(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171917
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ナノ粒子、ナノ粒子の製造方法、乳化物
(51)【国際特許分類】
B01J 13/08 20060101AFI20241205BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20241205BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/42 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20241205BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20241205BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20241205BHJP
B01J 2/10 20060101ALI20241205BHJP
B01F 101/21 20220101ALN20241205BHJP
【FI】
B01J13/08
A61Q1/00
A61Q5/00
A61K8/36
A61K8/44
A61K8/42
A61K8/63
B01F23/41
B01J2/00 A
B01J2/10 A
B01F101:21
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089276
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】500578146
【氏名又は名称】株式会社ミロット
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】小松 亜衣
【テーマコード(参考)】
4C083
4G004
4G005
4G035
【Fターム(参考)】
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC251
4C083AC252
4C083AC581
4C083AC582
4C083AC641
4C083AC642
4C083AD112
4C083AD491
4C083AD492
4C083CC02
4C083CC31
4C083DD16
4C083DD32
4C083DD33
4C083DD34
4C083EE01
4C083EE03
4C083EE07
4C083FF01
4G004AA01
4G004GA00
4G005AA01
4G005AB14
4G005AB15
4G005BA06
4G005BB08
4G005BB13
4G005DB09Y
4G005DB22X
4G005DB30X
4G005DC04X
4G005DC17X
4G005DC26Y
4G005DC43X
4G005DD12X
4G005DD57X
4G005DD65X
4G005DD78X
4G005EA03
4G035AB40
(57)【要約】
【課題】生体適合性に優れたエマルションを実現するための乳化剤に用いることのできるナノ粒子およびその製造方法、ならびにナノ粒子で乳化されてなる乳化物を提供する。
【解決手段】ナノ粒子は、水中に分散しているナノ粒子であって、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に分散しているナノ粒子であって、
前記ナノ粒子は、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを有する、ナノ粒子。
【請求項2】
前記不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記塩基性アミノ酸は、リシンおよびL-アルギニンの少なくとも一方である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記セラミドは、ヒト型セラミド、植物性セラミドおよび擬似セラミドからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記ステロールは、コレステロールおよびフィトステロールの少なくとも一方である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、前記不飽和脂肪酸と前記塩基性アミノ酸と、前記セラミドおよび前記ステロールの少なくとも一方とのみからなる、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項7】
水中に分散しているナノ粒子の製造方法であって、
不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を得る加熱溶解工程と、
前記混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌してナノ粒子を得る撹拌工程と
