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特開2024-171793誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171793
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089005
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和洋
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】誘導電動機のトルクリプルを補償することができる誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置を提供する。
【解決手段】トルク指令値T に基づいて、γ軸電流指令値iγs1 と、δ軸電流指令値iδs1 と、を演算する。また、誘導電動機10のトルクTを表すトルクパラメータ(T またはT^)と、誘導電動機10の回転状態を表す回転パラメータ(例えばωre及びθre)と、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプル(Tcn)を推定し、γ軸電流指令値iγs1 に基づいて、回転子磁束推定値φ^を演算する。そして、推定したトルクリプル(Tcn)と回転子磁束推定値φ^に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 を補正することにより、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算し、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iδs2 と、に基づいて、誘導電動機10を制御する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を備え、前記固定子巻線が生じさせる回転磁界と、前記回転磁界によって前記回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する誘導電動機を制御する誘導電動機制御方法であって、
前記誘導電動機のトルクを指令するトルク指令値に基づいて、前記固定子巻線に流す電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値と、前記固定子巻線に流す電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値と、を演算し、
前記誘導電動機のトルクを表すトルクパラメータと、前記誘導電動機の回転状態を表す回転パラメータと、を用いて、前記誘導電動機で生じるトルクリプルを推定し、
前記γ軸電流指令値に基づいて、前記回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値を演算し、
前記トルクリプルと前記回転子磁束推定値に基づいて前記δ軸電流指令値を補正することにより、補正δ軸電流指令値を演算し、
前記γ軸電流指令値と、前記補正δ軸電流指令値と、に基づいて、前記誘導電動機を制御する、
誘導電動機制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記トルクリプルは、振幅及び位相を次数ごとに推定し、
前記δ軸電流指令値は、前記振幅及び前記位相に基づいて、前記トルクリプルの次数ごとに補正する、
誘導電動機制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記回転パラメータとして、前記回転子の電気角速度、及び、前記回転子の電気角を用いることにより、前記トルクリプルを推定する、
誘導電動機制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記トルクパラメータとして前記トルク指令値を用いることによって、前記トルクリプルを推定し、
前記トルクリプルと、前記回転子磁束推定値と、に基づいて、前記δ軸電流指令値に対する補償電流を演算し、
前記補償電流によって前記δ軸電流指令値を補正する、
誘導電動機制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記δ軸電流指令値と、前記回転子磁束推定値と、に基づいて、前記誘導電動機が出力するトルクの推定値であるトルク推定値を演算し、
前記トルクパラメータとして前記トルク推定値を用いることによって、前記トルクリプルを推定し、
前記トルク推定値と、前記トルクリプルと、前記回転子磁束推定値と、に基づいて、前記補正δ軸電流指令値を演算する、
誘導電動機制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記回転子の電気角速度と、前記固定子巻線に流れる電流のδ軸成分であるδ軸電流または前記δ軸電流指令値と、前記固定子巻線に流れる電流のγ軸成分であるγ軸電流または前記γ軸電流指令値と、に基づいて、電源角速度及び電源位相と、を演算し、
前記回転パラメータとして前記電源角速度及び前記電源位相を用いることにより、前記トルクリプルを推定する、
誘導電動機制御方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記回転子磁束推定値は、前記γ軸電流指令値と、前記固定子巻線と前記回転子巻線の相互インダクタンスと、に基づいて演算する、
誘導電動機制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の誘導電動機制御方法であって、
前記回転子磁束推定値は、前記γ軸電流指令値と、前記γ軸電流指令値から前記回転子巻線の鎖交磁束までの伝達特性と、前記相互インダクタンスと、に基づいて演算する、
誘導電動機制御方法。
【請求項9】
固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を備え、前記固定子巻線が生じさせる回転磁界と、前記回転磁界によって前記回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する誘導電動機を制御する誘導電動機制御装置であって、
前記誘導電動機のトルクを指令するトルク指令値に基づいて、前記固定子巻線に流す電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値と、前記固定子巻線に流す電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値と、を演算する電流指令値演算部と、
前記誘導電動機のトルクを表すトルクパラメータと、前記誘導電動機の回転状態を表す回転パラメータと、を用いて、前記誘導電動機で生じるトルクリプルを推定するトルクリプル推定部と、
前記γ軸電流指令値に基づいて、前記回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値を演算する磁束推定部と、
前記トルクリプルと前記回転子磁束推定値に基づいて前記δ軸電流指令値を補正することにより、補正δ軸電流指令値を演算するδ軸電流指令値補正部と、
を備え、
前記γ軸電流指令値と、前記補正δ軸電流指令値と、に基づいて、前記誘導電動機を制御する、誘導電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータトルク指令値に基づいてトルクリプルを算出し、キャリア周波数とモータの回転状態に基づいてトルクリプルの位相を補正したトルクリプル補償値を設定し、モータトルク指令値とトルクリプル補償値を用いてPWM信号を出力するモータ制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5949929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トルクリプルは、電動機の回転状態(特に電気角)に基づいて推定することができる。このため、例えば同期電動機では、回転状態に基づいてトルクリプルを推定し、推定したトルクリプルを補償するように、トルク指令値を予め補正することにより、トルクリプルを良好に補償することができる。
【0005】
しかし、同期電動機の回転子は回転磁界と同期して回転するのに対し、誘導電動機の回転子は、回転磁界に対して遅れて回転する。そして、誘導電動機には、この回転原理に起因した応答遅れがある。したがって、誘導電動機では、同期電動機のように、トルクリプルを推定し、推定したトルクリプルを補償するようにトルク指令値を補正するだけでは、十分にトルクリプルを補償することができない。
