(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171786
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20241205BHJP
C01B 32/186 20170101ALI20241205BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20241205BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20241205BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241205BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241205BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B01D71/02
C01B32/186
B01J23/72 M
C01B32/194
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088993
(22)【出願日】2023-05-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム「大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三石 郁之
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 由実
(72)【発明者】
【氏名】北浦 良
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006GA44
4D006MA09
4D006MA31
4D006MC01
4D006MC02
4D006MC05X
4D006NA45
4D006NA50
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC01A
4G146BC09
4G146CB05
4G146CB06
4G146CB17
4G146DA07
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BB02B
4G169BC31B
4G169CB81
4G169DA05
4G169EA08
4G169FA03
(57)【要約】
【課題】自立膜構造の破損を抑制できる、グラフェン膜と支持基板との複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔21を有する支持基板2と、貫通孔21を架橋する自立膜構造31のグラフェン膜3とを有する複合体1の製造方法である。製造方法は、基材4にグラフェン膜3を形成する工程、グラフェン膜3上にポリマー膜5を形成する工程を有する。また、製造方法は、基材4を除去することにより、グラフェン膜3とポリマー膜5との複合膜37を得る工程と、グラフェン膜3の表面を支持基板2に当接させつつ複合膜37を支持基板2に転写する工程を有する。さらに、製造方法は、有機溶媒を含む溶解液によりポリマー膜5を溶解除去する工程を有する。ポリマー膜5を溶解除去する工程においては、溶解液の有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜5を溶解させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する支持基板と、上記貫通孔を架橋する自立膜構造のグラフェン膜とを有する複合体の製造方法であって、
基材にグラフェン膜を形成する工程と、
上記グラフェン膜上にポリマー膜を形成する工程と、
上記基材を除去することにより、上記グラフェン膜と上記ポリマー膜との複合膜を得る工程と、
上記グラフェン膜の表面を上記支持基板に当接させつつ上記複合膜を上記支持基板に転写する工程と、
有機溶媒を含む溶解液により上記ポリマー膜を溶解除去する工程と、を有し、
上記ポリマー膜を溶解除去する工程においては、上記溶解液の有機溶媒濃度を段階的に高くしながら上記ポリマー膜を溶解させる、複合体の製造方法。
【請求項2】
上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、上記有機溶媒の最終段階での濃度を80体積%以上とする、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、上記有機溶媒の最初の濃度を65体積%以下とする、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、上記有機溶媒濃度の上昇幅を15体積%以下とする、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
上記貫通孔の最大幅が10μm以上1000μm以下である、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
