(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172039
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】試験装置、試験方法、医療用長尺体
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20240101AFI20241205BHJP
G01N 15/0205 20240101ALI20241205BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20241205BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20241205BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20241205BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20241205BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N15/02 D
G01N15/02 A
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L31/10
A61L31/14
A61M25/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089459
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 望
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BB05
4C081BB08
4C081CA042
4C081CA212
4C081CC02
4C081DA03
4C081DC03
4C081EA02
4C081EA06
4C267AA01
4C267BB03
4C267BB06
4C267HH14
(57)【要約】
【課題】医療用長尺体の潤滑層に対する微粒子試験を簡便に実施可能な試験装置、試験方法、及び該方法により規定される耐剥離性に優れた潤滑層を有する医療用長尺体を提供すること。
【解決手段】試験装置1は、内腔11を有するチューブ10と、チューブ10を変形した状態で保持する凹状の保持溝21が形成された載置台20と、チューブ20の先端側に配置され、注入器具40で流入した液体を貯留する回収容器30と、を含み、保持溝21は、医療用長尺体100の挿入方向から第1直線部21aと、第1直線部21aの先端に隣接配置される第1蛇行部21bと、第1蛇行部21bの先端に隣接配置される第2直線部21cと、第2直線部21cの先端に隣接配置される第2蛇行部21dと、第2蛇行部21dの先端に隣接配置される第3直線部21eと、を有する溝形状を呈し、チューブ10を嵌合した際、チューブ10を溝形状に変形して保持する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用長尺体に形成される潤滑層から生じる微粒子数を測定する試験装置であって、
先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、
前記チューブを変形した状態で保持する凹状の保持溝が形成された載置台と、
前記チューブの基端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、
前記保持溝は、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の基端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の基端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の基端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の基端に隣接配置される第3直線部と、を有する溝形状を呈し、前記チューブを嵌合した際、前記チューブを前記溝形状に変形して保持する、試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の前記試験装置を用いた試験方法であって、
前記試験装置及び先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、
前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、
前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、
前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、
を含む、試験方法。
【請求項3】
本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、
前記潤滑層は、
先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブの基端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記チューブを、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の基端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の基端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の基端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の基端に隣接配置される第3直線部が形成されるように変形して保持する試験装置を用い、
前記チューブの先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む試験方法により、
粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以下の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
【請求項4】
本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、
前記潤滑層は、
