(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017204
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】スポンジチタンの保管方法及びスポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C22B34/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119699
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕介
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA27
4K001BA08
4K001BA23
4K001CA01
4K001CA09
4K001DA05
4K001DA11
4K001FA10
4K001FA12
4K001FA13
4K001GB01
4K001HA07
(57)【要約】
【課題】スポンジチタンの製造の歩留まりの低下を抑制することが可能なスポンジチタンの保管方法を提供する。
【解決手段】スポンジチタンの保管方法であって、スポンジチタンをホッパーの貯蔵部に投入する投入ステップと、貯蔵部の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、貯蔵部の頂部側から外部に乾燥ガスを排気することでスポンジチタンを冷まして保管する保管ステップとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポンジチタンの保管方法であって、
前記スポンジチタンをホッパーの貯蔵部に投入する投入ステップと、
該貯蔵部の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することで前記スポンジチタンを冷まして保管する保管ステップとを含む、スポンジチタンの保管方法。
【請求項2】
前記貯蔵部に供給する前記乾燥ガスの温度が15℃以上かつ40℃以下の範囲内である、請求項1に記載のスポンジチタンの保管方法。
【請求項3】
前記投入ステップでは、80℃以上のスポンジチタンを投入する、請求項1に記載のスポンジチタンの保管方法。
【請求項4】
前記乾燥ガスが、乾燥エアーである、請求項1に記載のスポンジチタンの保管方法。
【請求項5】
前記投入ステップでは、塩化マグネシウムを含有し、かつ、塩化マグネシウム含有量が0.3質量%以下である前記スポンジチタンを投入する、請求項1に記載のスポンジチタンの保管方法。
【請求項6】
前記ホッパーは、前記貯蔵部の底部側に連結された排出口と、該貯蔵部の頂部側に連結された投入口とを備え、
前記排出口及び前記投入口が、開口している、請求項1に記載のスポンジチタンの保管方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のスポンジチタンの保管方法を実施する工程を含む、スポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジチタンの保管方法及びスポンジチタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジチタンは、いわゆるクロール法によって製造されうる。クロール法では、金属製還元反応容器内で溶融金属マグネシウムに四塩化チタンを滴下することで還元反応が起こり、スポンジチタン塊が得られる(以下、スポンジチタン塊を得る当該工程を「還元工程」と称することがある。)。このスポンジチタン塊は破砕シャー等で破砕され、スポンジチタンを得る(以下、スポンジチタン塊をスポンジチタンに破砕する当該工程を「破砕工程」と称することがある。)。スポンジチタン塊の破砕により得られたスポンジチタンは溶解原料として使用することができ、例えば電子ビーム溶解(EB)法、プラズマアーク溶解(PAM)法や真空アーク再溶解(VAR)法により溶解させてチタンインゴットの製造に用いられる。
【0003】
