(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171944
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】試料ホルダー及び電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20241205BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 F
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089321
(22)【出願日】2023-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度「環境制御観察における超高感度3D電磁場顕微鏡法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 俊明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 昭
(72)【発明者】
【氏名】市橋 史朗
【テーマコード(参考)】
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G052DA33
2G052GA33
2G052JA07
5C101AA04
5C101EE14
5C101EE64
5C101FF17
5C101FF36
5C101FF46
(57)【要約】
【課題】ガスまたは液体内の試料を光照射下でその場観察可能とする試料ホルダー、電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】環境セルは、それぞれ隔膜と隔膜を支持し、開口部の設けられたフレームとを備える2つのシリコンチップ(1,5)の組み合わせとして構成され、試料ホルダーの本体部11に収容され、蓋14により固定されている。電子顕微鏡の電子線の光軸20に沿って、蓋の開口部、2つのシリコンチップの開口部、及び本体部の開口部が重なるように配置され、2つのシリコンチップのいずれかの開口部に光を照射可能な位置に発光素子31を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡による観察対象である試料を封入する環境セルを保持する試料ホルダーであって、
前記環境セルを収容可能な凹部が設けられた本体部と、
前記凹部に収容された前記環境セルを固定する蓋と、
前記試料に光を照射する光照射部と、を備え、
前記本体部の前記凹部の底面及び前記蓋にはそれぞれ開口部が設けられ、
前記環境セルは、それぞれ隔膜と前記隔膜を支持し、開口部の設けられたフレームとを備える第1及び第2のシリコンチップを組み合わせて構成され、前記第1のシリコンチップの前記隔膜と前記第2のシリコンチップの前記隔膜との間に前記試料を封入する空間が形成されており、
前記電子顕微鏡の電子線の光軸に沿って、前記蓋の開口部、前記第1のシリコンチップの開口部、前記第2のシリコンチップの開口部及び前記本体部の開口部が重なるように位置し、前記第2のシリコンチップはシール材を介して前記本体部に設置され、前記第1のシリコンチップ及び前記本体部はそれぞれシール材を介して前記蓋が固定され、
前記光照射部は、前記第1のシリコンチップの開口部または前記第2のシリコンチップの開口部に光を照射可能な位置に配置された発光素子を備える試料ホルダー。
【請求項2】
請求項1において、
前記光照射部は、前記発光素子を前記蓋または前記本体部に取り付ける支持部を備え、
前記発光素子は、前記発光素子の光量の高い方向に前記試料が位置するよう前記支持部に取り付けられる試料ホルダー。
【請求項3】
請求項2において、
前記発光素子が前記蓋に取り付けられる場合、前記支持部は前記蓋の開口部の縁よりも前記光軸側に前記発光素子を位置させ、前記発光素子が前記本体部に取り付けられる場合、前記支持部は前記本体部の開口部の縁よりも前記光軸側に前記発光素子を位置させる試料ホルダー。
【請求項4】
請求項3において、
前記発光素子が前記蓋に取り付けられる場合、前記支持部は前記蓋の上面よりも下側に前記発光素子を位置させ、前記発光素子が前記本体部に取り付けられる場合、前記支持部は前記本体部の下面よりも上側に前記発光素子を位置させる試料ホルダー。
【請求項5】
請求項1において、
前記光照射部は、前記発光素子を前記蓋または前記本体部に取り付ける支持部及び前記発光素子に電源を供給する配線を備え、
前記発光素子、前記支持部及び前記配線の少なくとも一部は、絶縁被膜で覆われ、前記絶縁被膜はさらに導電被膜により覆われている試料ホルダー。
