(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017186
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】磁気コアおよび磁性部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240201BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240201BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01F1/26 ZNM
H01F27/255
H01F1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119670
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】荒 健輔
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD12
5E041BD13
5E041NN05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低いコアロスと良好な直流重畳特性とを両立させた磁気コアおよび磁性部品を提供すること。
【解決手段】断面の75%以上90%以下の面積を金属磁性粒子が占める磁気コアであって、金属磁性粒子は、磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上でありナノ結晶構造を有する第1大粒子11aと、ヘイウッド径が3μm以上でありアモルファス構造を有する第2大粒子11bと、を含み、第1大粒子の絶縁被膜4aが、第2大粒子の絶縁被膜4bよりも厚い。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粒子を含む磁気コアであり、
前記磁気コアの断面において前記金属磁性粒子が占める合計面積割合が、75%以上90%以下であり、
前記金属磁性粒子は、
前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上であり、ナノ結晶構造を有する第1大粒子と、
前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上であり、アモルファス構造を有する第2大粒子と、を含み、
前記第1大粒子の絶縁被膜が、前記第2大粒子の絶縁被膜よりも厚い磁気コア。
【請求項2】
前記第1大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みをT1とし、
前記第2大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みをT2として、
T1/T2が、1.3以上、20以下である請求項1に記載の磁気コア。
【請求項3】
前記第2大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みT2が、5nm以上、50nm以下である請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項4】
前記金属磁性粒子は、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm未満である粒子群を含み、
ヘイウッド径が3μm未満である前記粒子群は、被膜の組成が異なる2種以上の小粒子を含む請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項5】
請求項1または2に記載の磁気コアを有する磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属磁性粉末を含む磁気コア、および、当該磁気コアを有する磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性粉末および樹脂を含む磁気コア(圧粉磁心)を有する、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品が知られている。このような磁性部品に関して、透磁率などの諸特性を向上させるために、様々な試みがなされてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1および2では、結晶質の合金粉末と非晶質の合金粉末とを混合した金属磁性粉末を用いることで、磁気コアにおける金属磁性粉末の充填率が向上し、透磁率やコアロス(磁気損失)を改善できることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3では、粒径が異なる2種類の金属磁性粉末を用い、2種類の金属磁性粉末の粒径比を所定の範囲に調整することで、金属磁性粉末が高密度で充填された磁気コアが得られ、透磁率が向上する旨が開示されている。
【0005】
近年、磁性部品の小型化、高効率化、および省エネルギー化の要求が高まっており、コアロスと直流重畳特性とを両立して向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-197218号公報
【特許文献2】特開2004-363466号公報
【特許文献3】特開2011-192729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、上記の実情を鑑みてなされ、本開示の例示的な実施形態の目的は、低いコアロスと良好な直流重畳特性とを両立させた磁気コア、および、当該磁気コアを有する磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本開示に係る磁気コアは、
金属磁性粒子を含み、
前記磁気コアの断面において前記金属磁性粒子が占める合計面積割合が、75%以上90%以下であり、
前記金属磁性粒子は、
前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上でありナノ結晶構造を有する第1大粒子と、
前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm以上でありアモルファス構造を有する第2大粒子と、を含み、
前記第1大粒子の絶縁被膜が、前記第2大粒子の絶縁被膜よりも厚い。
【0009】
磁気コアが上記の特徴を有することで、低いコアロスと良好な直流重畳特性とを両立させることができる。
【0010】
前記第1大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みをT1とし、前記第2大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みをT2として、
好ましくは、T1/T2が、1.3以上、20以下である。
【0011】
好ましくは、前記第2大粒子の前記絶縁被膜の平均厚みT2が、5nm以上、50nm以下である。
【0012】
好ましくは、前記金属磁性粒子が、前記磁気コアの断面におけるヘイウッド径が3μm未満である粒子群を含み、
ヘイウッド径が3μm未満である前記粒子群は、被膜の組成が異なる2種以上の小粒子を含む。
【0013】
本開示の磁気コアは、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの各種磁性部品に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る磁気コアの断面を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、金属磁性粉の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、第2実施形態に係る磁気コアの断面を拡大した模式図である。
【
図4】
図4は、小粒子に絶縁被膜を形成する際に用いる粉末処理装置の一例を示す、断面模式図である。
【
図5】
図5は、本開示に係る磁性部品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
第1実施形態
本実施形態に係る磁気コア2は、所定の形状を保持していればよく、その外形寸法や形状は特に限定されない。
図1の断面図に示すように、磁気コア2は、少なくとも金属磁性粒子10と樹脂20とを含み、金属磁性粒子10が樹脂20中に分散している。すなわち、金属磁性粒子10が樹脂20を介して結着することにより、磁気コア2が所定の形状を成している。
【0017】
磁気コア2の断面において金属磁性粒子10が占める合計面積割合A0は、75%以上90%以下である。この金属磁性粒子10の合計面積割合A0は、磁気コア2における金属磁性粒子10の充填率に相当し、SEM(走査型電子顕微鏡)やSTEM(走査透過型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡を用いて、磁気コア2の断面を解析することで算出すればよい。
【0018】
たとえば、磁気コア2の任意の断面を、連続する複数の視野に分割して観察し、各視野に含まれる各金属磁性粒子10の面積を計測する。そして、金属磁性粒子10の面積の合計を、観察した視野の合計面積で割ることで、金属磁性粒子10の合計面積割合A0(%)を算出する。この断面解析において、視野の合計面積は、少なくとも1000000μm2とすることが好ましい。また、断面解析において、観察試料の切断面(磁気コア2を切断し研磨した面)が上記の視野の合計面積に満たない場合、所定の切断面を解析した後、当該切断面を再度100μm以上研磨等行い、再度断面解析を行うことで、視野の合計面積を1000000μm2以上としてもよい。
【0019】
磁気コア2に含まれる金属磁性粒子10は、ヘイウッド径(Heywood diameter)が3μm以上である第1の粒子群10aを含み、さらに、ヘイウッド径が3μm未満である第2の粒子群10bを含むことが好ましい。ここで、本実施形態における「ヘイウッド径」とは、磁気コア2の断面で観測される各金属磁性粒子10の円相当径を意味する。具体的に、磁気コア2の断面における各金属磁性粒子10の面積をSとして、各金属磁性粒子10のヘイウッド径は、(4S/π)1/2で表される。
