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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171991
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】蓄熱体の製造方法及び蓄熱体
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20241205BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20241205BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C04B41/85 C
C04B35/577
F28D20/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089389
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】清木 晋
(72)【発明者】
【氏名】小池 康太
(57)【要約】
【課題】炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体であって、熱交換特性、耐熱衝撃性、耐腐食性に優れると共に、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えることなく耐酸化性が高められている蓄熱体の製造方法を提供する。
【解決手段】骨材としての炭化珪素、及び炭素源を含有する球状の成形体を単体珪素に埋設した状態で、非酸化性雰囲気で珪素の融点以上の温度で加熱することにより、単体珪素を珪素源とし前記炭素源との反応により炭化珪素を生成させつつ前記成形体を焼成すると共に、炭化珪素の粒子間の空隙に単体珪素を含浸させる焼成・含浸工程により、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている、球状の蓄熱体を製造する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材としての炭化珪素、及び炭素源を含有する球状の成形体を単体珪素に埋設した状態で、非酸化性雰囲気で珪素の融点以上の温度で加熱することにより、単体珪素を珪素源とし前記炭素源との反応により炭化珪素を生成させつつ前記成形体を焼成すると共に、炭化珪素の粒子間の空隙に単体珪素を含浸させる焼成・含浸工程により、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている、球状の蓄熱体を製造する
ことを特徴とする蓄熱体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成・含浸工程の後に、酸素の存在する雰囲気で加熱することにより、二酸化珪素である酸化膜を外表面に備える蓄熱体とする
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱体の製造方法。
【請求項3】
球状で、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている
ことを特徴とする蓄熱体。
【請求項4】
二酸化珪素である酸化膜を外表面に備えている
ことを特徴とする請求項3に記載の蓄熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの流路に配置されてガスと熱交換する蓄熱体の製造方法、及び、該製造方法により製造される蓄熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスの流路に配置されてガスと熱交換する蓄熱体の例として、蓄熱式バーナ(リジェネバーナ)の熱交換部に配される蓄熱体を挙げることができる。蓄熱式バーナは、鍛造炉、熱処理炉、溶解炉、焼成炉などの工業炉において使用されているバーナであり、バーナの燃焼により高温となった排ガスと、バーナの燃焼のために新たに供給されるガスとを、交互に熱交換部に流通させるべく、ガスの流通方向が所定時間間隔で切り換えられる。熱交換部には多数の蓄熱体が充填されており、排ガスの熱は蓄熱体によって回収され、回収された熱によって、新たに供給されるガスが予熱される。
【0003】
蓄熱体としては、従前よりアルミナ製の中実ボールが多用されている。一方、アルミナ、コージェライト、ムライト等のセラミックスのハニカム構造体を、蓄熱体として使用する技術も提案されている。
【0004】
また、本出願人は、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体を提案している(特許文献1参照)。炭化珪素は、セラミックスの中では熱伝導率が高い材料である。具体的には、アルミナ、コージェライト、及び、ムライトの熱伝導率は、それぞれ9~30W/m・K、0.6W/m・K、及び、1.5W/m・Kであるのに対し、炭化珪素の熱伝導率は75~130W/m・Kと高い。そのため、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体は、熱交換の効率が高い。
