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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171758
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241205BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241205BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088956
(22)【出願日】2023-05-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 化学工学会第53回秋季大会 講演要旨、http://www3.scej.org/meeting/53f/abst/PA308.pdf、令和4年8月31日 [刊行物等] 化学工学会第53回秋季大会、令和4年9月13日 [刊行物等] The Sixth International Symposium on Innovative Materials and Processes in Energy Systems Book of Abstracts、令和4年11月22日 [刊行物等] The Sixth International Symposium on Innovative Materials and Processes in Energy Systems、令和4年10月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】古橋 資丈
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航也
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AA07
5H018AS07
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE11
5H018EE16
5H018EE19
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】触媒活性の低下を抑制することができる電極触媒及び燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池用電極触媒1は、燃料電池の電極に用いられる。電極触媒1は、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維2と、燃料電池における電極反応を促進する作用を有し、導電性炭素繊維2に担持された触媒金属3と、を有する。X線光電子分光法を用いて電極触媒1の表面を分析することにより得られる、導電性炭素繊維2の表面における硫黄原子の濃度は0.3原子%以上2原子%以下であってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の電極に用いられる燃料電池用電極触媒であって、
硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維と、
前記燃料電池における電極反応を促進する作用を有し、前記導電性炭素繊維に担持された触媒金属と、を有する、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
X線光電子分光法を用いて前記電極触媒の表面を分析することにより得られる、前記導電性炭素繊維の表面における硫黄原子の濃度が0.3原子%以上2原子%以下である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記触媒金属の担持量が前記電極触媒の質量に対して20質量%以上40質量%以下である、請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
前記触媒金属がパラジウムである、請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
前記導電性炭素繊維の平均直径が250nm以上500nm以下である、請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒を備えた燃料電池。
【請求項7】
ギ酸を燃料として使用することができるように構成された、請求項6に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池等の燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の一方の面上に設けられたアノードと、電解質膜の他方の面上に設けられたカソードと、を含む膜電極接合体を有している。燃料電池は、膜電極接合体のアノードに燃料を供給するとともに、カソードに酸化剤を供給することにより、アノードとカソードとの間に起電力を生じさせ、発電を行うことができる。
