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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171797
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】光源装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/023 20210101AFI20241205BHJP
   H01S 5/024 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20241205BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20241205BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20241205BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01S5/023
H01S5/024
B22F7/00 Z
C22C1/05 Z
C22C1/10 E
H01L23/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089014
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594043122
【氏名又は名称】株式会社アカネ
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯨岡 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正文
(72)【発明者】
【氏名】稲森 太
(72)【発明者】
【氏名】砂本 健市
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
5F136
5F173
【Fターム(参考)】
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA02
4K018BC08
4K018BC13
4K018CA02
4K018CA16
4K018DA32
4K018EA21
4K018KA32
4K018KA70
4K020AA24
4K020AC04
4K020BA08
4K020BB29
5F136BC07
5F136DA34
5F136FA03
5F136FA23
5F173MC01
5F173MC12
5F173MD07
5F173MD84
5F173ME22
(57)【要約】
【課題】従来のサブマウント材料よりも高い熱伝導率を有する黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントを備える、優れた放熱性を有する光源装置を提供する。
【解決手段】ヒートシンクと、前記ヒートシンクの主面に設けられたサブマウントと、前記サブマウントに接合された半導体レーザ素子とを備える光源装置であって、前記サブマウントは、積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体である黒鉛と銅層とを含み、銅の体積分率が3~30%の黒鉛-銅複合材料を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシンクと、
前記ヒートシンクの主面に設けられたサブマウントと、
前記サブマウントに接合された半導体レーザ素子とを備える光源装置であって、
前記サブマウントは、
積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体である黒鉛と銅層とを含み、
銅の体積分率が3~30%の黒鉛-銅複合材料を含む
ことを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記黒鉛-銅複合材料における前記鱗片状黒鉛粒子の積層方向は、前記ヒートシンクの主面に対して垂直方向である請求項1記載の光源装置。
【請求項3】