【0005】
加えて、炭化珪素の熱膨張率は、4.0~4.5(×10-6/K)と小さい。すなわち、炭化珪素は、熱伝導率が高いと共に熱膨張率が小さいため、耐熱衝撃性に優れている。従って、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体は、蓄熱と放熱との繰り返しに伴う温度変化を受け続ける蓄熱体として適している。
【0006】
ところが、炭化珪素は酸素が存在する雰囲気において高温下で使用されると、酸化してしまうという問題がある。そこで、特許文献1の技術では、炭化珪素質セラミックス焼結体であるハニカム構造の基体の表面に、珪酸系ガラスの酸化防止層を形成させるという手段を採用した。この珪酸系ガラスの層によって、基体の炭化珪素と酸素との接触が妨げられるため、炭化珪素の酸化が有効に抑制される。
【0007】
加えて、本出願人の検討の結果、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えることによって、もともと耐熱衝撃性の高い炭化珪素より更に、耐熱衝撃性が高められることが判明した。これは、珪酸系ガラスが高温下で軟化し塑性変形する性質のために、亀裂の伸展が抑制されると共に、炭化珪素質セラミックス焼結体の脆性的な破壊が抑制されるためと考えられた。
【0008】
しかしながら、珪酸系ガラスが高温下で軟化する性質は、上記のように利点である反面、軟化したガラスによって、蓄熱体同士、あるいは蓄熱体とケーシングとが付着してしまうことがあった。特に、金属や合金を鋳造する現場で使用される蓄熱体は、フラックスに由来するアルカリ成分を含む雰囲気に置かれるため、アルカリ成分によって珪酸系ガラスがより軟化しやすく、軟化による付着がより生じやすい。このような付着が生じると、蓄熱体を交換したり、蓄熱体を熱交換部から取り出して洗浄したりするメンテナンスが行いにくいという不具合が生じる。また、蓄熱体が中実ボールである場合は、上記の付着によって、ガスを通過させるべき空隙が閉塞してしまい、熱交換率が低下するという問題がある。また、雰囲気中に含まれるダスト等の異物も軟化した珪酸系ガラスの層の表面に付着しやすく、このような異物の付着によってもガスを通過させるべき空隙の閉塞が生じ、熱交換率が低下するという問題がある。
【0009】
加えて、珪酸系ガラスの酸化防止層は、炭化珪素質セラミックス焼結体である基体とは異質な材料で形成されているため、基体から剥離してしまうことがある。酸化防止層が剥離してしまった蓄熱体では、当然ながら炭化珪素質セラミックス焼結体である基体の酸化が進行してしまう。
【0010】
また、上述したように、蓄熱体が使用されている現場でフラックスが使用されている場合、珪酸系ガラスの層が剥離した後の蓄熱体は、フラックスに由来する成分によって腐食され、脆くなる等により耐用期間が短くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5709007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体であって、熱交換特性、耐熱衝撃性、耐腐食性に優れると共に、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えることなく耐酸化性が高められている蓄熱体の製造方法、及び、該製造方法により製造される蓄熱体の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる蓄熱体の製造方法は、
「骨材としての炭化珪素、及び炭素源を含有する球状の成形体を単体珪素に埋設した状態で、非酸化性雰囲気で珪素の融点以上の温度で加熱することにより、単体珪素を珪素源とし前記炭素源との反応により炭化珪素を生成させつつ前記成形体を焼成すると共に、炭化珪素の粒子間の空隙に単体珪素を含浸させる焼成・含浸工程により、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている、球状の蓄熱体を製造する」ものである。
【0014】
本製造方法で製造された蓄熱体では、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素(骨材としての炭化珪素、反応生成した炭化珪素)の粒子間の空隙が単体珪素で充填されていることにより、非常に緻密である。これにより、酸素が存在する雰囲気下で蓄熱体が使用されても、蓄熱体において酸素と接触する表面積が小さいため、炭化珪素の酸化が進行しにくい。また、多孔質である基体に単体珪素が充填されて緻密質となっていることにより、酸素が基体の内部まで浸入することがなく、基体の内部の酸化が有効に抑制される。つまり、蓄熱体の外表面を何かの層でコーティングすることなく、炭化珪素の酸化が有効に抑制される。
【0015】
また、単体珪素の含浸によって蓄熱体の組織を緻密化するため、外形を大きくすることなく蓄熱体の熱容量を高めることができ、バルク体としての熱交換率を増大させることができる。
【0016】
