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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171978
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】プレストレス鋼桁の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/10 20060101AFI20241205BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20241205BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E04C3/10
E01D1/00 G
E04C5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089369
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】藤林 博明
(72)【発明者】
【氏名】野呂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 翔太
(72)【発明者】
【氏名】街道 浩
(72)【発明者】
【氏名】大山 理
(72)【発明者】
【氏名】松井 繁之
【テーマコード(参考)】
2D059
2E163
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA11
2D059GG55
2D059GG61
2E163FA12
2E163FB02
2E163FF12
2E164DA01
2E164EA01
(57)【要約】
【課題】下フランジコンクリートにおけるひずみ変形を抑制するとともに、圧縮ひずみ差を減少させることにより、クラックの発生を効果的に防止することができるプレストレス鋼桁の製造方法を提供する。
【解決手段】分割方式のプレストレス鋼桁を製造する方法において、下フランジ14の下面に配置されているジベル21のうち、下フランジ14の端部14aから最も近い位置にある最端部側のジベル21Aの下フランジ幅方向中央部に切欠部23が形成され、最端部側のジベル21Aの外側の端部が、2列目以降のジベル21Bの両端部よりも外側に位置するように構成されている鋼材11を使用することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直なウェブと、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ及び下フランジとによって構成された鋼材であって、複数本のジベルが、下フランジの下面において、下フランジの幅方向に沿った向きで、下フランジの長手方向へ間隔を置いて並列するように配置された鋼材を複数本用意し、
それらの鋼材を直列させ、隣り合う端部同士を連結して一本の鋼桁を組み立て、
鋼桁にプレフレクションを載荷して曲げ変形させ、
この状態で鋼材の下フランジの周りにコンクリートを打設して、連結部以外の部位に下フランジコンクリートを形成し、
下フランジコンクリートの硬化後にプレフレクション荷重をリリースして、鋼桁の曲げ変形を元に戻すことにより、下フランジコンクリートにプレストレスを導入し、
添接板を取り外して、一本の鋼桁を複数のブロックに分割し、
輸送後にブロックを連結し、下フランジの連結部にコンクリートを打設して、下フランジコンクリートを一体化することによりプレストレス鋼桁を製造する方法において、
前記鋼材として、下フランジの下面に配置されているジベルのうち、下フランジの端部から最も近い位置にある最端部側のジベルの下フランジ幅方向中央部に切欠部が形成されている鋼材を使用することを特徴とするプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項2】
前記最端部側のジベルの外側の端部が、2列目以降のジベルの両端部よりも外側に位置するように構成されている鋼材を使用することを特徴とする、請求項1に記載のプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項3】
下フランジの下面に配置されている複数本のジベルの間の1つの領域又は複数の各領域において、頭付きスタッドが、下フランジの幅方向へ間隔を置いて複数個配置されている鋼材を使用することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項4】