【0006】
本発明は、誘導電動機のトルクリプルを良好に補償することができる誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を備え、固定子巻線が生じさせる回転磁界と、回転磁界によって回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する誘導電動機を制御する誘導電動機制御方法である。この誘導電動機制御方法では、誘導電動機のトルクを指令するトルク指令値に基づいて、固定子巻線に流す電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値と、固定子巻線に流す電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値と、を演算する。また、誘導電動機のトルクと、誘導電動機の回転状態を表す回転パラメータと、を用いて、誘導電動機で生じるトルクリプルを推定し、γ軸電流指令値に基づいて、回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値を演算する。そして、トルクリプルと回転子磁束推定値に基づいて、δ軸電流指令値を補正することにより、補正δ軸電流指令値を演算し、γ軸電流指令値と、補正δ軸電流指令値と、に基づいて、誘導電動機を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘導電動機のトルクリプルを補償することができる誘導電動機制御方法、及び、誘導電動機制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、電動車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、誘導電動機の制御に係るフローチャートである。
図3図3は、トルクテーブルの例を示すグラフである。
図4図4は、コントローラの構成を示すブロック図である。
図5図5は、電流制御部の構成を示すブロック図である。
図6図6は、トルクリプル補償部の構成を示すブロック図である。
図7図7は、磁束推定部の構成例を示すブロック図である。
図8図8は、磁束推定部の別の構成例を示すブロック図である。
図9図9は、トルクリプル推定部の構成を示すブロック図である。
図10図10は、比較例のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。
図11図11は、第1実施形態のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。
図12図12は、第2実施形態におけるトルクリプル補償部の構成を示すブロック図である。
図13図13は、第3実施形態におけるトルクリプル推定部の構成を示すブロック図である。
図14図14は、第3実施形態のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、電動車両100の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、電動車両100は、誘導電動機10を駆動源とする車両であり、誘導電動機10の他、バッテリ16、インバータ17、及び、コントローラ18等を含む。
【0012】
誘導電動機10は、固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を有し、固定子巻線が生じさせる回転磁界と、回転磁界によって回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する電動機である。固定子巻線、固定子、回転子巻線、及び、回転子の図示は省略する。本実施形態では、誘導電動機10は、三相交流誘導電動機である。
【0013】
誘導電動機10の回転によって生じるトルクT(駆動力)は、例えば減速機11及び駆動軸12を介して、電動車両100の駆動輪13に伝達される。誘導電動機10の電気角θre(回転子位相)は、例えばレゾルバやエンコーダ等によって構成される回転センサ14によって、適宜に検出される。また、各相の固定子巻線に流れる電流(以下、固定子電流ius,ivs,iwsという)は、電流センサ15によって適宜に検出される。但し、本実施形態では、電流センサ15は、U相及びV相の固定子電流ius,ivsを検出する。なお、W相の固定子電流iwsは、U相及びV相の固定子電流ius,ivsを用いて、演算によって求めることができる。
【0014】
バッテリ16は、誘導電動機10を駆動するための電力を放電する直流電源である。バッテリ16は、誘導電動機10が生じさせる回生電力によって充電することができる。バッテリ16が出力する直流電圧Vdcは、図示しない電圧センサによって、適宜に取得される。
【0015】
インバータ17は、バッテリ16の直流電力を交流電力に変換して、誘導電動機10の固定子巻線に入力する。また、インバータ17は、誘導電動機10の固定子巻線に発生した交流電力(回生電力)を直流電力に変換してバッテリ16に入力する。本実施形態では、インバータ17は、UVW各相にそれぞれ2個のスイッチング素子を有しており、コントローラ18から入力される駆動信号Duu ~Dwl に応じて、これらのスイッチング素子をオン/オフすることにより、直流電力と交流電力の変換を行う。スイッチング素子は、例えば、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等を用いて構成される。
【0016】
コントローラ18は、誘導電動機10を制御する制御装置である。具体的には、コントローラ18は、各種車両変数に基づいて、インバータ17の駆動信号Duu ~Dwl を生成する。特に、本実施形態では、コントローラ18は、誘導電動機10のトルクリプルを補償するように、インバータ17の駆動信号Duu ~Dwl を生成する。車両変数は、電動車両100の駆動制御に用いるパラメータであり、例えば、電動車両100のアクセル開度Aop(アクセル操作量)、誘導電動機10の電気角θre及び固定子電流ius,ivs,iws、並びに、バッテリ16の直流電圧Vdc等である。コントローラ18は、例えば、1または複数のコンピュータによって構成され、電動車両100を制御するための各種処理を、所定の周期で繰り返し実行するようにプログラムされている。以下では、コントローラ18が実行する各種処理、及び、これらの各種処理を実行するための構成について詳述する。
【0017】
図2は、誘導電動機10の制御に係るフローチャートである。図2に示すように、コントローラ18は、ステップS10の入力処理、ステップS11のトルク指令値演算処理、ステップS12のトルクリプル補償処理、及び、ステップS13の電流制御演算処理を、この順に繰り返し実行する。
【0018】
ステップS10の入力処理は、ステップS11~S13の各処理で用いる車両変数を取得する処理である。コントローラ18は、各種の車両変数をセンサや他のコントローラ等から取得する他、取得した信号等を用いた演算によって車両変数を取得する場合がある。本実施形態では、コントローラ18は、入力処理において、直流電圧Vdc、アクセル開度Aop、電気角θre[rad]、及び、U相及びV相の固定子電流ius,ivsを、各種センサ等から取得する。また、コントローラ18は、誘導電動機10の電気角速度ωre[rad/s]、機械角速度ωrm[rad/s]、及び、回転数N[rpm]を演算により求める。電気角速度ωreは、電気角θreの時間変化率を演算することによって求められる。機械角速度ωrmは、電気角速度ωreを、誘導電動機10の極対数pで除算することによって求められる。回転数Nは、機械角速度ωrmを単位変換することによって求められる。なお、これらの車両変数のうち、電気角θre、電気角速度ωre、機械角速度ωrm、及び、回転数Nは、いずれも、誘導電動機10の回転状態を表すパラメータ(以下、回転パラメータという)である。
【0019】
ステップS11のトルク指令値演算処理は、誘導電動機10が生じさせるべきトルクTを指令するトルク指令値T を演算する処理である。コントローラ18は、誘導電動機10の回転数Nと、アクセル開度Aopと、に基づいて、トルク指令値T を演算(設定)する。本実施形態では、コントローラ18は、回転数N及びアクセル開度Aopとトルク指令値T とを対応付けたトルクテーブルを有する。このため、コントローラ18は、このトルクテーブルを参照することによって、回転数N及びアクセル開度Aopに対応するトルク指令値T を演算する。図3は、トルクテーブルの例を示すグラフである。トルクテーブルは、実験またはシミュレーション等に基づいて、予め設定される。