現在、航空機や電子部品等の技術分野ではグレードが高いチタンが要求されている。溶解原料に使用されるスポンジチタンについては、酸素等の不純物の混入を少なくすることが望まれる。スポンジチタン塊を破砕して得られるスポンジチタンは、チタンインゴットの製造に用いられる前段階において、外気と接触する機会があり、それによって結果として当該チタンインゴットの酸素含有量が増加してしまう。チタンインゴットの製造に用いられる前段階において、溶解原料に使用されるスポンジチタンの酸素含有量を低減する方法としては、例えば特許文献1に記載される技術が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、「破砕整粒後のスポンジチタンを品質均一化のため混ぜ合わせる配合過程で用いられる保存用のホッパーであって、前記破砕整粒後のスポンジチタンの投入にともない当該ホッパー内で発生する上昇流を抑制する蓋を上部の投入口に開閉可能に有することを特徴とするホッパー」が記載されている。特許文献1の発明は、上昇流の発生を抑制し、または外気が直接ホッパー内のスポンジチタンに接しないようにできたことにより、スポンジチタンに残留する塩化マグネシウムの吸湿の進行を抑制している。その結果、スポンジチタンの酸素の増加量が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明では、上昇流の発生を厳しく抑制する点に特徴があり、このためにホッパー上部の蓋を閉じている。当該特許文献1の発明では、上昇流の発生を抑制しつつ、ホッパー内に投入した、破砕後のスポンジチタンを冷却している。一方で、ホッパーへのスポンジチタンの供給には蓋の開放が必要である。即ち、特許文献1の発明において、スポンジチタンの冷却中、ホッパー上部の蓋を閉じているので、追加のスポンジチタンをホッパーに投入することができない。また、状況次第で、前工程である破砕工程のスケジュール調整が必要となり、スポンジチタン製造の他工程への影響を大きく与えるものとなり得る。さらには、格納されるスポンジチタンの重量が大きいためホッパーは比較的大型のものを使用し、その蓋の開け閉めを破砕の都度実施するのは工程管理上の負荷が大きい。
【0007】
また、スポンジチタンの取り扱いでは変色しないことも重要である。この理由は、変色したスポンジチタンに何等かの汚染を受けている疑いがあれば、当該スポンジチタンの使途が限定され、該スポンジチタンのグレードがダウンするからである。また、変色の原因となる物質が分解しにくい場合、不純物がインゴット内に残留してインゴットの品質を損なうおそれがある。特許文献1にはその発明が酸素含有量の増加を抑制できると記載されているが、場合によってスポンジチタンが黒く変色してしまうことがあった。当該変色により純度が高いスポンジチタンの製造の歩留まりが低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明の一実施形態において、スポンジチタンの製造の歩留まりの低下を抑制することが可能なスポンジチタンの保管方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、ホッパーの貯蔵部の底部側から内部に所定水分量以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することでスポンジチタンを冷まして保管することにより、スポンジチタンの製造の歩留まりの低下を抑制することを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
[1]
スポンジチタンの保管方法であって、
前記スポンジチタンをホッパーの貯蔵部に投入する投入ステップと、
該貯蔵部の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することで前記スポンジチタンを冷まして保管する保管ステップとを含む、スポンジチタンの保管方法。
[2]
前記貯蔵部に供給する前記乾燥ガスの温度が15℃以上かつ40℃以下の範囲内である、[1]に記載のスポンジチタンの保管方法。
[3]
前記投入ステップでは、80℃以上のスポンジチタンを投入する、[1]又は[2]に記載のスポンジチタンの保管方法。
[4]
前記乾燥ガスが、乾燥エアーである、[1]~[3]のいずれかに記載のスポンジチタンの保管方法。
[5]
前記投入ステップでは、塩化マグネシウムを含有し、かつ、塩化マグネシウム含有量が0.3質量%以下である前記スポンジチタンを投入する、[1]~[4]のいずれかに記載のスポンジチタンの保管方法。
[6]
前記ホッパーは、前記貯蔵部の底部側に連結された排出口と、該貯蔵部の頂部側に連結された投入口とを備え、
