(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172104
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20241205BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089625
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 邦洋
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BC09
4J039BC12
4J039BC34
4J039BC65
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA03
4J039CA06
4J039DA01
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)に優れるインクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るインクジェットインク組成物は、ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系の、ものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系の、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
アセチレングリコール系界面活性剤を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記ベタインが、トリアルキルグリシンである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
樹脂を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記色材が、樹脂分散顔料、自己分散顔料、染料の何れかである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
無機微粒子を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
環状アミド類を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
記録媒体の搬送方向と交差する方向に形成されたインクを吐出するノズルが、前記記録媒体の印刷領域における前記交差する方向をカバーするように形成されたインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置に用いられる、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
吸収性記録媒体への記録に用いる、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項11】
トリエチレングリコールモノブチルエーテルを、インク組成物の総質量に対し1質量%以上含有しない、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を備える、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリントの用途が拡大しており、オフィス、家庭用の印刷機としての他、商業印刷、テキスタイルプリント等へも適用されている。インクジェット用インクとしては、環境負荷への配慮等から、水を液体成分の主成分として含む水系インクジェットインクの開発が行われている。その中で、インク機能向上のために、浸透溶剤を用いる検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、普通紙に対して記録が行われる、グリコールエーテル類の有機溶剤を浸透溶剤として含有する、水系のインクジェット記録用インクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)において未だ不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系の、ものである。
【0007】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上記一態様のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】インクジェット記録装置の構成を示す側断面図。
【
図2】インクジェットインク組成物の組成例及び評価結果を示す図(表1)。
【
図3】インクジェットインク組成物の組成例及び評価結果を示す図(表2)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.インクジェットインク組成物
本発明の一実施形態に係るインクジェットインク組成物は、ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系の、ものである。
【0011】
従来、水系のインクにおいて、特に普通紙などに記録を行う場合、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類の有機溶剤が浸透溶剤として用いられてきた。浸透溶剤は、記録媒体へのインクの浸透性、ぬれ広がり性、吐出安定性などを高める機能を有する。しかしながら、従来の浸透溶剤では、発色性及び吐出安定性において未だ不十分であった。
【0012】
今般、浸透溶剤としてジメチルイソソルビドを用いたところ、インクの浸透性(ぬれ広がり性)、吐出安定性をより向上でき、さらに発色性に優れることが判明した。ジメチルイソソルビドは、疎水性が高い一方で、分極率が高く水に溶けやすいので、水系のインクに用いることができる。そして、ジメチルイソソルビドには、記録媒体に対するインク滴の浸透性、特に記録媒体の平面方向へのぬれ広がり性に優れる効果があると推測する。
【0013】
ただし、ジメチルイソソルビドにおいては、やはり疎水性が高いためインクの乾燥が進んだ時に異物化し、インクジェットヘッドに目詰まりが発生する傾向があった。そこで、鋭意検討したところ、インクにベタインを用いることで、目詰まり発生を低減できることが分かった。これは、ベタインが有する強力な保水性によると推測する。
【0014】
よって、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)に優れたものとできる。
【0015】
以下、本実施形態に係るインクジェットインク組成物が含有する各成分について説明する。なお、以下において、インクジェットインク組成物を単に「インク組成物」や「インク」ということがある。また、「吐出安定性」とは、特に断りがない限り、目詰まり回復及び間欠性の両者における吐出安定性を意味する。
【0016】
1.1 ジメチルイソソルビド
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、ジメチルイソソルビドを含有する。ジメチルイソソルビドは、水に溶けやすく、記録媒体に対するインク滴の浸透性を向上できる効果があると推測する。さらに、ジメチルイソソルビドは、疎水性の化合物を水に可溶化する作用も有すると推測されるが、ジメチルイソソルビドは環状構造であるため樹脂部材へのアタック性が比較的低いため、インク中で他の成分の安定性を損ね保存安定性が悪化することが少ない。加えて、ジメチルイソソルビドは、環状構造であるため、直鎖構造の化合物と比べて粘度が低く、吐出安定性の点で有利である。
【0017】
ジメチルイソソルビドは、別名として、イソソルビドジメチルエーテル、1,4:3,6-ジアンヒドロ-2-O,5-O-ジメチル-D-グルシトールなどとも呼ばれる。
【0018】
ジメチルイソソルビドの含有量の下限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、1.5質量%以上がよりさらに好ましく、2.0質量%以上が特に好ましく、2.5質量%以上がより特に好ましい。ジメチルイソソルビドの含有量が上記範囲であると、インクの浸透性(ぬれ広がり性)がより向上し、発色性により優れる傾向にある。
【0019】
