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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171671
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20241205BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241205BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20241205BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088811
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】地引 望
(72)【発明者】
【氏名】金 相勲
(72)【発明者】
【氏名】倉永 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA15
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】変動電力を用いて電気分解を行ってガスを生成する際、効率良くガスを生成する。
【解決手段】本開示に係る電解装置10は、電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽11-1~11-nと、複数の電解槽11-1~11-nのそれぞれに設置され複数の電解槽11-1~11-nのそれぞれに電流を供給する複数の整流器12-1~12-nと、複数の整流器12-1~12-nが複数の電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御する制御部16と、を備える。制御部16は、複数の電解槽11-1~11-nの全体に供給する電力を指示する電力指令を取得し、電力指令に基づいて、複数の電解槽11-1~11-nが発生するガスの発生量の総和が最大になるように電流の分配量を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれに電流を供給する複数の整流器と、
前記複数の整流器が前記複数の電解槽に供給する電流の分配量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数の電解槽の全体に供給する電力を指示する電力指令を取得し、
前記電力指令に基づいて、前記複数の電解槽が発生する前記ガスの発生量の総和が最大になるように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電解装置において、
前記電力指令が指示する前記電力は、時間とともに変動する電力である、電解装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電解装置において、
前記電力指令が指示する前記電力は、再生可能エネルギーによる発電量に依存して時間とともに変動する電力である、電解装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれについて温度ごとの電流-電圧特性を格納している記憶部と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの温度を検出する複数の温度センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記複数の温度センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの温度に対応する前記電流-電圧特性を前記記憶部から読み出し、読み出した前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性に基づいて前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電解装置において、
前記制御部は、前記電力指令と、前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性とに基づいて、前記ガスの発生量の総和が最大になるように非線形計画問題を解いて前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電解装置において、
前記制御部は、逐次2次計画法、ペナルティ関数法、拡張ラグランジュ関数法及び内点法のいずれかを用いて前記非線形計画問題を解く、電解装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサをさらに備え、
前記制御部は、
前記複数の電圧センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電圧と、前記電力指令とに基づいて、前記複数の電解槽に供給する電流の総和を算出し、
前記電流の総和と、前記電解槽の許容電流値の下限値とに基づいて、前記複数の電解槽のうち電流を供給する電解槽の個数を算出する、電解装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれについて温度ごとの電流-電圧特性を格納している記憶部と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの温度を検出する複数の温度センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記複数の温度センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの温度に対応する前記電流-電圧特性を前記記憶部から読み出し、読み出した前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性と、前記複数の電解槽のうち電流を供給する電解槽の個数とに基づいて、前記複数の電解槽のうちどの電解槽に電流を供給するかを選択する、電解装置。
【請求項9】
請求項4に記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサをさらに備え、
