(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171875
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ハサミ
(51)【国際特許分類】
B26B 13/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B26B13/00 A
B26B13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089145
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】中津 康宏
【テーマコード(参考)】
3C065
【Fターム(参考)】
3C065AA04
3C065BA01
3C065BA31
3C065BA34
3C065BA35
3C065BA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】できるだけ構造や動作がシンプルで操作感が異質とならず、右利きの人にも左利きの人にも使い勝手がよくて切断性が向上するハサミを新たに実現する。
【解決手段】ハサミSを構成する一対のハンドル12、22が閉じた状態にあるときの両ハンドル12、22の中心を通るハンドル開閉軸L2(L21、L22)と、一対の刃体11、21が閉じた状態にあるときの両刃体11、21の切断面間を通る刃開閉軸L1とのあいだに、刃体11、21を捩じることなく、傾斜角度θを設けることとした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のハンドルが閉じた状態にあるときの両ハンドルの中心を通るハンドル開閉軸と、一対の刃体が閉じた状態にあるときの両刃体の切断面間を通る刃開閉軸とのあいだに、刃体を捩じることなく、傾斜角度を設けたことを特徴とする、ハサミ。
【請求項2】
一対のハンドルを上下方向に配置したときに刃先からみて上のハンドルに連なる刃体が右に位置し、下のハンドルに連なる刃体が左に位置するとともに、ハンドル開閉軸に対して刃開閉軸が左傾斜している、請求項1に記載のハサミ。
【請求項3】
前記ハンドルと前記刃体に別素材を使用し、前記傾斜角度がつくように両者を一体化していることを特徴とする、請求項2に記載のハサミ。
【請求項4】
前記ハンドルと前記刃体を、予め前記傾斜角度を設けた上でインサート成型していることを特徴とする、請求項3に記載のハサミ。
【請求項5】
前記ハンドルと前記刃体を別体に構成し、相対的に傾斜させて連結している、請求項3に記載のハサミ。
【請求項6】
前記ハンドルは、刃開閉軸とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸を有するハンドル本体に、指掛け用のオプション部材を取り付けることによって刃開閉軸とのあいだの傾斜角度を実現している、請求項3に記載のハサミ。
【請求項7】
前記ハンドルは、刃開閉軸とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸を有するハンドル本体に、指掛かり部を変形させることによって刃開閉軸とのあいだの傾斜角度を実現している、請求項3に記載のハサミ。
【請求項8】
前記ハンドルと前記刃体を同じ素材で別体に構成し、相対的に傾斜させて連結していることを特徴とする、請求項2に記載のハサミ。
【請求項9】
前記ハンドルと前記刃体を、刃体をねじることなく粉末射出成型によって前記傾斜角度がつくように一体成型したことを特徴とする、請求項2に記載のハサミ。
【請求項10】
前記傾斜角度が略10°以下である、請求項1~9の何れかに記載のハサミ。
【請求項11】
前記傾斜角度が略5°以下である、請求項1~9の何れかに記載のハサミ。
【請求項12】
前記傾斜角度が略0、5°~2.5°である、請求項1~9の何れかに記載のハサミ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断性を向上させたハサミに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のハサミとして、例えば特許文献1に示すものが知られている。