前記サブマウントは、0.1mm以上0.5mm以下の厚さを有する請求項1または2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記半導体レーザ素子は、出力が3ワット以上である請求項1または2に記載の光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子を備えた光源装置は様々な産業分野で用いられている。特に、高出力の半導体レーザ素子を備えた光源装置の実現が期待されている。しかし、高出力の半導体レーザ素子を備えた光源装置は、半導体レーザ素子とサブマウントとの熱膨張係数の違いにより、これらの界面に熱応力が発生するため、半導体レーザ素子等の破損や光源装置の信頼性に問題が生じることがある。
【0003】
そのため従来から、半導体レーザ素子を搭載するサブマウント材料には、熱応力を緩和するための工夫がなされている。たとえば、半導体レーザ素子の主材料が窒化物半導体(GaN、InGaN、AlGaN等)である場合、サブマウントの材料として、熱膨張係数が窒化物半導体と近い銅-タングステン(CuW)合金、銅-モリブデン(CuMo)合金を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、セラミック材料からなるサブマウントと、CVDダイヤモンドからなるサブマウントとを基体上に順次設け、その上に半導体レーザ素子を配置することによって、発光効率および信頼性を高めた光源装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、1軸通電加圧焼結または加圧焼結等で作製した銅-黒鉛複合板材の場合、半導体レーザ素子との熱膨張係数を合わせるためには、銅-黒鉛複合板材を2層以上に積層する必要があった(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2021/166511号
【特許文献2】特開2019-117880号公報
【特許文献3】特開2023-056481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の半導体レーザ素子を備えた光源装置においては、半導体レーザ素子の高出力化が求められており、高出力の半導体レーザ素子は、従来の半導体レーザ素子よりも高い温度に加熱されるため、高出力の半導体レーザ素子を搭載するサブマウントにおいては、熱応力の緩和に加えて、高い放熱性に対する要求が高まっている。
そこで、本発明は、従来のサブマウント材料よりも高い熱伝導率を有する黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントを備える、優れた放熱性を有する光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体である黒鉛と銅層とを含み、銅の体積分率が3~30%の黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントを用いることによって、既存材料より高い放熱性を有する光源装置が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒートシンクと、前記ヒートシンクの主面に設けられたサブマウントと、前記サブマウントに接合された半導体レーザ素子とを備える光源装置であって、前記サブマウントは、積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体である黒鉛と銅層とを含み、銅の体積分率が3~30%の黒鉛-銅複合材料を含むことを特徴とする光源装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のサブマウント材料よりも高い熱伝導率を有する黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントを備える、優れた放熱性を有する光源装置を提供することができる。また、本発明の光源装置は、優れた放熱性を有するサブマウントを備えることにより、高出力の半導体レーザ素子を備えた光源装置の実現や光源装置の小型化も可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の光源装置を示す模式図である。
図2図1に示す光源装置の半導体レーザユニットの概略構成を拡大して示した図であり、本発明に係る半導体レーザユニットの1つの例を示す側面図である。図2(a)はXZ面の模式図、図2(b)はYZ面の模式図である。
図3】本発明に係る半導体レーザユニットの1つの例を示す側面図である。図3(a)はXZ面の模式図、図3(b)はYZ面の模式図である。
図4】黒鉛粒子の薄層方法の一例を説明する図である。
図5】黒鉛粒子の薄層方法の他の例を説明する図である。
