(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171856
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20241205BHJP
G03F 7/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/22 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089114
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑
(72)【発明者】
【氏名】邉見 和大
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA09
2H197DA02
2H197DA03
2H197DA09
2H197DB10
2H197DB11
2H197DC16
2H197HA03
2H197HA05
(57)【要約】
【課題】タクト向上と、結像特性の変動に対する補正の精度向上との両立に有利な技術を提供する。
【解決手段】露光装置は、マスクのパターンを基板に投影する投影光学系と、前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、前記投影光学系の結像特性を調整する調整部と、前記投影光学系が露光エネルギーを吸収することによって生じる前記結像特性の変動をモデル式に従い予測し、該予測の結果に基づいて前記調整部を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第1予測値と、前記計測部による計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、前記計測部による次の計測を実施させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を露光する露光装置であって、
マスクのパターンを前記基板に投影する投影光学系と、
前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、
前記投影光学系の結像特性を調整する調整部と、
前記投影光学系が露光エネルギーを吸収することによって生じる前記結像特性の変動をモデル式に従い予測し、該予測の結果に基づいて前記調整部を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第1予測値と、前記計測部による計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、前記計測部による次の計測を実施させる、ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記計測部による計測が実施される都度、該計測の結果に基づいて前記第1係数値を更新する、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第1モデル式および前記第2モデル式は、複数の基板に対して順次に露光動作が実施される露光動作期間における前記投影光学系の結像特性の変動を表す、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の基板の最初の基板に対する露光が開始される前に、前記計測部による最初の計測を実施し、該計測の結果に基づいて前記第2係数値の初期値を決定する、ことを特徴とする請求項3に記載の露光装置。
【請求項5】
前記許容範囲を設定する設定部を更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項6】
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項7】
投影光学系を介して基板を露光する露光方法であって、
前記投影光学系の結像特性の計測を行う工程と、
予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って、前記投影光学系の結像特性の予測値である第1予測値を計算する工程と、
前記計算された第1予測値に基づいて前記投影光学系を調整し、前記基板を露光する工程と、
前記計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って、前記結像特性の予測値である第2予測値を計算する工程と、
を有し、
前記第1予測値と前記第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、次の計測を実施する、ことを特徴とする露光方法。
【請求項8】
前記計測が実施される都度、該計測の結果に基づいて前記第1係数値を更新する工程を更に有することを特徴とする請求項7に記載の露光方法。
【請求項9】
前記第1モデル式および前記第2モデル式は、複数の基板に対して順次に露光動作が実施される露光動作期間における前記投影光学系の結像特性の変動を表す、ことを特徴とする請求項7に記載の露光方法。
【請求項10】
前記複数の基板の最初の基板に対する露光が開始される前に、最初の前記計測を実施し、該計測の結果に基づいて前記第2係数値の初期値を決定する、ことを特徴とする請求項9に記載の露光方法。
【請求項11】
前記許容範囲を設定する工程を更に有する、ことを特徴とする請求項7に記載の露光方法。
