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特開2024-171796リスク予測システム、リスク予測装置およびリスク予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171796
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】リスク予測システム、リスク予測装置およびリスク予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20241205BHJP
   G16Y 20/00 20200101ALI20241205BHJP
   G16Y 20/10 20200101ALI20241205BHJP
   G16Y 40/20 20200101ALI20241205BHJP
【FI】
G06Q10/04
G16Y20/00
G16Y20/10
G16Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089013
(22)【出願日】2023-05-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紘大
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術を改善する。
【解決手段】リスク予測システムは、測定部と、制御部と、出力部とを含む。測定部は、車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの内部の故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を出力する。制御部は、前記データ項目の前記測定値の履歴に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤの内部の前記故障発生要因の蓄積量を算出し、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する。出力部は、前記制御部により予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を出力する測定部と、
前記データ項目の前記測定値の履歴に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出し、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する制御部と、
前記制御部により予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力する出力部と
を備えるリスク予測システム。
【請求項2】
前記データ項目は、環境温度、前記第1のタイヤの内部の温度、前記第1のタイヤの内部の空気圧、前記車両の積載重量、前記車両の走行速度、前記車両の加速度、および、前記車両が走行した道路の道路勾配の何れか1つ、または、2つ以上の組合せを含む、請求項1に記載のリスク予測システム。
【請求項3】
前記出力部は、前記リスクに基づいて前記それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを段階的に表示する、請求項1に記載のリスク予測システム。
【請求項4】
前記制御部は、所定期間の前記故障発生要因の前記蓄積量に基づいて、前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する、請求項1に記載のリスク予測システム。
【請求項5】
前記故障発生要因は、前記第1のタイヤの疲労蓄積状況に対応する、請求項1に記載のリスク予測システム。
【請求項6】
前記疲労蓄積状況は、熱劣化による疲労蓄積状況であり、前記データ項目は、前記第1のタイヤの内部の温度を含む、請求項5に記載のリスク予測システム。
【請求項7】
前記疲労蓄積状況は、歪による疲労蓄積状況であり、前記データ項目は、前記車両の加速度を含む、請求項5に記載のリスク予測システム。
【請求項8】
前記リスク予測システムは、複数の棄却された第2のタイヤのデータであって、それぞれの前記第2のタイヤの棄却の原因と、前記データ項目の前記履歴の情報とを含む該第2のタイヤのデータに基づいて、前記リスクを予測するための前記故障発生要因の蓄積量に対する閾値を決定する分析部を備え、前記タイヤの前記棄却の原因は、異常による故障および正常な寿命を含み、
前記制御部は、前記閾値を用いて前記それぞれのタイヤに前記故障が発生する前記リスクを予測する、請求項1に記載のリスク予測システム。
【請求項9】
前記分析部は、前記故障発生要因の前記蓄積量に対する2つの閾値を含み、前記2つの閾値は、前記正常な寿命により棄却される範囲と、前記正常な寿命による棄却および前記異常による故障による棄却の何れにも特定できない範囲と、前記異常による故障により棄却される範囲とを区分する、請求項8に記載のリスク予測システム。
【請求項10】
前記分析部は、複数のデータ項目を含む前記第2のタイヤのデータを取得し、前記複数のデータ項目に含まれる前記データ項目の種類および要求される前記リスクの予測の精度に基づいて、前記複数のデータ項目の中から前記データ項目を決定する、請求項8に記載のリスク予測システム。
【請求項11】
前記データ項目は、前記第2のタイヤのデータに含まれる前記異常による故障の現象により決定される請求項8に記載のリスク予測システム。
【請求項12】
前記制御部は、時系列の前記故障発生要因の蓄積量を外挿することにより、前記閾値に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するタイミングを予測する請求項8に記載のリスク予測システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記第1のタイヤのメンテナンス頻度およびメンテナンス計画の少なくとも何れかの情報を含むメンテナンス情報を取得し、該メンテナンス情報とそれぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の前記蓄積量とに基づいて、前記リスクへの対応策を決定し、前記出力部は前記決定された前記対応策を表示する、請求項12に記載のリスク予測システム。
【請求項14】
車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を取得する取得部と、
前記データ項目の測定値の履歴に基づいて、前記それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出し、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する制御部と、
