(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171857
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】測距装置および機器
(51)【国際特許分類】
G01S 17/894 20200101AFI20241205BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20241205BHJP
H04N 25/70 20230101ALI20241205BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01S17/894
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
H04N25/70
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089115
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 高志
(72)【発明者】
【氏名】面谷 聡
【テーマコード(参考)】
2F112
5C024
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA02
2F112CA04
2F112CA05
2F112CA12
2F112DA05
2F112DA25
2F112DA28
2F112DA32
2F112EA05
2F112FA03
2F112FA21
2F112FA41
2F112FA45
2F112GA01
2F112GA10
5C024CY17
5C024EX12
5C024GX03
5C024GX16
5C024GY31
5C024GY39
5C024GY45
5C024HX17
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA39
5J084BA40
5J084BB01
5J084CA03
5J084CA20
5J084CA65
5J084CA67
5J084EA04
(57)【要約】
【課題】測距精度の向上に有利な技術を提供する。
【解決手段】光源と、光電変換部と、前記光源が発する光を受けた対象物の像を前記光電変換部に形成するための光学系と、前記光電変換部によって光電変換された電気信号に基づいて前記対象物までの距離情報を取得するための演算部と、を備える測距装置であって、前記光学系のフォーカス駆動を制御するフォーカス駆動部をさらに備え、前記フォーカス駆動部は、対象物までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光電変換部と、前記光源が発する光を受けた対象物の像を前記光電変換部に形成するための光学系と、前記光電変換部によって光電変換された電気信号に基づいて前記対象物までの距離情報を取得するための演算部と、を備える測距装置であって、
前記光学系のフォーカス駆動を制御するフォーカス駆動部をさらに備え、
前記フォーカス駆動部は、対象物までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行うことを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記フォーカス駆動部は、前記光学系の被写界深度が対象物のサーチ範囲に入るようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離が断続的または連続的に変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項4】
前記測距動作において、前記測距装置は、前記光源の発光から前記光電変換部が露光動作を行うまでの待機時間が互いに異なる複数の撮影動作を行い、
前記フォーカス駆動部は、前記複数の撮影動作のそれぞれの前記待機時間によって決まる測距距離に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項5】
前記フォーカス駆動部は、前記複数の撮影動作のそれぞれの撮影動作に応じて、断続的に仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする請求項4に記載の測距装置。
【請求項6】
前記待機時間は、前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御され、
前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であり、
前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の測距装置。
【請求項7】
前記待機時間は、前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御され、
前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、
前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の測距装置。
【請求項8】
前記測距動作を含む複数の測距動作が行われ、
前記複数の測距動作は、連続する第1測距動作と第2測距動作とを含み、
前記第1測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御される場合、前記第2測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御され、
前記第1測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御される場合、前記第2測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御されることを特徴とする請求項4に記載の測距装置。
【請求項9】
前記複数の測距動作のうち前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなる測距動作において、前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であり、かつ、前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、
前記複数の測距動作のうち前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなる測距動作において、前記最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、かつ、前記最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の測距装置。
【請求項10】
前記光電変換部には複数の画素が配され、
前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて、前記複数の画素のそれぞれから前記電気信号が出力されることを特徴とする請求項4に記載の測距装置。
【請求項11】