【請求項12】
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項7に記載の露光方法。
【請求項13】
請求項7から12のいずれか1項に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、半導体デバイスや液晶表示装置等の製造工程において、マスク(レチクル)のパターンを、投影光学系を介して感光性の基板(プレート)に転写する装置である。例えば、液晶表示装置の製造に使用される露光装置は、露光光を反射させて、基板に対して照射するための複数のレンズやミラー等の光学素子を備えた投影光学系を有する。
【0003】
露光処理が長時間に及ぶと、投影光学系を構成する光学素子が露光光の一部を吸収し、吸収された光のエネルギーが熱に変換され、該光学素子、その保持部材、及びそれらを取り巻く気体の温度が次第に上昇する。このとき、光学経路上の気体の温度が上昇すると、その空間の屈折率が変化するため、光学特性が変化する。このため、投影光学系への露光エネルギー照射状態による結像特性の変動を、補正係数を含むモデル式で演算し、その演算結果に基づいて結像特性の変動を補正している。補正係数は、結像特性の計測に基づいて得られる。従来、計測は一定間隔ごとに行われる。あるいは、計測は、結像特性の変動量が所定値を超えたことに応じて行われる。
【0004】
特許文献1には、補正係数を含むモデル式で計算した予測値の変動量が所定の値を超えたときに、投影光学系の結像特性の計測を行い、結像特性の変動に対する補正を行う方法が記載されている。特許文献2には、予め得られた補正係数と、計測により得られた計測値から求めた補正係数との差に基づいて、モデル式に用いる係数の更新を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-63948号公報
【特許文献2】特開2018-200390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
露光条件が同一であっても、結像特性を初期状態から飽和状態にしたときの計測値と、初期状態から飽和状態にした後、一定時間露光光の照射を停止し、再度飽和状態にしたときの計測値との間には差があることが判明した。近年では、高エネルギー(高線量、かつ高透過率のマスク)で露光が行われることから、結像特性の単位時間当たりの変動量が大きい。従来、変動を捉えるため、計測の時間間隔を短く(計測の頻度を高く)していた。そのため、タクトタイムが延びる。また、計測の頻度を高くしても、計測のタイミングによっては誤差を抑制できない場合もある。
【0007】
本発明は、タクト向上と、結像特性の変動に対する補正の精度向上との両立に有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、基板を露光する露光装置であって、マスクのパターンを前記基板に投影する投影光学系と、前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、前記投影光学系の結像特性を調整する調整部と、前記投影光学系が露光エネルギーを吸収することによって生じる前記結像特性の変動をモデル式に従い予測し、該予測の結果に基づいて前記調整部を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第1予測値と、前記計測部による計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、前記計測部による次の計測を実施させる、ことを特徴とする露光装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タクト向上と、結像特性の変動に対する補正の精度向上との両立に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】投影光学系の結像特性の経時変化の一例を示す図。
【
図3】フォーカスの計測値とその補正の例を示す図。
【
図4】条件の違いにより結像特性変動が異なることを説明するための図。
【
図5】第1実施形態における露光方法を示すフローチャート。
【
図6】第2実施形態における露光方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、実施形態における露光装置100の構成例を示す図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。後述のプレートステージ30は、プレート36の表面が水平面(XY平面)と平行になるように、プレートステージ30(プレートチャック35)の保持面上でプレート36を保持する。よって以下では、プレートステージ30の保持面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸まわりの回転方向、Y軸まわりの回転方向、Z軸まわりの回転方向をそれぞれθX方向、θY方向、θZ方向という。
【0013】
以下では、露光装置100は、液晶パネルを製造するための走査型露光装置として構成されているものとする。
図1において、投影光学系10の光軸11はZ方向に延び、走査露光時のマスク(レチクル)及びプレート(基板)の走査方向はY方向である。
【0014】
