(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172055
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】金属インゴットを製造するための装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20241205BHJP
B22D 9/00 20060101ALI20241205BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20241205BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20241205BHJP
B22D 45/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F27D21/00 A
B22D9/00 Z
B22D1/00 Z
C22B9/16
B22D45/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089487
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大雅
(72)【発明者】
【氏名】増田 知▲徳▼
【テーマコード(参考)】
4K001
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA09
4K001AA13
4K001AA17
4K001AA19
4K001AA25
4K001AA27
4K001AA29
4K001AA31
4K001BA23
4K001FA12
4K001FA13
4K001FA14
4K001GA19
4K001GB11
4K056AA05
4K056CA04
4K056FA23
(57)【要約】
【課題】高品質の金属インゴットを効率よく製造・提供するための装置と方法、およびこの方法を実行するためのプログラムを提供する。
【解決手段】
この装置は、溶解炉と制御装置を含む。溶解炉は、チャンバー、鋳型、および撮像装置を含む。鋳型はチャンバー内に配置され、金属の溶湯が注入されるように構成される。撮像装置はチャンバー外に配置され、鋳型の動画像を取得するように構成され、制御装置に接続される。制御装置は、溶湯、溶湯内の固体状の金属、および溶湯と撮像装置の間に位置する固体状の金属を動画像に基づいて識別するように構成される。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉と制御装置を含み、
前記溶解炉は、
チャンバー、
前記チャンバー内に配置され、金属の溶湯が注入される鋳型、
前記チャンバー外に配置され、前記鋳型の動画像を取得するように構成され、前記制御装置に接続される撮像装置を含み、
前記制御装置は、前記溶湯、前記溶湯内の固体状の前記金属、および前記溶湯と前記撮像装置の間に位置する固体状の前記金属を前記動画像に基づいて識別するように構成される、金属インゴットを製造するための装置。
【請求項2】
前記撮像装置は、前記鋳型と鉛直方向において重ならない、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記動画像は、それぞれ複数のデータポイントで構成される複数のフレーム画像によって構成され、
前記撮像装置は、前記複数のフレーム画像の各々において前記溶湯に対応する前記複数のデータポイントの平均階調が一定の範囲内の階調になる条件下、前記複数のフレーム画像を取得する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記動画像を構成する複数のフレーム画像のそれぞれにおいて、
前記鋳型の内側に評価領域を設定すること、および
前記評価領域において、前記評価領域を構成する前記データポイントの数に対する第1の閾値階調以下の前記データポイントの数の比が第1の面積閾値以上である場合、前記フレーム画像を特定すること、
を実行するように構成される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
特定された前記フレーム画像のそれぞれにおいて、
前記評価領域のうち、前記撮像装置の視野の上側に位置する一部を第1の検証領域として設定すること、および
前記第1の検証領域において、前記第1の検証領域を構成する前記データポイントの数に対する第2の閾値階調以下の前記データポイントの数の比が第2の面積閾値以上である場合、前記特定を解除すること、
をさらに実行するように構成される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記溶解炉は、前記チャンバー内に配置され、前記溶湯をサンプリングするためのサンプラーをさらに備え、
前記サンプラーは、前記動画像において前記溶湯と重なる重畳位置と重ならない非重畳位置の間で可逆的に移動するように構成され、
前記制御装置は、前記溶湯、前記溶湯内の固体状の前記金属、前記溶湯と前記撮像装置の間に位置する固体状の前記金属、および前記サンプラーを前記動画像に基づいて識別するようにさらに構成される、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記評価領域のうち、前記サンプラーが前記重畳位置に位置する際に前記動画像中で前記溶湯と重なる領域を含む一部を第2の検証領域として設定すること、
前記第2の検証領域において、前記第2の検証領域を構成する複数の前記データポイントの数に対する第3の閾値階調以下の前記データポイントの数の比が第3の面積閾値以上である場合、前記特定を解除すること
をさらに実行するように構成される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記重畳位置に位置する前記サンプラーと前記溶湯が重なる領域の形状を基準形状として記憶すること、
第3の閾値階調以下の前記データポイントが形成する領域の形状の前記基準形状に対する相関値を算出すること、および
前記相関値が0.80以上1以下の場合に前記特定を解除すること、
をさらに実行するように構成される、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の装置を利用することを含む、金属インゴットの製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の前記制御装置に対し、
前記撮像装置を介して前記鋳型の動画像を取得すること、および
前記動画像に基づいて、前記溶湯、前記溶湯内の固体状の前記金属、および前記溶湯と前記撮像装置の間に位置する固体状の前記金属を識別することを実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、チタンなどの金属のインゴット(鋳塊)を製造するための装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属のインゴットを製造する方法の一つとして、溶解鋳造法が挙げられる。この方法では、原料となる金属単体または合金の粉体、ペレット、ワイヤー、スポンジ、ブリケット、プレート、またはビレットなどを溶解することで得られる液体状態の金属(溶湯)を鋳型に注入し、凝固することで鋳型の形状を反映したインゴットが得られる。例えば特許文献1では、原料であるチタン合金に電子ビームを照射して溶湯を形成し、溶湯を円筒状の鋳型に注入・冷却することで円柱形状を有するチタン合金のインゴットが製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、金属単体または合金のインゴットを製造するための新規な装置と方法、およびこの方法を実行するためのプログラムを提供することを課題の一つとする。例えば、本発明の実施形態の一つは、溶解鋳造法を適用し、高品質の金属インゴットを効率よく製造・提供するための装置と方法、およびこの方法を実行するためのプログラムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る実施形態の一つは、金属インゴットを製造するための装置である。この装置は、溶解炉と制御装置を含む。溶解炉は、チャンバー、鋳型、および撮像装置を含む。鋳型はチャンバー内に配置され、金属の溶湯が注入されるように構成される。撮像装置はチャンバー外に配置され、鋳型の動画像を取得するように構成され、制御装置に接続される。制御装置は、溶湯、溶湯内の固体状の金属、および溶湯と撮像装置の間に位置する固体状の金属を動画像に基づいて識別するように構成される。
【0006】
本発明に係る実施形態の一つは、上記装置を利用する、金属インゴットの製造方法である。すなわち、この製造方法は、チャンバー内で金属を含む原料を溶解して溶湯を形成して鋳型に注入すること、チャンバー外に備えられる撮像装置を用いて鋳型の動画像を取得すること、および上記動画像に基づき、溶湯、溶湯内の固体状の金属、および溶湯と撮像装置の間に位置する固体状の金属を動画像に基づいて識別することを含む。
【0007】