前記最端部側のジベル、及び、2列目から5列目のジベルのうち、少なくとも1つのジベルとして、上向きテーパ面を有する、断面が台形状のジベルが、下フランジの下面に配置されている鋼材を使用することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項5】
垂直なウェブと、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ及び下フランジとによって構成され、
複数本のジベルが、下フランジの下面において、下フランジの幅方向に沿った向きで、下フランジの長手方向へ間隔を置いて並列するように配置され、
前記ジベルのうち、下フランジの端部から最も近い位置にある最端部側のジベルの下フランジ幅方向中央部に切欠部が形成されていることを特徴とするプレストレス鋼桁用の鋼材。
【請求項6】
前記最端部側のジベルの外側の端部が、2列目以降のジベルの両端部よりも外側に位置するように構成されていることを特徴とする、請求項5に記載のプレストレス鋼桁用の鋼材。
【請求項7】
下フランジの下面に配置されている複数本のジベルの間の1つ領域又は複数の各領域において、頭付きスタッドが、下フランジの幅方向へ間隔を置いて複数個配置されていることを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載のプレストレス鋼桁用の鋼材。
【請求項8】
前記最端部側のジベル、及び、2列目から5列目のジベルのうち、少なくとも1つのジベルとして、上向きテーパ面を有する、断面が台形状のジベルが、下フランジの下面に配置されていることを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載のプレストレス鋼桁用の鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下フランジコンクリートにプレストレスを導入してプレストレス鋼桁を製造する方法に関し、特に、分割方式のプレストレス鋼桁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレス鋼桁は、I型断面の鋼材(垂直なウェブと、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ及び下フランジとからなる鋼材)に、プレフレクションを載荷して曲げモーメントを与え、その状態で下フランジの周りにコンクリートを打設し、その硬化後にプレフレクションを解除して、下フランジコンクリートにプレストレスを導入する、という方法によって製造されている。
【0003】
プレストレス鋼桁の製造方法には、いくつかの方式があり、一本の鋼材に対して上記のような方法を実施するオーソドックスな方式のほかに、複数本の鋼材を使用し、それらの鋼材を連結した状態でコンクリートにプレストレスを導入し、その後、分割することを特徴とする、「分割方式」と呼ばれるプレストレス鋼桁の製造方法等が知られている。
【0004】
分割方式のプレストレス鋼桁の製造方法は、現地施工の省力化、長支間桁の輸送と架設の容易化のために開発されたものであり、次のような手順で実施される。まず、工場において、図10(1)に示すように、複数本(この例では3本)のI型断面の鋼材11を直列させて、隣り合う端部同士を突き合わせ、添接板18を用いて連結し、一本の鋼桁10を組み立てる。
【0005】
添接板18は、図示されている位置(鋼材11のウェブ同士を連結する位置)だけでなく、上フランジ同士を連結する位置、及び、下フランジ14同士を連結する位置にもそれぞれ配置し、ボルト孔に挿通したボルトを締結してそれぞれ固定する。尚、鋼材11の下フランジ14の上面及び下面には、多数のジベル21(ずれ止め)が配置されている。
【0006】
次に、図10(2)に示すように、鋼桁10にプレフレクションを載荷して、設計曲げモーメントを包含するプレフレクション曲げモーメントを与え、曲げ変形させる。その状態で鋼材11の各下フランジ14の周りに(より具体的には、図10(2)において破線で示す位置に、下フランジ14の上面、下面、及び、側面をそれぞれ覆うように)コンクリートを打設して、下フランジコンクリート16を形成する。尚、下フランジ14の連結部17(下フランジ14同士を連結する添接板が配置される部位、及び、その近傍部位)にはコンクリートは打設せず、ブランクとしておく。
【0007】
下フランジコンクリート16が硬化したら、プレフレクション荷重をリリースして、図10(3)に示すように、鋼桁10の曲げ変形を元に戻す。その際に生じるリリース曲げモーメントによって、下フランジ14の引張力の減少分が、ジベル21(図10(1)参照)を介してコンクリートの圧縮力に変換され、下フランジコンクリート16にプレストレスが導入される。
