(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171673
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】燃料集合体及び原子炉の炉心
(51)【国際特許分類】
G21C 3/328 20060101AFI20241205BHJP
G21C 3/33 20060101ALI20241205BHJP
G21C 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G21C3/328 200
G21C3/33 600
G21C5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088813
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成島 勇気
(72)【発明者】
【氏名】光安 岳
(72)【発明者】
【氏名】日野 哲士
(57)【要約】
【課題】燃料集合体の断面で冷却材を適切に分配することができる燃料集合体を提供する。
【解決手段】横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックスと、正方格子状に配置され、内部に核燃料物質を充填した複数の燃料棒とを備え、複数の燃料棒が、チャンネルボックス内の外層部に配置された第1燃料棒と、チャンネルボックス内の内層部に配置され、第1燃料棒より直径が大きい第2燃料棒を有し、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と、チャンネルボックス内の壁面及び第1燃料棒の間の水力等価直径との差の絶対値が、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である燃料集合体を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックスと、前記チャンネルボックス内で、正方格子状に配置された、内部に核燃料物質を充填した複数の燃料棒とを備えた燃料集合体であって、
前記複数の燃料棒は、前記チャンネルボックス内の外層部に配置された第1燃料棒と、前記チャンネルボックス内の内層部に配置された、前記第1燃料棒よりも直径が大きい、第2燃料棒を有し、
前記第1燃料棒の周囲の水力等価直径と、前記チャンネルボックス内の壁面及び前記第1燃料棒の間の水力等価直径との差の絶対値が、前記第1燃料棒の周囲の水力等価直径と前記第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、前記チャンネルボックス全体の断面積に占める前記チャンネルボックスの前記内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である
ことを特徴とする燃料集合体。
【請求項2】
前記燃料集合体に配置された核燃料物質の体積が、前記チャンネルボックス内に前記第1燃料棒を正方格子状に配置した場合の核燃料物質の体積以上であることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項3】
前記第2燃料棒が配置された領域のさらに内層に、前記第2燃料棒よりも直径が大きい第3燃料棒が配置され、前記第2燃料棒の周囲の水力等価直径と前記第1燃料棒及び前記第2燃料棒の間の水力等価直径の差の絶対値が、前記第3燃料棒の周囲の水力等価直径と前記第2燃料棒の周囲の水力等価直径の差の絶対値に、前記第2燃料棒及び前記第3燃料棒が配置された領域の流路に占める前記第3燃料棒が配置された領域の流路の面積の割合を乗じて得られる値以上であることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項4】
前記チャンネルボックス内において、前記第1燃料棒が12行12列に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項5】
下部燃料支持部材に下端部が支持され、上部燃料支持部材に上端部が支持され、複数の前記燃料棒を束ねる燃料スペーサを保持し、かつ燃料物質を含んでいない支持ロッドが、前記燃料集合体の横断面における燃料棒配列の最外周領域の4つのコーナーのそれぞれに配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の前記燃料集合体が複数個装荷されていることを特徴とする原子炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料集合体及び原子炉の炉心に係り、特に、沸騰水型原子炉に適用するのに好適な燃料集合体及び原子炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
ウラン資源の有効利用、放射性廃棄物の発生量の低減及びプルトニウムの有効利用を図るため、軽水炉技術を基盤にして、低減速スペクトル沸騰水型原子炉の開発が進められている。低減速スペクトル沸騰水型原子炉は、核燃料物質を充填した複数の燃料棒を、横断面が正方形状の角筒のチャンネルボックス内に配置して構成された複数の燃料集合体を、炉心に配置している。この燃料集合体は、これらの燃料棒を稠密に配置しており、チャンネルボックス内の、減速材である水の割合を大幅に減らしている。このため、低減速スペクトル沸騰水型原子炉の炉心に装荷された燃料集合体内では、燃料棒内の各燃料物質に含まれる核分裂性物質の核分裂により発生した高速中性子をあまり減速させず、比較的高エネルギーの中性子が核分裂性物質の核分裂に利用される。
【0003】
特許文献1には、低減速スペクトル沸騰水型原子炉の炉心に装荷される燃料集合体が開示されている。この燃料集合体は、MOX燃料が充填された複数の燃料棒を正三角形格子に配置し、燃料棒相互間のピッチは小さく、内部に存在する水の量は少なくなっている。横断面が正方形のチャンネルボックス内で複数の燃料棒が正三角形格子に配置されている場合には、チャンネルボックスの内面付近に、横断面が三角形状の間隙が形成され、チャンネルボックス内を上昇する冷却水はその間隙を通って上昇しやすくなる。このため、その横断面が三角形状の間隙を上昇する冷却水の流量が増加する。
【0004】
特許文献1に記載された燃料集合体では、燃料集合体の横断面が三角形状の各間隙内に、チャンネルボックスの内面に取り付けた水排除棒を配置している。この水排除棒の配置により、チャンネルボックス内の水の量をさらに低減している。低減速スペクトル沸騰水型原子炉の炉心に装荷された、そのような燃料集合体では、中性子スペクトルが硬化されてウラン238のプルトニウム239への転換率が向上し、ボイド反応度係数をさらに負にすることができる。