【0020】
ステップS12のトルクリプル補償処理は、誘導電動機10にトルク指令値T に応じたトルクTを出力させつつ、トルクリプルが補償されるように、誘導電動機10の固定子電流を決定する処理である。
【0021】
本実施形態では、コントローラ18は、トルク指令値T 、機械角速度ωrm、及び、直流電圧Vdcに基づいて、固定子電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値iδs1 と、固定子電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値iγs1 を演算する。コントローラ18は、トルク指令値T と、回転パラメータである電気角θre及び電気角速度ωreと、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプルを推定する。コントローラ18は、γ軸電流指令値iγs1 に基づいて、回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値φ^を演算する。そして、コントローラ18は、推定したトルクリプルと、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 を補正することにより、実際に誘導電動機10の制御に用いる最終的なδ軸電流指令値(以下、補正δ軸電流指令値iδs2 という)を演算する。なお、γ軸及びδ軸は、固定子が生じさせる回転磁界とともに回転する直交2軸直流座標系(γδ座標系)の各座標軸である。
【0022】
ステップS13の電流制御演算処理は、トルクリプルが補償されるように決定された固定子電流が流れるように、いわゆる電流制御によって、誘導電動機10を制御するための演算処理である。本実施形態では、コントローラ18は、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iδs2 と、に基づいて、インバータ17の駆動信号Duu ~Dwl を演算する。
【0023】
図4は、コントローラ18の構成を示すブロック図である。図4では、上述の各種処理のうち、トルクリプル補償処理と電流制御演算処理を実行するための構成を示す。
【0024】
図4に示すように、コントローラ18は、トルクリプル補償処理を実行するトルクリプル補償部21と、電流制御演算処理を実行する電流制御演算処理部22と、を含む。
【0025】
トルクリプル補償部21は、トルク指令値T 、機械角速度ωrm、直流電圧Vdc、電気角θre、及び、電気角速度ωreに基づいて、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iγs2 と、を演算する。トルクリプル補償部21の具体的構成については、詳細を後述する。
【0026】
電流制御演算処理部22は、電気角速度ωreと、γ軸電流指令値iγs1 及び補正δ軸電流指令値iγs2 と、に基づいて、インバータ17の駆動信号Duu ~Dwl を演算する。具体的には、電流制御演算処理部22は、例えば、座標変換部31、すべり角演算部32、非干渉制御部33、電流制御部34、電圧指令値補正部37、座標変換部38、及び、PWM変換部39を含む。
【0027】
座標変換部31は、三相交流座標系(UVW軸)からγδ座標系への座標変換により、U相及びV相の固定子電流ius,ivsに基づいて、γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsを演算する。具体的には、座標変換部31は、電源位相θを用い、下記の式(1)にしたがってγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsを演算する。電源位相θは、すべり角演算部32から取得される。γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsは、すべり角演算部32、非干渉制御部33、及び、電流制御部34に入力される。
【0028】
【数1】
【0029】
すべり角演算部32は、電気角速度ωreと、γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsと、に基づいて、電源角速度ω及び電源位相θを演算する。電源角速度ωは、固定子巻線に固定子電流ius,ivs,iwsを流すことによって生じる回転磁界の回転角速度(いわゆる同期角速度)を表す。電源位相θは、回転磁界の回転位置を表す。
【0030】
具体的には、すべり角演算部32は、下記の式(2)に示すように、回転子の電気角速度ωreにすべり角速度ωseを加算することによって、電源角速度ωを演算する。そして、すべり角演算部32は、下記の式(3)に示すように、電源角速度ωを積分することにより、電源位相θを演算する。なお、「s」はラプラス演算子である。
【0031】
【数2】
【0032】
すべり角速度ωseは、回転磁界と回転子の電気角速度の差を表す。すべり角演算部32は、すべり角速度ωseを次のように演算する。すなわち、すべり角演算部32は、γ軸電流iγsと、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMと、に基づいて、回転子の鎖交磁束(以下、回転子磁束φという)についての推定値である回転子磁束推定値φ^を演算する。そして、すべり角演算部32は、δ軸電流iδsと回転子磁束推定値φ^の比(iδs/φ^)と、相互インダクタンスM等の既知定数と、を用いて、すべり角速度ωseを演算する。
【0033】
本実施形態では、すべり角演算部32は、下記の式(4)にしたがって、回転子磁束φの応答遅れを考慮した回転子磁束推定値φ^を演算する。式(4)における「τφ」は、誘導電流及び誘導電流によって生じる回転子磁束φの応答時定数である。回転子磁束φの応答時定数τφは、回転巻線のインダクタンスLと抵抗Rを用いて、τφ=L/Rで表される。また、すべり角演算部32は、下記の式(5)にしたがって、すべり角速度ωseを演算する。なお、本実施形態では、すべり角演算部32は、すべり角速度ωseの演算にγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsを用いているが、これらの代わりに、γ軸電流指令値iγs1 及び補正δ軸電流指令値iδs2 、を用いることができる。
【0034】
【数3】
【0035】
非干渉制御部33は、γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsと、回転子の電気角速度ωreと、電源角速度ωと、に基づいて、γ軸非干渉化電圧vγs-dcpl及びδ軸非干渉化電圧vδs-dcplを演算する。これらの非干渉化電圧vγs-dcpl,vδs-dcplは、γ軸及びδ軸の干渉電圧を相殺するための電圧である。
【0036】
電流制御部34は、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iδs2 と、に基づいて、γ軸電圧指令値vγ-dsh 及びδ軸電圧指令値vδ-dsh を演算する。γ軸電圧指令値vγ-dsh 及びδ軸電圧指令値vδ-dsh は、固定子巻線に印加する電圧のγ軸及びδ軸成分を指令する。
【0037】
本実施形態では、電流制御部34は、γ軸電流制御部35とδ軸電流制御部36からなる。γ軸電流制御部35は、γ軸電流指令値iγs1 と、γ軸電流iγsと、を用いて、γ軸電圧指令値vγ-dsh を演算する。δ軸電流制御部36は、補正δ軸電流指令値iδs2 と、δ軸電流iδsと、を用いて、δ軸電圧指令値vδ-dsh を演算する。γ軸電流制御部35及びδ軸電流制御部36の構成については、詳細を後述する。
【0038】
電圧指令値補正部37は、γ軸電圧指令値vγ-dsh 及びδ軸電圧指令値vδ-dsh に非干渉化する補正を施すことによって、最終的なγ軸電圧指令値vγs 及びδ軸電圧指令値vδs を演算する。具体的には、電圧指令値補正部37は、γ軸電圧指令値vγ-dsh からγ軸非干渉化電圧vγs-dcplを減算することによって、最終的なγ軸電圧指令値vγs を演算する。また、電圧指令値補正部37は、δ軸電圧指令値vδ-dsh からδ軸非干渉化電圧vδs-dcplを減算することによって、最終的なδ軸電圧指令値vδs を演算する。
