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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172074
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ニオブ、及びタンタルの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/24 20060101AFI20241205BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241205BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C22B34/24
C22B3/22
C22B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089557
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕也
(72)【発明者】
【氏名】西田 拓翔
(72)【発明者】
【氏名】谷内 菜々美
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA18
4K001AA25
4K001BA19
4K001DB02
4K001DB16
4K001DB26
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブ、及びタンタルを分離し回収することができるニオブ、及びタンタルの回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ニオブ、及びタンタルが溶解する非フッ酸系水溶液に抽出剤として所定量の2-オクタノールを添加することでニオブを油相に抽出し、非フッ酸系水溶液をニオブが含まれる油相とタンタルが含まれる水相に分離する。さらに油相に対しては水溶液を添加して、油相に含まれるニオブを水溶液に逆抽出する。この抽出と逆抽出を多段階で繰り返すことにより、非フッ酸系水溶液から高濃度のニオブ、及びタンタルを回収することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程と、
前記油相、及び前記水相から、前記ニオブ、又は前記タンタルの少なくとも一方を分離する工程と、を備える
ニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項2】
前記オクタノールは2-オクタノールである
請求項1に記載のニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項3】
前記油相から前記ニオブを分離する工程は、前記油相に所定量の水溶液を添加し、前記油相から前記ニオブを逆抽出する工程を有する、
請求項1または請求項2に記載のニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項4】
前記油相から前記ニオブを分離する工程は、前記オクタノールによる抽出と前記水溶液による逆抽出とを所定回数繰り返す多段抽出により行う
請求項3に記載のニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項5】
前記水溶液は、イオン交換水、水道水、蒸留水、及び純水から選択される
請求項3に記載のニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項6】
ニオブ、及びタンタルを含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、
固化した前記溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、
前記懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、
前記沈殿物を酸溶液との反応により溶解して、前記ニオブ、及び前記タンタルを含有する非フッ酸系水溶液を生成する工程と、
該非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程と、
前記油相、及び前記水相から、前記ニオブ、又は前記タンタルの少なくとも一方を分離する工程と、を備える
ニオブ、及びタンタルの回収方法。
【請求項7】
ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程を備える
