(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017175
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ボールねじのナットの研削方法及びボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240201BHJP
B24B 19/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
F16H25/22 C
F16H25/22 E
B24B19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119650
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 孝之
【テーマコード(参考)】
3C049
3J062
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AB04
3C049CA01
3C049CB01
3J062AA21
3J062AB22
3J062AC08
3J062BA08
3J062CD04
(57)【要約】
【課題】ナットのねじ溝と循環部品のボール循環溝との接合部を段差なく研削して、ボールが接合部を滑らかに転動することができるボールねじのナットの研削方法及びボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじのナット54の研削方法は、ナット54に第1の循環部品20を取り付けずに、第2の循環部品30のみを切欠き部58内に取り付ける取り付け工程と、第2のボール循環溝34とナット54のねじ溝53との接合部80を、ナット54のねじ溝53と同時に研削加工する研削工程と、とを備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじのナットの研削方法であって、
前記第1の循環部品を取り付けずに、前記第2の循環部品を前記切欠き部内に取り付ける取り付け工程と、
前記第2のボール循環溝と前記ナットの前記ねじ溝との接合部を、前記ナットのねじ溝と同時に研削加工する研削工程と、
を備えるボールねじのナットの研削方法。
【請求項2】
前記ナットの切欠き部には、前記第2の循環部品の取付面が接触する他の底壁面を有する、請求項1に記載のボールねじのナットの研削方法。
【請求項3】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじであって、
前記ナットの切欠き部には、前記第2の循環部品の取付面が接触する他の底壁面を有する、ボールねじ。
【請求項4】
前記第2の循環部品の前記第2のボール循環溝は、前記ナットのねじ溝との接合部となる先端部分が、前記ナットのねじ溝と同じゴシックアーク形状に形成される、請求項3に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部品からなる循環駒が用いられるボールねじのナットの研削方法及びボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールねじとしては、
図11に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このボールねじ50は、外周面に螺旋状のねじ溝51を有して軸方向に延びるねじ軸52と、該ねじ軸52のねじ溝51に対応する螺旋状のねじ溝53を内周面に有するナット54と、を備える。ねじ軸52のねじ溝51とナット54のねじ溝53とは互いに対向して両者の間に負荷軌道55を形成しており、該負荷軌道55には転動体としての多数のボール56が転動可能に装填されている。
【0003】
また、ナット54の内部には軸方向に貫通するボール戻し通路57が形成されており、ナット54の軸方向中間部の2か所及び両端部には、ボール戻し通路57の端部が開口する4つの凹部(切欠き部)58がそれぞれ形成されている。4つの凹部58には、ボール戻し通路57と負荷軌道55とを連通するための循環駒60がそれぞれ嵌合固定されている。循環駒60には、ボール戻し通路57と負荷軌道55との間を連通するように湾曲するボール循環通路61が内部に形成されている。したがって、ナット54内には、ボール56の循環路が2回路構成されている。
【0004】
循環駒60は、