【0003】
この文献は、一対の刃体が刃先部と操作部との中間部位で相互に軸着されたハサミにおいて、軸着部が刃先部と操作部とにわたる一平面と直交するリベットで軸着されている場合に、摺合面が上記一平面上に位置していると切断性が悪くなることを課題としている。
【0004】
すなわち、操作部を上記一平面上で操作すると、操作による力が上記一平面上で作用するだけにとどまるので、一対の刃先部は動くものの、刃先は噛み合わないか或いは噛み合う力が弱く、一対の刃先部に物が挟まることが多くなって、確実に切裁し得ない場合が生じることが指摘されている。
【0005】
同文献ではそれを解決するために、刃先部101に操作部102が一体に連設された一対の刃体1の刃先部101と操作部102との中間部位を刃先部101と操作部102とにわたる一平面と斜交差するように捩じって捩部位201を設け、この捩部位201同士をリベット3で軸着することで、操作による力の方向を上記一平面と斜交差する方向に変換し、一対の刃先部を相互に噛み合うように動かすことで、物が挟まらずに切載することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように部材の捩じりによって斜め交差を実現する場合、金属をプレス成形により捩じり方向に塑性変形させると、変形に弾性変形分が含まれるため、成形後のスプリングバックにより刃のプレス成形が安定しない。すなわち、捩りが過少となって初期の効果が得られなくなる場合だけでなく、捩りが過剰となっても、上の刃先部と下の刃先部の曲げ角度が合わないと組み合わせた際に想定通りの性能を発揮できず却って性能が悪化する場合もある。このため、製造誤差が大きくなり、所期の切れ味が安定して得られないという課題がある。
【0008】
特に、同文献のものは、刃先部101と操作部102とにわたる領域が一平面であって、捩部位201が刃先部101及び操作部102と斜交差するものであり、捩部位201と刃先部101のあいだ、及び、捩部位201と操作部102のあいだで斜交差している(2段階で捩じっている)。このため、上記製造誤差がより大きくなるうえに、刃先部101や操作部102の作用や機能も後述する本発明とは異質なものである。
【0009】
この種のハサミは、通常右利き用に作られており、左利きの人には使いづらい面がある。左利きの人は、後に詳述するが切断面が見えにくいうえに、普通に使うと指の動きがハサミの刃の隙間を広げる方向に作用する傾向にある。
【0010】
このような点も考慮すると、できるだけ構造や動作がシンプルで操作感が異質とならずに、右利きの人にも左利きの人にも使い勝手がよくて切断性が向上したハサミを実現することが望まれる。
【0011】
本発明は、このようなハサミを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0013】
すなわち、本発明のハサミは、一対のハンドルが閉じた状態にあるときの両ハンドルの中心を通るハンドル開閉軸と、一対の刃体が閉じた状態にあるときの両刃体の切断面間を通る刃開閉軸とのあいだに、刃体を捩じることなく、傾斜角度を設けたことを特徴とする。
【0014】
ここで、「刃体を捩じることなく」とは、基材に外力を加えて捩じり変形させない、という程の意味である。このようにすれば、傾斜角度によって、刃開閉時にハンドル開閉軸に対して刃が捩じりながら閉まるような力のベクトルが発生し、刃と刃のあいだの隙間が少なくなる方向に作用する。したがって、切断性が向上し、切りミスが起こりにくくなる。また、刃を捩じることなく傾斜角度をつけているので、金属を捩じる場合のように加工時にスプリングバックの影響を受けることがなく、一対の刃体の傾斜角度を適正化して製造誤差を小さくすることができる。さらに、ハンドル開閉軸と刃開閉軸のあいだに傾斜角度を設けるだけであるため、従来のハサミと比べて操作性が殆ど変わらず、構造が複雑になることもない。加えて、刃体を捩じらずに傾斜角度をつけることで、刃体を捩じる場合に比べて見た目上の違和感を少なくすることができる。