ニオブ、及びタンタルの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ、及びタンタルの回収方法に関する。詳しくは、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブ、及びタンタルを分離し回収することができる、ニオブ、及びタンタルの回収方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ニオブやタンタルは、電子材料として様々な用途に利用されている。例えば、タンタルから形成されたアノード電極を備えた固体電解コンデンサは、小型でありながらも大容量であるため、携帯電話やパソコン等の部品として急速に普及している。また、タンタルと同族元素であるニオブも、タンタルよりも安価であるとともに誘電率が大きいことから、アノード電極への利用が研究されている。アノード電極は、タンタル粉末およびニオブ粉末を焼結して多孔質焼結体とし、この多孔質焼結体を化成酸化することによって形成される。
【0003】
ところで、前記した通りニオブ、及びタンタルはその化学的性質が似ているため、この2つの金属は鉱石中に共存しており、その分離方法が難しいことが知られている。そして、鉱石からニオブとタンタルを回収して酸化ニオブ、及び酸化タンタルを製造する方法としては、一般的にフッ化水素酸(以下、「フッ酸」という。)を用いた液化処理方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
例えば特許文献2に開示がされている液化処理方法について説明すると、タンタライト等の鉱石や、鉄スクラップ等の原材料を粉砕してフッ酸で溶解した後、硫酸を加えて溶液の濃度を調整する。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にしてMIBK(メチルイソブチルケトン)による溶媒抽出にかけると、ニオブとタンタルがMIBKに抽出される。この時、原料中に含まれている不純物の鉄、マンガン、シリコン等が抽残液に残ることにより、不純物が除去される。
【0005】
こうして得たニオブ、及びタンタルを含むMIBKを、希硫酸で逆抽出すると、ニオブが水溶液に移り、純粋なタンタルがMIBKに残る。MIBK中のタンタルを精製し、水で逆抽出して水溶液に移し、MIBKを回収し再使用する。一方、水溶液中のニオブはMIBKで再度抽出し、少量含まれているタンタルを抽出し、水溶液中のニオブを純粋なものに精製する。このニオブ精製時のMIBKは、ニオブ、及びタンタルの分離前の溶媒に合流される。このようにして精製されたニオブ、及びタンタルの各溶液にアンモニア水を加えると、水酸化ニオブ、及び水酸化タンタルが析出する。さらに、この水酸化物の沈殿を濾過、乾燥し、最後にか焼することにより、酸化ニオブ、及び酸化タンタルが得られる。
【0006】
ところで、前記特許文献1、及び特許文献2で使用されるフッ酸は、工業的には重要な化学物質であるが、接触することにより患部を著しく腐食させ、最悪の場合には死亡事故につながる危険性があり、毒物及び劇物取締法において毒物として指定されていることからも、その取扱いにおいて非常に危険性を伴う物質である。
【0007】
また、フッ酸の原材料となる蛍石(CaF)は我が国では産出できず、他国から蛍石、またはその一次加工品を輸入しているのが現状である。しかし、近年においては各国の資源の囲み込みにより、特に高純度品は価格が高騰し、質や量を安定的に確保することが困難な状況となっている。
【0008】
そこで、本発明の発明者らは、フッ酸を用いずにニオブやタンタルを含有する製錬原料を液化処理する手法を発明した(特許文献3)。係る特許文献3によれば、ニオブ、及びタンタルを含有する鉱石を粉末状とし、この粉末状物質に硫酸水素アンモニウム塩を反応剤として低温処理することで、不純物を含まないニオブ、及びタンタルを含有する酸溶液(非フッ酸系水溶液)を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58-176128号公報
【特許文献2】特開2002-316822号公報
【特許文献3】特許第6910690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献3は、フッ酸を用いずに、ニオブ、及びタンタルを含有する鉱石を液化することができる画期的な手法である。一方で、特許文献3に開示された液化処理方法により液化された非フッ酸系水溶液からニオブ、及びタンタルを分離・回収するには、従来のフッ酸系水溶液で使用される分離方法を適用することができないという課題がある。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブ、及びタンタルを分離し回収することができる、ニオブ、及びタンタルの回収方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明のニオブ、及びタンタルの回収方法は、ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程と、前記油相、及び前記水相から、前記ニオブ、又は前記タンタルの少なくとも一方を分離する工程とを備える。
【0013】