【0008】
次に、図10(4)に示すように、添接板を取り外して、一本の鋼桁10を複数(この例では3つ)のブロック(一本の鋼材11と下フランジコンクリート16からなる分割ブロック)に分割する。そして、それらの分割ブロックを現地へ輸送し、図10(5)に示すように、再び添接板18を用いて連結する。最後に、下フランジ14の連結部17(図10(5)において破線で示す位置)にコンクリートを打設してブランクを埋め、一連の下フランジコンクリート16を一体化させる(連続した状態とする)。
【0009】
分割方式によってプレストレス鋼桁を製造する場合、下フランジコンクリート16にプレストレスを導入する工程を実施する際に、下フランジコンクリート16にクラックが発生することがある。
【0010】
下フランジコンクリート16にプレストレスを導入する時点では、連結部17(図10(2)参照)にはコンクリートは打設されていないため、その両側には、図10(3)に示すように、下フランジコンクリート16の端部16aが形成されることになる。そして、プレフレクション荷重をリリースして、鋼桁10の変形を元に戻す際に、ポアソン比ひずみにより下フランジ14の両側縁が幅方向(桁軸直角方向)へ膨出するような変形が発生する。このため、下フランジコンクリート16の端部16a付近においてコンクリート断面が急変して応力集中が発生し、その結果、桁軸直角方向の引張応力が端部16a付近に作用することになる。このような、端部16a付近における応力集中と引張応力が、クラックの発生原因の一つであると考えられている。
【0011】
そこで、プレストレス導入時において、下フランジ14が桁軸直角方向へ膨出するような変形が発生しても、その変形が下フランジコンクリート16に伝達されないように工夫することにより、より具体的には、下フランジ14の両側縁と、下フランジコンクリート16との間に、下フランジ14の膨出変形に追従し得るような充填材を配置することにより、プレストレス導入時において、下フランジコンクリート16の端部16aに桁軸直角方向の引張応力が作用することを回避して、クラックの発生を防止しようとする技術も存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005-248617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、下フランジコンクリート16の端部16a付近におけるクラックの発生原因は、下フランジ14が桁軸直角方向へ膨出変形することだけではなく、下フランジ14の下面に配置されているジベル21(図10(1)参照)のうち、最端部側の(下フランジコンクリート16の端部16aから最も近い位置にある)ジベル21から過大な支圧応力が作用することや、局部支圧により、コンクリート表面において隆起変形が生じること等も、考慮する必要があると考えられる。
【0014】
この点について具体的に説明すると、下フランジ14の下面の最端部側のジベル21には、下フランジコンクリート16へのプレストレス導入時において、最も大きな水平せん断力が作用することになる。また、下フランジコンクリート16のうち、最端部側のジベル21の周辺の部位においては、コンクリート断面の中央部に応力が集中することになる。
【0015】
更に、下フランジコンクリート16のうち、下フランジ14の下側の部位(下側部)は、コンクリートの中間高さ位置において下フランジ14が延在しているため、下フランジ14の左右外側の部位(側部)に比べコンクリートの厚さ寸法が小さく、左右の側部のコンクリートに支持された2辺支持板のような形状となっている。このため、下フランジコンクリート16の下側部の中央部は、両端部に比べ、ひずみによるそり変形が生じやすいほか、下フランジ14から剥離する方向に偏心支圧されるため、この部位においては、コンクリート表面が下方側へ隆起する変形が生じやすい。
【0016】
このように、最端部側のジベル21から作用する過大な支圧力により、下フランジコンクリート16の下側部の中央部にひずみが集中し、局部的なひずみ変形が発生すると考えられ、このことが、下フランジコンクリート16の端部16a付近におけるクラックの更なる発生原因の一つであると考えられる。従って、下フランジコンクリート16の端部16a付近におけるクラックの発生を回避するためには、上述したような対策のみでは十分ではなく、最端部側のジベル21の周辺部位において生じる現象等を踏まえた上で、適切な対策を行うことが望まれる。
