(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171889
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】歯科用有機無機複合フィラー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/893 20200101AFI20241205BHJP
A61K 6/816 20200101ALI20241205BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20241205BHJP
【FI】
A61K6/893
A61K6/816
A61K6/818
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089166
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA14
4C089BE10
(57)【要約】
【課題】 ラジカル重合性単量体を含む歯科用硬化性組成物に配合したときに、粘度上昇及び重合収縮を抑えながら無機粒子添加効果を得ることができる樹脂成分と無機粒子とが複合化した有機無機複合フィラーであって、更なる硬化体高強度化を図ることが可能で、且つ製造が容易な有機無機複合フィラーを提供する。
【解決手段】 例えば、m-キシリレンジイソシアナートのようなジイソシアネート化合物とグリセロールモノメタクリレートのようなラジカル重合性ジオール化合物とを重付加することにより得られる、ラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000の常温常圧で固体であるポリウレタンを樹脂成分とする有機無機複合粒子からなり、無機粒子の平均含有率が60~90質量%である有機無機複合フィラー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と無機粒子とが複合化した複合体粒子によって構成される粉粒体からなる有機無機複合フィラーであって、
前記樹脂が、分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体である、ポリウレタンであり、
前記粉粒体に含まれる前記無機粒子の平均含有率が60~90質量%である、
ことを特徴とする有機無機複合フィラー。
【請求項2】
前記ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量が、前記ポリウレタン1gに対して1.0~3.0mmolである、請求項1に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項3】
前記ポリウレタンが、架橋構造を有する、請求項1又は2に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項4】
前記ポリウレタンが、ウレア構造を有する、請求項1又は2に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項5】
請求項1に記載の有機無機複合フィラーを製造する方法であって、
分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体であるポリウレタンの原料となる重付加性原料化合物を準備する原料準備工程;
前記工程で準備された重付加性原料化合物を有機溶媒中、重付加触媒の存在下に重付加反応させて前記ポリウレタンが前記有機溶媒に溶解若しくは分散したポリウレタン含有液を調製するポリウレタン含有液調製工程;
前記ポリウレタン含有液と、無機粉粒体とを、前記ポリウレタン含有液に含まれる前記有機溶媒以外の有機成分と前記無機機粉粒体との総質量に対する前記無機機粉粒体の質量の割合が60~90質量%の範囲内となるよう量比で混合して前記無機機粉粒体を構成する無機粒子がポリウレタン含有液中に分散したスラリーを調製するスラリー調製工程;及び
前記スラリーから前記有機溶媒を除去して、前記ポリウレタンと前記無機粒子とが複合化した粉体又は固体塊状物を得る乾燥工程;を含み、
前記原料準備工程では、
前記ポリウレタンの原料として必須な重付加性原料化合物として、
ジイソシアネート化合物(a);及び
分子内に、2個のヒドロキシ基と少なくとも1個のラジカル重合性基を有するラジカル重合性ジオール化合物(b);を準備し、
更に前記(a)及び前記(b)以外の重付加性原料化合物として、
分子内に2個のヒドロキシ基を有しラジカル重合性基を有しない非ラジカル重合性ジオール化合物(b´);及び/又は
分子内にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる2~4個の置換基を有する、前記(b´)以外の化合物からなる、多官能重付加性化合物(c);を必用に応じて準備し、
前記ポリウレタン含有液調製工程では、
該工程で使用する前記(a)、前記(b)、前記(b´)及び前記(c)の量(モル)を、夫々a、b、b´及びcとし、前記(a)に含まれるイソシアネート基の総量(モル)をaNCOとし、前記(b)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をbOHとし、前記(b´)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をb´OHとし、前記多官能重付加性化合物(c)に含まれるヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基の総量(モル)をcSubとしたときに、
(1)前記(a)及び前記(b)、又は前記(a)、前記(b)及び前記(b´)を、
b´OH/bOH=0~1 及び
(bOH+b´OH)/aNCO=0.8~1.2
の条件{但し、(b´)を混合しないときは、b´=b´OH=0とする。}を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行うか、又は、
(2)前記(a)、前記(b)及び前記(c)、又は前記(a)、前記(b)、前記(c)及び前記(b´)を、
b´OH/bOH=0~0.8
(bOH+b´OH+cSub)/aNCO=0.8~1.2 及び
c/(b+b´)=0.05~0.2
の条件{但し、(b´)を混合しないときは、b´=b´OH=0とする。}を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行う、
ことを特徴とする有機無機複合フィラーの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程で粉体が得られた場合には粒度調整を行い、固体塊状物が得られた場合には破砕及び粒度調整を行ってからレーザー回折-散乱法で測定される平均粒子径が10~50(μm)の粉粒体とする粒度調整工程を更に含む、請求項5に記載の有機無機複合フィラーの製造方法。
【請求項7】
前記原料準備工程で前記(a)及び(b)を準備すると共に前記多官能重付加性化合物(c)として、分子内に3又は4個のヒドロキシ基を有するポリオール化合物又は該ポリオール化合物が有する3又は4個の内の1つのヒドロキシ基を除く他のヒドロキシ基の少なくも1つがカルボキシ基又はメルカプト基で置換された置換ポリオール化合物からなるポリオール系多官能重付加性化合物(c1)を準備し、
前記ポリウレタン含有液調製工程において、前記(2)の重付加反応を行うことにより、架橋構造を有する前記ポリウレタンを含有するポリウレタン含有液を調製する、
請求項5に記載の有機無機複合フィラーの製造方法。
【請求項8】
前記原料準備工程で前記(a)及び(b)を準備すると共に前記多官能重付加性化合物(c)として、分子内に2つのアミノ基を有する化合物又は分子内に1つのアミノ基と、1つのヒドロキシ基、1つのカルボキシ基又は1つのメルカプト基を有する化合物からなるアミン系多官能重付加性化合物(c2)を準備し、
前記ポリウレタン含有液調製工程において、前記(2)の重付加反応を行うことにより、ウレア構造を有する前記ポリウレタンを含有するポリウレタン含有液を調製する、
請求項5に記載の有機無機複合フィラーの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の有機無機複合フィラー、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤を含んでなることを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の歯科用硬化性組成物の硬化体からなることを特徴とする歯科用修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用有機無機複合フィラー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体(モノマー)、充填材(フィラー)、及び重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物の硬化体からなる歯科用複合修復材は、治療した歯牙を修復するための材料として汎用されているが、修復時における上記歯科用硬化性組成物の操作性、硬化体の審美性や機械的物性等は、使用されるフィラーの種類や形状等によって影響を受ける。
【0003】
例えば、粒径が数μmを超える比較的大きな無機フィラーを配合した歯科用複合修復材は、硬化体の機械的強度が高いという特徴を持つものの、研磨性や耐摩耗性が悪く、臨床的に天然歯と同様な艶のある仕上がり面を得られないといった問題があった。一方で、平均粒径が1μm以下の無機粒子、特にその形状が丸みを帯びた無機粒子及び/又はその凝集体からなる無機フィラーを用いた場合、表面滑沢性は大きく改善されているが、ペーストの粘稠度が増加し、必然的に操作性を確保するためにモノマーの配合量を多くせざるを得ず、重合収縮量の増加、機械的強度の低下等を招いてしまうといった問題があった。
【0004】
以上の問題を解決する方法として、無機粒子と樹脂(重合性単量体の硬化体)との複合体からなる有機無機複合粒子によって構成される有機無機複合フィラーを使用する方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、微小無機フィラーを含む重合硬化性組成物を重合硬化させた後にこれを粉砕して得た有機無機複合フィラーを用いることにより、微細フィラーを用いたときの特徴である優れた表面滑沢性や耐磨耗性を実現しながら、上記したような操作性の低下、重合収縮の増大といった問題を解決することができることが記載されている。
【0005】
近年、歯科用複合修復材料の機械的強度等の性能に対する要求は次第に高くなってきており、上記の有機無機複合フィラーを用いた歯科用複合修復材においても機械的強度の向上が望まれている。特許文献2では、分子中にラジカル重合性基及び当該ラジカル重合性基以外の官能基を有するラジカル重合性単量体、無機フィラー、並びにラジカル重合開始剤を含んでなる重合性組成物を重合硬化させた後に破砕し、表面にラジカル重合性基以外の前記官能基を有する有機無機複合フィラーを得、次いで分子中に前記官能基に対して反応性を有する官能基、及びラジカル重合性基を有する化合物と上記有機無機複合フィラーとを反応させて表面にラジカル重合性基を有する複合フィラーを得ることを特徴とする有機無機複合フィラーの製造方法が開示されている。また、特許文献3では、凝集粒子に樹脂を含浸させ、重合することで、機械的勘合を残存させ、高い強度を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000―80013号公報
