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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172066
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】脳波補正装置、及び脳波補正方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/372 20210101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B5/372
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089548
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 俊弘
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127GG09
(57)【要約】
【課題】頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得する。
【解決手段】脳波補正装置は、利用者SUが所定の思考IMをした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、前記部位間における脳波信号の伝達関数を取得する伝達関数取得部411と、第2の部位における脳波信号を取得する脳波取得部412と、第2の部位において取得された脳波信号を伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出する脳波補正部413と、補正頭部脳波信号と、予め取得されている第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、利用者SUの思考を推定する脳波比較部414と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が所定の思考をした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、前記部位間における脳波信号の伝達関数を取得する伝達関数取得部と、
前記第2の部位における脳波信号を取得する脳波取得部と、
前記第2の部位において取得された前記脳波信号を前記伝達関数に基づいて補正した脳波信号である補正頭部脳波信号を算出する脳波補正部と、
前記補正頭部脳波信号と、予め取得されている前記第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、前記利用者の思考を推定する脳波比較部と、
を備える、
脳波補正装置。
【請求項2】
前記伝達関数取得部は、前記利用者が前記所定の思考をした際の前記第1の部位における前記脳波信号と、前記第2の部位における前記脳波信号とに基づいて、前記伝達関数を算出する、
請求項1に記載の脳波補正装置。
【請求項3】
前記伝達関数取得部は、前記第1の部位における前記脳波信号に対する、前記第2の部位における前記脳波信号の遅延時間を算出し、前記遅延時間に基づいて前記第1の部位における前記脳波信号を補正し、前記補正後の前記第1の部位における前記脳波信号と、前記第2の部位における前記脳波信号に基づいて、前記部位間における前記脳波信号の前記伝達関数を算出する、
請求項2に記載の脳波補正装置。
【請求項4】
前記伝達関数取得部は、前記利用者が前記所定の思考をした際の前記第1の部位における前記脳波信号と、複数の前記第2の部位における前記脳波信号に基づいて、それぞれの前記伝達関数を算出し、
前記脳波補正部は、取得した前記複数の第2の部位における前記脳波信号を、前記算出した伝達関数でそれぞれ補正し、補正した複数の脳波信号を合成して、前記補正頭部脳波信号を算出する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の脳波補正装置。
【請求項5】
利用者が所定の思考をした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、前記部位間における脳波信号の伝達関数を取得するステップと、
前記第2の部位における脳波信号を取得するステップと、
前記第2の部位において取得された脳波信号を前記伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出するステップと、
前記補正頭部脳波信号と、予め取得されている前記第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、前記利用者の思考を推定するステップと、
を含む、
