(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171745
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】熱処理解析方法、熱処理解析装置、熱処理解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20241205BHJP
G01N 25/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N25/18 L
G01N25/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088926
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】河井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】井筒 理人
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA01
2G040AB07
2G040AB19
2G040BA08
2G040BA25
2G040HA05
2G040HA16
2G040ZA05
(57)【要約】
【課題】高精度かつ短時間で熱処理解析を実現する。
【解決手段】熱処理解析方法は、金属部材を模擬した3次元モデル100に対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行し、3次元モデル100から評価対象とする外面または断面を評価面101,104として抽出し、推定器33に対して評価面101,104における2次元熱処理解析条件を入力することによって評価面101,104における2次元熱処理解析結果を推定することを含む処理をコンピュータにより実行する。推定器33は、評価面101,104における2次元熱処理解析条件を入力された際に、評価面101,104における2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行し、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出し、
推定器に対して前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力することによって前記評価面における2次元熱処理解析結果を推定する
ことを含む処理をコンピュータにより実行する熱処理解析方法であって、
前記推定器は、前記評価面における前記2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における前記2次元熱処理解析結果を出力するように、3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている、熱処理解析方法。
【請求項2】
前記2次元熱処理解析条件は、前記評価面における炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つを含み、
前記2次元熱処理解析結果は、前記評価面における応力分布、変位分布、または熱処理後の組織分布の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の熱処理解析方法。
【請求項3】
前記評価面は、前記3次元熱処理解析において応力または変位が最大となる部位を含むように抽出される、請求項1に記載の熱処理解析方法。
【請求項4】
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行する3次元熱処理解析部と、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出する断面抽出部と、
前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている推定器と
を備える、熱処理解析装置。
【請求項5】
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行し、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出し、
推定器に対して、前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力し、前記評価面における2次元熱処理解析結果を推定する
ことを含む処理をコンピュータに実行させる熱処理解析プログラムであって、