更に、本製造方法では、球状の成形体を焼成しつつ、単体珪素を含浸させている。球形は、外表面における何れの点についても中心までの距離が等しく、炭化珪素が等方的に含浸するため、成形体が円柱状や角柱状である場合に比べて、中心まで十分に単体珪素を含浸させやすく、十分に緻密化させることができる。
【0017】
そして、本製造方法で製造される蓄熱体は、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えていないため、珪酸系ガラスの軟化による蓄熱体同士の付着、蓄熱体とケーシングの付着という問題がない。また、酸化防止のためのコーティング層を有していないため、コーティング層の剥離により酸化が進行してしまうという問題もない。
【0018】
そして、本製造方法で製造される蓄熱体は、上記のように耐酸化性、熱交換特性に優れていることに加え、詳細は後述するように、耐熱衝撃性や耐腐食性にも優れている。
【0019】
本発明にかかる蓄熱体の製造方法は、上記構成に加え
「前記焼成・含浸工程の後に、酸素の存在する雰囲気で加熱することにより、外表面に二酸化珪素である酸化膜を備える蓄熱体とする」ものとすることができる。
【0020】
本構成は、蓄熱体の使用に先立ち、蓄熱体の外表面に強制的に酸化膜(二酸化珪素の膜)を形成する製造方法である。この酸化膜の存在により、蓄熱体が酸素を含む雰囲気下で使用されたときの基体内部の酸化が、有効に抑制される。
【0021】
次に、本発明にかかる蓄熱体は、
「球状で、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている」ものとすることができる。
【0022】
これは、上記の製造方法により製造される蓄熱体の構成である。
【0023】
蓄熱体がハニカム構造体である場合、圧力損失が生じにくい利点がある半面で、空隙率が高いため熱容量が小さいという難点がある。これに対し、本発明の蓄熱体は球状(中実ボール)であるため、外形の大きさが同程度であればハニカム構造体より熱容量が大きい。加えて、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されていることにより非常に緻密であるため、もともと熱伝導率が高い炭化珪素の基体の熱容量が高められており、炭化珪素のみからなる多孔質の蓄熱体に比べて、更に熱交換特性に優れるものとなっている。
【0024】
本発明にかかる蓄熱体は、上記構成に加え、
「二酸化珪素である酸化膜を外表面に備えている」ものとすることができる。
【0025】
これは、前記焼成・含浸工程の後に、酸素の存在する雰囲気で加熱する上記の製造方法により製造される蓄熱体の構成である。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体であって、熱交換特性、耐熱衝撃性、耐腐食性に優れると共に、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えることなく耐酸化性が高められている蓄熱体の製造方法、及び、該製造方法により製造される蓄熱体を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)は実施例E1の蓄熱体の切断面の反射電子像であり、図1(b)は実施例E2の蓄熱体の切断面の反射電子像であり、図1(c)は実施例E3の蓄熱体の切断面の反射電子像である。
図2図2(a)は実施例E3の蓄熱体について珪素を分析対象としたマッピング像であり、図2(b)は図2(a)と同視野について酸素を分析対象としたマッピング像であり、図2(c)は図2(a)及び図2(b)と同視野の反射電子像である。
図3図3は、実施例E3の熱伝導率を比較例R2及び比較例R3と対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態である蓄熱体の製造方法、及び、この製造方法により製造される蓄熱体について、具体的に説明する。
【0029】
本実施形態の蓄熱体の製造方法は、原料粉末を調製する原料粉末調製工程と、調製された原料粉末から球状の成形体を製造する成形工程と、球状の成形体を単体珪素(いわゆる「金属シリコン」)と共に焼成し、炭化珪素を反応生成させつつ成形体を焼成する共に、単体珪素を焼結体に含浸させる焼成・含浸工程と、を備えている。
【0030】
より具体的に説明すると、原料粉末調製工程では、骨材としての炭化珪素粉末と炭素源とを混合する。骨材としての炭化珪素粉末は、原料粉末の全量に対して68質量%~98質量%とすることができる。骨材としての炭化珪素粉末の割合が68質量%より少ない場合は、得られる焼結体の強度が低いものとなり易い。一方、98質量%より多い場合は、焼結しにくい成形体となり易い。なお骨材としての炭化珪素粉末の混合原料に対する割合は、78質量%~88質量%であれば、上記の相反する作用の調和が取れるため、より望ましい。
【0031】
骨材としての炭化珪素は、平均粒子径1μm~50μmとすることが望ましく、10μm~30μmとすれば、より望ましい。平均粒子径が1μm未満であると、単体珪素を含浸させにくく、平均粒子径が50μmを超えると、含浸後の単体珪素の分布が不均一となりやすい。ここで、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法による体積基準の累積分布における50%径である。
