(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017187
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】コンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240201BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E21D11/10 D
G01C15/00 104A
G01C15/00 104D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119671
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508182589
【氏名又は名称】エフティーエス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】394017446
【氏名又は名称】マック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 計行
(72)【発明者】
【氏名】木下 勇人
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】宮原 宏史
(72)【発明者】
【氏名】宮地 順吾
(72)【発明者】
【氏名】富川 章
(72)【発明者】
【氏名】韓 国栄
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155DB02
2D155DB05
2D155KA07
2D155LA13
(57)【要約】
【課題】吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定しながらコンクリート吹付けを行うことのできる、コンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法を提供する。
【解決手段】トンネルTの切羽Kと周面Sに対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け機100であり、自走式の吹付け台車10と、吹付け台車10に取り付けられているノズルブーム20と、ノズル40と、を備えているノズル機構50と、吹付け台車10に取り付けられて支保工を把持するエレクタ60と、少なくとも、切羽Kと周面Sにおける測定点の吹付け台車10に対する相対座標を特定する、制御装置80とを有し、吹付け台車10の前方には3DスキャナA(90A)が装備され、エレクタ60には3DスキャナB(90C)が装備されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け機であって、
自走式の吹付け台車と、
前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えている、ノズル機構と、
前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタと、
少なくとも、前記切羽と前記周面における測定点の前記吹付け台車に対する相対座標を特定する、制御装置とを有し、
前記吹付け台車の前方には、3DスキャナAが装備され、
前記エレクタには、3DスキャナBが装備されていることを特徴とする、コンクリート吹付け機。
【請求項2】
前記ノズルブームには第1ターゲットが装備され、前記エレクタには第2ターゲットが装備されており、
前記ノズルブームの先端もしくは前記ノズルには、該ノズルから吹付け面までの距離を測定するレーザ距離計が装備されており、
前記3DスキャナAにより測定された前記第1ターゲットの測定位置データと前記第2ターゲットの測定位置データが、前記制御装置に取得され、該制御装置において、前記ノズルと前記エレクタにおける前記3DスキャナBの設置位置の双方の前記吹付け台車に対する相対座標を更新もしくは補正することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート吹付け機。
【請求項3】
前記ノズルブームの先端には前記ノズルを揺動させるロータリー機構が設けられ、該ロータリー機構に対して前記ノズルが取り付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンクリート吹付け機。
【請求項4】
前記ロータリー機構は、前記ノズルに取り付けられる筐体と、該筐体に収容されるモータと、筐体に対して段階的に位置を偏位させる偏心板と、を備え、
前記偏心板を所定の位置に偏位させた状態で前記モータを駆動することにより、前記筐体を揺動させ、該筐体を介して前記ノズルを揺動させることを特徴とする、請求項3に記載のコンクリート吹付け機。
【請求項5】
前記ノズルブームにおける前記ノズルの近傍には、該ノズルの速度を計測する、加速度計もしくは速度計がさらに設けられていることを特徴とする、請求項4に記載のコンクリート吹付け機。
【請求項6】
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け方法であって、
自走式の吹付け台車と、該吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えているノズル機構と、前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタとを有するコンクリート吹付け機を使用して、前記切羽と前記周面にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、前記切羽と前記周面におけるそれぞれの複数の測定点の相対座標を測定して、吹付け厚を特定する、A工程を有することを特徴とする、コンクリート吹付け方法。
【請求項7】
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け方法であって、
自走式の吹付け台車と、該吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えているノズル機構と、前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタとを有するコンクリート吹付け機を使用して、前記切羽にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、前記切羽における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定する、A1工程と、
