(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171770
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】NC転造盤
(51)【国際特許分類】
B21H 1/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B21H1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088970
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】竹中 勇気
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小島 健太郎
(57)【要約】
【課題】中空材料に対して高い加工精度で転造加工を行うことができるNC転造盤を提供する。
【解決手段】本発明にかかるNC転造盤100は、一対の平ダイス104a、104bによってワーク102に歯車形状を転造するNC転造盤において、平ダイスを互いに並行方向かつ逆方向に移動させる2つのラック駆動機構106a、106bと、平ダイスを並行方向に直交する離接方向に互いに移動させる2つのOPD調整機構108a、108bと、ラック駆動機構およびOPD調整機構の動作を制御する数値制御部148とを備え、数値制御部は、ラック駆動機構の動作を制御して平ダイスを往復移動させながら、OPD調整機構の動作を制御して平ダイスの追込み量を徐々に大きくしてワークを転造加工することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の平ダイスによってワークに歯車形状を転造するNC転造盤において、
前記平ダイスを互いに並行方向かつ逆方向に移動させる2つのラック駆動機構と、
前記平ダイスを前記並行方向に直交する離接方向に互いに移動させる2つのOPD調整機構と、
前記ラック駆動機構およびOPD調整機構の動作を制御する数値制御部とを備え、
前記数値制御部は、前記ラック駆動機構の動作を制御して前記平ダイスを往復移動させながら、前記OPD調整機構の動作を制御して前記平ダイスの追込み量を徐々に大きくして前記ワークを転造加工することを特徴とするNC転造盤。
【請求項2】
前記ワークを前記平ダイスの移動と同期して回転させるワーク回転機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のNC転造盤。
【請求項3】
前記ワークの形状を測定するワーク測定部を備え、
前記数値制御部は、前記ワークのOPDが所定の目標値に至るまで、前記平ダイスの往復移動と、前記OPD調整機構による前記平ダイス間の距離の補正とを繰り返すフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のNC転造盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに歯車形状を転造するNC転造盤に関する。
【背景技術】
【0002】
転造盤として、シャフトなどの軸状部品の被加工物(ワーク)の外周面に対して一対の転造用平ダイス(フォーミングラックとも称される)を押し付けながら転動させ、ダイス表面の逆形をワークに写して塑性変形させる構成が周知である。
【0003】
例えば特許文献1の転造盤は、一対のラックを相反方向に移動させるサーボモータと、ワークの両端を挟持するセンターピンおよびワークと一体に回転するドライブセンターと、ドライブセンターを回転駆動させる速度制御用モータとを備える。
【0004】
この転造盤では、サーボモータとドライブセンターを制御して、ラックがワークに噛み合う前に、ラックの移動速度とワーク周速とが同速度となるよう同期をとることで、ワークに対するラックの移動速度に合わせてワークを回転させる。
【0005】
特許文献1では、ラックがワークと噛み合って転造を開始するに先立ち、速度制御用モータの駆動によって、ドライブセンターを介してワークがラックの移動速度に合わせて回転するため、ラックとワーク間での回転ムラをなくして、加工精度のバラツキを小さくし、品質安定に寄与する、としている。
【0006】
特許文献2には、ワークの転造加工時における背分力を検出する歪センサを備えた転造盤を用いて、ワーク外周面を転造加工する転造加工方法が記載されている。この転造加工方法では、歪センサで検出された背分力に基づいて一対のダイス間の距離を補正して転造加工を行っている。
