IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

特開2024-171899(メタ)アクリル酸エステル-スチレン系共重合体、接着剤組成物およびプリプレグ、ならびに接着シート、積層体及びプリント配線板
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171899
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステル-スチレン系共重合体、接着剤組成物およびプリプレグ、ならびに接着シート、積層体及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/14 20060101AFI20241205BHJP
   C09J 125/14 20060101ALI20241205BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20241205BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20241205BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20241205BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20241205BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08F8/14
C09J125/14
C09J109/00
C09J11/04
C09J7/35
C08J5/04 CER
C08J5/04 CET
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089179
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 修平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】川楠 哲生
【テーマコード(参考)】
4F072
4J004
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB05
4F072AB06
4F072AB09
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB30
4F072AD02
4F072AD03
4F072AD05
4F072AD27
4F072AE02
4F072AE06
4F072AF06
4F072AF32
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG19
4F072AH02
4F072AH22
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL13
4J004AA06
4J004AA13
4J004AB04
4J004BA02
4J004FA05
4J040CA042
4J040DB061
4J040FA072
4J040HB41
4J040JB02
4J040KA12
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA42
4J040LA01
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA19
4J040PA30
4J040PA33
4J100AB02P
4J100AL09Q
4J100CA04
4J100HA11
4J100HC29
4J100JA03
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】耐熱性、接着強度及び誘電特性に優れ、なおかつ、より低温で硬化することが可能な共重合体、接着剤組成物及びプリプレグ、ならびに接着シート、積層体及びプリント配線板を提供すること
【解決手段】下記(1)~(3)の要件を満たす、スチレン(α)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)を構成単位として有する共重合体(A)。
(1) 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)の構成単位が(メタ)アクリロイル基を有する
(2) 前記共重合体(A)の全構成単位の合計量を100質量%としたときに、前記スチレン(α)の含有量が90~99.9質量%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)の含有量が0.1~10質量%である
(3) 両末端に酸素以外のヘテロ原子を有しない
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の要件を満たす、スチレン(α)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)を構成単位として有する共重合体(A)。
(1)前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)の構成単位が(メタ)アクリロイル基を有する
(2)前記共重合体(A)の全構成単位の合計量を100質量%としたときに、前記スチレン(α)の含有量が90~99.9質量%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)の含有量が0.1~10質量%である
(3)両末端に酸素以外のヘテロ原子を有しない
【請求項2】
重量平均分子量が5,000以上100,000以下である請求項1に記載の共重合体(A)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合体(A)を含有する接着剤組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂(B)を含有する、請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂(B)がポリブタジエンである、請求項4に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