【請求項6】
請求項1において、
前記発光素子が前記第1のシリコンチップの開口部に光を照射する場合、前記第1のシリコンチップのフレームの開口部の側面が反射抑制部位とされ、前記発光素子が前記第2のシリコンチップの開口部に光を照射する場合、前記第2のシリコンチップのフレームの開口部の側面が反射抑制部位とされる試料ホルダー。
【請求項7】
請求項6において、
シリコンチップの開口部の側面を前記反射抑制部位とするため、前記シリコンチップの開口部にその形状にあわせた低反射部材をはめ込む、または前記シリコンチップの開口部に低反射材が蒸着あるいは塗布され、
前記低反射部材または前記低反射材の材料は、単結晶シリコンよりも前記発光素子からの光を多く吸収する材料である試料ホルダー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項において、
前記本体部は、前記環境セルの前記試料を封入する空間にガスや液体を供給する配管を内蔵する試料ホルダー。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項において、
前記発光素子はLEDである試料ホルダー。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載された試料ホルダーを搭載する電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項10において、
前記試料ホルダーは、対物レンズの上部磁極と下部磁極との間に挿入される電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスまたは液体内で試料を観察する試料ホルダーとそれを搭載した電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
環境分野向けの電子顕微鏡観察ニーズの一つとして、例えば、人工光合成や水素製造向けの光触媒の解析がある。光触媒のその場観察(in situ観察)を行うためには、液体やガス中に試料である光触媒を載置し、光を照射した状態で観察する必要がある。
【0003】
特許文献1には、様々な環境下でのその場観察を可能とするため、試料へガスまたは液体を導入する、あるいは電気化学または熱実験のための電気接点を可能とするサンプルホルダが開示されている。
【0004】
特許文献2には、レーザー光を用いて局所的に試料を加熱することが可能な電子顕微鏡が開示されている。電子顕微鏡としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)が想定され、試料を載置する試料ホルダーは対物レンズ上部磁極と対物レンズ下部磁極との間隙に挿入される。このため、同じ間隙に光ファイバーを導入するための光ファイバー用ホルダーを電子顕微鏡に取り付ける。光ファイバー用ホルダーの微動機構により、光ファイバーからの光スポットが試料に照射されるよう調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-85349号公報
【特許文献2】特開2008-171774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、試料を光照射下で観察することについては開示されていない。そこで、例えば、特許文献2に開示されるような光ファイバーにより光を試料に照射することを考えると以下のような課題がある。
【0007】
まず、光ファイバー用ホルダーを電子顕微鏡側に装備する必要があり、大掛かりな装置改造が必要になる。また、加熱のためにレーザー光を照射する特許文献2の場合と異なり、光触媒のその場観察のためには、試料に対して、太陽光と同等の強度の白色光や紫外光を試料(光触媒)に照射する必要がある。このため、光ファイバーで電子顕微鏡内に導入した光を試料上に集光させる必要がある。しかしながら、TEMあるいは走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)では、上述のように試料ホルダーは対物レンズ上部磁極と対物レンズ下部磁極との間隙に挿入され、この間隙が大きい程、装置の分解能は低下する。