【0005】
特許文献2には、行及び列が各10本の燃料棒配列にした場合、圧力損失が大きくなることを解消すべく、内側領域Bの5×5(あるいは7×7)配列の燃料棒の直径より、その外側領域A内の1列或いは2列の燃料棒の直径を小径にすることが提案されている。これにより、圧損低減と局所ピーキングの平坦化が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-118526号公報
【特許文献2】特開平4-198892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された燃料集合体のように、低減速スペクトル沸騰水型原子炉の炉心に装荷される燃料集合体は、一般的に、横断面が正方形のチャンネルボックス内に、複数の燃料棒が正三角格子状に配置されるので、従来の燃料集合体と比べて、燃料棒が稠密に配置される。このため、流路面積の減少及び濡れぶち長さの増加によって、水力等価直径が減少する。水力等価直径が減少すると、燃料集合体の圧力損失が増加することとなり、原子炉のポンプの回転数を上げて冷却材が流入するようにする必要がある。
【0008】
特許文献2に提案された構成は、圧損低減と局所ピーキングの平坦化が実現できるが、燃料棒及び壁面に囲まれた小流路(サブチャンネル)について、燃料棒の径が異なるので、燃料集合体の断面においてサブチャンネルの水力等価直径に分布ができる。このため、冷却材の流量配分に影響が発生することが考えられる。
【0009】
上記の事情を考慮し、本発明の発明者らは、後で詳述するように、燃料集合体の角筒状のチャンネルボックス内における燃料棒配列を、正三角形格子状から特開2019-178896号公報に示される正方形格子状にし、原子炉の運転中に中性子スペクトルを硬化させるために、燃料棒を稠密に配置することを検討した。この検討において発明者らは、燃料集合体の横断面において、燃料棒配列の、チャンネルボックスの外層から1層目及び2層目のそれぞれに配置された燃料棒において細径の燃料棒を配置し、内層部に太径の燃料棒を配置することで、全てに同じ燃料棒径を使った条件と比べて、燃料インベントリを維持したまま、燃料集合体の圧力損失を低減できることを確認した。
【0010】
燃料インベントリを維持できることは、装荷できるプルトニウム量を維持することができ、低減速スペクトル軽水炉の目的を満たすことができる。
しかしながら、燃料棒の軽を異ならせることにより、同時に燃料集合体断面で、サブチャンネルの水力等価直径に分布が発生するため、この水力等価直径の分布によって、燃料集合体断面で冷却材の分布が生じることを見出した。
従って、燃料集合体の断面でサブチャンネルの水力等価直径に分布ができるような条件において、燃料集合体断面で冷却材を適切に分配することができる、燃料集合体の実現が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、燃料集合体の断面でサブチャンネルの水力等価直径に分布ができるような条件において、燃料集合体の断面で冷却材を適切に分配することができる燃料集合体及び原子炉の炉心を提供することにある。
【0012】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料集合体は、横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックスと、チャンネルボックス内で、正方格子状に配置された、内部に核燃料物質を充填した複数の燃料棒とを備えた燃料集合体である。
そして、本発明の燃料集合体は、複数の燃料棒が、チャンネルボックス内の外層部に配置された第1燃料棒と、チャンネルボックス内の内層部に配置された、第1燃料棒よりも直径が大きい、第2燃料棒を有する。
さらに、本発明の燃料集合体は、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と、チャンネルボックス内の壁面及び第1燃料棒の間の水力等価直径との差の絶対値が、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である。
【0014】
本発明の原子炉の炉心は、上記の本発明の燃料集合体が、複数個装荷されているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料集合体の外層部の第1燃料棒よりも、内層部の第2燃料棒の直径を大きくしている。さらに、本発明によれば、チャンネルボックスの壁面及び第1燃料棒の間に形成される領域の水力等価直径と、第1燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値が、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である。
これにより、チャンネルボックス内の外層部から内層部への冷却材の横流れを抑制して、冷却材の偏在を抑制することができ、燃料集合体断面で冷却材を適切に分配することができる。
【0016】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】
図1に示す燃料集合体が装荷される、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントの縦断面図である。
【
図4】水力等価直径を説明するための、実施例1の燃料集合体の拡大図である。
【
図5】実施例1の燃料集合体において、関係式が満たす内層部の燃料棒の直径の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態及び実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
本発明の発明者らは、角筒状のチャンネルボックス内における燃料棒配列が稠密の正方形格子状になっている燃料集合体における、内層部への冷却材の横流れの抑制について検討を行った。
この検討において、横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックス内に、複数の燃料棒が正方格子状に稠密に配置された従来の燃料集合体を想定した。この想定された従来例の燃料集合体の横断面図を、
図7に示す。
【0020】
図7に示す燃料集合体13Cは、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントの原子炉の炉心に装荷される。燃料集合体13Cは、横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックス17内に、複数の燃料棒11Cを12行12列に配置している。これらの燃料棒11Cは、正方格子状に配置される。