【特許文献2】特開2002―338422号公報
【特許文献3】国際公開第2011/115007号パンフレット
【特許文献4】特開2019-210233号公報
【特許文献5】国際公開第2021/153446号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した特許文献2に記載された方法によって得られる有機無機複合フィラーは、反応性を有する官能基、及び、ラジカル重合性基を有する化合物と反応させる必要があるため、その反応率による影響を受けるとともに、その反応率を容易に制御、特に高めることができない。また、追加の処理となり、その製造効率に劣る場合があった。一方、特許文献3の有機無機複合フィラーは、凝集粒子の間隙を残存させることで、それにより機械的勘合を利用しているため、その間隙の残存の制御が必要であり、また、機会的勘合のみの作用となっていた。
【0008】
そこで、本発明は、歯科用複合修復材として使用される歯科用硬化性組成物に好適に使用される(硬化時の重合収縮量の増加や硬化体の機械的強度の低下等を引き起こし難いという特長を有する)有機無機複合フィラーであって、硬化体の機械的強度を向上させることができ、且つ調製が容易な有機無機複合フィラー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の第1の形態は、樹脂と無機粒子とが複合化した複合体粒子によって構成される粉粒体からなる有機無機複合フィラーであって、前記樹脂が、分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体である、ポリウレタンであり、前記粉粒体に含まれる前記無機粒子の平均含有率が60~90質量%である、ことを特徴とする有機無機複合フィラーである。
【0010】
上記形態の有機無機複合フィラー(以下、「本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラー」ともいう。)においては、前記ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量が、前記ポリウレタン1gに対して1.0~3.0mmolであることが好ましい。また、前記ポリウレタンは、架橋構造を有するか、又はウレア構造を有することが好ましい。
【0011】
本発明の第2の形態は、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを製造する方法であって、
分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体であるポリウレタンの原料となる重付加性原料化合物を準備する原料準備工程;
前記工程で準備された重付加性原料化合物を有機溶媒中、重付加触媒の存在下に重付加反応させて前記ポリウレタンが前記有機溶媒に溶解若しくは分散したポリウレタン含有液を調製するポリウレタン含有液調製工程;
前記ポリウレタン含有液と、無機粉粒体とを、前記ポリウレタン含有液に含まれる前記有機溶媒以外の有機成分と前記無機機粉粒体との総質量に対する前記無機機粉粒体の質量の割合が60~90質量%の範囲内となるよう量比で混合して前記無機機粉粒体を構成する無機粒子がポリウレタン含有液中に分散したスラリーを調製するスラリー調製工程;及び
前記スラリーから前記有機溶媒を除去して、前記ポリウレタンと前記無機粒子とが複合化した粉体又は固体塊状物を得る乾燥工程;を含み、
前記原料準備工程では、
前記ポリウレタンの原料として必須な重付加性原料化合物として、
ジイソシアネート化合物(a);及び
分子内に、2個のヒドロキシ基と少なくとも1個のラジカル重合性基を有するラジカル重合性ジオール化合物(b);を準備し、
更に前記(a)及び前記(b)以外の重付加性原料化合物として、
分子内に2個のヒドロキシ基を有しラジカル重合性基を有しない非ラジカル重合性ジオール化合物(b´);及び/又は
分子内にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる2~4個の置換基を有する、前記(b´)以外の化合物からなる、多官能重付加性化合物(c);を必用に応じて準備し、
前記ポリウレタン含有液調製工程では、
該工程で使用する前記(a)、前記(b)、前記(b´)及び前記(c)の量(モル)を、夫々a、b、b´及びcとし、前記(a)に含まれるイソシアネート基の総量(モル)をaNCOとし、前記(b)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をbOHとし、前記(b´)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をb´OHとし、前記多官能重付加性化合物(c)に含まれるヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基の総量(モル)をcSubとしたときに、
(1)前記(a)及び前記(b)、又は前記(a)、前記(b)及び前記(b´)を、
b´OH/bOH=0~1 及び
(bOH+b´OH)/aNCO=0.8~1.2
の条件{但し、(b´)を混合しないときは、b´OH=0とする。}を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行うか、又は、
(2)前記(a)、前記(b)及び前記(c)、又は前記(a)、前記(b)、前記(c)及び前記(b´)を、
b´OH/bOH=0~0~0.8
(bOH+b´OH+cSub)/aNCO=0.8~1.2 及び
c/(b+b´)=0.05~0.2
の条件{但し、(b´)を混合しないときは、b´OH=0とする。}を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行う、
ことを特徴とする有機無機複合フィラーの製造方法である。
【0012】
なお、前記ポリウレタン含有液調製工程で使用する前記(a)、前記(b)及び前記(b´)の(化合物自体の)モル数を夫々a、b及びb´で表すと、b´OH/bOH=b´/b、(bOH+b´OH)/aNCO=(b+b´)/aの関係となる。
【0013】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記乾燥工程で粉体が得られた場合には粒度調整を行い、固体塊状物が得られた場合には破砕及び粒度調整を行ってからレーザー回折-散乱法で測定される平均粒子径が10~50(μm)の粉粒体とする粒度調整工程を更に含む、ことが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法では、前記原料準備工程で前記(a)及び(b)を準備すると共に前記多官能重付加性化合物(c)として、分子内に3又は4個のヒドロキシ基を有するポリオール化合物又は該ポリオール化合物が有する3又は4個の内の1つのヒドロキシ基を除く他のヒドロキシ基の少なくも1つがカルボキシ基又はメルカプト基で置換された置換ポリオール化合物からなるポリオール系多官能重付加性化合物(c1)を準備し、前記ポリウレタン含有液調製工程において、前記(2)の重付加反応を行うことにより、架橋構造を有する前記ポリウレタンを含有するポリウレタン含有液を調製する、ことにより、前記ポリウレタンが架橋構造を有する本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを製造することができる。
【0015】
また、前記ポリウレタン含有液調製工程において、前記原料準備工程で前記(a)及び(b)を準備すると共に前記多官能重付加性化合物(c)として、分子内に2つのアミノ基を有する化合物又は分子内に1つのアミノ基と、1つのヒドロキシ基、一つのカルボキシ基又は1つのメルカプト基を有する化合物からなるアミン系多官能重付加性化合物(c2)を準備し、前記ポリウレタン含有液調製工程において、前記(2)の重付加反応を行うことにより、架橋構造を有する前記ポリウレタンを含有するポリウレタン含有液を調製する、ことにより、前記ポリウレタンがウレア構造を有する本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを製造することができる。
【0016】
本発明の第3の形態は、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラー、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤を含んでなることを特徴とする歯科用硬化性組成物(以下「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)であり、本発明の第4の形態は該歯科用硬化性組成物の硬化体からなることを特徴とする歯科用修復材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーは、歯科用複合修復材として使用される歯科用硬化性組成物の充填材として使用したときに、硬化時の重合収縮量の増加を抑制するだけでなく、適切な操作性を維持したまま硬化体の機械的強度を向上させることができる。また、本発明の製造方法によれば、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを容易かつ効率的に製造することができ、樹脂成分中に含まれるラジカル重合性基の量を調整することも容易である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、有機無機複合フィラーの樹脂成分に(未反応の)ラジカル重合性基を導入すれば、歯科用硬化性組成物の硬化時において(該組成物の成分である)重合性単量体と化学結合を形成し、硬化体の高強度化を図ることができると考え、検討を行った。その結果、有機無機複合フィラーの有機成分をラジカル重合性単量体の硬化体で構成した場合には、未反応のラジカル重合性基の導入或いはその量の制御が困難であるのに対し、樹脂成分をポリウレタンで構成した場合には、ラジカル重合性基の導入及びその量の制御が容易となり、得られた有機無機複合フィラーにおいては企図した通りに高強度の硬化体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
以下に本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラー及び本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0020】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0021】
1.本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーについて
本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーは、従来の有機無機複合フィラーと同様に、無機粒子と樹脂との複合体からなる有機無機複合粒子によって構成される粉粒体からなる。そして、前記樹脂が、分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体である、ポリウレタンであり、前記粉粒体に含まれる前記無機粒子の平均含有率が60~90質量%である、ことを特徴としている。
【0022】
1-1.本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーの有機成分である樹脂を構成するポリウレタン(以下、「本ポリウレタン」ともいう。)について
ポリウレタンとは、ウレタン結合を有する高分子を意味する。本ポリウレタンは、分子中にウレタン結合を少なくとも3つ含むものであればよく、分子中にウレア構造(ウレア結合)やアミド結合、チオウレア構造(チオウレア結合)を有していてもよい。
【0023】
本ポリウレタンが分子中に有するラジカル重合性基とは、ラジカル重合開始剤により、反応し、重合する官能基を意味する。ポリウレタンが分子中にラジカル重合性基を含まない場合には、歯科用硬化性組成物に配合したときに硬化体の強度を向上させる効果が得られ難い。
【0024】
好ましいラジカル重合性基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、及び、スチリル基等を挙げることができる。これらのラジカル重合性基の中でも、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、であることが好ましい。
【0025】
本ポリウレタンにおいて、ポリウレタン分子内へのラジカル重合性基の導入は、ポリウレタンの一方の原料であるポリオール成分として「分子内に、2個のヒドロキシ基と少なくとも1個のラジカル重合性官能基を有するラジカル重合性ジオール化合物(b)」を含むもの用い、これと「ジイソシアネート化合物(a)」とを重付加することにより行うことができ、前記(b)の添加量により、導入するラジカル重合性基の量を制御することができる。すなわち、本発明の製造方法におけるポリウレタン含有液調製工程の重付加反応により本ポリウレタンを得る場合には、(a)と、(b)及び必要に応じてその一部を置換する(b´)又は(c)とは定量的に反応するような量比で重付加反応に供され、そのほとんど全てが反応する(本ポリウレタンに組み込まれる)ので、使用した(b)の量(mmol)に(b)1分子中に含まれるラジカル重合性基の個数の積は、得られる本ポリウレタンに含まれるラジカル重合性基の総量(mmol)と看做すことができる。したがって、この値を、得られた本ポリウレタンの量(g)又は反応に用いた原料化合物の量から計算で求められる本ポリウレタンの量(g)で除することにより、平均含有量で表される本ポリウレタンに含まれるラジカル重合性基の量(以下、「ラジカル重合性基の平均含有量」ともいう。)(mmol/g-ポリウレタン)を求めることができる。
【0026】
なお、上記ラジカル重合性基の平均含有量は、ポリウレタンを核磁気共鳴分析(NMR)やFT-IR等の構造解析により測定することもできる。特に、1H―NMRが容易に用いられ、測定が行いやすい。ポリウレタン分子鎖のウレタン結合(-O-)基の隣接炭素のプロトン(概ね3.7ppm前後)とラジカル重合性基(例えばアクリロイル基であれば、6.0ppm前後)を比較することで、繰り返し単位中に含まれるラジカル重合性基の数を求めることが出来る。NMRによる構造解析から、繰り返し単位構造を同定すれば、その分子量が分かり、両者より、ラジカル重合性基の平均含有量を求めることができる。
【0027】
歯科用硬化性組成物に配合したときに、その硬化時における重合収縮を起こし難く、且つ硬化体の強度向上効果が高いという理由から、本ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の量は、平均含有量で表して、本ポリウレタン1gに対して1.0~3.0mmolであることが好ましく、2.0~3.0mmolの範囲であることがより好ましい。1.0未満の場合、有機無機複合フィラーに存在するラジカル重合性基が少なく、本発明の効果が小さい。3.0を超える場合、収縮が大きくなる傾向がある。
【0028】
ポリウレタンの数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味し、たとえば、Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)を用いて、下記条件にて測定し、ポリスチレン換算にて数平均分子量を求めることができる。
【0029】
カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
カラム温度:40℃
流量;0.5mL/分
展開溶媒:テトラヒドロフラン(以下THF)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(PDA検出器) 254nm
試料:ポリウレタン樹脂の5質量%THF溶液。
【0030】
ポリウレタンの数平均分子量が1500未満の場合には低分子量成分が多く、有機無機複合フィラーとしたときに、その粒子の形状を保つために十分な強度とならないことに加え、歯科用組成物等に用いたときに、液成分へと流出してしまう。また、4000を超える場合には、後述する乾燥工程時に凝集等が起こりやすく、有機無機複合フィラーの均一性が低下する。ポリウレタンの数平均分子量は1500~3000であること、特に2000~3000であることが好ましい。
【0031】
本ポリウレタンは、常温常圧で固体である。常温とは、25℃を意味し、常圧とは、0.1MPaを意味する。常温常圧で固体でない場合には、有機無機複合フィラーの形状を保つことができず、本発明の効果が得られないばかりか、歯科用組成物等に用いたときに、液成分へと流出してしまい、その操作性へ悪影響を与える。
【0032】
本ポリウレタンは、架橋構造を有していることが好ましい。架橋構造を有することで、有機無機複合フィラーが十分な強度を持つことに加えて、歯科用組成物等に用いたときに、その強度の向上や液成分への流出の抑制を行いやすい。
【0033】
あるいは、本ポリウレタンは、ウレア構造を有していることが好ましい。ウレア構造を有することで、結晶性の高いウレア結合が存在するため、有機無機複合フィラーが十分な強度を持つことに加えて、歯科用組成物等に用いたときに、液成分への流出を抑制しやすい。
【0034】
1-2.無機粒子について
本発明の有機無機複合フィラーに含まれる無機粒子としては、歯科用硬化性組成物に一般的に配合される無機フィラーを構成する、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合物、ガラス等からなる無機粒子が特に制限なく使用できる。好適に使用できる無機粒子を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子(ガラスやエアロゲルなどを破砕して得られる粒子の形状が非球状で不揃いである粒子)を挙げることができる。
【0035】
本発明の有機無機複合フィラーにおいて、前記無機粒子の形状は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れることから、球形状であることが特に好適である。ここでいう球形状とは、走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において求められる平均均斉度が0.6以上であることを意味する。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。平均均斉度は走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において、粒子の数(n)、粒子の最大径である長径(Li)、該長径に直行する径である短径(Bi)を求め、下記式により算出される。
【0036】
【0037】
なお、これらの値を算出する場合、測定精度を保つためには少なくとも40個以上の粒子を測定する必要があり、100個以上の粒子について測定することが望ましい。
【0038】
前記無機粒子の平均粒子径は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から0.001~10μmであることが好ましく、0.01~1μmであることがより好ましい。前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)像による画像解析により決定される平均粒子径を意味し、粉体試料をSEMで、全体の形状が確認できる1次粒子が視野内に100個以上含まれるように5000~100000倍の倍率で観察したときに得られる画像(又は写真)に基づき、任意に選択した30個以上の各1次粒子の最大径である長径Li(μm)、及び、Liに直行する径である短径Bi(μm)を測定し、その平均径((Li+Bi)/2)を求め、その総和を個数:n(≧30の自然数)で除した値を意味する。すなわち、各粒子の平均径をxi(iは1~nの自然数である。)で表し、平均粒子径をxAVで表した場合、xAV=(Σxi)/n で定義される値を意味する。そのため、使用する無機粒子が凝集粒子である場合、その1次粒子の平均粒子径が該当する。
【0039】
前記無機粒子は、(a)ラジカル重合性基を有するポリウレタンとのなじみをよくさせるために、表面処理を行うのが好ましい。表面処理剤としては、一般的にシランカップリング剤が用いられ、特にシリカをベースとする無機粒子系の強化材料においてはシランカップリング剤による表面処理の効果が高い。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-ヒドロキシブチルアミド、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-O-ポリエチレンオキシドウレタン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、等が好適に用いられる。上記シランカップリング剤は、1種類あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明の有機無機複合フィラーにおいて、有機無機複合フィラーの質量を基準とする無機粒子の含有量は、60~90質量%である。60質量%に満たない場合、有機無機複合フィラー中のポリウレタン成分が多く、粒度調整が困難となる。90質量%を超える場合、有機無機複合フィラー中の樹脂の割合が少なく、粒度調整が困難となるとともに、歯科用組成物を調製する際に、有機無機複合フィラーが崩れてしまう。上記含有量は、65~85質量%であることが好ましく、70~80質量%であることがより好ましい。
【0041】
1-3.有機無機複合粒子について