前記光電変換部には複数の画素が配され、
前記測距動作において、前記複数の画素から1回ずつ前記電気信号が出力され、
前記フォーカス駆動部は、前記光電変換部における前記複数の画素が配された位置に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項12】
前記複数の画素は、前記光電変換部において複数の行を構成するように配され、
前記測距動作において、前記測距装置は、前記複数の画素のそれぞれの行ごとに前記光源の発光から反射光を検出するまでの時間計測を行う撮影動作を行い、
最初に前記撮影動作が行われる行から第1行までの間、前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離を第1距離に設定し、
前記第1行の次に前記撮影動作が行われる行から第2行までの間、前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離を第2距離に設定することを特徴とする請求項11に記載の測距装置。
【請求項13】
前記第2行が、前記測距動作において最後に前記撮影動作が行われる行であることを特徴とする請求項12に記載の測距装置。
【請求項14】
前記複数の画素のそれぞれが、アバランシェフォトダイオードを備えることを特徴とする請求項10に記載の測距装置。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項に記載の測距装置と、
前記測距装置から出力された信号を処理する処理装置と、
を備えることを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置および機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光源から光を射出し、対象物で反射された反射光を検出することによって測距を行うTime of Flight(ToF)方式の測距装置が知られている。特許文献1には、時間分解能を高めるために単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を用いた測距装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開2017/0052065号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ToF方式の測距装置において、焦点が合っていない距離に存在する対象物は、物体の境界(エッジ)がぼけてしまうため、精度が高い測距を行うことが難しい。また、焦点が合う範囲(被写界深度)を拡張するためにF値(絞り値)が大きいレンズを用いると、センサが取り込む光量が減少し、測距精度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、測距精度の向上に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る測距装置は、光源と、光電変換部と、前記光源が発する光を受けた対象物の像を前記光電変換部に形成するための光学系と、前記光電変換部によって光電変換された電気信号に基づいて前記対象物までの距離情報を取得するための演算部と、を備える測距装置であって、前記光学系のフォーカス駆動を制御するフォーカス駆動部をさらに備え、前記フォーカス駆動部は、対象物までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、測距精度の向上に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の測距装置の構成例を示すブロック図。
【
図2】
図1の測距装置の受光部の構成例を示すブロック図。
【
図3】
図1の測距装置の画素の構成例を示すブロック図。
【
図4】
図1の測距装置の時間ゲート型ToF方式の露光タイミング図。
【
図5】
図1の測距装置の対象物と被写界深度との関係を示す図。
【
図8】
図1の測距装置の合焦位置と被写界深度との関係を示す図。
【
図10】
図1の測距装置のフォーカス駆動を示す図。
【
図11】
図1の測距装置の変形例を示すブロック図。
【
図12】
図11の測距装置の受光部の構成例を示すブロック図。
【
図15】
図1の測距装置が組み込まれた機器の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
図1~
図14を参照して、本開示の測距装置について説明する。
図1は、本実施形態における測距装置100の構成例を概略的に示すブロック図である。
図1に示されるように、測距装置100は、タイミング制御部101、発光部102、光学系103、受光部104、演算部105、フォーカス駆動部106を含む。
【0011】
タイミング制御部101は、測距装置100に配された各構成要素の動作タイミングを制御する。より具体的には、タイミング制御部101は、発光部102が発光するタイミングを制御する制御信号を発光部102に出力する。また、タイミング制御部101は、受光部104が露光動作を行うタイミングを制御する制御信号を受光部104に出力する。さらに、タイミング制御部101は、フォーカス駆動部106がフォーカス駆動を行うタイミングを制御する制御信号をフォーカス駆動部106に出力する。
【0012】
発光部102は、タイミング制御部101からの制御信号に基づいて発光する光源112を備える。光源112として、例えば、半導体レーザダイオードが用いられる。その場合に、光源112は、タイミング制御部101から供給される制御信号に応じて所定のパルス幅を有するレーザ光を発光する。発光部102には、拡散板などの光学部材(不図示)が配され、光源112から発せられた光は、所定の2次元範囲に拡散され照射される。
【0013】
光学系103は、発光部102の光源112が発する光を受けた対象物110の像を受光部104に配された光電変換部に形成する。光学系103は、例えば、1つ以上のレンズによって構成される。光学系103は、発光部102の光源112から発せられた光が対象物110に反射した反射光を受光部104へと結像する、ともいえる。
【0014】
受光部104は、所謂、イメージセンサを含む。受光部104は、例えば、CMOSセンサや、アバランシェフォトダイオード(以下、APDと示す場合がある。)を用いたSPADセンサなどであってもよい。受光部104は、光学系103によって結像された光学像を電気信号に変換する。
【0015】
演算部105は、受光部104に配された光電変換部によって光電変換された電気信号に基づいて対象物110までの距離情報を取得するために配される。演算部105は、得られた距離情報から3次元距離画像を生成してもよい。演算部105には、CPUやASICなどの半導体デバイスが用いられてもよい。
【0016】