本発明に係る実施形態の一つは、プログラムである。このプログラムは、金属の溶湯を鋳型に注入して金属インゴットを製造するための製造装置に備えられる撮像装置に接続される制御装置に対し、撮像装置を介して鋳型の動画像を取得すること、および取得された動画像に基づいて、溶湯、溶湯内の固体状の金属、および溶湯と撮像装置の間に位置する固体状の金属を識別することを実行させるように構成される。
【0008】
本発明に係る実施形態の一つは、上記プログラムが記録されたコンピュータ可読記憶媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置のブロック図。
【
図2】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置の模式的端面図。
【
図3】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置の(A)模式的端面図と(B)模式的上面図。
【
図4】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を示すフローチャート。
【
図5】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を示すフローチャート。
【
図6】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式的斜視図。
【
図7】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式的斜視図。
【
図8】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【
図9】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【
図10】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【
図11】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【
図12】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【
図13】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明するフローチャート。
【
図14】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を示す模式図。
【
図15】実施例における金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。同一または類似の構造を有する複数の要素をそれぞれ区別して表記する際には、符号の後にハイフンと自然数を付す。同一または類似の構造を有する複数の要素を纏めて表記する際には、符号のみを用いる。
【0012】
ここで、溶解とは気体、液体、または固体が液体と混合して均一な液相を形成する現象であるが、以下の記載においては、固体が液体へ変化する現象である溶融を包含する用語として使用する。
【0013】
1.金属インゴットの製造装置
1-1.概要
まず、本発明の実施形態の一つに係る製造装置について説明する。製造装置は溶解鋳造法で金属単体または合金のインゴット(以下、金属単体のインゴットと合金のインゴットを総じて金属インゴットと記す。)を製造するための装置であり、金属(0価の金属)を含む原料に対して熱エネルギーを供給することによって加熱・溶解し、得られる溶湯を鋳型に注入するように構成される。溶湯が鋳型内で冷却されることで、金属インゴットが得られる。原料の加熱は熱源を用いて行われる。熱源としては、電子銃やプラズマトーチが挙げられる。前者を用いる場合には電子銃から放出される電子ビームにより、後者を用いる場合にはプラズマトーチから放出されるアーク放電により熱エネルギーが供給される。前者の方法は電子ビーム溶解鋳造法と呼ばれ、後者の方法はプラズマアーク溶解鋳造法と呼ばれる。以下、熱源として電子銃を用いる電子ビーム溶解鋳造法について記述するが、本発明の実施形態の一つは、熱源としてプラズマトーチを用いるプラズマアーク溶解鋳造法にも適用することができる。
【0014】
製造装置で使用可能な金属に制約はなく、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、モリブデン、タンタル、またはこれらの金属から選択される金属を含む合金など、様々な金属を含む原料を取り扱うことができる。原料の形状にも制約はなく、粉体状、ペレット状、棒状、ワイヤー状、プレート状、ブリケット状の原料だけでなく、例えば金属を切削加工する際に副生し、様々な形状の原料が混在する金属屑を原料として用いてもよい。原料の密度も任意であり、例えばチタンを含む原料を用いる場合には、クロール法またはハンター法などに例示される四塩化チタンの還元で生じるスポンジチタンを用いてもよい。なお、チタンを含む金属は、チタン単体だけでなく、チタン-アルミニウム合金などのチタン合金を含む。
【0015】
図1は製造装置100のブロック図である。
図1に示すように、製造装置100は、溶解炉110と制御装置160を含む。制御装置160は、図示しないアプリケーションプログラミングインターフェースを介して溶解炉110または溶解炉110に設けられる少なくとも一つの構成(後述)に接続され、溶解炉110の機能の全てまたは一部を制御するように構成してもよい。あるいは、制御装置160と溶解炉110は互いに非接続の独立した装置であり、メモリカードなどの記憶媒体を介して接続されてもよい。
【0016】
1-2.溶解炉
溶解炉110の模式的端面図である
図2に示すように、溶解炉110は、主な構成として、原料を溶解・凝固するための空間を提供するチャンバー112、チャンバー112内に設けられる一つまたは複数のハース120、一つまたは複数の鋳型124、一つまたは複数の電子銃140、一つまたは複数の電子銃142、およびチャンバー112外に設けられる一つまたは複数の撮像装置150を有する。溶解炉110はさらに、金属を含む原料104が充填されたドラムフィーダ114や、チャンバー112内を減圧するための排気装置(真空ポンプ)116、ドラムフィーダ114から供給される原料104をハース120へ輸送するための振動フィーダ118、溶湯をサンプリングするためのサンプラー138などを設けることができる。排気装置116により、チャンバー112内を0.01Pa以下の減圧雰囲気にすることができ、これにより、活性の高い金属、例えば溶解状態で容易に酸素や窒素と反応するチタンなどの金属を取り扱うことができる。振動フィーダ118は、ハース120側がドラムフィーダ114側よりも低くなるように設けられ、図示しない振動装置に連結される。このため、例えばドラムフィーダ114を回転させて原料104を振動フィーダ118へ供給し、振動フィーダ118を振動させることで原料104をハース120に搬送することができる。なお、原料104の供給するための構成は振動フィーダ118に限られず、様々な構成を採用することができる。
【0017】
電子銃140は、ハース120に供給された原料104に熱エネルギーを供給する熱源である。図示しないが、電子銃140は、熱電子を発生させるためのフィラメント、および電子ビームを偏向させるための磁石を基本構成として備える。磁石の磁界を制御することで電子ビームの照射方向が制御され、電子ビームをハース120上で走査することができる。電子ビームによって供給されるエネルギーによって原料104に含まれる金属が溶解し、溶湯106が形成される。
【0018】
ハース120は、原料104と溶湯を保持し、溶湯を鋳型124に供給するように構成される。このため、
図2には示されないが、ハース120には溶湯106を鋳型124に注ぐための注ぎ口が設けられる。また、ハース120は、その上方で溶解された原料を受け取るように構成されてもよい。さらに、ハース120上には、予め原料に含まれる金属を溶解・凝固することで得られるスカル122が形成されていてもよい。スカル122は溶湯106の流路としても機能するが、一部を再溶解して溶湯106の供給源として機能させてもよい。図示しないが、ハース120に冷却媒体を環流させるための流路を設けてもよい。流路に水、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール類、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、テトラデカフルオロヘキサンやパーフルオロ2-ブチルテトラヒドロフランなどのフッ素含有化合物、シリコンオイル、ビフェニルとジフェニルエーテルの混合物などの常温で固体の芳香族化合物などに例示される冷却媒体を環流させることで、ハース120内に形成された溶湯106の温度を制御することができる。
【0019】
鋳型124は、ハース120内で形成された溶湯106を受容する容器であり、ハース120の注ぎ口の下に配置される。鋳型124の数に制約はなく、一つまたは複数の鋳型124をチャンバー112内に配置してもよい。ハース120の注ぎ口の数は、鋳型124の数と同数またはそれ以上になるように設けられる。鋳型124は、例えば銅などの熱伝導率の高い金属を用いて構成される。任意の構成として、鋳型124は鋳型124を冷却するための流路126を有していてもよい。流路126に上述した冷却媒体を環流させることで、鋳型124に注入された溶湯106を効果的に冷却することができる。