【0032】
炭素源としては、カーボンブラック、黒鉛、石炭、コークス、木炭などを例示することができる。成形工程で使用する後述の有機バインダの炭素成分を、炭素源の一部または全部とすることもできる。
【0033】
なお、原料粉末には、骨材としての炭化珪素粉末及び炭素源に加え、窒化珪素、窒化アルミニウム等の非酸化物セラミックスを0.1質量%~0.5質量%含有させることにより、最終的に得られる蓄熱体の熱膨張率や熱伝導率を調整することができる。窒化珪素は、炭化珪素より熱膨張率が小さい利点がある。窒化アルミニウムは、熱膨張率は炭化珪素と同程度であるが、熱伝導率が炭化珪素より高い利点がある。
【0034】
成形工程では、調製された原料粉末から球状の成形体を成形する。球状の成形体は、例えば、鋳込成形で成形することができる。この場合、鋳込み型として、半球形の外郭を有する型の二つを使用する。一方の型に小さな貫通孔を設けておき、二つの型それぞれの開口縁を突き合わせた状態で、有機バインダを含む液媒体に原料粉末を分散させたスラリーを、小さな貫通孔より注入する。その他の成形方法として、原料粉末を有機バインダを含む液媒体と混合して混練物とし、この混練物を円形の型から押し出して押出方向に直交する方向で切断することにより、円形の型の直径に近い高さを有する円柱状の成形体とした後、球形整粒機で整粒することにより、球状の成形体を成形することができる。
【0035】
焼成・含浸工程では、球状の成形体を単体珪素の粉末と共に焼成する。単体珪素は、成形体に含まれている炭素源と共に炭化珪素を反応生成させる珪素源として使用されると共に、炭化珪素の粒子間の空隙に含浸させる。炭化珪素の反応生成のためには、珪素と炭素とのモル比(Si/C)が1のときに化学量論的に過不足なく炭化珪素が生成するのに対し、本製造方法では、炭化珪素の粒子間の空隙に単体珪素を含浸させるため、大過剰量の単体珪素に球状の成形体を埋設して焼成する。
【0036】
焼成温度は、珪素の融点である1410℃以上であり、1410℃~1700℃とすることができる。焼成雰囲気は非酸化性雰囲気とし、単体珪素の含浸を促進するために、焼成炉内を減圧してから焼成・含浸工程を行う。非酸化性雰囲気は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、或いは、真空雰囲気とすることができる。
【0037】
このような条件で行われる焼成・含浸工程では、成形体の周囲に存在する単体珪素が加熱により溶融する。珪素と炭化珪素とは馴染みが良いため(濡れやすいため)、溶融した単体珪素は、焼成されつつある成形体の表面を覆うと共に、内部に浸透して行く。これに伴い、単体珪素を珪素源とし、成形体に含有されている炭素源と反応して炭化珪素が反応生成し、骨材としての炭化珪素同士が結合される。
【0038】
また、骨材としての炭化珪素を含む成形体が、炭素源と単体珪素から生成した炭化珪素と共に焼成されると、多孔質の焼結体となるが、この多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体においては、炭化珪素(骨材としての炭化珪素、反応生成した炭化珪素)の粒子間の空隙に、溶融した単体珪素が含浸し、緻密な炭化珪素質焼結体となる。このようにして得られた緻密な炭化珪素質焼結体の見掛け気孔率は3%以下であり、望ましくは1%である。ここで、見掛け気孔率は、JIS R2205に規定された方法により測定することができる。
【0039】
ここで、焼成により骨材としての炭化珪素の粒子間にネックが形成されるには、常圧焼成の場合、焼結助剤が存在したとしても2000℃以上の高い温度が必要である。また、焼結助剤を使用しない場合、骨材としての炭化珪素の粒子間にネックが形成されるほど焼結させるためには、2000℃以上の温度に加え、ホットプレス焼成など加圧処理が必要となる。本製造方法では、焼成・含浸工程における焼成温度は、珪素の融点以上である1410℃~1700℃であるため、骨材としての炭化珪素の粒子間にネックは形成されておらず、炭素源と単体珪素との反応により生成した炭化珪素の粒子も、大きくは成長していない。従って、焼成・含浸工程を経て得られた焼結体では、骨材としての炭化珪素の粒子同士は、反応生成した炭化珪素によって一部が結合されていると共に、炭化珪素(骨材としての炭化珪素、反応生成した炭化珪素)の粒子間は、空隙に含浸している単体珪素によって結合されている。
【0040】
このように、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙に含浸させた単体珪素による作用効果を十分に発揮させるためには、含浸後の蓄熱体の全質量における単体珪素の質量割合を、5%~40%とすることが望ましく、10%~30%とすることがより望ましい。単体珪素の質量割合が5%未満の場合は、炭化珪素(骨材としての炭化珪素、反応生成した炭化珪素)の粒子間を単体珪素で結合するには不十分で、機械的強度が低いものとなりやすい。一方、単体珪素の質量割合が40%を超える場合は、基体において単体珪素の分布が不均一となり、部分的に機械的強度が低いものとなりやすい。機械的強度が全体的に低かったり、部分的に低かったりすれば、熱衝撃を受けたときに破壊が生じやすく、耐熱衝撃性が低下する。