前記制御部により予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力する出力部と
を備えるリスク予測装置。
【請求項15】
コンピュータが実行するリスク予測方法であって、
車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を取得することと、
前記データ項目の測定値の履歴に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出することと、
該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測することと、
予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力することと
を含むリスク予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク予測システム、リスク予測装置およびリスク予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サステナブルな社会の実現に向けて、一資源であるタイヤについても、寿命向上による資源生産性向上が求められている。特に、荒れた路面を繰り返し走行する車両、重量物を運搬する車両に装着されるタイヤにおいては、厳しい使用環境での最適な使用と管理により、タイヤの寿命最大化が求められている。
【0003】
タイヤ寿命の向上において、外的損傷に関する取り組みと、タイヤ内部に蓄積された疲労による故障に対する取り組みがある。外観チェック等の手段により検知・対応が可能な外的損傷に比べ、内的な疲労に由来する故障については検知が難しい。内的損傷に対する対応としては、従来からタイヤにセンサモジュールを設け、タイヤの内圧及び温度を測定するものがある。そして、測定したタイヤの内圧及び温度の測定値に基づいて、タイヤの管理を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-91202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、タイヤから得られた情報、具体的にはある瞬間に取得したデータに基づき、適正使用を促すシステムが開発されてきた。しかしながら、継続的な入力による故障発生リスクの予測は従来技術では十分でなく、故障が発生してからの対応になることがあった。また、予測結果を効果的に通知する機能についても更なる向上が求められていた。
【0006】
したがって、これらの点に着目してなされた本開示の目的は、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術を改善した、リスク予測システム、リスク予測装置およびリスク予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一態様に係るリスク予測システムは、車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を出力する測定部と、前記データ項目の前記測定値の履歴に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出し、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する制御部と、前記制御部により予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力する出力部とを備える。本開示の一態様に係るリスク予測システムによれば、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術が改善される。特に、このリスク予測システムでは、故障発生要因(例えば、熱劣化によるタイヤ内部の疲労)を定量的に算出できるデータ項目の測定値の履歴に基づいて第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測するので、故障発生要因が蓄積されて発生する故障に対応してリスクを予測し、利用者に提示することができる。
【0008】
(2)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(1)に記載のリスク予測システムであって、前記データ項目は、環境温度、前記第1のタイヤの内部の温度、前記第1のタイヤの内部の空気圧、前記車両の積載重量、前記車両の走行速度、前記車両の加速度、および、前記車両が走行した道路の道路勾配の何れか1つ、または、2つ以上の組合せを含むことができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、タイヤおよび車両から取得できる上記データ項目を利用して、タイヤに故障が発生するリスクを予測することができる。
【0009】
(3)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(1)または(2)に記載のリスク予測システムであって、前記出力部は、前記リスクに基づいて前記それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを段階的に表示することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、予測されるリスクに基づいて、利用者に対し複数の種類の対応策を段階的に提示することができる。
【0010】
(4)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(1)から(3)の何れかに記載のリスク予測システムであって、前記制御部は、所定期間の前記故障発生要因の前記蓄積量に基づいて、前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、故障発生要因の性質等に応じて、初回装着から現在に至る全期間、直前の3日間、または、直前の1週間など異なる期間を設定して、故障発生要因によるリスクを評価することができる。
【0011】
(5)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(1)から(4)の何れかに記載のリスク予測システムであって、前記故障発生要因は、前記第1のタイヤの疲労蓄積状況に対応してよい。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、タイヤの疲労蓄積により故障が発生するリスクを予測することができる。
【0012】
