(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171939
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】膨張弁の製造方法および膨張弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/68 20060101AFI20241205BHJP
F25B 41/335 20210101ALI20241205BHJP
【FI】
F16K31/68 S
F25B41/335 D
F25B41/335 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089314
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】諏佐 庸晴
(72)【発明者】
【氏名】山口 智也
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB32
3H057BB43
3H057CC06
3H057DD05
3H057EE01
3H057FA24
3H057HH01
3H057HH18
(57)【要約】
【課題】膨張弁を小型化しても流入孔の開口面積と防振ばねの摺動面の双方を確保可能とする。
【解決手段】流入孔14及び流出孔17に連通する弁室13を有する弁本体12と、流出孔と弁室との間に備えたオリフィス18と、オリフィスに対し進退動する弁体20と、弁体をオリフィスに向け付勢する付勢部材22と、付勢部材による付勢力に抗して弁体をオリフィスから後退させる作動棒23と、作動棒を駆動する駆動部24と、弁体と弁室側壁との間に介在され弁体と共に移動し弁室側壁面に摺動可能に接触する防振ばね26を備えた膨張弁11を製造する方法で、流入孔は、弁本体外周面に開口する外穴15と、弁室側壁面に開口する内穴16とからなり、外穴と内穴が互いに連通し、当該製造方法は、弁本体の外周面側から外穴を穿設する外穴穿設工程と、弁室内部側から弁室側壁面を切削する溝加工により内穴を形成する内穴形成工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の流入孔および前記冷媒の流出孔に連通する弁室を有する弁本体と、
前記流出孔と前記弁室との間に備えられたオリフィスと、
前記オリフィスに対して進退動することにより前記冷媒の流量を変更する弁体と、
前記弁体を前記オリフィスに向けて付勢する付勢部材と、
前記付勢部材による付勢力に抗して前記弁体を前記オリフィスから後退させる作動棒と、
前記作動棒を駆動する駆動部と、
前記弁体と前記弁室の側壁面との間に介在され、前記弁体の進退動に伴い前記弁体とともに移動し、前記弁室の側壁面に摺動可能に接触する摺接部を有することにより前記弁体の振動を抑制する、防振ばねと、
を備えた膨張弁
を製造する方法であって、
前記流入孔は、
当該流入孔の一部であり、前記弁本体の外周面に開口した外開口を有し、当該外開口から前記弁室に向かって延びる、外穴と、
当該流入孔の一部であり、前記弁室の側壁面に開口した内開口を有し、当該内開口から前記弁本体の外周面に向かって延びる、内穴と、
からなり、
前記外穴の前記外開口とは反対側の端部と、前記内穴の前記内開口とは反対側の端部とが互いに連通することにより、前記外穴と前記内穴とが互いに連通し、
前記膨張弁を製造する方法は、
前記弁本体の外周面側から前記外穴を穿設する外穴穿設工程と、
前記弁室の内部側から当該弁室の側壁面を切削する溝加工により前記内穴を形成する内穴形成工程と、
を含む
ことを特徴とする膨張弁の製造方法。
【請求項2】
前記膨張弁の軸線方向を上下方向とし、当該上下方向に直交する方向を水平方向としたときに、
前記内穴は、前記弁室の側壁面に沿って水平に延びる溝状の穴である
請求項1に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項3】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、前記外穴の中心軸線より上側に位置する
請求項2に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項4】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、前記外穴の中心軸線より下側に位置する
