(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172093
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】対面キッチン構造
(51)【国際特許分類】
A47B 77/02 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A47B77/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089614
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591035416
【氏名又は名称】ニホンフラッシュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 元吾
(72)【発明者】
【氏名】金子 敦子
(72)【発明者】
【氏名】浦川 みさ子
(72)【発明者】
【氏名】野澤 伸二
【テーマコード(参考)】
3B260
【Fターム(参考)】
3B260DA01
3B260DA11
(57)【要約】
【課題】設置強度を維持しつつ、開放感の向上と圧迫感の抑制とを両立すること。
【解決手段】対面キッチン構造は、キッチン空間(S1)において居住空間(S2)に対面するように配置されたシステムキッチンキャビネット(10)と、システムキッチンキャビネットの背面部(10b)に固定され、居住空間に露出する表面(20a)を有する対面パネル(20)と、建物の床(92)に固定されて対面パネルを下方から支持し、対面パネルの裏面(20b)と面一状の裏面(40b)を有する台輪(40)とを備える。台輪の厚みは、対面パネルの厚みよりも小さく、台輪の表面が、対面パネルの表面よりも奥側にずれた位置で居住空間に露出している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における対面キッチン構造であって、
キッチン空間において居住空間に対面するように配置されたシステムキッチンキャビネットと、
前記システムキッチンキャビネットの背面部を覆うように前記背面部に固定され、前記居住空間に露出する表面を有する対面パネルと、
前記建物の床に固定されて前記対面パネルを下方から支持し、前記対面パネルの裏面と面一状の裏面を有する台輪とを備え、
前記台輪の厚みは、前記対面パネルの厚みよりも小さく、
前記台輪の表面が、前記対面パネルの表面よりも奥側にずれた位置で前記居住空間に露出している、対面キッチン構造。
【請求項2】
前記台輪および前記対面パネルの裏面と前記システムキッチンキャビネットの前記背面部との間に位置し、前記台輪および前記対面パネルの接続状態を補強する補強板をさらに備える、請求項1に記載の対面キッチン構造。
【請求項3】
前記システムキッチンキャビネットの側面部を覆い、前記対面パネルの横幅方向端部と交差する側面パネルをさらに備え、
前記台輪は、前記対面パネルおよび前記側面パネルの両方を支持するようにL字状に配置されている、請求項1に記載の対面キッチン構造。
【請求項4】
前記対面パネルの横幅方向端部と前記側面パネルとを連結するパネル連結部材をさらに備え、
前記パネル連結部材は、前記対面パネルおよび前記側面パネルの裏面に固定されるL字状断面の裏側連結具と、前記対面パネルおよび前記側面パネルの上端面に固定される平面視L字状の上側連結具とを含む、請求項3に記載の対面キッチン構造。
【請求項5】
前記対面パネルおよび前記側面パネルの上端面には、それぞれの横幅方向に沿って溝部が設けられており、
前記溝部に嵌合して固定され、前記対面パネルおよび前記側面パネルの上端面を覆う笠木部材をさらに備え、
前記上側連結具は、前記溝部内に収容され、前記笠木部材によって被覆されている、請求項4に記載の対面キッチン構造。
【請求項6】
前記システムキッチンキャビネットは、前記キッチン空間の側方の壁に交差して配置されており、
前記対面パネルの横幅方向端部と前記壁とを連結する連結部材をさらに備える、請求項1に記載の対面キッチン構造。
【請求項7】
前記台輪は、前記対面パネルの下端面に設けられた凹部に嵌合する凸部を有している、請求項1~6のいずれかに記載の対面キッチン構造。
【請求項8】
前記凹部は、前記対面パネルの厚み方向中央部に設けられている、請求項7に記載の対面キッチン構造。
【請求項9】
前記凸部は、前記台輪の厚み方向において前記居住空間側に偏って配置されており、前記台輪の表面と面一状の表側端面を有している、請求項8に記載の対面キッチン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物における対面キッチン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