ジメチルイソソルビドの含有量の上限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましく、7質量%以下が特に好ましく、5質量%以下がより特に好ましい。ジメチルイソソルビドの含有量が上記範囲であると、吐出安定性やインクの保存安定性により優れる傾向にある。
【0020】
1.2 ベタイン
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、ベタインを含有する。
【0021】
ベタインとは、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に有しており、正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合しておらず、分子内塩を構成しており分子全体としては電荷を持たない化合物を意味する。また、ベタインは、アミノ基とカルボキシ基の両方の官能基を有する化合物であることが好ましい。アミノ基は、安定性の観点から、3級アミノ基及び4級アミノ基が好ましい。このようなベタインとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルグリシン、ジメチルアラニン、ジメチルグルタミン酸、及びジエチルグリシンなどの3級ベタイン;トリメチルグリシン、トリメチルアラニン、トリメチルグルタミン酸、及びトリエチルグリシンなどの4級ベタインが挙げられる。
【0022】
3級ベタインの中でも、ジメチルグリシン、及びジエチルグリシンなどのジアルキルグリシンが好ましい。また、4級ベタインの中でも、トリメチルグリシン、及びトリエチルグリシンなどのトリアルキルグリシンが好ましい。
【0023】
これらの中でも、ベタインは、トリアルキルグリシンが好ましい。トリアルキルグリシンとしては、トリメチルグリシン、トリエチルグリシンから選ばれる1種以上が好ましく、トリメチルグリシンがより好ましい。このようなベタインを用いることにより、インク組成物の保湿性、吸湿性がより良好となり、吐出安定性(目詰まり回復性)がより向上する傾向にある。なお、ベタインは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ベタインを構成する炭素数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~7であり、さらに好ましくは4~6である。ベタインの炭素数が上記範囲内であることにより、帯電性異物の混入などの外乱に対する安定性がより向上し、インクの保存安定性がより向上する場合がある。
【0025】
ベタインの含有量の下限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がよりさらに好ましく、3.0質量%以上が特に好ましく、4.0質量%以上がより特に好ましい。ベタインの含有量が上記範囲であると、目詰まり発生をより低減でき、吐出安定性(目詰まり回復性)により優れる傾向にある。
【0026】
ベタインの含有量の上限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下がよりさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましく、8質量%以下がより特に好ましい。ベタインの含有量が上記範囲であると、発色性により優れる傾向にある。
【0027】
1.3 色材
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、色材を含有する。色材としては、例えば、顔料及び染料が挙げられる。
【0028】
1.3.1 顔料
顔料としては、例えば、カーボンブラック、チタンホワイトを含む無機顔料、有機顔料等を用いることができる。
【0029】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0030】
カーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。デグサ社製のカラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等を例示できる。コロンビアカーボン社製のコンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等を例示できる。キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等を例示できる。
【0031】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0032】
インクジェットインク組成物に用いられる有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0033】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0034】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0035】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、155、及び180からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0036】
オレンジ顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ36若しくは43又はこれらの混合物を例示できる。グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7若しくは36又はこれらの混合物を例示できる。
【0037】
また、光輝性顔料を用いてもよく、媒体に付着させたときに光輝性を呈しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、及び銅からなる群より選択される1種又は2種以上の合金(金属顔料ともいう)の金属粒子や、パール光沢を有するパール顔料を挙げることができる。パール顔料の代表例としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。また、光輝性顔料は、水との反応を抑制するための表面処理が施されていてもよい。
【0038】
また、白色顔料を用いてもよく、例えば、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよい。
【0039】
上記顔料は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性の観点から有機顔料であることが好ましい。
【0040】
顔料の体積平均粒子径(D50)は、動的光散乱法で計測した場合の体積平均粒子(D50)が20nm以上300nm以下であり、より好ましくは体積平均粒子径(D50)が30nm以上200nm以下、さらに好ましくは体積平均粒子径(D50)が40nm以上100nm以下である。
【0041】
体積平均粒子径の測定は、例えば、マイクロトラックベル社製のナノトラックシリーズ粒子系分布測定装置により測定すればよい。また、体積平均粒子径の調整方法としては、例えば、分散前の顔料の粉砕の程度を調整する方法、分散時の攪拌条件(例えば、攪拌速度、攪拌温度等)による調整方法、分散後のフィルターを用いた濾過による調整方法などが挙げられる。
【0042】
顔料は、顔料分散剤を用いて分散して用いてもよい。また顔料は、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0043】
(樹脂分散顔料)
顔料分散剤は、顔料をインクジェットインク組成物中で分散させる機能を有している。顔料分散剤は、水溶性のものでもよいが、完全な水溶性を有さないものが好ましく、一部又は全部が顔料に結合又は吸着して、顔料の表面の親水性を高めることにより、顔料を分散させると考えられる。顔料分散剤は、高分子化合物であることが好ましく、樹脂であることがより好ましい。なお、樹脂である顔料分散剤により分散させた顔料を、特に樹脂分散顔料ともいう。
【0044】
