(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171901
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20241205BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241205BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241205BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089183
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】宮田 大輝
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006MA03
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB11
4D006MB13
4D006MB16
4D006MB20
4D006MC26
4D006MC28
4D006MC30X
4D006NA10
4D006NA39
4D006NA65
4D006NA70
4D006PA01
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4D006PB18
4D006PB22
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4D006PC01
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4D006PC41
4F074AA39
4F074CA03
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4F074DA02
4F074DA03
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下を抑制できる多孔質膜を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係る多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、表面の算術平均粗さRaが70nm以下であり、イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、
表面の算術平均粗さRaが70nm以下であり、
イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下である多孔質膜。
【請求項2】
空孔率が40体積%以上80体積%以下である請求項1に記載の多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンを用いた多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンの高い耐熱性、化学的安定性、耐候性、不燃性、高強度、非粘着性、低摩擦係数等の特性と、多孔質による可撓性、低誘電率等の特性とを有する。そのため、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする多孔質膜は、半導体関連分野、液晶関連分野および食品医療関連分野における分散媒および気体の精密濾過フィルタとして多用されている。従来技術においては、濾過フィルタとして、粒子径が0.1μm未満の微粒子を捕捉できるポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする多孔質膜を用いた多孔質膜積層体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、表面の算術平均粗さRaが70nm以下であり、イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る多孔質膜を示す模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
多孔質膜は、濾過処理を行うにつれて膜表面に不純物が固着していく。不純物としては、原水中に存在するフミン質のような天然有機化合物などを含む濁質が固着しやすい。濁質が固着すると、目詰まりが生じやすくなりため、本来濾過されるべき液体の濾過効率が低下する原因となる。
【0007】
本開示は、濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下を抑制できる多孔質膜を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の多孔質膜によれば、濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下を抑制できる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
本開示の一態様に係る多孔質膜は、
(1)ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とし、表面の算術平均粗さRaが70nm以下であり、イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下である。
【0011】
当該多孔質膜がポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とすることにより、耐薬品性および機械的強度を向上できる。当該多孔質膜の表面の算術平均粗さRaが70nm以下であることで、多孔質膜の表面に対する濁質の物理的な固着を低減できるため、濾過効率の低下を抑制できる。また、当該多孔質膜のイソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下であることにより、濾過性能を良好に維持できる。従って、当該多孔質膜は、濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下の抑制できる。