前記推定器は、前記評価面における前記2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における前記2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている、熱処理解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理解析方法、熱処理解析装置、熱処理解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の熱処理では、金属部材が、ある温度以上に加熱され、その後に冷却されることによって改質される。このとき、金属部材には、温度差による熱収縮または相変態による変態膨張が生じ、このような熱収縮および変態膨張に起因して変形および応力が生じる。金属部材の変形は熱処理後の切削コストの増大に繋がり得るし、金属部材内の応力は金属部材の割れに繋がり得る。従って、切削コストを低減するとともに金属部材の割れを回避すべく、シミュレーションによる変形予測および応力予測が活用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有限要素法を用いて熱処理中の変形および応力を予測するシミュレーション技術が開示されている。特許文献2には、有限要素法を用いた高周波熱処理などの特殊な熱処理に際して、シミュレーションの一部の磁場計算の回数を低減して解析時間の短縮化を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-53807号公報
【特許文献2】特開2014-81208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有限要素法を利用したシミュレーションは、一回あたりに多くの計算時間を要する。そのため、多くの計算回数を実行する場合には著しく膨大な計算時間を要し、実際上適用困難である。従って、最適な熱処理条件の探索のような多くの計算回数を要する場合に高精度かつ短時間での熱処理解析を実現する観点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、高精度かつ短時間で熱処理解析を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面は、
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行し、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出し、
推定器に対して前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力することによって前記評価面における2次元熱処理解析結果を推定する
ことを含む処理をコンピュータにより実行する熱処理解析方法であって、
前記推定器は、前記評価面における前記2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における前記2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている、熱処理解析方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、計算コストの高い有限要素法によるシミュレーションと比べて推定器を利用するために低い計算コストで熱処理解析結果を取得でき、短時間での熱処理解析を実現できる。また、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データ(評価面におけるデータ)を教師データとして用いているために、学習データサイズを低減しつつ、有限要素法と同等の高精度の推定が可能である。換言すれば、有限要素法によるシミュレーションを機械学習で代替するサロゲートモデルと称される手法を採用することにより、最適な熱処理条件の探索を可能とするような高精度かつ短時間での熱処理解析を実現できる。また、推定器の入力および出力は2次元熱処理解析のデータであるため、取り扱うデータサイズを3次元熱処理解析と比べて小さくできる。例えば、上記方法は、焼割れ回避、残留応力低減、または熱処理変形低減などのための最適な熱処理条件の探索に活用できる。
【0009】
前記2次元熱処理解析条件は、前記評価面における炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つを含んでいてもよく、
前記2次元熱処理解析結果は、前記評価面における応力分布、変位分布、または熱処理後の組織分布の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0010】
この構成によれば、2次元熱処理解析結果に大きく影響を与える因子である炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つについて短時間で最適な熱処理条件を探索できる。
【0011】
前記評価面は、前記3次元熱処理解析において応力または変位が最大となる部位を含むように抽出されてもよい。
【0012】
この構成によれば、3次元熱処理解析において応力または変位が最大となる部位は割れの起点となりやすいため、当該部位を含む評価面における熱処理解析を高精度かつ短時間で実現できることは有用である。
【0013】
本発明の第2の側面は、
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行する3次元熱処理解析部と、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出する断面抽出部と、
前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている推定器と
を備える、熱処理解析装置を提供する。
【0014】
本発明の第3の側面は、