前記排出口及び前記投入口が、開口している、[1]~[5]のいずれかに記載のスポンジチタンの保管方法。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載のスポンジチタンの保管方法を実施する工程を含む、スポンジチタンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、スポンジチタンの製造の歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るスポンジチタンの保管方法の一実施形態に用いられるホッパーを説明するための一例である。
【
図2】
図2(A)は、実施例1でホッパーのフィーダーから切り出されたスポンジチタンの写真であり、
図2(B)は、比較例1でホッパーのフィーダーから切り出されたスポンジチタンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。
【0013】
[1.スポンジチタンの保管方法]
本発明に係るスポンジチタンの保管方法の一実施形態は、スポンジチタンをホッパーに投入する投入ステップと、該投入ステップ後、スポンジチタンを冷まして保管する保管ステップとを含む。
【0014】
上記投入ステップにおいて投入されるスポンジチタンは、破砕シャー等により破砕された後のスポンジチタンである。破砕後のスポンジチタンは高温化しており、かかるスポンジチタンは、特にその表面が活性化しているので、外気と反応しやすい状態となっている。ホッパーの投入口の蓋を閉めない場合は、表面が活性化しているスポンジチタンをホッパーで貯蔵する間、ホッパーの投入口や排出口を介して該ホッパー内に湿度の高い外気が混入するので、前記スポンジチタンが黒く変色しやすい。なお、その原因は明らかではないものの、ホッパーに取りつけたガス導入排出口を通じて1m3の気体中にH2Oが6.5g程度の乾燥空気を供給しても、スポンジチタンが黒く変色しうることが判明した。
【0015】
還元工程で得られるスポンジチタン塊には、塩化マグネシウムが付着していることが多い。この理由としては、スポンジチタン塊が多孔体であるため、その孔内に塩化マグネシウムが残存してしまうことが挙げられる。還元工程後においてスポンジチタン塊は溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを含む溶融浴に浸かっており、液抜きや真空分離処理しても、スポンジチタン塊の孔内に残存した溶融塩化マグネシウムを完全に抜き出すのは困難である。スポンジチタン塊が破砕されると孔内に残存した塩化マグネシウムが外部に対して露出する。そして、塩化マグネシウムは潮解性を示すため、外気に触れると、外気中の水分を吸収する。上述の通り、破砕工程後において高湿度の大気に晒されたスポンジチタンが変色するので、孔内に残存した塩化マグネシウムがスポンジチタンの変色に影響していると思われる。塩化マグネシウムが残存しているスポンジチタンは水分含有量が増えるにつれ、変色する傾向にあると考えられる。
【0016】
ところで、本発明者の知見によれば、冷ましたスポンジチタンは高温である破砕後のスポンジチタンと比べ、変色しにくい。このような事情を勘案し本発明者は鋭意検討した結果、該貯蔵部の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することで前記スポンジチタンを冷まして保管することが有効であることを知見した。すなわち、乾燥ガスにより、高温化したスポンジチタンを冷ますことができる。また、乾燥ガスは、貯蔵部の内部で底部側から頂部側に上向きに流れるので、ホッパーの排出口側からの外気の流入を有効に抑制でき、さらには投入口からの外気の流入も有効に抑えられる。その結果、スポンジチタンの変色が抑制される。また、塩化マグネシウムが付着したスポンジチタンは、ホッパー内に貯蔵されている間、水分含有量が十分に少ない乾燥ガスと接触しているので、外気中の水分を吸収することも抑制される。また、ホッパーの投入口に蓋をすることが必須でなく、ホッパーへのスポンジチタンの供給を自由に行えるので、他工程のスケジュールの自由度が高くなる。
以下、好適な態様を一例としてそれぞれ説明する。
【0017】
<投入ステップ>
投入ステップでは、スポンジチタンをホッパーの貯蔵部に投入する。このスポンジチタンは、破砕シャー等により破砕された後のスポンジチタンであり、当該スポンジチタンが高温化されている。このとき、当該スポンジチタンの温度は、例えば80℃以上である。なお、スポンジチタンの温度の測定については、スポンジチタンの表面を測定対象とする。
【0018】
(ホッパー)