【0039】
座標変換部38は、γδ座標系から三相交流座標系への座標変換により、最終的なγ軸電圧指令値vγs 及びδ軸電圧指令値vδs から、UVW各相の電圧指令値vus ,vvs ,vws を演算する。具体的には、座標変換部38は、電源位相θを用い、下記の式(6)にしたがってU相及びV相の電圧指令値vus ,vvs を演算する。また、座標変換部38は、下記の式(7)に示すように、U相及びV相の電圧指令値vus ,vvs に基づいてW相の電圧指令値vws を演算する。
【0040】
【数4】
【0041】
PWM変換部39は、UVW各相の電圧指令値vus ,vvs ,vws に基づいて、インバータ17のスイッチング素子を駆動する駆動信号Duu ~Dwl を生成する。駆動信号Duu ~Dwl にしたがってインバータ17のスイッチング素子を駆動することにより、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって、固定子電流ius,ivs,iwsが制御される。
【0042】
図5は、電流制御部34の構成を示すブロック図である。図5に示すように、γ軸電流制御部35及びδ軸電流制御部36は、例えば、PI制御器によって構成される。
【0043】
具体的には、γ軸電流制御部35は、γ軸電流指令値iγs1 とγ軸電流iγsの偏差に比例ゲインKpγsを乗算した値と、偏差に積分ゲインKiγsを乗算して積分した値と、を加算することにより、γ軸電圧指令値vγs-dsh を演算する。γ軸電流制御部35は、下記の式(8)に示すように、固定子巻線のインダクタンスL、漏れ係数σ、及び、指令値(γ軸電流指令値iγs1 )に対する実電流(γ軸電流iγs)の規範応答時定数τγsを用いて、比例ゲインKpγsを設定する。また、γ軸電流制御部35は、下記の式(9)に示すように、固定子巻線の抵抗R及び規範応答時定数τγsを用いて、積分ゲインKiγsを設定する。これにより、γ軸電流指令値iγs1 からγ軸電流iγsまでの伝達特性を、下記の式(10)に示す規範応答に一致させることができる。
【0044】
【数5】
【0045】
漏れ係数σは、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスM、固定子巻線のインダクタンスL、及び、回転子巻線のインダクタンスLを用いて、下記の式(11)で表される。
【0046】
【数6】
【0047】
δ軸電流制御部36は、γ軸電流制御部35と同様に構成される。すなわち、δ軸電流制御部36は、補正δ軸電流指令値iδs2 とδ軸電流iδsの偏差に比例ゲインKpδsを乗算した値と、偏差に積分ゲインKiδsを乗算して積分した値と、を加算することにより、δ軸電圧指令値vδs-dsh を演算する。δ軸電流制御部36は、下記の式(12)に示すように、固定子巻線のインダクタンスL、指令値(補正δ軸電流指令値iδs2 )に対する実電流(δ軸電流iδs)の規範応答時定数τδsを用いて、比例ゲインKpδsを設定する。また、δ軸電流制御部36は、下記の式(13)に示すように、固定子巻線の抵抗R及び規範応答時定数τδsを用いて、積分ゲインKiδsを設定する。これにより、補正δ軸電流指令値iδs2 からδ軸電流iδsまでの伝達特性を、下記の式(14)に示す規範応答に一致させることができる。
【0048】
【数7】
【0049】
図6は、トルクリプル補償部21の構成を示すブロック図である。図6に示すように、トルクリプル補償部21は、電流指令値演算部41、磁束推定部42、乗算部43、トルクリプル推定部44、及び、δ軸電流指令値補正部45を含む。
【0050】
電流指令値演算部41は、トルク指令値T 、回転子の機械角速度ωrm、及び、バッテリ16の直流電圧Vdcに基づいて、γ軸電流指令値iγs1 及びδ軸電流指令値iδs1 を演算する。電流指令値演算部41が演算するγ軸電流指令値iγs1 及びδ軸電流指令値iδs1 は、トルクリプルを考慮せずに設定する基本的な電流指令値である。
【0051】
本実施形態では、電流指令値演算部41は、トルク指令値T 、機械角速度ωrm、及び、直流電圧Vdcと、γ軸電流指令値iγs1 及びδ軸電流指令値iδs1 と、を対応付けた電流指令値テーブル(図示しない)を有する。このため、電流指令値演算部41は、電流指令値テーブルを参照することにより、トルク指令値T 、機械角速度ωrm、及び、直流電圧Vdcの組み合わせに対応するγ軸電流指令値iγs1 及びδ軸電流指令値iδs1 を演算する。電流指令値テーブルは、実験またはシミュレーション等に基づいて予め設定される。電流指令値演算部41が演算するγ軸電流指令値iγs1 及びδ軸電流指令値iδs1 のうち、γ軸電流指令値iγs1 は、そのまま電流制御部34(γ軸電流制御部35)に出力される。一方、δ軸電流指令値iδs1 は、誘導電動機10で生じるトルクリプルに応じて補正され、補正δ軸電流指令値iδs2 が電流制御部34(δ軸電流制御部36)に出力される。
【0052】
磁束推定部42は、電流指令値演算部41が演算したδ軸電流指令値iδs1 に基づいて、回転子磁束φの推定値である回転子磁束推定値φ^を演算する。磁束推定部42の構成については、詳細を後述する。
【0053】
乗算部43は、回転子磁束推定値φ^に誘導電動機10の極対数pを乗算する。乗算部43の出力(pφ^)は、δ軸電流指令値補正部45に入力される。
【0054】
トルクリプル推定部44は、誘導電動機10のトルクTを表すトルクパラメータと、誘導電動機10の回転状態を表す回転パラメータと、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプルを推定する。本実施形態では、トルクリプル推定部44は、トルクパラメータとして、トルク指令値T を用いる。トルクリプル推定部44は、回転パラメータとして、回転子の電気角速度ωre及び電気角θreを用いる。また、トルクリプル推定部44は、1または複数の次数ごとにトルクリプルを推定する。一般に、トルクリプルは、電気角θreの6n倍(nは整数)の次数を有する高調波として現れる。トルクリプル推定部44の構成については詳細を後述する。
【0055】
なお、トルクリプル推定部44の出力は、トルクリプルを補償するための値である。このため、以下では、トルクリプル推定部44の出力をトルクリプル補償値Tcnという。トルクリプル補償値Tcnは、δ軸電流指令値補正部45に入力される。
【0056】
δ軸電流指令値補正部45は、トルクリプル補償値Tcnと回転子磁束推定値φ^に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 を補正し、補正δ軸電流指令値iδs2 を出力する。補正δ軸電流指令値iδs2 は、トルクリプルを補償(低減)するδ軸電流指令値である。すなわち、δ軸電流指令値補正部45は、基本的なδ軸電流指令値iδs1 の補正によって、誘導電動機10のトルクリプルを補償する。
【0057】
本実施形態では、δ軸電流指令値補正部45は、補償電流演算部46と、加算部47と、からなる。
【0058】
補償電流演算部46は、トルクリプル補償値Tcnと、極対数pを乗算した回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、補償電流iδscn を演算する。補償電流iδscn は、δ軸電流指令値iδs1 の補正によって、トルクリプルを補償(低減)するための電流値を表す。具体的には、補償電流演算部46は、下記の式(15)にしたがって、補償電流iδscn を演算する。なお、式(15)は、6n次のトルクリプルに対応する補償電流iδscn を表している。
【0059】
【数8】
【0060】
加算部47は、基本的なδ軸電流指令値iδs1 に、補償電流iδscn を加算する。これにより、補正δ軸電流指令値iδs2 が演算される。
【0061】
図7は、磁束推定部42の構成例を示すブロック図である。図7に示すように、本実施形態においては、磁束推定部42は、γ軸電流指令値iγs1 に、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMを乗算することにより、回転子磁束推定値φ^を演算する。
【0062】