前記周面にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記エレクタに装備されている3DスキャナBにより、前記周面における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定する、A2工程と、を有することを特徴とする、コンクリート吹付け方法。
【請求項8】
前記ノズルブームには第1ターゲットとレーザ距離計が装備され、前記エレクタには第2ターゲットが装備されており、
前記A1工程では、前記3DスキャナAにより、前記第1ターゲットを測定して前記ノズルの前記相対座標を特定し、前記レーザ距離計により前記切羽までの距離を特定し、
前記A2工程では、前記3DスキャナAにより、前記第2ターゲットを測定して前記エレクタにおける前記3DスキャナBの取り付け位置の前記相対座標を特定することを特徴とする、請求項7に記載のコンクリート吹付け方法。
【請求項9】
前記A工程、前記A1工程、及び前記A2工程において、前記ノズルを揺動させながらコンクリートを吹付けることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一項に記載のコンクリート吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、所定延長の掘削とずり出しを行った後、造成されたトンネルの周面と切羽に対してコンクリートの一次吹付けを(一次吹き)行い、支保工の建て込みを行い、二次吹付け(二次吹き)を行った後、必要に応じてロックボルトを打設する一連の施工サイクルが実施される。
一次吹付けと二次吹付けにおいては、コンクリートを吐出するノズルを先端に備えたノズルブームや、支保工を把持してトンネルの周面に設置するエレクタ等が自走式の吹付け台車に装備されている、コンクリート吹付け機が一般に適用される。
上記するノズルブームには、ロータリーエンコーダや角度センサ、ストロークセンサ等の各種センサが装備されており、吹付け台車にはターゲットが装備されている。コンクリート吹付け機よりもトンネルの坑口側における測量基準点を測量可能な位置には、トータルステーション等の測量手段が設置されており、測量手段により吹付け台車の三次元座標が特定されるようになっている。そして、ノズルブームの備えるロータリーエンコーダにてノズルブームの水平角度が特定され、角度センサにてノズルブームの傾斜角度が特定され、ストロークセンサにてノズルブームの例えば先端位置(ノズル位置)までの長さが特定されるようになっており、従って、これら吹付け台車の三次元座標と、ノズルブームの水平角度や傾斜角度、及びその先端までの長さによる特定情報により、ノズルブームの先端の三次元座標が特定され、当該先端に取り付けられているノズルの三次元座標が特定される。ノズルブームの先端やノズルには、コンクリートの吹付け面であるトンネルの切羽や周面までの距離を測定する、例えばミリ波レーダー等の距離センサが設けられている。
【0003】
トンネルの切羽や周面に対するコンクリートの吹付けの前後で、ノズルの三次元座標を特定するとともにノズルと吹付け面の間の距離を測定することにより、吹付け面の三次元座標が特定される。従って、吹付け面におけるコンクリートの吹付け前後の三次元座標を特定することにより、その差分から吹付け厚が特定される。切羽や周面のそれぞれにおいて複数箇所の吹付け厚を特定しながらコンクリート吹付けを実行することにより、吹付け厚が高い精度で管理されたコンクリート吹付けを実現することができる。
しかしながら、実際には、ノズルブームの先端やノズルに装備されているミリ波レーダー等の距離センサにより、コンクリート吹付け機の前方に位置する切羽における吹付け厚の特定は可能である一方、コンクリート吹付け機の側方に位置する周面における吹付け厚の特定を、ノズルブームの先端やノズルに装備されている距離センサによって特定することは極めて難しい。
【0004】
上記するように、コンクリート吹付け機を構成する吹付け台車には、その前方の例えば中央にノズルブームが旋回自在に取り付けられ、ノズルブームの左右にエレクタが旋回自在に取り付けられており、さらに、マンケージを先端に備えたマンケージブーム等が装備されることもあり、ノズルブームの側方にあるエレクタ等がノズルブームの先端やノズルに装備される距離センサによる周面の吹付け厚の特定の障害となり易く、エレクタ等を避けながらの吹付け厚の特定が自ずと困難になることが理由の一つである。
従って、吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定しながらコンクリート吹付けを行うことのできるコンクリート吹付け機と、吹付け厚を効率的かつ高精度に特定しながらコンクリートの吹付けを行うことのできるコンクリート吹付け方法が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、トンネルの内壁面にコンクリート材料を吹付ける、コンクリート材料吹付装置が提案されている。このコンクリート材料吹付装置は、内壁面の断面形状を計測する計測部と、ノズルからコンクリート材料を噴射して内壁面に吹付ける吹付機と、計測部と吹付機を制御する制御部とを備え、制御部は、計測部により計測された断面形状と、予め定められたトンネルの設計内壁面の断面形状とに基づいて、予め定められた複数の区画ごとに必要吹付厚さを算出し、算出された必要吹付厚さに基づいて吹付機を制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のコンクリート材料吹付装置によれば、吹付厚さを確保しつつ、仕上がり面を一定の精度で平滑にできるとしている。しかしながら、このコンクリート材料吹付装置は、上記するように、切羽のみならず、ノズルブームの左右にあるエレクタ等を避けながらトンネルの周面の全域における吹付け厚の高精度な特定、すなわち、切羽と周面の双方における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定するための手段を開示するものではない。
【0008】