フォーカス駆動部106は、光学系103のフォーカス駆動を制御する。フォーカス駆動とは、光学系103によって受光部104に形成される像の焦点を合わせるための駆動である。例えば、フォーカス駆動とは、光学系103の仮想的な被写体距離を変化させる駆動でありうる。ここで、被写体距離とは、光学系103の前側主点から被写体までの距離であるが、測距装置100の測距範囲に被写体(対象物110)が常に存在するとは限らないため、「仮想的な」被写体距離と表現する。フォーカス駆動部106は、光学系103の被写界深度が、例えば、受光部104の露光タイミングで決まる対象物のサーチ範囲(目標とする測距距離:測距目標距離)に入るようにフォーカス駆動を行う。フォーカス駆動部106は、光学系103のレンズなどを移動させるモータなどを含み構成されうる。
【0017】
図2は、本実施形態における受光部104の構成例を示すブロック図である。受光部104は、光電変換部201、制御パルス生成回路215、垂直走査回路210、水平走査回路211、読出回路212、信号線213、出力回路214を含みうる。
【0018】
光電変換部201には、複数の画素204が2次元アレイ状(行列状)に配されている。画素204のそれぞれは、光電変換回路202および画素回路203を含み構成される。
図3を用いて後述するが、本実施形態において、光電変換回路202は、光電変換素子としてAPDを備える。本実施形態において、光電変換部201に配された画素204は、光電変換回路202および画素回路203を含むが、それに限られることはなく、光電変換部201において、少なくとも、APDが2次元アレイ状に配されていればよい。光電変換部201に入射した光は、光電変換部201に配された画素204によって電気信号に変換される。画素回路203は、光電変換回路202によって光電変換された電気信号を信号線213に出力する。
【0019】
垂直走査回路210は、制御パルス生成回路215から供給された制御パルスに従って、画素204のそれぞれに制御パルスを供給する。垂直走査回路210には、シフトレジスタやアドレスデコーダなどの論理回路が用いられてもよい。
【0020】
画素204のそれぞれの光電変換回路202から出力された信号は、画素回路203で処理される。画素回路203には、カウンタ回路やメモリなどが設けられていてもよい。以下では、画素回路203がメモリを備える場合について説明する。メモリにはデジタル値が保持される。
【0021】
水平走査回路211は、デジタル信号が保持された画素204のそれぞれのメモリから信号を読み出すために、光電変換部201に配された複数の画素204を列ごとに順次選択する制御パルスを画素回路203に供給する。信号線213には、選択されている行について、垂直走査回路210によって選択された画素204の画素回路203から信号が出力される。信号線213に出力された信号は、出力回路214を介して、演算部105に出力される。
【0022】
図2に示される構成において、光電変換部201には、2次元アレイ状に画素204が配されている。しかしながら、それに限られることはなく、光電変換部201には、複数の画素204が1次元状に配されていてもよい。また、光電変換部201には、単一の画素204のみが配されていてもよい。
【0023】
画素回路203の機能は、必ずしも全ての画素204に1つずつ設けられる必要はない。例えば、複数の画素204によって1つの画素回路203が共有され、順次、信号処理が行われてもよい。
【0024】
図3は、本実施形態における画素204の構成例を示すブロック図である。上述の通り、画素204は、光電変換回路202と画素回路203とを含む。
図3に示される構成において、光電変換回路202としてAPD301が用いられる。また、画素回路203は、クエンチ素子302、波形整形回路303、ゲート素子304、光量値保持回路305を含む。光量値保持回路305は、上述の画素回路203が備えるメモリに相当する。
【0025】
APD301は、アバランシェ電流を制御するクエンチ素子302に接続される。APD301から波形整形回路303を介して出力される光子検出信号は、ゲート素子304に入力されるゲート信号GATEによって時間的に制御される。ゲート素子304の出力は、光量値保持回路305に入力する。
【0026】
APD301は、光電変換によって入射光に応じた電荷対を生成する。APD301のカソードにはアノードに供給される電位VLよりも高い電位VHに基づく電位が供給される。APD301のアノードとカソードとの間には、APD301に入射したフォトンがアバランシェ増倍されるような逆バイアスがかかるように、電位VHおよび電位VLが供給される。このような逆バイアスを供給した状態で光電変換することで、APD301において入射光によって生じた電荷がアバランシェ増倍を起こしアバランシェ電流が発生する。
【0027】
逆バイアスが供給される場合において、アノードとカソードとの間の電位差(電圧)が降伏電圧より大きい場合には、APD301は、ガイガーモード動作になる。以下では、ガイガーモード動作を用いて単一光子レベルの微弱信号を高速検出するAPD301を、Single Photon Avalanche Diode(SPAD)と呼ぶ場合がある。本実施形態では、微弱信号を高速検出するためにSPADを用いるが、APD301の動作モードは、降伏電圧以下の電圧でアバランシェ増倍させるリニアモード動作であってもよい。
【0028】
クエンチ素子302は、APD301で生じたアバランシェ電流の変化を電圧信号に変換する機能を有する。APD301においてアバランシェ増倍により光電流が増倍されると、増倍した電荷によって得られる電流が、APD301とクエンチ素子302との接続ノードに流れる。この電流による電圧降下によって、APD301のカソードの電位が下がり、APD301は、電子なだれを形成しなくなる。これによって、APD301のアバランシェ増倍が停止する。その後、電源の電位VHがクエンチ素子302を介してAPD301のカソードに供給されるため、APD301のカソードに供給される電位が電位VHに戻る。つまり、APD301の動作領域は再びガイガーモード動作となる。このように、クエンチ素子302は、アバランシェ増倍による電荷の増倍時に負荷回路(クエンチ素子)として機能し、アバランシェ増倍を抑制する働きを持つ(クエンチ動作)。また、クエンチ素子302は、アバランシェ増倍を抑制した後に、APD301の動作領域を再びガイガーモードにする働きを持つ(リチャージ動作)。
【0029】
波形整形回路303には、例えば、インバータ回路が用いられる。波形整形回路303は、光子検出時に得られるAPD301のカソードの電位変化を整形し、パルス信号を出力する。
【0030】
ゲート素子304には、例えば、AND回路が用いられ、ゲート信号GATEのHigh/Lowレベルを制御することによって画素204の露光動作を行う期間を調整している。露光動作を行う期間とは、APD301において光子検出を可能な期間であり、かつ、APD301の電位変化が波形整形回路303によって変換されたパルス信号が光量値保持回路305に出力される期間を指す。また、画素204において露光動作を行わない期間を非露光期間と呼ぶ。非露光期間は、波形整形回路303からパルス信号が光量値保持回路305に出力されない期間である。
図3において、ゲート信号GATEがHighレベルの場合に露光動作を行う期間になり、Lowレベルの場合に非露光期間になる。
【0031】
