(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001721
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法及び多孔質フィルム
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20231227BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20231227BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20231227BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20231227BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20231227BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20231227BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20231227BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
B29C55/06
C08J9/00 A CES
B29C48/08
B29C48/305
B29C44/00 E
B29C67/20 B
B29K23:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100569
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】新津 太一
(72)【発明者】
【氏名】村川 航平
【テーマコード(参考)】
4F074
4F207
4F210
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA21A
4F074AA98A
4F074AB00
4F074AB03
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4F207AA03
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4F207AH63
4F207AR06
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4F214UN04
4F214UN64
4F214UP84
4F214UW12
4F214UW14
4F214UW36
(57)【要約】
【課題】延伸工程を経て製造されたフィルムが、高分子鎖の配向の緩和によって収縮することを抑制すること。
【解決手段】溶融樹脂をダイから押し出して、一方向に延びるフィルムに製膜し;製膜によって得られたフィルムを搬送させながら長手方向に延伸させ;延伸されたフィルムを搬送させながら第1の熱処理を施し;熱処理後のフィルムを巻き取る、工程を有するフィルムの製造方法であって;熱処理後のフィルムを巻き取る直前に、該フィルムに第2の熱処理を施す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をダイから押し出して、一方向に延びるフィルムに製膜し、
製膜によって得られたフィルムを搬送させながら長手方向に延伸させ、
延伸されたフィルムを搬送させながら第1の熱処理を施し、
熱処理後のフィルムを巻き取る、工程を有するフィルムの製造方法であって、
熱処理後のフィルムを巻き取る直前に、該フィルムに第2の熱処理を施す、フィルムの製造方法。
【請求項2】
第2の熱処理を施しながら前記フィルムを搬送方向に収縮させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第2の熱処理を、延伸の温度よりも高温で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第1の熱処理による加熱温度T2と、延伸の温度T1との差が、T2>T1であることを条件として、5℃以上70℃以下である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第2の熱処理を非接触式で行う、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、無機充填剤を50質量部以上400質量部以下含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が90℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶融樹脂は、前記無機充填剤100質量部に対して、金属石鹸を0.5質量部以上15質量部以下含み、脂肪酸を0.5質量部以上5質量部以下を含む請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属石鹸の析出温度をTs(℃)とし、前記オレフィン系樹脂組成物の固化温度をTp(℃)としたとき、Ts-Tpの値が0℃より大きい、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記溶融樹脂は、前記オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、トリグリセリドを0.1質量部以上30質量部以下含む、請求項6ないし9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記オレフィン系樹脂組成物は、その密度が0.840g/cm3以上0.900g/cm3未満である、請求項6ないし10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、無機充填剤を50質量部以上400質量部以下含み、
前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が90℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含み、
機械方向の柔軟変形度が0.060N/(mm・(g/m2))以下であり、
機械方向の熱収縮率が8%以下である、多孔質フィルム。
【請求項13】
前記オレフィン系樹脂組成物は、その密度が0.840g/cm3以上0.900g/cm3未満である、請求項12に記載の多孔質フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムの製造方法に関する。また本発明は多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品に用いられる裏面シートとして、しばしば多孔質フィルムが用いられる。多孔質フィルムからなる裏面シートを備えた吸収性物品は、その装着状態において着用者の身体から生じた湿気が裏面シートを通じて外部へ放出されやすいので、装着状態での蒸れが生じにくくなるという利点がある。
【0003】
多孔質フィルムの製造方法として一般に知られている方法では、熱可塑性樹脂及び無機充填剤を含む樹脂組成物を溶融させ、溶融物をダイから押し出してフィルムを製膜し、そのフィルムを延伸して多数の微細孔を該フィルム中に発生させた後に熱処理を施してロール状に巻き取ることが行われている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-110052号公報