図8は、磁束推定部42の別の構成例を示すブロック図である。図8に示すように、磁束推定部42は、γ軸電流指令値iγs1 から回転子磁束φまでの伝達特性50と、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMと、に基づいて、回転子磁束推定値φ^を演算することができる。伝達特性50は、図7に示すとおり、γ軸電流指令値iγs1 に対する回転子磁束φ(誘導電流)の応答遅れを表す1次遅れの伝達特性である。したがって、図7に示す磁束推定部42の構成は、回転子磁束φの応答遅れを考慮して、回転子磁束推定値φ^を推定する構成である。
【0063】
図7図8の磁束推定部42の構成を比較すれば、もちろん図8の磁束推定部42の方が、高精度に回転子磁束φを推定できる。但し、図7の磁束推定部42の構成例のように、簡易に演算した回転子磁束推定値φ^であっても、トルクリプル補償処理において、十分にその役割を果たし得る。図8の磁束推定部42の構成例は、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )の変化が比較的大きく、γ軸電流指令値iγs1 に対する回転子磁束φ(誘導電流)の応答遅延が相対的に顕著になるときに、特に有用である。
【0064】
すなわち、誘導電動機10の基本的な回転原理(電磁誘導)に起因した回転子磁束φ^の応答遅延を考慮してトルクリプル補償処理を行うためには、磁束推定部42は、図7の簡易な構成で足りる。そして、さらに、回転子巻線等の具体的構成に起因した回転子磁束φの応答遅延を考慮してトルクリプル補償処理を行うときには、磁束推定部42は、図8の構成であることが好ましい。
【0065】
図9は、トルクリプル推定部44の構成を示すブロック図である。図9に示すように、トルクリプル推定部44は、振幅演算部51、位相演算部52、位相補正値演算部53、及び、トルクリプル補償値演算部54を含む。
【0066】
振幅演算部51は、トルク指令値T に基づいて、誘導電動機10で生じるトルクリプルの振幅を演算する。振幅演算部51は、1または複数の次数のトルクリプルについて、それぞれに振幅Kを演算することができる。本実施形態では、振幅演算部51は、トルク指令値T と各次数のトルクリプルの振幅Kを、実験またはシミュレーション等に基づいて予め対応付けたトルクリプル振幅マップ(図示しない)を有する。このため、振幅演算部51は、このトルクリプル振幅マップを参照することにより、トルク指令値T に対応する振幅Kを演算する。
【0067】
位相演算部52は、トルク指令値T に基づいて、誘導電動機10で生じるトルクリプルの位相を演算する。位相演算部52は、1または複数の次数のトルクリプルについて、それぞれに位相θを演算することができる。本実施形態では、位相演算部52は、トルク指令値T と各次数のトルクリプルの位相θnを、実験またはシミュレーション等に基づいて予め対応付けたトルクリプル位相マップ(図示しない)を有する。このため、位相演算部52は、このトルクリプル位相マップを参照することにより、トルク指令値T に対応する位相θを演算する。
【0068】
位相補正値演算部53は、回転子の電気角速度ωreと電気角θreに基づき、各次数のトルクリプルについてそれぞれ位相補正値θ′を演算する。具体的には、位相補正値演算部53は、下記の式(16)にしたがって、各次数の位相補正値θ′を演算する。式(16)における「t」は、トルク指令値T の入力から各次数のトルクリプルが生じるまでの遅れ時間(制御遅れ時間)である。ここでは、各次数の遅れ時間tは、実験またはシミュレーション等によって既知である。
【0069】
【数9】
【0070】
トルクリプル補償値演算部54は、各次数の振幅K、位相θ、及び、位相補正値θ′に基づいて、トルクリプル補償値Tcnを演算する。具体的には、トルクリプル補償値演算部54は、下記の式(17)にしたがって、トルクリプル補償値Tcnを演算する。なお、トルクリプル補償処理によって特定の1つの次数のトルクリプルを補償するときには、トルクリプル補償値演算部54は、その特定の次数のトルクリプル補償値Tcnを演算及び出力する。また、トルクリプル補償処理によって複数の次数のトルクリプルを補償するときには、トルクリプル補償値演算部54は、補償対象の次数のトルクリプル補償値Tcnを演算し、それらの和を出力する。
【0071】
【数10】
【0072】
<誘導電動機の状態方程式>
以下、参考のため、誘導電動機10の状態方程式等について説明する。誘導電動機10の電圧方程式は、下記の式(18)に示すとおりである。
【0073】
【数11】
【0074】
上記の電圧方程式における各パラメータは次のとおりである。なお、「s」はラプラス演算子である。
【0075】
γs : 固定子のγ軸電流
δs : 固定子のδ軸電流
γr : 回転子のγ軸電流(誘導電流のγ軸成分)
δr : 回転子のδ軸電流(誘導電流のδ軸成分)
γs : 固定子のγ軸電圧
δs : 固定子のδ軸電圧
: 固定子巻線のインダクタンス
: 回転子巻線のインダクタンス
: 固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンス
′: 固定子巻線の動的インダクタンス
′: 回転子巻線の動的インダクタンス
: 固定子巻線の抵抗
: 回転子巻線の抵抗
ω : 電源角速度
ωre : 回転子の電気角速度
【0076】
上記の電圧方程式を、固定子のγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsと、回転子のγ軸鎖交磁束Φγr及びδ軸鎖交磁束Φδrと、の状態方程式に変形すると、下記の式(19)のとおりとなる。なお、式(19)における「σ」は前述の漏れ係数である。
【0077】
【数12】
【0078】
また、誘導電動機10のトルクTは、下記の式(20)で表される。なお、「p」は誘導電動機10の極対数である。
【0079】
【数13】
【0080】
一般に、誘導電動機の制御では、トルク制御を容易にするために、回転子のδ軸鎖交磁束Φδrがゼロになるように、すべり角周波数が制御される。これは誘導電動機10でも同様である。したがって、上記の状態方程式及びトルクは、それぞれ下記の式(21)及び式(22)で表される。
【0081】
【数14】
【0082】
そして、非干渉制御部33及び電圧指令値補正部37による非干渉制御が理想的に機能すれば、上記の状態方程式は、下記の式(23)となる。
【0083】
【数15】
【0084】
すなわち、γ軸電圧vγsからγ軸電流iγsまでの伝達特性、及び、δ軸電圧vδsからδ軸電流iδsまでの伝達特性は、それぞれ下記の式(24)及び式(25)のとおりとなる。なお、γ軸電流iγsは、電流制御を容易にするために、下記の式(24)に示すように近似される。
【0085】
【数16】
【0086】
<作用>
以下、比較例及び参考例と比較しながら、上記第1実施形態に係るトルクリプル補償処理の作用について説明する。
【0087】
比較例は、誘導電動機10を制御するときに、トルクリプルを推定し、推定したトルクリプルを補償するようにトルク指令値T を補正するトルクリプル補償処理を行う例である。すなわち、比較例のトルクリプル補償処理では、回転子磁束φを何ら考慮しない。また、比較例のトルクリプル補償処理では、補正の対象はトルク指令値T である。
【0088】
参考例は、誘導電動機10を制御するときに、トルクリプル補償処理を行わない例である。
【0089】
図10は、比較例のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。図10(A)は、誘導電動機10のトルクTを示す。図10(B)は、固定子のγ軸電流iγsを示す。図10(C)は、固定子のδ軸電流iδsを示す。図10(D)は、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrを示す。図10(A)から図10(D)の横軸は、いずれも時間である。図10(A)から図10(D)における破線は、参考例の各パラメータを示す。なお、ここに示す時間範囲では、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )概ね一定に制御されるものとする。
【0090】
図10(B)及び図10(C)に破線で示すように、ここでは誘導電動機10のトルクTは概ね一定であるから、トルクリプル補償処理を行わない参考例においては、γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsは、原則として、一定になるように制御される。しかし、トルクリプル補償処理を行わないときには、図10(A)に破線で示すように、誘導電動機10が生じさせるトルクTにはトルクリプルが生じる。
【0091】