請求項2に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項5】
前記内穴は、前記弁室の側壁面の全周に亘って延びている
請求項3または4に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項6】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、
前記外穴の中心軸線より上側に位置する上穴と、
前記外穴の中心軸線より下側に位置する下穴と、
からなる
請求項2に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項7】
前記上穴と前記下穴は、前記弁室の側壁面の全周に亘って延びている
請求項6に記載の膨張弁の製造方法。
【請求項8】
冷媒の流入孔および前記冷媒の流出孔に連通する弁室を有する弁本体と、
前記流出孔と前記弁室との間に備えられたオリフィスと、
前記オリフィスに対して進退動することにより前記冷媒の流量を変更する弁体と、
前記弁体を前記オリフィスに向けて付勢する付勢部材と、
前記付勢部材による付勢力に抗して前記弁体を前記オリフィスから後退させる作動棒と、
前記作動棒を駆動する駆動部と、
前記弁体と前記弁室の側壁面との間に介在され、前記弁体の進退動に伴い前記弁体とともに移動し、前記弁室の側壁面に摺動可能に接触する摺接部を有することにより前記弁体の振動を抑制する、防振ばねと、
を備えた膨張弁であって、
前記流入孔は、
当該流入孔の一部であり、前記弁本体の外周面に開口した外開口を有し、当該外開口から前記弁室に向かって延びる、外穴と、
当該流入孔の一部であり、前記弁室の側壁面に開口した内開口を有し、当該内開口から前記弁本体の外周面に向かって延びる、内穴と、
からなり、
前記外穴の前記外開口とは反対側の端部と、前記内穴の前記内開口とは反対側の端部とが互いに連通することにより、前記外穴と前記内穴とが互いに連通し、
前記膨張弁の軸線方向を上下方向とし、当該上下方向に直交する方向を水平方向としたときに、
前記内穴は、前記弁室の側壁面に沿って水平に延びる溝状の穴である
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項9】
前記流入孔の軸線方向から見たときに、前記内穴の上縁および下縁のうちの少なくとも一方が直線状の形状を有する
請求項8に記載の膨張弁。
【請求項10】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、前記外穴の中心軸線より上側に位置する
請求項8に記載の膨張弁。
【請求項11】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、前記外穴の中心軸線より下側に位置する
請求項8に記載の膨張弁。
【請求項12】
前記内穴は、前記弁室の側壁面の全周に亘って延びている
請求項10または11に記載の膨張弁。
【請求項13】
前記弁本体から前記駆動部に向かう方向を「上」とし、前記駆動部から前記弁本体に向かう方向を「下」としたときに、
前記オリフィスは、前記弁室の上面部に配置され、
前記内穴は、
前記外穴の中心軸線より上側に位置する上穴と、
前記外穴の中心軸線より下側に位置する下穴と、
からなる
請求項8に記載の膨張弁。
【請求項14】
前記上穴と前記下穴は、前記弁室の側壁面の全周に亘って延びている
請求項13に記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁の製造方法および膨張弁に係り、特に、弁振動を抑制する防振ばねを備えた膨張弁の流入孔の構造とその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンのような冷凍サイクル装置では、エバポレータ(蒸発器)の能力を十分に引き出すために膨張弁が備えられる。この膨張弁は、エバポレータの出口側配管の冷媒温度に感応してエバポレータに供給される冷媒の流れを絞り、最適流量に制御する機能を果たす。
【0003】