特許文献1開示の技術と特許文献2開示の技術とを組み合わせるとすれば、対物レンズ上部磁極と対物レンズ下部磁極との間隙に試料ホルダーに加え、光を照射するための光ファイバー用ホルダーや集光光学系を組み込むことが必要となり、電子顕微鏡の分解能を低下させることなく、高い照度の光を試料に照射させながら光触媒のその場観察を行うことは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施の形態である試料ホルダーは、電子顕微鏡による観察対象である試料を封入する環境セルを保持する試料ホルダーであって、環境セルを収容可能な凹部が設けられた本体部と、凹部に収容された環境セルを固定する蓋と、試料に光を照射する光照射部と、を備え、本体部の凹部の底面及び蓋にはそれぞれ開口部が設けられ、環境セルは、それぞれ隔膜と隔膜を支持し、開口部の設けられたフレームとを備える第1及び第2のシリコンチップを組み合わせて構成され、第1のシリコンチップの隔膜と第2のシリコンチップの隔膜との間に試料を封入する空間が形成されており、電子顕微鏡の電子線の光軸に沿って、蓋の開口部、第1のシリコンチップの開口部、第2のシリコンチップの開口部及び本体部の開口部が重なるように位置し、第2のシリコンチップはシール材を介して本体部に設置され、第1のシリコンチップ及び本体部はそれぞれシール材を介して蓋が固定され、光照射部は、第1のシリコンチップの開口部または第2のシリコンチップの開口部に光を照射可能な位置に配置された発光素子を備える。
【発明の効果】
【0009】
試料ホルダーの厚さをほとんど変えることなく、試料ホルダーに光照射機能を備えることが可能となる。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】光照射機能を有する試料ホルダー(部分)の模式図である。
【
図2】環境セルの構成を説明するための模式図である。
【
図3】光照射機能を有する試料ホルダー(部分)の模式図である。
【
図4】光照射機能を有する試料ホルダー(部分)の模式図である。
【
図5】光照射機能を有する試料ホルダー(部分)の模式図である。
【
図6】光照射機能を有する試料ホルダーを搭載した電子顕微鏡の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし主旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0012】
図1は、本実施例の光照射機能を有する試料ホルダーにおいて、環境セルを保持する部分を抽出して示したものである。ここでは、環境セルの例として、2つのシリコンチップ(以下、Siチップ)1,5を組み合わせて構成する例を示す。
図2を用いて、本実施例の環境セルの構成について説明する。
図2の中央に、上側Siチップ1と下側Siチップ5とを組み合わせた環境セルの断面図を示し、その上側に上側Siチップ1の平面図、下側に下側Siチップ5の平面図を示している。平面図はそれぞれ、2つのSiチップを組み合わせて環境セルとし、電子顕微鏡に組み込んだときに電子源がある方向からみた平面図を示している。
【0013】
上側Siチップ1と下側Siチップ5の基本構成は同じであり、それぞれ隔膜3(7)と隔膜を支持するフレーム2(6)とを備えている。フレーム2(6)には開口部4(8)が形成されている。なお、フレームの厚みはおよそ200μmである。また、下側Siチップ5には、試料を封入する空間を形成するためのスペーサ9が形成されている。例えば、フレーム2(6)は単結晶Si、隔膜3(7)はSiN薄膜、スペーサ9は金(Au)などの金属とすることにより、Siチップは半導体加工技術を用いて製造することができる。さらに、Siチップを、隔膜上に試料を加熱するためのヒータや、試料に電圧を印加するための電極などを形成したMEMSチップとすることにより、観察する試料の環境をさらに多様に制御することが可能になる。
【0014】
図1は、
図2に示した環境セルを試料ホルダーに固定した状態を示している。試料ホルダーは、環境セルを収容可能な凹部12が設けられた本体部11、凹部12に設置された環境セルを固定する蓋14を備え、本体部11の凹部12の底面及び蓋14にはそれぞれ開口部13,15が設けられている。電子線が環境セルの試料を封入する空間を通過できるよう、電子線の光軸20に沿って、蓋14の開口部15、上側Siチップ1の開口部4、下側Siチップ5の開口部8、および本体部11の開口部13が重なるよう、環境セルは試料ホルダーに固定される。このとき、環境セルの試料を封入する空間の気密性を保つため、下側Siチップ5のフレーム6はOリング(シール材)16aを介して本体部11に設置され、上側Siチップ1のフレーム2及び本体部11はそれぞれOリング16b,16cを介して蓋14が固定される。
【0015】
環境セルの隔膜3と隔膜7とによって挟まれた領域が、試料21が封入される空間である。試料21が封入される空間には、本体部11に内蔵された配管を通して、その場観察の内容に応じてガスや液体を供給することが可能とされている。
【0016】