【0020】
金属磁性粒子10が第1の粒子群10aと第2の粒子群10bとを含む場合、磁気コア2では、第1の粒子群10aの含有率が、第2の粒子群10bの含有率よりも多いことが好ましい。つまり、磁気コア2の断面において、第1粒子10aが占める合計面積割合をA1とし、第2粒子10bが占める合計面積割合をA2とすると、金属磁性粒子10の面積割合は、A1>A2を満たすことが好ましい。第2粒子10bよりも第1粒子10aの含有率を多くすることで、磁気コア2の透磁率を向上させることができる。なお、A1とA2の合計が金属磁性粒子10の合計面積割合A0となり(A1+A2=A0)、A1およびA2についても、A0と同様の方法で測定すればよい。
【0021】
また、金属磁性粒子10は、平均粒径が異なる2以上の粒子群を含むことが好ましい。たとえば、金属磁性粒子10は、少なくとも、第1の粒子群10aに該当する大粒子11を含んでいればよいが、大粒子11と小粒子12とを含むことが好ましく、その他に中粒子13を含んでいてもよい。大粒子11、小粒子12、および中粒子13は、金属磁性粒子10の粒度分布に基づいて区別することができる。金属磁性粒子10の粒度分布は、磁気コア2の任意の断面において、少なくとも1000個の金属磁性粒子10のヘイウッド径を計測することで特定すればよい。
【0022】
たとえば、
図2A~
図2Cで例示しているグラフが、金属磁性粒子10の粒度分布である。
図2A~
図2Cの各グラフにおいて、縦軸は面積基準の頻度(%)であり、横軸はヘイウッド径換算の粒子径(μm)を示す対数軸である。なお、
図2A~
図2Cに示す粒度分布は例示であり、金属磁性粒子10の粒度分布は
図2A~
図2Cに限定されない。
【0023】
金属磁性粒子10が平均粒径の異なる2つの粒子群(大粒子および小粒子)で構成してある場合には、
図2Aに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布が、2つのピークを有する。また、金属磁性粒子10が平均粒径の異なる3つの粒子群(大粒子、中粒子、および小粒子)で構成してある場合には、
図2Bに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布が、3つのピークを有する。
【0024】
図2Aおよび
図2Bに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布を一連の分布曲線で表した場合、最も大径側に位置するピーク(横軸の最右側に位置するピーク)に属し、かつ、D20が3μm以上である粒子群を大粒子11とし、最も小径側に位置するピーク(横軸の最左側に位置するピーク)に属し、かつ、D80が3μm未満である粒子群を小粒子12とする。また、大粒子11および小粒子12以外の粒子を、中粒子13とする。
【0025】
ここで、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」とは、分布曲線を大径側(グラフ右側)から辿った際に、分布曲線の裾部(最右端)からピークトップを経由して局所極小点にいたるまでの範囲に含まれる粒子群を意味する。すなわち、
図2Aに示す粒度分布の場合、EP1からPeak1を経由してLPに至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。
図2Bに示す粒度分布の場合、EP1からPeak1を経由してLP1に至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も大径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。
【0026】
また、D20は、面積基準の累積頻度が20%となるヘイウッド径を意味する。
図2Aおよび
図2Bの粒度分布では、Peak1に属する粒子群のD20が3μm以上であり、このPeak1に属する粒子群が大粒子11である。
【0027】
「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」とは、分布曲線を小径側(グラフ左側)から辿った際に、分布曲線の裾部(最左端)からピークトップを経由して局所極小点にいたるまでの範囲に含まれる粒子群を意味する。すなわち、
図2Aに示す粒度分布の場合、EP2からPeak2を経由してLPに至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。また、
図2Bに示す粒度分布の場合、EP2からPeak2を経由してLP2に至るまでの範囲に含まれる粒子群が、「最も小径側に位置するピークに属する粒子群」に該当する。
【0028】
また、D80は、面積基準の累積頻度が80%となるヘイウッド径を意味する。
図2Aおよび
図2Bの粒度分布では、Peak2に属する粒子群のD80が3μm未満であり、このPeak2に属する粒子群が小粒子12である。
【0029】
なお、
図2Bに示す粒度分布では、LP1からPeak3を経由してLP2に至るまでの粒子群が、Peak3に属する粒子群である。このPeak3に属する粒子群では、D20が3μm未満であり、D80が3μm以上である。つまり、Peak3に属する粒子群は、大粒子11と小粒子12のいずれにも該当しない中粒子13である。
【0030】
金属磁性粒子10が平均粒径の異なる2以上の粒子群を含む場合、小粒子12または/および中粒子13は、大粒子11と同じ粒子組成を有していてもよいし、大粒子11とは異なる粒子組成を有していてもよい。なお、「粒子組成が異なる」とは、粒子本体に含まれる構成元素の種類が異なる場合、もしくは、構成元素の種類が一致していたとしても、各構成元素の含有比率が異なる場合を意味する。構成元素は、粒子本体において1at%以上含まれる元素を意味する。つまり、粒子本体に含まれる元素のうち不純物元素以外の元素を構成元素と称することとする。
【0031】
小粒子12または/および中粒子13が、大粒子11とは異なる粒子組成を有している場合には、組成分析と粒度解析とを併用して、金属磁性粒子10を分類してもよい。具体的に、電子顕微鏡による磁気コア2の断面観察時に、EDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)もしくはEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、観察視野中に含まれる各金属磁性粒子10の組成を分析し、組成に基づいて金属磁性粒子10を分類する。そして、各組成に属する金属磁性粒子10のヘイウッド径を計測することで、複数の分布曲線が得られる。
【0032】
たとえば、金属磁性粒子10が粒子組成の異なる4つの粒子群で構成してある場合には、
図2Cに示すように、4つの分布曲線が得られる。
図2Cの粒度分布では、組成Aを有する粒子群の分布曲線を実線で示し、組成Bを有する粒子群の分布曲線を点線で示し、組成Cを有する粒子群の分布曲線を一点鎖線で示し、組成Dを有する粒子群の分布曲線を二点鎖線で示している。
【0033】
図2Cに示すように、金属磁性粒子10の粒度分布を組成に応じた複数の分布曲線で表した場合、D20が3μm以上である粒子群を大粒子11とし、D80が3μm未満である粒子群を小粒子12とし、大粒子11および小粒子12以外の粒子群を中粒子13とする。すなわち、
図2Cでは、組成Aを有する粒子群および組成Bを有する粒子群が大粒子11であり、組成Cを有する粒子群が小粒子12であり、組成Dを有する粒子群が中粒子13である。
【0034】
前述のとおり、大粒子11のD20は3μm以上であり、大粒子11のヘイウッド径は、いずれも3μm以上であることが好ましい。また、大粒子11のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることが好ましい。小粒子12のD80は3μm未満であり、小粒子12のヘイウッド径は、いずれも3μm未満であることが好ましい。また、小粒子12のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm未満であることがより好ましい。
【0035】
磁気コア2の断面において大粒子11が占める合計面積割合をALとし、磁気コア2の断面において小粒子12が占める合計面積割合をASとすると、ALがASよりも大きいことが好ましい(AL>AS)。具体的に、金属磁性粒子10の合計面積に対する大粒子11の合計面積の比率(AL/A0)は、50%超過90%以下であることが好ましく、60%以上82%以下であることがより好ましい。また、金属磁性粒子10の合計面積に対する小粒子12の合計面積の比率(AS/A0)は、8%以上50%未満であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。磁気コア2が大粒子11と共に上記の比率で小粒子12を含むことで、透磁率を向上させることができる。なお、上記のALおよびASは、A0と同様の方法で測定すればよい。
【0036】
金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13のヘイウッド径の平均値(算術平均径)は、特に限定されず、たとえば、3μm以上5μm以下であることが好ましい。また、金属磁性粒子10の合計面積に対する中粒子13の合計面積の比率(AM/A0)は、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0037】
また、磁気コア2の断面における大粒子11の平均円形度は、0.90以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。大粒子11の平均円形度が高いほど、耐電圧と直流重畳特性とをより向上させることができる。なお、各大粒子11の円形度は、磁気コア2の断面における各大粒子11の面積をSL、各大粒子11の周囲長をLとして、2(πSL)1/2/Lで表される。真円の円形度は1であり、円形度が1に近いほど、粒子の球形度が高くなる。大粒子11の平均円形度は、少なくとも100個の大粒子11の円形度を測定することで、算出することが好ましい。