脳波補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脳波補正装置、及び脳波補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の脳波信号を精度よく取得する方法が研究されている。特許文献1には、頭部に取り付けられた複数のセンサが、頭部への接触量、接触圧を制御できるユニットに、複数配置された脳波測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-033419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳波センサを日常生活の中で活用する際に、頭部に脳波センサを取り付けると、利用者の負担が大きい課題がある。その一方、頭部からの距離が離れた部位におけるセンサでは、取得される脳波信号が減衰し、頭部での測定結果に比べ精度が著しく落ちてしまう課題もある。従って、頭部以外の部位において、精度よく脳波信号を取得することが求められている。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得する脳波補正装置、脳波補正方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る脳波補正装置は、利用者が所定の思考をした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、前記部位間における脳波信号の伝達関数を取得する伝達関数取得部と、前記第2の部位における脳波信号を取得する脳波取得部と、前記第2の部位において取得された前記脳波信号を前記伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出する脳波補正部と、前記補正頭部脳波信号と、予め取得されている前記第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、前記利用者の思考を推定する脳波比較部とを備える。
【0007】
本開示に係る脳波補正方法は、利用者が所定の思考をした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、前記部位間における脳波信号の伝達関数を取得するステップと、前記第2の部位における脳波信号を取得するステップと、前記第2の部位において取得された脳波信号を前記伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出するステップと、前記補正頭部脳波信号と、予め取得されている前記第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、前記利用者の思考を推定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得する脳波補正装置、及び脳波補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る脳波センサシステムの模式図である。
図2図2は、第1実施形態に係る脳波補正装置5の模式的なブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係る伝達関数取得部411の処理を説明する模式図である。
図4図4は、脳波補正装置5における、第2の部位から取得した脳波信号から、利用者SUの思考推定を行う処理についての説明図である。
図5図5は、第1実施形態に係る脳波補正装置5の処理フローを説明するフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態に係る脳波測定装置1の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0011】
(第1実施形態)
図1を用いて、脳波センサシステムの構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る脳波センサシステムの模式図である。
【0012】
(脳波センサシステム)
図1に示す、第1実施形態に係る脳波センサシステム100は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を基に、外部機器EDの動作を制御することができるシステムである。本実施形態においては、利用者SUが、外部機器EDである電球を点灯させるという所定の思考IMをした際の脳波信号を脳波測定装置1が検知し、脳波測定装置1が外部機器EDである電球に対して、電球を点灯させる制御信号を出力することで、外部機器EDである電球を点灯させることが可能になるシステムである。本実施形態においては、外部機器EDが電球であり、所定の思考IMが電球を点灯させることを例にして説明するが、外部機器EDは、電球に限られず任意の機器であってよく、所定の思考IMは、任意の思考であってよい。ただし、所定の思考IMは、外部機器EDを動作させる旨の思考であることが好ましい。