一方、かかる膨張弁では、弁の開度が小さいときに弁振動が生じ、この振動によって膨張弁から異音が発生することがある。このため、弁室内に防振ばね(制振用の部材)が備えられる。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載の膨張弁では、固定用の基部141と、複数本の脚部142とを有する防振ばね140が支持部材100を介して弁体40と弁室24の側壁面(上壁面)24aとの間に介在されるように備えられている。防振ばね140の各脚部142は、基部141の周縁部から斜め外側下方に放射状に延び、先端部外面に突起部142dを有する。そして、各突起部142dが弁室24の側壁面24aに弾発的に接触して摺動抵抗を発生させることにより弁体の振動を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-25331号公報(特許第6697975号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような防振ばねは、弁体と一緒に上下動し、弁室壁面(側壁面)に当接している摺接部(脚部142の突起部142d)も当該壁面に接触しながら上下動する。このため、そのような上下摺動が可能となる広さ(高さ)の摺動面が弁室壁面に必要になる。
【0007】
一方、弁室壁面には、冷媒を流入させる流入孔が開口しており、この開口は、冷媒流量(流路断面積)を確保するため一定以上の大きさ(開口面積)が必要である。
【0008】
しかしながら、近年の膨張弁の小型化の要請に伴い、流入孔の開口面積を維持しながら防振ばねの摺動面を確保することが難しくなっており、これらを両立できる新たな技術の提供が望まれる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、流入孔の新たな構造とその形成方法を提示することにより、膨張弁を小型化しても、流入孔の開口面積と防振ばねの摺動面の双方を確保できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る膨張弁の製造方法は、弁室に冷媒を流入させる流入孔を形成する特有の工程を含むものであるが、当該製造方法に係る膨張弁は、冷媒の流入孔および冷媒の流出孔に連通する弁室を有する弁本体と、流出孔と弁室との間に備えられたオリフィスと、オリフィスに対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体をオリフィスに向けて付勢する付勢部材と、付勢部材による付勢力に抗して弁体をオリフィスから後退させる作動棒と、作動棒を駆動する駆動部と、弁体と弁室の側壁面との間に介在され弁体の進退動に伴い弁体とともに移動し弁室の側壁面に摺動可能に接触する摺接部を有することにより弁体の振動を抑制する防振ばねとを備えている。
【0011】
また、上記流入孔は、外穴と内穴とからなる。外穴は、流入孔の一部(流入孔の弁本体外面側の部分)であり、弁本体の外周面に開口した外開口を有し、当該外開口から弁室に向かって延びている。一方、内穴は、外穴とともに流入孔を構成する流入孔の一部(流入孔の弁室側の部分)であるが、弁室の側壁面に開口した内開口を有し、当該内開口から弁本体の外周面に向かって延びている。そして、外開口とは反対側の外穴の端部と、内開口とは反対側の内穴の端部とを繋げることにより、外穴と内穴を連通させている。
【0012】
上記のような膨張弁を作製するため、本発明に係る製造方法は、弁本体の外周面側から上記外穴を穿設する外穴穿設工程と、弁室の内部側から弁室の側壁面を切削する溝加工により上記内穴を形成する内穴形成工程とを含む。なお、外穴穿設工程と内穴形成工程を実施する順序は問わず、どちらの工程を先に実施しても良い。
【0013】
ここで、上記「溝加工」とは、切削工具(例えばフライス等)を使用して溝を掘るように弁室の側壁面を切削する加工を言う。溝加工により形成された穴は、膨張弁の軸線方向を上下方向とし、上下方向に直交する方向を水平方向としたときに、典型的には、弁室の側壁面に沿って水平に(水平方向に)延びる溝状の穴(本願では「溝穴」とも言う)となる。なお、「水平に(水平方向に)延びる」とは、必ずしも直線的に延びていることだけを意味するものではなく、水平面内で例えば曲線的に(湾曲して)あるいは弧を描くように延びている状態を含む概念である。
【0014】
また別の表現をすれば、内穴は、ドリルで開けた穴のように真円形の横断面形状を有する穴ではなく、上下方向に潰れた横長の(上下方向の寸法より水平方向の寸法が大きい)横断面を有する穴である。また内穴の上縁と下縁は、典型的には、それらのうちの少なくともどちらかが、流入孔(内穴)の軸線方向から見たときに直線形状になっている。