図6】多軸通電焼結装置を説明する模式図である。
図7】サブマウントとして黒鉛-銅複合材料を用いた実施例の光源装置の熱解析結果である。
図8】サブマウントとしてCuWを用いた比較例の光源装置の熱解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する光源装置は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0013】
<光源装置>
本発明の光源装置は、少なくともヒートシンク、サブマウント、および半導体レーザ素子を備えており、その構造は特に限定されないが、例えば、TO-Canパッケージ型、面実装型等が挙げられる。
【0014】
図1は、本発明の光源装置の模式図の一例である。本実施形態に係る光源装置10は、筐体(ケース)60および窓部材66で構成されたパッケージを有する。このパッケージの中の筐体(ケース)60上に、半導体レーザ素子18を有する半導体レーザユニット11および光学部品62が実装されている。半導体レーザ素子18は、図示しない接合部16aおよび16bにより、サブマウント14aおよび14bに接合されている。半導体レーザ素子18上の第2のサブマウント14bは、応力緩和層としても作用する。
【0015】
なお、図1は、光源装置の構造を一部省略して図示したものであり、本発明の光源装置は、各部の形状、位置、配置関係、寸法等はこれらに限定されない。例えば、半導体レーザ素子が複数の光共振器を有する半導体レーザアレイのような構造を有する光源装置を採用することもできる。また、図1に示した半導体レーザユニット11を用いて、半導体レーザスタックを構成してもよい。この場合には、例えばシリコーン樹脂からなるスペーサーを介してヒートシンクを積層することによって、半導体レーザスタックを得ることができる。スペーサーの厚さは、半導体レーザユニットの構成等に応じて適宜選択することができ、例えば0.01mm程度である。
【0016】
後述するように、半導体レーザユニット11は、ヒートシンク12と、ヒートシンク12の主面上に設置されたサブマウント14aと、サブマウント14a上に接合された半導体レーザ素子18と、任意で半導体レーザ素子18上に接合されたサブマウント14bとを備える。
ここで、ヒートシンクの主面とは、ヒートシンクが半導体レーザ素子からの熱を受け取る面のことであり、本発明の各図におけるXY平面のうち、ヒートシンクがサブマウントと接合している面を示す。一方、本発明の各図におけるXY平面のうち、ヒートシンクがサブマウントと接合していない面のことを、ヒートシンクの裏面という。
【0017】
筐体(ケース)60における半導体レーザ素子18の出射側に、光学部品62および透光性を有する窓部材66が取り付けられている。これにより、半導体レーザ素子18からの出射光が窓部材66を透過して、光源装置10の外部へ出射されるようになっている。
【0018】
筐体(ケース)60を形成する材料は、特に限定されないが、例えば金属等である。筐体(ケース)60は、例えば基体および端子保持部材(外周壁)等の複数の部材でパッケージを構成してもよい。
【0019】
光学部品62は、例えばレンズとすることができ、半導体レーザ素子18が射出したレーザ光64の配光を制御して透過する。レーザ光64は窓部材66を介して出射される。
窓部材66を形成する材料は透光性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、公知のガラス材料や樹脂材料等が挙げられる。
【0020】
<半導体レーザユニット>
本発明に関する半導体レーザユニットとは、ヒートシンクと、サブマウントと、半導体レーザ素子とを含むものをいい、本発明の光源装置の主構成を成すものである。
【0021】
図2に示す1つの実施形態に係る半導体レーザユニットでは、半導体レーザユニット11Aは、ヒートシンク12と、ヒートシンク12の主面上に設置されたサブマウント14aと、第1の接合部16aを介して、サブマウント14a上に接合された半導体レーザ素子18と、第2の接合部16bを介して、半導体レーザ素子18上に接合されたサブマウント14bとを備える。
また、図3に示す1つの実施形態に係る半導体レーザユニットでは、半導体レーザユニット11Bは、ヒートシンク12と、ヒートシンク12の主面上に設置されたサブマウント14と、接合部16を介して、サブマウント14上に接合された半導体レーザ素子18とを備える。
なお、図2(a)および図3(a)はXZ面の模式図であり、図2(b)および図3(b)はYZ面の模式図である。
