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  • 特開-歯車加工機 図1
  • 特開-歯車加工機 図2
  • 特開-歯車加工機 図3
  • 特開-歯車加工機 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171962
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】歯車加工機
(51)【国際特許分類】
   B23F 19/06 20060101AFI20241205BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20241205BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23F19/06
B23Q17/22 D
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089341
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】林 真宣
【テーマコード(参考)】
3C025
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C025DD10
3C025DD12
3C029AA24
3C029AA40
3C269AB06
3C269BB03
3C269EF10
3C269EF15
3C269EF22
3C269JJ09
3C269JJ20
(57)【要約】
【課題】カッタの摩耗を含む状態を考慮して高い精度でワークに歯車を加工することができる歯車加工機を提供する。
【解決手段】本発明にかかる歯車加工機100は、カッタ102とワーク104を同期回転させて歯車を加工する歯車加工機において、カッタを駆動する工具主軸106と、ワークを駆動するワーク主軸108と、カッタの状態を検出するカッタ状態測定装置であるカメラ110と、工具主軸、ワーク主軸およびカッタ状態測定装置の動作を制御する制御部112とを備え、制御部は、カッタ状態測定装置で測定したカッタの状態に基づいてカッタの摩耗を含む状態を判定するカッタ状態判定部120と、カッタ状態判定部で判定したカッタの摩耗を含む状態に応じてカッタによる切込量を補正する補正部122とを有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタとワークを同期回転させて歯車を加工する歯車加工機において、
前記カッタを駆動する工具主軸と、
前記ワークを駆動するワーク主軸と、
前記カッタの状態を検出するカッタ状態測定装置と、
前記工具主軸、前記ワーク主軸および前記カッタ状態測定装置の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記カッタ状態測定装置で測定した前記カッタの状態に基づいて該カッタの摩耗を含む状態を判定するカッタ状態判定部と、
前記カッタ状態判定部で判定した前記カッタの摩耗を含む状態に応じて該カッタによる切込量を補正する補正部とを有することを特徴とする歯車加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カッタとワークを同期回転させて歯車を加工する歯車加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車加工機は、加工対象物であるワークの回転に切削工具であるカッタの回転を同期させて、カッタをワークに押し当てて切り込んでいくことにより、ワークに歯溝(歯形)などを加工する装置である。なお歯車加工機は、カッタとワークを同期回転させつつ、ワークの回転軸(ワーク主軸)に対してカッタの回転軸(工具主軸)を傾ければ、スカイビング加工を行うことができ、ワーク主軸と工具主軸を平行にすればギヤシェーパ加工を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、被削歯車の歯厚計測装置が記載されている。この歯厚計測装置では、被削歯車(ワーク)の歯底径を非接触にて計測し、計測された歯底径と基準値とを比較し、比較差が一定範囲を逸脱する場合に歯切り加工の切込調整を行うことにより、被削歯車の歯厚を規定の歯厚値に仕上げる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-38622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークに歯車を加工する際、1つのカッタを繰り返し用いると、カッタは徐々に摩耗する。摩耗したカッタを用いて複数のワークに歯車を加工し続けると、ワークのBBD(Between Ball Diameter:ビトウィーンボール径)やOBD(Over Ball Diameter:オーバーボール径)が変化してしまう。その結果、歯車加工機において、高い精度でワークに歯車を加工することが困難となる。
