ番号S1のスレーブ装置30は、チャネルマップ制御の実施対象から除外される。スレーブ番号S1のスレーブ装置30は、複数のスレーブ装置30の中で最も良好な通信品質にてマスタ装置20との通信を行い得る。このため、チャネルマップ制御の対象外となっても、引き続き、マスタ装置20と一定の通信品質にて通信を行うことが期待できる。
【0088】
上述したように、本実施形態に係る無線通信システム10では、定期的又は不定期に、複数のスレーブ装置30毎の通信品質の順位付けが更新される。そして、複数のスレーブ装置30の通信品質の順位付けが更新される毎に、マスタ装置20は、チャネルマップ制御の実施対象となるスレーブ装置30を選択し直す。従って、時々刻々と変化するマスタ装置20と各スレーブ装置30との通信環境の変化に対応して、その時々でチャネルマップ制御の実施対象として最適なスレーブ装置30を選択することができる。これにより、本実施形態に係る無線通信システム10では、同時にすべてのスレーブ装置30を対象としてチャネルマップ制御を実施しなくても、マスタ装置20と各スレーブ装置30との無線通信の品質を確保することができる。従って、後付でスレーブ装置30が追加されたり、当初のスレーブ装置30の数が多かったりしても、すべてのスレーブ装置30に対して同時期にチャネルマップ制御を実行できる高性能なマスタ装置20を用いなくても済むため、無線通信システムのコストアップを抑制することができる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に係る無線通信システム10について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る無線通信システム10は、第1実施形態の無線通信システム10と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0090】
第1実施形態に係る無線通信システム10は、定期的又は不定期の見直しタイミングにおいて、各スレーブ装置30のスレーブ装置通信品質を順位付けし、その結果に従って、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30を選択するものであった。それに対して、第2実施形態に係る無線通信システム10は、各スレーブ装置30の通信品質に係わらず、切り替え周期毎に、チャネルマップ制御の実施対象となる所定数のスレーブ装置30を複数のスレーブ装置30の中でシフトさせて、複数のスレーブ装置30が、それぞれチャネルマップ制御の実施対象となる頻度を均等化させるものである。そのため、第2実施形態に係る無線通信システム10と、第1実施形態に係る無線通信システム10とは、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30を選択する処理のみが異なる。以下、本実施形態に係る無線通信システム10において実施される、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30を選択する処理を
図9のフローチャートを参照して説明する。なお、
図8のフローチャートに示す処理は、切り替え周期以下の間隔で繰り返し実行される。
【0091】
ステップS510では、マスタ装置20は、所定の切り替え周期が経過して、チャネルマップ制御の実施対象となる所定数のスレーブ装置30を切り替える切り替えタイミングが到来したか否かを判定する。切り替えタイミングが到来したと判定すると、マスタ装置20は、ステップS520の処理に進む。一方、切り替えタイミングが到来していないと判定すると、マスタ装置20は、
図9のフローチャートに示す処理を終了する。
【0092】
ステップS520では、マスタ装置20は、複数のスレーブ装置30の中で、チャネルマップ制御の実施対象とする所定数のスレーブ装置30をシフトさせることにより、チャネルマップ制御の実施対象とするスレーブ装置30を選択する。
【0093】
例えば、
図10に示す例では、4つのスレーブ装置30が設けられており、1番目の切り替え周期が経過したタイミングで、スレーブ番号S1、S2、S3の3つのスレーブ装置30が選択される。そして、2番目の切り替え周期が経過したタイミングで、スレーブ番号S2、S3、S4の3つのスレーブ装置30が選択される。以下、同様にして、切り替え周期が経過する毎に、選択されるスレーブ装置30のスレーブ番号が1つずつずれるようにして、チャネルマップ制御の実施対象とする所定数のスレーブ装置30をシフトさせる。
【0094】
切り替え周期は一定であるので、
図10に示すように、切り替え周期が経過する毎に、チャネルマップ制御の実施対象とする所定数のスレーブ装置30をシフトさせることにより、複数のスレーブ装置30がそれぞれチャネルマップ制御の実施対象となる頻度は、ほぼ均等化させることができる。従って、複数のスレーブ装置30は、それぞれ、チャネルマップ制御の実施対象となっている期間は、所定の通信品質基準を満たした通信チャネルを介して通信を行うことができる。このため、複数のスレーブ装置30においてスレーブ通信品質に差があったとしても、全てのスレーブ装置30について、一定の通信信頼性を担保することができる。
【0095】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することが可能である。
【0096】
例えば、上述した第1実施形態では、通信チャネルの通信品質データ(RSSI値やPER値など)により通信品質の低下が判定されたとき、その通信品質の低下を判定した通信チャネルだけを削除するものであった。
【0097】
しかしながら、通信品質が低下したとみなして、マスタ装置20とスレーブ装置30との無線通信を行う通信チャネルから削除する通信チャネルは、通信チャネルの通信品質データ(RSSI値やPER値など)から直接的に通信品質が低下したと判定され得る通信チャネルに加えて、当該通信チャネルの近傍の通信チャネルを含んでも良い。1つの通信チャネルの通信品質が低下したと判定された場合、概して、その近傍の周波数の通信チャネルの通信品質も同様の傾向を示す可能性が高いためである。この場合、例えば、RSSI値とPER値とのいずれか一方がしきい値を満たさない場合よりも、RSSI値とPER値との両方がしきい値を満たさない場合、削除する通信チャネルの数を増やしても良い。
【0098】
最後に、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。以下の複数の技術的思想の組み合わせは、無線通信システム10のみでなく、無線通信方法にも当てはまる。