前記制御部は、前記電圧センサが検出した電圧と、前記記憶部から読み出した前記電流-電圧特性から算出される、前記電流の分配量に応じた前記電解槽の電圧の推定値との差分に基づいて、前記記憶部が格納している前記電流-電圧特性を更新する、電解装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電流を検出する複数の電流センサと、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記複数の電流センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電流と、前記複数の電圧センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電圧とに基づいて、前記複数の電解槽の使用電力の総和の実績値を算出し、
前記電力指令と前記実績値との差分に基づいて、前記差分を補償するように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【請求項11】
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれに電流を供給する複数の整流器と、
前記複数の整流器が前記複数の電解槽に供給する電流の分配量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数の電解槽が全体で発生させるガスの量を指示するガス製造量指令を取得し、
前記ガス製造量指令に基づいて、前記複数の電解槽で使用する電力の総和が最小になるように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を電気分解して水素及び酸素を発生させる電解装置が知られている。通常、電解装置は電解槽を備え、電解槽において水を電気分解する。大型の電解装置においては、複数の電解槽を同時に動作させて、大量の水素を発生させることが多い。
【0003】
例えば特許文献1は、複数のセルスタック(電解槽)を備え、各セルスタックに作用する電圧及び電流が所定範囲内となるようにセルスタックの使用数を選定する水素製造設備を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-126792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽光及び風力のような再生可能エネルギーによって発電された電力を用いて水を電気分解すると、二酸化炭素の排出を低減して水素を生成することができる。
【0006】
再生可能エネルギーによって発電される電力は、時間とともに変動する電力である。このような変動電力を用いて電気分解を行って水素などのようなガスを生成する際、効率良くガスを生成することが望ましい。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、変動電力を用いて電気分解を行ってガスを生成する際、効率良くガスを生成することを可能とする電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれに電流を供給する複数の整流器と、
前記複数の整流器が前記複数の電解槽に供給する電流の分配量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数の電解槽の全体に供給する電力を指示する電力指令を取得し、
前記電力指令に基づいて、前記複数の電解槽が発生する前記ガスの発生量の総和が最大になるように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
[2]
[1]に記載の電解装置において、
前記電力指令が指示する前記電力は、時間とともに変動する電力である、電解装置。
[3]
[1]又は[2]に記載の電解装置において、
前記電力指令が指示する前記電力は、再生可能エネルギーによる発電量に依存して時間とともに変動する電力である、電解装置。
[4]
[1]から[3]のいずれかに記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれについて温度ごとの電流-電圧特性を格納している記憶部と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの温度を検出する複数の温度センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記複数の温度センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの温度に対応する前記電流-電圧特性を前記記憶部から読み出し、読み出した前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性に基づいて前記電流の分配量を制御する、電解装置。
[5]
[1]から[4]のいずれかに記載の電解装置において、
前記制御部は、前記電力指令と、前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性とに基づいて、前記ガスの発生量の総和が最大になるように非線形計画問題を解いて前記電流の分配量を制御する、電解装置。
[6]
[1]から[5]のいずれかに記載の電解装置において、
前記制御部は、逐次2次計画法、ペナルティ関数法、拡張ラグランジュ関数法及び内点法のいずれかを用いて前記非線形計画問題を解く、電解装置。
[7]
[1]から[6]のいずれかに記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサをさらに備え、
前記制御部は、
前記複数の電圧センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電圧と、前記電力指令とに基づいて、前記複数の電解槽に供給する電流の総和を算出し、
前記電流の総和と、前記電解槽の許容電流値の下限値とに基づいて、前記複数の電解槽のうち電流を供給する電解槽の個数を算出する、電解装置。
[8]
[1]から[7]のいずれかに記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれについて温度ごとの電流-電圧特性を格納している記憶部と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの温度を検出する複数の温度センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記複数の温度センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの温度に対応する前記電流-電圧特性を前記記憶部から読み出し、読み出した前記複数の電解槽の前記電流-電圧特性と、前記複数の電解槽のうち電流を供給する電解槽の個数とに基づいて、前記複数の電解槽のうちどの電解槽に電流を供給するかを選択する、電解装置。
[9]