【0015】
一方、流入孔の外側部分(弁本体外周面側の部分)である外穴は、その形状を特に問わない。例えば、従来通りドリルを使用して真円形の横断面を有する穴を形成し、これを外穴としても良いし、他の横断面形状を有する穴であっても良い。外穴は、要は弁本体の外周面と弁室の側壁面との間において上記内穴と連通し、内穴を介して弁室内に冷媒を流入させることが出来る穴であれば良い。
【0016】
本発明では、上述のように流入孔の弁室側部分を内穴として、水平方向に延びる溝状の穴により構成するから、当該溝幅(内穴の水平方向の大きさ)を大きくすることにより、従来と同等以上の開口面積を確保しながら、流入孔の弁室側の開口(内穴の内開口)の上下方向の寸法を小さくすることが出来る。したがって、膨張弁を小型化することで弁本体の上下方向(防振ばねの摺動方向)の寸法が小さくなっても、防振ばねの摺動面を確保しやすくなり(例えば、内穴の上側又は下側の弁室壁面を摺動面とすれば良い)、流入孔の流路断面積確保と防振ばねの摺動面確保の双方を同時に実現することが出来る。
【0017】
さらに本発明では、内穴に関連した好ましい態様として、次のような各態様を採用することが可能である。なお、各態様は上記本発明に係る膨張弁の製造方法を前提としたもので、弁本体から駆動部に向かう方向を「上」、駆動部から弁本体に向かう方向を「下」とし、オリフィスは弁室の上面部に配置されているものとする。
【0018】
第1の態様では、内穴が、外穴の中心軸線より上側に位置するようにする。
【0019】
このような第1態様によれば、オリフィスの近くに内穴が形成されることになるから、内開口(流入孔の弁室側の開口)からオリフィスまでの冷媒の流路が短くなり、弁室内での圧力損失を低減することが出来る。
【0020】
第2の態様では、内穴が、外穴の中心軸線より下側に位置するようにする。
【0021】
このような第2態様によれば、外穴を通って弁内に浸入してきた冷媒のうちの液体部分(液冷媒)を積極的に弁室内に流入させてオリフィスに導くことが出来る。
【0022】
第3の態様では、上記第1態様または第2態様において、内穴が弁室の側壁面の全周に亘って延びるようにする。
【0023】
このような第3態様によれば、より大きな流路断面積を確保し、バランス良くオリフィスに向けて冷媒を流すことが可能となる。また、後に述べる第1実施形態や第2実施形態のように周方向について弁室の側壁面の一部を溝加工すると、溝の端部(特に、溝加工を行うときの切削刃の進行方向の端部/
図4の符号33参照)にバリが形成されてしまうことがあるが、全周に亘って溝加工を行えば、溝穴(内穴)がリング状に繋がって溝の端部が無くなるから(
図19の符号16c参照)、そのようなバリが生じることを防ぐことが出来る。なお、バリが形成されるとそれを取り除く作業が必要となって製造時の工数が増えることになるうえ、バリが残っていれば経年使用により冷媒中にバリが混入し、オリフィスと弁体に間に噛み込まれて弁漏れが生じたりオリフィスや弁体を損傷させる可能性もある。
【0024】
第4の態様では、内穴が、外穴の中心軸線より上側に位置する上穴と、外穴の中心軸線より下側に位置する下穴とからなるようにする。
【0025】
このように上下に穴(内穴)を開ける第4態様によれば、弁室側の開口面積を大きくすることが出来る。
【0026】
第5の態様では、上記第4態様において、上穴と下穴が、弁室の側壁面の全周に亘って延びるようにする。この第5態様の利点は、前記第3態様と同様である。
【0027】
また、本発明に係る膨張弁は、前記製造方法と同様の特徴を有するものである。
【0028】
具体的には、当該膨張弁は、冷媒の流入孔および冷媒の流出孔に連通する弁室を有する弁本体と、流出孔と弁室との間に備えられたオリフィスと、オリフィスに対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体をオリフィスに向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触し付勢部材による付勢力に抗して弁体をオリフィスから後退させる作動棒と、作動棒を駆動する駆動部と、弁体と弁室の側壁面との間に介在され弁体の進退動に伴い弁体とともに移動し弁室の側壁面に摺動可能に接触する摺接部を有することにより弁体の振動を抑制する防振ばねとを備えた膨張弁である。