【0013】
図1に示すように、脳波センサシステム100は、脳波測定装置1と、外部機器インターフェースIFと、外部機器EDと、を有する。外部機器EDは、利用者SUが脳波を用いて制御する対象物である。外部機器EDは、外部機器インターフェースIFと接続される。外部機器インターフェースIFは、脳波測定装置1と外部機器EDとを接続し、脳波測定装置1からの制御信号を受信し、外部機器EDを作動させる指示信号に変換する装置である。外部機器インターフェースIFは、外部機器EDの内部に含まれて前述した機能を発揮してもいいし、外部機器EDとは別のハードウェアで構成されてもよい。また、外部機器インターフェースIFに、MCU(Micro Controller Unit)を含ませることで、さらに高度な外部機器EDの制御も可能となる。
【0014】
脳波測定装置1は、利用者SUの脳波信号を取得し、取得した脳波信号が、利用者SUが所定の思考IM(外部機器EDを作動させる思考)をした際の脳波信号であると推定した際に、外部機器EDを作動させる制御信号を出力する装置である。脳波測定装置1は、脳波補正装置5と、第1センサSE1と、第2センサSE2と、第1センサSE1および第2センサSE2のそれぞれと、脳波補正装置5との間に接続されるアンプAPとを有する。
【0015】
第1センサSE1および第2センサSE2は、利用者SUの脳波信号を取得するセンサである。具体的には、第1センサSE1および第2センサSE2は、脳波計(EEG:Electroencephalography)であってよく、電極を用いて脳の神経ネットワークに流れる微弱な電流から出る脳波を検出する。例えば、第1センサSE1および第2センサSE2は、導電性ジェルを利用者SUの皮膚と電極の間に配置することで、電極と皮膚の間の接触抵抗を下げるタイプや、皮膚と電極の間にスポンジを設けてスポンジに電解液を含ませるタイプなどによって実現されてよい。第1センサSE1および第2センサSE2は、利用者SUの思考に基づく微弱な電流からの脳波信号(電気信号)を取得する。本実施形態に係る第1センサSE1は、第1の部位である頭部に取り付けられ、第2センサSE2は、第1の部位以外の第2の部位に取り付けられている。すなわち、第2センサSEが取り付けられる第2の部位とは、利用者SUの頭部以外の箇所を指し、本実施形態の例では利用者SUの腕部である。ただし、第2の部位は、利用者SUの頭部以外の任意の箇所であってよい。なお、第1センサSE1及び第2センサSE2が検出する脳波信号は、利用者SUから発せられる、例えば、周波数が0以上30Hz以下の電気信号であってよい。
【0016】
アンプAPは、取得した脳波信号のうち、所定の周波数帯域である脳波信号帯域の脳波信号のみを通過させて、通過させた脳波信号を増幅する増幅器である。脳波信号帯域は任意であってよいが、例えば、1KHz以下であってよく、特定の脳波帯域の例をあげると、α波:8Hz以上13Hz以下、β波:14Hz以上30Hz以下、γ波:30Hz以上64Hz以下であってよい。また、アンプAPによる通過させた脳波信号の増幅度合いは任意でよいが、例えば40db程度の増幅を行ってよい。アンプAPにより、第1センサSE1および第2センサSE2で取得した信号のうち、脳波信号帯域以外の信号はノイズとして遮断され、アンプAPを通過した脳波信号帯域の信号は増幅されて脳波補正装置5に入力される。
【0017】
(脳波補正装置)
図2は、本実施形態に係る脳波補正装置5の模式的なブロック図である。脳波補正装置5は、第1および第2センサを用いて脳波信号を取得し、取得した脳波信号を基に、利用者SUの思考を推定し、推定した利用者SUの思考に対応した外部機器EDを制御する制御信号を出力する装置である。本実施形態に係る脳波補正装置5は、例えばコンピュータであり、図2に示すように、入力部10と、出力部20と、メモリ30と、制御部40とを有する。入力部10は、ユーザの操作を受け付ける装置であり、例えばマウス、キーボード、タッチパネルなどであってよい。出力部20は、情報を出力する装置であり、例えば外部機器EDの制御信号を出力する出力端子などであってよい。
【0018】
メモリ30は、制御部40の演算内容や、プログラム、入力部10から利用者SUによって入力された各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。メモリ30が保存する制御部40用のプログラムは、脳波補正装置5が読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
【0019】