[1]から[8]のいずれかに記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサをさらに備え、
前記制御部は、前記電圧センサが検出した電圧と、前記記憶部から読み出した前記電流-電圧特性から算出される、前記電流の分配量に応じた前記電解槽の電圧の推定値との差分に基づいて、前記記憶部が格納している前記電流-電圧特性を更新する、電解装置。
[10]
[1]から[9]のいずれかに記載の電解装置において、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電流を検出する複数の電流センサと、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれの電圧を検出する複数の電圧センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記複数の電流センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電流と、前記複数の電圧センサが検出した前記複数の電解槽のそれぞれの電圧とに基づいて、前記複数の電解槽の使用電力の総和の実績値を算出し、
前記電力指令と前記実績値との差分に基づいて、前記差分を補償するように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
[11]
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽と、
前記複数の電解槽のそれぞれに設置され前記複数の電解槽のそれぞれに電流を供給する複数の整流器と、
前記複数の整流器が前記複数の電解槽に供給する電流の分配量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数の電解槽が全体で発生させるガスの量を指示するガス製造量指令を取得し、
前記ガス製造量指令に基づいて、前記複数の電解槽で使用する電力の総和が最小になるように前記電流の分配量を制御する、電解装置。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電解装置によれば、変動電力を用いて電気分解を行ってガスを生成する際、効率良くガスを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る電解装置の概略構成図である。
図2】電解槽の電流-電圧特性の一例を示す図である。
図3】一実施形態に係る電解装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】電解槽の個数が2個である場合の電流-電圧特性の一例を示す図である。
図5】電解槽の個数が2個である場合の水素製造量の最大化の一例を示す図である。
図6】電解槽を選択する動作の一例を示すフローチャートである。
図7】電解槽の電流-電圧特性を更新する動作の一例を示すフローチャートである。
図8】電解槽の電流-電圧特性を更新する様子を模式的に示す図である。
図9】電力指令と使用電力の実績値との差分を補償する動作を示す概念図である。
図10】変形例に係る電解装置の概略構成図である。
図11】変形例に係る電解装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図12】電解槽の個数が2個である場合の電流-電圧特性の一例を示す図である。
図13】電解槽の個数が2個である場合の使用電力量の最小化の一例を示す図である。
図14】ガス製造指令とガス製造量の実績値との差分を補償する動作を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る電解装置10の概略構成図である。図1を参照して、一実施形態に係る電解装置10の構成及び機能を説明する。
【0013】
電解装置10は、液体を電気分解することができる装置である。電解装置10が電気分解する液体は、電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体である。液体は、例えば水であってよい。
【0014】
液体が水である場合、電解装置10は、水を電気分解して、ガスとして水素及び酸素を発生させる。電解装置10が電気分解する液体は、水に限定されない。液体は例えば食塩水であってもよい。以後の実施形態の説明においては、液体が水である場合を例に挙げて説明する。
【0015】
電解装置10は、複数の電解槽11-1~11-nと、複数の整流器12-1~12-nと、複数の電流センサ13-1~13-nと、複数の電圧センサ14-1~14-nと、複数の電圧センサ14-1~14-nと、複数の温度センサ15-1~15-nと、制御部16と、記憶部17とを備える。
【0016】
本実施形態においては、電解装置10が、n個の電解槽11-1~11-n、n個の整流器12-1~12-n、n個の電流センサ13-1~13-n、n個の電圧センサ14-1~14-n及びn個の温度センサ15-1~15-nを備える場合を例として示している。nは、2以上の任意の整数であってよい。
【0017】
電解槽11-1~11-nについては、特に区別する必要がない場合、単に「電解槽11」と称して説明する場合がある。整流器12-1~12-nについては、特に区別する必要がない場合、単に「整流器12」と称して説明する場合がある。電流センサ13-1~13-nについては、特に区別する必要がない場合、単に「電流センサ13」と称して説明する場合がある。電圧センサ14-1~14-nについては、特に区別する必要がない場合、単に「電圧センサ14」と称して説明する場合がある。温度センサ15-1~15-nについては、特に区別する必要がない場合、単に「温度センサ15」と称して説明する場合がある。
【0018】
電解槽11は、電気分解の対象である液体を収容する。電解槽11が収容する液体は、電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体である。電解槽11は、液体を電気分解することが可能な任意の電解槽であってよい。液体は、ポンプなどによって電解槽11に供給されてよい。本実施形態においては、液体が水である場合を例に挙げて説明する。
【0019】
電解槽11は、電極として陽極及び陰極を備える。電解槽11の陽極と陰極との間に電圧が印加され、電解槽11が収容している水に電流が流れると、水は電気分解され、水素及び酸素が発生する。
【0020】
電解槽11において発生した水素は、水素用のタンクに送出される。電解槽11において発生した酸素は、酸素用のタンクに送出される。図1においては、水素用のタンク及び酸素用のタンクの図示を省略している。
【0021】
