(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171992
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】テンションメンバ用撚糸コード
(51)【国際特許分類】
D02G 3/26 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
D02G3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089392
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】笹井 賢司
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA06
4L036PA21
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】樹脂含浸することなく高いレベルでテンションメンバの機能性、光ファイバの保護性、コネクタ作業効率性、生産性、経済性を両立できるテンションメンバ用撚糸コードを提供する。
【解決手段】光ファイバケーブルの補強に用いるテンションメンバ用撚糸コードであって、前記撚糸コードは、有機繊維から構成されており、前記有機繊維は、JIS L1013に記載の方法により測定される伸長弾性率が700cN/dtex以上であり、前記撚糸コードは、下記式(I)で定義される撚り係数(TM)が0.2~1.4の範囲内で、かつ撚糸前後における伸長弾性率の保持率が90.0%以上であることを特徴とするテンションメンバ用撚糸コード。
但し、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバケーブルの補強に用いるテンションメンバ用撚糸コードであって、
前記撚糸コードは、有機繊維から構成されており、
前記有機繊維は、JIS L1013に記載されている方法で測定される伸長弾性率が700cN/dtex以上であり、
前記撚糸コードは、下記式(I)で定義される撚り係数(TM)が0.2~1.4の範囲内で、かつ撚糸前後における伸長弾性率の保持率が90.0%以上である
ことを特徴とするテンションメンバ用撚糸コード。
但し、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
【請求項2】
前記撚糸コードが、単一の繊維束で構成されている、請求項1に記載のテンションメンバ用撚糸コード。
【請求項3】
前記撚糸コードが、S撚りまたはZ撚りの片撚りコードである、請求項2に記載のテンションメンバ用撚糸コード。
【請求項4】
前記有機繊維が、アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、高強力ポリエチレン繊維、液晶ポリエステル繊維またはポリアリレート繊維である、請求項1に記載のテンションメンバ用撚糸コード。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載のテンションメンバ用撚糸コードを使用したテンションメンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブルの補強に用いるテンションメンバ用撚糸コードに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルは、ケーブル製造時や敷設時あるいは敷設後などケーブルに加えられる張力や温度伸縮力を緊張材(テンションメンバ)に負担させ、光ファイバに応力が加わらない構造にしている。
【0003】
従来のテンションメンバは、主に鋼線などの金属材料で構成されているため、落雷の際に雷電流が流れ、スパークしてケーブルが破壊される、あるいは、渦電流がケーブルの金属を伝わり伝送装置に障害を起こす可能性があった。近年は、非金属材料である繊維強化プラスチックで構成されているため、落雷対策や強磁界環境での使用に適したものとなっているが、光ファイバケーブル内で、繊維強化プラスチックと心線が接触することにより、石英系ガラスである光ファイバ自体が傷つけられる可能性がある。
【0004】
上記問題に対し、有機繊維は非金属かつ高弾性を有し、相手を傷つけない素材であるため、テンションメンバとしての機能性および光ファイバの保護性において、優位な素材である。しかし、
図1に示すように、光ファイバケーブルから光ファイバを取り出してコネクタ接続する際に、アラミド繊維10の単糸が、集合コア(心線)20と絡まり、作業効率が低下する問題がある。
【0005】
特に光ファイバケーブルの中でも、多芯ケーブルは、
図2に示すように、ケーブル内のテンションメンバ30の周囲に多数の光ファイバ40を配置しているため、上記の問題が顕著に現れる。また、昨今は小径の多芯ケーブルが要求されることから、テンションメンバの省スペース化も求められる。
【0006】
特許文献1では、複数のアラミド繊維束を集合させてこれらを一方向に撚り合わせた、1本の撚り線を抗張力体に用いることで、曲げても曲げ癖がつかず、破損もしない光ファイバケーブルを提案している。しかし、複数本のアラミド繊維束を撚り合わせているため撚り線の直径が大きくなる問題点がある。
【0007】