制御部40は、演算装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算回路を含む。制御部40は、伝達関数取得部411と、脳波取得部412と、脳波補正部413と、脳波比較部414と、出力制御部415とを含む。制御部40は、メモリ30からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、伝達関数取得部411と、脳波取得部412と、脳波補正部413と、脳波比較部414、出力制御部415とを実現して、それらの処理を実行する。なお、制御部40は、1つのCPUによってこれらの処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、伝達関数取得部411と、脳波取得部412と、脳波補正部413と、脳波比較部414と、出力制御部415との少なくとも一部を、ハードウェアで実現してもよい。
【0020】
(脳波補正装置の処理)
以下で、脳波補正装置5の処理内容を説明する。
【0021】
(伝達関数)
脳波補正装置5は、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得することができる。詳しく説明すると、一般的に利用者SUの脳から発生した脳波信号は、頭部から離れるにつれて、伝達関数に応じた減衰をし、頭部から離れた部位において脳波信号を取得しても、その精度は落ちてしまう。脳波補正装置5は、第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号との、部位間における脳波信号の伝達関数を算出し、算出した伝達関数を用いて、第2の部位における脳波信号から、第1の部位における脳波信号を算出することができる。つまり、伝達関数は、第2の部位における脳波信号を、第1の部位における脳波信号に変換する関数である。言い換えると、脳波補正装置5は、伝達関数を用いることで、第2の部位における減衰した精度の低い脳波信号から、精度の高い第1の部位における脳波信号を推測することが出来る。本実施形態に係る脳波補正装置5は、第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号とに基づいて、部位間における脳波信号の伝達関数を予め算出しておき、第2の部位における脳波信号を伝達関数で補正(変換)し、第1の部位における脳波信号を推測する。以下本実施形態に係る伝達関数の算出方法について説明する。
【0022】
(伝達関数の算出)
図3は、第1実施形態に係る伝達関数取得部411の処理を説明する模式図である。伝達関数取得部411は、第1の部位おける脳波信号と、第2の部位における脳波信号とに基づいた、第1の部位および第2の部位間における脳波信号の伝達関数を取得する。具体的には、伝達関数取得部411は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を、第1の部位に取り付けられた第1センサSE1と、第2の部位に取り付けられた第2センサSE2とにより取得し、取得したそれぞれの脳波信号に基づき伝達関数を算出する。このときの所定の思考IMは、任意に設定してよく、例えば外部機器EDを作動させる思考でもよいし、外部機器EDの作動とは無関係な思考でもよい。
【0023】
伝達関数取得部411が取得した、第1の部位および第2の部位におけるそれぞれの脳波信号は、アンプAPにより脳波信号帯域外の信号はノイズとしてカットされ、脳波信号帯域の信号のみが増幅されて、伝達関数の算出に利用される。以降、第1センサSE1により取得され、アンプAPにより増幅された脳波信号を頭部脳波信号、第2センサSE2により取得され、アンプAPにより増幅された脳波信号を腕部脳波信号と呼称する。
【0024】
(遅延処理)
伝達関数取得部411は、頭部脳波信号と腕部脳波信号とに基づいて伝達関数を算出する。具体的には、伝達関数取得部411は、取得した頭部脳波信号と、後述するフィルタ処理を実施した腕部脳波信号との差分に基づいて伝達関数を算出する。その際、差分を取る前に、頭部脳波信号に対して遅延処理を実施することが好ましい。通常、脳波信号は脳内で生成されるため、その脳波信号が第2の部位に伝わるタイミングは、第1の部位に伝わるタイミングに対して、時間差(遅延)が発生する。そのため、本実施形態においては、伝達関数取得部411は、頭部脳波信号に遅延処理を実施し、頭部脳波信号と腕部脳波信号の取得タイミングを合わせる。言い換えると、伝達関数取得部411は、第1の部位における脳波信号(頭部脳波信号)に対する、第2の部位における脳波信号(腕部脳波信号)の遅延時間を算出し、遅延時間に基づいて第1の部位における脳波信号(頭部脳波信号)を補正し、補正後の第1の部位における脳波信号(頭部脳波信号)と、フィルタ処理を実施した第2の部位における脳波信号(腕部脳波信号)に基づいて、2つの脳波信号の差分を取ることで、第1および第2の部位間における脳波信号の伝達関数を算出する。以下フィルタ処理について説明する。
【0025】