フィラー(C)を含有する、請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
フィラー(C)がシリカである、請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項3に記載の接着剤組成物を含侵したプリプレグ。
【請求項9】
請求項3に記載の接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シート。
【請求項10】
請求項8に記載のプリプレグまたは請求項9に記載の接着シートを使用した積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。より詳しくは、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板に使用される接着樹脂組成物並びにそれを含むプリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板(電子回路基板)用のプリプレグの多くは、繊維基材を樹脂ワニスに含侵してから乾燥させることで製造されている。近年、電子機器の小型化、軽量化、高密度化、高出力化が進み、プリント配線板の性能に対する要求がますます高度なものとなっている。
特に現在開発が加速している第5世代通信システム「5G」では、さらなる大容量化と高速通信が進むことが予想されている。5Gでは使用する周波数の高周波化が進むことになるが、高周波を利用した高速通信の実現には基板材料の更なる性能向上が求められることとなる。例えば、伝送損失低減のために低誘電特性を有すること等が重要である。プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板に使用される絶縁材料用樹脂においても低粗度銅箔に対する密着性を担保しつつ、低誘電特性及び高耐熱性を維持することが求められている。このような背景を受けて高耐熱、低誘電特性を有する樹脂組成物として、スチレン系樹脂組成物(特許文献1、特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】:特許4379122号公報
【特許文献2】:特許7208705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁材料用樹脂には硬化にエポキシ樹脂が用いられており、硬化後、水酸基が発生するため、誘電特性を悪化させる。誘電特性を悪化させずに硬化させる手法としてはビニル基によるラジカル硬化が考えられ、特許文献2に記載の絶縁材料用樹脂にはマレイミド樹脂が記載されている。マレイミド樹脂を硬化させるには高温下で長時間反応させる必要があり、当該絶縁材料用樹脂を積層体として利用した場合その他材料に熱劣化の影響が出る。一方、低温で硬化する場合、架橋不足により耐熱性に劣る。
【0005】
本発明は、かかる従来技術課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、耐熱性、接着強度及び誘電特性に優れ、なおかつ、より低温で硬化することが可能な共重合体、接着剤組成物及びプリプレグ、ならびに接着シート、積層体及びプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]下記(1)~(3)の要件を満たす、スチレン(α)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)を構成単位として有する共重合体(A)。
(1)前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)単位が(メタ)アクリロイル基を
有する
(2)前記共重合体(A)の全構成単位の合計量を100質量%としたときに、前記スチレン(α)単位の含有量が90~99.9質量%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)単位の含有量が0.1~10質量%である
(3)両末端に酸素以外のヘテロ原子を有しない
[2]重量平均分子量が5,000以上100,000以下である[1]に記載の共重合体(A)。
[3][1]または[2]に記載の共重合体(A)を含有する接着剤組成物。
[4]ポリオレフィン樹脂(B)を含有する、[1]~[3]に記載の接着剤組成物。
[5]ポリオレフィン樹脂(B)がポリブタジエンである、[4]に記載の接着剤組成物。
[6]フィラー(C)を含有する、[3]~[5]に記載の接着剤組成物。
[7]フィラー(C)がシリカである、[3]~[6]に記載の接着剤組成物。
[8][3]~[7]に記載の接着剤組成物を含侵したプリプレグ。
[9][3]~[8]に記載の接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シート。
[10][8]に記載のプリプレグまたは[9]に記載の接着シートを使用した積層体。[11][10]に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の共重合体は、耐熱性、接着強度及び誘電特性に優れ、より低温で硬化することが可能である。このため、接着剤組成物、及びプリプレグ、ならびに接着シート、積層体及びプリント配線板に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の一形態について以下に詳述する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、既述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できる。