本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーは前記無機粒子と前記ポリウレタンの複合体からなる有機無機複合粒子によって構成される粉粒体であればよいが、得られる歯科用組成物が強度の向上や優れた操作性を得られやすいという理由から、その平均粒子径は10~100μm、特に20~50μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折-散乱法による粒度分布をもとに求めたメディアン径であり、具体的には、0.1gの無機粒子をエタノール10mlに分散させ均一に調製したサンプルについて測定されるものである。
【0042】
また、本発明の有機無機複合フィラーは、有機無機複合フィラー自体の強度や得られる歯科用組成物の強度、光学特性の観点から、中実であることが好ましい。
【0043】
2.本発明の製造方法について
本発明の製造方法は、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを製造する方法であり、以下に示す、原料準備工程、ポリウレタン含有液調製工程、スラリー調製工程及び乾燥工程を含む。
【0044】
原料準備工程: 分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体であるポリウレタンの原料となる重付加性原料化合物を準備する工程
ポリウレタン含有液調製工程: 前記工程で準備された重付加性原料化合物を有機溶媒中、重付加触媒の存在下に重付加反応させて、本ポリウレタンが前記有機溶媒に溶解若しくは分散したポリウレタン含有液を調製する工程
スラリー調製工程: 前記ポリウレタン含有液と、無機粉粒体とを、前記ポリウレタン含有液に含まれる前記有機溶媒以外の有機成分と前記無機機粉粒体との総質量に対する前記前記無機機粉粒体の質量の割合が60~90質量%の範囲内となるよう量比で混合して前記無機機粉粒体を構成する無機粒子がポリウレタン含有液中に分散したスラリーを調製する工程
乾燥工程: 前記スラリーから前記有機溶媒を除去して、前記ポリウレタンと前記無機粒子とが複合化した粉体又は固体塊状物を得る工程。
【0045】
そして、前記原料準備工程では、特定の重付加性原料化合物を準備し、前記ポリウレタン含有液調製工程では、使用する重付加性原料化合物に応じて、特定の条件を満足するような量比で各重付加性原料化合物を混合して重付加反応を行うようにしている。
以下に、各工程について説明する。
【0046】
2-1.原料準備工程について
原料準備工程では、本ポリウレタン(すなわち、分子内にラジカル重合性基を含み、平均分子量が1500~4000であり、常温常圧において固体であるポリウレタン)の原料となる必須の重付加性原料化合物として、ジイソシアネート化合物(a);及びラジカル重合性ジオール化合物(b);を準備する。更に前記(a)及び前記(b)以外の重付加性原料化合物として、非ラジカル重合性ジオール化合物(b´);及び/又は多官能重付加性化合物(c);を必用に応じて準備する。
【0047】
なお、本ポリウレタンに相当するポリウレタン樹脂はすでに知られており、前記ジイソシアネート化合物(a)に相当する化合物;及びラジカル重合性ジオール化合物(b)に相当する化合物との重付加により得られることも知られている(特許文献4及び5参照)。これら化合物については、特許文献4又は5に記載されているものと特に変わる点はないが、これらを含めて、以下に、各重付加性原料化合物について詳しく説明する。
【0048】
[ジイソシアネート化合物(a)]
ジイソシアネート化合物(a)とは、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物を意味する。ジイソシアネート化合物(a)としては、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物が特に限定されず使用できる。ジイソシアネート化合物(a)とは、イソシアネート基と重付加反応起こし得る基、具体的には、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基を分子内に有しない。また、ポリウレタンの形成のしやすさや得られる有機無機複合フィラー、それを用いた歯科用組成物の強度を高められる効果の観点から分子内にフェニル基を有することが好ましい。
【0049】
好適に使用できる化合物を例示すれば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアネート、ジイソシアン酸イソホロン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナート、などを挙げることができる。これらの中でも、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリレンジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートが特に好ましい。また、これら化合物は単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。
【0050】
[ラジカル重合性ジオール化合物(b)]
ラジカル重合性ジオール化合物(b)とは、分子内に、2個のヒドロキシ基と少なくとも1個のラジカル重合性基を有する化合物を意味する。ラジカル重合性ジオール化合物(b)が有する上記2つのヒドロキシ基とジイソシアネート化合物(a)が有する2つのイソシアネート基が重付加反応を起こしてウレタン結合が形成され、得られる樹脂がポリウレタンとなる。また、該反応によりポリウレタン分子中に(b)が有するラジカル重合性基が導入されることになる。
【0051】
前記ラジカル重合性基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、及び、スチリル基等を挙げることができる。分子中に存在するラジカル重合性基の数は1以上であればよいが、ラジカル重合性基の導入量、及び、ポリウレタン鎖中での導入頻度を制御しやすいという理由から、1~2、特に1であることが好ましい。
【0052】
また、ラジカル重合性ジオール化合物(b)は、分子内存在する2つのヒドロキシ基以外に、イソシアネート基と重付加反応起こし得る基、具体的には、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基を分子内に有しないことが好ましい。さらに、分子内に含まれる2つのヒドロキシル基(OH基)間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~8であるジオール化合物であることが好ましい。なお、2つのOH基間に介在する2価の有機残基とは、各OH基が結合する2つの炭素原子を両末端とする有機残基であり、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列とは、前記有機残基の基本骨格を成す、前記2つの炭素原子を両末端とする原子列であって、各構成原子が単結合、二重結合又は三重結合によって(直鎖状に連なって)連結した原子列を意味し、前記2価の有機残基が環構造を有する場合には、分岐する2つのルートの内、鎖長の短い方の原子列がこれに該当する。ただし、前記2価の有機残基は、ラジカル重合性ジオール化合物(b)の粘度等が取り扱いやすくなる点から、環構造を含まないことが好ましい。
【0053】
本発明で好適に使用できるラジカル重合性ジオール化合物(b)を例示すれば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルやビスフェノールAジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物、等を挙げることができる。これらは、単独で、又は異なる種類のものを混合して使用することができる。前記(a)と反応しやすい点から、ラジカル重合性ジオール化合物(b)は、室温(すなわち25℃)で液体であることが好ましい。
【0054】
前記したように、本ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量は、本ポリウレタン1gに対して1.0~3.0mmolであることが好ましく、2.0~3.0mmolの範囲であることがより好ましい。本ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量の調整は、前記(b)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数によって制御することができる。
【0055】
前記(a)及び前記(b)は必須の重付加性原料化合物であり、これら2種のみを用いて後述のポリウレタン含有液調製工程を行うことによって本ポリウレタンを得ることが可能である。このとき前記(a)と前記(b)とは、ほぼ化学量論的に反応する。このため、ポリウレタン含有液調製工程で使用する両化合物の量比は、前記(a)及び前記(b)の量(モル)を、夫々a及びbとし、前記(a)に含まれるイソシアネート基の総量(モル)をaNCOとし、前記(b)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をbOHとした場合に、b/a=bOH/aNCO=0.8~1.2となる量比であることが好ましく、0.9~1.1となる量比であることがより好ましい。
【0056】
原料準備工程で準備する重付加性原料化合物はこれら前記(a)及び前記(b)の2種のみであってもよいが、本ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量の制御を行い易くし、更に本ポリウレタン中に架橋構造やウレア構造(ウレア結合)を導入して、有機無機複合フィラーに十分な強度を持たせることに加えて、歯科用組成物等に用いたときに、その強度の向上や液成分への流出の抑制を行いやすくする目的で、前記(b)の一部を、以下に説明する非ラジカル重合性ジオール化合物(b´);及び/又は多官能重付加性化合物(c)で置換して使用してもよい。
【0057】
[非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)]
非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)とは、分子内に2個のヒドロキシ基を有しラジカル重合性基を有しない非ラジカル重合性ジオール化合物を意味する。前記(b)の一部を該非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)で置換することによりポリウレタンの基本骨格を維持したまま本ポリウレタンの分子中に含まれるラジカル重合性基の平均含有量を調整することが可能となる。
【0058】
非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)は、前記(b)と同様に、分子内存在する2つのヒドロキシ基以外に、イソシアネート基と重付加反応起こし得る基、具体的には、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基を分子内に有しないことが好ましい。
【0059】