【0041】
上記のような、原料粉末調製工程、成形工程、焼成・含浸工程を経て、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体からなる基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されている、球状の蓄熱体が製造される。
【0042】
ここで、「球状」は、蓄熱体としての用途から必ずしも真球である必要はなく、少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86~1.00である形状、とすることができる。円形度は、二次元形状の面積をS(m)、周囲の長さをL(m)としたときに、(4×円周率×S)をLで除算した数値であり、真円の円形度は1.0である。円形度は、大きさの相違(円の直径の相違)の影響を受けない利点を有しているが、二次元での形状の評価であるため、少なくとも三つの異なる方向で円形度を求めることにより、立体形状である球状の度合いを評価している。なお、「少なくとも三つの異なる方向」は、互いに直交する三方向とすることができる。具体的には、互いに直交する三方向からそれぞれ蓄熱体を撮影したときの撮像において、蓄熱体と背景とを二値化により識別した後、蓄熱体の二次元形状について面積Sと周囲の長さLを画像処理によって求めることにより、円形度を算出することができる。
【0043】
「球状」が、少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86~1.00である形状であることは、球状の成形体、及び、焼成・含浸工程を経て最終的に得られる球状の蓄熱体の双方において、共通である。
【0044】
上記のような、原料粉末調製工程、成形工程、焼成・含浸工程を経て得られた蓄熱体は、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されていることにより、非常に緻密である。そのため、酸素が存在する雰囲気下で蓄熱体が使用されても、蓄熱体において酸素と接触する表面積が小さいため、酸化が進行しにくい。また、多孔質である基体に単体珪素が充填されて緻密質となっていることにより、酸素が基体の内部まで浸入することがなく、基体の内部の酸化が有効に抑制される。
【0045】
また、球状の成形体を焼成しつつ、単体珪素を含浸させている。球形は、外表面における何れの点についても中心までの距離が等しく、炭化珪素が等方的に含浸するため、円柱状や角柱状である場合に比べて、中心まで十分に単体珪素が含浸しやすく、十分に緻密化する。
【0046】
更に、蓄熱体は球状であるため、外形の大きさが同程度であればハニカム構造体より熱容量が大きい。加えて、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体において、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されていることにより非常に緻密となっているため、もともと熱伝導率が高い炭化珪素の基体の熱容量が高められており、炭化珪素のみからなる多孔質の蓄熱体に比べて、バルク体としての熱交換特性に更に優れるものとなっている。
【0047】
蓄熱体が球状であることのその他の利点としては、ハニカム構造の蓄熱体の場合は、ガスが流通するセルの方向を揃えるために、蓄熱体を配する熱交換部にハニカム構造体を整然と並べる必要があるところ、球状の蓄熱体は、熱交換部に投入するように配置することができ、設置の作業が容易である点、ハニカム構造の蓄熱体の場合は、一部の蓄熱体においてセルが目詰まりしたり割れが発生したりしても、その蓄熱体の補修や再利用が困難であるのに対し、球状の蓄熱体の場合は、外表面の付着物を洗浄する等のメンテナンスが可能であり、再利用が可能である点、を挙げることができる。
【0048】
本製造方法は、上記の原料粉末調製工程、成形工程、焼成・含浸工程に加え、焼成・含浸工程の後に行われる酸化膜形成工程を備えるものとすることができる。
【0049】
酸化膜形成工程では、焼成・含浸工程を経た焼結体を、酸素を含む雰囲気下で1000℃~1350℃の温度で加熱する。この工程により、蓄熱体の外表面に、強制的に二酸化珪素の層である酸化膜が形成される。この酸化膜の存在により、蓄熱体が酸素を含む雰囲気下で使用された場合に、蓄熱体の主成分である炭化珪素の酸化が有効に抑制される。酸化膜形成工程における加熱温度は、1000℃未満では、酸化珪素の膜が均一に生成しにくく、1350℃以上となると、炭化珪素質セラミックスと二酸化珪素の酸化膜との界面で亀裂が発生しやすい。酸化膜形成工程における加熱温度は、1200℃~1350℃とすれば、より望ましい。
【0050】