【0003】
燃料電池の電極には、電極反応を促進させるための電極触媒が含まれている。例えば特許文献1には、炭素系支持体、金属酸化物粒子及び触媒金属粒子が順次に積層された層状構造を有する燃料電池用の担持触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-27918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の担持触媒を含め、従来の電極触媒は、連続して発電を行うと、触媒の被毒によって触媒活性が低下するという問題がある。そのため、より長期間にわたって高い触媒活性を維持することができる電極触媒が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、触媒活性の低下を抑制することができる電極触媒及び燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、燃料電池の電極に用いられる燃料電池用電極触媒であって、
硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維と、
前記燃料電池における電極反応を促進する作用を有し、前記導電性炭素繊維に担持された触媒金属と、を有する、燃料電池用電極触媒にある。
【発明の効果】
【0008】
前記燃料電池用電極触媒(以下、「電極触媒」という。)における触媒金属は、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維の表面に担持されている。このように、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維の表面に触媒金属を担持させることにより、触媒金属の被毒による触媒活性の低下を抑制することができる。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、触媒活性の低下を抑制することができる電極触媒及び燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1における電極触媒を模式的に示した図である。
図2図2は、実施形態2における、電極触媒を含む燃料電池の要部を示す一部断面図である。
図3図3は、実験例における、各試験剤の電流-電位曲線を示す説明図である。
図4図4は、実験例における、各試験剤の時間-電流曲線を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
前記電極触媒に係る実施形態について、図1を参照して説明する。本形態の電極触媒1は、燃料電池の電極に用いられるように構成されている。電極触媒1は、図1に示すように、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維2と、燃料電池における電極反応を促進する作用を有し、炭素繊維に担持された触媒金属3と、を有している。以下、電極触媒1の構成をより詳細に説明する。
【0012】
導電性炭素繊維2としては、例えば、硫化モリブデンを含むポリアクリロニトリル系炭素繊維や、硫化モリブデンを含むピッチ系炭素繊維などを使用することができる。硫化モリブデンは、導電性炭素繊維2内に均一に分散しており、その一部が導電性炭素繊維2の表面に露出している。
【0013】
X線光電子分光法(いわゆるXPS)を用いて電極触媒1の表面を分析することにより得られる、導電性炭素繊維2の表面における硫黄原子の濃度は0.3原子%以上2原子%以下であることが好ましい。導電性炭素繊維2の表面における硫黄原子の濃度を前記特定の範囲内とすることにより、導電性炭素繊維2の表面に十分な量の硫化モリブデンを露出させることができる。その結果、触媒金属3の被毒をより効果的に抑制し、触媒活性の低下をより長期間にわたって抑制することができる。
【0014】
また、導電性炭素繊維2の表面における硫黄原子の濃度は0.4原子%以上1.5原子%以下であることがより好ましく、0.5原子%以上1.0原子%以下であることがさらに好ましく、0.6原子%以上0.9原子%以下であることが特に好ましい。この場合には、触媒金属3の被毒を抑制する効果をより高めるとともに、触媒活性をより高め、燃料電池の発電出力をより向上させることができる。
【0015】
なお、導電性炭素繊維2の表面における硫黄原子の濃度は、例えば、導電性炭素繊維2の作製時に使用する硫化モリブデンの添加量により調整することができる。また、導電性炭素繊維2中には、例えば、導電性カーボン粒子等の添加剤が含まれていてもよい。
【0016】