【0012】
ここで、「主成分」とは、質量換算で最も含有割合の大きい成分をいい、例えば含有割合が50質量%を超える成分であり、70質量%以上の成分であってもよく、95質量%以上の成分であってもよい。「濁質」には、上記フミン質のような天然有機化合物以外にも例えば砂、シリカや炭酸カルシウムなどの粒子、鉄粉、微生物、木片が含まれる。「イソプロパノールバブルポイント」とは、イソプロパノールを用い、JIS-K3832(1990)に準拠して測定される値であり、孔から液体を押し出すのに必要な最小の圧力を示し、孔径の平均に対応した指標である。上記「算術平均粗さRa」とは、JIS-B0601:2013に準拠してカットオフ値(λc)2.5mm、評価長さ(l)8mmで測定される値を意味する。
【0013】
(2)上記(1)において、当該多孔質膜の空孔率が40体積%以上80体積%以下であってもよい。このように、当該多孔質膜の空孔率を上記範囲とすることで、当該多孔質膜の強度を維持しつつ液体の透過性を十分に高めることができる。ここで、「空孔率」とは、空孔を有する多孔質膜の体積に対する多孔質膜内の空孔の合計体積の百分率をいう。この空孔率は、空孔を有する多孔質膜の固体分の質量および密度から算出される実体積をV0、空孔を有する多孔質膜の空孔を含むみかけの体積をV1とするとき、(V1-V0)×100/V1で算出することができる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る多孔質膜について図面を参照しつつ詳説する。
【0015】
<多孔質膜>
図1は、本開示の一実施形態に係る多孔質膜を示す模式的部分断面図である。シート状の多孔質膜1は、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする。多孔質膜1は、2軸延伸多孔質膜から構成される。この2軸延伸多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするシートの表面を直交する2方向に延伸して多孔質化したものである。多孔質膜1は、微細な不純物の透過を防止しつつ、濾過を行う液体または気体を厚さ方向に透過させる。
【0016】
ポリテトラフルオロエチレンおよび変性ポリテトラフルオロエチレンは耐薬品性および耐溶剤性に優れたフッ素樹脂であるため、濾過を行う液体または気体の種類の選択の幅が向上する。また、ポリテトラフルオロエチレンおよび変性ポリテトラフルオロエチレンは疎水性が高いフッ素樹脂であるため、多孔質膜1からの液体の漏れが抑制されるとともに、気体の透過性を向上できる。
【0017】
変性ポリテトラフルオロエチレンとは、例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、アルキルビニルエーテル(AVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)が、テトラフルオロエチレンに対して少量の割合で共重合されたポリテトラフルオロエチレンを言う。これらの成分のテトラフルオロエチレンに対する割合としては、1/50(モル比)以下であってもよい。
【0018】
多孔質膜1の平均厚さの下限としては、2μmであってもよく、5μmであってもよい。一方、多孔質膜1の平均厚さの上限としては、50μmであってもよく、40μmであってもよい。上記平均厚さが2μmに満たないと、多孔質膜1の強度が不十分となるおそれがある。一方、上記平均厚さが50μmを超えると、多孔質膜1が不必要に厚くなり、濾過液を透過させる際の圧力損失が大きくなるおそれがある。多孔質膜1の平均厚さが上記範囲であることで、多孔質膜1の強度および濾過処理効率を両立させることができる。「平均厚さ」は、任意の10点の厚さの平均値をいい、標準型デジタルシックネスゲージを使用して測定される。
【0019】
多孔質膜1の表面の算術平均粗さRaの上限としては、70nmであり、65nmであってもよく、60nmであってもよく、55nmであってもよい。多孔質膜1の表面の算術平均粗さRaが70nmを超える場合、濁質が物理的に多孔質膜1に固着しやすくなり、多孔質膜1の濾過効率が低下するおそれがある。多孔質膜1の表面の算術平均粗さRaは、製造時の延伸条件や焼結条件によって調整することができる。一方、上記算術平均粗さRaの下限としては、特に限定されず、0nmであってもよい。
【0020】
当該多孔質膜1のイソプロパノールバブルポイントの下限としては、180kPaであり、185kPaであってもよい。一方、当該多孔質膜1のイソプロパノールバブルポイントの上限としては、250kPaであり、245kPaであってもよい。当該多孔質膜1のイソプロパノールバブルポイントが180kPaに満たない場合、不純物を十分に分離できないおそれがある。当該多孔質膜1のイソプロパノールバブルポイントが250kPaを超える場合、当該多孔質膜1の透水量が不十分となり、当該多孔質膜1の濾過効率が低下するおそれがある。
【0021】
当該多孔質膜1の空孔率の下限としては、40体積%であってもよく、50体積%であってもよい。一方、上記空孔率の上限としては、80体積%であってもよく、70体積%であってもよい。上記空孔率が40体積%に満たないと、当該多孔質膜1の液体の透過性が不十分となるおそれがある。一方、上記空孔率が80体積%を超えると、当該多孔質膜1の機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0022】