先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブを変形した状態で保持する凹状の保持溝が形成された載置台と、前記チューブの基端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記保持溝は、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の基端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の基端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の基端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の基端に隣接配置される第3直線部と、を有する溝形状を呈し、前記チューブを嵌合した際、前記チューブを前記溝形状に変形して保持する、試験装置を用い、
前記試験装置及び先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む、試験方法により、
粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以下の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
【請求項5】
前記潤滑層は、潤滑性材料に非潤滑性材料を添加して構成され、
前記潤滑性材料は、親水性材料であり、
前記非潤滑性材料は、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニルの何れかである、請求項3又は4に記載の医療用長尺体。
【請求項6】
前記潤滑層は、前記本体部の外表面における先端から30cmの領域に形成され、
前記本体部の外径は2.4mmである、請求項3又は4に記載の医療用長尺体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔内に挿抜される医療用長尺体に形成される潤滑層の試験を行う試験装置、該装置を用いた試験方法、並びに該方法で測定した微粒子数が所定数以下となる潤滑層を有する医療用長尺体に関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体管腔に挿入して診断や治療を行う際、例えばバルーンカテーテル等の処置デバイスを目的部位に導くガイディングカテーテル等の導入用カテーテルが用いられる。導入用カテーテルは、生体管腔との摩擦抵抗を低減させるため、先端から基端に向かう所定領域の外表面に親水性ポリマー等の潤滑性材料のコーティング潤滑層が形成されている。
【0003】
潤滑層の多くは、層とカテーテルチューブの外表面との間で十分な密着強度を確保するのが難しく、使用する過程で徐々に微粒子状に剥離するため、USP<787>及び<788>等に概説されている承認基準を満たすように、使用時の剥離等を低減させる耐久性が求められる。
【0004】
しかし、潤滑層の耐久性を向上させるためには、例えば長時間の加熱乾燥により実現可能となるが、多くの製造時間が必要となり生産効率が悪く、また耐久性向上と引き換えに摺動性が低下してしまうおそれがある。
【0005】
特許文献1には、被膜(潤滑層)の拭き取り耐久性を向上させたケーブルについて開示されている。このケーブルは、シースと、シースの周囲を覆い、かつ、シースと密着して設けられる被膜と、を備え、被膜は、ゴム成分及び微粒子を含むゴム組成物から形成され、被膜の表面における静止摩擦係数は、0.5以下であり、被膜の表面に、消毒用アルコールを含むコットンリンターを用いた長繊維不織布(拭き取り方向の長さ50mm)を、2×10-3MPa~4×10-3MPaのズリ応力が働くように当接させて、被膜の表面を、拭き取る方向の長さ150mm、速さ80回/分~120回/分で拭き取ることを2万回繰り返す試験を行ったときに、被膜の静止摩擦係数の試験前後での差(絶対値)が0.1以下となる拭き取り耐性を有する、ケーブルについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献1のケーブルは、形成表面の一部に拭き取り方向長さ50mmの不織布を当接させ、拭き取り時の摺動距離150mmに設定した試験方法により所定の基準を満たし被膜を形成したケーブルである。そのため、特許文献1に開示される試験装置を用いて、例えば1m~2m程度のカテーテルの先端から30cm程度までの領域に形成された潤滑層全体の耐久性を試験する場合、カテーテルの全長に合わせて装置を大型化しなければならず、現実的ではない。また、この試験装置を用いた試験では、被試験体である潤滑層に不織布を当接させるが、長尺なカテーテルでは潤滑層全体に不織布を均一に当接させるのは困難であり、正確な試験結果が得られない。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、具体的には、カテーテル等の長尺な医療用長尺体の潤滑層に対する微粒子試験を簡便に実施可能な試験装置、試験方法、及び該方法により規定される生体管腔への挿抜時の摩擦抵抗値の増加を低減しつつ摩擦による微粒子発生量を低減させた潤滑層を有する医療用長尺体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記(1)~(6)の何れか1つによって達成される。
【0010】
(1)医療用長尺体に形成される潤滑層から生じる微粒子数を測定する試験装置であって、先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブを変形した状態で保持する凹状の保持溝が形成された載置台と、前記チューブの先端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記保持溝は、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の先端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の先端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の先端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の先端に隣接配置される第3直線部と、を有する溝形状を呈し、前記チューブを嵌合した際、前記チューブを前記溝形状に変形して保持する、試験装置。
【0011】