【0020】
鋳型124の形状にも制約はなく、鋳型124の水平断面の形状、より詳細には水平断面における内壁の形状は矩形などの多角形でもよく、あるいは円であってもよい。水平断面が矩形や円の内壁を有する鋳型124を用いることで、それぞれ直方体と円柱の金属インゴット108が得られる。さらに、鋳型124の内壁の水平断面は楕円でもよく、あるいは直線と曲線によって構成されていてもよい。鋳型124の大きさにも制約はなく、例えば水平断面の面積が1500cm2以上15000cm2以下になるように適宜設定すればよい。
【0021】
鋳型124の底部には、底蓋として機能するダブテール128が設けられ、ダブテール128には図示しない引出機構が接続される。ダブテール128上にはスタブとも呼ばれるスターティングブロック130が形成されてもよい。スターティングブロック130は、鋳造に供される原料104に含まれる金属を含み、ダブテール128上に溶湯106を流し込み、その後凝固させることで形成してもよく、あるいは、予め形成されたスターティングブロック130を鋳型124の底部に配置してもよい。スターティングブロック130を用いる場合には、ダブテール128は使用しなくてもよい。
【0022】
スターティングブロック130には、直接、またはダブテール128を介して図示しない引き抜き機構が接続される。鋳型124に注入された溶湯106はダブテール128側やスターティングブロック130側から凝固を開始するため、引き抜き機構を利用してダブテール128および/またはスターティングブロック130を鋳型124から下方向(
図2の直線矢印参照)引き抜くことで、溶湯106が鋳型124内で凝固した部分を金属インゴット108として得ることができる。なお、スターティングブロック130は、溶湯106が凝固する際に一体化され、金属インゴット108の一部を構成してもよい。他方、金属インゴット108の鋳造後においてスターティングブロック130を切断除去しても構わない。
【0023】
任意の構成として、チャンバー112は金属インゴット108を冷却するための冷却管134を備えてもよい。冷却管134は、スターティングブロック130や得られる金属インゴット108を囲むように設けられる。鋳型124と同様、冷却管134も熱伝導率の高い銅などの金属を含むことが好ましい。冷却管134にも冷却媒体を環流させるための流路136を設けてもよい。
【0024】
電子銃142は、電子銃140とは異なり、鋳型124内の溶湯106に電子ビームを照射するように配置される。電子銃142を配置することで、溶湯106の温度を調整し、凝固速度を制御することができる。また、意図せず蒸着物(後述)が鋳型124内の溶湯に落下した場合、当該蒸着物を溶解させることにも電子銃142を使用できる。電子銃140と同様、電子銃142もフィラメントと磁石を備える。磁石の磁界を制御することで、溶湯106を含む任意の対象物に電子ビームを選択的に照射することが可能となる。
【0025】
撮像装置150としては、例えば電荷結合素子(CCD)または相補性金属酸化膜半導体(CMOS)素子を含む撮像装置などが例示される。撮像装置150は、鋳型124の上面の動画像を取得するように配置される。より具体的には、鋳型124の全体、および鋳型124内の溶湯106の動画像を取得するように配置される。撮像装置150は、さらにハース120の全体または一部、およびハース120内に形成される溶湯106の動画像を取得するように配置してもよい。よって、後述する評価領域、さらにはサブ領域を含むように撮像装置150を予め配置することもできる。また、ハース120の鋳型124側の壁面や注ぎ口も同時に撮像できるように撮像装置150を配置してもよい。これにより、金属インゴット108の製造過程において鋳型124や鋳型124内の溶湯106、ハース120、ハース120内の溶湯106などの動画像を同時に取得することができる。撮像装置150を複数用いる場合には、複数の鋳型124毎に一つの撮像装置150を用いてもよい。あるいは、一つをハース120内の溶湯、他の一つを鋳型124内の溶湯106の撮像に利用してもよく、複数の撮像装置150を交互に用いてハース120または鋳型124内の溶湯106の撮像に利用してもよい。
【0026】
撮像装置150が取得する動画像は、複数のフレーム画像によって構成される。換言すると、撮像装置150は、静止画像であるフレーム画像を連続的に取得し、得られる複数のフレーム画像によって一つの動画像が構成される。フレーム画像の取得間隔(フレーム間隔)にも制約はなく、例えば0.1秒(1秒あたりに取得されるフレーム画像数が10)以上10秒(1秒あたりに取得されるフレーム画像数が0.1)以下の範囲から適宜選択すればよい。
【0027】
図3(A)に、撮像装置150とその近傍の模式的な端面図を示す。チャンバー112の上部には開口部が形成され、可視光を透過する窓152が開口部に設けられてよい。窓152は、ガラス、石英ガラス、および鉛ガラスのうち一つまたは複数を含み、例えば石英ガラスと鉛ガラスの積層でもよい。撮像装置150は、窓152を介して鋳型124の上面の画像を取得できるように配置されてよい。
【0028】
開口部が設けられる位置は任意に設定することができる。ただし、チャンバー112内で原料104を溶解させると、金属の種類によっては一部が蒸発し、その結果、チャンバー112の内壁や天井、窓152の内側に金属が堆積することがある。特に鉛直方向で鋳型124やハース120と重なる位置は溶湯から蒸発する金属が堆積しやすい。このため、
図2に示すように、開口部を鋳型124やハース120などと鉛直方向において重ならない位置に設けることが好ましい。したがって、撮像装置150も、鋳型124やハース120と重ならないように配置され、開口部を通して鋳型124に対して斜めの方向から撮像することが好ましい(
図3(A)参照。)。すなわち、撮像装置150のレンズの光軸が鉛直方向から傾くように撮像装置150を配置することが好ましい。
【0029】
図3(A)、
図3(B)に示すように、窓152と重なる防着板154を任意の構成としてチャンバー112内に設けてもよい。防着板154はほぼ円形の形状を有する金属板である。防着板154を設けることで、金属の蒸気が窓152に付着することが抑制され、その結果、金属の堆積が防止され、窓152の透明度を長時間に亘って維持することができる。撮像装置150による鋳型124の撮像を可能にするため、防着板154に一つまたは複数の開口154aを設け、図示しないモータなどによって回転させてもよい。開口154aの形状も任意であり、開口154aと撮像装置150が重なる際に鋳型124を撮像できるように形成すればよい。例えば開口154aは円形でもよく、矩形でもよい。開口154aはスリットでもよい。開口154aを複数設ける場合、その配置は任意であり、例えば防着板154の中心に対して対称に配置すればよい。また、防着板154の回転方向に沿って等間隔に複数の開口154aを配置してもよい。撮像装置150は、開口154aが撮像装置150と重なる時にフレーム画像を取得するように構成される。
【0030】
さらに任意の構成として、防着板154とともに、あるいは防着板154に替わり、チャンバー112の内側から窓152にアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを吹き付けるためのノズル156をチャンバー112に設けてもよい(
図2)。ノズル156はチャンバー112外に設けられる不活性ガス供給源(図示しない)と接続される。原料を溶解する際、不活性ガス供給源から不活性ガスを窓152へチャンバー112の内側から供給することで、金属蒸気の窓152への付着が抑制されるため、窓152の透明度が維持される。
【0031】
サンプラー138は、金属インゴット108の鋳造時に溶湯106を定期的または任意のタイミングでサンプリングするための構成である。サンプリングされた溶湯106の組成を測定することで、得られる金属インゴット108の品質を把握しやすくなる。サンプラー138は、図示しない移動機構によって可逆的に移動するように構成することができる。サンプリングをしない待機状態では、後述する蒸着物が付着しないよう、鉛直方向で鋳型124と重ならない位置(非重畳位置)にサンプラー138を配置することが好ましい。非重畳位置では、動画像中においてもサンプラー138は溶湯106と重ならない。一方、溶湯106をサンプリングする際には、溶湯106を速やかに採取できるよう、移動機構を用いて溶湯106と重なる位置(重畳位置)までサンプラー138が移動される。重畳位置では、動画像中においてサンプラー138の一部は溶湯106と重なる。
【0032】
図示しないが、チャンバー112内に不活性ガスを導入するためのガス導入口をさらに設けてもよい。このガス導入口にも不活性ガス供給源が接続される。
【0033】
1-2.制御装置