なお、(b)の一部を(b´)で置換して使用する場合、ポリウレタン鎖中に導入されるラジカル重合性基の量を好適な平均含有量に調整しやすいという理由から、後述のポリウレタン含有液調製工程で使用する前記(b´)の量(モル)をb´とし、該(b´)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をb´OHとしたときにb´/b=b´OH/bOHが0を越え、1以下となる量比、特に0~0.5となる量比であることが好ましい。
【0060】
[多官能重付加性化合物(c)]
多官能重付加性化合物(c)とは、分子内にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる2~4個の置換基とを有する、前記(b)及び(b´)以外の化合物を意味する。多官能重付加性化合物(c)においては、分子内に含まれる2~4個の上記置換の中から選ばれる任意の2つの置換間に介在する2価の有機残基において、両末端の炭素原子を一列で結ぶ原子列の中で最も構成原子数が少ない原子列の構成原子数が2~8である化合物であることが好ましい。
【0061】
[ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)]
多官能重付加性化合物(c)としては、上記の条件を満足する化合物が特に制限されることなく使用できるが、本ポリウレタンに架橋構造を導入してポリウレタンの強度を向上させるとともに、有機無機複合フィラーからのポリウレタン成分の離脱、溶出のリスクを小さくすくことができるという理由から、分子内に3又は4個のヒドロキシ基を有するポリオール化合物又は該ポリオール化合物が有する3又は4個の内の1つのヒドロキシ基を除く他のヒドロキシ基の少なくとも1つがカルボキシ基又はメルカプト基で置換された置換ポリオール化合物からなるポリオール系多官能重付加性化合物(c1)を使用することが好ましい。なお、ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)は、上記した官能基以外のイソシアネート基と反応する官能基を含まない。
【0062】
前記ポリオール系多官能重付加性化合物の有するヒドロキシ基は3個であることが好ましい。ヒドロキシ基が多い場合、ポリウレタンが高密度で架橋し、ポリウレタン形成時に容易に析出し、有機無機複合フィラーの均一性に影響を与える場合がある。
【0063】
なお、架橋構造の導入量を定量的に評価することは困難であるため、架橋構造の導入量(導入割合)は、前記系多官能重付加性化合物(c1)の添加量により定義される。本発明のポリウレタンにおいて、その架橋構造の導入率は、使用される(c1)の量をc1としたときに、c1/(b+b´)で表すことができる。上記した架橋効果の観点からc1/(b+b´)=0.05~0.2であることが好ましく、0.05~0.1であることがより好ましい。
【0064】
ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)として好適な化合物を例示すれば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールプロパンエトキシレート、グリセロールトリプロポキシレート、1,3,5-アダマンタントリオール、イソシアヌル酸トリス(2-ヒドロキシエチル)、ペンタエリトリトール、ジトリメチロールエタン、ペンタエリトリトールエトキシレート、ジトリメチロールプロパン、などを挙げることができる。
【0065】
[アミン系多官能重付加性化合物(c2)]
また、本ポリウレタンにウレア構造(ウレア結合)を導入して本ポリウレタンの強度を向上させるとともに、有機無機複合フィラーからのポリウレタン成分の離脱、溶出のリスクを小さくすくことができるという理由から、多官能重付加性化合物(c)としては、分子内に2つのアミノ基(-NH2)を有する化合物又は分子内に1つのアミノ基と、1つのヒドロキシ基、1つのカルボキシ基又は1つのメルカプト基を有する化合物からなるアミン系多官能重付加性化合物(c2)を使用することも好ましい。なお、アミン系多官能重付加性化合物(c2)は、上記した官能基以外のイソシアネート基と反応する官能基を含まない。本ポリウレタンに導入されるウレア構造を分散させ、ポリウレタン含有液からの析出を起こし難くすることができるという理由から、アミン系多官能重付加性化合物(c2)は、後者の化合物(分子内に1つのアミノ基を有する化合物)であることが好ましい。
【0066】
本ポリウレタンへのウレア構造の導入量は、前記アミン系多官能重付加性化合物(c2)の添加量により制御できる。好ましい量、及び、ポリウレタン鎖中での好ましい頻度のウレア構造が導入されるという理由から、使用される(c2)の量をc2としたときに、c2/(b+b´)=0.05~0.15であることが好ましく、0.05~0.1であることがより好ましい。なお、上記値が0.05未満では添加の効果が発現しにくく、0.15を超えるとポリウレタンの結晶性が増し、溶解性が低下して析出し、有機無機複合フィラーの均一性に影響を与える場合がある。
【0067】
アミン系多官能重付加性化合物(c2)として好適に使用できる化合物を例示すれば、アルキルジアミン(エチレンジアミンやブチレンジアミン)、シクロヘキシルジアミン、2,2‘-オキシビス(エチルアミン)、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ジエチレングリコールアミン、キシリレンジアミン、4,4‘-ジアミノジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0068】
2-2.ポリウレタン含有液調製工程について
ポリウレタン含有液調製工程では、本ポリウレタンが有機溶媒に溶解若しくは分散したポリウレタン含有液を調製するが、効率的に所期の本ポリウレタンを含むポリウレタン含有液を得るために、特定の原料化合物を使用し、前記ポリウレタン含有液の溶媒又は分散媒となる有機溶媒中で、重付加触媒の存在下に、上記各原料化合物を特定の割合で混合して重付加反応を行う。
【0069】
ここで、重付加反応とは、2官能性モノマーが互いに反応して結合を繰り返すことにより高分子を合成する逐次重合反応の1種であり、反応時に副生物質を発生させずに官能基同士の付加反応により重合が進行する反応を意味する。ポリウレタン含有液調製工程では、基本的に前記ジイソシアネート化合物(a)が有する2つのイソシアネート基とラジカル重合性ジオール化合物(b)が有する2つのヒドロキシ基が関与してウレタン結合の形成を繰り返すことによりポリウレタンが生成する。また、(b)の一部を非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)やポリオール系多官能重付加性化合物(c1)に置換した場合には、これら化合物が有する(ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる)2つの官能基が前記(b)の2つのヒドロキシ基に代わって反応に関与し、関与する官能基がヒドロキシ以外の場合には、ウレタン結合に代えてその種類に応じた結合が形成され、重付加反応が進行することになる。
【0070】
ポリウレタン含有液調製工程では、上記重付加反応は、有機溶媒中、重付加触媒の存在下に行われる。
【0071】
有機溶媒としては、ポリウレタン及びその原料である重付加性原料化合物が溶解、又は、分散する溶媒で、重付加反応を阻害しない溶媒を用いることができる。重付加反応を阻害する溶媒とは、ヒドロキシ基を有するアルコールやカルボキシ基、アミノ基を有する溶媒を意味する。後述の乾燥工程において、除去することから、沸点が100℃以下である有機溶媒を使用することが好ましい。好適に使用できる有機溶媒を例示すれば、アセトンのようなケトン系溶媒、テトラヒドロフランやイソプロピルエーテルのようなエーテル系溶媒、ジクロロメタンやクロロホルムのようなハロゲン系溶媒が挙げられ、これらの混合溶媒でも良い。特に、テトラヒドロフラン、アセトンが好ましい。
【0072】
有機溶媒の使用量は、生成するポリウレタンに応じて任意に調整すればよいが、通常、ポリウレタンの濃度が、10~70質量%となるようにすることが好ましい。10質量%よりも少ない場合、溶媒が過剰となっており、後述する乾燥工程において、長期の時間を要する。70質量%を超える場合、粘度が高く、後工程において、スラリーの調製が困難になりやすいことに加え、重付加反応が進行しにくくなる。
【0073】
重付加触媒としては、たとえば、オクチル酸錫や二酢酸ジブチル錫などを例示できる。重付加触媒は、反応の促進に必要な量を適宜用いればよいが、通常、(a)1モルに対して0.0001~0.1モルの範囲である。
【0074】
ポリウレタン含有液調製工程では、本ポリウレタンを効率的に得るために、下記(1)又は(2)に示す方法で前記重付加反応を行う。
【0075】
(1)前記(a)及び前記(b)、又は前記(a)、前記(b)及び前記(b´)を、下記(i)及び(ii)に示す条件を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行う方法。
【0076】
(i)前記(b)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をbOHとし、前記(b´)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をb´OHとしたときに、
b´OH/bOH=0~1
{但し、(b´)を混合しないときは、b´=b´OH=0とする。}
の関係を満足すること。
【0077】
(ii)さらに前記(a)に含まれるイソシアネート基の総量(モル)をaNCOとしたときに、
(bOH+b´OH)/aNCO=0.8~1.2
の関係を満足すること。
【0078】
(2)前記(a)、前記(b)及び前記(c)、又は前記(a)、前記(b)、前記(c)及び前記(b´)を、下記(iii)、(iv)及び(v)に示す条件を全て満足する割合で混合して前記重付加反応を行う方法。
【0079】
(iii)前記(b)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をbOHとし、前記(b´)に含まれるヒドロキシ基の総量(モル)をb´OHとしたときに、
b´OH/bOH=0~0.8
{但し、(b´)を混合しないときは、b´=b´OH=0とする。}
の関係を満足すること。
【0080】
(iv)さらに、前記(c)に含まれるヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基の総量(モル)をcSubとし、前記(a)に含まれるイソシアネート基の総量(モル)をaNCOとしたときに、
(bOH+b´OH+cSub)/aNCO=0.8~1.2
の関係を満足すること。
【0081】
(v)前記(a)、前記(b)、及び前記(c)を使用し、前記(b´)を更に使用してもよい場合の各化合物の量(モル)を、夫々a、b、及びc並びにb´としたときに、
c/(b+b´)=0.05~0.2
の関係を満足すること。
【0082】