顔料分散剤の樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、等のアクリル系樹脂及びその塩が挙げられる。なお、本明細書では(メタ)アクリル酸に由来する骨格を有し、マレイン酸又はその類似化合物に由来する骨格を有しない重合体をアクリル系樹脂という。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0045】
また、顔料分散剤の樹脂としては、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体等のマレイン酸系樹脂及びその塩;架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の樹脂を挙げることができる。
【0046】
なお、アクリル系樹脂は、上記したようなアクリル系モノマー(アクリル系単量体)の重合体の他に、アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体でもよい。例えば、他のモノマーとしてビニル系モノマーとの共重合体としたアクリルビニル樹脂でもアクリル系樹脂と称する。また例えば、上記のスチレン系樹脂のうち、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体であるものもアクリル系樹脂に含める。さらに、アクリル系樹脂というときは、その塩やそのエステル化物も含める。
【0047】
顔料分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220、X-228(星光PMC社製)、ノプコスパース(登録商標)6100、6110(サンノプコ株式会社製)、ジョンクリル67、586、611、678、680、682、819(BASF社製)、DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、N-EA137、N-EA157、N-EA167、N-EA177、N-EA197D、N-EA207D、E-EN10(第一工業製薬製)等が挙げられる。
【0048】
アクリル系顔料分散剤の市販品としては、BYK-187、BYK-190、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114、AS-1100、AS-1800、A-30SL、A-7250、CL-2東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0049】
ウレタン系顔料分散剤の市販品としては、BYK-182、BYK-183、BYK-184、BYK-185(ビックケミー株式会社製)、TEGO Disperse710(Evonic Tego Chemi社製)、Borchi(登録商標)Gen1350(OMG Borschers社製)等が挙げられる。
【0050】
顔料分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。顔料分散剤の合計の含有量は、インク100質量%に対して、0.1質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上25質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。顔料分散剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、顔料の分散安定性を確保することができる。また、顔料分散剤の含有量が30質量%以下であれば、インクジェットインク組成物の粘度を小さく抑えることができる。
【0051】
また、顔料分散剤の重量平均分子量は、500以上であることがさらに好ましい。このような顔料分散剤を用いることにより、臭気が少なく、顔料の分散安定性をさらに良好にすることができる。
【0052】
顔料を顔料分散剤により分散させる場合には、顔料と顔料分散剤との比率は10:1~1:10が好ましく、4:1~1:3がより好ましい。
【0053】
(自己分散顔料)
自己分散顔料とは、その表面にカルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基、及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上の官能基が、直接的又は間接的に結合することにより表面改質された顔料をいう。
【0054】
自己分散顔料は、他の色材に比べ記録媒体上で凝集しやすいものであるため、印刷部の光学濃度を高めることができる。特に、普通紙(ビジネス文書)では高い黒濃度が求められ、黒濃度を高くするために、特にカーボンブラックの自己分散顔料が必要である。
【0055】
また、自己分散顔料は、分散安定性が高いため、樹脂などの分散剤を用いて分散させる必要がなく、粘度を適度なものとすることができる。このため、自己分散顔料を用いた場合には、その含有量を大きくしても取り扱いが容易であり、発色性に優れた画像を形成できる。一方、自己分散顔料ではない顔料の場合、分散剤が必要であり、分散剤によりインクの粘度が高くなってしまう等の弊害があり、吐出安定性に難がある。このため、インクの色材の含有量を多くできず、インクの高濃度を得る点で不利である。
【0056】
このように、分散剤を用いる必要がなく、インクの粘度を比較的低くできる点で、自己分散顔料が有用である。特に、高濃度の印刷を行いたい場合であってインクの顔料の濃度を比較的高濃度にしたい場合であっても、インクの粘度を低く抑えられる点で、自己分散顔料は有用である。一方、自己分散顔料は、樹脂などの分散剤で分散した顔料と比べて、インクが乾燥した場合などにおいて顔料が一旦凝集すると、その分散安定性が低下しやすく、顔料が再分散しにくい傾向にある。特に、顔料の表面への官能基の導入量を一定以下に留めた自己分散顔料はこの傾向が強い。
【0057】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物においては、このような自己分散顔料を用いる場合でも、吐出安定性(目詰まり回復性)に優れたものとできる傾向にある。
【0058】
自己分散顔料としては、例えば、カーボンブラック、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料、チタン白、亜鉛華、鉛白、カーボンブラック系、ベンガラ、朱、カドミウム赤、黄鉛、群青、コバルト青、コバルト紫、ジンクロメート等の無機顔料等が挙げられる。
【0059】
自己分散顔料は、これらの中でも高濃度で黒色を印刷でき、吐出信頼性に一層優れる観点から、カーボンブラックであることが好ましい。
【0060】
自己分散顔料としては、公知の方法で調整した調製品又は市販品が用いられる。市販品としては、例えば、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、「マイクロジェットCW2」、キャボット社製の「CAB-O-JET 200」、「CAB-O-JET 300」等が挙げられる。
【0061】
1.3.2 染料
インクジェットインク組成物には、色材として染料を用いてもよい。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、及び分散染料が使用可能である。
【0062】
イエロー染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、162、165、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109が挙げられる。
【0063】
マゼンタ染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14が挙げられる。
【0064】
シアン染料としては、例えば、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44が挙げられる。
【0065】
オレンジ染料としては、例えば、アシッドオレンジ3、7、8、10、19、22、24、33、45、51、51S、56、67、74、80、86、87、88、89、94、95、107、108、116、122、127、140、142、144、149、152、156、162、166、168、ダイレクトオレンジ1、6、8、10、26、27、34、39、40、46、49、102、105、107、118、リアクティブオレンジ1、2、4、5、7、11、12、13、15、16、20、30、35、56、64、67、69、70、72、74、82、84、86、87、91、92、93、95、107が挙げられる。