金属部材を模擬した3次元モデルに対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行し、
前記3次元モデルから評価対象とする外面または断面を評価面として抽出し、
推定器に対して、前記評価面における2次元熱処理解析条件を入力し、前記評価面における2次元熱処理解析結果を推定する
ことを含む処理をコンピュータに実行させる熱処理解析プログラムであって、
前記推定器は、前記評価面における前記2次元熱処理解析条件を入力された際に、前記評価面における前記2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている、熱処理解析プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高精度かつ短時間で熱処理解析を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱処理解析装置の概略構成図。
【
図3】3次元モデルの炭素成分濃度分布を示す斜視図。
【
図4】
図2のA-A線に沿った断面(第1断面)で切除した3次元モデルの炭素成分濃度分布を示す斜視図。
【
図5】
図2のB-B線に沿った断面(第2断面)で切除した3次元モデルの炭素成分濃度分布を示す斜視図。
【
図6】3次元モデルのX方向応力分布を示す斜視図。
【
図7】第1断面で切除した3次元モデルのX方向応力分布を示す斜視図。
【
図8】第2断面で切除した3次元モデルのX方向応力分布を示す斜視図。
【
図10】第1断面の中心点での有限要素法と推定器によるX方向応力を示すグラフ。
【
図11】第1断面の有限要素法によるミーゼス応力分布。
【
図12】第1断面の推定器によるミーゼス応力分布。
【
図13】第1断面の有限要素法によるZ方向変位分布。
【
図16】底面の中心点での有限要素法と推定器によるX方向応力を示すグラフ。
【
図17】底面の有限要素法によるミーゼス応力分布。
【
図21】本発明の一実施形態に係る熱処理解析方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1を参照して、本実施形態の熱処理解析装置1は、金属部材に対する熱処理解析を実行する。熱処理解析は、熱処理に伴う解析を広く指し、例えば、伝熱解析、相変態解析、および弾塑性解析を含み得る。伝熱解析では金属部材の冷却挙動が解析され、相変態解析では金属部材の変態挙動が解析され、弾塑性解析では金属部材の変形挙動や応力挙動が解析される。
【0019】
本実施形態の熱処理解析装置1は、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ワークステーション、またはタブレット端末のようなコンピュータで構成される。熱処理解析装置1は、入出力インタフェース部10と、記憶部20と、制御部30とを備える。
【0020】
入出力インタフェース部10は、ユーザからの情報を入力するための入力装置およびユーザに情報を出力するための出力装置としての機能を有する。入出力インタフェース部10は、少なくとも1つのヒューマン・マシン・インタフェースを備える。ヒューマン・マシン・インタフェースは、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えばマウスもしくはトラックボール)、またはタッチパッド等の入力装置と、ディスプレイまたはスピーカ等の出力装置とを含む。また、ヒューマン・マシン・インタフェースは、インセル型タッチパネル搭載のディスプレイ(例えば液晶パネルまたは有機ELパネル)等の入出力装置を含む。
【0021】
記憶部20は、種々の情報を記憶できる記憶媒体である。記憶部20は、例えば、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ等のメモリ、HDD、SSD、その他の記憶デバイス、またはそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶部20は、後述する制御部30が行う各種の処理を実現するためのプログラムを格納する。また、記憶部20は、後述する各種データと、熱処理解析用のモデルと、熱処理解析に必要なその他の情報とを格納する。なお、制御部30によって実行されるプログラムは、所定の通信規格にしたがい通信を行う通信部から提供されてもよいし、可搬性を有する記憶媒体に格納されていてもよい。
【0022】
制御部30は、演算処理および装置全体の制御を行う。制御部30は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路、または再構成可能な電子回路等のハードウェア回路で構成されてもよい。また、制御部30は、種々の半導体集積回路で構成されてもよい。そのような種々の半導体集積回路は、例えば、CPU、MPU、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含む。
【0023】
制御部30は、機能的構成として、3次元熱処理解析部31と、断面抽出部32と、推定器33とを含む。これらは、上記回路等のハードウェア資源と、プログラムであるソフトウェア資源との協働により実現される。
【0024】
図2を参照して、3次元熱処理解析部31は、金属部材を模擬した3次元モデル100に対して有限要素法による3次元熱処理解析を実行する。図示の例では、3次元モデル100は縦(X方向)×横(Y方向)×高さ(Z方向)について80×80×30[mm]の直方体であり、これが複数の小さな立方体要素に分割されている。
