(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171858
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 3/12 20060101AFI20241205BHJP
F02D 15/00 20060101ALI20241205BHJP
F02D 23/02 20060101ALI20241205BHJP
F02B 23/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F02B3/12
F02D15/00 E
F02D23/02 K
F02D23/02 H
F02B23/00 P
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089118
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】西條 克哉
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AA05
3G023AB05
3G023AC04
3G092AA11
3G092AB02
3G092BA01
3G092BB01
3G092BB06
3G092BB12
3G092DA01
3G092DA03
3G092DD03
3G092EA02
3G092EA16
3G092FA16
3G092FA24
3G092HA01Z
3G092HA13X
3G092HB02X
3G092HC05Z
3G092HE06Z
(57)【要約】
【課題】エンジン1の燃焼時の排出物の量を低減する。
【解決手段】エンジン1は、エンジン1のシリンダ12内に往復運動可能に収容されて、シリンダ12内に収容された空気の温度がガソリンを自然発火させる発火温度以上になるようにシリンダ12内に収容された空気を圧縮するピストン13と、ピストン13が空気を圧縮しているときにシリンダ12の内部の燃焼室19にガソリンを噴射して、ガソリンと空気の混合気を燃焼させる噴射装置14と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に収容されて、前記シリンダ内を往復運動することにより前記シリンダ内の空気を圧縮するピストンと、
前記空気の圧縮中に前記シリンダにガソリンを噴射して燃焼させる噴射装置と、
を有するエンジン。
【請求項2】
前記ピストンは、前記シリンダ内を往復運動して空気を圧縮することで、前記シリンダ内の空気の温度を前記ガソリンの発火温度以上に昇温する、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記噴射装置は、
前記エンジンにかかる負荷が閾値未満の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、
前記負荷が前記閾値以上の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを複数回に分けて噴射する、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
前記噴射装置は、
前記負荷が前記閾値未満の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、
前記負荷が前記閾値以上の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンのうちの一部を噴射し、前記ピストンが上死点を通過する際に残りの前記ガソリンを噴射する、
請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記エンジンの燃焼室の最小容積に対する前記燃焼室の最大容積の比率である圧縮比を変更可能な圧縮比変更部を有し、
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値未満の場合の圧縮比を、前記負荷が前記閾値以上の場合の圧縮比よりも大きくする、
請求項3又は4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の圧縮比を、前記前記負荷が前記所定値よりも大きい場合の圧縮比よりも大きくする、
請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の前記圧縮比が最大になるように、前記負荷が前記閾値よりも小さくなるほど前記圧縮比を大きくする、