図12に示すように、ボール56の転動軌跡の中心線上で2つに分割され、それぞれ断面略半円状のボール循環溝64、65が設けられた第1循環駒62と第2循環駒63を突き合わせてボール循環通路61が形成されている。第1循環駒62には、ボール循環溝64の先端に、負荷軌道55からボール56をすくい上げるためのタング部66が設けられている。
【0005】
そして、負荷軌道55、一方の循環駒60のボール循環通路61、ボール戻し通路57、他方の循環駒60のボール循環通路61及び負荷軌道55によってボールの無限循環通路を形成している。ボールねじ50は、ねじ軸52(又はナット54)の回転により、ナット54(又はねじ軸52)がボール56の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【0006】
また、特許文献2には、湾曲した循環部品の端面を直線に形成して、スライダーのボール溝端面と湾曲形状の循環部品の接続部の段差を無くした直動案内装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5170330号公報
【特許文献2】特開平11-264414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような構成のボールねじでは、ナットのねじ溝と循環部品(循環駒)のボール循環溝との接合部に僅かでも段差があると、ボールの滑らかな循環が阻害される虞があるため、両溝の接合部が滑らかに接続するように研削する必要がある。
【0009】
チューブ式ボールねじやコマ式ボールねじでは、いずれも循環部品をナットに固定した状態で溝を研削することができなかった。即ち、チューブ式ボールねじでは、チューブを曲げてボールを救い上げる為のタング部を両端部に形成してボールを循環させているが、チューブ状の循環部品をナットに装着すると、ナットのねじ溝の研削時に、チューブのタング部がねじ溝の研削面に突き出しているため加工することができない。また、コマ式ボールねじは、1巻き分の回路を構成するため循環部品にS字状の通路が形成されており、ねじ溝の研削時に循環部品が干渉するためねじ溝を加工することができない。
【0010】
特許文献1に記載のボールねじは、2部品以上で構成された循環部品が、ナットの径方向穴の側壁を利用して組み立て構造を維持しているため、1部品でも欠けた状態では循環部品を位置決めすることができず、ねじ溝と循環部品の接合部の溝加工は困難である。
また、特許文献2は、直動案内装置に関するものであり、さらに、スライダーのボール溝端面と湾曲形状の循環部品の接続部を一体に仕上げ加工する際に、湾曲形状のボール通路部に直線部分ができるため、通路が滑らかでなく幅広になる問題がある。
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナットのねじ溝と循環部品のボール循環溝との接合部を段差なく研削して、ボールが接合部を滑らかに転動することができるボールねじのナットの研削方法及びボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、ボールねじのナットの研削方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじのナットの研削方法であって、
前記第1の循環部品を取り付けずに、前記第2の循環部品を前記切欠き部内に取り付ける取り付け工程と、
前記第2のボール循環溝と前記ナットの前記ねじ溝との接合部を、前記ナットのねじ溝と同時に研削加工する研削工程と、
を備えるボールねじのナットの研削方法。
【0013】
また、本発明の上記目的は、ボールねじに係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじであって、
前記ナットの切欠き部には、前記第2の循環部品の取付面が接触する他の底壁面を有する、ボールねじ。
【発明の効果】
【0014】
本発明のボールねじのナットの研削方法及びボールねじによれば、ナットのねじ溝と循環部品のボール循環溝との接合部を、ボールが滑らかに転動可能なように研削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】切欠き部に循環駒が組み付けられたナットの側面図である。
【
図2】(a)は切欠き部を有するナットの平面図であり、(b)は
図2(a)のA-A断面図である。
【
図3】第1の循環部品と第2の循環部品が組み付けられてなる循環駒を示し、(a)は側面図、(b)は下面図である。