上記ポリマー膜がアクリル樹脂から構成される、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
上記グラフェン膜の厚みが30nm以下である、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
上記グラフェン膜が単層グラフェンから構成されている、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自立膜構造のグラフェン膜を有する複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜素子は、薄膜が有する機械的強度や電気・熱伝導性や磁性などの性質を活かし、反射防止膜、フィルタ膜、透明導電膜や集積回路等への応用が期待されている。例えばフィルタ機能が求められる薄膜素子では、例えば厚み100nm以下の自立膜構造の膜(つまり、自立膜)を有し、自立膜としては、例えば窒化シリコン膜が実用化されている。
【0003】
近年、自立膜としてグラフェン膜が着目されている。グラフェン膜は、炭素原子が同一平面内に配された構造を有し、単層での厚みはわずか0.3nm程度である。またグラフェン膜は、厚みに対する機械的強度が高いため、薄くかつ大面積化が可能な自立膜として期待されている。さらに、グラフェン膜には、例えば電子透過性や流体バリア性が高いといった、様々な優れた特性があるため、高機能薄膜フィルタへの応用が期待されている。
【0004】
グラフェン膜は、CVD法などの各種方法により製造され、製造方法に適した各種基材上に形成される。薄膜素子等への応用にあたっては、多くの場合グラフェン膜の支持基板への転写が求められ、この転写の際に、支持基板上でグラフェンの自立膜構造を形成させることができる。グラフェン膜は、素子の用途等により単層又は複層の状態で転写されるが、いずれの場合であっても厚みが薄いため、膜自体を単独で取り扱うことは通常困難である。そこで、例えば特許文献1に開示されるように、グラフェン膜の転写過程では、樹脂フィルム等による補強が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転写過程で使用される樹脂フィルムなどのポリマー膜は、溶解液により溶解除去されるが、ポリマー膜の溶解除去と共に自立膜構造のグラフェン膜(つまり、グラフェン自立膜)が破損してしまうことがある。このような破損は、特に自立膜の面積が大きくなるほど顕著になり、高感度化の妨げや生産性の低下につながり、グラフェン膜を利用した有用な素子開発の妨げとなりうる。
【0007】
本開示は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、自立膜構造の破損を抑制できる、グラフェン膜と支持基板との複合体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、貫通孔を有する支持基板と、上記貫通孔を架橋する自立膜構造のグラフェン膜とを有する複合体の製造方法であって、
基材にグラフェン膜を形成する工程と、
上記グラフェン膜上にポリマー膜を形成する工程と、
上記基材を除去することにより、上記グラフェン膜と上記ポリマー膜との複合膜を得る工程と、
上記グラフェン膜の表面を上記支持基板に当接させつつ上記複合膜を上記支持基板に転写する工程と、
有機溶媒を含む溶解液により上記ポリマー膜を溶解除去する工程と、を有し、
上記ポリマー膜を溶解除去する工程においては、上記溶解液の有機溶媒濃度を段階的に高くしながら上記ポリマー膜を溶解させる、複合体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、グラフェン膜の自立膜構造の破損を抑制できる複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態における複合体の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態における複合体の貫通孔の拡大断面模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態における複合体の製造工程を断面構造の変化により示す説明図。
【
図4】
図4(a)は、実施形態における溶解液中で基材を除去する工程の説明図であり、
図4(b)は、実施形態における基材除去工程後の複合膜の断面模式図である。
【
図5】
図5(a)は、実施形態における溶解液中でポリマー膜を除去する工程の説明図であり、
図5(b)は、ポリマー膜除去後の複合体の断面模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1で製造された複合体試料の写真代用図である。
【
図7】
図7は、比較例1で製造された複合体試料の写真代用図である。
【
図8】
図8は、比較例1で製造された複合体試料の断面模式図である。
【
図9】
図9は、実施例2の複合体の写真代用図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