(2)上記(1)に記載の前記試験装置を用いた試験方法であって、前記試験装置及び先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む、試験方法。
【0012】
(3)本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、前記潤滑層は、先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブの基端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記チューブを、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の基端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の基端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の基端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の基端に隣接配置される第3直線部が形成されるように変形して保持する試験装置を用い、前記チューブの先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む試験方法により、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以下の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
【0013】
(4)本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、前記潤滑層は、先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブを変形した状態で保持する凹状の保持溝が形成された載置台と、前記チューブの基端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記保持溝は、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の基端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の基端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の基端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の基端に隣接配置される第3直線部と、を有する溝形状を呈し、前記チューブを嵌合した際、前記チューブを前記溝形状に変形して保持する、試験装置を用い、前記試験装置及び先端から基端に向かう所定長さの領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む、試験方法により、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以下の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
【0014】
(5)前記潤滑層は、潤滑性材料に非潤滑性材料を添加して構成され、前記潤滑性材料は、親水性材料であり、前記非潤滑性材料は、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニルの何れかである、上記(3)又は(4)に記載の医療用長尺体。
【0015】
(6)前記潤滑層は、前記本体部の外表面における先端から30cmの領域に形成され、前記本体部の外径は2.4mmである、上記(3)~(5)の何れかに記載の医療用長尺体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、医療用長尺体の潤滑層に対する微粒子試験を簡便に実施できる試験装置、試験方法を提供できる。また、本発明の試験方法により規定される潤滑層を形成した医療用長尺体は、生体管腔への挿抜時の摩擦抵抗値の増加を低減しつつ、摩擦による微粒子発生量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る試験装置及び医療用長尺体の構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る試験装置の各部の構成を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る試験方法の概要を示すフローチャートである。
【
図4】実施例に示す試験方法を実施した際の操作状態を示す図である。
【
図5】実施例に示す試験方法を実施した際の操作状態を示す図である。
【
図6】実施例に示す試験方法を実施した際の操作状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者等により考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0019】
更に、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状等について、実物から変換し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0020】
なお、以下の説明において、「第1」、「第2」のような序数詞を付して説明する場合は、特に言及しない限り、便宜上用いるものであって何らかの順序を規定するものではない。また、「基端及び基端側」は、医療用長尺体100の操作者が把持する側(医療用長尺体100の近位側であり、チューブ10の挿入開始位置S側)であり、「先端及び先端側」は、医療用長尺体100の基端と反対の挿入される側(医療用長尺体100の遠位側であり、チューブ10の挿入終了位置E側)である。
【0021】
[試験装置]
本実施形態に係る試験装置1の構成について説明する。
【0022】
試験装置1は、
図1又は
図2に示すように、チューブ10と、載置台20と、回収容器30と、を含んで構成される。試験装置1は、カテーテル等の医療用長尺体100を挿抜し、医療用長尺体100の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層110から生じる微粒子数を測定するための装置である。
【0023】
<チューブ>