【0025】
3次元熱処理解析では、3次元モデル100に対して各種物性値を設定する。例えば、各種物性値は、密度、線膨張係数、および弾性係数などを含む。そして、所望の熱処理解析に対応した各種境界条件を設定する。例えば、各種境界条件は、熱伝達率などを含む。また、所望の熱処理解析に対応した各種初期条件を設定する。例えば、各種初期条件は、各種成分濃度分布(例えば炭素成分濃度分布)および焼き入れ温度などを含む。以降、3次元熱処理解析における各種物性値、各種境界条件、および各種初期条件を3次元熱処理解析条件ともいう。
【0026】
図3を参照して、3次元モデル100に対して、部位に応じて様々な炭素成分濃度を設定し得る。炭素成分濃度は、金属材料における炭素含有量(質量パーセント濃度)のことをいう。図示の例では、色が黒い部分ほど炭素成分濃度が低いことを示している。具体的には、最も黒い色の部分は炭素成分濃度が0.15%となっており、最も白い色の部分は炭素成分濃度が0.45%となっている。
【0027】
3次元モデル100では、縦(X方向)の端部から概略4分の1の位置にある特定部位110と、縦(X方向)の端部から概略4分の3の位置にある特定部位120とにおいて、炭素成分濃度が高く設定されている。換言すれば、これらの特定部位110,120以外の基本部位130においては、炭素成分濃度が低く設定されている。
【0028】
図4は、3次元モデル100の縦(X方向)の端部から4分の1の位置での断面101(以下、第1断面101ともいう。)を示している。第1断面101は、
図2のA-A線に沿った断面に対応する。
図5は、3次元モデル100の縦(X方向)の端部から4分の3の位置での断面102(以下、第2断面102ともいう。)を示している。第2断面102は、
図2のB-B線に沿った断面に対応する。図示の例では、第1断面101および第2断面102に示すように、炭素成分濃度の分布は、Z方向において均一である。従って、
図3の上面103と底面104は同じ炭素成分濃度分布を示す。
【0029】
図4に示す第1断面101では、基本部位130に対応する黒色部分と、特定部位110に対応する白色部分とが混在し、即ち炭素成分濃度が大きく変化している。このような炭素成分濃度が大きく変化する面では、割れなどの問題が生じることが多い。これに対し、
図5に示す第2断面102では、全体が基本部位130に対応する黒色部分となっており、炭素成分濃度が概略均一となっている。このような炭素成分濃度が概略変化しない面では、割れなどの問題が生じることが少ない。
【0030】
本実施形態では、3次元熱処理解析部31は、3次元モデル100および3次元熱処理解析条件に基づいて、3次元モデル100における応力分布を出力する。あるいは、3次元熱処理解析部31は、変位分布、または熱処理後の組織分布を出力してもよいし、これらの組み合わせを出力してもよい。以降、3次元熱処理解析部31の出力結果を3次元熱処理解析結果ともいう。
【0031】
図6~8は、3次元熱処理解析結果の一例として応力分布を示している。これは、3次元熱処理解析条件として、
図2に示す3次元モデル100に対して
図3~5に示す炭素成分濃度分布を設定し、熱伝達率を500[W/m
2/K]に設定し、焼入れ温度を820[℃]に設定して得られた結果である。
【0032】
図6では、
図3と同様に3次元モデル100の全体が示されている。
図7では、第1断面101を視認できるように切除された3次元モデル100が示されている。
図8では、第2断面102を視認できるように切除された3次元モデル100が示されている。これらの図では、色が白い部分ほどX方向応力が大きいことを示している。例えば、最も黒い色の部分はX方向応力が-200[MPa]となっており、最も白い色の部分はX方向応力が450[MPa]となっている。
【0033】
図6を参照して、3次元モデル100の外面では高いX方向応力(白色部分)は確認されなかった。
図7を参照して、第1断面101では高いX方向応力(白色部分)が確認され、特に最大値として確認された。
図8を参照して、第2断面102においては高いX方向応力(白色部分)は確認されなかった。このように高いX方向応力が確認できた第1断面101では割れなどの問題が生じることが多く、第1断面101は評価対象として好ましい。これは応力についての例示であるが、変位についても同様であり、高い変位が確認される外面または断面では変形に関わる問題が生じることが多く、そのような面は評価対象として好ましい。
【0034】
断面抽出部32は、3次元モデル100から評価対象とする外面または断面を評価面として抽出する。評価面は、予め手動的に設定された面であってもよいし、3次元熱処理解析結果に基づいて自動的または手動的に抽出されてもよい。後者の場合、例えば、評価面は、3次元モデル100において応力が最大となる部位を含むように抽出されてもよい(例えば第1断面101)。あるいは、評価面は、3次元モデル100において変位が最大となる部位を含むように抽出されてもよい。また、抽出する評価面は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0035】