本発明は、吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定しながらコンクリート吹付けを行うことのできるコンクリート吹付け機と、吹付け厚を効率的かつ高精度に特定しながらコンクリートの吹付けを行うことのできるコンクリート吹付け方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるコンクリート吹付け機の一態様は、
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け機であって、
自走式の吹付け台車と、
前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えている、ノズル機構と、
前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタと、
少なくとも、前記切羽と前記周面における測定点の前記吹付け台車に対する相対座標を特定する、制御装置とを有し、
前記吹付け台車の前方には、3DスキャナAが装備され、
前記エレクタには、3DスキャナBが装備されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、吹付け台車の前方にノズルブームとエレクタが旋回自在に取り付けられているコンクリート吹付け機において、吹付け台車の前方に3DスキャナAが装備され、エレクタに別途の3DスキャナBが装備されていることにより、例えば吹付け台車の前方に正対する切羽における複数の測定点(吹付け厚を測定する点)の相対座標を3DスキャナAにより測定し、周面における複数の測定点の相対座標をエレクタに装備される3DスキャナBにより測定することができ、これをコンクリート吹付けの前後で実行することにより、切羽と周面のそれぞれの複数の測定点における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定することが可能になる。
すなわち、エレクタに装備されている3DスキャナBにより周面の吹付け厚の特定が行われることから、当該特定に際してエレクタが障害となることは解消される。
ここで、3DスキャナAが、切羽と周面の双方の複数の測定点の相対座標を測定することもできる。この場合、エレクタに装備されている3DスキャナBは、切羽へのコンクリート吹付けの際のリバウンド等の粉塵により、3DスキャナAが使用不可の際に、周面や切羽までエレクタが近接して、相対座標の測定を行う予備スキャナとして機能する。
吹付け台車にターゲットが設けられ、吹付け台車よりもトンネルの坑口側における測量基準点を測量可能な位置にある、トータルステーション等の測量手段により、吹付け台車の三次元座標が特定され、測量手段による測量データは、制御装置に送信もしくは入力されるようになっていてもよい。ここで、制御装置は、吹付け台車に装備されていてもよいし、例えばトンネルの坑外に設けられている管理施設等に収容されていてもよい。
エレクタは、例えば吹付け台車の前方の中央に装備されるノズルブームの左右に装備され、各エレクタには固有の3DスキャナBが取り付けられている。この構成により、例えば弧状の周面のうち、左右の半分ずつの領域を、それぞれの3DスキャナBが分担して吹付け厚を特定することができる。
【0011】
ノズルブームやエレクタには、ロータリーエンコーダや角度センサ、ストロークセンサ等の各種センサが装備されていてよく、ロータリーエンコーダ等によって特定された水平角度や傾斜角度、エレクタにおける3DスキャナBの設置位置までの長さ等に関するデータに基づいて、吹付け台車に対する3DスキャナBの相対座標(三次元座標)を特定することができる。
尚、トータルステーション等の測量手段によって測定された吹付け台車の三次元座標(絶対座標)と、3DスキャナAにより測定された切羽や周面における複数の測定点の相対座標とに基づいて、各測定点の絶対座標を測定し、コンクリート吹付けの前後の各測定点の絶対座標の差分値から吹付け厚を特定してもよい。
【0012】
また、本発明によるコンクリート吹付け機の他の態様において、
前記ノズルブームには第1ターゲットが装備され、前記エレクタには第2ターゲットが装備されており、
前記ノズルブームの先端もしくは前記ノズルには、該ノズルから吹付け面までの距離を測定するレーザ距離計が装備されており、
前記3DスキャナAにより測定された前記第1ターゲットの測定位置データと前記第2ターゲットの測定位置データが、前記制御装置に取得され、該制御装置において、前記ノズルと前記エレクタにおける前記3DスキャナBの設置位置の双方の前記吹付け台車に対する相対座標を更新もしくは補正することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、ノズルブームの先端等に第1ターゲットが装備され、エレクタに第2ターゲットが装備されていて、3DスキャナAにより第1ターゲットと第2ターゲットの各位置が測定され、第1ターゲットと第2ターゲットの吹付け台車に対する相対座標(三次元座標)が測定されることにより、ノズルとエレクタにおける3DスキャナBの双方の吹付け台車に対する相対座標を高精度に特定することが可能になる。
ノズルブームやエレクタに装備されるロータリーエンコーダや角度センサ等によるデータに基づいて、ノズルとエレクタにおける3DスキャナBの吹付け台車に対する相対座標を特定する場合は、本態様に比べて、センサによるデータに基づいた間接的な相対座標の特定になることから精度が低下し得るが、本態様では、ノズルブームの先端等の位置を直接測定することから、測定されるノズルブームの先端等の三次元座標の精度は格段に向上する。
【0014】
ここで、「相対座標を更新もしくは補正する」とは、ノズルの位置やエレクタにおける3DスキャナBの設置位置が時々刻々変化することに鑑み、それぞれの吹付け台車に対する相対座標を随時更新することや、現在特定されている相対座標を新規の相対座標に補正することを意味している。このような相対座標の更新もしくは補正により、相対座標等に関する誤差が累積し、結果として吹付け厚の特定値に誤差が生じることを抑制できる。
【0015】
また、本態様によれば、3DスキャナAにより、ノズルブームの先端位置やエレクタにおける3DスキャナBの設置位置、さらには切羽(もしくは、切羽と周面の双方)における複数の測定点の相対座標が測定され、3DスキャナBにより、周面における複数の測定点の相対座標が測定され、コンクリートの吹付けと、コンクリート吹付けの前後におけるノズルや3DスキャナBの相対座標の更新や補正と、切羽や周面における複数の測定点の相対座標の測定等を自動で行うことができることから、オペレータ等を不要にして、吹付け厚の特定を含むコンクリート吹付けの完全な自動吹付け施工を実現できる。