導電性炭素繊維2の平均直径は、250nm以上500nm以下であることが好ましい。この場合には、電極触媒1の比表面積がより大きくなるため、燃料や酸化剤と電極触媒1との接触頻度をより高めることができる。その結果、電極反応を促進する効果をより高めることができる。
【0017】
なお、導電性炭素繊維2の平均直径の算出方法は、例えば以下の通りである。まず、走査型二次電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒1を観察することにより電極触媒1の拡大写真を取得する。この拡大写真における導電性炭素繊維2上に、無作為に複数個所の測定位置を設定し、これらの測定位置のそれぞれにおける導電性炭素繊維2の直径を計測する。このようにして得られる複数の測定位置における導電性炭素繊維2の直径の算術平均値を導電性炭素繊維2の平均直径とする。なお、拡大写真上に設定する測定位置の数は特に限定されることはないが、測定位置の数を多くするほど正確な平均直径を得ることができる。かかる観点から、拡大写真上に設定する測定位置の数は、10か所以上であることが好ましい。
【0018】
電極触媒1に用いられる導電性炭素繊維2は、例えば、硫化モリブデンを含み、有機物からなる有機繊維を炭化させることにより得られる。有機繊維を構成する有機物としては、例えば、ポリアクリロニトリルや石炭ピッチを用いることができる。
【0019】
触媒金属3は、導電性炭素繊維2の表面に担持されている。触媒金属3としては、燃料電池の電極反応に対する触媒として機能する性質を有する金属を用いることができる。より具体的には、触媒金属3としては、例えば、白金、パラジウム及びルテニウムなどの貴金属及びこれらの貴金属を含む合金などを使用することができる。触媒金属3の被毒を抑制する効果をより確実に得る観点からは、触媒金属3は、パラジウムであることが好ましい。また、パラジウムは、ギ酸の酸化反応に対する触媒活性に優れているため、触媒金属3としてのパラジウムを有する電極触媒1は、ギ酸を燃料とする燃料電池に特に好適である。
【0020】
また、触媒金属3の担持量は、電極触媒1の質量に対して20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。この場合には、触媒金属3の被毒を抑制する効果をより確実に得ることができる。
【0021】
電極触媒1は、例えば以下の方法により作製することができる。まず、ポリアクリロニトリルや石炭ピッチなどの有機物と、硫化モリブデンとを混合した後、混合物を用いて紡糸を行うことにより、硫化モリブデンを含む有機繊維を作製する。有機繊維を作製する際の紡糸方法は特に限定されることはなく、所望する導電性炭素繊維2の直径や使用する有機物の性状などに応じて公知の方法から適切な方法を採用すればよい。
【0022】
次に、有機繊維に熱処理を施し、有機物を炭化させることにより硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維2を作製する。その後、導電性炭素繊維2の表面に、公知の方法により触媒金属3を担持させる。以上により、電極触媒1を得ることができる。
【0023】
本形態の電極触媒1は、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維2と、導電性炭素繊維2の表面に担持された触媒金属3とを有している。このように、硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維2の表面に触媒金属3を担持させることにより、触媒金属3の被毒による触媒活性の低下を抑制することができる。このような効果が得られる理由は現時点では必ずしも明らかではないが、例えば、導電性炭素繊維2の表面に露出した硫化モリブデンと触媒金属との相互作用によって触媒金属3の電子状態が変化すること等が理由として考えられる。
【0024】
(実施形態2)
本形態では、図2を参照しつつ、実施形態1の電極触媒1を備えた燃料電池の例を説明する。なお、本実施形態以降の実施形態等において用いる符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一の符号は、特に説明のない限り既出の形態における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0025】
電極触媒1は、水素を燃料として用いる燃料電池や、メタノールを燃料として用いる直接メタノール形燃料電池、ギ酸を燃料として用いる直接ギ酸形燃料電池などの種々の態様の燃料電池に適用することができる。これらの燃料電池の中でも、ギ酸やメタノールなどの炭素原子を含む液体燃料を用いる燃料電池は、アノードの電極反応において触媒金属の被毒の原因となる一酸化炭素が発生することがあるため、触媒金属の活性が低下しやすいという問題を有している。これに対し、電極触媒1は、触媒金属3の被毒を抑制することができるため、炭素原子を含む液体燃料を用いる燃料電池においても触媒活性の低下を長期間にわたって抑制することができる。従って、電極触媒1は、炭素原子を含む液体燃料を用いる燃料電池、特にギ酸を燃料として用いる直接ギ酸形燃料電池に対して有用である。
