(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017180
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】溶鋼の真空脱ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/10 20060101AFI20240201BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C21C7/10 Z
C21C7/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119660
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将
(72)【発明者】
【氏名】中江 太一
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA09
4K013EA01
4K013EA02
4K013FA02
4K013FA04
(57)【要約】
【課題】酸素Oや炭素Cが豊富に存在する溶鋼に対して、効率的な脱水素処理と突沸抑制の両立が図れる溶鋼の真空脱ガス処理方法を提供する。
【解決手段】取鍋内の溶鋼の真空脱ガス処理方法であり、真空脱ガス処理を行う溶鋼を収容する取鍋には、FeO、Fe
2O
3、及び、MnOを溶鋼1トンあたり0.4kg~2.0kg含み、かつ、CaO換算で溶鋼1トンあたり1.0kg~10kgのスラグが存在し、溶鋼は、0.4質量%以上の炭素を含み、フリー酸素濃度が30ppm~150ppmであり、真空脱ガス処理を行う際の大気圧から0.13kPaまでの減圧過程で、20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3分以上とし、0.13kPa以下での脱ガス処理後に大気圧まで復圧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋内の溶鋼の真空脱ガス処理方法において、
真空脱ガス処理を行う前記溶鋼を収容する前記取鍋には、FeO、Fe2O3、及び、MnOを溶鋼1トンあたり0.4kg以上2.0kg以下含み、かつ、CaO換算で溶鋼1トンあたり1.0kg以上10kg以下のスラグが存在し、前記溶鋼は、0.4質量%以上の炭素を含み、フリー酸素濃度が30ppm以上150ppm以下であり、
前記真空脱ガス処理を行う際の大気圧から0.13kPaまでの減圧過程で、20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3分以上とし、0.13kPa以下での脱ガス処理後に大気圧まで復圧することを特徴とする溶鋼の真空脱ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼、特に高炭素溶鋼の真空脱ガス精錬に係る真空脱ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空脱ガス精錬は、溶鋼中の炭素や水素をガス化して除去する精錬であり、用途に応じて処理する工程である。
ここで、例えば炭素は、溶鋼中の炭素Cと、溶鋼中の酸素O(介在物となっていない溶鋼に溶存している酸素。以下、フリー酸素とも記載)及びFeO、Fe2O3、MnO(スラグ中の低級酸化物)の酸素Oとが反応してCOとなり、溶鋼外へ排出されて溶鋼中のC濃度が低下する。水素Hは、溶鋼中の溶存H同士が反応してH2となり、溶鋼外へ排出されるが、当該反応はCOが生成する圧力よりも低い圧力で起こるため、脱水素処理(脱H処理)する際は脱炭素処理(脱C処理)も起きる。
【0003】
このため、脱水素処理する際は不可避的にCOが生成するが、突如多量のCOが発生する場合があり、当該事象を突沸と称する場合がある。突沸は、溶鋼の飛散を招くため発生を防止する必要がある。
また、脱水素処理は、例えば雰囲気圧力が0.13kPa(1torr)程度かこれ以下で行う必要があり、突沸を回避しながら処理を行う必要がある。
例えば、特許文献1には、転炉出鋼時の成分から突沸発生の目安となる基準CO分圧を定め、真空脱ガス処理においては、真空度(雰囲気ガス圧力)の調整により、脱ガス処理時のCO分圧と基準CO分圧の比率を所定の値以下に制御して突沸を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1記載の方法により、一定レベルの突沸は抑制することができる。
