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特開2024-171812芯鞘構造紡績糸、それを含む織編物、それらの製造方法及び衣料品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171812
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】芯鞘構造紡績糸、それを含む織編物、それらの製造方法及び衣料品
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20241205BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20241205BHJP
   D03D 15/44 20210101ALI20241205BHJP
   D03D 15/208 20210101ALI20241205BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20241205BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20241205BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20241205BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20241205BHJP
【FI】
D02G3/36
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/208
D03D15/283
D04B1/14
A41D31/00 503F
A41D31/00 503C
A41D31/00 502A
A41D31/04 F
A41D31/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089051
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小泉 一博
(72)【発明者】
【氏名】山内 洋
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB01
4L002AB04
4L002AC02
4L002AC07
4L002BA01
4L002DA01
4L002EA00
4L002EA08
4L002FA01
4L036MA04
4L036MA06
4L036MA09
4L036MA39
4L036UA07
4L048AA08
4L048AA13
4L048AA14
4L048AA19
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA49
4L048AA50
4L048AB01
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC09
4L048AC10
4L048AC11
4L048CA07
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成され、染色後の嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物が得られる芯鞘構造紡績糸、それを含む織編物、それらの製造方法及び衣料品を提供する。
【解決手段】本発明は、芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸であって、前記芯部は、合成繊維の短繊維で構成され、前記鞘部は、セルロース系短繊維で構成され、前記合成繊維の短繊維は、前記合成繊維の短繊維の伸度は100%以下であり、かつ前記セルロース系短繊維の伸度より10%以上高く、前記合成繊維の短繊維の100℃における熱水収縮率が4.0%以上である芯鞘構造紡績糸に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸であって、
前記芯部は、合成繊維の短繊維で構成され、
前記鞘部は、セルロース系短繊維で構成され、
前記合成繊維の短繊維の伸度は100%以下であり、かつ前記セルロース系短繊維の伸度より10%以上高く、前記合成繊維の短繊維の100℃における熱水収縮率が4.0%以上である、芯鞘構造紡績糸。
【請求項2】
前記セルロース系短繊維は、綿繊維及びレーヨン短繊維からなる群から選ばれる1以上を含む、請求項1に記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項3】
前記合成繊維の短繊維は、ポリアミド系短繊維を含む、請求項1に記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項4】
前記芯鞘構造紡績糸の質量を100質量%としたとき、前記芯部の割合が20質量%以上70質量%以下であり、前記鞘部の割合が30質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項5】
芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸の製造方法であって、
合成繊維の短繊維で構成されている第1スライバーと、セルロース系短繊維で構成されている第2スライバーを、第1スライバーが芯側に配置し、第2スライバーが鞘側に配置するようにしてコアヤーン用スライバーを作製する工程、及び
前記コアヤーン用スライバーを粗紡して得られた粗糸を精紡して芯鞘構造紡績糸を得る工程を含み、
前記合成繊維の短繊維の伸度は100%以下であり、かつ前記セルロース系短繊維の伸度より10%以上高く、前記合成繊維の短繊維の100℃における熱水収縮率が4.0%以上である、芯鞘構造紡績糸の製造方法。
【請求項6】
前記セルロース系短繊維は、コットン繊維及びレーヨン短繊維からなる群から選ばれる1以上を含む、請求項5に記載の芯鞘構造紡績糸の製造方法。
【請求項7】
前記合成繊維の短繊維は、ポリアミド系短繊維を含む、請求項5に記載の芯鞘構造紡績糸の製造方法。
【請求項8】
第1スライバー及び第2スライバーの合計質量を100質量%としたとき、第1スライバーの割合が20質量%以上70質量%以下であり、第2スライバーの割合が30質量%以上80質量%以下である、請求項5に記載の芯鞘構造紡績糸の製造方法。
【請求項9】
織編物の製造方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸を用いて織編物を作製する工程、
得られた織編物を精練する工程、及び
前記精練を行った織編物に対し、必要に応じて染色する工程を含む、織編物の製造方法。
【請求項10】