請求項5に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンを燃料とするエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンを燃料とするエンジンが知られている。特許文献1には、ガソリンと空気の混合気に点火する点火装置を有し、混合気に点火して混合気を燃焼させたり、混合気を圧縮して自然発火で混合気を燃焼させたりするエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、点火装置でガソリンに点火して燃焼させる場合、ガソリンを自然発火で燃焼させる場合よりも排出物の量が多くなっていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、燃焼時の排出物の量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、シリンダと、前記シリンダ内に収容されて、前記シリンダ内を往復運動することにより前記シリンダ内の空気を圧縮するピストンと、前記空気の圧縮中に前記シリンダにガソリンを噴射して燃焼させる噴射装置と、を有するエンジンを提供する。
【0007】
前記ピストンは、前記シリンダ内を往復運動して空気を圧縮することで、前記シリンダ内の空気の温度を前記ガソリンの発火温度以上に昇温してもよい。
【0008】
前記噴射装置は、前記エンジンにかかる負荷が閾値未満の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、前記負荷が前記閾値以上の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを複数回に分けて噴射してもよい。
【0009】
前記噴射装置は、前記負荷が前記閾値未満の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、前記負荷が前記閾値以上の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンのうちの一部を噴射し、前記ピストンが上死点を通過する際に残りの前記ガソリンを噴射してもよい。
【0010】
前記エンジンの燃焼室の最小容積に対する前記燃焼室の最大容積の比率である圧縮比を変更可能な圧縮比変更部を有し、前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値未満の場合の圧縮比を、前記負荷が前記閾値以上の場合の圧縮比よりも大きくしてもよい。
【0011】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の圧縮比を、前記前記負荷が前記所定値よりも大きい場合の圧縮比よりも大きくしてもよい。
【0012】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の前記圧縮比が最大になるように、前記負荷が前記閾値よりも小さくなるほど前記圧縮比を大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼時の排出物の量を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施の形態に係るエンジンの燃焼サイクルを説明するための図である。
【
図3】エンジン制御装置の構成を説明するための図である。
【
図4】ピストンが下死点から上死点へ回転する際の模式図である。
【
図5】1回噴射モードの噴射タイミングを説明するための図である。
【
図6】ピストンが上死点を通過する際の模式図である。
【
図7】2回噴射モードの噴射タイミングを説明するための図である。
【
図8】負荷に応じてガソリンの噴射回数を切り替える処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[エンジン1の構成]
図1は、エンジン1の構成を説明するための図である。エンジン1は、空気を圧縮した圧縮空気にガソリンを噴射することで、ガソリンと空気を混合した混合気を燃焼、膨張させて動力を発生させる内燃機関である。エンジン1は、例えば自動車や船舶に搭載される。エンジン1は、エンジン本体11及びエンジン制御装置2を有する。エンジン本体11は、4つのシリンダ12を備えるが、シリンダ12の数はこれに限らない。エンジン制御装置2は、エンジン1を制御するECM(Engine Control Module)である。エンジン制御装置2の詳細は後述する。
【0016】
図2は、実施の形態に係るエンジン1の燃焼サイクルを説明するための図である。
図2に示すとおり、シリンダ12には、ピストン13、噴射装置14、吸気弁15及び排気弁16が設けられているが、空気とガソリンの混合気に点火する点火装置が設けられていない。ピストン13は、シリンダ12内に往復運動可能に収容されている。吸気弁15は、シリンダ12と吸気管17の間を開閉する。排気弁16は、シリンダ12と排気管18の間を開閉する。
【0017】
ピストン13の往復運動において、最もピストン13がシリンダ12内に押し込まれた状態をピストン13が上死点に位置するという。また、ピストン13の往復運動において、最もピストン13がシリンダ12内から