【0016】
また、本発明によるコンクリート吹付け機の他の態様において、
前記ノズルブームの先端には前記ノズルを揺動させるロータリー機構が設けられ、該ロータリー機構に対して前記ノズルが取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、ノズルブームの先端にノズルを揺動させるロータリー機構が設けられていることにより、ノズルを水平面内で揺動(もしくはロータリー回転)させながらコンクリートの吹付けを行う、所謂ロータリー吹付けを実現できる。例えば、従来のコンクリート吹付け機では、吹付け面に対してノズルを遠近させる(もしくは上下させる)揺動のみであり、吹付け面に対して距離を一定に保ちながら揺動(回転)させるものは存在しない。このように吹付け面に対して距離を一定に保ちながらノズルを揺動させるロータリー吹付けにより、吹付け面に対するコンクリートの吹付け圧と吹付け量を均等に保ちながら、吹付け面に対して万遍なくコンクリートを吹付けることが可能になる。
【0018】
また、本発明によるコンクリート吹付け機の他の態様において、
前記ロータリー機構は、前記ノズルに取り付けられる筐体と、該筐体に収容されるモータと、筐体に対して段階的に位置を偏位させる偏心板と、を備え、
前記偏心板を所定の位置に偏位させた状態で前記モータを駆動することにより、前記筐体を揺動させ、該筐体を介して前記ノズルを揺動させることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、ロータリー機構が、ノズルに取り付けられる筐体と、筐体に収容されるモータと、筐体に対して段階的に位置を偏位させる偏心板とを備え、偏心板を所定の位置に偏位させた状態でモータを駆動することにより、所望の揺動態様でノズルを揺動することができる。ここで、偏心板の段階的な偏位調整は、手動にて行うことができる他、自動調整にて行うこともできる。
【0020】
また、本発明によるコンクリート吹付け機の他の態様において、
前記ノズルブームにおける前記ノズルの近傍には、該ノズルの速度を計測する、加速度計もしくは速度計がさらに設けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、ノズルの移動速度を計測することができ、ロータリー吹付けにおいて重要なファクターである、吹付け面までの距離やノズルの移動速度、ノズルの回転数(回転速度)、揺動角等のうち、ノズルの移動速度が所望の移動速度であるか否かを確認することができ、所望の移動速度から乖離している場合に移動速度の修正を図ることが可能になる。
【0022】
また、本発明によるコンクリート吹付け方法の一態様は、
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け方法であって、
自走式の吹付け台車と、該吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えているノズル機構と、前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタとを有するコンクリート吹付け機を使用して、前記切羽と前記周面にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、前記切羽と前記周面におけるそれぞれの複数の測定点の相対座標を測定して、吹付け厚を特定する、A工程を有することを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、切羽と周面における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定するA工程を有することにより、吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を効率的かつ高精度に特定しながら、コンクリートの吹付けを行うことが可能になる。
【0024】
また、本発明によるコンクリート吹付け方法の他の態様は、
トンネルの切羽と周面に対してコンクリートを吹付けるコンクリート吹付け方法であって、
自走式の吹付け台車と、該吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在である、ノズルブームと、該ノズルブームの先端に取り付けられていてコンクリートを吐出する、ノズルと、を備えているノズル機構と、前記吹付け台車に対して旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向に伸縮自在であって支保工を把持するエレクタとを有するコンクリート吹付け機を使用して、前記切羽にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、前記切羽における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定する、A1工程と、
前記周面にコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、前記エレクタに装備されている3DスキャナBにより、前記周面における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定する、A2工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、吹付け台車の前方に装備されている3DスキャナAにより、切羽における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定するA1工程と、エレクタに装備されている3DスキャナBにより、周面における複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定するA2工程を有することにより、吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を効率的かつ高精度に特定しながら、コンクリートの吹付けを行うことが可能になる。
【0026】
また、本発明によるコンクリート吹付け方法の他の態様において、
前記ノズルブームには第1ターゲットとレーザ距離計が装備され、前記エレクタには第2ターゲットが装備されており、