整流器12-1~12-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nに設置されている。整流器12-1~12-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nに電流を供給することができる。
【0022】
整流器12-1~12-nは、電解装置10の外部にある発電装置1から電力を供給される。
【0023】
発電装置1は、再生可能エネルギーによって発電する発電装置である。再生可能エネルギーは、例えば、太陽光、風力、水力及び地熱などであってよい。発電装置1は再生可能エネルギーによって発電するため、発電装置1が整流器12-1~12-nに供給する電力は、時間とともに変動する。
【0024】
整流器12は、電解槽11の陽極及び陰極に電気的に接続されている。整流器12は、発電装置1から供給される電力を直流に変換して、電解槽11の陽極と陰極との間に電流を供給する。整流器12が供給する電流は、電解槽11が収容している水に流れる。
【0025】
整流器12は、制御部16からの指令に応じて、電解槽11に供給する電流の大きさを制御することができる。
【0026】
整流器12は、供給する電流の大きさを制御することができる任意の構成の整流器であってよい。
【0027】
電流センサ13-1~13-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nに設置されている。電流センサ13-1~13-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nの電流を検出することができる。
【0028】
ここで、電解槽11の電流とは、整流器12が電解槽11に供給し、電解槽11の陽極と陰極との間に流れている電流のことを意味する。
【0029】
電流センサ13は、任意の構成の電流センサであってよい。
【0030】
電流センサ13は、検出した電流の値を制御部16に出力する。なお、図1においては、電流センサ13と制御部16との接続を図示することを省略している。
【0031】
電圧センサ14-1~14-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nに設置されている。電圧センサ14-1~14-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nの電圧を検出することができる。
【0032】
ここで、電解槽11の電圧とは、電解槽11の陽極と陰極との間の電圧のことを意味する。
【0033】
電圧センサ14は、任意の構成の電圧センサであってよい。
【0034】
電圧センサ14は、検出した電圧の値を制御部16に出力する。なお、図1においては、電圧センサ14と制御部16との接続を図示することを省略している。
【0035】
温度センサ15-1~15-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nに設置されている。温度センサ15-1~15-nは、それぞれ、電解槽11-1~11-nの温度を検出することができる。
【0036】
温度センサ15は、任意の構成の温度センサであってよい。
【0037】
温度センサ15は、検出した温度の値を制御部16に出力する。なお、図1においては、温度センサ15と制御部16との接続を図示することを省略している。
【0038】
制御部16は、電解装置10全体及び電解装置10の各ブロックを制御する。制御部16は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせを含む。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。
【0039】
制御部16は、電解装置10の外部から電力指令を取得する。電力指令は、複数の電解槽11-1~11-nの全体に供給する電力を指示する指令である。
【0040】
電力指令は、例えば、発電装置1を管理している組織のサーバが送信する指令であってよい。電力指令は、発電装置1の発電量に基づいて変動する指令であってよい。すなわち、発電装置1の発電量が大きいときは、電力指令が指示する電力は大きく、発電装置1の発電量が小さいときは、電力指令が指示する電力は小さい。
【0041】
発電装置1の発電量は時間とともに変動する。したがって、電力指令が指示する電力は、時間とともに変動する。また、発電装置1は再生可能エネルギーによって発電しているため、電力指令が指示する電力は、再生可能エネルギーによる発電量に依存して時間とともに変動する。
【0042】
制御部16は、取得した電力指令に基づいて、複数の電解槽11-1~11-nが発生する水素の発生量(ガスの発生量)の総和が最大になるように、複数の整流器12-1~12-nが複数の電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御する。
【0043】
制御部16の動作の詳細については後述する。
【0044】
記憶部17は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であってよい。記憶部17は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部17は、電解装置10の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、記憶部17は、システムプログラム、アプリケーションプログラム及び各種情報等を記憶してもよい。
【0045】
記憶部17は、複数の電解槽11-1~11-nのそれぞれについて温度ごとの電流-電圧特性を格納している。電解槽11の電流-電圧特性とは、整流器12が電解槽11に電流を供給して電解槽11が収容している水に電流が流れているときの、電流と電圧との関係である。このときの電圧は、電解槽11の陽極と陰極との間の電圧である。
【0046】
電解槽11の電流-電圧特性は、電解槽11ごとに異なる。そのため、記憶部17は、電解槽11ごとに電流-電圧特性を格納している。また、電解槽11の電流-電圧特性は、電解槽11の温度に依存する。そのため、記憶部17は、それぞれの電解槽11について、温度ごとに電流-電圧特性を格納している。
【0047】
記憶部17が格納している電解槽11の電流-電圧特性は、予め実測した電流及び電圧に基づいて近似式をフィッティングして作成したものである。
【0048】
図2に、記憶部17が格納している、ある電解槽11の電流-電圧特性の一例を示す。図2に示す例においては、記憶部17は、電解槽11の温度が30[℃]、50[℃]、60[℃]、70[℃]、80[℃]及び90[℃]の場合の電流-電圧特性を格納している。なお、図2に示した電流-電圧特性は一例であり、記憶部17は、より細かい温度間隔で電流-電圧特性を格納していてもよいし、より粗い温度間隔で電流-電圧特性を格納していてもよい。