(フィルタ処理)
図3は、伝達関数取得部411が、遅延処理を実施した頭部脳波信号と、フィルタ処理を実施した腕部脳波信号との差分をとり、その差分に基づいてフィルタ処理におけるフィルタ係数を更新していく処理内容を模式的に示している。具体的には、伝達関数取得部411は、遅延処理を実施した頭部脳波信号と、フィルタ処理を実施した腕部脳波信号との差分をとり、その差分を基にフィルタ処理におけるフィルタ係数を更新する。その後、再度、腕部脳波信号にフィルタ係数を更新したフィルタ処理を実施し、遅延処理を実施した頭部脳波信号との差分をとり、フィルタ係数を更新する工程を繰り返して、差分が0になるときのフィルタ係数を取得する。取得した2つの脳波信号の差分が0になるときのフィルタ係数が伝達関数である。言い換えると、腕部脳波信号に伝達関数を掛け合わせて算出した脳波信号(以降、補正頭部脳波信号と呼称する)と、遅延処理を実施した頭部脳波信号の差分が0になる。つまりは、補正頭部脳波信号は、遅延処理を実施した頭部脳波信号の、逆位相の脳波信号といえる。以上の方法により、伝達関数取得部411は、腕部脳波信号を、逆位相の頭部脳波信号(補正頭部脳波信号)に補正する伝達関数を算出する。また、伝達関数取得部411は伝達関数を任意の方法で取得してもよく、例えば、予めメモリ30に記憶されている伝達関数を取得してもよいし、利用者SUによって入力部10を介して入力されてもよい。
【0026】
算出された補正頭部脳波信号は、頭部脳波信号と逆位相の脳波信号であるが、頭部脳波信号との間に周波数特性の差は無い。その為、脳波補正装置5は、補正頭部脳波信号と、予め取得されている、利用者SUが所定の思考IMをした際の第1の部位における脳波信号(以降、参照脳波信号と呼称する)との、周波数特性を比較することで、補正頭部脳波信号から利用者SUの思考を推定することができる。具体的には、脳波補正装置5は、第2の部位から取得した脳波信号を、伝達関数を用いて補正して補正頭部脳波信号を算出し、算出した補正頭部脳波信号と、参照脳波信号との周波数特性が同じになる場合には、利用者SUが所定の思考IMをしたと推定することができる。以降、補正頭部脳波信号と比較される参照脳波信号について説明する。
【0027】
(参照脳波信号)
脳波取得部412は、参照脳波信号を取得する。参照脳波信号は、利用者SUが、所定の思考IMをした際の、第1センサSE1で取得され、アンプAPで増幅された脳波信号である。本実施形態においては、脳波取得部412は、利用者SUが所定の思考IM(外部機器EDである電灯を点灯させる)をしている際の利用者SUの脳波信号のうち、第1センサSE1を用いて取得され、アンプAPで増幅された信号を参照脳波信号として取得する。また、参照脳波信号は複数取得されてもよい。具体的には、例えば利用者SUが所定の思考IMとは別の思考であるIM2(外部機器EDである電灯を消灯させる)をした際の脳波信号や、外部機器EDには無関係である思考IM3をした際の脳波信号をそれぞれ参照脳波信号とし取得してもよい。脳波取得部412は、取得した参照脳波信号をメモリ30に保存する。
【0028】
(第2の部位における脳波信号を用いた利用者SUの思考推定処理)
脳波補正装置5は、上述した伝達関数と参照脳波信号とに基づいて、第2の部位から取得した脳波信号から、利用者SUの思考を推定する。図4に、脳波補正装置5における、第2の部位から取得した脳波信号から、利用者SUの思考推定を行う処理についての説明図を示す。以降、その処理内容について詳しく説明する。
【0029】
(脳波取得部)
脳波取得部412は、第2の部位における脳波信号を取得する。本実施形態においては、図4に示すように、脳波取得部412は、利用者SUの腕部に取り付けられた第2センサSE2を用いて脳波信号を取得する。取得された信号はアンプAPにより脳波信号帯域外の信号はノイズとしてカットされ、脳波信号帯域の信号のみ増幅されて利用者SUの思考の推定に利用される。
【0030】
(脳波補正部)
脳波補正部413は、脳波取得部412により第2センサSE2を用いて取得され、アンプAPにより増幅された腕部脳波信号を、補正頭部脳波信号に補正する。具体的には、脳波補正部413は、腕部脳波信号を伝達関数取得部411が取得した、伝達関数に基づいて補正し、頭部脳波信号と逆位相となり、周波数特性が同じとなる補正頭部脳波信号を算出する。
【0031】
(脳波比較部)
脳波比較部414は、脳波補正部413が算出した補正頭部脳波信号と、予め取得されている第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、利用者SUの思考を推定する。具体的には、脳波比較部414は、補正頭部脳波信号と参照脳波信号とを比較し、周波数特性が同じとなる場合は、利用者SUが参照脳波信号を取得された際の所定の思考IMをしていたと推定する。脳波比較部414による脳波信号の比較方法は任意の方法でよく、例えば補正頭部脳波信号と参照脳波信号との差分をとり、差分が所定の閾値以下の場合に、両信号の周波数特性が同じであると判定してもよい。