特許文献2では、マルチフィラメントからなる長繊維に対して、その外層に均一な厚みの熱可塑性樹脂を被覆した抗張力体を提案している。しかし、熱可塑性樹脂を被覆しているため、ケーブル内の心線との接触を避ける必要があり、また押し出し成型機から均一な厚みになるよう樹脂被覆する必要もあるため生産性に乏しい。
【0008】
特許文献3では、芯成分が溶融液晶ポリマー、鞘成分が熱可塑性ポリマーからなる芯鞘型複合繊維コードを抗張力体として用いることを提案している。しかし、機械的特性を大きく担っている溶融液晶ポリマーからなる1本あたりの繊維コードは弾性率が低いため剛性が不十分である。
【0009】
特許文献4では、抗張力体を非導電性の抗張力繊維のヤーンで構成し、心線と抗張力体をケーブルシースの樹脂で被覆する際に、前記ヤーンに撚りをかけたものを光ファイバドロップケーブルの抗張力体として用いることを提案している。しかし、抗張力繊維の弾性率の規定がなく、充分な効果が発揮できるか否か定かでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-211585号公報
【特許文献2】特開2006-111999号公報
【特許文献3】特開2004-270051号公報
【特許文献4】特開2003-121714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂含浸することなく高いレベルでテンションメンバの機能性、光ファイバの保護性、コネクタ作業効率性、生産性、省スペース化を同時に満たすことのできるテンションメンバ用撚糸コードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者などは上記目的を達成すべく誠意検討した。その結果、光ファイバケーブルにおいて、一定以上の伸長弾性率をもつ有機繊維の撚り係数を制御することにより、テンションメンバの機能性、光ファイバの保護性、コネクタ作業効率性、生産性、省スペース化に優れたテンションメンバ用撚糸コードを提供できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
光ファイバケーブルの補強に用いるテンションメンバ用撚糸コードであって、
前記撚糸コードは、有機繊維から構成されており、
前記有機繊維は、JIS L1013に記載されている方法で測定される伸長弾性率が700cN/dtex以上であり、
前記撚糸コードは、下記式(I)で定義される撚り係数(TM)が0.2~1.4の範囲内で、かつ撚糸前後における伸長弾性率の保持率が90.0%以上である
ことを特徴とするテンションメンバ用撚糸コードを提供する。
但し、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光ファイバケーブルにおいて、樹脂含浸することなく高いレベルでテンションメンバの機能性と光ファイバの保護性を両立でき、光ファイバを取り出してコネクタ接続する際の端末加工作業性、生産性、省スペース化にも優れる、テンションメンバ用撚糸コードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】アラミド繊維束が集合コアと絡まる様子を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に係るテンションメンバ用撚糸コードは、有機繊維から構成されており、前記有機繊維は、JIS L1013に記載されている方法で測定される伸長弾性率が700cN/dtex以上である。
前記撚糸コードは、下記式(I)で定義される撚り係数(TM)が0.2~1.4の範囲内で、かつ撚糸前後における伸長弾性率の保持率が90.0%以上である、
ことを特徴とする
【0017】
式(I)において、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)である。
【0018】
<有機繊維>
本発明で用いる有機繊維としては、例えば、アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、高強力ポリエチレン繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維等から選択されるものを挙げることができる。これらの有機繊維の長繊維が用いられる。
【0019】
その中でも、JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.9 伸長弾性率に記載されている方法で測定される伸長弾性率が700cN/dtex以上である有機繊維が用いられる。
伸長弾性率が小さいと、テンションメンバとして使用した場合、小径に曲げられた際に破損する可能性があり、光ファイバケーブルが抗張力機能を失う虞がある。
【0020】
有機繊維の伸長弾性率は、750cN/dtex以上が好ましく、780cN/dtex以上がより好ましい。具体的には、アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、高強力ポリエチレン繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維を用いることが好ましい。
【0021】
