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特開2024-171800積層セラミックコンデンサ及び積層セラミックコンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171800
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089024
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】小和瀬 裕介
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】 積層セラミックコンデンサの絶縁信頼性を向上させる。
【解決手段】一実施形態における積層セラミックコンデンサの本体は、第1内部電極層、第2内部電極層、及びセラミック層を有する。セラミック層は、第1内部電極層と第2内部電極層との間に配置されており、セラミック材料の結晶粒を含む。結晶粒は、コア部と、コア部を覆うシェル部と、を有する。シェル部は、一又は複数のシェル内ポアを含む。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1内部電極層、第2内部電極層、及び前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に配置されておりセラミック材料の結晶粒を含むセラミック層を有する本体と、
前記本体に、前記第1内部電極層と電気的に接続するように設けられた第1外部電極と、
前記本体に、前記第2内部電極層と電気的に接続するように設けられた第2外部電極と、
を備え、
前記結晶粒は、コア部と、前記コア部を覆うシェル部と、を有し、
前記シェル部は、一又は複数のシェル内ポアを含む、
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、1nm以上である、
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、25nm以下である、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、5nm以下であり、
前記本体の断面において、前記シェル部における前記一又は複数のシェル内ポアの面積比は、22%以下である、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記セラミック材料は、チタン酸バリウムである、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記シェル部は、希土類元素を含有する、
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
【請求項9】
第1セラミック粒子と、前記第1セラミック粒子の表面に付着しており前記第1セラミック粒子よりも小径で一又は複数の粒子内ポアを有する複数の第2セラミック粒子と、を含む複合セラミック粒子を作製する粉末作製工程と、
前記複合セラミック粒子を含有するセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの第1面及び第2面に設けられた内部電極パターンと、を含む積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を備える積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記粉末作製工程は、水熱合成法により前記第2セラミック粒子を作製する工程を有する、
請求項9に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記粉末作製工程は、固相合成法により前記第1セラミック粒子を作製する工程を有する、
請求項9又は10に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、主に、積層セラミックコンデンサ及び当該積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。本明細書の開示は、また、積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール、及び回路モジュールを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電子機器に積層セラミックコンデンサが搭載されている。積層セラミックコンデンサは、誘電体層と当該誘電体層を挟み込む内部電極層を含む容量発生部を有する。チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層に希土類元素を含有させることにより、積層セラミックコンデンサの様々な特性が向上することが知られている。例えば、特開2014-090119号公報には、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層に希土類元素を含有させることにより、積層セラミックコンデンサの静電容量や高温負荷寿命が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-090119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電体層における希土類元素の含有量が増えると、誘電体層に酸素欠陥が生じやすくなる。積層セラミックコンデンサの使用時に内部電極間に電圧が印加されると、誘電体層に生じた酸素欠陥は、誘電体層の内部から内部電極層(負極)に向かって移動し、誘電体層と内部電極層の界面に蓄積される。誘電体層と内部電極層との界面に蓄積された酸素欠陥は、リーク電流を増加させるため、コンデンサの絶縁信頼性を低下させる原因となる。
【0005】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決または緩和することである。本明細書において開示される発明のより具体的な目的の一つは、積層セラミックコンデンサの絶縁信頼性を向上させることである。本明細書において開示される発明のより具体的な目的の一つは、誘電体層において発生する酸素欠陥の移動を抑制して、誘電体層と内部電極層との界面における酸素欠陥の蓄積を抑制することで、積層セラミックコンデンサの絶縁信頼性を向上させることである。
【0006】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。本明細書に開示される発明は、「発明を解決しようとする課題」の欄の記載以外から把握される課題を解決するものであってもよい。本明細書に、実施形態の作用効果が記載されている場合には、その作用効果から当該実施形態に対応する発明の課題を把握することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において開示される様々な発明は、「本発明」と総称されることがある。本発明の一態様における積層セラミックコンデンサの本体は、第1内部電極層、第2内部電極層、及びセラミック層を有する。セラミック層は、第1内部電極層と第2内部電極層との間に配置されており、セラミック材料の結晶粒を含む。結晶粒は、コア部と、コア部を覆うシェル部と、を有する。シェル部は、一又は複数のシェル内ポアを含む。
【発明の効果】
【0008】
本明細書に開示されている発明の一実施形態によれば、積層セラミックコンデンサの絶縁信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサを模式的に示す斜視図である。
図2図1のコンデンサをI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
図3図2の断面の一部(領域A)を拡大して示す拡大断面図である。
図4図1のコンデンサの誘電体層に含有される結晶粒の断面を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に従った積層セラミックコンデンサの製造方法の流れを示すフロー図である。
図6図5に示されている製造方法で用いられる複合セラミック粒子を作製する工程の流れを示すフロー図である。