【0021】
また、
図7に示すように、4本の支持ロッド100が、燃料集合体13Cの横断面における燃料棒配列の、最外周領域(チャンネルボックス17の内面から1列目)の4つのコーナーのそれぞれに1本ずつ配置されている。
各支持ロッド100は、金属製であり、中性子吸収断面積が小さい金属で製造することが望ましい。支持ロッド100は、核燃料物質を含んでいない。支持ロッド100の下端部は、下部タイプレートにねじ込まれ、下部タイプレートに取り付けられる。支持ロッド100の上端部は、上部タイプレートに形成された孔部内に挿入されて、上部タイプレートに保持される。各支持ロッド100は、各燃料スペーサを軸方向において所定の位置に保持する役割を担っている。
【0022】
炉心に装荷された燃料集合体13Cの相互間には、飽和水が存在する水ギャップ領域39が形成される。水ギャップ領域39は、1体の燃料集合体13Cのチャンネルボックス17の4つの側面、すなわち、チャンネルボックス17の外面のそれぞれに面して存在している。燃料集合体13Cの相互間に形成された水ギャップ領域39には、横断面が十字形をした制御棒34が挿入される。
【0023】
この燃料集合体13Cでは、核分裂性プルトニウムの富化度が高い複数の燃料棒11Cが横断面の中央部に配置され、ガドリニア等の可燃性毒物を含む他の複数の燃料棒11Cが最外周領域に配置される。その横断面の中央部においては、高富化度の核分裂性プルトニウムを含む燃料棒11Cが稠密に配置されているため、減速材となる冷却水(軽水)が少なくなり、熱中性子束が小さく、すなわち、中性子スペクトルが硬くなる。
一方、炉心内に装荷された燃料集合体13C相互間に存在する水ギャップ領域39に近い、燃料集合体13Cの外周部では、水ギャップ領域39内の冷却水の影響を受けて中性子スペクトルが柔らかくなる。このため、核分裂性プルトニウムの核分裂反応は、燃料集合体13Cの横断面の外周部で活発になり、燃料棒配列の、チャンネルボックス17の内面から1列目、2列目及び3列目に配置されたそれぞれの燃料棒11Cの出力が高くなる。このような状態は、原子力プラントの運転サイクルを通して継続される。
この燃料集合体13Cは、燃料棒11Cを稠密の正方格子状に配置するため、燃料集合体13Cの流路断面積に占める燃料棒11C及びチャンネルボックス17の濡れぶち長さが長くなる。そのため、この燃料集合体13Cは、燃料集合体13Cの水力等価直径が減少し、燃料集合体13Cを流れる冷却材の圧力損失が高くなる、という特徴をもつ。
【0024】
そこで、本発明の発明者らは、燃料インベントリを維持したまま燃料棒の領域を減らして、圧力損失を軽減することを試みた。このとき検討した燃料集合体13Cの横断面図を、
図8に示す。
図8に示す燃料集合体13Cは、燃料棒の出力が小さい燃料集合体13Cの内層部において、太径の(直径が大きい)燃料棒11C-1を配置する。燃料棒の太径化によって、内層部の燃料棒の格子数は減少する。外層部では、12×12相当の燃料棒ピッチのままである。しかし、太径の燃料棒を配置する内層部では、12×12相当の燃料棒ピッチで燃料棒を配置すると、燃料棒の間隔が極端に狭くなるため、例えば、燃料集合体全体で8×8としたときの燃料棒ピッチが内層部の燃料棒ピッチとなる。これにより、内層部の燃料棒本数が減少するため、燃料棒の体積が減少してしまうと思われるが、内層部の燃料棒に太径の燃料棒を用いることで、燃料インベントリを維持することができる。
【0025】
さらに、燃料棒の表面の被覆管の厚みが一定とすると、燃料棒の直径が大きくなることで、燃料棒の断面積に占める被覆管の断面積の割合が減少する。これにより、燃料インベントリを維持したまま、被覆管の断面積の割合が減少した分、流路断面積を増加させることができ、圧力損失を軽減することができる。
【0026】
一方で、外層部に細径の燃料棒、内層部に太径の燃料棒を用いるような複数の燃料棒径を持つ燃料集合体では、サブチャンネルの水力等価直径が、燃料集合体断面で分布を持つこととなる。例えば、外層部では、燃料棒の直径が小さく、稠密に燃料棒が配置されているため、水力等価直径は小さくなる。内層部では、燃料棒の直径が大きく、燃料棒に囲まれる領域の流路面積が広くなることから、水力等価直径は大きくなる。
燃料集合体の冷却材は、水力等価直径が大きく圧力損失の低いチャンネルへ、流れ込もうとする。これにより、外層部に細径の燃料棒を配置し、内層部に太径の燃料棒を配置した場合、内層部の水力等価直径が大きいため、内層部に冷却材が偏在することとなる。
【0027】
本発明の発明者らは、このような問題を解消する対策を検討した。検討の結果、燃料集合体の横断面における燃料棒配列の、第1燃料棒とチャンネルボックスの間に形成される領域の水力等価直径1と、第1燃料棒の周囲の水力等価直径2と、第2燃料棒の周囲の水力等価直径3について、水力等価直径1と水力等価直径2の差の絶対値が、水力等価直径2と水力等価直径3の差の絶対値に、全体の流路面積に占める内層部の流路面積の割合を乗じて得られる値と比較して、その値以上であることによって、燃料集合体における冷却材の偏在を抑制できることを見出した。
【0028】
本発明の燃料集合体は、横断面が正方形状の角筒であるチャンネルボックスと、チャンネルボックス内で、正方格子状に配置された、内部に核燃料物質を充填した複数の燃料棒とを備え、複数の燃料棒が、チャンネルボックス内の外層部に配置された第1燃料棒と、チャンネルボックス内の内層部に配置された、第1燃料棒よりも直径が大きい、第2燃料棒を有する。
さらに、本発明の燃料集合体は、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と、チャンネルボックス内の壁面及び第1燃料棒の間の水力等価直径との差の絶対値が、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である。
【0029】
すなわち、本発明の燃料集合体は、チャンネルボックス内の壁面及び第1燃料棒の間に形成される領域の水力等価直径(以下、水力等価直径1とする)と、第1燃料棒の周囲の水力等価直径(以下、水力等価直径2とする)と、第2燃料棒の周囲の水力等価直径(以下、水力等価直径3とする)を用いて規定される。
そして、本発明の燃料集合体は、水力等価直径1と水力等価直径2との差の絶対値が、水力等価直径2と水力等価直径3との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である。
【0030】
本発明の燃料集合体は、具体的には、以下の関係式を満たす。