チューブ10は、可撓性を有し、先端から基端まで連通する内腔11が形成される中空管状部材で構成される。チューブ10の内腔11には、シリンジ等の注入器具40を用いて水や精製水(RO水、純水等)等の液体を注入される。内腔11の内径は、少なくとも医療用長尺体100が挿抜可能なサイズであればよい。
【0024】
チューブ10の構成材料は、少なくとも可撓性を有する材料であればよい。チューブ10は、保持溝21に嵌合して所定の湾曲形状とする際の折れ曲がり(キンク)による湾曲部分の追従性を考慮し、例えば滑り性を有するフッ素系樹脂(PVDF系樹脂)からなる内層と、耐キンク性を有するウレタン系エラストマーからなる外層の二層構造とするのが好ましい。
【0025】
<載置台>
載置台20は、
図2に示すように、チューブ10を試験に適した形状に変形して保持するための保持溝21形成され、チューブ10を載置するための台である。
【0026】
保持溝21は、チューブ10が嵌合可能な凹条の溝であり、載置台20の上面に形成される。保持溝21は、
図2に示すように、右側端部(近位側)から左側端部(遠位側)に向かって連通して形成される。
【0027】
保持溝21は、チューブ10を保持する。保持溝21は、医療用長尺体100の挿入方向から第1直線部21aと、第1直線部21aの先端に隣接配置される第1蛇行部21bと、第1蛇行部21bの先端に隣接配置される第2直線部21cと、第2直線部21cの先端に隣接配置される第2蛇行部21dと、第2蛇行部21dの先端に隣接配置される第3直線部21eと、を含む。このように、保持溝21は、直線路(第1直線部21a、第2直線部21c、第3直線部21e)と蛇行路(第1蛇行部21b、第2蛇行部21d)が交互に配置された溝形状を有する。
【0028】
チューブ10は、保持溝21に嵌合して保持されると、溝形状に沿う形状に変形する。したがって、チューブ10は、載置台20の保持溝21に嵌合することで変形し、保持溝21の形状と同様に、第1直線部21a、第1蛇行部21b、第2直線部21c、第2蛇行部21d及び第3直線部21eが形成され得る。
【0029】
チューブ10の第1直線部21aに該当する部分には、医療用長尺体100の挿入開始位置Sが設定され、チューブ10の第3直線部21eに該当する部分には、医療用長尺体100の挿入終了位置Eが設定される。医療用長尺体100は、チューブ10に挿入し、挿入開始位置Sから挿入終了位置Eまでの間、潤滑層110が形成される部分を往復して挿抜して試験される。
【0030】
チューブ10に設定される挿入開始位置Sと挿入終了位置Eは、少なくとも医療用長尺体100の潤滑層110の形成領域の長さ以上の長さが確保される位置にそれぞれ設定される。医療用長尺体100は、チューブ10の挿入開始位置Sから挿入終了位置Eまで挿入すると、潤滑層110の形成領域がチューブ10に挿入される。そのため、挿入開始位置Sから挿入終了位置Eまでの距離は、一例として先端から30cmの範囲で潤滑層110が形成された医療用長尺体100の場合、少なくとも30cm以上とするのが好ましい。
【0031】
<回収容器>
回収容器30は、チューブ10の先端側に配置され、注入器具40で流入した液体を貯留する。回収容器30は、本発明の試験方法で測定する微粒子数の総量を換算し易くするために必要な量の液体が貯留可能である。回収容器30は、試験方法に合わせて100mLが貯留可能に形成できる。
【0032】
<注入器具>
注入器具40は、チューブ10に液体を注入するための器具である。注入器具40は、チューブ10に液体が注入可能なものであれば特に制限されないが、注入量が正確に把握できるシリンジを好適に用いることができる。
【0033】
ここで、試験装置1の具体的な寸法等について例示する。チューブ10は、内径4mm、外径6mm、全長1mとすることができる。載置台20は、縦230mm、横380mm、厚さ19mmとすることができる。保持溝21は、溝深さ6.2mm、溝幅6.2mm、第1直線部21aを80mm、第2直線部21cを40mm、第3直線部21eを60mm、第1蛇行部21bの基端側の湾曲部の湾曲半径をR50、先端側の湾曲部の曲率半径をR40、第2蛇行部21dの基端側の湾曲部の湾曲半径をR70、先端側の湾曲部の曲率半径をR40とすることができる。
【0034】
なお、試験装置1のチューブ10は、予め保持溝21の形状に合わせて形状付けした状態で成形してもよい。この場合、チューブ10を保持溝21に嵌合する際、チューブ10を変形させずにスムーズに嵌合させることができる。また、チューブ10は、保持溝21に嵌合して保持溝21の形状に沿うように変形させたが、直線路(第1直線部21a、第2直線部21c、第3直線部21e)と蛇行路(第1蛇行部21b、第2蛇行部21d)が交互に配置されるようにテープ等の何らかの固定具により載置台20上に固定してもよい。
【0035】
[試験方法]
次に、前述の試験装置1を用いた試験方法について説明する。
【0036】
本実施形態に係る試験方法は、
図3に示すように、準備手順S1と、ブランク測定手順S2と、挿抜手順S3と、調整手順S4と、測定・換算手順S5と、を含む。試験方法は、
図3に示した手順に限らず、他の手順を含めることができる。また、試験方法の各手順を実施する順序は、技術的に可能な範囲であり、かつ本発明の要旨を逸脱しない範囲で順序を入れ替えることもできる。
【0037】
試験方法は、
図3~
図6に示すように、試験装置1を用いて測定対象となる医療用長尺体100に形成された潤滑層110から発生する微粒子数を測定する試験である。
【0038】
<準備手順>
準備手順S1は、試験装置1と、先端から基端に向かう所定長さの領域に潤滑層を形成した医療用長尺体100を準備する手順である。具体的には、準備手順S1は、試験装置1の準備は、載置台20の保持溝21にチューブ10を嵌合させてセットし、チューブ10の先端側(挿入終了位置E側)の端部の下方に回収容器30を配置する手順を含んでよい。準備手順S1は、医療用長尺体100として先端から基端に向かう所定長さの領域に潤滑層を形成されたものを準備する手順を含んでよい。なお、準備手順S1は、ブランク測定手順S2の実施直前に行う必要はなく、試験方法を実施する前に行うこともできる。その場合、試験方法に準備手順S1を含めなくてもよい。
【0039】
<ブランク測定手順>
ブランク測定手順S2は、ブランクを記録するための手順である。具体的には、ブランク測定手順S2は、十分に洗浄したチューブ10の内腔11に注入器具40を用いて液体を注入し、内腔11内を満たす手順を含んでよい。ブランク測定手順S2は、チューブ10の先端側から注入器具40を用いて液体を100mL注入することができる。ブランク測定手順S2は、回収容器30内に採取した100mLの液体を液中パーティクルカウンタで所定の試験条件にて測定する手順を含んでよい。ブランク測定手順S2は、得られた値をブランクとして記録する手順を含んでよい。