【0038】
なお、小粒子12の平均円形度、および、中粒子13の平均円形度については、特に限定されないが、大粒子11と同様に、高い平均円形度を有することが好ましい。具体的に、小粒子12の平均円形度、および、中粒子13の平均円形度は、いずれも、0.80以上であることが好ましい。
【0039】
なお、本実施形態では、金属磁性粒子10を大粒子11および小粒子12などに分類する方法として、
図2A~
図2Cに示す方法を提示しているが、小粒子12が、大粒子11と同じ粒子組成を有する場合には、
図2Aまたは
図2Bに示す分類方法を採用することが好ましく、小粒子12が、大粒子11と異なる粒子組成を有する場合には、
図2Cに示す分類方法を採用することが好ましい。
【0040】
本実施形態の磁気コア2において、大粒子11は、粒内の物質状態が異なる2種類の粒子群に細別することができる。具体的に、大粒子11は、ナノ結晶構造を有する第1大粒子11aと、アモルファス構造を有する第2大粒子11bと、を含む。
【0041】
ここで、「ナノ結晶構造」とは、非晶質化度Xが85%未満であり、かつ、平均結晶子径が0.5nm以上30nm以下である物質状態を意味する。ナノ結晶構造における結晶子の最大径は、100nm以下であることが好ましい。一方、「アモルファス構造」とは、非晶質化度Xが85%以上である物質状態を意味し、アモルファス構造には、アモルファスのみを有する構造、および、ヘテロアモルファスからなる構造が含まれる。ヘテロアモルファスからなる構造とは、初期微結晶がアモルファス中に存在する構造を意味し、ヘテロアモルファス構造における初期微結晶の平均径は、0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。なお、本実施形態において、「結晶質構造」とは、非晶質化度Xが85%未満であり、かつ、平均結晶子径が100nm以上である物質状態を意味する。
【0042】
粒内の物質状態(すなわち非晶質化度Xや結晶子サイズ)は、SEM、TEM、およびSTEMなどの各種電子顕微鏡、電子線回折、XRD(X線回折)、もしくはEBSD(電子後方散乱回折)などを用いた構造解析により特定することができる。たとえば、EBSDの方位マッピング像や、電子顕微鏡の明視野像などでは、結晶部分とアモルファス部分とを視覚的に識別することができ、このような画像を解析することで、非晶質化度Xおよび平均結晶子径を計測することができる。また、電子線回折で結晶起因のスポットが確認されない場合には、測定対象粒子がアモルファス構造を有すると特定することができる。
【0043】
なお、非晶質化度X(単位%)は、結晶の割合をPC、アモルファスの割合をPAとして、X=(PA/(PC+PA))×100で表される。XRDを用いて非晶質化度Xを算出する場合は、結晶の割合PCは結晶性散乱積分強度Icとして測定し、アモルファスの割合PAは非晶質性散乱積分強度Iaとして測定すればよい。EBSDや電子顕微鏡を用いて非晶質化度Xを算出する場合は、PCは粒内における結晶部分の面積割合、PAはアモルファス部分の面積割合として測定すればよい。
【0044】
電子顕微鏡で大粒子11を分類する場合、上述したとおり、観測視野内に含まれる大粒子11に対して、物質状態を特定するための構造解析を実施するが、この構造解析は、観測視野内から一部の大粒子11を任意に選定して実施してもよい。この場合、物質状態を特定した大粒子11を解析粒子として、当該解析粒子と同じ組成を有する他の大粒子11は、解析粒子と同じ物質状態を有すると見なすことができる。
【0045】
たとえば、大粒子11として、Fe-Si-B-Nb-Cu系の第1大粒子11aと、Fe-Co-B-P-Si-Cr系の第2大粒子11bとが存在している場合、EDXを用いた面分析により、Fe-Si-B-Nb-Cu系の粒子群と、Fe-Co-B-P-Si-Cr系の粒子群とを識別することができる。そして、Fe-Si-B-Nb-Cu系の粒子群から任意の解析対象粒子を選定して構造解析を実施し、当該解析対象粒子がナノ結晶構造を有することが特定できれば、Fe-Si-B-Nb-Cu系の粒子群はいずれもナノ結晶構造を有すると見なすことができる。同様に、Fe-Co-B-P-Si-Cr系の粒子群から任意の解析対象粒子を選定して構造解析を実施し、当該解析対象粒子がアモルファス構造を有することが特定できれば、Fe-Co-B-P-Si-Cr系の粒子群はいずれもアモルファス構造を有すると見なすことができる。
【0046】
ナノ結晶系の第1大粒子11aと、アモルファス系の第2大粒子11bとは、いずれも軟磁性合金からなり、その合金組成は特に限定されない。第1大粒子11aと第2大粒子11bとは、互いに異なる物質状態を有するものの同じ合金組成を有していてもよく、異なる合金組成を有していてもよい。ナノ結晶構造を有する軟磁性合金または非晶質構造を有する軟磁性合金としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Si-B-C系合金、Fe-Si-B-C―Cr系合金、Fe-Nb-B系合金、Fe-Nb-B-P系合金、Fe-Nb-B-Si系合金、Fe-Co-P-C系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Co-B-Si系合金、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金、Fe-Si-B-Nb-P系合金、Fe-Co-B-P-Si系合金、Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金などが挙げられる。
【0047】
磁気コア2の断面においてナノ結晶系の第1大粒子11aが占める合計面積割合をAL1とし、金属磁性粒子10合計面積に対する第1大粒子11aの合計面積の比をAL1/A0で表す。同様に、磁気コア2の断面においてアモルファス系の第2大粒子11bが占める合計面積割合をAL2とし、金属磁性粒子10合計面積に対する第2大粒子11bの合計面積の比をAL2/A0で表す。AL1/A0およびAL2/A0は、いずれも3%以上であることが好ましく、7%~42%であることがより好ましい。
【0048】
また、AL1/(AL1+AL2)およびAL2/(AL1+AL2)は、4%~96%の範囲内とすることが好ましく、コアロスを低くする観点では、AL1/(AL1+AL2)が50%~90%であることがより好ましく、より優れた直流重畳特性を得る観点では、AL2/(AL1+AL2)が50%~90%であることがより好ましい。コアロスと直流重畳特性をバランスよく向上させるためには、AL1/(AL1+AL2)およびAL2/(AL1+AL2)は、20%~80%であることが好ましく、40%~60%であることがより好ましい。なお、AL1およびAL2については、金属磁性粒子10の合計面積割合A0と同様の方法で測定すればよい。
【0049】
金属磁性粒子10が小粒子12を含む場合、小粒子12の組成は、特に限定されない。小粒子12は、非晶質構造もしくはナノ結晶構造を有していてもよいが、飽和磁束の観点から、結晶質構造を有することが好ましい。結晶質構造を有する軟磁性金属としては、カルボニル鉄などの純鉄、Co、Fe-Ni系合金、Fe-Si系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Al-Ni系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe-Co系合金、Fe-Co-V系合金、Fe-Co-Si系合金、Fe-Co-Si-Al系合金、もしくは、Co系合金などが挙げられる。小粒子12は、特に、純鉄粒子、Fe-Ni系合金粒子、Fe-Co系合金粒子、Fe-Si系合金粒子、もしくは、Co粒子、であることが好ましい。
【0050】
また、金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13の組成は、特に限定されない。たとえば、中粒子13は、結晶質構造を有していてもよいが、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶構造もしくは非晶質構造を有することが好ましい。
【0051】
なお、金属磁性粒子10の組成は、たとえば、電子顕微鏡に付随のEDX装置もしくはEPMAを用いて分析することができる。第1大粒子11aと第2大粒子11bとが互いに異なる粒子組成を有する場合には、EDX装置もしくはEPMAを用いた面分析により、第1大粒子11aと第2大粒子11bとを識別できる場合がある。また、3DAP(3次元アトムプローブ)を用いて金属磁性粒子10の組成を分析してもよい。3DAPを用いる場合には、測定対象の金属磁性粒子の内部において小さな領域(例えばΦ20nm×100nmの領域)を設定して平均組成を測定することができ、磁気コア2に含まれる樹脂成分や粒子表面の酸化などの影響を除外して粒子本体の組成を特定することができる。
【0052】
図3Aに示すように、各第1大粒子11aは、粒子表面を覆う絶縁被膜4aを有しており、各第2大粒子11bは、粒子表面を覆う絶縁被膜4bを有している。絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bは、いずれも、粒子表面の全体を覆っていてもよいし、粒子表面の一部のみを覆っていてもよい。各絶縁被膜4aおよび各絶縁被膜4bは、磁気コア2の断面で観測される粒子表面の80%以上を覆っていることが好ましい。
【0053】
また、各絶縁被膜4aおよび各絶縁被膜4bは、いずれも、単一の粒子において、厚みの偏りを有していてもよいが、なるべく均等な厚みを有することが好ましい。たとえば、被膜表面の輪郭曲線における算術平均高さRaは0.5nm以上100nm以下であることが好ましい。上記のRaは、線粗さパラメータの1種であり、磁気コア2の断面で観測される絶縁被膜(4a,4b)の最表面部分を輪郭曲線として特定し、JIS規格B601に規定する方法に準じて、Raを算出すればよい。
【0054】