を有する、ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記加熱溶解工程において、前記不飽和脂肪酸と前記セラミドおよび前記ステロールの少なくとも一方と共溶媒とを加熱溶解して前記混合液を得る、請求項7に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記共溶媒は、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールまたはペンタンジオールである、請求項8に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ粒子で乳化されてなる、乳化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、ナノ粒子の製造方法、乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代女性の髪は、毎日のシャンプ-やドライヤー、紫外線などの物理的ストレス、ヘアカラ-剤やパーマ剤のようなヘアメイク剤の頻繁な使用による化学的ストレスを受け、さらには昨今では多くの精神的ストレスも受けているのが実態である。このようなストレスが毛髪を構成する毛幹、頭皮、毛根といった各部位に多くの影響を与え、細胞や細胞間脂質、細胞膜複合体(CMC)などの構造変化や破壊を起こさせることで機能性低下を引き起こし、結果として、すべすべ感がない、つやがない、コシがない、弾力がない、ハリがない、パサつきがある、枝毛や切れ毛がある、細い、くせ毛がある、本数が減少する、などといったヘアダメ-ジ現象が今日まで数多く観察されている。
【0003】
これらに対処するため、例えば特許文献1~2のように、これまでに種々研究がなされてきたが、毛幹、中でも毛幹の85%を占めるコルテックスについては多量の補修成分による補修が必須となることから、技術的側面も踏まえ従来から充分な研究がなされてこなかった。そのため、未だコルテックスのダメージを充分解消するに至っていない。
【0004】
コルテックスがストレスを受けると、細胞間脂質のCMCが自身の構造変化や破壊により流失し、この流出に伴い細胞内の潤い成分である天然保湿因子(NMF)、水分、ペプチドの流失が起こると共に、細胞本体の繊維状結晶性タンパクや非結晶性タンパクの変性や破壊が起こり、結果的に髪の潤い、弾力、こし、太さ、硬さ、ハリが失われてしまう。このような現象を抑制して美しい髪を保つには、多量の有効成分を確実にコルテックスに送達しCMCや細胞をしっかり補修改善することが必要である。
【0005】
そのためには、多量の有効成分を運搬するビヒクルが重要で、ベシクルやヘキソソーム、キューボソームなどの分子集合体ではなくエマルションが最適である。しかしながら、従来の分子乳化で得られるエマルションは、キューティクルに吸着した際、すぐに破壊されるため、有効成分をコルテックスに送達させるのが難しい。したがって、毛髪への吸着により破壊が起こりにくく、多くの有効成分をコルテックスに届けることの可能なキャリアーエマルションの創出が望まれている。
【0006】
また、上記では毛髪分野における問題を挙げたが、こうした問題は化粧品全体に共通することであり、生体適合性に優れたエマルションが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2023-010657号公報
【特許文献2】特開2021-172621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生体適合性に優れたエマルションを実現するための乳化剤に用いることのできるナノ粒子およびその製造方法、ならびにナノ粒子で乳化されてなる乳化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 水中に分散しているナノ粒子であって、前記ナノ粒子は、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを有する、ナノ粒子。
[2] 前記不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸である、上記[1]に記載のナノ粒子。
[3] 前記塩基性アミノ酸は、リシンおよびL-アルギニンの少なくとも一方である、上記[1]または[2]に記載のナノ粒子。
[4] 前記セラミドは、ヒト型セラミド、植物性セラミドおよび擬似セラミドからなる群より選択される1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[5] 前記ステロールは、コレステロールおよびフィトステロールの少なくとも一方である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[6] 前記ナノ粒子は、前記不飽和脂肪酸と前記塩基性アミノ酸と、前記セラミドおよび前記ステロールの少なくとも一方とのみからなる、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のナノ粒子。
[7] 水中に分散しているナノ粒子の製造方法であって、不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を得る加熱溶解工程と、前記混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌してナノ粒子を得る撹拌工程とを有する、ナノ粒子の製造方法。
[8] 前記加熱溶解工程において、前記不飽和脂肪酸と前記セラミドおよび前記ステロールの少なくとも一方と共溶媒とを加熱溶解して前記混合液を得る、上記[7]に記載のナノ粒子の製造方法。
[9] 前記共溶媒は、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールまたはペンタンジオールである、上記[8]に記載のナノ粒子の製造方法。
