(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171755
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】コンピューターシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/398 20200101AFI20241205BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20241205BHJP
G06F 115/12 20200101ALN20241205BHJP
G06F 119/10 20200101ALN20241205BHJP
【FI】
G06F30/398
G01R31/28 F
G06F115:12
G06F119:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088950
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 領
(72)【発明者】
【氏名】秋山 清和
(72)【発明者】
【氏名】太田 宙志
(72)【発明者】
【氏名】松本 宙也
【テーマコード(参考)】
2G132
5B146
【Fターム(参考)】
2G132AA20
2G132AB08
2G132AC10
2G132AD01
2G132AL11
5B146AA22
5B146DJ04
5B146GL07
5B146GL10
(57)【要約】
【課題】実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減して解析精度を向上させてイミュニティ特性を評価することができるコンピューターシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】コンピューターが実行するシミュレーション方法であって、通信線路と最小限のグランドとを持った実基板、実基板をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデル、3次元の金属と誘電体との構造を持つハーネスモデル、および電力スペクトルの数値データを持つノイズ源モデル、を用い、実基板を用いてノイズ電圧の実測値を取得するステップと、基板モデルを用いてノイズ電圧の解析値を取得するステップと、ノイズ電圧の実測値と解析値との比較結果に基づいて、補正項を導出するステップと、ノイズ源モデルとハーネスモデルとの結合量を補正項で補正してシミュレーションの対象となる基板の解析を実施し、イミュニティ特性を評価するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピューターが実行するシミュレーション方法であって、
通信線路と最小限のグランドとを持った実基板、
前記実基板をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデル、
3次元の金属と誘電体との構造を持つハーネスモデル、および
電力スペクトルの数値データを持つノイズ源モデル、を用い、
前記実基板を用いてノイズ電圧の実測値を取得するステップと、
前記基板モデルを用いてノイズ電圧の解析値を取得するステップと、
ノイズ電圧の前記実測値と前記解析値との比較結果に基づいて補正項を導出するステップと、
前記ノイズ源モデルと前記ハーネスモデルとの結合量を前記補正項で補正してシミュレーションの対象となる基板の解析を実施し、イミュニティ特性を評価するステップと、を含む、コンピューターシミュレーション方法。
【請求項2】
コンピューターが実行するシミュレーション方法であって、
通信線路と最小限のグランドとを持った実基板、
前記実基板をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデル、
3次元の金属と誘電体との構造を持つハーネスモデル、および
電力スペクトルの数値データを持つノイズ源モデル、を用い、
前記実基板を用いて通過特性の実測値を取得するステップと、
前記基板モデルを用いて通過特性の解析値を取得するステップと、
通過特性の前記実測値と前記解析値との比較結果に基づいて補正項を導出するステップと、
前記ノイズ源モデルと前記ハーネスモデルとの結合量を前記補正項で補正してシミュレーションの対象となる基板の解析を実施し、イミュニティ特性を評価するステップと、を含む、コンピューターシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載通信の電磁界解析を行う装置におけるシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、BCI(Bulk Current Injection)試験のシミュレーションをより短時間で行えるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンピューターシミュレーションでは、実測値とシミュレーション値との間には少なからず乖離が生じる。よって、イミュニティ特性を正しく評価するためには、実測値とシミュレーション値との間の乖離を極力小さくすることが求められる。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減して解析精度を向上させてイミュニティ特性を評価することができる、コンピューターシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、コンピューターが実行するシミュレーション方法であって、通信線路と最小限のグランドとを持った実基板、実基板をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデル、3次元の金属と誘電体との構造を持つハーネスモデル、および電力スペクトルの数値データを持つノイズ源モデル、を用い、実基板を用いてノイズ電圧または通過特性の実測値を取得するステップと、基板モデルを用いてノイズ電圧または通過特性の解析値を取得するステップと、ノイズ電圧または通過特性の実測値と解析値との比較結果に基づいて、補正項を導出するステップと、ノイズ源モデルとハーネスモデルとの結合量を補正項で補正してシミュレーションの対象となる基板の解析を実施し、イミュニティ特性を評価するステップと、を含む、コンピューターシミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示のコンピューターシミュレーション方法によれば、ノイズ電圧または通過特性の実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減することができ、解析精度を向上させてイミュニティ特性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るコンピューターシミュレーション方法に用いられるシミュレーションモデル装置の概略構成を示す図