【特許文献2】特開2000-001557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の方法では、フィルムを延伸させることによって該フィルムを構成する樹脂の高分子鎖が一方向に引き伸ばされて配向する。配向した高分子鎖はその後の熱処理によって分子配向が緩和されて結晶構造が安定化する。しかし、樹脂の種類によっては、熱処理後の巻き取り工程において加わる張力によって高分子鎖の配向が再び生じ、その配向が長時間を経て緩和するときにフィルムが収縮する場合がある。そのようなフィルムが捲回状態になっている場合は、フィルムの収縮に伴い巻き締まりが生じ、フィルム同士が固着してフィルムを繰り出せなくなってしまうことがある。また、そのようなフィルムを吸収性物品に組み込んだ場合、長時間を経てフィルムが収縮することに起因して吸収性物品に反りが生じ、吸収性物品が所期の性能を発揮し得ないことがある。この現象は、小さな張力で変形しやすい柔軟なフィルムに顕著に見られる。
したがって本発明の課題は、延伸に起因する高分子鎖の配向が緩和されたフィルムの製造方法及び多孔質フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、溶融樹脂をダイから押し出して、一方向に延びるフィルムに製膜し、
製膜によって得られたフィルムを搬送させながら長手方向に延伸させ、
延伸されたフィルムを搬送させながら第1の熱処理を施し、
熱処理後のフィルムを巻き取る、工程を有するフィルムの製造方法であって、
熱処理後のフィルムを巻き取る直前に、該フィルムに第2の熱処理を施す、フィルムの製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、無機充填剤を50質量部以上400質量部以下含み、
前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が90℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含み、
機械方向の柔軟変形度が0.060N/(mm・(g/m2))以下であり、
機械方向の熱収縮率が8%以下である、多孔質フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、延伸工程を経て製造されたフィルムが、高分子鎖の配向の緩和によって収縮することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の方法に用いられるフィルムの製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の方法に用いられるフィルムの製造装置の一実施形態が模式的に示されている。同図に示す装置10は、溶融混練部20、成形部30、延伸部40、第1の熱処理部50、冷却部60、スリット部70、第2の熱処理部80、及び巻き取り部90を、搬送方向に沿って有している。以下、装置10の各部についてそれぞれ説明する。
【0011】
溶融混練部20は押出機22を有している。押出機22は通常の構造のものでありシリンダ(図示せず)内にスクリュー(図示せず)が備えられている。押出機22は、フィルムの原料である樹脂組成物を供給するためのホッパー21を備えている。更に押出機22は、その先端に、溶融した樹脂組成物を吐出するための定量ポンプ23を備えている。定量ポンプ23から吐出された溶融物は、フィルタ24を通過して異物が除去された後に成形部30へ送出されるようになっている。
【0012】
成形部30はダイ31を備えている。ダイ31としては当該技術分野においてフィルムの製造に通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。典型的にはTダイを用いることができる。尤もTダイを用いることに限られず、その他のダイ、例えばインフレーション法に用いられる円形ダイを用いることもできる。
Tダイにおいては、ダイ31の下流側に、ダイ31によって製膜されたフィルムを固化して形態を整えるため、エアチャンバー(図示せず)と製膜ロール32aとが対になって設置される場合と、
図1に示すとおり一対の製膜ロール32aとニップロール32bとが対になって設置される場合とがある。これらのうち、エアチャンバー及び製膜ロール32aを用いる場合には、エアチャンバーのエアー吹き出し口が製膜ロール32aの回転軸に平行になるように配置される。一方、製膜ロール32a及びニップロール32bを用いる場合には、それらの回転軸が平行になるように且つそれらの周面が当接するように配置される。フィルムを固化して形態を整える最中にサージングなどの成形不良が起こりにくい観点から、エアチャンバーと製膜ロール32aとが対になって設置されることが好ましい
【0013】
延伸部40はロール延伸機を備えている。ロール延伸機は、一対のニップロール41a,41bと、該ニップロールよりも下流側に位置する別の一対のニップロール42a,42bとを備えている。一対のニップロール41a,41bの周速V1とし、別の一対のニップロール42a,42bの周速をV2としたとき、V1及びV2はそれぞれ独立に設定可能になっている。本実施形態ではV1<V2となるように、各ニップロールの周速が設定される。これによって、製膜されたフィルムは二対のニップロール間で、搬送方向、すなわち長手方向に沿って一軸延伸されるようになっている。
なお、図示していないが、ニップロール41a,41bと、ニップロール42a,42bとの間に、周速V1’で回転する別のニップロールを更に設置し、V1<V1’<V2となるように、各ニップロールの周速を設定して、延伸を二段で行ってもよい。
また、延伸部40として、上述したロール延伸機を用いる代わりに、テンター延伸機やマンドレル延伸機などを用いることもできる。また、延伸は上述した一軸延伸に限られず、延伸機の種類に応じて二軸延伸を行ってもよい。
【0014】
第1の熱処理部50は、第1ヒートロール51及び第2ヒートロール52を備えている。第1及び第2ヒートロール51,52は、それらの回転軸が平行になるように且つそれらの周面が離間するように配置されている。各ヒートロール51,52には加熱手段(図示せず)が備えられており、それぞれ独立の温度に加熱可能になっている。
【0015】
冷却部60は、第1チルロール61及び第2チルロール62を備えている。第1及び第2チルロール61,62は、それらの回転軸が平行になるように且つそれらの周面が離間するように配置されている。各チルロール61,62には冷却手段(図示せず)が備えられており、それぞれ独立の温度に冷却可能になっている。
【0016】
スリット部70にはスリット刃71が備えられている。スリット刃71は一般に円盤状のものであり、その面がフィルムの搬送方向と平行になるように設置されている。スリット刃71は、フィルムをスリットする数に応じて1個又は複数個が配置される。
【0017】
第2の熱処理部80は加熱手段81を備えている。加熱手段81としては、第1の熱処理部50に備えられているようなヒートロールなどの接触式加熱手段、及び赤外線ヒーターや熱風吹き付け装置などの非接触式加熱手段を用いることができる。
【0018】
巻き取り部90はワインダー91を備えている。第2の熱処理部80までを経て搬送されてきたフィルムは、ワインダー91に巻き取られてロール状物となる。
【0019】