図2中の下側に位置する状態を、ピストン13が下死点に位置するという。シリンダ12とピストン13は、燃焼室を形成する。燃焼室19の容積は、ピストン13が上死点に位置するとき最小となり、ピストン13が下死点に位置するとき最大となる。
【0018】
エンジン1の燃焼サイクルの開始時においてシリンダ12の吸気弁15及び排気弁16は閉じている。まず、ピストン13が上死点から下死点に回転する際に吸気弁15は開放されて、空気がシリンダ12内に吸い込まれる(吸気工程)。吸気弁15は、ピストン13が上死点から下死点に至るまでの間、開放されている。なお、
図2に示すピストン13は下死点に至る直前であり、吸気弁15は、解放されている。
【0019】
吸気弁15は、ピストン13が下死点に至るときに閉じる。シリンダ12内の空気は、ピストン13が下死点から上死点に回転する際に圧縮される(圧縮工程)。具体的には、ピストン13は、シリンダ12内部の燃焼室19の最大容積まで燃焼室19に収容された空気の体積が、燃焼室19の最小容積になるまで空気を圧縮する。以下の説明では、燃焼室19の最小容量に対する燃焼室19の最大容量の比率を圧縮比という。より具体的には、ピストン13は、最大容積まで収容された空気を最小容積になるまで圧縮することで、シリンダ12内の空気の温度がガソリンを自然発火させる発火温度以上になるようにする。ガソリンが自然発火する温度はおよそ摂氏300度であるので、ピストン13は、温度が摂氏300度になるまで空気を圧縮できる。
【0020】
圧縮比は、ピストン13により圧縮された空気が摂氏300度に到達するように設定され、当該圧縮比を実現するようにピストン13及びシリンダ12の形状が定められている。具体例を挙げると、圧縮比を18以上にすると圧縮された空気が300度以上になるので、圧縮比が18以上になるようにピストン13及びシリンダ12の形状が定められている。
【0021】
噴射装置14は、ピストン13が空気を圧縮中にシリンダ12にガソリンを噴射して燃焼させる。具体的には、噴射装置14は、ピストン13が下死点から上死点へ回転する際にガソリンを燃焼室19に噴射する。これにより、混合気に点火することなく、圧縮加熱された圧縮空気とガソリンが混合して燃焼する。圧縮空気とガソリンが混合して燃焼することにより燃焼ガスが発生し、ピストン13は、膨張する燃焼ガスにより下死点まで押し下げられる(燃焼行程)。
【0022】
そして、ピストン13は、下死点まで押し下げられた後、慣性や他のシリンダ12での燃焼ガスの膨張に伴い、再度上死点まで上昇する。このとき、排気弁16は開放され、燃焼ガスはシリンダ12外に押し出されて排気ガスとして排気管18に排出される(排気工程)。上記のとおり、本実施の形態に係るエンジン1の燃焼サイクルにおいては、ガソリンに点火することなく、ガソリンが自然発火した温度まで上昇した圧縮空気にガソリンを噴射することで、ガソリンと空気の混合気を燃焼させる。
【0023】
混合気が燃焼する際には、燃焼時の排出物として窒素酸化物が生じる。窒素酸化物の量は、燃焼温度が高いほど多くなる。混合気の燃焼温度は、混合気中のガソリンに対する酸素の比率である空燃比に応じて変化する。具体的には、混合気の燃焼温度は、酸素とガソリンが過不足なく反応する理論空燃比のときに最大になり、空燃比が理論空燃比よりも大きくなるほど低下する。そのため、混合気の燃焼で生じる窒素酸化物の量は、理論空燃比のときに最大になり、空燃比が大きくなるほど減少する。
【0024】
予混合圧縮着火の空燃比は、理想空燃比付近の混合気に点火装置で点火する火炎伝播燃焼の空燃比よりも大きいので、予混合圧縮着火の燃焼温度は、火炎伝播燃焼よりも低い。そのため、予混合圧縮着火で生じる窒素酸化物の量は、火炎伝播燃焼で生じる窒素酸化物の量よりも少ない。本実施の形態に係るエンジン1は、火炎伝播燃焼よりも燃焼温度が低い予混合圧縮着火で混合気を燃焼させることにより、混合気を火炎伝播燃焼させる場合よりも、燃焼時に生じる窒素酸化物の量を低減できる。
【0025】
[エンジン制御装置2の構成]
図3は、エンジン制御装置2の構成を説明するための図である。エンジン制御装置2は、記憶部21及び制御部22を有する。記憶部21は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部21は、制御部22が実行するプログラムを記憶する。
【0026】
制御部22は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部221、噴射制御部222及び圧縮比変更部223としての機能を実現する。
【0027】
取得部221は、エンジン1の出力軸3にかかる負荷を取得する。負荷は、出力軸3の回転を妨げる力である。例えば、エンジン1が車両に搭載されている場合、取得部221は、エンジン1が搭載された車両の走行を妨げる力を負荷として取得する。
【0028】