露光装置100は、投影光学系10を挟んでZ方向の上方にマスクステージ20、下側にプレートステージ30を備える。マスクステージ20及びプレートステージ30は、それぞれ個別に、一定方向に移動可能である。マスクステージ20は、マスク21を保持して走査し、プレートステージ30は、プレート36を保持して走査する。マスクステージ20及びプレートステージ30の走査位置は、レーザ干渉測長器50により計測されうる。
【0015】
マスクステージ20は、投影されるべきパターンを有するマスク21を搭載する。また、露光装置100は、マスクステージ20の上方に、マスク21とプレート36に形成されたパターンを、投影光学系10を介して観察できる観察光学系40と、照明光学系41とを備える。
【0016】
プレートステージ30は、本体ベース31上に配置したYステージ32及びXステージ33を有し、更に、Yステージ32およびXステージ33の上に配置されたθZステージ34を有する。また、θZステージ34上には、プレートチャック35が配置され、被処理基板であるプレート36は、プレートチャック35により保持される。Yステージ32はY方向に移動するステージ、Xステージ33はX方向に移動するステージ、θZステージ34はZ方向およびθZ方向に移動するステージである。θZステージ34は、Z方向に移動するZステージとθZ方向に移動する回転ステージとに別体で構成されていてもよい。
【0017】
Zセンサ37、38(プレート高さ計測センサ)は、プレート36またはプレートチャック35表面からのZ方向の位置の計測を行う。その計測値はθZステージ34の制御に用いられる。
【0018】
主制御部60は、光学特性計測部61、光学特性補正部62、光学特性計算部63、及びデータ保持部64を含みうる。主制御部60は、フォーカス計測、フォーカス変動の予測および補正、マスクステージ20及びプレートステージ30の制御を行う。主制御部60は、CPUやメモリなどを含むコンピュータ(情報処理装置)で構成されうる。
【0019】
以下、露光装置100におけるフォーカス計測の一例について説明する。
【0020】
マスク21とプレートチャック35の表面には、不図示のフォーカス計測用のマークが形成されており、それぞれのマークはX方向とY方向の位置情報を持っている。一例において、これらフォーカス計測用のマークは光電センサとなっており、該センサに入った光量が最大となったZ位置がベストフォーカス位置となる。
【0021】
プレート36とプレートチャック35上の計測マークとの間にはZ方向の位置差があるため、主制御部60(光学特性計測部61)は、予めZセンサ37、38を使用してその位置差を計測する。計測された位置差の計測値を「計測値A」とする。次に、光学特性計測部61は、フォーカス計測のため、マスクステージ20とプレートチャック35をフォーカス計測位置に駆動する。駆動終了後、光学特性計測部61は、Zセンサ37、38を用いて高さ計測を行う。その後、光学特性計測部61は、照明光学系41からフォーカス計測用マークに向けて計測光を照射する。光学特性計測部61は、投影光学系10を通過した計測光をフォーカス計測用マークにおいて受光し、該受光した計測光に基づいて光量を計測する。そして、以下のように投影光学系10の結像特性としてのフォーカスが計測される。
【0022】
計測終了後、光学特性計測部61は、θZステージ34を微動させながら、高さ計測と光量計測を光量のピーク(最大値)が求まるまで繰り返し計測し、その後、光量が最大値となったときの高さ位置を求める。ここで求められた高さ位置を「計測値B」とする。計測値Bは、プレートチャック35上でのベストフォーカス値を示しているため、計測値Bと計測値Aとの差分を、プレート36上のベストフォーカス値として求めることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る露光エネルギー照射による投影光学系10の結像特性の変動のモデル式と、モデル式を定量化するために用いる露光条件毎の結像特性の変動を補償するための補正係数について説明する。
【0024】
図2には、投影光学系10の結像特性の経時変化の一例が示されている。
図2において、横軸は時間tを示し、縦軸は投影光学系10の結像特性の変動量Fを示している。また、投影光学系10の初期(すなわち、露光前)の結像特性の変動量をF0とする。
【0025】
図2において、「露光時」は、露光動作が実施される露光動作期間を示し、「非露光時」は、露光動作期間の後の、露光動作が実施されない非露光動作期間を示す。本実施形態では、複数のプレート(例えば1ロット分の複数の基板)に対して順次に露光動作が実施されることが想定されている。「露光動作期間」とは、複数のプレートのうちの最初のプレートに対する露光動作の開始から最後のプレートに対する露光動作の終了までの期間をいうものとする。実際には露光が行われないショットとショットの間の期間やプレート交換期間も、「露光動作期間」に含まれるものとする。
【0026】
図2において、露光が時刻t0から開始されると、時間の経過に伴って結像特性が変動し、時刻t1で、一定の変動量F1に収束する(飽和特性)。時刻t1以降は、露光光が投影光学系10に入射しても、投影光学系10に吸収される熱エネルギーと投影光学系10から放出される熱エネルギーとが平衡状態に達しているため、結像特性の変動量はF1から変化しない。以下では、F1を最大変動量とも呼ぶ。そして、露光が時刻t2で停止されると、時間の経過に伴って結像特性の変動量は初期状態に戻り、時刻t3で初期の結像特性の変動量F0になる。