【0022】
<サブマウント>
サブマウント14は、例えば、光源装置10において、半導体レーザ素子18から発生される熱をヒートシンク12側に効率よく伝達するために、半導体レーザ素子18とヒートシンク12との間に設けられる。
サブマウント14の厚さは、放熱性および光源装置の小型化等の観点から、0.05mm以上2.0mm以下が好ましく、0.07mm以上がより好ましく、0.1mm以上がさらに好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。サブマウント14の形状は、立方体、直方体および円柱状等の板状、階段状ならびにスロープ状等とすることができ、複数の形状を組み合わせたものとしてもよい。
【0023】
サブマウント14は、接合面の熱抵抗の観点から、表面粗さが小さい平滑な面であることが好ましく、その表面粗さ(Ra)は1μm以下が好ましく、更に好ましくは、0.5μm以下である。表面粗さが1μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を有するサブマウントを得ることができる。
【0024】
サブマウント14の材料としては、後述する黒鉛-銅複合材料を含む。本発明の光源装置におけるサブマウントは、黒鉛-銅複合材料を用いて、公知の方法にて所定の厚さに成形した放熱板を使用する。なお、前記放熱板は、黒鉛-銅複合材料を、Ni、Au、Ag等を用いて公知の方法でめっき処理を行ったものを含む。
【0025】
<ヒートシンク>
本発明に関するヒートシンクとは、吸収した熱を空気中に発散(放熱)することで冷却を行う部材である。
【0026】
ヒートシンク12を形成する材料としては、熱伝導率の高い材料が好ましく、銅、銅合金、黒鉛-銅複合材料等が挙げられる。さらに、アルミ材料、ステンレス材料等の銅以外の金属材料を用いることもできる。ヒートシンク12の形状は、立方体、直方体および円柱状等の板状、階段状、スロープ状ならびにフィン形状等とすることができ、複数の形状を組み合わせたものとしてもよく、内部に流体通路が形成された形状とすることもできる。ヒートシンク12の厚さは、材料や構造に応じて適宜選択することができるが、通常0.5mm以上5.0mm以下程度である。
【0027】
<半導体レーザ素子>
本発明に関する半導体レーザ素子とは、要するに、半導体を素材とした回路素子に電流を流されることでレーザ発振させる素子であって、その結果、光を発するものをいう。
【0028】
半導体レーザ素子18としては、特に限定されないが、窒化物半導体レーザ素子、GaAs系の半導体レーザ素子、InP系の半導体レーザ素子等を例示することができる。出射光の波長としては、紫外光域から赤色光域および赤外光域の波長域を例示できるが、これに限られるものではなく、用途に応じて、任意の波長域の半導体レーザ素子を採用することができる。半導体レーザ素子18の出力は、用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、3ワット以上が好ましい。半導体レーザ素子18の出力は、より好ましくは5ワット以上であり、さらに好ましくは10ワット以上であり、さらにより好ましくは15ワット以上である。
【0029】
半導体レーザ素子18には、図示しない絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、例えばSiO等から製造される。また、サブマウント14a、14bおよびヒートシンク12には、半導体レーザ素子18と電気的に接続する金属配線が形成されていてもよい。例えば、当該金属配線および筐体(ケース)60に形成された図示しない配線等を介して電力が供給されることで、半導体レーザ素子18が発光する。
【0030】
<接合部>
任意で設けてもよい本発明に関する接合部とは、光源装置を構成する2つ以上の部材を接合するためのものをいう。
【0031】
本発明の1つの実施形態に係る光源装置は、接合部16(16a)を介して、サブマウント14(14a)上に接合された半導体レーザ素子18を備える。また、本発明の1つの実施形態に係る光源装置では、第2の接合部16bを介して、半導体レーザ素子18上に接合されたサブマウント14bを備える。
接合部16(16a、16b)としては、通常はんだが用いられる。はんだとしては、例えば、融点の異なるAu-Sn共晶はんだ、Sn-Ag-Cuはんだ、Sn-Biはんだ等のはんだ材、およびAgナノ粒子、Cuナノ粒子、Auナノ粒子等のナノ粒子材等を用いることができる。また、サブマウント14とヒートシンク12との接合のためにはんだ等を用いてもよい。