図7a】複合セラミック粒子の作製工程を説明する模式図である。
図7b】複合セラミック粒子の作製工程を説明する模式図である。
図7c】複合セラミック粒子の作製工程を説明する模式図である。
図7d】複合セラミック粒子の作製工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一又は類似の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される実施形態は、必ずしも特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
各図には、説明の便宜のため、互いに直交するL軸、W軸、及びT軸が記載されていることがある。本明細書において、積層セラミックコンデンサ1の各構成部材の寸法、配置、形状、及びこれら以外の特徴は、L軸、W軸、及びT軸を基準に説明されることがある。
【0012】
1 積層セラミックコンデンサ1
1-1 積層セラミックコンデンサ1の基本構造
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の基本構造について説明する。積層セラミックコンデンサ1は、特許請求の範囲に記載されているコンデンサの例である。図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ1をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0013】
積層セラミックコンデンサ1は、本体10と、本体10に設けられた第1外部電極31と、第2外部電極32と、を備える。第1外部電極31は、第2外部電極32から離間して配置されている。図2に示されている例では、第1外部電極31は、L軸方向において第2外部電極32から離間して配置されている。
【0014】
本体10は、複数のセラミック層11と、複数の第1内部電極層21と、複数の第2内部電極層22と、を含む。第1内部電極層21と、この第1内部電極層21に隣接する第2内部電極層22との間には、セラミック層11が配置されている。本明細書において、第1内部電極層21と第2内部電極層22とを互いから区別する必要がない場合には、第1内部電極層21及び第2内部電極層22を総称して「内部電極層」と呼ぶことがある。
【0015】
本体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。本体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fによって、その外表面が画定される。
【0016】
上面10a及び下面10bはそれぞれ本体10の高さ方向(T軸方向)両端の面を成す。言い換えると、上面10a及び下面10bは、T軸方向において相対している。第1端面10c及び第2端面10dはそれぞれ本体10の長さ方向(L軸方向)両端の面を成す。言い換えると、第1端面10c及び第2端面10dは、L軸方向において相対している。第1側面10e及び第2側面10fはそれぞれ本体10の幅方向(W軸方向)両端の面を成している。言い換えると、第1側面10e及び第2側面10fは、W軸方向において相対している。上面10aと下面10bとの間は本体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は本体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は本体10の幅寸法だけ離間している。
【0017】
一態様において、本体10は、直方体形状を有するように構成されてもよい。本明細書において「直方体」または「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。後述するように、本体10の角及び/または辺は、湾曲していてもよい。本体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0018】
本体10は、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22を積層方向に沿って積層することで構成される。図示の実施形態では、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22がT軸方向に沿って積層されている。積層方向は、図示のようにT軸に沿う方向であってもよいし、L軸又はW軸に沿う方向であってもよい。積層方向の両端に配置されているセラミック層11は、カバー層と呼ばれることがある。
【0019】
第1内部電極層21は、その一端が本体10の外部に向かって引き出される。第1内部電極層21は、本体10の表面に設けられた第1外部電極31と接続される。第2内部電極層22は、その一端が本体10の外部に向かって引きだされる。第2内部電極層22は、本体10の表面に設けられた第2外部電極32と接続される。図示の実施形態においては、第1内部電極層21は、L軸方向の一端から本体10の外部に向かって引き出され、本体10のL軸方向の一端において第1外部電極31と接続されている。第2内部電極層22は、L軸方向の他端から本体10の外部に向かって引き出され、本体10のL軸方向の他端において第2外部電極32と接続されている。図2に示されている例では、第1内部電極層21及び第2内部電極層22は、相対する第1端面10c及び第2端面10dにそれぞれ引き出されているが、第1内部電極層21及び第2内部電極層22は、第1外部電極31及び第2外部電極32の配置及び形状に応じて、本体10の様々な面から引き出され得る。例えば、第1外部電極31及び第2外部電極32がいずれも下面10bに配置されている場合には、第1外部電極31及び第2外部電極32はいずれも下面から引き出される。第1外部電極31及び第2外部電極32は、互いから離間している限り、本体10のいずれの表面に設けられてもよい。
【0020】
第1外部電極31と第2外部電極32との間に電圧が印加されると、第1内部電極層21と第2内部電極層22との間に静電容量が生じる。
【0021】
図2においては、図示の簡略化のために、第1内部電極層21及び第2内部電極層22がそれぞれ5層ずつ示されているが、積層セラミックコンデンサ1は、任意の積層数を設定することができる。積層セラミックコンデンサ1は、例えば、それぞれ300~1000層の第1内部電極層21及び第2内部電極層22を備えることができる。言い換えると、積層セラミックコンデンサ1における積層数は、300~1000層とすることができる。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1は、電子回路基板に実装され得る。積層セラミックコンデンサ1が搭載された電子回路基板は、回路モジュールと呼ばれることがある。回路モジュールには、積層セラミックコンデンサ1以外の様々な電子部品も実装され得る。この回路モジュールは、様々な電子機器に搭載され得る。回路モジュールが搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0023】
一態様において、積層セラミックコンデンサ1のL軸方向における寸法(長さ寸法)は、0.2mm~4.5mmの範囲にあり、W軸方向における寸法(幅寸法)は0.1mm~3.2mmの範囲にあり、T軸方向における寸法(高さ寸法)は0.1mm~3.2mmの範囲にある。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の長さ寸法は、幅寸法よりも大きくてもよい。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の高さ寸法は、幅寸法よりも大きくてもよい。一態様において、積層セラミックコンデンサ1の幅寸法は、長さ寸法よりも大きくてもよい。
【0024】
1-2 セラミック層11
1-2-1 セラミック層11の組成
