(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172021
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
F16L59/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089432
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐太朗
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB18
3H036AB23
3H036AE01
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】 多孔質構造体を用いて、高温下においても高い断熱性を有し、圧縮に対する柔軟性および復元性に優れる断熱材を提供する。
【解決手段】 断熱材は、複数の粒子が連結して骨格をなし、該骨格間に細孔を有する多孔質構造体と、赤外線遮蔽粒子と、有機中空粒子と、を有する。断熱材における該赤外線遮蔽粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の10質量%以上30質量%以下であり、該有機中空粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の5質量%以上30質量%以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が連結して骨格をなし、該骨格間に細孔を有する多孔質構造体と、赤外線遮蔽粒子と、有機中空粒子と、を有する断熱材であって、
該赤外線遮蔽粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の10質量%以上30質量%以下であり、
該有機中空粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記多孔質構造体の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下である請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記赤外線遮蔽粒子の平均粒子径は、0.3μm以上22μm以下である請求項1に記載の断熱材。
【請求項4】
前記有機中空粒子の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下である請求項1に記載の断熱材。
【請求項5】
前記有機中空粒子の弾性率は、1MPa以上30MPa以下である請求項1に記載の断熱材。
【請求項6】
前記有機中空粒子は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル、ポリアクリルニトリル架橋体、ポリメタクリル酸メチル架橋体、ポリメタクリル酸ブチル架橋体から選ばれる一種以上からなる請求項1に記載の断熱材。
【請求項7】
前記赤外線遮蔽粒子は、炭化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、窒化ケイ素、マイカ、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化タンタル、マンガンフェライト、酸化マンガン、酸化ニッケル、ニッケル、酸化銀、銀、酸化ビスマス、カーボンブラック、グラファイト、チタン、酸化鉄チタン、ジルコニウム、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、二酸化マンガン、酸化クロム、炭化チタン、炭化タングステン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化インジウムスズ、酸化セリウムから選ばれる一種の粒子、およびこれらから選ばれる二種以上の混合物の粒子の少なくとも一方を有する請求項1に記載の断熱材。
【請求項8】
前記多孔質構造体は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルを有する請求項1に記載の断熱材。
【請求項9】
さらに、加工助剤、無機繊維の少なくとも一方を有する請求項1に記載の断熱材。
【請求項10】
前記有機中空粒子は、前記多孔質構造体と該多孔質構造体との間に不連続に存在する請求項1に記載の断熱材。
【請求項11】
前記多孔質構造体、前記赤外線遮蔽粒子、および前記有機中空粒子を結着するバインダーを有しない請求項1に記載の断熱材。
【請求項12】
前記有機中空粒子は、内部に一つの空孔を有する単一空孔型粒子を有する請求項1に記載の断熱材。
【請求項13】
前記有機中空粒子は、内部に複数の空孔を有する多空孔型粒子を有する請求項1に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアロゲルなどの多孔質構造体を用いた断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
車載部品、住宅用建材、産業機器などには、従来より熱流制御を目的として種々の断熱材が使用されている。断熱材の材料としては、熱伝導率が小さいシリカエアロゲルなどが知られている。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車などに搭載されるバッテリーパックにおいては、隣り合うバッテリーセル間などに断熱材が配置される。この種の断熱材には、バッテリーセルが異常に発熱した場合に熱の伝達を抑制し、熱暴走を抑制することができるよう、特に高温下における高い断熱性が要求される。また、バッテリーパックにおいては、複数のバッテリーセルが積層されてなるバッテリーモジュールが、積層方向の両側から締結部材により固定された状態で筐体内に収容される。バッテリーセルは、充放電に伴い膨張、収縮する。したがって、バッテリーセル間に配置される断熱材には、外部からの押圧やバッテリーセルの膨張、収縮に追従して変形し、断熱性を維持できることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、断熱性および柔軟性を有するエアロゲル複合体として、エアロゲル成分および中空シリカ粒子を含有するエアロゲル複合体が記載されている。特許文献2には、ナノ多孔質粒子と中空ラテックス粒子とを含み、該中空ラテックス粒子が互いに直接結合して連続マトリックスを形成し、該ナノ多孔質粒子が該中空ラテックス粒子の連続マトリックス中に分散している製品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/038646号