|Dh1-Dh2|≧Ain/A ×|Dh2-Dh3| (1)
(ここで、Dh1,Dh2,Dh3は、それぞれ水力等価直径1、水力等価直径2、水力等価直径3を表しており、A,Ainは、それぞれチャンネルボックスの全体の断面積と内層部の断面積を表している。)
【0031】
第2燃料棒の直径が第1燃料棒の直径より大きいことで、例えば、元々の格子数が12×12だった場合、細径の第1燃料棒を配置する外層部では、12×12相当の燃料棒ピッチのままであるが、直径の大きい第2燃料棒を配置する内層部では、12×12相当の燃料棒ピッチで燃料棒を配置すると燃料棒間隔が極端に狭くなるため、例えば、燃料集合体全体で8×8としたときの燃料棒ピッチと同じ燃料棒ピッチとなる。これにより、内層部の燃料棒の本数が減少するため、燃料棒の体積が減少してしまうと思われるが、内層部の燃料棒に太径の燃料棒を用いることで、燃料インベントリを維持することができる。
さらに、燃料棒の表面の被覆管の厚みが一定とすると、燃料棒の直径が大きくなることで燃料棒の断面積に占める被覆管の断面積の割合が減少するので、燃料インベントリを維持したまま、被覆管の断面積の割合が減少した分、流路断面積を増加させることができ、圧力損失を軽減することができる。
【0032】
一方で、外層部に細径の燃料棒、内層部に太径の燃料棒を用いるような複数の燃料棒径を持つ燃料集合体では、サブチャンネルの水力等価直径が、燃料集合体の断面で分布を持つこととなる。
例えば、外層部では燃料棒径が細く、稠密に燃料棒が配置されているため、水力等価直の径は小さくなる。これに対して、内層部では燃料棒径が太く、燃料棒に囲まれる領域の流路面積が広くなることから、水力等価直径は大きくなる。
燃料集合体の冷却材は、水力等価直径が大きく圧力損失の低いチャンネルへ流れ込もうとする。これにより、外層部に細径の燃料棒を配置し、内層部に太径の燃料棒を配置した場合、内層部の水力等価直径が大きいため、内層部に冷却材が偏在することとなる。
【0033】
低減速スペクトル沸騰水型原子炉では、スペクトルを維持するために、燃料集合体内の水の領域を極力排除している。このため、燃料集合体内に水ロッドなどは設けず、燃料集合体について大きな水の領域は燃料集合体間の水ギャップとなり、燃料集合体の最外層とその1層内側の燃料棒の出力が燃料集合体断面で最も高くなる。
一方で、太径の燃料棒を内層部に配置すると、太径化によって増えた燃料体積分、燃料棒の出力が増加するために、内層の太径燃料棒の出力が増加した分、燃料集合体の最外層及び1層内側の燃料棒の出力は相対的に低くなる。
しかしながら、内層部の燃料棒の太径化によって、最外層及び1層内側の燃料棒の出力が相対的に低下しても、依然として最外層及び外層部の燃料棒出力が高いため、内層部に冷却材が偏在することは、最外層及び1層内側の燃料棒の熱的余裕を低下させることにつながる。
【0034】
最外層とその1層内側の冷却材のバランスがその水力等価直径に影響するとしたとき、水力等価直径差を考慮することで、冷却材の偏在を抑制することができる。そのため、最外層の水力等価直径である、チャンネルボックス内の壁面及び第1燃料棒の間の水力等価直径Dh1と、その1層内側である第1燃料棒の周囲の水力等価直径Dh2の差が最小になるようにしたときに、冷却材は均等に分配されることとなる。
【0035】
一方で、外層部から内層部への冷却材のバランスがその水力等価直径に影響するとしたとき、水力等価直径の差を考慮することで、冷却材の偏在を抑制することができる。そのため、外層部の水力等価直径である第1燃料棒の周囲の水力等価直径Dh2と、内層部の水力等価直径である第2燃料棒の周囲の水力等価直径Dh3の差が最小になるようにしたときに、冷却材は均等に分配されることとなる。
【0036】
ここで、Dh1<Dh2の関係であるときに、冷却材の流れは、最外層の壁面部のサブチャンネルから外層部のサブチャンネル、外層部のサブチャンネルから内層部のサブチャンネルとなる。このため、太径化した内層部への冷却材の偏在を抑制し、外層部のサブチャンネルの冷却材を保持するためには、上記の冷却材の流れを抑制する必要がある。
そして、壁面部から外層部への横流れ量が、外層部から内層部への横流れ量より大きくなれば、一定の冷却材が外層部に存在することとなる。このことから、以下の関係式が必要となる。
|Dh1-Dh2|≧|Dh2-Dh3| (2)
【0037】
外層部から内層部への横流れの総量には、全体に占める内層部の割合が影響する。これは、第1燃料棒を配置する外層部が燃料集合体に配置される燃料棒の殆どを占め、第2燃料棒を配置する内層部がごく一部であるとすると、全体の冷却材量に占める外層部から内層部への横流れの量は十分に小さくなる。
その逆として、第2燃料棒を配置する内層部が燃料集合体に配置される燃料棒の殆どを占めると、内層部に横流れする冷却材の総量も大きくなる。
【0038】
そこで、全体に占める内層部の領域の割合を考慮するために、チャンネルボックスの全体の断面積と、チャンネルボックスの内層部の断面積を、評価する。そして、上記の式(2)の右辺に、チャンネルボックス全体の断面積Aに占める、チャンネルボックスの内層部の断面積Ainの割合を乗じた値を掛け合わせた以下の式、すなわち、前述した式(1)を用いることで、全体に占める内層部の割合の影響を考慮することができる。
|Dh1-Dh2|≧Ain/A ×|Dh2-Dh3| (1)
【0039】
上記の式(1)により、チャンネルボックス全体に占める内層部の割合を考慮しながら、最外層から外層部、外層部から内層部への冷却材の横流れ量について、内層部への冷却材の偏在を防ぐような水力等価直径の関係を決めることができる。
さらに、この水力等価直径を満たすように、燃料棒径を決定することで、冷却材の偏在を防ぐような、第1燃料棒及び第2燃料棒の燃料棒径を決めることができる。
【0040】
本発明の燃料集合体によれば、燃料集合体の外層部の第1燃料棒よりも、内層部の第2燃料棒の直径が大きく、さらに、チャンネルボックスの壁面及び第1燃料棒の間に形成される領域の水力等価直径と、第1燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値が、第1燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径との差の絶対値に、チャンネルボックス全体の断面積に占めるチャンネルボックスの内層部の断面積の割合を乗じて得られる値以上である。すなわち、上記の式(1)が成り立つ。
これにより、チャンネルボックス内の外層部から内層部への冷却材の横流れを抑制して、冷却材の偏在を抑制することができ、燃料集合体の断面で冷却材を適切に分配することができる。このように燃料集合体の断面で冷却材を適切に分配すれば、燃料集合体の限界熱出力の低下を抑制することができ、原子力プラントの運転中における熱出力を維持することができる。