ここで、ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブのみを油相に抽出することができる。その結果、ニオブとタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液を、ニオブを含有する油相とタンタルを含有する水相に分離することができる。
【0014】
また、油相、及び水相から、ニオブ、又はタンタルの少なくとも一方を分離する工程を備えることにより、油相からニオブを、或いは水相からタンタルをそれぞれ分離し回収することができる。
【0015】
また、オクタノールは2-オクタノールである場合には、ニオブと親和性の高い2-オクタノールを溶媒とし使用することで、非フッ酸系水溶液中のニオブをより効率的に油相に抽出することができる。従って、ニオブ、及びタンタルの回収率を高めることができる。
【0016】
また、油相からニオブを分離する工程は、油相に所定量の水溶液を添加し、油相からニオブを逆抽出する工程を有する場合には、オクタノールに対する水溶液量を所定に調整することで、油相からニオブを高効率で回収することができる。
【0017】
また、油相からニオブを分離する工程は、前記オクタノールによる抽出と水溶液による逆抽出とを所定回数繰り返す多段抽出により行う場合には、逆抽出したニオブについて、再び抽出剤としてオクタノールを添加し、抽出、及び油相からの逆抽出を複数回繰り返すことにより、高純度のニオブを回収することができる。
【0018】
また、水溶液は、イオン交換水、水道水、蒸留水、及び純水から選択される場合には、ニオブを含む油相のpHを所定に調整することで、油相からニオブの逆抽出を促進することができる。
【0019】
前記の目的を達成するために、本発明のニオブ、及びタンタルの回収方法は、ニオブ、及びタンタルを含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、固化した前記溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、前記懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、前記沈殿物を酸溶液との反応により溶解して、前記ニオブ、及び前記タンタルを含有する非フッ酸系水溶液を生成する工程と、該非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程と、前記油相、及び前記水相から、前記ニオブ、又は前記タンタルの少なくとも一方を分離する工程とを備える。
【0020】
ここで、ニオブ、及びタンタルを含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、固化した溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、沈殿物を酸溶液との反応により溶解して、ニオブ、及びタンタルを含有する非フッ酸系水溶液を生成する工程とを備えることで、ニオブ、及びタンタルを含有する鉱石を、非フッ酸系水溶液として液化処理することができる。
【0021】
また、非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することでニオブを油相に抽出し、非フッ酸系水溶液をニオブを含有する油相とタンタルを含有する水相とに分離する工程と、油相、及び水相から、ニオブ、又はタンタルの少なくとも一方を分離する工程を備えることにより、非フッ酸系水溶液中のニオブとタンタルを回収することができる。
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明のニオブ、及びタンタルの回収方法は、ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、前記非フッ酸系水溶液を、前記ニオブを含有する油相と前記タンタルを含有する水相とに分離する工程を備える。
【0023】
ここで、ニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液に、抽出剤として所定量のオクタノールを添加することで、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブのみを油相に抽出することができる。その結果、ニオブとタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液を、ニオブを含有する油相とタンタルを含有する水相に分離することができる。そして、これら油相、及び水相からニオブ、及びタンタルを所定の方法により回収することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るニオブ、及びタンタルの回収方法は、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブ、及びタンタルを分離し回収することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法の工程図である。