【0009】
<共重合体(A)>
本発明の共重合体(A)はスチレン(α)を構成単位として有する。前記スチレン(α)はさらに他の単量体単位を含んでいてもよく、例えば、モノマーとしてスチレンから誘導され得る単量体単位を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の共重合体(A)は(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)を構成単位として有する。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)は(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマー、または(メタ)アクリル酸アルキルアルコールから誘導され得る単量体単位を含む。
【0011】
本発明の共重合体(A)は前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)単位が(メタ)アクリロイル基を有する。特に好ましくは(β)単位がメタクリロイル基を有する。反応性が特に高いメタクリロイル基を側鎖に有することで、従来より低温で硬化可能であり、積層体とする場合に他層への熱劣化の影響が少ない。
【0012】
本発明の共重合体(A)は、共重合体(A)の全構成単位の合計量を100質量%としたときに、スチレン(α)単位の含有量が90~99.9質量%であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)単位の含有量が0.1~10質量%であることが必要である。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(β)の含有量は、好ましくは0.5~5.0質量%、さらに好ましくは1.0~4.0質量%である。共重合体(A)中の(β)含有量を前記上限値以下とすることで、スチレン骨格に比べて誘電特性が劣るアクリル骨格が導入されることによる誘電特性への影響が軽微となり、さらに前記下限値以上とすることで、硬化時の架橋密度が担保されるため、接着強度、耐熱性が良好となる。
【0013】
本発明の共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上100,000以下であることが好ましい。より好ましくは6,000以上、さらに好ましくは8,000以上である。また、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは50,000以下である。重量平均分子量を前記範囲内とすることで、繊維基材への樹脂の含侵が容易となり、また、一定の樹脂としての強度が担保される。本発明の共重合体(A)の重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0014】
本発明の共重合体(A)は両末端(重合開始末端および停止末端(連鎖移動末端))に酸素以外のヘテロ原子を有しない。両末端は酸素、炭素及び水素の3つの元素のみから構成された基であることが好ましい。また、両末端の基は酸素を含まなくても構わず、炭素及び水素の2つの元素のみから構成された基であることがより好ましい。特に停止末端(連鎖移動末端)の基は酸素を含まなくても構わず、炭素及び水素の2つの元素のみから構成された基であることがより好ましい。両末端に酸素以外のヘテロ原子、例えば窒素、硫黄などを有さないことにより、得られる共重合体の誘電特性が特に良好となる。
【0015】
本発明の共重合体(A)の製法は特に限定されないが、例えば以下の方法で製造することができる。すなわち、(メタ)アクリロイル基を有するアルコール類とスチレンの共重合を行い、側鎖のヒドロキシ基を無水メタクリル酸または無水アクリル酸にて変性することで得ることができる。好ましくは無水メタクリル酸による変性である。重合方法としては、溶液重合法、塊状重合法等の各種の従来公知の重合法を採用することができ、特に溶液重合法を採用するのが好ましい。
【0016】
前記の方法における(メタ)アクリロイル基を有するアルコール類としては、特に限定されないが2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4ーヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシ-1-メタクリロイルオキシアダマンタン等を挙げることができる。
【0017】
前記の溶液重合法において使用できる重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム及び塩化メチレン等を挙げることができる。
【0018】
上述の共重合体(A)の製造法、特に溶液重合においては、例えば、重合開始剤と連鎖移動剤とが使用され得る。重合開始剤として、例えばラジカル開始剤を用いることができる。
【0019】
前記ラジカル開始剤としては、有機過酸化物を用いることができる。特に誘電特性を向上させる観点から酸素以外のヘテロ原子を含まない有機過酸化物を重合開始剤として用いることが好ましい。これにより、重合開始末端に有機過酸化物由来の骨格を有し、また前記有機過酸化物が酸素以外のヘテロ原子を有しないために、重合開始末端に酸素以外のヘテロ原子を有しない共重合体(A)を得ることができる。前記、酸素以外のヘテロ原子を含まない有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオ
キサイド、アセチルパーオキサイド、カプリリルパーオキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-n-ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-エチルヘキサノエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシアリルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2-トリメチルプロピルパーオキシ-イソノナエート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物が挙げられる。前記重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