【0032】
<黒鉛-銅複合材料>
本発明の光源装置におけるサブマウントの材料として用いられる黒鉛-銅複合材料について、以下に詳細に説明する。
【0033】
本発明における黒鉛-銅複合材料(以下、単に複合材料とも称する)は、鱗片状黒鉛粒子と銅粒子とを原料として得られた焼結体であり、積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体からなる黒鉛と銅層とを含む。鱗片状黒鉛粒子は、銅層を介して積層されている。「銅層を介して」とは、黒鉛または鱗片状黒鉛粒子が隣接する銅層により繋がっていることを意味する。複合材料内における黒鉛および鱗片状黒鉛粒子は、いずれも電気的に連続している。熱伝導率の高い黒鉛が連続していることにより、複合材料は高い熱伝導率を有する。
【0034】
複合材料内においては、銅層が三次元的に連続していることが好ましい。三次元的に連続しているとは、複合材料内の三次元空間において、銅層が途切れなく続いて存在する連続相であることをいう。三次元的に連続した銅層は、電子顕微鏡等により確認することができる。銅層が三次元的に連続していることによって、銅層が三次元的に連続しない、いわゆる積層構造を持つ黒鉛-銅複合材料と比べて積層方向への熱伝導性が高くなるという効果が得られる。別の観点では、本複合材料は、黒鉛と銅層とが、相互に、不規則に入り組んでいるということもできる。
【0035】
複合材料における銅の体積分率は、3~30%である。熱伝導率の高い黒鉛を、70~97%という高い体積分率で含有しているので、複合材料は非常に高い熱伝導率を示す。750W/(m・K)以上の高熱伝導率と良好な加工性を確保するためには、体積比(黒鉛:銅)は、82:18~95:5がより好ましい。複合材料における銅の体積分率は、製造する際の原料の配合割合によって調整することができる。
【0036】
<黒鉛-銅複合材料の製造方法>
複合材料は、黒鉛粒子に前処理を施して所望の鱗片状黒鉛粒子を得、銅粒子と混合して成形原料とし、これを成形して所定条件で焼結して製造することができる。各工程について、以下に説明する。
【0037】
(黒鉛前処理)
黒鉛粒子の前処理(以下、薄層化と称することがある)は、黒鉛粒子にせん断力を付与して厚みを低減することにより行われる。用いる黒鉛粒子は特に限定されないが、一般的には長辺が10~2000μm程度、厚みが20~200μm程度である。使用し得る黒鉛としては、例えば、「+3299」(伊藤黒鉛工業(株)製)等が挙げられる。
【0038】
前処理に当たっては、例えば、図4に示すように、黒鉛粒子23が載置される篩21と、黒鉛粒子23に当接して水平方向に往復移動可能な砥石22とを用いることができる。使用する篩21の目開きに応じて、得られる鱗片状黒鉛粒子の長辺の長さを選択することができる。篩21の目開きは、例えば53μm程度とすることができる。砥石22としては、荒砥石~中砥石が好ましく、砥粒としてアランダムや天然ダイヤを用いたものが好ましい。篩21上に黒鉛粒子23を配置し、砥石22を水平方向に往復移動させて、せん断力を付与することにより、黒鉛粒子23の厚みを低減する。
【0039】
せん断力により内部に空洞が生じたものや、脆くて容易に崩れてしまうものは、篩21により除去される。その結果、得られる鱗片状黒鉛粒子の厚みを薄くし、密度が高められる。さらに、黒鉛粒子中の不純物が除去されて、純度の向上にもつながる。なお、処理に用いる砥粒のサイズや篩の目開きを変更することによって、種々のサイズの鱗片状黒鉛粒子を得ることができる。例えば、目開きが53μmの篩21を用いた場合には、長辺が60μm以上の鱗片状黒鉛粒子が得られる。
【0040】
黒鉛粒子の前処理には、図5に示すように2つの砥石30a、30bを用いることもできる。砥石30bは回転可能な回転砥石である。砥石30a,30bは、金属板31a,31bをそれぞれ有し、対向する面に、ダイヤモンド等の砥粒33a,33bが設けられている。砥粒33a,33bは、メッキ等の接合金属部材32a,32bにより固定され、処理対象となる黒鉛粒子23が、砥粒33a,33bの間に配置される。砥石30a,30bを用いて黒鉛粒子13に前処理を施した場合には、比較的小さく薄い鱗片状黒鉛粒子を、効率良く得ることができる。
【0041】
前処理によって得られる鱗片状黒鉛粒子の厚みは、例えば50μm以下である。ここで示す厚みは、前処理後の鱗片状黒鉛粒子50個の厚みの平均値である。鱗片状黒鉛粒子は複数の黒鉛片が重なった構造をもつ。鱗片状黒鉛粒子の厚みが小さいほど黒鉛粒子内の黒鉛片間の隙間が低減されて、熱伝導率および機械的特性が良好となる。鱗片状黒鉛粒子の厚みは、用いる黒鉛粒子および前処理の条件等によって調整することができる。