【0006】
なお特許文献1の歯厚計測装置は、単に、ワークの歯底径を非接触にて計測し、計測結果に応じて切込調整を行うものに過ぎず、カッタ自体の摩耗によるBBDやOBDの変化を考慮した切込調整は行っていない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、カッタの摩耗を含む状態を考慮して高い精度でワークに歯車を加工することができる歯車加工機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる歯車加工機の代表的な構成は、カッタとワークを同期回転させて歯車を加工する歯車加工機において、カッタを駆動する工具主軸と、ワークを駆動するワーク主軸と、カッタの状態を検出するカッタ状態測定装置と、工具主軸、ワーク主軸およびカッタ状態測定装置の動作を制御する制御部とを備え、制御部は、カッタ状態測定装置で測定したカッタの状態に基づいてカッタの摩耗を含む状態を判定するカッタ状態判定部と、カッタ状態判定部で判定したカッタの摩耗を含む状態に応じてカッタによる切込量を補正する補正部とを有することを特徴とする。
【0009】
上記構成では、ワークに歯車を加工する際、カッタの状態(特にカッタの稜線)を測定してカッタの摩耗を含む状態を判定し、カッタの摩耗を含む状態に応じてカッタによる切込量を補正している。なおカッタの摩耗を含む状態とは、カッタの摩耗、微小チッピング、カッタ製作精度によるズレなどである。このため上記構成によれば、カッタの摩耗を含む状態を考慮して高い精度でワークに歯車を加工することができる。
【0010】
なお「カッタの状態」とは、カッタ状態測定装置に対応する。例えばカッタ状態測定装置がマイクロスコープなどのカメラである場合は、カッタの状態とはカッタの輪郭形状である。この場合、カッタ状態判定部は画像解析によってカッタの輪郭抽出を行う。またカッタ状態測定装置が渦流センサである場合には、カッタの状態とはカッタの位相に対する刃先の近接・離隔(カッタを回転させたときの刃先の始まりと終わり)の点列データとなる。この場合、カッタ状態判定部は刃先の幅が広がった場合に摩耗したと判定する。さらにカッタ状態判定部は、カッタの設計値(理論値)である設計歯形形状点列データに基づいてカッタの未使用の状態と現在の状態とを比較して摩耗を含む状態を判定してもよいし、同じく設計歯形形状点列データに基づいてカッタの加工前後の状態を比較して摩耗を含む状態を判定してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カッタの摩耗を含む状態を考慮して高い精度でワークに歯車を加工することができる歯車加工機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態における歯車加工機の全体構成図である。
図2図1の歯車加工機で加工されるワークを説明する図である。
図3図1の歯車加工機の動作を示すフローチャートである。
図4図1のカッタの摩耗を含む状態に起因するワークのBBDの変化量を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における歯車加工機100の全体構成図である。歯車加工機100は、切削工具であるカッタ102と加工対象物であるワーク104を回転同期させて、カッタ102をワーク104に押し当てて切り込んでいくことにより、ワーク104に歯車を加工する装置である。なお図中のワーク104は内歯車である(図2(a)参照)。
【0015】
歯車加工機100は、工具主軸106と、ワーク主軸108と、カメラ110と、制御部112とを備える。工具主軸106は、カッタ102を交換可能に取り付けていて、カッタ102を駆動する。ワーク主軸108は、ワーク104を交換可能に取り付けていて、ワーク104を駆動する。
【0016】
カメラ110は、例えばマイクロスコープであり、カッタ102の状態を検出するカッタ状態測定装置として機能する。カメラ110は、加工前にATC(オートツールチェンジャー)室などでカッタ102の状態を検出する。
【0017】
ただしカッタ状態測定装置は、カメラ110に限らず、渦流センサであってもよい。カッタ状態測定装置がカメラ110である場合は、カッタ102の状態とは、カッタの輪郭形状である。またカッタ状態測定装置が渦流センサである場合には、カッタ102の状態とは、カッタ102の位相に対する刃先の近接・離隔(カッタを回転させたときの刃先の始まりと終わり)の点列データとなる。
【0018】
