(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172057
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D07B 9/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
D07B9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089489
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 玄
(72)【発明者】
【氏名】難波江 裕之
(72)【発明者】
【氏名】定近 晋也
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153BB01
3B153CC13
3B153CC21
3B153CC23
3B153EE26
3B153GG01
(57)【要約】
【課題】 小型化した軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 化学繊維ロープRの端部固定装置は、固定板としてのリンク104、リンク104上に固定された固定プーリ10及び固定ピン106によって構成される。固定プーリ10は、外周凸面11a及び内周凹面11bを有する固定螺旋形(三日月形)平プーリ11と、固定螺旋形平プーリ11の内周凹面11b側に設けられた固定円形平プーリ12とによって構成されている。固定螺旋形平プーリ11の外周凸面11aの中心Oとの距離(曲率半径)は巻きかけ(接触)開始点Psから巻きかけ(接触)終了点Peに向かって漸次減少し、固定円形平プーリ12の半径は固定螺旋形平プーリ11の巻きかけ終了点Peにおける曲率半径より大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量高強度低摩擦係数ロープの端部を固定するための固定プーリを具備し、
前記固定プーリは、
前記軽量高強度低摩擦係数ロープを少なくとも半回転巻回するための螺旋形外周面及び内周面を有する固定螺旋形プーリと、
前記固定螺旋形プーリの前記内周面の側に位置し、前記固定螺旋形プーリに巻回された前記軽量高強度低摩擦係数ロープを少なくとも1回転巻回するための固定円形プーリと
を具備し、
前記螺旋形外周面の前記固定円形プーリの中心からの距離は前記軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ開始点から巻きかけ終了点まで漸次減少し、
前記固定円形プーリの半径は前記螺旋形外周面の前記巻きかけ終了点における曲率半径より大きい軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項2】
さらに、固定ピンを具備し、
前記固定円形プーリに巻回された前記軽量高強度低摩擦係数ロープの先端は前記固定ピンに固定された請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項3】
前記固定螺旋形プーリは平プーリである請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項4】
前記固定螺旋形プーリは溝付きプーリである請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項5】
前記固定円形プーリに通し穴を設け、
前記固定円形プーリに巻回された前記軽量高強度低摩擦係数ロープの先端は前記固定円形プーリの通し穴に通されて結び目によって固定された請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項6】
前記軽量高強度低摩擦係数ロープは化学繊維ロープである請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置の製造方法であって、
前記軽量高強度低摩擦係数ロープを選定するための工程と、
前記選定された軽量高強度低摩擦係数ロープを巻きかけた場合の該軽量高強度低摩擦係数ロープのロープ張力をオイラのベルト理論に従って決定するための工程と、
前記選定された軽量高強度低摩擦係数ロープを巻きかけた場合の該軽量高強度低摩擦係数ロープの破断強度を決定するための工程と、
前記固定円形プーリの中心から見た前記軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ角のすべてにおいて前記軽量高強度低摩擦係数ロープの前記ロープ張力が前記破壊強度以下となるように前記軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ角θに対する前記固定プーリの外周面と前記中心との距離D(θ)を演算するための工程と、
前記巻きかけ角θの少なくとも0≦θ≦πの距離D(θ)によって前記固定螺旋形プーリの外周面を規定するための工程と、
前記巻きかけ角θの少なくとも3/2π≦θ≦7/2πの距離D(θ)によって前記固定円形プーリを規定するための工程と
を具備する軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量高強度低摩擦係数ロープたとえば化学繊維ロープの端部固定装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学繊維ロープは、金属製ロープに比べて軽量かつ高い可撓性を有するので、多くの分野で利用されている。
