(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171802
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】捕捉デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20241205BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20241205BHJP
【FI】
A61B17/22 528
A61M25/10 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089029
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】今中 千紘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦哉
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C160EE22
4C160KL03
4C160MM36
4C160NN01
4C267AA07
4C267BB28
4C267BB36
4C267CC09
4C267DD01
4C267GG01
(57)【要約】
【課題】組織や血管壁の損傷リスクを低減しつつ、血液とともに流れる物体を捕捉して末梢閉塞を防止できる捕捉デバイスを提供する。
【解決手段】係る捕捉デバイス10は、流体が流通可能な拡張ルーメン26を有するシャフト20と、シャフト20の先端部に固定されてシャフト20の径方向へ拡張可能であり、拡張ルーメン26に連通する内腔を有し、シャフト20の長軸の方向に沿って貫通する流通孔31が形成されるバルーン30と、バルーン30の内周面33から流通孔31に突出する複数の線状体40と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通可能な拡張ルーメンを有するシャフトと、
前記シャフトの先端部に固定されて前記シャフトの径方向へ拡張可能であり、前記拡張ルーメンに連通する内腔を有し、前記シャフトの長軸の方向に沿って貫通する流通孔が形成されるバルーンと、
前記バルーンの内周面から前記流通孔に突出する複数の線状体と、を有することを特徴とする捕捉デバイス。
【請求項2】
前記バルーンの基端面は、前記シャフトの長軸と垂直な面に対して0度を超えて90度未満の角度で前記バルーンの先端方向へ向かって傾斜し、前記バルーンの基端面の最も基端側の部位の近傍で前記シャフトと固定されることを特徴とする請求項1に記載の捕捉デバイス。
【請求項3】
少なくとも1つの前記線状体の前記バルーンの内周面からの高さは、前記流通孔の半径以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の捕捉デバイス。
【請求項4】
前記流通孔の空隙率は、前記流通孔の基端から先端へ向かって減少することを特徴とする請求項1または2に記載の捕捉デバイス。
【請求項5】
前記長軸と垂直な投影面へ前記流通孔内の全ての前記線状体を投影した場合の、前記投影面における前記流通孔内の全面積に占める空間の面積の割合である投影空隙率は、80%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の捕捉デバイス。
【請求項6】
複数の前記線状体は、互いに接触することを特徴とする請求項1または2に記載の捕捉デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕捉デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血管内に生じた病変(狭窄や塞栓)に対し、バルーンやステントを拡張させて病変部を押し広げ、血流を確保する経皮的血管形成術が行われている。しかしながら、病変部に血栓やプラークが存在する状態でバルーンやステントを拡張させると、バルーンやステントの隙間から脱落した血栓が血流によって末梢に流れ、末梢血管を塞栓する可能性がある。このため、バルーンやステントによる拡張を行う前に、吸引カテーテルを用いて血栓やプラークを吸引することにより、塞栓の原因となる物体を血管からできるだけ除去しておくことが望ましい。しかしながら、吸引処置中に、血栓やプラークの一部が脱落し、末梢に流れてしまうことがある。また、吸引処置のみで血栓やプラークを十分に除去することは難しい。そのため、血栓吸引後のバルーンやステントによる拡張時に、血栓やプラークの脱落による末梢塞栓を生じる場合がある。
【0003】