【0041】
上記の燃料集合体において、燃料集合体に配置された核燃料物質の体積が、チャンネルボックス内に第1燃料棒を正方格子状に配置した場合の核燃料物質の体積以上である構成とすることができる。
この構成としたときには、チャンネルボックス内に第1燃料棒を正方格子状に配置した場合の核燃料物質の体積未満である構成と比較して、燃料インベントリを大きくすることができる。これにより、所望の燃料インベントリを容易に維持することが可能になる。
【0042】
上記の燃料集合体において、第2燃料棒が配置された領域のさらに内層に、第2燃料棒よりも直径が大きい第3燃料棒が配置され、第2燃料棒の周囲の水力等価直径と第1燃料棒及び第2燃料棒の間の水力等価直径の差の絶対値が、第3燃料棒の周囲の水力等価直径と第2燃料棒の周囲の水力等価直径の差の絶対値に、第2燃料棒及び第3燃料棒が配置された領域の流路に占める第3燃料棒が配置された領域の流路の面積の割合を乗じて得られる値以上である構成とすることができる。
この構成としたときには、燃料集合体の断面において、第2燃料棒が配置された領域から第3燃料棒が配置された領域へ冷却材が偏在することを抑制することができる。また、直径の大きい第3燃料棒によって、燃料体積を維持したまま流路面積を増加させることができるので、さらに圧力損失を低減することができる。
【0043】
上記の燃料集合体において、下部燃料支持部材に下端部が支持され、上部燃料支持部材に上端部が支持され、複数の燃料棒を束ねる燃料スペーサを保持し、かつ燃料物質を含んでいない支持ロッドが、燃料集合体の横断面における燃料棒配列の最外周領域の4つのコーナーのそれぞれに配置されている構成とすることができる。
この構成としたときには、支持ロッドによって燃料集合体の最外層のコーナー部の出力が低減されるため、最外層のコーナー部に必要となる冷却材量を減少させることができ、本発明の構成を満たす範囲で内層部へ流入させる冷却材量が増加するように、燃料棒の直径を決定することができ、燃料集合体の限界熱出力を向上することが期待できる。
【実施例0044】
以下、燃料集合体の具体的な実施例を説明する。
以下に説明する本発明の実施例は、沸騰水型原子炉である低減速スペクトル沸騰水型原子炉に適用することができる。この低減速スペクトル沸騰水型原子炉は、冷却材として冷却水を使用し、再循環ポンプで冷却水を、原子炉圧力容器外へ流出させ、再び、原子炉圧力容器内へ流入させることにより、冷却水を循環させる沸騰水型原子炉(BWR)、インターナルポンプを有し、冷却水を原子炉圧力容器の内部で循環させる改良型沸騰水型原子炉(ABWR)、及び、ABWRにおけるインターナルポンプを使用しない、高経済性単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)などに適用される低減速スペクトル沸騰水型原子炉を含んでいる。
【0045】
(実施例1)
本発明の好適な一実施例として、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントに用いられる実施例1の燃料集合体を、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、実施例1の燃料集合体の横断面図である。
図2は、
図1のII-IIにおける縦断面図である。
図3は、
図1に示す燃料集合体が装荷される、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントの縦断面図である。
図4は、水力等価直径を説明するための、実施例1の燃料集合体の拡大図である。
図5は、実施例1の燃料集合体において、関係式が満たす内層部の燃料棒の直径の範囲を示す図である。
【0046】
まず、本実施例の燃料集合体が装荷される、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントの原子炉の構造を、
図3に基づいて説明する。
図3に示す、この低減速スペクトル沸騰水型原子力プラント20の原子炉21は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)である。
【0047】
この原子炉21は、原子炉圧力容器22を有し、複数の燃料集合体(
図1及び
図2の燃料集合体13を参照)が装荷された炉心23を、原子炉圧力容器22内に配置している。原子炉圧力容器22内において、円筒状の炉心シュラウド24が炉心23を取り囲み、炉心23の上方に配置されたシュラウドヘッド25が炉心シュラウド24の上端部に設置される。複数の気水分離器28が、シュラウドヘッド25に取り付けられ、上方に向かって伸びている。
さらに、蒸気乾燥器29が、気水分離器28の上方であって原子炉圧力容器22内に設置される。環状のダウンカマ32が、炉心シュラウド24の外面と原子炉圧力容器22の内面の間に形成されている。
ダウンカマ32内に配置されたインターナルポンプ26が、原子炉圧力容器22の底部を貫通して下方に向かって伸びており、原子炉圧力容器22の底部に取り付けられる。インターナルポンプ26がインペラ27を有する。
主蒸気配管37及び給水配管38が、原子炉圧力容器22に接続されている。
【0048】
上部格子板30が、炉心23の上方に配置されて、炉心シュラウド24の内面に取り付けられている。炉心支持板31が、炉心23の下方に配置されて、炉心シュラウド24の内面に取り付けられている。この炉心支持板31には、複数の燃料支持金具33が設置されている。
下部プレナム36が、原子炉圧力容器22内で炉心23の下方に形成される。下部プレナム36には、複数の制御棒案内管(図示せず)が配置される。
中性子吸収材(例えば、ボロンカーバイト)が充填された複数の中性子吸収棒を有し、横断面の形状が十字形である各制御棒34が、それぞれの制御棒案内管内に別々に配置される。複数の制御棒駆動機構35が、原子炉圧力容器22の底部に設置されて、原子炉圧力容器22の底部から下方に向かって伸びており、各制御棒駆動機構35が制御棒34に別々に連結される。
【0049】
炉心23に装荷された燃料集合体13は、
図2に示すように、複数の燃料棒11,12、下部タイプレート(下部燃料支持部材)14、上部タイプレート(上部燃料支持部材)15、軸方向に配置される複数の燃料スペーサ18、及びチャンネルボックス17を有する。
燃料集合体13は、ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物の混合酸化物燃料(MOX燃料)を含む、MOX燃料集合体である。