【0066】
上記染料は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0067】
これらの中でも、色材は、樹脂分散顔料、自己分散顔料、染料の何れかであることが好ましい。このような色材は、水系のインクにおいて好ましく分散できるため、発色性及び吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0068】
色材の含有量の下限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、3.0質量%以上がよりさらに好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。色材の含有量が上記範囲であると、発色性により優れる傾向にある。
【0069】
色材の含有量の上限は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましく、7質量%以下がより特に好ましい。色材の含有量が上記範囲であると、吐出安定性により優れる傾向にある。
【0070】
1.4 水
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水系であり、水を含有する。本明細書において「水系」とは、溶媒成分として少なくとも水を含有することをいい、水を主となる溶媒成分として含んでもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0071】
水の含有量は、液媒体成分中、好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは30~99質量%である。さらには、好ましくは30~95質量%であり、より好ましくは40~90質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%である。なお、液媒体とは、水や有機溶剤などの溶媒成分である。
【0072】
また、水の含有量は、インク組成物の総質量に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。水の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、インク組成物の総質量に対して好ましくは99質量%以下であり、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0073】
1.5 界面活性剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0074】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤は、消泡性に優れるため、インク中の気泡が発生することによる吐出不良が発生しにくい。その一方で、水への溶解性が低いため、水系のインク中で相分離を起こしやすく、特にインクの乾燥が進み水が減少した状態において顕著である。インクに相分離が発生すると吐出安定性が悪化する傾向にある。これに対して、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、インクに含有されるジメチルイソソルビドが疎水性の化合物を水に可溶化する作用があるため、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する場合であっても相分離を起こしにくく、良好な吐出安定性が得られる傾向にある。
【0078】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以下であることが特に好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内であると、吐出安定性により優れる傾向にある。また、界面活性剤の含有量の下限は、特に制限されないが、インク組成物の総質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
【0079】
1.6 樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、樹脂を含有してもよい。インク組成物が樹脂を含有することで、プリンタの記録媒体の搬送時や記録媒体を積層させた時に、インクが搬送路や積層した記録媒体に転写されることを防止できる傾向にある。一方で、樹脂はインク中やインクジェットヘッド内で異物化し、吐出安定性が悪化する場合がある。これに対して、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、インクに含有されるジメチルイソソルビドが疎水性の化合物を水に可溶化する作用があり、樹脂が異物化することを防止できるため、良好な吐出安定性が得られる傾向にある。
【0080】
樹脂としては、例えば、樹脂粒子及び水溶性樹脂の性状が挙げられる。
【0081】
1.6.1 樹脂粒子
樹脂粒子は、後述の水溶性樹脂ではなく、インク中で溶媒中に粒子状で分散している樹脂である。樹脂エマルジョンなどがあげられる。
【0082】
樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0083】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称であり、特に限定されないが、例えば、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。ウレタン系樹脂としては、公知の方法により調製した調製品であってもよく、市販品を用いてもよい。
【0084】
アクリル系樹脂とは、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称である。アクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を重合させたものや、スチレン-アクリル樹脂等、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させたものが挙げられる。アクリル系樹脂としては、公知の方法により調製した調製品であってもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、X-436(星光PMC社製、スチレンアクリル系樹脂)等が挙げられる。
【0085】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。樹脂粒子の含有量が上記範囲内であると、吐出安定性により優れる傾向にある。また、樹脂粒子の含有量の下限は、特に制限されないが、インク組成物の総質量に対して、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。
【0086】
1.6.2 水溶性樹脂
水溶性樹脂とは、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体に溶解し、動的光散乱法で測定した際に粒子径を有しない状態で水又は水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。水溶性樹脂としては、上述した樹脂粒子に用いられる樹脂を水溶性とするものが好ましく、水溶性ウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0087】
水溶性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート、及びポリオールに由来する繰り返し単位を有するが、その中でも酸基を有するポリオールに由来する繰り返し単位を有するものが好ましく、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、及び酸基を有するポリオールのそれぞれに由来する繰り返し単位を有する樹脂が好ましい。水溶性ウレタン樹脂は、さらに、ポリアミンに由来する繰り返し単位を有していてもよい。
【0088】
ポリイソシアネートとは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物を意味し、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;トリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0089】