【0017】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、下フランジコンクリートにおけるひずみ変形を抑制するとともに、圧縮ひずみ差を減少させることにより、クラックの発生を効果的に回避することができるプレストレス鋼桁の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るプレストレス鋼桁の製造方法は、垂直なウェブと、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ及び下フランジとによって構成された鋼材であって、複数本のジベルが、下フランジの下面において、下フランジの幅方向に沿った向きで、下フランジの長手方向へ間隔を置いて並列するように配置された鋼材を複数本用意し、それらの鋼材を直列させ、隣り合う端部同士を連結して一本の鋼桁を組み立て、鋼桁にプレフレクションを載荷して曲げ変形させ、この状態で鋼材の下フランジの周りにコンクリートを打設して、連結部以外の部位に下フランジコンクリートを形成し、下フランジコンクリートの硬化後にプレフレクション荷重をリリースして、鋼桁の曲げ変形を元に戻すことにより、下フランジコンクリートにプレストレスを導入し、添接板を取り外して、一本の鋼桁を複数のブロックに分割し、輸送後にブロックを連結し、下フランジの連結部にコンクリートを打設して、下フランジコンクリートを一体化することによりプレストレス鋼桁を製造する方法において、前記鋼材として、下フランジの下面に配置されているジベルのうち、下フランジの端部から最も近い位置にある最端部側のジベルの下フランジ幅方向中央部に切欠部が形成されている鋼材を使用することを特徴としている。
【0019】
尚、このプレストレス鋼桁の製造方法においては、前記最端部側のジベルの外側の端部が、2列目以降のジベルの両端部よりも外側に位置するように構成されている鋼材を使用することが好ましい。また、下フランジの下面に配置されている複数本のジベルの間の1つ領域又は複数の各領域において、頭付きスタッドが、下フランジの幅方向へ間隔を置いて複数個配置されている鋼材を使用することが好ましい。更に、前記最端部側のジベル、及び、2列目から5列目のジベルのうち、少なくとも1つのジベルとして、上向きテーパ面を有する、断面が台形状のジベルが、下フランジの下面に配置されている鋼材を使用することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るプレストレス鋼桁用の鋼材は、垂直なウェブと、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ及び下フランジとによって構成され、複数本のジベルが、下フランジの下面において、下フランジの幅方向に沿った向きで、下フランジの長手方向へ間隔を置いて並列するように配置され、前記ジベルのうち、下フランジの端部から最も近い位置にある最端部側のジベルの下フランジ幅方向中央部に切欠部が形成されていることを特徴としている。
【0021】
尚、このプレストレス鋼桁用の鋼材は、前記最端部側のジベルの外側の端部が、2列目以降のジベルの両端部よりも外側に位置するように構成されていることが好ましい。また、下フランジの下面に配置されている複数本のジベルの間の1つの領域又は複数の各領域において、頭付きスタッドが、下フランジの幅方向へ間隔を置いて複数個配置されていることが好ましい。更に、前記最端部側のジベル、及び、2列目から5列目のジベルのうち、少なくとも1つのジベルとして、上向きテーパ面を有する、断面が台形状のジベルが、下フランジの下面に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るプレストレス鋼桁の製造方法は、鋼材の下フランジの下面に配置されているジベルのうち、最端部側のジベルの下フランジ幅方向中央部に切欠部が形成された鋼材を使用することにより、下フランジコンクリートの下側部の中央部への応力集中を緩和し、この部位におけるひずみ変形を好適に抑制することができ、下フランジコンクリートにおけるクラックの発生を効果的に回避することができる。
【0023】
また、最端部側のジベルの外側の端部が、2列目以降のジベルの両端部よりも外側に位置するように構成されている鋼材を使用した場合、下フランジコンクリートの幅内における圧縮ひずみ差を好適に減少させることができる。更に、最端部側のジベル(及び、その近傍のジベル)として、断面が台形状のテーパージベルが配置された鋼材を使用した場合、アンカー効果により、下フランジコンクリートの下側部の表面における隆起変形を効果的に抑制することができ、下フランジコンクリートにおけるクラックの発生を効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法において用いられる鋼材11の上方視点からの斜視図である。