制御装置160は通信機能と計算機能を有するコンピュータであり、ノート型、または据え置き型のコンピュータでもよく、あるいはタブレットコンピュータなどの携帯型通信端末でもよい。制御装置160は、インターネットのような外部ネットワーク、あるいはLAN(Local Area Network)などの内部ネットワークを介してチャンバー112、またはチャンバー112に設けられる構成の全て若しくは一部(例えば電子銃142や撮像装置150など)と接続してもよい。
【0034】
図1のブロック図に示すように、制御装置160には、制御装置160の動作を制御する制御部162に加え、制御部162によって制御される入力部164、出力部166、送受信部168、記憶部170、音声出力部172、入力ポート174などが設けられる。
【0035】
記憶部170には、制御装置160を動作させるための基本アプリケーションプログラムとともに、後述する金属インゴット108の製造方法を実施するためのプログラムが格納される。制御部162は中央演算ユニット(CPU)などのプロセッサを備え、記憶部170に格納される基本アプリケーションプログラムや上記プログラムを動作させて制御装置160で実行される各種処理を制御する。入力部164は制御装置160に命令や情報を入力する際に用いられるユーザインターフェースであり、典型的にはキーボードやタッチパネル、マウス、またはこれらの組み合わせが挙げられる。出力部166は記憶部170に格納された各種データを画像や印刷物として提供するものであり、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などの表示装置、あるいはプリンタなどの出力デバイスである。出力部166と入力部164の一部は一体化されてもよい。例えば、入力部164として機能するタッチパネルが搭載された表示装置を出力部166として用いてもよい。送受信部168は、ネットワークを介して溶解炉110またはそれに設けられる構成との通信を行う機能を有する。例えば送受信部168は、撮像装置150で取得された画像を受信するとともに、電子銃140、142など、チャンバー112に設けられる構成に対して信号を送信するように構成してもよい。音声出力部172は種々の音を発生するスピーカーである。入力ポート174は、撮像装置150に搭載されるまたは撮像装置150に装着されるメモリカードなどの記憶媒体と物理的に接続されることができる有線インターフェースである。制御装置160と溶解炉110が接続されない場合でも、撮像装置150または記憶媒体を入力ポート174を介して制御装置160に接続することで、取得された動画像を読み込み、記憶部170に格納することができる。
【0036】
図1のブロック図では、溶解炉110に備えられるドラムフィーダ114や排気装置116、振動フィーダ118、電子銃140と142、サンプラー138、および撮像装置150の全てが制御装置160によって制御される例が示されている。しかしながら、制御装置160はこれらの構成の全てを制御する必要は無い。例えば、制御装置160は撮像装置150のみに接続され、撮像装置150で取得された動画像のデータを受信または格納し、そのデータを処理するように構成されてもよい。この場合、他の構成、例えばドラムフィーダ114や振動フィーダ118、排気装置116、引き抜き機構(図示しない)、サンプラー138、電子銃140、142などは、制御装置160から独立した制御システムによって制御・操作すればよい。
【0037】
上述したように、溶解鋳造法による金属インゴット108の製造工程では、ハース120や鋳型124内の高温の溶湯106から金属が徐々に蒸発することがある。金属の蒸気がハース120の側壁、チャンバー112の天井や内壁などに付着すると冷却され、金属が析出・堆積する。このような堆積物は、液体状態の溶湯106と異なって固体状の金属であり、蒸着物と呼ばれる。蒸着物の堆積が進むと、蒸着物が鋳型124やハース120内の溶湯106に落下することがある。落下した蒸着物が再度溶解すれば溶湯106と均一に混ざり合うため、均一な密度や組成を有する金属インゴット108が得られる。しかしながら、蒸着物が完全に溶解しない場合、溶湯106の冷却過程において蒸着物は固体状態を維持し、蒸着物を取り込むように溶湯106が凝固する。蒸着物の密度は、溶湯106が凝固して得られる金属インゴット108の密度よりも小さい。このため、取り込まれた蒸着物は、金属インゴット108中に局所的に密度の小さい欠陥を作り出す。このような欠陥は低密度介在物(LDI:Low Density Inclusions)と呼ばれる。LDIが金属インゴット108中に存在すると、LDIは金属インゴット108の圧延後に表面疵として現れ、材料として致命的な欠陥を引き起こす。また、金属インゴット108の製造後、内部にLDIが存在するかどうかを判断するのは必ずしも容易ではない。
【0038】
以下に詳述するように、製造装置100を用いることにより、溶解鋳造法による金属インゴット108の製造工程において鋳型124に落下した蒸着物を容易にかつ速やかに検出することができる。このため、蒸着物が溶湯106内に混入しても、その挙動を速やかに追跡することができ、蒸着物による影響を確実に把握することができる。その結果、LDIを含む、または含む可能性の高い金属インゴット108を除去し、良品の金属インゴット108のみを確実に確保・提供することが可能となる。
【0039】
2.金属インゴットの製造方法
以下、製造装置100を用いる金属インゴットの製造方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0040】
2-1.原料からの溶湯の形成
まず、チャンバー112内の雰囲気を適宜調整する。例えば排気装置116を用い、チャンバー112内を減圧状態にしてもよい。チタンなどの溶解状態で高い反応性を示す金属を含む原料104を用いる場合には、チャンバー112内を0.001Pa~0.005Paの圧力に調整することが好ましい。溶解状態における反応性が低い金属を含む原料104を用いる場合には、チャンバー112内の雰囲気は空気でもよく、あるいはガス導入口から導入された不活性ガスでもよい。
【0041】
引き続き、ドラムフィーダ114から振動フィーダ118へ原料104を導入する(S100、
図2)。例えば原料104が充填されたドラムフィーダ114を用い、ドラムフィーダ114を回転させて原料104を振動フィーダ118へ落下させればよい(
図2、曲線矢印参照。)。振動フィーダ118には図示しない振動装置が設けられ、振動フィーダの振動により原料104がハース120側へ移動し、最終的にハース120内に供給される。
【0042】
この後、一つまたは複数の電子銃140を用い、原料104に電子ビームが照射されるよう、電子ビームをハース120上で走査する。これにより、原料104に含まれる金属が溶解し、溶湯106が形成される(S102)。溶湯106が一定量貯まるとハース120の注ぎ口から溶湯106が流出し、鋳型124へ注入される(S104)。鋳型124への溶湯106の供給速度は、原料104の供給量と電子ビームの強度を適宜制御することで調節することができる。なお、溶湯106を鋳型124に注入する前に鋳型124の底部には予めダブテール128を配置してもよい。あるいは、ダブテール128とその上に形成されたスターティングブロック130を配置してもよく(
図2参照)、ダブテール128に替わってスターティングブロック130のみを単独で配置してもよい。スターティングブロック130が配置される場合、溶湯106は凝固する際にスターティングブロック130と一体化し金属インゴット108が形成される。
【0043】
鋳型124に供給された溶湯106の表面にも電子銃142から射出される電子ビームを走査してもよい。電子銃142からの電子ビームの強度や走査速度を適宜制御することで、凝固速度を調節することができる。
【0044】
溶湯106の注入後、ダブテール128および/またはスターティングブロック130を下方向にスライドさせて鋳型124から金属インゴット108を引き出す。引出速度は、例えば0.5t/hから4t/hの範囲から適宜設定すればよい。これにより、金属インゴット108を得ることができる。
【0045】
2-2.一次処理と二次処理
引き続き、撮像装置150を用いて取得される鋳型124の動画像を用いて一次処理(S110)と二次処理(S130)が実行される。以下に詳述する様に、一次処理は、鋳型124内の溶湯106に落下した蒸着物(溶湯内落下蒸着物であり、以下、溶湯内蒸着物と記す)と溶湯106を識別することで溶湯内蒸着物を検出するための処理である。
【0046】
一方、二次処理は、溶湯106外に存在する蒸着物(以下、溶湯外蒸着物)およびサンプラー138の像を排除するための処理である。溶湯外蒸着物とは、チャンバー112の天井や防着板154、窓152などに金属が堆積し、堆積した金属が鋳型124内の溶湯106と撮像装置150の間まで垂れ下がり、撮像装置150の視野において溶湯106と重なる蒸着物である。このため、溶湯外蒸着物は動画像に映り込む。このような溶湯外蒸着物は溶湯106内には存在しないため、LDIを形成せず、金属インゴット108の品質に影響を与えない。しかしながら、動画像に映り込むため、溶湯内蒸着物として誤検出されることがある。サンプラー138も金属インゴット108の品質に影響を与えないが、溶湯内蒸着物と同様に暗い領域として動画像に映り込むため、誤検出の原因となる。実施例でも示されるように、一次処理と二次処理を実行することで誤検出が効果的に防止され、溶湯106、溶湯内蒸着物、溶湯外蒸着物、およびサンプラー138を自動識別することができる。なお、溶解炉110にサンプラー138が設けられない場合には、二次処理は溶湯外蒸着物に起因する誤検出を防止するための処理と言える。以下、一次処理後に二次処理を行う例を主に説明するが、一次処理と二次処理の順序に制約はなく、いずれを先に行ってもよい。