【0029】
また、上記流入孔は、当該流入孔の一部であり弁本体の外周面に開口した外開口を有し当該外開口から弁室に向かって延びる外穴と、当該流入孔の一部であり弁室の側壁面に開口した内開口を有し当該内開口から弁本体の外周面に向かって延びる内穴とからなる。さらに、外穴の外開口とは反対側の端部と、内穴の内開口とは反対側の端部とが互いに連通することにより、外穴と内穴とが互いに連通する。また、膨張弁の軸線方向を上下方向とし、当該上下方向に直交する方向を水平方向としたときに、内穴は、弁室の側壁面に沿って水平に延びる溝状の穴である。なお、流入孔の軸線方向から見たときに、内穴はその上縁および下縁のうちの少なくとも一方が直線状の形状を有することがある。
【0030】
また、上記本発明に係る膨張弁についても、前記製造方法において述べた各態様(第1態様から第5態様)と同様の下記構造(1)から(5)のいずれかを採用することが可能である。なお、弁本体から駆動部に向かう方向を「上」とし、駆動部から弁本体に向かう方向を「下」とし、オリフィスは弁室の上面部に配置されているものとする。また、各構造を採用することにより得られる利点は、前記各態様と同様である。
【0031】
(1)内穴が、外穴の中心軸線より上側に位置する。
(2)内穴が、外穴の中心軸線より下側に位置する。
(3)上記構造(1)または(2)において、内穴が弁室の側壁面の全周に亘って延びている。
(4)内穴が、外穴の中心軸線より上側に位置する上穴と、外穴の中心軸線より下側に位置する下穴とからなる。
(5)上記構造(4)において、上穴と下穴が弁室の側壁面の全周に亘って延びている。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、流入孔の開口面積と防振ばねの摺動面の両立確保が可能となり、防振ばねを備えた膨張弁を小型化することが出来る。
【0033】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基いて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。また、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図2】
図2は、前記第1実施形態に係る膨張弁を示す側面図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図3】
図3は、前記第1実施形態に係る膨張弁を示す正面図である。
【
図4】
図4は、前記第1実施形態に係る膨張弁を示す水平断面図(弁本体底面側から天面方向を見た状態)である。
【
図5】
図5は、前記第1実施形態に係る膨張弁の製造工程(外穴の穿設後で内穴の形成前の状態)を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す/
図6~
図8も同様)である。
【
図6】
図6は、前記第1実施形態に係る膨張弁の製造工程(内穴を形成するためにフライスを弁室に差し込んだ状態)を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、前記第1実施形態に係る膨張弁の製造工程(内穴を形成している状態)を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、前記第1実施形態に係る膨張弁の製造工程(内穴を形成した状態)を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図10】
図10は、前記第2実施形態に係る膨張弁を示す側面図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図11】
図11は、前記第2実施形態に係る膨張弁を示す正面図である。
【
図12】
図12は、前記第2実施形態に係る膨張弁を示す水平断面図(弁本体底面側から天面方向を見た状態)である。
【
図13】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図14】
図14は、前記第3実施形態に係る膨張弁を示す側面図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図15】