【0015】
一対のハンドルを上下方向に配置したときに刃先からみて上のハンドルに連なる刃体が右に位置し、下のハンドルに連なる刃体が左に位置する場合には、ハンドル開閉軸に対して刃開閉軸を左傾斜させておくことが適切である。
【0016】
具体的な実施の態様としては、前記ハンドルと前記刃体に別素材を使用し、前記傾斜角度がつくように両者を一体化しているものが挙げられる。
【0017】
より具体的には、前記ハンドルと前記刃体を、予め前記傾斜角度を設けた上でインサート成型していることが好適である。
【0018】
或いは、前記ハンドルと前記刃体を別体に構成し、相対的に傾斜させて連結する態様によっても構わない。
【0019】
さらに、前記ハンドルは、刃開閉軸とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸を有するハンドル本体に、指掛け用のオプション部材を取り付けることによっても、刃開閉軸とのあいだの傾斜角度を実現することができる。
【0020】
或いは、前記ハンドルは、刃開閉軸とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸を有するハンドル本体に、指掛かり部を変形させることによっても、刃開閉軸とのあいだの傾斜角度を実現することができる。
【0021】
本発明は、上記のように前記ハンドルと前記刃体を別素材で作る場合に限らず、前記ハンドルと前記刃体を同じ素材で別体に構成し、相対的に傾斜させて連結してもよい。
【0022】
さらには、前記ハンドルと前記刃体を、刃体をねじることなく粉末射出成型によって前記傾斜角度がつくように一体成型することも好適である。
【0023】
傾斜角度については、操作力のロスを抑え、操作性の低下を防ぐためには、略10°以下であることが望ましい。
【0024】
特に、操作時の違和感を小さくするためには、傾斜角度は略5°以下であることが好適である。
【0025】
さらに、操作に殆ど違和感がなく、従来と同様の使い勝手のもとに切断性を高めるためには、傾斜角度が略0、5°~2.5°であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した本発明によれば、できるだけ構造や動作がシンプルで操作感が異質とならず、右利きの人にも左利きの人にも使い勝手がよくて切断性が向上したハサミを新たに提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係るハサミを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
このハサミSは、
図1及び
図2に示すように、第1刃体11と第1ハンドル12とを一体とした第1ハサミ構成体1と、第2刃体21と第2ハンドル22とを一体とした第2ハサミ構成体2とを備え、刃体11、21の刃元部付近をリベット3で軸着している。
【0030】
一対の刃体11、21は、一般的な手法によって構成される。例えば、素材となる鋼材をプレス機を使って刃の形に打ち抜き、熱処理を加えることによって強度を高めた後、研磨や刃加工を行って構成される。
【0031】
一対のハンドル12、22は、それぞれ対応する刃体11、21にインサート成型によって一体成型される。ハンドル12(22)には、一対の面12a、12b(22a、22b)のあいだに深さ方向に貫通する指挿通孔12c(22c)が形成される。
【0032】
第1ハサミ構成体1と第2ハサミ構成体2は、少なくともハンドル12、22を閉じた
図2(a)の状態で、第1ハンドル12の一方の面12aと第2ハンドル22の一方の面22a、第1ハンドル22の他方の面12bと第2ハンドル22の他方の面22bが、それぞれ面一とされるように成形されて組付けられる。
【0033】
第1ハサミ構成体1と第2ハサミ構成体2は、リベット3の軸心n回りに
図2(b)のように回転することで、刃体11、21が交叉する際のV字状の交点となるカット位置Cが移動し、ハサミSを閉じるときに第1刃体11と第2刃体21の最寄りの面(対向する切断面)11a、21a同士が最大面積で重なって