【特許文献2】特表2013-543036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているエアロゲル複合体によると、エアロゲル成分に中空シリカ粒子を追加することにより柔軟性を向上させている。しかしながら、中空シリカ粒子は、中空構造を有するが硬質の無機材料からなる。このため、得られる柔軟性は十分ではない。また、特許文献1においては、エアロゲルの取り扱い性を向上させるという目的で、柔軟性を付与しているにすぎないため、エアロゲル複合体は、外部からの押圧などにより圧縮変形が可能だとしても、除荷後に元の形状に戻る復元性を有しているとはいえない。また、特許文献1においては、高温下における断熱性は考慮されていない。
【0006】
他方、特許文献2に記載されている中空ラテックス粒子は、ポリマーからなり、ナノ多孔質粒子同士を結着するバインダーとしての役割を果たしている。特許文献2に記載されているように、中空ラテックス粒子は、互いに直接結合して連続的な網目構造(マトリックス)を形成しており、ナノ多孔質粒子は、中空ラテックス粒子の連続マトリックス中に分散している。よって、特許文献2に記載されている製品においては、連続した中空ラテックス粒子が熱の伝達経路となり、断熱性の低下を招く。加えて、当該製品を高温下で使用すると、マトリックスが分解、劣化するなどして消失し、形状が保持できないおそれがある。また、特許文献2の段落[0044]には、赤外減衰剤、反射粒子などの「追加の添加剤の濃度は、製品の総重量に対して5wt%以下である」と記載されている。仮に、追加の添加剤として赤外線遮蔽粒子を配合したとしても、製品全体の5質量%以下という少量では輻射熱を遮断する効果は乏しく、高温下における断熱性は十分ではない。
【0007】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、多孔質構造体を用いて、高温下においても高い断熱性を有し、圧縮に対する柔軟性および復元性に優れる断熱材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示の断熱材は、複数の粒子が連結して骨格をなし、該骨格間に細孔を有する多孔質構造体と、赤外線遮蔽粒子と、有機中空粒子と、を有する断熱材であって、該赤外線遮蔽粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の10質量%以上30質量%以下であり、該有機中空粒子の含有量は、断熱材の質量を100質量%とした場合の5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
多孔質構造体によると、熱移動の三形態(伝導、対流、輻射)のうちの主に伝導および対流が抑制されることにより、高い断熱効果を得ることができる。ここで、輻射は、電磁波により熱が移動する現象であり、温度が高いほど放出される輻射エネルギーが大きくなる。このため、高温雰囲気においては、輻射が熱移動の主要因になる。よって、高温になると、多孔質構造体だけでは所望の断熱性を得ることは難しく、輻射による熱移動を抑制できる赤外線遮蔽粒子を併用することが有効になる。しかしながら、赤外線遮蔽粒子を多量に配合した場合、赤外線遮蔽粒子同士が連結して熱の伝達経路が形成されるため、伝導による熱移動が大きくなり、断熱性の低下を招くおそれがある。本開示の断熱材によると、赤外線遮蔽粒子の含有量を特定することにより、輻射および伝導の両方の熱移動を抑制して、常温下では勿論、500℃以上の高温下においても高い断熱性を実現することができる。
【0010】
本開示の断熱材は、赤外線遮蔽粒子に加えて有機中空粒子を有する。有機中空粒子は、有機材料から形成され内部に空孔を有する粒子である。有機中空粒子により、圧縮荷重に対して変形可能な柔軟性と、除荷後の復元性と、が付与される。有機中空粒子は、多孔質無機粒子と多孔質無機粒子との間に配置される。本開示の断熱材においては、有機中空粒子の含有量が比較的少ないため、有機中空粒子は互いに繋がりにくく、その多くは不連続に配置される。このように、本開示の断熱材においては、多孔質構造体がマトリックスを形成し、有機中空粒子は多孔質構造体間に点在している。このため、本開示の断熱材は、有機成分である有機中空粒子を含んでいても、熱の伝達経路が形成されにくい。よって、高温下においても有機中空粒子が消失しにくく、高い断熱性を維持することができる。
【0011】
(2)上記構成において、前記多孔質構造体の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下である構成としてもよい。本構成によると、多孔質構造体による断熱性の向上効果が発揮されやすいことに加えて、赤外線遮蔽粒子による輻射熱の遮断効果も発揮されやすい。
【0012】
(3)上記いずれかの構成において、前記赤外線遮蔽粒子の平均粒子径は、0.3μm以上22μm以下である構成としてもよい。本構成によると、赤外線遮蔽粒子による輻射熱の遮断効果が発揮されやすい。また、赤外線遮蔽粒子が多孔質構造体間の隙間に充填され、赤外線遮蔽粒子同士や他の成分との連結が抑制されて熱の伝達経路が形成されにくくなるため、断熱性が低下しにくい。
【0013】
(4)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下である構成としてもよい。本構成によると、所望の断熱性と柔軟性および復元性との両方を実現することができる。
【0014】
(5)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子の弾性率は、1MPa以上30MPa以下である構成としてもよい。本構成によると、所望の柔軟性および復元性を実現することができる。