【0007】
特許文献2では、スプリングバック量と転造時の背分力とは密接な関係があるため、背分力が大きい場合はダイス間距離を小さくし、背分力が小さい場合はダイス間距離を大きくすることにより、ワークの硬さ等のばらつきがあっても、スプリングバック等の影響を少なくし、精度の高い転造加工を行うことができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3312796号
【特許文献2】特許第5625718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところでEVなどで用いられるモータシャフトは小型軽量化が求められており、薄肉の中空材料が使用されている。このため、転造盤は、薄肉の中空材料に対して転造加工を行う場合がある。特許文献1の転造盤は、転造加工中に一対のラックを1回移動させる(1パス)だけであるため、1パスで歯車形状を転写するためには相応の荷重をかけなければならず、薄肉の中空材料であるワークが変形してしまうという問題がある。
【0010】
特許文献2の転造加工方法では、スプリングバック等の影響を少なくできるとしても、やはり1パスで歯車形状を転写するため、ワークが薄肉の中空材料である場合には変形してしまう。また、ワーク1個ごとに平ダイス間の距離を自動調整するため、量産した場合の加工精度の信頼性や、機械の熱変位などの外乱に対する安定性が低いという問題がある。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、中空材料に対して高い加工精度で転造加工を行うことができるNC転造盤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるNC転造盤の代表的な構成は、一対の平ダイスによってワークに歯車形状を転造するNC転造盤において、平ダイスを互いに並行方向かつ逆方向に移動させる2つのラック駆動機構と、平ダイスを並行方向に直交する離接方向に互いに移動させる2つのOPD調整機構と、ラック駆動機構およびOPD調整機構の動作を制御する数値制御部とを備え、数値制御部は、ラック駆動機構の動作を制御して平ダイスを往復移動させながら、OPD調整機構の動作を制御して平ダイスの追込み量を徐々に大きくしてワークを転造加工することを特徴とする。
【0013】
上記構成では、転造加工中に、ラック駆動機構とOPD調整機構の動作を同期制御して、平ダイスを往復移動させながら、平ダイスの追込み量を徐々に大きくしてワークを転造加工する。なお対向する一対の平ダイスは、ラック駆動機構によって往復移動するだけでなく、OPD調整機構によって、この往復移動する方向に対し直交する方向に移動する。そして、この直交する方向に沿って一対の平ダイスをワーク側に寄せた分の量を、平ダイスの追込み量という。つまり、複数回の転造加工を行いながら、一対の平ダイス間の距離を小さくして、平ダイスを徐々にワークに寄せていくことになる。このため、平ダイスが往復移動する際の追込み量を小さく設定することができる。これにより上記構成によれば、薄肉の中空材料に対して高い加工精度で転造加工を行うことができる。なお離接方向とは、一対の平ダイスが対向した状態を維持したまま離接する方向である。
【0014】
上記のワークを平ダイスの移動と同期して回転させるワーク回転機構を備えることが好ましい。
【0015】
このように、平ダイスの移動に同期してワークが回転するため、転造開始時すなわち平ダイスとワークとが噛み合う食い付き時に、平ダイスとワーク間のすべりを抑えることができる。さらに、転造加工中も、平ダイスの移動に同期してワークを回転させることにより、転造加工の高精度化を図ることができる。
【0016】
上記のワークの形状を測定するワーク測定部を備え、数値制御部は、ワークのOPDが所定の目標値に至るまで、平ダイスの往復移動と、OPD調整機構による平ダイス間の距離の補正とを繰り返すフィードバック制御を行うことが好ましい。
【0017】
このように、平ダイスの追込み量を自動的に補正することにより、転造加工の加工精度を格段に向上させ、さらに加工精度の安定性および信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中空材料に対して高い加工精度で転造加工を行うことができるNC転造盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態におけるNC転造盤の構成の概要を示す斜視図である。
【
図4】