前記A1工程では、前記3DスキャナAにより、前記第1ターゲットを測定して前記ノズルの前記相対座標を特定し、前記レーザ距離計により前記切羽までの距離を特定し、
前記A2工程では、前記3DスキャナAにより、前記第2ターゲットを測定して前記エレクタにおける前記3DスキャナBの取り付け位置の前記相対座標を特定することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、ノズルブームの先端等に第2ターゲットが装備され、エレクタに第3ターゲットが装備されていて、3DスキャナAにより第1ターゲットと第2ターゲットの相対座標が測定されることにより、ノズルとエレクタにおける3DスキャナBの吹付け台車に対する相対座標を高精度に特定することが可能になり、各三次元座標の更新や補正を随時行うことができる。
【0028】
また、本発明によるコンクリート吹付け方法の他の態様は、
前記A工程、前記A1工程、及び前記A2工程において、前記ノズルを揺動させながらコンクリートを吹付けることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、所謂ロータリー吹付けにて、吹付け面に対して距離を一定に保ちながらノズルを揺動させるロータリー吹付けにより、吹付け面に対するコンクリートの吹付け圧と吹付け量を均等に保ちながら、吹付け面に対して万遍なくコンクリートを吹付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のコンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法によれば、吹付け面となる切羽と周面の双方における吹付け厚を、効率的かつ高精度に特定しながら、コンクリートの吹付けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係るコンクリート吹付け機の一例の側面図である。
【
図2】実施形態に係るコンクリート吹付け機の一例の平面図である。
【
図3】
図1のIII部の拡大図であって、ノズル機構の一例を拡大した側面図である。
【
図4】
図3に示すノズル機構の一例を斜め後方から見た斜視図である。
【
図5】ロータリー機構の一例を斜め下方から見た斜視図である。
【
図6】ロータリー機構の一例を斜め上方から見た斜視図である。
【
図7】コンクリート吹付け機を構成する制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図8】コンクリート吹付け機を構成する制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施形態に係るコンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0033】
[実施形態に係るコンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係るコンクリート吹付け機とコンクリート吹付け方法の一例について説明する。ここで、
図1と
図2はそれぞれ、実施形態に係るコンクリート吹付け機の一例の側面図と平面図である。また、
図3は、
図1のIII部の拡大図であって、ノズル機構の一例を拡大した側面図であり、
図4は、
図3に示すノズル機構の一例を斜め後方から見た斜視図である。さらに、
図5と
図6はそれぞれ、ロータリー機構の一例を斜め下方と斜め上方から見た斜視図である。
【0034】
以下、
図1と
図2において、トンネルTの軸方向をX方向、X方向に直交する水平方向をY方向、X方向に直交する鉛直方向をZ方向とする。以下で説明する、例えば切羽Kにおける複数の測定点の吹付け台車10に対する相対座標は、この3方向による(Xi,Yi,Zi)で特定することができる。
【0035】
コンクリート吹付け機100は、地盤Gに造成されているトンネルT(山岳トンネル)におけるコンクリートの吹付け面である、切羽Kと周面Sに対して所定の吹付け厚にてコンクリートを吹付ける重機である。
【0036】
山岳トンネルTの施工においては、所定延長の掘削とずり出し、造成されたトンネルTの周面Sと切羽Kに対するコンクリートの一次吹付け、支保工の建て込み、二次吹付けを一連の施工サイクルとし、この施工サイクルを繰り返しながら掘進していく。ここで、二次吹付けの後に、必要に応じてロックボルトを打設する施工方法もある。
図1と
図2においては、吹付け厚tの吹付けコンクリートCの施工が完了している区間の先の1m乃至3m程度の範囲の掘削とずり出しが完了し、当該区間の切羽Kと周面Sが露出している状態を示している。この露出している切羽Kと周面Sに対して、吹付け厚を管理しながら吹付けコンクリートの施工が行われる。
【0037】
コンクリート吹付け機100は、自走式の吹付け台車10と、吹付け台車10に搭載されている制御装置80と、吹付け台車10の前方(切羽K側)の中央位置において、鉛直方向(Y1方向)と水平方向(Y2方向)に旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向にY3方向に伸縮自在である、ノズルブーム20を有する。コンクリート吹付け機100はさらに、吹付け台車10の前方のノズルブーム20の左右位置において、同様にY1方向とY2方向に旋回自在に取り付けられ、自身の軸方向にY4方向に伸縮自在である、一対のエレクタ60と、吹付け台車10の前方の左右のエレクタ60の近傍位置において、同様にY1方向とY2方向に旋回自在に取り付けられ、マンケージ72を先端に備えている一対のマンケージブーム70を有する。
【0038】
ノズルブーム20は、吹付け台車10から延びるブーム21と、ブーム21の先端において回動自在でかつ伸縮自在に取り付けられているアーム22とを有する。アーム22の先端にはロータリー機構30が取り付けられ、ロータリー機構30にはノズル40が取り付けられており、ノズルブーム20と、ロータリー機構30と、ノズル40とにより、ノズル機構50が構成される。
【0039】
ここで、ノズル40における吐出口と反対側の端部(
図1ではノズル40の下端)には、
図3と
図4に示すようにコンクリート圧送ホース42(もしくはコンクリート圧送配管)の端部が取り付けられ、このコンクリート圧送ホース42は、不図示のミキサー車からコンクリートが供給されるホッパーと、コンクリートを圧送するコンクリートポンプとに通じている。制御装置80による駆動制御にてコンクリートポンプを駆動することにより、コンクリート圧送ホース42を介してコンクリートがノズル40に供給され、ノズル40から吹付け面に対してコンクリートが吐出される。ここで、ノズル40に対して直接的に、もしくは、コンクリート圧送ホース42におけるノズル40の近傍位置に、急結材が供給され、急結材が添加されたコンクリートが吹付け面に吐出されてもよい。
