(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171669
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】力布構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20241205BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20241205BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20241205BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20241205BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20241205BHJP
B60N 2/62 20060101ALI20241205BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/90
B68G7/05 B
B60N2/58
B60N2/68
B60N2/62
B60N2/64
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088807
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391032451
【氏名又は名称】富士シート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】西村 成生
(72)【発明者】
【氏名】河合 徹
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 善之
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD04
3B087CD05
3B087DB02
3B087DB04
3B087DE03
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】フレームが湾曲している場合でもバーストラインの破断とエアバッグの展開とを素早く行うことができる力布構造を提供する。
【解決手段】車両のシートに設けられたフレームとエアバッグとを筒状に覆う一組の力布と、前記力布の第一の縁部同士と前記シートのカバーとを縫製することで構成されたバーストラインと、前記力布の第二の縁部同士をつなぐファスナと、を備え、前記フレームは、前記バーストラインに向かって突出する湾曲部を有し、前記力布は、前記湾曲部を覆う前記ファスナの近傍に前記力布の周長を局所的に小さくした短縮部を有する、力布構造。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに設けられたフレームとエアバッグとを筒状に覆う一組の力布と、
前記力布の第一の縁部同士と前記シートのカバーとを縫製することで構成されたバーストラインと、
前記力布の第二の縁部同士をつなぐファスナと、を備え、
前記フレームは、前記バーストラインに向かって突出する湾曲部を有し、
前記力布は、前記湾曲部を覆う前記ファスナの近傍に前記力布の周長を局所的に小さくした短縮部を有する、
力布構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのエアバッグを覆う力布構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の側面衝突時にシートに着座した乗員を保護するサイドエアバッグが知られている。特許文献1は、シートバックを構成するサイドフレームの側面に固定されたサイドエアバッグを開示する。サイドエアバッグは、側面衝突に伴う衝撃に応じてガスを発生させるインフレータと、インフレータからのガスにより膨張して乗員を受け止めるためのバッグとを有する。このようなサイドエアバッグは、サイドフレームごと力布で筒状に覆われている。この力布は、2枚の布で構成される。2枚の布の前方の縁部は、シートカバーの縁部と縫製されることでバーストラインを構成する。2枚の布の後方の縁部は、ファスナによりつながれている。力布は、バッグが膨張する際の荷重を受けて引っ張られることで、バーストラインを破断させる。バーストラインの破断により、バッグが乗員の側方に膨張しながら展開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サイドフレームが湾曲している場合でもバーストラインの破断とバッグの展開とが素早く行われることが望まれる。サイドフレームは、シートに着座した乗員の背中のラインに沿い易いシートバックとするため、車両の前方に突出するように湾曲されていることがある。