【0099】
(技術的思想1)
複数の通信チャネルから順次に選択される1つの通信チャネルを介して、マスタ装置(20)とスレーブ装置(30)との間で無線通信を実行する無線通信システムであって、
前記スレーブ装置は複数設けられ、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行い、
前記マスタ装置と複数の前記スレーブ装置との無線通信において、各々の前記スレーブ装置毎に、各通信チャネルの通信品質を判定し、各通信チャネルの通信品質の判定結果に基づいて、無線通信に使用する通信チャネルを決定する通信チャネル決定部(S70、S80、S100)と、
複数の前記スレーブ装置の中の一部の前記スレーブ装置を、前記通信チャネル決定部による通信チャネル決定の実施対象として選択する選択部(S410、S420、S430、S440、S450、S510、S520)と、を備え、
前記選択部は、実施対象となる前記スレーブ装置の選択を繰り返し実施する無線通信システム。
【0100】
(技術的思想2)
前記通信チャネル決定部は、各々の前記スレーブ装置毎に、通信品質の低下した通信チャネルを判定し、通信品質の低下が判定された通信チャネルを除外するように、無線通信に使用する通信チャネルを決定する、技術的思想1に記載の無線通信システム。
【0101】
(技術的思想3)
前記通信チャネル決定部は、通信品質の低下が判定され、無線通信に使用する通信チャネルから除外された通信チャネルの復帰の可否を判定し、復帰可と判定された通信チャネルを含むように、無線通信に使用する通信チャネルを決定する、技術的思想2に記載の無線通信システム。
【0102】
(技術的思想4)
前記選択部は、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行ったときの、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする順位付け部(S440)を備え、
前記選択部は、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けに基づいて、実施対象となる前記スレーブ装置を選択する、技術的思想1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【0103】
(技術的思想5)
前記選択部は、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けに従い、スレーブ装置通信品質が悪い方から所定数の前記スレーブ装置を選択して、選択した所定数の前記スレーブ装置を実施対象とする、技術的思想4に記載の無線通信システム。
【0104】
(技術的思想6)
前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けは、定期的に更新され、
前記選択部は、前記順位付け部により複数の前記スレーブ装置のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新される毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を選択し直す、技術的思想4又は5に記載の無線通信システム。
【0105】
(技術的思想7)
前記順位付け部は、複数の前記スレーブ装置がそれぞれ前記マスタ装置と無線通信を行ったときの、パケットエラーレート(PER)、ビットエラーレート(BER)、パケットアライバルレート(PAR)、受信信号強度インジケータ(RSSI)、信号雑音比(SNR)、信号干渉雑音比(SINR)の少なくとも1つに基づいて、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする、技術的思想4乃至6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【0106】
(技術的思想8)
前記順位付け部は、複数の前記スレーブ装置毎の無線通信に使用可能な通信チャネルの数に基づいて、複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質を順位付けする、技術的思想4乃至6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【0107】
(技術的思想9)
前記マスタ装置と複数の前記スレーブ装置との少なくとも一方は移動体に搭載され、
前記移動体の状態と前記移動体の周囲環境の状態の少なくとも一方が変化することに応じて、前記順位付け部による複数の前記スレーブ装置毎のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新され、
前記選択部は、前記順位付け部により複数の前記スレーブ装置のスレーブ装置通信品質の順位付けが更新される毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を選択し直す、技術的思想4乃至8のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【0108】
(技術的思想10)
前記移動体の状態の変化は、前記移動体の起動の有無、前記移動体に搭載された機器の起動の有無、前記移動体に搭載された無線機器による無線通信の有無、前記移動体の速度、前記移動体の移動距離、前記移動体の温度、前記移動体の振動の少なくとも1つに基づいて判定される、技術的思想9に記載の無線通信システム。
【0109】
(技術的思想11)
前記移動体の周囲環境の状態の変化は、前記移動体の環境温度、前記移動体の環境湿度、前記移動体の位置、前記移動体への搭乗者の接近の少なくとも1つに基づいて判定される、技術的思想9又は10に記載の無線通信システム。
【0110】
(技術的思想12)
前記選択部(S510、S520)は、切り替え周期毎に、実施対象となる前記スレーブ装置を複数の前記スレーブ装置の中でシフトさせて、複数の前記スレーブ装置が、それぞれ実施対象となる頻度を均等化させる、技術的思想1に記載の無線通信システム。
【符号の説明】
【0111】
10:無線通信システム、20:マスタ装置、21:制御回路、22:無線通信回路、23:アンテナ、30:スレーブ装置、31:制御回路、32:無線通信回路、33:アンテナ、211:プロセッサ、212:メモリ、311:プロセッサ、312:メモリ