前記織編物は、天竺編地であり、前記精練を、80℃以上120℃以下で行う、請求項9に記載の織編物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸を含み、染色されている織編物。
【請求項12】
前記織編物は、染色された天竺編地であり、目付が80g/m2以上450g/m2以下であり、かつ嵩密度が0.240g/cm3以下である、請求項11に記載の織編物。
【請求項13】
請求項11に記載の織編物を含む、衣料品。
【請求項14】
前記織編物は、染色された天竺編地であり、目付が80g/m2以上450g/m2以下であり、かつ嵩密度が0.240g/m3以下である、請求項13に記載の衣料品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸、それを含む織編物、それらの製造方法及び衣料品に関する。
【背景技術】
【0002】
天然繊維といわれる繊維のうち、綿(コットン)や麻といった、生分解性を有するセルロース系繊維は、吸水性に優れ、耐久性にも優れることから、古くから衣料品に使用されている。特に綿(コットン)は吸水性や耐久性の他、衣料品にしたときの風合いの良さもあり、衣料用の繊維として広く使用されている。
そして、綿を使用した紡績糸、織編物、及びそれらを使用した衣料品に対し、吸水性、耐久性、衣料品としたときに風合いの良さに加え、速乾性を高める、保温性を高める、といった機能を付与するため、綿と他の繊維との混紡糸(複数の繊維を混綿・混合した状態で紡績した紡績糸)にしたり、2層構造の芯鞘構造紡績糸にしたり、他の繊維で作られた紡績糸を、綿紡績糸で覆うカバリング糸にしたりすることで、更なる高機能化が図られている。
例えば、特許文献1には、ポリアミド系繊維とセルロース系繊維からなる複合糸が記載され、複合糸のより芯側にセルロース系繊維を配置してもよいことが記載されている。特許文献2には、芯部と鞘部からなる複合糸において、綿を主体とする素材で芯部を構成し、鞘部をナイロンフィラメント等で構成することが記載されている。特許文献3には、合成繊維の短繊維を紡績糸の中心部に配置し、セルロース系短繊維を紡績糸の外側に配置した複重層糸を用いてなるハンカチ用布帛が記載されている。特許文献4には、芯糸とステープル繊維束からなる嵩高紡績糸において、芯糸とステープル繊維束を構成する繊維として、天然セルロース繊維、再生繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維等が記載され、芯糸はフィラメント又は紡績糸又はこれらの併用糸であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-111201号公報
【特許文献2】特開2005-350804号公報
【特許文献3】特開2014-101619号公報
【特許文献4】特開2015-101619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の複合糸は、鞘側、すなわち糸の外側に合成繊維が配置される構造になっているため、セルロース系繊維よりも剛直な合成繊維が糸や織編物、衣料品の表面を構成するようになり、風合いの点で問題があった。
また、特許文献3及び特許文献4に記載の複重層糸や嵩高紡績糸において、芯部にポリエステル短繊維を用いた場合、ポリエステル繊維が合成繊維の中では比重が高い繊維であり、かつ剛性の高い合成繊維であることに起因し、得られる糸の構造が密なものとなることから、得られる複重層糸や嵩高紡績糸を用いた織編物の嵩高性が劣る恐れがある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成され、嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物が得られる芯鞘構造紡績糸、それを含む織編物、それらの製造方法及び衣料品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸であって、前記芯部は、合成繊維の短繊維で構成され、前記鞘部は、セルロース系短繊維で構成され、前記合成繊維の短繊維の伸度は100%以下であり、かつ前記セルロース系短繊維の伸度より10%以上高く、前記合成繊維の短繊維の100℃における熱水収縮率が4.0%以上である芯鞘構造紡績糸に関する。
【0007】
本発明は、また、芯部と鞘部を含む芯鞘構造紡績糸の製造方法であって、合成繊維の短繊維で構成されている第1スライバーと、セルロース系短繊維で構成されている第2スライバーを、第1スライバーが芯側に配置し、第2スライバーが鞘側に配置するようにしてコアヤーン用スライバーを作製する工程、及び前記コアヤーン用スライバーを粗紡して得られた粗糸を精紡して芯鞘構造紡績糸を得る工程を含み、前記合成繊維の短繊維の伸度は100%以下であり、かつ前記セルロース系短繊維の伸度より10%以上高く、前記合成繊維の短繊維の100℃における熱水収縮率が4.0%以上である芯鞘構造紡績糸の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、また、織編物の製造方法であって、前記芯鞘構造紡績糸を用いて織編物を作製する工程、得られた織編物を精練する工程、及び前記精練を行った織編物に対し、必要に応じて染色する工程を含む織編物の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、また、前記芯鞘構造紡績糸を含み、染色されている織編物に関する。
【0010】
本発明は、また、前記織編物を含む衣料品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成され、嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物が得られる芯鞘構造紡績糸を提供することができる。
本発明は、また、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成されている芯鞘構造紡績糸を含み、嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物及びそれを含む衣料品を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成され、嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物が得られる芯鞘構造紡績糸を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、また、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成されている芯鞘構造紡績糸を含み、嵩高性が良好であり、抗ピリング性を有する編織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発明者らは、セルロース系短繊維を含み、芯部及び鞘部のいずれも短繊維で構成されている芯鞘構造紡績糸を含む編織物の嵩高性及び抗ピリング性を改善するために鋭意検討した。その結果、芯鞘構造紡績糸において、鞘部をセルロース系短繊維で構成し、芯部をセルロース系短繊維より伸度が高く、かつ所定の伸度及び熱水収縮性を有する合成繊維の短繊維で構成することで、該芯鞘構造紡績糸を用いた編織物の抗ピリング性及び嵩高性が良好になることを見出した。