図2(a)の状態になる。刃体11、21同士の最寄りの面11a、21a同士の接触は、面積が少ないほどハサミSの動きが軽快になり、理想的には点接触≧線接触≧面接触である。一対の刃体11、21が開閉するときの中心が回転軸nであることは言うまでもないが、ここでは刃体11、21同士の開閉挙動に着目するために、少なくとも刃体11、21が閉じた
図2(a)の状態にあるときに刃体11、21の最寄りの面(切断面)11a、21aの中間を通る線を、刃開閉軸L1と定義する。
【0034】
右利き用のハサミの場合、親指を差し込む側の第1ハンドル12を備える第1ハサミ構成体1は刃体11がハサミ先端から見て右側(ハンドル基端から見て左側)に位置し、中指と薬指を差し込む側の第2ハンドル22を備える第2ハサミ構成体2の刃体21はハンドル先端側から見て左側(ハンドル基端側から見て右側)に位置する。この関係は、一対のハンドルのどちらに親指を通し、どちらに中指と薬指を通しても変わらず、変わるのはリベット3の頭部や先端がどちらに向くかだけである。逆を言えば、ここでは親指を通した側を第1ハンドル12を有する第1ハサミ構成体1とし、中指と薬指を通した側を第2ハンドル22を有する第2ハサミ構成体2としており、リベット3の向きは特にこだわっていない。
【0035】
ハンドル12(22)の中心を通り一対の面12a、12b(22a、22b)に平行な基準面L21、L22は、少なくともハンドル12、22を閉じた
図2(a)の状態で当該面12a、12b(22a、22b)に沿った方向から見たときに同じ軸線上にある。一対のハンドル12、22が開閉するときの中心が回転軸nであることは言うまでもないが、ここではハンドル12、22同士の開閉挙動に着目するために、ハンドル12、22の中心を通る軸をハンドル開閉軸L21、L22と定義する。一対のハンドル12、22が閉じた
図2(a)の状態では、ハンドル開閉軸L21、L22は同軸上にあってこの軸線をハンドル開閉軸L2と定義する。
【0036】
従来のハサミは、
図10に示すように刃開閉軸L1とハンドル開閉軸L2が一致し、刃体11、21同士が刃開閉軸L1(したがってハンドル開閉軸L2)と直交する方向の軸心m回りにリベット3で軸着されている。このため、ハンドル12、22に入力される操作力は、全て刃体11、21の開閉方向にのみ作用し、一対の刃体11、21同士を噛み合わせる方向(リベット3の軸心mに平行な方向)の力に変換されることはない。このため、切断対象物を切り難く、一対の刃先部11、21に物が挟まると刃体11、21同士が開く場合があり、切断性能が悪くなるという問題がある。
【0037】
特に切断対象物が厚い場合、あるいは薄い場合において、切れにくいときの解消方法として、
図11(a)に示すように親指を入れた第1ハサミ構成体1のハンドル12を親指で図中矢印P1で示すように左方向に押し込み、中指と薬指を入れた第2ハサミ構成体2のハンドル22を中指と薬指で図中矢印P2に示すように右方向に引き込む操作を行うことがある。これにより、リベット3よりも先端では動きが矢印P1´、P2´のように反転し、第1構成体1の刃体11と第2構成体2の刃体21に噛み合う方向の力が作用して、切断性能が向上する。このような意図的な操作をここでは強制切断と称する。このような操作は、右利きの人が普通に操作しても指の動きからある程度得られるが、意図的に強制切断によって切断性能が更に向上することを理解していれば更に切れ味を良くすることができ、理解していなければそのような効果は得られない。
【0038】
また、左利きの人は、
図11(b)に示すように、普通に操作すると指の動きから図中実線P3、P4で示すように上記とは逆の方向すなわちハンドル12、22が相寄る方向に力が入り、リベット3の先端では刃先11、21が離れる方向に作用するため、普通に使っても右利きの人よりハサミの切断性能が悪くなる事情がある。そして、図中白抜き矢印P5、P6で示すように、親指を深く入れて引き込み、中指と薬指で押し込む逆の操作をより意識して行わなければ、通常の切断性能が得られないのが実情である。切断対象物が厚い場合や薄い場合は尚更である。そもそも、