前記(1)の方法を採用した場合には、前記重付加反応において形成される結合はウレタン結合のみとなり、ウレタン結合により(a)並びに(b)及び/又は(b´)に由来するユニットが結合した本ポリウレタンが得られる。このとき、前記(i)におけるb´OH/bOH(=b´/b)が1を超える場合には、ラジカル重合性基の存在量や密度が少なくなり、本発明の効果が得られにくい。ラジカル重合性基の存在量や密度が確保しやすく、かつ、それらを制御しやすいという理由からb´OH/bOHは、0~0.8、特に0~0.4であることが好ましい。また、前記(ii)において、(bOH+b´OH)/aNCOが0.8未満の時は過剰の(a)ジイソシアネート化合物が存在するため、副反応を起こしやすくなり、1.2を超えるときはポリウレタンの分子量が小さくなるばかりか、(b)及び/又は(b´)が残存しやすくなり、有機無機複合フィラーの性状やそれを用いた歯科用組成物の物性に影響を与えることがある。(a)並びに(b)及び/又は(b´)の残存量を最小化し、ポリウレタンの分子量が大きくなりやすいという理由から(bOH+b´OH)/aNCOは、0.9~1.1であることが好ましい。
【0083】
一方、前記(2)の方法を採用した場合には、前記したように、(アミノ基、カルボキシ基又はメルカプト基とイソシアネート基の反応による)ウレア結合、アミド結合又はチオウレタン結合が導入された本ポリウレタンが得られる。前記(iii)においてb´OH/bOH(=b´/b)が0.8を超える場合には、ラジカル重合性基の存在量や密度が少なくなり、本発明の効果が得られにくい。ラジカル重合性基の存在量や密度が確保しやすく、かつ、それらを制御しやすいという理由からb´OH/bOHは、0~0.4であることが好ましい。また、前記(iv)において、(bOH+b´OH+cSub)/aNCOが0.8未満の時は過剰の(a)ジイソシアネート化合物が存在するため、副反応を起こしやすくなり、1.2を超えるときは(b)、(b´)及び/又は(c)が残存しやすくなり、有機無機複合フィラーの性状やそれを用いた歯科用組成物の物性に影響を与えることがある。(a)並びに(b)、(b´)及び/又は(c)の残存量を最小化し、ポリウレタンの分子量が大きくなりやすいという理由から(bOH+b´OH+cSub)/aNCOは、0.9~1.1であることが好ましい。さらに前記(v)において、c/(b+b´)が0.05未満の場合には、(c)を添加する効果が得られにくくなり、0.2を超えるときは本ポリウレタンの性状が大きく変化し、製造が困難となりやすい。添加量に対する効果を最大化できるという理由からc/(b+b´)は0.05~0.15であることが好ましい。
【0084】
前記(2)方法を採用する場合には、多官能重付加性化合物(c)としては、ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)又はアミン系多官能重付加性化合物(c2)を使用することが好ましい。前記したように、これら化合物を使用することにより、本ポリウレタンに架橋構造やウレア構造を導入することができる。これら化合物を用いる場合には、使用する化合物に応じて前記(v)におけるc/(b+b´)が若干異なり、(c1)を使用する場合は、0.05~0.2であることが好ましく、0.05~0.1であることがより好ましい。また、(c2)を使用する場合は、0.05~0.15であることが好ましく、0.05~0.1であることがより好ましい。
【0085】
前記したように、(a)と(b)、(b´)及び(c)とは、ほぼ化学量論的に反応するので、これらの使用量から生成する本ポリウレタンの量を知ることができる。したがって、重付加反応を行う場合には、想定される本ポリウレタンの量に応じてその濃度が前記した範囲となるよう名量の有機溶媒を準備し、これに、(1)又は(2)の方法における各条件を満足するようにして各重付加性原料化合物を秤取り、触媒量の重付加触媒と併せて添加し、混合すればよい。反応温度は、使用する溶媒に合わせて選択すればよいが、高温で反応を行うと、ラジカル重合性基が反応する可能性があるため、好ましくない。通常、20~80℃で、5~120時間攪拌することにより、ポリウレタン含有液を得ることができる。
【0086】
2-3.スラリー調製工程について
スラリー調製工程では、前記ポリウレタン含有液調製工程で得られたポリウレタン含有液と、無機粉粒体とを、前記ポリウレタン含有液に含まれる前記有機溶媒以外の有機成分と前記無機機粉粒体との総質量に対する前記無機機粉粒体の質量の割合が60~90質量%の範囲内となるよう量比で混合して前記無機機粉粒体を構成する無機粒子がポリウレタン含有液中に分散したスラリーを調製する。無機機粉粒体としては、前「1-2.無機粒子について」で説明した無機粒子によって構成される粉粒体を使用すればよい。
【0087】
無機粉粒体を添加する割合により、有機無機複合フィラー中の無機粒子の含有率が決定される。つまり、ポリウレタン含有液中のポリウレタン100質量部に対して、150~900質量部の無機粉体が添加されることで、有機無機複合フィラー中の無機粒子の含有率は60~90質量部となる。混合方法としては、マグネチックスターラー、撹拌羽、遠心混合機などを用いて、撹拌混合する方法やライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を用いて混合する方法が好適に採用される。
【0088】
なお、混合に際しては、スラリー調製工程やその後の工程の作業性を向上させるために、さらに溶媒を追加してもよい。このとき、添加できる溶媒としては、前記有機溶媒に加えて、アルコール等の重付加反応を阻害する溶媒を追加してもよい。また、目的に応じた任意の成分を添加することができる。このような成分としては、ラジカル重合開始剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は目的に応じて適宜決定すればよい。
【0089】
2-4.乾燥工程について
乾燥工程では、前記スラリーから前記有機溶媒を除去して、前記ポリウレタンと前記無機粒子とが複合化した粉体又は固体塊状物を得る。溶媒を除去する方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥等、送風乾燥など、公知の乾燥方法が特に制限なく使用でき、これらを組み合わせてもよい。溶媒の残存は、本発明の有機無機複合フィラー、及び、それを用いた歯科用組成物の物性の低下につながるため、可能な限り除去することが好ましい。
【0090】
乾燥温度は、使用した溶媒によって、任意に選択すればよいが、20~100℃の範囲であることが好ましい。20℃未満の場合、乾燥時間が長くなりやすい。100℃を超える場合、前記ポリウレタンの変性、特には、意図しないラジカル重合が生じる可能性が大きくなるため、好ましくない。
【0091】
減圧度は、使用した溶媒によって、任意に選択すればよいが、1.3×10-5~0.08MPaの減圧度が好ましい。0.08MPaを超える場合、乾燥時間が長くなりやすい。1.3×10-5MPa未満の場合、前記ポリウレタンの変性が生じる可能性が大きくなるため、好ましくない。
【0092】
乾燥時間は、乾燥条件に応じて適宜決定すればよいが、通常は3時間~168時間の範囲である。必要に応じて、重量を測定し、その減少がなくなったことを確認するなど、溶媒の除去が完了したことを確認することが好ましい。
【0093】
2-5.粒度調整工程について
粒度調整工程では、前記乾燥工程で粉体が得られた場合には粒度調整を行い、固体塊状物が得られた場合には破砕及び粒度調整を行ってからレーザー回折-散乱法で測定される平均粒子径が10~50(μm)の粉体とする。
【0094】
前期破砕方法は、公知の粉砕、破砕方法を用いることができる。例えば、回転ボールミルや振動ボールミルやジェットミル等を用いることができる。ボールミル使用時のメディアとしては、粉砕時のコンタミを抑制するために、ジルコニアやアルミナといった硬度の大きいものを用いることが好ましい。
【0095】
前記粒度調整方法としては、公知の方法を用いることができ、篩、エアー分級、水簸分級等の方法を用いることができる。目的の粒径を有する粉体が少ない場合は、再度粉砕、破砕を行い、粒度調整を行い、粉体を得ることができる。
【0096】
3.本発明の歯科用硬化性組成物について
本発明の歯科用硬化性組成物は、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラー、ラジカル重合性単量体、及び、ラジカル重合開始剤を含む。
【0097】
ラジカル重合性単量体としては、歯科用硬化性組成物で使用されるラジカル重合性単量体が特に制限されずに使用できる。ラジカル重合性基としては、ビニル基、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、及び、スチリル基等を挙げることができる。これらのラジカル重合性基の中でも、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、であることが好ましく、特に、有機無機複合フィラー中のポリウレタンが有するラジカル重合性基と同様のものであることが好ましい。複数のラジカル重合性単量体を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
前記ラジカル重合性単量体100質量部の内、分子内にウレタン基を含む重合性単量体は50質量部以下であることが好ましく、20質量部以下出ることがより好ましい。分子内にウレタン基を含む重合性単量体は、ポリウレタンと相溶性が高いため、多い場合に、有機無機複合フィラーから、ポリウレタンが溶出し、歯科用硬化性組成物の調製の難易度の増加を引き起こし、操作性や物性に影響を与える場合がある。
【0099】
本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーの含有量は、通常、前記ラジカル重合性単量体100質量部に対して50~500質量部であり、70~400質量部、特に90~300質量部であることが好ましい。
【0100】
本発明の歯科用硬化性組成物は、フィラーとして本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラー以外のフィラー(その他フィラー)を含んでもよい。このようなフィラーとしては、歯科用硬化性組成物で使用されるフィラー、特にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合物、ガラスなどの無機粉粒体からなる無機フィラーを挙げることができる。好適に使用できる無機粒子を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。
【0101】
本発明の歯科用硬化性組成物がその他フィラーを含む場合、硬化の観点から、含有されるフィラー総質量:100質量部の内、50質量部以上は本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーとすることが好ましい。
【0102】
本発明の歯科用組成物に含まれるのラジカル重合開始剤としては、歯科用硬化性組成物で使用される光重合開始剤、熱重合開始剤、化学重合開始剤を特に制限なく用いることができる。これら重合開始剤は、添加量は、通常、重合性単量体の100質量部に対して0.001~1.0質量部であり、0.01~0.5質量部であることが好ましい。
【0103】