今般の住宅では、ダイニングやリビングなどの居住空間に対面するようにシステムキッチンを設けた対面キッチンが主流である。対面キッチンの種類としては、主に、住宅の壁に交差するように薄型のキャビネット(システムキッチンキャビネット)を配置した「I型キッチン」と、居住空間側からも利用できる大型の天板を備えた「アイランド型キッチン」がある。また、アイランド型キッチンに用いられる大型のキャビネットを住宅の壁に付けて配置した「ペニンシュラ型キッチン」も存在する。
【0003】
I型キッチンは一般的に、キャビネットの背面(居住空間側の面)のコンロ側の部分が、床から天井まで延びる袖壁(典型的には配管用空間を確保するための壁)に覆われ、背面の残り部分は、居住空間から利用可能な棚やカウンターが設けられる。
【0004】
アイランド型キッチンのキャビネットは、背面が露出することを前提に作られているため、背面部に予め化粧材が施されている。あるいは、特開2005-65792号公報(特許文献1)に開示されているように、キャビネット本体の背面部に、天板の突出部を支持する天板受け材を介して、化粧パネルを設けたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
I型キッチンに用いられる薄型のキャビネットは、キッチン空間から見てコンロ前方に袖壁があるため設置強度を維持できる一方で、アイランド型キッチンやペニンシュラ型キッチンに比べて開放感が低下する。これに対し、アイランド型キッチンやペニンシュラ型キッチンは、キッチン空間から見て視界を遮る壁がないため、高い開放感を得ることができる。
【0007】
しかしながら、アイランド型キッチンやペニンシュラ型キッチンのキャビネットはI型キッチンに用いられるキャビネットよりも奥行が大きく1000mm程度あるため、圧迫感がある。また、居住空間が狭くなり、居住空間を有効活用できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、設置強度を維持しつつ、開放感の向上と圧迫感の抑制とを両立することのできる対面キッチン構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う対面キッチン構造は、キッチン空間において居住空間に対面するように配置されたシステムキッチンキャビネットと、システムキッチンキャビネットの背面部を覆うように背面部に固定され、居住空間に露出する表面を有する対面パネルと、建物の床に固定されて対面パネルを下方から支持し、対面パネルの裏面と面一状の裏面を有する台輪とを備える。台輪の厚みは、対面パネルの厚みよりも小さく、台輪の表面が、対面パネルの表面よりも奥側にずれた位置で居住空間に露出している。
【0010】
好ましくは、対面キッチン構造は、台輪および対面パネルの裏面とシステムキッチンキャビネットの背面部との間に位置し、台輪および対面パネルの接続状態を補強する補強板をさらに備える。
【0011】
好ましくは、対面キッチン構造は、システムキッチンキャビネットの側面部を覆い、対面パネルの横幅方向端部と交差する側面パネルをさらに備え、台輪は、対面パネルおよび側面パネルの両方を支持するようにL字状に配置されている。
【0012】
好ましくは、対面キッチン構造は、対面パネルの横幅方向端部と側面パネルとを連結するパネル連結部材をさらに備え、パネル連結部材は、対面パネルおよび側面パネルの裏面に固定されるL字状断面の裏側連結具と、対面パネルおよび側面パネルの上端面に固定される平面視L字状の上側連結具とを含む。
【0013】
好ましくは、対面パネルおよび側面パネルの上端面には、それぞれの横幅方向に沿って溝部が設けられており、対面キッチン構造は、溝部に嵌合して固定され、対面パネルおよび側面パネルの上端面を覆う笠木部材をさらに備える。この場合、上側連結具は、溝部内に収容され、笠木部材によって被覆されていることが望ましい。
【0014】
好ましくは、システムキッチンキャビネットは、キッチン空間の側方の壁に交差して配置されており、対面キッチン構造は、対面パネルの横幅方向端部と壁とを連結する連結部材をさらに備える。
【0015】
好ましくは、台輪は、対面パネルの下端面に設けられた凹部に嵌合する凸部を有している。その場合、凹部は、対面パネルの厚み方向中央部に設けられていることが望ましい。また、凸部は、台輪の厚み方向において居住空間側に偏って配置されており、台輪の表面と面一状の表側端面を有していることがより望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、設置強度を維持しつつ、開放感の向上と圧迫感の抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る対面キッチンを模式的に示す平面図である。
【
図2】キッチン空間側から対面キッチンを見た模式図である。