【
図4】コンピューターシミュレーションの処理手順を説明するフローチャート
【
図5】補正項を導出する処理の一例を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、プローブを含めた系全体を詳細化することなく、簡易なプローブモデルと補正項とによってリーズナブルにIC端に到達するノイズが推定可能であることを見出した。本開示のコンピューターシミュレーション方法は、この適用によって、実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減させ、解析精度を向上させてイミュニティ特性を評価する。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係るコンピューターシミュレーション方法に用いられるシミュレーションモデル装置1の概略構成を示す図である。
図1に例示したシミュレーションモデル装置1は、第1のECUモデル10と、第2のECUモデル20と、GNDプレーン30と、ハーネスモデル40と、BCIプローブモデル50と、測定環境モデル60と、補正項70と、ノイズ源モデル100と、を備える。
【0011】
第1のECUモデル10は、ICモデル11を含んだ電子制御装置の解析モデルである。このICモデル21としては、車載通信に用いられる通信IC(送信IC)などを例示することができる。ICモデル11は、コネクタ12を介してハーネスモデル40と接続されている。ICモデル11およびコネクタ12は、基板13に実装されている。基板13のグランド(GND)は、シミュレーションモデル装置1のGNDプレーン30と電気的に接続されている。
【0012】
第2のECUモデル20は、ICモデル21を含んだ電子制御装置の解析モデルである。このICモデル21としては、車載通信に用いられる通信IC(受信IC)などを例示することができる。ICモデル21は、コネクタ22を介してハーネスモデル40と接続されている。ICモデル21およびコネクタ22は、基板23に実装されている。基板23のグランド(GND)は、シミュレーションモデル装置1のGNDプレーン30と電気的に接続されている。
【0013】
ハーネスモデル40は、複数の電子制御装置を接続するワイヤーハーネスの解析モデルである。シミュレーションモデル装置1では、ハーネスモデル40は、第1のECUモデル10と第2のECUモデル20とを接続する。本実施形態のハーネスモデル40は、3次元の金属と誘電体との構造を持つ。
図2は、ハーネスモデル40の構造を示す垂直断面図である。
図2に示すように、ハーネスモデル40は、2本の通信線41および通信線42がシールド43で囲まれた構造を有する。通信線41および通信線42とシールド43とが3次元の金属であり、通信線41および通信線42の外皮とシールド43の外皮とが誘電体である。
【0014】
BCIプローブモデル50は、三次元構造で構築したプローブモデルを簡略化したモデルである。
図3は、BCIプローブモデル50の簡易構造を示す垂直断面図である。このBCIプローブモデル50は、ハーネスモデル40にクランプ接続され、イミュニティ試験におけるノイズ信号を、ノイズ源モデル100から補正項70を介してハーネスモデル40の通信線41および通信線42に注入するための構成である。
【0015】
測定環境モデル(または解析環境モデル)60は、第1のECUモデル10、第2のECUモデル20、ハーネスモデル40、およびBCIプローブモデル50以外の周辺部の環境に関する解析モデルである。この測定環境モデル60としては、GNDプレーン30や接地線などを模したものを例示することができる。なお、測定環境としては、国際無線障害特別委員会(CISPR:Comite international Special des Perturbations Radioelectriques)などの規格を想定しているが、車両などの複雑な構造を模してもよい。
【0016】
補正項70は、シミュレーションモデル装置1を用いて対象となるECUモデルのシミュレーションを行う際に、ハーネスモデル40に印加するノイズ(結合量)を補正するための構成である。この補正項70は、実基板(基準基板)の実測による到達電圧と、実基板をモデル化した評価基板モデルの解析(シミュレーション)による到達電圧との誤差(ノイズ電圧の誤差)に基づいて導出される。この補正項70を導出する手法については、後述する。
【0017】
ノイズ源モデル100は、電力スペクトルの情報(数値データ)を持った予め定めた周波数特性の電圧源のモデルである。
【0018】
[制御]
次に、
図4をさらに参照して、シミュレーションモデル装置1を用いた本実施形態に係るコンピューターシミュレーション方法を説明する。
図4は、対象基板のイミュニティ特性を評価するためのコンピューターシミュレーションの処理手順を説明するフローチャートである。
【0019】
(ステップS401)
ノイズ源を設定する。本実施形態では、周波数特性を持つ解析時の電圧源としてノイズ源モデル100を設定する。
【0020】
(ステップS402)
第1のECUモデル10および第2のECUモデル20を簡略化する。具体的には、上記ステップS401で設定したノイズ源に応じて、その周りの回路などを全てGND(例えばベタGND)にすることなどによってモデルを簡略化する。この簡略化によって、解析量を削減することができる。