【0015】
(6)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル、ポリアクリルニトリル架橋体、ポリメタクリル酸メチル架橋体、ポリメタクリル酸ブチル架橋体から選ばれる一種以上からなる構成としてもよい。本構成によると、中空構造を有する粒子の製造が容易で、得られる中空粒子の弾性率を調整しやすい。これにより、所望の柔軟性および復元性を実現することができる。
【0016】
(7)上記いずれかの構成において、前記赤外線遮蔽粒子は、炭化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、窒化ケイ素、マイカ、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化タンタル、マンガンフェライト、酸化マンガン、酸化ニッケル、ニッケル、酸化銀、銀、酸化ビスマス、カーボンブラック、グラファイト、チタン、酸化鉄チタン、ジルコニウム、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、二酸化マンガン、酸化クロム、炭化チタン、炭化タングステン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化インジウムスズ、酸化セリウムから選ばれる一種の粒子、およびこれらから選ばれる二種以上の混合物の粒子の少なくとも一方を有する構成としてもよい。本構成によると、赤外線遮蔽粒子の熱容量が比較的大きいため、粒子自体が温まりにくい。加えて、赤外線遮蔽粒子の耐熱性も高い。よって、高温下における断熱性の向上に有利である。
【0017】
(8)上記いずれかの構成において、前記多孔質構造体は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルを有する構成としてもよい。シリカエアロゲルは、骨格の大きさと細孔の大きさとのバランスがよく、優れた断熱性を発揮する。
【0018】
(9)上記いずれかの構成において、さらに、加工助剤、無機繊維の少なくとも一方を有する構成としてもよい。加工助剤は、断熱材を製造しやすくするなどの観点から、製造方法に応じて適宜使用すればよい。例えば、断熱材を製造するための組成物の溶媒として水を使用する場合には、分散機能や増粘機能を有する成分を選択することにより、多孔質構造体などの粉末と水とが混ざりやすくなる。多孔質構造体などの粉末を圧縮成形する場合には、熱可塑性の成分を選択することにより、成形性が向上する。また、無機繊維を有すると、断熱材の機械的強度の向上、多孔質構造体の脱落抑制などに有効である。
【0019】
(10)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子は、前記多孔質構造体と該多孔質構造体との間に不連続に存在する構成としてもよい。本構成においては、有機成分である有機中空粒子の多くが連続せずに点在する。よって、有機中空粒子による熱の伝達経路が形成されにくく、高い断熱性を維持することができる。
【0020】
(11)上記いずれかの構成において、前記多孔質構造体、前記赤外線遮蔽粒子、および前記有機中空粒子を結着するバインダーを有しない構成としてもよい。一般に、バインダーには有機材料が用いられるため、バインダーが存在すると、バインダーを介して熱の伝達経路が形成されるおそれがある。本構成においては、バインダーが存在しないため、高温下における高い断熱性を実現することができる。
【0021】
(12)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子は、内部に一つの空孔を有する単一空孔型粒子を有する構成としてもよい。単一空孔型粒子は、最外層のシェル部のみが有機材料からなり、それ以外は空孔で構成される。このため、本構成によると、断熱材の低密度化が容易であり、柔軟性を調整しやすい。
【0022】
(13)上記いずれかの構成において、前記有機中空粒子は、内部に複数の空孔を有する多空孔型粒子を有する構成としてもよい。多空孔型粒子の場合、複数の空孔は、有機材料からなる粒子本体の中に配置される。すなわち、多空孔型粒子においては、最外層だけでなく粒子内部にも有機材料が存在する。このため、本構成によると、断熱材の復元性を調整しやすい。
【発明の効果】
【0023】
本開示の断熱材によると、常温下だけでなく500℃以上の高温下においても高い断熱性を実現することができる。本開示の断熱材によると、圧縮荷重に対して変形可能な柔軟性と、除荷後の復元性と、を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の断熱材について詳細に説明する。本開示の断熱材は、以下の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0025】
<断熱材>
本開示の断熱材は、多孔質構造体と、赤外線遮蔽粒子と、有機中空粒子と、を有する。
【0026】
[多孔質構造体]
多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、該骨格間に細孔を有する。骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は、2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くが、50nm以下の大きさのいわゆるメソ孔である場合、メソ孔は空気の平均自由行程よりも小さいため、空気の対流が制限され、熱の移動が阻害される。多孔質構造体の形状は、球状、異形状の塊状など、特に限定されないが、面取りされた形状または球状が望ましい。この場合、多孔質構造体の分散性が向上するため、断熱材を製造するための組成物(以下、「断熱材用組成物」と称す。)を調製が容易になる。また、多孔質構造体間の隙間を少なくして充填量を多くすることができ、これにより赤外線遮蔽粒子や有機中空粒子の連結も抑制されるため、断熱性を高めることができる。多孔質構造体は、製造された状態で使用してもよいが、それをさらに粉砕処理して使用してもよい。粉砕処理には、ジェットミルなどの粉砕装置または球状化処理装置などを使用すればよい。粉砕処理することにより、粒子の角が取れ、粒子が丸みを帯びた形状になる。これにより、断熱材の表面が平滑になり、クラックが入りにくくなる。