光量値保持回路305は、信号線213に信号が出力されるように接続されている。光量値保持回路305から出力される信号値(電気信号)に基づき、演算部105は、対象物110までの距離情報を取得し、測距を行うことが可能になる。したがって、信号線213は、少なくとも光量値保持回路305から出力されるビット数の信号を出力できるような本数で構成されている。
【0032】
図4は、本実施形態における時間ゲート型ToF方式の露光タイミングを示す図である。本実施形態では、対象物110までの距離を測定する1回の測距動作を行う期間において、光源112の発光から光電変換部201に配された画素204が露光動作を行うまでの時間を変化させながら複数フレームにわたる撮影動作を行う。
図4では、それぞれ撮影動作を行う各フレームをサブフレームと定義している。
【0033】
図4において、各サブフレームの白色で示す範囲が、光電変換部201(画素204)において露光動作を行う期間であり、黒色で示す範囲が、非露光期間である。
図4では、測距装置100からの距離と発光から反射光が検出されるまでの時間との関係を分かりやすくするために、1回の発光に対して複数のサブフレームを並べて描かれている。しかしながら、実際の駆動では、1回目の発光で第1サブフレームの反射光の検出がなされる。次いで、2回目の発光で第2サブフレームの反射光の検出がなされる。そして、N回目の発光で第Nサブフレームの反射光の検出がなされる。つまり、第1サブフレームから第Nサブフレームまで、順番に直列状に撮影動作(発光および反射光の検出)が行われる。第1サブフレームから第Nサブフレームまで撮影動作が完了すると1枚の測距フレームが取得でき、1回の測距動作が完了する。以降、例えば、同様の動作を繰り返す。本実施形態において、複数の撮影動作(サブフレーム)のそれぞれにおいて、複数の画素204のそれぞれから電気信号が出力されうる。
【0034】
発光部102に配された光源112の発光タイミングに対して、露光動作を行う開始タイミングと終了タイミングとの相対的なタイミングをずらしながらN回の反射光検出を行う。つまり、露光動作を行う開始タイミングを少しずつずらして線形に走査しながら、反射光を検出することによって、所定の測距範囲に対して、各撮影動作(サブフレーム)におけるサーチ範囲(測距目標距離)の光子量(画素値)を取得できる。測距装置100が、光源112の発光から光電変換部201が露光動作を行うまでの待機時間が互いに異なる複数の撮影動作を行うことによって、このように、測距が可能になる。
【0035】
ここで、
図4では、それぞれの撮影動作(サブフレーム)は、1回の発光および1回の露光動作しか図示されていないが、各撮影動作を複数回にわたり繰り返して得られた信号を加算し、測距が行われてもよい。それによって、反射光を検出する精度を向上させることができる。また、
図4に示される例では、光源112の発光から光電変換部201が露光動作を行うまでの待機時間が、複数の撮影動作(サブフレーム)のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作(サブフレーム)よりも長くなるように制御され、近距離から遠距離の方向に露光タイミングをずらして測距している。しかしながら、それに限られることはなく、遠距離から近距離の方向に露光タイミングをずらして測距してもよい。
【0036】
図4に示される例では、対象物110の反射光が、第5サブフレーム(1回の測距動作における5回目の撮影動作ともいえる。)の露光動作で受光されており、その他のサブフレームでは対象物が存在しないため、反射光は検出されない。演算部105は、光量値保持回路305から出力される各撮影動作(サブフレーム)の光子量(画素値:電気信号)から得られる画素値ヒストグラムのピークを検出することによって、距離情報を取得することができる。
【0037】
次いで、
図5、
図6を用いて、フォーカス駆動部106の動作について説明する。
図5に示されるように、測距装置100から距離d
110に対象物110が配され、距離d
110よりも遠い距離d
111に対象物111が配されている。被写界深度500は、焦点(ピントとも呼ばれうる。)を距離d
110に合わせた場合の被写界深度である。被写界深度501は、焦点を距離d
111に合わせた場合の被写界深度である。ここで、測距装置100から見て対象物110と対象物111とは距離方向に重なっていない(測距装置100から見通せる)ものとする。
【0038】
対象物110と対象物111とを含む距離の範囲を測距する場合、対象物110の距離d110に焦点を合わせると、被写界深度500より後方にある対象物111には焦点が合わずに対象物111の像がぼけてしまう(所謂、ピンぼけ)。また、対象物111の距離d111に焦点を合わせると、被写界深度501より前方にある対象物110には焦点が合わずに対象物110の像がぼけてしまう。また、図示されていないが、距離d110と距離d111との間のどの位置に焦点を設定しても、対象物110と対象物111との両方が被写界深度の範囲内に入ることはなく、少なくともどちらか一方はピンぼけする。そのような場合、光学系103の仮想的な被写体距離(合焦位置)を固定した状態では、対象物110と対象物111とを含む距離範囲を測距することは難しく、レンズのF値を大きくして被写界深度を拡げる必要がある。しかしながら、レンズのF値を大きくすると、受光部104に取り込まれる反射光の光量が減少するため、測距精度が低下してしまう。そこで、本実施形態において、フォーカス駆動部106が、対象物110、111までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行う。
【0039】
図6は、時間軸に対するフォーカス駆動による合焦位置を示す。ここで、合焦位置とは、測距装置100の前側主点から仮想的な被写体距離にある位置のことである。したがって、以下では、合焦位置と仮想的な被写体距離とは、同様の意味を有しうる。横軸(時間軸)に並ぶ↑のタイミングで、タイミング制御部101は、
図4で示されるように近距離から遠距離の方向に露光タイミングをずらしていき、第1サブフレーム(最近距離)から第Nサブフレーム(最遠距離)までの撮影動作を行う。また、フォーカス駆動部106は、複数の撮影動作のそれぞれの光源112の発光から光電変換部201が露光動作を行うまでの待機時間によって決まる測距距離に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行う。例えば、フォーカス駆動部106は、露光タイミングによって一意に決まるサーチ範囲(測距目標距離)と同じになるように合焦位置を変化させる。
図6に示されるように、フォーカス駆動部106は、複数のサブフレームにおける撮影動作のそれぞれの撮影動作に応じて、断続的に仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行ってもよい。そして、第Nサブフレームの撮影動作が完了すると、次の測距動作の第1サブフレームの撮影動作に戻り、同様の動作を行う。
【0040】
図4を用いて説明したように、時間ゲート型ToF方式では、対象物(例えば、対象物110、111)の有無に関わらず1回の撮影動作で測距する距離(サーチ範囲、測距目標距離)が予め決まっており、その対象物のサーチ範囲に合わせて露光タイミングを制御する。そのため、サーチ範囲が合焦位置になるようフォーカス駆動することによって、全てのサーチ範囲に対して焦点が合った状態で撮影動作を行い、測距することができる。