光重合開始剤は、光照射によって重合活性種を生じる重合開始剤である。カンファーキノンとp-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルの組み合わせや2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどの光重合開始剤を例示できる。
【0104】
熱重合触媒は、加熱によって重合活性種を生じる重合開始剤である。ベンゾイルパーオキシドのような有機過酸化物、アゾイソブチロニトリルのようなアゾ化合物を用いることができる。
【0105】
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、アミン化合物/ 有機過酸化物系のものが代表的である。該アミン化合物を具体的に例示すると、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエタノール-p-トルイジンなどの芳香族アミン化合物が例示される。前記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアリールパーオキサイドなどが挙げられる。該有機過酸化物を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルクミルパーオキサイド、テトラメチルエチルパーオキサイド等が挙げられる。これら開始剤は、通常、2つ以上の歯科用硬化性組成物に分けて配合される。
【0106】
本発明の歯科用硬化性組成物は、目的に応じた任意の成分を添加することができる。このような成分としては、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は目的に応じて適宜決定すればよい。
【0107】
本発明の歯科用硬化組成物は、必要量の各成分を混合することによって得られる。混合方法は特に限定されず、ライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を用いて、撹拌混合する方法等が好適に用いられる。ラジカル重合性単量体にラジカル重合開始剤やそのほか添加剤を溶解させ、それらと無機粒子を混合して、調製することが好ましい。このようにして調製された歯科用硬化性組成物は、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては公知の方法が用いられ、加圧脱泡、真空脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0108】
4.本発明の歯科用修復材料について
本発明の歯科用修復材料は、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体からなる。特に、熱重合開始剤を含む発明の歯科用硬化性組成物は、本発明の歯科用硬化性組成物調製後長期に保存でき、しかも(光重合するときのように、光透過性の制約がないため、)歯科用硬化性組成物を注型した後に加熱を行い、ラジカル重合を行うことによって重合硬化させる方法を採用すること等により任意の形状の硬化体を効率的に得られるため、その硬化体からなる本発明の歯科用修復材料は工業的生産に適している。
【0109】
上記方法における注型の際に用いる型は特に限定されず、製品形態ごとにあらかじめ想定している形状に応じて、角柱、円柱、角板、円板状のものが適宜使用される。また、その大きさは、収縮率等を考慮して、重合後のものがそのまま想定形状となるようなものであってもよく、また、重合後の加工を想定し、加工代を見込んだ大きめのものであってもよい。
【0110】
型への注入方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。本発明において、気泡の混入は、強度、及び、審美性の観点から好ましくないため、歯科用硬化性組成物に含まれる気泡は、除去されることが好ましい。そのため、加圧注型、真空注型によって行われることが好適である。
【0111】
続いて、前記歯科用硬化性組成物のラジカル重合を実施する。本発明において、ラジカル重合を実施する温度と時間は材料に応じて適宜選択すればよいが、本発明の歯科用硬化性組成物が含む熱重合開始剤の10時間半減期温度の-10~+30℃で行うことで、収縮やクラックを抑制しつつ、十分なラジカル重合を行うことができる。その際には、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制するために、加圧することが好ましい。加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。
【0112】
このようにして作製された歯科用修復材料は、必要に応じて、CAD/CAM装置に保持するためのピン等の固定具を接合し、歯科切削加工用レジン系ブロックとして供する事ができる。これをCAD/CAM装置に接続して、設計に基づいて切削を行うことで、歯冠修復物を得る事ができる。
【実施例0113】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0114】
先ず、各実施例および比較例で用いた全材料について以下に説明する。
【0115】
1.有機無機複合フィラー及び歯科用硬化性組成物の原材料
(1)ジイソシアネート化合物(a)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート。
【0116】
(2)ラジカル重合性ジオール化合物(b)
GLM:グリセロールモノメタクリレート。
【0117】
(3)非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)
PEG:ポリエチレングリコール(分子量400)。
【0118】
(4)多官能重付加性化合物(c)
(4-1)ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)
TMP:トリメチロールプロパン
GTP:グリセロールトリプロポキシレート(分子量266)
(4-2)アミン系多官能重付加性化合物(c2)
DEGA:ジエチレングリコールアミン
BAN:ビス(アミノメチル)ノルボルナン(異性体混合物)。
【0119】
(5)無機粒子
F1:シリカ-チタニア(30wt%、0.08μm)、シリカ-ジルコニア(70wt%、0.4μm)フィラー混合物(3-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物)
F2:シリカ-ジルコニアフィラー(0.2μm、3-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物)。
【0120】
(6)重付加触媒
TC:ジブチルスズジラウレート。
【0121】
(7)重合性単量体
bis-GMA:ビスフェノールAグリシジルジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HD:ヘキサンジオールジメタクリレート
UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2-4-トリメチルヘキサン
bis26E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート。
【0122】
(8)ラジカル重合開始剤
(8-1)光ラジカル重合開始剤
CQ:カンファーキノン
EDMB:エチルジメチルアミノベンゾエート
MDEOA:メチルジエタノールアミン
TCT:2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン
(8-2)熱ラジカル重合開始剤
BPO:ベンゾイルパーオキサイド。
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル。
【0123】
(9)重合禁止剤
HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
BHT: ジブチルヒドロキシトルエン。
【0124】
2.有機無無機複合フィラーについて
実施例1
(原料準備工程及びポリウレタン含有液調製工程)
ラジカル重合性ジオール化合物(b)であるGLM:8.5g及び重付加触媒であるTC:0.01gを有機溶媒であるTHF:18.6gに添加し、マグネチックスターラーにより混合した後、ジイソシアネート化合物(a)であるXDI:10.0gを更に添加し、91時間室温で撹拌して重付加反応を行い、ポリウレタン含有液を調性した。
【0125】
(ポリウレタンの評価)
得られたポリウレタン含有液に含まれるポリウレタンの数平均分子量及びラジカル重合性の平均含有量を、下記(1)及び(2)に示す方法で測定したところ、数平均分子量は2400であり、ラジカル重合性の平均含有量は2.8(mmol/g-ポリウレタン)であった。
【0126】
(1)数平均分子量の測定方法
ポリウレタン含有液調製工程で得られたポリウレタン含有液にエタノール4.0gを加えて、さらに5時間縦攪拌し、得られた溶液の一部をスクリュー管瓶に秤取り、THFを加え撹拌して得られたTHF溶液(濃度0.25g/mL)をメンブレンフィルター(PORE SIZE 20μm,株式会社ADVANTEC製)で濾過することにより濾液を得た。そしてこの濾液について、下記に示すGPC測定条件にてGPC測定を行うことにより、重付加反応により得られたラジカル重合性基を有するポリウレタンのポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。なお、上記GPC測定結果に基づき重付加反応の反応率(原料の転化率)を求めたところ99%であった。
【0127】
[GPC測定条件]
測定装置:Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5 ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)
(2)ラジカル重合性の平均含有量の測定方法
上記したように重付加反応は定量的に進行していることから、使用したラジカル重合性ジオール化合物(b)の量(mmol)に(b)1分子中に含まれるラジカル重合性基数を乗じて、ポリウレタン全体に含まれるラジカル重合性基の総量(mmol)とした。そして、この値を得られたポリウレタンの量(g)で除することにより、ラジカル重合性の平均含有量(mmol/g-ポリウレタン)を求めた。
【0128】
(スラリー調製工程、乾燥工程及び粒度調整工程)
数平均分子量測定の際に(エタノールを加えて調製した)溶液12.0gに無機フィラーF1を15.0g添加し、攪拌できるように必要に応じてエタノールを追加し、6時間さらに攪拌することでスラリーを得た。48時間室温で乾燥させ、過剰な溶媒を除去した後、50℃の真空乾燥機で18時間追加乾燥し、有機無機粉体を得た。得られた有機無機粉体を回転ボールミルにて粉砕し、篩(目開き63μm)により粗粉を除去し、平均粒径37μmのポリウレタン系有機無機複合フィラーを得た。
【0129】
なお、平均粒子径の測定は、0.1gの有ポリウレタン系機無機複合フィラーをエタノール10mlに分散させ、超音波を5分間照射し、分散させた。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(LS230、ベックマンコールター製)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めることによって行った。