【0040】
ブランク測定手順S2で実施する試験条件は、以下の通りである
・採取量:1回あたり10mL
・採取回数:4回
・計算方法:1回目は破棄し、残り3回の採取データの平均値
・単位:個/10mL。
【0041】
<挿抜手順>
挿抜手順S3は、被測定対象デバイスである医療用長尺体100を用いてチューブ10に挿抜操作を所定回数行う手順である。具体的には、挿抜手順S3は、医療用長尺体100の先端をチューブ10の挿入開始位置Sにセット(配置)し、挿入開始位置Sから医療用長尺体100の潤滑層110が形成された部分がチューブ10内に全体的に挿入されるようにチューブ10の挿入終了位置Eまで挿入した後、医療用長尺体100の先端を挿入開始位置Sまで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順を含んでよい。
【0042】
<調整手順>
調整手順S4は、回収容器30で回収する液体(回収液体)の総量を所定量に調整する手順である。具体的には、調整手順S4は、チューブ10から医療用長尺体100を抜去し、回収容器30に貯留される液体(回収液体)の貯留総量が100mLとなるようにチューブ10に液体を注入する手順を含んでよい。
【0043】
<測定・換算手順>
測定・換算手順S5は、回収液体中の微粒子数を測定し、得られた値を換算して微粒子数の総量を決定する手順である。具体的には、測定・換算手順S5は、調整手順S4で調整した回収液体100mLをパーティクルカウンタにセットし、ブランク測定手順S2と同様の試験条件で100mL当たりの個数に換算する手順を含んでよい。測定・換算手順S5は、ブランク測定手順S2で測定したブランクの値を差し引いた値を被試験体である医療用長尺体100の微粒子数の総量として記録する手順を含んでよい。
【0044】
上述した試験方法において、ブランク測定手順S2、測定・換算手順S5で使用するパーティクルカウンタは、光遮蔽式の液中パーティクルカウンタであれば制限されず、例えばベックマン・コールター社製のHIAC9703を用いることができる。
【0045】
[医療用長尺体]
医療用長尺体100は、前述の試験方法により測定した微粒子数が所定数以下の潤滑層110を、本体部101の外表面における先端から基端に向かう所定領域に形成した器具である。具体的には、医療用長尺体100は、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以上の微粒子数が200個以下となる潤滑層110を好適に用いることができる。換言すると、潤滑層110は、医療用長尺体100の表面積(円周率×外径(2.4mm)×長さ(300mm)=2,261mm2)に対する単位長さ、単位面積当たりの粒径10μm以上の微粒子数が1デバイス当たり2(2.21)個/mm2、粒径25μm以上の微粒子数が1デバイスmm2当たり0.1(0.088)個/mm2以下となるものを好適に使用することができる。
【0046】
潤滑層110は、前述の微粒子数を満たすようなコーティング強度(形成後の耐剥離強度)を有する材料で構成される。潤滑層110は、潤滑性材料に非潤滑性材料を添加して構成される。
【0047】
潤滑性材料は、親水性である。親水性材料としては、具体的に、グリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミドのブロック共重合体が挙げられる。
【0048】
特に、潤滑層110の潤滑性樹脂はアクリル系樹脂であることが好ましい。当該アクリル系樹脂としては、反応性単量体由来の構成単位を含むことが好ましい。このような反応性単量体由来の構成単位を導入することにより、重合体同士が反応性単量体であるエポキシ基を介して架橋又は高分子化して網目構造を形成する。
【0049】
反応性単量体は、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、なかでも、重合体の架橋又は高分子化の制御がし易いことから、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、及びβ-メチルグリシジルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートがより好ましく、グリシジルメタクリレート(GMA)が更に好ましい。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの双方を包含する。上記反応性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、アクリル系樹脂は、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)及び親水性単量体由来の構成単位(B)を有することが好ましく、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)及び親水性単量体由来の構成単位(B)からなることがより好ましい。
【0051】
上記親水性単量体としては、例えば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸及びそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレート及びその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸等の水溶性の単量体等を例示できるが、親水性単量体は、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)が好ましい。上記親水性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
アクリル系樹脂の製造方法は、特に制限されず、例えば特開平9-131396号公報等に記載される方法で親水性部位と反応性部位とを有するブロック共重合体を作製することができる。
【0053】
潤滑層110の非潤滑性材料は、単独では潤滑性を有しない非潤滑性樹脂または非潤滑性化合物をいう。非潤滑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、ウレタン樹脂、非潤滑性化合物として4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル(MDI)が好ましい。