図1に示すホッパー10は、貯蔵部20と、該貯蔵部20の底部側の給気口30と、該貯蔵部20の底部側に連結された排出口40と、該貯蔵部20の頂部側の排気口50と、該貯蔵部20の頂部側に連結された投入口60とを備える。前記排出口40と前記投入口60とは、それぞれ開口している。本発明においては、簡易な構造のホッパーを使用しても、本発明の効果を奏することができる。
貯蔵部20は、スポンジチタン塊を大割シャーや破砕シャー等により破砕することで得られるスポンジチタンを貯蔵する。当該貯蔵部20の容積は、適宜調整可能である。
給気口30は、乾燥ガスを内部に供給するものであり、給気管35の一端が接続されている。給気管35のもう一端は、乾燥ガス供給源(不図示)に接続され、乾燥ガスの流量を測定する流量センサー(不図示)が設けられる。給気管35には、給気口30と乾燥ガス供給源との間にバルブV1が設けられている。乾燥ガス供給源としては、例えば、乾燥ガスを圧縮状態で送り出すコンプレッサや、乾燥ガスを貯留するタンク等が挙げられる。なお、乾燥ガスとして乾燥エアーを生成させるには、生産コストの観点から、他の機械ないし設備から生じた排熱を利用して、空気を乾燥させることにより行うことができるが、これに限るものではない。
排出口40は、スポンジチタンを切り出すためにホッパー10の貯蔵部20の底部側に連結されている。なお、排出口40の下方にフィーダーが配置されている。フィーダー45は、先端部に向かって延在した供給通路と、該供給通路に接続され、該供給通路を振動及び振動停止する駆動部とを備えても良い。供給通路には、排出口40から切り出されたスポンジチタンが積まれ、駆動部により供給通路を振動させることで該スポンジチタンが運ばれる。また、フィーダー45は駆動するベルトを備えることとしてよく、この場合は前記駆動するベルトが排出口40から切り出されたスポンジチタンを運ぶ。
排気口50は、乾燥ガスを外部に排気するために利用でき、排気管55の一端が接続されている。なお、排気管55には、バルブV2が設けられている。
図1に示す実施形態ではホッパーに排気口50が設けられているが、前記排気口50を設けていないホッパーを使用してもよく、この場合は投入口60から乾燥ガスが排気される。
投入口60は、スポンジチタンを投入するためにホッパー10の貯蔵部20の頂部側に連結されている。また、投入口60では、給気口30から内部に供給される乾燥ガスが外部に排気され得る。
図1に示す実施形態において、乾燥ガスは、貯蔵部20の底部側の給気口30から内部に供給され、貯蔵部20の頂部側の排気口50及び/又は投入口60から外部に排気される。
【0019】
当該ホッパー10は、投入口60を閉塞するための開閉構造の蓋(不図示)を取り付けてもよい。ただし、本発明においては、スポンジチタンを冷ますために投入口60を蓋で閉塞すると、当該ホッパー10に破砕後のスポンジチタンを投入する度に蓋の開閉が必要となる。蓋の開閉は、投入口60からのスポンジチタンの投入の遅延又は停止を招くことがある。これに基づき、破砕工程の作業を調整することも起こりうる。すなわち、スポンジチタンの製造の全工程を鑑みると、蓋の開閉については工程管理上の負荷となり、効率的な方法とは言えない。さらには、当該蓋の開閉を自動化した場合、種々の機械的機構やシステムの導入及びメンテナンスが必要となる。
したがって、当該ホッパー10には、投入口60に蓋を取り付けても良いが、投入口60を蓋で閉塞せずに開口した状態で投入ステップを実施することが好ましい。
【0020】
(塩化マグネシウム含有量)
先述したように還元工程後、液抜きや真空分離処理をしても、スポンジチタン塊の孔内に残存した溶融塩化マグネシウムを完全に抜き出すのは困難であることから、当該スポンジチタン塊から破砕されるスポンジチタンは、塩化マグネシウムを含有していることがある。当該スポンジチタンの塩化マグネシウム含有量は、上限側として例えば0.3質量%以下であり、また例えば0.1質量%以下である。
なお、スポンジチタンの塩化マグネシウム含有量の測定方法については、一例として、硝酸銀滴定法が挙げられる。
【0021】
<保管ステップ>
保管ステップは、貯蔵部20の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部20の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することで前記スポンジチタンを冷まして保管する。このとき、貯蔵部20の内部には、主に、底部側から頂部側に向かう上向きの乾燥ガスの流れが発生する。
【0022】