セラミック層11は、化学式ABO3で表されるセラミック材料の酸化物を主成分として含む。この酸化物は、ペロブスカイト構造を有していてもよい。セラミック層11の全質量を基準にして、セラミック層11に50wt%以上含まれている成分を、セラミック層11の主成分とすることができる。化学式ABO3で表される酸化物がセラミック層11に50wt%以上含まれている場合に、セラミック層11は、化学式ABO3で表される酸化物を主成分として含むということができる。セラミック層11は、化学式ABO3で表される酸化物を60wt%以上、70wt%以上、80wt%、又は90wt%以上含有することが望ましい。セラミック層11の主成分酸化物には、酸素欠陥があってもよい。この酸素欠陥は、セラミック層11の主成分酸化物のAサイトに生じてもよい。酸素欠陥がセラミック層11の主成分酸化物のAサイトに生じる場合には、セラミック層11の主成分酸化物の組成式をAαBO3-βと表すことができる。セラミック層11の主成分酸化物を組成式AαBO3-βと表す場合、例えば、αが取り得る範囲は、0.98≦α≦1.01とすることができ、βが取り得る範囲は、0≦β≦0.05とすることができる。
【0025】
化学式ABO3において、「A」は、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、及びMg(マグネシウム)からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。化学式ABO3において、「B」は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、及びHf(ハフニウム)からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。化学式ABO3で表される酸化物がペロブスカイト構造を有する場合には、元素「A」及び「B」はそれぞれ、ペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトに位置する。セラミック層11に主成分として含まれる酸化物の例には、BaTiO3(チタン酸バリウム)、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、及びMgTiO3(チタン酸マグネシウム)が含まれる。
【0026】
セラミック層11に主成分として含まれる酸化物は、化学式Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrz3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)で表される酸化物であってもよい。この種の酸化物の例には、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、及びチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムが含まれる。
【0027】
セラミック層11は、主成分の酸化物以外に、添加物元素を含むことができる。一態様において、セラミック層11に含まれる添加物元素は、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、及びCr(クロム)から成る群より選択される少なくとも一つの元素である。セラミック層11は、上記の添加物元素を、2種類以上含有してもよい。
【0028】
セラミック層11は、主成分の酸化物以外に希土類元素の酸化物を含んでもよい。セラミック層11に含まれる希土類元素の酸化物は、Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、およびYb(イッテルビウム)から成る群より選択される少なくとも一つの希土類元素の酸化物であってもよい。セラミック層11は、希土類元素の酸化物を、2種類以上含有してもよい。
【0029】
セラミック層11には、さらに別の種類の酸化物が含まれてもよい。セラミック層11は、例えば、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、及びSi(ケイ素)から成る群より選択される少なくとも一つの元素の酸化物を含んでもよい。セラミック層11は、これらの元素の酸化物を、2種類以上含有してもよい。
【0030】
セラミック層11は、Co、Ni、Li、B、Na、K、及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素を含むガラスを含有してもよい。
【0031】
一態様において、セラミック層11の膜厚(T軸方向における寸法)は、0.2~10μmとされる。
【0032】
1-2-2 結晶粒
セラミック層11は、セラミック材料の結晶粒を複数含んでいる。複数の結晶粒のうち少なくとも一部は、コアシェル構造を有する。図3及び図4をさらに参照して、セラミック層11に含まれる結晶粒について説明する。図3は、図2に示されている本体10の断面の領域Aを拡大して示す拡大断面図であり、図4は、一つの結晶粒の断面を模式的に示す。領域Aは、第1内部電極層21からセラミック層11を通り第2内部電極層22まで延在している。
【0033】
図3に示されているように、セラミック層11には、複数の結晶粒40が含まれる。隣接する結晶粒40同士は、粒界45により隔てられている。つまり、セラミック層11は、複数の結晶粒40を含有する多結晶体であり、原子が規則正しく並んでいる複数の結晶粒40と、この複数の結晶粒40のうち隣接するもの同士の間に介在する粒界45と、を有する。
【0034】
図3及び図4に示されているように、結晶粒40は、コアシェル構造を有している。具体的には、コアシェル構造を有する結晶粒40は、コア部41と、コア部41を覆うシェル部42と、を備える。結晶粒40は、例えば、チタン酸バリウムの結晶である。セラミック層11に添加されている元素は、コア部41よりもシェル部42に多く固溶する。例えば、セラミック層11に希土類元素が添加されている場合には、シェル部42における希土類元素の濃度は、コア部41における希土類元素の濃度よりも高い。シェル部42に、希土類元素を含有させることにより、積層セラミックコンデンサ1の静電容量及び高温負荷寿命を向上させることができる。
【0035】
結晶粒40が、コア部41及びシェル部42を有することは以下のようにして確認することができる。まず、集束イオンビーム装置(FIB)により、積層セラミックコンデンサ1から厚さ30~80nm程度の薄片化された分析試料を取り出す。この分析試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)又は波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength-Dispersive X-ray Spectroscopy)のいずれかを搭載した走査型透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)に設置して高角度散乱暗視野像(HAADF-STEM像:high-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy image)を取得する。このHAADF-STEM像において、暗く見える領域をコア部41と特定し、このコア部41を取り囲んでおり、コア部41よりも明るく見える領域をシェル部42と特定することができる。このように、コア部41とシェル部42との識別は、HAADF-STEM法により行うことができる。
【0036】
コア部41とシェル部42との識別は、HAADF-STEM法以外の方法で行うこともできる。例えば、積層セラミックコンデンサ1から取り出した分析試料に含まれる元素の濃度マップを取得し、この濃度マップに基づいてコア部41とシェル部42とを識別することができる。具体的な一例として、積層セラミックコンデンサ1からFIBにより取り出された薄片化試料を、EDSが搭載されたSTEMに設置して1万倍から15万倍の倍率で観察し、観察領域における定量元素の濃度マップを取得する。このとき、セラミック層11に添加されている添加元素を定量元素とすることができる。例えば、セラミック層11に添加されている希土類元素を定量元素とすることができる。セラミック層11において添加元素(例えば、希土類元素)の濃度は、コア部41よりもシェル部42において高くなるので、EDSにより得られた濃度マップにおいて添加元素の濃度が高い領域をシェル部42と特定することができる。
【0037】