処置中の末梢塞栓を防止するために、末梢保護デバイスを用いて末梢に血栓やプラーク片が流れることを防止する末梢保護療法が行われることがある。末梢保護デバイスには、バルーンにより病変の遠位側あるいは近位側を閉塞して血流を遮断するバルーンタイプや、フィルタにより血栓やプラーク片を捕捉するフィルタタイプがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、拡張可能なバルーンを有するデバイス、フィルタを有するデバイスおよびバルーンとフィルタの両方を備えた末梢保護デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バルーンタイプの末梢保護デバイスは、処置中に血流を完全に遮断することができる一方で、バルーンよりも末梢側で虚血症状や血行動態の悪化が生じ、組織が損傷するおそれがある。また、フィルタタイプの末梢保護デバイスは、処置中の血流を確保できる一方で、フィルタと血管壁の間から血栓やプラーク片が末梢側へ流れたり、フィルタによる血管壁の損傷が生じたりする可能性がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、組織や血管壁の損傷リスクを低減しつつ、血液とともに流れる物体を捕捉して末梢閉塞を防止できる捕捉デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
(1) 本発明に係る捕捉デバイスは、流体が流通可能な拡張ルーメンを有するシャフトと、前記シャフトの先端部に固定されて前記シャフトの径方向へ拡張可能であり、前記拡張ルーメンに連通する内腔を有し、前記シャフトの長軸の方向に沿って貫通する流通孔が形成されるバルーンと、前記バルーンの内周面から前記流通孔に突出する複数の線状体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)に記載の捕捉デバイスは、流通孔を有するバルーンが血管壁に密着するため、流通孔で末梢側への血流を確保しつつ、血液とともに流れる物体を流通孔に誘導して、流通孔に配置された複数の線状体で物体を捕捉できる。このため、捕捉デバイスは、組織や血管壁の損傷リスクを低減しつつ、血液とともに流れる物体を捕捉して末梢閉塞を防止できる。
【0010】
(2) 上記(1)に記載の捕捉デバイスにおいて、前記バルーンの基端面は、前記シャフトの長軸と垂直な面に対して0度を超えて90度未満の角度で前記バルーンの先端方向へ向かって傾斜し、前記バルーンの基端面の最も基端側の部位の近傍で前記シャフトと固定されてもよい。これにより、捕捉デバイスは、バルーンを、基端面からガイディングカテーテルやガイディングシース等の内腔に格納することが容易である。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)に記載の捕捉デバイスにおいて、少なくとも1つの前記線状体の前記バルーンの内周面からの高さは、前記流通孔の半径以上であってもよい。これにより、少なくとも1つの線状体が流通孔の中心まで到達するため、流通孔の中心に物体を捕捉できない領域が形成されることを抑制できる。
【0012】
(4) 上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の捕捉デバイスにおいて、前記流通孔の空隙率は、前記流通孔の基端から先端へ向かって減少してもよい。これにより、捕捉デバイスは、流通孔の基端部で大きな血栓を捕捉し、流通孔の先端部で小さな血栓を捕捉できるため、様々な大きさの血栓を効果的に捕捉できる。また、流通孔の基端部で大きな血栓が捕捉され、流通孔の先端部で小さな血栓が捕捉されることで、捕捉された血栓を流通孔の基端側から吸引して除去することが容易である。
【0013】
(5) 上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の捕捉デバイスにおいて、前記長軸と垂直な投影面へ前記流通孔内の全ての前記線状体を投影した場合の、前記投影面における前記流通孔内の全面積に占める空間の面積の割合である投影空隙率は、80%未満であってもよい。これにより、捕捉デバイスは、流通孔を血液とともに流れる物体を確実に捕捉できるため、末梢閉塞を防止できる。
【0014】
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の捕捉デバイスにおいて、複数の前記線状体は、互いに接触してもよい。これにより、複数の線状体は、接触部において互いに支持し合うことで、血液や物体から力を受けても形状を維持することができるため、物体を確実に捕捉できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る捕捉デバイスを示す平面図である。
【