【0041】
以上のように、フォーカス駆動部106は、対象物までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行う。それによって、それぞれの撮影動作における光源112の発光から光電変換部201が露光動作を行うまでの待機時間によって決まる測距距離に合焦位置を合わせながらToF方式の測距を行うことができる。結果として、広い測距範囲において対象物のエッジがぼける(ピンぼけする)ことなく、精度が高い測距が可能になる。
【0042】
上述の実施形態では、フォーカス駆動部106が、光源112の発光から光電変換部201が露光動作を行うまでの待機時間によって決まる測距距離に合焦位置を合わせるように、仮想的な被写体距離を変化させることを説明した。しかしながら、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が、光学系103の被写界深度の範囲内であれば、測距距離に焦点を合わせなくても像がぼけることなく、測距精度も低下する可能性は低い。
【0043】
そこで、本実施形態において、フォーカス駆動部106は、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が、近距離では前方被写界深度の範囲内に、遠距離では後方被写界深度の範囲内に入るように、仮想的な被写体距離を変化させる。それによって、フォーカス駆動による仮想的な被写体距離の変化量が小さくなり、光学系103の負荷を軽減できる。
【0044】
光学系103の被写界深度を考慮した実施形態について
図7~9を用いて説明する。
図1~4を用いて説明した測距装置100の構成は、本実施形態でも同様であってもよいため、ここでは説明を適宜省略し、フォーカス駆動部106の
図6を用いて説明した動作と異なる点を中心に詳細を説明する。
【0045】
図7は、被写界深度について説明する図である。被写界深度は、焦点が合っているように見える範囲のことであり、合焦位置の前後に前方被写界深度と後方被写界深度がある。前方被写界深度および後方被写界深度は、以下の式で求められる。ここで、F値以外の単位は長さの単位、例えば、ミリメートル(mm)である。
前方被写界深度
≒(許容錯乱円径×F値×合焦点距離
2)/(焦点距離
2+許容錯乱円径×F値×合焦点距離)・・・(1)
後方被写界深度
≒(許容錯乱円径×F値×合焦点距離
2)/(焦点距離
2-許容錯乱円径×F値×合焦点距離)・・・(2)
被写界深度=前方被写界深度+後方被写界深度・・・(3)
【0046】
図8は、レンズの焦点距離を10mm、許容錯乱円径を5μm、F値を1.4とした場合の合焦点距離と被写界深度の関係を示す。例えば、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が5mの撮影動作を行う場合を考える。この場合に、点aの3.7mに合焦点距離を合わせると被写界遠点が5mになり、点bの7.6mに合焦点距離を合わせると被写界近点が5mになる。つまり、3.7mから7.6mの範囲に合焦点距離を合わせると測距距離5mが被写界深度の範囲内に収まり、像がぼけることなく測距することができる。
【0047】
図9は、本実施形態におけるフォーカス駆動部106のフォーカス駆動の例を説明する図である。発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が点線、フォーカス駆動による合焦位置が実線で示されている。測距距離は、
図6に示される例と同様に、近距離から遠距離の方向に一定の間隔でずらしている。一方、合焦位置は、測距距離に合わせるのではなく、近距離では測距目標距離より後方に焦点を合わせて、測距距離が前方被写界深度の範囲内に入るようにし、遠距離では、測距距離より前方に焦点を合わせて、測距距離が後方被写界深度の範囲内に入るようにフォーカス駆動している。つまり、発光から露光動作までの待機時間が、複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御される場合に、複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における待機時間によって決まる測距距離は、光学系103の最初の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であり、複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における待機時間によって決まる測距距離は、光学系103の最後の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であるように設定される。そして、
図9に示されるように、フォーカス駆動部106は、仮想的な被写体距離(合焦位置)が連続的に変化するようにフォーカス駆動を行う。
【0048】
以上のように、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が被写界深度の範囲内に入るようにフォーカス制御する。それによって、光学系103の焦点を合わせるための変化量が
図6に示される構成よりも小さくなり、光学系103の負荷を下げることができる。
【0049】
図9に示される動作では、フォーカス駆動部106は、仮想的な被写体距離(合焦位置)が連続的に変化するようにフォーカス駆動を行うが、
図6に示されるように、断続的に変化するようにフォーカス駆動を行ってもよい。また、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離は、遠距離から近距離の方向に一定の間隔でずらしてもよい。つまり、発光から露光動作までの待機時間が、複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御される場合に、複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における待機時間によって決まる測距距離は、光学系103の最初の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における待機時間によって決まる測距距離は、光学系103の最後の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であるように設定されてもよい。そして、フォーカス駆動部106は、仮想的な被写体距離(合焦位置)が連続的または断続的に変化するようにフォーカス駆動を行ってもよい。
【0050】
図9に示される動作では、フォーカス駆動部106は、発光から露光までの待機時間で決まる測距距離が、近距離では前方被写界深度の範囲内に、遠距離では後方被写界深度の範囲内に入るように焦点を合わせることで、光学系103の負荷を軽減した。しかしながら、
図6に示される動作と同様に、測距動作におけるそれぞれの撮影動作(サブフレーム)では近距離から遠距離の方向に測距していく。そのため、測距動作間で合焦位置を遠距離から近距離まで戻す際に、光学系103の合焦位置の変化量が大きくなり、光学系103の負荷も大きくなってしまう可能性がある。そこで、