上記のアラミド繊維とは、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていても良い二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、またはアラミド繊維と称されるものを含む。「置換されていても良い二価の芳香族基」とは、同一または異なる1以上の置換基を有していても良い二価の芳香族基を意味する。
【0022】
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維などを挙げることができるが、引張特性に優れている点で、パラ系アラミド繊維が好ましい。
アラミド繊維は市販品としても入手でき、その具体例として、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))などを挙げることができる。
【0023】
上記パラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下、「PPTA」と省略することがある)は径方向圧縮に強く、撚り合わせた時にも強度低下が少ないため、特に好ましい。
【0024】
上記の液晶ポリエステル繊維を構成する液晶ポリエステルとは、溶融時に異方性溶融相(液晶性)を形成し得るポリエステルである。この特性は、例えば、試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
【0025】
液晶ポリエステルとしては、例えば、従来公知の方法で製造される、(i)芳香族オキシカルボン酸の重合物、(ii)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールまたは脂肪族ジオールから選択されたジオールとの重合物、及び、(iii)前記の(i)と前記の(ii)の共重合物等が挙げられる。前記の(共)重合物の中でも、芳香族化合物のみで構成されたものが好ましい。芳香族化合物のみで構成された(共)重合物は、繊維にした際に優れた強度及び弾性率を発現する。
【0026】
上記の芳香族オキシカルボン酸としては、例えば、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0027】
液晶ポリエステル繊維の市販品としては、KBセーレン(株)製「ゼクシオン(登録商標)」、(株)クラレ製「ベクトラン(登録商標)」、住友化学(株)製「スミカスーパー(登録商標)LCP」等が例示できる。
【0028】
また、有機繊維は、JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.5 引張強さおよび伸び率 に基づいて測定された引張強度が、17cN/dtex以上であることが好ましい。前記特性を有する有機繊維を用いることにより、テンションメンバの強度が十分なものとなる。有機繊維の引張強度は、19cN/dtex以上が好ましく、20cN/dtex以上がより好ましい。
【0029】
撚糸コードを構成する有機繊維束は、総繊度が50~10,000dtexが好ましい。多芯ケーブルにおいては、テンションメンバの挿入スペースが小さいため、比較的細いテンションメンバが望ましい。そのためには、総繊度の小さい有機繊維束を用いることが望ましい。前記総繊度は、100~5,000dtexがより好ましく、200~4,000dtexがさらに好ましく、400~3,300dtexが特に好ましい。
【0030】
本発明の光ファイバケーブルの補強に用いる撚糸コードは、有機繊維の単一の繊維束から構成されていることが望ましい。単一の繊維束で構成することで、撚糸コードの直径を小さくすることが可能となるため、多芯ケーブルのテンションメンバ挿入スペースに容易に入れることができる。また単一の繊維束を用いることで、合糸による糸条の乱れを極力防止できるため、光ファイバケーブルから光ファイバを取り出してコネクタ接続する際に有機繊維の単糸が、集合コア(心線)と絡まる問題を防止できる。その点、伸長弾性率が700cN/dtex以上の有機繊維であれば、単一の繊維束で構成することで、多芯ケーブルの径小にも対応可能なテンションメンバに好適なものとなる。
単一の繊維束を構成する単繊維の本数は、30~4,500フィラメントが好ましく、60~3,500フィラメントがさらに好ましく、200~3,000フィラメントが特に好ましい。
【0031】
本発明における有機繊維束は、樹脂含浸もしくは樹脂被覆されていない形態、および、他繊維束との複合糸でない形態が望ましい。ただし、必要に応じて、ある程度の集束性を与えるため上記有機繊維束にエア交絡加工しても良く、また省スペース化に特化するため上記有機繊維束を用いた分繊糸でも良い。
【0032】
樹脂含浸もしくは樹脂被覆からなる構成の場合、テンションメンバ表面上に樹脂が存在し、該樹脂が光ファイバケーブル内で心線と接触することにより心線自体が傷つけられ、光ファイバの保護機能が損なわれる可能性がある。また、他繊維束との複合糸からなる構成の場合、総繊度が大きくなることで、その分全体のコード直径が大きくなり、テンションメンバのスペースに入らない可能性がある。また合糸にするための生産プロセスが新たに必要となり、生産性に乏しいことが考えられる。
【0033】
<撚り形態>