上述したとおり、セラミック層11の主成分酸化物は、酸素欠陥を有していてもよい。セラミック層11に生じた酸素欠陥は、第1内部電極層21と第2内部電極層22と間に電圧を印加すると、セラミック層11の内部から第1内部電極層21及び第2内部電極層22のうち負極となる方に向かって移動し、セラミック層11と第1内部電極層21又は第2内部電極層22との界面に蓄積される。セラミック層11と第1内部電極層21又は第2内部電極層22との界面に蓄積された酸素欠陥は、リーク電流を増加させるため、積層セラミックコンデンサ1の絶縁信頼性を低下させる原因となる。そこで、セラミック層11において酸素欠陥が生じても、その酸素欠陥の第1内部電極層21又は第2内部電極層22への移動を阻害すれば、積層セラミックコンデンサ1の絶縁信頼性を向上させることができる。
【0038】
上述のとおり、結晶粒40における添加元素の濃度は、コア部41よりもシェル部42において高くなる。このため、シェル部42における酸素欠陥の移動を抑制することで、積層セラミックコンデンサ1の絶縁信頼性を効率的に向上させることができる。
【0039】
一実施形態において、各結晶粒40のシェル部42は、一又は複数のシェル内ポア43を有する。シェル内ポア43は、シェル部42に含有されている空隙である。セラミック層11に生じた酸素欠陥は、空隙内を移動することができないため、シェル内ポア43により酸素欠陥の移動を阻害することができる。シェル内ポア43は、シェル部42内に含有されているため、シェル部42において酸素欠陥の移動を阻害することができる。セラミック層11において添加元素(例えば、希土類元素)の含有量が多くなると、シェル部42において酸素欠陥が生じやすくなるが、シェル部42内にシェル内ポア43を設けることにより、シェル部42に生じる酸素欠陥の移動を阻害することができる。
【0040】
従来、結晶粒の内部、特にシェル部42に選択的に空隙を導入する技術は知られていなかった。本出願で開示される発明においては、結晶粒40の内部、より具体的にはシェル部42の内部にシェル内ポア43を導入することにより、シェル部42における酸素欠陥の移動を効率的に阻害することができる。
【0041】
シェル内ポア43の直径の平均は、酸素欠陥の移動を阻害するために十分な大きさとされ、具体的には、1nm以上とされる。シェル内ポア43の直径がセラミック層11のセラミック粒子の格子定数よりも大きい場合に、シェル内ポア43により酸素欠陥の移動を阻害できると考えられる。セラミック層11に含まれるセラミック粒子の格子定数は1nmよりも小さいので、シェル内ポア43の下限を1nmとすることができる。例えば、チタン酸バリウムの格子定数は、a軸長が0.399nmであり、c軸長が0.404であるから、シェル内ポア43の下限を1nmとすることにより、シェル内ポア43によりセラミック層11に生じた酸素欠陥の移動を阻害することができる。
【0042】
シェル内ポア43の直径が大きすぎると、積層セラミックコンデンサ1の製造時や使用時に、シェル内ポア43に水分が入り込み易くなり、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性を劣化させる要因となり得る。そこで、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性を確保するために、シェル内ポア43の直径の平均に、上限を定めることが望ましい。一態様において、シェル内ポア43の直径の平均は、25nm以下とされる。
【0043】
一態様において、一又は複数のシェル内ポア43の直径の平均は、1nm~25nmとすることができる。
【0044】
積層セラミックコンデンサ1の耐湿性には、シェル内ポア43の直径の平均以外に、シェル部42におけるシェル内ポア43の面積比が影響する。シェル部42におけるシェル内ポア43の面積比が大きすぎると、積層セラミックコンデンサ1の製造時や使用時に、シェル内ポア43に水分が入り込み易くなる。そこで、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性を確保するために、シェル部42におけるシェル内ポア43の面積比に上限を定めることが望ましい。一態様において、シェル部42におけるシェル内ポア43の面積比は、22%以下とされる。積層セラミックコンデンサ1の耐湿性を確保するためにより好ましいシェル内ポア43の面積比は、19%以下とされる。
【0045】
シェル部42内にシェル内ポア43が存在することは、以下のようにして確認することができる。まず、集束イオンビーム装置(FIB)により、積層セラミックコンデンサ1から厚さ50nm以下の薄片化された分析試料を取り出す。分析試料の厚さは、例えば、10nm~50nmとすることができる。次に、この分析試料を、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)内に設置して、薄片化された試料の観察面のTEM像を取得する。シェル内ポア43は、TEM像において明るく見えるため、TEM像を二値化解析することで、シェル内ポア43を特定することができる。また、二値化されたTEM像において、シェル内ポア43の直径を測長することができる。シェル内ポア43の断面が円形でない場合、その面積に等しい円の直径をそのポアの直径(ヘイウッド径)とする。TEM像を取得する際には、加速電圧を200kVに設定することができる。
【0046】
シェル部42におけるシェル内ポア43の面積比は、積層セラミックコンデンサ1から取り出された厚さ50nm以下の薄片化された分析試料の観察面のTEM像を取得し、この観察領域に含まれるシェル部42の面積の合計に対するシェル内ポア43の面積の合計の比で表される。
【0047】
1-3 第1内部電極層21及び第2内部電極層22
一態様において、第1内部電極層21は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属を主成分として含む。第1内部電極層21の全質量を基準にして、第1内部電極層21に50wt%以上含まれている成分を、第1内部電極層21の主成分とすることができる。第1内部電極層21は、主成分である卑金属を、60wt%以上、70wt%以上、80wt%、又は90wt%以上含有することが望ましい。
【0048】
第1内部電極層21は、主成分金属元素に加え、副元素を含むことができる。第1内部電極層21に含まれ得る副元素は、例えば、As(砒素)、Au(金)、Co、Cr、Cu、Fe、In(インジウム)、Ir(イリジウム)、Mg、Os(オスミウム)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Se(セレン)、Sn、Ge(ゲルマニウム)、Te(テルル)、W、Y(イットリウム)、Zn(亜鉛)、Ag(銀)、及びMoから成る群より選択される一の元素又は二以上の元素である。ただし、主成分金属元素と副元素は、別種の元素とする。例えば、主成分金属元素がNiの場合には、Snを副元素として採用することができるが、主成分金属元素がSnの場合には、Snを副元素として選択することはできない。
【0049】
一態様において、内部電極層は、0.01at%以上5at%以下の副元素を含有することができる。内部電極層が副元素として2種類以上の元素を含有する場合には、この2種類以上の副元素の合計の濃度が0.01at%以上5at%とされる。
【0050】
第1内部電極層21の成分に関する説明は、第2内部電極層22の成分にも当てはまる。
【0051】
一態様において、第1内部電極層21の膜厚(T軸方向における寸法)は、0.1μm以上2μm以下とされる。一態様において、第1内部電極層21の膜厚は、0.4μm以下であることが望ましい。第1内部電極層21の膜厚に関する説明は、第2内部電極層22にも当てはまる。
【0052】
1-4 第1外部電極31及び第2外部電極32
一態様において、第1外部電極31及び第2外部電極32は、本体10に導電性ペーストを塗布し、この導電性ペーストを加熱することで形成される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Au、Pt、Ni、Sn、Cu、W、Ti、及びこれらの合金から成る群のうち少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0053】
2 積層セラミックコンデンサ1の製造方法
2-1 積層セラミックコンデンサ1の製造方法の概要