絶縁被膜4aの材質、および、絶縁被膜4bの材質は、特に限定されず、絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bは、同じ組成を有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。たとえば、絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bは、粒子表面の酸化による被膜、または/および、BN、SiO2、MgO、Al2O3、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、各種ガラスなどの無機材料を含む被膜を含むことができる。
【0055】
磁気コア2の抵抗率の低下を抑制する観点では、絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bは、いずれも、P、Si、Bi、およびZnから選択される1種以上の元素を含む酸化物ガラスの被膜を有することが好ましい。酸化物ガラスの被膜では、被膜に含まれる元素のうち、酸素を除いた元素の合計量を100wt%とした場合に、P、Si、Bi、およびZnから選択される1種以上の元素の合計量が、最も多いことが好ましく、50wt%以上であることがより好ましく、60wt%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
上記のような酸化物ガラスの被膜としては、たとえば、リン酸塩(P2O5)系ガラス被膜、ビスマス酸塩(Bi2O3)系ガラス被膜、および、ホウケイ酸塩(B2O3-SiO2)系ガラス被膜などが例示される。リン酸塩系ガラスとしては、たとえば、P-Zn-Al-O系ガラス、P-Zn-Al-R-O系ガラス(「R」は、アルカリ金属から選択される1種以上の元素)などが例示され、リン酸塩系ガラス被膜ではP2O5が50wt%以上含まれることが好ましい。ビスマス酸塩系ガラスとしては、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス、Bi-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示され、ビスマス酸塩系ガラス被膜では、Bi2O3が50wt%以上含まれることが好ましい。ホウケイ酸塩系ガラスとしては、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示され、ホウケイ酸塩系ガラス被膜では、B2O3が10wt%以上含まれることが好ましい。
【0057】
なお、絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bは、いずれも、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。多層構造としては、たとえば、粒子表面の酸化層と、当該酸化層を覆う酸化物ガラス層と、を含む積層構造が挙げられる。絶縁被膜(4aまたは/および4b)が多層構造を有する場合は、各層の合計厚みを、絶縁被膜の厚みとする。また、絶縁被膜4aおよび絶縁被膜4bの組成は、たとえば、EDX、EPMA、もしくはEELS(電子エネルギー損失分光)などにより分析することができる。
【0058】
本実施形態の磁気コア2では、第1大粒子11aの絶縁被膜4aが、第2大粒子11bの絶縁被膜4bよりも厚い。ナノ結晶構造を有する第1大粒子11aが、アモルファス構造の第2大粒子11bよりも厚い絶縁被膜を有することで(換言するとアモルファス構造の第2大粒子11bが、ナノ結晶構造の第1大粒子11aよりも薄い絶縁被膜を有することで)、コアロスを低減しつつ、直流重畳特性を向上させることができる。
【0059】
第1大粒子11aの絶縁被膜4aの平均厚みをT1とし、第2大粒子11bの絶縁被膜4bの平均厚みをT2とすると、T1/T2は、1.0超過であり、1.3以上であることが好ましく、1.3以上20以下であることがより好ましい。また、T1は200nm以下であることが好ましく、T2は5nm以上、50nm以下であることが好ましい。
【0060】
T1は、磁気コア2の断面を各種電子顕微鏡で観察することで算出すればよく、少なくとも10個の第1大粒子11aについて絶縁被膜4aの厚みを計測することでT1を算出することが好ましい。T2についても、T1と同様の方法で算出すればよい。
【0061】
なお、磁気コア2には、絶縁被膜4を有していない大粒子11が含まれていてもよい。
【0062】
金属磁性粒子10が小粒子12を含む場合、小粒子12は必ずしも絶縁被膜を有していなくともよいが、各小粒子12が、粒子表面を覆う絶縁被膜6を有することが好ましい。絶縁被膜6の材質は、特に限定されず、たとえば、絶縁被膜6は、小粒子12の表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al2O3、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができ、酸化物ガラスの被膜を含むことが好ましい。また、絶縁被膜6は、単層構造を有していてもよく、2種以上の被膜を積層した構造を有していてもよい。絶縁被膜6の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0063】
金属磁性粒子10が中粒子13を含む場合、中粒子13についても、他の粒子群と同様に、粒子表面を覆う絶縁被膜を有することが好ましい。中粒子13の絶縁被膜の組成は、特に限定されず、大粒子11の絶縁被膜(4aまたは4b)と同じ組成を有していてもよく、大粒子11の絶縁被膜(4aまたは4b)とは異なる組成を有していてもよい。中粒子13の絶縁被膜の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0064】
小粒子12の絶縁被膜6および中粒子13の絶縁被膜についても、絶縁被膜4と同様に、粒子表面の全体を覆っていてもよいし、粒子表面の一部のみを覆っていてもよく、磁気コア2の断面で観測される粒子表面の80%以上を覆っていることが好ましい。なお、磁気コア2には、絶縁被膜を有していない小粒子12や中粒子13が含まれていてもよい。
【0065】
樹脂20は、金属磁性粒子10を所定の分散状態で固定する絶縁性の結着材として機能する。樹脂20の材質は、特に限定されず、樹脂20には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が含まれることが好ましい。
【0066】
なお、磁気コア2は、軟磁性金属粒子同士の接触を抑制するための改質剤を含んでいてもよい。改質剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリカプロラクトン(PCL)などの高分子材料を用いることができ、ポリカプロラクトン構造を有する高分子材料を用いることが好ましい。ポリカプロラクトン構造を有する高分子としては、たとえば、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトンテトラオールなどのウレタンの原料、もしくは、ポリエステルの一部が挙げられる。改質剤の含有量は、磁気コア2の総量に対して0.025wt%以上0.500wt%以下であることが好ましい。上記のような改質剤は、金属磁性粒子10の表面をコーティングするように吸着して存在すると考えられる。
【0067】
以下、本実施形態に係る磁気コア2の製造方法の一例について説明する。
【0068】
まず、金属磁性粒子10の原料粉として、第1大粒子11aを含む原料粉、および、第2大粒子11bを含む原料粉を製造する。また、磁気コア2に小粒子12や中粒子13を添加する場合には、小粒子12を含む原料粉および中粒子13を含む原料粉を準備する。各原料粉の製造方法は、特に限定されず、所望の粒子組成に応じて、適する製造方法を採用すればよい。たとえば、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法により原料粉を作製してもよい。もしくは、金属塩の蒸発、還元、熱分解のうち少なくとも1種以上を用いたCVD法などの合成法により原料粉を作製してもよい。また、電解法やカルボニル法を用いて原料粉を作製してもよく、薄帯状や薄板上の出発合金を粉砕することで原料粉を作製してもよい。特に、第1大粒子11aを含む原料粉および第2大粒子11bを含む原料粉については、急冷ガスアトマイズ法にて製造することが好ましい。
【0069】
各原料粉の粒度は、粉末の製造条件や各種分級法により調整することができる。また、第1大粒子11aを含む原料粉に関しては、第1大粒子11aの結晶構造を制御するための熱処理を施すことが好ましい。
【0070】
なお、小粒子12の組成を、大粒子11(第1大粒子11aまたは/および第2大粒子11b)と同じ組成とする場合には、幅の広い粒度分布を有する原料粉を製造し、当該原料粉を分級することで、大粒子11を含む原料粉と、小粒子12を含む原料粉と、を得てもよい。
【0071】
次に、各原料粉に対して被膜形成処理を施す。複数の粒子群を含む金属磁性粉を用いて磁気コアを製造する場合、製造工程を簡素化するために、複数の原料粉を混合した後に、その混合粉に対して一度に被膜形成処理を施すことが通常である。ただし、混合粉に対して被膜形成処理を施すと、各粒子群の絶縁被膜が同程度の厚みになる(すなわちT1≒T2となる)。本実施形態では、第1大粒子11aの絶縁被膜4aを、第2大粒子11bの絶縁被膜4bよりも厚くするために(すなわちT1>T2を実現するために)、第1大粒子11aと第2大粒子11bとに対して個別に被膜形成処理を施す。
【0072】
被膜形成処理の方法としては、熱処理、リン酸塩処理、メカニカルアロイング、シランカップリング処理、もしくは、水熱合成などが例示され、形成する絶縁被膜の種類に応じて、適する被膜形成処理を選択すればよい。
【0073】