【0054】
ウレタン樹脂としては、例えばポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等を用いることができ、ウレタンエラストマーでもよく、ポリエーテルセグメントを有するLubrizol社製ペレセン2363やBASF社製エラストラン等市販のウレタンエラストマーが好ましい。
【0055】
また、潤滑層110の非潤滑性樹脂及び/又は非潤滑性化合物としては、水に溶けないことが好ましい。この構成によれば、耐久性が向上する。「水に溶けない」とは、室温(23℃)、常圧下(1気圧下)で、水に不溶(若しくは難溶)の物質を示す。例えば、室温、常圧下での水100mLに対する溶解が1g未満の物質を示すが、これに制限されない。
【0056】
非潤滑性樹脂の潤滑性樹脂に対して添加する量の質量比は、1/1000~1であることが好ましい。
【0057】
非潤滑性樹脂及び潤滑性樹脂を溶解(若しくは分散)させる溶媒としては、本発明に係る非潤滑性樹脂及び潤滑性樹脂を溶解(若しくは分散)できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよく、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はテトラヒドロフラン(THF)である。
【0058】
潤滑層110は、親水性材料等を添加して得られた溶液をコート又は浸漬した後、所定時間(1~6時間、好ましくは1~3時間程度)加熱して形成することができる。加熱温度は、90℃以上150℃以下、好ましくは100℃以上140℃以下であり、より好ましくは100℃以上130℃以下である。
【0059】
医療用長尺体100の潤滑層110は、前述の材料で形成することで、形成時の加熱時間が短縮できる。そのため、潤滑層110は、過剰な架橋又は高分子化の進行を抑制できる。したがって、潤滑層110は、架橋密度を小さく、かつ親水基のダメージを小さくして動きの制約が少ないため、耐久性が高く、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、換言すると摩擦による抵抗値が小さい或いは低下せず、かつ微粒子の発生量を低減できる。
【0060】
医療用長尺体100は、生体管腔内に挿抜して治療又は処置を行う際に使用される医療器具であればよい。医療用長尺体100は、具体的にガイディングカテーテル、造影用カテーテル、マイクロカテーテル、ガイドワイヤサポートカテーテル、バルーンカテーテル、ステントデリバリーカテーテル、画像診断カテーテル、アテレクトミーカテーテル、イントロデューサーシース、ダイレータ等の各種カテーテル、ガイドワイヤ等が挙げられる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る試験装置1は、医療用長尺体100に形成される潤滑層110から生じる微粒子数を測定する装置であって、先端から基端まで連通する内腔11が形成された可撓性を有するチューブ10と、チューブ10を変形した状態で保持する凹状の保持溝21が形成された載置台20と、チューブ10の先端側に配置され、注入器具40で流入した液体を貯留する回収容器30と、を含み、保持溝21は、医療用長尺体100の挿入方向から第1直線部21aと、第1直線部21aの先端に隣接配置される第1蛇行部21bと、第1蛇行部21bの先端に隣接配置される第2直線部21cと、第2直線部21cの先端に隣接配置される第2蛇行部21dと、第2蛇行部21dの先端に隣接配置される第3直線部21eとを有する溝形状を呈し、チューブ10を嵌合した際、チューブ10を溝形状に変形して保持する。
【0062】
本実施形態に係る試験方法は、前述の試験装置1を用いた方法であって、試験装置1及び先端から基端に向かう所定長さの領域に潤滑層110を形成した医療用長尺体100を準備する手順(準備手順S1)と、医療用長尺体100の先端をチューブ10の挿入開始位置Sにセットし、挿入開始位置Sから医療用長尺体100の潤滑層110が形成された部分が全体的に挿入されるようにチューブ10の挿入終了位置Eまで挿入した後、医療用長尺体100の先端を挿入開始位置Sまで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順(挿抜手順S3)と、チューブ10から医療用長尺体100を抜去し、回収容器30に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるようにチューブ10に液体を注入する手順(調整手順S4)と、回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して微粒子数の総量とみなす手順(測定・換算手順S5)と、を含む。
【0063】
本実施形態に係る医療用長尺体100は、本体部と、本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層110と、を含み、潤滑層110は、前記試験方法により、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以下の微粒子数が200個以下である。
【0064】
このような構成により、医療用長尺体100の潤滑層110に対する微粒子試験を簡便に実施可能な試験装置、試験方法を提供できる。また、本発明の試験方法により規定される潤滑層110を形成した医療用長尺体100であれば、生体管腔への挿抜時の摩擦抵抗値の増加を低減しつつ、摩擦による微粒子発生量を低減させることができる。
【実施例0065】
本発明の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0066】
<1.サンプルの仕様>
実施例のサンプル(実施例1~実施例3)、比較例のサンプル(比較例1、比較例2)は、以下の工程に沿って作製した。
【0067】
下記化1に示す合成例の反応を行い、潤滑層を構成する潤滑性材料であるブロック共重合体を製造した。
【0068】
【0069】
50℃のアジピン酸2塩化物72.3gにトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、-5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
【0070】
次に、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、更にベンゼン30gを溶媒として、80℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリグリシジルメタクリレート(PPO-GMA)を得た。