【
図4】
図3に示す第1の循環部品を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図、(d)は上面図、(e)は下面図である。
【
図5】
図3に示す第2の循環部品を示し、(a)は底面図、(b)は側面図、(c)は他の側面図、(d)は上面図、(e)は下面図、ある。
【
図6】研削加工に先立って切欠き部に第2の循環部品のみが組み付けられたナットの側面図である。
【
図7】(a)は切欠き部に固定される第2の循環部品の接触部を示す側面図、(b)は底面図である。
【
図8】研削加工前のナットのねじ溝と第2の循環部品の直線溝との位置関係を示す拡大図である。
【
図9】第2の循環部品の直線溝の研削範囲を示す底面図である。
【
図10】(a)は
図8の楕円Bで囲む部分の拡大図、(b)は研削加工により削除された直線溝の研削部分を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る循環駒及びボールねじについて
図1及び
図2を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態のボールねじに関して、
図11及び
図12で既に説明した従来のボールねじ50と重複する部分については、各図に同一符号を付して説明を省略する。
即ち、本実施形態の循環駒10が組み付けられるナット54は、内周面に螺旋状のねじ溝53が形成されており、外周面には、径方向外側から切り欠かれた一対の切欠き部58が軸方向に並んで形成されている。また、ナット54には、軸方向に対向する2箇所の切欠き部58を連通するようにボール戻し通路57が設けられている。
【0017】
なお、以下の説明においては、循環駒に関して、組み付けられるナットの方向を基準として、X方向、Y方向、及びZ方向について規定している。具体的に、
図1及び
図2に示すように、X方向は、ナット54の回転軸Oに沿った方向であり、Y方向は、任意の循環駒10が取り付けられる切欠き部58の側壁面58bに沿った循環駒10の挿入方向で、且つ、循環駒10の厚さ方向でもあり、Z方向は、X方向及びY方向の両方に垂直な方向である。
【0018】
図1、2に示すように、各切欠き部58内には、Y方向高さが異なる底壁面58aと、他の底壁面58cとが設けられている。また、各切欠き部58内には、ナット54のねじ溝53に対応して開口し、その長手方向がねじ溝53のリード角θに沿って径方向に貫通する長孔59が形成されている。そして、第1及び第2の循環部品20、30の突き合わせ面21a,31a同士が突き合わされてなる循環駒10が、底壁面58a、58cに当接し、雌ねじ70に螺合する固定ねじにより固定される。
【0019】
即ち、第1の循環部品20は、切欠き部58の底壁面58aに当接するように切欠き部58内に配置され、第2の循環部品30は、第1の循環部品20に覆い被さるように、切欠き部58の他の底壁面58cに当接して配置される。後述する第1の循環部品20のタング部25、及び第2の循環部品30の直線溝32は、長孔59内に収容される。また、第2の循環部品30の直線溝32が、長孔59内に収容された際、直線溝32の位置において長孔59の側壁がボール56を支え、ボール循環通路40を形成している。
【0020】
循環駒10には、ボール戻し通路57と負荷軌道55との間を連通するように湾曲するボール循環通路40が内部に形成されており、ボールねじ50は、負荷軌道55、一方の循環駒10のボール循環通路40、ボール戻し通路57、他方の循環駒10のボール循環通路40及び負荷軌道55によってボール56の無限循環通路を形成している。ボールねじ50は、ねじ軸52(又はナット54)の回転により、ナット54(又はねじ軸52)がボール56の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【0021】
図3に示すように、循環駒10は、第1の循環部品20と第2の循環部品30との2部品によって構成される。循環駒10は、第1の循環部品20の突き合わせ面21aと第2の循環部品30の突き合わせ面31aとがY方向に垂直な面をなすように突き合わされてなり、その内部にボール循環通路40を有する。
【0022】
第1の循環部品20の突き合わせ面21aは、ナット54に形成された切欠き部58の底壁面58aと当接する面21bと平行に形成されている。また、第2の循環部品30の突き合わせ面31aは、切欠き部58の他の底壁面58cと当接する当接面31dと平行に形成されている。このため、第1及び第2の循環部品20、30の突き合わせ面21a、31aは、切欠き部58の底壁面58a及び他の底壁面58cと平行となる。