このような酸化膜は、鍛造炉、熱処理炉、溶解炉、焼成炉などの工業炉において実際に蓄熱体が使用される際にも形成されると考えられるが、実際の使用環境では上述したように雰囲気中にダスト等の異物が存在するため、これら異物の存在により均一な酸化膜の生成が阻害されるおそれがある。これに対し、蓄熱体の使用に先立ち、予め酸化膜形成工程を清浄な雰囲気で行うことにより、均一な酸化膜を生成させることができる。
【0051】
酸化膜の厚さは、0.1μm~1.5μmとすることが望ましく、0.15μm~1.0μmとすることがより望ましい。0.1μm未満の酸化膜は、均一に生成させることが難しい。また、酸化膜が1.5μmを超えると、炭化珪素質セラミックスと二酸化珪素の酸化膜との界面に亀裂が生じやすい。
【0052】
また、蓄熱体の主成分である炭化珪素の酸化を酸化膜によって抑制する作用のためには、蓄熱体の外表面の全面積のうち90%以上が酸化膜で被覆されていることが望ましく、98%以上が酸化膜で被覆されていることがより望ましい。
【実施例0053】
骨材としての炭化珪素粉末の平均粒子径を異ならせた以外は、同一の条件で上記の原料粉末調製工程、成形工程、焼成・含浸工程を行い、実施例E1~E3の焼結体を経た。骨材としての炭化珪素粉末の平均粒子径は、実施例E1では11.5μm、実施例E2では30μm、実施例E3では40μmとした。
【0054】
焼成・含浸工程を経て得られた実施例の蓄熱体について、切断面を研磨し、走査型顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001F)で反射電子像(COMPO像)を観察した。実施例E1~E3の蓄熱体の反射電子像を、それぞれ図1(a)~図1(c)に示す。これらの像において、グレーの領域は骨材としての炭化珪素の粒子であり、これらの粒子の間に散在する濃色の小さい粒子は、反応生成した炭化珪素の粒子である。そして、骨材としての炭化珪素の粒子間に存在する白色系の領域は、炭化珪素の粒子間の空隙に含浸している単体珪素である。これらの反射電子像から、多孔質の基体における炭化珪素の粒子間の空隙のほぼ100%に、単体珪素が含浸しており、蓄熱体の見掛け気孔率はほぼ0%であることが分かる。
【0055】
これらの反射電子像を、画像処理ソフト(島津理化株式会社製、Motic Images Plus 2.35)で処理し、二値化によって炭化珪素と単体珪素との比率(面積比率及び体積比率)を求めた。また、炭化珪素の真比重3.21、珪素の真比重2.3を使用し、面積比率及び体積比率から質量比率を算出した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1によれば、実施例E1~E3では、蓄熱体の全質量における炭化珪素の質量割合は74%~82%である。この割合は、蓄熱体の機械的強度を考慮すると、適当な範囲であると考えられた。
【0058】
また、図1(a)~図1(c)の反射電子像を比べると、実施例E1(図1(a))と実施例E2(図1(b))では単体珪素の分布がほぼ均一であるのに対し、実施例E3(図1(c))では単体珪素の分布が不均一である。これは、骨材としての炭化珪素の平均粒子径が大きいために、骨材粒子間の空隙が大きくなると共に、大きな空隙が偏在するためと考えられた。この結果からは、骨材としての炭化珪素の平均粒子径は、11.5μm~30.0μmであれば、炭化珪素の粒子間に充填された単体珪素の分布をほぼ均一にすることができると言うことができる。
【0059】
他の実施例として、焼成・含浸工程の後の実施例E3の試料について、酸化膜形成工程を行い、外表面に酸化膜を形成したものを、実施例E4の蓄熱体とした。
【0060】
実施例E4の蓄熱体について切断面を研磨し、電子プローブアナライザを用いて元素分析(面分析)を行った。珪素と酸素をそれぞれ分析対象としたマッピング像、及び、同視野の反射電子像を、それぞれ図2(a)~図2(c)に示す。図2(b)のマッピング像、及び、図2(c)の反射電子像を拡大した像(図示を省略)より、蓄熱体の外表面に、厚さ約1μmの酸化膜が形成されていることが確認された。
【0061】
比較例として、実施例E3と同様の原料粉末に、炭素源の炭素とのモル比(Si/C)が1となる珪素源を加えた原料粉末から、実施例E1~E3と同一サイズの球状の成形体を成形し、実施例E1~E3の焼成・含浸工程における焼成温度と同一の温度で焼成(単体珪素は含浸させることなく、炭素源と珪素源とから炭化珪素を反応生成させつつ成形体を焼成)することにより、得られた多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体を、比較例R1の蓄熱体とした。
【0062】
更に、比較例R1の蓄熱体の外表面を、珪酸系ガラスの酸化防止層で被覆することにより、比較例R2の蓄熱体とした。酸化防止層は、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体を、二酸化珪素を含む酸化防止剤でコーティングし、加熱により二酸化珪素を溶融させた後、冷却によって珪酸系ガラスとすることにより形成される。
【0063】