前記重合開始剤の種類は、生成する樹脂や使用する原料モノマーの種類に応じて選定され得る。例えば、本発明では特に限定されないが、ラジカル開始剤としては、その重合温度での半減期が1時間以内であるものが好ましい。
【0021】
前記重合開始剤の使用量は、目標の重合率や反応条件などに応じて調整すればよい。
【0022】
ラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、140℃以上であることが好ましい。140℃以上にすることで、接着剤組成物ワニスの溶剤を揮発させ接着剤シートを作成する際にラジカル反応が開始することを防ぎ、優れた接着性を発現することができる。
【0023】
接着剤組成物にラジカル発生剤を含有する場合の配合量としては、樹脂成分の合計100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、さらに好ましくは1質量部以上である。また、50質量部以下が好ましく、さらに好ましくは20質量部以下である。上記範囲内にすることによって、最適な架橋密度とすることができ、接着性と耐熱性を両立することができる。
【0024】
前記連鎖移動剤としては、単官能および多官能のいずれの連鎖移動剤であっても用いることができる。連鎖移動剤としては、特に誘電特性を向上させるには酸素以外のヘテロ原子を含まない連鎖移動剤が好適である。これにより、停止末端(連鎖移動末端)に酸素以外のヘテロ原子を有しない共重合体(A)を得ることができる。具体的には、例えば、1,4-ジヒドロナフタレン、1,4,5,8-テトラヒドロナフタレン、β-テルピネン、テルピノーレン、1,4-シクロヘキサジエン、α―メチルスチレンダイマーなどが挙げられ、中でもα―メチルスチレンダイマーが好ましいこれらの連鎖移動剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
連鎖移動剤の種類および使用量は、生成する共重合体や使用する原料モノマーの種類に応じて選定され得る。
【0026】
(不飽和末端導入)
前述で得られた共重合体に対して、不飽和末端を導入するため無水メタクリル酸または無水アクリル酸を反応させる。好ましくは無水メタクリル酸である。その際、触媒を用いても良い。触媒を用いると反応効率が上がり、不飽和末端導入率が高くなり、硬化後のゲル分率が高くなる。ゲル分率が高ければ低温で硬化が可能であり、また耐熱性、密着性が向上する。使用できる触媒としては、例えば、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクトエート、スタナスオクトエート等の錫系、鉄アセチルアセトナート、塩化第二鉄等の鉄系、トリエチルアミン、ルチジン、ピコリン、ウンデセン、トリエチレンジアミン(1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン)、4-(N,N-ジメチルアミノピリジン等塩基触媒が挙げられる。
【0027】
前述の共重合体に不飽和末端を導入する際使用出来る触媒としては、ルイス酸触媒も用いることができる。ルイス酸触媒としては、ルイス酸性を示すハロゲン化金属又はその錯体が好ましいものとして挙げられる。ハロゲン化金属としては、B、Al、Ga、In、Ta、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ti、W、Zn、Fe及びV等の2~6価の金属のハロゲン化物が挙げられ、ハロゲンとしては、F、Cl、Br及びIが挙げられる。具体例を示すと、臭化ホウ素(III)、塩化ホウ素(III)、臭化アルミニウム(III)、フッ化アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、ヨウ化アルミニウム(III)、臭化ガリウム(III)、塩化ガリウム(III)、臭化インジウム(III)、塩化インジウム(III)、フッ化インジウム(III)、ヨウ化インジウム(III)、臭化タリウム(III)、フッ化タリウム(III)、臭化ケイ素(IV)、塩化ケイ素(IV)、フッ化ケイ素(IV)、ヨウ化ケイ素(IV)、臭化ゲルマニウム(IV)、塩化ゲルマニウム(IV)、ヨウ化ゲルマニウム(IV)、臭化スズ(IV)、塩化スズ(IV)、フッ化スズ(IV)、ヨウ化スズ(IV)、フッ化鉛(IV)、臭化アンチモン(III)、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)、ヨウ化アンチモン(III)、臭化ビスマス(III)、塩化ビスマス(III)、フッ化ビスマス(III)、ヨウ化ビスマス(III)、塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)、BF3・OEt2、塩化タングステン(VI)、塩化バナジウム(V)、塩化鉄(III)、臭化亜鉛(II)等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物などを挙げることができる。上記の触媒は、特に制限されるものではなく、単独又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0028】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は上述の共重合体(A)を含有する。また、本発明の接着剤組成物にはポリオレフィン樹脂(B)またはフィラー(C)を含有することができる。
【0029】
<ポリオレフィン樹脂(B)>
前記ポリオレフィン樹脂(B)としては特に限定されないが、誘電特性、接着強度、低吸水性の観点からポリブタジエン及びこの変性物を用いることが好ましい。