【0023】
ボール循環通路40は、負荷軌道55からタング部25によってボール56を掬い上げる、或いはボール56を負荷軌道55に戻す直線状の掬い上げ部41と、ボール56の移動方向を転換するように湾曲する方向転換部42とを備え、Y方向視で略L字状に形成されている。
【0024】
また、ボール循環通路40の中心線Cは、掬い上げ部41では、突き合わせ面21a,31aに垂直な循環駒10の厚さ方向(Y方向)における位置が変化しないのに対して、方向転換部42では、ボール戻し通路57と連通するため、Y方向における位置が、掬い上げ部41から離れるにつれて第1の循環部品20側に湾曲して移動している。このように、方向転換部42は、YZ平面でも湾曲して形成されているので、掬い上げ部41とボール戻し通路57との間で湾曲していても支障なく接続できる。
【0025】
このようなボール循環通路40は、第1の循環部品20の突き合わせ面21aに形成された第1のボール循環溝24(
図4参照)と、第2の循環部品30の突き合わせ面31aに形成された第2のボール循環溝34(
図5参照)とによって構成される。
【0026】
第1の循環部品20は、
図4に示すように、ナット54の切欠き部58の形状に対応した外形を有し、切欠き部58の底壁面58aに当接する本体部21と、本体部21からZ方向に突出し、負荷軌道55を転動するボール56を掬い上げるタング部25と、を備える。そして、本体部21の突き合わせ面21aの側方には、ボール循環通路40の一部を構成するY方向視で略L字型の第1のボール循環溝24が形成される。
【0027】
第1のボール循環溝24は、タング部25の一面によって形成される、断面略円弧状の掬い上げ溝22と、掬い上げ溝22から連続して湾曲して形成された方向転換溝23とを備える。
【0028】
掬い上げ溝22は、ナット54のねじ溝53のリード角θの方向に沿って直線状に形成されて掬い上げ部41を部分的に構成し、方向転換溝23は、XZ平面で湾曲する共に、YZ平面でも湾曲して方向転換部42を部分的に構成する。方向転換溝23は、断面略円弧状に形成されている。
【0029】
また、本実施形態の第1の循環部品20は、方向転換溝23におけるインコーナー側の溝底29の一部を備えておらず、方向転換溝23のインコーナー側の縁部23aが、アウトコーナー側の縁部23bよりも低く形成されている。なお、インコーナー側の溝底29の一部が除去された部分は、ナット54に同形状の加工を施すことで与えられるが、ナット54に加工される部分は、インコーナー側の溝底29の一部と同じ高さか、高さを低くすることで、ボール56の滑らかな循環を阻害しない。ただし、インコーナー側の溝底29は、除去された部分にボール56が落ちないようにするために、中心線Cまでとすることが好ましい。
【0030】
また、本体部21において、第1のボール循環溝24と干渉しない位置には、第1の循環部品20をナット54の切欠き部58(底壁面58a)に固定するためのねじ孔28がY方向に貫通して設けられている。
【0031】
第2の循環部品30は、
図5に示すように、ナット54の切欠き部58の形状に対応した外形を有し、薄肉部31bと、突き合わせ面31aをなす厚肉部31cとを持った本体部31を備える。また、第2の循環部品30には、薄肉部31bから厚肉部31cにかけて、ボール循環通路40の他部を構成するY方向視で略L字型の第2のボール循環溝34が形成されている。厚肉部31cは、第1の循環部品20の本体部21と部分的に略等しい外形形状を有している。
【0032】
第2のボール循環溝34は、薄肉部31bからY方向に突出して形成される、断面略円弧状でZ方向に延びる直線溝32と、直線溝32から連続して湾曲して形成された方向転換溝33とを備える。
【0033】
直線溝32は、第1の循環部品20の掬い上げ溝22に対向配置されて掬い上げ部41を部分的に構成し、方向転換溝33は、XZ平面で湾曲すると共に、その溝底33cが直線溝32から離れるにつれて突き合わせ面31aに近づくようにYZ平面でも湾曲して方向転換部42を部分的に構成する。また、方向転換溝33は、インコーナー側の縁部33aが、アウトコーナー側の縁部33bよりも低く形成されている。
【0034】
また、本体部31には、薄肉部31b及び厚肉部31cに、第2の循環部品30をナット54の切欠き部58の底壁面58a及び他の底壁面58cに固定するための一対のねじ孔37が設けられている。