図3】シャフト、バルーンおよび線状体を説明するための図であり、(A)は
図2のA-A線に沿う断面図、(B)は流通孔から突出する線状体の拡大平面図である。
【
図4】捕捉デバイスの第1変形例を示す図であり、(A)は
図2のA-A線に沿う断面図、(B)は流通孔から突出する線状体の拡大平面図である。
【
図5】捕捉デバイスの第2変形例を示す図であり、(A)は
図2のA-A線に沿う断面図、(B)は流通孔から突出する線状体の拡大平面図である。
【
図6】捕捉デバイスの第3変形例を示す図であり、(A)は
図2のA-A線に沿う断面図、(B)は流通孔から突出する線状体の拡大平面図である。
【
図7】第4変形例である捕捉デバイスの先端部の断面図である。
【
図8】捕捉デバイスの製造例を示す斜視図であり、(A)はバルーンに流通孔を形成する前の状態、(B)はバルーンに流通孔を形成した状態を示す。
【
図9】捕捉デバイスの使用方法を説明するために、血管を断面、捕捉デバイスを平面で示す図であり、(A)は捕捉デバイスを血管の病変部に挿入した状態、(B)はバルーンを血管内で拡張させた状態を示す。
【
図10】捕捉デバイスの使用方法を説明するために、血管を断面、捕捉デバイスを平面で示す図であり、(A)は血管壁から脱落した血栓を捕捉デバイスにより捕捉した状態、(B)はバルーンおよび線状体をガイディングカテーテルに格納した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、捕捉デバイス10の血管に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0017】
本実施形態に係る捕捉デバイス10は、血液とともに流れる血栓等の物体を捕捉する医療用のデバイスである。血液とともに流れる物体は、例えば、血管内に生じた狭窄や塞栓に対する処置の際に、血管壁から脱落する血栓片やプラーク片である。
【0018】
捕捉デバイス10は、
図1~3に示すように、長軸Xに沿って延びる中空のシャフト20と、シャフト20の先端部に固定されたバルーン30と、バルーン30に固定された複数の線状体40と、シャフト20の基端部に固定されたハブ50とを有している。
【0019】
シャフト20は、中空の外管21と、外管21の内腔に配置された中空の内管22とを有している。シャフト20は、先端部において外管21および内管22の二重管構造となっている。シャフト20は、バルーン30を貫通している。なお、シャフト20の内管22のみがバルーン30を貫通し、外管21はバルーン30に基端部に固定されてもよい。また、シャフト20は、後述する拡張ルーメン26がバルーン30の内部に連通すれば、バルーン30を貫通しなくてもよい。
【0020】
内管22の先端の外周面は、外管21の先端の内周面に固定されている。内管22の基端は、外管21の壁面を貫通して、外管21に固定されている。内管22の内腔は、ガイドワイヤ100が通るガイドワイヤルーメン25であり、シャフト20の先端に位置する先端開口部23で開口するとともに、シャフト20の先端から基端方向へ所定の距離に位置する基端開口部24で開口する。すなわち、捕捉デバイス10は、シャフト20の先端部にのみガイドワイヤルーメン25が形成されたラピッドエクスチェンジ(RX)型のデバイスである。
【0021】
外管21の基端部は、ハブ50に固定されている。外管21の内腔であって内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン26が形成される。外管21は、先端部に、少なくとも1つの連通孔27を有している。連通孔27は、拡張用流体を流通させるための拡張ルーメン26の開口部であり、バルーン30の内腔と連通している。拡張用流体は、例えば生理食塩水、造影剤等の液体であるが、気体であってもよい。
【0022】
外管21および内管22を形成する材料は、可撓性を有することが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等である。
【0023】
ハブ50は、外管21の基端部が固定されている。ハブ50は、外管21の拡張ルーメン26と連通するハブ開口部51を有している。
【0024】
バルーン30は、柔軟に変形可能であり、流体が内部に供給されることでシャフト20の径方向外側へ拡張し、流体が内部から排出されることで収縮する。拡張した状態のバルーン30は、長軸Xの方向に所定の長さ延びる筒状の形状を有する。したがって、拡張した状態のバルーン30は、バルーン30の内周面33によって形成されシャフト20の長軸Xに沿って貫通する流通孔31を有している。流通孔31は、バルーン30の拡張時に、バルーン30の基端側から先端側に向かう血流を確保する。バルーン30の長軸Xに沿う長さLは、例えば5mm~50mmである。バルーン30の直径D1は、例えば1mm~40mmである。流通孔31の直径D2は、例えば0.9mm~39mmである。