【0030】
前述のポリオレフィン樹脂(B)の重量平均分子量は500以上20,000以下が好ましく、より好ましくは1,000以上10,000以下、さらに好ましくは1,000以上7,000以下である。前記重量平均分子量が当該範囲内にあれば、溶剤溶解性、相溶性に優れ、ワニスの粘度が低下するため、プリプレグにおける繊維基材への含侵性に優れる。前記重量平均分子量が500以上20,000以下であるポリオレフィン樹脂(B)は、例えば、スチレンブタジエン共重合体(SBR:RICON-100、RICON-181、RICON-184いずれもクレイバレー社製など)、ポリブタジエン(B-1000、B-2000、B-3000、いずれも日本曹達社製)が挙げられる。
【0031】
配合量は、本発明の共重合体(A)100質量部に対し、0.1~30質量部の配合量であることが好ましく、より好ましくは5~25質量部である。前記下限値以上とすることで更なる接着強度性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで相溶性悪化を抑え、均一な組成物が製造できる。
<フィラー(C)>
前記フィラー(C)としては、有機フィラーまたは無機フィラーを使用することができる。有機フィラーとしては例えば、耐熱性樹脂であるポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、液晶ポリエステルなどの粉末が挙げられる。また、無機フィラーとしては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、ジルコニア(ZrO2)、窒化硅素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO2)、硫酸バリウム(BaSO4)、有機ベントナイト、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、中でも分散の容易さや耐熱性向上効果からシリカが好ましい。
【0032】
前記シリカとしては一般に疎水性シリカと親水性シリカが知られているが、ここでは耐吸湿性を付与する上でジメチルジクロロシランやヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン等で処理を行った疎水性シリカの方が好ましい。
【0033】
フィラー(C)を配合する場合、その配合量は、本発明の共重合体(A)100質量部に対し、0.05~100質量部の配合量であることが好ましく、より好ましくは1~80質量部、さらに好ましくは10~60質量部、とりわけ好ましくは20~50質量部である。前記下限値以上とすることで更なる耐熱性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることでフィラー(C)の分散不良や溶液粘度が高くなりすぎることを抑え、作業性が良好となる。
【0034】
<架橋剤>
本接着剤組成物においては架橋剤を含んでよく、架橋剤として、2以上の反応性基を有する架橋剤が挙げられる。反応性基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、ビニルフェニル基、マレイミド基等を挙げることができる。
【0035】
2以上の反応性基を有する架橋剤としては、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等を挙げることができ、これらから選択される少なくとも1種を用いることができる。特に好ましくはトリアリルイソシアヌレートである。架橋剤は、共重合体(A)およびポリオレフィン樹脂(B)の合計100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下、好ましくは2質量部以上80質量部以下、より好ましくは3質量部以上50質量部以下、特に好ましくは4質量部以上30質量部以下の量で含むことができる。
【0036】
<その他の成分>
その他、各用途の目的や要求特性に応じて、難燃剤、酸発生剤、耐熱向上剤、現像助剤、可塑剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、揺変化剤、揺変助剤、界面活性剤、シラン系やアルミニウム系、チタン系などのカップリング剤、多価フェノール化合物、有機溶剤等のその他の成分が配合されても良い。
【0037】
本発明の接着剤組成物は、周波数10GHzにおける比誘電率(εc)が2.4以下であることが好ましい。より好ましくは2.2以下であり、さらに好ましくは2.1以下である。下限は特に限定されないが、実用上は2.0である。また、周波数1GHz~60
GHzの全領域における比誘電率(εc)が2.7以下であることが好ましく、2.6以下であることがより好ましく、2.3以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の接着剤組成物は、周波数10GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.0020未満であることが好ましい。より好ましくは0.0018未満であり、さらにより好ましくは0.0015未満である。下限は特に限定されないが、実用上は0.0001以上である。また、周波数1GHz~60GHzの全領域における誘電正接(tanδ)が0.0025以下であることが好ましく、0.0020未満であることがより好ましく、0.0015未満であることがさらに好ましい。
【0039】
<ラジカル発生剤>
本発明の接着剤組成物はラジカル発生剤を含むこともできる。本発明の接着剤組成物は加熱によってラジカル発生剤なしに不飽和結合を有する化合物との反応を進めることもできるが、ラジカル発生剤によって発生したラジカルが不飽和炭化水素基同士を効率的に反応させ、架橋密度を高めることで、耐熱性や誘電特性を向上させることができる。ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ターシャリブチルパーオキシ)ヘキサン等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。誘電特性の観点から酸素以外のヘテロ原子を含まないラジカル発生剤が好ましい。