【0027】
図2の時定数TS1とTS2は、投影光学系10の熱伝達特性上の時定数と等価である。これらの時定数は投影光学系10に固有の値である。
【0028】
次に、
図2に示される結像特性の最大変動量F1の算出方法を説明する。単位露光エネルギー当たりの結像特性の変動量をK、実露光エネルギーを決定する露光条件(露光時間、露光量、走査速度、露光領域情報等)のパラメータをQとすると、結像特性の最大変動量F1は、次式で表される。
【0029】
F1=K×Q ・・・(1)
ここで、ある時刻kにおける結像特性の変動量をF(k)とすると、時刻kから時間Δt露光した後の結像特性の変動量F(k+1)は、最大変動量F1と時定数TS1、TS2を用いて、次式により近似される。
【0030】
F(k+1)=F(k)+F1×(1-e(-Δt/TS1)) ・・・(2)
時刻kから時間Δt露光しなかった場合は、結像特性の変動量F(k+1)は、次式により近似される。
【0031】
F(k+1)=F(k)×e
(-Δt/TS2) ・・・(3)
図2で示した投影光学系10の結像特性の変動特性を示す曲線を、式(1)、式(2)、式(3)の関数でモデル化することにより、露光熱によって変動する投影光学系10の結像特性の変動を予測することができる。ただし、式(1)、式(2)、式(3)の形は一例にすぎず、他の式を使用してモデル化してもよい。また、モデル数は複数としてもよい。上述したように、本実施形態では、複数の基板に対して順次に露光動作が実施されることが想定されている。したがって、モデル式は、複数の基板に対して順次に露光動作が実施される露光動作期間における投影光学系10の結像特性の変動を表す。
【0032】
式(1)のパラメータQは、例えば露光時間、露光量、走査速度のいずれかを含みうる。単位光量当たり(単位光エネルギー当たり)の結像特性の変動量を表すKを、補正係数という。パラメータQと補正係数Kとを組み合わせることで、式(1)の最大変動量F1を算出することができる。
【0033】
補正係数Kは、露光条件毎に算出しなくてはならない。なぜなら、露光条件を変化させると、投影光学系10に入射する光のエネルギー密度分布が変化し、その結果、投影光学系10の結像特性の変動量が変化するためである。
【0034】
投影光学系10の結像特性としてフォーカスを例にして説明する。光学特性計算部63は、データ保持部64に保存されたパラメータに基づいてフォーカスの変動量の予測値を計算する。光学特性計算部63による計算は、プレート毎に順次繰り返し行われる。光学特性補正部62は、この計算より得られるフォーカス変動量と一致するようにプレートステージ30(θZステージ34)を光軸11と平行な方向(Z方向)に駆動して補正する。本実施形態において、光学特性補正部62は、投影光学系10の結像特性としてのフォーカスを調整する調整部として機能する。
【0035】
光学特性計測部61はフォーカスを計測する。これにより、
図3に示されるような計測値が得られる。その後、光学特性計算部63は、データ保持部64に保存されたパラメータに基づいてフォーカスの変動量の予測値を計算し、光学特性補正部62は、該計算された予測値に基づいてプレートステージ30の補正を行う。
【0036】
図4は、条件の違いによる結像特性変動の一例を示している。
図4において、横軸は時間tを示し、縦軸は投影光学系10の結像特性変動量Fを示している。特性C1は、初期状態から飽和状態にしたときの結像特性の変動(計測値)を示す。特性C2は、飽和状態から一定時間露光光の照射を停止し、再度飽和状態にしたときの結像特性の変動(計測値)を示す。特性C1と特性C2との間の露光条件は同一である。このように、露光条件が同一であっても、露光開始時の露光熱による温度条件が異なる場合、飽和値に差が生じうる。特性C1から求められた補正係数を用いて、特性C2に対して予測値を求めて補正を行う場合、実際の変動量と予測値との間に誤差が生じ、良好な補正が行われない場合がある。このため、従来、結像特性変動量が大きい区間では、その変動を捉えるため、計測の頻度を高めるようにしていた。
【0037】
しかし、計測の頻度を高めることはタクトタイムの増加につながる。また、計測の頻度を高くしても、計測のタイミングによっては誤差を抑制できない場合もある。
【0038】
そこで本実施形態では、特性C1にて予め求めた第1補正係数(第1係数値)より計算した第1予測値と、計測の結果に基づいて決定された第2補正係数(第2係数値)より計算した第2予測値との差が許容範囲を超えたときに計測を行う。第2予測値は計測の結果に基づく値であるため、実際の変動量を近似することになる。これにより、第1予測値との誤差を正確に予測して計測を行うことが可能になり、良好な補正を行うことができる。また、結像特性変動量が大きい区間においても、第1補正係数の誤差次第では第1予測値と第2予測値との差は短時間では許容範囲を超えないため、タクトタイム増加(すなわち、スループット低下)も最小限に抑えることができる。
【0039】
図5は、第1実施形態における露光方法を示すフローチャートである。このフローチャートに対応するプログラムは露光装置100の設けられた記憶装置あるいは露光装置100の外部の記憶装置に格納され、主制御部60内のメモリにロードされて主制御部60によって実行される。
【0040】
S501で、主制御部60は、データ保持部64に予め記憶されている露光条件に対応する第1補正係数(第1係数値)を取得する。ここで、第1補正係数は、投影光学系10の結像特性の現状の変動量を表すものとして、予め設定されているものである。