当該多孔質膜1は、ポリテトラフルオロエチレンおよび変性ポリテトラフルオロエチレンの他、本開示の所望の効果を害しない範囲で他のフッ素樹脂や添加剤を含有していてもよい。上記添加剤としては、例えば耐摩耗性の改良、空孔生成の容易化のための無機充填剤、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉が挙げられる。
【0023】
[多孔質膜の製造方法]
次に、当該多孔質膜の製造方法の例について説明する。当該多孔質膜の製造方法は、例えばポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末をブロック状の1次成形体に成形する工程(1次成形体成形工程)と、上記1次成形体をシート状に押出成形する工程(押出成形工程)と、上記シート体を加熱しつつ、二軸方向に延伸する工程(延伸工程)と、延伸したシート体をポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度に焼結する工程(焼結工程)とを備える。
【0024】
(1次成形体成形工程)
1次成形体成形工程では、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末に液体潤滑剤を配合した材料を圧縮成形機により、ブロック状の一次成形体に圧縮成形する。原料のポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えばポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの微細粉末を用いる。具体的には、乳化重合により製造されるポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーや懸濁重合により製造されるポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンのモールディングパウダーを挙げることができる。
【0025】
ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末(以下、原料粉末ともいう。)に配合される液体潤滑剤としては、従来からペースト押出法で用いられている各種潤滑剤を使用することができる。例えばナフサ、ホワイトオイル等の石油系溶剤、ウンデカン等の炭化水素油、トルオール、キシロール等の芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、シリコーンオイル、フルオロクロロカーボンオイル、これらの溶剤にポリイソブチレン、ポリイソプレンなどのポリマーを溶かした溶液、これらの2つ以上の混合物、界面活性剤を含む水溶液が挙げられる。
【0026】
液体潤滑剤の配合量の下限としては、原料粉末100質量部に対して20質量部であってもよく、22質量部であってもよい。一方、液体潤滑剤の配合量の上限としては、原料粉末100質量部に対して28質量部であってもよく、25質量部であってもよい。液体潤滑剤の配合量が20質量部に満たない場合、潤滑性が不足して次の押出成形工程でのシート状への押出成形が困難となるおそれがある。一方、液体潤滑剤の配合量が28質量部を超える場合、後の延伸工程でシート体が断裂しやすくなるおそれがある。
【0027】
(押出成形工程)
押出成形工程では、押出成形機によって1次成形体をシート状に成形する。この押出成形は、ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの融点より低い温度で行われ、一般的には常温で行われる。
【0028】
また、押出成形工程では、ダイから押し出されるシート体を加熱して、液体潤滑剤を揮発させてもよい。このように液体潤滑剤を除去することによって次の延伸工程でのシート体の延伸を安定して行うことができる。
【0029】
(延伸工程)
延伸工程では、成形体である上記シート体を加熱しつつ、二軸方向に延伸する。本工程により、気孔が形成され、多孔質膜を得ることができる。本工程では、縦方向(流れ方向)および縦方向と直交する横方向(幅方向)に順次シート体を延伸することで、2軸延伸多孔質膜を得る。
【0030】
2軸延伸における縦延伸の倍率としては、1.5倍以上10倍以下であってもよく、2倍以上8倍以下であってもよい。また、横延伸の倍率としては、3倍以上16倍以下であってもよく、4倍以上15倍以下であってもよい。
【0031】
延伸時の加熱温度の下限としては、200℃であってもよく、220℃であってもよい。一方、延伸時の加熱温度の上限としては、300℃であってもよく、280℃であってもよい。延伸時の加熱温度が200℃に満たない場合、シート体の延伸速度を十分に大きくできないおそれがある。一方、延伸時の加熱温度が300℃を超える場合、温度のばらつきによりポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの融点を超えてシート体を断裂させるおそれがある。
【0032】
(焼結工程)
焼結工程では、延伸したシート体をポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度に焼結する。これにより、当該多孔質膜の2軸方向への配向度を緩和し、良好な範囲に調整することができる。焼結工程の加熱温度としては、350℃以上600℃以下であってもよく、加熱時間としては5分以上60分以下であってもよい。
【0033】
焼結工程における加熱炉としては、メッシュベルトコンベアに対象物を載せて加熱炉内を炉入口から炉出口側へ移動する構造を有する加熱炉を用いてもよい。この加熱炉の炉内には電熱等のヒーター源が組み込まれており、対象物は炉入口から炉内へ移動されつつ加熱および冷却され、炉出口側に移送される。
【0034】
当該多孔質膜によれば、濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下を抑制できる。
【0035】
[その他の実施形態]
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0036】