【0050】
各燃料棒11及び各燃料棒12は、被覆管(図示せず)を有し、この被覆管の下端部を下部端栓(図示せず)で封鎖して、被覆管の上端部を上部端栓(図示せず)で封鎖しており、核燃料物質(MOX燃料)を含む複数の燃料ペレット(図示せず)を被覆管内に充填して構成される。
また、図示しないガスプレナムが、被覆管内であって、燃料ペレットが充填された核燃料物質充填領域の上方に形成される。
各燃料棒11及び各燃料棒12の下端部は、下部タイプレート14に支持され、各燃料棒11及び各燃料棒12の上端部は、上部タイプレート15に支持される。上部タイプレート15には、ハンドル16が設けられる。
【0051】
各燃料棒11及び各燃料棒12は、軸方向に間隔をもって配置された、複数の燃料スペーサ18によって、束ねられている。束ねられた燃料棒11及び燃料棒12は、上端部が上部タイプレート15に取り付けられて、下方に向かって伸びた状態で、チャンネルボックス17内に配置される。
【0052】
チャンネルボックス17は、
図1の横断面図に示すように、横断面が正方形状の角筒である。
80本の燃料棒11が、12行12列で、36本の燃料棒12が、6行6列で、それぞれチャンネルボックス17内に正方格子状に配置される。
燃料棒11は、チャンネルボックス17内の外層部(外側の層状の部分)に配置され、前述した第1燃料棒に該当する。
燃料棒12は、チャンネルボックス17内の内層部(内側の層状の部分)に配置され、前述した第2燃料棒に該当する。
【0053】
冷却水通路19が燃料棒11と壁面の間に、冷却水通路19-1が燃料棒11の相互間に、冷却水通路19-2が燃料棒12の相互間に、それぞれに形成される。
【0054】
本実施例では、燃料棒11の直径、すなわち、燃料棒11の被覆管の外径は9mmであり、燃料棒12の直径、すなわち、燃料棒12の被覆管の外径は11mmである。
【0055】
炉心23に装荷された燃料集合体13の下部タイプレート14は、炉心支持板31に設置された燃料支持金具33によって支持される。この燃料支持金具33は、1個当たり、4体の燃料集合体13の下部タイプレート14を支持する。1個の燃料支持金具33に下部タイプレート14が支持される4体の燃料集合体13のそれぞれのチャンネルボックス17の上端部は、上部格子板30に形成された1つの升目内に挿入される。上部格子板30には、上部格子板30を貫通する、横断面が正方形の複数の升目が形成されている。各升目内には、各燃料支持金具33によって支持された4体の燃料集合体13のそれぞれの上端部が挿入され、それぞれの上端部が上部格子板30によって支持されている。
【0056】
炉心23に装荷された燃料集合体13の相互間には、
図8に示された燃料集合体13Cの相互間と同様に、飽和水が存在する水ギャップ領域39が形成される。この水ギャップ領域39は、1体の燃料集合体13のチャンネルボックス17の4つの側面のそれぞれに面して存在している。
制御棒駆動機構35に連結された制御棒34は、燃料支持金具33の中央部に形成されて、この燃料支持金具33を貫通している横断面が十字形の制御棒挿入孔(図示せず)を通して、燃料支持金具33に支持された4体の燃料集合体13の相互間に挿入される。この制御棒34の、燃料集合体13の相互間への挿入、及び燃料集合体13の相互間からの引き抜きのそれぞれは、制御棒駆動機構35によって行われる。燃料集合体13の相互間に挿入された制御棒34は、水ギャップ領域39内に存在する。
【0057】
原子力プラント20の運転が開始され、インターナルポンプ26が駆動されると、原子炉圧力容器22内でダウンカマ32内に存在する冷却水が、インターナルポンプ26のインペラ27によって昇圧される。
昇圧された冷却水は、下部プレナム36を経て燃料支持金具33から燃料集合体13のチャンネルボックス17内に供給され、チャンネルボックス17内において燃料棒11相互間に形成された冷却水通路19を上昇する。冷却水通路19を上昇する間、冷却水は、燃料棒11内に存在する核燃料物質に含まれる核分裂性物質(例えば、核分裂性Pu)の核分裂で生じる熱によって加熱される。加熱された冷却水の一部が蒸気になるため、その冷却水は水及び蒸気を含む気液二相流となる。
【0058】
この気液二相流が、燃料集合体13の上端から、すなわち、炉心23から排出され、気水分離器28に流入する。気水分離器28内で、気液二相流は、水と蒸気に分離される。分離された水は、気水分離器28からダウンカマ32に排出され、冷却水としたダウンカマ32を下降し、インターナルポンプ26で昇圧される。また、分離された蒸気は、気水分離器28から蒸気乾燥器29に導かれ、その蒸気に含まれた湿分が蒸気乾燥器29で除去される。
湿分を除去されて蒸気乾燥器29から排出された蒸気は、原子炉圧力容器22から主蒸気配管37に排出され、主蒸気配管37を通して蒸気タービン(図示せず)に導かれる。その蒸気は、蒸気タービンを回転させ、蒸気タービンに連結された発電機(図示せず)を回転させる。発電機の回転によって、電力が発生する。
蒸気タービンから排出された蒸気は、復水器(図示せず)で凝縮されて水になる。この凝縮水は、給水として、給水配管38により原子炉圧力容器22に供給される。
【0059】
ここで、燃料集合体13の横断面における、チャンネルボックス17内での燃料棒11と燃料棒12の配置を、
図1を用いて具体的に説明する。燃料棒11は80本、燃料棒12は36本である。
燃料棒11及び燃料棒12のそれぞれは、下端部が下部タイプレート14に支持されており、上端部が上部タイプレート15に支持されている。
燃料棒11及び燃料棒12のそれぞれにおける、核燃料物質充填領域の軸方向の長さ、すなわち、燃料有効長は同じである
【0060】
燃料集合体13の横断面における、燃料棒11及び燃料棒12のそれぞれの配置位置について説明する。
燃料棒11は、燃料集合体13の横断面における燃料棒配列の、チャンネルボックス17の内面から1列目及び2列目に配置される。
燃料棒12は、燃料集合体13の横断面における燃料棒配列の、チャンネルボックス17の内面から3列目以降に配置される。
上記のように配置された燃料棒11及び燃料棒12は、燃料集合体13の横断面において、燃料集合体13の中心軸を中心に、点対称となるように配置されている。
【0061】
次に、式(1)による、燃料棒11及び燃料棒12の燃料棒の直径の具体的な決定の仕方について説明する。
まず、細径の燃料棒11の燃料棒径を決定する。例えば、本実施例では、12行12列の燃料集合体の設計を参照して、9mmとした。このときの、隣り合う燃料棒の中心距離(燃料棒ピッチ)は、11mmとなる。
【0062】
図4の拡大図には、
図1に示す燃料集合体13の断面図の左上1/4の領域を示しており、式(1)による評価に必要な、各冷却材通路(サブチャンネル)を示している。