たとえば、絶縁被膜4aまたは/および絶縁被膜4bが酸化物ガラスの被膜を含む場合、酸化物ガラスの被膜は、メカノフュージョン装置を用いたメカノケミカル法によって形成することが好ましい。具体的に、メカノケミカル法による被膜形成処理では、大粒子を含む原料粉と、絶縁被膜の構成元素を含む粉末状のコーティング材とを、メカノフュージョン装置の回転ロータ内に導入し、回転ロータを回転させる。回転ロータの内部には、プレスヘッドが設置されており、回転ロータを回転させると、原料粉とコーティング材との混合物が、回転ロータの内壁面とプレスヘッドとの隙間で圧縮され、摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、コーティング材が軟化し、圧縮作用によって大粒子の表面に固着し、酸化物ガラスの被膜が形成される。
【0074】
なお、絶縁被膜4aの厚みおよび絶縁被膜4bの厚みは、コーティング材の混合比や、回転速度、および処理時間などに基づいて制御すればよい。
【0075】
小粒子12に対して絶縁被膜6を形成する場合、絶縁被膜6は、小粒子12を含む原料粉と、絶縁被膜6の構成元素を含む粉末状のコーティング材とを、機械的衝撃エネルギーを加えながら混合することで形成することが好ましく、衝撃、圧縮、および、せん断のエネルギーを加えながら混合することで形成することがより好ましい。このような被膜形成処理では、粉末に対して機械的エネルギーを加えることができる装置として、遊星型ボールミルやホソカワミクロン株式会社製のノビルタなどの粉末処理装置を用いることができる。たとえば、小粒子12への被膜形成処理では、高い回転速度で混合できる、
図4に示すような粉末処理装置60を使用することができる。
【0076】
粉末処理装置60は、円筒状の断面を有し、チャンバ61を備え、このチャンバ61の内部に回転可能な羽根62が設置してある。小粒子12を含む原料粉とコーティング材とをチャンバ61内に投入し、羽根62を、2000~6000rpmの回転速度で回転させることで、原料粉とコーティング材との混合物63に対して、機械的衝撃、圧縮、および、せん断のエネルギーを加えることができる。このような粉末処理装置60を用いることで、粒径が小さい小粒子12であっても、その粒子表面に絶縁被膜6を形成することができる。
【0077】
絶縁被膜を有する中粒子13を使用する場合、中粒子13を、第1大粒子11aまたは第2大粒子11bと混ぜ合わせて、第1大粒子11aまたは第2大粒子11bと共に被膜形成処理を施すことで、中粒子13の表面に絶縁被膜を形成してもよい。もしくは、中粒子13の原料粉のみに対して、個別に被膜形成処理を施してもよい。
【0078】
以下、金属磁性粒子10の各原料粉を用いて磁気コア2を製造する方法について説明する。まず、絶縁被膜を形成した各原料粉および樹脂原料(熱硬化性樹脂など)を混練して、樹脂コンパウンドを得る。この混練工程では、ニーダー、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサーまたは二軸押出機などの各種混練機を用いればよく、樹脂コンパウンドには、改質剤、防腐剤、分散剤、非磁性粉末などを添加してもよい。
【0079】
次に、樹脂コンパウンドを金型に充填し、圧縮成形することで、成形体を得る。この際の成形圧は、特に限定されず、たとえば、50MPa以上、1200MPa以下とすることが好ましい。なお、磁気コア2における金属磁性粒子10の合計面積割合は、樹脂20の添加量によっても制御できるが、成形圧によっても制御可能である。樹脂20として熱硬化性樹脂を用いた場合には、上記の成形体を、100℃~200℃で1時間~5時間保持して、熱硬化性樹脂を硬化させる。以上の工程により、
図1に示すような磁気コア2が得られる。
【0080】
本実施形態に係る磁気コア2は、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの各種磁性部品に適用することができる。たとえば、
図5に示す磁性部品100が、磁気コア2を有する磁性部品の一例である。
【0081】
図5に示す磁性部品100では、素体が、
図1に示すような磁気コア2で構成してある。素体である磁気コア2の内部には、コイル5が埋設してあり、コイル5の端部5a,5bは、それぞれ、磁気コア2の端面に引き出されている。また、磁気コア2の端面には、一対の外部電極7,9が形成してあり、一対の外部電極7,9は、それぞれ、コイル5の端部5a,5bと電気的に接続してある。なお、磁性部品100のように、磁気コア2の内部にコイル5が埋設してある場合には、A0,A1,A2,AL,ASなどの金属磁性粒子10の面積割合は、コイル5が映らない視野で解析することとする。
【0082】
図5に示す磁性部品100の用途は、特に限定されないが、たとえば、電源回路に用いられるパワーインダクタなどに好適である。なお、磁気コア2を含む磁性部品は、
図5に示すような様態に限定されず、所定形状の磁気コア2の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなる磁性部品であってもよい。
【0083】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態の磁気コア2は、金属磁性粒子10と樹脂20とを含み、磁気コア2の断面に示す金属磁性粒子10の合計面積割合A0が、75%以上90%以下である。金属磁性粒子10は、ナノ結晶構造を有する第1大粒子11aと、アモルファス構造を有する第2大粒子11bと、を含み、第1大粒子11aの絶縁被膜4aが、第2大粒子11bの絶縁被膜4bよりも厚い。
【0084】
磁気コア2が上記の特徴を有することで、コアロス特性と直流重畳特性とを両立して向上させることができる。具体的に、本開示の発明者等の実験によって以下に示す事実が明らかとなった。
【0085】
ナノ結晶構造の粒子を主粉として含む磁気コア(以下、ナノ結晶系の磁気コアと称する)と、アモルファス構造の粒子を主粉として含む磁気コア(以下、アモルファス系の磁気コアと称する)と、を比較すると、コアロスは、アモルファス系の磁気コアよりもナノ結晶系の磁気コアの方が低く、直流重畳特性は、ナノ結晶系の磁気コアよりもアモルファス系の磁気コアの方が優れる。そのため、ナノ結晶構造の粒子とアモルファス構造の粒子との混合粉を主粉として用いることで、アモルファス系の磁気コアよりもコアロスを低減させることができる。ただし、ナノ結晶構造の粒子とアモルファス構造の粒子とを単に混ぜ合わせるだけでは、ナノ結晶構造の粒子の特性に起因して、直流重畳特性が低下してしまう(直流磁界の印加に伴う透磁率の変化率(%)が大きくなってしまう)。
【0086】
本実施形態の磁気コア2では、相対的に厚い絶縁被膜4aを有するナノ結晶構造の第1大粒子11aと、相対的に薄い絶縁被膜4bを有するアモルファス構造の第2大粒子11bと、を混在させることで、ナノ結晶構造の粒子に起因して直流重畳特性が低下することを抑制できる。その結果、本実施形態の磁気コア2では、コアロスをアモルファス系の磁気コアよりも低減させつつ、優れた直流重畳特性を得ることができる。
【0087】
第2大粒子11bの絶縁被膜4bの平均厚みT2に対する第1大粒子11aの絶縁被膜4aの平均厚みT2の比(T1/T2)は、1.3以上20以下であることが好ましい。T1/T2を上記の範囲に設定することで、低いコアロスと優れた直流重畳特性とをより好適に両立させることができる。
【0088】
また、第2大粒子11bの絶縁被膜4bの平均厚みT2は、5nm以上50nm以下であることが好ましい。通常、絶縁被膜を厚くすると、金属磁性粒子の充填率を確保するために成形圧を高くする必要がある。ただし、成形圧を高くすると磁歪の影響によりコアロスが上昇することがある。本実施形態の磁気コア2では、T2を上記の範囲に設定することで、高い透磁率を確保しつつコアロスをより低減することができる。
【0089】
第2実施形態
第2実施形態では、
図3Bに示す磁気コア2aについて説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と共通する構成に関しては、説明を省略し、第1実施形態と同様の符号を使用する。
【0090】
図3Bに示すように、第2実施形態の磁気コア2aでは、ナノ結晶構造を有する第1大粒子11aと、アモルファス構造を有する第2大粒子11bと、が混在しており、第1大粒子11aの絶縁被膜4aが、第2大粒子11bの絶縁被膜4bよりも厚くなっている。そのため、第2実施形態の磁気コア2aにおいても、第1実施形態の磁気コア2と同様の作用効果が得られる。
【0091】
磁気コア2aには、絶縁被膜6の組成が異なる2種以上の小粒子12が含まれる。換言すると、金属磁性粒子10に含まれる小粒子12は、被膜組成に基づいて、2種以上の小粒子群に細別することができる。具体的に、小粒子12には、少なくとも、第1絶縁被膜6aを有する第1小粒子12a、および、第1絶縁被膜6aとは組成が異なる第2絶縁被膜6bを有する第2小粒子12bが含まれ、さらに、他の小粒子群とは被膜組成が異なる第3小粒子12c~第n小粒子12xが含まれていてもよい。nは、被膜組成に基づいて小粒子12を細別した場合の小粒子群の数を意味し、nの上限は特に限定されない。製造工程を簡素化する観点では、nは4以下であることが好ましい。
【0092】
ここで、「被膜組成が異なる」とは、絶縁被膜6に含まれる構成元素の種類が異なることを意味し、絶縁被膜6の構成元素とは、絶縁被膜6に含まれる元素のうち、酸素および炭素以外の元素の合計含有率を100at%として、絶縁被膜6において1at%以上含まれる元素を意味する。絶縁被膜6の組成は、EDX装置もしくはEPMAを用いた面分析や点分析により解析すればよい。
【0093】
小粒子12が有する各絶縁被膜6(第1絶縁被膜6a、第2絶縁被膜6b、および、第3絶縁被膜6c~第n絶縁被膜6x)の材質は、特に限定されない。たとえば、各絶縁被膜6は、小粒子12の表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al2O3、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または、各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができ、酸化物ガラスの被膜を含むことが好ましい。酸化物ガラスとしては、たとえば、ケイ酸塩(SiO2)系ガラス、リン酸塩(P2O5)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi2O3)系ガラス、および、ホウケイ酸塩(B2O3-SiO2)系ガラスなどが例示される。