以上の構成を有する装置10を用いたフィルムの製造方法について説明すると、先ずホッパー21に供給するコンパウンドとしては、熱可塑性樹脂を含むものが用いられる。コンパウンドは熱可塑性樹脂に加え、フィルムの具体的な用途に応じて他の成分を含むことができる。例えばフィルムとして多孔質フィルムを製造する場合には、該多孔質フィルムの原料となるコンパウンドは、熱可塑性樹脂に加えて無機充填剤を含むことができる。無機充填剤は、目的とするフィルムに多数の開孔を生じさせるために用いられる。開孔を首尾よく生じさせる観点から、コンパウンドは無機充填剤とともに金属石鹸を含むことも有利である。更に、目的とするフィルムに撥水性を付与したい場合には、コンパウンドはトリグリセリドを含んでいてもよい。コンパウンドに含まれるこれらの成分の詳細については後述する。
【0020】
ところでコンパウンドに金属石鹸を添加すると、目的とする多孔質フィルムの透湿度が高くなる(つまり、微細孔が多く、空隙率が大きくなる)ことが知られている。その結果、該透湿フィルムは柔軟になる。このことに起因して、多孔質フィルムは、その搬送中に一層伸ばされやすくなり、それによって熱収縮率が高くなり、巻き締まりが発生しやすくなる。これに対して本発明の製造方法によれば、熱収縮が効果的に抑制された多孔質フィルムが得られるので、本発明は、樹脂組成物中に金属石鹸が含有されている多孔質フィルムの製造に特に有効である。
【0021】
ホッパー21に供給されたコンパウンドは、押出機22中で加熱混練されて溶融樹脂となる。溶融樹脂は、定量ポンプ23によって定量的に吐出されフィルタ24を通過した後に、ダイ31を通じて押し出されて、一方向に延びるフィルム1aに製膜される。この状態でのフィルム1aは未延伸状態のフィルムである。未延伸フィルム1aは、製膜ロール32aとニップロール32bとの間を通過することでフィルムとしての形態が整えられた後に延伸部40へ搬送される。
【0022】
延伸部40において未延伸フィルム1aは、搬送されながら延伸処理を受ける。延伸処理は、一対のニップロール41a,41bによって未延伸フィルム1aの把持しつつ、別の一対のニップロール42a,42bによって未延伸フィルム1aを把持した状態で、ニップロール42a,42bの周速V2を、ニップロール41a,41bの周速V1よりも高くすることで、未延伸フィルム1aを、その搬送方向(つまり長手方向)に沿って一軸延伸することで達成される。その結果、未延伸フィルム1aは、延伸フィルム1bとなる。未延伸フィルム1a中に無機充填剤が含まれている場合には、延伸処理によってフィルム中に多数の微細孔が形成される。
なおニップロール41a,41bと、ニップロール42a,42bとの間に、周速V1’で回転する一対のニップロール(図示せず)を更に設置した場合には、V1<V1’<V2となるように、各ニップロールの周速を設定して、延伸を二段で行うことができる。
【0023】
延伸処理における未延伸フィルム1aの延伸倍率は、目的とするフィルムの用途等に応じ適切に設定すればよい。例えば多孔質フィルムを製造する場合には、延伸を一段及び二段のいずれで行う場合にも、一軸方向に1.1倍以上5.5倍以下の倍率で延伸することが、微細孔を首尾よく生じさせる観点から好ましい。
未延伸フィルム1aの延伸温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば熱可塑性樹脂が後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、延伸温度を好ましくは30℃以上100℃以下、更に好ましくは35℃以上95℃以下、一層好ましくは40℃以上90℃以下に設定することが、延伸を首尾よく行い得る点から有利である。
【0024】
延伸処理によって得られた延伸フィルム1bにおいては、これを構成する樹脂の高分子鎖が延伸方向(つまり搬送方向)に配向した状態になっている。分子配向した状態は熱力学的に不安定な状態であることから、分子配向を緩和して熱力学的に安定な状態にすることが、延伸フィルム1bの寸法安定性の観点から好ましい。この観点から、延伸処理によって得られた延伸フィルム1bは、搬送されながら第1の熱処理部50において熱処理を受ける。熱の付与によって、延伸フィルム1bを構成する樹脂の高分子鎖の分子配向が緩和されるとともに、分子鎖の結晶化が生じる。
【0025】
第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの加熱の程度は、延伸フィルム1bを構成する樹脂の種類に応じて適切に選択すればよい。例えば延伸フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、延伸フィルム1bを好ましくは50℃以上に加熱することが、確実な分子配向の緩和の観点から好ましい。この観点から、延伸フィルム1bの加熱は、60℃以上であることが更に好ましく、70℃以上が一層好ましい。加熱温度の上限は130℃以下であることが、延伸フィルム1bが溶断することを防ぐ観点から好ましい。この観点から、延伸フィルム1bの加熱は125℃以下であることが更に好ましく、120℃以下が一層好ましい。以上を総合すると、延伸フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、延伸フィルム1bの加熱の程度は、50℃以上130℃以下であることが好ましく、60℃以上125℃以下であることが更に好ましく、70℃以上120℃以下であることが一層好ましい。なお、第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの加熱温度とは、第1及び第2ヒートロール51,52の周面の温度のことである。第1及び第2ヒートロール51,52の周面の温度が異なる場合には、高い方の温度のことである。
【0026】
第1の熱処理部50で行う熱処理は、延伸部40で行った延伸処理の温度よりも高温で行うことが好ましい。こうすることで、フィルム1bの高分子鎖に生じた配向を確実に緩和することができる。
第1の熱処理部50による加熱温度T2と、延伸部40における延伸温度T1との差は、T2>T1であることを条件として、5℃以上70℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることが更に好ましく、15℃以上50℃以下であることが一層好ましい。このような温度関係で熱処理を行うことで、フィルム1bにおける高分子鎖の配向を確実に緩和することができる。
【0027】
延伸フィルム1bの加熱による高分子鎖の配向の緩和は、該フィルム1bの延伸方向(つまり搬送方向)への収縮を伴う。そこで、高分子鎖の配向の緩和を確実に行う観点から、第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの搬送速度を、延伸部40における延伸フィルム1bの搬送速度よりも低くすることが好ましい。こうすることで、第1の熱処理部50におけるフィルムを搬送方向に引っ張る力が弱まるので、第1の熱処理部50による延伸フィルム1bの収縮が促進される。つまり、熱処理を施しながらフィルム1bを搬送方向に収縮させることができる。しかし、第1の熱処理部における延伸フィルム1bの搬送速度を低くし過ぎると、フィルムは弛み、ロールに巻き付いてしまう。この観点から、延伸部40における延伸フィルム1bの搬送速度をV2とし、第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの搬送速度をV3としたとき、V2/V3を好ましくは0.40以上0.95以下、更に好ましくは0.45以上0.92以下、一層好ましくは0.50以上0.90以下に設定することが有利である。この速度関係で熱処理した場合の延伸フィルム1bの収縮率を、好ましくは5%以上60%以下、更に好ましくは8%以上55%以下、一層好ましくは10%以上50%以下に設定することが好ましい。