本発明の光ファイバケーブルの補強に用いる有機繊維撚糸コードは、有機繊維糸条を構成する有機繊維の単糸同士を引き揃えて、コネクタ作業効率性を向上させるため、撚りが掛けられていることが望ましい。撚り数は、上記式(I)で定義される撚り係数を0.2~1.4にすることが必須である。撚り係数が1.4を越えた場合、撚角度増加の影響に伴い、撚糸コードの弾性率を著しく低下させることになる。また、撚り係数が0.2未満の場合、繊維束を構成するマルチフィラメントが解けてしまい、コネクタ作業時に集合コアと絡まって分離しにくい事象が発生する虞がある。
【0034】
上記撚り係数は、0.3~1.3が好ましく、より好ましくは0.4~1.2、さらに好ましくは0.5~1.1である。
【0035】
本発明の撚糸コードを構成する有機繊維は、撚糸した後でもテンションメンバとしての機能を果たす必要がある。そのため、撚糸後において、伸長弾性率の低下が極力抑えられた状態にあることが望ましい。撚糸前後における伸長弾性率の保持率は90.0%以上であることが必須である。伸長弾性率の保持率は、92.0%以上が好ましく、94.0%以上がさらに好ましい。
【0036】
撚り形態としては、片撚りとする(一方向に撚り合せる)ことが好ましく、撚り方向は、S方向、Z方向いずれでも良い。片撚りにすることで、コード径を増大させることなく、有機繊維束の集束性を維持することができる。
【0037】
本発明で用いる有機繊維の表面に付与する油剤は、公知の油剤であって良い。例えば、脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体もしくはその誘導体、鉱物油などの油剤が挙げられる。油剤はエポキシ化合物を含有しているものでも良い。なかでも、脂肪酸エステルは撚糸工程における各ガイドとの擦過により生じるスカム発生を抑制することができるため、高品位の撚糸コードを提供可能である。
【0038】
本発明の撚糸コードを構成する有機繊維の水分率は、特に限定されないが、通常、15質量%未満のものが用いられる。前記有機繊維の水分率は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは7質量%未満である。テンションメンバは一般的に高弾性素材が訴求されているため、繊維内結晶化度を高めるために、紡糸工程において十分に高温で乾燥させた有機繊維を用いることが望ましい。有機繊維の水分率は、5質量%未満であることが特に好ましい。
【0039】
<光ファイバケーブル>
本発明のテンションメンバ用撚糸コードを光ケーブルに適用する場合、適用方法は特に限定されるものではなく公知の方法に従えば良い。その中でもケーブル中心にテンションメンバを有するスロット型構造を採用することで、曲げ方向性なく、可撓性に優れた光ケーブルを実現することが可能である。
【0040】
本発明のテンションメンバ用撚糸コードは、各種光ファイバケーブルに導入することができ、光ファイバケーブルの種類は特に限定されない。伸長弾性率の保持率が高い撚糸コードによって径小ケーブルにも十分な抗張力を発揮することができるため、多芯光ファイバケーブルに対して最も有用である。
多芯光ファイバケーブル内には多くの心線が含まれているが、本発明の撚糸コードを用いることにより、テンションメンバのスペースが小さい上に、コネクタ接続時の心線とテンションメンバの分離作業が不要になるため、好適に用いることができる。
【実施例0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例などにおいて、特に言及する場合を除き、「重量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載した評価方法は以下の通りである。
【0042】
(1)有機繊維の水分率(質量%)
試料約5gの質量を測定し、105℃×4時間処理を行い、24℃、55%RHで5分間放置した後、再度質量を測定し、下記式にてドライベース水分率を求めた。
水分率=([乾燥前質量-乾燥後質量]/[乾燥後質量])×100
【0043】
(2)有機繊維の引張特性
JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」の8.5引張強さに従い、引張強さを測定した。
【0044】
(3)撚糸コードの伸長弾性率
JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」の8.9伸長弾性率B法に従い、掴み間隔25cm、引張速度30cm/分で糸を引張り、伸長弾性率を測定した。また、測定における初荷重はコード繊度設計値(dtex)×0.45mNとした。
【0045】
(4)撚糸コード伸長弾性率の保持率
JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」の8.9伸長弾性率の方法に従い、測定された撚糸前後の伸長弾性率から下記式にて保持率(R)を求める。
R = B / A ×100
A : 撚糸実施前の伸長弾性率(cN/dtex)
B : 撚糸実施後の伸長弾性率(cN/dtex)
R : 保持率(%)
【0046】
(5)コネクタ作業効率性
コネクタ作業効率性は光ファイバケーブルのコネクタ接続工程時における有機繊維の単糸と集合コアとの絡まる発生を基に以下通り評価した。
〇:集合コアとの絡まりなし
×:集合コアとの絡まりあり
【0047】
(6)テンションメンバの機能性
撚糸コードの伸長弾性率の大きさ(X)を基に以下の通り評価した。
〇:撚糸コードの伸長弾性率の大きさ(X)が700cN/dtex以上