ポリオールとは、その分子構造中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物である。本実施形態のポリオールとしては、特に限定されないが、ポリエーテルポリオールなどの酸基を有しないポリオールと、カルボン酸基などの酸基を有するポリオールが挙げられる。
【0090】
ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド及び1,3-プロパンジオールなどのポリオール類の付加重合物、及びポリプロピレングリコールなどのグリコール類等が挙げられる。
【0091】
カルボン酸基を有するポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸等が挙げられる。
【0092】
ポリアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチロールエチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミンなどの3官能以上のポリアミンなどを挙げることができる。
【0093】
水溶性ウレタン樹脂の酸価は、好ましくは40~100mgKOH/gであり、より好ましくは40~90mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~80mgKOH/gであり、よりさらにより好ましくは50~70mgKOH/gである。水溶性ウレタン樹脂の酸価は、特に限定されないが、例えば、酸基を有するポリオールの使用量によって調整することができる。また、酸価の測定方法としては、後述する実施例の方法を用いることができる。
【0094】
水溶性ウレタン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5000~150000であり、より好ましくは10000~100000であり、さらに好ましくは15000~50000であり、よりさらにより好ましくは20000~30000であり、よりさらにより好ましくは20000~23000である。重量平均分子量が上記範囲内であることによりと吐出信頼性がより向上する傾向にある。水溶性ウレタン樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、ポリイソシアネートとポリオールの反応温度や反応時間等によって調整することができる。また、重量平均分子量の測定方法としては、後述する実施例の方法を用いることができる。
【0095】
水溶性樹脂の含有量は、インク組成物の総質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。水溶性樹脂の含有量が上記範囲内であると、吐出安定性により優れる傾向にある。また、水溶性樹脂の含有量の下限は、特に制限されないが、インク組成物の総質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0096】
1.7 無機微粒子
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子とは、無機酸化物等の無機化合物の微粒子である。無機微粒子は記録媒体に対する目止め剤として機能し、インクが記録媒体に浸透しすぎることを防止できるため、発色性をより向上することができる。一方で、無機微粒子はインク中やインクジェットヘッド内で異物化し、吐出安定性が悪化する場合がある。これに対して、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、インクに含有されるジメチルイソソルビドが疎水性の化合物を水に可溶化する作用があり、無機微粒子が異物化することを防止できるため、良好な吐出安定性が得られる傾向にある。
【0097】
無機微粒子としては、特に制限されないが、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化アンチモン、酸化錫、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉛、及び酸化インジウム等の金属酸化物;窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミ等の金属窒化物;炭化珪素、炭化チタン等の金属炭化物;硫化亜鉛等の金属硫化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等の金属のケイ酸塩;リン酸カルシウム等の金属のリン酸塩;ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム等の金属のホウ酸塩や、これらの複合化物等が挙げられる。無機微粒子は塩を形成しているものであってもよい。また、無機微粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは20~100nmであり、さらに好ましくは30~80nmであり、よりさらに好ましくは40~60nmである。無機微粒子の平均粒子径が、上記範囲であることにより、間欠性に優れる傾向にある。
【0099】
なお、無機微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。このような粒度分布測定装置としては、特に限定されないが、例えば、周波数解析法としてホモダイン光学系を採用した大塚電子株式会社製の「ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ2000ZS」(商品名)が挙げられる。なお、上記平均粒子径とは、個数基準の平均粒子径のことを意味する。
【0100】
無機微粒子の含有量は、固形分質量として、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~8.0質量%であり、より好ましくは0.5~6.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~5.0質量%であり、特に好ましくは2.0~4.0質量%である。無機微粒子の含有量が0.1質量%以上であることにより、発色性が向上する傾向にあり、無機微粒子の含有量が8.0質量%以下であることにより、無機微粒子の凝集を抑制しやすく、間欠性及び目詰まり回復性に優れる傾向にある。
【0101】
1.8 有機溶剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、上述したジメチルイソソルビド及びベタイン以外の有機溶剤を含有してもよい。このような有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、一価アルコール類、ポリオール類、及びグリコールエーテル類等が挙げられる。その中でも、ポリオール類を含むことがより好ましく、標準沸点が280℃超のポリオール類を含むことがさらに好ましい。
本実施形態に係るインクジェットインク組成物が標準沸点が280℃超のポリオール類を含有する場合には、インクの耐乾燥性を向上できるため異物が発生し難くなり、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0102】
一価アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、及び2-メチル-2-プロパノール等が挙げられる。
【0103】
ポリオール類のうち、標準沸点が280℃超のポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール(標準沸点287℃)、テトラエチレングリコール(標準沸点314℃)、及びグリセリン(標準沸点290℃)等が挙げられる。
標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~18質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%であり、特に好ましくは7~12質量%である。
【0104】