鱗片状黒鉛粒子の厚みが小さいほど、具体的には30μm以下の場合には、より高い熱伝導率と良好な加工性をもつ複合材料を得ることができる。
【0042】
(銅粒子の準備)
銅粒子は特に規定されず、例えば、体積基準のメジアン径が1.5μm以下の銅粒子を用いることができる。銅粒子のメジアン径は、1.0μm以下であることが好ましい。メジアン径が1.5μm以下の小さい銅粒子を用いた場合には、安定した熱伝導率や加工性の複合材料を得ることができる。銅粒子は、任意の方法により製造することができる。例えば、化学還元法や物理的製法によって、所望の銅粒子が得られる。
【0043】
(混合)
前処理を施して得られた鱗片状黒鉛粒子と銅粒子とを所定の割合で配合し、有機溶媒により湿式混合を行って成形原料を得る。原料の配合割合は、複合材料における黒鉛と銅との体積比、黒鉛:銅が、70:30~97:3となるように選択することが望まれ、熱伝導率と加工性の観点から、特に、82:18~95:5となるように選択することが好ましい。好適な有機溶媒としては、具体的にはトルエンやキシレンが挙げられる。
【0044】
(焼結)
まず、少量(40g以下程度)の成形原料を所定の成形型に充填して、例えば油圧ハンドプレスを用いて3MPa以上15MPa以下の圧力で圧粉する。成形型としては、例えば直径30mmのSUS製型を用いることができる。成形原料の充填と圧粉とを繰り返して、所望の大きさの成形体を作製する。得られた成形体を、多軸通電焼結法により焼結することで、目的の複合材料となる焼結体が得られる。
【0045】
ここで、図6を参照して、多軸通電焼結装置の概略を説明する。図6に示す多軸通電焼結装置40は、成形体が収容されたカーボン製型44を、上下方向の加圧軸45a、45bと、水平方向の加熱軸(A)47a,47bおよび加熱軸(B)49a,49bとで真空容器42内に固定することができる。加熱軸(A)47a,47bと加熱軸(B)49a,49bとは、交互に通電できるように構成されている。加熱軸(A)は、矢印x1,x2の方向に通電され、加熱軸(B)は、矢印y1,y2の方向に通電される。
【0046】
多軸通電焼結装置40においては、加圧軸45a,45bと加熱軸47a,47b,49a,49bとが分離されている。具体的には、加圧軸45a,45bはz軸方向にあり、加熱軸(A)47a,47bはx軸方向、加熱軸(B)49a,49bはy軸方向にある。これにより、加圧と加熱とを独立して制御することが可能となることから、焼結部分の径方向において均一な温度分布が得られる。
【0047】
焼結にあたっては、成形体が収容されたカーボン製型44を真空容器42内に固定した後、真空容器42内を100Pa以下、装置内の部品の酸化劣化を抑制するために、好ましくは50Pa以下まで減圧する。次いで、上下方向の加圧軸45a、45bにより矢印z1方向および矢印z2方向に10MPaまで加圧しながら、加熱軸(A)47a,47bに通電して、650℃以上750℃以下、好ましくは670℃以上730℃以下に加熱する。
【0048】
その後、加熱軸(B)49a,49bに切り替えて、930℃以上980℃以下、好ましくは940℃以上970℃以下に加熱する。さらに、上下方向の加圧軸45a、45bにより矢印z1方向および矢印z2方向に加圧する。この際の圧力は、10MPa以上、100MPa以下が好ましく、30MPa以上50MPa以下がより好ましい。
【0049】
多軸通電焼結法により均一な温度分布で焼結されるので、安定した品質の複合材料を製造することができる。しかも、前処理を施して得られた所定の鱗片状黒鉛粒子と銅粒子とを原料として用いて製造されるので、得られる複合材料は、より高く安定した熱伝導率を有し、より高く安定した曲げ強度、より低い熱膨張係数も備えたものとなる。
【0050】
<光源装置の製造方法>
本発明の光源装置を製造するにあたっては、例えば、以下のような手順で組立が行われる。まず、黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントをヒートシンクの主面にはんだ等を用いて接合する。次に、はんだ等を用いて、半導体レーザ素子をサブマウントに接合することで、本発明の光源装置を得ることができる。
【0051】
本発明の光源装置は、放熱性を高める観点から、サブマウントに用いられる黒鉛-銅複合材料の、鱗片状黒鉛粒子の積層方向が、ヒートシンクの主面に対して垂直となるように黒鉛-銅複合材料を配置することが好ましい。