【0026】
図2に、燃料電池4の例を示す。燃料電池4は、電解質膜411と、電解質膜411の両面に設けられた電極触媒1とを備えた膜電極接合体(以下、「MEA」という。)41と、MEA41の一方の面上に設けられた第一セパレータ42と、MEA41の他方の面上に設けられた第二セパレータ43とを有している。第一セパレータ42は、MEA41に燃料を供給可能に構成されており、第二セパレータ43は、MEA41に酸化剤を供給可能に構成されている。すなわち、燃料電池4は、MEA41における第一セパレータ42側の電極触媒1がアノード1aとなり、第二セパレータ43側の電極触媒1がカソード1cとなるように構成されている。燃料電池4は、第一セパレータ42からアノード1aに燃料を供給するとともに第二セパレータ43からカソード1cに酸化剤を供給することにより、アノード1a及びカソード1c上で電極反応を起こし、発電を行うことができる。なお、図2においては、便宜上、電極触媒1の構造を簡略化した。
【0027】
燃料電池4は、MEA41、第一セパレータ42及び第二セパレータ43を含む単セル40を1個以上有していればよい。例えば、図2に示すように燃料電池4が1つの単セル40から構成されている場合には、アノード1aとなる電極触媒1及びカソード1cとなる電極触媒1を外部負荷と電気的に接続し、各電極から電流を引き出せばよい。また、図には示さないが、燃料電池4が複数の単セル40を有している場合、これらの単セル40は、互いに積層されることによりセルスタックを構成していてもよい。この場合、各単セル40は、他の単セル40と電気的に直列に接続されていてもよいし、並列に接続されていてもよい。
【0028】
MEA41における電解質膜411は、電気絶縁性を有し、水素イオン(H)等のカチオンを選択的に透過可能に構成されたカチオン交換樹脂から構成されている。このようなカチオン交換樹脂としては、パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー(例えば、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」)等が挙げられる。
【0029】
第一セパレータ42は、金メッキが施されたステンレス鋼等の金属材料や、導電性カーボンなどの導電性非金属材料、導電性複合材料等の電気伝導体から構成されていてもよい。電気伝導性を有する第一セパレータ42は、MEA41での電極反応によって生じた電子を集める集電体として機能し、MEA41で発生した電力を外部へ導くことができる。
【0030】
第一セパレータ42には、アノード1aに燃料を供給可能に構成された燃料流路421が設けられている。燃料流路421の形状や配置などは、種々の態様をとり得る。例えば、燃料流路421は、矩形状、三角形状及び半円状などの断面形状を有し、第一セパレータ42に設けられた溝であってもよい。また、燃料流路421は、例えば、互いに平行に並んだ複数の直線部と、各直線部の端部と当該直線部に隣接する直線部の端部とを接続する折り返し部とを有しており、当接面側から見た平面視において、蛇行するように配置されていてもよいが、これ以外の配置も取り得る。
【0031】
MEA41と第一セパレータ42との間には、必要に応じて、第一セパレータ42から供給される燃料を拡散させるための燃料拡散層44が設けられていてもよい。燃料拡散層44としては、例えば、導電性炭素繊維と炭素との複合材料であるカーボンペーパーや、導電性炭素繊維の織物であるカーボンクロス等を使用することができる。燃料として液体燃料を用いる場合、燃料拡散層44は、カーボンクロスであることが好ましい。カーボンクロスは、カーボンクロスを構成する導電性炭素繊維の間に適度な隙間を有しているため、液体燃料が表面張力によって導電性炭素繊維間の隙間に速やかに浸透することができる。それ故、燃料拡散層44としてカーボンクロスを用いることにより、燃料拡散層44内に液体燃料をより容易に拡散させることができる。
【0032】
また、第一セパレータ42の外周部とMEA41における電解質膜411との間には、エラストマーから構成されたシール材46が設けられていてもよい。シール材46は、第一セパレータ42及びMEA41のそれぞれと密着するように配置されている。第一セパレータ42とMEA41との間にシール材46を設けることにより、燃料電池4の内部空間から外部への意図しない燃料の漏出を抑制することができる。シール材46に用いられるエラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(つまり、EPDM)などの、ゴム弾性を有する高分子材料を使用することができる。
【0033】