(6)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(5)に記載のリスク予測システムであって、前記疲労蓄積状況は、熱劣化による疲労蓄積状況であり、前記データ項目は、前記第1のタイヤの内部の温度を含むことができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、タイヤの内部の温度等に起因する熱劣化による疲労蓄積状況に基づいて、タイヤに故障が発生するリスクを予測し、利用者に提示することができる。
【0013】
(7)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(5)に記載のリスク予測システムであって、前記疲労蓄積状況は、歪による疲労蓄積状況であり、前記データ項目は、前記車両の加速度を含むことができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、車両の加速度等によりタイヤに加わる歪に起因する疲労蓄積状況に基づいて、タイヤに故障が発生するリスクを予測し、利用者に提示することができる。
【0014】
(8)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(1)から(7)の何れかに記載のリスク予測システムであって、前記リスク予測システムは、複数の棄却された第2のタイヤのデータであって、それぞれの前記第2のタイヤの棄却の原因と、前記データ項目の前記履歴の情報とを含む該第2のタイヤのデータに基づいて、前記リスクを予測するための前記故障発生要因の蓄積量に対する閾値を決定する分析部を備え、前記タイヤの前記棄却の原因は、異常による故障および正常な寿命を含み、前記制御部は、前記閾値を用いて前記それぞれのタイヤに前記故障が発生する前記リスクを予測することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、過去に棄却された複数のタイヤのデータに基づいて決定した閾値を用いて、現在使用されるタイヤに故障が発生するリスクを予測するので、予測の精度が高くなる。
【0015】
(9)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(8)に記載のリスク予測システムであって、前記分析部は、前記故障発生要因の前記蓄積量に対する2つの閾値を含み、前記2つの閾値は、前記正常な寿命により棄却される範囲と、前記正常な寿命による棄却および前記異常による故障による棄却の何れにも特定できない範囲と、前記異常による故障により棄却される範囲とを区分することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、3段階でタイヤに故障が発生するリスクを予測するので、それぞれの第1のタイヤについて故障が発生するリスクに応じた多段階の出力を行うことが可能になる。
【0016】
(10)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(8)または(9)に記載のリスク予測システムであって、前記分析部は、複数のデータ項目を含む前記第2のタイヤのデータを取得し、前記複数のデータ項目に含まれる前記データ項目の種類および要求される前記リスクの予測の精度に基づいて、前記複数のデータ項目の中から前記データ項目を決定することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、実際に集められている棄却された第2のタイヤのデータに含まれるデータ項目の種類と、利用者が要求するリスク予測の精度に応じて、タイヤに故障が発生するリスクの予測に使用されるデータ項目を決定することができる。
【0017】
(11)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(8)から(10)の何れかに記載のリスク予測システムであって、前記データ項目は、前記第2のタイヤのデータに含まれる前記異常による故障の現象により決定されてよい。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、実際に発生している異常による故障の現象に応じて、当該故障の発生に影響を与える故障発生要因に対応したデータ項目を決定することができる。
【0018】
(12)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(8)から(11)の何れかに記載のリスク予測システムであって、前記制御部は、時系列の前記故障発生要因の蓄積量を外挿することにより、前記閾値に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するタイミングを予測することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、タイヤに故障が発生するまでの時間を予測することが可能になる。これにより、第1のタイヤを実際に利用するときの故障発生時期の予測の正確性が高まる。
【0019】
(13)本開示の一実施形態に係るリスク予測システムは、上記(12)に記載のリスク予測システムであって、前記制御部は、前記第1のタイヤのメンテナンス頻度およびメンテナンス計画の少なくとも何れかの情報を含むメンテナンス情報を取得し、該メンテナンス情報とそれぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の前記蓄積量とに基づいて、前記リスクへの対応策を決定し、前記出力部は前記決定された前記対応策を出力することができる。かかる構成を有するリスク予測システムによれば、利用者は出力されたリスクへの対応策を参照して、タイヤに故障が発生するリスクに対処することができる。
【0020】
(14)本開示の一態様に係るリスク予測装置は、車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を取得する取得部と、前記データ項目の測定値の履歴に基づいて、前記それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出し、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する制御部と、前記制御部により予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力する出力部とを備える。本開示の一態様に係るリスク予測装置によれば、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術が改善される。特に、このリスク予測装置では、故障発生要因(例えば、熱劣化によるタイヤ内部の疲労)を定量的に算出できるデータ項目の測定値の履歴に基づいて第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測するので、故障発生要因が蓄積されて発生する故障に対応してリスクを予測し、利用者に提示することができる。