図1のNC転造盤の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態におけるNC転造盤100の構成の概要を示す斜視図である。
図2は、
図1のNC転造盤100の要部を示す図である。NC転造盤100は、
図2に示す被加工物(ワーク102)を転造加工する工作機械である。
【0022】
NC転造盤100は、
図2に示す一対の平ダイス104a、104bを備え、ワーク102の外周面に対して平ダイス104a、104bを押し付けながらワーク102を転動させ、ダイス表面の逆形をワーク102に写して塑性変形させる。このようにしてNC転造盤100は、ワーク102の外周に歯車形状を転写する。
【0023】
ワーク102は、例えばシャフトなどの軸状部品である。特にEVなどで用いられるモータシャフトは小型軽量化が求められていて、中空の薄肉シャフトとなっている。このためワーク102には、中実の軸状部品に限らず、薄肉の中空材料からなる軸状部品も含まれる。
【0024】
ワーク102が薄肉の中空材料である場合、転造加工中に平ダイス104a、104bを1回移動させる(1パス)だけで、歯車形状を転写するためには相応の荷重をかけなければならず、ワーク102が変形する可能性がある。
【0025】
そこで本実施形態のNC転造盤100では、ワーク102が薄肉の中空材料であっても、ワーク102に対して高い加工精度で転造加工を行うことができる構成を採用した。以下、具体的に説明する。
【0026】
NC転造盤100は、
図1に示すように縦型の転造盤の例である。NC転造盤100は、2つのラック駆動機構106a、106bと、2つのOPD(オーバーピン径:Over pin Diameter)調整機構108a、108bと、ワーク回転機構110と、ヘッドストック駆動機構112と、テールストック駆動機構114とを備え、これらの各駆動機構は数値制御によって制御される。このため、
図1に示すNC転造盤100は7軸の転造盤となる。なおヘッドストック駆動機構112またはテールストック駆動機構114の一方がNC制御ではなく油圧または空圧シリンダであってもよく、その場合は6軸のNC制御となる。
【0027】
ラック駆動機構106a、106bは、
図2に示すように互いに対向している。またラック駆動機構106a、106bの間には、ワーク102が位置している。さらにラック駆動機構106a、106bとワーク102との間には、ワーク102をはさんで対面するOPD調整機構108a、108bが配置されている。
【0028】
図2に示すように、ラック駆動機構106a、106bは、一対の柱状の本体116a、116bの内部に、一対のボールねじ118a、118bが配置されている。ボールねじ118a、118bには、一対の移動ブロック122a、122bが移動可能に取り付けられている。
【0029】
サーボモータ120a、120bは、電力が供給されることによって駆動し、ボールねじ118a、118bをそれぞれ独立した軸として回転させる。これによりラック駆動機構106a、106bは、サーボモータ120a、120bの駆動によってボールねじ118a、118bを回転させることで、移動ブロック122a、122bを互いに並行方向かつ逆方向に移動させることができる。サーボモータ120aの移動軸であるX軸は下方向が正であり、サーボモータ120bの移動軸であるY軸は上方向が正である。
【0030】
OPD調整機構108a、108bは、
図2に示す一対のテーブル124a、124bを有する。テーブル124a、124bは、ラック駆動機構106a、106bの移動ブロック122a、122bに固定されている。さらにOPD調整機構108a、108bは、一対のボールねじ126a、126bと、一対のサーボモータ128a、128b(U軸、V軸)と、一対のくさび機構130a、130bとを有する。
【0031】
くさび機構130a、130bはそれぞれ、くさび132a、132bと、コマ134a、134bとを含み、これらの各部材がくさび作用(移動方向の直交変換)を生じるように互いに組み合わされている。さらにコマ134a、134bには、平ダイス104a、104bが固定されている。
【0032】
このようにして平ダイス104a、104bは、くさび機構130a、130bを介してテーブル124a、124bに固定されている。また平ダイス104a、104bは、ワーク102に対向する面に複数の歯136a、136bを有する。
【0033】