【0013】
具体的には、本発明の1以上の実施形態の芯鞘構造紡績糸は、糸の長手方向に垂直な断面において芯部及び鞘部を有するものであり、前記芯鞘構造紡績糸を構成するセルロース系短繊維を紡績糸のより外側(鞘側)に配置し、前記芯鞘構造紡績糸を構成する合成繊維の短繊維を紡績糸のより内側、すなわち糸の中心部分(芯側)に配置した芯鞘構造となっている。
紡績糸において、原料となる短繊維が伸度を有していると紡績工程、特に、太い糸(粗糸)に対し、撚りをかけながら目標とする太さ(番手)まで細くする精紡工程において、伸度のある短繊維が伸びてしまうため、糸切れや紡績糸の繊度ムラ(番手ムラ)を引き起こすおそれがある。本発明では、紡績糸の外側にセルロース系短繊維を配置し、前記セルロース系短繊維より伸度が高く、かつ伸度が100%以下である合成繊維の短繊維を紡績糸の中心部分に集まるように配置された芯鞘構造の紡績糸にすることで、精紡工程にて発生する伸度の影響が抑えられるだけでなく、精紡工程が終わった後、合成繊維の短繊維に発生している伸びが戻ることで、嵩高な紡績糸が得られるようになることを見出した。
加えて、精紡工程にて引き延ばされていた合成繊維の短繊維が元の長さに戻ろうとすることで、紡績糸の外側により多く配置されている、前記合成繊維の短繊維よりも伸度の小さいセルロース系短繊維は長さが余るようになり、余った長さの分、合成繊維の短繊維を覆う部分が増えるようになる。その結果、セルロース系短繊維により紡績糸の中心部分、すなわち紡績糸の中心部分を構成する合成繊維の短繊維が覆われやすくなることで合成繊維が露出しにくくなり、該紡績糸を用いた織編物のピリングに対する耐久性、すなわち抗ピリング性が高まる。
また、精紡工程後に発生する、紡績糸の中心部分を構成している合成繊維の短繊維が収縮することで紡績糸の直径が増加し、該紡績糸を用いた織編物の嵩高性が向上する。加えて、合成繊維の短繊維の熱水収縮率が大きいこと、具体的には、100℃における熱水収縮率が4%以上であることにより、紡績糸やそれを用いた織編物に対して精練(精練漂白を含む)や染色を行う際、紡績糸の中心部分を構成する合成繊維の短繊維が適度に熱収縮する。その結果、紡績糸の中心部分を構成する合成繊維の短繊維の熱収縮によって紡績糸の直径が増加し、該織編物は嵩高な生地となり、薄手の織編物において生地の触感、質感が向上する。
特に、合成繊維の短繊維として、比重が比較的低く、伸度が高く、適度な熱水収縮性を有するポリアミド系短繊維を好適に用いることで、ポリアミド系短繊維を紡績糸の芯側(紡績糸の内側、紡績糸の中心部分)に配置し、セルロース系短繊維を紡績糸の鞘側(紡績糸の外側、紡績糸の表面部分)に配置した芯鞘構造紡績糸及びそれを用いた編織物の嵩高性が高まるとともに、抗ピリング性も向上する。
通常、織編物は、製織や製編した後に、精練や精練漂白を行い、その後、必要に応じて染色を行う。本明細書において、「染色後の織編物」及び「染色された織編物」には、精練・漂白処理を行った後、任意の色に染色された織編物を含むだけでなく、製織や製編した後に、精練・漂白処理を行い、白色度の高い状態に仕上げられた織編物を含む。なお、白色には、つや・光沢のある白色の他、適度につや・光沢を抑えたセミブライトの白色や、つや・光沢を抑えたオフホワイトを含む。
【0014】
本発明の芯鞘構造紡績糸において、紡績糸の外側、すなわち紡績糸の表面に近い部分である、紡績糸の鞘部は、セルロース系短繊維で構成される。具体的には、鞘部は、抗ピリング性、嵩高性、及び風合い等の観点から、セルロース系短繊維を80質量%以上含んでもよく、85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、実質的にセルロース系短繊維100質量%からなることが特に好ましい。
【0015】
セルロース系短繊維は、天然セルロース繊維でもよく、再生セルロース短繊維でもよい。天然セルロース繊維は、特に限定されず、例えば、綿(コットン)繊維、麻繊維(リネン・ラミー)、ジュート、及びカポック等が挙げられる。再生セルロース短繊維は、特に限定されず、例えば、ビスコースレーヨン(単にレーヨンとも称される。)、ポリノジック、キュプラ、精製セルロース繊維(リヨセル、テンセル)、アセテート、及びトリアセテート等が挙げられる。
【0016】
セルロース系短繊維は、特に限定されないが、例えば、衣料品に好適に用いる観点から、単繊維繊度が0.4dtex以上5dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上3.5dtex以下であることがより好ましく、0.6dtex以上2.5dtex以下であることがさらに好ましい。綿繊維の場合、単繊維繊度は2.8マイクロネア以上5.5マイクロネア以下(1.1dtex以上2.2dtex以下)であることが好ましく、3.5マイクロネア以上4.9マイクロネア以下(1.3dtex以上1.9dtex以下)であることがより好ましい。
【0017】
セルロース系短繊維は、特に限定されないが、紡績工程の生産性の観点から、繊維長が22mm以上55mm以下であることが好ましく、28mm以上55mm以下であることがより好ましく、32mm以上54mm以下であることがさらに好ましい。綿繊維の場合、繊維長は22mm以上45mm以下であることが好ましく、24mm以上43mm以下であることがより好ましい。
【0018】
セルロース系短繊維は、抗ピリング性の観点から、綿繊維、レーヨン短繊維及び精製セルロース短繊維からなる群から選ばれる1以上を含むことが好ましく、綿繊維及びレーヨン短繊維からなる群から選ばれる1以上を含むことがより好ましく、綿繊維を含むことが特に好ましい。
【0019】