続いて、図5及び図6のフロー図及び図7aないし図7dを参照して、積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について説明する。図5は、本発明の一実施形態に従った積層セラミックコンデンサ1の製造方法の流れを示すフロー図である。図6は、図5に示されている製造方法のうち、複合セラミック粒子を作製する工程をさらに詳細に説明するためのフロー図である。
【0054】
図5を参照して積層セラミックコンデンサ1の製造方法を簡潔に説明する。まず、工程S1において、大径の第1セラミック粒子の表面に小径の第2セラミック粒子が結合した複合セラミック粒子を作製する。複合セラミック粒子の作製方法の詳細については後述する。
【0055】
次に、工程S2において、この複合セラミック粒子を用いて本体10の前駆体であるシート積層体が形成される。このシート積層体は、セラミック層11の前駆体であるセラミックグリーンシート、及び、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の各々の前駆体である内部導体パターンを含む。シート積層体は、第1内部電極層21の前駆体である内部導体パターンが表面に設けられたセラミックグリーンシートと、第2内部電極層22の前駆体である内部導体パターンが表面に設けられたセラミックグリーンシートと、を交互に積層することで形成されてもよい。
【0056】
セラミックグリーンシートは、複合セラミック粒子60に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダーと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合してスラリーを形成し、このスラリーを、例えばダイコータ法やドクターブレード法により基材フィルム上に塗工し、基材フィルム上に塗工されたスラリーを乾燥させることで作製される。
【0057】
次に、上記のようにして形成された複数のセラミックグリーンシート上に、内部電極パターンをそれぞれ形成する。内部電極パターンは、例えば、セラミックグリーンシート上に内部電極用ペーストをスクリーン印刷等の公知の印刷方法により印刷することで形成される。内部電極パターンをスクリーン印刷により形成する場合には、内部電極用ペーストは、金属粉末、バインダー樹脂、及び溶剤をスリーロールミルによって混練することで製造される。つまり、内部電極用ペーストは、バインダー樹脂中に金属粉末を分散させたものである。内部電極用ペーストに含まれる金属粉末は、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の主成分となるNi、Cu、Sn等の主成分金属元素の粉末を含む。内部電極用ペースト用の有機バインダーとしては、エチルセルロース等のセルロース系樹脂やブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂を用いることができる。一部のセラミックグリーンシート上に形成された内部電極パターンは、第1内部電極層21の前駆体であり、別のセラミックグリーンシート上に形成された内部電極パターンは、第2内部電極層22の前駆体である。内部電極パターンは、スパッタリング法によりセラミックグリーンシート上に形成されてもよい。
【0058】
以上のようにして、セラミックグリーンシートと、当該セラミックグリーンシートの表面に形成された内部電極パターンと、を有する積層ユニットを得る。この積層ユニットを所定枚数だけ積層して熱圧着することでシート積層体が得られる。シート積層体の最上層及び最下層には、内部電極パターンが形成されていないグリーンシートを積層してもよい。
【0059】
次に、このようにして形成されたシート積層体を個片化することで、本体10の前駆体となるチップ状の積層体が得られる。このチップ状の積層体に対して、脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理は、窒素雰囲気において行われてもよい。また、脱脂処理がなされた積層体に対して、第1外部電極31及び第2外部電極32の下地電極層となる金属ペーストをディップ法で塗布してもよい。
【0060】
次に、工程S3において、工程S2で作製されたチップ積層体を焼成炉に投入し、この焼成炉内で積層体を焼成することでチップ積層体が焼成されて積層セラミックコンデンサ1が得られる。この焼成処理においては、チップ積層体中のセラミックグリーンシートが焼成されてセラミック層11となり、内部電極パターンが焼成されて内部電極層(第1内部電極層21及び第2内部電極層22)となる。
【0061】
積層セラミックコンデンサ1を製造するためには、図5のフロー図に示されていない処理が行われてもよい。例えば、工程S3において焼成処理がなされた積層体に、窒素ガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。また、第1外部電極31及び第2外部電極32の表面に、Cu,Ni,Sn等のめっき層が設けられてもよい。このめっき層は、電解めっき法又は無電解めっき法により形成され得る。
【0062】
2-2 複合セラミック粒子の作製工程
次に、複合セラミック粒子を作製する工程S1について、図6及び図7aないし図7dをさらに参照してより詳細に説明する。複合セラミック粒子は、第1セラミック粒子と、第2セラミック粒子とを含有する複合粒子である。以下の説明では、第1セラミック粒子及び第2セラミック粒子がいずれも、チタン酸バリウム(BaTiO3)粒子であると想定して説明する。
【0063】
図6に示されている混合セラミック粉末を作製するフローでは、まず、工程S11において、大径の第1セラミック粒子51が作製される。第1セラミック粒子51の例が図7aに示されている。第1セラミック粒子51は、固相合成法、ゾル-ゲル合成法、水熱合成法等の任意の公知の合成方法により形成される。固相合成法が用いられる場合には、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを混合し、このチタン原料とバリウム原料とを固相反応させることにより、第1セラミック粒子51が形成される。第1セラミック粒子51の平均粒径は、例えば、50nm以上150nm以下とされる。後述するように、結晶粒40のコア部41は、主に第1セラミック粒子51から形成される。第1セラミック粒子51は、誘電特性の劣化を抑制するために、ポアを含有しないことが望ましい。第1セラミック粒子51は、ポアが生じやすい水熱合成法ではなく、固相合成法により作製されることが望ましい。第1セラミック粒子51は、セラミック層11に含まれる添加元素(例えば、上述したFe等の金属元素、希土類元素、及びこれら以外の添加元素のうちの一又は複数)を含有してもよい。
【0064】
次に、工程S12において、第1セラミック粒子51よりも小径の第2セラミック粒子52が作製される。第2セラミック粒子52は、水熱合成法により作製されてもよい。第2セラミック粒子52は、例えば、チタン水酸化物と水酸化バリウムを水熱処理することにより形成される。第2セラミック粒子52は、図7bに示されているように、ポア52aを有する。第2セラミック粒子52は、一つのポア52aを有していてもよいし、複数のポア52aを有していてもよい。水熱合成法により原料を合成して第2セラミック粒子52を形成することにより、第2セラミック粒子52内にポア52aを生成しやすい。第2セラミック粒子52の合成に用いられる方法は、水熱合成法には限定されない。第2セラミック粒子52の平均粒径は、例えば、5nm以上50nm以下とされる。ポア52aは、完成品である積層セラミックコンデンサ1において本体10に含有されるシェル内ポア43となる。焼成工程S3において、チタン酸バリウムの結晶が成長することにより、シェル内ポア43の径は、ポア52aの径よりも小さくなることがある。よって、焼成工程S3における焼成条件を制御することにより、シェル内ポア43の径を制御することができる。具体的には、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くして、チタン酸バリウムの結晶の成長を促進することにより、シェル内ポア43の径を小さくすることができる。一態様において、ポア52aの直径は、1~30nmとすることができる。ポア52aの直径は、第2セラミック粒子52の直径の20~80%の大きさとすることができる。