【0032】
(出力制御部)
出力制御部415は、脳波比較部414の脳波信号比較結果を基に、外部機器EDを制御する制御信号を出力する。具体的には、例えば、脳波比較部414の脳波信号比較結果が、補正頭部脳波信号と、参照脳波信号の周波数特性が同じであるという結果の場合は、出力制御部415は、利用者SUが参照脳波信号を取得された際の所定の思考IMに対応した制御信号を出力する。本実施形態においては、所定の思考IMを「外部機器EDである電灯を点灯させる」に設定している為、出力制御部415は外部機器EDである電灯を点灯させる制御信号を出力する。
【0033】
(処理フロー)
次に、本実施形態の処理フローを説明する。図5は、第1実施形態に係る脳波補正装置5の処理フローを説明するフローチャートである。脳波補正装置5が、第2の部位における脳波信号を基に、利用者SUの思考を推定する場合、伝達関数取得部411は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を、第1の部位に取り付けられた第1センサSE1と、第2の部位に取り付けられた第2センサSE2とにより取得し、それぞれをアンプAPにより増幅する。伝達関数取得部411は、第1の部位より取得され、アンプAPにより増幅された脳波信号(頭部脳波信号)に遅延処理を実施し、第2の部位より取得され、アンプAPにより増幅された脳波信号(腕部脳波信号)には、フィルタ処理を実施する。伝達関数取得部411は、遅延処理を実施した頭部脳波信号と、フィルタ処理を実施した腕部脳波信号との差分を、フィルタ処理におけるフィルタ係数を更新しながら繰り返し算出し、2つの信号の差分が0になる時の、フィルタ係数を伝達関数として算出する(ステップS1)。脳波取得部412は、利用者SUが所定の思考IMをした際に、第1の部位より取得され、アンプAPによって増幅された脳波信号(参照脳波信号)を取得する(ステップS2)。脳波取得部412は、利用者SUが所定の思考IMをした際に、第2の部位より取得され、アンプAPによって増幅された脳波信号(腕部脳波信号)を取得する(ステップS3)。脳波補正部413は、脳波取得部412が取得した腕部脳波信号を、伝達関数取得部411が算出した伝達関数に基づいて補正し、補正頭部脳波信号を算出する(ステップS4)。脳波比較部414は、脳波補正部413が算出した、補正頭部脳波信号と、参照脳波信号とを比較する(ステップS5)。出力制御部415は、脳波比較部414の脳波信号比較結果が、2つの脳波信号の周波数特性が同じであるという結果の場合、利用者SUが参照脳波信号を取得された際の所定の思考IMをしたと推定し、所定の思考IMに対応した制御信号を出力する(ステップS6)。
【0034】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る脳波補正装置5は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を、第1の部位に取り付けられた第1センサSE1と、第2の部位に取り付けられた第2センサSE2とにより取得し、それぞれの差分を取ることで、脳波信号の2つの部位間の伝達関数を算出する。そして、第2の部位に取り付けられた第2センサSE2により取得された脳波信号を、伝達関数を用いて補正し、頭部脳波信号と逆位相となり、周波数特性が同じとなる補正頭部脳波信号を算出する。その後、算出した補正頭部脳波信号と、予め取得しておいた第1の部位における参照脳波信号とを比較することで、利用者SUの思考を推定する。本開示によると、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得し、利用者SUの思考を推定することができる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態においては、第2の部位に取り付けられた1つの脳波センサより取得した脳波信号から、利用者SUの思考を推定していたが、第2実施形態においては、複数の第2の部位に取り付けられた第2センサSE2より取得した脳波信号から、利用者SUの思考を推定する点が第1実施形態とは異なる。第2実施形態において、第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
【0036】