図2図2は、図1に示す鋼材11の下方視点からの斜視図である。
図3図3は、図1及び図2に示す鋼材11の一方の端部付近における下フランジ14の底面図である。
図4図4は、図1及び図2に示す鋼材11、及び、下フランジコンクリート16の垂直断面図である。
図5図5は、最端部側のジベル21Aの他の構成例を示す図である。
図6図6は、従来のプレストレス鋼桁と、本発明の第一実施形態のプレストレス鋼桁を対象として行ったFE解析の結果を示す図である。
図7図7は、本発明の第二実施形態において用いられる鋼材の下フランジ14の下面に配置されたジベル21Cの垂直断面図である。
図8図8は、角鋼ジベルが配置されたプレストレス鋼桁と、テーパージベル21Cが配置された本発明の第二実施形態のプレストレス鋼桁を対象として行ったFE解析の結果を示す図である。
図9図9は、本発明の第三実施形態において用いられる鋼材の下フランジ14の下面に配置された頭付きスタッド21Dの垂直断面図、及び、下フランジ14の底面図である。
図10図10は、分割方式のプレストレス鋼桁の製造方法の一般的な施工手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面に沿って、本発明「プレストレス鋼桁の製造方法」の実施形態について説明する。図1は、本発明の第一実施形態において用いられる鋼材11の上方視点からの斜視図、図2は下方視点からの斜視図である。この鋼材11は、垂直なウェブ12と、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ13及び下フランジ14とによって、垂直断面がI型を呈するように構成されている。
【0026】
図示されているように、この鋼材11の両端部においては、他の鋼材と連結するための添接板を取り付けることができるように、ウェブ12、上フランジ13、及び、下フランジ14に、多数のボルト孔15が形成されている。また、下フランジ14の上面、及び、下面には、多数のジベル21(角鋼ジベル)が固定されている。
【0027】
図3は、図1及び図2に示す鋼材11の一方の端部付近における下フランジ14の底面図である。図示されているように、端部付近における下フランジ14の下面には、複数本のジベル21が、下フランジ14の幅方向(桁軸直角方向)に沿った向きでそれぞれ配置されるとともに、下フランジ14の長手方向(桁軸方向)へ間隔を置いて並列するように配置されている。
【0028】
但し、それらのジベル21のうち、最端部側のジベル21A(下フランジ14の端部14aから最も近い位置にある1列目のジベル)と、2列目以降のジベル21Bとは、構成が異なっている。この点について具体的に説明すると、2列目以降のジベル21Bはいずれも、長さが、下フランジ14の幅寸法(本実施形態においては550mm)よりもわずかに短い寸法(本実施形態においては490mm)に設定され、長手方向の両端部が、下フランジ14の一方側の側縁14b、及び、反対側の側縁14cから、それぞれ内側寄りに位置するように(本実施形態においては、それぞれ30mm内側に位置するように)配置されている。
【0029】
これに対し最端部側のジベル21Aは、下フランジ14の幅方向へ分散した構成となっている。より詳細には、下フランジ14の幅寸法の1/2よりも短い長さ寸法(本実施形態においては190mm)に設定された二本のジベル21Aが、幅方向へ直列するように配置され、中央部(下フランジ幅方向中央部)において、それらの二本のジベル21Aの間に、所定の大きさ(本実施形態においては150mm)の切欠部23が形成されている。
【0030】
尚、切欠部23の大きさ(二本のジベル21Aの間隔寸法)は、100~300mmの範囲内とすることが好ましい。また、最端部側のジベル21Aは、図3に示したように、中央の切欠部23によって完全に二本に分断されているものには限定されず、例えば図5に示すように、一本のジベル21Aを、中央部において下方側から上方へ向かって部分的に切り欠くことによって切欠部23を形成した構成とすることもできる。但しこの場合、切欠部23の高さ寸法は、ジベル21Aの高さ寸法の1/2以上とすることが好ましい。
【0031】