【0065】
第2セラミック粒子52は、セラミック層11に含まれる添加元素(例えば、上述したFe等の金属元素、希土類元素、及びこれら以外の添加元素のうちの一又は複数)を含有してもよい。
【0066】
次に、工程S13において、第1セラミック粒子51の粉末、第2セラミック粒子52の粉末、及び添加剤粉末53を分散溶液中に分散させることでコロイド溶液を調製する。図7c及び図7dにおいて、添加剤粉末53は、第2セラミック粒子52との区別が容易となるように円以外の図形で示されているが、球状の粒子であってもよい。分散溶液としては、例えば、水またはエタノール溶媒を用いることができる。添加剤粉末53は、セラミック層11に添加される添加物元素を含む粉末である。上記のとおり、セラミック層11は、Fe等の金属元素、Ho等の希土類元素、及びこれら以外の添加物元素を含有することができる。添加剤粉末53は、セラミック層11が含有する添加物元素の粉末である。コロイド溶液中には、必要に応じて、pH調整剤が添加されてもよい。
【0067】
分散溶液中において第1セラミック粒子51のゼータ電位と第2セラミック粒子52のゼータ電位とが反対の極性を持つように、第1セラミック粒子51及び第2セラミック粒子52の一方又は両方を表面改質してもよい。分散溶液のpHは、所定の範囲に調整される。第1セラミック粒子51及び/又は第2セラミック粒子52は、所定の範囲のpHを有する分散溶液において、第1セラミック粒子51のゼータ電位と第2セラミック粒子52のゼータ電位とが反対の極性を有するように表面改質されてもよい。分散溶液中において、同じ極性のゼータ電位を有する第1セラミック粒子51同士は静電的に反発し、同じ極性のゼータ電位を有する第2セラミック粒子52同士も静電的に反発する。このため、分散溶液中での第1セラミック粒子51同士の凝集及び第2セラミック粒子52同士の凝集が抑制される。第1セラミック粒子51の表面改質は、例えば、界面活性剤等の有機物を第1セラミック粒子51の表面に吸着させることにより行われる。第2セラミック粒子52の表面改質も同様に、例えば、界面活性剤等の有機物を第2セラミック粒子52の表面に吸着させることにより行われる。
【0068】
次に、工程S14において、工程S13で得られたコロイド溶液を混合容器内で攪拌することにより、第1セラミック粒子51、第2セラミック粒子52、及び添加剤粉末53をヘテロ凝集させ、複合セラミック粒子60が形成される。図7dに示されているように、複合セラミック粒子60は、第1セラミック粒子51と、第1セラミック粒子51の表面に吸着された第2セラミック粒子52と、同じく第1セラミック粒子51の表面に吸着された添加剤粉末53と、を有する。第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52とは、異なる極性のゼータ電位を有するため、静電的に引き合う。また、第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52との間には、ファンデルワールス力も作用する。第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52との間に作用する静電引力及びファンデルワールス力により、第1セラミック粒子51の表面に第2セラミック粒子52を吸着することができる。第1セラミック粒子51と添加剤粉末53との間にもファンデルワールス力が作用するため、添加剤粉末53も第1セラミック粒子51の表面に吸着される。図7dにおいては、添加剤粉末53が第2セラミック粒子52と区別されるように、添加剤粉末53が円形以外の図形で示されているが、添加剤粉末53は、球状の粒子であってもよい。また、図7dにおいては、添加剤粉末53が添加されることを説明するために、添加剤粉末53が目立つように表現されている。第1セラミック粒子51の表面においては、図7dに示されているよりも、添加剤粉末53に比べて第2セラミック粒子52の割合がおおくてもよい。
【0069】
上記のようにして得られた複合セラミック粒子60を含むコロイド溶液を濾過して分散溶液から複合セラミック粒子60を分離する。次に、分離された複合セラミック粒子60を水洗し、水洗した複合セラミック粒子60を乾燥させることにより、複合セラミック粒子60の粉末を作製することができる。
【0070】
このようにして作製された複合セラミック粒子60を用いて、図5のフローに従って積層セラミックコンデンサ1を作製することにより、工程S3の焼成工程において、第1セラミック粒子51及び第2セラミック粒子52に含まれるチタン酸バリウムが緻密化してコア部41となる。また、この焼成工程においては、緻密化したチタン酸バリウムに添加剤粉末53に含有されている添加元素が固溶することで、添加元素を多く含むシェル部42が形成される。シェル部42に含まれる添加元素は、第1セラミック粒子51及び/又は第2セラミック粒子52に含有されていた添加元素に由来するものであってもよい。
【0071】
また、焼成工程において、第2セラミック粒子52に含まれているポア52aは、シェル部42においてシェル内ポア43となる。第2セラミック粒子52に含まれるチタン酸バリウムが緻密化することにより、シェル内ポア43の径は、ポア52aの径よりも小さくなる。ただし、チタン酸バリウムが緻密化する際に、第2セラミック粒子52に含まれている2つ以上のポア52aが連結されて1つのシェル内ポア43となる場合には、2つ以上のポア52aが連結して形成されたシェル内ポア43の径は、連結された2つ以上のポア52aの各々の径よりも大きくなることがある。
【0072】
以上のようにして、セラミック層11に含まれる結晶粒40のシェル部42にシェル内ポア43が含まれるように、積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。
【0073】
3 実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
図5及び図6に記載されている製造方法に従って、積層セラミックコンデンサ1のサンプルを製造し、製造したサンプルについて、絶縁信頼性及び耐湿性を調べるための試験を行った。
【0075】
3-1 試料の作製
3-1-1 試料1の作製
まず、工程S1に従って、複合セラミック粒子60を作製した。具体的には、工程S11に従って、二酸化チタンと炭酸バリウムとを固相合成法により合成することにより、平均粒径が100nmのチタン酸バリウム粒子(第1セラミック粒子51)を作製した。次に、工程S12に従って、チタン水酸化物と水酸化バリウムを水熱処理することにより、平均粒径が5nmのチタン酸バリウム粒子(第2セラミック粒子52)を作製した。次に、第1セラミック粒子51を100wt%としたときに、第2セラミック粒子52が2wt%となり、また、Hoを含有する添加剤粉末53が2%となるように秤量し、この秤量された第1セラミック粒子51の粉末、第2セラミック粒子52の粉末、及び添加剤粉末53を混合溶液に加えてコロイド溶液を調製した。混合溶液として、水150mlを加えたものを用いた。このコロイド溶液を、第1セラミック粒子51、第2セラミック粒子52、及び添加剤粉末がヘテロ凝集するのに十分な程度の時間攪拌した。次に、この4種類の各コロイド溶液を濾過して分散溶液から複合セラミック粒子60を分離し、分離された複合セラミック粒子60を水洗し、水洗した複合セラミック粒子60を乾燥させることにより、複合セラミック粒子60の粉末を作製した。
【0076】
次に、工程S2に従って、積層体を形成した。具体的には、上記の4種類の複合セラミック粒子60の各々に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂と、トルエンと、可塑剤とを加えて湿式混合してスラリーを形成し、このスラリーをドクターブレード法により基材フィルム上に塗工し、基材フィルム上に塗工されたスラリーを乾燥させることで4種類のセラミックグリーンシートを作製した。次に、上記のようにして形成されたセラミックグリーンシートの表面の一部の領域に、内部電極用スラリーを印刷して、セラミックグリーンシートの各々に内部電極パターンを形成した。この積層ユニットは、セラミックグリーンシートと、当該セラミックグリーンシートの表面に形成された内部電極パターンと、を有する。次に、積層ユニットを250枚積層してシート積層体を形成し、この積層体を個片化することでチップ積層体を得た。チップ積層体は、0603形状(長さ寸法:0.6mm、幅寸法:0.3mm、高さ寸法:0.3mm)とした。次に、このチップ積層体に対して、N2雰囲気において脱脂処理を行った。次に、脱脂処理後の成形体に対して金属ペーストをディップ法で塗布することで、各チップ積層体に外部電極の下地層を形成した。