【0027】
多孔質構造体の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下であることが望ましい。多孔質構造体の平均粒子径が1μm未満の場合には、多孔質構造体の充填性が低下し、多孔質構造体間の隙間が増加するため、断熱性を高める効果が得られにくい。他方、多孔質構造体の粒子径が1000μmより大きくなると、赤外線遮蔽粒子は多孔質構造体間の隙間に充填されるため、赤外線遮蔽粒子が存在しない領域が大きくなるおそれがある。この場合、熱源から発せられる赤外線が赤外線遮蔽粒子に当たる頻度が低下して、輻射熱の遮断効果が低下するおそれがある。例えば、多孔質構造体の平均粒子径は8μm以上、さらには50μm以上であるとよい。また、断熱材用組成物の安定性や塗工のしやすさなどを考慮すると、500μm以下、さらには300μm以下であるとよい。多孔質構造体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求められるメジアン径(D50)を採用すればよい。なお、市販品を使用する場合には、カタログ値を採用してもよい。
【0028】
多孔質構造体の粒子径が異なる場合、大径の多孔質構造体間の隙間に小径の多孔質構造体が入りこむ。このため、最密充填されやすくなり、多孔質構造体の充填量を多くすることができる。また、小径の多孔質構造体により赤外線遮蔽粒子や有機中空粒子の連結を阻害することができる。これにより、断熱性を高める効果がより大きくなる。このような観点から、多孔質構造体としては、粒子径分布が広いものを使用したり、平均粒子径が異なる二種以上を併用することが望ましい。また、断熱材の製造過程で材料の撹拌条件などを調整して、大径の粒子の一部が小径の粒子に粉砕されるようにしてもよい。
【0029】
多孔質構造体の含有量は、断熱性を高めるという観点から、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましく、50質量%以上であるとより好適である。他方、断熱性と柔軟性および復元性とのバランス、脱落抑制などを考慮して、多孔質構造体の含有量は、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の75質量%以下であることが望ましく、70質量%以下であるとより好適である。
【0030】
多孔質構造体は、外側の表面および内部(細孔形成面)のうち少なくとも表面に疎水部位を有することが望ましい。表面に疎水部位を有すると、細孔への水分などの染み込みを抑制することができるため、多孔性構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。例えば、シランカップリング剤などで表面処理することにより、多孔質構造体の表面に疎水性などの機能を付与することができる。また、多孔質構造体の原料に特定の材料を採用することにより、疎水部位を有する多孔質構造体を製造したり、多孔質構造体の製造過程において疎水基を付与するなどの疎水化処理を施してもよい。
【0031】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの無機粒子が挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという理由から、一次粒子がシリカである多孔質構造体が望ましい。例えば、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルは、骨格の大きさと細孔の大きさとのバランスがよく好適である。また、粒子径が1μm未満のナノ粒子が連結して骨格をなす凝集性構造体も好適である。ナノ粒子としては、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、およびこれらを解砕したり分散させたりしたものや、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナなどのナノ粒子ゾルから生成されるものが挙げられる。
【0032】
エアロゲルの製造方法は、特に限定されず、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。例えば、常圧で乾燥すると、容易かつ低コストに製造することができる。エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。
【0033】
[赤外線遮蔽粒子]
赤外線遮蔽粒子は、熱源からの熱を吸収し、それを熱源側の表面から再放出することにより、熱源からの輻射熱を遮断して、特に高温下における断熱性の向上に寄与する。赤外線遮蔽粒子の含有量は、輻射による熱移動の抑制効果を十分に発揮させるという観点から、断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の10質量%以上にする。15質量%以上にすると、輻射熱の遮断効果がより高くなる。他方、赤外線遮蔽粒子同士や他の成分との連結を抑制して熱の伝達経路を形成しにくくするという観点から、赤外線遮蔽粒子の含有量は、断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の30質量%以下にする。20質量%以下にするとより好適である。
【0034】
多孔質構造体間の隙間に充填され、赤外線遮蔽粒子同士や他の成分との連結を抑制して熱の伝達経路を形成しにくくするという観点から、赤外線遮蔽粒子の粒子径は比較的小さい方が望ましい。しかしながら、粒子径が小さすぎると、赤外線が当たりにくくなり、さらには赤外線の散乱も十分ではなくなるため、輻射熱の遮断効果が発揮されにくい。このような観点から、赤外線遮蔽粒子の平均粒子径は、0.3μm以上22μm以下であるとよい。赤外線遮蔽粒子の形状は、球状、扁平状など特に限定されない。赤外線遮蔽粒子の平均粒子径についても、多孔質構造体の場合と同様に、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求められるメジアン径(D50)を採用すればよく、市販品を使用する場合には、カタログ値を採用してもよい。