次に、上記複合体の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1及び
図2に示されるように、複合体1は、支持基板2とグラフェン膜3とを有し、グラフェン膜3は自立膜構造31を有している。支持基板2は、貫通孔21を有する。グラフェン膜3は貫通孔21を架橋するように形成されており、貫通孔21の開口部を塞いでいる。
【0012】
複合体1の製造方法は、例えば、成膜工程、ポリマー被覆工程、基材除去工程、転写工程、ポリマー膜除去工程により行われる(
図3参照)。各工程を詳細に説明する。
【0013】
図3(a)に示すように、成膜工程においては、基材4上にグラフェン膜3を形成する。グラフェン膜3の形成は、特に限定されないが、例えばグラフェンの成膜により行われる。基材4の厚みは、例えば1μm~1000μm程度である。
【0014】
成膜工程において成膜するグラフェン膜3は、単層であっても複層であってもよい。つまり、本開示の製造方法は、単層のグラフェン膜を有する複合体の製造に適用することもできるし、複層のグラフェン膜を有する複合体の製造に適用することもできる。
自立膜構造31のグラフェン膜3の破損抑制効果が顕著になるという観点、グラフェン膜3を利用した薄膜素子の感度がより向上するという観点からは、グラフェン膜3は単層であることが好ましい。
【0015】
グラフェン膜3の厚みは例えば30nm以下である。グラフェン膜3の破損抑制効果が顕著になるという観点、グラフェン膜3を利用した薄膜素子の感度が向上するという観点から、グラフェン膜3はより薄い方が好ましいといえる。具体的には、グラフェン膜3の厚みは15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましく、1nm以下であることがさらにより好ましい。
【0016】
成膜は、例えば化学気相成長(つまり、CVD)法により行われる。CVD法では、白金、ニッケル、銅等の金属触媒から構成される基板上にグラフェン膜3を成膜する。金属触媒は、白金、ニッケル、銅から選ばれる少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0017】
CVD法によるグラフェンの成膜は、例えば次のように行われる。まず、CVD炉内に、金属触媒から構成される基材4(つまり、金属触媒基材4)を配置する。次いで、炉内に水素を導入しながら、加熱により炉内温度を例えば300~1000℃に調整し、メタンなどの炭化水素ガスを炉内に供給する。金属触媒としてCuが使用された場合においては、炭化水素ガスの供給により、金属触媒基板上で炭素原子が同一平面内で六角形格子状に配されながらsp2混成軌道の構造を形成する。
基材4としては、全体が金属触媒から構成された基材を用いることもできるが、複数の層から形成された積層構造体を用いることもできる。具体的には、基材4としては、サファイア、MgO、水晶等の金属酸化物から構成される酸化物層と金属触媒層とを有する積層構造体を用いることができる。
【0018】
図3(b)に示すように、ポリマー被覆工程では、グラフェン膜3上にポリマー膜5を形成する。ポリマー膜5は、例えばコーティングによって形成される。具体的には、硬化前の液体状ポリマーをグラフェン膜3上に塗布し、グラフェン膜3上で硬化させる。これにより、グラフェン膜3とポリマー膜5との複合膜37が得られる。ポリマーとしては、例えば熱可塑性樹脂が用いられ、具体的には、ポリメチルメタクリレート(つまり、PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂を用いることができる。また、ポリマーとしてポリイミド樹脂を用いることもできる。
【0019】
ポリマー膜5の厚みは、例えば100nm~300nmである。この場合には、基材除去工程後の複合膜37の取り扱いが容易になるとともに、溶解工程においてポリマーの溶解にかかる時間が短縮化される。また、自立膜構造31のグラフェン膜3の大面積化を図る場合であっても、ポリマー膜5の支持力により自立膜構造31が十分に保持される。
【0020】
図3(c)に示すように、基材除去工程においては基材4を除去する。基材4の除去は、
図4に示すように、例えば基材4を溶解可能な溶解液75(つまり、基材溶解液75)中に、基材4を浸漬することにより行われる。基材4が例えば金属触媒基材の場合には、溶解液75中で基材4をエッチングにより溶解させることができる。なお、基材4が、積層体から構成されており金属以外の層(具体的には、金属酸化物層等)を有していても、エッチングによって金属の層が溶解すると金属以外の層も分離除去される。溶解液75は、基材4を構成する金属の種類によって適宜変更可能である。溶解液75は、例えば水溶液である。基材4を構成する金属(具体的には金属触媒)が銅の場合には、溶解液75として、硝酸鉄水溶液、過硫酸アンモニウム水溶液、塩化鉄(III)水溶液等が用いられる。このようにして、グラフェン膜3とポリマー膜5との複合膜37を得ることができる。
【0021】
図3(d)に示すように、転写工程においては、複合膜37を支持基板2に転写する。支持基板2の材質や厚みは、複合体1の用途により適宜変更可能である。支持基板2の材質としては、石英、シリコン、銅、ニッケル、ステンレス等が用いられる。支持基板2の厚みは例えば1μm~1000μmである。