また、ジベル21Aは、外側の端部が、2列目以降のジベル21Bの両端部よりもそれぞれ外側に位置するように(本実施形態においては、下フランジ14の一方側の側縁14b、及び、反対側の側縁14cから、それぞれ10mm内側寄りに位置するように)構成されている。
【0032】
本実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法は、以上に説明したような鋼材11を複数本使用して、分割方式のプレストレス鋼桁の製造方法を実施することを特徴とする。具体的には、図1図3に示す鋼材11を複数本(例えば3本)用意し、それらを直列させて、隣り合う端部同士を突き合わせ、添接板18を用いて連結し、一本の鋼桁10を組み立てる(図10(1)参照)。
【0033】
次に、鋼桁10にプレフレクションを載荷して、設計曲げモーメントを包含するプレフレクション曲げモーメントを与え、曲げ変形させる(図10(2)参照)。その状態で鋼材11の各下フランジ14の周りに(より具体的には、図4に示すように、下フランジ14の上面、下面、及び、側面をそれぞれ覆うように)コンクリートを打設して、下フランジコンクリート16を形成する。尚、下フランジコンクリート16の内部には、鉄筋22を配置する。また、下フランジ14の連結部17(下フランジ14同士を連結する添接板が配置される部位、及び、その近傍部位)にはコンクリートは打設せず、ブランクとしておく(図10(2)参照)。
【0034】
下フランジコンクリート16が硬化したら、プレフレクション荷重をリリースして、鋼桁10の曲げ変形を元に戻す(図10(3)参照)。その際に生じるリリース曲げモーメントによって、下フランジ14の引張力の減少分が、ジベル21を介してコンクリートの圧縮力に変換され、下フランジコンクリート16にプレストレスが導入される。
【0035】
次に、添接板を取り外して、一本の鋼桁10を複数のブロック(一本の鋼材11と下フランジコンクリート16からなる分割ブロック)に分割する(図10(4)参照)。そして、それらの分割ブロックを現地へ輸送し、再び添接板18を用いて連結する。最後に、下フランジ14の連結部17にコンクリートを打設してブランクを埋め、一連の下フランジコンクリート16を一体化する(図10(5)参照)。
【0036】
本実施形態に係る方法によってプレストレス鋼桁を製造した場合、次のような効果を期待することができる。まず、図3に示すように、鋼材11の下フランジ14の下面に配置されているジベル21のうち、最端部側のジベル21Aが、下フランジ14の幅方向へ分散した構成(二本のジベル21Aが幅方向へ直列し、幅方向中央部において、それらの二本のジベル21Aの間に所定の大きさの切欠部23が形成される構成)となっているため、下フランジコンクリート16のうち、下フランジ14の下側の部位(下側部16b)(図4参照)におけるひずみ変形を抑制する効果が得られる。
【0037】
より詳細には、下フランジコンクリート16の下側部16bは、コンクリートの中間高さ位置において下フランジ14が延在しているため、下フランジ14の左右外側の部位(側部16c)に比べコンクリートの厚さ寸法が小さく、左右の側部16cによって支持された2辺支持板のような形状となっている。このため、下側部16bの中央部は、両端部(側部16cとの境界線(図4に示す一点鎖線)に近接する部位)に比べ、ひずみによる変形が大きくなりやすい。
【0038】
本実施形態においては、プレストレス導入時において過大な支圧力が作用する最端部側のジベル21Aが、下側部16bの支持点側(図4に示す一点鎖線側)に分散した構成となっているため、下フランジコンクリート16の下側部16bの中央部への応力集中を緩和し、この部位におけるひずみ変形を好適に抑制することができる。
【0039】
また、下フランジ14の下面の全てのジベル21が、下フランジ14の幅方向中央に配置されている場合、下フランジコンクリート16の圧縮応力が断面方向に均等になるまでの区間において、中央付近のひずみが、周辺に比べて過大となってしまうが、本実施形態においては、最端部側のジベル21Aの外側の端部が、2列目以降のジベル21Bの両端部よりもそれぞれ外側に位置するように配置されているため、下フランジコンクリート16の幅内における圧縮ひずみ差を減少させることができる。
【0040】
尚、本実施形態に係る発明においてこのような効果を期待できることは、従来のプレストレス鋼桁と、本実施形態のプレストレス鋼桁を対象として行った解析の結果(図6参照)によって確認されている。
【0041】