【0071】
続いて、得られたPPO-GMA1.0g(GMA 7mmol相当)を、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)9.0g、溶媒としてのジメチルスルホキシド90gに仕込み、80℃で18時間、反応させた。反応後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、ブロック共重合体(1)(構成単位(A):構成単位(B)=GMA:DMAA=1:14(モル比))を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)によって測定されたブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、約150万であった。
【0072】
上記で得られたブロック共重合体をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して非潤滑性樹脂を添加しないコート液(コート液1)を調整した。また、上記で得られたブロック共重合体及びポリ塩化ビニル樹脂(富士フイルム和光純薬社製)を質量比(非潤滑性樹脂/潤滑性樹脂)=1/45、コート液中の非潤滑性樹脂が0.1質量%になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、非潤滑性樹脂を添加したコート液(コート液2)を調製した。また、上記で得られたブロック共重合体及びポリ塩化ビニル樹脂(富士フイルム和光純薬社製)を質量比(非潤滑性樹脂/潤滑性樹脂)=1/45、コート液中の非潤滑性樹脂が0.5質量%になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、非潤滑性樹脂を添加したコート液(コート液3)を調製した。また、上記で得られたブロック共重合体及び4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル(MDI)を質量比(非潤滑性樹脂/潤滑性樹脂)=1/45、コート濃度5.3質量%、コート液中のMDIが0.1質量%になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、非潤滑性樹脂を添加したコート液(コート液4)を調製した。以上のように、コート液1は、潤滑性樹脂のみで構成され、コート液2~コート液4は、潤滑性樹脂に非潤滑性樹脂を添加した構成とした。
【0073】
医療用長尺体100として、外径2.37mm、内径2.2mm、全長150cmのガイディングカテーテル(R2P SlenGuide:テルモ株式会社製)を用い、該カテーテルの本体部の先端から30cmの領域を調整した上記何れかのコート液に浸漬し、室温(25℃)で1時間乾燥させ塗膜を形成した。更に、医療用長尺体100を130℃のオーブン中で所定時間塗膜を加熱乾燥した後、室温まで冷却した。このようにして、潤滑層110が形成された医療用長尺体100のサンプルを作製した。
【0074】
各サンプルで使用したコート液の種類及び加熱時間は、以下の通りである
・サンプル1(実施例1):コート液2、1.5時間
・サンプル2(実施例2):コート液3、1.5時間
・サンプル3(実施例3):コート液4、1時間
・サンプル4(比較例1):コート液1、1.5時間
・サンプル5(比較例2):コート液1、12時間。
【0075】
<2.試験装置の準備>
試験装置1は、
図4に示すように、載置台20の上面に直線路(第1直線部21a、第2直線部21c、第3直線部21e)と蛇行路(第1蛇行部21b、第2蛇行部21d)が交互に配置された溝形状を有する保持溝21を形成し、保持溝21にチューブ10を嵌合させた。チューブ10は、内径4mm、外径6mm、全長1mのホース(E-PD-4柔軟フッ素ホース(チューブタイプ)、株式会社八興製)を用いた。載置台20は、縦230mm、横380mm、厚さ19mmとした。保持溝21は、溝深さ6.2mm、溝幅6.2mm、第1直線部21aを80mm、第2直線部21cを40mm、第3直線部21eを60mm、第1蛇行部21bの基端側の湾曲部の湾曲半径をR50、先端側の湾曲部の曲率半径をR40、第2蛇行部21dの基端側の湾曲部の湾曲半径をR70、先端側の湾曲部の曲率半径をR40とした。
【0076】
[3.試験方法]
試験方法は、以下のように実施した。
【0077】
まず、
図4に示すように、載置台20の保持溝21にチューブ10をセットし、チューブ10の内部をRO水で十分に洗浄した後、RO水で満たした。次に、チューブ10の先端側(遠位側)に洗浄した回収容器30を配置し、チューブ10の基端側(近位側)から注入器具40(シリンジ)を用いて100mLのRO水を注入した。次に、回収容器30に採取した100mLのRO水をパーティクルカウンタ(HIAC9703、ベックマン・コールター社製)にセットし、測定条件(1回採取量:10mL、採取回数:4回、計算方法:1回目は破棄し、残り3回の採取データの平均値、単位:個/10mL)に基づき測定した。そして、測定した値をブランクとして記録した。
【0078】
続いて、内腔及び外表面をRO水で洗浄し、内腔をRO水で満たした各サンプルの先端をチューブ10の挿入開始位置Sに配置した。次に、
図5に示すように、各サンプルの先端を挿入開始位置Sから挿入終了位置Eまで挿入した後、先端を挿入開始位置Sまで引き戻す往復動作を5回行った。この往復動作は、各サンプルの先端が挿入終了位置Eに到達したとき、潤滑層110の形成領域(先端から30cmの領域)が挿入開始位置Sから挿入終了位置Eの間に収まった状態となる。
【0079】
続いて、
図6に示すように、各サンプルの先端を挿入開始位置Sに配置した状態でRO水を10mL注入した。次に、各サンプルをチューブ10から抜去し、チューブ10の基端側からRO水を90mL注入して回収容器30内の回収液体の総量を100mLに調整した。
【0080】
続いて、回収容器30内の回収液体をパーティクルカウンタ(HIAC9703、ベックマン・コールター社製)にセットし、測定条件(1回採取量:10mL、採取回数:4回、計算方法:1回目は破棄し、残り3回の採取データの平均値、単位:個/10mL)に基づき測定した。そして、測定した値から記録したブランクの値を差し引き、10倍して100mL当たりの個数に換算した値を微粒子数の総量値として記録した。各サンプルの測定結果は、