[10] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のナノ粒子で乳化されてなる、乳化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体適合性に優れたエマルションを実現するための乳化剤に用いることのできるナノ粒子およびその製造方法、ならびにナノ粒子で乳化されてなる乳化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、調製当日の実施例31の乳化液を光学顕微鏡で観察した画像である。
【
図2】
図2は、調製当日の実施例32の乳化液を光学顕微鏡で観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、生体適合性に優れたエマルションを実現するためには、三相乳化技術を採用することが有効であることに着目し、CMCとの生体適合性に優れ、その補修も期待されるCMC成分である不飽和脂肪酸やセラミド、ステロールとコルテックス細胞成分である塩基性アミノ酸とを含む物質をナノ粒子とし、三相乳化技術で得られるエマルションの乳化剤としてこのナノ粒子が有効であることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成させるに至った。
【0014】
実施形態のナノ粒子は、水中に分散しているナノ粒子であって、ナノ粒子は、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを有する。
【0015】
実施形態のナノ粒子の製造方法は、水中に分散しているナノ粒子の製造方法であって、不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を得る加熱溶解工程と、混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌してナノ粒子を得る撹拌工程とを有する。
【0016】
実施形態のナノ粒子は、不飽和脂肪酸、塩基性アミノ酸、ならびにセラミドおよびステロールの少なくとも一方を有する。ナノ粒子は、両親媒性油剤であるセラミドおよびステロールについて、セラミドのみを有してもよいし、ステロールのみを有してもよいし、セラミドおよびステロールを有してもよい。
【0017】
ナノ粒子を構成する不飽和脂肪酸としては、生体適合性に優れたエマルションを実現するための三相乳化の乳化剤としてナノ粒子が良好であることから、一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸であることが好ましい。なかでも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸であることがより好ましい。こうしたナノ粒子を含むエマルションは、キューティクルに吸着しても乳化粒子の破壊が起こりにくく、多くの有効成分をコルテックス内に効率よく浸透できる。
【0018】
ナノ粒子を構成する塩基性アミノ酸としては、上記エマルションを実現するための三相乳化の乳化剤としてナノ粒子が良好であることから、リシンおよびL-アルギニンの少なくとも一方であることが好ましい。塩基性アミノ酸は、リシンのみでもよいし、L-アルギニンのみでもよいし、リシンおよびL-アルギニンを併用してもよい。
【0019】
ナノ粒子を構成するセラミドとしては、上記エマルションを実現するための三相乳化の乳化剤としてナノ粒子が良好であることから、ヒト型セラミド、植物性セラミドおよび擬似セラミドからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。なかでも、セラミド2、セラミド3、セラミド5、糖セラミド、疑似セラミドであることがより好ましい。例えば、セラミドは、ヒト型セラミドのみでもよいし、植物性セラミドおよび擬似セラミドを併用してもよい。
【0020】
ナノ粒子を構成するステロールとしては、上記エマルションを実現するための三相乳化の乳化剤としてナノ粒子が良好であることから、コレステロールおよびフィトステロールの少なくとも一方であることが好ましい。ステロールは、コレステロールのみでもよいし、フィトステロールのみでもよいし、コレステロールおよびフィトステロールを併用してもよい。
【0021】
また、ナノ粒子は、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とのみからなってもよい。
【0022】
また、ナノ粒子は、自身が有する不飽和脂肪酸および塩基性アミノ酸について、不飽和脂肪酸および塩基性アミノ酸を含み、水中で自発的にナノ粒子化するイオン性両親媒性物質を有することが好ましい。この場合、ナノ粒子は、イオン性両親媒性物質とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とのみからなってもよい。また、イオン性両親媒性物質としては、不飽和脂肪酸および塩基性アミノ酸のみからなってもよい。
【0023】
また、ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは8nm以上800nm以下、より好ましくは8nm以上500nm以下、さらに好ましくは8nm以上400nm以下である。分散液中に分散しているナノ粒子の平均粒子径が上記範囲であると、上記エマルションを実現するための三相乳化の乳化剤としてナノ粒子が良好であり、エマルションの乳化性を向上できる。
【0024】
分散液中に存在するナノ粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求めることができる。
【0025】