投入ステップにおけるスポンジチタンは高温であるが、保管ステップにおいて乾燥ガスによりそのスポンジチタンの温度が乾燥ガスの温度と同程度まで冷却される。このように高温ではなくなった後のスポンジチタンは、外気と接触してもほとんど変色しない。
なお、乾燥ガスは貯蔵部20の内部にて、連続的に流してもよいが、断続的に流すこともある。例えば、乾燥ガスは、スポンジチタンが所定温度以下に冷却されるまで連続的に流し、その後、連続的及び/又は断続的に流しても良い。
【0023】
(乾燥ガスの水分量)
乾燥ガスの水分量は、3.5g/m3以下である。乾燥ガスの水分量が3.5g/m3を超えると、スポンジチタンが変色する傾向にある。当該乾燥ガスの水分量は、絶対湿度に換算すると、3.5gH2O/m3以下である。絶対湿度は下記数1~3により算出することが可能である。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
(乾燥ガスの種類)
乾燥ガスとしては、乾燥エアー、乾燥アルゴン、乾燥ヘリウム及び乾燥窒素等が挙げられる。作業安全性の観点から、乾燥ガスとして乾燥エアーを使用することが好ましい。一実施形態において乾燥エアーは、外気の水分を除去したものとすることができ、よって酸素及び窒素を含むものである。外気からの水分除去は工場排熱などを利用して適宜実施できる。
【0028】
乾燥ガスの温度は、高温化されたスポンジチタンを冷却する観点から、例えば40℃以下であり、また例えば30℃以下である。なお、乾燥ガスの温度は、乾燥ガス自体の冷却コストや設備の観点から、典型的に15℃以上である。これにより、高温のスポンジチタンに対して低温の乾燥エアーが供給され、貯蔵部20内の雰囲気を制御する他、スポンジチタンの温度を円滑に制御することができる。その結果、スポンジチタンが所定の温度より低くなるので、変色を抑制することができる。
【0029】
乾燥ガスの流量については、ホッパー10の貯蔵部20の容積等を勘案して適宜調整可能であるが、例えば200L/min以上かつ600L/min以下である。これにより、水分量が比較的低い乾燥ガスを貯蔵部20に十分に供給するので、貯蔵部20内への高湿度である外気の流入が抑制される。すなわち、貯蔵部20に貯蔵されたスポンジチタンが良好に冷却されるまで高湿度の外気に晒されない。したがって、スポンジチタンの変色をより有効に抑制することができる。
【0030】
なお、保管ステップ後に、ホッパー10のフィーダー45から貯蔵されているスポンジチタンを例えばベルトコンベアのベルト上に切り出した後、大割シャーや破砕シャー等で破砕して得られたスポンジチタンをホッパー10の投入口60から貯蔵部20に投入することで、投入ステップと保管ステップとを繰り返してもよい。また、スポンジチタンの切り出しと同時に、大割シャーや破砕シャー等で破砕して得られたスポンジチタンを供給してもよい。このとき、スポンジチタンの排出量と、大割シャーや破砕シャー等で破砕して得られたスポンジチタンの投入量とを適宜調整すればよい。
【0031】
[2.スポンジチタンの製造方法]
本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態は、先述したスポンジチタンの保管方法を実施する工程を含む。当該工程の前に、還元工程、真空分離工程及び破砕工程を更に含んでもよい。
なお、上述した構成と重複する説明については割愛する。
【0032】
還元工程において、スポンジチタン塊を得るため、例えば金属製還元反応容器内にて、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元し、スポンジチタン塊を生成する。その後、真空分離工程において、金属製還元反応容器内に残存した溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを金属製還元反応容器の底側に連結されたパイプを介して金属製還元反応容器内から抜き出した後、スポンジチタン塊に対して真空分離処理を施す。なお、真空分離工程と破砕工程との間に、金属製還元反応容器内から取り出したスポンジチタン塊の外周を除去する外周部除去工程を更に含むこともある。
その後、破砕工程において、スポンジチタン塊を公知の破砕手段である大割シャーや破砕シャー等で破砕する。
【0033】
上記製造方法で得られたスポンジチタンをVAR法、PAM法又はEB法等により溶解させてチタンインゴットを製造することができる。
【実施例0034】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0035】
(還元・真空分離)