【0025】
バルーン30の基端面32は、長軸Xと垂直な面に対して0度を超えて90度未満の角度θでバルーン30の先端方向へ向かって傾斜している。すなわち、バルーン30の基端面32は、捕捉デバイス10の径方向外側に向いている。なお、バルーン30の基端面32は、長軸Xと垂直な面に平行(θ=0度)であってもよい。バルーン30の先端面は、長軸Xと垂直な面に平行である。なお、バルーン30の先端面は、長軸Xと垂直な面に対して傾斜していてもよい。
【0026】
バルーン30に連結されるシャフト20は、バルーン30の基端面32の最も基端側の部位から先端方向へ向かって、バルーン30を貫通している。
【0027】
バルーン30を形成する材料は、柔軟に変形可能であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等である。
【0028】
複数の線状体40は、筒状のバルーン30の内周面33から突出する細い線状の部材であり、流通孔31を血液とともに流れる血栓を捕捉できる。複数の線状体40は、バルーン30の内周面33の略全体に間隔を空けつつ配置され、流通孔31へ突出している。これにより、流通孔31は、所定の空隙率を有する。流通孔31の空隙率は、流通孔31の全体積に占める空間(線状体40のない領域)の体積の割合である。流通孔31の空隙率が高い場合、流通孔31は、多くの血流量を確保でき、かつ大きな血栓を捕捉できるが、小さな血栓を捕捉することが困難となる。一方、流通孔31の空隙率が低い場合、流通孔31は、大きな血栓のみならず小さな血栓をも捕捉できるが、血流量が減少する。
【0029】
線状体40のバルーン30の内周面33からの高さHは、流通孔31の直径D2未満であり、かつ流通孔31の半径Rを超えることが好ましい。これにより、線状体40は、流通孔31の中心まで配置される。線状体40の各々は、他の線状体40と接触することが好ましい。これにより、複数の線状体40は、接触部において互いに支持し合うことで、物体や血液から力を受けても形状を維持することができるため、物体を確実に捕捉できる。なお、全ての線状体40が、他の線状体40と接触している必要はない。
【0030】
流通孔31の空隙率は、流通孔31の径方向に沿って略一定であることが好ましい。すなわち、流通孔31のバルーン30の内周面33近傍における空隙率と流通孔31の中心部における空隙率とは、略等しいことが好ましい。このような流通孔31は、線状体40の形状や配置を適宜設定することによって形成できる。例えば、流通孔31の半径Rを超える高さHを有する高い線状体40と、流通孔31の半径R未満の高さHを有する低い線状体40とを混在させることで、流通孔31の中心部で線状体40が高密度となることによる空隙率の低下を抑制できる。また、線状体40の各々の形状が湾曲や分岐を含むことで、流通孔31のバルーン30の内周面33近傍における空隙率を低下させることができる。
【0031】
流通孔31の空隙率は、長軸Xに沿って略一定である。すなわち、流通孔31の空隙率は、流通孔31の先端から基端まで略一定である。なお、流通孔31の長軸Xに沿う空隙率は、バルーン30の内周面33の単位面積当たりに固定される線状体40の数により調整可能である。なお、流通孔31の空隙率は、
図7に示す第4変形例のように、流通孔31の基端から先端へ向かって徐々にまたは段階的に減少してもよい。これにより、捕捉デバイス10は、流通孔31の基端部で大きな血栓を捕捉し、流通孔31の先端部で小さな血栓を捕捉できるため、様々な大きさの血栓を効果的に捕捉できる。また、流通孔31の基端部で大きな血栓が捕捉され、流通孔31の先端部で小さな血栓が捕捉されることで、捕捉された血栓を流通孔31の基端側から吸引して除去することが容易である。長軸Xと垂直な投影面へ流通孔31内の全ての線状体40を投影した場合の、流通孔31内の投影面の全面積に占める空間(線状体40の投影されていない領域)の面積の割合である投影空隙率は、例えば10%~80%である。
【0032】
各々の線状体40は、
図3に示すように、細い線状の部材の両端がバルーン30の内周面33に固定されたループ形状を有する。これにより、線状体40は、バルーン30の内周面33に対して2箇所で固定されるため、形状を維持しやすく、かつバルーン30の内周面33近傍における空隙率が高くなりすぎることを抑制できる。なお、線状体40は、
図4に示す第1変形例のように、湾曲部を有する線状の部材の一端をバルーン30の内周面33に固定して形成してもよい。また、線状体40は、
図5に示す第2変形例のように、複数の屈曲部を有する線状の部材の一端をバルーン30の内周面33に固定して形成してもよい。あるいは、線状体40は、