より詳細には、図6(1)は、従来のプレストレス鋼桁(図3に示す2列目以降のジベル21Bと同形状のジベルが、最端部側にも配置されている鋼材を使用して製造したプレストレス鋼桁の分割ブロック)を対象とする、下フランジコンクリートの下側部の隆起変形量のFE解析結果を示す図であり、図6(2)は、本実施形態のプレストレス鋼桁(図3に示すように、最端部側のジベル21Aがコンクリートの支持点側に分散した構成となっている鋼材11を使用して製造したプレストレス鋼桁の分割ブロック)を対象とするFE解析結果を示す図である。
【0042】
これらの図において、色の濃さは変形量の大きさを示しており、変形量が大きい部位ほど濃い色で表示されている。図6(2)に示す本実施形態のプレストレス鋼桁においては、下フランジコンクリートの下側部の隆起変形が、図6(1)に示す従来のプレストレス鋼桁と比較して、明らかに抑制されていることがわかる。
【0043】
尚、上記第一実施形態においては、高さ寸法及び幅寸法が等しい、断面が正方形のジベル21(角鋼ジベル)が下フランジ14に配置された鋼材11が使用されているが、図7に示すような、上向きテーパ面を有する、断面が台形状のジベル21C(テーパージベル)が、下フランジ14の下面に配置された鋼材を使用することもできる(第二実施形態)。
【0044】
分割方式によって製造された従来のプレストレス鋼桁においては、下フランジコンクリートの下側部のうち、コンクリートの圧縮応力が均一でない区間では、コンクリートの表面に近い部位と、ジベル近傍の部位とで、圧縮によるひずみ量の差が大きく、ジベルによってコンクリートの厚さ方向に偏心支圧される影響が大きい。そして、この偏心支圧により、コンクリート表面において局部的な隆起変形が発生していた。
【0045】
本実施形態では、圧縮応力が均一でない区間(例えば、下フランジ14の下面のジベル21のうち、図3に示す最端部側のジベル21Aから5列目のジベル21Bまでの区間)において、角鋼ジベル(断面が正方形のジベル)の代わりに、図7に示すようなテーパージベル21C(断面が台形状のジベル)を配置した鋼材が使用される。この場合、テーパージベル21Cのアンカー効果により、下フランジコンクリート16の下側部16bの表面における隆起変形を効果的に抑制することができる。
【0046】
尚、このような効果は、角鋼ジベルが配置されたプレストレス鋼桁と、テーパージベル21Cが配置されたプレストレス鋼桁を対象として行った解析の結果(図8参照)によって確認されている。
【0047】
より詳細には、図8(1)は、角鋼ジベルが配置されたプレストレス鋼桁を対象とする、下フランジコンクリートの下側部の隆起変形によるコンクリート表面の軸直角方向の応力分布のFE解析結果を示す図であり、図8(2)は、テーパージベル21Cが配置された本実施形態のプレストレス鋼桁を対象とするFE解析結果を示す図である。図8(2)に示す本実施形態のプレストレス鋼桁においては、下フランジコンクリートの下側部の隆起変形による引張応力が、図8(1)に示す従来のプレストレス鋼桁と比較して、明らかに抑制されていることがわかる。
【0048】
尚、図3に示す最端部側のジベル21A、及び、2~5列目のジベル21Bのうち、少なくとも1つを、図7に示すようなテーパージベル21Cとし、その他を角鋼ジベルとしてもよく、更に、角鋼ジベルと、テーパージベル21Cとを交互に配置するようにしてもよい。
【0049】
また、図7に示すテーパージベル21Cを配置する代わりに、図9(1)に示すような頭付きスタッド21Dを、角鋼ジベル(ジベル21A,21B)と組み合わせて、例えば、図9(2)に示すように、それらを交互に配置することもできる(第三実施形態)。この場合、頭付きスタッド21Dは、角鋼ジベル(ジベル21A,21B)の間の各領域(最端部側のジベル21Aと2列目のジベルとの間の領域、及び、2列目から5列目の隣り合うジベル21Bの間の各領域)のうち、1つの領域又は複数の各領域において、下フランジ14の幅方向へ間隔を置いて複数個(例えば、3~4個程度)配置することが好ましい。この場合も、テーパージベル21Cを配置した場合と同様に、下フランジコンクリート16の下側部16bの表面における隆起変形を抑制する効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0050】
10:鋼桁、
11:鋼材、
12:ウェブ、
13:上フランジ、
14:下フランジ、
14a:端部、
14b,14c:側縁、
15:ボルト孔、
16:下フランジコンクリート、
16a:端部、
16b:下側部、
16c:側部、
17:連結部、
18:添接板、
21,21A~21C:ジベル、
21D:頭付きスタッド、
22:鉄筋、
23:切欠部、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10