本実施形態において平ダイス104a、104bは歯部に勾配がなく、歯136a、136bの歯丈(歯の高さ)が一様に形成されている。なお、従来の歯車転造盤で使用される平ダイスは、食付き歯から調整歯にむかって歯丈が徐々に高くなり、仕上歯で所定の寸法を形成する歯丈になり、逃げ歯では歯丈が徐々に低くなるというように、歯部に勾配が設けられている。
【0034】
くさび132a、132bには、ボールネジ126a、126bが接続されている。このため、サーボモータ128a、128bがボールねじ126a、126bをそれぞれ独立した軸として回転させると、くさび132a、132bは、矢印A、Bに示すように上下方向に移動することができる。これにより、コマ134a、134bは、矢印C、Dに示すように水平方向に移動することができる。
【0035】
このようにしてOPD調整機構108a、108bは、コマ134a、134bに固定された平ダイス104a、104bを互いに離接方向に移動させて、平ダイス104a、104b間の距離を変更することができる(すなわち追込み量の補正)。
【0036】
ラック駆動機構106a、106bは、平ダイス104a、104bを互いに並行方向かつ逆方向に移動させ、さらに複数回往復移動させることで、平ダイス104a、104bの歯136a、136bをワーク102の外周面に押し付けながら転動させて、転造加工を段階的に(複数パスで)行うことができる。なお離接方向とは、一対の平ダイス104a、104bが対向した状態を維持したまま離接する方向であって、ラック駆動機構106a、106bによる上記の並行方向に直交する方向である。
【0037】
なお転造開始時の平ダイス104a、104b間の距離を基準として、平ダイス104a、104bをワーク102に寄せた分の距離を「追込み量」とする。つまり平ダイス104a、104bをワーク102に徐々に寄せていくことで、平ダイス104a、104bの追込み量は徐々に大きくなる。
【0038】
図1に示すワーク回転機構110は、不図示のサーボモータを有し、サーボモータによってワーク102を、ラック駆動機構106a、106bによる平ダイス104a、104bの上下方向の移動と同期して、図中のZ軸周りの回転方向となるC軸に沿って回転させる。
【0039】
ヘッドストック駆動機構112は、Z軸方向に沿って移動可能に支持された不図示のヘッドストックと、サーボモータ138とを有する。ヘッドストック駆動機構112は、サーボモータ138の駆動によってヘッドストックがZ軸方向すなわちワーク102の軸方向に沿って移動し、さらにワーク102を回転可能に支持する。
【0040】
テールストック駆動機構114は、図中のW軸方向に沿って移動可能に支持されたテールストック140と、サーボモータ141とを有する。テールストック140は、ヘッドストックに対向して配置され、サーボモータ141によってワーク102の軸方向に沿って移動し、さらにワーク102に当接する。
【0041】
図3は、
図1のNC転造盤100の機能ブロック図である。NC転造盤100は、制御装置142と入力装置144とを備える。制御装置142は、NC転造盤100の動作を制御する。
【0042】
入力装置144は、ワーク102の形状を測定した値や、ワーク102の加工諸元より設定された各種値を入力する。一例として入力装置144は、ワーク102のOPD狙い値(OPD目標値W)や、加工諸元よりワーク102のOPDを測定する位置(OPD測定位置A)を設定し、OPD測定位置Aで測定されたOPD測定値Pを入力する。そして入力装置144は、OPD測定値P、OPD目標値WおよびOPD測定位置Aを制御装置142に入力する。
【0043】
制御装置142は、数値制御部148と、サーボ制御部150と、記憶部152と、加工プログラム154と、ワーク測定部156と、PMC(Programmable Machine Controller)ラダー158と、機械制御部160とを有する。
【0044】
数値制御部148は、多軸同期制御が可能であり、各種サーボモータ146の負荷トルクを常時監視しつつ、ラック駆動機構106a、106bによって平ダイス104a、104bを複数回、往復移動させることで複数回(複数パス)の転造加工を行い、さらに複数パスの転造加工中、OPD調整機構108a、108bによって平ダイス104a、104bをワーク102に徐々に寄せていくように各種サーボモータ146の制御量を演算し、この制御量をサーボ制御部150に出力する。サーボ制御部150は、数値制御部148から出力された制御量を駆動信号として各種サーボモータ146に出力する。
【0045】