図2】本発明の実施形態に係る非フッ酸系水溶液からニオブ、及びタンタルを回収する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの回収方法について図面を用いて詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0027】
[ニオブ・タンタルの液化処理方法]
図1は本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法の工程図を示す。ニオブ、及びタンタルの液化処理方法は、まず、ニオブとタンタルを所定量含有するとともに所定の粒径に粉砕した製錬原料を準備し、製錬原料に所定量のアンモニウム塩を混合して混合物を生成する(工程11)。そして、混合物を加熱(工程12)して溶融体を生成し、工程12の反応により生じた溶融体を水溶液で溶解して(工程13)、懸濁液を生成する。工程13で生成した懸濁液を沈殿物とアンモニウム含有廃液に固液分離し(工程14)、沈殿物を酸溶液との反応により溶解する(工程15)。以上の工程を経ることでニオブ、及びタンタルが溶解した非フッ酸系水溶液が得られる。
【0028】
ここで、液化処理に供される製錬原料としては主に鉱石を想定するが、ニオブやタンタルを含有するものであれば、例えばスズなどの製錬残渣、或いは廃電子材料を含むスクラップ材などについても適用することができ、それらを含めて「製錬原料」と定義する。なお、粉砕された製錬原料の粒度については特に限定されるものはないが、粒度は小さいほどアンモニウム塩との反応を促進することができる。
【0029】
また、反応に使用するアンモニウム塩は基本的には固体のものを使用するが、アンモニウム塩の水溶液を使用することもできる。このとき、アンモニウム塩の水溶液と製錬原料とを混合して加熱すると、まず水分が蒸発し、やがて固体のアンモニウム塩が析出して溶融体が生成される。したがってアンモニウム塩の水溶液を使用する場合であっても、反応の途中で固体のアンモニウム塩が生成されたうえで反応が促進される。
【0030】
また、アンモニウム塩としては、ニオブやタンタルとの反応促進という観点では、例えば硫酸水素アンモニウム、或いは硫酸アンモニウムを使用することが好ましいが、これらに限定されるものではなく、ニオブやタンタルとの反応が可能なアンモニウム塩から適宜選択することができる。
【0031】
反応に使用するアンモニウム塩の量は、製錬原料に対する重量比で略2倍以上を目安として使用することが好ましいが、これに限定されるものではない。但し、アンモニウム塩の量が製錬原料の重量比で略2倍未満となる場合には十分に反応が進まず、製錬原料を溶融体に取り込むことができない虞がある。
【0032】
なお、アンモニウム塩が多いほど製錬原料との反応が促進されて容易に溶融体となるが、反応のための加熱エネルギーや排水量、さらには大規模な反応槽が必要となるため、アンモニウム塩の上限については処理コストを考慮したうえで適宜変更することができる。
【0033】
製錬原料とアンモニウム塩の反応温度については、使用するアンモニウム塩の沸点に応じて適宜変更することができる。例えば、アンモニウム塩として硫酸水素アンモニウを使用する場合には、略147℃以上で液化して製錬原料と反応し始め、沸点である490℃程度まで昇温すると製錬原料を溶融体に取り込むことができる。なお、アンモニウム塩として硫酸アンモニウムを使用する場合には、略120℃以上で液化して製錬原料と反応し始め、略350℃で硫酸水素アンモニウムへと変化し、その後は同様の反応となる。
【0034】
前記した通り、製錬原料である鉱石中のニオブとタンタルは互いに結合した状態で共存するが、熱分解したアンモニウム塩の高い化学活性によってニオブとタンタルの結合を切断し、フッ酸以外の一般的な酸にも可溶な化学形態に変化させることが可能となる。
【0035】
アンモニウム塩との反応で生成された溶融体には未反応のアンモニウム塩や不純物が残存する。そのため、所定量の水溶液を加えて懸濁液を生成することにより、これら不純物等を除去しやすくなる。水溶液は溶融体の重量に対して略1倍以上を目安として加える。例えば、アンモニウム塩として硫酸水素アンモニウムや硫酸アンモニウムを使用する場合には、これらアンモニウム塩の飽和溶解度、加熱による揮発量、或いは製錬原料の分解量を考慮すると、溶融体の重量に対して略1倍以上を加えることで、残存するアンモニウム塩や不純物を完全に溶解させることができる。
【0036】
なお、懸濁液の生成に用いる水溶液としては、蒸留水、純水、イオン交換水、水道水等から適宜選択をして使用することができる。また、希薄な酸を溶媒として使用することも可能である。
【0037】
溶融体に水溶液を加えて生成した懸濁液は、固液分離により液体物とニオブやタンタルが含有された沈殿物に分離される。ここで、固液分離の方法としては、濾過方式、圧力方式、及び遠心分離方式等、公知の固液分離方式から適宜選択をすることができる。
【0038】