式(1)の左辺には、チャンネルボックスの壁面部と燃料棒11間で形成されるサブチャンネル411、及び燃料棒11間で形成されるサブチャンネル412を用いる。
一方、式(1)の右辺には、上記のサブチャンネル412、及び燃料棒12間で形成されるサブチャンネル413を用いる。右辺ではさらに、チャンネルボックスの断面積を考慮する。具体的には、チャンネルボックスの全体の断面積402、及びチャンネルボックスの内層部の断面積401を考慮する。
【0063】
このときの式(1)の右辺と左辺の関係を、
図5に示す。
図5では、式(1)の左辺を破線で示し、式(1)の右辺を実線で示している。縦軸は式(1)の左辺及び右辺の評価値を示し、横軸は内層部の燃料棒の直径を示している。
外層部の細径の燃料棒の径を一定として与えているとき、左辺の値は、内層部の太径の燃料棒の直径に影響を受けないため、一定値を取る。
破線で示す左辺の値が、実線で示す右辺の値よりも大きくなる燃料棒径が、本発明の効果が期待できる、内層部の燃料棒の直径となる。
図5中に、評価式である式(1)による左辺>右辺となる燃料棒の直径の下限値L1を示している。
【0064】
一方で、
図5中に、燃料棒間隙による、燃料棒の直径の上限値L2を示している。本実施例では、内層部の燃料棒間のピッチを14mmとしている。
内層部の燃料棒径が燃料棒間のピッチに近づくにつれて、燃料棒同士の距離が極端に狭くなることで、冷却材がその隙間に十分に供給されず、局所的に熱的に厳しくなることが考えられる。そのため、一つの基準として、間隙が0となる内層部の燃料棒の直径を、燃料棒間隙による、燃料棒の直径の上限値L2として、
図5に示している。
【0065】
すなわち、内層部の燃料棒径の下限L1は、式(1)において左辺が右辺と等しくなる燃料棒径であり、内層部の燃料棒径の上限L2は、燃料棒間隙による上限値となる。
本実施例では、燃料棒インベントリを維持した上で、圧力損失を可能な限り低減することを考慮し、内層部の燃料棒の直径を小さくすることとし、内層部の燃料棒径は、式(1)を満たす、12mmとしている。
【0066】
冷却水通路19,19-1,19-2の流路面積の大小関係は、19<19-1<19-2となっている。このため、燃料集合体13の横断面における、前述した最外層部では、水ギャップ領域39が存在することによって、中性子スペクトルが柔らかくなり、燃料棒出力が増加する。
また、最外層を除く外層部では、水ギャップ領域39に近く、冷却水通路19-1によって水の領域が存在することで、最外層と同等もしくはそれ以上の燃料棒出力を有する。
一方で、内層部では、冷却水通路19-2により水の領域が存在し、水ギャップ領域が存在しないので、中性子スペクトルが硬くなることから、燃料棒出力が低下すると考えられる。
【0067】
本実施例では、炉心性能計算によって、燃料集合体の断面における燃料棒の出力は、最外層及び外層部が内層部より高いことを確認している。
【0068】
燃料集合体の断面において、冷却水通路19,19-1,19-2に分布ができると、それぞれの冷却水通路の水力等価直径も同様に、燃料集合体の断面で分布ができる。燃料集合体を流れる冷却材は、圧力損失が低い冷却水通路に偏在して流れ、水力等価直径の大きい冷却材通路ほど圧力損失が小さいことから、冷却水通路19-2を有している燃料棒12を配置した燃料集合体の内層部に、冷却材が偏在することが考えられる。冷却材の偏在によって、本来燃料棒の出力が高く冷却材が必要である、最外層部及び外層部の冷却材量が不足することが懸念され、限界熱出力が低下することが危惧される。
【0069】
限界熱出力は、燃料集合体の設計に依存する値であり、燃料集合体が熱水力的に優れているほど高くなる。限界出力比が規制値以下に収まるように、原子炉の、運転時における熱出力を決定する必要がある。すなわち、燃料集合体の設計時に燃料集合体内に熱的な負荷が高い燃料棒が存在する場合には、燃料集合体の限界熱出力が低下する。この結果、限界出力比を規制値以下に抑えるためには、原子炉の、運転時における熱出力を低下させなければならない。これは、原子炉の発電量が減ることによる経済性の問題、及び運転余裕を十分に確保することなどの安全性の問題をもたらす。
【0070】
本発明の発明者らは、前述した
図1の燃料集合体13の横断面における、各冷却材通路の冷却材流量を、燃料集合体の性能計算で求めた。燃料集合体の性能計算では、各冷却材通路19,19-1,19-2において、燃料棒のふちあたりの冷却材量を計算することで冷却材が各冷却材通路のどのように偏在しているかを評価した。評価では、比較のために、各冷却材通路19,19-1,19-2の燃料集合体の出口における冷却材量について、平均が1となるように冷却材量を規格化している。
【0071】
本発明を適用しない場合の
図7に示した燃料集合体13Cにおける冷却材の分布は、冷却材通路19では0.40、冷却材通路19-1では0.31、冷却材通路19-2では0.29となった。なお、
図7に示した燃料集合体13Cでは、内層部に太径の燃料棒を配置しないため、冷却材通路19-2は冷却材通路19-1と同等の形状である。
図7に示した燃料集合体13Cでは、冷却材が最外層部に多く偏在している。
図7に示す燃料集合体13Cでは、最外層及び外層部の燃料棒の熱出力が高くなるため、最外層部に冷却材が多く偏在することは好ましい。
【0072】
一方で、本実施例の
図1に示す燃料集合体13における冷却材の分布は、冷却材通路19では0.37、冷却材通路19-1では0.28、冷却材通路19-2では0.34となった。本実施例の
図1に示す燃料集合体13では、内層部に太径の燃料棒12を配置していることで、内層部の燃料棒12の出力が増加し、最外層及び外層部の燃料棒11の出力は相対的に減少する。このため、
図7と同等に冷却材を各冷却材通路19,19-1,19-2に分配する必要はなく、出力が増加する内層部の冷却材量を増やす必要がある。
図1の燃料集合体13は、内層部の燃料の冷却材量が、
図7の燃料集合体13Cと比べて増加していることから、内層部の燃料棒出力の増加に対して冷却を促進することができていると言える。
【0073】
これに対して、式(1)の範囲外の条件として、内層部の燃料棒直径を10mmとした場合の冷却材通路19,19-1,19-2の冷却材の分布は、冷却材通路19では0.28、冷却材通路19-1では0.19、冷却材通路19-2では0.52となった。冷却材通路19と冷却材通路19-2の冷却材量を比べると、冷却材通路19-2は冷却材通路19の約2倍程度の冷却材量があるが、上記の通り燃料棒出力は最外層及び外層のほうが高い。このため、内層部の燃料棒直径が本発明の式(1)を満たさない場合は、冷却材量が偏在してしまい、冷却材を必要とする燃料棒に十分に冷却材を分配できないことになる。