湾曲部を含むサイドフレームとサイドエアバッグとを力布で覆った場合、湾曲部の後面と力布との間に隙間が形成される。バッグの膨張時、荷重が入力された力布は、湾曲部の後面に近づくことで隙間を狭めるように挙動する。このような力布の挙動は、荷重を素早くバーストラインに伝達することの阻害要因となる。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、サイドフレームなどのフレームが湾曲している場合でもバーストラインの破断とエアバッグの展開とを素早く行うことができる力布構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の力布構造は、車両のシートに設けられたフレームとエアバッグとを筒状に覆う一組の力布と、前記力布の第一の縁部同士と前記シートのカバーとを縫製することで構成されたバーストラインと、前記力布の第二の縁部同士をつなぐファスナと、を備え、前記フレームは、前記バーストラインに向かって突出する湾曲部を有し、前記力布は、前記湾曲部を覆う前記ファスナの近傍に前記力布の周長を局所的に小さくした短縮部を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記力布構造は、短縮部を有することで、エアバッグのバーストラインの破断とエアバッグの展開とを素早く行うことができる。短縮部は、短縮部以外の箇所に比べて力布の周長が局所的に小さい箇所である。短縮部を有する力布は、短縮部のない力布に比べて、湾曲部に近づけることができる。つまり、力布と湾曲部の背面との間に形成される隙間を小さくできる。この隙間を小さくすることで、力布はエアバッグの膨張に伴う荷重をバーストラインに素早く伝達することができる。その結果、適切にバーストラインを破断させ、エアバッグを迅速に展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る力布構造を備えるシートの模式側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る力布構造を示す模式斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る力布構造における力布の配置を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る力布構造に用いられた外側力布の展開図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る力布構造に用いられた内側力布の展開図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る力布構造を示す模式斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る力布構造に用いられた外側力布の展開図である。
【
図9】
図9は、従来の力布構造における力布の配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る力布構造の詳細を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさなどは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係などを表すものではない。なお、図中、「FR」は車両の前方、「RR」は後方、「UP」は上方、「LWR」は下方、「LH」は左方、「RH」は右方を示す。また、図中、「IN」は車両の内側、「OUT」は車両の外側を示す。車両の内側は、車両の左右から車幅の二等分線に近づく側のことである。車両の外側は、車幅の二等分線から車両の左右に遠ざかる側のことである。
【0010】
《実施形態1》
(概要)
実施形態1に係る力布構造の詳細を
図1から
図6を参照して説明する。実施形態1に係る力布構造は、車両のシート1におけるサイドエアバッグに利用される。この力布構造は、
図2,
図4に示すように、一組の力布30と、バーストライン40と、ファスナ50と、を備える。一組の力布30は、車両のシートバック12に設けられたサイドフレーム12sとエアバッグ20とを筒状に覆う。バーストライン40は、力布30の第一の縁部同士、つまり本例では前縁同士とシートカバー14とを縫製することで構成される。ファスナ50は、力布30の第二の縁部同士、つまり本例では後縁同士をつなぐ。一方、サイドフレーム12sは、バーストライン40に向って突出する湾曲部を有する。本例では、サイドフレーム12sは、車両の前方に突出する湾曲部を有する。湾曲部は
図1,
図3を参照して後述する下部湾曲部12bcである。実施形態1に係る力布構造の特徴の一つは、
図2,
図4に示すように、力布30が、湾曲部を覆うファスナ50の近傍に力布30の周長を局所的に小さくした短縮部32sを有することにある。以下、シート1の構成の概要を述べ、その後に力布構造の詳細を説明する。
【0011】