【0028】
第1の熱処理部50による加熱によって分子配向が緩和された延伸フィルム1bは次いで、冷却部60に搬送されて、搬送されながら冷却処理を受ける。延伸フィルム1bの冷却処理は、分子配向が緩和された状態を固定化する目的で行われる。したがって、冷却部60における延伸フィルム1bの冷却の程度は、延伸フィルム1bを構成する樹脂の種類に応じて適切に選択すればよい。例えば延伸フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、延伸フィルム1bを好ましくは50℃以下に冷却することが、分子配向の緩和の確実な固定化の観点から好ましい。この観点から、延伸フィルム1bの冷却は、45℃以下であることが更に好ましく、40℃以下が一層好ましい。冷却温度の下限は0℃以上であることが、経済性の観点から好ましい。この観点から、延伸フィルム1bの冷却は5℃以上であることが更に好ましく、10℃以上が一層好ましい。以上を総合すると、延伸フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂である場合には、延伸フィルム1bの冷却の程度は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上45℃以下であることが更に好ましく、10℃以上40℃以下であることが一層好ましい。なお、冷却部60における延伸フィルム1bの冷却温度とは、第1及び第2チルロール61,62の周面の温度のことである。第1及び第2チルロール61,62の周面の温度が異なる場合には、低い方の温度のことである。
【0029】
分子配向の緩和が固定化された延伸フィルム1bは、次いでスリット部70に搬送され、搬送されながら複数条にスリットされる。スリットされた延伸フィルム1bは、巻き取り部90においてワインダー91に巻き取られる。
【0030】
而して本実施形態においては、熱処理後の延伸フィルム1bを巻き取る直前に、該フィルム1bに第2の熱処理部80において2回目の熱処理を施す。2回目の熱処理を施す目的は以下に述べるとおりである。
ワインダー91で巻き取られるまでに、搬送されるフィルム1bには所定の張力が繰り返し加わっている。この場合、フィルムを構成する樹脂の種類によっては、搬送の張力に起因して再び高分子鎖の配向が生じ、分子配向したままの状態のフィルム1bがワインダーに巻き取られる。また、スリット工程においてもフィルム1bに張力が加わることから、このことに起因しても高分子鎖の配向が生じやすい。特にフィルム1bが、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合、フィルム1bは小さな張力でも変形しやすく、フィルム1bが変形すると高分子鎖は配向するので、この現象が起こりやすい。分子配向したままの状態のフィルム1bは、時間の経過とともに分子配向が次第に緩和される。その結果フィルム1bには、延伸方向(つまり搬送方向)に沿う収縮が生じ、寸法安定性が低下する。フィルム1bが捲回状態である場合には、フィルム1bの巻き締まりが発生する。フィルム1bが、物品に組み込まれた状態である場合には、該物品に反りが生じる。このような収縮の発生を抑制する目的で、本実施形態においては、第2の熱処理部80において2回目の熱処理を行い、搬送の張力に起因して生じた高分子鎖の配向を緩和する。この目的のために、2回目の熱処理は、フィルム1bを巻き取る直前で行うことが有利である。換言すれば、第2の熱処理部80は巻き取り部90の直前に位置することが有利である。第2の熱処理部80と巻き取り部90との間に距離があると、両者の間において、搬送の張力に起因してフィルム1bの高分子鎖が再び配向するおそれがあるからである。
巻き取り部90の直前とは、第1の熱処理部50から巻き取り部90まで搬送されるフィルムの長さ(すなわちフィルムの搬送経路長)において、該長さの1/2よりも巻き取り部90に近い位置のことをいう。搬送の張力に起因して生じた高分子鎖の配向を緩和する観点から、スリット部70よりも巻き取り部90に近い位置であることが好ましい。
【0031】
なお、第1の熱処理部50で行う1回目の熱処理と、第2の熱処理部80で行う2回目の熱処理とは、両熱処理の間に熱処理以外の他の工程が1以上介在することによって区別される。他の工程としては、例えば先に述べた冷却工程やスリット工程が挙げられる。したがって熱処理以外の他の工程が介在することなく、連続して熱処理を行う場合(例えば
図1に示すとおり、延伸フィルム1bを複数のヒートロール51,52に連続して接触させる場合)には、それら一連の熱処理は単一の熱処理とみなす。
【0032】
第2の熱処理部80で行う2回目の熱処理は、第1の熱処理部50に備えられているようなヒートロール51,52を用いた接触式加熱手段を用いて行うことができる。あるいは、赤外線ヒーターや熱風吹き付け装置などの非接触式加熱手段を用いることもできる。これらの加熱手段のうち、非接触式加熱手段を用いると、フィルム1bに熱が加わって若干の軟化状態になり粘着性が発現したとしても、該フィルム1bの搬送、及び第2の熱処理部80の直後に位置する巻き取り部90におけるフィルム1bの巻き取りに支障を来すことがないので好ましい。
【0033】
第2の熱処理部80で行う2回目の熱処理は、延伸部40で行った延伸処理の温度よりも高温で行うことが好ましい。こうすることで、フィルム1bの高分子鎖に生じた再び配向を確実に緩和することができる。
第2の熱処理部80におけるフィルム1bの加熱の程度は、延伸部40における延伸温度よりも高いことを条件として、例えば該フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、延伸フィルム1bを好ましくは50℃以上に加熱することが、確実な分子配向の緩和の観点から好ましい。この観点から、フィルム1bの加熱は、60℃以上であることが更に好ましく、70℃以上が一層好ましい。加熱温度の上限は130℃以下であることが、フィルム1bが溶断することを防ぐ観点から好ましい。この観点から、フィルム1bの加熱は125℃以下であることが更に好ましく、120℃以下が一層好ましい。以上を総合すると、フィルム1bを構成する樹脂が、後述する低融点オレフィン系樹脂を含む場合には、第2の熱処理部80におけるフィルム1bの加熱の程度は、50℃以上130℃以下であることが好ましく、60℃以上125℃以下であることが更に好ましく、70℃以上120℃以下であることが一層好ましい。
【0034】
第2の熱処理部80による加熱温度T3と、延伸部40における延伸温度T1との差は、T3>T1であることを条件として、5℃以上70℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることが更に好ましく、15℃以上50℃以下であることが一層好ましい。このような温度関係で熱処理を行うことで、フィルム1bにおける高分子鎖の配向を確実に緩和することができる。
なお、第1の熱処理部50による加熱温度T2と、第2の熱処理部80による加熱温度T3とは、T2>T3であってもよく、T2<T3であってもよく、あるいはT2=T3であってもよい。高分子鎖の配向を確実に緩和するためには、T2<T3であることが好ましい。
【0035】