まず、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元する方法により、胴部が円筒状の金属製還元反応容器(外壁:ステンレス鋼製、内壁:炭素鋼製、であるクラッド鋼製)内にてスポンジチタン塊(目安となる製造量:8トン)を製造した。残存した溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを金属製還元反応容器の底側に連結されたパイプを介して金属製還元反応容器内から抜き出した後、スポンジチタン塊に対して真空分離処理を施した。その後、金属製還元反応容器からスポンジチタン塊を取り出した。次に、スポンジチタン塊の外周(鉄含有量が高い部位)をはつり作業によって切削しつつスポンジチタン塊の形状が略円柱状になるように削った。
【0036】
次に、スポンジチタン塊を破砕して、粒度0.84mm以上かつ25.4mm以下であるスポンジチタンを得た。当該スポンジチタンの一部を抜き取り塩化マグネシウムの含有量を測定した。その結果、当該スポンジチタンは塩化マグネシウムを含有し、かつ塩化マグネシウムの含有量は0.3質量%以下であった。なお、スポンジチタンの塩化マグネシウムの含有量については、先述した硝酸銀滴定法で測定した。
次に、破砕で得られたスポンジチタンを
図1に示す構成を備える(すなわち、投入口60に蓋を備えない)ホッパー10の頂部側の投入口60に投入して、貯蔵部20に貯蔵した。
【0037】
次に、ホッパー10の投入口60に蓋をせずに開口した状態で、バルブV1、V2を開けて給気口30から内部に乾燥ガスとして乾燥エアーを供給して、排気口50および投入口60から乾燥エアーを外部に排出することでスポンジチタンを乾燥エアーの温度程度まで冷ました。なお、以下に各条件を示す。
<ホッパーの条件>
貯蔵部の容積:3.1m3
投入したスポンジチタンの重量:2,500kg
投入口に投入されるスポンジチタンの温度(表面温度):80℃以上
<乾燥エアーの条件>
水分量:3.5g/m3
温度:20℃
流量:300L/min
<外気>
水分量:15g/m3
【0038】
乾燥エアーの供給開始時から1日経過後、バルブV1を閉じて乾燥エアーの供給を停止した。停止後、ホッパー10の排出口40から切り出されたスポンジチタンを回収した。
【0039】
[比較例1~2]
比較例1では、乾燥エアーを水分量6.5g/m3の高湿度エアーに変更したこと以外、実施例1と同様に、スポンジチタンの保管を実施した。実施例1と同様、乾燥エアーの供給を停止した後、ホッパー10の排出口40から切り出されたスポンジチタンを回収した。
比較例2では、乾燥エアーを供給しなかったこと以外、実施例1と同様に、スポンジチタンの保管を実施した。実施例1と同様期間の保管後、ホッパー10の排出口40から切り出されたスポンジチタンを回収した。
【0040】
[スポンジチタンの変色評価]
実施例1及び比較例1、2で回収したスポンジチタンをそれぞれ熟練の作業者が目視にて確認した。その結果、実施例1で回収したスポンジチタンについては変色していないことを確認した。一方、比較例1、2で回収したスポンジチタンについては黒く変色していたことをそれぞれ確認した。また、比較例1で回収したスポンジチタンの変色が比較例2で回収したスポンジチタンの変色と同等の評価(変色有)であった。
なお、実施例1及び比較例1で回収したスポンジチタンについては、
図2(A)及び(B)に写真を示す。
【0041】
(実施例による考察)
熟練の作業者が実施例1で回収したスポンジチタンを目視した結果、変色していないことを確認した。すなわち、実施例1では、純度が高いスポンジチタンの製造の歩留まりの低下を抑制するために、ホッパーの貯蔵部の底部側から内部に水分量3.5g/m3以下の乾燥ガスを供給し、該貯蔵部の頂部側から外部に該乾燥ガスを排気することで前記スポンジチタンを冷まして保管する保管ステップを含むことが有用であったといえる。
また、熟練の作業者が比較例1で回収したスポンジチタンを評価した結果、比較例1で回収したスポンジチタンは、実施例1で回収したスポンジチタンと比べ、その表面が黒く変色していた。この変色は、実施例1で回収したスポンジチタンと比較するとより明確となった。そして、比較例1で回収したスポンジチタンはグレードダウンするか、再度の真空分離処理が必要であると判断された。比較例2で回収したスポンジチタンも比較例1で回収したスポンジチタンと同等の評価であった。すなわち、比較例1および比較例2で回収したスポンジチタンは、適切なグレードのスポンジチタンの製造の歩留まりの観点で実施例1に劣る結果となった。