【0035】
赤外線遮蔽粒子としては、炭化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、窒化ケイ素、マイカ、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化タンタル、マンガンフェライト、酸化マンガン、酸化ニッケル、ニッケル、酸化銀、銀、酸化ビスマス、カーボンブラック、グラファイト、チタン、酸化鉄チタン、ジルコニウム、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、二酸化マンガン、酸化クロム、炭化チタン、炭化タングステン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化インジウムスズ、酸化セリウムから選ばれる一種の粒子、またはこれらから選ばれる二種以上の混合物の粒子などが挙げられる。なかでも、輻射熱の遮断効果を高めるという観点から、赤外線遮蔽粒子は、赤外線の波長領域における輻射率が0.6以上の高輻射率粒子を有することが望ましい。高輻射率粒子としては、炭化ケイ素、カオリナイト、窒化ケイ素、マイカ、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化セリウム、炭化ホウ素、酸化マンガン、酸化スズ、酸化鉄などが挙げられる。また、入射する赤外線を散乱させて輻射熱の遮断効果を高めるという観点から、赤外線の波長領域における屈折率が高い粒子を有する形態も有効である。例えば、可視光線の波長領域における屈折率が2.0以上の高屈折率粒子が好適である。高屈折率粒子としては、炭化ケイ素、酸化チタン、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化鉄、チタン酸バリウムなどが挙げられる。
【0036】
例えば、炭化ケイ素、酸化チタン、窒化ケイ素、マイカ、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、酸化鉄、酸化マグネシウムなどは、比熱が比較的大きいため、熱容量が大きく、粒子自体が温まりにくい。この点においても、断熱材の断熱性向上に寄与する。加えて、耐熱性も高いため、断熱材の耐熱性向上にも寄与する。特に、炭化ケイ素は、800℃程度の高温雰囲気でも熱伝導率の上昇が少ないため好適である。
【0037】
[有機中空粒子]
有機中空粒子の含有量は、断熱材に柔軟性および復元性を付与するという観点から、断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の5質量%以上にする。10質量%以上、さらには15質量%以上にするとより好適である。他方、断熱に寄与する成分の含有量を多くして断熱性を高める、有機中空粒子同士や他の成分との連結を抑制して熱の伝達経路を形成しにくくするという観点から、有機中空粒子の含有量は、断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の30質量%以下にする。20質量%以下にするとより好適である。
【0038】
有機中空粒子の粒子径が小さすぎると、柔軟性および復元性の向上効果が得られにくくなる。よって、有機中空粒子の平均粒子径は、1μm以上であるとよい。10μm以上がより好適である。他方、粒子径が大きすぎると、共に配置される赤外線遮熱粒子同士が離れてしまい、高温下における断熱性が低下するおそれがある。よって、有機中空粒子の平均粒子径は、1000μm以下であるとよい。500μm以下、200μm以下がより好適である。有機中空粒子の形状は、球状、扁平状など特に限定されない。有機中空粒子の平均粒子径についても、多孔質構造体の場合と同様に、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求められるメジアン径(D50)を採用すればよく、市販品を使用する場合には、カタログ値を採用してもよい。
【0039】
有機中空粒子は、内部に空孔を有する粒子であり、空孔は一つでも複数でもよい。前者の単一空孔型粒子は、バルーン構造とも称され、有機材料から形成されるシェル部と、その内側に配置される一つの空孔と、を有する。後者の多空孔型粒子は、有機材料から形成される粒子本体と、その中に配置される複数の空孔と、を有する。多空孔型粒子は、多孔質粒子を含む概念である。有機中空粒子としては、単一空孔型粒子および多空孔型粒子のいずれか一方を用いてもよく、両方を併用してもよい。有機中空粒子は、例えば有機粒子を発泡したり、有機発泡体を粉砕するなどして製造することができる。
【0040】
有機材料は、特に限定されない。好適な材料として、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴムなどの架橋ゴム、スチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系などの熱可塑性エラストマー、ポリエステル、ポリアクリルニトリル架橋体、ポリメタクリル酸メチル架橋体、ポリメタクリル酸ブチル架橋体などの樹脂が挙げられる。有機中空粒子の表面には、粉立ちを抑制し取り扱い性を向上させる、難燃性を向上させるなどを目的として、表面処理が施されていてもよく、無機粒子などが付着していてもよい。また、難燃性を向上させる場合には、有機材料に難燃剤などが含有されていてもよい。
【0041】
断熱材に所望の復元性を付与するという観点から、有機中空粒子の弾性率は、1MPa以上であることが望ましい。2.5MPa以上がより好適である。他方、断熱材に圧縮に対する所望の柔軟性を付与するという観点から、有機中空粒子の弾性率は、30MPa以下であることが望ましい。20MPa以下がより好適である。
【0042】