【0021】
(15)本開示の一態様に係るリスク予測方法は、コンピュータが実行するリスク予測方法であって、車両に装着されたそれぞれの第1のタイヤの故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値を取得することと、前記データ項目の測定値の履歴に基づいて、それぞれの前記第1のタイヤの前記故障発生要因の蓄積量を算出することと、該蓄積量に基づいてそれぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測することと、予測された前記リスクに基づいて、それぞれの前記第1のタイヤに故障が発生するリスクを出力することとを含む。本開示の一態様に係るリスク予測方法によれば、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術が改善される。特に、このリスク予測方法では、故障発生要因(例えば、熱劣化によるタイヤ内部の疲労)を定量的に算出できるデータ項目の測定値の履歴に基づいて第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測するので、故障発生要因が蓄積されて発生する故障に対応してリスクを予測し、利用者に提示することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示のリスク予測システム、リスク予測装置、および、リスク予測方法によれば、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術が改善される。特に、このリスク予測システム、リスク予測装置、および、リスク予測方法では、故障発生要因を定量的に算出可能なデータ項目の測定値の履歴に基づいて第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する。これによって、故障発生要因が蓄積されて発生する故障に対応してリスクを予測し、利用者に提示することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係るリスク予測システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図1の記憶部に記憶されるデータの一例を示す図である。
図3図2の過去タイヤデータとして記憶されるデータの内容の一例を説明する図である。
図4】リスクレベルに応じた対応策の一例を示す図である。
図5図1の分析部による閾値の設定方法の一例を示す図である。
図6】閾値を用いて故障が発生するタイミングを予測する方法を説明する図である。
図7】表示部に表示されるタイヤローテーションを含む対応策の一例を示す図である。
図8図1の分析部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図9図1のリスク予測部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
(全体構成)
図1は、本開示の一実施形態に係るリスク予測システム1の概略構成を示す。リスク予測システム1は、車両10と、情報処理装置20と、端末装置30とを含む。リスク予測システム1は、過去に棄却されたタイヤの測定データ、および、車両10から取得した現在使用されているタイヤ13に関する測定データに基づいて、タイヤ13に故障が発生するリスク(以下に「故障発生リスク」ともよぶ)を予測するシステムである。予測したリスクは、例えば、端末装置30の表示部34に表示される。
【0026】
(車両の構成)
車両10は、大型のトラック、車両運搬用の車両、工事用および建設用の特殊車両、並びに、鉱山等の特殊な環境下で使用される車両を含む。車両10は、1輪の車両、バイク(2輪車)、乗用車および/または小型のトラックを含んでもよい。車両10は、特定の利用者が管理する、同一種類の車両を含む。例えば、利用者は大型トラックの管理者であり、車両10は、利用者の管理する大型トラックである。
【0027】
車両10は、車両通信部11、車載センサ12、および、タイヤ13を含む。タイヤ13には、タイヤ内部の測定を行うタイヤセンサ14が配置されている。
【0028】
車両通信部11は、情報処理装置20等の車両10の外部の機器、および、タイヤ13内のタイヤセンサ14等の車両10の内部の機器と通信を行う通信機能を提供する。車両通信部11は、インターネットなどの通信ネットワークに接続する通信モジュールを含む。車両通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。車両通信部11は、例えば有線のLAN規格(一例として1000BASE-T)に対応する通信モジュールを含んでよい。車両通信部11は、例えば無線のLAN規格(一例としてIEEE802.11)に対応する通信モジュールを含んでよい。車両通信部11は、BluetoothおよびBLE等の近距離通信に対応した通信モジュールを含んでよい。
【0029】
車載センサ12は、車両10内に配置されたセンサである。車載センサ12は、環境温度センサ、積載重量センサ、車速センサ、加速度センサ、および、傾斜センサの何れか一つ以上を含んでよい。車載センサ12は、測定部に含まれる。
【0030】
環境温度センサは、車両10の周辺の温度を測定するセンサである。温度の測定には、熱電対を使用するもの、サーミスタを使用するもの等が含まれる。
【0031】
積載重量センサは、車両10に積載される荷重を検出するセンサである。荷重を検出するセンサとしては、例えば、荷重による変形を測定するひずみゲージを用いたものが使用される。積載重量センサは、例えば、車両10のサスペンションに取り付けられ、各タイヤ13に加わる荷重を測定することができる。
【0032】
車速センサは、車両10の走行中の走行速度を検出するセンサである。走行速度を取得するため、従来スピードメータ表示用に車両10で使用されている車速センサからの信号を使用することができる。車両10は、GPS(Global Positioning System)受信機などの位置情報を検出するセンサを有し、位置情報の変化から速度を算出してもよい。
【0033】
加速度センサは、車両10の走行中の加速度を検出するセンサである。加速度センサには、機械的変位測定方式、光学的方式、半導体方式等種々の方式のものが含まれる。半導体方式の加速度センサとしては、ピエゾ抵抗型、静電容量型、ガス温度分布型等種々のタイプの加速度センサが含まれる。
【0034】
傾斜センサは、車両10が走行する道路の勾配すなわち、登り坂または下り坂の別および角度を測定する。傾斜センサには、液面の向き等により傾きを検出するセンサ、ならびに、加速度センサおよびジャイロセンサ等の出力等に基づき傾斜角を検出するセンサが含まれる。