×:撚糸コードの伸長弾性率の大きさ(X)が700cN/dtex未満
【0048】
[製造例1]
通常の方法で得られたパラフェニレンテレフタルアミド(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを768個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、190℃×15秒間の条件で加熱乾燥後、さらに追加で220℃×10秒間の条件で加熱乾燥後、油剤を付与し、水分率3.5重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束(総繊度1,270dtex)を得た。
【0049】
[製造例2]
通常の方法で得られたパラフェニレンテレフタルアミド(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,333個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×20秒の条件で中和処理し、その後、200℃×20秒間の条件で加熱乾燥後、さらに追加で240℃×15秒間の条件で加熱乾燥後、油剤を付与し、水分率3.0重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束(総繊度3,160dtex)を得た。
【0050】
[製造例3]
通常の方法で得られたパラフェニレンテレフタルアミド(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×10秒の条件で中和処理し、その後、180℃×10秒間の条件で加熱乾燥後、油剤を付与し、水分率7.0重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束(総繊度1,670dtex)を得た。
【0051】
[製造例4]
クラレ社製の“ベクトランUM”(液晶ポリエステル繊維;1,580dtex)を用いた。
【0052】
製造例1~3で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、および製造例4で得られた液晶ポリエステル繊維について、詳細を表1に示す。
【0053】
【0054】
[実施例1]
表1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(製造例1)1本を用いて、Z方向に、4.3(t/10cm)の撚数でアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0055】
[実施例2]
表1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(製造例2)1本を用いて、Z方向に、5.9(t/10cm)の撚数でアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0056】
[実施例3]
表1に記載の液晶ポリエステル繊維(製造例4)1本を用いて、Z方向に、5.3(t/10cm)の撚数で液晶ポリエステル繊維片撚りコードを得た。
【0057】
[比較例1]
表1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(製造例1)1本を用いて、Z方向に、0.9(t/10cm)の撚数でアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0058】
[比較例2]
表1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(製造例2)1本を用いて、Z方向に、9.7(t/10cm)の撚数でアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0059】
[比較例3]
表1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(製造例3)1本を用いて、Z方向に、8.2(t/10cm)の撚数でアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0060】
[実施例1~3、比較例1~3]
表1に記載の各繊維種から構成されるテンションメンバ用撚糸コードについて、評価結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2に記載した通り、撚り係数が0.2未満であるテンションメンバ用撚糸コードは、コネクタ作業性を向上することができない(比較例1)。一方、撚り係数が1.4を超えると撚糸コードにおける引張弾性率の低下が著しく、テンションメンバの機能性が充分発揮できない(比較例2)。一方、撚り係数が0.2~1.4の範囲内であっても、撚糸前の有機繊維の引張弾性率が700cN/dtex未満である撚糸コードは同様にテンションメンバの機能性を充分発揮できない(比較例3)。
【0063】
これに対して、本発明のテンションメンバ用撚糸コードは、高い引張弾性率をもつ有機繊維を用い、かつ、撚糸コードの撚り係数を制御することにより、テンションメンバの機能性を維持したまま、コネクタ加工における作業効率性を向上することができ、本発明は有用であることが示された。