記憶部152は、ワーク102の諸元の形状(歯数:偶数または奇数)や転造加工条件(転造速度など)を記憶している。さらに記憶部152には、入力装置144からのOPD測定値P、OPD目標値WおよびOPD測定位置Aがワーク測定部156によって書き込まれる。加工プログラム154は、転造作業時の加工工程のプログラムであり、例えばNCプログラムを例示することができる。
【0046】
PMCラダー158は、CNC(Computer Numerical Control)としての制御装置142に内蔵されたPC(Programmable Controller)であって、工作機械のシーケンス制御を実行する。またPMCラダー158は、ラダー言語によって作成されたシーケンスプログラムによって、数値制御部148が信号を直接やりとりできない外部機器などの各種機械162と信号のやり取りを行ったり、内部I/Oを用いて数値制御部148と予め決められた内容の信号を受け渡したりする。機械制御部160は、PMCラダー158から出力された信号に基づいて各種機械162を制御する。
【0047】
図4は、
図1のNC転造盤100の動作を示すフローチャートである。まずNC転造盤100では、入力装置144によってワーク102のOPD目標値Wと、ワーク102の加工諸元よりOPD測定位置Aが設定される(ステップS100)。そしてステップS100において、ワーク測定部156は、入力装置144からのワーク102のOPD目標値WおよびOPD測定位置Aを記憶部152に書き込む。
【0048】
つぎに、数値制御部148は、加工プログラム154および記憶部152を参照して、ヘッドストック駆動機構112およびテールストック駆動機構114によってワーク102をクランプするようにサーボ制御部150を制御し、その後、OPD測定を開始する(ステップS102)。
【0049】
さらに数値制御部148は、記憶部152からOPD測定位置Aを読み出して、OPD測定値Pを測定する位置であるOPD測定位置Aに到達したか否かを判定し(ステップS104)、OPD測定位置Aに到達するまで処理を繰り返す。また、ステップS104でOPD測定位置Aに到達していた場合(Yes)、数値制御部148は、OPD測定値Pを測定して、OPD測定値Pと記憶部152から読み出したOPD目標値Wを比較し、OPD測定値PがOPD目標値Wに到達した否かを判定する(ステップS106)。
【0050】
続いて数値制御部148は、ステップS106でOPD測定値PがOPD目標値Wに到達していない場合(No)、OPD測定値PがOPD目標値Wに満たないか否かを判定する(ステップS108)。ステップS108でOPD測定値PがOPD目標値Wに満たない場合、すなわちOPD測定値PがOPD目標値Wよりも大きい場合(Yes)、以下の数式(1)を用いて、追込み値Lを補正する(ステップS110)。
追込み値L=OPD測定値P-OPD目標値W (1)
【0051】
上記の式(1)だけを基準にして追込み量を補正すると、1パスの加工でOPD目標値Wが達成されてしまう。そこで、追込み値Lに上限を設け、複数回のパスで転造が行われるようにしてもよい(位置制御)。または、OPD調整機構108a、108bのサーボモータ128a、128bにトルク制限をかけて、複数回のパスで転造が行われるようにしてもよい(トルク制御)。すなわち、式(1)で算出された追込み値Lがそのまま使用されるのは、最後のパスのときだけである。
【0052】
つぎに数値制御部148は、ラック駆動機構106a、106bによって平ダイス104a、104bを上下方向に互いに逆方向に移動させて1回目の転造加工を行う。ここで、上下方向の移動に同期して、追込み値Lに基づいて、OPD調整機構108a、108bによって平ダイス104a、104bをワーク102に寄せて追い込む(ステップS112)。上下移動と追込みが同期するため、平ダイス104a、104bは斜めに移動する。
【0053】
また数値制御部148は、ステップS112においてワーク回転機構110によってワーク102を、ラック駆動機構106a、106bによる平ダイス104a、104bの上下方向の移動と同期して
図2に示すC軸に沿って回転させる。
【0054】
平ダイス104a、104bの移動に同期してワーク102が回転するため、転造開始時すなわち平ダイス104a、104bとワーク102とが噛み合う食い付き時に、平ダイス104a、104bとワーク102間のすべりを抑えることができる。さらに、転造加工中も、平ダイス104a、104bの移動に同期してワーク102を回転させることにより、転造加工の高精度化を図ることができる。