【
図3】居住空間側から対面キッチンを見た模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるシステムキッチンキャビネットの支持構造を模式的に示す部分断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態における対面パネルの正面図である。
【
図6】本発明の実施の形態における対面パネルの縦断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態における対面パネルの底面図である。
【
図8】本発明の実施の形態における側面パネルの正面図である。
【
図9】本発明の実施の形態における側面パネルの底面図である。
【
図10】本発明の実施の形態における台輪を示す上面図である。
【
図11】本発明の実施の形態における台輪の縦断面図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図13】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図14】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図15】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図17】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図18】本発明の実施の形態に係る対面キッチンの施工方法の説明図である。
【
図19】本実施の形態における台輪の比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
<対面キッチン構造について>
図1~
図4を参照して、キッチン空間S1および居住空間S2を有する建物に設置された対面キッチン1の概略構造について説明する。
図1は、本実施の形態に係る対面キッチン1を模式的に示す平面図である。
図2は、キッチン空間S1側から(
図1のII方向から)対面キッチン1を見た模式図であり、
図3は、居住空間S2側から(
図1のIII方向から)対面キッチン1を見た模式図である。
図4は、
図1のIV-IV線に対応する対面キッチン1の部分断面図である。
図1では、システムキッチンキャビネット10の横幅方向(左右方向)が矢印A1で示され、奥行き方向(前後方向)が矢印A2で示されている。
【0020】
実施の形態における建物は、典型的には住宅であり、たとえば集合住宅である。
図1に示すように、キッチン空間S1および居住空間S2が、共通の壁91に沿って配置されている。壁91は、床92から天井93(
図2)まで延びる壁であり、たとえば集合住宅の界壁、外壁、および間仕切り壁のいずれかである。なお、居住空間S2は、キッチン空間S1と扉レスで連通する空間であり、ダイニングやリビングなどの居室空間、および、通路(廊下)などの非居室空間を含む。
【0021】
本実施の形態における対面キッチン1は、主に、キッチン空間S1において居住空間S2に対面するように配置されたシステムキッチンキャビネット(以下「キャビネット」と略す)10と、キャビネット10の背面部10bおよび側面部10cを覆うパネル部材20,30と、パネル部材20,30を下方から支持する台輪40とを備えている。台輪40は住宅の床92に固定され、台輪40に支持されたパネル部材20,30がキャビネット10の背面部10bおよび側面部10cのそれぞれに、ネジ、ビス、釘等の締結具(以下「ネジ」という)で固定される。これにより、キャビネット10は安定した状態で設置される。
【0022】
以下の説明において、パネル部材20,30を区別する必要がある場合には、キャビネット10の背面部10bを覆うパネル部材20を「対面パネル20」、キャビネット10の側面部10cを覆うパネル部材30を「側面パネル30」という。また、これらを単にパネル20,30とも称する。
【0023】
(キャビネット)
キャビネット10は、コンロ11、シンク12、および天板部13を一体的に有する横長のキャビネットであり、典型的には、I型キッチンに用いられる既存の製品(流通品)である。キャビネット10の奥行き寸法は800mm以下であり、一例として600mm程度である。キャビネット10の横幅寸法はたとえば1500~2600mm程度である。なお、
図2に示す天板部13の位置高さ(床92からの高さ)H1は、たとえば800~900mm程度である。
【0024】
キャビネット10は、壁91に交差して配置されている。つまり、キャビネット10の長手方向(横幅方向)が壁91に対して垂直となるよう配置されている。本実施の形態において、キャビネット10の横幅方向一方側の側面部10cが、壁91に固定されている。キャビネット10は、表面10a側から着脱可能な引き出し等を備えている。なお、壁91は、少なくともキッチン空間S1の側方に位置していればよく、居住空間S2側に無くてもよい。