噴射制御部222は、ピストン13が下死点から上死点へ回転する際に、取得部221が取得した負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンを噴射装置14に噴射させる。出力トルクは、負荷に抗って出力軸3を回転させようとする力である。エンジン1が車両に搭載されている場合、噴射制御部222は、車両の走行を妨げる力に抗って車両を走行させるのに必要な出力トルクを出力可能な量のガソリンを噴射装置14に噴射させる。
【0029】
噴射制御部222は、負荷が低負荷であるか否かを判定するための閾値よりも取得された負荷が低い場合、ガソリンを噴射装置14に噴射させるモードを1回噴射モードにして、ピストン13が下死点から上死点へ回転する際に、出力トルクを出力可能な量のガソリンを噴射装置14に一度に噴射させる。低負荷は、例えばエンジン1を搭載した車両が平坦な道や緩い下り坂を一定の速度で走行している場合にエンジン1の出力軸3の回転を妨げる力であるが、これに限定するものではない。閾値の具体的な値は、燃焼室19の容積や、噴射装置14の耐久性等のエンジン1の仕様に応じて実験などにより定めればよい。
【0030】
図4は、ピストン13が下死点から上死点へ回転する際の模式図である。
図4に示すとおり、噴射制御部222は、ピストン13が下死点から上死点に回転する際にピストン13にガソリン4を噴射させる。
図5は、1回噴射モードの噴射タイミングを説明するための図である。
図5の横軸はクランク角を示し、縦軸はinjection rateを示す。噴射制御部222は、クランク角が下死点から上死点の間に設定された第1角度範囲5内である間に、出力トルクを出力可能な量のガソリンを噴射装置14に一度に噴射させる。第1角度範囲5は、例えば上死点前50度を含む。具体的には、第1角度範囲5は、上死点前50度を中心とするプラスマイナス15度である。
【0031】
ピストン13は、ガソリン4と空気が燃焼室19内で混合された状態で、ガソリン4と空気が混合された気体を圧縮する。そして、ガソリン4と空気が混合された気体は、圧縮による温度上昇によって燃焼する。以下の説明において、負荷が閾値未満の場合に、ガソリン4と空気を燃焼室19内で混合して、圧縮による温度上昇によって自己着火させることを予混合圧縮着火と言うことがある。
【0032】
ところで、エンジン1にかかる負荷が大きくなると、より大きな出力トルクを出力可能にするために多くのガソリンを噴射させる必要がある。しかし、多量のガソリンを一度に噴射させると、燃焼ガスの圧力が大きくなりすぎてしまい、ノッキングが生じたり、噴射装置14が損傷したりしてしまうことがある。
【0033】
そこで、噴射制御部222は、負荷が閾値以上の場合、負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンを複数回に分けて噴射装置14に噴射させる。具体的には、噴射制御部222は、負荷が閾値以上の場合、ガソリンを噴射装置14に噴射させるモードを2回噴射モードにする。噴射制御部222は、2回噴射モードの場合、まず、ピストン13が下死点から上死点へ回転する際に負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンのうちの一部を噴射装置14に噴射させる。具体的には、噴射制御部222は、圧縮中の空気の温度がガソリンの発火温度になる前に、一部のガソリンを噴射装置14に噴射させる。そして、噴射制御部222は、ピストン13が上死点を通過する際に残りのガソリンを噴射装置14に噴射させる。
【0034】
図6は、ピストン13が上死点を通過する際の模式図である。
図6のピストン13は、上死点を通過している最中である。噴射制御部222は、ガソリン4のうちの一部を噴射装置14に噴射させた後、ピストン13が回転して上死点を通過する際に残りのガソリン4を噴射装置14に噴射させる。言い換えると、噴射制御部222は、先に噴射させたガソリンが自然発火して予混合圧縮着火が始まるタイミングに合わせて、残りのガソリン4を噴射装置14に噴射させる。このようにすることで、残りのガソリン4が引火して拡散燃焼する。
【0035】
図7は、2回噴射モードの噴射タイミングを説明するための図である。
図7の横軸はクランク角を示し、縦軸はinjection rateを示す。噴射制御部222は、クランク角が第1角度範囲5内である間に、出力トルクを出力可能な量のガソリンのうちの一部を噴射装置14に噴射させる。噴射制御部222は、噴射制御部222は、クランク角が上死点を含む第2角度範囲6内である間に、出力トルクを出力可能な量のガソリン4のうちの残りを噴射装置14に噴射させる。第2角度範囲6は、例えば上死点を中心とするプラスマイナス15度である。これにより、出力トルクを出力可能な量のガソリンを一度に噴射させる場合よりも、燃焼ガスの圧力が高くなりすぎることを抑制できる。
【0036】
