(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171704
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】鍵生成装置、鍵生成方法及び鍵生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G09C 1/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G09C1/00 620Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088857
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大樹
(57)【要約】
【課題】従来のLWR型公開鍵暗号方式と同等の安全性を保証し、かつ、従来の構成よりも公開鍵長を短縮できる鍵生成装置、鍵生成方法及び鍵生成プログラムを提供すること。
【解決手段】LWR型公開鍵暗号方式における秘密鍵、及び公開鍵ペアを生成する暗号システム1は、所定の分布に従う法q上のベクトルを秘密鍵とし、法q上の一様ランダムな行列Aの各要素をp/q倍して整数に丸めた行列、及び行列Aと秘密鍵との積をp/q倍して整数に丸めたベクトルの組を公開鍵ペアとして生成する鍵生成部111を備え、秘密鍵を暗号化装置20へ、公開鍵ペアを復号装置10へ提供することにより、法p上での暗号化処理及び復号処理を実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LWR型公開鍵暗号方式における秘密鍵、及び公開鍵ペアを生成する鍵生成装置であって、
所定の分布に従う法q上のベクトルを前記秘密鍵とし、法q上の一様ランダムな行列Aの各要素をp/q倍して整数に丸めた行列、及び行列Aと前記秘密鍵との積をp/q倍して整数に丸めたベクトルの組を前記公開鍵ペアとして生成する鍵生成部を備え、
前記秘密鍵を暗号化装置へ、前記公開鍵ペアを復号装置へ提供することにより、法p上での暗号化処理及び復号処理を実行させる鍵生成装置。
【請求項2】
LWR型公開鍵暗号方式における秘密鍵、及び公開鍵ペアを生成する鍵生成装置が、
所定の分布に従う法q上のベクトルを前記秘密鍵とし、法q上の一様ランダムな行列Aの各要素をp/q倍して整数に丸めた行列、及び行列Aと前記秘密鍵との積をp/q倍して整数に丸めたベクトルの組を前記公開鍵ペアとして生成し、
前記秘密鍵を暗号化装置へ、前記公開鍵ペアを復号装置へ提供することにより、法p上での暗号化処理及び復号処理を実行させる鍵生成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鍵生成装置としてコンピュータを機能させるための鍵生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LWR型公開鍵暗号方式の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、量子計算機に耐性を持つ暗号方式として、LWR(Learning With Rounding)問題に基づく公開鍵暗号方式が非特許文献1などで提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Jan-Pieter D'Anvers, Angshuman Karmakar, Sujoy Sinha Roy, and Frederik Vercauteren. "Saber: Module-LWR Based Key Exchange, CPA-Secure Encryption and CCA-Secure KEM". In: AFRICACRYPT 2018. 2018, pp. 282-305.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、公開鍵暗号方式において、要求される安全性が高くなるほど、公開鍵及び暗号文に十分な長さを用意する必要があった。このため、メモリ使用量及び処理負荷の増大により、実装が難しくなっていた。
【0005】
本発明は、従来のLWR型公開鍵暗号方式と同等の安全性を保証し、かつ、従来の構成よりも公開鍵長を短縮できる鍵生成装置、鍵生成方法及び鍵生成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鍵生成装置は、LWR型公開鍵暗号方式における秘密鍵、及び公開鍵ペアを生成する装置であって、所定の分布に従う法q上のベクトルを前記秘密鍵とし、法q上の一様ランダムな行列Aの各要素をp/q倍して整数に丸めた行列、及び行列Aと前記秘密鍵との積をp/q倍して整数に丸めたベクトルの組を前記公開鍵ペアとして生成する鍵生成部を備え、前記秘密鍵を暗号化装置へ、前記公開鍵ペアを復号装置へ提供することにより、法p上での暗号化処理及び復号処理を実行させる。
【0007】
本発明に係る鍵生成方法は、LWR型公開鍵暗号方式における秘密鍵、及び公開鍵ペアを生成する鍵生成装置が、所定の分布に従う法q上のベクトルを前記秘密鍵とし、法q上の一様ランダムな行列Aの各要素をp/q倍して整数に丸めた行列、及び行列Aと前記秘密鍵との積をp/q倍して整数に丸めたベクトルの組を前記公開鍵ペアとして生成し、前記秘密鍵を暗号化装置へ、前記公開鍵ペアを復号装置へ提供することにより、法p上での暗号化処理及び復号処理を実行させる。
【0008】
本発明に係る鍵生成プログラムは、前記鍵生成装置としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LWR型公開鍵暗号方式において、従来と同等の安全性が保証され、かつ、従来の構成よりも公開鍵長が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における暗号システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態における暗号システムによる、暗号化及び復号の処理の流れを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。