【0130】
実施例2
実施例1において、GLMを8.5g用いる代わりに、アミン系多官能重付加性化合物(c2)であるDEGA:0.6g及びGLM:8.3gを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリウレタン系有機無機複合フィラーを調製した。また、実施例1と同様にして、重合性ポリウレタンの分子量、ラジカル重合性の平均含有量及びポリウレタン系有機無機複合フィラーの平均粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0131】
実施例3
実施例1において、GLMを8.5g用いる代わりに、アミン系多官能重付加性化合物(c2)であるBAN:0.8g及びGLM:7.7g、用いて行うこと以外は、実施例1と同様の方法でポリウレタン系有機無機複合フィラーを調製した。また、実施例1と同様にして、重合性ポリウレタンの分子量、ラジカル重合性の平均含有量及びポリウレタン系有機無機複合フィラーの平均粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、本実施例では、XDIを滴下した直後に白色固体が析出した。
【0132】
実施例4
実施例1において、GLMを8.5g用いる代わりに、ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)であるTMP:0.5g及びGLMを7.7g、用いて行うこと以外は、実施例1と同様の方法でポリウレタン系有機無機複合フィラーを調製した。また、実施例1と同様にして、重合性ポリウレタンの分子量、ラジカル重合性の平均含有量及びポリウレタン系有機無機複合フィラーの平均粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0133】
実施例5
実施例1において、GLMを8.5g用いる代わりに、GLM:3.0g、ポリオール系多官能重付加性化合物(c1)であるGTP:1.7g及び非ラジカル重合性ジオール化合物(b´)であるPEG:6.0gを用い、THF使用量を17.6gとし、XDI使用量を7.0gとし、TC使用量を0.02gとし、無機フィラーとしてF2:溶液12.0gに対して15.0gを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリウレタン系有機無機複合フィラーを調製した。また、実施例1と同様にして、重合性ポリウレタンの分子量、ラジカル重合性の平均含有量及びポリウレタン系有機無機複合フィラーの平均粒子径の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0134】
【0135】
比較例1
ラジカル重合性単量体としてのbis-GMA:3.6g、3G:2.4g及びHD:4.0g、並びにラジカル重合触媒としてのAIBN:0.05gをマグネチックスターラーにより混合した。混合した液を5.0gに、無機フィラーとしてのF2を30.0g添加し、混練することでペースト状とした。このペーストを95℃窒素加圧下で15時間加熱することによって重合硬化させ硬化体を得た。得られた硬化体を、回転ボールミルにて粉砕し、篩(目開き63μm)により粗粉を除去し、平均粒径33μmの(非ポリウレタン系)有機無機複合フィラーを得た。
【0136】
3.歯科用硬化性組成物について
実施例6
重合性単量体としてのbis-GMA:12.0g及び3G:8.0g;光重合開始剤としてのCQ:0.04g、EDMB:0.06g、TCT:0.03g及びMDEOA:0.02g;並びに重合禁止剤としてのBHT:0.002g及びHQME:0.03gを、暗所にてマグネチックスターラーにより攪拌し、光重合硬化性を有する液状のモノマー組成物1を得た。
【0137】
次いで、実施例1で調製したポリウレタン系有機無機複合フィラー:4.5g及び無機フィラーF2:3.0gを、上記モノマー組成物1:1.5gと、暗所にてメノウ乳鉢を用いて混練し、ペースト状の歯科用硬化性組成物を得た。得られた歯科用硬化性組成物の硬化体の曲げ強さの評価を次のようにして行うとともに、該評価時にペースト性状評価も併せて行った。結果を表2に示す。
【0138】
(1)硬化体の曲げ強さ評価
得られた歯科用硬化性組成物を2.0×2.0×25mmの角柱状の型枠に歯科用充填器を用いて充填し、十分に光重合を行って硬化させた。硬化後、硬化体を型枠から取り出し、37℃水中に24時間浸漬し、試験片を得た。前記試験片をオートグラフ(島津製作所製)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で3点曲げ試験を行った。
曲げ強さσは、式:σ=3PS/2WB2 により算出した。
なお、上記式中のPは最大点の曲げ荷重(N)を意味し、Sは、支点間距離(20mm)を意味し、Wは試料の幅(2.0mm)を表し、Bは試料の厚さ(2.0mm)を表している。また、前記試験片は5本作製し、その平均値を歯科用硬化性組成物の曲げ強さとした。
【0139】
(2)ペースト性状評価
型枠に組成物を充填する際の操作性を、べたつきやぱさつきが少なく、充填操作がしやすいものについては○、べたつきやぱさつきが強く充填操作が困難なものについては×として評価した。
【0140】
実施例7
有機無機複合フィラーを実施例2で調製した有機無機複合フィラーに、モノマー組成物1量を1.6gに変更した以外は、実施例6と同様の方法で歯科用硬化性組成物を調製し、実施例7と同様にして得られた歯科用硬化性組成物の評価を行った。結果を表2に示す。
【0141】
実施例8
有機無機複合フィラーを実施例3で調製した有機無機複合フィラーに、モノマー組成物1量を1.4gに変更した以外は、実施例6と同様の方法で歯科用硬化性組成物を調製し、実施例7と同様にして得られた歯科用硬化性組成物の評価を行った。結果を表2に示す。
【0142】
実施例9
有機無機複合フィラーを実施例4で調製した有機無機複合フィラーに、モノマー組成物1量を1.3gに変更した以外は、実施例6と同様の方法で歯科用硬化性組成物を調製し、実施例7と同様にして得られた歯科用硬化性組成物の評価を行った。結果を表2に示す。
【0143】
実施例10
有機無機複合フィラーを実施例5で調製した有機無機複合フィラーに変更した以外は、実施例7と同様の方法で歯科用硬化性組成物を調製し、実施例6と同様にして得られた歯科用硬化性組成物の評価を行った。結果を表2に示す。
【0144】
比較例2
有機無機複合フィラーを比較例1で調製した有機無機複合フィラーに変更した以外は、実施例6と同様の方法で調製した。得られた歯科用硬化性組成物の曲げ強さを表2に示した。
【0145】
【0146】
実施例7~10と比較例2の比較から、本発明のポリウレタン系有機無機複合フィラーを用いた本発明の歯科用硬化性組成物からなる硬化体の強度が高いことが分かる。実施例10と実施例7~9の比較から、重合性ポリウレタンが3個以上のヒドロキシ基を有するポリオールを用いた方が、高い強度を示すことが分かる。
【0147】
実施例11
重合性単量体としてのbis26E:14.0g、UDMA:3.0g及びNPG:3.0g、熱重合開始剤としてのBPO:0.09g、並びに重合禁止剤としてのBHTを0.01g、マグネチックスターラーにより攪拌し、熱重合硬化性を有する液状のモノマー組成物2を調製した。
【0148】
次いで、実施例1で調製したポリウレタン系有機無機複合フィラー:2.3g及び無機フィラーF2:1.5gを、上記モノマー組成物2:0.8gと、メノウ乳鉢を用いて混練し、ペースト状の歯科用硬化性組成物を得た。得られた歯科用硬化性組成物の気泡を除去し、12×15×5(mm)のモールドに充填し、120℃18時間加熱重合を行い、歯科用硬化体を得た。得られた歯科用硬化体の曲げ強さを表3に示した。得られた歯科用硬化性組成物の硬化体の曲げ強さの評価を次のようにして行った。結果を表3に示す。
【0149】
(3)曲げ強さ評価
得られた歯科用硬化性組成物の気泡を除去し、12×15×5(mm)のモールドに充填し、120℃18時間加熱重合を行い、歯科用硬化体を得た。次いで、得られた硬化体を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出し、#2000の耐水研磨紙を用いて、1.2mm×4.0mm×15mmの角柱状に整えることで試験片を得た。前記試験片をオートグラフ(島津製作所製)に装着し、支点間距離12mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で3点曲げ試験を行った。
【0150】
曲げ強さσは、実施例6の(2)と同様にして求めた。その平均値を歯科用硬化体の曲げ強さとした。但し、計算式において、S:支点間距離=12mm、W:幅=4.0mm、B:厚さ=1.2mmとなる。
【0151】
実施例12
重合性単量体としてのUDMA:15.0g及び3G:5.0g、熱重合触媒としてのBPO:0.09g、並びに重合禁止剤としてのBHT:0.01gを、マグネチックスターラーにより攪拌し、熱重合硬化性を有する液状のモノマー組成物3を調製した。
【0152】
実施例1で調製したポリウレタン系有機無機複合フィラー:2.3g、無機フィラーF2:1.5g、モノマー組成物3:1.5g、メノウ乳鉢を用いて混練し、ペースト状の歯科用硬化性組成物を得た。本実施例の歯科用硬化性組成物は、ペースト状になりにくく、多量のモノマー組成物3を必要とした。得られた歯科用硬化性組成物の硬化体の曲げ強さ実施例13と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0153】
実施例13
モノマー組成物3の量を0.7gとし、さらにポリウレタン系有機無機複合フィラーを実施例2で調製したポリウレタン系有機無機複合フィラーに変更した以外は、実施例12と同様の方法で歯科用硬化性組成物の調製及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0154】
実施例14
モノマー組成物3の量を0.9gとし、さらにポリウレタン系有機無機複合フィラーを実施例3で調製したポリウレタン系有機無機複合フィラーに変更した以外は、実施例12と同様の方法で歯科用硬化性組成物の調製及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0155】
(比較例3)
モノマー組成物3の量を0.7gとし、さらにポリウレタン系有機無機複合フィラーを比較例1で調製した非ポリウレタン系有機無機複合フィラーに変更した以外は、実施例12と同様の方法で歯科用硬化性組成物の調製及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0156】
【0157】
実施例11~14と比較例3の比較から、本発明の有機無機複合フィラーを用いた歯科用硬化性組成物からなる硬化体の強度が高いことが分かる。実施例11と実施例12の比較から、ウレタン基を含む重合性単量体の割合は50%以下であることが、高い充填率と強度を示しやすいことが分かる。さらに、実施例12と実施例13、14との比較から、有機無機複合フィラー中にウレア構造を含む場合に、より高い充填率と強度を示すことが分かる。