【0094】
第1絶縁被膜6aと第2絶縁被膜6bとは、互いに異なる組成を有していればよく、被膜組成の組合せは、特に限定されない。たとえば、第1絶縁被膜6aと第2絶縁被膜6bの組合せとしては、P-O系ガラス被膜とP-Zn-Al-O系ガラス被膜の組合せ、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せ、もしくは、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せが好ましく、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラス被膜とSi-O系ガラス被膜の組合せがより好ましい。小粒子12が、第1小粒子12aおよび第2小粒子12bに加えて、第3小粒子12c~第n小粒子12xを含む場合においても、被膜組成の組合せは、特に限定されず、第3小粒子12c~第n小粒子12xについても、他の小粒子群とは組成が異なる酸化物ガラスの被膜を有していることが好ましい。
【0095】
絶縁被膜6の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xは、同程度の平均厚みを有していてもよいし、それぞれ、異なる平均厚みを有していてもよい。
【0096】
なお、第1絶縁被膜6aや第2絶縁被膜6bなどの絶縁被膜6は、複数の被覆層を積層した積層構造を有していてもよい。たとえば、絶縁被膜6が、粒子表面の酸化層と、当該酸化層を覆う酸化物ガラス層と、を含む積層構造を有していてもよい。第1小粒子12a~第n絶縁被膜6xのうちのいずれか1種以上の絶縁被膜6が積層構造を有する場合には、最外層(最も表面側に位置する被覆層)の組成が、第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xでそれぞれ異なっていればよく、最外層と粒子表面との間に位置する他の被覆層の組成は、第1絶縁被膜6a~第n絶縁被膜6xで一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0097】
また、第1小粒子12a~第n小粒子12xは、いずれも同じ粒子組成を有していてもよいし、それぞれ異なる粒子組成を有していてもよい。第1小粒子12a~第n小粒子12xの物質状態は、特に限定されず、第1小粒子12a~第n小粒子12xのうちのいずれか1種以上の小粒子群が、非晶質もしくはナノ結晶であってもよいが、前述したように、第1小粒子12a~第n小粒子12xは、いずれも結晶質であることが好ましい。
【0098】
磁気コア2aの断面において第1小粒子12a~第n小粒子12xが占める合計面積割合を、それぞれ、AS1~ASnとする。この場合、磁気コア2aの断面に占める小粒子12の合計面積割合ASは、AS1~ASnの合計で表すことができる。また、小粒子12の合計面積割合ASに対する各小粒子群の合計面積割合の比は、それぞれ、AS1/AS~ASn/ASで表すことができる。AS1/AS~ASn/ASは、いずれも、1%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
【0099】
磁気コア2aの製造時には、各小粒子群(第1小粒子12a~第n小粒子12x)に対して個別に被膜形成処理を施し、各小粒子群への被膜形成処理では、第1実施形態で述べたとおり、
図4に示すような粉末処理装置60を使用することが好ましい。また、各絶縁被膜6(第1絶縁被膜6a、第2絶縁被膜6b、および、第3絶縁被膜6c~第n絶縁被膜6x)の組成は、原料粉に混ぜ合わせるコーティング材の種類や組成によって制御すればよい。なお、上記以外の製造条件は、第1実施形態と同様とすればよい。
【0100】
(第2実施形態のまとめ)
第2実施形態の磁気コア2aでは、ヘイウッド径が3μm未満である第2の粒子群10bが、被膜の組成が異なる2種以上の小粒子12(第1小粒子12aおよび第2小粒子12bなど)を含む。
【0101】
上記のように、金属磁性粒子10が、被膜組成の異なる2種以上の小粒子12を含むことで、樹脂との混練時において金属磁性粒子間の電気的な反発力が向上し、金属磁性粒子10の磁気的凝集が抑制されていると考えられる。その結果、磁気コア2aでは、直流重畳特性をさらに向上させることができる。
【0102】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【0103】
たとえば、磁性部品の構造は、
図5に示す様態に限定されず、複数の磁気コア2を組み合わせて、磁性部品を製造してもよい。また、磁気コアの製造方法については、上記の実施形態で示す製造方法に限定されず、磁気コア2および磁気コア2aは、シート法や射出成型により製造してもよく、2段階圧縮により製造してもよい。2段階圧縮による製造方法では、たとえば、樹脂コンパウンドを仮圧縮して複数の予備成形体を作製した後、これら予備成形体を組み合わせて本圧縮することで磁気コアが得られる。
【実施例0104】
以下、具体的な実施例に基づいて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
(実験1)
実験1では、1種類の大粒子と1種類の小粒子とを混合した金属磁性粉末を用いて、ナノ結晶系の磁気コア試料(試料A1~試料A6)と、アモルファス系の磁気コア試料(試料A7~試料A12)とを製造した。なお、実験1で示す試料A1~A12の磁気コアは、本開示の比較例に相当する。
【0106】
まず、金属磁性粒子の原料粉として、ナノ結晶構造を有する大径粉、アモルファス構造(非晶質構造)を有する大径粉、および、純鉄の小粒子からなる小径粉を準備した。ナノ結晶構造の大径粉は、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末であり、急冷ガスアトマイズ法で得られた粉末に対して熱処理を施すことで製造した。当該Fe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末の平均粒径は20μm、非晶質化度は85%未満、平均結晶子径は0.5nm~30nmの範囲内であった。アモルファス構造の大径粉は、Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末であり、急冷ガスアトマイズ法により製造した。当該Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末の平均粒径は20μm、非晶質化度は85%以上であった。また、小径粉である純鉄粉末の平均粒径は、1μmであった。
【0107】
実験1の試料A1~試料A6では、ナノ結晶構造の大径粉に対して、メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン株式会社製:AMS-Lab)を用いた被膜形成処理を施し、大粒子の表面にP-Zn-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。一方、実験1の試料A7~試料A12では、アモルファス構造の大径粉に対して、メカノフュージョン装置を用いた被膜形成処理を施し、大粒子の表面にP-Zn-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。なお、上記の被膜形成処理では、絶縁被膜の平均厚みが表1に示す値となるようにコーティング材の添加量を制御した。
【0108】
実験1で使用した小径粉に対しては、
図4に示すような粉末処理装置(ホソカワミクロン株式会社製:ノビルタ)を用いて被膜形成処理を施し、小粒子の表面にBa-Zn-B-Si-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。小粒子に形成した絶縁被膜の平均厚みは、いずれの試料においても、15±10nmの範囲内であった。
【0109】
次に、金属磁性粒子の原料粉(大径粉および小径粉)と、エポキシ樹脂とを、混練することで、樹脂コンパウンドを得た。より具体的に、試料A1~試料A6では、ナノ結晶構造の大粒子と小粒子とを混ぜ合わせて樹脂コンパウンドを得た。一方、試料A7~試料A12では、アモルファス構造の大粒子と小粒子とを混ぜ合わせて樹脂コンパウンドを得た。なお、樹脂コンパウンドにおけるエポキシ樹脂の添加量(樹脂量)は、実験1のいずれの試料においても、金属磁性粒子100質量部に対して2.5質量部とした。また、大径粉と小径粉は、実験1のいずれの試料においても、面積比率が「大粒子:小粒子=8:2」となるように配合した。
【0110】
次に、樹脂コンパウンドを、金型に充填し加圧することで、トロイダル形状の成形体を得た。この際の成形圧は、磁気コアの透磁率(μi)が30となるように、制御した。そして、上記の成形体を180℃で60分間、加熱処理することで、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させ、トロイダル形状(外形11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)の磁気コアを得た。
【0111】
実験1の各試料では、作製した磁気コアに対して、以下に示す評価を実施した。
【0112】
磁気コアの断面観察
磁気コアの断面をSEMで観察し、観察視野の合計面積(1000000μm2)に対する金属磁性粒子の合計面積の比(金属磁性粒子の合計面積割合A0)を算出した。実験1の各試料では、いずれも、金属磁性粒子の合計面積割合A0が、80±2%の範囲内であった。
【0113】
また、SEM観察時には、各金属磁性粒子のヘイウッド径を測定すると共に、EDXによる面分析を実施して各金属磁性粒子の組成系を特定し、磁気コアの断面で観測された各金属磁性粒子を、大粒子と小粒子に分類した。実験1の各試料では、大粒子のD20が3μm以上、大粒子の平均粒径(ヘイウッド径の算術平均値)が10μm~30μmの範囲内、小粒子のD80が3μm未満、小粒子の平均粒径が0.5μm~1.5μmの範囲内であった。また、観測視野内に含まれる大粒子の合計面積と、小粒子の合計面積とを測定し、金属磁性粒子の合計面積に対する大粒子の合計面積の比(AL/A0)、および、金属磁性粒子の合計面積に対する小粒子の合計面積の比(AS/A0)を算出した。