本実施例では、試料21に光を照射するため、試料ホルダーに光照射部が設けられている。光照射部は、蓋14に設けられた発光素子31、発光素子31を支持する支持部32、発光素子31を発光させるための電源を供給し、端部に蓋側電極(第1電極)34が接続された蓋側配線(第1配線)33、及び発光素子31を発光させるための電源を供給し、端部に本体側電極(第2電極)35が接続された本体側配線(第2配線)36を含む。蓋14を本体部11に固定するとともに、蓋側電極34と本体側電極35とを接続することにより、環境セル内の試料21に光照射が可能になる。
【0017】
発光素子31としては、可視光~紫外光の範囲の光を照射可能であり、小型かつ小電力での高い照度の光を照射可能であるという点からLED(Light Emitting Diode)のような半導体発光素子を用いることが望ましい。発光素子を試料21の付近に配置することで、光ファイバーで光を導入する場合に比べてより高い照度の光を試料21に照射することが可能になる。
【0018】
また、発光素子31の配置位置は、上側Siチップ1の開口部4に光が照射される限りにおいて特に限定されない。ただし、電子線の照射を妨げないよう、光照射部を構成する発光素子31や配線等を電子線の光軸20を避けるように配置することが望ましい。また、
図1の例では支持部32を介して発光素子31を蓋14に取り付けることにより、より照度の高い光が試料21に照射されるよう調整している。具体的には以下の通りである。
(1)蓋14の開口部15は上側Siチップ1の開口部4よりも大きいため、支持部32により、蓋14の開口部15の縁よりも光軸20側に発光素子31を突出させる。
(2)蓋側配線33は蓋14の上面を通るように配置されるため、支持部32により、蓋14の上面より下側に発光素子31を配置させる。
(3)発光素子31が発光する光には指向性がある。このため、発光素子31の光量の高い方向に試料21が位置するよう発光素子31を支持部32に取り付ける。
以上の(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たすように、発光素子31と支持部32を構成することにより、より照度の高い光を照射することが可能になる。例えば、太陽光と同等以上の明るさで光を試料に照射することができる。
【0019】
このように光照射部を構成することにより、光照射機能のない試料ホルダーとほぼ同等の厚みでありながら、試料に対する光照射が可能となるため、電子顕微鏡の分解能を低下させることなく、高い照度の光を試料に照射させながらその場観察を行うことが可能になる。また、電子顕微鏡の改造を必要とせず、試料ホルダーに簡単な構成の光照射部を搭載するだけでよいので、低コストに実現できる。以下に、光照射機能を有する試料ホルダーの変形例を説明する。
【0020】
(変形例1)
電子線ホログラフィーや微分位相コントラスト法などにより、試料の電磁場を解析する場合には、観察位置周辺の電場や帯電が観察に影響を与える。このため、発光素子31を光らせるために通電する電流はショートすることなく、かつ、発光素子31及びその周辺部材が帯電しないことが望ましい。
図3は光照射部に帯電防止機能をもたせた構成例である。具体的には、発光素子31、支持部32と蓋側配線33の少なくとも一部を薄い絶縁被膜41で覆い、さらにその上から導電被膜42で覆っている。これにより、光照射部に生じた電荷は、導電被膜42から、いずれも金属である蓋14からねじなどの取り付け部材を介して本体部11に流れることにより、観察に影響をもたらさない。
【0021】
また、例えば、絶縁被膜41を珪酸(SiO2)やアルミナ(Al2O3)の薄膜とし、導電被膜42を薄いアモルファスカーボン膜とすることにより、発光素子31からの光量にあまり影響を与えることなく、光照射部に電子線による帯電防止機能をもたせることができる。
【0022】
(変形例2)
試料21への光照射量を定量的に解析する場合には、フレーム2の開口部の側面で反射した光が、試料21に当たらないようにすることが必要となる。
図4は、上側Siチップ1の開口部の側面を、光の反射を抑制する反射抑制部位45とする例である。反射抑制部位45とするために、フレーム2の開口部に、その形状にあわせた低反射部材をはめ込むようにしてもよいし、フレーム2の開口部に低反射材を蒸着あるいは塗布してもよい。例えば、フレーム2の開口部にあわせた形状のアルミニウム薄膜で形成した部材にカーボンを蒸着した低反射部材をはめ込む、フレーム2の開口部にカーボンを蒸着させる、といった態様が可能である。低反射部材、低反射材は例示の材料に限定されず、単結晶シリコンよりも発光素子31からの光を多く吸収する材料であればよい。なお、
図4では光照射部を
図1と同様に構成しているが、変形例1の光照射部に帯電防止機能をもたせる構成としてもよい。
【0023】
(変形例3)