図7に示す値となった。
【0081】
<4.結果>
試験方法の評価基準は、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以上の微粒子数が200個以下であることとした。これら基準値は、潤滑層110の摩擦抵抗を低減しつつ良好な耐剥離性を示す指標となる。
【0082】
図7に示すように、実施例1~実施例3は、何れも粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下、粒径25μm以上の微粒子数が200個以下であった。特に、実施例3は、粒径10μm以上の微粒子数が914個、粒径25μm以上の微粒子が17個と、最も少なく耐剥離性に優れた性能を示した。これにより、実施例1、実施例2は、共に優れた耐剥離性を示し、手技中における潤滑層110由来の微粒子の発生を低減できることを示している。また、実施例1、実施例2の潤滑層110は、加熱乾燥の時間が1.5時間、実施例3は1時間と短い。そのため、実施例1~実施例3の潤滑層110は、過剰な架橋又は高分子化の進行が抑制され、架橋密度を小さく、かつ親水基のダメージを小さくして動きの制約を少なく抑えられたので、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、換言すると摩擦による抵抗値が小さい或いは低下できたことを示している。
【0083】
これに対し、比較例1、比較例2は、従来品である潤滑性樹脂のみで構成された潤滑層を形成しており、粒径10μm以上の微粒子数及び粒径25μm以上の微粒子数が共に上記基準を大きく上回った。これにより、比較例1の潤滑層110は、潤滑性材料に非潤滑性樹脂を添加していないため、耐剥離性が低く、実施例1や実施例2と比べると10倍近い差があった。このことから、潤滑層110は、潤滑性材料に非潤滑性樹脂を添加する構成とすることが、表面潤滑性を維持しつつ潤滑層110の耐剥離性を向上し得るために重要な要素であることが分かった。
【0084】
比較例2は、微粒子数が実施例1、実施例2と同程度となったが、加熱時間は12時間と長く、実施例1や実施例2と比べて8倍長い。このことから、比較例2は、長時間にわたって加熱乾燥を行うことで医療用長尺体100に対する固着強度が高まることがわかった。しかし、比較例2は、加熱乾燥が長時間となると表面潤滑性が低下した。
(3)本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、前記潤滑層は、先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブの先端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記チューブを、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の先端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の先端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の先端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の先端に隣接配置される第3直線部が形成されるように変形して保持する試験装置を用い、前記チューブの先端から基端に向かう所定領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む試験方法により、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以上の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
(4)本体部と、前記本体部の外表面の先端から基端に向かう所定領域に形成される潤滑層と、を含む医療長尺体であって、前記潤滑層は、先端から基端まで連通する内腔が形成された可撓性を有するチューブと、前記チューブを変形した状態で保持する凹状の保持溝が形成された載置台と、前記チューブの先端側に配置され、注入器具で流入した液体を貯留する回収容器と、を含み、前記保持溝は、前記医療用長尺体の挿入方向から第1直線部と、前記第1直線部の先端に隣接配置される第1蛇行部と、前記第1蛇行部の先端に隣接配置される第2直線部と、前記第2直線部の先端に隣接配置される第2蛇行部と、前記第2蛇行部の先端に隣接配置される第3直線部と、を有する溝形状を呈し、前記チューブを嵌合した際、前記チューブを前記溝形状に変形して保持する、試験装置を用い、前記試験装置及び先端から基端に向かう所定領域に前記潤滑層を形成した前記医療用長尺体を準備する手順と、前記医療用長尺体の先端を前記チューブの挿入開始位置にセットし、前記挿入開始位置から前記医療用長尺体の前記潤滑層が形成された部分が全体的に挿入されるように前記チューブの挿入終了位置まで挿入した後、前記医療用長尺体の先端を前記挿入開始位置まで抜去する挿抜動作を5回繰り返す手順と、前記チューブから前記医療用長尺体を抜去し、前記回収容器に貯留される回収液体の貯留総量が100mLとなるように前記チューブに前記液体を注入する手順と、前記回収液体を用いて該液体中の微粒子数を測定し、得られた値を10倍して100mL当たりの個数に換算して前記微粒子の総量とみなす手順と、を含む、試験方法により、粒径10μm以上の微粒子数が5000個以下及び/又は粒径25μm以上の微粒子数が200個以下となる、医療用長尺体。
なお、以下の説明において、「第1」、「第2」のような序数詞を付して説明する場合は、特に言及しない限り、便宜上用いるものであって何らかの順序を規定するものではない。また、「基端」及び「基端側」は、医療用長尺体100の操作者が把持する側(医療用長尺体100の近位側であり、チューブ10の挿入開始位置S側)であり、「先端」及び「先端側」は、医療用長尺体100の基端と反対の挿入される側(医療用長尺体100の遠位側であり、チューブ10の挿入終了位置E側)である。
医療用長尺体100の潤滑層110は、前述の材料で形成することで、形成時の加熱時間が短縮できる。そのため、潤滑層110は、過剰な架橋又は高分子化の進行を抑制できる。したがって、潤滑層110は、架橋密度を小さく、かつ親水基のダメージを小さくして動きの制約が少ないため、耐久性が高く、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、換言すると摩擦による抵抗値が小さい或いは増加せず、かつ微粒子の発生量を低減できる。