図10に示されるように、測距動作における測距順序を変更することで、測距動作間の焦点位置の変化量を小さくし、光学系103の負荷を軽減してもよい。
【0051】
図6、
図9に示される動作では、測距動作のそれぞれにおいて発光から露光までの待機時間によって決まる測距距離が、近距離から遠距離の方向に順番に測距している。つまり、
図4に示されるそれぞれの撮影動作で測距できる距離範囲の各々を第1サブフレームから順番にD
1、D
2、D
3・・・D
Nとする。その場合に、
図6、
図9に示される動作では、D
1、D
2、D
3・・・D
N(近→遠)の順番に応じて、合焦位置を撮影動作間で変更している。それに対して、
図10に示される動作は、D
1、D
3、D
5・・・D
N-1、D
N、D
N-2・・・D
6、D
4、D
2(近→遠→近)の順番に応じて、合焦位置を変更する(この例では、Nは偶数とする)。それによって、
図6、
図9に示される動作では測距動作間で次の測距動作に移る際に、測距距離は最も遠距離から最も近距離(D
N→D
1)に変化するが、
図10に示される動作では、互いに隣り合う変化(D
N-1→D
N、または、D
2→D
1)になる。つまり、複数の測距動作は、連続する第1測距動作と第2測距動作とを含み、第1測距動作において、発光から露光までの待機時間が複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御される場合、第2測距動作において、待機時間が複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御される。また、第1測距動作において、発光から露光までの待機時間が複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御される場合、第2測距動作において、待機時間が複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御される。
【0052】
図10には、発光から露光動作までの待機時間で決まる測距距離が点線、フォーカス駆動による合焦位置が実線で示されている。上述の通り、測距距離は、測距動作内で近距離から遠距離、または、遠距離から近距離の順番に測距するよう発光および露光のタイミングが制御され、合焦位置は、測距距離の順番に合わせて変化する。この場合に、フォーカス駆動部106は、
図9に示される動作と同様に、測距距離が合焦位置の被写界深度の範囲内に入るようにフォーカス駆動を行ってもよい。それによって、合焦位置の変化量を小さくすることができる。しかしながら、それに限られることはなく、
図6に示されるように、発光から露光動作までの待機時間で決まる焦点距離と、合焦位置と、が一致するようにフォーカス駆動が行われてもよい。
【0053】
また、
図10に示される動作では、
図6、
図9に示される動作に対して、1回の測距動作で行われる撮影動作(サブフレーム)が半分になっている。しかしながら、それに限られることはない。例えば、1回目の測距動作で測距できる距離範囲の各々を第1サブフレームから順番にD
1、D
2、D
3・・・D
Nとする。次いで、2回目の測距動作で測距できる距離範囲の各々を第1サブフレームから順番にD
N、D
N-1、D
N-2・・・D
1とする。3回目の測距動作では1回目の測距動作と同様の測距、4回目の測距動作で2回目の測距動作と同様の測距を行い、以降、同様の測距動作を繰り返してもよい。
【0054】
以上のように、
図10に示されるように、測距動作間でフォーカス駆動における合焦位置の変化量が小さくなるような測距順序に基づいて、発光および露光のタイミングと、フォーカス駆動と、が制御される。それによって、
図6、
図9に示される動作と比較して、光学系103の負荷をさらに下げることが可能になる。
【0055】
上述の各実施形態では、時間ゲート型ToF方式を用いた測距装置100を例に説明した。これに対し、以下の実施形態では、
図11~
図14を参照して、直接ToF方式の測距装置1100でフォーカス駆動を行う例について説明する。
【0056】
直接ToF方式は、レーザ光の発光から反射光を受光するまでの飛行時間を直接計測し、対象物1110までの距離を算出する方式である。直接ToF方式では、1回の測距動作で受光部104の光電変換部201に配された複数の画素1204から1回ずつ電気信号が出力され、画素1204ごとに異なる飛行時間(=距離)を測定する。そのため、上述の時間ゲート型ToF方式のように測距動作の開始時に予め測距距離が決まっているわけではない。しかしながら、撮影範囲内の領域に応じて測距したい距離が予め決まっている場合がある。本実施形態では、そのような場合に光電変換部201の画素1204が配された位置に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行い、測距範囲の拡張および測距精度の向上を図る。
【0057】
図11は、本実施形態に係る測距装置1100の構成例を概略的に示すブロック図である。測距装置1100のブロック構成は、
図1に示される構成と同様であり、タイミング制御部1101、発光部1102、光学系1103、受光部1104、演算部1105、フォーカス駆動部1106を含む。
【0058】
タイミング制御部1101は、測距装置1100に配された各構成要素の動作タイミングを制御する。より具体的には、タイミング制御部1101は、発光部1102が発光するタイミングを制御する制御信号を発光部1102に出力する。また、タイミング制御部1101は、受光部1104に配された後述するTime‐to‐Digital Converter(TDC)部1201が時間計測を開始するタイミングを制御する制御信号をTDC部1201に出力する。さらに、タイミング制御部1101は、フォーカス駆動部1106がフォーカス駆動を行うタイミングを制御する制御信号をフォーカス駆動部1106に出力する。
【0059】
発光部1102は、タイミング制御部1101からの制御信号に基づいて発光する光源1112を備える。光源1112として、例えば、半導体レーザダイオードが用いられる。その場合に、光源1112は、タイミング制御部1101から供給される制御信号に応じて所定のパルス幅を有するレーザ光を発光する。発光部1102(光源1112)には、光電変換部201に配される画素1204の1行分に対応する発光素子が配されていてもよい。発光部1102の1回の発光に応じた1回の撮影動作(発光→受光)で1次元の距離情報が得られる。1行ずつ垂直方向に撮影動作を行う画素行をスキャンすることによって2次元の距離情報を得ることができる。つまり、測距動作において、測距装置1100は、複数の画素1204のそれぞれの行ごとに光源1112の発光から反射光を検出するまでの時間計測を行う撮影動作を行う。外来光などのノイズの影響を除去するために、複数回にわたる測距動作を行い、1つの測距データが生成されてもよい。レーザ光の照射は、水平方向および垂直方向に2次元的にスキャンするラスタースキャンでもよいし、上述の発光部102と同様に、1回の撮影動作で2次元範囲に照射するフラッシュ方式でもよい。
【0060】