【0022】
貫通孔21は、支持基板2を厚み方向に貫通し、孔形状(具体的には、貫通孔の開口部の形状)は、特に限定されないが、円、楕円、多角形、不定形である。これらの形状は外観上のものを意味し、各形状の定義から外れたものも許容される。孔形状は、たとえば用途に応じた、孔径や開口効率等への要求仕様に依存するが、好ましくは円又は四角形などの多角形であり、より好ましくは円である。
【0023】
貫通孔21の最大幅(具体的には、開口部の最大幅)は、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。最大幅は、貫通孔21の開口部の形状についてのものである。開口部の最大幅は、円の場合では直径に相当する。正方形、長方形などの四角形の場合には対角線の長さに相当する。自立膜構造31のグラフェン膜3の破損抑制効果がより顕著になる観点から、貫通孔21の最大幅は、100μm以上であることがより好ましく、125μm以上であることがさらに好ましい。
【0024】
図3(e)に示すように、ポリマー膜除去工程においては、有機溶媒を含む溶解液7により、ポリマー膜5を溶解除去する。ポリマー膜5の溶解除去は、
図5に示すように、例えば複合膜37を溶解液7に浸漬することにより行われる。より具体的には、溶解除去工程では複合膜37を有する支持基板2を溶解液に浸漬することができる。ポリマー膜除去工程では、
図5(a)に示されるようにポリマー膜5が鉛直方向の上側となるように支持基板2を溶解液7に浸漬してもよいが、
図5(a)に示される積層構造を上下反転させ、ポリマー膜5が鉛直方向の下側となるように支持基板2を溶解液7に浸漬してもよい。歩留まりが良くなる観点から、ポリマー膜5を鉛直方向の下側に向けて溶解液7に浸漬することが好ましい。有機溶媒としては、ポリマー膜5を構成するポリマーを溶解可能なものが用いられる。具体的には、アセトン、酢酸、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン等を用いることができる。
【0025】
ポリマー膜除去工程においては、溶解液7の有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜5を溶解させる。「有機溶媒濃度を段階的に高くする」とは、徐々に濃度を高くしていくことを意味し、例えば時間(横軸)と濃度(縦軸)とのグラフを想定した場合、グラフの外観形状が、階段状である場合、直線である場合、曲線である場合を包含する。
ポリマー膜除去工程では、例えば、濃度の異なる複数の溶解液7を準備し、低濃度の溶解液から高濃度の溶解液に、ポリマー膜あるいはポリマー膜5を含む積層体6を順次浸漬することによりポリマー膜5を溶解させることができる。
また、ポリマー膜除去工程では、ポリマー膜5あるいはポリマー膜5を含む積層体6を浸漬し、溶解液7の濃度を経時的に高くすることによりポリマー膜5を溶解させることができる。
【0026】
従来の方法では、ポリマー膜5の溶解に所定の有機溶媒濃度の溶解液が用いられていたが、この場合には、溶解液中への浸漬後に、基板92の貫通孔925を架橋するグラフェン膜91の自立膜構造が破壊される(
図8参照)。一方、上記のように有機溶媒濃度を段階的に高くしながら、ポリマー膜5を溶解させる場合には、ポリマー膜5の溶解時における自立膜構造31のグラフェン膜3の破損が抑制されるため、
図1及び
図2に示されるように、自立膜構造31のグラフェン膜3を有する複合体1を高い生産性にて製造することができる。これは、有機溶媒濃度を段階的に高くすることで、ポリマー膜5の溶解時にグラフェンの自立膜構造31にかかるせん断応力等の負荷が小さくなるからであると考えられる。
【0027】
ポリマー膜除去工程では、最終的に有機溶媒濃度を80体積%以上とすることが好ましい。この場合には、ポリマー膜5の残存を防止し、高品質のグラフェン膜3を有する複合体1が得られる。
【0028】
ポリマー膜除去工程では、有機溶媒濃度65体積%以下の溶解液7に浸漬し、段階的に有機溶媒濃度を高くすることが好ましい。つまり、溶解工程において、最初に使用する溶解液7の有機溶媒濃度は65体積%以下であることが好ましい。この場合には、自立膜構造31の破壊がさらに抑制される。同様の観点から、最初の有機溶媒濃度は、60体積%以下であることがより好ましい。
【0029】
自立膜構造31の破損抑制効果がより向上する観点から、ポリマー膜除去工程では、有機溶媒濃度の上昇幅を15体積%以下とすることが好ましく、10体積%以下とすることがより好ましい。また、生産性向上の観点からは、有機溶媒濃度の上昇幅は5体積%以上であることが好ましい。
【0030】
本開示の製造方法により、支持基板2と、自立膜構造31のグラフェン膜3とを有する複合体が製造される。上記製造方法では、ポリマー膜を溶解除去する工程において溶解液の有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜を溶解させる。これにより、ポリマー膜の溶解時におけるグラフェン膜の破損が抑制されるため、生産性が向上し、また、自立膜構造31のグラフェン膜3の大面積化の実現が可能になる。