第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの加熱と同様に、第2の熱処理部80における延伸フィルム1bの2回目の加熱による高分子鎖の配向の緩和も、該フィルム1bの延伸方向(つまり搬送方向)への収縮を伴う。そこで、高分子鎖の配向の緩和を確実に行う観点から、巻き取り部90における延伸フィルム1bの巻き取り速度を、第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの搬送速度よりも低くすることが好ましい。こうすることで、巻き取り部90と第1の熱処理部50の間のフィルムに働く張力が小さくなり、第2の熱処理部80における延伸フィルム1bの収縮が促進される。つまり、第2の熱処理を施しながらフィルム1bを搬送方向に収縮させることができる。巻き取り速度を低くし過ぎると、フィルムは弛み、巻き取りが不安定になる。巻き取りが不安定になるとは、巻き取り時にフィルムが蛇行し、巻き崩れが生じる現象や、巻取り軸にフィルムが巻きつく現象が生じる懸念がある。これらの観点から、巻き取り部90における延伸フィルム1bの巻き取り速度をV4とし、第1の熱処理部50における延伸フィルム1bの搬送速度をV3としたとき、V3/V4を好ましくは0.8以上0.99以下、更に好ましくは0.85以上0.98以下、一層好ましくは0.90以上0.97以下に設定することが有利である。この速度関係で熱処理した場合の延伸フィルム1bの収縮率を、好ましくは1%以上20%以下、更に好ましくは2%以上15%以下、一層好ましくは3%以上10%以下に設定することが好ましい。
【0036】
このようにして得られたフィルム1bは、高分子鎖の配向が緩和されているので収縮が生じづらく寸法安定性に優れたものになる。具体的には、フィルム1bは、機械方向の熱収縮率が好ましくは8%以下、更に好ましくは6%以下という寸法安定性の高いものとなる。熱収縮率の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0037】
次に、本発明の製造方法で用いられるコンパウンドについて説明する。
コンパウンドは熱可塑性樹脂組成物、特にオレフィン系樹脂組成物を含むことが好ましい。本明細書において「熱可塑性樹脂組成物」は、各種の熱可塑性樹脂のみからなり、樹脂以外の成分を含まない概念である。
「オレフィン系樹脂組成物」は、各種のオレフィン系樹脂を1種のみ含む場合、及び2種以上含む場合の双方を包含する。また、「オレフィン系樹脂組成物」は、各種のオレフィン系樹脂のみからなり、他の樹脂及び樹脂以外の成分を含まない概念である。コンパウンドが、オレフィン系樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を含むことは妨げられない。
【0038】
コンパウンドに含まれる熱可塑性樹脂としては、フィルムの具体的な用途に応じて適切な樹脂が選択される。例えばオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを用いることができるが、これらに限られない。
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-αオレフィン共重合体樹脂などを用いることができる。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、分岐状低密度ポリエチレン(LDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)などを用いることができる。
【0039】
目的とするフィルムに柔軟性を付与したい場合には、コンパウンドがオレフィン系樹脂組成物を含み、該オレフィン系樹脂組成物が、オレフィン系樹脂として低融点オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。低融点オレフィン系樹脂は、エチレンとαオレフィンとのコポリマーであることが好ましい。αオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン及び1-ヘキセンなどが挙げられる。
【0040】
フィルムに柔軟性を付与する観点から、低融点オレフィン系樹脂は、その融点が90℃未満であることが好ましく、80℃未満であることが更に好ましく、70℃未満であることが一層好ましい。
同じく、フィルムに柔軟性を付与する観点から、低融点オレフィン系樹脂は、その密度が0.895g/cm3以下であることが好ましく、0.885g/cm3以下であることが更に好ましく、0.875g/cm3以下であることが一層好ましい。
また、低融点オレフィン系樹脂は、その密度が好ましくは0.840g/cm3以上であれば、目的とするフィルムにブロッキングが生じにくくなり、この観点から密度が0.850g/cm3以上であることが更に好ましく、0.860g/cm3以上であることが一層好ましい。
以上を総合すると、低融点オレフィン系樹脂は、その密度が0.840g/cm3以上0.895g/cm3以下であることが好ましく、0.850g/cm3以上0.885g/cm3以下であることが更に好ましく、0.860g/cm3以上0.875g/cm3以下であることが一層好ましい。
なお、前記の各密度は25℃における値である。以下の説明において「密度」という場合には、この温度で測定された値のことである。
【0041】
オレフィン系樹脂組成物は、上述した低融点オレフィン系樹脂を、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に30質量部以上含むことが、目的とするフィルムに満足すべき柔軟性を付与し得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、低融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に、更に好ましくは33質量部以上含まれ、一層好ましくは35質量部以上含まれる。
また、オレフィン系樹脂組成物は、上述した低融点オレフィン系樹脂を、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に95質量部以下含むことが、目的とするフィルムにブロッキングが生じにくくなることから好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、低融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に、更に好ましくは92質量部以下含まれ、一層好ましくは90質量部以下含まれる。
以上を総合すると、オレフィン系樹脂組成物は、上述した低融点オレフィン系樹脂を、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に30質量部以上95質量部以下含むことが好ましく、33質量部以上92質量部以下含むことが更に好ましく、35質量部以上90質量部以下含むことが一層好ましい。
【0042】
オレフィン系樹脂組成物が、上述した低融点オレフィン系樹脂に加えて高融点オレフィン系樹脂を含むと、熱処理において該高融点オレフィン系樹脂が結晶化し、熱収縮を低減できる点から好ましい。特に、溶融成形される多孔質フィルムの高速成形を実現する目的で、短時間の固化が実現されるようにする観点から、高融点オレフィン系樹脂は、融点が95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、110℃以上であることが一層好ましい。
【0043】
フィルムの柔軟性と熱収縮とを両立させる観点から、高融点オレフィン系樹脂は、その密度が比較的低いことが好ましく、具体的には0.950g/cm3以下であることが好ましく、0.940g/cm3以下であることが更に好ましく、0.930g/cm3以下であることが一層好ましい。