鞘部は、本発明の効果を阻害しない範囲において、セルロース系短繊維に加えて、他の繊維を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。他の繊維は、吸湿性の観点から、親水性繊維であることが好ましく、例えば、公定水分率が3%以上の繊維を用いてもよい。他の繊維は、特に限定されないが、例えば、衣料品に好適に用いる観点から、単繊維繊度が0.4~5dtexであることが好ましく、0.5dtex以上3.5dtex以下であることがより好ましく、0.6dtex以上2.5dtex以下であることがさらに好ましい。他の繊維は、特に限定されないが、例えば、紡績工程の生産性の観点から、繊維長が24mm以上55mm以下であることが好ましく、28mm以上55mm以下であることがより好ましく、32mm以上54mm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の芯鞘構造紡績糸において紡績糸の内側、すなわち紡績糸のより中心に近い部分である紡績糸の芯部は、紡績糸の外側、すなわち紡績糸の表面に近い部分である紡績糸の鞘部を構成している前記セルロース系短繊維より伸度が10%以上高く、かつ伸度が100%以下であり、100℃における熱水収縮率が4.0%以上である合成繊維の短繊維(以下、短繊維Aとも記す。)で構成される。具体的には、芯部は、抗ピリング性及び嵩高性の観点から、短繊維Aを80質量%以上含んでもよく、85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、実質的に短繊維A100質量%からなることが特に好ましい。
【0021】
短繊維Aは、紡績性の観点から、伸度が95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましく、80%以下であることがさらにより好ましく、75%以下であることが特に好ましい。短繊維Aは、抗ピリング性及び嵩高性の観点から、セルロース系短繊維より伸度が15%以上高いことが好ましく、20%以上高いことがより好ましく、25%以上高いことがさらに好ましく、30%以上高いことが特に好ましい。セルロース系短繊維の伸度は、使用するセルロース系短繊維の種類によって変化するが、綿繊維であれば一般的には5~10%、レーヨン短繊維であれば15~20%、精製セルロース短繊維(テンセル短繊維・リヨセル短繊維)であれば5~15%であることから、短繊維Aは、具体的には、伸度が20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらにより好ましく、35%以上であることが特に好ましい。本明細書において、繊維の伸度は実施例に記載の通りに測定することができる。
【0022】
短繊維Aは、嵩高性の観点から、100℃における熱水収縮率が4.2%以上であることが好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、4.8%以上であることがさらに好ましく、5.0%以上であることが特に好ましい。また、短繊維Aは、芯鞘構造紡績糸の後加工性(例えば、芯鞘構造紡績糸を使用した織成工程又は編成工程の生産性、及び得られた織編物を使用した衣料品の生産性等)等の観点から、100℃における熱水収縮率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、8%以下であることが特に好ましい。本明細書において、繊維の100℃における熱水収縮率は実施例に記載の通りに測定することができる。
【0023】
短繊維Aは、上述した伸度及び100℃における熱水収縮率を満たす合成繊維であればよく、特に限定されないが、比重が比較的低く、伸度が高く、熱水収縮が大きく、嵩高い紡績糸及び織編物が得られやすい観点から、ポリアミド系繊維(ナイロン繊維とも称される。)であることが好ましい。
【0024】
短繊維Aは、特に限定されないが、例えば、衣料品に好適に用いる観点から、単繊維繊度が0.4dtex以上5dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上3.5dtex以下であることがより好ましく、0.6dtex以上2.5dtex以下であることがさらに好ましい。
【0025】
短繊維Aは、特に限定されないが、紡績工程の生産性の観点から、繊維長が22mm以上55mm以下であることが好ましく、28mm以上55mm以下であることがより好ましく、32mm以上54mm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
芯部は、本発明の効果を阻害しない範囲において、短繊維Aに加えて、他の繊維を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。他の繊維は、速乾性の観点から、疎水性繊維であることが好ましく、例えば、公定水分率が3%未満の繊維を用いてもよい。他の繊維は、特に限定されないが、例えば、衣料品に好適に用いる観点から、単繊維繊度が0.4dtex以上5dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上3.5dtex以下であることがより好ましく、0.6dtex以上2.5dtex以下であることがさらに好ましい。他の繊維は、特に限定されないが、例えば、紡績工程の生産性の観点から、繊維長が24mm以上55mm以下であることが好ましく、28mm以上55mm以下であることがより好ましく、32mm以上54mm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
芯鞘構造紡績糸は、芯鞘構造紡績糸の質量を100質量%としたとき、嵩高性、抗ピリング性、吸湿性、及び吸水速乾性の観点から、芯部の割合が20質量%以上70質量%以下、及び鞘部の割合が30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、芯部の割合が25質量%以上65質量%以下、及び鞘部の割合が35質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、芯部の割合が30質量%以上60質量%以下、及び鞘部の割合が40質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
芯鞘構造紡績糸は、染色されてもよい。染色された芯鞘構造紡績糸において、芯部を構成する短繊維Aは、伸度及び100℃における熱水収縮率が上述した範囲を満たしてもよく、満たさなくてもよい。例えば、染色された芯鞘構造紡績糸において、芯部を構成する合成繊維の短繊維は、伸度が20%以上100%以下でもよく、100℃における熱水収縮率が1%以上10%以下でもよく1.5%以上5%以下でもよく、1.8%以上3%以下でもよい。
【0029】
芯鞘構造紡績糸の番手は、特に限定されないが、英式綿番手で5~70番手の範囲であってもよく、好ましくは10~60番手であり、より好ましくは15~50番手であり、特に好ましくは20~45番手である。
【0030】