【0035】
このように循環駒10を切欠き部58内に配置することで、負荷軌道55、一方の循環駒10のボール循環通路40、ボール戻し通路57、他方の循環駒10のボール循環通路40、及び負荷軌道55により無限循環通路が形成される。
【0036】
そして、ねじ軸52(又はナット54)が回転すると、ボール56は、負荷軌道55から掬い上げ部41により掬い上げられ、循環駒10の方向転換部42で方向転換され、ナット54に形成されたボール戻し通路57に送り込まれた後、さらに他方の循環駒10から異なる位置の負荷軌道55に戻されて循環する。
【0037】
図6に示すように、ナット54への循環駒10の組み付けに先立って、ナット54のねじ溝53、及び第2の循環部品30の直線溝32とねじ溝53との接合部は、ボール56の滑らかな転動を確保するために段差なく研削加工する必要がある。
【0038】
次に、ボールねじのナットの研削方法について、具体的に説明する。
先ず、
図6に示すように、第1の循環部品20はナット54(底壁面58a)に取り付けずに、第2の循環部品30のみをナット54の他の底壁面58cに固定する(取り付け工程)。
【0039】
第2の循環部品30は、当接面31d(
図7(b)の斜線部)をナット54の他の底壁面58cに当接させ、ねじ孔37に挿通した不図示の雄ねじを他の底壁面58cに形成された雌ねじ70に螺合させて固定する。
【0040】
図1に示すように、第1の循環部品20を取り付けるための底壁面58aは、第2の循環部品30を取り付けるための他の底壁面58cよりY軸方向に深い位置(回転軸O側)にあるので、第1の循環部品20を取り付けずに、第2の循環部品30のみを他の底壁面58cに固定すると、第2の循環部品30と底壁面58aとの間には、隙間が形成されことになる。
【0041】
この隙間により第2の循環部品30の取付けが安定しない虞がある場合は、第1の循環部品20と同じ厚さのスペーサを用意して、第2の循環部品30と底壁面58aとの間に配設して第2の循環部品30の2つのねじ孔37にそれぞれ雄ねじを挿通して固定してもよい。
【0042】
このように第2の循環部品30の当接面31dをナット54の他の底壁面58cに当接させてねじ固定した状態で、例えば、断面ゴシックアーク形状の総形砥石によりナット54のねじ溝53、及び該ねじ溝53と第2の循環部品30の直線溝32との接合部を同時に研削加工する(研削工程)。
【0043】
ナット54のねじ溝53の断面形状がゴシックアーク形状の場合、ボール56は、ねじ溝53と45°付近で接触する。従って、ボール56が、負荷軌道55から第2の循環部品30の直線溝32にスムースに入るためには、45°付近においてねじ溝53と第2の循環部品30の直線溝32とに段差がないことが望ましい。これは、ねじ溝53と直線溝32との接合部を同時に研削加工することで達成される。
なお、ねじ溝53の断面形状が単一円の場合には、ねじ溝53の溝底とボール56の外径は一致する。
【0044】
このように研削加工の際、ナット54には第1の循環部品20が取り付けられていないので、ねじ溝53の研削面側(回転軸O側)にタング部25のような障害物はなく、ねじ溝53の研削加工が可能となる。
【0045】
図8は、ナット54のねじ溝53と第2の循環部品30の直線溝32との接合部をボール走行方向から見た投影図である。
図8に示すように、第2の循環部品30の直線溝32とBCDの位置関係は、BCD上にあるボール56が、そのまま第2の循環部品30の直線溝32に入るように以下の関係になっている。
ボール中心径(BCD)+ボール径=循環通路中心位置径+循環通路径
即ち、第2の循環部品30の直線溝32の先端部分38の内径面は、研削前のねじ溝53Aと研削後のねじ溝53との間に位置していることが分かる。
【0046】
これにより、
図8~
図10に示すように、ナット54のねじ溝53A(研削加工前)をゴシックアーク形状に研削加工することで、研削後のねじ溝53が形成されると同時に、
図9の網掛け部で示すように、第2の循環部品30の直線溝32の先端部分38も研削加工されてゴシックアーク形状とされ、ナット54のねじ溝53との接合部80が滑らかに連続する。
図10には研削加工により除去された部分を網掛けで示している。
【0047】
なお、研削加工前における第2の循環部品30の直線溝32の先端部分38は、研削後のナット54のねじ溝53より内径側に突出していることが望ましい。これにより、直線溝32の先端部分38を確実に研削加工することができ、未加工部分によりねじ溝53との接合部80に段差が形成されることが防止できる。