【0035】
車両10は、単一または複数のタイヤ13を装着する。タイヤ13の数は、1以上でよく、例えば6,8、10等とすることができる。ただし、タイヤ13の数は、偶数に限られない。
【0036】
タイヤセンサ14には、タイヤ13の内部の温度を検出する内部温度センサ、および、タイヤ内部の圧力(空気圧)を検出する内圧センサを含んでよい。内圧センサには、ピエゾ抵抗方式のセンサ、および、静電容量方式のセンサを含む公知の任意の圧力センサを採用することができる。内部温度センサおよび内圧センサは、所定の条件(例えば、車速40km以上)の下で所定の時間間隔(例えば、1回/分)でタイヤ13の内部温度および空気圧を時系列で検出してよい。タイヤ内部の温度および空気圧は、タイヤ空気圧監視システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)からの出力を利用することができる。タイヤセンサ14は、測定したデータを、車両通信部11に送信することができる。タイヤセンサ14は、測定部に含まれる。
【0037】
車載センサ12およびタイヤセンサ14で測定されるデータ項目の各測定値は、情報処理装置20における、各タイヤのリスクを予測するために使用される。例えば、タイヤ13の内部の温度のデータは、タイヤの熱劣化による疲労蓄積状況を評価するために使用される。また、加速度のデータはタイヤに加わる力に対応するので、タイヤの歪による疲労蓄積状況を評価するために使用される。なお、タイヤの疲労とは、タイヤが熱および応力等の負荷を繰り返しおよび/または継続的に受けることにより、強度が低下して故障を起こしやすくなることを意味する。
【0038】
車両10は、測定部である車載センサ12およびタイヤセンサ14から取得した各データ項目の測定値を、順次または一定期間蓄積した後情報処理装置20に送信することができる。ここで、データ項目は、環境温度、タイヤ13の内部の温度、タイヤ13の内部の空気圧、車両10の積載重量、車両10の走行速度、車両10の加速度、および、車両10が走行した道路の道路勾配の何れか1つ、または、2つ以上の組合せを含む。車両10は、データ項目の測定値を記憶するための記憶装置を有していてよい。
【0039】
(情報処理装置の構成)
情報処理装置20は、サーバコンピュータ、ワークステーション、および、PC(Personal Computer)等のコンピュータである。情報処理装置20は、通信部21、記憶部22、および、制御部23を含む。情報処理装置20は、リスク予測装置として機能する。
【0040】
通信部21は、情報処理装置20の外部の装置との通信を行う通信機能を提供する。通信部21は、車両通信部11と同様に、インターネットなどの通信ネットワークに接続する通信モジュールを含む。通信部21は、タイヤ13の内部の故障発生要因を定量的に算出できる一つ以上のデータ項目の測定値を取得する取得部として機能する。
【0041】
記憶部22は、1つ以上のメモリを含む。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、または、光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。半導体メモリは、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、および、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含んでよい。磁気メモリは、例えばハードディスクおよび磁気テープ等を含んでよい。光メモリは、例えばCD(Compact Disc)および、DVD(Digital Versatile Disc)、およびBD(Blu-ray(登録商標) Disc)等を含んでよい。
【0042】
記憶部22は、情報処理装置20の制御部23が処理を行うために必要な情報、および、制御部23が処理を行った結果生成された情報等が記憶される。記憶部22には、制御部23を動作させるためのプログラムが記憶されてよい。
【0043】
記憶部22は、制御部23が処理を行うための情報として、例えば図2に示すような、過去タイヤデータ22a、使用中タイヤデータ22b、対応方針データ22c、メンテナンス情報22d、および、閾値データ22eを含んでよい。
【0044】
過去タイヤデータ22aは、過去に棄却されたタイヤのデータを蓄積したデータである。棄却されたタイヤとは、使用を継続することができなくなり使用されなくなったタイヤを意味する。以下に、過去に棄却されたタイヤを第2のタイヤとよぶことがある。過去タイヤデータ22aとしては、利用者から提供されるリスク予測の対象となる種類のタイヤのデータを使用することができる。あるいは、過去タイヤデータ22aは、情報処理装置20が車両10から収集したデータの中から、タイヤ13が棄却された後において抽出されてよい。例えば、図3に示すように、過去タイヤデータ22aでは、正常な寿命による棄却と、異常な故障発生による棄却の2つの原因ごとに、第2のタイヤのデータが、正常棄却データと異常棄却データとに分けて管理されてよい。
【0045】
正常棄却データは、タイヤごとに、測定部で測定されたデータ項目の時系列の履歴データ、および/または、その累積値のデータを含んでよい。異常棄却データは、タイヤごとに、故障の現象と、正常棄却データと同じデータ項目のデータとを含んでよい。故障の現象は、タイヤのどこがどのように故障したかという情報を含む。例えば、故障の現象は、「熱起因によるベルト端部からのセパレーション」、および、「歪によるベルト端部からのセパレーション」等を含む。過去タイヤデータの管理の仕方は、上述のものに限られない。例えば、第2のタイヤのデータ全体がテーブルで管理され、そのテーブルの項目に、正常に棄却されたタイヤまたは異常な故障により棄却されたタイヤの区別、および、故障の現象を示す項目が含まれてよい。
【0046】
使用中タイヤデータ22bは、通信部21を介して複数の車両10から取得した各データ項目の測定値を記憶、蓄積したデータである。使用中タイヤデータ22bは、各タイヤ13と関連付けられて記憶される。すなわち、使用中タイヤデータ22bは、現在使用されているタイヤ13に関するデータである。
【0047】
対応方針データ22cは、タイヤ13に故障が発生するリスクに対する、対応方針を規定するデータである。対応方針データ22cは、利用者の希望に従って規定される。対応方針データは、タイヤ13に故障が発生するリスクが生じたときの対応策(アクション)を規定する。対応方針データの対応方針には例えば以下のものが含まれる。
(1)タイヤの長期利用重視
この方針は、各タイヤ13をできるだけ長期間利用することを重視する。車両10に装着された一部のタイヤの故障発生リスクが高くなった場合、対応策としてタイヤ内部の空気圧調整、および、タイヤに付加が少ないオペレーション行なう。