【0040】
<用途>
本実施形態の接着剤組成物の利用形態としては、特に限定されないが、例えば、上記接着剤組成物からなる樹脂膜、上記樹脂膜をキャリア基材上に設けたキャリア付樹脂膜、上記接着剤組成物を繊維基材に含浸してなるプリプレグ、上記プリプレグの硬化物の少なくとも一面に金属層が配置された金属張積層板、上記接着剤組成物の硬化物で構成された絶縁層を備える樹脂基板、上記金属張積層板または上記樹脂基板の表面に回路層が形成されたプリント配線基板等が挙げられる。
【0041】
<樹脂基板>
本実施形態の樹脂基板は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えることができる。このような樹脂基板は、ガラス繊維を含まない構成とすることができ、プリント配線基板に利用することができる。
【0042】
<プリプレグ>
本実施形態のプリプレグは、上記接着剤組成物を繊維基材に含浸してなるものである。例えば、プリプレグは、接着剤組成物を繊維基材に含浸させ、その後、半硬化させて得られるシート状の材料として利用できる。このような構造のシート状材料は、誘電特性、高温多湿下での機械的、電気的接続信頼性等の各種特性に優れ、プリント配線基板の絶縁層の製造に適している。
【0043】
接着剤組成物を繊維基材に含浸させる方法としては、特に限定されないが、例えば、接着剤組成物を溶剤に溶かして樹脂ワニスを調製し、繊維基材を上記樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーターにより上記樹脂ワニスを繊維基材に塗布する方法、スプレーにより上記樹脂ワニスを繊維基材に吹き付ける方法、接着剤組成物からなる上記樹脂膜で繊維基材の両面をラミネートする方法等が挙げられる。
【0044】
本実施形態において、プリプレグは、例えば、プリント配線基板におけるビルドアップ層中の絶縁層やコア層中の絶縁層を形成するために用いることができる。プリプレグをプリント配線基板におけるコア層中の絶縁層を形成するために用いる場合は、例えば、2枚以上のプリプレグを重ね、得られた積層体を加熱硬化することによりコア層用の絶縁層とすることもできる。
【0045】
上記繊維基材としては、とくに限定されないが、ガラス織布、ガラス不織布等のガラス繊維基材;ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維、全芳香族ポリアミド樹脂繊維等のポリアミド系樹脂繊維;ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維、全芳香族ポリエステル樹脂繊維等のポリエステル系樹脂繊維;ポリイミド樹脂繊維、フッ素樹脂繊維のいずれかを主成分とする織布または不織布で構成される合成繊維基材;クラフト紙、コットンリンター紙、あるいはリンターとクラフトパルプの混抄紙等を主成分とする紙基材;等が挙げられる。これらのうち、いずれかを使用することができる。これらの中でもガラス繊維基材が好ましい。これにより、低吸水性で、高強度、低熱膨張性の樹脂基板を得ることができる。
【0046】
繊維基材の厚みは、とくに限定されないが、好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは12μm以上90μm以下である。このような厚みを有する繊維基材を用いることにより、プリプレグ製造時のハンドリング性がさらに向上できる。
【0047】
繊維基材の厚みが上記上限値以下であると、繊維基材中の接着剤組成物の含浸性が向上し、ストランドボイドや絶縁信頼性の低下の発生を抑制することができる。また炭酸ガス、UV、エキシマ等のレーザーによるスルーホールの形成を容易にすることができる。また、繊維基材の厚みが上記下限値以上であると、繊維基材やプリプレグの強度を向上させることができる。その結果、ハンドリング性が向上できたり、プリプレグの作製が容易となったり、樹脂基板の反りを抑制できたりする。
【0048】
上記ガラス繊維基材として、例えば、Eガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、NEガラス、UTガラス、Lガラス、HPガラスおよび石英ガラスから選ばれる一種または二種以上のガラスにより形成されたガラス繊維基材が好適に用いられる。
【0049】
<金属張積層板>
本実施形態において、金属張積層板は、上記プリプレグの硬化物の少なくとも一面に金属層が配置されたものである。また、プリプレグを用いた金属張積層板製造方法は、例えば以下の通りである。
【0050】
プリプレグまたはプリプレグを2枚以上重ね合わせた積層体の外側の上下両面または片面に金属箔を重ね、ラミネーター装置やベクレル装置を用いて高真空条件下でこれらを接合する、あるいはそのままプリプレグの外側の上下両面または片面に金属箔を重ねる。また、プリプレグを2枚以上積層するときは、積層したプリプレグの最も外側の上下両面もしくは片面に金属箔を重ねる。次いで、プリプレグと金属箔とを重ねた積層体を加熱加圧成形することで金属張積層板を得ることができる。ここで、加熱加圧成形時に、冷却終了時まで加圧を継続することが好ましい。
【0051】
上記金属箔を構成する金属としては、例えば、銅、銅系合金、アルミ、アルミ系合金、銀、銀系合金、金、金系合金、亜鉛、亜鉛系合金、ニッケル、ニッケル系合金、錫、錫系合金、鉄、鉄系合金、コバール(商標名)、42アロイ、インバー、スーパーインバー等のFe-Ni系の合金、W、Mo等が挙げられる。これらの中でも、金属箔105を構成
する金属としては、導電性に優れ、エッチングによる回路形成が容易であり、また安価であることから銅または銅合金が好ましい。すなわち、金属箔105としては、銅箔が好ましい。また、金属箔としては、キャリア付金属箔等も使用することができる。金属箔の厚みは、好ましくは0.5μm以上20μm以下であり、より好ましくは1.5μm以上18μm以下である。本実施形態によれば、このような樹脂膜やそれを用いたプリプレグを採用することにより、平面方向における線膨張係数が低減されたプリント配線基板における絶縁層を構成することが可能になる。