芯鞘構造紡績糸は、特に限定されないが、芯鞘構造紡績糸を使用した織物・編物といった生地表面の外観に優れるという観点から、例えば、長さ3mm以上の毛羽数が250本/10m以下であることが好ましく、240本/10m以下であることがより好ましい。また、長さ5mm以上の毛羽数が50本/10m以下であることが好ましく、45本/10m以下であることがより好ましい。また、長さ10mm以上の毛羽数が5本/10m以下であることが好ましく、3本/10m以下であることがより好ましく、2本/10m以下であることがさらに好ましく、1本/10m以下であることが特に好ましい。紡績糸の毛羽数は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0031】
芯鞘構造紡績糸は、嵩高性の観点から、芯鞘構造紡績糸100質量%からなる目付が100g/m2以上180g/m2以下の天竺編地を編成し、染色した場合、嵩密度が0.240g/cm3以下であることが好ましく、0.235g/cm3以下であることが好ましく0.230g/cm3以下であることがより好ましい。
【0032】
芯鞘構造紡績糸は、特に限定されないが、例えば、短繊維Aで構成されている第1スライバーと、セルロース系短繊維で構成されている第2スライバーを、第1スライバーが芯側に配置し、第2スライバーが鞘側に配置するようにしてコアヤーン用スライバーを作製した後、コアヤーン用スライバーを粗紡して得られた粗糸を精紡して芯鞘構造紡績糸を得ることができる。好適には、精紡をリング精紡機で行うことで、リング紡績糸を得ることができる。
【0033】
セルロース短繊維及び短繊維Aとしては、上述したものを適宜用いることができる。短繊維Aは、ポリアミド系短繊維を含むことが好ましい。セルロース系短繊維は、綿繊維、レーヨン短繊維及び精製セルロース短繊維からなる群から選ばれる1以上を含むことが好ましく、綿繊維及びレーヨン短繊維からなる群から選ばれる1以上を含むことがより好ましく、綿繊維を含むことが特に好ましい。
【0034】
第1スライバーは、芯鞘構造紡績糸の芯部となるものであり、短繊維Aを80質量%以上含んでもよく、85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、実質的に短繊維A100質量%からなることが特に好ましい。第1スライバーは、本発明の効果を阻害しない範囲において、短繊維Aに加えて、上述した芯部に用いる他の繊維を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。
【0035】
第2スライバーは、芯鞘構造紡績糸の鞘部となるものであり、セルロース系短繊維を80質量%以上含んでもよく、85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、実質的にセルロース系短繊維100質量%からなることが特に好ましい。第2スライバーは、本発明の効果を阻害しない範囲において、セルロース系短繊維に加えて、上述した鞘部に用いる他の繊維を20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下含んでもよい。
【0036】
コアヤーン用スライバーにおいて、第1スライバー及び第2スライバーの合計質量を100質量%とした場合、第1スライバーの割合が20質量%以上70質量%以下、及び第2スライバーの割合が30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、第1スライバーの割合が25質量%以上65質量%以下、及び第2スライバーの割合が35質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、第1スライバーの割合が30質量%以上60質量%以下、及び第2スライバーの割合が40質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
練条工程にて第1スライバーが芯側に配置され、第2スライバーが鞘側に配置されるようにしてコアヤーン用スライバーを作製した以外は、通常のリング紡績で同様にして、芯鞘構造紡績糸を得ることができる。例えば、精紡工程において、ドラフト(延伸)10倍以上60倍以下でもよく、撚り係数は2以上7以下でもよい。
【0038】
リング紡績で得られた芯鞘構造紡績糸は、必要に応じて、染色されてもよい。
【0039】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、本発明に1以上の実施形態の芯鞘構造紡績糸を含み、染色されている。織編物は、抗ピリング性及び嵩高性を高める観点から、芯鞘構造紡績糸を50質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上含むことがより好ましく、85質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことがさらにより好ましく、100質量%からなることが特に好ましい。織編物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述した芯鞘構造紡績糸に加えて、他の糸、例えば他の紡績糸及び/又はフィラメント糸を含んでもよい。なお、織編物は、単層構造であってもよく、二層以上の層を含んでもよい。
【0040】
編物の場合、単面編みの天竺編地でもよく、単面編みの変形編みである鹿の子編地、メッシュ編地、裏毛編地であってもよく、両面編でのスムース編地、ダンボール編地、ワッフル編地でもよい。両面編みの場合、上述した芯鞘構造紡績糸は表面層及び/又は裏面層に用いることができる。
【0041】
編物が本発明の1以上の実施形態の芯鞘構造紡績糸100質量%からなり、染色された天竺編地であり、目付が100g/m2以上180g/m2以下の場合、嵩高性の観点から、嵩密度が0.240g/cm3以下であることが好ましく、0.235g/cm3以下であることがより好ましく、0.230g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0042】
織物の場合、平織、綾織、朱子織等の一重織でもよく、二重織でもよい。
【0043】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、抗ピリング性の観点から、JIS L 1076:2012 A法に基づき、ICI形試験機を使用して測定したピリングが3級以上であることが好ましく、3.5級以上であることがより好ましい。