(2)車両稼働率重視
この方針は、車両10が使用できない間の機会損失を抑制するため車両10を利用し続けることを重視する。したがって、タイヤローテーションは極力実行せず、内圧調整等でリスクの低減を行う。
【0048】
タイヤ13の長期利用重視の対応方針データ22cの一例を図4に示す。この場合、リスクレベルの大きさに応じた対応方針が定義される。図4の場合、タイヤのリスクレベルが大きい場合は、タイヤ交換、または、タイヤへの熱および/または力の負荷が少ないオペレーションへの移行の対応策が採用される。また、リスクレベルが中程度の場合は、空気圧調整が採用される。リスクレベルが小さい場合は、そのままタイヤを継続使用する。対応方針データに含まれる対応策の内容は、タイヤ13に故障が発生するリスクがあるとき、利用者に対して提示されてよい。
【0049】
メンテナンス情報22dは、タイヤ13のメンテナンス頻度および/またはメンテナンス計画の情報を含む。タイヤ13のメンテナンス情報22dは、車両10のメンテナンス情報でもある。メンテナンス頻度は、例えば、車両10の保守設備で車両10を点検および整備する間隔の情報を含む。メンテナンス計画は、次回の車両10の点検および整備を行う日時の情報を含む。これらの情報は、情報処理装置20がタイヤ13の故障発生リスクに対して、とる対応策を決定するのに使用されてよい。
【0050】
閾値データ22eは、故障発生要因の蓄積量に対する閾値を記憶する。閾値データ22eは、制御部23の後述する分析部23aが、過去タイヤデータ22aに基づいて決定した閾値のデータである。故障発生要因は、タイヤに故障を発生させる原因を表す。故障発生要因は、例えば、タイヤ内部の熱劣化による疲労蓄積状況、および、歪による機械的な疲労蓄積状況等を含む。故障発生要因の蓄積量は、タイヤに故障が発生するリスクを評価するための評価指標として使用される。故障発生要因の蓄積量は、後述するように、一つ以上のデータ項目の履歴情報により定量的に算出される。
【0051】
制御部23は、一つ以上のプロセッサを含む。プロセッサは、制御手順を規定したプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等の汎用のプロセッサであってよく、或いは、特定の処理に特化した専用のプロセッサであってもよい。制御部23は、情報処理装置20の各機能を実行するための演算処理を行うとともに、情報処理装置20の各構成部を制御する。制御部23は、図1に示すように、分析部23aとリスク予測部23bとを含んでよい。
【0052】
(分析部の処理)
分析部23aは、記憶部22に記憶される過去タイヤデータ22aに基づいて、故障発生リスクを予測するために使用される故障発生要因の蓄積量に対する閾値を決定する。
【0053】
例えば、分析部23aは、過去タイヤデータ22aの異常棄却データから故障の現象として件数が多いものを抽出する。分析部23aは、故障の現象に対する故障発生要因を特定する。例えば、故障の現象が、「熱起因によるベルト端部からのセパレーション」の場合、故障発生要因は、「熱劣化による疲労の蓄積」を含む。故障の現象と故障発生要因との関係は、予め記憶部22にテーブルとして記憶されていてよい。また、分析対象とする故障の現象とそれに対応する故障発生要因は、ユーザにより決定され、情報処理装置20に入力されてもよい。
【0054】
記憶部22は、故障発生要因の蓄積量を定量的に評価するための、データ項目と数式を予め記憶してよい。例えば、タイヤの熱劣化による疲労蓄積状況が、タイヤ内部の温度を含むデータ項目に依存する場合、記憶部22は、タイヤ内部の温度を含む複数のデータ項目の履歴データから熱劣化による疲労蓄積状況を算出する数式を記憶する。分析部23aは、予め決められた種類のデータ項目を、故障発生リスクの分析に使用することができる。分析部23aが、故障発生要因の蓄積量を定量的に評価するためのデータ項目は、一つに限られず複数のデータ項目であってよい。また、分析部23aは、過去タイヤデータ22aの何れのデータ項目を用いて故障発生要因を評価するかを、各データ項目を用いたときの故障発生リスクの予測の精度に基づいて決定してよい。すなわち、分析部23aは、利用者が求める故障発生リスクの予測精度を、各データ項目を用いたときの故障発生リスクの予測の精度が上回るように、使用する項目を取捨選択してよい。記憶部22は、顧客から入力されるリスク予測の精度に対して、どの範囲のデータ項目を使用すれば要件が満たされるかを示すテーブルを有してよい。あるいは、このようなデータ項目の取捨選択は、情報処理装置20の外部で決定されて、情報処理装置20に入力されてよい。
【0055】
なお、故障発生要因を一つ以上のデータ項目の測定値の履歴から算出する数式は、多数のタイヤのデータを解析して予め得られているものを使用することができる。
【0056】
分析部23aは、正常棄却データに含まれるタイヤのデータ、および、異常棄却データに含まれるタイヤのデータのうち対象とする故障の現象を有するタイヤのデータについて、故障発生要因の蓄積量の分布を比較し、この比較に基づいて閾値を決定して、リスクを予測することができる。
【0057】
一例として、分析部23aは、正常棄却データのタイヤと、対象とする故障の現象を有する異常棄却データとのそれぞれについて、図5のような、故障発生要因の蓄積量をパラメータとする度数分布を作成することができる。図5において白抜きの棒は、正常棄却データのタイヤの度数を示し、黒塗の棒は異常棄却データのタイヤの度数を示す。分析部23aは、正常棄却データのみの故障発生要因の蓄積量と、正常棄却データと異常棄却データとが混在する故障発生要因の蓄積量との境界に、第1の閾値を設定することができる。また、分析部23aは、正常棄却データと異常棄却データとが混在する故障発生要因の蓄積量と、異常棄却データのみ故障発生要因の蓄積量との境界に、第2の閾値を設定することができる。第1の閾値は、故障発生要因の蓄積量がそれ以下の場合、対象とする故障の現象による故障でタイヤが棄却されることはなく、正常な寿命により棄却されると予測される閾値である。第2の閾値は、故障発生要因の蓄積量がこれを超える場合、対象とする故障の現象による故障でタイヤが棄却されると予測される閾値である。また、第1の閾値と第2の閾値との間の故障発生要因の蓄積量は、対象とする故障の現象による故障が発生するか否か不明確なグレーゾーンである。2つの閾値は、故障発生要因の蓄積量を、正常な寿命により棄却される範囲と、正常な寿命による棄却および異常による故障による棄却の何れにも特定できない範囲と、異常による故障により棄却される範囲とに区分する。
【0058】
分析部23aは、決定した第1の閾値と第2の閾値とを、記憶部22の閾値データ22eとして記憶する。なお、分析部23aは閾値を2つ決定する必要はなく、例えば、第1の閾値のみを設定すること、または、第1の閾値と第2の閾値との中間に単一の閾値を決定することができる。また、分析部23aは3つ以上の閾値を設定してもよい。