【0052】
<プリント配線基板>
本実施形態のプリント配線基板は、上記の接着剤組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えるものである。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例において、単に部とあるのは質量部を示すこととする。
【0054】
<重量平均分子量および分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の条件にて測定し、解析ソフト(LabSolutions(TM)島津製作所社製)を用いて、合成例及び比較合成例で製造した共重合体について標準ポリスチレンに換算した重量平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)の値を算出した。
測定装置:東ソー製HLC-8220
カラム:TSKgelsuperHM-H2本およびSuperH25001本を直列に接続検出器:示差屈折率(RI)検出器
溶液調整:テトラヒドロフランを溶媒とし、サンプルの0.05重量%溶液を用いる
カラム温度:40℃
注入量:20μL
流速:0.6ml/分
【0055】
<側鎖不飽和結合定量測定>
600MHzの核磁気共鳴スペクトル装置(以下、NMRと略記することがある)を用いて、1H-NMR測定を以下の条件により行い、共重合体の側鎖に不飽和結合が導入されたか確認した。
(1H-NMR測定条件)
装置:BRUKER社製AVANCENEO600分光計
測定溶媒:重クロロホルム
試料濃度:約20mg/約0.60mL
共鳴周波数:600MHz
フリップ角:30度
データ取得時間:4秒
パルス繰り返し時間:1秒
積算回数:64
測定温度:50℃
【0056】
(合成例1、共重合体a1)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、窒素導入管を備えた反応容器に、スチレン(東京化成工業社製)100.0質量部、ナイパーBMT-K40(日油社製、ベンゾイルパーオキサイド)9.38質量部(40%キシレン希釈)、ノフマーMSD(日油社製、α―メチルスチレンダイマー)1.25質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)2.50質量部を仕込み、溶媒としてトルエン(ナカライテスク社製)70
.94質量部に溶解させた。その後、窒素気流下、撹拌しながら、100℃で6時間反応させた後、50℃まで冷却した。次に触媒として4-ジメチルアミノピリジン(ナカライテスク社製)0.031質量部を加え、無水メタクリル酸(東京化成工業社製)3.86質量部を50℃で3時間反応させた。得られた重合溶液に対して、ヘキサン(東京化成工業社製)を用いて再沈殿を行い、沈殿物を濾過にて回収し、乾燥した。得られた試料10mgを重クロロホルム0.6mlに溶解後、その溶液をNMRチューブに充填し核磁気共鳴法(1H-NMR)で測定を行った。ロック溶媒には重クロロホルムを用い、積算回数は64回とした。測定装置はBRUKER社製NMR装置AVANCE-NEO600(共鳴周波数600MHz)を用いて測定を行った。重クロロホルムのピークを7.14ppmとした時、側鎖不飽和結合に由来するピーク(5.5ppm、6.0ppm)が生成していることを確認した。前記条件で測定された、得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は21,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.91であった。得られた樹脂の不飽和末端基導入率は、96%であった。
【0057】
(合成例2~3、比較合成例1~3)
共重合体を合成する際の、共重合モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤の種類および量比を表1に示しように変更した。また、得られた共重合体a2~a6の側鎖不飽和結合に由来するピーク(5.6ppm、6.1ppm)が生成していることを確認した。
【0058】
【表1】
【0059】
(比較合成例4)
温度計、冷却管、分留管、撹拌機を取り付けたフラスコに窒素パージを施しながら、アニリン559重量部、α,α,α’,α’-テトラメチルベンゼンジメタノール291重量部(富士フィルム和光純薬株式会社製)、トルエン360重量部を加え、35%塩酸水溶液63重量部を加え、攪拌を開始した。脱水により生成する水をトルエンとともに抜き出しながら内温を160℃まで昇温し、15時間反応させた。室温まで放冷し、抜き出したトルエンおよび水を系内へ戻し、30%水酸化ナトリウム水溶液88重量部添加し、中和を施した。その後、廃液が中性になるまで有機層を水洗後濃縮して芳香族アミンを得た。温度計、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコにトルエン75重量部、スチレン-マレイン酸共重合体(SMAEF80、クレイバレー社製、酸価:120、Mw:14400)11.2重量部、上記合成で得られた芳香族アミン14.8重量部、メタンスルホン酸0.6重量部を仕込み、110℃で4時間反応させた。放冷後、無水マレイン酸8.8重量部を加え、還流下16時間反応を継続した。放冷後、有機層を水100部で5回洗浄した。加熱減圧下において溶剤を留去することにより目的の化合物を褐色固形樹脂(a7)として得た(Mn:1600、Mw:14000)。得られた化合物に、不飽和結合に由来するピーク(7.08ppm)が生成していることを確認した。
【0060】
<接着剤組成物の評価>
(比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ))