【0049】
なお、電解槽11が発生する水素の量は、電解槽11の電流に比例する。電解槽11の消費電力は、電解槽11の電流と電解槽11の電圧との積である。したがって、同じ電流のときの電圧が小さい電解槽11の方が性能の良い電解槽11であるといえる。同じ電流のときの電圧が小さいということは、同じ量の水素を発生させるときの消費電力が小さいということを意味するからである。
【0050】
図3に示すフローチャートを参照して、電解装置10の動作について説明する。
【0051】
ステップS101:制御部16は、電解装置10の外部から電力指令を取得する。電力指令は、複数の電解槽11-1~11-nの全体に供給する電力を指示する指令である。電力指令が指示する電力は、時間とともに変動する。
【0052】
ステップS102:制御部16は、電解槽11の許容電流値の上限値及び下限値を記憶部17から読み出す。
【0053】
電解槽11の許容電流値の上限値は、電解槽11が流すことのできる電流の上限値である。電解槽11の許容電流値の下限値は、電解槽11が流すことのできる電流の下限値である。電解槽11の許容電流値の上限値及び下限値は、記憶部17に格納されている。
【0054】
ステップS103:制御部16は、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度を、温度センサ15-1~15-nから取得する。
【0055】
ステップS104:制御部16は、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度に対応する、電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。
【0056】
例えば、温度センサ15-1が検出した電解槽11-1の温度が60[℃]である場合、制御部16は、記憶部17が格納している電解槽11-1の電流-電圧特性のうち、温度が60[℃]のときの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。制御部16は、その他の電解槽11-2~11-nについても、同様にして電流-電圧特性を読み出す。
【0057】
ステップS105:制御部16は、ステップS101において取得した電力指令と、ステップS104において記憶部17から読み出した複数の電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性とに基づいて、水素の発生量の総和が最大になる電流の分配量を算出する。
【0058】
制御部16が水素の発生量の総和が最大になる電流の分配量を算出する方法について、より詳細に説明する。
【0059】
電解槽11-iの電力Pは、下記の式(1)のように表される。ここで、電解槽11-iとは、電解槽11-1~11-nのうちのi番目の電解槽11のことを意味する。
=Eci(I、T)I (1)
ここで、Iは電解槽11-iの電流である。Tは電解槽11-iの温度である。Eci(I、T)は電解槽11-iの電圧である。
【0060】
電解槽11-iの電圧Eci(I、T)は、括弧の中に電流I、温度Tを示しているが、これは、電圧Eciが、電流I、温度Tの関数であることを意味している。具体的には、制御部16は、電解槽11-iの温度Tに対する電流-電圧特性を記憶部17から読み出し、読み出した電流-電圧特性において電流Iに対応する電圧を読み取ることにより、電圧Eciを読み取ることができる。
【0061】
電解槽11-iが発生する水素の発生量Fは、下記の式(2)のように表される。
=Iα (2)
ここで、αは係数である。
【0062】
制御部16は、電解槽11-1~11-nが発生する水素の発生量の総和が最大になるように非線形計画問題を解いて、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出する。
【0063】
制御部16が非線形計画問題を解く際の目的関数は、下記の式(3)のように表される。
【数1】
【0064】
制御部16が非線形計画問題を解く際の制約条件は、下記の式(4)及び式(5)のように表される。
【数2】
ここで、Preqは電力指令が指示する電力である。
【数3】
ここで、lは許容電流値の下限値である。uは許容電流値の上限値である。
【0065】
上述のように、制御部16は、電解槽11-1~11-nが発生する水素の発生量の総和が最大になるように、式(3)を目的関数とし、式(4)及び式(5)を制約条件として非線形計画問題を解いて、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出する。
【0066】
制御部16は、例えば、逐次2次計画法、ペナルティ関数法、拡張ラグランジュ関数法及び内点法のいずれかを用いて非線形計画問題を解いてよい。
【0067】
ステップS106:制御部16は、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出すると、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御する。
【0068】
<具体例>
図4及び図5を参照して、制御部16が非線形計画問題を解く場合の具体例の一例を示す。
【0069】
具体例として、電解槽11の個数が2個の場合、すなわち、n=2の場合を説明する。また、各種パラメータの値は、以下の値であるとする。
α=1
req=50[kW]
=10[kA]
=1[kA]
=30[℃]
=40[℃]
【0070】
図4は、各種パラメータが上記の値であるときの電解槽11-1の電流-電圧特性と、電解槽11-2の電流-電圧特性とを示すグラフである。
【0071】
図4の左側のグラフは、電解槽11-1の30[℃]における電流-電圧特性のグラフである。図4の右側のグラフは、電解槽11-2の40[℃]における電流-電圧特性のグラフである。
【0072】
制御部16は、図4に示す2つの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。
【0073】
図5は、制御部16が、逐次2次計画法を用いて非線形計画問題を解いている様子を示す表である。
【0074】
図5において、I1及びE1は、それぞれ、電解槽11-1の電流及び電圧を示す。I2及びE2は、それぞれ、電解槽11-2の電流及び電圧を示す。P1及びP2は、それぞれ、電解槽11-1の電力及び電解槽11-2の電力を示す。I1+I2は、電解槽11-1の電流I1と電解槽11-2の電流I2との和を示す。Pは、電解槽11-1の電力P1と電解槽11-2の電力P2との和を示す。