しかし、例えば、弱脱酸(例えば、フリー酸素濃度が30ppm以上150ppm以下)であり、低級酸化物を所定量含むスラグが存在する溶鋼のように、溶鋼中のOや溶鋼上のスラグのO濃度がある程度高い溶鋼であって、しかも、溶鋼中の炭素C濃度が0.4質量%以上のような高炭素溶鋼である場合、酸素Oや炭素Cが豊富に存在するため突沸が発生し易い。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、酸素Oや炭素Cが豊富に存在する溶鋼に対して、効率的な脱水素処理と突沸抑制の両立が図れる溶鋼の真空脱ガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した通り、特許文献1記載の方法では、0.4質量%以上の炭素を含む弱脱酸溶鋼であって、FeO、Fe2O3、及び、MnOを溶鋼1トンあたり0.4kg以上2.0kg以下含み、かつ、CaO換算で溶鋼1トンあたり1.0kg以上10kg以下のスラグが取鍋に存在する溶鋼を真空脱ガス処理する場合、突沸発生を抑制できない。
そこで本発明者らは、真空槽(脱ガス槽)の槽内圧力が2.7kPa(20torr)で突沸が発生するといわれていることから、この値よりも高い圧力に設定して所定の保持時間の処理を実施すれば突沸を防止できると考え、4.0kPa(30torr)から26.7kPa(200torr)までの間の種々の値に保定して処理を試みた。
その結果、20.0kPa(150torr)以下で所定時間以上の処理を行えば突沸は抑制、更には防止できるものの、脱水素処理時間の効率化(短縮)は困難な場合があることが判明した。
本発明は、以上の知見をもとになされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0008】
前記目的に沿う本発明に係る溶鋼の真空脱ガス処理方法は、取鍋内の溶鋼の真空脱ガス処理方法において、
真空脱ガス処理を行う前記溶鋼を収容する前記取鍋には、FeO、Fe2O3、及び、MnOを溶鋼1トンあたり0.4kg以上2.0kg以下(以下、0.4~2.0kg/t-steelとも記載)含み、かつ、CaO換算で溶鋼1トンあたり1.0kg以上10kg以下(以下、1.0~10kg/t-steelとも記載)のスラグが存在し、前記溶鋼は、0.4質量%以上の炭素を含み、フリー酸素濃度が30ppm以上150ppm以下(以下、30~150ppmとも記載)であり、
前記真空脱ガス処理を行う際の大気圧(約101kPa:760torr)から0.13kPa(1torr)までの減圧過程で、20.0kPa(150torr)から13.3kPa(100torr)までの減圧に要する時間を3分以上とし、0.13kPa(1torr)以下での脱ガス処理(脱水素処理)後に大気圧まで復圧する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る溶鋼の真空脱ガス処理方法は、取鍋に、FeO、Fe2O3、及び、MnOを0.4~2.0kg/t-steel含み、かつ、CaO換算で1.0~10kg/t-steelのスラグが存在する、フリー酸素濃度が30~150ppmで炭素を0.4質量%以上含む溶鋼であっても(炭素Cと酸素Oの供給源があっても)、真空脱ガス処理を行う際の減圧過程で20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3分以上とすることにより、従来よりも突沸を抑制、更には防止できる(即ち、突沸の課題を解決できる)。
また、20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3分以上とするので、溶鋼を貯留する鍋(取鍋:溶鋼鍋)内壁に付着するスラグ量が減少し、その後の脱水素処理時に水素供給源となるスラグの溶鋼への落下量を減少できるため、脱ガス処理(脱水素処理)時間を安定的に短縮できる(即ち、脱水素の課題を解決できる)。
従って、効率的な脱水素処理と突沸抑制(更には防止)の両立が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】溶鋼を真空脱ガス処理する際の鍋壁へのスラグ付着状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る溶鋼の真空脱ガス処理方法は、取鍋(以下、単に鍋又は溶鋼鍋とも記載)内の溶鋼を真空脱ガス処理する方法であり、酸素Oや炭素Cが豊富に存在する溶鋼に対して、効率的な脱水素処理と突沸抑制の両立が図れる方法である。なお、