【0040】
吹付け台車10のうち、坑口側の後方には第3ターゲット12Aが装備され、中央の左右位置には別途の第3ターゲット12B,12Cが装備されており、各第3ターゲット12A,12B,12Cは、高さレベルが相互に相違するように設置されている。
【0041】
コンクリート吹付け機100よりもトンネルTの坑口側における、測量基準点を測量可能な位置には、不図示のトータルステーションからなる測量手段が設けられており、トータルステーションにて各第3ターゲット12A,12B,12Cが視準され、測距と測角が実行されることにより、吹付け台車10の三次元座標(絶対座標)が測定される。トータルステーションにより測定された吹付け台車10の三次元座標データは、制御装置80に送信もしくはデータ入力される。
【0042】
尚、コンクリート吹付け機100は、吹付け面における吹付け厚の測定に際して、吹付け台車10の絶対座標を必ずしも適用するものでないが、吹付け台車10の絶対座標と、以下で説明する3DスキャナA(90A)等により測定された吹付け面における測定点の相対座標とに基づいて、当該測定点の絶対座標が特定され、コンクリート吹付け前後の測定点の絶対座標に基づいて吹付け厚が特定されてもよい。
【0043】
吹付け台車10の前方の左右端にはそれぞれ、3DスキャナA(90A)が装備されている。ここで、3DスキャナA(90A)や以下で説明する3DスキャナB(90C)としては、3DRiDERの適用が好ましい。3DRiDERは、振動等に強く、重機への設置に好適であるとともに、一般の3Dスキャナに比べて相対的に安価な計測器であることがその理由である。
【0044】
ノズルブーム20のうち、ブーム21とアーム22にはそれぞれ第1ターゲット28C,28Bが装備され、ロータリー機構30には別途の第1ターゲット28Aが装備されている。
【0045】
ノズルブーム20にはその他、複数の角度センサ25A、25B,25Cや、ロータリーエンコーダ26,ストロークセンサ27が装備されている。各角度センサ25A、25B,25Cにより各位置の傾斜角度が特定され、ロータリーエンコーダ26により水平角度が特定され、ストロークセンサ27によりノズルブーム20の所定位置(例えばアーム22の先端位置)における吹付け台車10からの長さが特定される。
【0046】
ノズルブーム20の先端のロータリー機構30には、レーザ距離計90Bが装備されている。このレーザ距離計90Bにより、ノズル40と吹付け面までの距離を随時計測し、一定の距離を確保しながらコンクリートの吹付けを行う。ノズル40と吹付け面の間の距離を、例えば1.5m程度に設定してコンクリートの吹付けを行う際に、地山面の肌落ちや吹付け面の剥がれ等が発生し、さらに吹付け面の表面凹凸は一般に大きいことから、レーザ距離計による計測値に基づいてノズルブーム20を伸縮させ、ノズル40と吹付け面との間の距離を一定に保つようにするのが望ましい。
【0047】
また、エレクタ60には、複数の角度センサ65A,65Bの他、第2ターゲット68と3DスキャナB(90C)やストロークセンサ67が装備されている。尚、エレクタ60にも、ロータリーエンコーダがさらに装備されていてもよい。
【0048】
吹付け台車10の前方の左右端にある3DスキャナA(90A)は、吹付け面である切羽Kと周面Sにおける複数の測定点(吹付け厚を測定する点)の吹付け台車10に対する相対座標を測定する。
【0049】
3DスキャナA(90A)はさらに、ノズル機構50に装備されている第1ターゲット28A,28B,28Cと、エレクタ60に装備されている第2ターゲット68をそれぞれ視準し、ノズル40の吹付け台車10に対する相対位置と、3DスキャナB(90C)の相対位置を特定し、各相対位置データを制御装置80に送信する。
【0050】
図5と
図6に示すように、ロータリー機構30は、一対の筐体31,32と、筐体31,32に収容されるモータ33と、モータ33の上方に載置される格納体34と、一方の筐体32から側方に張り出してノズル40が設置されるノズル取り付け筒36とを有する。
【0051】
他方の筐体32の内部には、レーザ距離計90Bが設置されており、コンクリートの吹付け方向にある吹付け面に対してX2方向にレーザを照射し、反射レーザを取得して吹付け面までの距離を随時測定する。
【0052】
図5と
図6に示すように、ノズル取り付け筒36には、一点鎖線で示すノズル40とコンクリート圧送ホース42が取り付けられ、不図示のコンクリートポンプの駆動によって供給されたコンクリートがコンクリート圧送ホース42を介してノズル40に供給され、ノズル40からX1方向に吐出されるようになっている。
【0053】
図6に示すように、格納体34からX3方向へ、段階的に偏心板35が張り出すように構成されている。
【0054】
ロータリー機構30は、偏心板35が一方側へ偏位した状態でモータ33が回転することにより、ノズル40をX4方向に揺動させる機構であり、揺動しているノズル40からコンクリートを吐出するロータリー吹付けにより、吹付け面に対するノズル40の距離を一定に保ち、吹付け面に対するコンクリートの吹付け圧と吹付け量を均等に保ちながら、吹付け面に対して万遍なくコンクリートを吹付けることを可能にする。
【0055】
偏心板35の偏位量を調整することにより、ノズル40の揺動態様を様々に変化させることができる。ここで、偏心板35の段階的な偏位量の調整は、手動にて行うことができる他、自動調整にて行うこともできる。
【0056】
一方の筐体32には、接近センサ37が設置されており、モータ33を構成する不図示のロータ内に収容されている永久磁石の接近を検知してロータの回転数を計測するようになっている。また、他方の筐体31には、加速度センサ29が設置されており、ロータリー機構30とノズル40の移動速度を計測するようになっている。
【0057】
ロータリー吹付けにおいては、ノズル40の吹付け面までの距離やノズル40の移動速度、ノズル40の回転数(回転速度)、揺動角等が重要なファクターになる。また、加速度センサ29によってノズル40の移動速度が所望の移動速度であるか否かを確認することにより、所望の移動速度から乖離している場合に移動速度の修正を図ることが可能になる。
【0058】
次に、
図7と