図6に示す第3変形例のように、バルーン30の内周面33から突出する本体部41と、本体部41から分岐する少なくとも1つの分岐部42とを有する線状の部材の一端をバルーン30の内周面33に固定して形成してもよい。これにより、線状体40は、流通孔31を流れる物体を捕捉する機能を高めることができる。線状体40を形成する線状の部材の直径は、例えば0.1mm~2.0mmである。
【0033】
捕捉デバイス10は、線状体40の個数や配置、形状を適宜設定することにより、流通孔31の空隙率を任意に変更することが容易である。
【0034】
線状体40は、変形した後に元の形状へ復元できるように、高い弾性を有することが好ましい。線状体40を形成する材料は、樹脂、エラストマー、ゴム、金属またはこれらの少なくとも2つの組み合わせであってもよい。樹脂、エラストマーまたはゴムは、前述したバルーン30に適用可能な材料を適用できる。金属は、例えば高い弾性を有するニッケル-チタン合金等の形状記憶合金、ステンレス鋼、金、白金等を適用できる。線状体40が、樹脂、エラストマーまたはゴムで形成される場合、線状体40は、バルーン30に融着、接着剤による接着またはバルーン30への埋め込みによりバルーン30の内周面33に固定可能である。また、線状体40がバルーン30とともに柔軟に変形可能であるため、バルーン30収縮時の捕捉デバイス10の外径を小さくすることができ、捕捉デバイス10の血管への挿入や抜去が容易となる。線状体40が、金属で形成される場合、線状体40は、バルーン30に接着剤による接着やバルーン30への埋め込みによりバルーン30の内周面33に固定可能である。また、金属で形成された線状態40は、樹脂等で形成された場合よりも剛性が高いため、大きな血栓を効果的に捕捉できる。
【0035】
次に、線状体40が固定されたバルーン30を形成する方法の一例を説明する。まず、
図8(A)に示すように、シャフト20の先端部に固定されて平面状に広がるバルーン30の一方の表面に、線状体40を固定する。次に、平面状に広がるバルーン30の、シャフト20の長軸方向と垂直な方向の両端が接触するように、バルーン30を湾曲させる。このとき、バルーン30は、線状体40が固定された面が内側となるように湾曲される。次に、接触させたバルーン30の両端を融着する。これにより、複数の線状体40がバルーン30の内周面33に固定され、長軸Xに沿って貫通する流通孔31を有する筒状のバルーン30を容易に形成できる。また、平面状のバルーン30の基端部を、シャフト20との接合部から先端側に向かって広がるような形状とすることにより、傾斜した基端面32を有する筒状のバルーン30を容易に形成できる。
【0036】
次に、第1実施形態に係る捕捉デバイス10の使用方法を、血管が狭窄した病変200から脱落する血栓201を捕捉する場合を例として説明する。
【0037】
まず、術者は、経皮的に血管内へガイドワイヤ100を挿入し、ガイドワイヤ100を病変200よりも末梢側まで到達させる。次に、術者は、ガイドワイヤ100の基端部をガイディングカテーテル110(またはガイディングシース)に挿入し、ガイドワイヤ100に沿って、ガイディングカテーテル110の先端を病変200の手前に配置する。次に、術者は、ガイドワイヤ100の基端を捕捉デバイス10のガイドワイヤルーメン25に挿入し、ガイディングカテーテル110の内腔に捕捉デバイス10を挿入する。次に、術者は、
図9(A)に示すように、捕捉デバイス10をガイディングカテーテル110の先端から血管内へ突出させ、捕捉デバイス10のバルーン30が病変200よりも末梢側に配置されるように、捕捉デバイス10を押し進める。
【0038】
次に、術者は、ハブ開口部51(
図1を参照)から拡張用流体を拡張ルーメン26および連通孔27を介してバルーン30内へ供給する。拡張ルーメン26の連通孔27からバルーン30内に流入した流体は、
図9(B)に示すように、バルーン30を拡張させる。拡張したバルーン30の外周面は、血管の内壁面に適切な押圧力で密着する。また、バルーン30の拡張にともなって、バルーン30の内周面33に固定された複数の線状体40が、流通孔31に配置される。
【0039】
次に、術者は、吸引用のカテーテル(例えばガイディングカテーテル110)の先端を病変200に近づけて、病変200を吸引して除去する。このとき、吸引用のカテーテルに吸引されずに血流によって末梢側へ流れた血栓201は、バルーン30の流通孔31を通って末梢側へ流れ、
図10(A)に示すように、流通孔31に配置された複数の線状体40により捕捉される。なお、血栓201を吸引するデバイスは、ガイディングカテーテル110でなくてもよい。
【0040】