図6は、本実施形態に係る脳波測定装置1の概要図である。図6に示すように、本実施形態に係る脳波測定装置1は、脳波補正装置5と、第1センサSE1と、複数の第2センサSE2と、第1センサSE1及び複数の第2センサSE2と、脳波補正装置5をつなぐアンプAPを有する。本実施形態に係る第1センサSE1は、第1の部位である頭部に取り付けられる。複数の第2センサSE2は、第2の部位(頭部以外の部位)に取り付けられている。複数の第2センサSE2は、互いに異なる部位に取り付けられることが好ましい。図6の例では、第2センサSE2として、第2センサSE2A、SE2B、およびSE2Cが設けられている。具体的には、第2センサSE2Aは腕部に、第2センサSE2Bは第2センサSE2Aとは反対側の腕部に、第2センサSE2Cは、首部に取り付けられている。ただし、第2センサSE2の数は3つに限られず任意であってよく、取り付けられる部位も任意であってよい。
【0037】
伝達関数取得部411は、第1の部位における脳波信号と、複数の第2の部位における脳波信号とに基づいた、第1および複数の第2の部位間における脳波信号のそれぞれの伝達関数を取得する。具体的には、伝達関数取得部411は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を、第1の部位に取り付けられた第1センサSE1と、腕部に取り付けられた第2センサSE2Aと、第2センサSE2Aとは反対の腕部に取り付けられた第2センサSE2Bと、首部に取り付けられた第2センサSE2Cとに基づき取得し、第1の部位と複数の第2の部位間における脳波信号のそれぞれの伝達関数を算出する。このときの所定の思考IMは、任意に設定してよく、例えば外部機器EDを作動させる思考でもよいし、外部機器EDの作動とは無関係な思考でもよい。伝達関数の算出方法は、実施形態1と同じ為、説明は省略する。
【0038】
脳波取得部412は、複数の第2の部位における脳波信号を取得する。本実施形態においては、図6に示すように、脳波取得部412は、利用者SUの腕部に取り付けられた第2センサSE2Aと、第2センサSE2Aとは反対の腕部に取り付けられた第2センサSE2Bと、首部に取り付けられた第2センサSE2Cとを用いて脳波信号を取得する。取得されたそれぞれの信号はアンプAPにより脳波信号帯域外の信号はノイズとしてカットされ、脳波信号帯域の信号のみ増幅されて利用者SUの思考の推定に利用される。
【0039】
脳波補正部413は、脳波取得部412が取得した、第2センサSE2AからSE2Cにより取得され、アンプAPにより増幅された、複数の第2の部位における脳波信号を、伝達関数取得部411が算出した伝達関数でそれぞれ補正し、補正した複数の脳波信号を合成して、本実施形態における補正頭部脳波信号を算出する。具体的には、複数の第2の部位から取得され、ぞれぞれの伝達関数により補正された3つの脳波信号を加算する。このとき、脳波補正部413は、複数の第2の部位から取得され、ぞれぞれの伝達関数により補正された3つの脳波信号に対して、ノイズ除去の目的で、周波数帯域が0~30Hzとなるようなフィルタ処理を実施した後、3つの脳波信号を加算してもよい。なお、フィルタ処理にて抽出される周波数帯は、第1センサSE1及び第2センサSE2が検出する脳波信号の周波数帯と一致していればよく、0~30Hzに限定されない。加算により生成された補正頭部脳波信号は、複数ではなく、一か所の第2の部位から取得され、伝達関数によって補正された単独の補正頭部脳波信号に比べて、振幅が大きくなり、より顕著な周波数特性を示すようになる。言い換えれば、ぞれぞれの伝達関数により補正された3つの脳波信号の加算することで、単独の補正頭部脳波信号に比べて、より精度の高い(第1の部位において取得される脳波信号と周波数特性が近い)補正頭部脳波信号を算出することができる。以降、脳波比較部414および出力制御部415における処理は、第1実施形態と同じ為、説明は省略する。
【0040】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る脳波補正装置5は、利用者SUが所定の思考IMをした際の脳波信号を、頭部に取り付けられた第1センサSE1と、腕部に取り付けられた第2センサSE2Aと、第2センサSE2Aとは反対の腕部に取り付けられた第2センサSE2Bと、首部に取り付けられた第2センサSE2Cとにより取得する。そして、取得した第1の部位と、複数の第2の部位における脳波信号の差分から、部位間における脳波信号のそれぞれの伝達関数を算出する。その後、複数の第2の部位より取得された脳波信号を、それぞれの伝達関数を用いて補正する。3つの補正した脳波信号を加算して、第1の部位における脳波信号と逆位相となり、周波数特性が同じとなる補正頭部脳波信号を算出する。その後、算出した補正頭部脳波信号と、予め取得しておいた第1の部位における参照脳波信号とを比較することで、利用者SUの思考を推定する。本開示によると、複数の第2の部位において算出した脳波信号を基に、精度の高い脳波信号を取得し、利用者SUの思考を推定することができる。
【0041】
さらに言うと、本実施形態に係る補正頭部脳波信号は、複数の第2の部位で取得され、それぞれの伝達関数で補正された3つの脳波信号の加算により生成されているため、第1実施形態に係る補正頭部脳波信号に比べて、より精度の高い(第1の部位における脳波信号と、周波数特性が近い)脳波信号とすることができる。