【0025】
(対面パネル)
図5~
図7を参照して、対面パネル20について説明する。
図5は対面パネル20の正面図である。
図6は対面パネル20の縦断面図であり、
図5のVI-VI線に沿う断面を示す。
図7は対面パネル20の底面図であり、
図5の矢印VII方向から見た図である。
【0026】
図5に示されるように、対面パネル20は、正面から見て左右方向に長い矩形形状のパネルである。対面パネル20の高さ寸法L1は、キャビネット10の(天板部13における)高さ寸法よりも100~300mm程度大きく、たとえば900~1200mmである。対面パネル20の横幅寸法L2は、キャビネット10の横幅寸法と同等であり、たとえば1500~2600mmである。対面パネル20の厚み寸法L3は、たとえば40~60mmである。
【0027】
対面パネル20の構成例を
図6に示す。対面パネル20は、たとえば、縦桟および横桟を含むフレーム部材23と、フレーム部材23の厚み方向(奥行き方向)両側に固定された一対の薄板部材21,22とにより構成される。一方の薄板部材21が対面パネル20の表面20aを構成し、他方の薄板部材22が対面パネル20の裏面20bを構成する。
図1、
図3および
図4に示されるように、対面パネル20は、設置状態において、表面20aの全体が居住空間S2に露出する。
【0028】
図5~
図7に示すように、対面パネル20は、下端面20cの厚み方向中央部に、台輪40と係合する凹部24を有している。凹部24は、対面パネル20の左右方向一端から他端まで直線状に設けられている。
図7に示す凹部24の幅(奥行き方向長さ)W1は、たとえば20~45mmである。
図6に示す凹部24の深さD1は、たとえば10~30mmである。以下の説明において、対面パネル20の下端面20cのうちの凹部24以外の部分を、便宜上、垂下部27a,27bと称する。
【0029】
図7を参照して、本実施の形態における垂下部27a,27bの厚みW2,W3は互いに等しい。垂下部27a,27bの厚みW2,W3は、台輪40の切欠き寸法(
図11に示す切欠き部44の奥行き方向長さ)と略等しく、たとえば5~20mmである。
【0030】
本実施の形態の対面パネル20は、
図4に示す笠木部材50と別体であり、対面パネル20の上端面20dに、笠木部材50と係合する溝部25が設けられている。
図7に示されるように、溝部25も同様に、対面パネル20の左右方向一端から他端まで直線状に設けられている。溝部25の幅も凹部24の幅W1と同じであってよい。
【0031】
なお、薄板部材21,22は、木質ボードとその表面に貼り付けられた化粧シート(防湿シート)とを含むことが望ましい。本実施の形態では、表面側の薄板部材21を左右方向において複数枚に分割することにより、対面パネル20の表面20aの二か所に縦目地(スリット)26が形成されている。
【0032】
(側面パネル)
図8~
図9を参照して、側面パネル30について説明する。
図8は側面パネル30の正面図である。
図9は側面パネル30の底面図であり、
図8の矢印IX方向から見た図である。
【0033】
図8に示されるように、側面パネル30は、対面パネル20よりも横幅の狭い矩形形状のパネルである。側面パネル30の高さ寸法L4および厚み寸法L6は、対面パネル20の高さ寸法L1および厚み寸法L3と同じである。側面パネル30の横幅寸法L5は、キャビネット10の奥行き寸法よりも若干大きい程度であればよく、たとえ600~800mmである。
【0034】
側面パネル30の基本構成は、対面パネル20と同様である。側面パネル30は、フレーム部材(図示せず)と、フレーム部材の厚み方向(奥行き方向)両側に固定された一対の薄板部材31,32とを含む。側面パネル30は、フレーム部材の左右方向両端面を覆う一対の側板部材38,39をさらに含む。一方の薄板部材31は側面パネル30の表面30aを構成し、他方の薄板部材32は側面パネル30の裏面30bを構成する。一対の側板部材38,39は、側面パネル30の左右方向両端面30e,30fを構成する。
【0035】
図1~
図3に示されるように、側面パネル30は、設置状態において、対面パネル20の左右方向の一方の端面(以下「側端面」ともいう)20fを覆うように配置される。側面パネル30の表面30aの全体が、側方空間S3に露出する。また、側面パネル30の左右方向両端面がキッチン空間S1および居住空間S2に露出する。側方空間S3は居住空間S2の一部とみなしてもよいし、キッチン空間S1の一部とみなしてもよい。
【0036】
図8および