図8を参照して、コンクリート吹付け機100を構成する制御装置80について説明する。ここで、
図7は、制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図8は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【0059】
図7に示すように、制御装置80は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。制御装置80を構成するコンピュータは、接続バス86により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)81、主記憶装置82、補助記憶装置83、通信IF84、及び入出力IF(interface)85を備えている。主記憶装置82と補助記憶装置83は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0060】
CPU81は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU81は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU81は、コンピュータからなる制御装置80の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU81は、例えば、補助記憶装置83に記憶されたプログラムを主記憶装置82の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0061】
主記憶装置82は、CPU81が実行するコンピュータプログラムや、CPU81が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置82は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置83は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置83には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF84を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、3DスキャナA(90A)や3DスキャナB(90C)、レーザ距離計90B,角度センサ25A,25B,25C、ロータリーエンコーダ26,ストロークセンサ27,トータルステーション等の他、例えばネットワークに接続する管理施設(工事詰所)等にある施工管理用のパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0062】
補助記憶装置83は、例えば、主記憶装置82を補助する記憶領域として使用され、CPU81が実行するコンピュータプログラムや、CPU81が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置83は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置83として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0063】
入出力IF85は、制御装置80に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF85には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置80は、入出力IF85を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0064】
また、入出力IF85には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、3DスキャナA(90A)や3DスキャナB(90C)から送信される、切羽Kや周面Sにおけるコンクリート吹付け前後の各測定点の相対座標データが表示され、この相対座標データに基づいて特定された各測定点における吹付け厚が表示されるようになっている。
【0065】
吹付け厚に一定の閾値が設定されている場合は、閾値も同時に表示され、特定された吹付け厚が閾値を超えた際にアラーム表示するようになっていてもよい。
【0066】
また、レーザ距離計90Bにより測定されたノズル40と吹付け面との間の距離が随時表示され、管理基準値(例えば1.5m)の間に距離閾値が設定されている場合は、特定された距離が閾値を超えた際にアラーム表示するようになっていてもよい。
【0067】
通信IF84は、制御装置80が接続するケーブルやネットワークとのインターフェイスである。通信IF84は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、3DスキャナA(90A)等から計測データを受信し、管理施設にある施工管理用のパーソナルコンピュータに吹付け面における複数の測定点の吹付け厚に関する特定データ等を送信する。
【0068】
図8に示すように、制御装置80は、CPU81によるプログラムの実行により、少なくとも、取得部102、相対座標特定部104、吹付け厚算定部106、コンクリートポンプ駆動部108、ブーム駆動部110、表示部112、及び格納部114の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0069】
取得部102には、3DスキャナA(90A)や3DスキャナB(90C)にて測定された、吹付け面である切羽Kと周面Sにおける複数の測定点の三次元座標データが取得され、取得された三次元座標データは格納部114に格納(記憶)される。
【0070】
また、取得部102には、3DスキャナA(90A)にて測定された、第1ターゲット28A,28B,28Cや第2ターゲット68を視準した際の三次元座標データが取得され、格納部114に格納(記憶)される。
【0071】
相対座標特定部104では、格納部114に記憶されている吹付け面における各測定点の三次元座標データに基づいて、吹付け台車10に対する各測定点の相対座標を特定し、第1ターゲット28A,28B,28Cや第2ターゲット68の三次元座標データに基づいて、ノズル40と3DスキャナB(90B)の相対座標を特定する。また、相対座標特定部104では、3DスキャナB(90C)の相対座標と、3DスキャナB(90C)によって測定された吹付け面(例えば周面S)における測定点の相対座標とに基づいて、吹付け台車10に対する測定点の相対座標を特定することもできる。