【0003】
たとえば、化学繊維ロープの1つである超高分子量ポリエチレン(UHPE)繊維ロープ、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維ロープの密度は金属製ロープの密度の1/8~1/5であり、また、金属製ロープより曲げ易く扱いも容易であり、さらに、金属製ロープを上回る破断強度を有するものもある。従って、化学繊維ロープはパラレルワイヤロボット、腱駆動ロボット、ツウィステド ストリング アクチュエータ等に利用されている。
【0004】
金属製ロープの特性は日本産業規格(JIS)、国際標準化機構(ISO)において規定されている。他方、化学繊維の原糸に関する情報はあるものの、化学繊維ロープに関する物性値は、多くの場合、破断強度に限られる。従って、化学繊維ロープの包括的な物理的評価が望まれている。
【0005】
第1の従来の化学繊維ロープの端部固定装置は、クランプを用いたものである(参照:非特許文献1)。
【0006】
第2の従来の化学繊維ロープの端部固定装置は、結びによって輪を作り固定ピンに引っ掛けるようにしたものである。
【0007】
第3の従来の化学繊維ロープの端部固定装置は、縫製・カシメの特殊加工を用いたものである。
【0008】
しかしながら、第1、第2、第3の従来の化学繊維ロープの端部固定装置は、いずれも化学繊維ロープの素の破断強度に対して90%以下の強度効率EBを示し、高強度下での使用には適さない。
【0009】
図13は第4の従来の化学繊維ロープの端部固定装置を含む関節機構を示し、(A)は全体図、(B)は固定円形平プーリの拡大斜視図である(参照:非特許文献2)。
【0010】
図13において、関節機構100は、基台101と、基台101にリンク102を介して結合された関節軸103aを有する受動プーリ103と、受動プーリ103に結合されたリンク104と、リンク104上に固定された固定円形平プーリ105及び固定ピン106によって構成される。この場合、受動プーリ103の関節軸103aはリンク102に回転自在に取付けてある。基台101には化学繊維ロープRの長さを調整するためのアクチュエータが内蔵されている。
【0011】
化学繊維ロープRの端部固定装置は、固定板としてのリンク104、リンク104上に固定された固定円形平プーリ105及び固定ピン106によって構成される。すなわち、化学繊維ロープRは基台101から受動プーリ103を介して端部固定装置に到り、直径100mmの固定円形平プーリ105に1回又は複数回巻回され、さらに、化学繊維ロープRの先端はたとえば結びによって固定ピン103に固定されている。これにより、化学繊維ロープRの素の破断強度に対して90%以上の強度効率EBを実現した。
【0012】
第5の従来の化学繊維ロープの端部固定装置は、
図13において、直径100mmの固定円形平プーリ105の代りに、
図14に示す直径37.5mmの固定円形溝付きプーリ201を備えている(参照:非特許文献3)。これにより、化学繊維ロープRの素の破断強度に対して90%以上の強度効率E
Bを実現した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Atsushi Horigome and Gen Endo. Basic study for drive mechanism with synthetic fiber rope . investigation of strength reduction by bending and terminal fixation method. Advanced Robotics, 30(3):206-217, 2016.
【非特許文献2】遠藤玄,洗津,広瀬茂男.高強度化学繊維によるワイヤ駆動のための基礎的検討第一報: 端部クランプ固定・曲げ比率が引張強度に与える影響.日本ロボット学会学術講演会,2012,4B3-2.
【非特許文献3】遠藤玄,堀米篤史,若林陽輝,高田敦.高強度化学繊維を用いたワイヤ駆動系のための基礎的検討(溝付きプーリと二重8 の字結びによる端部固定).日本機械学会論文集,84(864):18-0067,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の
図13に示す第4の従来の化学繊維ロープの端部固定装置においては、固定円形平プーリ102の面積が大きく、従って、端部固定装置が大型化するという課題がある。
【0015】
また、上述の
図14に示す固定円形溝付きプーリ201を用いた第5の従来の化学繊維ロープの端部固定装置においては、固定円形溝付きプーリ201の面積は小さくなるも、固定円形溝付きプーリ201の溝毎に化学繊維ロープRを巻きかける構造であるので、その軸方向に長くなり、やはり、端部固定装置が大型化するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために、本発明に係る軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置は、軽量高強度低摩擦係数ロープの端部を固定するための固定プーリを具備し、固定プーリは、軽量高強度低摩擦係数ロープを少なくとも半回転巻回するための螺旋形外周面及び内周面を有する固定螺旋形プーリと、固定螺旋形プーリの内周面の側に位置し、固定螺旋形プーリに巻回された軽量高強度低摩擦係数ロープを少なくとも1回転巻回するための固定円形プーリとを具備し、螺旋形外周面の固定円形プーリの中心からの距離は軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ開始点から巻きかけ終了点まで漸次減少し、固定円形プーリの半径は螺旋形外周面の巻きかけ終了点における曲率半径より大きいものである。