本明細書においては、有機中空粒子の弾性率として、次の圧縮試験の結果により算出される値を採用する。まず、有機中空粒子の粉末を、直径11.3mmのSUS製円筒容器に入れる。次に、直径11.2mmのSUS製円柱形押し込み治具を円筒容器に挿入し、押し込み治具の自重(荷重2N)で有機中空粒子の粉末を押し込む。この作業を繰り返し、有機中空粒子の粉末の初期充填高さが14mmとなるように調整して、押し込み治具を円筒容器に挿入したまま圧縮試験の試験機に配置する。それから、(株)エー・アンド・デイ製のテンシロン万能材料試験機「RTF1350」を使用して、充填された粉末の上面を押し込み治具で繰り返し押圧する圧縮試験を行う。圧縮試験の条件は、次のとおりとする。
押し込み治具の速度:6mm/分。
圧縮応力の上限:3MPa。
押圧回数:10回。
【0043】
圧縮試験後、得られたデータに基づいて、横軸を圧縮率、縦軸を圧縮応力として応力-圧縮率曲線を作成する。横軸の圧縮率は、次式(I)で算出される値とする。
圧縮率(%)=押し込み治具の押し込み量(mm)/14[有機中空粒子の粉末の初期充填高さ](mm)×100 ・・・(I)
そして、押圧10回目の応力-圧縮率曲線において、圧縮応力が0MPaの点と3MPaの点とを直線で結び、得られた直線の傾きに100を乗じた値を、有機中空粒子の弾性率とする。
【0044】
有機中空粒子は、多孔質構造体と多孔質構造体との間に配置される。有機中空粒子による熱の伝達経路が形成されないようにするという観点から、有機中空粒子の多くは、不連続に配置される、換言すると点在する形態が望ましい。例えば断熱材をシート状に製造し、その厚さ方向が熱の移動方向になる場合、有機中空粒子はマトリックスを形成せず、厚さ方向に連続しないため、断熱性を阻害しにくい。
【0045】
[その他の成分]
本開示の断熱材は、多孔質構造体、赤外線遮蔽粒子、および有機中空粒子の他に、本開示により奏される効果を阻害しない範囲で加工助剤、無機繊維、補強無機粒子、難燃剤、有機繊維、無機中空粒子、有機バインダーなどの他の成分を含んでいてもよい。なお、多孔質構造体などの構成材料を結着するバインダーが存在すると、バインダーを介して熱の伝達経路が形成されるおそれがある。したがって、熱の伝達経路の形成を抑制し、高温下における高い断熱性を実現するという観点において、断熱材はバインダーを有しない形態が望ましい。
【0046】
(1)加工助剤
表面や内部に疎水部位を有する多孔質構造体は、水になじみにくい。なかでもシリカエアロゲル、ヒュームドシリカ凝集性構造体などは比重が小さいため、水に浮きやすい。多孔質構造体の水懸濁性を向上させて、水を溶媒として断熱材用組成物を調製する際に多孔質構造体を分散しやすくするなど、製造を容易にするという観点から、断熱材の製造方法に応じて、加工助剤を配合することが望ましい。加工助剤としては、界面活性剤、増粘剤、懸濁剤などが挙げられる。
【0047】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤)および非イオン性界面活性剤がある。例えば、イオン性界面活性剤を使用すると、比較的少量でも断熱材用組成物を高粘度化したり、断熱材用組成物中の多孔質構造体などの材料を分散安定化することができる。イオン性界面活性剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ポリカルボン酸アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF―Na)などが挙げられる。非イオン性界面活性剤を使用すると、断熱材用組成物を調製する際、多孔質構造体などの材料が溶媒中に取り込まれやすくなる。また、断熱材用組成物中でこれらの材料が凝集や分離した際に、再分散しやすくなったり、乾燥して断熱材を成形する際に溶媒が排出されやすくなる。非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。また、非イオン性界面活性剤およびイオン性界面活性剤を併用すると、前述した各々による効果を任意に調整することができるため、好適である。例えば、PEOの保水性はそれほど高くない。このため、断熱材用組成物を調製する際に多孔質構造体間の隙間に水が入りこみにくく、乾燥時に水が蒸発する際にボイドが発生しにくい。結果、多孔質構造体間の隙間に赤外線遮蔽粒子および有機中空粒子が充填されやすくなる。また、大径の多孔質構造体間の隙間に小径の多孔質構造体が充填されやすくなる。
【0048】
多孔質構造体などの材料の表面や隙間に加工助剤が存在すると、それを介して熱の伝達経路が形成されるおそれがある。したがって、熱の伝達経路の形成を抑制するという観点においては、加工助剤の含有量は、断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の10質量%以下、さらには7質量%以下であることが望ましい。
【0049】
(2)無機繊維
無機繊維は、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在することにより、断熱材の機械的強度を向上させると共に、多孔質構造体の脱落を抑制する。無機繊維の種類は特に限定されないが、耐熱性、機械的強度などを考慮すると、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。断熱材の全体の質量を100質量%とした場合の無機繊維の含有量は、補強効果を発揮させるという観点においては、5質量%以上にするとよい。熱の伝達経路を形成しないようにするという観点においては、15質量%以下にするとよい。無機繊維の長さは、補強効果と熱の伝達経路の形成抑制との両方を考慮して、16mm以下であることが望ましい。
【0050】
(3)補強無機粒子
断熱材の機械的強度を向上させるという観点から、断熱材に補強無機粒子を配合してもよい。補強無機粒子の種類は特に限定されず、例えば、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、溶融法シリカ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの比較的硬度、比表面積が大きい粒子を用いることができる。
【0051】
(4)難燃剤