また、ブロッキングを生じにくくする観点から、高融点オレフィン系樹脂の密度は0.900g/cm3以上であることが好ましく、0.905g/cm3以上であることが更に好ましく、0.910g/cm3以上であることが一層好ましい。
以上を総合すると、高融点オレフィン系樹脂の密度は0.900g/cm3以上0.950g/cm3以下であることが好ましく、0.905g/cm3以上0.940g/cm3以下であることが更に好ましく、0.910g/cm3以上0.930g/cm3以下であることが一層好ましい。
前記の密度を有する高融点オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレンを用いることが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが、熱処理による結晶化が促進するため好ましい。特に、メタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンは、熱処理による結晶化が促進するので、より好ましい。
【0044】
メタロセン触媒とは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属をπ電子系のシクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル基等を含有する不飽和環状化合物で挟んだ構造の化合物であるメタロセンと、アルミニウム化合物等の助触媒とを組み合わせたものである。メタロセンとしては、例えば、チタノセン、ジルコノセン等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミノキサン、アルキルアルミニウム、アルミニウムハライド、アルキルアルミニウムハライド等が挙げられる。
【0045】
オレフィン系樹脂組成物は、上述した密度を有する高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に5質量部以上含むことが、熱処理にて高融点オレフィン系樹脂が結晶化し、熱収縮率を低減できるから好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、高融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に更に好ましくは8質量部以上含まれ、一層好ましくは10質量部以上含まれる。
また、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、上述した高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に70質量部以下含むことが、多孔質フィルムの柔軟性と両立させる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、高融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に更に好ましくは65質量部以下含まれ、一層好ましくは60質量部以下含まれる。
以上を総合すると、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、上述した密度を有する高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に5質量部以上70質量部以下含むことが好ましく、8質量部以上65質量部以下含むことが更に好ましく、10質量部以上60質量部以下含むことが一層好ましい。
【0046】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、密度が0.900g/cm3未満であることが好ましく、0.895g/cm3以下であることが更に好ましく、0.885g/cm3以下であることが一層好ましい。
また、オレフィン系樹脂組成物は、密度が好ましくは0.840g/cm3以上であればフィルムにブロッキングが生じにくくなる。この観点からオレフィン系樹脂組成物の密度は0.850g/cm3以上であることが更に好ましく、0.860g/cm3以上であることが一層好ましい。
以上を総合すると、オレフィン系樹脂組成物は、その密度が0.840g/cm3以上0.900g/cm3未満であることが好ましく、0.850g/cm3以上0.895g/cm3以下であることが更に好ましく、0.860g/cm3以上0.885g/cm3以下であることが一層好ましい。
【0047】
コンパウンドに含まれる無機充填剤は、目的とするフィルムとして多孔質フィルムを製造する場合に用いられる。無機充填剤は、熱可塑性樹脂との界面で剥離を生じて微細孔を形成させる物質である。この観点から、無機充填剤はその平均粒径D50が30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、また0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることが一層好ましい。無機充填剤の平均粒径D50とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積重量50質量%における重量累積粒径のことである。
【0048】
無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、燐酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト及びカーボンブラック並びにこれらの混合物が挙げられる。特に、上述した粒径に調整しやすいことから炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0049】
無機充填剤は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、特にオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以上含まれることが、十分な量の微細孔を形成して、多孔質フィルムの透湿性を十分に高くする点から好ましく、更に好ましくは60質量部以上であり、一層好ましくは80質量部以上である。
また、無機充填剤は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、特にオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、400質量部以下含まれることが、多孔質フィルムの防漏性を十分に高める観点から好ましく、更に好ましくは350質量部以下であり、一層好ましくは200質量部以下である。
【0050】
コンパウンド中に無機充填剤を配合して多孔質フィルムを製造する場合には、微細孔を首尾よく形成する目的で、無機充填剤に加えて金属石鹸も配合することが好ましい。金属石鹸は、コンパウンドから形成される樹脂フィルムを延伸して微細孔を発生させることを円滑に行う目的で用いられるものである。
特に、熱可塑性樹脂組成物として低融点オレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物を用いる場合には、目的とするフィルムに柔軟性が付与される一方で、フィルム延伸時に、無機充填剤との間での界面剥離が起こりづらくなる。そこで、低融点オレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物を用いる場合には、該オレフィン系樹脂組成物と無機充填剤との間での界面剥離を促進させる目的で金属石鹸を用いることが特に有利である。