図1に示す脱ガス装置(真空脱ガス装置)10は、一本足型の大径浸漬管11を備えた真空槽(脱ガス槽)12を有する装置である(REDA法)。
以下、詳しく説明する。
【0012】
真空脱ガス処理は、真空槽12内の圧力を大気圧(約101kPa)から、高圧真空状態を経て低圧真空状態(例えば、約0.13kPa)に減圧することにより、溶鋼に対して脱炭や脱水素を行う処理である。
この真空脱ガス処理を行う溶鋼上には、スラグが存在している(溶鋼表面にスラグ層が存在する)。
【0013】
上記したスラグは、FeO、Fe2O3、及び、MnOを0.4~2.0kg/t-steel含んでいる。
FeO、Fe2O3、MnOといった低級酸化物は溶鋼に酸素を供給し得るため、脱ガス処理時に溶鋼上に多量に存在すると突沸の原因(酸素供給原因)になり易い。このような酸素供給原因となる低級酸化物としては、上記したFeO、Fe2O3、及び、MnOが主成分となるため、この合計量を規定した。
即ち、本発明者らの知見では、スラグ中のFeO、Fe2O3、及び、MnOが0.4kg/t-steel以上になると突沸が発生し易くなる。なお、本発明者らの経験では、FeO、Fe2O3、及び、MnOは多い場合であっても2.0kg/t-steel程度であることから、2.0kg/t-steelを上限値とした。
【0014】
また、スラグは、CaO換算で1.0~10kg/t-steelである。
CaOは造滓剤へ多量に配合されるが、一般に吸湿してH2Oを含むため、水素の供給源となる。このため、1.0kg/t-steel以上のCaOを用いると、脱水素処理が必要となる場合がある。
また、CaOを多く含むスラグを造滓剤として使用する場合、例えば造塊スラグ等のリサイクルスラグは水冷して使用することが一般的であり、このため水素の供給源となる。このようなスラグを用いる場合、上述したCaOと同様に、脱水素処理が必要となる場合がある。
従って、CaOを所定量使用すると、相応な脱水素処理が不可欠となる。なお、通常使用される上限値であって、本発明者らが効果を確認した数値範囲として、CaOの上限値を10kg/t-steelとした。
【0015】
真空脱ガス処理を行う溶鋼は、0.4質量%以上の炭素を含み、フリー酸素濃度が30~150ppmである。
突沸原因となるCOガスの炭素Cについて、溶鋼中のC濃度が高い場合に突沸が生じ易くなる。本発明者らの知見では、0.4質量%以上の炭素が溶鋼に存在すると、突沸が発生し易くなる。なお、C濃度の上限は特に定めないが、高炭素鋼のC濃度が高くなるほど水素濃度を低減して水素脆性を抑制する必要がある鋼種が一部に存在するため、例えば、2.0質量%以下程度のC濃度の溶鋼の脱水素処理における突沸を抑制、更には防止する必要がある。
また、突沸原因となるCOガスの酸素Oについて、溶鋼中のO濃度が高い場合に突沸が生じ易くなる。本発明者らの知見では、溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm以上の場合に突沸が発生し易くなる。なお、溶鋼を用いる製品用途の都合にもよるが、フリー酸素濃度は150ppm程度であることから、150ppmを上限値とした。
上記したフリー酸素濃度は、脱酸材として、Si(ケイ素)、あるいは、Si及び少量の金属アルミニウム、を用いることで設定できる。
【0016】
真空脱ガス処理を行う際、大気圧から0.13kPaまでの減圧過程で、20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3分以上とする。即ち、溶鋼を20.0kPa以下に一定時間暴露することで突沸発生を抑制(更には防止)し、かつ、13.3kPa以上に一定時間暴露することで、脱水素処理を安定して短時間で処理することが可能となる。
以下、詳しく説明する。
【0017】
まず、突沸防止の効果の観点から説明する。
真空脱ガス処理においては、所定圧力に所定時間、溶鋼を暴露することにより、突沸原因となる炭素Cと酸素OをCOとして予め除去し、脱水素処理の対象となる水素量の安定化を行う。