そこで、比較例では、このトルクリプルを補償するようにトルク指令値T を補正する。その結果、比較例のトルクリプル補償処理では、図10(B)及び図10(C)に実線で示すようにγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsはトルクリプルに応じて変化する。そして、比較例におけるγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsのピーク(極大値)及びボトム(極小値)は、トルクリプルのボトム及びピークに対応して現れる。
【0092】
このとき、図10(D)に示すように、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrは、γ軸電流iγs及びδ軸電流iδsに応じて変化する。但し、図10(D)の一部において矢印で示すように、γ軸鎖交磁束Φγrのピーク及びボトムは、トルクリプルやγ軸電流iγs及びδ軸電流iδsのピーク及びボトムよりも遅れて現れる。これは、電磁誘導によって回転子電流(誘導電流)を生じさせる誘導電動機10においては、原理的に避けられない遅延である。その結果、図10(A)に実線で示すように、比較例のトルクリプル補償処理では、トルクリプルをある程度低減させることができるものの、γ軸鎖交磁束Φγrの応答遅延があるために、トルクリプルを十分に補償することができない。
【0093】
図11は、第1実施形態のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。図11(A)から図11(D)が表す各パラメータ及び横軸は前述の図10と同様であり、破線は参考例の各パラメータを示す。ここに示す時間範囲では、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )概ね一定に制御されることも、図10と同様である。なお、前述のとおり、回転子のδ軸鎖交磁束Φδrはゼロとなるように制御されるので、図11(D)の回転子のγ軸鎖交磁束Φγrは、実質的に回転子磁束φ(回転子磁束推定値φ^)を表す。
【0094】
本実施形態のトルクリプル補償処理では、トルクリプルが補償されるようにδ軸電流指令値iδs1 が補正され、γ軸電流指令値iγs1 はそのまま誘導電動機10の制御に用いられる。このため、図11(C)に示すように、トルクリプルを補償するためにδ軸電流iδsがトルクリプルに応じて変化し、図11(B)に示すように、γ軸電流iγsは一定に保たれる。
【0095】
したがって、本実施形態のトルクリプル補償処理では、図11(D)に示すように、回転子のγ軸鎖交磁束Φγr(回転子磁束φ)が実質的に一定に保たれる。すなわち、本実施形態のトルクリプル補償処理では、γ軸鎖交磁束Φγrに、実質的にピーク及びボトムが現れない。すなわち、本実施形態のトルクリプル補償処理では、γ軸鎖交磁束Φγrにピーク及びボトムが、トルクリプル及びδ軸電流iδsのピーク及びボトムから遅れているとしても、γ軸鎖交磁束Φγrの変化の大きさ(振幅)が極めて小さい。このため、本実施形態のトルクリプル補償処理では、γ軸鎖交磁束Φγrの応答遅延は実質的に無視し得る。その結果、図11(A)に実線で示すように、本実施形態のトルクリプル補償処理では、トルクリプル(破線)が良好に補償される。すなわち、本実施形態のトルクリプル補償処理では、γ軸電流iγs(γ軸電流指令値iγs1 )を保ちつつ、δ軸電流iδs(δ軸電流指令値iδs1 )を補正することによってトルクリプルを補償するので、誘導電動機10に生じるトルクリプルが、比較例のトルクリプル補償処理よりも良好に補償される。
【0096】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )が概ね一定とみなせるシーンを例に説明したが、誘導電動機10のトルクTは、アクセル開度AOP等に応じて大きく変化することがある。このように、誘導電動機10のトルクTが大きく変化するときには、誘導電動機10の回転原理に起因したγ軸鎖交磁束Φγrの応答遅延(以下、原理的応答遅延という)だけでなく、さらに、誘導電動機10の具体的構造の問題によって生じる電流等の応答遅延に起因したγ軸鎖交磁束Φγrの応答遅延(以下、構造的応答遅延という)が、トルクリプル補償処理の障害となり得る。
【0097】
以下、第2実施形態においては、トルクリプル補償処理の障害となるγ軸鎖交磁束Φγrの応答遅延に関し、理想系においても避け難い原理的応答遅延だけでなく、誘導電動機10の具体的構造によって変わり得る構造的応遅延をも考慮したトルクリプル補償処理を行うコントローラ18の構成について説明する。
【0098】
図12は、第2実施形態におけるトルクリプル補償部21の構成を示すブロック図である。トルクリプル補償部21以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0099】
図12に示すように、第2実施形態のトルクリプル補償部21は、電流指令値演算部41、磁束推定部42、トルク推定部61、トルクリプル推定部62、及び、δ軸電流指令値補正部63を含む。
【0100】
電流指令値演算部41及び磁束推定部42は、第1実施形態と同様に構成される。但し、トルクT(トルク指令値T )の変化が大きいときには、固定子のγ軸電流指令値iγs1 から回転子巻線に生じる誘導電流までの応答遅延が、トルクリプル補償処理の障害となり得る。このため、本実施形態では、磁束推定部42として、γ軸電流指令値iγs1 に対する回転子磁束φ(誘導電流)の応答遅れを表す1次遅れの伝達特性50を用いた構成(図8参照)を採用することが好ましい。
【0101】
トルク推定部61は、補正前のδ軸電流指令値iδs1 と、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、誘導電動機10が生じさせるトルクTの推定値であるトルク推定値T^を演算する。具体的には、トルク推定部61は、下記の式(26)にしたがって、トルク推定値T^を演算する。式(26)における「p」は誘導電動機10の極対数である。
【0102】
【数17】
【0103】
トルクリプル推定部62は、誘導電動機10のトルクTを表すトルクパラメータと、誘導電動機10の回転状態を表す回転パラメータと、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプルを推定する。本実施形態では、トルクリプル推定部62は、トルクパラメータとして、トルク推定値T^を用いる。トルクリプル推定部62は、回転パラメータとして、回転子の電気角速度ωre及び電気角θreを用いる。
【0104】
すなわち、トルクリプル推定部62は、トルク指令値T の代わりにトルク推定値T^を用いることを除き、第1実施形態のトルクリプル推定部44と同様に構成される。したがって、トルクリプル推定部62は、1または複数の次数ごとにトルクリプルを推定する。また、トルクリプル推定部62は、トルクリプル補償値Tcnを出力する。
【0105】
δ軸電流指令値補正部63は、トルクリプル補償値Tcnとトルク推定値T^に基づいて、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算及び出力する。具体的には、δ軸電流指令値補正部63は、下記の式(27)にしたがって、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算する。式(27)における「p」は誘導電動機10の極対数である。
【0106】
【数18】
【0107】
上記のように、本実施形態では、補正前のδ軸電流指令値iδs1 と、回転子磁束推定値φ^と、に基づいてトルク推定値T^を演算し、このトルク推定値T^をトルクパラメータとして用いてトルクリプルを推定(トルクリプル補償値Tcnを演算)する。そして、トルク推定値T^と、推定したトルクリプルを表すトルクリプル補償値Tcnと、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、補正δ軸電流指令値iδs2 が演算される。このため、補正δ軸電流指令値iδs2 には、トルク推定値T^を介して誘導電動機10のトルクTの変化が反映されやすくなっている。その結果、トルクT(トルク指令値T )の変化が大きく、γ軸鎖交磁束Φγrの構造的応答遅延が顕著になるシーンであっても、トルクリプルが良好に補償される。
【0108】
特に、磁束推定部42を、伝達特性50を用いた図8の構成とするときには、回転子磁束推定値φ^がγ軸鎖交磁束Φγrの構造的応答遅延を考慮した値となる。このため、トルクT(トルク指令値T )の変化が大きく、γ軸鎖交磁束Φγrの構造的応答遅延が顕著になるシーンであっても、トルクリプルが特に良好に補償される。