(シート)
シート1は、
図1に示すように、シートクッション11、シートバック12、およびヘッドレスト13、を備える。
図1では、力布は図示を省略している。本例のシート1は、運転席のシートである。シートクッション11は、乗員の座面を構成する。シートバック12は、乗員の背中を支持する。ヘッドレスト13は、乗員の後頭部を支持する。シートクッション11、シートバック12およびシートクッション11の各々は、シートカバー14で覆われている。シートクッション11およびヘッドレスト13については、公知の構成が利用できるため詳細な説明を省略する。
【0012】
本例の力布構造を備えるシートバック12は、シートクッション11に対して傾倒自在に構成されている。このシートバック12は、
図1から
図4に示すように、シートバックフレーム12fが内蔵されている。シートバックフレーム12fは、左右のサイドフレーム12sと、両サイドフレーム12sの上端部をつなぐアッパーフレームと、両サイドフレーム12sの下端部をつなぐロアフレームとで枠状に構成されている。アッパーフレームおよびロアフレームは図示を省略する。また、
図4では、力布30およびサイドフレーム12s以外の部材のハッチングは省略している。
【0013】
図1から
図4では、車両の右側のサイドフレーム12sを示している。サイドフレーム12sは、シートバック12を乗員の背中のラインに沿った形状とするため、S字状に湾曲されている。具体的には、
図1、
図3に示すように、サイドフレーム12sは、上部湾曲部12tcと下部湾曲部12bcとを有する。いずれの湾曲部も円弧状に湾曲されている。上部湾曲部12tcは、サイドフレーム12sの上部から中間部にかけて後方に突出するように湾曲されている。下部湾曲部12bcは、サイドフレーム12sの中間部から下部にかけて前方に突出するように湾曲されている。下部湾曲部12bcは請求項1に規定する湾曲部に相当する。この下部湾曲部12bcには、後述するエアバッグ20が固定されている。
【0014】
さらに本例のシートバック12は、
図4に示すように、乗員を左右から支持するサイドサポート15を有する。シートバック12のシートカバー14は、シートバック12の前面の左右を覆うサイドサポートカバー15cと、シートバック12の側面を覆うサイドカバー14sと、シートバック12の後面を覆うリアカバー14rとを有する。サイドサポートカバー15cの外側の縁部、本例では右側の縁部は、サイドカバー14sの前縁部と縫製されている。この縫製箇所は、後述するように、力布30と共に縫製され、バーストライン40を構成する。サイドサポートカバー15cの内側の縁部は、シートバック12の中央部を覆うメインカバー14mの外側の縁部と縫製されている。サイドカバー14sの後縁部は、リアカバー14rの外側の縁部と縫製されている。
【0015】
シートカバー14で覆われるシートバック12内は、クッション材となるパッド16が内蔵されている。
図4では、サイドフレーム12sの前方と後方にパッド16が配置されている。
【0016】
(エアバッグ)
図1に示すように、上述したシートバック12のサイドフレーム12sの外側にはエアバッグ20が固定されている。本例では、サイドフレーム12sの下部湾曲部12bcを構成する右側面にエアバッグ20がボルトにより締結されている。エアバッグ20は、図示しないセンサ、インフレータ、バッグおよびパッケージを備える。
【0017】
センサは、車両の衝突に伴う衝撃を検知する。本例では、車両の側面衝突時の衝撃を検知するようにセンサが設けられている。インフレータは、センサからの信号を受けてガスを発生させる。バッグは、インフレータからのガスにより膨張し、乗員を受け止めるための袋状の部材である。バッグは、所定の折り畳み方で折り畳まれて、インフレータと共に直方体状のパッケージ内に収納されている。パッケージは、その長辺が概ねサイドフレーム12sの上下方向に沿うように配置されている。センサ、インフレータ、バッグおよびパッケージのいずれも、公知の構成が利用できる。
【0018】
(力布)
力布30は、
図2に示すように、サイドフレーム12sとエアバッグ20を筒状に覆う布である。この力布30は、バッグの膨張に伴う荷重をバーストライン40に伝達し、バッグの展開方向を案内する機能を有する。力布30は、一組の布から構成される。本例では、主にサイドフレーム12sの外側に配置される外側力布31と、主にサイドフレーム12sの内側に配置される内側力布32と、を備える。