接着剤組成物を厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートに、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、140℃で3分乾燥した。次いで180℃で3時間熱処理して硬化させた後、テフロン(登録商標)シートを剥離して試験用の接着剤樹脂シートを得た。その後得られた試験用接着剤樹脂シートを8cm×3mmの短冊状にサンプルを裁断し、試験用サンプルを得た。比誘電率(εc)及び誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、温度23℃、周波数10GHzの条件で測定した。
<比誘電率の評価基準>
○:2.4以下
×:2.4を超える
<誘電正接の評価基準>
◎:0.0015未満
○:0.0015以上、0.0020未満
×:0.0020以上
【0061】
(ピール強度(接着強度))
接着剤組成物を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル(登録商標))に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を厚さ18μmの圧延銅箔(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エスパネックスシリーズ)と貼り合わせた。貼り合わせは、圧延銅箔の光沢面が接着剤層と接する様にして、170℃で2MPaの加圧下に280秒間プレスし、接着した。次いで180℃で3時間熱処理して硬化させ、ピール強度評価用サンプルを得た。ピール強度は、25℃、フィルム引き、引張速度50mm/min、90°剥離の条件で測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。<評価基準>
○:1.0N/mm以上
×:1.0N/mm未満
【0062】
(はんだ耐熱性)
上記のピール強度測定用と同じ方法で評価用サンプルを作製し、2.0cm×2.0c
mのサンプル片を288℃で溶融したはんだ浴に浸漬し、膨れなどの外観変化の有無を確認した。
<評価基準>
◎:60秒以上膨れ無し
○:30秒以上60秒未満で膨れ有り
×:30秒未満で膨れ有り
【0063】
(ゲル分率)
接着剤組成物を厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートに、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、140℃で3分乾燥した。次いで180℃で3時間熱処理して硬化させた後、テフロン(登録商標)シートを剥離して試験用の接着剤樹脂シートを得た。その後得られた試験用接着剤樹脂シートを8cm×3mmの短冊状にサンプルを裁断し、試験用サンプルを得た。試験用サンプルの重量測定後、トルエン溶液に1時間浸漬した。その後、溶液を濾過にて濾物を回収し、100℃1時間乾燥し、重量測定を行った。下式にてゲル分率を算出した。ゲル分率により、低温で硬化可能であるか評価した。
(乾燥後の重量)÷(乾燥前の重量)×100=ゲル分率(%)
○:75%以上
×:75%未満
【0064】
以下、本発明の実施例となる接着剤組成物、及び比較例となる接着剤組成物の製造例を示す。
なお、接着剤組成物には、以下のものを用いた。
<無水マレイン酸変性共重合体>
a8:スチレン-マレイン酸共重合体(SMAEF80、クレイバレー社製、酸価:20mgKOH/g、Mw:14,400)
<ポリオレフィン樹脂(B)>
B-1:ポリブタジエン(B-1000、日本曹達社製)
B-2:ポリブタジエン(B-2000、日本曹達社製)
B-3:ポリブタジエン(BAC-45、大阪有機化学工業社製)
<フィラー(C)>
C-1:シリカ(GTグレード、デンカ社製)
<ラジカル発生剤>
有機過酸化物(ルペロックス12、アルケマ吉富社製)
<その他>
トリアリルイソシアヌレート(TAIC、三菱ケミカル製)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER152、三菱ケミカル社製)
【0065】
<実施例1>
前記の合成例で得た共重合体(a1)100重量部をトルエン400重量部で溶解し、トルエンワニスを作成した。このトルエンワニスに、(B1)を共重合体(a1)100重量部に対して25重量部となるように配合し、接着剤組成物(S1)を得た。得られた接着剤組成物(S1)について、比誘電率、誘電正接、ピール強度、はんだ耐熱性の各評価を実施した。結果を表2に記載した。
【0066】
<実施例2~4、比較例1~5>
接着剤組成物を得る際の共重合体(樹脂)、ポリオレフィン樹脂(B)、フィラー(C)、ラジカル発生剤、トリアリルイソシアヌレート、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の種類および量比を表2に示したように変更し配合した。
【0067】
【表2】
表1から明らかなように、実施例1~4では、ゲル分率、誘電特性、ピール強度、はんだ耐熱性に優れる。一方、比較例1では、共重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が多く、誘電特性に劣った。比較例2では、共重合体の重合開始末端に窒素原子を含有するため、誘電特性に劣った。比較例3では、共重合体の停止末端(連鎖移動末端)に硫黄原子を含有するため、誘電特性に劣った。比較例4ではゲル分率が低く、はんだ耐熱性が不足した。比較例5では、硬化にエポキシ樹脂を配合しているために、接着剤組成物としての誘電特性が悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の共重合体を含有する接着剤組成物は、耐熱性、接着強度及び誘電特性に優れ、なおかつ、より低温で硬化することが可能である。そのため、高周波領域のプリント基板(フレキシブル基板,リジッド基板,パッケージ基板)に適用するプリント配線板用接着剤や接着シートとして有用である。