【0059】
(リスク予測部の処理)
リスク予測部23bは、現在使用されているタイヤ13について収集した使用中タイヤデータ22bと、記憶部22の閾値データ22eに記憶されている閾値とを用いて、タイヤ13の故障発生リスクを予測することができる。リスク予測部23bは、対象とする故障の現象に対応したデータ項目の測定値の履歴に基づいて、それぞれのタイヤ13の内部の故障発生要因の蓄積量を算出する。リスク予測部23bは、故障発生要因の蓄積量に基づいてそれぞれのタイヤ13に故障が発生するリスクを予測する。
【0060】
例えば、故障発生リスクの重要度は、閾値データ22eに記憶された閾値に対する故障発生要因の蓄積量により決定することができる。例えば、リスク予測部23bは、タイヤ13の故障発生要因の蓄積量が閾値の70%以上であれば、故障発生リスク重要度が中程度であると判定してよい。また、リスク予測部23bは、故障発生要因の蓄積量が閾値の90%以上であれば、故障発生リスク重要度が大きいと判定してよい。上記70%および90%等の数値は一例である。リスク予測部23bは、閾値に対する種々の基準を設けて故障発生リスクの大きさを評価することができる。
【0061】
また、例えば、リスク予測部23bは、図6に示すように時系列の故障発生要因の蓄積量を外挿することにより、閾値に基づいて、それぞれのタイヤ13に故障が発生するタイミングを予測することができる。図6の横軸は、タイヤ13の車両装着後の経過時間を示し、縦軸は、故障発生要因の蓄積量を示す。図6において、現在の時刻をTとする。リスク予測部23bは、車両10にタイヤ13を装着後の故障発生要因の蓄積量の変化から、故障発生要因の蓄積量が前述の第1の閾値に達するタイミングT、および、前述の第2の閾値に達するタイミングTを予測する。この場合、リスク予測部23bは、タイミングTとTとの間で、故障が発生すると予測することができる。
【0062】
リスク予測部23bは、故障発生リスクを予測すると、そのリスクの重要度および/または故障が発生すると予測される時期に応じた通知を生成して、端末装置30に送信する。リスク予測部23bは、対応方針データ22cに基づいて、リスクの重要度に応じて採りえる対応策の情報を端末装置30に送信してよい。また、リスク予測部23bは、故障が発生すると予測されるタイミングTおよび/またはTの情報と、メンテナンス情報22dに基づいて、例えば、次回の点検まで待って対応策を実行するか、または、直ぐに対応策を実行すべきかを判定してよい。
【0063】
分析部23aとリスク予測部23bは、同一の情報処理装置20に搭載される必要は無い。例えば、リスク予測システム1は、過去タイヤデータ22aを分析する分析部23aの機能と、現在使用されているタイヤ13に故障が発生するリスクを予測するリスク予測部23bの機能とを異なるハードウェア上に有するものであってもよい。
【0064】
(端末装置の構成)
端末装置30は、PC等のコンピュータおよびスマートフォン等の携帯型の情報端末を含む。端末装置30は、車両10を運行する利用者の事業者の事業所、および/または、現在運行されている車両10内に配置されてよい。端末装置30は、端末通信部31、端末制御部32、端末記憶部33、および、表示部34を含む。
【0065】
端末通信部31は、他の装置との通信機能を提供する。端末通信部31は、インターネットなどの通信ネットワークに接続する通信モジュールを含む。
【0066】
端末制御部32は、情報処理装置20の制御部23と同様に、一つ以上のプロセッサを含む。端末制御部32は、端末通信部31を介して、情報処理装置20からの情報を受取り、その内容を表示部34に表示させることができる。
【0067】
端末記憶部33は、情報処理装置20の記憶部22と同様に、1つ以上のメモリを含む。端末記憶部33は、端末制御部32の処理に使用される情報を記憶してよい。
【0068】
表示部34は、各種情報を表示するディスプレイである。表示部34は、例えば、液晶ディスプレイ、および、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイを含むがこれに限られない。表示部34は、情報処理装置20から受信した通知を、テキスト表示、または、GUI(Graphical User Interface)を用いたグラフィカルな表示により表示することができる。表示部34は、出力部として機能する。
【0069】
端末装置30は、さらに、キーボードおよび/タッチパネルなどの入力デバイスを有しており、情報処理装置20に対して、リスク評価に対して要求する精度、対応方針データおよび/またはメンテナンス情報等を送信できるように構成されてよい。
【0070】
端末装置30の端末制御部32は、端末通信部31を介して情報処理装置20から受信した通知を受けて、車両10に装着されているタイヤ13の故障発生リスクを、表示部34に表示させる。一例として、図7に示すように、端末装置30の表示部34は、車両10のタイヤの位置とリスクとを画像を用いて表示するものであってよい。また、表示部34は、タイヤ13の故障発生リスクに対して採り得る対応策の候補を表示してよい。
【0071】
表示部34は、故障発生リスクの重要度、および/または、故障が発生すると予測されるタイミングに応じて、使用中のタイヤ13の故障発生リスクを、表示する色および/または表示態様を変えることで2以上の段階に分けて段階的に表示することができる。
【0072】
(分析部による過去タイヤデータに基づく閾値決定方法)
以下に、図8のフローチャートを参照して、過去に棄却されたタイヤ(第2のタイヤ)のデータに基づく、使用中のタイヤ13の故障発生リスクを判定するため使用される閾値の決定方法について説明する。
【0073】
まず、情報処理装置20は、過去に棄却された第2のタイヤのデータを取得する(ステップS11)。第2のタイヤのデータは、図3に示したように、正常な寿命により棄却されたタイヤのデータと、異常な故障により棄却されたタイヤのデータとを含む。
【0074】
次に、分析部23aは、分析対象とする故障の現象と当該現象に対応する故障発生要因を決定する(ステップS12)。分析の対象となる故障の現象は、第2のタイヤのデータである過去タイヤデータ22aから、頻度の高い故障の現象を分析部23aが選択してもよく、利用者により情報処理装置20に対して入力されてもよい。故障の現象に対応する故障発生要因は、情報処理装置20の記憶部22内にテーブルとして記憶されていてよく、利用者により情報処理装置20に対して入力されてもよい。
【0075】
分析部23aは、故障発生要因に対応するデータ項目を決定する(ステップS13)。例えば、故障発生要因の蓄積量と特定のデータ項目との関係が、数式として予め記憶部に記憶されていてよい。分析部23aは、利用者の要求するリスク予測の精度に基づいて、複数のデータ項目の中から、故障発生要因の蓄積度に対して影響の大きいデータ項目のみを選択してもよい。