【0021】
(ステップS403)
BCIプローブモデル50を作成する。具体的には、
図3に例示したような簡略化された構造のBCIプローブモデル50を作成する。この処理では、BCIプローブモデル50の精巧な作り込みは不要である。このBCIプローブモデル50の簡略化によって、曲率のある金属部を減らして解析量(計算量)を削減することができ、精度の高い解析が可能となる。
【0022】
(ステップS404)
ECU、ハーネス、および測定環境を設定する。具体的には、第1のECUモデル10、第2のECUモデル20、ハーネスモデル40、および測定環境モデル60を、1つのモデルにまとめることを行う。例えば、輻射エミッションのシミュレーションである場合は、GNDプレーン30を設けてアンテナ相当の位置で電界を取得するように各モデルが1つにまとめられる。
【0023】
(ステップS405)
評価基板モデルを用いた電磁界解析を実施する。評価基板モデルは、後述する実基板(基準基板)をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデルである。この電磁界解析では、評価基板モデルを用いてシミュレーション(解析)した場合の、受信IC側に到達するノイズ、すなわち受信IC端に現れる到達電圧(ノイズ電圧)の解析値が求められる。電磁界解析には、有限差分時間領域法(FDTD:Finite Difference Time Domain Method)や、有限要素法(FEM:Finite Element Method)などを用いることが可能である。
【0024】
(ステップS406)
実基板(基準基板)を用いた測定を実施する。実基板は、モデリングが容易な通信線路と最小限のグランド(GND)とを持った実際の簡易な基板である。この実基板は、寄生容量が最小となることが望ましい。この測定では、実基板を用いて実測した場合の、受信IC側に到達するノイズ、すなわち受信IC端に現れる到達電圧(ノイズ電圧)の実測値が求められる。
【0025】
(ステップS407)
補正項70を導出する。この補正項70は、上記ステップS405における評価基板モデルのシミュレーション(解析)結果である到達電圧と、上記ステップS406における実基板(基準基板)の実測結果である到達電圧との比較に基づいて、すなわちノイズ電圧の誤差に基づいて導出される。より具体的には、
図5に例示する処理フローに従って補正項70を導出する。
【0026】
(ステップS408)
対象となるECUモデル(第1のECUモデル10および第2のECUモデル20)を用いた電磁界解析を実施する。この電磁界解析では、ノイズ源モデル100から出力されるノイズが、上記ステップS407で導出した補正項70によって補正された後、BCIプローブモデル50を介してハーネスモデル40に印加される。補正された入力ノイズによる電磁界解析を行い、その結果に基づいてイミュニティ特性を評価する。以上の処置により、コンピューターによるシミュレーション処理が終了する。
【0027】
なお、上記ステップS407で行う補正項70の導出では、実測結果をもとにシミュレーション結果と比較するが、複数の実験条件の結果を用いてもよい。複数の解析モデル条件と実測結果とを用いることで、さらなる精度の向上が可能である。
【0028】
また、上記ステップS407で行う補正項70の導出では、実測結果をもとにシミュレーション結果と比較するが、同じ条件を複数回取って統計的な処理を行った値を採用してもよい。複数の実験条件の結果を用いることで、実測のばらつきを考慮することができ、さらなる精度の向上が可能である。
【0029】
また、上記ステップS407で導出する補正項70は、到達電圧ではなく通過特性であってもよい。通過特性を用いることによって位相の補正を行うことができ、さらなる精度の向上が可能である。
【0030】
さらに、補正項70を用いて補正を行う位置(補正項70の配置)は、
図1に示すノイズ源モデル100とBCIプローブモデル50との間の位置ではなく、到達電圧を推定する第2のECUモデル20内のICモデル21端であってもよい。補正項70をICモデル21端に配置することにより、ハーネスモデル40の差動線路の2線分を補正できるようになり、さらなる精度の向上が可能である。
【0031】
<作用・効果>
以上説明したように、本開示の一実施形態に係るコンピューターシミュレーション方法によれば、通信線路と最小限のグランドとを持った実基板、実基板をコンピューターシミュレーション用にモデル化した基板モデル、3次元の金属と誘電体との構造を持つハーネスモデル、および電力スペクトルの数値データを持つノイズ源モデル、を用いる。そして、実基板を用いてノイズ電圧の実測値を取得し、基板モデルを用いてノイズ電圧の解析値を取得し、ノイズ電圧の実測値とノイズ電圧の解析値との比較結果に基づいて補正項を導出し、ノイズ源モデルとハーネスモデルとの結合量を補正項で補正してシミュレーションの対象となる基板の解析を実施し、イミュニティ特性を評価する処理を、コンピューターに実行させる。
【0032】
このように、本コンピューターシミュレーション方法では、プローブを含めた系全体を詳細化することなく、簡易なプローブモデルと補正項とによってリーズナブルにIC端に到達するノイズを推定することが可能となる。これにより、ノイズ電圧の実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減することができ、解析精度を向上させてイミュニティ特性を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本開示のコンピューターシミュレーション方法は、イミュニティ特性を評価時などの、実測値とシミュレーション値との間の乖離を低減させたい場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 シミュレーションモデル装置
10 第1のECUモデル
11 ICモデル
12 コネクタ
13 基板
20 第2のECUモデル
21 ICモデル
22 コネクタ
23 基板
30 GNDプレーン
40 ハーネスモデル
41、42 通信線
43 シールド
50 BCIプローブモデル
60 測定環境モデル
100 ノイズ源モデル