【0075】
制御部16は、非線形計画問題を解く際、以下を制約条件とする。
P=50[kW]
1[kA]≦I1≦10[kA]
1[kA]≦I2≦10[kA]
【0076】
制御部16は、非線形計画問題を解く際、I1+I2が最大になることを目的関数とする。
【0077】
図5を参照すると、I1=7[kA]、I2=7.4[kA]のとき、I1+I2が最大となる。したがって、制御部16は、I1=7[kA]、I2=7.4[kA]となるように、整流器12-1及び整流器12-2を制御する。
【0078】
<電解槽の選択>
電解装置10は、電解槽11-1~11-nの全てに電流を供給して電気分解を実行させるのではなく、選択したいくつかの電解槽11にだけ電流を供給して電気分解を実行させてもよい。例えば、電解槽11の個数が4個、すなわちn=4である場合、電解装置10は、そのうちの3個の電解槽11にだけ電流を供給して電気分解を実行させてもよい。
【0079】
図6に示すフローチャートを参照して、電流を供給する電解槽11を選択する処理について説明する。
【0080】
ステップS201:制御部16は、電解装置10の外部から電力指令を取得する。
【0081】
ステップS202:制御部16は、電圧センサ14-1~14-nが検出した電解槽11-1~11-nの電圧を、電圧センサ14-1~14-nから取得する。
【0082】
ステップS203:制御部16は、稼働している電解槽11の個数を判定する。制御部16は、電圧センサ14が検出した電圧が所定の閾値以上である電解槽11を、稼働している電解槽11であると判定する。例えば、電圧が所定の閾値以上である電解槽11の個数が3個である場合、制御部16は、稼働している電解槽11の個数が3個であると判定する。
【0083】
ステップS204:制御部16は、電圧センサ14から取得した電解槽11の電圧のフィルタ値を算出する。ここで、フィルタ値とは、電解槽11の電圧をローパスフィルタに通した値を意味する。制御部16は、例えば、電圧センサ14から取得した電解槽11の電圧について、デジタルフィルタを通してフィルタ値を算出してよい。また、例えば、制御部16は、電圧センサ14から取得した電解槽11の電圧について、アナログフィルタを通してフィルタ値を取得してもよい。
【0084】
ステップS205:制御部16は、電解槽11の電圧のフィルタ値に基づいて、電解槽11の電圧の平均値を算出する。例えば、制御部16は、下記の式(6)に基づいて、電解槽11の電圧の平均値を算出してよい。
【数4】
ここで、mは稼働している電解槽11の個数である。Vf,t(t)は電解槽11の電圧のフィルタ値である。
【0085】
ステップS206:制御部16は、上述の式(6)で算出した電解槽11の電圧の平均値と、電力指令とに基づいて、稼働している複数の電解槽11に供給する電流の総和を算出する。例えば、制御部16は、下記の式(7)に基づいて、稼働している複数の電解槽11に供給する電流の総和Iall(t)を算出してよい。
【数5】
【0086】
ステップS207:制御部16は、電解槽11の許容電流値の下限値を記憶部17から読み出す。
【0087】
ステップS208:制御部16は、上述の式(7)で算出した電流の総和と、電解槽11の許容電流値の下限値とに基づいて、電流を供給する電解槽11の個数を算出する。例えば、電流の総和が1.25[kA]であり、電解槽11の許容電流値の下限値が1[kA]である場合、制御部16は、電流を供給する電解槽11の個数が1個であると算出する。
【0088】
ステップS209:制御部16は、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度を、温度センサ15-1~15-nから取得する。
【0089】
ステップS210:制御部16は、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度に対応する、電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。
【0090】
ステップS211:制御部16は、ステップS210において記憶部17から読み出した電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性と、ステップS208において算出した電流を供給する電解槽11の個数とに基づいて、電解槽11-1~11-nのうちのどの電解槽11に電流を供給するかを選択する。制御部16は、同じ電流で比較したときに電圧が小さくなる電解槽11を、ステップS208において算出した電流を供給する電解槽11の個数の分だけ選択する。
【0091】
制御部16は、電解槽11を選択すると、選択した電解槽11について、図3に示したフローチャートの処理を実行してよい。
【0092】
<電流-電圧特性の更新>
電解装置10は、図3のフローチャートに示した処理を実行して、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように整流器12-1~12-nを制御した後、電圧センサ14が検出した電圧に基づいて、記憶部17が格納している電流-電圧特性を、所定の期間ごとに更新してよい。電解槽11の電流-電圧特性は、電解槽11の劣化とともに変わっていくが、記憶部17が格納している電流-電圧特性を所定の期間ごとに更新することにより、電解槽11の劣化による電流-電圧特性の変化を随時補正することができる。
【0093】
図7に示すフローチャートを参照して、電解装置10が電流-電圧特性を更新する処理について説明する。
【0094】
ステップS301:制御部16は、整流器12-1~12-nを制御すると、電圧センサ14-1~14-nが検出した電解槽11-1~11-nの電圧を、電圧センサ14-1~14-nから取得する。
【0095】
ステップS302:制御部16は、記憶部17から読み出した電流-電圧特性から電解槽11の電圧の推定値を算出する。このとき、制御部16は、電解槽11に供給している電流の分配量と、電流-電圧特性とに基づいて、電解槽11の電圧の推定値を算出する。
【0096】
ステップS303:制御部16は、それぞれの電解槽11について、電圧センサ14が検出した電圧の実測値と、算出した電圧の推定値との差分を算出する。
【0097】
ステップS304:制御部16は、算出した差分に基づいて、記憶部17が格納している電流-電圧特性を更新する。
【0098】
図8に、電流-電圧特性を更新する様子の一例を示す。
【0099】
図8の左側の図は、更新前の電流-電圧特性の一例を示す図である。グラフ101は、更新前の電流-電圧特性を示す。符号102は、電圧の推定値を示す。符号103は、電圧の実測値を示す。符号104は、電圧の実測値と電圧の推定値との差分を示す。