【0051】
金属石鹸としては、脂肪酸の金属塩が好適に用いられる。脂肪酸としては、例えばカプリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、カプリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリル酸等が挙げられる。金属塩としては、これらの脂肪酸のカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の塩が挙げられる。
脂肪酸の金属塩に類似した物質であって且つ多孔質フィルムに配合される物質として脂肪酸そのものが知られている。脂肪酸は、無機充填剤の分散性を高める目的で用いられる。つまり脂肪酸は分散剤である。しかし脂肪酸は、熱可塑性樹脂組成物と無機充填剤との間での界面剥離を促進させる機能を有さない。したがって本発明においては、脂肪酸の金属塩と、脂肪酸とは、物質的に及び機能的に明確に区別される。
【0052】
金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して、0.5質量部以上含まれることが、微細孔を首尾よく発生させ得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して1.5質量部以上含まれることが更に好ましく、2.0質量部以上含まれることが一層好ましい。
また、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して、15質量部以下含まれることが、良好な成形性を維持する点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して、10質量部以下含まれることが更に好ましく、8質量部以下含まれることが一層好ましい。
以上を総合すると、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して、0.5質量部以上15質量部以下含まれることが好ましく、1.5質量部以上10質量部以下含まれることが更に好ましく、2.0質量部以上8質量部以下含まれることが一層好ましい。
【0053】
金属石鹸は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.5質量部以上含まれることが、微細孔を首尾よく発生させ得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して1.0質量部以上含まれることが更に好ましく、2.0質量部以上含まれることが一層好ましい。
また、金属石鹸は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下含まれることが、良好な成形性を維持する点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して15質量部以下含まれることが更に好ましく、10質量部以下含まれることが一層好ましい。
以上を総合すると、金属石鹸は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下含まれることが好ましく、1.0質量部以上15質量部以下含まれることが更に好ましく、2.0質量部以上10質量部以下含まれることが一層好ましい。
【0054】
金属石鹸は、前述したオレフィン系樹脂組成物との関係で、該金属石鹸の析出温度が、オレフィン系樹脂組成物の固化温度よりも高いものを用いることが、微細孔を首尾よく形成でき、高い透湿度を有し且つ高い耐水性を有する透湿フィルムが得られる観点から好ましい。詳細には、金属石鹸の析出温度が、オレフィン系樹脂組成物の固化温度よりも高いことで、オレフィン系樹脂組成物が固化するよりも早く金属石鹸が析出するので、該金属石鹸は無機充填剤の表面に円滑に移行できるようになる。その結果、延伸時における無機充填剤とオレフィン系樹脂組成物との離型性が良好になり、微細孔が円滑に生じる。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸の析出温度をTs(℃)とし、オレフィン系樹脂組成物の固化温度をTp(℃)としたとき、Ts-Tpの値が0℃よりも大きいことが好ましく、1℃以上であることが更に好ましく、2℃以上であることが一層好ましい。また、Ts-Tpの値は50℃以下であることが好ましい。
【0055】
Ts-Tpの値が前述の範囲であることを条件として、金属石鹸の析出温度Tsは80℃以上180℃以下であることが好ましく、90℃以上170℃以下であることが更に好ましく、100℃以上160℃以下であることが一層好ましい。
一方、オレフィン系樹脂組成物の固化温度Tpは、Ts-Tpの値が前述の範囲であることを条件として、60℃以上130℃以下であることが好ましく、70℃以上120℃以下であることが更に好ましく、80℃以上115℃以下であることが一層好ましい。
【0056】
金属石鹸の析出温度Tsは、ホットスターラーと熱電対を用い、以下の方法で測定される。ホットスターラーを使い、5.0gのパラフィンオイルに0.43gの金属石鹸を加え、攪拌しながら金属石鹸が溶解するまで加熱する。スターラーによる液の攪拌を止めたのち、パラフィンオイルの温度を降温速度0.2℃/minで下げていき、金属石鹸が析出してきたときのパラフィンオイルの温度を熱電対で読み取り、その温度を金属石鹸の析出温度とする。なお、パラフィンオイルを210℃に加熱したにもかかわらず、金属石鹸がパラフィンオイルに溶解しない場合には、析出温度は210℃と定義する。
一方、オレフィン系樹脂組成物の固化温度Tpは、JIS K 7121(補外結晶化終了温度の求め方)に準拠して、以下方法で測定される。およそ2.0mgの透湿フィルムを試料とし、示差走査熱量計(DSC7000X、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、測定温度範囲を30℃~260℃、昇温速度を10℃/min、降温速度を50℃/min、空気環境下、データサンプリング周期0.5sの条件で示差走査熱量測定(DSC)を実施する。得られたDSC曲線の降温過程には、オレフィン系樹脂組成物が固化(結晶化)する際に生じる発熱ピークが観察される。オレフィン系樹脂組成物の固化温度は、降温過程で最も発熱量の多いピークに対し、ピークの温度よりも低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ピークの低温側の曲線で傾きが最大となる2点のデータ間で引いた近似直線の交点の温度とする。発熱ピークが重なって2個以上存在する場合は、例えばソフトウェアPeakFit v4.12(株式会社ヒューリンクス製)を使用し、ピーク分離を行った後に前記方法で固化温度を求める。
【0057】
コンパウンドには撥水剤を添加することができる。こうすることで、目的とするフィルムに撥水性を付与することができる。特に、目的とするフィルムが多孔質フィルムである場合、つまり蒸気は透過させるが、水(液体の水)を透過させにくい性質を有するフィルムである場合、コンパウンドに撥水剤を添加することで、多孔質フィルムが水を一層透過させづらくなるので好ましい。
【0058】