本実施形態の暗号システムは、従来よりも公開鍵長の短いLWR型公開鍵暗号方式により、従来と同等の安全性を保証したうえで、メッセージの暗号化及び復号を実現するシステムである。
【0012】
なお、本実施形態では、次の約束を設ける。
・確率分布Dの確率密度関数をD(x)と書く。
・U(X)は、集合X上の一様分布を表す。
・Zq上の値の行列又はベクトル同士の積は、全てmod q上で実行される。
【0013】
また、LWR問題は、次のように定義される。
m,n≧2,q≧p>2,を整数とする。秘密ベクトルs~U(Z
n
q)のLWRサンプルLWR
s(m,n,q,p)とは、
【数1】
であり、A~U(Z
m×n
q)である。LWR問題とは、与えられたLWRサンプルから秘密ベクトルsを求める問題である。
【0014】
図1は、本実施形態における暗号システム1の機能構成を示すブロック図である。
暗号システム1は、復号装置10(鍵生成装置)及び暗号化装置20を含み、暗号化装置20において公開鍵pkにより暗号化された暗号文ctを、復号装置10が秘密鍵skにより復号する構成である。
【0015】
復号装置10は、制御部11及び記憶部12の他、各種の入出力インタフェース等を備えた情報処理装置(コンピュータ)であり、暗号化装置20も同様に、制御部21及び記憶部22の他、各種の入出力インタフェース等を備えた情報処理装置である。
記憶部12に記憶された各種プログラムを制御部11が読み出して実行することにより、また、記憶部22に記憶された各種プログラムを制御部21が読み出して実行することにより、本実施形態における各機能を実現する。
【0016】
制御部11は、鍵生成部111と、復号部112とを備え、制御部21は、暗号化部211を備える。
なお、鍵生成部111は、復号装置10とは別の、信頼できる第三者の鍵生成装置に設けられてもよい。
暗号システム1に実装されるLWR型公開鍵暗号方式は、これらの機能部により実現されるKeyGen(鍵生成)、Enc(暗号化)、Dec(復号)の3つの機能を含んで構成される。
【0017】
図2は、本実施形態における暗号システム1による、暗号化及び復号の処理の流れを示すシーケンス図である。
【0018】
[KeyGen(1λ)(鍵生成)]
ステップS1において、鍵生成部111は、次の秘密鍵及び公開鍵ペアを出力する。
【0019】
秘密鍵sk:
【数2】
ここで、χ
βは、平均が0,分散がβ
2の分布である。
【0020】
公開鍵pk: (A’,b)
ここで、
【数3】
であり、E及びeは、その要素が(-q/2p,q/2p)上のrounding errors(丸め誤差)である。また、β<p<qである。
【0021】
ステップS2において、鍵生成部111は、公開鍵ペアpk:=(A’,b)を暗号化部211に提供する。
ステップS3において、鍵生成部111は、秘密鍵sk:=sを復号部112に提供する。
【0022】
[Enc
s(μ)(暗号化)]
ステップS4において、暗号化部211は、平文μ∈{0,1}に対し、次のように暗号文ctを出力する。
【数4】
【0023】
ステップS5において、暗号化部211は、暗号文ct:=(u,v)を復号部112に提供する。
【0024】
[Dec
s(ct)(復号)]
ステップS6において、復号部112は、秘密鍵skを用いて次のように暗号文ctを復号し、メッセージμ ̄を出力する。
【数5】
【0025】
ここで、本実施形態の暗号方式の正確性、すなわち、無視できる失敗確率でμ ̄=μとなることは、次のように保証され、パラメータ設計における条件が定義される。
【数6】
【0026】
したがって、各パラメータ(λ,n,m,q,p,β)の設計において、
Pr[eEnc<p/2]=1-negl(λ)
を満たすように選ぶことで、
Pr[μ ̄=μ]=1-negl(λ)
となり、無視できる失敗確率で復号が成功する。
【0027】
本実施形態によれば、従来のLWR型公開鍵暗号方式の公開鍵ペアがpk:=(A,b)∈Z
m×n
q×Z
m
pであり、法q上のランダム行列Aが用いられるのに対して、暗号システム1の公開鍵ペアは、pk:=(A’,b)∈Z
m×n
p×Z
m
pであり、法p上のランダム行列A’が用いられる。
よって、公開鍵長は、従来に比べておよそ、
【数7】
倍に短縮される。
したがって、暗号システム1は、従来のLWR型公開鍵暗号方式と同等の安全性を保証し、かつ、従来の構成よりも公開鍵長を短縮できる。
【0028】
なお、本実施形態により、例えば、安全で効率的な暗号方式を提供できることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0030】
暗号システム1による鍵生成方法、暗号化方法及び復号方法は、ソフトウェアにより実現される。ソフトウェアによって実現される場合には、このソフトウェアを構成するプログラムが、情報処理装置(コンピュータ)にインストールされる。また、これらのプログラムは、CD-ROMのようなリムーバブルメディアに記録されてユーザに配布されてもよいし、ネットワークを介してユーザのコンピュータにダウンロードされることにより配布されてもよい。さらに、これらのプログラムは、ダウンロードされることなくネットワークを介したWebサービスとしてユーザのコンピュータに提供されてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 暗号システム
10 復号装置
11 制御部
12 記憶部
20 暗号化装置
21 制御部
22 記憶部
111 鍵生成部
112 復号部
211 暗号化部