【0109】
[第3実施形態]
第1実施形態のトルクリプル補償処理は、トルクリプル補償処理の妨げとなる要因として、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延を考慮している。また、第2実施形態のトルクリプル補償処理は、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延に加えて、構造的応答遅延をも考慮している。しかし、この他にも、トルクリプル補償処理の妨げとなる要因がある。具体的には、回転磁界(同期速度)と回転数Nの速度差(相対速度の差)が大きくなったとき、すなわち、誘導電動機10のすべりが大きくなったときには、第1実施形態または第2実施形態のトルクリプル補償処理をもってしても、トルクリプルが十分に補償されないことがある。以下、第3実施形態では、すべりが大きくなったときでも、誘導電動機10で生じるトルクリプルを良好に補償するためのコントローラ18の構成を説明する。
【0110】
図13は、第3実施形態におけるトルクリプル推定部71の構成を示すブロック図である。図13に示すように、第3実施形態のトルクリプル推定部71は、回転子の電気角速度ωre及び電気角θreの代わりに、電源角速度ω及び電源位相θを入力とする。その余の構成は、第1実施形態のトルクリプル推定部44と同様である。また、トルクリプル推定部44以外の構成についても、第1実施形態と同様である。
【0111】
なお、図13では、第1実施形態のトルクリプル推定部44と同様に、トルクパラメータとしてトルク指令値T を用いているが、第3実施形態のトルクリプル推定部71は、第2実施形態のトルクリプル推定部44と同様に、トルクパラメータとしてトルク推定値T^を用いることができる。
【0112】
図14は、第3実施形態のトルクリプル補償処理の作用を示すグラフである。図14(A)から図14(D)に示す各パラメータ及び横軸は、図10及び図11と同様であり、破線は参考例の制御における各パラメータの推移を示す。図14では、一点鎖線によって、第1実施形態の構成によるトルクリプル補償処理の結果を示し、実線によって、第3実施形態の構成によるトルクリプル補償処理の結果を示す。なお、ここに示す時間範囲では、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )概ね一定に制御されるものとする。このため、第2実施形態の構成によるトルクリプル補償処理の結果も、第1実施形態の結果と実質的に同様となる。
【0113】
第1実施形態及び第3実施形態のいずれのトルクリプル補償処理においても、トルクリプルが補償されるようにδ軸電流指令値iδs1 が補正され、γ軸電流指令値iγs1 はそのまま誘導電動機10の制御に用いられる。このため、図14(C)に示すように、トルクリプルを補償するためにδ軸電流iδsがトルクリプルに応じて変化し、図14(B)に示すように、γ軸電流iγsは一定に保たれる。そして、図14(D)に示すように、回転子のγ軸鎖交磁束Φγr(回転子磁束φ)が実質的に一定に保たれる。
【0114】
しかし、誘導電動機10のすべりが大きくなると、図14(C)の一部において矢印で示すように、δ軸電流iδs(補正δ軸電流指令値iδs2 )のピーク及びボトムが、トルクリプルのボトム及びピークから遅れる。その結果、図14(A)に一点鎖線で示すように、第1実施形態のトルクリプル補償処理では、誘導電動機10のトルクリプルを十分に補償できないことがある。
【0115】
一方、第3実施形態のトルクリプル補償処理では、電源角速度ω及び電源位相θに基づいてトルクリプルを推定する。これにより、図14(C)に実線で示すように、誘導電動機10のすべりが大きくなったとしても、δ軸電流iδs(補正δ軸電流指令値iδs2 )のピーク及びボトムは遅れず、実質的にトルクリプルのボトム及びピークに対応する位置に現れる。その結果、図14(A)に実線で示すように、第3実施形態のトルクリプル補償処理では、誘導電動機10のすべりが大きくなっても、誘導電動機10のトルクリプルは良好に補償される。
【0116】
以上のように、上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法は、固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を備え、固定子巻線が生じさせる回転磁界と、回転磁界によって回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する誘導電動機10を制御する誘導電動機制御方法である。この誘導電動機制御方法では、誘導電動機10のトルクTを指令するトルク指令値T に基づいて、固定子巻線に流す電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値iγs1 と、固定子巻線に流す電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値iδs1 と、を演算する。また、誘導電動機10のトルクTを表すトルクパラメータ(T またはT^)と、誘導電動機10の回転状態を表す回転パラメータ(例えばωre及びθre)と、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプル(Tcn)を推定し、γ軸電流指令値iγs1 に基づいて、回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値φ^を演算する。そして、推定したトルクリプル(Tcn)と回転子磁束推定値φ^に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 を補正することにより、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算し、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iδs2 と、に基づいて、誘導電動機10を制御する。
【0117】
このように、トルクリプルを補償するときに、トルク指令値T に基づいて定めるγ軸電流指令値iγs1 とδ軸電流指令値iδs1 のうちδ軸電流指令値iδs1 を補正し、γ軸電流指令値iγs1 はそのまま誘導電動機10の制御に用いると、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrの変化(振幅)が抑制される。このため、γ軸鎖交磁束Φγrに原理的応答遅延が生じるとしても、その影響は、トルクリプル補償処理において実質的に無視し得る程度のものとなる。したがって、トルクリプル補償処理においてγ軸電流iγsを変化させてしまう比較例では、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延によって十分な補償効果が得られないのに対し、上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法によれば、誘導電動機10で生じるトルクリプルが、十分、良好に補償される。
【0118】
上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法では、トルクリプルは、振幅K及び位相θを次数ごとに推定し、δ軸電流指令値iδs1 は、振幅K及び位相θに基づいて、トルクリプルの次数ごとに補正する。
【0119】
このように、トルクリプルの推定及びトルクリプル補償処理をトルクリプルの次数ごとに行うと、特に正確にトルクリプルを補償することができる。
【0120】
上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法では、回転パラメータとして、回転子の電気角速度ωre、及び、回転子の電気角θreを用いることにより、トルクリプル(Tcn)を推定する。
【0121】
このように、回転子の電気角速度ωre及び電気角θreを用いてトルクリプルを推定すると、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じた原理的応答遅延を考慮して、正確にトルクリプルを推定することができる。このため、誘導電動機10で生じるトルクリプルが良好に補償されやすくなる。
【0122】