難燃剤を配合すると、断熱材に難燃性を付与することができる。難燃剤は、ハロゲン系、リン系、金属水酸化物系などの既に公知のものを使用すればよい。環境負荷を考慮すると、リン系難燃剤を用いることが望ましい。リン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステルなどが挙げられる。なかでも、使用中に水分と接触しても難燃剤が流出しにくいという理由から、水に不溶なものや耐水性樹脂などで被覆されているものが望ましく、例えばポリリン酸アンモニウム、樹脂被覆されたポリリン酸アンモニウムが好適である。
【0052】
<断熱材の製造方法>
本開示の断熱材は、多孔質構造体、赤外線遮蔽粒子、および有機中空粒子などを含む材料を加圧成形して製造することができる。あるいは、液状(スラリー状を含む)の断熱材用組成物を基材に塗布、乾燥して製造したり、粘土状の断熱材用組成物を加圧成形して製造することができる。
【0053】
断熱材の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、断熱性の観点から、0.1mm以上、0.5mm以上、さらには1mm以上にすることが望ましい。断熱材が厚すぎると、コスト高になるだけでなく、狭いスペースへの断熱材の実装が困難になる。このため、例えば、10mm以下、8mm以下が好適である。特に薄型化、柔軟性を高めるなどの観点においては、5mm以下、さらには3mm以下にすることが望ましい。断熱材の密度は、0.4g/cm3以下にすることが望ましい。
【0054】
<断熱材の使用形態>
本開示の断熱材は、単独で使用してもよく、断熱材を支持する基材、断熱材を収容する外装材などと共に使用してもよい。基材は、断熱材の厚さ方向の片側にのみ配置してもよく、断熱材を挟持するように両側に配置してよい。また、一枚の基材で断熱材を被覆して、基材を外装材として用いてもよい。断熱材と基材との間に接着層を介在させてもよい。接着層は、接着成分の他、難燃剤などを含んでもよい。
【0055】
基材の材質は、布、樹脂、紙、鋼板などが挙げられる。布を構成する繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、セラミックファイバー、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維などが挙げられる。セラミックファイバーとしては、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)、多結晶質アルミナファイバー(Polycrystalline Wool:PCW)、アルカリアースシリケート(AES)ファイバーが知られている。なかでも、AESファイバーは、生体溶解性を有するためより安全性が高い。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリアミド、PPSなどが挙げられる。紙としては、パルプ、パルプおよびケイ酸マグネシウムの複合材などが挙げられる。鋼板としては、ガルバリウム鋼板(登録商標)、トタン板、ステンレス鋼(SUS)板、鉄板、チタン板などが挙げられる。基材の形状は特に限定されず、織布、不織布、フィルム、シートなどが挙げられる。基材は、一層からなるものでも、同じ材料または異なる材料が二層以上に積層された積層体でもよい。
【0056】
例えば、ガラスクロスなど、ガラス繊維や金属繊維などの無機繊維から製造される布帛(織布)、不織布や、パルプおよびケイ酸マグネシウムの複合材として製造される耐火断熱紙は、熱伝導率が比較的小さく、高温雰囲気においても形状保持性が高い。また、耐熱性が高い基材を採用すると、高い耐熱性が要求される用途にも適用することができるため、本開示の断熱材の用途が広がる。さらに、耐火性を有する基材を採用すると、安全性がより向上する。耐熱性が高い基材は、ガラス繊維、ロックウール、セラミックファイバー、ポリイミド、PPSなどから製造すればよく、具体的には、ガラス繊維不織布、ガラスクロス、アルミガラスクロス、AESウールペーパー、ポリイミド繊維不織布などが挙げられる。
【実施例0057】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0058】
<断熱材サンプルの製造>
後出の表1に示す組成の断熱材サンプルを製造した。実施例1~3のサンプルについては、まず、樹脂製容器に水を秤量し、加工助剤としての界面活性剤を加え、エアー駆動羽根式撹拌機により800rpmで60分間撹拌し、界面活性剤を水に溶解した。撹拌を停止した後、赤外線遮熱粒子としての炭化ケイ素(SiC)粉末、有機中空粒子の粉末を添加し、さらに800rpmで15分間撹拌を行った。そのまま撹拌を続けながら、多孔質構造体としてのシリカエアロゲル粉末を添加し、液中で完全に湿潤させた。それから、無機繊維としてのガラス繊維を添加し、800rpmで30分間撹拌した。その後、1000rpmで10分間の追加撹拌を行い、粘土状の断熱材用組成物を製造した。
【0059】
比較例1~3のサンプルについては、有機中空粒子の粉末を配合せず、代わりに比較例2のサンプルでは有機バインダーを配合し、比較例3のサンプルでは有機中実粒子の粉末を配合した点以外は、実施例1~3のサンプルと同様にして断熱材用組成物を製造した。
【0060】
使用した材料の詳細は以下のとおりである。
シリカエアロゲル粉末:キャボットコーポレーション製「Aerogel Particles P200」の粉砕処理品、平均粒子径100μm。
炭化ケイ素粉末:(株)不二製作所製「フジランダムGC #4000」、平均粒子径5μm。
有機中空粒子の粉末:アクリロニトリル系コポリマー製のマイクロバルーン、松本油脂製薬(株)製「マツモト マイクロスフェアー(登録商標) MFL-HD60CA」、平均粒子径50~70μm、弾性率17MPa。
界面活性剤:住友精化(株)製のポリエチレンオキサイド「PEO-8」、粘度平均分子量170万~220万。
ガラス繊維:セントラルグラスファイバー(株)製「ECS03-615」、長さ3mm、繊維径9μm。
有機バインダー:シリコーンエマルション、Siltech社製「Siltech E-2152」。
有機中実粒子の粉末:アクリルゴムの粉末、松本油脂製薬(株)製「XM-TM-1」、平均粒子径30μm。