【0017】
また、本発明に係る軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置の製造方法は、上述の軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置の製造方法であって、軽量高強度低摩擦係数ロープを選定するための工程と、選定された軽量高強度低摩擦係数ロープを巻きかけた場合の該軽量高強度低摩擦係数ロープのロープ張力をオイラのベルト理論に従って決定するための工程と、選定された軽量高強度低摩擦係数ロープを巻きかけた場合の該軽量高強度低摩擦係数ロープの破断強度を決定するための工程と、固定円形プーリの中心から見た軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ角のすべてにおいて軽量高強度低摩擦係数ロープのロープ張力が破壊強度以下になるように軽量高強度低摩擦係数ロープの巻きかけ角θに対する固定プーリの外周面と上記中心との距離D(θ)を演算するための工程と、巻きかけ角θの少なくとも0≦θ≦πの距離D(θ)によって固定螺旋形プーリの外周面を規定するための工程と、巻きかけ角θの少なくとも3/2π≦θ≦7/2πの距離D(θ)によって固定円形プーリを規定するための工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、螺旋形外周面の固定円形プーリの中心からの距離(曲率半径)が漸次減少するので、軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置を小型化できる。この場合、螺旋形外周面の曲率半径が小さくなると、端部固定装置の小型化に寄与するが、この曲率半径がある程度小さくなると、その寄与率は小さくなる。そこで、螺旋形外周面の曲率半径が小さくなった位置に半径の大きい固定円形プーリを設けている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る軽量高強度低摩擦係数ロープの端部固定装置の第1の実施の形態を含む関節機構を示す正面図である。
【
図2】
図1の化学繊維ロープが巻かれていない状態の固定プーリ及び固定ピンの拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【
図3】
図1の化学繊維ロープが巻かれている状態の固定プーリ及び固定ピンの拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【
図4】
図1~
図3の固定プーリの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図4のステップ401にて選定された化学繊維ロープの例を示す図である。
【
図6】
図4のステップ402におけるロープ張力を説明するための図である。
【
図7】
図4のステップ403におけるプーリ直径D/ロープ直径dに対する強度効率特性を示すグラフである。
【
図8】数7の直径D(θ)を説明する図であって、(A)はD(θ)の例を示し、(B)は固定プーリの実際の配置を示す。
【
図9】
図1~
図3における固定プーリの大きさと
図13の固定円形平プーリの大きさとの比較を説明するための図である。
【
図10】本発明に係る化学繊維ロープの端部固定装置の第2の実施の形態を示し、化学繊維ロープが巻かれていない状態の固定プーリ及び固定ピンの拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【
図11】
図10の固定螺旋形溝付きプーリに対する化学繊維ロープの摩擦係数μ’について説明するための図である。
【
図12】本発明に係る化学繊維ロープの端部固定装置の第3の実施の形態を示し、化学繊維ロープが巻かれている状態の固定プーリの拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【
図13】第1の従来の化学繊維ロープの端部固定装置を含む関節軸機構を示す正面図である。
【
図14】第2の従来の化学繊維ロープの端部固定装置を示す固定溝付きプーリを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係る高強度化学繊維ロープの端部固定装置の第1の実施の形態を含む関節機構を示す正面図である。
【0021】
図1においては、
図13の固定円形平プーリ105の代りに、固定プーリ10を設けてある。固定プーリ10は、外周凸面11a及び内周凹面11bを有する固定螺旋形(三日月形)平プーリ11と、固定螺旋形平プーリ11の内周凹面11b側に設けられた固定円形平プーリ12とによって構成されている。尚、固定プーリ10の中心は固定円形平プーリ12の中心Oとする。
【0022】
図2は