特に、上記第1実施形態に係る誘導電動機制御方法では、トルクパラメータとしてトルク指令値T を用いることによって、トルクリプル(Tcn)を推定し、トルクリプル(Tcn)と、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 に対する補償電流iδscn を演算し、補償電流iδscn によってδ軸電流指令値iδs1 を補正する。
【0123】
このように、トルク指令値T に基づいてトルクリプルを推定するときには、補償電流iδscn によってδ軸電流指令値iδs1 を補正すると、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延を考慮して、トルクリプルを良好に補償しやすい。
【0124】
上記第2実施形態に係る誘導電動機制御方法では、δ軸電流指令値iδs1 と、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、誘導電動機10が出力するトルクTの推定値であるトルク推定値T^を演算し、トルクパラメータとしてトルク推定値T^を用いることによって、トルクリプル(Tcn)を推定し、トルク推定値T^と、トルクリプル(Tcn)と、回転子磁束推定値φ^と、に基づいて、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算する。
【0125】
このように、トルク推定値T^を、トルクリプルの推定及び補正δ軸電流指令値iδs2 の演算に用いると、トルクリプル補償処理において、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる応答遅延として、原理的応答遅延の他、構造的応答遅延が考慮される。その結果、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )が変化したときにも、誘導電動機10のトルクリプルが良好に補償されやすい。
【0126】
上記第3実施形態に係る誘導電動機制御方法では、回転子の電気角速度ωreと、固定子巻線に流れる電流のδ軸成分であるδ軸電流iδsまたは補正δ軸電流指令値iδs2 と、固定子巻線に流れる電流のγ軸成分であるγ軸電流iγsまたはγ軸電流指令値iγs1 と、に基づいて、電源角速度ω及び電源位相θと、を演算し、回転パラメータとして電源角速度ω及び電源位相θを用いることにより、トルクリプル(Tcn)を推定する。
【0127】
このように、電源角速度ω及び電源位相θを、トルクリプルの推定に用いると、誘導電動機10のすべりが大きくなった場合でも、誘導電動機10のトルクリプルが良好に補償されやすい。
【0128】
上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法では、回転子磁束推定値φ^は、γ軸電流指令値iγs1 と、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMと、に基づいて演算する。
【0129】
このように、γ軸電流指令値iγs1 と、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMと、に基づいて、回転子磁束推定値φ^を演算すると、簡易かつ正確に、回転子磁束推定値φ^が推定される。その結果、トルクリプル補償処理において、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延が正確に考慮される。したがって、誘導電動機10で生じるトルクリプルが良好に補償されやすい。
【0130】
また、上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御方法では、回転子磁束推定値φ^は、γ軸電流指令値iγs1 と、γ軸電流指令値iγs1 から回転子巻線の鎖交磁束までの伝達特性50と、固定子巻線と回転子巻線の相互インダクタンスMと、に基づいて演算することができる。
【0131】
このように、γ軸電流指令値iγs1 から回転子巻線の鎖交磁束までの伝達特性50を用いて回転子磁束推定値φ^を推定すると、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる応答遅延として、原理的応答遅延の他、構造的応答遅延が考慮される。その結果、誘導電動機10のトルクT(トルク指令値T )が変化したときにも、誘導電動機10のトルクリプルが良好に補償されやすい。
【0132】
上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御装置は、固定子巻線を有する固定子と、回転子巻線を有する回転子と、を備え、固定子巻線が生じさせる回転磁界と、回転磁界によって回転子巻線に生じる誘導電流と、の相互作用によって回転する誘導電動機を制御する誘導電動機制御装置(コントローラ18)である。この誘導電動機制御装置(18)は、電流指令値演算部41と、トルクリプル推定部44,71と、磁束推定部42と、δ軸電流指令値補正部45,63と、を備える。電流指令値演算部41は、誘導電動機10のトルクTを指令するトルク指令値T に基づいて、固定子巻線に流す電流のδ軸成分を指令するδ軸電流指令値iδs1 と、固定子巻線に流す電流のγ軸成分を指令するγ軸電流指令値iγs1 と、を演算する。トルクリプル推定部44,71は、誘導電動機10のトルクTを表すトルクパラメータ(T またはT^)と、誘導電動機10の回転状態を表す回転パラメータ(例えばωre及びθre)と、を用いて、誘導電動機10で生じるトルクリプルを(Tcn)推定する。磁束推定部42は、γ軸電流指令値iγs1 に基づいて、回転子巻線の鎖交磁束についての推定値である回転子磁束推定値φ^を演算する。δ軸電流指令値補正部45,63は、トルクリプル(Tcn)と回転子磁束推定値φ^に基づいて、δ軸電流指令値iδs1 を補正することにより、補正δ軸電流指令値iδs2 を演算する。そして、誘導電動機制御装置(18)は、γ軸電流指令値iγs1 と、補正δ軸電流指令値iδs2 と、に基づいて、誘導電動機10を制御する。
【0133】
このように、誘導電動機制御装置(コントローラ18)は、トルクリプルを補償するときに、トルク指令値T に基づいて定めるγ軸電流指令値iγs1 とδ軸電流指令値iδs1 のうちδ軸電流指令値iδs1 を補正し、γ軸電流指令値iγs1 はそのまま誘導電動機10の制御に用いるので、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrの変化(振幅)が抑制される。このため、γ軸鎖交磁束Φγrに原理的応答遅延が生じるとしても、その影響は、トルクリプル補償処理において実質的に無視し得る程度のものとなる。したがって、トルクリプル補償処理においてγ軸電流iγsを変化させてしまう比較例では、回転子のγ軸鎖交磁束Φγrに生じる原理的応答遅延によって十分な補償効果が得られないのに対し、上記第1~第3実施形態に係る誘導電動機制御装置によれば、誘導電動機10で生じるトルクリプルが、十分、良好に補償される。
【0134】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び変形例等で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0135】
10:誘導電動機,11:減速機,12:駆動軸,13:駆動輪,14:回転センサ,15:電流センサ,16:バッテリ,17:インバータ,18:コントローラ,21:トルクリプル補償部,22:電流制御演算処理部,31:座標変換部,32:すべり角演算部,33:非干渉制御部,34:電流制御部,35:γ軸電流制御部,36:δ軸電流制御部,37:電圧指令値補正部,38:座標変換部,39:PWM変換部,41:電流指令値演算部,42:磁束推定部,43:乗算部,44:トルクリプル推定部,45:δ軸電流指令値補正部,46:補償電流演算部,47:加算部,50:伝達特性,51:振幅演算部,52:位相演算部,53:位相補正値演算部,54:トルクリプル補償値演算部,61:トルク推定部,62:トルクリプル推定部,63:δ軸電流指令値補正部,71:トルクリプル推定部,100:電動車両
図1
図2
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図5
図6
図7
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図9
図10
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図14