【0061】
次に、ガラス繊維ペーパーの上にSUS製の第一スペーサー板を重ねた台座を準備した。第一スペーサー板の厚さは7mmであり、中央に150mm角の正方形状の注入孔が形成されている。製造した断熱材用組成物を第一スペーサー板の注入孔に充填し、板状に成形した。続いて、第一スペーサー板を外し、上からガラス繊維ペーパーを重ね、さらにその上から第二スペーサー板を配置して、「ガラス繊維ペーパー/断熱層用組成物/ガラス繊維ペーパー/第二スペーサー板」からなる積層体を製造した。第二スペーサー板の厚さは6mmであり、第一スペーサー板と同様に、中央に150mm角の正方形状の注入孔が形成されている。第二スペーサー板の注入孔には、先に形成された断熱層用組成物が配置されている。これとは別に、厚さ5mm、320mm角のアルミニウム製の第一板材と、厚さ1mm、320mm角のアルミニウム製の第二板材と、を準備した。第一板材の一面には、複数の溝部が形成されている。複数の溝部は、各々、幅2.5mm、深さ3mm、長さ200mmの直線状を呈し、5mm間隔で平行に形成されている。第二板材には、直径1mmのパンチング穴が2mm間隔で全体に形成されている。第一板材の一面側に第二板材を重ね、その上に積層体を配置した。そして、積層体の上に第二板材を載せ、さらに第一板材を、溝部が形成されている一面が第二板材側になるように重ねた。この状態で、温度165℃、荷重約980kNにて、熱プレスによる加圧乾燥を10分間行った。その後、室温(20℃±5℃)まで放冷し、第一板材、第二板材、第二スペーサー板、および上下のガラス繊維ペーパーを取り外して、厚さ6mmの板状の断熱材サンプルを得た。得られた断熱材サンプルの密度を、(株)東洋精機製作所製の水中置換式密度比重計「DSG-1」を用いて測定した。
【0062】
<断熱性の評価方法>
(1)室温下における熱伝導率の測定
製造した断熱材サンプルの室温(20℃±5℃)での熱伝導率を、英弘精機(株)製「非定常法 熱伝導テスター クイックラムダ HC-10」により測定した。
【0063】
(2)高温下における熱伝導率の測定
製造した断熱材サンプルの800℃下における熱伝導率を、京都電子工業(株)製「迅速熱伝導率計 QTM-700」および「高温対応型プローブ PD-31N」を使用して、次のようにして測定した。まず、断熱材サンプルを3枚重ねて、厚さが18mmの積層体を二つ準備した。この積層体を、プローブを挟むようにプローブの上側と下側とに一つずつ配置して、上から積層体が潰れない程度の質量約5kgの重しを載せて電気炉内に設置した。それから、電気炉内の温度を800℃に昇温し、炉内温度が安定した後、熱伝導率を測定した。
【0064】
(3)評価基準
室温下における断熱性については、室温下の熱伝導率が0.050W/m・K以下の場合を合格(後出の表1中、○印で示す)、同熱伝導率が0.050W/m・Kより大きい場合を不合格(同表中、×印で示す)とした。高温下における断熱性については、800℃下の熱伝導率が0.30W/m・K未満の場合を合格(同表中、○印で示す)、同熱伝導率が0.30W/m・K以上の場合を不合格(同表中、×印で示す)とした。
【0065】
<柔軟性および復元性の評価方法>
(株)エー・アンド・デイ製のテンシロン万能材料試験機「RTF1350」を使用して、製造した断熱材サンプル(縦150mm、横150mm、厚さ6mmの正方形板状)の中央部分を、直径60mmの圧縮端子で押圧する圧縮試験を行った。圧縮試験は、圧縮応力の上限を1.0MPaとして圧縮端子を1mm/分の速度で往復させて行い、圧縮応力が0.02MPa→1.0MPa→0.02MPaになる区間を1サイクルとして、3サイクル繰り返した。圧縮試験により得られたデータに基づいて、横軸を圧縮率、縦軸を圧縮応力として応力-圧縮率曲線を作成した。横軸の圧縮率は、次式(II)で算出された値である。
圧縮率(%)=1サイクル目の押圧過程で圧縮応力が0.01MPaに到達した時以降の圧縮端子の押し込み量(mm)/1サイクル目の押圧過程で圧縮応力が0.01MPaに到達した時の断熱材サンプルの厚さ(mm)×100 ・・・(II)
【0066】
[柔軟性]
2サイクル目の応力-圧縮率曲線において、サイクル開始時の圧縮応力が0.02MPaの点と圧縮応力が1.0MPaの点とを直線で結び、得られた直線の傾きに100を乗じた値を、断熱材サンプルの柔軟性の指標値とした。すなわち、柔軟性の指標値は、次式(III)で算出された値である。
柔軟性の指標値=(1.0-0.02)/(a-b)×100 ・・・(III)
[a:圧縮応力1.0MPaの時の圧縮率(%)、b:サイクル開始時の圧縮応力0.02MPaの時の圧縮率(%)]
本実施例においては、柔軟性の指標値が4.0以下の場合を合格(後出の表1中、○印で示す)、4.0より大きい場合を不合格(同表中、×印で示す)とした。
【0067】
[復元性]
2サイクル目の応力-圧縮率曲線において、圧縮応力が1.0MPaの時の圧縮率から、サイクル終了時の圧縮応力が0.02MPaの時の圧縮率を差し引いた値を、断熱材サンプルの復元性の指標値とした。本実施例においては、復元性の指標値が25%以上の場合を合格(後出の表1中、○印で示す)、25%未満の場合を不合格(同表中、×印で示す)とした。
【0068】
<断熱性、柔軟性、復元性の評価結果>
表1に、断熱材サンプルの組成、密度、および各特性の評価結果を示す。
【表1】
【0069】
表1に示すように、有機中空粒子を所定の割合で含有する実施例1~3のサンプルは、室温下および高温下の両方において、断熱性に優れることが確認された。実施例1~3のサンプルはまた、柔軟性および復元性の両方を満足することが確認された。これに対して、有機中空粒子を含有しない比較例1~3のサンプルによると、柔軟性および復元性のいずれも劣る結果になった。また、有機バインダーを配合した比較例2のサンプル、有機中空粒子ではなく有機中実粒子を含有する比較例3のサンプルにおいては、高温下における断熱性が低下した。
本開示の断熱材は、車両用断熱材、住宅用断熱材、電子機器用断熱材、保温保冷容器用断熱材などに好適である。なかでも、高温下における断熱性が要求されるバッテリーパック用断熱材や、クッション性が要求される断熱マットなどに好適である。