図9に示すように、側面パネル30は、下端面30cに、台輪40と係合する凹部34を有し、上端面30dに、笠木部材50と係合する溝部35を有している。凹部34および溝部35は、対面パネル20の凹部24および溝部25と同様に、側面パネル30の左右方向一端から他端まで直線状に設けられている。側面パネル30の下端面30cのうちの凹部34以外の部分は、台輪40の切欠き寸法(
図11に示す切欠き部44の奥行き方向長さ)と同等の厚みを有する垂下部37a,37bを構成する。
【0037】
図9に示されるように、下端面30cの長手方向端部(対面パネル20との交差部側の端部)には、設置状態において対面パネル20の凹部24に連なるように、凹部34から裏面30bに至る切欠き部34aが設けられている。上端面30dも同様に、溝部35から裏面30bに至る切欠き部(図示せず)が設けられている。
【0038】
なお、薄板部材31,32および側板部材38,39は、木質ボードとその表面に貼り付けられた化粧シート(防湿シート)とを含むことが望ましい。本実施の形態では、表面側の薄板部材31を左右方向において複数枚に分割することにより、側面パネル30の表面30aの二か所に縦目地36が形成されている。この際、化粧シートを縦目地36においてのみ分割することで、側面パネル30の角部に化粧シートの継ぎ目が表われないようにすることが望ましい。
【0039】
(台輪)
図10および
図11を参照して、台輪40について説明する。
図10は、設置状態における台輪40を示す上面図である。
図11は、台輪40の断面図であり、
図10のXI-XI線に沿う断面を示す。
【0040】
図10に示されるように、台輪40は、対面パネル20および側面パネル30の両方を支持するようにL字状に設けられている。すなわち、台輪40は、対面パネル20を下方から支持する部分(以下「長尺部」という)41と、側面パネル30を下方から支持する部分(以下「短尺部」という)42とを含む。長尺部41および短尺部42は、互いに直交する。
【0041】
図11を参照して、台輪40の構造例について説明する。ここでは便宜上、長尺部41に注目して説明するが、短尺部42も同様であるものとする。台輪40は、略矩形状断面を有している。すなわち、台輪40は、居住空間S2側の表面40aと、キッチン空間S1側の裏面40bと、床92に接する底面40cと、上端面40dとを有している。
【0042】
台輪40の上端面40dには、キッチン空間S1側の角部をL字状に切り欠いた切欠き部44が形成されている。これにより、台輪40は、上端部に、上方に突出する凸部43を有している。設置状態において、凸部43は、対面パネル20の下端面20cに設けられた凹部24に嵌合する。
【0043】
凸部43を含む台輪40の高さ寸法L11は、30~90mmであり、50mm以上80mm以下であることが望ましい。50mm未満であると、凸部43の突出寸法の確保と、設置状態における対面パネル20の浮遊感との両立が困難となるためである。80mmを超えると、対面パネル20の安定的な支持が困難となるためである。
【0044】
台輪40の厚み寸法L12は、対面パネル20の厚み寸法L3未満であり、かつ、対面パネル20の凹部24の幅W1より大きい。凸部43の幅は、凹部24の幅W1と略等しい(若干小さい)。切欠き部44の切欠き寸法、すなわち凸部43の突出寸法D2は、凹部24の深さD1と略等しい(若干小さい)。
図11に示されるように、凸部43は、台輪40の厚み方向において居住空間S2側に偏って配置されており、凸部43の表側端面43aは台輪40のフラットな表面40aと面一状となっている。
【0045】
図9に示されるように、長尺部41の短尺部42側の端面、および、短尺部42の長尺部41側の端面は、互いに面接触するように切断された切断面となっている。これにより、長尺部41の凸部43と短尺部42の凸部43とが、居住空間S2側においてL字状に(途切れることなく)連続する。
【0046】
(笠木部材)
図1および
図4を参照して、笠木部材50について簡単に説明する。
【0047】
図1に示されるように、笠木部材50は、台輪40と同様に、平面視L字状に形成されており、対面パネル20の上端面20dを覆う長尺部51と、側面パネル30の上端面30dを覆う短尺部52とを含む。長尺部51および短尺部52は、互いに直交する。長尺部51と短尺部52との接続形態(勝ち負け)は、典型的には、対面パネル20と側面パネル30との接続形態に従う。
【0048】
図4を参照して、笠木部材50の構造例について説明する。ここでは便宜上、長尺部51に注目して説明するが、短尺部52も同様であるものとする。笠木部材50は、平坦な矩形状断面の本体部53と、本体部53の下端面から下方に突出し、対面パネル20の溝部25に嵌合する凸部54とを含む。
【0049】
<対面キッチンの施工方法>
対面キッチン1の施工は、工場で予め製造されたパネル20,30、台輪40、および笠木部材50を現場で組み付けることにより実行可能である。対面キッチン1の施工方法は、たとえば、次の工程1~7を含む。