標準沸点が280℃以下のポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール(1,2-HD)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
標準沸点が280℃以下のポリオール類の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~8質量%であり、より好ましくは0.2~5質量%であり、さらに好ましくは0.3~3質量%であり、特に好ましくは0.5~2質量%である。
【0105】
グリコールエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0106】
有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
上述したジメチルイソソルビド及びベタイン以外の有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは6~25質量%であり、さらに好ましくは7~20質量%であり、よりさらに好ましくは8~15質量%である。
【0108】
また、本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを、インク組成物の総質量に対し1質量%以上含有しないことが好ましく、0.5質量%以上含有しないことがより好ましく、0.3質量%以上含有しないことがさらに好ましく、0.1質量%以上含有しないことが特に好ましく、含有しないこと(0質量%)がより特に好ましい。
本実施形態に係るインクジェットインク組成物においては、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが上記範囲内であると、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0109】
1.9 樹脂溶解性化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、樹脂溶解性化合物を含有してもよい。樹脂溶解性化合物とは、樹脂を溶解する機能をもつ有機化合物であるが、この機能に限定されるものではない。樹脂溶解性化合物としては、例えば、アミド類、含硫黄溶剤、環状エーテル類等を挙げることができる。なお、ジメチルイソソルビドは樹脂溶解性化合物に含まれないものとする。
【0110】
アミド類としては、例えば、2-ピロリドン、2-ピペリドン、ε-カプロラクタム(CPL)などの環状アミド類(ラクタム)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドなどの鎖状アミド類が挙げられる。
【0111】
含硫黄溶剤としては、例えば、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0112】
環状エーテル類としては、例えば、3-エチル-3-オキセタンメタノールなどが挙げられる。
【0113】
これらの中でも、本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、アミド類を含有することが好ましく、環状アミド類を含有することがさらに好ましい。このような化合物を含有する場合には、インクの記録媒体に対する濡れ性が高まり、発色性が向上する場合がある。
【0114】
樹脂溶解性化合物、特に環状アミド類の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~8質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%であり、よりさらに好ましくは2~4質量%である。
【0115】
1.10 その他の成分
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、及び上記以外の有機溶剤等が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
1.11 記録媒体
本実施形態に係るインクジェットインク組成物の記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、及び非吸収性記録媒体が挙げられる。これらの中でも、吸収性記録媒体への記録に用いるものであることが好ましい。この場合、本発明が奏する、記録媒体に対するインク滴の浸透性、特に記録媒体の平面方向へのぬれ広がり性に優れる効果をより享受でき、発色性により優れる傾向にある。
【0117】
吸収性記録媒体としては、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)が挙げられる。布帛もあげられる。
【0118】
低吸収性記録媒体としては、例えば、表面に低吸収性の塗工層が設けられた記録媒体が挙げられ、塗工紙と呼ばれるものである。例えば、基材が紙であるものとしては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられ、基材がプラスチックフィルムである場合には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の表面に、ポリマー等が塗工されたもの、シリカ、チタン等の粒子がバインダーとともに塗工されたものが挙げられる。
【0119】
非吸収性記録媒体としては、例えば、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているもの、紙等の基材上にプラスチックフィルムが接着されているもの、吸収層(受容層)を有していないプラスチックフィルム等が挙げられる。該プラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0120】
ここで、低吸収性又は非吸収性記録媒体とは、液体を全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指す。定量的には、低吸収性又は非吸収性記録媒体とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。これに対して、吸収性記録媒体とは、低吸収性及び非吸収性記録媒体に該当しない記録媒体のことを指す。
【0121】
1.12 記録装置
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、記録媒体の搬送方向と交差する方向に形成されたインクを吐出するノズルが、前記記録媒体の印刷領域における前記交差する方向をカバーするように形成されたインクジェットヘッド(ラインヘッド)を備えるインクジェット記録装置に用いられるものであることが好ましい。
【0122】
ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置にあっては、記録された記録媒体が直ちに高速で搬送路を搬送されることや、記録済みの記録媒体が多量に積層されることが多く、耐転写性が特に課題となりやすい。これに対して、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、このようなラインヘッドを備えるインクジェット記録装置に用いる場合であっても、プリンタの記録媒体の搬送時や記録媒体を積層させた時に、インクが搬送路や積層した記録媒体に転写されることを防止しつつ、良好な吐出安定性を得ることができる傾向にある。
【0123】
図1を参照しながら、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置(以下、単に「記録装置」とも称する。)の一例について説明する。
【0124】
図1において示すX-Y-Z座標系はX方向が記録媒体の長さ方向、Y方向が記録装置内の搬送経路における記録媒体の幅方向、Z方向が装置高さ方向を示している。
【0125】
記録装置10は一例として、ライン型インクジェットプリンターである。記録装置10は、用紙等の記録媒体Pを収納する給送部12と、搬送部(搬送手段)14と、ベルト搬送部16と、記録部18と、を備えている。
【0126】
給送部12は、記録装置10において装置下部に配置されている。給送部12は、記録媒体Pを収納する給送トレイ30と、該給送トレイ30に収納された記録媒体Pを搬送経路11に送り出す給送ローラー32とを備えている。
【0127】