【0100】
図8の右側の図は、更新後の電流-電圧特性の一例を示す図である。グラフ101は、更新前の電流-電圧特性を示す。符号103は、電圧の実測値を示す。符号104は、電圧の実測値と電圧の推定値との差分を示す。グラフ105は、更新後の電流-電圧特性を示す。
【0101】
図8の右側の図に示すように、制御部16は、電圧センサ14が検出した電圧の実測値と、算出した電圧の推定値との差分を、更新前の電流-電圧特性に加算して、更新後の電流-電圧特性としてよい。
【0102】
<電力指令と実績値との差分の補償>
電解装置10は、図3のフローチャートに示した処理を実行すると、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御する。この場合、本来は、電力指令で指示された電力値と、複数の電解槽11-1~11-nの使用電力の総和の実績値とが同じ値になるはずであるが、電力指令で指示された電力値と使用電力の総和の実績値とが一致しない場合がある。この場合、電解装置10は、電力指令で指示された電力値と使用電力の総和の実績値との差分を補償するように、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御してよい。
【0103】
図9は、電力指令で指示された電力値と使用電力の実績値との差分を補償する動作を示す概念図である。
【0104】
制御部16が、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御すると、整流器12-1~12-nは、電力を消費する。また、整流器12-1~12-n以外の装置で外乱として消費される電力もある。
【0105】
電解装置10の使用電力の実績値は、整流器12-1~12-nが消費する電力と、外乱として消費される電力との和である。制御部16は、整流器12-1~12-nが消費する電力を、電流センサ13が検出したそれぞれの電解槽11の電流と、電圧センサ14が検出したそれぞれの電解槽11の電圧とに基づいて算出することができる。
【0106】
制御部16は、使用電力の実績値と、電力指令で指示される電力値との差分についてPID(Proportional-Integral-Differential)制御を実行し、電力指令で指示される電力値と、PID制御した値とを加算したものを、図3のステップS101における電力指令として、整流器12-1~12-nを制御する処理を実行してよい。制御部16は、これにより、使用電力の実績値と、電力指令で指示される電力値との差分だけを補償することができる。
【0107】
制御部16は、このようなフィードバック処理を実行することにより、電力指令で指示された電力値と使用電力の総和の実績値との差分を補償することができる。
【0108】
上述のように、本実施形態に係る電解装置10は、電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する複数の電解槽11-1~11-nと、複数の電解槽11-1~11-nのそれぞれに設置され複数の電解槽11-1~11-nのそれぞれに電流を供給する複数の整流器12-1~12-nと、複数の整流器12-1~12-nが複数の電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御する制御部16と、を備える。そして、制御部16は、複数の電解槽11-1~11-nの全体に供給する電力を指示する電力指令を取得し、取得した電力指令に基づいて、複数の電解槽11-1~11-nが発生するガスの発生量の総和が最大になるように電流の分配量を制御する。これにより、本実施形態に係る電解装置10は、時間とともに変動する電力指令を取得した際に、ガスの発生量の総和が最大になるように、複数の整流器12-1~12-nが複数の電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御することができる。したがって、本実施形態に係る電解装置10は、変動電力を用いて電気分解を行ってガスを生成する際、効率良くガスを生成することができる。
【0109】
(変形例)
図10は、変形例に係る電解装置10aの概略構成図である。図10を参照して、変形例に係る電解装置10aについて説明する。
【0110】
電解装置10aは、複数の電解槽11-1~11-nと、複数の整流器12-1~12-nと、複数の電流センサ13-1~13-nと、複数の電圧センサ14-1~14-nと、複数の温度センサ15-1~15-nと、制御部16aと、記憶部17とを備える。
【0111】
変形例に係る電解装置10aは、電力指令を取得する代わりに、電解装置10aの外部からガス製造量指令を取得するという点で、図1に示した電解装置10と相違する。ガス製造量指令は、複数の電解槽11-1~11-nが全体で発生させるガスの量を指示する指令である。変形例に係る電解装置10aが電気分解する液体が水である場合、ガス製造量指令が指示するガスの量は、水素の量である。
【0112】
また、変形量に係る電解装置10aは、取得したガス製造量指令に基づいて水の電気分解を行う際に、複数の電解槽11-1~11-nで使用する電力の総和が最小になるように、複数の整流器12-1~12-nが複数の電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御するという点で、図1に示した電解装置10と相違する。
【0113】
変形例に係る電解装置10aについては、図1に示した電解装置10との相違点について主に説明し、図1に示した電解装置10と共通又は類似する点については、適宜説明を省略する。
【0114】
図11に示すフローチャートを参照して、変形例に係る電解装置10aの動作について説明する。
【0115】
ステップS401:制御部16aは、電解装置10aの外部からガス製造量指令を取得する。ガス製造量指令が指示するガス製造量は、時間とともに変動する。
【0116】
ステップS402:制御部16aは、電解槽11の許容電流値の上限値及び下限値を記憶部17から読み出す。
【0117】
ステップS403:制御部16aは、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度を、温度センサ15-1~15-nから取得する。
【0118】
ステップS404:制御部16aは、温度センサ15-1~15-nが検出した電解槽11-1~11-nの温度に対応する、電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。
【0119】