図5は、発光素子31の配置位置を下側からとし、支持部32、第1配線33、第1電極34、第2電極35及び第2配線36を本体部11側に取り付けたものである。
図1の例と同様に支持部32を構成することにより、より照度の高い光を照射することが可能になる。支持部32を介して発光素子31を本体部11に取り付ける場合には、より照度の高い光が試料21に照射されるよう、以下の(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たすように調整する。
(1)本体部11の開口部13は下側Siチップ5の開口部8よりも大きいため、支持部32により、本体部11の開口部13の縁よりも光軸20側に発光素子31を突出させる。
(2)第1配線33は本体部11の下面を通るように配置されるため、支持部32により、本体部11の下面より上側に発光素子31を配置させる。
(3)発光素子31が発光する光には指向性がある。このため、発光素子31の光量の高い方向に試料21が位置するよう発光素子31を支持部32に取り付ける。
【0024】
また、
図5では光照射部を
図1と同様に構成しているが、変形例1、変形例2及びそれらの組み合わせとして構成することが可能である。
【0025】
本変形例は、試料ホルダーの上側の空間が、例えば検出器などの配置によって余裕のない場合に有効である。また、配線を本体部11側に設ける場合であっても、第1電極34及び第2電極35を介して、発光素子31と電源とを接続することにより、発光素子31が故障した場合の交換を容易に行うことができる。
【0026】
図6に、本実施例の光照射機能を有する試料ホルダーを搭載した電子顕微鏡の構成例を示す。鏡体部50の電子光学系はTEMの電子光学系を模式的に示したものである。電子光学系は電子源51、集束レンズ52、対物レンズ54、中間レンズ55、投射レンズ56、カメラ57を含んで構成される。制御コンピュータ70から観察のための光学条件や検出条件が設定されると、電子顕微鏡制御部71が備える電子光学系制御ユニット72、検出系制御ユニット73などが、これらの条件に応じて、鏡体部50の電子光学系、検出系の各構成要素を制御し、観察を実行する。得られた画像は制御コンピュータ70の備えるモニタに表示される。
【0027】
一方、観察対象である試料を封入した環境セルを搭載した試料ホルダー53は、鏡体部50の所定の場所に挿入される。なお、ここでは作図の都合上、試料ホルダー53を集束レンズ52と対物レンズ54の間に位置するように示しているが、上述したように、TEMでは対物レンズの上部磁極と下部磁極との間に置かれることが一般的である。制御コンピュータ60からその場観察のための環境条件が設定されると、試料ホルダー制御部61が備える光照射制御ユニット62、流体制御ユニット63、MEMS制御ユニット64などが、これらの条件に応じて、環境セルに対して照射する光、ガスや液体の流量や流速、ヒータによる加熱や試料に印加する電圧を制御することにより、その場観察を行う試料の環境を制御する。なお、制御コンピュータ60は制御コンピュータ70と兼用してもよい。
【0028】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明した、本実施例の光照射機能を有する試料ホルダーは、ガス中や液体中の試料に光を当てた状態での電子顕微鏡観察に適用され、例えば触媒や電極における反応中の微細な挙動や電磁場観察を、原子レベルで行うことができる。本発明を利用した電子顕微鏡が新たに実現する観察機能により、例えば触媒のメカニズムが解明され、今後世界的に求められるカーボンニュートラル社会を実現するために必要とされている、高性能、高耐久性を有する燃料電池やCO2燃料化触媒などの開発に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0030】
1:上側Siチップ、2,6:フレーム、3,7:隔膜、4,8:開口部、5:下側Siチップ、9:スペーサ、11:本体部、12:凹部、13,15:開口部、14:蓋、16:Oリング、20:光軸、21:試料、31:発光素子、32:支持部、33:蓋側配線(第1配線)、34:蓋側電極(第1電極)、35:本体側電極(第2電極)、36:本体側配線(第2配線)、41:絶縁被膜、42:導電被膜、45:反射抑制部位、50:鏡体部、51:電子源、52:集束レンズ、53:試料ホルダー、54:対物レンズ、55:中間レンズ、56:投射レンズ、57:カメラ、60,70:制御コンピュータ、61:試料ホルダー制御部、62:光照射制御ユニット、63:流体制御ユニット、64:MEMS制御ユニット、71:電子顕微鏡制御部、72:電子光学系制御ユニット、73:検出系制御ユニット。