【0031】
このように、本形態の製造方法によれば、グラフェン膜3の自立膜構造31の破損を抑制できる複合体1を得ることができる。複合体1は、自立膜構造を有する薄膜素子に好適である。具体的には、上記製造方法により、大面積でかつ薄い自立膜構造のグラフェン膜を形成することができるため、上記製造方法により得られる複合体1によれば、高感度の薄膜素子の実現が可能になる。
【0032】
(実験例1)
本例では、ポリマー膜除去工程における有機溶媒の濃度条件による自立膜構造31への影響を検討する例である。なお、実験例1以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0033】
・実施例1
図3に示すごとく、まず、基材4として、サファイア基板上に銅触媒が成膜された板材を準備した。なお、
図3及び
図4では、図面作成の便宜のため基材4が単層として示されているが、本例では、板状の基材とその表面に形成された触媒膜とから構成されたものを使用した。次いで、この基材4の銅触媒膜上に、単層(厚み:約0.3nm)のグラフェン膜3を成膜した。成膜はCVD法により行った。
【0034】
次に、PMMA濃度2体積%のPMMA溶液を準備した。溶媒はアニソールである。そして、グラフェンを成膜した基材4の表面(具体的には、グラフェン膜3上)にPMMA溶液をスピンコートし、加熱によりPMMAを硬化させた。これによりグラフェン膜3上にポリマー膜5を形成させた後、純水によりポリマー膜5を洗浄した。
このようにして、基材4とグラフェン膜3とポリマー膜5との積層体6を得た。
【0035】
次に、室温条件の過硫酸アンモニウム水溶液に積層体6を浸漬し、エッチング作用によって基材4の銅触媒膜を溶解除去させた。この溶解除去に伴って基材4が積層体6から分離されるため、基材4が積層体6から除去できる。このようにして、グラフェン膜3とポリマー膜5との複合膜37を得た。
【0036】
次に、上記のように基材4から分離された複合膜37を支持基板2上に転写した。具体的には、支持基板2として、厚さ0.2mmのステンレス板を使用し、複合膜37のグラフェン膜3が支持基板2に当接するよう、複合膜37を支持基板2上に配置させた。
本例で使用した支持基板2には、直径が異なる複数の貫通孔21が形成されている(
図6参照)。
図6において貫通孔21の孔径(具体的には、直径Φ)は、大きいものから順に300μm、250μm、200μm、175μm、150μm、125μm、100μm、75μmである。
【0037】
次に、アセトン濃度が異なる複数の溶解液7を準備し、支持基板2と複合膜37との積層体6を各溶解液7に浸漬してポリマー膜5を溶解除去した。具体的には、溶解液7として、濃度60体積%、濃度70体積%、濃度80体積%、及び濃度85体積%のアセトン水溶液をそれぞれ準備し、溶解除去に使用するアセトン水溶液の濃度が段階的に高くなるよう低濃度のものから高濃度のものへと順次アセトン水溶液に積層体6を浸漬した。これによりポリマー膜5が溶解除去され、支持基板2とグラフェン膜3との複合体1を得た。ポリマー膜5の除去の際にグラフェン膜3が破壊されなければ、複合体1には支持基板2の貫通孔21を架橋するグラフェン膜3が形成され、複合体1は自立膜構造31のグラフェン膜3を有するものとなる(
図6参照)。
本例では、最終濃度(つまり最大濃度80体積%)のアセトン水溶液に浸漬してから15秒経過時点、180秒経過時点におけるグラフェン膜3の自立膜構造37の破損の有無を調べ、その数を計測した。結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
・比較例1
本例では、ポリマー膜の溶解除去の際に、支持基板と複合膜との積層体を濃度85体積%のアセトン水溶液に浸漬した点を除き、実施例1と同様の操作を行った。つまり、比較例1では溶解液として単一濃度(85体積%)のアセトン水溶液を使用した点を除き、実施例1と同様にして複合体9を作製した(
図7参照)。
比較例1においても実施例1と同様に自立膜構造の破損の有無を調べた。結果を表2に示す。ただし、比較例1では、溶解液への浸漬から数秒程度で自立膜構造の破壊が起こっていたため、実施例1における15秒経過時点での計測に代えて9秒経過時点での計測を行った(表2参照)。
【0040】
【0041】
図6、表1より理解されるように、実施例1では、自立膜構造31のグラフェン膜3の破損が抑制されており、生産効率が高い。一方、
図7、表2より理解されるように、比較例1では、自立膜構造31のグラフェン膜が破壊されており、生産効率が低い。なお、比較例1では、貫通孔925の架橋部分(つまり自立膜構造31)におけるグラフェン膜3が破壊されていたが支持基板92上にはグラフェン膜91が残存していた(
図8参照)。
【0042】
このように、本例によれば、ポリマー膜5を溶解除去する工程において溶解液7の有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜5を溶解させることにより、自立膜構造31の破損を抑制できることが理解される。