給送トレイ30に収納された記録媒体Pは、給送ローラー32により搬送経路11に沿って搬送部14に給送される。搬送部14は、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36とを備えている。搬送駆動ローラー34は、図示しない駆動源により回転駆動させられる。搬送部14において、記録媒体Pは、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36との間に狭持(ニップ)されて前記搬送経路11の下流側に位置するベルト搬送部16へと搬送される。
【0128】
搬送部14では、記録媒体Pをインクジェットヘッド48に対して0.5m/sec以上の速度で搬送することが好ましい。このような高速搬送のラインインクジェットにおいては、耐転写性が特に課題となるが、本実施形態に係るインクジェットインク組成物を用いる場合には、インクが搬送路や積層した記録媒体に転写されることを防止しつつ、良好な吐出安定性を得ることができる傾向にある。
【0129】
ベルト搬送部16は、前記搬送経路11において上流側に位置する第1ローラー38と、下流側に位置する第2ローラー40と、第1ローラー38及び第2ローラー40に回転移動可能に取り付けられた無端ベルト42と、第1ローラー38と第2ローラー40との間において無端ベルト42の上側区間42aを支持する支持体44とを備える。
【0130】
無端ベルト42は、図示しない駆動源により駆動された第1ローラー38または第2ローラー40により上側区間42aにおいて+X方向から-X方向に移動するように駆動される。このため、搬送部14から搬送された記録媒体Pは、ベルト搬送部16においてさらに前記搬送経路11の下流側に搬送される。
【0131】
記録部18は、記録媒体Pの幅に相当する長さ以上の長さを有するライン型のインクジェットヘッド(ラインヘッド)48と、該インクジェットヘッド48を保持するヘッドホルダー46とを備えている。インクジェットヘッド48は、支持体44に支持された無端ベルト42の上側区間42aと対向するように配置されている。インクジェットヘッド48は、無端ベルト42の上側区間42aにおいて記録媒体Pが搬送される際、記録媒体Pに向けて前述のインクジェットインク組成物を吐出し、記録を実行する。記録媒体Pは、記録が行われつつベルト搬送部16により前記搬送経路11の下流側に搬送される。
【0132】
なお、「ライン型のインクジェットヘッド」とは、記録媒体Pの搬送方向と交差する方向に形成されたノズルの領域が、前記記録媒体Pの印刷領域の前記交差方向全体をカバー可能なように設けられ、ヘッド又は記録媒体Pの一方を固定し他方を移動させて画像を形成する記録装置に用いられるヘッドである。なお、ラインヘッドの前記交差する方向のノズルの領域は、記録装置が対応している全て記録媒体Pの前記交差方向全体をカバー可能でなくてもよい。
【0133】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を備えるものである。
【0134】
本実施形態に係る記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるものであるため、優れた発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)を得ることができる。
【0135】
2.1 インク付着工程
本実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程(インク付着工程)を備える。インク付着工程とは、より具体的に、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させるものである。
【0136】
インク付着工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。本実施形態に係る記録方法においては、本発明の奏する効果をより享受できる観点から、インクジェットヘッドはラインヘッドであることが好ましい。
【0137】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。なお、ラインヘッドとは、上述した「ライン型のインクジェットヘッド」のことをいう。
【0138】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0139】
インク組成物の付着量は、記録媒体の単位面積当たり1~20mg/inch2であることが好ましく、3~15mg/inch2であることがより好ましく、5~12mg/inch2であることがさらに好ましい。インク組成物の記録媒体における最大付着量の範囲を上記範囲とすることも好ましい。
【0140】
2.2 搬送工程
本実施形態に係る記録方法は、搬送工程を含んでいてもよい。搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインク組成物が記録媒体に付着し、記録物が形成される。インク付着工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0141】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0142】
3.1 インクジェットインク組成物の調製
表1~2(
図2~3)に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより実施例及び比較例のインクジェットインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表1~2(
図2~3)における色材(自己分散顔料、樹脂分散顔料、染料)、樹脂粒子、水溶性樹脂、及び無機微粒子(コロイダルシリカ)の含有量(質量%)については、固形分濃度を表す。
【0143】
表1~2(
図2~3)の記載について以下のとおり説明を補足する。
・水系自己分散顔料:「CAB-O-JET300」(キャボット社製、固形分15%)
・水系樹脂分散顔料:カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)を、スチレン-アクリル系の水溶性樹脂である分散剤樹脂を用いて、質量比が顔料:分散剤樹脂=3:1となるように水に混合して撹拌して顔料分散液としたものを用いた。
・水系染料:アシッドブルー7
【0144】
・樹脂粒子:「X-436」(星光PMC社製、スチレンアクリル系樹脂)
【0145】
・水溶性樹脂:
水溶性樹脂は次の方法により調製した。
まず、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを用意した。この4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネートを41.7重量部、ポリプロピレングリコール(数平均分子量2,000)を40.1重量部、ジメチロールプロピオン酸を13.2重量部、及びメチルエチルケトン200.0重量部を入れ、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた(一次反応)。次いで、エチレンジアミンを0.6重量部、メタノールを2.0重量部、ジメチロールプロピオン酸を2.4重量部、及びメチルエチルケトン100.0重量部を添加した。FT-IRによりイソシアネート基の残存率を確認し、所望の残存率になるまで80℃で反応させて(二次反応)反応液を得た。得られた反応液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら水酸化カリウム水溶液を添加した。得られた液体からメチルエチルケトンを加熱減圧して留去し、水溶性樹脂を含む液体を得た。
得られた水溶性樹脂について、該水溶性樹脂を含む液体に塩酸を添加して水溶性樹脂を析出させた後、40℃で1晩真空乾燥させた樹脂をテトラヒドロフランに溶解して試料を調製し、水酸化カリウム-メタノール滴定液を用いた電位差滴定により、水溶性樹脂の酸価を測定したところ、酸価は65mgKOH/gであった。
また、得られた水溶性樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるウレタン樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は約21000であった。
【0146】