図11(b)の状態は
図11(a)のようには切断位置が見えない。以上のことから、左利きの人が右利き用のハサミを使うときの使い勝手を右利きの人の使い勝手に近づけることが望まれる。
【0039】
以上を踏まえ、本実施形態のハサミSは、
図2(a)、(b)に示すように、一対のハンドル12、22のハンドル開閉軸L21、L22と、一対の刃体11、21の刃開閉軸L1のあいだに、インサート成型時に傾斜角度θを設けている。
【0040】
具体的には、
図4に示すような刃体11、21を用意し、これを
図5に示すようにハンドル成形用の金型101、102にセットする際、ハンドルを成型する中空部のうち
図2に示すハンドル両側の平らな面12a、12b、22a、22bを成型する基準面12a0、12b0、22a0、22b0に対して、刃体11、21の平らな面(切断面)が角度θをなすように斜めに傾斜させ、その状態で金型101、102の中空部に樹脂を流し込んでインサート成型することで、
図6に示すようにハンドル12と刃体11が一体をなす第1ハサミ構成体1、ハンドル22と刃体21が一体をなす第2ハサミ構成体2を構成する。
【0041】
そして、第1ハサミ構成体1と第2ハサミ構成体2の刃体11、21同士をリベット3で相互に連結している。このため、
図2(a)に示すようにハサミSを閉じた状態で、リベット3の軸心nと直交する刃開閉軸L1に対して、ハンドル開閉軸L2が所定角度θだけ傾斜した状態に組み上がる。
【0042】
図2において第1ハサミ構成体1の指挿通孔12cと第2ハサミ構成体2の指挿通孔22cに指を掛けて、刃先を見ながら
図2におけるA-A線断面図である
図7図に示すように刃体11、21の刃面(切断面)と平行な方向に操作力F1、F2を入力すると、第1ハサミ構成体1のハンドル12には図中左に倒れる方向の分力f1が作用し、第2ハサミ構成体2のハンドル22には図中右に倒れる方向の分力f2が作用する。これらの力は、ハサミSを刃先から見た
図8及び
図8の側面図である
図9に示すように、リベット3の軸心nにおいて反転されて、第1ハサミ構成体1の刃体11と第2ハサミ構成体2の刃体21を互いに噛み合わせる方向の力f1´、f2´として作用する。
【0043】
この操作を
図11(a)で示した操作と比べると、f1はP1に相当し、f2はP2に相当し、f1´はP1´に相当し、f2´はP2´に相当する。すなわち、本実施形態では無意識にハサミSを操作しても強制操作をしたと同様の捩じり効果が得られることになる。これは左利きの人も同様、無意識にハサミSを操作しても同様の捩じり効果が得られることになる。このため、利き手の如何によらず従来よりも切断性能が確実に高められることになる。
【0044】
このときのハンドルの動きを確認する。初動時に、
図2(a)の位置からハンドル12、22が少し開くと、
図2(b)に示すように刃開閉軸L1に対してハンドル開閉軸L21がなす角度がθからθ1へ、刃開閉軸L1に対してハンドル開閉軸L22がなす角度がθからθ2へ、それぞれ変化する。更に、
図2(a)の第1ハンドル12に対して第2ハンドル22を軸心n回りに180°近く回転させたとする(実際にはそこまで大きく開かないが)と、
図2(c)に示すように第2ハンドル22は
図2(a)の位置からリベット3の軸心nに対して対称な位置に移動する。このとき、第2ハンドル22は第1ハンドル12とは完全には重ならず、少しずれて角度をもった位置に移動する。つまり、
図2(a)から
図2(c)までの第2ハンドル22の移動軌跡は、
図3に示すように、回転軸nを中心軸とし、ハンドル開閉軸L22を母線とする円錐面を描く。これは、常に刃開閉軸L1とハンドル開閉軸L2(L21、L22)が同一平面上で動作する
図10の従来型ハサミと比べて若干異なった挙動となる。しかしながら、本発明の切断性能を得るうえでハサミSの操作感が損なわれることはない。
【0045】