第二セパレータ43は、第一セパレータ42と同様に、金メッキが施されたステンレス鋼等の金属材料や、導電性カーボンなどの導電性非金属材料、導電性複合材料等の電気伝導体から構成されていてもよい。電気伝導性を有する第二セパレータ43は、アノード1aにおいて生じ、外部負荷を通過した電子をカソード1cに供給する集電体として機能し、MEA41で発生した電力を外部へ導くことができる。
【0034】
第二セパレータ43には、カソード1cに酸化剤を供給可能に構成された酸化剤流路431が設けられている。なお、酸化剤としては、空気や酸素ガスなどを使用することができる。酸化剤流路431の形状や配置などは、燃料流路421と同様に種々の態様をとり得る。例えば、酸化剤流路431は、矩形状、三角形状及び半円状などの断面形状を有し、第二セパレータ43に設けられた溝であってもよい。また、酸化剤流路431は、例えば、互いに平行に並んだ複数の直線部と、各直線部の端部と当該直線部に隣接する直線部の端部とを接続する折り返し部とを有しており、当接面側から見た平面視において、蛇行するように配置されていてもよいが、これ以外の配置も取り得る。
【0035】
MEA41と第二セパレータ43との間には、必要に応じて、第二セパレータ43から供給される酸化剤を拡散させるための酸化剤拡散層45が設けられていてもよい。酸化剤拡散層45としては、例えば、導電性炭素繊維と炭素との複合材料であるカーボンペーパーや、導電性炭素繊維の織物であるカーボンクロス等を使用することができる。
【0036】
また、第二セパレータ43の外周部とMEA41における電解質膜411との間には、エラストマーから構成されたシール材47が設けられていてもよい。シール材47は、第二セパレータ43及びMEA41のそれぞれと密着するように配置されている。第二セパレータ43とMEA41との間にシール材47を設けることにより、燃料電池4の内部空間から外部への意図しない酸化剤の漏出を抑制することができる。シール材47に用いられるエラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(つまり、EPDM)などの、ゴム弾性を有する高分子材料を使用することができる。
【0037】
本形態の燃料電池4のアノード1a及びカソード1cは電極触媒1から構成されている。そのため、発電中の触媒金属3の被毒による発電出力の低下を抑制することができる。
【0038】
(実験例)
本例では、硫化モリブデンの配合量を種々変更して電極触媒を作製し、得られた電極触媒の触媒活性及び触媒活性の維持性能の評価を行った。以下、本例における電極触媒の作製方法及び評価方法を説明する。
【0039】
〔電極触媒の作製方法〕
まず、ジメチルホルムアミド中に導電性カーボン粒子(Fuel Cell Earth社製「Vulcan XC-72R」)及び硫化モリブデンを溶解させた。この溶液に、さらにポリアクリロニトリルを加え、80℃の温度で5時間攪拌し、次いで室温で1日間攪拌することにより、紡糸用インクを得た。なお、「Vulcan」はキャボット社の登録商標である。
【0040】
次に、静電紡糸法により紡糸用インクの紡糸を行い、硫化モリブデンを含む有機繊維を得た。得られた有機繊維を大気中において250℃の温度で10時間加熱して安定化処理を行い、次いで窒素中において1000℃の温度で1時間加熱してポリアクリロニトリルを炭化させた。このようにして得られた炭素繊維を、露点70℃の水蒸気雰囲気中において850℃の温度で1時間加熱して賦活処理を行った。以上の作業を、紡糸用インクに添加する硫化モリブデンの量を変更して行うことにより、硫化モリブデンの含有量の異なる3種類の導電性炭素繊維を得た。
【0041】
次に、以下の方法により導電性炭素繊維の表面に触媒金属を担持させた。まず、PdClとエチレングリコールとを混合し、得られた混合物のpHを2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて9~10の範囲内に調整した。pH調整後の混合物を160℃の温度で3時間還流し、触媒溶液を得た。
【0042】
この触媒溶液に導電性炭素繊維とエチレングリコールとの混合物を加えた後、0.5mol/Lの硝酸水溶液を用いて触媒溶液のpHを1~2の範囲内に調整した。この触媒溶液を一晩攪拌することにより、導電性炭素繊維の表面に触媒金属としてのパラジウムを析出させた。その後、触媒溶液から導電性炭素繊維をろ取し、次いで洗浄及び真空乾燥を行うことにより、電極触媒(試験剤S1~S3)を得た。このような条件で触媒金属を担持させた場合、試験剤S1~S3における触媒金属の担持量は、各試験剤の質量(つまり、導電性炭素繊維の質量と触媒金属の質量との合計)に対して20質量%であった。
【0043】