【0077】
次に、上記のようにして得られたチップ積層体を焼成炉に投入して、所定の温度プロファイルに従って、所定の焼成条件において、チップ積層体を焼成した。具体的には、酸素分圧7.8×10-8atmの低酸素雰囲気において、焼成炉内の温度を室温から600℃まで300℃/hで昇温し、600℃から1300℃まで30000℃/hの昇温速度で昇温し、1300℃に到達後ただちに冷却を開始するという温度プロファイルでチップ積層体を焼成した。
【0078】
この焼成処理により、以下の表1に示されている試料1の積層セラミックコンデンサが得られた。この積層セラミックコンデンサにおいては、セラミックグリーンシートが焼成されて誘電体層となっており、内部電極パターンが焼成されて内部電極層となっている。また、成形体に形成した下地層が外部電極となっている。
【0079】
3-1-2 試料2~試料4の作製
工程S11に従って、試料1の作製に用いられたものと同じ平均粒径が100nmチタン酸バリウム粒子を第1セラミック粒子51として作製した。また、工程S12に従って、試料1の作製に用いられたものと同じチタン酸バリウム粒子を第2セラミック粒子52として作製した。この第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52とを表1の試料2ないし試料4の行に記載されている割合でそれぞれ秤量し、これらの秤量された第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52を用いて3種類の複合セラミック粒子60を作製した。これらの3種類の複合セラミック粒子60を用いて試料1と同じ工程により積層体を形成し、その積層体を焼成することで、試料2~試料4を作製した。
【0080】
3-1-3 試料5~試料6の作製
工程S11に従って、試料1の作製に用いられたものと同じ平均粒径が100nmチタン酸バリウム粒子を第1セラミック粒子51として作製した。また、工程S12に従って、チタン水酸化物と水酸化バリウムを水熱処理することにより、平均粒径が20nmのチタン酸バリウム粒子を第2セラミック粒子52として作製した。この第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52とを表1の試料5ないし試料6の行に記載されている割合でそれぞれ秤量し、これらの秤量された第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52を用いて2種類の複合セラミック粒子60を作製した。これらの2種類の複合セラミック粒子60を用いて試料1と同じ工程により積層体を形成し、その積層体を焼成することで、試料5~試料6を作製した。
【0081】
3-1-4 試料7~試料9の作製
工程S11に従って、試料1の作製に用いられたものと同じ平均粒径が100nmチタン酸バリウム粒子を第1セラミック粒子51として作製した。また、工程S12に従って、チタン水酸化物と水酸化バリウムを水熱処理することにより、平均粒径が50nmのチタン酸バリウム粒子を第2セラミック粒子52として作製した。この第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52とを表1の試料7ないし試料9の行に記載されている割合でそれぞれ秤量し、これらの秤量された第1セラミック粒子51と第2セラミック粒子52を用いて3種類の複合セラミック粒子60を作製した。これらの3種類の複合セラミック粒子60を用いて試料1と同じ工程により積層体を形成し、その積層体を焼成することで、試料7~試料9を作製した。
【0082】
3-1-5 試料10(比較例)の作製
工程S11に従って、試料1の作製に用いられたものと同じ平均粒径が100nmチタン酸バリウム粒子を作製した。このチタン酸バリウム粒子を用いて試料1と同じ工程により積層体を形成し、その積層体を焼成することで、試料10を作製した。つまり、試料10は、水熱合成法により作製される第2セラミック粒子52を用いずに作製された。
【0083】
3-2 セラミック層及び内部電極層の厚み
上記のようにして作製された試料1に含まれる誘電体層及び内部電極層の厚みを、以下のようにして確認した。まず、試料1を樹脂に包埋し、樹脂に包埋された各試料を、積層方向に平行な面(例えば、図2のLT面)に沿って研磨することで、積層方向に平行な断面を露出させた。次に、電界放射型走査型二次電子顕微鏡(FE-SEM)にて、5000~20000倍の倍率にて、各試料の露出された断面において観察領域を特定し、この観察領域において各試料の断面を観察した。観察領域内で10層分のセラミック層11および内部電極層21、22に着目し、この10層分のセラミック層11のT軸方向における寸法を測長し、この測長した10層分のセラミック層11のT軸方向における寸法の平均をセラミック層11の厚みとすることができる。同様に、合計で10層分の内部電極層21、22のT軸方向における寸法を測長し、この測長した10層分の第1内部電極層21及び第2内部電極層22のT軸方向における寸法の平均をそれぞれ、第1内部電極層21及び第2内部電極層22の厚みとすることができる。このようにして求めた、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22の厚みの平均はいずれも概ね0.5μmであった。試料2ないし試料10についても、試料1と同様の方法で、セラミック層11及び内部電極層21、22の厚みを求めた。その結果、試料2ないし試料10においても、セラミック層11、第1内部電極層21、及び第2内部電極層22の厚みの平均はいずれも概ね0.5μmであった。
【0084】
3-3 シェル内ポアの確認及びポア径の測長
試料1の積層セラミックコンデンサから、FIBにより、LT面が観察面となるように、厚さ50nm以下の薄片化された分析試料を取り出した。次に、この薄片化試料をTEM(日本電子(株)製TEM JEM-ARM200F)内に設置し、HAADF-STEM法によりコア部41とシェル部42とを識別した。次に、TEM内の分析試料の観察面のうちシェル部42を50万倍の倍率で観察し、この観察領域のTEM像を得た。観察時のTEMの加速電圧は、200kVとした。このTEM像を二値化して、二値化されたTEM像を得た。この二値化されたTEM像において、シェル部42内で白く見える部位をシェル内ポア43と特定した。また、この二値化されたTEM像においてシェル内ポア43の各々の直径を測長し、この測長した直径の平均を試料1におけるシェル内ポア43の平均ポア径とし、表1の「平均ポア径」の列に記入した。
【0085】
試料2~試料9についても、同様の方法で、シェル内ポア43の直径の平均を求め、求められた各試料の平均ポア径を表1に記載した。試料10については、シェル内にポアの存在が確認されなかった。試料1~試料9においてシェル部42内に存在するシェル内ポア43は、各試料の製造過程で混合された第2セラミック粒子52に含まれるポアに由来する。試料10の製造時には、第2セラミック粒子52が混合されていないため、試料10においては、シェル部にポアが存在しない。
【0086】
3-4 ポア面積比の算出
試料1~試料9の各々について、平均ポア径を求めるために用いられた二値化されたTEM像において、観察領域に含まれるシェル部42の面積の合計と、シェル内ポア43の面積の合計とをそれぞれ求め、シェル部42の面積の合計に対するシェル内ポア43の面積の比を算出し、算出した面積比を表1の「ポア面積比」の列に記入した。試料10においてはシェル内ポアが存在しないため、試料10についてはポア面積比を算出しなかった。
【0087】
3-5 加速寿命試験