【0047】
(1)一次処理
ア 動画像の取得
一次処理のフローチャートを
図5に示す。まず、蒸着物の検出のため、鋳型124の動画像を撮像装置150を用いて取得する。上述したように、好ましくは、撮像装置150は、鉛直方向においてハース120や鋳型124とは重ならず、溶湯106の表面に対して斜めの方向から撮像できるように予め配置される(
図2、
図3(A)参照)。このとき、
図6(A)に示すように、鋳型124の内壁の上面視形状が矩形である場合、撮像装置150は、そのレンズの光軸が鋳型124の短辺方向と交差または直交するように配置してもよく、あるいは
図6(B)に示すように、鋳型124の長手方向と交差または直交するように配置してもよい。撮像装置150は、少なくとも鋳型124と溶湯106の表面の全体の動画像が取得できるように配置され、好ましくはさらにハース120の注ぎ口120aおよび/または鋳型124側の側壁120bが動画像に含まれるように配置する(
図6(A)、
図6(B)参照。)。なお、チャンバー112に鋳型124が複数配置される場合には、各鋳型124に対応する撮像装置150を用いてもよく、あるいは複数の鋳型124を一つの撮像装置150を用いて動画像を取得してもよい。
【0048】
上述したように、動画像は、連続的に取得された静止画像である複数のフレーム画像によって構成される。各フレーム画像は、複数の列と複数の行で構成されるマトリクス形状に配置されるデータポイントのそれぞれの座標と階調データの組み合わせの集合として取得される。各データポイントは、最も暗い第0階調から最も明るい第255階調の合計256の階調から選択される階調として表現される。なお、この画像を表示装置のディスプレイ上で表示する場合には、各データポイントは画素に対応し、その階調が輝度として表現される。すなわち、256段階の異なる輝度を与える画素の集合体として鋳型124や溶湯106の画像がディスプレイ上で視認される。
【0049】
ここで、動画像を取得する前に、撮像装置150の絞りや減光フィルタ(NDフィルタ)などを用いてフレーム画像の明るさ調整を行う(S112)。具体的には、各フレーム画像において、溶湯106に対応するデータポイントの平均階調が一定の範囲内の階調(基準階調)となるように明るさ調整を行う。基準階調は、例えば第120階調から第200階調、あるいは第140階調から第180階調の範囲から適宜選択すればよい。上述したように、溶解鋳造法では、溶湯106から金属の蒸気が発生して堆積し、蒸着物を形成するが、蒸着物が撮像用の窓152に付着して窓152が曇ると、窓152を通過する光量が徐々に低下する。このため、動画像の階調が全体として徐々に低下し、画質が低下することがある。また、後述するように、フレーム画像において蒸着物は溶湯106と比較して低階調の領域として表現される。このため、フレーム画像の取得前に明るさ調整を行って溶湯106に対応するデータポイントの階調を一定レベル以上に確保することで、フレーム画像の品質の低下を防ぎ、蒸着物を階調の低いデータポイントの集合としてより確実に検出することができる。明るさ調整は、各フレーム画像を取得する都度行ってもよく、複数のフレーム画像ごとに行ってもよい。あるいは、一定時間ごとに明るさ調整を行ってもよい。また、平均階調として、後述する評価領域に対応するデータポイントの階調の平均を採用してもよい。さらに、蒸着物がない状態で階調の平均を取得してもよい。
【0050】
明るさ調整を行った後、動画像を取得する(S114)。動画像は、制御装置160の送受信部168を介して記憶部170に恒久的にまたは一時的に格納される。動画像の取得は任意のタイミングで開始でき、例えば、電子銃142からの電子ビームの照射を開始した後に開始してもよく、鋳型124内に溶湯106が形成された後に開始してもよく、あるいはダブテール128および/またはスターティングブロック130の鋳型124からの引き抜きを開始した後に開始してもよい。また、ハレーションを防ぐため、各フレーム画像を取得する際には、電子銃142からの電子ビームの照射を一時的に停止してもよい。
【0051】
なお、上述した撮像装置150の配置、フレーム画像の明るさ調整、鋳型124内の溶湯106の形成などは任意の順序にて実施すればよい。よって、
図5に示したフローチャート以外の順序にて動画像を取得してもよい。例えば、撮像装置150を所定位置に配置し、鋳型124内に溶湯106を形成し、明るさ調整を行い、フレーム画像の取得を開始し、インゴットの引き抜きを開始する、という順序を適用してもよい。
【0052】
イ 溶湯と溶湯内蒸着物の識別
引き続き、各フレーム画像を処理し、溶湯106と溶湯内蒸着物を識別する。
【0053】
(ア)評価領域の選択
まず、各フレーム画像において評価領域を選択する(S116)。評価領域の選択は適宜実行可能であり、例えばオペレータが行ってよいし、また例えば制御装置160と撮像装置150との位置関係に応じて予め設定した範囲を評価領域として選択してもよい。上述したように、溶解鋳造法では鋳型124内の溶湯106から蒸気が発生して蒸着物が生成するが、蒸気の一部は鋳型124の内壁や上面にも堆積し、
図7中の拡大図に示すように、比較的小さな金属の塊182を形成することがある。また、鋳型124内の溶湯106に照射される電子ビームによって溶湯106の一部が弾き飛ばされて鋳型124の上面や内壁に付着・凝固することでも金属の塊182が形成されることもある。このような小さな金属の塊182は、鋳付きと呼ばれ、蒸着物とは区別される。鋳付きを検出せずに溶湯内蒸着物180を選択的に検出するため、鋳付きが発生し得る領域を排除することで評価領域を選択することが好ましい。例えば、
図8(A)に示すように、溶湯106が表示される領域のうち、鋳型124の内壁から一定の距離d以上離れた領域を評価領域184として選択する。距離dは、例えば10mm以上30mm以下の範囲から選択すればよい。あるいは、溶湯106を中心とし、溶湯106の面積の70%以上90%以下の面積を有する領域を評価領域184としてもよい。このように評価領域184を選択することで、鋳付きに起因する検出ノイズを排除することができる。なお、撮像装置150は固定した状態で動画像を取得することが多いので、実質的な評価領域の選択は撮像装置150の配置とともに行われうる。
【0054】
(イ)溶湯内蒸着物の検出とフレーム画像の特定
その後、
図8(B)に模式的に示すように、評価領域184を構成するデータポイント(以下、評価領域データポイントDPと記す。)の各階調を算出し、その中から一定の階調(以下、第1の閾値階調)以下のデータポイントDP
2を抽出する。第1の閾値階調は、上述した平均階調よりも低い階調から適宜選択され、例えば第40階調以下、または第70階調以下の範囲から選択すればよい。第1の閾値階調の下限値は、例えば第0階調でもよく、第10階調でもよい。溶湯内蒸着物180は目視でも溶湯106に対して明らかに暗く認識され、動画像においても溶湯内蒸着物180は溶湯106と比較して極めて暗い領域として表現される。このため、第1の閾値階調を超えるデータポイントDP
1、および第1の閾値階調以下の低階調領域を構成するデータポイントDP
2は、それぞれ溶湯106と溶湯内蒸着物180を構成するデータポイントであると判断することができる。また、上述した平均階調と第1の閾値階調をある程度の差をもって設定することで誤検出(ノイズ)を低減できる。
【0055】
次に、各フレーム画像の評価領域184において、低階調領域の面積が一定の大きさ以上であるかどうかを判断する(S120)。具体的には、評価領域データポイントDPの数に対するデータポイントDP2の数の比を計算し、この比が一定の閾値(以下、第1の面積閾値)以上である場合、溶湯内蒸着物180が検出されたと判断する。第1の面積閾値は、例えば0.0005以上1以下の範囲から選択すればよい。上述した範囲で第1の面積閾値を設定することで、撮像時のエラーに起因する低階調領域や、溶湯106に速やかに溶解し得る程度に非常に小さい溶湯内蒸着物180や鋳型124から遊離した鋳付きなどを排除することができる。すなわち、誤検出や過剰検出を防止するとともに、溶湯106と溶湯内蒸着物180を正確に識別し、追跡すべき溶湯内蒸着物180を選択的にかつ確実に検出することができる。
【0056】
各フレーム画像において、上記比が第1の面積閾値以上である場合には、追跡すべき溶湯内蒸着物180が存在していることが示唆される。この場合、そのフレーム画像を特定する(S122)。特定方法に限定は無く、例えば、一つの動画像に含まれる全てのフレーム画像に対して順にフレーム番号を付与し、上記比が第1の面積閾値以上である場合に該当するフレーム番号を記憶部170に格納すればよい。このとき、同時に音声出力部172から警告音を発してもよく、出力部166を構成する表示装置上にアラートを表示してもよい。さらに、第1の閾値階調以下のデータポイントDP2を囲む図形を表示装置上に表示してもよい。