表1に、X線光電子分光法により測定した電極触媒の表面の組成及びSEM像に基づいて算出した導電性炭素繊維の平均直径を示す。なお、表1における試験剤R1は、試験剤S1~S3との比較のための電極触媒である。試験剤R1は、導電性炭素繊維中に硫化モリブデンを含んでいない以外は、試験剤S1~S3と同様の構成を有している。また、試験剤R1の作製方法は、紡糸用インクに硫化モリブデンを添加しない以外は、試験剤S1~S3の作製方法と同様である。
【0044】
〔触媒活性〕
サイクリックボルタンメトリー法により取得した電流-電位曲線に基づいて、触媒活性の評価を行った。具体的には、まず、5mgの試験剤を320μLのエタノール中に分散させて触媒分散液を調製した。この触媒分散液に、濃度5質量%のパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー溶液を25μL添加することにより触媒インクを調製した。得られた触媒インク2.5μLをガラス状カーボン電極の表面に塗布した後、乾燥させることにより作用極を作製した。
【0045】
次に、作用極と、対極としての白金ワイヤ電極と、参照極としてのHg/HgSO4電極とを三極式の電気化学セルに取り付けた。その後、電気化学セル内を0.5mol/Lの硫酸と3mol/Lのギ酸とを含み、窒素を飽和状態まで溶存させた試験溶液で満たした。
【0046】
以上のようにして準備した電気化学セルをポテンショ/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製「オートマチック ポラリゼーションシステム HSV-110」)に接続した。そして、作用極の電位を掃引し、電流-電位曲線を取得した。なお、電位の掃引範囲は、標準水素電極に対して0Vから+1.2Vの範囲内とし、掃引速度は10mV/sとした。また、電流-電位曲線の取得は室温環境下で行った。
【0047】
図3に、サイクリックボルタンメトリー法により取得した電流-電位曲線を示す。なお、図3の縦軸は、電極触媒に担持されたパラジウムの質量当たりの電流密度を、試験剤R1における測定開始時の電流密度で除した電流密度比であり、横軸は標準水素電極に対する作用極の電位(単位:V vs NHE)である。また、表2に、各試験剤の電流-電位曲線における電流密度比の最大値を示す。
【0048】
〔触媒活性の維持性能〕
クロノアンペロメトリー法により取得した時間-電流曲線に基づいて、触媒活性の維持性能の評価を行った。具体的には、まず、触媒活性の評価と同様の方法により作用極、対極としての白金ワイヤ電極及び参照極としてのHg/HgSO4電極とが取り付けられた三極式の電気化学セルを準備した。この電気化学セル内をサイクリックボルタンメトリー法において用いた試験溶液と同様の試験溶液で満たした後、電気化学セルをポテンショ/ガルバノスタットに接続した。そして、作用極に標準水素電極に対して+0.60Vの電位を3600秒間印加し、この間に作用極に流れる電流を計測した。なお、クロノアンペロメトリー法の測定は室温環境下で行った。
【0049】
図4に、クロノアンペロメトリー法により取得した時間-電流曲線を示す。なお、図4の縦軸は、電極触媒に担持されたパラジウムの質量当たりの電流密度を、試験剤R1における測定開始時の電流密度で除した電流密度比であり、横軸は測定開始からの経過時間(単位:秒)である。また、表2に、各試験剤における計測を開始した時点の電流密度比、計測を終了した時点の電流密度比及び触媒活性の維持率(単位:%)を示す。なお、触媒活性の維持率は、計測開始時の電流密度に対する計測終了時の電流密度の比を百分率で表した値である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1に示すように、試験剤S1~S3における触媒金属は硫化モリブデンを含む導電性炭素繊維の表面に担持されているため、硫化モリブデンを含まない試験剤R1に比べて触媒金属の被毒を抑制することができる。そのため、試験剤S1~S3は、図4及び表2に示すように、試験剤R1に比べて高い触媒活性の維持率を示した。
【0053】
また、これらの試験剤S1~S3の中でも、電極触媒の表面における硫黄原子の濃度が0.6原子%以上0.9原子%以下である試験剤S2は、試験剤S1及び試験剤S3に比べて高い触媒活性の維持率を示した。従って、試験剤S1~S3の比較から、表面における硫黄原子の濃度が0.6原子%以上0.9原子%以下である電極触媒は、触媒の被毒を抑制する効果により優れていることが理解できる。また、図3及び表2に示すように、試験剤S2は、試験剤S1及び試験剤S3に比べて電流密度の最大値が高く、より高い触媒活性を有していることが理解できる。
【0054】
以上、実施形態及び実験例に基づいて前記電極触媒及び燃料電池の態様を説明したが、本発明に係る電極触媒及び燃料電池の具体的な態様は上記各実施形態及び実験例の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 燃料電池用電極触媒
2 導電性炭素繊維
3 触媒金属
図1
図2
図3
図4