上記実施形態においては、シート状の多孔質膜であったが、当該多孔質膜の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば中空糸状の多孔質膜であってもよい。
【実施例0037】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<多孔質膜 試験No.1~No.6>
原料粉末としてポリテトラフルオロエチレンの微細粉末を用いた。原料粉末に液体潤滑剤であるナフサを原料粉末100質量部に対して18質量部混合して、予備成形機でブロック状に押し固めた。そして、押出機を用いてシート体を成形した。シリンダーとダイス温度は50℃とした。
【0039】
次に、上記シート体を140℃で二軸延伸し、表1に示す平均厚さのシート体を得た。
【0040】
次に、試験No.1~No.6の延伸したシート体について、焼結を実施した。具体的には、No.1およびNo.2のシート体は、メッシュベルトコンベアを備える加熱炉のヒーターを380℃まで加熱し、メッシュベルトコンベアにシート体を載せて600Nの荷重で圧着しながら搬送することにより焼結した。また、試験No.3~No.6のシート体については、通常の加熱炉を500℃に設定して焼結した。
【0041】
[物性値の測定]
(イソプロパノール(IPA)バブルポイント)
IPAバブルポイント[kPa]は、試験液としてイソプロパノールを用い、JIS-K3832(1990)に準拠して測定した。
【0042】
(算術平均粗さRa)
No.1~No.6の多孔質膜表面の算術平均粗さRa[nm]は、JIS-B0601:2013に準拠してカットオフ値(λc)2.5mm、評価長さ(l)8mmで測定した。
【0043】
(空孔率)
No.1~No.6の多孔質膜の固体分の質量および密度から算出される実体積V0および各多孔質膜の空孔を含むみかけの体積V1を求め、これらV0およびV1の値から、下記式により空孔率(単位:体積%)を算出した。上記空孔率の算出は、n=6で実施し、その平均値を求めた。
空孔率[体積%]=(V1-V0)×100/V1
【0044】
(濁質の固着量)
濁質としてフミン酸ナトリウムを用いた。そして、純水にフミン酸ナトリウムを溶解させた10000ppmのフミン酸ナトリウム溶液をNo.1~No.6の円形の円形シート状の多孔質膜(Φ50:1962.5mm2)を用いて濾過した後と、濾過後に逆洗浄を行った後の各多孔質膜表面に対する濁質の固着量[mg/1962.5mm2]を算出した。逆洗浄とは、濾過時における溶液の流れとは逆向きに洗浄液を流して、濾過器内の濾過部材等を洗浄することである。一般に、外圧式濾過モジュールでは、原液処理後に逆洗浄による洗浄が実施されている。逆洗浄後の濁質の固着量を算出することで、洗浄後においても各多孔質膜表面に残存する濁質の量を確認することができる。
評価条件および手順は以下の通りである。
(1)濾過後における濁質の固着量
表面積がΦ50:1962.5mm2の各多孔質膜に10000ppmのフミン酸ナトリウム溶液200mLを100KPaの供給圧力で濾過した。濾過後における各多孔質膜を40℃恒温槽で24時間放置して乾燥した後、各多孔質膜の質量を測定した。濾過後における濁質の固着量は、下記式により求めた。
濾過後における濁質の固着量[mg/1962.5mm2]
=濾過後の多孔質膜の質量-濾過前(未使用品)の多孔質膜の質量
(2)逆洗浄後における濁質の固着量
濾過後における各多孔質膜を、洗浄液として純水200mLを用いて100KPaの供給圧力で逆洗浄した。逆洗浄後における各多孔質膜を40℃恒温槽で24時間放置して乾燥した後、各多孔質膜の質量を測定した。逆洗浄後における濁質の固着量は、下記式により求めた。
逆洗浄後における濁質の固着量[mg/1962.5mm2]
=逆洗浄後の多孔質膜の質量-濾過前(未使用品)の多孔質膜の質量
【0045】
(純水流量低下率による濾過効率の評価)
表面積がΦ50の各多孔質膜について、濾過前の未使用品および10000ppmのフミン酸ナトリウム溶液200mLを100KPaの供給圧力で濾過した後のもののそれぞれの純水透過量を測定した。純水透過量は、100kPの供給圧力で1分間の純水透過量を測定することにより求めた。
純水流量低下率[%]は、下記式により算出した。
純水流量低下率[%]={1-(フミン酸ナトリウム溶液濾過後の純水流量/濾過前の多孔質膜の純水流量)}×100
なお、多孔質膜の試料を電子顕微鏡により断面観察すると、フミン酸ナトリウムの大半が多孔質膜の表面に積層され、多孔質膜の空孔内にはほとんど存在していないことが確認されており、多孔質膜の厚さは純水流量低下率にほぼ影響がないと考えられる。
【0046】
試験No.1~No.6の多孔質膜における平均厚さ、算術平均粗さRa、IPAバブルポイント、空孔率、濁質の固着量および純水流量低下率の評価結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示すように、表面の算術平均粗さRaが70nm以下であり、イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下であるNo.1の多孔質膜は、濾過後および逆洗浄後の濁質の固着量が少なく、純水流量低下率が抑制されていた。
【0049】
一方、イソプロパノールバブルポイントが180kPa以上250kPa以下であるが、表面の算術平均粗さRaが70nmを超えるNo.2~No.5の多孔質膜、ならびにイソプロパノールバブルポイントが180kPa未満かつ表面の算術平均粗さRaが70nmを超えるNo.6の多孔質膜は、濾過後および逆洗浄後の濁質の固着量がNo.1の多孔質膜よりも多く、純水流量低下率が高くなっていた。
【0050】
以上のように、当該多孔質膜は、濾過時の濁質の固着による濾過効率の低下を抑制できることが示された。従って、当該多孔質膜は、廃水処理等の濾過装置に好適に用いることができる。