図15は、前記第3実施形態に係る膨張弁を示す正面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第4の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図17】
図17は、前記第4実施形態に係る膨張弁を示す側面図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図18】
図18は、前記第4実施形態に係る膨張弁を示す正面図である。
【
図19】
図19は、前記第4実施形態に係る膨張弁を示す水平断面図(弁本体底面側から天面方向を見た状態)である。
【
図20】
図20は、本発明の第5の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【
図21】
図21は、本発明の第6の実施形態に係る膨張弁を示す斜視図(弁本体を垂直に切り欠いた状態で示す)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
図1から
図8を参照して本発明の第1の実施形態に係る膨張弁ならびにその製造方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明の前記第1態様に相当するものである。また、各図には前後方向、左右方向および上下方向を表す互いに直交する二次元座標または三次元座標を適宜表示し、以下の説明はこれらの方向に基いて行う(後述の実施形態についても同様)。但し、本発明および本実施形態を含む各実施形態の膨張弁は様々な向きで使用することが可能であるから、各方向は説明の便宜上のものであって本発明の各部構成はこれらの方向によって何ら限定されるものではない。また、弁本体や弁室、弁体、防振ばね、作動棒の軸線方向は、上下方向に一致する。さらに「垂直」および「水平」と言うことがあるが、垂直方向は上下方向に一致し、垂直方向に直交する方向が左右方向および前後方向を含む水平方向である。
【0036】
図1から
図8に示すように、本発明の第1の実施形態に係る膨張弁11は、弁室13を内部に有する弁本体12と、弁室13に冷媒を流入させる流入孔14と、弁室13からオリフィス18を介して冷媒を外部へ流出させる流出孔17と、オリフィス18の下端(弁室側端部)に形成した弁座19と、弁座19に対して進退動(上下動)することにより冷媒の流量を変更する弁体20と、弁体20を下方から支持する弁体支持部材21と、弁体支持部材21を介して弁体20を弁座19に向けて付勢するコイルばね(付勢部材)22と、弁体20に接触しコイルばね22による付勢力に抗して弁体20を弁座19から後退させる作動棒23と、作動棒23を駆動するダイアフラム装置(駆動部)24と、エバポレータ(図示せず)から排出された冷媒をダイアフラム装置24に供給するため弁本体12の上部を水平に貫通して冷媒を流通させる戻り流路25と、弁体支持部材21を介して弁体20と弁室13の側壁面との間に介在させた防振ばね26とを備えている。
【0037】
防振ばね26は、前記特許文献1に記載の膨張弁に備えられた防振ばねと同様のもので、複数本(本実施形態では8本)の脚部27を有し、弁室13の側壁面に弾発的に接触する突起部(摺接部)28を各脚部27の先端部外面に有する。防振ばね26は、弁体20の進退動に伴い弁体20とともに上下動して摺動抵抗を発生させ、これにより弁体20の振動が抑制される。なお、弁室13は、垂直に切り立った側壁面(内周面)に囲まれた、円形の横断面形状を有する空間である。また、弁室13の天面(上面)部にはオリフィス18が形成される一方、弁室13の底面部は開口となっている。この弁室底面部の開口は、ばね受け部材30により閉塞される。
【0038】
前記コイルばね22は、ばね受け部材30と弁体支持部材21との間に圧縮状態で備えられている。また、作動棒23は、弁本体12の内部において上下方向に延び、弁本体12の上面部に設置したダイアフラム装置24に上端を接続するとともに、弁体20に下端を接触させてある。
【0039】
上記流入孔14と流出孔17は弁室13を介して互いに連通するが、コイルばね22の上方への付勢力によって弁体20が弁座19に着座(当接)した閉弁状態では流入孔14と流出孔17とは連通せずに遮断状態となる。一方、作動棒23に押されて弁体20が下方へ移動して弁座19から離れると、流入孔14と流出孔17とが連通し、流入孔14を通って弁室13の内部に流入した冷媒は、オリフィス18および流出孔17を通って膨張弁11の外へ排出される。なお、排出された冷媒は、エバポレータに送られる。またこの冷媒の流量は、弁体20の上下方向の位置(弁体20と弁座19との距離)が変更されることにより変更される。なお、