図4に示すように、外側力布31は、サイドフレーム12sの後面からエアバッグ20の後面を経てサイドカバー14sとエアバッグ20の右側面との間を通ってサイドカバー14sの前縁部に向かって延びる。内側力布32は、サイドフレーム12sの後面から左側面および前面を経てサイドサポートカバー15cの右側縁部に向かって延びる。サイドサポートカバー15cの右側縁部とサイドカバー14sの前縁部とは、内側に折り込まれて重ねられている。一方、外側力布31の前縁部と内側力布32の前縁部とは、サイドサポートカバー15cの右側縁部とサイドカバー14sの前縁部との重複箇所を挟むように内側に折り込まれている。つまり、車両の外側から順に、外側力布31の前縁部、サイドカバー14sの前縁部、サイドサポートカバー15cの右側縁部および内側力布32の前縁部は重ねられている。これらの重複箇所は縫製されることでバーストライン40が構成される。バーストライン40は、バッグの膨張に伴う荷重が力布30に入力されることで破断される箇所である。バーストライン40の破断により、バッグはシートカバー14の外部に展開される。バーストライン40は、サイドサポートカバー15cの右側縁部とサイドカバー14sの前縁部との縫製箇所のうち、外側力布31の前縁部と内側力布32の前縁部とが重ねられた領域である。
【0019】
展開状態の外側力布31を
図5に示す。本例の外側力布31は、矩形状部31rと、矩形状部31rにつながる扇状部31fとを有する。矩形状部31rのほぼ中央には、山折り線31mが設けられている。この山折り線31mで矩形状部31rを折り曲げることで、矩形状部31rの第一の端縁31feは矩形状部31rの第二の端縁31seに重ねられる。第一の端縁31feと第二の端縁31seとは、互いに重ねられた状態で縫製される。その結果、山折り線31mが外側力布31の後縁を構成する。外側力布31の後縁は、後述するファスナ50のテープ51と接続される。外側力布31の後縁は直線状である。矩形状部31rの第二の端縁31seは、扇状部31fの短縁31Sでもある。扇状部31fの長縁31Lは外側力布31の前縁に相当する。本例では、
図2,
図4に示すように、第一の端縁31feを筒状の力布30の内側に折り重ねたが、第一の端縁31feを筒状の力布30の外側に折り重ねてもよい。
【0020】
展開状態の内側力布32を
図6に示す。本例の内側力布32は、矩形状部32rと、矩形状部32rにつながるT字状部32tとを有する。矩形状部32rのほぼ中央には、山折り線32mが設けられている。この山折り線32mで矩形状部32rを折り曲げることで、矩形状部32rの第一の端縁32feは矩形状部32rの第二の端縁32seに重ねられる。第一の端縁32feと第二の端縁32seとは、互いに重ねられた状態で縫製される。その結果、山折り線32mが内側力布32の後縁を構成する。内側力布32の後縁は、後述するファスナ50のテープ51と接続される。内側力布32の後縁は直線状である。矩形状部32rの第二の端縁32seは、T字状部32tの短縁32Sでもある。T字状部32tの長縁32Lは内側力布32の前縁に相当する。本例では、
図2,
図4に示すように、第一の端縁32feを筒状の力布30の内側に折り重ねたが、第一の端縁32feを筒状の力布30の外側に折り重ねてもよい。
【0021】
外側力布31の扇状部31fと内側力布32のT字状部32tを有することで、力布30でサイドフレーム12sとエアバッグ20を覆った場合、力布30の各部におけるテンションを均一化することができる。このテンションの均一化により、シートカバー14の表面に皴が生じることを抑制できる。
【0022】
(ファスナ)
外側力布31の後縁と内側力布32の後縁とは、ファスナ50を介して接続される。ファスナ50は、
図2、
図4に示すように、一対のテープ51と、各テープ51の一方の側縁に沿って設けられたエレメント群52と、両テープ51のエレメント群52に沿ってスライド自在に装着されたスライダ53とを備える。ファスナ50は、スライダ53のスライドに伴うエレメント群52の噛み合わせによって開閉される。具体的には、スライダ53をテープ51の長手方向に沿ってスライドさせてエレメント群52を噛み合わせることでファスナ50が閉じる。また、スライダ53をテープ51の長手方向に沿って逆向きにスライドさせてエレメント群52の噛み合いを解除させることでファスナ50が開く。
図2では、ファスナ50を閉じた状態を示している。
【0023】
一対のテープ51のいずれかは外側力布31の後縁に縫製され、残りのテープ51は内側力布32の後縁に縫製される。本例では、ファスナ50は、筒状の力布30の外側に縫製されている。但し、ファスナ50は、筒状の力布30の内側に縫製されていてもよい。一般に、ファスナ50は、エレメント群52同士を噛合した状態において、テープ51の表面および裏面のいずれかを曲げの内側、残りを曲げの外側とするフラットワイズには曲げやすい。一方、ファスナ50は、エレメント群52同士を噛合したテープ51の両側縁のいずれかを曲げの内側、残りを曲げの外側とするエッジワイズには曲げ難い。外側力布31の後縁および内側力布32の後縁が直線状であれば、ファスナ50をエッジワイズに曲げることなく直線状の各テープ51と縫製し易い。このファスナ50には、市販のものを利用できる。本例において、ファスナ50はサイドフレーム12sの後面に向き合うように配置される。サイドフレーム12sの下部湾曲部12bcの後面とファスナ50との間には、隙間60が形成される。この隙間60は、