ステップS405:制御部16aは、ステップS401において取得したガス製造量指令と、ステップS404において記憶部17から読み出した複数の電解槽11-1~11-nの電流-電圧特性とに基づいて、使用する電力の総和が最小になる電流の分配量を算出する。
【0120】
制御部16aが使用する電力の総和が最小になる電流の分配量を算出する方法について、より詳細に説明する。
【0121】
制御部16aは、電解槽11-1~11-nが使用する電力の総和が最小になるように非線形計画問題を解いて、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出する。
【0122】
制御部16aが非線形計画問題を解く際の目的関数は、下記の式(8)のように表される。
【数6】
【0123】
制御部16aが非線形計画問題を解く際の制約条件は、下記の式(9)及び式(10)のように表される。
【数7】
ここで、Freqはガス製造量指令が指示するガス製造量である。
【数8】
ここで、lは許容電流値の下限値である。uは許容電流値の上限値である。
【0124】
上述のように、制御部16aは、電解槽11-1~11-nが使用する電力の総和が最小になるように、式(8)を目的関数とし、式(9)及び式(10)を制約条件として非線形計画問題を解いて、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出する。
【0125】
制御部16aは、例えば、逐次2次計画法、ペナルティ関数法、拡張ラグランジュ関数法及び内点法のいずれかを用いて非線形計画問題を解いてよい。
【0126】
ステップS406:制御部16aは、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を算出すると、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御する。
【0127】
変形例に係る電解装置10aは、このように、電解槽11-1~11-nが使用する電力の総和が最小になるように、整流器12-1~12-nを制御する。これにより、変形例に係る電解装置10aは、少ない消費電力で効率良く水素を製造することができる。
【0128】
<変形例における具体例>
図12及び図13を参照して、制御部16aが非線形計画問題を解く場合の具体例の一例を示す。
【0129】
具体例として、電解槽11の個数が2個の場合、すなわち、n=2の場合を説明する。また、各種パラメータの値は、以下の値であるとする。
α=1
req=12[kA]
=10[kA]
=1[kA]
=30[℃]
=40[℃]
【0130】
図12は、各種パラメータが上記の値であるときの電解槽11-1の電流-電圧特性と、電解槽11-2の電流-電圧特性とを示すグラフである。
【0131】
図12の左側のグラフは、電解槽11-1の30[℃]における電流-電圧特性のグラフである。図12の右側のグラフは、電解槽11-2の40[℃]における電流-電圧特性のグラフである。
【0132】
制御部16aは、図12に示す2つの電流-電圧特性を記憶部17から読み出す。
【0133】
図13は、制御部16aが、逐次2次計画法を用いて非線形計画問題を解いている様子を示す表である。
【0134】
図13において、I1及びE1は、それぞれ、電解槽11-1の電流及び電圧を示す。I2及びE2は、それぞれ、電解槽11-2の電流及び電圧を示す。P1及びP2は、それぞれ、電解槽11-1の電力及び電解槽11-2の電力を示す。I1+I2は、電解槽11-1の電流I1と電解槽11-2の電流I2との和を示す。Pは、電解槽11-1の電力P1と電解槽11-2の電力P2との和を示す。
【0135】
制御部16aは、非線形計画問題を解く際、以下を制約条件とする。
I1+I2=12[kA]
1[kA]≦I1≦10[kA]
1[kA]≦I2≦10[kA]
【0136】
制御部16aは、非線形計画問題を解く際、Pが最小になることを目的関数とする。
【0137】
図13を参照すると、I1=5[kA]、I2=7[kA]のとき、Pが最小となる。したがって、制御部16aは、I1=5[kA]、I2=7[kA]となるように、整流器12-1及び整流器12-2を制御する。
【0138】
<変形例におけるガス製造量指令と実績値との差分の補償>
電解装置10aは、図11のフローチャートに示した処理を実行すると、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御する。この場合、本来は、ガス製造量指令で指示されたガス製造量と、複数の電解槽11-1~11-nで製造するガス製造量の実績値とが同じ値になるはずであるが、ガス製造量指令で指示されたガス製造量と、ガス製造量の実績値とが一致しない場合がある。この場合、電解装置10aは、ガス製造量指令で指示されたガス製造量とガス製造量の実績値との差分を補償するように、電解槽11-1~11-nに供給する電流の分配量を制御してよい。
【0139】
図14は、ガス製造量指令で指示されたガス製造量とガス製造量の実績値との差分を補償する動作を示す概念図である。
【0140】
制御部16aが、算出した電流の分配量で電解槽11-1~11-nに電流を供給するように、整流器12-1~12-nを制御すると、整流器12-1~12-nは、ガスを製造する。
【0141】
制御部16aは、整流器12-1~12-nが製造したガス製造量の実績値を、ガスの製造量を検出することができるセンサから取得することができる。
【0142】
制御部16aは、ガス製造量の実績値と、ガス製造量指令で指示されるガス製造量との差分についてPID制御を実行し、ガス製造量指令で指示されるガス製造量と、PID制御した値とを加算したものを、図11のステップS401におけるガス製造量指令として、整流器12-1~12-nを制御する処理を実行してよい。制御部16aは、これにより、ガス製造量の実績値と、ガス製造量指令で指示されるガス製造量との差分だけを補償することができる。
【0143】
制御部16aは、このようなフィードバック処理を実行することにより、ガス製造量指令で指示されたガス製造量と、ガス製造量の実績値との差分を補償することができる。
【0144】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。
【0145】
例えば、上述の実施形態において、電解装置10が発電装置1から電力を供給される場合を例に挙げて説明したが、電解装置10は、商用の電力系統から電力を供給されてもよい。
【符号の説明】
【0146】
1 発電装置
10、10a 電解装置
11 電解槽
12 整流器
13 電流センサ
14 電圧センサ
15 温度センサ
16、16a 制御部
17 記憶部
図1
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