【0043】
(実験例2)
本例は、有機溶媒の種類を変更した例である。具体的には、実験例1におけるアセトンを酢酸に変更した点を除き、実験例1と同様の操作を行った。
【0044】
・実施例2
本例では、ポリマー膜5の溶解液7として、70体積%及び80体積%の酢酸水溶液を使用し、支持基板2として厚み0.2mmの石英板を使用した点を除き、実施例1と同様の操作を行った。ただし、本例では、貫通孔21の孔径(つまり、自立膜構造31のグラフェンの直径)が200μm、300μmであり、自立膜構造の破損の計測は、最終濃度の溶解液(つまり、濃度80体積%の酢酸水溶液)に浸漬してから0秒、30秒、120秒経過時点において行った。本例の複合体1を
図8に示し、結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
・比較例2
本例では、溶解液として単一濃度(つまり、濃度80体積%)の酢酸水溶液を使用した点を除き、実施例2と同様の操作を行った。ただし、本例では、貫通孔21の孔径は、200μm、250μm、300μmであり、自立膜構造の破損の計測は、ポリマー膜の溶解液(つまり、濃度80体積%の酢酸水溶液)への浸漬から0秒、8秒、11秒、15秒、18秒、37秒経過時点において行った。本例の複合体1を
図8に示し、結果を表4に示す。
【0047】
【0048】
図9、表3より理解されるように、実施例2では、実施例1と同様に、自立膜構造31のグラフェン膜3の破損が抑制されており、生産効率が高い。一方、
図10、表4より理解されるように、比較例2では、比較例1と同様に、自立膜構造31のグラフェン膜が破損されており、生産効率が低い。なお、
図10、表4より理解されるように、孔径が大きくなるほど自立膜構造は破壊されやすくなる傾向にあるが、有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜を溶解させることによりグラフェン膜3の自立膜構造31の破壊が防止される(
図9、表3参照)。このことから、孔径(自立膜構造31の最大幅)が大きくなるほど自立膜構造の破壊防止効果は顕著になるといえる。
【0049】
このように、有機溶媒の種類を変更しても、溶解液7の有機溶媒濃度を段階的に高くしながらポリマー膜5を溶解させることにより、自立膜構造31の破損が抑制されることが理解される。
なお、表1~4に示される結果(具体的には、破損までの浸漬時間や生産効率等の絶対値)は、ポリマーコーティング条件(具体的には、ベーキング温度や時間)や測定時の気温等によって左右される可能性がある。
【0050】
本開示は上記各実施形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態、実施例に適用することが可能である。
【0051】
本開示の態様を以下の通り示す。
[1]貫通孔を有する支持基板と、上記貫通孔を架橋する自立膜構造のグラフェン膜とを有する複合体の製造方法であって、
基材にグラフェン膜を形成する工程と、
上記グラフェン膜上にポリマー膜を形成する工程と、
上記基材を除去することにより、上記グラフェン膜と上記ポリマー膜との複合膜を得る工程と、
上記グラフェン膜の表面を上記支持基板に当接させつつ上記複合膜を上記支持基板に転写する工程と、
有機溶媒を含む溶解液により上記ポリマー膜を溶解除去する工程と、を有し、
上記ポリマー膜を溶解除去する工程においては、上記溶解液の有機溶媒濃度を段階的に高くしながら上記ポリマー膜を溶解させる、複合体の製造方法。
【0052】
[2]上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、最終的に上記有機溶媒濃度を80体積%以上とする、[1]に記載の複合体の製造方法。
[3]上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、上記有機溶媒濃度65体積%以下の上記溶解液に浸漬し、段階的に上記有機溶媒濃度を高くする、[1]又は[2]に記載の複合体の製造方法。
[4]上記ポリマー膜を溶解除去する工程では、上記有機溶媒濃度の上昇幅を15体積%以下とする、[1]~[3]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【0053】
[5]上記貫通孔の最大幅が10μm以上1000μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[6]上記ポリマー膜がアクリル樹脂から構成される、[1]~[5]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[7]上記グラフェン膜の厚みが30nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
[8]上記グラフェン膜が単層グラフェンから構成されている、[1]~[7]のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【符号の説明】
【0054】
1 複合体
2 支持基板
21 貫通孔
3 グラフェン膜
31 自立膜構造
37 複合膜