ここで、COとして除去するには、前記したように、突沸が発生する程度の低い圧力2.7kPaではなく、当該圧力よりもやや高目の圧力である、例えば4.0kPa程度の圧力に溶鋼を暴露すればよいと、平衡上は考えられる。なお、真空排気は、例えば複数のブースターの稼働数を変更しながら減圧するが、以前の排気技術では雰囲気圧力の変動が大きく、13.3kPaの設定圧力であっても、瞬間的には2.7kPaとなる場合があった。このため、2.7kPaで発生した突沸が、13.3kPaで突沸が発生したように見える場合があった。しかし、最近の雰囲気圧力の変動が小さい排気技術であれば、真空圧力の変動が小さく、4.0kPaの設定であっても圧力の変動を招かなければ突沸は発生しない。
【0018】
本発明者らは、真空槽の槽内圧力を4.0kPaから26.7kPaまでの間の種々の値に保定して処理を試みた。その結果、20.0kPa以下であって、3分以上の処理を行えば、突沸を抑制、更には防止できることがわかった。
即ち、突沸が防止できる程度に炭素Cや酸素OをCOとして除去し、溶鋼中のC濃度とO濃度を低減できるものと考えられた。
この処理時間の上限は特に定めないが、溶鋼に過度の温度低下を招かない範囲であれば問題ない。例えば、5分以上であれば、突沸防止効果の更なる増加は望めず(効果が飽和する)、溶鋼の顕著な温度低下も招かないため、5分を処理時間の上限値として用いてもよい。
なお、3分以上の暴露を前提として、圧力の上限値を20.0kPa超とした場合、CO濃度の低減が不十分となり、2.7kPa程度に減圧した際に突沸が発生し易くなる場合がある。
【0019】
続いて、脱水素処理の効率化の観点から説明する。
上記した突沸を防止する槽内圧力や時間条件では、頻度は低いながら、長時間の脱水素処理が必要になる場合があることを、本発明者らは知見した。長時間の脱水素処理が必要な場合があると、不可避的に処理量全体を対象に長時間の脱水素処理時間を設定する必要があるため、生産効率に改善すべき点が残る。
図1に示すように、真空槽12(浸漬管11)内の圧力を減圧すると真空槽12内に溶鋼が吸い込まれるため、真空槽12外の鍋壁内面近傍の溶鋼高さは低下し、溶鋼表面の高さが低下する。この際、溶鋼表面に存在していたスラグ(スラグ層)の一部は鍋壁内面に付着し、付着スラグ(固化スラグ)が発生する。この付着スラグにはCaOが吸湿していた水分を由来とするH(水素)が含まれており、付着スラグが復圧時の溶鋼高さの再度の上昇に伴って再溶解し、溶鋼に供給される事態があると、脱水素処理を過剰に実施する必要があることを本発明者らは初めて知見した。
【0020】
図1に示す本発明のように、大気圧から減圧して20.0~13.3kPaで保持する処理を行うと、真空槽12外の溶鋼表面の高さの低下代が比較的少なく、付着スラグと溶鋼表面の距離が短くなるため、保持する処理の間に鍋壁内面に付着した脱ガス工程にて脱水素されなかったスラグの溶鋼表面への落下溶融が促進できる。このため、後述する脱水素処理の処理後に鍋内の溶鋼面が上昇する際に、脱水素処理されなかったスラグが鍋内溶鋼に再溶解する量が少なくなり、溶鋼への水素の供給量が少なくなるものと見られる。
また、大気圧から減圧して13.3kPa未満、例えば4.0kPa程度で保持する処理をすると、付着スラグと溶鋼表面の距離が一定程度離れているため、鍋壁内面に付着したスラグは鍋内面への残留量が多い傾向がある(
図1の比較例参照)。このため、後述する脱水素処理の処理後に鍋内の溶鋼面が上昇する際に、脱水素処理されなかったスラグが鍋内溶鋼に再溶解する量が多くなり、溶鋼へのHの供給量が多くなるものと見られ、脱水素時間を長時間としなければ溶鋼中のH量が低減できないものと推定された。
【0021】
なお、真空脱ガス処理を行う際の大気圧から20.0kPaまでの減圧に関しては、CO生成反応に寄与する要素が到達真空度(即ち20.0kPa)であるため、COが発生し始める20.0kPaまでの時間は任意である。例えば、通常の真空脱ガス処理と同様に行うことができる。
また、13.3kPaから、後述する脱水素処理に必要な低圧雰囲気である0.13kPaまでの減圧に関しては、上記した20.0kPaから13.3kPaまでの減圧時の処理により、溶鋼の突沸原因となるCOを十分に除去できているため、任意の時間で減圧してもよい。
【0022】
0.13kPaまで減圧した後は、0.13kPa以下での脱ガス処理(脱水素処理)後に大気圧まで復圧する。
上記した20.0kPaから13.3kPaまでの減圧の作用により、13.3kPaから0.13kPaまでの減圧処理、及び、0.13kPa以下での脱ガス処理の間(更には脱ガス処理後)に、鍋壁内面のスラグが再溶融しても溶融量が少ないため、溶融スラグから溶鋼へ供給される水素の量が少なく、スラグからの水素供給による溶鋼の成分外れとなるリスクが少ない。