図3に示すように、シート1を車両の側方から見た場合、弓形の形状を有する。
【0024】
(短縮部)
力布30は、
図2から
図4に示すように、力布30の周長を局所的に小さくした短縮部32sを有する。短縮部32sは、短縮部32s以外の箇所に比べて力布30の周長が局所的に小さい箇所である。本例では、内側力布32のみに短縮部32sを設けている。短縮部32sを内側力布32に設けると、サイドカバー14sに短縮部32sに起因する皴がよることがない。短縮部32sを外側力布31に設けた場合、短縮部32sにサイドカバー14sが重ねられる。そのため、サイドカバー14sの表面に短縮部32sに起因する皴が表れることがある。短縮部32sを内側力布32に設けた場合、短縮部32sとサイドカバー14sとが重ならないことで、皴の発生が抑制される。本例と異なり、外側力布31のみに短縮部32sを設けてもよいし、内側力布32と外側力布31の双方に短縮部32sを設けてもよい。つまり、短縮部32sの数は一つでも複数でもよい。
【0025】
本例の短縮部32sは、
図2,
図4に示すように、内側力布32の一部を折り畳んだ重ね部で構成している。具体的には、この短縮部32sは、内側力布32の一部をZ字状またはS字状に折り畳み、その折り畳まれた状態を保持するように縫製することで構成される。本例における短縮部32sの縫製箇所は、
図6における第一の端縁32feと第二の端縁32seとを重ねた箇所の縫製部と隣り合う位置に設けられている。このような短縮部32sは、内側力布32とファスナ50のテープ51とを縫製した後、内側力布32の一部を折り畳んだ箇所を追加で縫製することにより容易に形成することができる。
【0026】
筒状の力布30における軸沿いの短縮部32sの位置は、下部湾曲部12bcの全長の一部に対応する箇所に設けられていればよい。例えば、短縮部32sがなかった場合に、力布30と下部湾曲部12bcの後面との距離が最も大きくなる箇所を含むように、短縮部32sを設ければよい。本例では、下部湾曲部12bcの延伸方向のほぼ中間部に短縮部32sを設けている。
図3では、短縮部32sの設けられた箇所を破線の長方形で示している。
【0027】
筒状の力布30における軸回りの短縮部32sの位置は、力布30のうち、下部湾曲部12bcを覆うファスナ50の近傍である。下部湾曲部12bcを覆うファスナ50の近傍の力布30に短縮部32sを設けることで、力布30と下部湾曲部12bcとの間にできる隙間60を小さくし易い。本例では、
図4に示すように、内側力布32の第一の端縁32feと第二の端縁32seとを重ねた縫製箇所と隣り合う位置に短縮部32sが設けられている。
【0028】
本例において、ファスナ50は下部湾曲部12bcの後面に向き合うように配置されている。
図3,
図4に示すように、バッグの膨張時、ファスナ50とファスナ50の近傍の力布30は、下部湾曲部12bcの後面に近づくことで隙間60を狭めるように挙動する。この挙動は、バッグの膨張に伴って力布30に入力される荷重を素早くバーストライン40に伝達することを妨げる。そのため、この隙間60を可及的に小さくするように短縮部32sを設けることで、ファスナ50とファスナ50の近傍の力布30が下部湾曲部12bcの後面に近づく変位量を小さくできる。この変位量が小さければ、力布30はバッグの膨張に伴う荷重をバーストライン40に素早く伝達することができる。その結果、適切にバーストライン40を破断させ、エアバッグ20を迅速に展開することができる。
【0029】
これに対し、
図9,
図10に示すように、短縮部32sがない場合、サイドフレーム12sおよびエアバッグ20の後面とファスナ50およびファスナ50の近傍の力布30との間には、大きな隙間60が設けられる。この隙間60が大きい場合、バッグの膨張時、ファスナ50およびファスナ50の近傍の力布30は、サイドフレーム12sおよびエアバッグ20の後面に近づくことで大きく変位することができる。この変位が大きいと、バッグの膨張に伴って力布30に入力される荷重を素早くバーストライン40に伝達することが難しい。
【0030】
《実施形態2》
次に、
図7,
図8を参照して、外側力布31に縫い目71からなる縫製部70を設けた実施形態2を説明する。実施形態2は、外側力布31が縫製部70を有する点を除いて実施形態1と同様の構成である。以下の説明は、主に実施形態1との相違点について行い、共通点については説明を省略する。
【0031】
外側力布31の扇状部31fには2つで一組の縫い目71からなる縫製部70が設けられている。本例では、一組の縫製部70が設けられているが、複数組の縫製部70が設けられていてもよい。
【0032】
縫製部70は、外側力布31の伸縮性を低減させる。伸縮性が低減された外側力布31は、縫製部70のない力布30に比べて、バッグの膨張に伴う荷重を伝達し易い。そのため、バーストライン40の迅速な破断とバッグの迅速な展開を実現できる。