ところで、噴射制御部222は、エンジン1にかかる負荷が小さい場合、噴射装置14が燃焼室19に噴射するガソリンの量を少なくする。空気に対するガソリンの比率が小さくなると、燃焼ガスの膨張による圧力は低くなる。燃焼ガスの圧力が低くなると、ピストン13が回転しなくなりエンジン1が失火することがある。
【0037】
そこで、圧縮比変更部223は、負荷が閾値未満か否かに応じて圧縮比を変更する。例えば、圧縮比変更部223は、エンジン1にかかる負荷が閾値未満の場合の圧縮比を、エンジン1にかかる負荷が閾値以上の場合の圧縮比よりも大きくする。具体的には、圧縮比変更部223は、負荷が閾値以下の場合の吸気弁15の開口時間を、負荷が閾値よりも大きい場合の開口時間よりも長くすることで圧縮比を大きくする。具体的には、圧縮比変更部223は、負荷が閾値以下の場合の吸気弁15の開口時間を圧縮比が24になるようにし、負荷が所定値よりも大きい場合の吸気弁15の開口時間を圧縮比が18になるようにする。
【0038】
このように、圧縮比変更部223は、エンジン1にかかる負荷が小さくて噴射装置14が燃焼室19に噴射するガソリンの量が少なくなる際に、圧縮比を大きくする。圧縮比を高くするほど燃焼ガスの膨張による圧力が増加する。その結果、圧縮比変更部223は、燃焼時の圧力の低下を抑制できるので、ピストン13が回転しなくなることを抑制できる。
【0039】
圧縮比変更部223は、エンジン1にかかる負荷が、低負荷よりも小さい極低負荷の場合の圧縮比を、低負荷の場合の圧縮比よりも大きくしてもよい。圧縮比変更部223は、負荷が、極低負荷か否かを判定するための所定値未満の場合の圧縮比を、負荷が所定値以上の場合の圧縮比よりも大きくする。所定値は閾値よりも小さい。
【0040】
極低負荷は、例えば、車両が惰性で走行可能な下り坂を走行する場合や、車両の変速機がニュートラルでエンジン1の出力トルクが車両の車輪に伝達されていない状態の場合の負荷である。また、極低負荷は、エンジン1の出力軸3に負荷がかかっていない無負荷状態であり、エンジン1が失火しない回転数で稼動し続けている状態(いわゆるアイドリング中)の負荷であってもよい。無負荷状態の負荷の大きさの具体的な値は例えば0である。
【0041】
圧縮比変更部223は、負荷が所定値以下の場合の吸気弁15の開口時間を、負荷が所定値よりも大きい場合の開口時間よりも長くすることで圧縮比を大きくする。具体的には、圧縮比変更部223は、負荷が所定値以下の場合の吸気弁15の開口時間を圧縮比が24になるようにし、負荷が所定値よりも大きい場合の吸気弁15の開口時間を圧縮比が18になるようにする。開口時間の具体的な値は、ピストン13の回転速度や吸気管17の径等に応じて適宜定めればよい。このように、圧縮比変更部223は、負荷に応じた圧縮比でガソリンを燃焼させられるので、燃焼ガスの仕事量の低下を抑制でき、エンジン1の失火を抑制できる。
【0042】
圧縮比変更部223は、圧縮比を段階的に変化させるのでなく、圧縮比を連続的に変化させてもよい。例えば、圧縮比変更部223は、負荷が所定値未満の場合に圧縮比が最大になるように、負荷が閾値よりも小さくなるほど圧縮比を大きくする。具体的には、圧縮比変更部223は、負荷が所定値未満の場合の吸気弁15の開口時間が最大になるように、負荷が閾値よりも小さくなるほど吸気弁15の開口時間を大きくする。このようにすることで、圧縮比変更部223は、圧縮比を段階的に大きくする場合よりも適切な圧縮比でガソリンを燃焼させられる。
【0043】
[噴射回数を切り替える処理]
図8は、負荷に応じてガソリンの噴射回数を切り替える処理の一例を示すフローチャートである。噴射回数を切り替える処理は、エンジン1が始動している間、所定の時間間隔で実行される。所定の時間間隔は、例えば100ミリ秒であるが、これに限定するものではない。
【0044】
まず、取得部221は、エンジン1にかかる負荷を取得する(ステップS1)。例えば、取得部221は、エンジン1の出力軸3の回転を妨げる力を負荷として取得する。
【0045】
噴射制御部222は、取得部221が取得した負荷が閾値未満か否かを判定する(ステップS2)。噴射制御部222は、負荷が閾値未満の場合(ステップS2でYes)、噴射装置14にガソリンを一度に噴射させる1回噴射モードにする(ステップS3)。噴射制御部222は、1回噴射モードの場合、噴射装置14に、負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンを一度に噴射させる(ステップS4)。具体的には、噴射制御部222は、ピストン13が下死点から上死点に回転する際に、負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンを噴射装置14に一度に噴射させる。
【0046】
噴射制御部222は、負荷が閾値以上の場合(ステップS2でNo)、燃焼室19にガソリンを2回に分けて噴射させる2回噴射モードにする(ステップS5)。噴射制御部222は、2回噴射モードの場合、ピストン13が下死点から上死点に回転する際、噴射装置14に負荷以上の出力トルクを出力可能な量のガソリンのうちの一部を噴射させる(ステップS6)。そして、噴射制御部222は、ピストン13が上死点を通過する際、噴射装置14に残りのガソリンを噴射させる(ステップS7)。