【0044】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、速乾性が高いことで、当該織編物を衣料品にした際、洗濯後に乾燥やすい、乾燥までに要する時間が短くなり好ましい、という観点から、拡散性残留水分率試験において試験開始から拡散性残留水分率が10%以下に至るまでの時間が、75分以下であることが好ましく、72分以下であることがより好ましく、68分以下であることがさらに好ましい。また、織編物は、洗濯耐久性の観点から、洗濯10回後の拡散性残留水分率試験において試験開始から拡散性残留水分率が10%以下に至るまでの時間が、75分以下であることが好ましく、72分以下であることがより好ましく、69分以下であることがさらに好ましい。拡散性残留水分率試験は、吸水した布帛の乾燥性を評価する試験であり、拡散性残留水分率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0045】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、吸水性が高いことで、当該織編物を衣料品にした際、発汗した汗を素早く吸収することで着心地が良好なものになりやすい、という観点から、JIS L 1907:2010 滴下法にて測定した吸水速度がより短時間であることが好ましい。より具体的には、本発明の1以上の実施形態の編物は、JIS L 1907:2010 滴下法にて測定した吸水速度が8秒以下であることが好ましく、5秒以下であることがより好ましく、3秒以下であることがさらに好ましい。また、織編物は、洗濯耐久性の観点から、洗濯10回後のJIS L 1907:2010 滴下法にて測定した吸水速度が10秒以下であることが好ましく、5秒以下であることがより好ましく、3秒以下であることがさらに好ましい。
また、本発明の1以上の実施形態の織物は、JIS L 1907:2010 滴下法にて測定した吸水速度が30秒以下であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましく、15秒以下であることがさらに好ましい。また、織編物は、洗濯耐久性の観点から、洗濯10回後のJIS L 1907:2010 滴下法にて測定した吸水速度が30秒以下であることが好ましく、25秒以下であることがより好ましく、20秒以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、当該織編物を使用した衣料製品を着用した際の着用感の観点から、40℃かつ相対湿度90%の条件下で4時間放置した際の吸湿後の水分率が8%以上18%以下であることが好ましく、8.5%以上15%以下であることがより好ましく、8.8%以上12%以下であることがさらに好ましい。また、織編物は、当該織編物を使用した衣料製品を着用した際の着用感の観点から、40℃かつ相対湿度90%の条件下で4時間放置して吸湿させた後、20℃かつ相対湿度55%の条件下で4時間放置した後の水分率が5%以上15%以下であることが好ましく、5.5%以上12%以下であることがより好ましく、6%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、軽量性や着用性等の観点から、例えば、目付が450g/m2以下であることが好ましく、400g/m2以下であることがより好ましく、300g/m2以下であることがさらに好ましく、200g/m2以下であることが特に好ましい。また、前記布帛は、特に限定されないが、透け感の観点から、目付が80g/m2以上であることが好ましく、90g/m2以上であることがより好ましく、100g/m2以上であることが特に好ましい。
【0048】
また、本発明の1以上の実施形態の織編物は、軽量性や着用性等の観点から、嵩密度が0.150g/cm3以上0.240g/cm3以下であることが好ましく、0.180g/cm3以上0.235g/cm3以下であることがより好ましく、0.200g/cm3以上0.230g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の1以上の実施形態の織編物は、上述した芯鞘構造紡績糸を用いて織編物を作製し、得られた織編物を染色することで製造することができる。
【0050】
織編物は、紡糸、製編や製織等の製造工程で繊維に付着した糊剤や油剤を除去するために精練や精練漂白を行う。精練漂白で使用する精練剤や精練漂白剤は特に限定されず、公知の過酸化水素系、塩素系、界面活性剤系の精練剤や精練漂白剤を使用できる。精練漂白は入手可能な精練剤や精練漂白剤を使用し、80℃以上120℃、好ましくは90℃以上105℃以下で行う。精練漂白を前記温度で行うことで、繊維に付着している不純物、色素、糊剤、油剤が十分に除去され、染色工程にて染色ムラが発生しにくくなるだけでなく、織編物に含まれる合成繊維の短繊維(短繊維A)が熱収縮し、得られる織編物の嵩高性が向上する。
【0051】
本発明の1以上の実施形態の織編物において、前記精練や精練漂白に加え、染色の前後に前処理或いは後処理を加えてもよい。染色の前処理として行われる処理としては、吸水処理が挙げられる。吸水処理を行うことで得られる織編物の吸水性が向上するため、当該織編物を使用した衣料品の吸水性(吸汗性)が良好になり、好ましい。吸水処理は、例えばポリエステル系、親水性ビニル系、吸水シリコーン系、親水性ウレタン系といった公知の吸水剤を使用して、精練漂白する際、もしくは染色する際に同じ処理槽で処理することが好ましく、仕上加工時にも併用することがより好ましい。
また、吸水柔軟処理は、例えば、エチレングリコール共重合体系、吸水シリコーン系、各種界面活性剤系等の吸水性を有する柔軟剤を使用して、仕上加工の際に用いて行うことができる。加えて染色加工や仕上げ加工の際に、追加の吸水処理の他、SR(Soil release 汚れ付着防止)処理、抗菌処理、帯電防止処理等を同時に施してもよい。
【0052】
染色は、鞘部を構成するセルロース系短繊維と芯部を構成する短繊維Aを染色できる染料を適宜用いて行うことができる。例えば、短繊維Aがポリアミド系繊維である場合、酸性染料や含金染料を用いて染色することができる。また短繊維Aがポリエステル繊維であれば、分散染料を用いて染色することができる。また、セルロース系短繊維に対しては、反応染料や建染染料(バット染料)、直接染料等を用いて染色することができる。染色温度は、特に限定されないが、染色性を高め、染色後の織編物においてその嵩高性を高めるという観点から、短繊維Aの染色温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。特に、短繊維Aがポリアミド系繊維であれば、染色温度は90℃以上120℃以下であることが好ましく、95℃以上105℃以下であることがより好ましい。また、セルロース系短繊維の染色温度は40℃以上100℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。染色時間は特に限定されないが、例えば、30分以上120分以下でもよい。なお、染色工程はセルロース系短繊維と短繊維Aを同時に染色(両染)してもよいし、短繊維Aとセルロース系短繊維を別々に染色(片染)してもよい。
【0053】