図1の化学繊維ロープRが巻かれていない状態の固定プーリ10及び固定ピン106の拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図であり、
図3は
図1の化学繊維ロープRが巻かれている状態の固定プーリ10及び固定ピン106の拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【0023】
図2、
図3をも参照して
図1の固定プーリ10を詳細に説明する。
【0024】
図2、
図3に示すように、固定螺旋形平プーリ11は化学繊維ロープRの少なくとも半回転巻きのために薄く、他方、固定円形平プーリ12は化学繊維ロープRの少なくとも1回転巻き、たとえば4回巻きのために厚い。固定円形平プーリ12が厚くなったのに伴い、固定ピン106も厚くなる。尚、化学繊維ロープRの先端はたとえば結びによって固定ピン106に固定されている。
【0025】
固定螺旋形平プーリ11の外周凸面11aの中心(固定円形平プーリ12の中心)Oとの距離(曲率半径)は巻きかけ(接触)開始点Psから巻きかけ(接触)終了点Peに向かって漸次減少し、固定円形平プーリ12の半径は固定螺旋形平プーリ11の巻きかけ終了点Peにおける曲率半径より大きい。この場合、螺旋形の外周凸面11aの曲率半径が小さくなると、端部固定装置の小型化に寄与するが、この曲率半径がある程度小さくなると、その寄与率は小さくなる。そこで、螺旋形の外周凸面11aの曲率半径が小さくなった位置に半径の大きい固定円形平プーリ12を設けている。尚、製造上、実際の巻きかけ開始点P’sは、
図3の(A)、(B)に示すごとく、化学繊維ロープRが実際の巻きかけられる開始点Psより後になっている。
【0026】
図2、
図3に示すように、固定螺旋形平プーリ11の内周凹面11bの形状は固定円形平プーリ12の位置を確保するように定めればよいが、固定円形平プーリ12の位置は限定されない。
【0027】
次に、
図1、
図2、
図3の端部固定装置の製造方法を
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0028】
始めに、ステップ401にて化学繊維ロープRを選定する。たとえば、
図5に示すダイニーマ(登録商標)(型式DB-60)を選定する。このダイニーマロープは、直径d=2mmであり、素の破断強度Tr=2.14kNを有する。
【0029】
次に、ステップ402にて、
図6に示す固定プーリ10上に化学繊維ロープRを曲げた場合(つまり巻きかけた場合)のロープ張力T(θ)をオイラのベルト理論に従って数1で決定する。尚、
図6においては、固定プーリ10の形状は、便宜上、円形とする。
【数1】
但し、θは固定プーリ10の巻きかけ角、
μは化学繊維ロープRと固定プーリ10との摩擦係数、
T
0は巻きかけ開始点θ=0におけるロープ張力
である。すなわち、化学繊維ロープRを固定プーリ10に巻きかけた場合、ロープ張力T(θ)は巻きかけ角(接触角)θに対して指数関数的に減少する。
【0030】
次に、ステップ403にて、化学繊維ロープRの強度効率E
Bを決定する。強度効率E
Bとは化学繊維ロープRを曲げた場合(つまり巻きかけた場合)の破断強度/化学繊維ロープRの素の破断強度T
rで表され、数2で決定され、
図6で示される(参照:非特許文献1)。
【数2】
但し、Dは固定プーリ10の直径、
dは化学繊維ロープRの直径(d=2mm)
である。すなわち、化学繊維ロープRはD/dが小さい程、つまり曲がり(曲率)が大きい程、強度効率E
B(破断強度)は低下することが分かる。
【0031】
次に、ステップ404にて、固定プーリ10の形状を決定するために、ステップ402で求めたロープ張力T(θ)がステップ403で決定された化学繊維ロープRを曲げた場合の破断強度E
BT
r以下になるように、化学繊維ロープRのロープ張力T(θ)を数3で決定する。
【数3】
すなわち、θが大きくなる程、ロープ張力T(θ)は指数関数的に減少するので、化学繊維ロープRの直径Dを一定に維持すると、破断強度E
BT
rに対して過大となる。そこで、減少したロープ張力T(θ)に合わせて直径Dを減少させるようにする。数3の式を化学繊維ロープRの直径D(θ)の数4の式に書き換える。
【数4】
【0032】
次に、ステップ405にて、化学繊維ロープRを用いて破断試験時の各パラメータから摩擦係数μを数5により演算する。
【数5】
但し、nは固定プーリ10(この場合、固定円形平プーリ12)の巻き数、
Eは二重8の字結びによる固定ピン106に固定した場合の強度効率
である。たとえば、強度効率Eは50%程度である。また、摩擦係数μはたとえば0.05程度である。
【0033】
次に、ステップ406の十分に小さい巻きかけ角θ=εの実際の巻きかけ開始点Ps’のロープ張力T(ε)を数2においてD/d=50として数6にて演算する。
【数6】
【0034】
最後に、ステップ407にて、数5、数6を数4に代入して固定プーリ10の直径D(θ)を数7で決定する。
【数7】
【0035】
図8は数7の直径D(θ)を説明する図であって、(A)はD(θ)の例を示し、(B)は固定プーリ10の実際の配置を示す。
【0036】
図8の(A)に示すように、θ=0の付近でD(θ)は急激に減少し、螺旋状(三日月状)に変化する。このとき、0≦θ≦2πでは、比較的大きな円弧状であるが、θ>2πでは、比較的小さな渦巻き状となる。
【0037】
図8の(B)に示すように、実際の化学繊維ロープRがθ=0付近で急激に曲げが生じて破損する可能性があるので、