【0057】
溶湯内蒸着物180の有無の判断を行った後、鋳造が終了していない場合には、例えば引き続きS112からS122の工程を繰り返す。S112からS122の工程を繰り返す際、明るさ調整(S112)は毎回実施する必要は無い。明るさ調整は随時行ってもよく、あるいは、鋳造が終了するまで明るさ調整を再度行わなくてもよい。鋳造が終了したときまでに取得された複数のフレーム画像によって一つの動画像が構成される。なお、鋳造終了までの動画像を取得し、その後、取得した動画像の複数のフレーム画像に対して溶湯内蒸着物180の有無の判断(工程S120、S122)を行ってもよく、あるいは、動画像の取得と平行して溶湯内蒸着物180の有無の判断を行ってもよい。鋳造終了後に溶湯内蒸着物180の有無の判断を行う場合には、溶湯106に対応するデータポイントの平均階調を維持するために、鋳造工程中に明るさの調整(S112)を適宜実施することが好ましい。
【0058】
(ウ)評価領域の分割
一次処理では、任意の工程として、評価領域184を複数の領域(サブ領域)に分割し、サブ領域ごとに溶湯内蒸着物180と溶湯106の識別を行ってもよい(
図5、S118)。分割方法に制約はない。例えば、
図9(A)や
図9(B)に示すように、複数のサブ領域(ここでは四つのサブ領域184-1から184-4)が鋳型124の長手方向または長手方向に垂直な方向に整列するように評価領域184を分割してもよい。また、サブ領域の面積や形状は互いに同一でもよく、あるいは
図10(A)に示すように、少なくとも一つのサブ領域(ここではサブ領域184-3)の面積または形状が他のサブ領域(ここではサブ領域184-1、184-2)の面積または形状と異なるように評価領域184を分割してもよい。さらに、
図10(B)に示すように、少なくとも二つのサブ領域が互いに部分的に重なるように評価領域184を分割してもよい。
図10(B)に示す例では、サブ領域184-1から184-3が互いに部分的に重なっている。
【0059】
評価領域184を複数のサブ領域に分割し、各サブ領域で溶湯内蒸着物180と溶湯106の識別を行うことで、誤検出範囲を狭めることが可能となる。すなわち、誤検出が継続するサブ領域以外のサブ領域では、継続して蒸着物の落下の有無を監視できる。
【0060】
さらに本製造方法では、撮像方向の傾きを考慮し、評価領域データポイントDPの数に対するデータポイントDP
2の数の比の計算において補正を行ってもよい。上述したように、溶解鋳造時における金属蒸気の堆積の影響を軽減にするため、動画像の取得のための窓152や撮像装置150は、鉛直方向においてハース120や鋳型124と重ならないように設けられることが好ましい。このため、鋳型124に対して斜めの方向から動画像が取得される。動画像では、撮像装置150に近い位置に存在する物体は、遠方に存在する物体と比較して大きく映し出されるので、
図11に模式的に示すように、完全に同一の形状と面積を有する溶湯内蒸着物180が存在する場合でも、撮像装置150から遠い位置(水平方向において遠い位置)にある溶湯内蒸着物180に対応するデータポイントDP
2は、撮像装置150に近い位置(水平方向において近い位置)にある溶湯内蒸着物180に対応するデータポイントDP
2と比較して少なくなる。その結果、撮像装置150の鋳型124までの距離や撮像方向によっては、撮像装置150からの距離が溶湯内蒸着物180の検出に大きな影響を与える。
【0061】
このような影響を排除してより高精度で溶湯内蒸着物180を検出するため、撮像装置150からの距離に応じて第1の面積閾値に対する補正を行ってもよい。例えば、撮像装置150からの距離が増大するに従って第1の面積閾値を低減すればよい。より具体的には、評価領域184の分割を行う場合には、サブ領域ごとに補正を行ってもよい。例えば、
図10(B)に示すように評価領域184を三つのサブ領域184-1から184-3に分割し、サブ領域184-3が撮像装置150に最も近い場合、サブ領域184-3に最も大きな第1の面積閾値を設定し、サブ領域184-1と184-2に対し、互いに同一であり、かつ、サブ領域184-3の面積閾値よりも小さい第1の面積閾値を設定してもよい。また、各サブ領域でも撮像装置150からの距離が増大するに従って第1の面積閾値を低減させてもよい。また、一つの撮像装置150で複数の鋳型124の動画像を取得する場合や、撮像装置150を鋳型124の長手方向と交差または直交するように配置する場合には、動画像の奥行き方向だけでなく、左右の方向においても第1の面積閾値を変化させてもよい。
【0062】
以上の工程により、一次処理が終了する。
【0063】
(2)二次処理
上述したように、溶湯外蒸着物は、多くの場合、チャンバー112の天井などに堆積した蒸着物が垂れ下がり、
図12に模式的に示すように、撮像装置150の視野(
図12の鎖線)に侵入する。この溶湯外蒸着物190が溶湯106と重なると、高輝度の溶湯106中に大きな低輝度領域として観察される。さらに、サンプラー138が溶湯106をサンプリングする際に撮像装置150の視野において溶湯106と重なっても、高輝度の溶湯106中に大きな低輝度領域138aとしてサンプラー138が観察される。これらの溶湯外蒸着物190やサンプラー138の像はLDIの発生とは無関係であるため、一次処理における溶湯外蒸着物190やサンプラー138の検出は誤検出と言える。誤検出が頻繁に生じると、追跡が必要なフレーム画像が増大してしまう。そこで、溶湯外蒸着物190とサンプラー138の影響を排除するための処理として二次処理を行う。
【0064】
(ア)明るさ調整
二次処理のフローチャートを
図13に示す。まず、一次処理と同様、フレーム画像の明るさ調整を行う(S132)。この時の基準階調は、一次処理と同じでもよく、異なってもよい。例えば、基準階調は一次処理のそれよりも低い階調に設定してもよい。なお、この明るさ調整は任意の工程であり、省略してもよい。
【0065】
(イ)検証領域の設定
溶湯外蒸着物190は、通常、撮像装置150の視野の上部に出現する。また、サンプラー138は、各フレーム画像の特定の位置に出現する。このため、評価領域184内の溶湯外蒸着物190やサンプラー138が映り込む位置に検証領域を設定する(S134)。溶湯外蒸着物190の出現位置は合理的に予想することができ、また、サンプラー138が映り込む位置も分かっているため、この検証領域は、一次処理で評価領域184を分割するか否かに関係なく、評価領域184に基づいて設定すればよい。具体的には、
図14に示すように、評価領域184のうち撮像装置150の視野の上側に位置する一部を、溶湯外蒸着物190を検出するための検証領域(以下、第1の検証領域)192として設定する。第1の検証領域192の形状は四角形に限られず、多角形や楕円など、任意の形状を採用してもよい。第1の検証領域192は、その最大長(撮像装置150の視野における上下方向の最大長)L
2が評価領域184の長さL
1の1%以上20%以下になるように設定すればよい。第1の検証領域192の上端と評価領域184の上端は接してもよく、互いに離隔してもよい。また、第1の検証領域192の長さL
2は、例えば評価領域の上端から第1の検証領域192の下端までの距離D
1の50%以上100%以下とすればよい。第1の検証領域192の最大幅(撮像装置150の視野における水平方向の最大長)W
2は、評価領域184の幅W
1の50%以上100%以下とすればよい。第1の検証領域192は、幅方向において評価領域184の中央に設定することが好ましい。
【0066】
一方、第2の検証領域194は、サンプラー138が重畳位置にある時に動画像中でサンプラー138と評価領域184が重なる領域を含む領域である。第2の検証領域194の形状も任意に選択すればよく、四角形などの多角形、円、楕円などでもよい。第2の検証領域194は、サンプラー138と評価領域184が動画像中で重なる領域の全体または一部を含むように設定される。例えば、サンプラー138が合(ごう)と柄(え)を有する場合、サンプラー138が重畳位置まで移動したときにサンプラー138の合と柄のいずれか一方が重なるように第2の検証領域194を設定してもよい(
図14参照)。サンプラー138の移動態様は事前に分かっていることが多いので、サンプラー138の移動態様を鑑みて第2の検証領域194を適宜設定可能である。例えば、
図14で示す実施形態では、サンプラー138は、評価領域184の長さ方向のほぼ中央において、評価領域184の右側から評価領域184内に進入し、その後同じルートで評価領域184内から出ていくので、この移動態様に鑑みてサンプラー138の柄が映り込むように第2の検証領域194を規定している。
【0067】
次に、一次処理と同様に、第1の検証領域192と第2の検証領域194において低階調領域を抽出し、その大きさを判断する(S138)。すなわち、第1の検証領域192においてデータポイントの各階調を算出し、一定の階調(以下、第2の閾値階調)以下のデータポイントを抽出する。同様に、第2の検証領域194においてデータポイントの各階調を算出し、一定の階調(以下、第3の閾値階調)以下のデータポイントを抽出する。第2の閾値階調と第3の閾値階調は同一でもよく、異なってもよい。例えば、第2の閾値階調と第3の閾値階調は、それぞれ独立に、第60階調以下、第70階調以下、または第90階調以下の範囲から選択すればよい。第2の閾値階調と第3の閾値階調の下限値は、例えば第0階調でもよく、第10階調でもよい。