本実施形態では、断面抽出部32によって、予め手動的に設定された外面(底面)104を評価面として抽出するとともに、上記3次元熱処理解析結果に基づいて3次元モデル100において応力が最大となる部位を含むように第1断面101を評価面として自動的または手動的に抽出する。即ち、本実施形態では、2つの評価面101,104が抽出される。
【0036】
推定器33は、3次元モデル100の評価面101,104における2次元熱処理解析条件を入力された際に、評価面101,104における2次元熱処理解析結果を出力するように、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データを教師データとして用いた学習処理が施されている。即ち、3次元熱処理解析条件のうち評価面101,104におけるものを2次元熱処理解析条件として教師データに用い、3次元熱処理解析結果のうち評価面101,104におけるものを2次元熱処理解析結果として教師データに用いている。教師データは、様々に十分量学習されており、高精度の推定結果が保証されるものとする。学習処理方法としては、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、または畳み込みニューラルネットワーク等が採用され得る。なお、必要に応じて、学習前または学習中の推定器を用意し、上記教師データを用いて当該推定器に学習処理を施してもよい。
【0037】
本実施形態では、2次元熱処理解析条件は、評価面101,104における炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つを含む。また、2次元熱処理解析結果は、評価面101,104における応力分布、変位分布、熱処理後の組織分布の少なくとも1つを含む。
【0038】
本実施形態では、学習済みの推定器33に対して評価面101,104における2次元熱処理解析条件を入力することによって評価面101,104における2次元熱処理解析結果を推定する。
【0039】
図9~14を参照して、評価面(第1断面)101における推定器33による推定精度について検証した結果を説明する。具体的には、本実施形態によって推定した応力と、有限要素法のシミュレーションによって得られた応力とを比較した。
【0040】
解析条件は、上記3次元熱処理解析と基本的に同じであるが、前述の3次元熱処理解析のデータは教師データとして採用しているため、前述の3次元熱処理解析から炭素成分濃度のみを変更した。
図9は、評価面(第1断面)101における炭素成分濃度分布を示している。当該変更を図で確認すると、
図4の第1断面101と、
図9の第1断面101とを比較参照して、黒色と白色が入れ替わっている。即ち、
図9では、
図4の第1断面101における炭素成分濃度とは反対に、特定部位110の炭素成分濃度が基本部位130の炭素成分濃度よりも高く設定されている。
【0041】
図10は、評価面(第1断面)101の中心点での有限要素法と推定器33によるX方向応力を示すグラフである。横軸は時間t[sec]を示し、縦軸はX方向応力σx[MPa]を示している。実線は有限要素法による結果を示し、連続する黒丸は推定器33による結果を示している。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を数値的に確認した。
【0042】
図11は、評価面(第1断面)101における有限要素法によるミーゼス応力分布を示し、
図12は、評価面(第1断面)101における推定器33によるミーゼス応力分布を示している。これらの図では、色が白い部分ほどミーゼス応力が大きいことを示している。例えば、黒色部分はミーゼス応力が19[MPa]となっており、白色部分はミーゼス応力が492[MPa]となっている。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を視覚的に確認した。
【0043】
図13は、評価面(第1断面)101における有限要素法によるZ方向変位分布を示し、
図14は、評価面(第1断面)101における推定器33によるZ方向変位分布を示している。これらの図では、色が黒い部分ほどZ方向変位が大きいことを示している。例えば、黒色部分はZ方向変位が0.27[mm]となっており、白色部分はZ方向変位が0[mm]となっている。ここでのZ方向変位は絶対値を示している。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を視覚的に確認した。
【0044】
図15~20を参照して、評価面(底面)104における推定器33による推定精度について検証した結果を説明する。具体的には、本実施形態によって推定した応力と、有限要素法のシミュレーションによって得られた応力とを比較した。
【0045】
解析条件は、上記3次元熱処理解析と基本的に同じであるが、当該3次元熱処理解析のデータは教師データとして採用しているため、上記3次元熱処理解析から炭素成分濃度のみを変更した。
図15は、評価面(底面)104における炭素成分濃度分布を示している。当該変更を図で確認すると、
図3の上面103と、
図15の底面104とを比較参照して、黒色と白色が入れ替わっている。即ち、
図15では、
図3の上面103における炭素成分濃度とは反対に、特定部位110,120の炭素成分濃度が基本部位130の炭素成分濃度よりも高く設定されている。
【0046】