なお、一般に低水素濃度が要求される鋼種の脱水素処理は、0.13kPa以下で20分以上の処理が不可欠といわれていることから、0.13kPa以下での脱ガス処理は20分以上、好ましくは25分以上、更に好ましくは30分以上とするのがよい。一方、0.13kPa以下での脱ガス処理時間の上限値は、溶鋼の顕著な温度低下がなければ特に限定されるものではないが、例えば、60分程度と考えられる。
【実施例0023】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
(実験条件)
320~340トンの溶鋼をSi脱酸(一部の処理条件では、金属アルミニウムを少量添加)して、フリー酸素濃度を30~150ppmに調整した。真空脱ガス処理前のスラグは、低級酸化物(FeO、Fe
2O
3、及び、MnOの合計)を0.4~2.0kg/t-steel含み、CaO換算で1.0~10kg/t-steelであり、残部がSiO
2とAl
2O
3を主とする。このスラグ総量は、2~20kg/t-steelであった。
脱ガス装置には、一本足型の大径浸漬管を備えた真空槽を有する装置を使用した(
図1参照)。
【0024】
まず、溶鋼を、耐火物を張り巡らせた取鍋に入れた状態で、真空槽の直下へ輸送した。そして、取鍋を真空槽の直下に到着させ次第、取鍋の底部に設けられたポーラスプラグよりAr(アルゴン)ガスを300NL/分以上の流量で流し、鍋表面に滞留するスラグを鍋淵へ寄せた(除滓)。そして、除滓されむき出しになった溶鋼表面へ、真空槽(大径浸漬管)を浸漬させた。
次に、101.3kPa(大気圧)から脱ガスを開始し、その減圧過程において、表1に示す真空槽の槽内圧力を、表1に示す時間で保持した。
その後、目標槽内圧力を0.13kPa以下に設定して脱水素処理(脱ガス処理)へ移行した。
脱水素処理を25分実施した後、大気圧まで復圧させて測温し、溶鋼中の水素濃度を測定して鋳造工程へ送った。
【0025】
【0026】
上記した表1に示す突沸発生状況は、以下の突沸発生率で評価した。
・○印:回数比率で10%以下
・△印:回数比率で10%超30%以下(実機化不可。実機化した場合、脱炭時間の延長が必要)
・×印:回数比率で30%超50%以下(実機化不可。実機化した場合、真空排気系の閉塞が発生)
・-印:実験せず
また、表1に示す脱ガス後の溶鋼中の水素濃度([H]濃度)は、真空脱ガス処理の実施回数30~40回の平均値であり、質量割合の濃度(ppm)を調査し、実施例を1.0として比較例1、3を指数化し、1.0超を不可とした。
【0027】
表1に示すように、実施例は、減圧過程において、真空槽の槽内圧力が20.0kPaから13.3kPaまでの減圧に要する時間を3~5分に調整したため、突沸の発生を抑制できた(○印)。
一方、比較例1は、減圧過程において、真空槽の槽内圧力を実施例よりも高圧真空状態である33.3kPaから20.9kPaまでとしたため、この圧力範囲における減圧に要する時間を実施例と同じ時間に調整しても、突沸が発生した(×印)。
また、比較例2は、実施例と同じ真空槽の槽内圧力において、減圧に要する時間を実施例よりも短い1~3分未満に調整したため、突沸が発生した(△印)。
そして、比較例3、4は、真空槽の槽内圧力が実施例よりも低圧真空状態である12.0kPaから6.7kPaまでとした。ここで、比較例3は、この圧力範囲における減圧に要する時間を実施例と同じ時間に調整したが、この場合、鍋壁内面に多量のスラグが残る(付着する)ため、脱ガス処理後の水素濃度が高くなった。また、比較例4は、この圧力範囲における減圧に要する時間を実施例よりも短い1~3分未満に調整したため、突沸が発生した(△印)。
以上より、本発明の溶鋼の真空脱ガス処理方法により、酸素Oや炭素Cが豊富に存在する溶鋼に対して、効率的な脱水素処理と突沸抑制の両立が図れることを確認できた。
【0028】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の溶鋼の真空脱ガス処理方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、本発明の溶鋼の真空脱ガス処理方法を、一本足形状の浸漬管を備えた真空槽を有する真空脱ガス装置(REDA法)に適用した場合について説明したが、二本の浸漬管が設けられた真空槽を有する真空脱ガス装置(RH法)に適用することもできる。