【0055】
さらにステップS112の後、数値制御部148は、再びステップS104の処理を行う。このとき数値制御部148は、1回目の転造加工中、例えば1回目の往転造や復転造において、ワーク102のねじ山の寸法(盛り上がり)が測定できる位置を、OPD測定位置Aとしてラック駆動機構106a、106bを停止させることができる。
【0056】
ここで、ワーク102のねじ山の寸法が測定できる位置とは、ワーク102の諸元の形状(歯数)が奇数である場合にはねじ山の頂部(歯先)と、この歯先の対角線上にある隣り合うねじ山の間の歯溝の歯底との距離を測定できる位置である。ワーク102の歯数が偶数である場合にはねじ山の歯先と、この歯先の対角線上にあるねじ山の歯先との間の距離を測定できる位置である。
【0057】
その後、数値制御部148は、OPD測定値PがOPD目標値Wに到達していなければ(ステップS106、No)、再びステップS108、S110、S112の処理を行う(フィードバック制御)。なおステップS108でOPD測定値PがOPD目標値Wよりも小さくなっていたら(ステップS108のNo)、数値制御部148は、OPD測定NGアラームを発生させて(ステップS114)、処理を終了する。
【0058】
OPD測定値PがOPD目標値Wに到達していた場合には(ステップS106、Yes)、数値制御部148は仕上げ加工を行う(ステップS116)。仕上げ加工では、それ以上追い込まずに、ラック駆動機構106a、106bのみを制御して平ダイス104a、104bを上下に移動させる。
【0059】
このようにNC転造盤100では、転造加工中に、ラック駆動機構106a、106bとOPD調整機構108a、108bの動作を同期制御して、平ダイス104a、104bを往復移動させながら、平ダイス104a、104bの追込み量を徐々に大きくしてワーク102を転造加工することができる。つまり、複数回の転造加工を行いながら、平ダイス104a、104b間の距離を小さくして、平ダイス104a、104bを徐々にワーク102に寄せていくことになる。
【0060】
このため、NC転造盤100では、複数回に分けて平ダイス104a、104bを追込みながら複数回の転造加工を行うため、平ダイス104a、104bを1往復移動させるときの追込み量を小さく設定することができる。したがってNC転造盤100によれば、ワーク102が薄肉の中空材料であっても、ワーク102に対して高い加工精度で転造加工を行うことができる。
【0061】
なお上記のNC転造盤100では、追込み値Lを補正したが、これに加えて、平ダイス104a、104bを上下方向に動かす速度や、加減速時定数なども補正してよい。
【0062】
また本発明にかかるNC転造盤100の代表的な構成に、素加工により仕上代をもった歯車形状のワーク102と、刃の形状が任意に配置された一対の平ダイス104a、104bの位相を割り出す機構を付加することによって、歯車の仕上げ加工、バニッシュ加工が可能となり、歯面の修正、面粗さ向上、残留圧縮応力の付与による歯車性能の向上が見込まれる。
【0063】
さらに本発明にかかるNC転造盤100の代表的な構成に、一対の平ダイス104a、104bに砥粒などの硬い物質を電着などで付加することによって、ワーク102の歯面に任意のくぼみ(プラトー面の形成)を転造させることが可能となる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、ワークに歯車形状を転造するNC転造盤として利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100…NC転造盤、102…ワーク、104a、104b…平ダイス、106a、106b…ラック駆動機構、108a、108b…OPD調整機構、110…ワーク回転機構、112…ヘッドストック駆動機構、114…テールストック駆動機構、116a、116b…本体、118a、118b、126a、126b…ボールねじ、120a、120b、128a、128b、138、141…サーボモータ、122a、122b…移動ブロック、124a、124b…テーブル、130a、130b…くさび機構、132a、132b…くさび、134a、134b…コマ、136a、136b…ワークの歯、140…テールストック、142…制御装置、144…入力装置、146…各種サーボモータ、148…数値制御部、150…サーボ制御部、152…記憶部、154…加工プログラム、156…ワーク測定部、158…PMCラダー、160…機械制御部、162…各種機械