線状体40に捕捉された血栓201の量が多い場合、術者は、吸引用のカテーテルの先端をバルーン30の流通孔31の基端に近づけて、複数の線状体40に捕捉された血栓201を吸引して除去してもよい。捕捉デバイス10は、バルーン30が流通孔31を有するため、血栓201の吸引時に血管内が陰圧となることにより血管が潰れることを抑制できる。
【0041】
次に、術者は、ハブ開口部51から拡張用流体を抜き取り、バルーン30を収縮させる。バルーン30の収縮に伴い、バルーン30の内周面33に固定されている複数の線状体40は、流通孔31に残存している血栓201とともに柔軟に変形する。
【0042】
術者は、バルーン30を収縮させた後に、バルーン30にガイディングカテーテル110の先端を近づけて、バルーン30をガイディングカテーテル110の内腔に格納する。このとき、バルーン30は、基端面32が傾斜しているため、バルーン30の基端部がガイディングカテーテル110の先端開口に引っ掛かることなく、ガイディングカテーテル110の内腔へ円滑に格納される。次に、術者は、ガイディングカテーテル110とともに捕捉デバイス10を体外へ抜去する。これにより、捕捉デバイス10を用いた手技が完了する。なお、この後、術者は、必要に応じて、バルーンやステントによる病変部の拡張を行ってもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る捕捉デバイス10は、流体が流通可能な拡張ルーメン26を有するシャフト20と、シャフト20の先端部に固定されてシャフト20の径方向へ拡張可能であり、拡張ルーメン26に連通する内腔を有し、シャフト20の長軸Xの方向に沿って貫通する流通孔31が形成されるバルーン30と、バルーン30の内周面33から流通孔31に突出する複数の線状体40と、を有する。このような捕捉デバイス10は、流通孔31を有するバルーン30が血管壁に密着するため、流通孔31で末梢側への血流を確保しつつ、血液とともに流れる物体を流通孔31に誘導して、流通孔31に配置された複数の線状体40で物体(例えば血栓201)を捕捉できる。このため、捕捉デバイス10は、組織や血管壁の損傷リスクを低減しつつ、血液とともに流れる物体を捕捉して末梢閉塞を防止できる。
【0044】
バルーン30の基端面32は、シャフト20の長軸Xと垂直な面に対して0度を超えて90度未満の角度でバルーン30の先端方向へ向かって傾斜し、バルーン30の基端面32の最も基端側の部位の近傍でシャフト20と固定される。これにより、捕捉デバイス10は、バルーン30を、基端面32からガイディングカテーテル110やガイディングシース等の内腔に格納することが容易である。
【0045】
少なくとも1つの線状体40のバルーン30の内周面33からの高さHは、流通孔31の半径R以上である。これにより、少なくとも1つの線状体40が流通孔31の中心まで到達するため、流通孔31の中心に物体を捕捉できない領域が形成されることを抑制できる。
【0046】
流通孔31の空隙率は、流通孔31の基端から先端へ向かって減少する。これにより、捕捉デバイス10は、流通孔31の基端部で大きな血栓を捕捉し、流通孔31の先端部で小さな血栓を捕捉できるため、様々な大きさの血栓を効果的に捕捉できる。また、流通孔31の基端部で大きな血栓が捕捉され、流通孔31の先端部で小さな血栓が捕捉されることで、捕捉された血栓を流通孔31の基端側から吸引して除去することが容易である。
【0047】
長軸Xと垂直な投影面へ流通孔31内の全ての線状体40を投影した場合の、投影面における流通孔31内の全面積に占める空間の面積の割合である投影空隙率は、80%未満である。これにより、捕捉デバイス10は、流通孔31を血液とともに流れる物体を確実に捕捉できるため、末梢閉塞を防止できる。
【0048】
複数の線状体40は、互いに接触している。これにより、複数の線状体40は、接触部において互いに支持し合うことで、血液や物体から力を受けても形状を維持することができるため、物体を確実に捕捉できる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、捕捉デバイス10は、シャフトの先端からハブまで連通するガイドワイヤルーメンを有するオーバーザワイヤー(OTW)型のデバイスであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 捕捉デバイス
20 シャフト
21 外管
22 内管
23 先端開口部
24 基端開口部
25 ガイドワイヤルーメン
26 拡張ルーメン
27 連通孔
30 バルーン
31 流通孔
32 基端面
33 バルーンの内周面
40 線状体
41 本体部
42 分岐部
50 ハブ
51 ハブ開口部
100 ガイドワイヤ
110 ガイディングカテーテル
200 病変
201 血栓(物体)
H 線状体の高さ
R 流通孔の半径
X 長軸