このようなナノ粒子は、親水性であり、水中に分散している。また、ナノ粒子は、CMC成分である不飽和脂肪酸、セラミド、ステロールおよび細胞成分である塩基性アミノ酸から構成されているため、生体適合性に優れている。そのため、ナノ粒子は、三相乳化技術で得られる上記エマルションの乳化剤、すなわち三相乳化能を有する粒子に好適に用いられる。
【0026】
上記エマルションは、三相乳化エマルションであり、O/W型エマルションまたはW/O型エマルションである。
【0027】
O/W型エマルションでは、複数のナノ粒子が粒子状の油滴の油水界面に多数存在する、乳化粒子(三相乳化粒子)を多数含有する。乳化粒子の周囲には、水相が存在し、多数の乳化粒子は水相中に分散される。複数のナノ粒子の各々には互いに斥力が発生する。粒子状の油相の表面にナノ粒子が多数存在する、すなわち油相の表面が多数のナノ粒子で覆われることで、油相同士には斥力が発生する。そのため、水相中での油相同士の凝集、すなわち乳化粒子同士の凝集が抑制され、油相の分散性が維持および向上する。
【0028】
また、W/O型エマルションでは、複数のナノ粒子が粒子状の水滴の油水界面に多数存在する、乳化粒子を多数含有する。乳化粒子の周囲には、油相が存在し、多数の乳化粒子は油相中に分散される。複数のナノ粒子の各々には互いに斥力が発生する。粒子状の水相の表面にナノ粒子が多数存在する、すなわち水相の表面が多数のナノ粒子で覆われることで、水相同士には斥力が発生する。そのため、油相中での水相同士の凝集、すなわち乳化粒子同士の凝集が抑制され、水相の分散性が維持および向上する。
【0029】
このような三相乳化法は、ナノ粒子が、ファンデルワールス力により内相である油相または水相に付着することで、油相(内相)と水相(外相)との界面または水相(内相)と油相(外相)との界面に介在し、油相と水相の乳化を可能とするものである。三相乳化機構は、親水性部分および疎水性部分をそれぞれ水相および油相に向け、油水界面張力を下げることで乳化状態を維持する、界面活性剤による乳化機構とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。
【0030】
次に、実施形態のナノ粒子の製造方法について説明する。
【0031】
実施形態のナノ粒子の製造方法は、加熱溶解工程と撹拌工程とを有する。この製造方法で製造されるナノ粒子は、上記実施形態のナノ粒子である。
【0032】
加熱溶解工程では、不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を得る。混合液には、不飽和脂肪酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とが溶解されている。加熱溶解工程における加熱溶解の温度は、不飽和脂肪酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とが十分に溶解できる温度であり、かつこれらの物質が変性しない温度であれば、特に限定されるものではない。
【0033】
また、加熱溶解工程において、不飽和脂肪酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方と共溶媒とを加熱溶解して混合液を得てもよい。不飽和脂肪酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解するときに、共溶媒を用いることで、混合液を得やすくなる。共溶媒は、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールまたはペンタンジオールであることが好ましい。
【0034】
加熱溶解工程の後に行われる撹拌工程では、加熱溶解工程で得られた混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌してナノ粒子を得る。また、撹拌工程では、加熱した塩基性アミノ酸水溶液を混合液と混合してもよい。撹拌工程における撹拌速度や撹拌温度などの撹拌条件は、混合液と塩基性アミノ酸水溶液との撹拌によってナノ粒子を得ることができれば、特に限定されるものではない。
【0035】
次に、実施形態の乳化物について説明する。
【0036】
実施形態の乳化物は、上記実施形態のナノ粒子で乳化されてなるものである。上記のように、ナノ粒子は、三相乳化能を有する粒子であるため、ナノ粒子で乳化されてなる乳化物は、三相乳化法を適用した三相乳化物である。また、ナノ粒子は生体適合性に優れている。そのため、ナノ粒子を含む乳化物は、キューティクルに吸着しても乳化粒子の破壊が起こりにくく、多くの有効成分をコルテックス内に効率よく浸透できるエマルションに好適である。また、毛髪に加えて、頭皮や皮膚などの化粧品にも応用可能である。
【0037】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0038】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1~10)
まず、表1に示す量の不飽和脂肪酸とステロールとを150℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した塩基性アミノ酸水溶液(水溶液中の塩基性アミノ酸水溶液量および水量は表1に示す量)を添加して混合し、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、ナノ粒子が分散されている分散液を得た。
【0040】
(比較例1)