【0041】
S502で、主制御部60は、光学特性計測部61により投影光学系10の結像特性の計測を行う。ここでいう計測とは、補正係数としてモデル式の係数値を計算するために行われる、複数回にわたる計測を含みうる。
【0042】
S503で、主制御部60(光学特性計算部63)は、S501で取得された第1補正係数が適用されたモデル式(第1モデル式)に従って、結像特性の予測値である第1予測値を計算する。
【0043】
S504で、主制御部60(光学特性補正部62)は、S503で計算された第1予測値に基づきプレートステージ30を補正(調整)する。その後、主制御部60は、プレート36を露光する。
【0044】
S505で、主制御部60は、S502の光学特性計測部61による計測が実施されたか否かを判定する。後述するS509から、S502をスキップしてS503に移行した場合には、S502の計測は実施されなかったと判定される。S502で計測が実施された場合、処理はS506に進み、S502で計測が実施されなかった場合、処理はS507に進む。
【0045】
S506では、主制御部60(光学特性計算部63)は、S502での光学特性計測部61による計測の結果得られた計測値を用いて第2補正係数(第2係数値)を計算する。このフローによれば、初回のS502による計測(初期計測)は、複数のプレートのうちの最初のプレートに対する露光(S504)が開始される前に実施される。その初期計測の結果に基づいて、S506で、第2係数値の初期値が決定される。
【0046】
S507では、主制御部60(光学特性計算部63)は、第2補正係数が適用されたモデル式(第2モデル式)に従って、結像特性の予測値である第2予測値を計算する。
【0047】
S508で、主制御部60は、露光を終了するか否かを判定する。例えば、複数の基板(例えば1ロット分の複数の基板)に対して順次に露光動作が実施される場合には、主制御部60は、複数の基板の全てに露光を行ったかどうかを判定する。複数の基板の全てに露光が行われた場合、本処理は終了する。未露光の基板がまだ残っている場合、処理はS509に移行する。
【0048】
S509で、主制御部60(光学特性計算部63)は、S503で計算された第1予測値とS507で計算された第2予測値との差の絶対値が所定の値より大きいかどうかを判定する。つまりここでは、主制御部60は、第1予測値と第2予測値との差が許容範囲を超えているか否かを判定している。第1予測値と第2予測値との差の絶対値が所定の値より大きい場合、処理はS502に移行し、光学特性計測部61による投影光学系10の結像特性の次の計測が行われる。第1予測値と第2予測値との差の絶対値が所定の値以下である場合、処理はS503に移行する。なお、露光装置100は、所定の値(すなわち、許容範囲)を設定する設定部を更に備えていてもよい。例えば、ユーザが、設定部を介して許容範囲を指定することができる。設定部により設定された許容範囲はプロセスデータとして、例えばデータ保持部64に格納される。
【0049】
上記した露光方法の特徴をまとめる。主制御部60は、予め設定されている第1補正係数(第1係数値)(S501)が適用された第1モデル式に従って結像特性の予測値である第1予測値を計算する(S503)。次に、主制御部60は、光学特性計測部61による計測(S502)の結果に基づいて決定された第2補正係数(第2係数値)(S506)が適用された第2モデル式に従って結像特性の予測値である第2予測値を計算する(S507)。その後、主制御部60は、第1予測値と第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、光学特性計測部16による次の計測を実施させる(S509でYES)。これにより、タクト向上と、結像特性の変動に対する補正の精度向上との両立に有利な露光処理が実現される。
【0050】
<第2実施形態>
第1実施形態では、第1補正係数は更新されることなく使用される。これに対し、第2実施形態では、第1補正係数は誤差を含んでいるものとして考え、計測が行われる都度、更新される。
【0051】
図6は、第2実施形態における露光方法を示すフローチャートである。
図6において、
図5と比較して同じ工程には同じ参照符号を付し、それらの説明は省略する。
【0052】
図6では、S506とS507の間に、S601およびS602の工程が追加されている。S601では、主制御部60(光学特性計算部63)は、S502での光学特性計測部61による計測の結果得られた計測値を用いて第1補正係数を計算する。S602では、主制御部60(光学特性計算部63)は、S601で得られた新たな第1補正係数が適用されたモデル式(第1モデル式)に従って、第1予測値を計算する。その後、処理はS507に進む。
【0053】
また、本実施形態では、S508で複数の基板の全てに露光が行われたと判定された場合の処理として、S603が追加されている。S603では、主制御部60は、S601で計算された第1補正係数をデータ保持部64に記憶する。このとき、データ保持部64に予め記憶されていた第1補正係数を新たな第1補正係数で上書き保存するようにしてもよい。これにより、第1補正係数が更新される。
【0054】
以上のように、第2実施形態によれば、光学特性計測部61による投影光学系10の結像特性の計測が実施される都度(S505でYES)、当該計測の結果に基づいて第1補正係数が更新される。