【0114】
また、上記のSEM観察において、観察視野内に存在する各大粒子の絶縁被膜の厚みを計測し、その平均厚みを算出した。
【0115】
透磁率および直流重畳特性の評価
透磁率および直流重畳特性の評価では、まず、トロイダル形状の磁気コアに対して、ポリウレタン銅線(UEW線)を巻回した。そして、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)および直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて、周波数1MHzにおける磁気コアのインダクタンスを測定した。より具体的に、直流磁界を印加していない条件(0kA/m)でのインダクタンスと、8kA/mの直流磁界を印加した条件でのインダクタンスと、を測定し、これらインダクタンスからμi(0A/mでの透磁率)およびμHdc(8kA/mでの透磁率)を算出した。
【0116】
直流重畳特性は、直流磁界を印加した際の透磁率の変化率に基づいて評価した。つまり、透磁率の変化率(単位%)は、(μi-μHdc)/μiで表され、この透磁率の変化率が小さいほど、直流重畳特性が良好であると判断できる。
【0117】
コアロスの評価
各磁気コアのコアロス(単位:kW/m3)は、BHアナライザ(岩通計測社製SY-8218)を用いて、測定した。コアロスを測定した際の磁束密度は、10mTに設定し、周波数は3MHzに設定した。
【0118】
【0119】
表1に示すように、ナノ結晶構造の大粒子を主粉とする試料A1~試料A6の磁気コア(以下、ナノ結晶系の磁気コアと称する)は、アモルファス構造の大粒子を主粉とする試料A7~試料A12の磁気コア(以下、アモルファス系の磁気コアと称する)に比べて、コアロスが低くいものの、直流重畳特性が劣る傾向であった。反対に、試料A7~試料A12のアモルファス系の磁気コアは、ナノ結晶系の磁気コアに比べて、直流重畳特性が優れるものの、コアロスが高い傾向であった。すなわち、直流重畳特性とコアロスとは、主粉の物質状態に応じて、相反する関係を示すことがわかった。
【0120】
なお、ナノ結晶系の磁気コアおよびアモルファス系の磁気コアの両方において、大粒子が有する絶縁被膜を薄くすることで、コアロスが低くなったが、直流重畳特性は絶縁被膜を薄くしてもほとんど改善しなかった。これらの結果から、磁気コアの主粉が1種類の大粒子のみからなる場合には、低いコアロスと、良好な直流重畳特性とを両立させることが容易ではないことがわかった。
【0121】
(実験2)
実験2では、ナノ結晶構造の第1大粒子とアモルファス構造の第2大粒子とを混ぜ合わせた金属磁性粉末を用いて、表2に示す36種類の磁気コアを製造した。
【0122】
実験2においても、金属磁性粒子の原料粉として、実験1と同じ仕様のFe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末(ナノ結晶構造の第1大粒子)、Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末(アモルファス構造の第2大粒子)、および、純鉄粉末(小粒子)を準備した。
【0123】
次に、メカノフュージョン装置を用いて、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金粉末の粒子表面に、P-Zn-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。この際、コーティング材の添加量や処理時間を制御して絶縁被膜の厚みを調整し、平均厚みT1が異なる6種類の第1大粒子を得た。同様に、Fe-Co-B-P-Si-Cr系合金粉末に対して、メカノフュージョン装置による被膜形成処理を施し(P-Zn-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成)、平均厚みT2が異なる6種類の第2大粒子を得た。また、
図4に示すような粉末処理装置を用いて、純鉄粉末に対して被膜形成処理を施し、小粒子の表面に、Ba-Zn-B-Si-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。小粒子の絶縁被膜の平均厚みは、15±10nmの範囲内であった。
【0124】
次に、ナノ結晶構造の第1大粒子、アモルファス構造の第2大粒子、小粒子、および、エポキシ樹脂を混錬することで、樹脂コンパウンドを得た。この際、大粒子と小粒子は、実験2のいずれの試料においても、面積比率が「第1大粒子:第2大粒子:小粒子=4:4:2」となるように配合した。また、樹脂コンパウンドにおけるエポキシ樹脂の添加量(樹脂量)は、実験2のいずれの試料においても、金属磁性粒子100質量部に対して2.5質量部とした。
【0125】
次に、樹脂コンパウンドを、金型に充填し加圧することで、トロイダル形状の成形体を得た。この際の成形圧は、磁気コアの透磁率(μi)が30となるように、制御した。そして、上記の成形体を180℃で60分間、加熱処理することで、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させ、トロイダル形状(外形11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)の磁気コアを得た。
【0126】
実験2においても、実験1と同様の評価(磁気コアの断面観察、透磁率、直流重畳特性、およびコアロスの測定)を実施した。磁気コアの断面観察では、いずれの試料においても、第1大粒子および第2大粒子のD20が3μm以上、第1大粒子および第2大粒子の平均粒径が10μm~30μmの範囲内、小粒子のD80が3μm未満、小粒子の平均粒径が0.5μm~1.5μmの範囲内であることが確認できた。また、ナノ結晶構造の第1大粒子が有する絶縁被膜の平均厚みT1、アモルファス構造の第2大粒子が有する絶縁被膜の平均厚みT2、および、金属磁性粒子の合計面積に対する各粒子群の合計面積の比(AL1/A0、AL2/A0、およびAS/A0)は、表2に示す結果となった。なお、実験2の各試料では、いずれも、金属磁性粒子の合計面積割合A0が、80±2%の範囲内であった。
【0127】
実験2では、第1大粒子と第2大粒子の配合比に基づいて直流重畳特性の期待値(配合比から算出される直流重畳特性の計算値)を算出し、当該期待値を基準として各試料における直流重畳特性の良否を判定した。たとえば、試料B1における直流重畳特性の期待値は、以下の式により算出した。
期待値=〔(β1/α1)×C1〕+〔(β2/α7)×C7〕
α1:試料A1におけるナノ結晶系大粒子の割合(AL/A0)
C1:試料A1の直流重畳特性(透磁率の変化率)
α7:試料A7におけるアモルファス系大粒子の割合(AL/A0)
C7:試料A7の直流重畳特性(透磁率の変化率)
β1:試料B1におけるナノ結晶系大粒子の割合(AL1/A0)
β2:試料B1におけるアモルファス系大粒子の割合(AL2/A0)
上記のとおり、期待値を算出する際には、表1を参照し、各試料(試料B1~B36)で使用した大粒子と同じ仕様(粒子組成、被膜組成、および、被膜の平均厚みが同じ)の大粒子を含む磁気コア(試料A1~試料A12)の特性値を使用した。
【0128】
上記の方法で直流重畳特性の期待値を算出した後、期待値と実測した直流重畳特性との差(期待値-測定値)を計算した。この「期待値との差」が0%よりも大きくなるほど、透磁率の変化率((μi-μHdc)/μi)が小さく、直流重畳特性が向上していることを意味する。本実験では、この期待値との差が1%未満である試料の直流重畳特性を「不合格(F)」と判定し、期待値との差が1%以上である試料の直流重畳特性を「合格(G)」と判定した。
【0129】
また、コアロスに関しては、表1に示すアモルファス系の磁気コア(試料A7~試料A12)よりコアロスが低減された試料を「合格(G)」と判定した。実験2の評価結果を表2に示す。
【0130】
【0131】
表2に示すように、実験2の各試料では、アモルファス系の磁気コア(実験1の試料A7~A12)よりも、コアロスを低くすることができた。すなわち、ナノ結晶構造の第1大粒子と、アモルファス構造の第2大粒子とを混在させることで、アモルファス系の磁気コアよりもコアロスを低減させることができた。
【0132】
T1/T2が1.0以下である比較例では、直流重畳特性が、配合比から算出される期待値と同程度か、期待値よりも悪い結果となった。これに対して、T1/T2が1.0よりも大きい実施例では、期待値よりも良好な直流重畳特性が得られた。T1>T2を満たす実施例では、ナノ結晶構造の第1大粒子に起因して透磁率の変化率が上昇することを抑制できたと考えられる。
【0133】
上記のとおり、相対的に厚い絶縁被膜を有するナノ結晶構造の第1大粒子と、相対的に薄い絶縁被膜を有するアモルファス構造の第2大粒子とを混在させることで、低いコアロスと、良好な直流重畳特性とを両立させることができた。特に、T1>T2を満たす磁気コア(実施例)では、第2大粒子の絶縁被膜の平均厚みT2を5nm以上50nm以下とすることが好ましく、これにより、コアロスをより低くできることがわかった。また、T1/T2を1.3以上20以下とすることが好ましく、これにより、期待値よりも直流重畳特性の実測値がより小さくなる傾向となり、直流重畳特性の改善効果がより高まることがわかった。
【0134】
(実験3)
実験3では、第1大粒子および第2大粒子が有する絶縁被膜の組成を変えて、表3に示す8種類の磁気コア(試料C1~試料C8)を製造した。実験3の全ての試料において、第1大粒子の絶縁被膜の平均厚みT1は、100nmとし、第2大粒子の絶縁被膜の平均厚みT2は、15nmとした。絶縁被膜の組成以外の製造条件は、実験2の試料B20の製造条件と同様(すなわち第1大粒子、第2大粒子、および小粒子の仕様(粒子組成や平均粒径など)は試料B20と同じ)とし、実験3の各試料に対して実験1と同様の評価を実施した。