【0068】
引き続き、各フレーム画像の第1の検証領域192において、低階調領域の面積が一定の大きさ以上であるかどうかを判断する。具体的には、第1の検証領域192のデータポイントの数に対する低階調領域のデータポイントの数を計算し、この比が一定の閾値(以下、第2の面積閾値)以上である場合、溶湯外蒸着物190が検出されたと判断する。換言すると、この低階調領域は、溶湯内蒸着物180ではないと判断する。第2の面積閾値は、例えば0.05以上の範囲から選択すればよい。
【0069】
同様の判断を各フレーム画像の第2の検証領域194においても行う。具体的には、第2の検証領域194のデータポイントの数に対する低階調領域のデータポイントの数を計算し、この比が一定の閾値(以下、第3の面積閾値)以上である場合、サンプラー138が検出されたと判断する。すなわち、この低階調領域は、溶湯内蒸着物180や溶湯外蒸着物190ではなく、サンプラー138が一時的に出現した領域である判断する。第3の面積閾値は、例えば上述したサンプラー138の柄が映り込む実施形態の場合、柄の太さと第2の検証領域の面積との関係に基づき適宜設定すればよい。第3の面積閾値は、第2の面積閾値と同一でも異なってもよく、例えば0.10以上の範囲から選択すればよい。また、第2の面積閾値と第3の面積閾値は、それぞれ第1の面積閾値と同一でも異なってもよい。
【0070】
各フレーム画像において、第1の検証領域192と第2の検証領域194の少なくとも一方にそれぞれ第2の面積閾値と第3の面積閾値以上の低輝度領域が存在すると判断された場合、当該フレーム画像を特定する。ただし、この判断は、必ずしも動画像を構成する全てのフレーム画像に対して行う必要は無い。例えば一次処理の後に二次処理を行う場合には、一次処理において溶湯内蒸着物180が検出されたとして特定されたフレーム画像について選択的に二次処理を行う。そして、二次処理において溶湯外蒸着物190またはサンプラー138が検出されたと判断された場合には、一次処理において特定されたフレーム画像からその特定を解除すればよい(S140)。これにより、一次処理で溶湯内蒸着物180として一旦は検出されたものの、実際には溶湯外蒸着物190またはサンプラー138として誤検出されたフレーム画像を効率よく排除することができる。逆に、二次処理の後に一次処理を行う場合には、二次処理で特定されたフレーム画像を排除し、残りのフレーム画像に対して一次処理を行えばよい。これにより、一次処理では誤検出を招く可能性のあるフレーム画像を予め排除した状態で一次処理を行うことができ、溶湯内蒸着物180が検出されたフレーム画像を正確に短時間で抽出することができる。
【0071】
(ウ)サンプラー形状に基づく判断
二次処理では、さらに、サンプラー138の形状を利用してサンプラー138が映り込んだフレーム画像を特定してもよい。具体的には、重畳位置にあるサンプラー138が動画像中で溶湯106と重なる領域の形状を基準形状として制御装置160に登録する(S136)。基準形状は、例えば楕円や円、多角形、またはこれらの組み合わせである。この工程は、明るさ調整(S132)の前、あるいは検証領域の設定(S134)前に行ってもよい。
【0072】
次に、各フレーム画像において、例えば評価領域184または第2の検証領域194中の第3の閾値階調以下である低輝度領域がサンプラー138に起因するか否かを判断する。例えば、画像相関法を利用して低輝度領域の形状の基準形状に対する相関値を算出する。そして、相関値が一定の値(相関閾値)以上であれば、当該低輝度領域は溶湯内蒸着物180ではなく、サンプラー138に起因する低輝度領域であると判断し(S142)、このフレーム画像を特定する。逆に、相関値が相関閾値よりも低い場合には、当該低輝度領域は溶湯内蒸着物180であると判断する。相関閾値は、0.80以上1以下に設定すればよい。
【0073】
サンプラー形状に基づく判断も、全てのフレーム画像について行ってもよく、あるいは、一次処理の後に二次処理を行う場合であれば、一次処理で特定されたフレーム画像に対してのみ行ってもよい。後者の場合、低輝度領域がサンプラー138の影響によって出現したと判断されば、一次処理で特定されたフレームの当該特定を解除すればよい(S144)。逆に、二次処理後に一次処理を行う場合には、サンプラー形状に基づく判断によってサンプラー138を検出したフレーム画像を排除し、残存するフレーム画像について一次処理を行えばよい。
【0074】
(3)鋳造工程の検証
次に、鋳造工程を検証する(
図4、S150)。この検証工程は、鋳造中に動画像に対して一次処理と二次処理を行ってフレーム画像が特定された時点で行ってもよく、あるいは、鋳造が終了した後の一次処理と二次処理でフレーム画像が特定された時点で行ってもよい。また、鋳造中に動画像に対して一次処理を実施し、鋳造が終了した後に二次処理を行ってフレーム画像が特定された時点で行ってもよい。
【0075】
金属インゴット108の鋳造時に取得された一つの動画像中に溶湯内蒸着物180が含まれているとして特定されたフレーム画像が存在しない場合には、鋳型124内の溶湯106の表面に蒸着物が発生していない、または発生していても金属インゴット108の品質に大きな影響を及ぼさない程度に無視できると判断する。具体的には、一次処理によって特定されたフレーム画像が無い、一次処理によって特定された全てのフレーム画像の特定が二次処理によって解除された、あるいは、二次処理によって特定されなかった(すなわち、二次処理によって排除されず残存した)フレーム画像に対する一次処理によって特定されたフレーム画像が無い場合、このような判断がなされる。
【0076】
一方、一つの動画像中に溶湯内蒸着物180が含まれているとして特定されたフレーム画像が一つ以上存在する場合には、特定されたフレーム画像以降の動画像を解析し、溶湯内蒸着物180の挙動を追跡することで鋳造工程を検証する。具体的には、一次処理によって特定されたフレーム画像の一つまたは複数が二次処理によってもその特定が解除されていない、あるいは、二次処理によって排除されずに残存したフレーム画像に対する一次処理によって特定されたフレーム画像が一つ以上存在する場合、特定されたフレーム画像以降の動画像を目視観察することで溶湯内蒸着物180の挙動を追跡する。その結果、溶湯内蒸着物180が溶湯106内で完全に溶解したことが確認されれば、その溶湯内蒸着物180は、得られた金属インゴット108の品質に大きな影響を及ぼさない程度に無視できると判断する。あるいは、溶湯内蒸着物180が溶湯106に混入せず、鋳造終了まで鋳型124やハース120などの溶解炉110の構成部材に付着した状態を維持していることが確認された場合にも、その溶湯内蒸着物180は金属インゴット108に取り込まれていないと判断することができる。
【0077】
しかしながら、溶湯内蒸着物180が溶湯106内で完全に溶解せず、溶湯内蒸着物180が固体状態を維持した状態で溶湯106に取り込まれながら溶湯106が凝固したと認定された場合には、得られる金属インゴット108にはLDIが含まれる可能性が高いと判断する。この場合、得られる金属インゴット108を出荷対象から除外する、原料104として再利用するなどの処置を行えばよい。
【0078】
従来、溶解鋳造法による金属インゴットの製造においては、その製造工程中に亘って鋳型を目視で観察することで蒸着物の有無を確認していた。しかしながら、蒸着物が落下するタイミングや位置、蒸着物の大きさを事前に精確に予想することは不可能である。また、蒸着物の大きさや密度、溶湯の温度によって蒸着物の溶解速度や溶湯中への沈降速度が大きく異なる。このため、目視による検出は作業者の負荷が大きいのみならず、蒸着物の溶湯への落下を見落とすおそれがあり、より高精度の検出手法が望まれていた。
【0079】
これに対し、本発明の実施形態の一つに係る製造方法により、溶解鋳造法による金属インゴット108の製造工程において誤検出を効果的に抑制し、鋳型124中の溶湯106、溶湯内蒸着物180、溶湯外蒸着物190、およびサンプラー138を正確に識別することできる。このため、金属インゴット108の品質を維持するために追跡すべき溶湯内蒸着物180を選択的にかつ正確に検出することができる。さらに、検出された溶湯内蒸着物180だけを追跡することで、金属インゴットに対する適切な処置を選択することができるので、本製造方法を適用することで、高品質の金属インゴット108を効率よく提供することができる。
【0080】
3.プログラム
本発明の実施形態の一つに係る製造方法は、上述した製造装置100、およびその制御装置160に搭載されるプログラムによって実施することができる。よって、本発明に係る実施形態の一つは、溶解鋳造法によって金属インゴットを製造するため上記S100からS150の工程の一部または全てを制御装置160に実行させるためのプログラムである。
【0081】