沈殿物は不純物を殆ど含有しない純粋に近いニオブとタンタルからなり、さらに酸イオンと結合することでフッ酸以外の一般的な酸に溶解可能な化合物となっている。ここで、溶解に使用する酸としては、例えば高濃度の塩酸、硫酸、硝酸等を使用することができる。そして、高濃度のニオブとタンタルを含む沈殿物を酸溶液に溶解することで非フッ酸系水溶液を生成することができる。
【0039】
[ニオブ・タンタルの回収方法]
図2は、前記した液化処理方法により酸溶解されたニオブとタンタルとを含む非フッ酸系水溶液から、ニオブ、及びタンタルを回収する工程図を示す。
【0040】
まず、前記した液化処理方法で得られた非フッ酸系水溶液に中性抽出剤である所定量の2-オクタノールを添加し、溶媒抽出により油相と水相とに分離する(工程21)。ニオブは、タンタルやその他の不純物と比較して2-オクタノールとの親和性が高い電気特性、及びサイズを有しているため、非フッ酸系水溶液に2-オクタノールを接触させることでニオブは2-オクタノールからなる油相に抽出される。これにより、非フッ酸系水溶液はニオブを含む油相とタンタルを含む水相とに分離される。
【0041】
ここで、非フッ酸系水溶液に添加する抽出剤としては、2-オクタノール以外にも、1-オクタノール、3-オクタノール、或いは4-オクタノールを使用することもできるが、発明者らが検討した結果、2-オクタノールがニオブとの親和性が最も高く、また2-オクタノールは比較的低コストで入手ができるため、ニオブの回収率向上、及び回収コストの低減という観点では、抽出剤としては2-オクタノールを使用することが好ましい。
【0042】
なお、非フッ酸系水溶液に添加する抽出剤(2-オクタノール)の添加量は、非フッ酸系水溶液の容量を考慮し、溶媒抽出の分配平衡の原則に基づいて適宜調整することができる。
【0043】
油相に抽出されたニオブはそのままでは回収することができない。そこで、油相に対して水溶液(酸溶液)を添加してpHを-0.5~0の範囲に調整することで、油相に含まれるニオブを水溶液中に逆抽出する(工程22)。
【0044】
ここで、逆抽出時のpHは-0.5~0の範囲に限定されるものではないが、発明者らが検討した結果、本発明の実施形態においては、pHが0よりも高いとニオブの逆抽出が不完全で油相に多くのニオブが残る場合がある。一方、pHが-0.5よりも低いと酸濃度が高くなり、その後の処理が難しくなる。
【0045】
また、逆抽出に用いる水溶液としてはpHが-0.5~0の範囲に調整可能であれば特に限定されるものではないが、例えばイオン交換水、水道水、蒸留水、純水から任意の水溶液を選択することができる。
【0046】
油相のニオブを水溶液に逆抽出させることで、逆抽出後の水溶液から高濃度のニオブを回収することが可能となる。なお、平衡論に基づくと、抽出後の水相のニオブと油相のニオブとの比率は一定となる。従って、一度の抽出操作では水相に一定濃度のニオブが残るため、抽出後の水相に対しては再度、抽出剤を添加することで水相と油相とに分離させ、油相に対して逆抽出することで高濃度のニオブを回収することができる。
【0047】
以上のように、非フッ酸系水溶液に対して、抽出と逆抽出の操作を所定回数繰り返す多段抽出操作を行うことで、高濃度のニオブ水溶液とタンタル水溶液を得ることができ、得られたニオブ水溶液とタンタル水溶液からニオブ、及びタンタルを回収することが可能となる。
【0048】
なお、前記した工程では、油相に含まれるニオブを水溶液中に逆抽出したが、例えば逆抽出操作に代えて油相を所定温度で燃焼させることで、油相からニオブを回収することも可能である。
【0049】
[実施例]
次に本発明の実施例について説明する。
【0050】
<非フッ酸系水溶液の生成>
49%の硫酸(HSO)にニオブ(Nb)を340mg/L、タンタル(Ta)を107mg/L、鉄(Fe)を12mg/L、マンガン(Mg)を1.1mg/Lをそれぞれ溶解させて非フッ酸系水溶液を生成した。
【0051】
<油相と水相の分離>
非フッ酸系水溶液40mLに対して、抽出剤として40mLの2-オクタノールを接触させ撹拌し所定時間だけ静置すると、水溶液は油相と水相とに分離した。そして、分離後の水相に含まれる各成分の残存量をICP発光分光分析装置により分析した結果、39%のニオブが油相側に抽出した。
【0052】
<油相からの逆抽出>
ニオブを抽出した油相に対して、40mLのイオン交換水を接触させ撹拌し所定時間だけ静置すると、油水分離した。そして、水相に含まれる各成分量をICP発光分光分析装置により分析した結果、1段階の逆抽出操作により、油相中のニオブの81%が水相に逆抽出する結果となった。
【0053】
以上より、2-オクタノールで多段抽出を行えば、ニオブとタンタルを十分な濃度で相互分離可能であり、例えばニオブの抽出率は5段階の抽出操作で91.6%、10段階で99.3%に達することが確認できた。
【0054】
以上、本発明に係るニオブ、及びタンタルの回収方法は、非フッ酸系水溶液中に溶解するニオブ、及びタンタルを分離し回収することができるものとなっている。
図1
図2