織編物は、衣料品に用いることができる。衣料としては、例えばスポーツ衣料類、ホームウェア類、肌着類、アウターウェア類等が挙げられる。スポーツ衣料類であれば、アウトドアシャツ、トレーニングウェア、スウェットシャツ・パンツ、ポロシャツ等が挙げられる。肌着類であれば、Tシャツ、ブリーフ、トランクス、キャミソール、ショーツ等が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は下記のとおりである。
【0056】
(1)繊維の繊度、強度及び伸度
単繊維用自動測定装置(ドイツTEXTECHNO製、型式「FAVIMAT AIROBOT 2」)を用い、初期荷重0.25cN/tex、本荷重0.5cN/tex、測定速度20.0mm/分、及びつかみ間隔10mmの条件下で、紡績前の繊維(原綿)、紡績糸から抜き取った繊維、又は生地から抜き取った繊維の繊度、強度及び伸度を測定した。紡績糸を解舒することで、繊維を抜き取ることができる。あるいは、生地から抜き取った紡績糸を解舒することで、繊維を抜き取ることができる。以下、同様である。
(2)繊維の捲縮数及び捲縮率
サーチ株式会社製の捲縮試験機PCM-31及びクリンプモニタCM-41を用い、初期荷重0.18mN/tex、本荷重4.41mN/tex、放置時間120秒及びつかみ間隔20mmの条件下で、紡績前の繊維、紡績糸から抜き取った繊維、又は生地から抜き取った繊維の捲縮数及び捲縮率を測定した。
(3)繊維の熱水収縮率
JIS L 1015:2021に基づき、紡績前の繊維、紡績糸から抜き取った繊維、及び生地から抜き取った繊維の100℃の熱水中に30分浸漬した際の熱水寸法変化率を測定算出し、その絶対値を熱水収縮率とした。なお、JIS L 1015:2021に基づいて測定算出した熱水寸法変化率は、「マイナス」の値となっており、これは熱水寸法変化率が収縮率であることを意味する。
(4)紡績糸の直径及び見掛密度
株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡SU 3500を用い、紡績糸(原糸)又は生地から抜き取った紡績糸の側面を張力のない状態で撮影した(倍率100倍)。生地から抜き取った紡績糸を解舒生地から抜き取った紡績糸を解舒することすることで、紡績糸を抜き取ることができる。1つの試料に対して異なる箇所の画像5枚を撮影した。各画像について3箇所の糸直径を求めた。得られた15個の値から最大値及び最小値を除いた後の13個の値の平均値を求め、その試料の糸直径とした。また、糸質量と糸直径から見掛密度を算出した。
(5)紡績糸の毛羽数
JIS L 1095(2010) 9.22.2 B法に準じて測定した。毛羽試験機としてF-INDEX TESTER(シキボウ株式会社)を用い、試験条件は、糸速30m/分、試験長10m、N=30とした。
(6)ピリング
JIS L 1076:2012 A法に基づき、ICI形試験機を使用してピリング試験を5時間行い、ピリングの発生の程度を確認した。
(7)吸水性
JIS L 1907:2010 滴下法に基づいて、測定面を裏面側として、吸水速度(秒)を測定した。洗濯0回(W0)及び洗濯10回後(W10)の生地から200mm×200mm試料を採取した。洗濯は、中性洗剤(繊維製品新機能評価協議会標準洗剤)を用い、JIS L 0217 103法に準じて実施した。
(8)速乾性
20℃×65%RH(相対湿度)下の雰囲気中で試料の裏面側に約0.3gの水を滴下させ、各時間の質量を測定し、下記式にて拡散性残留水分率を算出し、拡散性残留水分率が10%に至るまでに要する時間を測定した。洗濯0回(W0)及び洗濯10回後(W10)の生地から20cm×20cm試料を採取した。洗濯は、中性洗剤(繊維製品新機能評価協議会標準洗剤)を用い、JIS L 0217 103法に準じて実施した。
拡散性残留水分率(%)=各時間の水分量(g)/滴下直後の水分量(g)×100
(9)吸湿後の水分率及び放湿後の水分率
(I)試料を乾燥機で絶乾状態にし、質量を測定した(M1)。
(II)40℃×90%RH下で吸湿させ、4時間後の試料質量を測定した(M4h)。
(III)その後、20℃×65%RH下で放湿させ、4時間後の試料質量を測定した(M2h)。
(IV)下記式により、水分率を算出した。
吸湿後の水分率(%)=(M4h-M1)/M1×100
放湿後の水分率(%)=(M2h-M1)/M1×100
(10)目付、厚み及び嵩密度
JIS L 1096 に基づいて、生地の目付及び厚みを測定した。
生地の嵩密度は目付及び厚みに基づいて算出した。
(11)風合い
衣料品・テキスタイル製品の開発経験がある男性7人のモニターが手触りよる官能試験を行い、「バルキー性(肉感))、「反発感(ハリ、コシ))、「ソフト感(生地の柔らかさ)、「総合判定」の4項目について、以下の5段階の評価基準で評価した。それらの平均点に基づいて、下記の判定基準で風合いを判定した。
[評価基準]
5 良好
4 概ね良好
3 普通
2 やや劣る
1 劣る
[判定基準]
4以上5以下 かなり良好
3.50超え4未満 良好
3.00超え3.50以下 やや良好
2.80超え3.00以下 普通
2.80未満 不良
【0057】
実施例及び比較例において、下記の繊維(原綿)を用いた。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例1)
(紡績糸の製造)
ナイロン繊維としてPA1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、300ゲレン/6ヤードのナイロンスライバーを得た。また、綿繊維Co1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、233ゲレン/6ヤードの綿スライバーを得た。得られたナイロンスライバー2本、綿スライバー6本を更に練条工程に投入し、ナイロンスライバーが芯側に配置され、綿スライバーが鞘側に配置されるようにして360ゲレン/6ヤードのコアヤーン用スライバーを得た。得られたコアヤーン用スライバーを粗紡工程に投入し、90ゲレン/12ヤードの粗糸を作製し、その粗糸をリング精紡機にて28.8倍のドラフト、撚り係数3.8にて紡績し、英式綿番手32sの芯鞘構造紡績糸を作製した。
(編地の製造)
得られた芯鞘構造紡績糸を用い、30インチ28ゲージの丸編機(片面編)にて、糸長26cm/100針で天竺編地を作製した。
得られた天竺編地を液流染色機にて市販の精練剤、市販のノニオン系浴中柔軟剤、過酸化水素、アルカリ剤を含む前処理液中に、浴比1:10、温度98℃で40分間処理した後、酢酸による中和、湯洗い、水洗を行った。
上記にて得られた下晒生地を液流染色機で、市販されている染料(色:グレー)及びノニオン系吸水剤を含む染色液を用い、浴比1:10で、100℃で40分間染色を行った後、85℃で30分間ソーピングし、その後、酢酸による中和、湯洗い、水洗を行った。その後、液流染色機でノニオン系柔軟剤を付与後、脱水、乾燥を行った後、テンターでノニオン系吸水剤を付与し、グレー杢調に染色した生地を得た。