また、このプログラムが記録されたコンピュータ可読記録媒体も本発明に係る実施形態の一つである。コンピュータ可読記録媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、および磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM、DVDのような光媒体、フロプティカルディスク(floptical disk)のような光磁気媒体、およびROM、RAM、フラッシュメモリなどのような、当該プログラムを格納して実行するように構成されたハードウェア装置が含まれる。当該プログラムは、コンパイラによって生成されるもののような機械語コードだけではなく、インタプリタなどを使用してサーバによって実行される高級言語コードを含む。当該プログラムは、コンピュータ可読媒体から記憶部170にインストールされる。なお、当該プログラムは、ネットワークから記憶部170にダウンロード可能であってもよい。
【実施例0082】
1.実施例1
本実施例では、本発明の実施形態の一つに係る製造方法を適用してチタンインゴットを製造した結果について述べる。
【0083】
溶解炉として、
図2に模式的に示された構成を備える溶解炉110を用いた。振動フィーダ118を介してドラムフィーダ114からスポンジチタンを含む金属片をハース120に連続的に供給し、ハース120上に配置された電子銃140(アルデンヌ社製、型式EH-800V)から電子ビームを照射して溶湯106を形成した。内壁の水平断面が長方形(縦1100mm×横250mm)を有し、一つの短辺がハース120の下に配置された鋳型124に溶湯106を注入した。その後、鋳型124上に配置した電子銃142(アルデンヌ社製、型式EH-800V)を用いて溶湯106に対する電子ビーム照射を開始した。その後、ダブテール128を降下させた。
【0084】
上記操作の間、上述したS100からS130に至る一連の工程を反復実施した。撮像装置150(キーエンス社製CMOSカメラ、型式CA-H500C)は、
図2に示すように、鋳型124と鉛直方向において重ならないように配置し、ハース120に対して反対側の鋳型124の短辺側から撮像を行った(
図6(A)参照。)。画像の取得は、防着板154を回転させながら窓152を介して行った。動画像は、1秒あたり10のフレーム画像を取得することで得た。
【0085】
工程S112の明るさ調整は、鋳型124内の溶湯106の平均階調が140から180の範囲となるように行った。得られた動画像の各フレーム画像のうち、鋳型124の内壁から10mm以内の領域を除外し、残りの領域を評価領域184として設定した。さらに、
図10(B)に示すように評価領域184を三つのサブ領域184-1から184-3に分割し、動画像の評価を行った。
図15に示すように、サブ領域184-3はハース120の反対側であり、撮像装置150に最も近い位置の領域である。サブ領域184-3の幅wは230mmであり、長さl
3は650mmであった。サブ領域184-1は、ハース120側に位置し、かつ、一方の長辺側に位置する。これに対し、サブ領域184-2は、ハース120側に位置し、かつ、他方の長辺側に位置する。サブ領域184-1、184-2の幅w
1、w
2はいずれも140mmであり、長さl
1、l
2はいずれも550mmであった。
図15から理解されるように、三つのサブ領域184-1から184-3は互いに部分的に重なり合う。
【0086】
一次処理の明るさ調整(S112)は、基準階調が第140階調以上第180階調の間に収まるように行なった。二次処理においては、明るさ調整(S132)は行わなかった。溶湯内蒸着物180、溶湯外蒸着物190、およびサンプラー138の有無を判断するための閾値階調(第1から第3の閾値階調)は、いずれも第60階調に設定した。工程S120における第1の面積閾値は、各サブ領域で長さ50mm四方のサイズに相当する溶湯内蒸着物180が検出できるように設定した。具体的には、サブ領域184-1から184-3の面積閾値をそれぞれ0.017、0.016、0.013に設定した。第2の面積閾値と第3の面積閾値は、それぞれ0.05、0.16に設定した。
【0087】
第1の検証領域192と第2の検証領域194は、
図14に示すように設定した。具体的には、最大幅W
2が22cm、最大長さL
2が5cmの四角形の第1の検証領域192を設定した。距離D
1は5cmとした。一方、四角形の第2の検証領域194の最大幅と最大長さはそれぞれ2cm、15cmとし、第2の検証領域194の右端と評価領域184の右端までの距離は0.4cmとした。また、サンプラー138の基準形状の登録を行い、相関閾値を0.80とし、低階調領域の形状から低階調領域がサンプラー138に起因するか否かを判断した。
【0088】
上記条件下で複数のチタンインゴットを製造した。鋳造中に取得された動画像を用いて上述した一次処理と二次処理を順に行い、一次処理で特定されたフレーム画像であり、かつ、二次処理によって特定が解除されなかったフレーム画像を抽出した。これらのフレーム画像とそれに引き続く複数のフレーム画像を解析し、溶湯内蒸着物180の挙動を追跡した。その結果、溶湯106内で溶解せずに残存した溶湯内蒸着物180が混入したと判断されたチタンインゴットの割合は0.3%であった。各チタンインゴットにおいてこの判断に要する時間は、約1分から5分であった。これらの工程を全て目視観察で行う場合、鋳造工程全般に亘って常に目視観察が必要になることを考慮すると、本発明の実施形態を適用することで、人的資源の大幅な節約ができ、さらに、高品質のチタンインゴットを選択的に、かつ、高効率で製造できることが分かる。
【0089】
2.実施例2
二次処理を行うことで溶湯外蒸着物190を特定可能であることを示すため、溶湯外蒸着物190が映り込むように取得された動画像に対して上述した二次処理を行った。なお、本実施例の二次処理では、基準形状を利用するサンプラー138の検出は行わなかった。その結果、動画像に含まれるフレーム画像の全てにおいて溶湯外蒸着物190を検出することができた。この結果から、本発明の実施形態を適用することで、溶湯106、溶湯内蒸着物180、および溶湯外蒸着物190を識別できることが確認された。
【0090】
3.実施例3
本実施例では、サンプラー138に起因する低輝度領域を含むフレーム画像を二次処理によって正確に特定できることを確認した。
【0091】
サンプラー138が映り込んだフレーム画像60枚を準備し、これに対し、二次処理を行った。まず、基準形状の登録を行わず、第2の検証領域194を実施例1と同様に設定し、低階調領域(階調が第60階調以下の領域)の面積が第3の面積閾値(0.16)以上であるか否かを判断した。その結果、59枚(98%)のフレーム画像が二次処理によって特定された。すなわち、98%の確率でサンプラー138を検出することができた。
【0092】
一方、第2の検証領域194を設けず、サンプラー138の基準形状の登録を行い、相関閾値を0.80とし、低階調領域の形状から低階調領域がサンプラー138に起因するか否かを判断した。形状判断は、株式会社キーエンス製画像処理システムXG-X2500を用いて行なった。その結果、55枚(92%)のフレーム画像が二次処理によって特定された。すなわち、92%の確率でサンプラー138を検出することができた。
【0093】
さらに、実施例1と同様に第2の検証領域194を設定して検出された低階調領域に基づく判断、およびサンプラー138の基準形状を利用する判断を同時に行った場合、全て(100%)のフレーム画像が二次処理によって特定された。すなわち、100%の確率でサンプラー138を検出することができた。このことから、本発明の実施形態を適用することで、溶湯106、溶湯内蒸着物180、溶湯外蒸着物190、およびサンプラー138を正確に識別できることが確認された。
【0094】
このように、本発明の実施形態に係る製造方法を適用することで、長時間にわたる鋳造工程において鋳型124の画像を目視で観察し続ける必要は無く、溶湯内蒸着物180が検出されたフレーム画像以降の動画像を解析することで、誤検知を抑制しつつ蒸着物の挙動を確実に把握することができる。このため、本製造方法により、金属インゴットの品質管理において要求される人的資源を有効に活用することが可能となる。
【0095】
本発明の実施形態として上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
100:製造装置、104:原料、106:溶湯、108:金属インゴット、110:溶解炉、112:チャンバー、114:ドラムフィーダ、116:排気装置、118:振動フィーダ、120:ハース、120a:注ぎ口、120b:側壁、122:スカル、124:鋳型、126:流路、128:ダブテール、130:スターティングブロック、134:冷却管、136:流路、138:サンプラー、138a:低輝度領域、140:電子銃、142:電子銃、150:撮像装置、152:窓、154:防着板、154a:開口、156:ノズル、160:制御装置、162:制御部、164:入力部、166:出力部、168:送受信部、170:記憶部、172:音声出力部、174:入力ポート、180:溶湯内蒸着物、182:金属の塊、184:評価領域、184-1:サブ領域、184-2:サブ領域、184-3:サブ領域、184-4:サブ領域、190:溶湯外蒸着物、192:第1の検証領域、194:第2の検証領域