図1および
図2は、弁体20が(従って弁体20と共に上下動する防振ばね26も)最下位置にある全開状態を示している。
【0040】
ダイアフラム装置24は、戻り流路25を流れる冷媒の温度と圧力の変化に対応して上述のように作動棒23を上下動させ、エバポレータから膨張弁11に戻る冷媒の温度と圧力に対応して膨張弁11(流出孔17)からエバポレータに向けて供給される冷媒の量を自動的に調整する機能を果たす。
【0041】
流入孔14は、互いに連通する外穴15と内穴16とからなる。外穴15は、弁本体12の外周面から弁室13に向けて水平に延びた横断面真円形の穴である。
【0042】
一方、内穴16は、外穴15の弁室13に近い側の端部において外穴15と連通する穴で、外穴15と弁室13との間に介在して外穴15と弁室13とを連通させている。また内穴16は、弁室13の側壁(内周面)を水平に溝状に研削することにより形成した穴で、水平な上面および下面を有するとともに、三日月状の平面形状(底面から見たときに三日月状の形状/
図4では弁室側壁を削り取って形成した内穴16をハッチングを施して示している)を有する。さらに当該内穴16は、本実施形態では、弁室13の上部位置に形成し、外穴15の上部(外穴15の中心軸線Bより上部)において外穴15と連通させてある。
【0043】
また、防振ばね26(突起部28)の摺動面は、本実施形態では、内穴16より下の弁室側壁部分となる。防振ばね26は、閉弁(全閉)状態になるときには、
図1および
図2に示す最下位置(膨張弁11の全開状態)から上方へ移動することになるが、最も上方へ移動した閉弁状態においても突起部28は内穴16に入り込むことは無く、内穴16の下面(下縁)より下方に位置する。
【0044】
図5から
図8は内穴16の形成工程を順に示すもので、内穴16は外穴15を形成した後に弁室13内から研削することにより形成する。具体的には次のとおりである。
【0045】
まず、
図5から
図6に示すように、外穴15を例えばドリルにより穿設した後、弁本体12の底面から(ばね受け部材30を設置する前記開口を通じて)弁室13内に切削工具(フライス)31を差し入れる。切削工具31は、弁室13の中心軸線Aと平行な軸線回りに回転するヘッド部32を有し、ヘッド部32の周面に切削刃を備えている。そして
図7から
図8に示すように、ヘッド部32を回転させながら(符号R参照)弁室13の側壁面に押し付け、外穴15の弁室側端部に向けて水平に進行させることにより弁室側壁を研削することで溝状の内穴16を形成し、外穴15に連通させる。
【0046】
以上の工程により流入孔14を形成することが出来るが、外穴15と内穴16の形成順序は上記とは逆にすること、つまり内穴16を形成した後に外穴15を形成することも可能である。
【0047】
本実施形態によれば、オリフィス18の近くに内穴16が形成されることになるから、流入孔14(内穴16)の弁室側の開口からオリフィス18までの冷媒の流路が短くなり、弁室13内での圧力損失を低減することが出来る。
【0048】
〔第2実施形態〕
図9から
図12を参照して本発明の第2の実施形態に係る膨張弁について説明する。なお、本実施形態は、本発明の前記第2態様に相当するものである。また、本実施形態は、前記第1実施形態と内穴の構造のみが異なるものであるから、第1実施形態と同一または相当する構成には同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違点を中心に述べる(後に述べる第3以降の実施形態についても同様)。
【0049】
図9から
図12に示すように本実施形態の膨張弁41では、内穴16を弁室13の下部位置に形成し、外穴15の下部(外穴15の中心軸線Bより下部)において外穴15と連通させる。なお、内穴16の形状および形成方法ならびに内穴16とともに流入孔14を形成する外穴15の構造は、第1実施形態と同様である。
【0050】
また、防振ばね26(突起部28)の摺動面29は、第1実施形態とは逆に、内穴16より上の弁室側壁部分となる。
図9および
図10は前記
図1および