【0050】
(工程1:台輪設置工程)
図10に示すように、はじめに、台輪40を床92に固定する。すなわち、台輪40を構成する長尺部41および短尺部42を、施工図面に従ってネジ81で固定する。この際、切欠き部44がキッチン空間S1側となるように台輪40を施工する。
【0051】
具体的な施工順序は次の通りである。まず、長尺部41の長手方向一方側の端面が壁91に接し、かつ、壁91に直交するように長尺部41を位置決めし、その後、ネジ81で固定する。続いて、短尺部42の長手方向一方側の端面(切断面)が長尺部41の長手方向他方側の端面(切断面)に面接触し、かつ、壁91と平行になるよう短尺部42を位置決めし、その後、ネジ81で固定する。これにより、台輪40が、床92上にL字状に配置される。
【0052】
図11に示すように、ネジ81は、台輪40の凸部43を貫通するように打ち込まれる(捩じ込まれる)ことが望ましい。凸部43には、工場または現場にてネジ81挿通用の下孔があけられていてもよい。ネジ81は、頭部が台輪40の上端面40dから出ないように、一定ピッチで打ち込まれる。このようにして、L字状の台輪40が床92に強固に固定される。
【0053】
(工程2:パネル仮置き工程)
次に、台輪40上に、パネル20,30を仮置きする。この際、パネル20,30を先に仮固定(連結)してから、台輪40上に載置してもよい。
【0054】
具体的には、
図12を参照して、対面パネル20の側端面20fに側面パネル30を突き合わせ、その状態で、両パネル20,30の上端部を連結する。両パネル20,30を付き合わせた状態において、交差部(コーナー部)の上端面にはL字状の溝が形成される。この溝は、対面パネル20の溝部25と側面パネル30の溝部35および切欠き部35aとにより形成されている。このL字状の溝に、平面視L字状の連結金具61を嵌め入れて、ネジ82により連結金具61とパネル20,30とを固定する。
【0055】
このようにして、対面パネル20と側面パネル30とが、連結金具61を介して仮固定される。連結金具61は、パネル連結部材の一つである。以下の説明において、L字状に仮固定されたパネル20,30を、単に「L型パネル」ともいう。
【0056】
次に、L型パネルを、台輪40上に載置する。すなわち、台輪40の凸部43に、対面パネル20および側面パネル30の凹部24,34を嵌合させて、L型パネルを仮置きする。
図13に、L型パネルを構成する対面パネル20が、台輪40の長尺部41上に仮置きされた状態の断面を示す。
【0057】
上述のように、対面パネル20の下端の凹部24は厚み方向中央位部に設けられているのに対し、台輪40の凸部43は、厚み方向において居住空間S2側に偏っている。そのため、
図13に示すように、対面パネル20の裏面側の垂下部27bは台輪40の切欠き部44上に載せられるのに対し、表面側の垂下部27aは床92から浮いた状態となっている。つまり、対面パネル20は、垂下部27aの厚み分(たとえば5~15mm)だけ台輪40よりも居住空間S2側に張り出している。対面パネル20の下端面20cの位置高さは、20~80mmであり、50mm以上であることが望ましい。なお、垂下部27aの厚み、すなわち台輪40の表面40aを基準とした対面パネル20の張り出し寸法は、8mm以上であることが望ましい。
【0058】
また、上述のように、裏面側の垂下部27bの厚みは台輪40の切欠き寸法と略等しいことから、
図13に示されるように、設置状態において、対面パネル20の裏面20bと台輪40の裏面40bとが面一状である。「面一状」とは、両者の間に段差がなく、あったとしても、誤差程度(たとえば5mm以下)であることを意味する。
【0059】
側面パネル30と台輪40との接続態様も、対面パネル20と台輪40との接続態様と同様であるものとする。側面パネル30の垂下部37aは、台輪40よりも側方空間S3側に張り出す。
【0060】
(工程3:補強板設置工程)
台輪40上にL型パネルを仮置きした後、補強板71により両者の接続状態を補強する。
図14に、対面パネル20と台輪40とが補強板71により補強された状態を示す。
【0061】
図14を参照して、台輪40の裏面40bおよび対面パネル20の裏面20bに、補強板71をネジ83により固定する。補強板71は、高さ方向において、台輪40の裏面40bと対面パネル20の裏面20bの下方領域とに跨って配置される。上述のように、仮置き状態において、対面パネル20の裏面20bと台輪40の裏面40bとが面一状であるため、補強板71を、両面20b,40bに面接触させた状態で固定することができる。これにより、台輪40と対面パネル20との接続状態を補強することができる。
【0062】