次に、試料1~試料10の各々について、10個ずつサンプルを選択し、この選択したサンプルの各々について加速寿命試験(HALT)を行った。加速寿命試験では、試料1~試料10ごとに、選択された10個のサンプルの各々について120℃下で15V/μmの電圧を印加したときの寿命を求め、この10個のサンプルについて求められた寿命を平均した平均故障時間を算出した。このようにして算出された各試料の平均故障時間を表1の「寿命」の列に示す。
【0088】
3-6 耐湿負荷試験
試料1~試料10の各々について耐湿負荷試験を行った。具体的には、試料1~試料10の各々について、1000個ずつサンプルを選択し、試験温度=85℃、相対湿度=85%RH、印加電圧=10Vdc(direct current)、時間=1000hの条件で、耐湿負荷試験を行った後、すぐに耐湿槽から取り出し、室温に戻ったところで各サンプルの抵抗値を測定した。そして、抵抗値が25MΩ未満のものを耐湿不良と判定し、その不良率を調べた。このようにして調べた耐湿負荷試験による不良率を、表1の「耐湿試験」の列に示した。耐湿負荷試験の結果、試料1~試料9のいずれについても、不良率は0.50%以下と良好であった。試料1~試料3及び試料5~試料7については、不良率が0%であり、特に優れた耐湿性を有していた。
【0089】
【表1】
【0090】
表1において、本発明に包含されない試料(つまり、比較例)については、試料番号にアスタリスク(*)が付加されている。具体的には、試料10は、本発明に包含されない比較例である。
【0091】
3-7 実施例の分析
以上の結果から、セラミック層11に含まれる結晶粒40のシェル部42にシェル内ポア43を有する試料1~試料9は、シェル内ポアを有していない試料10(比較例)と比べて、概ね2倍以上の寿命を有している。このため、試料1~試料9は、優れた絶縁信頼性を有する。試料1~試料9が優れた絶縁信頼性を有するのは、シェル内ポア43がシェル部42に生じる酸素欠陥の移動を阻害し、誘電体層と内部電極層との間の界面における酸素欠陥の蓄積を抑制したためと考えられる。
【0092】
耐湿負荷試験の結果から、平均ポア径が23nmよりも大きくなると、不良率が増加し始め、平均ポア径が25nmの試料9における不良率(0.7%)は、平均ポア径が23nmの試料8における不良率(0.5%)よりも悪化している。平均ポア径が大きくなると耐湿負荷試験における不良率が悪化するのは、平均ポア径が大きくなると、本体10の外部から大径のシェル内ポア43を通じて、本体10の内部に水分が入り込み易くなることが原因と考えられる。このため、積層セラミックコンデンサの耐湿性を維持するために、シェル内ポア43の平均粒径に上限を設定することが望ましい。シェル内ポア43の上限は、25nmとすることが望ましい。シェル内ポア43の上限は、23nmとすることがさらに望ましい。
【0093】
シェル内ポア43の平均粒径が5nm以下の試料1~試料4においては、ポア面積比が増加すると、耐湿負荷試験における不良率が悪化する。具体的には、シェル内ポア43の平均粒径がいずれも5nmである試料1~試料4の不良率を比較すると、ポア面積比が5%~15%の範囲に分布している試料1~試料3においては、不良率が0%であるのに対し、ポア面積比が22%の試料4においては、不良率が5%となっている。この結果から、シェル内ポア43の平均粒径が5nm以下と小さい場合であっても、ポア面積比が増加すると、本体10の内部に水分が入り込み易くなり、積層セラミックコンデンサの耐湿性を低下させることが分かる。よって、ポア面積比には、上限を設定することが望ましい。平均ポア径が5nm以下の場合には、ポア面積比の上限を22%とすることが望ましい。これにより、耐湿負荷試験による不良率を5%以下にすることができる。また、平均ポア径が5nm以下の場合には、ポア面積比の上限を15%に設定することがさらに望ましい。
【0094】
4 注記
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0095】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0096】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0097】
本明細書において、ある構成要素を「含む」という場合は、本発明の内容と矛盾しない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0098】
5 付記
本明細書において開示される実施形態には、以下の事項も含まれる。
【0099】
[付記1]
第1内部電極層、第2内部電極層、及び前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間に配置されておりセラミック材料の結晶粒を含むセラミック層を有する本体と、
前記本体に、前記第1内部電極層と電気的に接続するように設けられた第1外部電極と、
前記本体に、前記第2内部電極層と電気的に接続するように設けられた第2外部電極と、
を備え、
前記結晶粒は、コア部と、前記コア部を覆うシェル部と、を有し、
前記シェル部は、一又は複数のシェル内ポアを含む、
積層セラミックコンデンサ。
[付記2]
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、1nm以上である、
付記1に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記3]
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、25nm以下である、
付記1又は付記2に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記4]
前記一又は複数のシェル内ポアの直径の平均は、5nm以下であり、
前記本体の断面において、前記シェル部における前記一又は複数のシェル内ポアの面積比は、22%以下である、
付記1から付記3のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記5]
前記セラミック材料は、チタン酸バリウムである、
付記1から付記4のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記6]
前記シェル部は、希土類元素を含有する、
付記1から付記5のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。
[付記7]
付記1から付記6のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサを備える回路モジュール。
[付記8]
付記7に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
[付記9]
第1セラミック粒子と、前記第1セラミック粒子の表面に付着しており前記第1セラミック粒子よりも小径で一又は複数の粒子内ポアを有する複数の第2セラミック粒子と、を含む複合セラミック粒子を作製する粉末作製工程と、
前記複合セラミック粒子を含有するセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの第1面及び第2面に設けられた内部電極パターンと、を含む積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を備える積層セラミックコンデンサの製造方法。
[付記10]
前記粉末作製工程は、水熱合成法により第2セラミック粒子を作製する工程を有する、
付記9に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
[付記11]
前記粉末作製工程は、固相合成法により前記第1セラミック粒子を作製する工程を有する、
付記9又は付記10に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【符号の説明】
【0100】
1 積層セラミックコンデンサ
10 本体
11 セラミック層
21 第1内部電極層
22 第2内部電極層
31 第1外部電極
32 第2外部電極
40 結晶粒
41 コア部
42 シェル部
43 シェル内ポア
51 第1セラミック粒子
52 第2セラミック粒子
52a ポア
60 複合セラミック粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d