【0048】
そして、研削加工後に、ナット54から第2の循環部品30が取り外す。その際、同時に研削加工されたナット54と第2の循環部品30とは、再組立ての際に間違わないように記号などを付しておくことが好ましい。
【0049】
このように同時に研削加工された循環駒10及びナット54は、組として管理され、ナット54の底壁面58aに第1の循環部品20を取り付けた後、該第1の循環部品20を覆うようにして、第2の循環部品30をナット54の他の底壁面58cに固定して組み付けられる。
【0050】
なお、第1の循環部品20及び第2の循環部品30は、この順に切欠き部58内に組付けられてもよいし、第1の循環部品20及び第2の循環部品30を組み付けた状態で、切欠き部58内に組み付けてもよい。
【0051】
上記したように、本実施形態のボールねじのナットの研削方法によれば、循環駒10を第1の循環部品20と第2の循環部品30とで構成し、第2の循環部品30のみをナット54に固定した状態でねじ溝53を研削加工することで、第2のボール循環溝34(直線溝32)とナット54のねじ溝53との接合部80をボール56が滑らかに転動可能なように研削することができる。
【0052】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0053】
また、本発明のボールねじは、例えば、高精度な加工、測定を行う装置の位置決め用途や半導体製造等に使用されるXYステージに用いることができる。また、例えば、工作機械(マシニングセンター、旋盤、研削機等)、測定機械(3次元測定器)、半導体製造装置(露光装置、検査プローブ等のテーブル)等に用いることができる。
【0054】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじのナットの研削方法であって、
前記第1の循環部品を取り付けずに、前記第2の循環部品を前記切欠き部内に取り付ける取り付け工程と、
前記第2のボール循環溝と前記ナットの前記ねじ溝との接合部を、前記ナットのねじ溝と同時に研削加工する研削工程と、
を備えるボールねじのナットの研削方法。
この構成によれば、ナットのねじ溝と第2のボール循環溝との接合部を段差なく研削加工することができ、接合部をボールが滑らかに転動することができ、耐久性が向上する。
【0055】
(2) 前記ナットの切欠き部には、前記第2の循環部品の取付面が接触する他の底壁面を有する、(1)に記載のボールねじのナットの研削方法。
この構成によれば、第2の循環部品を単独でナットの切欠き部の他の底壁面に取り付けることができ、ナットのねじ溝と第2のボール循環溝との接合部を確実に、かつ段差なく研削加工することができる。
【0056】
(3) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、
前記ナットの切欠き部に取り付けられて、前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成する循環駒と、
を備え、
前記循環駒は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備えるボールねじであって、
前記ナットの切欠き部には、前記第2の循環部品の取付面が接触する他の底壁面を有する、ボールねじ。
この構成によれば、ナットのねじ溝と第2のボール循環溝との接合部を段差なく研削加工することができ、接合部をボールが滑らかに転動することができ、耐久性が向上する。
【0057】
(4) 前記第2の循環部品の前記第2のボール循環溝は、前記ナットのねじ溝との接合部となる先端部分が、前記ナットのねじ溝と同じゴシックアーク形状に形成される、(3)に記載のボールねじ。
この構成によれば、接合部をボールが滑らかに転動することができ、耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0058】
10 循環駒
20 第1の循環部品
24 第1のボール循環溝
25 タング部
30 第2の循環部品
31d 当接面(第2の循環部品の取付面)
34 第2のボール循環溝
40 ボール循環通路
53 ねじ溝(研削加工後)
53A ねじ溝(研削加工前)
54 ナット
55 負荷軌道
56 ボール
58 切欠き部
58a 底壁面
58c 他の底壁面
80 第2のボール循環溝とナットのねじ溝との接合部