補強板71は、側面パネル30側にも施工される。すなわち、台輪40の裏面40bと側面パネル30の裏面30bの下方領域とに跨って配置される補強板71を、ネジ83により両面40b,30bに固定する。
【0063】
なお、補強板71は、各パネル20,30の横幅方向の略全体に亘って配置されることが望ましく、ネジ83によって(一定ピッチで)複数箇所、固定されることが望ましい。また、補強板71は、床92に接した状態(載せられた状態)で配置されることが望ましい。
【0064】
(工程4:不燃板設置工程)
続いて、
図15に示すように、対面パネル20の裏面20bの上端領域に、不燃性の化粧板72をたとえば接着剤により固定する。なお、側面パネル30の裏面30bへの化粧板72の固定は不要である。
【0065】
(工程5:連結金具施工工程)
次に、
図16に示すように、対面パネル20の横幅方向両端部を、壁91および側面パネル30のそれぞれに本固定する。対面パネル20の横幅方向一方端部と壁91とは、L型金具62を用いて裏面20b側から連結される。対面パネル20の横幅方向他方端部と側面パネル30の横幅方向一方端部とは、L型金具63を用いて裏面20b側から連結される。これにより、仮固定状態であった両パネル20,30が本固定(連結)される。
【0066】
L型金具62,63は、L字状断面の連結金具である。L型金具62は、壁連結部材であり、対面パネル20の裏面20bと壁91との交差部に配置されてネジ84により固定される。L型金具63は、上述の連結金具61とともにパネル連結部材として機能し、対面パネル20の裏面20bと側面パネル30の裏面30bとの交差部に配置されてネジ85により固定される。連結金具61は上側連結具、L型金具63は裏側連結具である。L型金具62,63による固定高さは、パネル20,30の中央部であり、補強板71よりも上方、かつ、キャビネット10に隠れる高さである。なお、各L型金具62,63は複数設けられてもよい。
【0067】
(工程6:キャビネット固定工程)
次に、壁91およびL型パネル(対面パネル20、側面パネル30)に三方が囲まれた空間に、キャビネット10を嵌め込み、キャビネット10の内側から固定する。具体的には、
図17に示すように、キャビネット10の背面部10bを、対面パネル20に固定するとともに、キャビネット10の一方の側面部10cを壁91に固定し、他方の側面部10dを側面パネル30に固定する。キャビネット10の各部の固定には、ネジ86が用いられる。ネジ86は、補強板71よりも上方位置に施工される。なお、キャビネット10の底面部は床92に固定される。あるいは、床92に固定されなくてもよい。
【0068】
図4に示されるように、対面パネル20の裏面20bとキャビネット10の背面部10bとは、補強板71を間に挟んで固定される。これにより、キャビネット10の背面部10bの全体が、補強板71で補強された対面パネル20によって覆われる。同様に、キャビネット10の側面部10dの全体が、補強板71で補強された側面パネル30によって覆われる。
【0069】
(工程7:笠木固定工程)
最後に、
図18に示すように、L型パネル(対面パネル20および側面パネル30)の上端に笠木部材50を被せて固定する。笠木部材50は、L型パネルの溝部25,35に嵌合して固定される。パネル仮置き工程で施工された連結金具61は、溝部25,35に収容されているため、笠木部材50によって被覆される。なお、笠木部材50は、接着剤等により確りと固定される。
【0070】
上記の工程1~7を経て、対面キッチン1が完成する。
図2を参照して、完成後の対面キッチン1におけるパネル20,30の上端高さ(または笠木部材50の設置高さ)H2は、キャビネット10の天板部13の設置高さH1よりも100mm上方であるため、水跳ねや油跳ねを防止可能である。
【0071】
完成後の対面キッチン1によると、
図2に示されるように、キッチン空間S1から見て視界を遮る壁がなく、対面パネル20の上方空間は、天井93に取り付けられた換気フード80を除いて遮るものがない。完成後の対面キッチン1におけるパネル20,30の上端高さH2は1300mm以下である。したがって、本実施の形態に係る対面キッチン構造によれば、高い開放感を得ることができる。その結果、多方向から対面キッチン1にアクセスできるため、キッチン空間S1で調理する居住者は、家族とのつながりを常に感じることができ、楽しく調理することができる。
【0072】
また、本実施の形態のキャビネット10の奥行き寸法は600mm程度(800mm以下)であるため、アイランド型キッチンやペニンシュラ型キッチンのような圧迫感を抑えることができる。また、居住空間S2を有効活用することができる。
【0073】