撥水剤としては、トリグリセリドを用いることが好ましい。トリグリセリドを用いることで、多孔質フィルムの防漏性が高まる。特にトリグリセリドとして、炭素原子数16以上22以下である脂肪酸に由来する基を含み且つ当該基が不飽和結合及び置換基を有さない炭化水素基であるものを用いることが好ましい。かかるトリグリセリドを用いることで、該トリグリセリドを含む多孔質フィルムの防漏性がこれまでよりも高まる。
【0059】
上述の利点を一層顕著なものとする観点から、コンパウンドへのトリグリセリドの配合量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、特にオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましく、1.0質量部以上であることが一層好ましい。
また、フィルム成形性の観点から、トリグリセリドの配合量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、特にオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることが更に好ましく、20質量部以下であることが一層好ましい。
以上を総合すると、トリグリセリドの配合量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、特にオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上25質量部以下であることが更に好ましく、1.0質量部以上20質量部以下であることが一層好ましい。
【0060】
以上のとおりのコンパウンドを用い、本発明の方法によって製造されたフィルムは好ましくは多孔質の透湿フィルムであり、該フィルムは、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、無機充填剤を50質量部以上400質量部以下含むことが好ましい。この場合、オレフィン系樹脂組成物は、その密度が0.840g/cm3以上0.900g/cm3未満であることが好ましい。またオレフィン系樹脂組成物は、融点が90℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。更にオレフィン系樹脂組成物は、密度が0.840g/cm3以上0.895g/cm3以下である低融点オレフィン系樹脂を、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に30質量部以上95質量部以下含むことが、フィルムに柔軟性を付与する観点から好ましい。
柔軟性が付与されたフィルムは、その程度を柔軟変形度で表した場合、機械方向の柔軟変形度が好ましくは0.060N/(mm・(g/m2))以下という低い値を示し、更に好ましくは0.057N/(mm・(g/m2))以下、一層好ましくは0.055N/(mm・(g/m2))以下である。柔軟変形度の下限値は、フィルムの強度保持の観点から、0.005N/(mm・(g/m2))以上であることが好ましい。また、本発明の方法によって製造されたフィルムは、その機械方向の熱収縮率が上述のとおり8%以下、特に6%以下であることが好ましい。
【0061】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば
図1に示す装置10では、第2の熱処理部80の上流側にスリット部70が設置されていたが、該スリット部70を設置することは要しない。その代わりに、必要に応じ、巻き取られたフィルムを別工程で繰り出して、繰り出されたフィルムに対してスリット加工を施してもよい。
また、
図1に示す実施形態10では、第1の熱処理部50と第2の熱処理部80との間に冷却部60が設置されていたが、使用する熱可塑性樹脂の種類等によっては、冷却部60を設置することは要せず、第1の熱処理部50において加熱されたフィルムを自然冷却してもよい。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0063】
〔実施例1ないし5及び比較例1〕
以下の表1に示す成分を、同表に示す量となるように計量した。これらをヘンシェルミキサ(株式会社カワタ製)で混合した。得られた混合物を、二軸押出機(東洋精機製)を用い、設定温度180℃、スクリュー回転数180rpmの条件で混練し、ペレット化したコンパウンドを得た。表1中の組成の単位は質量部である。このコンパウンドを用い、
図1に示す装置10を用いて多孔質フィルムを製造した。
(2)フィルムの製膜
幅150mmのTダイ(東洋精機製)を用い、溶融したコンパウンドからフィルムを製膜した。Tダイの設定温度は200℃とした。
(3)フィルムの製造
得られた未延伸フィルムを一軸延伸して、多孔質となった延伸フィルムを得た。延伸温度は60℃、延伸倍率は2.5倍に設定した。
(4)第1の熱処理
2本のヒートロールを用いて延伸フィルムを熱処理した。ヒートロールの周面温度T2は、表2に示す値に設定した。また、ヒートロールの周速V3に対する、延伸部のロールの周速V2を、表2に示す値となるように設定した。
(5)冷却処理
2本のチルロールを用いて延伸フィルムを冷却処理した。チルロールの周面温度は、表2に示す値に設定した。
(6)スリット
延伸フィルムを複数条にスリットした。
(7)第2の熱処理
赤外線ヒーターを用いて延伸フィルムを熱処理した。熱処理は、フィルムの表面温度T3が、表2に示す値となるように行った。第2の熱処理は、巻き取りの直前で行った。
(8)巻き取り
巻き取り速度(周速)V4に対する、第1の熱処理部における延伸フィルムの搬送速度をV3の比を、表2に示す値となるように設定して巻き取りを行った。
【0064】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたフィルムについて以下の方法で熱収縮率及び柔軟変形度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0065】
〔熱収縮率〕
多孔質フィルムを60mm幅、100mm長さに切り出して3枚の試験片を得た。得た試験片を50℃の環境下に1日間保存した。保存後の多孔質フィルムの長さL1を測定し、(100-L1)の値を算出し、この値の平均値を多孔質フィルムの熱収縮率とした。
【0066】
〔柔軟変形度〕
多孔質フィルムを機械方向に150mm、幅方向に30mmに切り出して3枚の試験片を得た。得られた試験片を、該試験片の初期長L0が100mmとなるように、引張試験機(商品名:AG-1S、株式会社島津製作所製)に固定した。固定後、引張試験機が読み取る荷重をゼロとし、試験片を変形速度200mm/分でL0の1.3倍の長さまで伸長させた後、すぐに変形速度200mm/分でL0まで収縮させるサイクル試験を実施した。得られたデータから伸長過程における1.03倍変形時の荷重(F3%)を読み取り、下記式から柔軟変形度(N/(mm・(g/m2)))を算出した。なお、3枚の試験片の平均値を、多孔質フィルムの柔軟変形度とした。
柔軟変形度(N/(mm・(g/m2)))=F3%(N)/(0.03×30(mm)×フィルムの坪量(g/m2))
【0067】
【0068】
【0069】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた多孔質フィルムは熱収縮率が小さく、高分子鎖の配向が緩和されていることが分かる。これに対して比較例1で得られた多孔質フィルムは、熱収縮率が実施例よりも大きく、高分子鎖の配向の緩和が不十分であることが分かる。
また、各実施例で得られた多孔質フィルムは、比較例1で得られた多孔質フィルムに比べて柔軟性が高いことが分かる。