【0033】
本例における縫製部70の各縫い目71は、扇状部31fの短縁31S、つまり扇状部31fの後方ほど上下に離間し、扇状部31fの長縁31L、つまり扇状部31fの前方ほど互いに近接するように延びている。より具体的には、上方の縫い目71の後端は扇状部31fの短縁31Sの上端に位置し、上方の縫い目71の前端は扇状部31fの長縁31Lのほぼ中央部に位置する。一方、下方の縫い目71の後端は扇状部31fの短縁31Sの下端に位置し、下方の縫い目71の前端は扇状部31fの長縁31Lのほぼ中央部に位置する。いずれの縫い目71も直線状である。つまり、扇状部31fの短縁31S、扇状部31fの長縁31L、上方の縫い目71および下方の縫い目71で囲まれる領域は、台形状に構成される。
【0034】
縫製部70の各縫い目71は、扇状部31fの後方ほど上下に離間していることで、外側力布31の広範囲にわたって伸縮性を低減させる。一方、縫製部70の各縫目は、扇状部31fの前方ほど互いに近接することで、力布30に入力される荷重を外側力布31の長縁31Lにおける特定領域に集中的に伝達し易い。この特定領域は、外側力布31の長縁31Lのうち、各縫い目71の前端同士で挟まれる領域である。つまり、バーストライン40の破断開始点41を含むように特定領域を設けることで、バーストライン40を破断開始点41から上下に広がるように適切に破断させることができる。
【0035】
本例では、短縮部32sが内側力布32に設けられ、縫製部70が外側力布31に設けられることで、バッグの膨張に伴う荷重を両力布30のいずれからもバーストライン40に素早く伝達することができる。特に、車両の側方からシートバック12を見た場合、下部湾曲部12bcの円弧を構成する直径の延長線のうち、下部湾曲部12bcの中央を通る線分100と交差するように短縮部32sおよび特定領域の少なくとも一方を設けることが好ましい。本例では、下部湾曲部12bcの中央とバーストライン40の破断開始点41とが、力布30の軸沿いで上下のほぼ同じ位置に設けられている。換言すれば、下部湾曲部12bcの中央部、短縮部32s、およびバーストライン40の破断開始点41は、いずれも線分100上に位置している。
【0036】
下部湾曲部12bcの中央部とバーストライン40の破断開始点41が力布30の軸沿いで上下にずれている場合、短縮部32sは下部湾曲部12bcの中央を含む位置に設け、外側力布31の特定領域は破断開始点41を含むように設けることが好ましい。
【0037】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0038】
実施形態1,2では短縮部32sとして、力布30を部分的に折り畳んで縫い合わせた構成を示したが、他の構成でもよい。例えば、力布30を部分的に折り畳んで接着剤で折り畳まれた状態に保持してもよい。その他、力布30がファスナ50のテープ51と縫製される縁部を曲線状にカットしてもよい。その場合、力布30の曲線状の縁部と直線状に構成されたファスナ50のテープ51とを力布30の縁部に合わせて曲線状に縫製してもよい。いずれにせよ、ファスナ50の近傍における力布30のうち、サイドフレーム12sの湾曲部に対応した部位の周長が局所的に小さくなるように構成されていればよい。
【0039】
その他、本発明の力布構造は、シートクッションのエアバッグにも適用できる。例えば、力布は、シートクッションのサイドフレームと上記サイドフレームに固定されたシートクッションエアバッグとを筒状に覆う。このサイドフレームにも湾曲部が設けられている。この湾曲部は、例えば上方に向かって突出する。この場合も、実施形態1や実施形態2と同様に、湾曲部を覆うファスナの近傍に力布の周長を局所的に小さくした短縮部を設ければよい。さらに、シートクッションのフロントフレームにシートクッションエアバッグを設けた場合にも、本発明の力布構造を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 シート
11 シートクッション
12 シートバック
12f シートバックフレーム
12s サイドフレーム
12tc 上部湾曲部
12bc 下部湾曲部
13 ヘッドレスト
14 シートカバー
14s サイドカバー
14r リアカバー
14m メインカバー
15 サイドサポート
15c サイドサポートカバー
16 パッド
20 エアバッグ
30 力布
31 外側力布
31r 矩形状部
31f 扇状部
31L 長縁
31S 短縁
31m 山折り線
31fe 第一の端縁
31se 第二の端縁
32 内側力布
32r 矩形状部
32t T字状部
32L 長縁
32S 短縁
32m 山折り線
32fe 第一の端縁
32se 第二の端縁
32s 短縮部
40 バーストライン
41 破断開始点
50 ファスナ
51 テープ
52 エレメント群
53 スライダ
60 隙間
70 縫製部
71 縫い目
100 線分