本発明者が検討を重ねたところ、刃開閉軸L1に対してハンドル開閉軸L2の傾斜角度θを略5°以下とした場合には操作に違和感が少なく切断性能も向上し、傾斜角度θを0.5°~2.5°とした場合には操作に殆ど違和感を覚えることなく切断性能も向上することが確認できた。また、傾斜角度θを5°~10°とすると若干の違和感はあるものの切断性能を向上させる効果が得られ、傾斜角度θが10°を越えると分力が大きくなって操作力が切断力として伝わりにくくなるうえに、ハンドル12、22に対する操作方向が斜めになり過ぎると、操作に違和感が生じ、狙った部位や直線を切るなど細かい作業ができなくなる弊害や、切断そのものを阻害することも確認できた。
【0046】
特許文献1の
図2と本願の
図2とを比較すると、一対のハンドル102、102(12、22)を上下方向に配置したときに刃先からみて上のハンドル102(12)に連なる刃体101(11)が右に位置し、下のハンドル102(22)に連なる刃体101(21)が左に位置する点で共通する。しかしながら、特許文献1の操作部102に対する捩部位201の傾斜方向が本願
図2のハンドル12、22に対する刃体11、21の傾斜方向と逆(前者は右傾斜であるに対して本願はハンドル開閉軸L2に対して刃傾斜軸L1が左傾斜)であり、また、特許文献1では刃先101と捩部位201のあいだ、捩部位201と操作部102の2か所に傾斜の異なる部位が存するのに対して、本実施形態では刃開閉軸L1とハンドル開閉軸L2のあいだの1か所のみに傾斜角度を設けているため、本願発明と特許文献1とは作用や機能、技術的思想が異なるものである。そして、本実施形態のハサミSによれば、構造簡素にして、従来のハサミと殆ど使い勝手が変わらずに、無意識のうちに強制切断を実現することが可能となる。
【0047】
しかも、特許文献1のように傾斜角度を2段階で変化させる場合には、たとえインサート成型を利用したとしても刃体の方も捩じらなければならないため、結果的にスプリングバックの影響を排除できないが、本実施形態のように傾斜角度をつけるのが少なくとも1か所であれば、インサート成型や後述する機械的連結によってハサミSを作ることができ、スプリングバックの影響を排除することが可能となる。
【0048】
以上のように、本実施形態のハサミSは、一対のハンドル12、22が閉じた状態にあるときの両ハンドル12、22の中心を通るハンドル開閉軸L2(L21、L22)と、一対の刃体11、21が閉じた状態にあるときの両刃体11、21の切断面間を通る刃開閉軸L1とのあいだに、刃体11、21を捩じることなく、傾斜角度θを設けたことを特徴とする。
【0049】
このようにすれば、傾斜角度θによって、刃開閉時にハンドル開閉軸L2に対して刃体11、21が捩じりながら閉まるような力のベクトルf1´、f2´が発生し、刃体11と刃体21のあいだの隙間が少なくなる方向に作用する。したがって、切断性が向上し、切りミスを起こりにくくすることができる。また、刃体11、21を捩じることなく傾斜角度θをつけているので、金属を捩じる場合のように加工時にスプリングバックの影響を受けたり、刃が過剰に曲がり過ぎて上下の曲げ角度が合わなくなるといったことがなく、一対の刃体11、21の製造、組付け時における傾斜角度を適正化して製造誤差を小さくすることができる。さらに、ハンドル開閉軸L2と刃開閉軸L1のあいだに傾斜角度θを設けるだけであるため、従来のハサミと比べて操作性が殆ど変わらず、構造が複雑になることもない。加えて、刃体11、21を捩じらずに傾斜角度をつけているので、刃体11、21を捩じる場合に比べて見た目上の違和感を少なくすることができる。そして、右利きの人にも左利きの人にも使い勝手がよく、誰が切っても切断性が向上するハサミSを提供することができる。
【0050】
一対のハンドル12、22を上下方向に配置したときに刃先からみて上のハンドル12に連なる刃体11が右に位置し、下のハンドル22に連なる刃体21が左に位置するように構成し、ハンドル開閉軸L2に対して刃開閉軸L1を左傾斜させれば、右利き用のハサミSとして本発明を適切に成立させることができる。
【0051】
具体的には、ハンドル12、22と刃体11、21に別素材を使用し、傾斜角度θがつくように両者を一体化するだけであるため、ハンドル12、22と刃体11、21の相対的な姿勢を変えるのみで傾斜角度θを実現することができる。
【0052】