【0074】
本実施例によれば、燃料集合体の最外層及びその1層内側に12行12列で細径の燃料棒11を配置し、内層部に6行6列で太径の燃料棒12を配置しており、燃料棒12の燃料棒径について式(1)を満たすように決定している。これにより、チャンネルボックス17内の外層部から内層部への冷却材の横流れを抑制して、燃料集合体13の各冷却材通路の冷却材の偏在を抑制することができる。燃料集合体13内での冷却材の偏在の抑制により、燃料集合体の限界熱出力の低下を抑制することができ、原子力プラント20の運転中における熱出力を維持することができる。
【0075】
(変形例)
実施例1では,
図7に示した燃料集合体13Cの横断面における燃料棒配列の、最外周領域(チャンネルボックス17の内面から1列目)の4つのコーナーのそれぞれに1本ずつ配置されていた4本の支持ロッド100を、設けていない。
実施例1に対する変形例として、
図7の燃料集合体13Cの支持ロッド100と同様の構成の支持ロッドを、
図1に示した燃料集合体13の最外周領域の4つのコーナーのそれぞれに1本ずつ設けられた構成とすることもできる。
支持ロッドは、燃料集合体のコーナー部の出力を低減させるため、燃料集合体の横断面における出力分布の平坦化に貢献する。すなわち、コーナー部に支持ロッドを設置することにより、最外層のコーナー部に必要となる冷却材量を減少させることができ、式(1)を満たす範囲で内層部へ流入させる冷却材量が増加するように、燃料棒の直径を決定することができ、燃料集合体の限界熱出力を向上することが期待できる。
【0076】
(実施例2)
本発明の好適な他の実施例として、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラントに用いられる実施例2の燃料集合体を、
図6を参照して説明する。
図6は、実施例2の燃料集合体の横断面図である。
なお、本実施例の燃料集合体13Aにおいて、
図1に示した実施例1の燃料集合体13と同様の構成には、同一の符号を付している。
【0077】
本実施例の燃料集合体13Aが炉心に装荷される、低減速スペクトル沸騰水型原子力プラント20の原子炉21は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)である
【0078】
本実施例の燃料集合体13Aの横断面における、チャンネルボックス17内での複数の燃料棒11、燃料棒12、及び燃料棒12-1の配置を、
図6を用いて具体的に説明する。
【0079】
燃料集合体13A内の複数の燃料棒11は、実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒11と同じである。すなわち、燃料集合体13A内に配置された燃料棒11の燃料棒の直径、燃料棒の配置、燃料棒の本数は、実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒11と同じである。
【0080】
燃料集合体13A内の複数の燃料棒12は、実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒12と異なる。すなわち、燃料集合体13A内に配置された燃料棒12の燃料棒の直径は、実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒12と同じであるが、燃料棒の配置と燃料棒の本数は、実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒12と異なる。
実施例1の燃料集合体13内に配置された燃料棒12は、6行6列で燃料棒を配置していた。これに対して、本実施例の燃料集合体13A内に配置された燃料棒12は、6行6列ではあるが、内層部の5行5列には燃料棒12を配置しておらず、燃料棒12の本数は20本である
【0081】
燃料集合体13A内の複数の燃料棒12-1は、燃料棒12のさらに内側の層状の部分に3行3列に配置され、燃料棒の本数は9本である。燃料棒12-1の直径は、燃料棒12の直径より大きい。
燃料棒12-1は、前述した第3燃料棒に該当する。
【0082】
燃料棒12-1の直径は、式(1)を用いて評価する。
このとき、燃料棒11と燃料棒12の間に形成される冷却材通路の水力等価直径を式(1)のDh1、燃料棒12の周囲の等価直径を式(1)のDh2、燃料棒12-1の周囲の水力等価直径を式(1)のDh3とする。また、燃料棒12と燃料棒12-1が配置されている領域の断面積を式(1)のA、燃料棒12-1が配置されている領域の断面積を式(1)のAinとする。そして、式(1)を満たすように、燃料棒12-1の直径を決定する。
【0083】
本発明の発明者らは、
図6に示された本実施例の燃料集合体13Aにおいて、燃料棒11、燃料棒12、及び燃料棒12-1を用いる燃料集合体を想定した。
燃料集合体13Aの横断面においては、燃料棒11,12,12-1が、それぞれ燃料集合体13Aの中心軸を中心に点対象に配置されている。
【0084】
本実施例では、実施例1で生じる各効果を得ることができる。すなわち、燃料集合体13Aの最外層及び外層部から燃料棒12を配置する内層部へ冷却材が偏在することを抑制することができる。
さらに、本実施例は、燃料集合体13Aの横断面における燃料棒配列の、チャンネルボックス17の内面から3列目に配置された燃料棒12を起点に、その内層部の燃料棒に式(1)を満たすような燃料棒径を有する燃料棒12-1を配置する。これにより、燃料集合体13Aの断面において、燃料棒12が配置された領域から燃料棒12-1が配置された領域へ冷却材が偏在することを抑制することができる。
【0085】
さらに本実施例では、実施例1において燃料棒12を配置していた領域に対して、燃料棒12-1を配置している。燃料棒12-1は、燃料棒12と比較して太径の燃料棒であるため、燃料棒の断面積に占める被覆管の断面積の割合が減少し、燃料体積を維持したまま流路面積を増加させることができる。そのため、本実施例では、実施例1と比べて、流路面積が増加することが期待できるので、実施例1よりもさらに圧力損失を低減する効果が期待できる。
【0086】
なお、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
11,12,12-1…燃料棒、13,13A…燃料集合体、14…下部タイプレート、15…上部タイプレート、17…チャンネルボックス、20…低減速スペクトル沸騰水型原子力プラント、21…原子炉、22…原子炉圧力容器、23…炉心、34…制御棒、39…水ギャップ領域、100…支持ロッド