【0052】
積層された鱗片状黒鉛粒子の集合体からなる黒鉛と銅層とを含み、銅の体積分率が3~30%の黒鉛-銅複合材料は、高い熱伝導率を備えている。本発明の光源装置は、このような黒鉛-銅複合材料を含むサブマウントを備えているため、既存材料を用いた光源装置に比べ、放熱性を向上させることができる。
【0053】
<その他の実施形態に係る光源装置>
本発明の光源装置は、上記で説明した実施の形態、実施の態様に限定されず、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【実施例0054】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0055】
黒鉛-銅複合材料(CuC)をサブマウントとして用いた光源装置(実施例)、および従来のCuWをサブマウントとして用いた光源装置(比較例)を想定し、熱解析を行った。
【0056】
想定した光源装置の半導体レーザユニットを、図2に示す。図2(a)はXZ面の模式図であり、図2(b)はYZ面の模式図である。半導体レーザユニット11においては、ヒートシンク12上に、第1のサブマウント14a、第1の接合部16a、半導体レーザ素子18、第2の接合部16b、および第2のサブマウント14bが設けられている。
【0057】
熱解析モデルとしては、以下を想定した。
ヒートシンク12:サイズ(xyz)20mm×10mm×4mm
サブマウント14a(14b):サイズ(xyz)11mm×1mm×0.4mm
接合部16a(16b):サイズ(xyz)11mm×1mm×0.01mm
半導体レーザ素子18:サイズ(xyz)11mm×1mm×0.12mm
【0058】
半導体レーザ素子18の材料はGaAsとし、接合部16a(16b)の材料はAuSnとした。ヒートシンク12の材料はCuとし、熱伝導率は390W/m・Kの値を使用した。
なお、半導体レーザ素子18の発熱量は25Wとし、ヒートシンク12の裏面は図示しない水冷ブロック等により冷却されるものと想定して計算した。
【0059】
サブマウント想定材料(CuCおよびCuW)の熱伝導率は、下記表1に示す値を使用した。ここで、表1におけるX軸およびZ軸は、鱗片状黒鉛粒子の積層方向が、ヒートシンクの主面に対して垂直となる方向であり、Y軸は、鱗片状黒鉛粒子の積層方向が、ヒートシンクの主面に対して平行となる方向である。
【0060】
【表1】
【0061】
図7には、サブマウントとして黒鉛-銅複合材料を用いた実施例の光源装置についての熱解析結果であり、図7(a)は全体図、図7(b)は半導体レーザ素子近傍拡大図である。
図8は、サブマウントとしてCuWを用いた比較例の光源装置についての熱解析結果であり、図8(a)は全体図、図8(b)は半導体レーザ素子近傍拡大図である。
【0062】
サブマウントとしてCuCを用いた実施例の光源装置では、半導体レーザ素子の最大温度は59.3℃であった。これに対し、サブマウントとしてCuWを用いた比較例の光源装置では、半導体レーザ素子の最大温度は63.2℃と高い値を示した。サブマウントとして黒鉛-銅複合材料を用いることによって、既存の材料より放熱特性の優れた光源装置が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光源装置は、加工用光源、プロジェクタ、液晶のバックライト用光源、照明用光源、各種インジケータ用光源、車載用光源、ディスプレイ用光源、信号機等、種々の光デバイスの光源部材、高出力レーザのデバイス等として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…光源装置 11…半導体レーザユニット 11A…半導体レーザユニット
11B…半導体レーザユニット 12…ヒートシンク 14…サブマウント
14a…第1のサブマウント 14b…第2のサブマウント 16…接合部
16a…第1の接合部 16b…第2の接合部 18…半導体レーザ素子
21…篩 22…砥石 23…黒鉛粒子 30a,30b…砥石
31a,31b…金属板 32a,32b…接合用金属部材 33a,33b…砥粒
40…多軸通電焼結装置 42…真空容器 44…カーボン製型
45a,45b…加圧軸 47a,47b…加熱軸 49a,49b…加熱軸
60…筐体(ケース) 62…光学部品 64…レーザ光 66…窓部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8