【0042】
(効果)
以上説明したように、本開示の脳波補正装置5は、利用者SUが所定の思考IMをした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、部位間における脳波信号の伝達関数を取得する伝達関数取得部411と、第2の部位における脳波信号を取得する脳波取得部412と、第2の部位において取得された脳波信号を伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出する脳波補正部413と、補正頭部脳波信号と、予め取得されている第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、利用者SUの思考を推定する脳波比較部414と、を備える。本開示によると、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得することができる。
【0043】
また、本開示によれば、伝達関数取得部411は、利用者SUが所定の思考IMをした際の第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号とに基づいて、伝達関数を算出する。本開示によると、第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号とに基づいて、伝達関数を算出することができる。
【0044】
また、本開示によれば、伝達関数取得部411は、第1の部位における脳波信号に対する、第2の部位における脳波信号の遅延時間を算出し、遅延時間に基づいて第1の部位における脳波信号を補正し、補正後の第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号に基づいて、部位間における脳波信号の伝達関数を算出する。本開示によると、第1の部位と第2の部位における、脳波取得タイミング(遅延時間)を考慮して、第1の部位における脳波信号と、第2の部位における脳波信号とに基づいて、伝達関数を算出することができる。
【0045】
また、本開示によれば、伝達関数取得部411は、利用者SUが所定の思考IMをした際の第1の部位における脳波信号と、複数の第2の部位における脳波信号に基づいて、それぞれの伝達関数を算出し、脳波補正部413は、取得した複数の第2の部位における脳波信号を、算出した伝達関数でそれぞれ補正し、補正した複数の脳波信号を合成して、補正頭部脳波信号を算出する。本開示によると、複数の第2の部位における脳波信号を、伝達関数を用いて補正し、それらを合成して補正頭部脳波信号を算出することで、より精度の高い補正頭部脳波信号を算出することができる。
【0046】
本開示に係る脳波補正方法は、利用者SUが所定の思考IMをした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、部位間における脳波信号の伝達関数を取得するステップと、第2の部位における脳波信号を取得するステップと、第2の部位において取得された脳波信号を伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出するステップと、補正頭部脳波信号と、予め取得されている第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、利用者SUの思考を推定するステップと、を含む。本開示によると、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得することができる。
【0047】
本開示に係るプログラムは、利用者SUが所定の思考IMをした際の、第1の部位となる頭部における脳波信号と、第1の部位以外の第2の部位における脳波信号とに基づいた、部位間における脳波信号の伝達関数を取得するステップと、第2の部位における脳波信号を取得するステップと、第2の部位において取得された脳波信号を伝達関数に基づいて補正して、補正頭部脳波信号を算出するステップと、補正頭部脳波信号と、予め取得されている第1の部位における参照脳波信号とに基づいて、利用者SUの思考を推定するステップとを、コンピュータに実行させる。本開示によると、頭部以外の部位において、精度の高い脳波信号を取得することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0049】
1 脳波測定装置
5 脳波補正装置
SU 利用者
ED 外部機器
IF 外部機器インターフェース
IM 所定の思考
AP アンプ
SE1 第1センサ
SE2 第2センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6