ここで、酸化防止剤は、二酸化珪素の供給源を、水などの液媒体やバインダと混合したスラリーである。二酸化珪素の供給源としては、シリカ粉末、ガラス粉末(ガラスフリット)、粘土を単独で使用し、或いは、複数を併用することができる。このような酸化防止剤を1000℃~1200℃まで加熱することにより二酸化珪素を溶融させ、溶融した二酸化珪素が焼結体の外表面に拡がった後、ガラス転移点より低い温度まで冷却することにより、緻密で気密性が高い珪酸系ガラスの酸化防止層が形成される。
【0064】
また、他の比較例として、実施例E1~E4と同一の大きさの球状(中実ボール)に形成されたアルミナの焼結体を、比較例R3の蓄熱体とした。
【0065】
実施例E3、比較例R2、比較例R3の蓄熱体について、熱伝導率を測定した結果を図3に示す。ここで、熱伝導率は、熱伝導率測定装置LFA457(NETZSCH製)を使用し、レーザフラッシュ法により測定した。
【0066】
図3に示すように、実施例E3の蓄熱体は、従前より多用されていたアルミナの中実ボールである比較例R3の蓄熱体や、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体の基体が酸化防止層で被覆された比較例R2に比べると、熱伝導率が顕著に大きくなっており、熱交換特性が向上していることが分かる。比較例R2の蓄熱体では、外表面だけではなく多孔質の基体における空隙にも酸化防止剤が浸入して珪酸系ガラスの層を形成していると考えられ、その層の主成分は二酸化珪素であるため単体珪素より重い。それにも関わらず、実施例E3の方が比較例R2より熱伝導率が大きくなっているのは、比較例R2では基体の内部は多孔質であるのに対し、実施例E3では多孔質の基体において炭化珪素の粒子間の空隙に十分に単体珪素が含浸することにより、見掛け気孔率がほぼ0%となるほど緻密化しているためと考えられた。
【0067】
実施例E3、実施例E4、比較例R1~R3の蓄熱体について、次の方法で耐酸化性、及び、耐熱衝撃性を評価した。
【0068】
<耐酸化性>
各試料を1000℃の温度で120時間、空気雰囲気下で加熱し、その前後の質量を測定した。炭化珪素も単体珪素も酸化によって二酸化珪素となり質量が増加するため、質量増加率を算出し、1時間当たりの質量増加率が0.01%未満である場合を耐酸化性に非常に優れるとして「○」で評価し、0.01%以上、0.1%以下である場合を耐酸化性が良好であるとして「△」で評価し、0.1%を超える場合は耐酸化性が不良であるとして「×」で評価した。評価結果を表2に示す。なお、質量増加率は、以下のように算出される。
質量増加率(%)=((加熱後の質量-加熱前の質量)/加熱前の質量)×100
【0069】
<耐熱衝撃性>
各試料を1000℃の温度で30分間加熱した後、水中に投下して急冷し、亀裂や割れの発生を、その発生音と目視観察により確認した。「加熱・急冷・亀裂や割れの確認」を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返した。5サイクル繰り返しても亀裂や割れが発生しなかった場合を、耐熱衝撃性に非常に優れるとして「〇」で評価し、4サイクルまでは亀裂や割れが発生しなかったが5サイクル目に微小な亀裂が発生した場合を、耐熱衝撃性が良好であるとして「△」で評価し、4サイクルに至る前に亀裂や割れが発生した場合を、耐熱衝撃性が不良であるとして「×」で評価した。評価結果を表2に合わせて示す。
【0070】
また、上述したように、蓄熱体が使用される現場ではフラックスが使用されることがある。例えば、アルミニウムやアルミニウム合金の鋳造では、溶融金属にフラックスを添加する処理が行われる。フラックスとしては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム等の成分を含む塩化物系フラックスや、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化ナトリウム、ホウフッ化ナトリウム等の成分を含むフッ化物系フラックスが使用されている。
【0071】
また、溶融金属から水素ガスを除去する目的のフラックスとしては、六塩化エタンを他の塩化物やフッ化物と混合したフラックスが使用されている。アルミニウムの酸化を防止するために溶融金属の表面を被覆するフラックス、或いは、生成した酸化物を分離除去するためのフラックスとしては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、これらの混合塩が使用されている。不純物としてのマグネシウムを除去する目的のフラックスとしては、フッ化アルミニウムや、これを塩化物と混合して融点を下げたものが使用されている。また、アルミニウム合金の品質改良として、結晶粒の微細化を目的として、チタンフッ化カリウムやホウフッ化カリウム等の成分を含むフッ化物系フラックスが使用されている。
【0072】
このような塩化物系フラックス、フッ化物系フラックスが金属を溶融する高温下で使用されると、塩素ガス、フッ素ガス、揮発性の塩素化合物やフッ素化合物など、腐食性の高いハロゲン系ガスが発生する。そのため、アルミニウムやアルミニウム合金の鋳造設備において蓄熱体を使用していると、ハロゲン系ガスを含む高温の排ガスが蓄熱体の配された空間を流通することにより、蓄熱体が脆くなるなどの損傷を受ける。このような損傷は、フラックスに由来する成分が蓄熱体の基体の表面に付着し、更にその成分が蓄熱体の基体の内部まで浸透するためと考えられる。そこで、フラックスに由来する成分に対する耐腐食性を、次の方法で評価した。