より具体的には、ハンドル12、22と刃体11、21を、予め傾斜角度θを設けた上でインサート成型しているため、ハンドル成形用の金型101、102に対して刃体11、21を斜めにセットして樹脂を流すだけで、簡単、適切に傾斜角度θを実現することができる。
【0053】
傾斜角度については、略10°以下とすることで、ハンドル12、22に加える操作力が刃体11、21に伝わる際のロスを小さく抑えることができる。
【0054】
より好ましくは、傾斜角度を略5°以下とすることで、開閉時の刃体11、21またはハンドル12、22の動きの違和感を気にならない範囲に抑えつつ切断性能を向上させることができる。
【0055】
さらに好ましくは、傾斜角度を略0、5°~2.5°とすることで、従来のハサミと殆ど変わらない操作感で、ほとんど違和感を覚えることなく切断性能を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0057】
例えば、
図12に示すように、ハンドル12、22について予め樹脂成型などにより刃体11、21とは別体に成形しておき、ハンドル12、22の孔12X、22Xに刃体11、21の刃元11X、21Xを差し込んで連結する構造として、孔12X、22Xの方向を傾斜させることで、ハンドル12(22)と刃体11(21)を相対的に傾斜させて連結してもよい。
【0058】
このようにしても、上記実施形態と同様にハンドル開閉軸と刃開閉軸のあいだに傾斜角度をつけることができる。
【0059】
また、
図13に示すように、刃開閉軸L1とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸L2を有するハンドル本体120、220に、指掛け用のオプション部材121、221を取り付けてもよい。両オプション部材121、221のうち指を掛ける部分を通る線を両ハンドル120、220の中心を通るハンドル開閉軸L2´と定義すれば、このような構成によっても、刃開閉軸L1に対して傾斜したハンドル開閉軸L2´を実現することができる。
【0060】
このようにすれば、既存のハサミに本発明に準じた効果を簡単に付与することができる。
【0061】
また、
図14に示すように、刃開閉軸L1とのあいだに傾斜角度のついていないハンドル開閉軸L2を有するハンドル本体120、220の一部を切削するなどして指掛かり部120X、220Xを変形させてもよい。両指掛かり部120X 、220Xを通る線を両ハンドル120X、220Xの中心を通るハンドル開閉軸L2´と定義すれば、このような構成によっても、刃開閉軸L1に対して傾斜したハンドル開閉軸L2´を実現することができる。
【0062】
このようにしても、既存のハサミの指掛け部に切削等の加工を施すだけで、傾斜角度をつけることができる。
【0063】
また、前述した
図12の構成は、ハンドル12(22)と刃体11(21)を同じ素材で別体に構成し、相対的に傾斜させて連結する場合にも適用することができる。
【0064】
また、
図15に示すように、第1ハサミ構成体1と第2ハサミ構成体2のハンドル12(22)と刃体11(21)を、それぞれハンドル開閉軸と刃開閉軸のあいだに傾斜角度がつくようにMIMなどの粉末射出成型機300によって一体に構成してもよい。
【0065】
このようにすれば、第1ハサミ構成体1全体、第2ハサミ構成体2全体が同一素材の一体物であっても、部材を捩じることなく本発明の傾斜角度を有効に実現することができる。
【0066】
この意味においては、
図13や
図14に示したハンドル120、220は刃体と同一素材で一体につくられていてもよい。
【0067】
さらには、第1ハサミ構成体のハンドルと刃体、第2ハサミ構成体のハンドルと刃体を、3Dプリンターで一体に作ることもできる。
【0068】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0069】
11、21…刃体
12、22…ハンドル
121、221…オプション部材
120x、220x…指掛かり部
L1…刃開閉軸
L2、L21、L22…ハンドル開閉軸
S…ハサミ
θ…傾斜角度