制御部112は、工具制御部114と、ワーク制御部116と、カッタ状態測定部118と、カッタ状態判定部120と、補正部122とを有する。制御部112は、例えば工具主軸106、ワーク主軸108およびカメラ110の動作や、その他のモータを駆動制御する。
【0019】
歯車加工機100は、制御部112が工具主軸106とワーク主軸108を同期回転させながらカッタ102とワーク104とを相対的に移動させることによって加工を行う。また歯車加工機100は、カッタ102とワーク104の回転軸を平行にすればギヤシェーパ加工を行うことができ、カッタ102の回転軸をワーク104の回転軸に対して傾ければスカイビング加工を行うことができる。
【0020】
制御部112の工具制御部114は、工具主軸106のサーボモータの回転制御や、ワーク104に対する送りの制御を行う。ワーク制御部116は、ワーク主軸108の回転制御や、カッタ102とワーク104の離接方向の移動(軸間距離の変更)を行う。カッタ状態測定部118は、カメラ110を制御し、カッタ102の状態を測定する。
【0021】
カッタ状態判定部120は、カッタ状態測定部118で測定したカッタ102の状態に基づいてカッタ102の摩耗を含む状態を判定する。具体的にはカッタ状態判定部120は、カメラ110が検出したカッタ102の輪郭形状に基づいて、画像解析によってカッタ102の輪郭抽出を行う。またカッタ状態測定装置が渦流センサであれば、カッタ状態判定部120は、カッタ102の位相に対する刃先の近接・離隔の点列データに基づいて、カッタ102の刃先の幅が広がった場合に摩耗したと判定する。さらにカッタ状態判定部120は、カッタ102の設計値(理論値)である設計歯形形状点列データに基づいてカッタ102の未使用の状態と現在の状態とを比較して摩耗を含む状態を判定してもよいし、同じく設計歯形形状点列データに基づいてカッタ102の加工前後の状態を比較して摩耗を含む状態を判定してもよい。
【0022】
補正部122は、カッタ状態判定部120で判定したカッタ102の摩耗を含む状態に応じてカッタ102による切込量を補正する。そして工具制御部114は、補正された切込量に応じてカッタ102をワーク104に押し当てるように工具主軸106を制御する。
【0023】
図2は、図1の歯車加工機100で加工されるワーク104、124を説明する図である。図2(a)に示すワーク104は、内歯車である。ワーク104のBBD(Between Ball Diameter:ビトウィーンボール径)とは、内歯車の対角線上の2つの歯溝104a、104bにそれぞれ挿入された2つの測定ボール126a、126b間の距離である。
【0024】
図2(b)に示すワーク124は、外歯車である。ワーク124のOBD(Over Ball Diameter:オーバーボール径)とは、外歯車の対角線上の2つの歯溝124a、124bにそれぞれ挿入された2つの測定ボール126a、126b間の距離である。
【0025】
ここでワーク104、124に歯車を加工する際、1つのカッタ102を繰り返し用いると、カッタ102は徐々に摩耗などで変化する。摩耗などで変化したカッタ102を用いてワーク104、124に歯車を加工し続けると、ワーク104のBBDが変化したり(図4参照)、ワーク124のOBDが変化したりして、高い精度で歯車を加工することが困難となる。そこで歯車加工機100では、カッタ102の摩耗を含む状態を考慮して高い精度で歯車を加工する構成を採用した。
【0026】
図3は、図1の歯車加工機100の動作を示すフローチャートである。まず歯車加工機100では、歯車の加工前にATC室でカメラ110によってカッタ102の状態を検出する(ステップS100)。そしてステップS100において、カッタ状態測定部118は、カメラ110が取得したデータからカッタ102の輪郭形状を測定する。
【0027】
つぎにカッタ状態判定部120は、測定されたカッタ102の輪郭形状に基づいて画像解析によってカッタ102の輪郭抽出を行い、カッタ102の摩耗を含む状態を判定する(ステップS102)。さらにカッタ状態判定部120は、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDへの影響が許容範囲か否かを判定する(ステップS104)。
【0028】
ステップS104においてカッタ状態判定部120は、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDへの影響(BBDの変化量)が例えば誤差範囲内であったり、補正部122によるカッタ102の切込量の補正の最小単位より小さかったりした場合に許容範囲内とする。
【0029】
図4は、図1のカッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDの変化量を説明する図である。図中では、内歯車であるワーク104の歯溝104a(図2(a)参照)を示している。