さらに、本実施の形態では、台輪40の表面40a(凸部43以外の部分)が対面パネル20の表面20aよりも奥側にずれた位置で居住空間S2に露出しているため、表面40aに影ができ、居住空間S2から対面キッチン1を見た場合に対面パネル20が床92から浮いたように見える。したがって、対面キッチン1の圧迫感をさらに抑制することができる。また、台輪40とパネル20,30との嵌合状態を上記のようにすることで、仮置き時の安定性および美観を維持することが可能である。このことについては比較例を用いて後述する。
【0074】
ここで、このような奥行きの小さいキャビネット10の背面部10b側に壁がない場合、地震等の外力への耐性が懸念される。本実施の形態では、対面パネル20の下端部を台輪40に嵌合させた状態で、対面パネル20をキャビネット10の背面部10bに固定することにより、設置強度を維持可能としている。特に、台輪40および対面パネル20の裏面40b,20bとキャビネット10の背面部10bとの間に、両者の接続状態を補強する補強板71を配置したことにより、設置強度の向上が可能となる。また、対面パネル20の横幅方向両端部のそれぞれが、壁連結部材(L型金具62)およびパネル連結部材(L型金具63、連結金具61)を介して壁91および側面パネル30に拘束されるため、キッチン空間S1で調理をしている居住者がキャビネット10にもたれて荷重をかけたとしても、対面パネル20の損傷や脱落を防止することができる。
【0075】
なお、46mmの厚みを有するパネル20,30を用いて、人的荷重、地震力を想定した水平載荷試験を行った。この試験では、居住空間S2側から対面パネル20の上部への載荷試験、キッチン空間S1側からキャビネット10の上部中央への載荷試験を個別に行った。人的荷重の設計荷重490N載荷時には、どちらの試験も対面パネル20の頂部の変位はごく僅かであり、対面パネル20の損傷は認められなかった。また、地震時設計荷重に対する最大荷重の安全率は2倍以上であり、このとき転倒などは生じず、破壊する様子は見られなかった。この結果から、本実施の形態に係る対面キッチン1は、コンロ11前に壁がなくても十分な強度があり、大地震にも耐え得ることが確認できた。
【0076】
<台輪の比較例>
図19(A)~(D)は、台輪40の比較例を示す。
【0077】
図19(A)に示す台輪40Aは、キッチン空間S1側に偏って配置された凸部43を有している。また、対面パネル20Aの凹部24も、下端面20cの中央ではなくキッチン空間S1側に偏って配置されており、裏面側の垂下部を有さない。この場合、対面パネル20Aを台輪40Aに仮置きする際に厚み方向(奥行き方向)の位置が定まらず、補強板71を施工するまでの間、不安定となる。
【0078】
図19(B)に示す台輪40Bは、厚み方向中央位置に凸部32を有している。対面パネル20Bの凹部24は、上述の実施例の対面パネル20と同様に厚み方向中央位置に設けられている。この場合、対面パネル20Bの浮遊感を出しつつ、台輪40Bによって対面パネル20Bを安定的に支持することができるが、台輪40Bと補強板71との間に隙間が生じるので、設置強度が劣る。
【0079】
図19(C)には、対面パネル20Cの凹部24の位置を若干、裏面側(キッチン空間S1側)にずらして、台輪40Cの裏面と対面パネル20Cの裏面とを面一状にした例が示されている。この場合、対面パネル20Cの裏面側の垂下部27bの肉厚が表面側の垂下部27aよりも薄くなるため、仮置き状態または補強板71施工状態において、対面パネル20の垂下部27bが破損するおそれがある。また、台輪40Cの表面に施工した化粧シート48の上端縁がめくれやすくなり、美観を損なうおそれがある。
【0080】
図19(D)には、対面パネル20Dの下端面20cに凸部29を設け、台輪40Dに、凸部29に嵌合する凹部49を設けた例が示されている。この場合、台輪40Dの凹部49よりも表側部分49aの肉厚が薄くなるので、その分、居住空間S2側に反りやすくなる(矢印参照)。
【0081】
以上の比較例より、本実施例における対面パネル20および台輪40の嵌合状態が、安定性、設置強度、および美観の点において優れていることが分かる。
【0082】
<変形例>
本実施の形態では、対面パネル20が側面パネル30と連結されてL型パネルを構成することとしたが、このような例に限定されない。また、本実施の形態では、対面パネル20の横幅方向端部が住宅の壁91に固定されることとしたが、このような例に限定されない。また、キャビネット10がI型である例を示したが、キャビネット10がL型であってもよい。
【0083】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 対面キッチン、10 システムキッチンキャビネット、20 対面パネル、30 側面パネル、24,34 凹部、25,35 溝部、40 台輪、43,54 凸部、50 笠木部材、61 連結金具、62,63 L型金具、71 補強板、72 化粧板、91 壁、92 床、93 天井、S1 キッチン空間、S2 居住空間、S3 側方空間。