【0135】
実験3における断面観察結果と、透磁率、直流重畳特性((μi-μHdc)/μi)、およびコアロスの測定結果と、を表3に示す。
【表3】
【0136】
実験3の各試料では、直流重畳特性およびコアロスが、実験2の試料B20と同程度であり、良好な直流重畳特性と低いコアロスとを両立することができた。この結果から、各大粒子に形成する絶縁被膜の組成は、任意に設定可能であることがわかった。
【0137】
(実験4)
実験4では、ナノ結晶構造の第1大粒子の比率(AL1/A0)と、アモルファス構造の第2大粒子の比率(AL2/A0)と、を変えて、表4に示す磁気コア試料(試料D1~試料D18)を製造した。実験4の各試料では、磁気コアの断面における金属磁性粒子の合計面積割合A0が、いずれも、80±2%の範囲内であり、小粒子の比率(AS/A0)が20±1%の範囲内であった。
【0138】
比較例である試料D1~試料D6では、T1を15nm、T2を100nmとし、試料D1~試料D6における大粒子の比率以外の製造条件は、実験2の試料B10と同様とした。比較例である試料D7~試料D12では、T1およびT2を15nmとし、試料D7~試料D12における大粒子の比率以外の製造条件は、実験2の試料B8と同様とした。一方、実施例である試料D13~試料D18では、T1を100nm、T2を15nmとし、試料D13~試料D18における大粒子の比率以外の製造条件は、実験2の試料B20と同様とした。
【0139】
実験4では、実験2と同様の評価を実施した。評価結果を表4に示す。
【表4】
【0140】
表4に示すように、T1>T2を満たす実施例では、第1大粒子と第2大粒子の混在比を変更したとしても、アモルファス系の磁気コアよりもコアロスを低減させることができ、かつ、期待値よりも良好な直流重畳特性が得られた。この結果から、AL1/A0およびAL2/A0は特に限定されず、任意に設定可能であることがわかった。
【0141】
また、ナノ結晶構造の第1大粒子の比率を高くするとコアロスがより低くなる傾向が確認でき、アモルファス構造の第2大粒子の比率を高くすると直流重畳特性がより向上する傾向が確認できた。低いコアロスと良好な直流重畳特性とをより好適に両立させるためには、AL1/(AL1+AL2)が20%以上80%以下であることが好ましいことがわかった。
【0142】
(実験5)
実験5では、小粒子の比率(AS/A0)を変えて、表5に示す磁気コア試料(試料E1~試料E15)を製造した。実験5の各試料では、ナノ結晶構造の第1大粒子とアモルファス構造の第2大粒子とを、「1:1」の比率で配合した。小粒子の比率以外の製造条件は、実験2と同様として、透磁率、直流重畳特性((μi-μHdc)/μi)、およびコアロスを測定した。評価結果を表5に示す。
【0143】
【0144】
表5に示すように、小粒子の比率を変えた場合であっても、T1/T2が1.0よりも大きい実施例は、T1≦T2である比較例よりも良好な直流重畳特性が得られた。なお、実験5の試料E1~E15では、アモルファス系の磁気コアよりも低いコアロスが得られた。
【0145】
磁気コアにおける小粒子の比率を高くすると、コアロスおよび直流重畳特性がより向上する一方で、透磁率が低下する傾向が確認できた。高透磁率を確保しつつ、コアロスおよび直流重畳特性を改善する観点では、小粒子の比率(AS/A0)が10%以上40%以下であることが好ましいことがわかった。
【0146】
(実験6)
実験6では、金属磁性粒子の充填率(すなわちA0)を変えて、表6および表7に示す磁気コア試料を製造した。金属磁性粒子の充填率は、エポキシ樹脂の添加量に基づいて制御した。実験6の各試料における樹脂量(金属磁性粒子に対するエポキシ樹脂の含有量)、および、金属磁性粒子の合計面積割合A0を表6および表7に示す。なお、表6に示す試料F1~試料F12は、ナノ結晶構造の第1大粒子とアモルファス構造の第2大粒子のいずれか一方のみを使用した比較例であり、表7に示す試料G1~試料G9では、第1大粒子と第2大粒子とを混在させた。
【0147】
上記以外の実験条件は、実験1および実験2と同様とし、各試料の透磁率、直流重畳特性、およびコアロスを評価した。
【0148】
【0149】
表7に示すように試料G3、試料B20、および試料G6が、実験6の実施例であり、A0が75%以上90%以下の範囲内で、かつ、T1/T2が1.0以上であった。これらの試料G3、試料B20、および試料G6では、アモルファス系の磁気コアよりも低いコアロスと、T1≦T2である比較例よりも良好な直流重畳特性とが得られた。A0が75%未満である試料G9では、T1/T2が1.0以上であるものの、透磁率の変化率が比較例と同程度であり、直流重畳特性の改善が図れなかった。この結果から、金属磁性粒子の合計面積割合A0は75%以上90%以下に設定すべきであることがわかった。
【0150】
なお、表6に示すように、金属磁性粒子の充填率を高くすると、透磁率μiが高くなる一方で、コアロス特性や直流重畳特性が悪くなる傾向が確認できた。ナノ結晶構造の第1大粒子とアモルファス構造の第2大粒子とを混在させた試料(表7)においても、表6と同様の傾向が確認でき、高透磁率を確保する観点では、A0が78%以上であることが好ましいことわかった。
【0151】
(実験7)
実験7では、小粒子の仕様を変更して、表8および表9に示す磁気コア試料を製造した。具体的に、表8の試料H1では、小粒子として平均粒径が1μmであるFe-Ni系合金粒子を用い、試料H2では小粒子として平均粒径が1μmであるFe-Co系合金粒子を用い、試料H3では小粒子として平均粒径が1μmであるFe-Si系合金粒子を用い、試料H4では小粒子として平均粒径が1μmであるCo粒子を用いた。表8に示す各試料の小粒子には、平均厚みが15±10nmであるBa-Zn-B-Si-Al-O系酸化物ガラスの絶縁被膜を形成した。試料H1~試料H4における小粒子の組成以外の製造条件は、実験2の試料B20と同様とした。
【0152】
また、表9の試料I1および試料I2では、被膜組成が異なる2種類の小粒子を添加した。具体的に、試料I1では、Ba-Zn-B-Si-Al-O系酸化物ガラスの被膜を形成したFe粒子(第1小粒子)と、Si-O系の絶縁被膜を形成したFe粒子(第2小粒子)とを混在させた。また、試料I2では、Si-Ba-Mn-O系酸化物ガラスの被膜を形成したFe粒子(第1小粒子)と、Si-O系の絶縁被膜を形成したFe粒子(第2小粒子)とを混在させた。試料I1および試料I2において、小粒子の絶縁被膜の平均厚みは、いずれも、15±10nmの範囲内であった。試料I1および試料I2における上記以外の製造条件は、実験2の試料B20と同様とした。
【0153】
実験7の評価結果を表8および表9に示す。
【表8】
【表9】
【0154】
表8に示すように、小粒子の組成を変更した試料H1~試料H4においても、実験2のB20と同様に、低いコアロスと良好な直流重畳特性とを両立させることができた。この結果から、磁気コアに小粒子を添加する場合、小粒子の組成は特に限定されず、任意に設定できることがわかった。
【0155】
表9に示すように、試料I1および試料I2では、実験2のB20よりも直流重畳特性を向上させることができた。この結果から、被膜組成が異なる2種類の小粒子を磁気コア中に分散させることで、直流重畳特性の更なる向上が図れることがわかった。
【0156】
(実験8)
実験8では、第1大粒子、第2大粒子、および小粒子と共に、さらに中粒子を加えて、表10に示す3種類の磁気コア試料(試料J1~試料J3)を製造した。具体的に、試料J1の磁気コアには、中粒子として、平均粒径が5μmであるナノ結晶のFe-Si-B-Nb-Cu系合金粒子を添加し、試料J2の磁気コアには、平均粒径が5μmである結晶質のFe-Si系合金粒子を添加し、試料J3の磁気コアには、中粒子として、平均粒径が5μmである非晶質のFe-Si-B系合金粒子を添加した。なお、実験8で使用した中粒子は、いずれも、D20が3μm未満であり、かつ、D80が3μm以上であった。
【0157】
上記以外の製造条件は、実験2の試料B20と同様とし、試料J1~試料J2の透磁率、直流重畳特性、およびコアロスを測定した。評価結果を表10に示す。
【0158】
【0159】
表10に示すように、中粒子を添加した試料J1~試料J3においても、実験2のB20と同様に、低いコアロスと良好な直流重畳特性とを両立させることができた。実験8の評価結果から、磁気コアには中粒子を添加してもよいことがわかり、中粒子を添加する場合は、コアロスをより低くする観点から、ナノ結晶もしくはアモルファスの中粒子を使用することが好ましいことがわかった。
【0160】
(実験9)
実験9では、ナノ結晶構造を有する第1大粒子の組成、および、アモルファス構造を有する第2大粒子の組成を変更して、表11および表12に示す磁気コア試料を製造した。実験9で使用した第1大粒子の平均粒径は、いずれも20μmであり、第1大粒子における平均結晶子径は、0.5nm~30nmの範囲内であった。また、実験9で使用した第2大粒子の平均粒径は、いずれも20μmであり、第2大粒子の非晶質化度は85%以上であった。
【0161】
なお、表11に示す試料K1~K9は、ナノ結晶構造の第1大粒子とアモルファス構造の第2大粒子のいずれか一方のみを使用した比較例であり、試料K1~K9における小粒子の比率AS/A0は20±1%であった。試料K1~試料K9の製造条件は、実験1のA4およびA8と同様とした。表12に示す試料L1~試料L27は、第1大粒子と第2大粒子とを混在させた実施例であり、試料L1~試料L27におけるAL1/A0およびAL2/A0は、いずれも、40±1%であり、AS/A0は20±1%であった。試料L1~試料L27の製造条件は、実験2の試料B20と同様とした。
【0162】
実験9の評価結果を表11および表12に示す。
【表11】
【表12】
【0163】
表12に示す各実施例では、いずれも、アモルファス系の磁気コアよりも低いコアロスが得られ、かつ、直流重畳特性が期待値よりも1%以上改善していた。この実験9の結果から、第1大粒子および第2大粒子の組成は特に限定されず、任意に選択できることがわかった。