【0055】
<その他>
上述の実施形態においては、投影光学系の結像特性の具体例としてフォーカスについて説明した。しかし、結像特性は、フォーカスのみならず、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくともいずれか1つを含みうる。上述の例のように結像特性がフォーカスである場合、主制御部60(光学特性補正部62)は、モデル式を用いた予測の結果に基づいて、プレート(基板)の位置の調整(プレートステージ30の駆動)を行う。結像特性が倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、あるいはコマ収差である場合、主制御部60は、モデル式を用いた予測の結果に基づいて、投影光学系10の結像特性の調整を行う。そのような調整は、例えば、投影光学系10を構成する光学素子の駆動、マスクステージ20の駆動のうちの少なくとも1つによって行われうる。
【0056】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0058】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0059】
本明細書の開示は、少なくとも以下の露光装置、露光方法、および物品製造方法を含む。
(項目1)
基板を露光する露光装置であって、
マスクのパターンを前記基板に投影する投影光学系と、
前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、
前記投影光学系の結像特性を調整する調整部と、
前記投影光学系が露光エネルギーを吸収することによって生じる前記結像特性の変動をモデル式に従い予測し、該予測の結果に基づいて前記調整部を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第1予測値と、前記計測部による計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って計算された前記結像特性の予測値である第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、前記計測部による次の計測を実施させる、ことを特徴とする露光装置。
(項目2)
前記制御部は、前記計測部による計測が実施される都度、該計測の結果に基づいて前記第1係数値を更新する、ことを特徴とする項目1に記載の露光装置。
(項目3)
前記第1モデル式および前記第2モデル式は、複数の基板に対して順次に露光動作が実施される露光動作期間における前記投影光学系の結像特性の変動を表す、ことを特徴とする項目1または2に記載の露光装置。
(項目4)
前記制御部は、前記複数の基板の最初の基板に対する露光が開始される前に、前記計測部による最初の計測を実施し、該計測の結果に基づいて前記第2係数値の初期値を決定する、ことを特徴とする項目3に記載の露光装置。
(項目5)
前記許容範囲を設定する設定部を更に有する、ことを特徴とする項目1から4のいずれか1項目に記載の露光装置。
(項目6)
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする項目1から5のいずれか1項目に記載の露光装置。
(項目7)
投影光学系を介して基板を露光する露光方法であって、
前記投影光学系の結像特性の計測を行う工程と、
予め設定されている第1係数値が適用された第1モデル式に従って、前記投影光学系の結像特性の予測値である第1予測値を計算する工程と、
前記計算された第1予測値に基づいて前記投影光学系を調整し、前記基板を露光する工程と、
前記計測の結果に基づいて決定された第2係数値が適用された第2モデル式に従って、前記結像特性の予測値である第2予測値を計算する工程と、
を有し、
前記第1予測値と前記第2予測値との差が許容範囲を超えたことに応じて、次の計測を実施する、ことを特徴とする露光方法。
(項目8)
前記計測が実施される都度、該計測の結果に基づいて前記第1係数値を更新する工程を更に有することを特徴とする項目7に記載の露光方法。
(項目9)
前記第1モデル式および前記第2モデル式は、複数の基板に対して順次に露光動作が実施される露光動作期間における前記投影光学系の結像特性の変動を表す、ことを特徴とする項目7または8に記載の露光方法。
(項目10)
前記複数の基板の最初の基板に対する露光が開始される前に、最初の前記計測を実施し、該計測の結果に基づいて前記第2係数値の初期値を決定する、ことを特徴とする項目9に記載の露光方法。
(項目11)
前記許容範囲を設定する工程を更に有する、ことを特徴とする項目7から10のいずれか1項目に記載の露光方法。
(項目12)
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする項目7から11のいずれか1項目に記載の露光方法。
(項目13)
項目7から12のいずれか1項目に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【0060】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0061】
10:投影光学系、20:マスクステージ、21:マスク、30:プレートステージ、36:プレート、60:主制御部、100:露光装置