【0030】
歯溝104aにおいて、実線で示す歯面128aは、例えば1個目のワーク104を加工したのみで未だ摩耗していない、設計値通りの理論形状を有するカッタ102によって形成されたものである。また歯溝104aに挿入された測定ボール126aは、直径0.56mmである。さらに歯の傾きである圧力角は19°となっている。
【0031】
また図中の点線で示す歯面128bは、例えば20個目のワーク104を加工することで摩耗したカッタ102によって形成されたものである。この歯面128aと歯面128bとを比較すると、図示のように、ワーク104の歯面方向の断面変化量が8μmとなっている。つまり、カッタ102の稜線が8μm摩耗すると、カッタ102によるワーク104の歯面方向の切込量が8μm不足するため、その分だけ、ワーク104の歯面方向の断面が片側で8μm大きくなる。
【0032】
さらにワークの断面が8μm大きくなることで、測定ボール126aの位置が歯溝104aの歯底から遠ざかるように移動し(図中、点線)、その移動量が25μmとなっている。ワーク104のBBDは、図2(a)に示す2つの測定ボール126a、126b間の距離である。このため、ワーク104のBBDは、測定ボール126aの移動量の2倍となる。したがってカッタ102の稜線が8μm摩耗すると、ワーク104のBBDが50μm変化する(小さくなる)ことがわかる。またカッタ102が摩耗しても、圧力角は一定である。
【0033】
なお図示は省略するが、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク124のOBDの変化も、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDの変化と同様な関係となる。ただしカッタ102の稜線が8μm摩耗すると、ワーク124のOBDは、50μm大きくなる。
【0034】
このようなワーク104のBBDやワーク124のOBDの変化量は、以下の式(1)で示される。なお式(1)の「カッタ稜線の変化量」とは、カッタ稜線の摩耗量を含めた変化量である。
BBD・OBDの変化量=2×カッタ稜線の変化量/sin(圧力角) (1)
【0035】
図3のステップS104において、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDの変化量が許容範囲でなければ(No)、補正部122は、カッタ102の切込量を補正する(ステップS106)。
【0036】
そして工具制御部114は、工具主軸106を制御して、補正された切込量に応じてカッタ102をワーク104に押し当てて加工を行う(ステップS108)。一方ステップS104において、カッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク104のBBDの変化量が許容範囲である場合(Yes)、ステップS108に進み、加工を行う。
【0037】
なお歯車加工機100で外歯車のワーク124を加工する場合には、カッタ状態判定部120は、ステップS104においてカッタ102の摩耗を含む状態に起因するワーク124のOBDへの影響が許容範囲か否かを判定すればよい。
【0038】
このように歯車加工機100では、ワーク104、124に歯車を加工する際、カッタ102の状態を測定してカッタ102の摩耗を含む状態を判定し、カッタ102の摩耗を含む状態に応じてカッタ102による切込量を補正している。すなわち、従来技術のようにワーク104、124の状態を計測して切込量補正を行うのではなく、カッタ102の状態を測定して切込量補正を行っている。したがって歯車加工機100によれば、カッタ102の摩耗を含む状態を考慮して高い精度でワーク104、124に歯車を加工することができる。
【0039】
また歯車加工機100では、カッタ102の状態を検出しているため、カッタ102の寿命管理を行うことができ、さらに、カッタ102が突発的に損傷した場合にはカッタ102を交換すれば不良品が発生することも防止できる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、カッタとワークを同期回転させて歯車を加工する歯車加工機として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
100…歯車加工機、102…カッタ、104、124…ワーク、104a、104b、124a、124b…ワークの歯溝、106…工具主軸、108…ワーク主軸、110…カメラ、112…制御部、114…工具制御部、116…ワーク制御部、118…カッタ状態測定部、120…カッタ状態判定部、122…補正部、126a、126b…測定ボール、128a、128b…ワークの歯面
図1
図2
図3
図4