図16は、評価面(底面)104の中心点での有限要素法と推定器33によるX方向応力を示すグラフである。横軸は時間t[sec]を示し、縦軸はX方向応力σx[MPa]を示している。実線は有限要素法による結果を示し、連続する黒丸は推定器33による結果を示している。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を数値的に確認した。
【0047】
図17は、評価面(底面)104における有限要素法によるミーゼス応力分布を示し、
図18は、評価面(底面)104における推定器33によるミーゼス応力分布を示している。これらの図では、色が白い部分ほどミーゼス応力が大きいことを示している。例えば、黒色部分はミーゼス応力が13[MPa]となっており、白色部分はミーゼス応力が600[MPa]となっている。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を視覚的に確認した。
【0048】
図19は、評価面(底面)104における有限要素法によるZ方向変位分布を示し、
図20は、評価面(底面)104における推定器33によるZ方向変位分布を示している。これらの図では、色が黒い部分ほどZ方向変位が大きいことを示している。例えば、黒色部分はZ方向変位が0.03[mm]となっており、白色部分はZ方向変位が0。008[mm]となっている。ここでのZ方向変位は絶対値を示している。両結果は、よく一致していることを確認し、推定器33による高い推定精度を視覚的に確認した。
【0049】
図21を参照して、本実施形態の熱処理解析方法について改めて説明する。
【0050】
本実施形態の熱処理解析方法では、まず、熱処理解析の対象となる金属部材を模擬した3次元モデル100(
図2参照)に対して3次元熱処理解析を実行する(ステップS1)。当該3次元熱処理解析は、評価面の抽出および教師データの生成に資する。
【0051】
次に、評価面とする外面または断面を抽出する(ステップS2)。例えば、評価面は、3次元熱処理解析において応力または変位が最大となる部位を含むように抽出されてもよい。
【0052】
次に、抽出した評価面において、推定器33による推定を実行する(ステップS3)。推定器33には、評価面における炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つを2次元熱処理解析条件として入力し、評価面における応力分布、変位分布、または熱処理後の組織分布の少なくとも1つを2次元熱処理解析結果として推定させてもよい。
【0053】
図9~14および
図15~20の検証について、スペックが概ね同じコンピュータによる計算時間を比較すると、有限要素法によるシミュレーションでは数千秒の時間を要したのに対し、本実施形態では数十秒の時間で完了した。従って、本実施形態では、極めて短時間での熱処理解析を実現できることを確認した。
【0054】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0055】
計算コストの高い有限要素法によるシミュレーションと比べて推定器33を利用するために低い計算コストで熱処理解析結果を取得でき、短時間での熱処理解析を実現できる。また、有限要素法による3次元熱処理解析の一部データ(評価面におけるデータ)を教師データとして用いているために、学習データサイズを低減しつつ、有限要素法と同等の高精度の推定が可能である。換言すれば、有限要素法によるシミュレーションを機械学習で代替するサロゲートモデルと称される手法を採用することにより、最適な熱処理条件の探索を可能とするような高精度かつ短時間での熱処理解析を実現できる。また、推定器33の入力および出力は2次元熱処理解析のデータであるため、取り扱うデータサイズを3次元熱処理解析と比べて小さくできる。例えば、上記方法は、焼割れ回避、残留応力低減、または熱処理変形低減などのための最適な熱処理条件の探索に活用できる。
【0056】
また、2次元熱処理解析結果に大きく影響を与える因子である炭素成分濃度分布、焼入れ温度、または熱伝達率の少なくとも1つについて短時間で最適な熱処理条件を探索できる。
【0057】
また、3次元熱処理解析において応力または変位が最大となる部位は割れの起点となりやすいため、当該部位を含む評価面101における熱処理解析を高精度かつ短時間で実現できることは有用である。
【0058】
本実施形態は、上記熱処理解析方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させる熱処理解析プログラムによって実現されてもよい。そのような熱処理解析プログラムを実行することによっても、上記熱処理解析方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。換言すると、上記熱処理解析方法を使用しているともいえる。
【0059】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 熱処理解析装置
10 入出力インタフェース部
20 記憶部
30 制御部
31 3次元熱処理解析部
32 断面抽出部
33 推定器
100 3次元モデル
101 断面(第1断面)(評価面)
102 断面(第2断面)
103 上面(外面)
104 底面(外面)(評価面)
110 特定部位
120 特定部位
130 基本部位