【0073】
<耐腐食性>
各試料の表面に、アルミニウム鋳造で使用されるフラックスを散布し、1000℃の温度で24時間加熱した。加熱によりフラックスが試料の表面に付着するが、圧縮空気の吹き付けによりその付着層を容易に除去できた場合を、フラックスとの反応性が低く耐腐食性に非常に優れるとして「○」で評価し、手動による剥離作業で付着層を容易に剥離できた場合を、耐腐食性が良好であるとして「△」で評価し、付着層が強固に付着していて剥離が困難であった場合を、耐腐食性が不良であるとして「×」で評価した。評価結果を表2に合わせて示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2から分かるように、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体の基体において、炭化珪素の粒子間に単体珪素が含浸している実施例E3の蓄熱体は、外表面を何かの層でコーティングしていないにも関わらず、耐酸化性が良好であった。これは、単体珪素の含浸によって緻密化しているために、酸素と接触する表面積が低減していることに加え、炭化珪素の粒子間の空隙が単体珪素で充填されていることにより、基体の内部まで酸素が浸入しにくいためと考えられた。そして、強制的に外表面に酸化膜を形成した実施例E4の蓄熱体は、珪酸系ガラスの酸化防止層で外表面をコーティングした比較例R2の蓄熱体と同程度に、耐酸化性に非常に優れていた。
【0076】
また、耐熱衝撃性については、炭化珪素本来の耐熱衝撃性を示していると考えられる比較例R1の評価が「良好」であったのに対し、実施例E3の蓄熱体は耐熱衝撃性に非常に優れていた。これは、実施例E3においても比較例R1においても、骨材としての炭化珪素の粒子間にネックが形成するほどは焼結が進行しない温度で焼成しており、反応生成した炭化珪素も大きくは粒子成長していないが、実施例E3では、炭化珪素(骨材としての炭化珪素、及び反応生成した炭化珪素)の粒子間の空隙に単体珪素が充填されて炭化珪素の粒子同士を結合していることにより、機械的強度が増大しており、これによって熱衝撃を受けたときの破壊が生じにくくなっているものと考えられた。
【0077】
更に、耐腐食性については、実施例E3,E4は外表面を何かの層でコーティングしていないにも関わらず、耐腐食性に非常に優れていた。これは、単体珪素の含浸によって緻密化しているために、フラックスに由来する成分が外表面に付着しても基体の内部に向かって浸透しにくいために、付着が強固にならないためと考えられた。なお、実施例E3,E4の蓄熱体は、多孔質の炭化珪素質セラミックス焼結体の基体の外表面を珪酸系ガラスの酸化防止層で被覆した比較例R2に比べ、耐腐食性により優れていた。これは、フラックスにはアルカリ成分が含まれているために、珪酸系ガラスが軟化しやすく、フラックスに由来する成分の付着性が高くなるためと考えられた。
【0078】
比較例3は、従前より蓄熱体として多用されているアルミナの中実ボールであるが、基体が酸化物セラミックスであるため当然ながら耐酸化性に問題はなく、耐腐食性も非常に優れているものの、熱膨張率が高いことから耐熱衝撃性が不良であることが、改めて確認された。
【0079】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、単体珪素を含浸させることにより炭化珪素質セラミックス焼結体の基体を緻密化することにより、コーティング層を有していないにも関わらず耐酸化性が良好で、耐熱衝撃性、耐腐食性に非常に優れる蓄熱体を提供することができる。
【0080】
また、球形は、外表面における何れの点についても中心までの距離が等しく、炭化珪素が等方的に含浸するため、円柱状や角柱状である場合に比べて、中心まで十分に単体珪素が含浸しやすく、十分に緻密化させることができる。
【0081】
更に、炭化珪素はもともと熱伝導率が高いことから熱交換特性に優れているが、骨材としての炭化珪素と、炭素源及び珪素源とを含む原料から成形した成形体を加熱し、炭化珪素を反応させつつ成形体を焼成すると、多孔質の焼結体となる。本実施形態は、単体珪素を含浸させることにより、得られる焼結体を緻密化しているため、外形を大きくすることなく熱容量を高めることができ、バルク体としての熱交換率が増大している。
【0082】
加えて、蓄熱体の使用に先立ち、外表面に強制的に酸化膜を形成することにより、耐酸化性に非常に優れている蓄熱体を提供することができる。
【0083】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0084】
例えば、焼成・含浸工程の後で、酸化膜形成工程の前に、焼成・含浸工程において炭化珪素の反応生成のために使用されず、基体における炭化珪素の粒子間の空隙に含浸するためにも使用されなかった余剰の珪素を除くために、余剰珪素除去工程を行うことができる。余剰珪素除去工程は、例えば、焼結体に投射材を投射するブラスト処理を行う工程とすることができる。
図1
図2
図3