・コロイダルシリカ:「カタロイド SI-45P」(日揮触媒化成株式会社製、シリカ粒子分散ゾル、平均粒子径45nm)
【0147】
・BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・1,2-HD:1,2-ヘキサンジオール
【0148】
・アセチレングリコール系界面活性剤:「オルフィンE1010」(日信化学工業社製)
・シリコン系界面活性剤:「BYK348」(ビックケミー・ジャパン社製)
【0149】
3.2 記録試験
セイコーエプソン社製の、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置LX-10050MF(セイコーエプソン製)改造機に対して、実施例及び比較例の各インクジェットインク組成物を充填した状態で、記録媒体(A4サイズのXerox P紙、富士ゼロックス社製コピー用紙、坪量64g/m2、紙厚88μm)に対して、インク付着量7mg/inch2でテストパターンを記録し、記録物を得た。
【0150】
3.3 評価
3.3.1 吐出安定性(間欠性)
セイコーエプソン社製の、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置LX-10050MF(セイコーエプソン製)改造機に対して、実施例及び比較例の各インク組成物を充填した状態で10分間空走させた。その後、上記記録試験と同様の条件で記録を行い、以下の評価基準にしたがって評価した。
[評価基準]
A:正常に吐出される。
B:やや飛行曲がりがみられる。
C:飛行曲がりが顕著。
【0151】
3.3.2 吐出安定性(目詰まり回復性)
セイコーエプソン社製の、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置LX-10050MF(セイコーエプソン製)改造機に対して、実施例及び比較例の各インク組成物を充填した状態で、全ノズルよりインクが吐出できることを確認した後、インクジェットヘッドがプリンタに備えられたキャップの位置からずれており、インクジェットヘッドにキャップがされていない状態で、40℃、相対湿度20℃の環境下で7日間放置した。
放置後、インクジェットヘッドのクリーニングとしてノズル内のインクの吸引動作を繰り返しつつ上記同様の記録を行い、全てのノズルが回復した時のクリーニング回数に基づき、以下の評価基準により評価した。
[評価基準]
A:クリーニング3回以内に全回復。
B:クリーニング4~5回で全回復。
C:クリーニング6~7回で全回復。
D:クリーニング7回で全回復しない。
【0152】
3.3.3 保存安定性
実施例及び比較例の各インク組成物を、それぞれ、密閉できる貯蔵瓶に充填し蓋をした状態で、40℃の環境下で7日間保存した。放置前後の各インク組成物の粘度測定と、凝集物の有無を目視にて確認し、以下の基準で判定した。なお、粘度は、温度20℃、湿度50%の環境下において、レオメター(アントンパール社製、MCR300)を用いて、200shear rateの条件下で測定した。
[評価基準]
A:粘度が変化しない。
B:粘度がやや変化する。
C:粘度が±10%以上変化する、又は、異物が発生する。
【0153】
3.3.4 転写性
上記記録試験と同様の条件にて、60ppm(page per minute)の記録速度で記録を行い、記録物の記録面を上にして排紙トレイに積層した。60枚記録後、排紙トレイの一番下にある記録物を目視にて観察し、以下の基準で判定した。
[評価基準]
A:60ppm印刷時でも印字面の転写が生じない。
B:60ppm印刷時で転写が生じるが目立たない。
C:60ppm印刷時で転写が顕著に生じる。
【0154】
3.3.5 起泡性・消泡性
セイコーエプソン社製の、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置LX-10050MF(セイコーエプソン製)改造機に対して、実施例及び比較例の各インク組成物を充填し、インクジェットヘッドからヘッドキャップに、当該キャップ内側底にインクが液面を形成する程度まで、インクを吐出した。ヘッドキャップ内を目視により観察し、以下の基準で判定した。
[評価基準]
A:ヘッドキャップ内で泡が発生しない。
B:ヘッドキャップ内で泡が発生するが速やかに消泡する。
C:ヘッドキャップ内で発生した泡が消えない。
【0155】
3.3.6 発色性(OD値)
上記記録試験にて得られた記録物の記録面に対して、測色機(Xrite社製、Xrite i1)を用いてOD値を測定し、下記評価基準により発色性を評価した。
[評価基準]
A:OD値が1.4以上。
B:OD値が1.4未満1.1超。
C:OD値が1.1以下。
【0156】
3.4 評価結果
評価結果を表1~2(
図2~3)に示す。
【0157】
表1~2(
図2~3)の評価結果より、ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系の、インクジェットインク組成物である実施例は、いずれも、発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)に優れることが分かった。
【0158】
これに対して、そうではないインクジェットインク組成物である比較例は、発色性及び吐出安定性(目詰まり回復性)の少なくともいずれかに劣ることが分かった。
【0159】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0160】
インクジェットインク組成物の一態様は、
ジメチルイソソルビドと、ベタインと、色材と、を含有する、水系のものである。
【0161】
上記インクジェットインク組成物の一態様において、
アセチレングリコール系界面活性剤を含有してもよい。
【0162】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記ベタインが、トリアルキルグリシンであってもよい。
【0163】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
樹脂を含有してもよい。
【0164】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記色材が、樹脂分散顔料、自己分散顔料、染料の何れかであってもよい。
【0165】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
無機微粒子を含有してもよい。
【0166】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
環状アミド類を含有してもよい。
【0167】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
標準沸点が280℃超のポリオール類を含有してもよい。
【0168】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
記録媒体の搬送方向と交差する方向に形成されたインクを吐出するノズルが、前記記録媒体の印刷領域における前記交差する方向をカバーするように形成されたインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置に用いられるものであってよい。
【0169】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
吸収性記録媒体への記録に用いるものであってよい。
【0170】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルを、インク組成物の総質量に対し1質量%以上含有しないものであってよい。
【0171】
記録方法の一態様は、
上記いずれかの態様のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を備えるものである。
【0172】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0173】
10…記録装置、12…給送部、14…搬送部、16…ベルト搬送部、18…記録部、30…給送トレイ、32…給送ローラー、34…搬送駆動ローラー、36…搬送従動ローラー、38…第1ローラー、40…第2ローラー、42…無端ベルト、42a…無端ベルトの上側区間、44…支持体、46…キャリッジ、48…インクジェットヘッド、P…記録媒体。