図2と同様に膨張弁41の全開状態を示しており、防振ばね26は最下位置にあるが、これが閉弁状態になるときには、防振ばね26は上方へ移動し、突起部28は内穴16より上の弁室側壁部分に当接しながら上方へ移動することとなる。なお、弁室側壁に対する突起部28の接触位置は、脚部27の長さを調整することにより変更することが可能である。
【0051】
外穴15に浸入してきた冷媒が気液混合状態の場合、液体部分(液冷媒)は外穴15の下部を通って弁室13に向けて流れ進むから、外穴15の下部位置に内穴16を連通させた本実施形態によれば、当該液冷媒を積極的に弁室13内に流入させてオリフィス18に導くことが出来る。
【0052】
〔第3実施形態〕
図13から
図15は、本発明の第3の実施形態に係る膨張弁を示すものである。
【0053】
本実施形態に係る膨張弁42は、本発明の前記第4態様に相当するもので、第1実施形態における内穴と第2実施形態における内穴の双方を備えている。すなわち
図13から
図15に示すように本実施形態では、外穴15に連通する内穴16として、外穴15の上部に連通する上穴16aと、外穴15の下部に連通する下穴16bとを有する。なお、防振ばね26(突起部28)の摺動面は、上穴16aと下穴16bとの間にリング状に広がる弁室側壁部分となる。
【0054】
このように上下2つの内穴16(上穴16a及び下穴16b)を備える本実施形態によれば、流入孔14の弁室13への開口面積を大きくして冷媒の大きな流路断面積を確保することが出来る。
【0055】
〔第4実施形態〕
図16から
図20は、本発明の第4の実施形態に係る膨張弁を示すものである。
【0056】
本実施形態に係る膨張弁43は、本発明の前記第3態様に相当し、第1実施形態における内穴を、弁室13の側壁面の全周に亘って延びるリング状の内穴16cとしたものである。
【0057】
このような内穴16cを形成するには、第1実施形態で説明したのと同様に切削工具で弁室13の側壁を溝状に研削するが、前側(外穴15との連通側)の弁室側壁を一定幅に亘って研削した第1実施形態とは異なり、そのような溝状の研削を弁室側壁の全周に亘って行えば良い(弁室側壁をリング状に削り取って形成した内穴16cを
図19にハッチングを施して示した)。
【0058】
本実施形態によれば、より大きな流路断面積を弁室13内に確保することができ、バランス良くオリフィス18に向けて冷媒を流すことが可能となる。また、第1実施形態のように周方向について弁室側壁の一部を溝加工すると、溝の端部(特に、溝加工を行うときの切削刃の進行方向の端部33/
図4参照)にバリが形成されてしまうことがあるが、全周に亘って溝加工を行う本実施形態によれば、内穴16がリング状に繋がって溝の端部が無くなるから、そのようなバリが生じることを防ぐことが出来る。
【0059】
〔第5実施形態〕
図20は本発明の第5の実施形態に係る膨張弁を示すものである。
【0060】
本実施形態は、本発明の前記第3態様に相当するもので、本実施形態に係る膨張弁44は、第1実施形態の内穴をリング状に形成した前記第4実施形態と同様に、第2実施形態の内穴(弁室下部に形成する内穴)を弁室側壁の全周に亘って延びるリング状の内穴16cとしたものである。本実施形態も第4実施形態と同様の利点を有する。
【0061】
〔第6実施形態〕
図21は本発明の第6の実施形態に係る膨張弁を示すものである。
【0062】
本実施形態は、本発明の前記第5態様に相当するもので、本実施形態に係る膨張弁45は、第3実施形態の上穴と下穴を、第4実施形態および第5実施形態のようにリング状の内穴16cとしたものである。本実施形態によれば、第4実施形態と同様の利点を得られる上に、流入孔14の弁室13への開口面積を大きくして冷媒の大きな流路断面積を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
A 弁本体、弁室、弁体、防振ばね及び作動棒の中心軸線
B 外穴(流入孔)の中心軸線
11,41,42,43,44,45 膨張弁
12 弁本体
13 弁室
14 流入孔
15 外穴
16 内穴
16a 上穴
16b 下穴
16c リング状内穴
17 流出孔
18 オリフィス
19 弁座
20 弁体
21 弁体支持部材
22 コイルばね
23 作動棒
24 ダイアフラム装置
25 戻り流路
26 防振ばね
27 脚部
28 突起部
29 防振ばね(突起部)の摺動面
30 ばね受け部材
31 研削工具
32 ヘッド部
33 溝穴(内穴)の端部