光学系1103は、発光部1102の光源1112が発する光を受けた対象物1110の像を受光部104に配された光電変換部201に形成する。光学系1103は、例えば、1つ以上のレンズによって構成される。光学系1103は、発光部1102の光源1112から発せられた光が対象物1110に反射した反射光を受光部104へと結像する、ともいえる。
【0061】
受光部1104は、所謂、イメージセンサを含む。受光部1104は、例えば、CMOSセンサや、SPADセンサなどであってもよい。受光部1104は、光学系1103によって結像された光学像を電気信号に変換する。この電気信号に基づいて、後述するTDC部1201によって光源1112の発光から反射光の受光までの時間計測が行われ、デジタル値に変換される。
【0062】
演算部1105は、受光部1104のTDC部1201から出力される画素1204ごとの複数回にわたる時間計測値からヒストグラムを生成し、ピークとなる時間計測値と光速とに基づいて、対象物1110までの距離情報を取得する。演算部1105は、得られた距離情報から3次元距離画像を生成してもよい。演算部1105には、CPUやASICなどの半導体デバイスが用いられてもよい。
【0063】
フォーカス駆動部106は、光学系103のフォーカス駆動を制御する。フォーカス駆動部106は、受光部1104の光電変換部201における複数の画素1204が配された位置に応じて、予め決められた対象物のサーチ範囲(測距目標距離)が、光学系103の被写界深度内に入るようにフォーカス駆動する。
【0064】
図12は、本実施形態における受光部1104の構成例を示すブロック図である。
図13は、本実施形態における画素1204の構成例を示すブロック図である。
図2および
図3と同様であってもよい構成については、同一の参照番号を付して説明を適宜、省略する。
【0065】
図12に示される受光部1104は、画素1204の構成と、TDC部1201を備えている点と、が
図2に示される構成と異なっている。
図13に示される画素1204は、
図3に示される画素回路203から、ゲート素子304と光量値保持回路305とが削除されている。反射光を検出することによって波形整形回路303から出力されるパルス信号が信号線213を介してTDC部1201に入力される。
【0066】
TDC部1201は、タイミング制御部1101から出力される発光部1102の光源1112の発光タイミングに同期した時間計測開始信号に同期して、時間計測(カウンタ動作)を開始する。その後、TDC部1201は、反射光を検出したことに起因するパルス信号を受けて、時間計測(カウンタ動作)を停止することで、レーザ光の発光から反射光を受光するまでの飛行時間が計測できる。計測された時間計測値は、出力回路214を介して演算部1105に出力される。
【0067】
図14は、本実施形態におけるフォーカス駆動の例を示す。例えば、車載カメラでは撮像範囲の上側は合焦位置(ピントが合う位置)が遠く、下側は合焦位置が近い傾向にある。そのため、
図14に示される動作では、光電変換部201に配された画素204のうち上側の半分と下側の半分とで合焦位置を変化させ測距する例が示されている。
【0068】
図14に示される動作において、光電変換部201の上側の半分である最初に時間計測を行う撮影動作が行われる1行目からN/2行目までの間、フォーカス駆動部1106は、仮想的な被写体距離(合焦位置)を第1距離に設定する。次いで、光電変換部201の下側の半分であるN/2行の次に撮影動作が行われるN/2+1行目からN行目までの間、フォーカス駆動部1106は、仮想的な被写体距離(合焦位置)を第1距離よりも短い第2距離に設定する。N行は、測距動作において最後に撮影動作が行われる行である。
図14において、↑で示されるタイミングで、フォーカス駆動部1106は、フォーカス駆動を行う。ここで、各々の合焦位置(第1距離、第2距離)は、光電変換部201における画素1204の配置(上側の半分、下側の半分)で予め決められている目標とする測距範囲が、被写界深度に入るように決められる。
【0069】
本実施形態では、測距動作で2つの合焦位置のフォーカス駆動を行っているが、これに限られるものではない。予め光電変換部201に配された画素1204の配置に応じた測距範囲が決まっていれば、それぞれの測距動作において3つ以上の合焦位置でのフォーカス駆動が行われてもよい。また、合焦位置を変更する複数の画素1204の光電変換部201における配置位置に関しても特に限定はない。
【0070】
以上のように、直接ToF方式を用いた測距装置1100においてフォーカス駆動を行う。それによって、時間ゲート型ToF方式を用いた測距装置100だけに限らず、直接ToF方式を用いた測距装置1100においても測距範囲の拡張および測距精度の向上が実現する。
【0071】
上述の実施形態に係る測距装置100、1100の応用例を以下に説明する。
図15は、測距装置100、1100を搭載した機器EQPの模式図である。測距装置100、1100は、画素204が配された光電変換部201が設けられた積層構造の半導体チップでありうる。測距装置100、1100は、
図15に示されるように、半導体パッケージPKGに収容されている。パッケージPKGは、測距装置100、1100が固定された基体と、測距装置100、1100に対向するガラスなどの蓋体と、基体に設けられた端子と測距装置100、1100に設けられた端子とを接続するボンディングワイヤやバンプなどの導電性の接続部材と、を含みうる。機器EQPは、制御装置CTRL、処理装置PRCS、表示装置DSPL、記憶装置MMRYの少なくともいずれかをさらに備えていてもよい。
【0072】
光学系OPTは、上述の光学系103を含み、光電変換部201に結像するものであり、例えば、レンズやシャッタ、ミラーなどでありうる。制御装置CTRLは、測距装置100、1100の動作を制御するものであり、例えば、ASICなどの半導体デバイスでありうる。処理装置PRCSは、測距装置100、1100から出力された信号を処理するものであり、CPUやASICなどの半導体デバイスでありうる。表示装置DSPLは、測距装置100、1100で得られたデータを表示する、EL表示装置や液晶表示装置でありうる。記憶装置MMRYは、測距装置100、1100で得られたデータを記憶する、磁気デバイスや半導体デバイスである。記憶装置MMRYは、SRAMやDRAMなどの揮発性メモリ、あるいは、フラッシュメモリやハードディスクドライブなどの不揮発性メモリでありうる。機械装置MCHNはモータやエンジンなどの可動部あるいは推進部を有しうる。また、機械装置MCHNは、例えば、ズーミングや合焦、シャッタ動作のために光学系OPTの部品を駆動する、上述のフォーカス駆動部106、1106を含みうる。機器EQPでは、測距装置100、1100から出力されたデータを表示装置DSPLに表示したり、機器EQPが備える通信装置(不図示)によって外部に送信したりする。このため、機器EQPは、記憶装置MMRYや処理装置PRCSを備えていてもよい。
【0073】
測距装置100、1100が組み込まれた機器EQPは、監視カメラや、自動車や鉄道車両、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの輸送機器に搭載される車載カメラなどにも適用されうる。加えて、測距装置100が組み込まれた機器EQPは、輸送機器に限らず、高度道路交通システム(ITS)など、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【0074】