まず、表1に示す量の不飽和脂肪酸とステロールとを150℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した表1に示す量の水を添加して混合し、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、溶液を得た。すなわち、比較例1では、塩基性アミノ酸を添加しなかった。
【0041】
(実施例11~22)
まず、表2に示す量の不飽和脂肪酸とセラミドとを150℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した塩基性アミノ酸水溶液(水溶液中の塩基性アミノ酸水溶液量および水量は表2に示す量)を添加して混合し、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、ナノ粒子が分散されている分散液を得た。
【0042】
(比較例2)
まず、表2に示す量の不飽和脂肪酸とセラミドとを150℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した表2に示す量の水を添加して混合し、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、溶液を得た。すなわち、比較例2では、塩基性アミノ酸を添加しなかった。
【0043】
(実施例23~27)
まず、表3に示す量の不飽和脂肪酸とステロールとセラミドとを150℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した塩基性アミノ酸水溶液(水溶液中の塩基性アミノ酸水溶液量および水量は表3に示す量)を添加して混合し、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、ナノ粒子が分散されている分散液を得た。
【0044】
上記実施例で得られた分散液および上記比較例で得られた溶液について、下記の測定および評価を行った。その結果を表1~3に示す。
【0045】
[1] ナノ粒子化
ナノ粒子化できた分散液は、外観が半透明となることが既知であるため、以下の判定を行った。
【0046】
○:外観は均一半透明状態であった。
×:外観は不均一または白濁状態であった。
【0047】
[2] ナノ粒子の平均粒子径
所定の実施例で得られた分散液について、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により、ナノ粒子の平均粒子径を求めた。
【0048】
[3] 分散性
調製直後の実施例の分散液および比較例の溶液を目視で観察した。そして、以下のランク付けを行った。
【0049】
○:分散していた。
×:凝集していた。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
上記実施例のように不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を調製し、混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌して得られたナノ粒子は、不飽和脂肪酸と塩基性アミノ酸と、セラミドおよびステロールの少なくとも一方とを有し、表1~3に示すように、ナノ粒子化することができた。さらには、ナノ粒子は、所定の平均粒子径を有し、分散液中で良好な分散性を示した。
【0054】
一方、比較例1~2では、不飽和脂肪酸とセラミドおよびステロールの少なくとも一方とを加熱溶解して混合液を調製し、混合液と塩基性アミノ酸水溶液とを撹拌して製造しなかったため、得られた物質は、ナノ粒子化せず、さらには凝集していたので、平均粒子径を測定できなかった。
【0055】
(実施例28~30)
まず、表4に示す量の不飽和脂肪酸とステロールとセラミドと共溶媒とを85℃に加温し溶解させて、混合液を得た。続いて、混合液に対して、85℃に加温した塩基性アミノ酸水溶液(水溶液中の塩基性アミノ酸水溶液量および水量は表4に示す量)を添加して混合し、250rpm、85℃で10分間撹拌した。撹拌後、常温まで冷却することで、ナノ粒子が分散されている分散液を得た。その結果、実施例28~30では、共溶媒を用いたため、加熱工程が簡便になった。さらには、実施例28~30の分散液は、調製後一か月間室温で保管しても、分散性の低下は見られなかった。このように、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールおよびペンタンジオールは共溶媒として優れていることがわかった。
【0056】
【0057】
(実施例31~37)
上記実施例で得られたナノ粒子が三相乳化の乳化剤として相応しいことを確認するため、三相乳化手法に基づき、表5に示す実施例で得られたナノ粒子分散液をホモミキサーで8000rpm、25℃で撹拌しながら、表5に示す量の油剤を添加して10分間撹拌することで、乳化させた。
【0058】
[4] 乳化性
調製当日の乳化液の乳化状態を目視で観察した。そして、以下のランク付けを行った。結果を表5に示す。
【0059】
○:油水分離がみられなかった。
△:油浮きがわずかにみられた。
×:油水分離がみられた。
【0060】
【0061】
図1は、調製当日の実施例31の乳化液を光学顕微鏡で観察した画像である。
図2は、調製当日の実施例32の乳化液を光学顕微鏡で観察した画像である。
図1~2および表5に示すように、ナノ粒子で乳化されてなる実施例31~37の乳化物は乳化性に優れていた。油脂の種類に関わらず安定な乳化ができたことから、実施例で作製したナノ粒子が三相乳化の乳化剤にふさわしいことがわかった。ナノ粒子は、CMC成分である不飽和脂肪酸、セラミド、ステロールおよび細胞成分である塩基性アミノ酸から構成されていることから、生体適合性に優れている。