【0047】
(変形例)
上記の実施の形態では、圧縮比変更部223は、エンジン1にかかる負荷が閾値未満の場合の吸気弁15の開口時間を、エンジン1にかかる負荷が閾値以上の場合の開口時間よりも長くすることで、圧縮比を大きくした。これに限らず、圧縮比変更部223は、負荷が閾値未満の場合のピストン13の上死点の位置を、負荷が閾値以上の場合のピストン13の上死点の位置よりも高くすることで、圧縮比を大きくしてもよい。この場合、エンジン1は、ピストン13の上死点位置を変更するリンク機構を備える。なお、ピストン13の上死点位置を変更する機構は、公知の技術を利用すればよいので説明を割愛する。
【0048】
[エンジン1の効果]
以上説明したとおり、エンジン1のシリンダ12内に収容されたピストン13は、シリンダ12内を往復運動することにより、シリンダ12内の空気を圧縮する。そして、エンジン1の噴射装置14は、ピストン13が空気を圧縮中にガソリンをシリンダ12内(燃焼室19)に噴射する。そして、圧縮空気とガソリンが混合した混合気がガソリンの発火温度以上になると自然発火して燃焼する。このように、エンジン1は、ガソリンと空気との混合気に点火することなく、ガソリンを自然発火で燃焼させる予混合圧縮着火で混合気を燃焼させる。
【0049】
混合気が燃焼するときに生じる窒素酸化物の量は、理論空燃比のときに最大になり、空燃比が大きくなるほど減少する。予混合圧縮着火の空燃比は火炎伝播燃焼の空燃比よりも大きいので、予混合圧縮着火で生じる窒素酸化物の量は、火炎伝播燃焼で生じる窒素酸化物の量よりも少ない。そのため、本実施の形態に係るエンジン1は、点火装置でガソリンに点火して火炎伝播燃焼させる場合よりも燃焼時の排出物である窒素酸化物の量を低減できる。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
11 エンジン本体
12 シリンダ
13 ピストン
14 噴射装置
15 吸気弁
16 排気弁
17 吸気管
18 排気管
2 エンジン制御装置
21 記憶部
22 制御部
221 取得部
222 噴射制御部
223 圧縮比変更部
3 出力軸
【手続補正書】
【提出日】2024-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に収容されて、前記シリンダ内を往復運動することにより前記シリンダ内の空気を圧縮するピストンと、
前記シリンダが設けられたエンジンの負荷が閾値以下の場合、前記エンジンの燃焼室の最小容積に対する前記燃焼室の最大容積の比率である圧縮比を24にする圧縮比変更部と、
前記空気の圧縮中に前記シリンダにガソリンを噴射することにより、予混合圧縮着火で混合気を燃焼させる噴射装置と、
を有するエンジン。
【請求項2】
前記ピストンは、前記シリンダ内を往復運動して空気を圧縮することで、前記シリンダ内の空気の温度を前記ガソリンの発火温度以上に昇温する、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記噴射装置は、
前記エンジンにかかる負荷が閾値未満の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、
前記負荷が前記閾値以上の場合、前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを複数回に分けて噴射する、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
前記噴射装置は、
前記負荷が前記閾値未満の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンを一度に噴射し、
前記負荷が前記閾値以上の場合、前記ピストンが下死点から上死点へ回転する際に前記負荷以上の出力トルクを出力可能な量の前記ガソリンのうちの一部を噴射し、前記ピストンが上死点を通過する際に残りの前記ガソリンを噴射する、
請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値未満の場合の圧縮比を、前記負荷が前記閾値以上の場合の圧縮比よりも大きくする、
請求項3又は4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の圧縮比を、前記負荷が前記所定値よりも大きい場合の圧縮比よりも大きくする、
請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記圧縮比変更部は、前記負荷が前記閾値よりも小さい所定値以下の場合の前記圧縮比が最大になるように、前記負荷が前記閾値よりも小さくなるほど前記圧縮比を大きくする、
請求項5に記載のエンジン。