【0076】
分析部23aは、正常な寿命により棄却されたタイヤのデータと、異常な故障により棄却されたタイヤのデータとのそれぞれについて、第2のタイヤのデータ項目の測定値の履歴に基づき、選択された故障発生要因の蓄積量を算出する(ステップS14)。
【0077】
分析部23aは、故障発生要因の蓄積量に基づき、故障により棄却されたタイヤと正常な寿命により棄却されたタイヤとを区別する閾値を決定する(ステップS15)。このようにして決定された閾値は、リスク予測部23bによる使用中のタイヤ13(第1のタイヤ)の故障発生リスクの予測で使用するために、記憶部22の閾値データ22eに記憶される。
【0078】
(リスク予測部によるリスク予測方法)
以下に、図9のフローチャートを参照して、使用中のタイヤ13(第1のタイヤ)に故障が発生するリスクを予測する方法について説明する。
【0079】
まず、情報処理装置20は、利用者の対応方針データ22cおよびメンテナンス情報22dを予め取得する(ステップS21)。
【0080】
リスク予測部23bは、それぞれのタイヤ13(第1のタイヤ)について、対象とする故障の現象に関連する特定のデータ項目の測定値のデータを、車両10から順次取得する(ステップS22)。
【0081】
リスク予測部23bは、取得したデータ項目の測定値を記憶部22の使用中タイヤデータ22bとして蓄積する(ステップS23)。使用中タイヤデータ22bは、現在使用中の車両10の特定のデータ項目の測定値が時系列で記録されてよい。
【0082】
リスク予測部23bは、順次更新された使用中タイヤデータ22bの各タイヤの特定のデータ項目の履歴に基づいて、それぞれの第1のタイヤの故障発生要因の蓄積量を算出する(ステップS24)。
【0083】
分析部23aは、ステップS24で算出した故障発生要因の蓄積量を、図8のステップS15において決定された閾値と比較し、それぞれの第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測する(ステップS25)。予測されるリスクは、リスクの重要度および/または故障が発生すると予測されるタイミングの情報を含んでよい。
【0084】
分析部23aは、リスクの重要度および/または故障が発生すると予測されるタイミングの情報、対応方針データ22cおよびメンテナンス情報に基づき対応策を決定する(ステップS26)。
【0085】
分析部2abは、出力部にそれぞれの第1のタイヤに故障が発生するリスクおよび対応策を提示させる(ステップS27)。例えば、分析部23aは、通信部21を介して端末装置30に予測されたリスク、および、対応策の情報を送信し、これにより、端末装置30の表示部34に、それぞれの第1のタイヤに故障が発生するリスクおよび対応策を表示させる。
【0086】
上記実施形態で、制御部23は、車両10にタイヤ13を装着した時点から現在までの全期間の故障発生要因の蓄積量に基づいて、タイヤ13の故障発生リスクを予測した。しかし、制御部23は、所定期間の故障発生要因の蓄積量に基づいて、タイヤ13に故障が発生するリスクを予測してもよい。所定期間は、故障発生要因の種類等に応じて決定されてよい。所定期間は、例えば、現在から遡って3日間、1週間または1カ月間とすることができる。
【0087】
以上説明したように、本開示の実施形態のリスク予測システム1によれば、タイヤに故障が発生するリスクを予測する技術を改善することができる。特に、本リスク予測システム1によれば、故障発生要因を定量的に示すデータ項目の測定値の履歴に基づいて第1のタイヤに故障が発生するリスクを予測することができる。これによって、故障発生要因が蓄積されて発生する故障に対応してリスクを予測し、利用者に提示することが可能になる。
【0088】
また、リスク予測システム1は、タイヤ13に故障が発生するリスクの重要度および故障が発生するタイミングを予測することにより、リスクを2以上の段階に分けて段階的に利用者に提示する。これにより、利用者は、リスクの状況を把握して必要かつ十分な対応を取ることが可能になる。
【0089】
さらに、リスク予測システム1は、リスク予測を必要とする利用者から、過去に棄却されたタイヤのデータを取得するので、予測対象のタイヤのターゲットを絞った分析を行うことができる。
【0090】
また、リスク予測システム1は、利用者から対応方針データ22cおよびメンテナンス情報22dを取得するので、利用者の対応方針およびメンテナンスの時期等に対応した対応策を提示することが可能になる。
【0091】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0092】
例えば、情報処理装置20における過去の棄却された車両の情報を分析する制御部23の分析部23a、および、記憶部22の過去タイヤデータ22aは、情報処理装置20とは別のハードウェア上に配置されてよい。この場合、当該別のハードウェアで決定された閾値が、情報処理装置20に受け渡される。また、上記実施形態では、端末装置30の表示部34を出力部としたが、出力部は情報処理装置20に接続されたプリンタであってもよい。この場合、プリンタにより例えばリスト形式で出力されたタイヤ13の故障発生リスクが、利用者に受け渡されてよい。さらに、情報処理装置20と端末装置30とは、同一のハードウェア上に実装されてもよい。
【0093】
本開示に係る実施形態について装置を中心に説明してきたが、本開示に係る実施形態は装置の各構成部が実行するステップを含む方法としても実現し得るものである。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行される方法、プログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0094】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.12_つくる責任、つかう責任」および「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0095】
1 リスク予測システム
10 車両
11 車載通信部
12 車載センサ(測定部)
13 タイヤ(第1のタイヤ)
14 タイヤセンサ(測定部)
20 情報処理装置(リスク予測装置)
21 通信部(取得部)
22 記憶部
22a 過去タイヤデータ
22b 使用中タイヤデータ
22c 対応方針データ
22d メンテナンス情報
23 制御部
23a 分析部
23b リスク予測部
30 端末装置
31 端末通信部
32 端末記憶部
33 表示部(出力部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9