本明細書の開示は、以下の測距装置および機器を含む。
【0075】
(項目1)
光源と、光電変換部と、前記光源が発する光を受けた対象物の像を前記光電変換部に形成するための光学系と、前記光電変換部によって光電変換された電気信号に基づいて前記対象物までの距離情報を取得するための演算部と、を備える測距装置であって、
前記光学系のフォーカス駆動を制御するフォーカス駆動部をさらに備え、
前記フォーカス駆動部は、対象物までの距離を測定する測距動作を行う期間において、フォーカス駆動を行うことを特徴とする測距装置。
【0076】
(項目2)
前記フォーカス駆動部は、前記光学系の被写界深度が対象物のサーチ範囲に入るようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする項目1に記載の測距装置。
【0077】
(項目3)
前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離が断続的または連続的に変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする項目1または2に記載の測距装置。
【0078】
(項目4)
前記測距動作において、前記測距装置は、前記光源の発光から前記光電変換部が露光動作を行うまでの待機時間が互いに異なる複数の撮影動作を行い、
前記フォーカス駆動部は、前記複数の撮影動作のそれぞれの前記待機時間によって決まる測距距離に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする項目1乃至3の何れか1項目に記載の測距装置。
【0079】
(項目5)
前記フォーカス駆動部は、前記複数の撮影動作のそれぞれの撮影動作に応じて、断続的に仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする項目4に記載の測距装置。
【0080】
(項目6)
前記待機時間は、前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御され、
前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であり、
前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であることを特徴とする項目4または5に記載の測距装置。
【0081】
(項目7)
前記待機時間は、前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御され、
前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、
前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であることを特徴とする項目4または5に記載の測距装置。
【0082】
(項目8)
前記測距動作を含む複数の測距動作が行われ、
前記複数の測距動作は、連続する第1測距動作と第2測距動作とを含み、
前記第1測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御される場合、前記第2測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御され、
前記第1測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなるように制御される場合、前記第2測距動作において、前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなるように制御されることを特徴とする項目4または5に記載の測距装置。
【0083】
(項目9)
前記複数の測距動作のうち前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも長くなる測距動作において、前記複数の撮影動作のうち最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であり、かつ、前記複数の撮影動作のうち最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、
前記複数の測距動作のうち前記待機時間が前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて1つ前の撮影動作よりも短くなる測距動作において、前記最初の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最初の撮影動作における合焦位置の後方被写界深度の範囲であり、かつ、前記最後の撮影動作における前記待機時間によって決まる測距距離は、前記光学系の前記最後の撮影動作における合焦位置の前方被写界深度の範囲であることを特徴とする項目8に記載の測距装置。
【0084】
(項目10)
前記光電変換部には複数の画素が配され、
前記複数の撮影動作のそれぞれにおいて、前記複数の画素のそれぞれから前記電気信号が出力されることを特徴とする項目4乃至9の何れか1項目に記載の測距装置。
【0085】
(項目11)
前記光電変換部には複数の画素が配され、
前記測距動作において、前記複数の画素から1回ずつ前記電気信号が出力され、
前記フォーカス駆動部は、前記光電変換部における前記複数の画素が配された位置に応じて、仮想的な被写体距離が変化するようにフォーカス駆動を行うことを特徴とする項目1乃至3の何れか1項目に記載の測距装置。
【0086】
(項目12)
前記複数の画素は、前記光電変換部において複数の行を構成するように配され、
前記測距動作において、前記測距装置は、前記複数の画素のそれぞれの行ごとに前記光源の発光から反射光を検出するまでの時間計測を行う撮影動作を行い、
最初に前記撮影動作が行われる行から第1行までの間、前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離を第1距離に設定し、
前記第1行の次に前記撮影動作が行われる行から第2行までの間、前記フォーカス駆動部は、仮想的な被写体距離を第2距離に設定することを特徴とする項目11に記載の測距装置。
【0087】
(項目13)
前記第2行が、前記測距動作において最後に前記撮影動作が行われる行であることを特徴とする項目12に記載の測距装置。
【0088】
(項目14)
前記複数の画素のそれぞれが、アバランシェフォトダイオードを備えることを特徴とする項目10乃至13の何れか1項目に記載の測距装置。
【0089】
(項目15)
項目1乃至14の何れか1項目に記載の測距装置と、
前記測距装置から出力された信号を処理する処理装置と、
を備えることを特徴とする機器。
【0090】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0091】
100:測距装置、103:光学系、105:演算部、106:フォーカス駆動部、110:対象物、112:光源、201:光電変換部