【0072】
吹付け厚算定部106は、例えば、各測定点におけるコンクリート吹付け前後の相対座標の差分を実行し、差分値をもって吹付け厚とする。
【0073】
コンクリートポンプ駆動部108は、ブーム駆動部110によるノズルブーム20の動作制御と連動してコンクリートポンプの駆動制御を実行し、ノズル40が吹付け面に対して一定の距離となるように位置合わせされた段階でブーム駆動部110によりノズルブーム20の動作が停止された後、コンクリートポンプを駆動してコンクリートを吹付け面に対して一定時間吐出する。この際、ブーム駆動部110により、ロータリー機構30のモータ33の回転制御が実行され、ノズル40が揺動しながらコンクリートの吐出を行う。
【0074】
表示部112は、切羽Kや周面Sにおけるコンクリート吹付け前後の各測定点の相対座標データを表示し、この相対座標データに基づいて吹付け厚算定部106にて算定された各測定点における吹付け厚を表示する。
【0075】
コンクリート吹付け機100によれば、3DスキャナA(90A)により、切羽Kと周面Sにおける複数の測定点の相対座標、ノズルブーム20の先端位置やエレクタ60における3DスキャナB(90C)の設置位置の相対座標が測定され、あるいは、3DスキャナB(90C)により、周面Sにおける複数の測定点の相対座標が測定されることにより、コンクリートの自動吹付けと、コンクリート吹付けの前後における切羽Kや周面Sにおける複数の測定点の相対座標の測定と、ノズル40や3DスキャナB(90C)の相対座標の更新や補正等が自動で行われることから、オペレータ等を不要にして、吹付け厚の特定を含むコンクリート吹付けの完全な自動吹付け施工を実現できる。
【0076】
また、揺動しているノズル40からコンクリートを吐出するロータリー吹付けを実行することにより、吹付け面に対するノズル40の距離を一定に保ち、吹付け面に対するコンクリートの吹付け圧と吹付け量を均等に保ちながら、吹付け面に対して万遍なくコンクリートを吹付けることができ、高品質な吹付けコンクリートを施工できる。
【0077】
さらに、ノズル40の吹付け台車10に対する相対座標や、トータルステーションを用いたノズル40の絶対座標等を随時更新もしくは補正することにより、吹付け面における各測定点の座標の累積誤差等を解消することができる。
【0078】
次に、実施形態に係るコンクリート吹付け方法について概説する。
【0079】
このコンクリート吹付け方法は、コンクリート吹付け機100を使用して、切羽Kと周面Sにコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、吹付け台車10の前方に装備されている3DスキャナA(90A)により、切羽Kと周面Sにおけるそれぞれの複数の測定点の相対座標を測定して、吹付け厚を特定する、A工程を有する。
【0080】
コンクリート吹付けにおいては、ノズル40を揺動させながらコンクリートを吹付ける、ロータリー吹付けを実行する。例えば、1層の吹付け厚を50mm程度に設定し、1層吹付けた段階で3DスキャナA(90A)や3DスキャナB(90C)で吹付け面の相対座標を取得する。切羽Kに対するコンクリート吹付けは、1層(例えば50mm)の吹付けにてコンクリート吹付けが終了となり、周面Sに対するコンクリート吹付けは、複数層の吹付けを段階的に実行する。このロータリー吹付けにおいては、レーザ距離計90Bでノズル40と吹付け面との距離を随時測定し、一定の距離を保持しながらコンクリート吹付けを行う。
【0081】
このコンクリート吹付け方法によれば、切羽Kと周面Sにおける吹付けコンクリートの吹付け厚を効率的かつ高精度に特定しながら、吹付けコンクリートを施工することができる。
【0082】
また、コンクリート吹付け方法の他の態様は、コンクリート吹付け機100を使用して、切羽Kにコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、3DスキャナA(90A)により、切羽Kにおける複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定するA1工程を実行する。次に、周面Sにコンクリートを吹付け、この吹付けの前後に、3DスキャナB(90C)により、周面Sにおける複数の測定点の相対座標を測定して吹付け厚を特定する、A2工程を実行する。
【0083】
ここで、ノズルブーム20には第1ターゲット28A,28B,28Cが装備され、エレクタ60には第2ターゲット68が装備されていて、A1工程では、3DスキャナA(90A)により、第1ターゲット28A,28B,28Cを測定してノズル40の相対座標を特定する。一方、A2工程では、3DスキャナA(90A)により、第2ターゲット68を測定して、3DスキャナB(90C)の取り付け位置の相対座標を特定する。このように、ノズル40と3DスキャナB(90C)の相対座標を随時更新もしくは補正しながら、コンクリート吹付けを実行する。この吹付け方法においても、ロータリー吹付けを行う。
【0084】
このコンクリート吹付け方法によれば、周面Sの測定点の相対座標の測定に際して、エレクタ60に装備されている3DスキャナB(90C)が適用されることから、エレクタ60が当該測定の障害になることが解消される。
【0085】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0086】
10:吹付け台車
12A,12B,12C:第3ターゲット
20:ノズルブーム
21:ブーム
22:アーム
25A,25B,25C:角度センサ
26:ロータリーエンコーダ
27:ストロークセンサ
28A,28B,28C:第1ターゲット
29:加速度計
30:ロータリー機構
31,32:筐体
33:モータ
34:格納体
35:偏心板
36:ノズル取り付け筒
37:接近センサ
40:ノズル
42:コンクリート圧送ホース
50:ノズル機構
60:エレクタ
65A,65B:角度センサ
67:ストロークセンサ
68:第2ターゲット
70:マンケージブーム
72:マンケージ
80:制御装置
90A:3DスキャナA
90B:レーザ距離計
90C:3DスキャナB
100:コンクリート吹付け機
G:地盤
T:トンネル(山岳トンネル)
K:切羽(吹付け面)
S:周面(吹付け面)
C:吹付けコンクリート
t:吹付け厚