【0060】
(実施例2)
ナイロン繊維としてPA1に代えてPA2を用いた以外は、実施例1と同様にして、グレー杢調に染色した生地を得た。
【0061】
(実施例3)
(紡績糸の製造)
ナイロン繊維としてPA1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、300ゲレン/6ヤードのナイロンスライバーを得た。また、綿繊維Co1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、300ゲレン/6ヤードの綿スライバーを得た。得られたナイロンスライバー4本及び綿スライバー4本を更に練条工程に投入し、ナイロンスライバーが芯側に配置され、綿スライバーが鞘側に配置されるようにして、360ゲレン/6ヤードのコアヤーン用スライバーを得た。得られたコアヤーン用スライバーを粗紡工程に投入し、90ゲレン/12ヤードの粗糸を作製し、その粗糸をリング精紡機にて28.8倍のドラフト、撚り係数3.8にて紡績し、英式綿番手32sの芯鞘構造紡績糸を作製した。
(編地の製造)
上記で得られた芯鞘構造紡績糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてグレー杢調に染色した生地を得た。
【0062】
(比較例1)
(紡績糸の製造)
ナイロン繊維としてPA1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、300ゲレン/6ヤードのナイロンスライバーを得た。また綿繊維Co1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、233ゲレン/6ヤードのスライバーを得た。得られたナイロンスライバー2本、綿スライバー6本を更に練条工程に投入し、360ゲレン/6ヤードの混紡用スライバーを得た。得られた混紡用スライバーを粗紡工程に投入し、90ゲレン/12ヤードの粗糸を作成、その粗糸をリング精紡機にて28.8倍のドラフト、撚り係数3.8にて紡績し、英式綿番手32sの混紡糸を作成した。
(編地の製造)
上記で得られた混紡糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてグレー杢調に染色した生地を得た。
【0063】
(比較例2)
(紡績糸の製造)
ポリエステル繊維としてPET1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、300ゲレン/6ヤードのポリエステルスライバーを得た。また、コットンCo1を混打綿工程、カード工程、練条工程に順次投入し、233ゲレン/6ヤードの綿スライバーを得た。得られたポリエステルスライバー2本、綿スライバー6本を更に練条工程に投入し、ナイロンスライバーが芯側に配置され、綿スライバーが鞘側に配置されるようにして、360ゲレン/6ヤードのコアヤーン用スライバーを得た。得られたコアヤーン用スライバーを粗紡工程に投入し、90ゲレン/12ヤードの粗糸を作製し、その粗糸をリング精紡機にて28.8倍のドラフト、撚り係数3.8にて紡績し、英式綿番手32sの芯鞘構造紡績糸を作製した。
(編地の製造)
上記で得られた芯鞘構造紡績糸を用いた以外は、実施例1と同様にして、天竺編地及び下晒生地を得た。
上記にて得られた下晒生地を液流染色機で、市販の分散染料(色:グレー)及び陰イオン系吸水剤を含む染色液を用い、浴比1:10で、130℃で40分間染色を行った後、ハイドロサルファイトと苛性ソーダーを用い、浴比1:10で、85℃で30分間還元洗浄し、その後酢酸による中和、湯洗い、水洗を行った。その後、液流染色機で柔軟剤を付与後、脱水、乾燥を行った後、テンターでノニオン系吸水剤を付与し、グレー杢調に染色した生地を得た。
【0064】
(比較例3)
(編地の製造)
コットン(綿繊維)100%のリング紡績糸を用いた以外は、実施例1と同様にして染色生地を得た。
【0065】
(比較例4)
(紡績糸の製造)
撚り係数を5に変更した以外は、比較例2と同様にして英式綿番手32sの芯鞘構造紡績糸を作製した。
(編地の製造)
上記で得られた芯鞘構造紡績糸を用いた以外は、比較例2と同様にして染色生地を得た。
【0066】
実施例1~3及び比較例1~4の紡績糸(原糸)から抜き取った繊維の単繊維繊度、強度、伸度、捲縮数、捲縮率及び熱水収縮率を上述したとおりに測定し、その結果を下記表2に示した。また、実施例1~3及び比較例1~4の紡績糸(原糸)の糸直径、見掛密度及び毛羽数を上述したとおりに測定し、その結果を下記表2に示した。実施例1~3及び比較例1~4の染色生地を構成する紡績糸から抜き取った合成繊維(実施例1~3、比較例1、2及び4の場合は芯部繊維)の単繊維繊度、強度、伸度、捲縮数、捲縮率及び熱水収縮率を上述したとおりに測定し、その結果を下記表3に示した。また、実施例1~3及び比較例1~4の染色生地のピリング、洗濯0回及び10回の吸水性、洗濯0回及び10回の速乾性、吸湿後の水分率、放湿後の水分率、風合い、目付、厚み並びに嵩密度を上述したとおりに測定評価し、その結果を下記表3に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記表2の結果から分かるように、セルロース系短繊維からなる鞘部及びセルロース系短繊維より伸度が10%以上高く、かつ100%以下であり、100℃における熱水収縮率が4.0%以上である合成繊維の短繊維からなる芯部を含む芯鞘構造紡績糸を用いた実施例1~3の生地は、ピリングが3級以上、かつ嵩密度が0.250g/m3以下であり、抗ピリング性に優れるとともに、嵩高性が良好であった。また、実施例1~3の生地は、風合い、吸水性、及び吸水速乾性も良好であった。
【0070】
一方、セルロース系短繊維及びセルロース系短繊維より伸度が10%以上高く、かつ100%以下であり、100℃における熱水収縮率が4.0%以上である合成繊維の短繊維を使用しているものの、芯鞘構造とせず、合成繊維の短繊維とセルロース系短繊維を混合し、紡績糸とした混紡糸では、合成繊維の短繊維が伸長状態から戻ったり(精紡工程)、熱による熱収縮(染色工程)をしたりしても紡績糸が嵩高になる現象が発現しておらず、得られた生地の風合いに劣るものとなった。
鞘部はセルロース系短繊維からなるが、熱水収縮率が4.0%未満の合成繊維の短繊維からなる芯鞘構造紡績糸を用いた比較例2及び4、並びにコットン100%のリング紡績糸を用いた比較例3の生地は、精練工程や染色工程において、紡績糸に加わる熱による熱収縮が発生していない、或いは発生していてもその割合が小さいため、染色後の生地において紡績糸が嵩高にならず、得られた生地(編地)の嵩密度が0.240g/m3を超えており、嵩高性が劣る。