図8の(A)のθ=0付近のD(θ)の接線方向を化学繊維ロープRの進入方向と一致させるために、
図8の(A)の全体を時計回りに若干回転した上で、固定プーリ10の固定螺旋形平プーリ11及び固定円形平プーリ12を配置すると共に、固定ピン106を配置する。この場合、固定円形平プーリ12は渦巻き状とせず円形とするのは、渦巻き状にして部分的に強度効率を低下させても固定円形平プーリ12をこれ以上小型化できないので、製造上の利点がないからである。すなわち、
図8の(B)においては、0≦θ≦5/4πでは、化学繊維ロープRが固定螺旋形平プーリ11の外周凸面11aに巻かれ、θ>5/4πでは、化学繊維ロープRが固定円形平プーリ12に数回転巻かれ、最後に、化学繊維ロープRの先端が固定ピン106に固定される。尚、化学繊維ロープRは固定螺旋形平プーリ11を少なくとも半回転(0≦θ≦π)すればよく、化学繊維ロープRは固定円形平プーリ12を少なくとも1回転(3/2π≦θ≦7/2π)すればよい。
【0038】
図9は
図1~
図3における固定プーリ10の大きさと
図13の固定円形平プーリ105の大きさとの比較を説明するための図である。
【0039】
図9に示すように、
図1~
図3の固定螺旋形平プーリ11及び固定円形平プーリ12よりなる固定プーリ10の大きさは
図13の固定円形平プーリ105の大きさのほぼ1/4である。また、図示しないが
図14の固定円形溝付きプーリ201の大きさのほぼ2/3である。このように、化学繊維ロープRの端部固定装置を小型化できる。
【0040】
図10は本発明に係る化学繊維ロープの端部固定装置の第2の実施の形態を示し、化学繊維ロープRが巻かれていない状態の固定プーリ10及び固定ピン106の拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【0041】
図10においては、
図2の固定プーリ10の固定螺旋形平プーリ11の代りに、外周凸面11’aを有する固定螺旋形溝付きプーリ11’を設けてある。つまり、外周凸面11’aには溝Gが設けられている。この結果、化学繊維ロープRと外周凸面11’aとの摩擦係数μ’はμより大きくなり、数1におけるロープ張力T(θ)は巻きかけ角θに対して指数関数的にさらに減少し、従って、数7に示す固定プーリ10つまり固定螺旋形溝付きプーリ11’もさらに小さくなり、固定プーリ10をさらに小型化できる。
【0042】
次に、固定螺旋形溝付きプーリ11’に対する化学繊維ロープRの摩擦係数μ’について
図11を用いて説明する。
図11の(A)に示すプーリ11が溝なしの場合、化学繊維ロープRが溝なしプーリ11の外周凸面11aから受ける垂直抗力Nd1は小さいので、オイラのベルト理論に従う。つまり、
μ=-(1/θ)ln(T2/T1)
但し、μは溝なしプーリ11の外周凸面11aと化学繊維ロープRとの摩擦係数たとえば0.05、
θは化学繊維ロープRの溝なしプーリ11に対する巻き付け角度(接触角度)
T1、T2は巻きかけ角θの開始点、終止点でのロープ張力
である。他方、
図11の(B)に示すごとく、プーリ11’が溝付きの場合、化学繊維ロープRは溝付きプーリ11’の外周凸面11’aの溝の両面から垂直抗力Nd2を受けるので、オイラのベルト理論及びVベルトの理論から
μ’=μ/(sin(α/2)+μcos(α/2))
となる。実際には、
図11の(C)に示すごとく、摩擦係数μ’は化学繊維ロープRは柔らかいことから理論値と異なる傾向にある。たとえば、θ=1350°(つまり、3回転+270°)、α=30°、溝G底部直径φ=1.0mmのときには、
μ’=0.09
であった。
【0043】
図12は本発明に係る化学繊維ロープの端部固定装置の第3の実施の形態を示し、化学繊維ロープRが巻かれている状態の固定プーリ10の拡大図であって、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は右側面図、(D)は底面図である。
【0044】
図12に示すように、
図1、
図2、
図3の固定プーリ10の固定円形平プーリ12の代りに、通し穴12’aを有する固定円形平プーリ12’を設け、また、固定ピン106は設けられていない。すなわち、化学繊維ロープRは固定円形平プーリ12’に数回転巻かれた後に、通し穴12’aに通され、化学繊維ロープRの結び目R’によって固定される。このように、固定ピン106が存在しない分、化学繊維ロープRの端部固定装置をさらに小型化できる。
【0045】
尚、上述の実施の形態における化学繊維ロープRは高強度ポリエチレン繊維の外に、他の軽量高強度低摩擦係数材料になし得る。たとえば、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール(PBO)繊維及び炭素繊維になし得る。
【0046】
さらに、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0047】
10:固定プーリ
11:固定螺旋形平プーリ
11’:固定螺旋形溝付きプーリ
11a:外周凸面
11’a:外周凸面
11b:内周凹面
12、12’:固定円形平プーリ
12’a:通し穴
R:化学繊維ロープ
R’:結び目
100:関節機構
101:基台
102:リンク
103:受動プーリ
104:リンク
105:固定円形平プーリ
106:固定ピン
201:固定円形溝付きプーリ