IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特開2024-172108インクジェットインク組成物及び記録方法
<>
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図1
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図2
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図3
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図4
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図5
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図6
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図7
  • 特開-インクジェットインク組成物及び記録方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172108
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20241205BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089630
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 邦洋
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB01
4J039BC07
4J039BC34
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA03
4J039CA06
4J039DA01
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できるインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、を含有し、前記標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し10質量%未満であり、前記平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である、水系のインクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、
を含有し、
前記標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し10質量%未満であり、
前記平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である、水系のインクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記オリゴ糖類が、オリゴ糖アルコールである、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記オリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.5質量%以上14質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記ポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し1質量%以上9質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記オリゴ糖類の平均分子量が1000以上3000以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものである、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項6において、
前記記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置で用いられるものである、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
ベタインと、アセチレングリコール系界面活性剤と、樹脂と、ラクタム類と、を含有する、インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
前記色材が、樹脂分散顔料、自己分散顔料及び染料から選択される、インクジェットインク組成物。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のインクジェットインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、記録媒体に対して高品質の画像を形成できるため、従来から種々の技術開発が行われてきた。例えば、インクジェット法を用いた記録装置の開発のみならず当該装置で使用するインクジェットインク組成物の開発も盛んである。また近年、インクジェットプリンターの高速化、高画質化、及びカール抑制のための技術が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、インクジェット記録用インクにコロイダルシリカを添加することにより、記録紙のカール、コックリングの抑制を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-007444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系のインクジェットインク組成物を用いて普通紙などの吸収性記録媒体に記録を行う際のカールは、インクの水などを吸収することにより記録媒体が膨潤し、インク付着によって直ちに発生する一次カールと、付着したインクの水などが蒸発乾燥後にも残り、記録媒体の膨潤が収まっても元に戻らない二次カールとがある。特許文献1の技術では、コロイダルシリカを添加することでは、記録物のカールを抑制できるものの、特に二次カールを抑制することについては、必ずしも十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、
を含有し、
前記標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し10質量%未満であり、
前記平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である。
【0007】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上述のインクジェットインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置の一例。
図2】一次カールを説明する概念図。
図3】二次カールを説明する概念図。
図4】実施例の組成物の組成、評価条件及び評価結果を示す表1。
図5】実施例の組成物の組成、評価条件及び評価結果を示す表2。
図6】実施例の組成物の組成、評価条件及び評価結果を示す表3。
図7】比較例の組成物の組成、評価条件及び評価結果を示す表4。
図8】比較例の組成物の組成、評価条件及び評価結果を示す表5。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、を含有する、水系のインクジェットインク組成物である。
【0011】
1.1.平均分子量が350以上のオリゴ糖類
インクジェットインク組成物は、平均分子量が350以上のオリゴ糖類を含む。オリゴ糖類としては、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノース、などが挙げられる。より具体的には、オリゴ糖類としては、ショ糖、マルトース、乳糖、トレハロース、マルトトリオース等を挙げることができる。
【0012】
また、本明細書において、オリゴ糖類とは、その構成される単糖類ユニット数が好ましくは2以上10以下、より好ましくは2以上5以下である。すなわち、好ましくは二糖類~十糖類、より好ましくは二糖類~五糖類である。前記のオリゴ糖は、ホモ・オリゴ糖であることも、ヘテロ・オリゴ糖であることもでき、ホモ・オリゴ糖であることが好ましい。また、オリゴ糖類は、還元性オリゴ糖類(すなわち、マルトース型オリゴ糖類)又は非還元性オリゴ糖類(すなわち、トレハロース型オリゴ糖類)であってもよい。更に、オリゴ糖類としては、分岐オリゴ糖類であってもよい。還元性分岐オリゴ糖としては、例えば、イソマルトース、パノース、又はイソマルトトリオースを挙げることができる。
【0013】
オリゴ糖は、好ましくはデンプン、アミロペクチン、又はグリコゲンからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物から調製することができる。また、還元性分岐オリゴ糖は、これらのデンプン、アミロペクチン、又はグリコゲンから周知慣用の手段を用いて得ることができる。周知慣用の手段は、好ましくは、多糖類の加水分解であり、あるいは、グルコースのグルコシド結合、又はマルトースの異性化反応を利用することもできる。
【0014】
さらに、オリゴ糖類は、糖アルコールであってもよく、例えば、2糖以上の糖アルコール類が挙げられ、例えば、マルチトール,イソマルチトール,ラクチトール等の2糖アルコール類、マルトトリイトール,イソマルトトリイトール,パニトール等の3糖アルコール類、4糖以上の糖アルコール類、粉末還元麦芽糖水飴などが挙げられる。
【0015】
なお、「オリゴ」の語句は、2分子以上(例えば2~10分子)の単糖又は単糖アルコールがグリコシド結合を介して脱水縮合したことを意味する。また、オリゴ糖類は環状構造を有していてよく、無水物でも水和物でもよい。そのようなオリゴ糖アルコールとしては、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、マルトテトライトール、マルトペンタイトール、マルトヘキサイトール等が挙げられる。
【0016】
これらのオリゴ糖類は、一種を単独で又は複数種を組み合わせて使用できる。オリゴ糖類は、オリゴ糖アルコールから選択されることがより好ましい。これによりインクジェットインク組成物による記録物のカールをさらに抑制できる。
【0017】
インクジェットインク組成物に含まれるオリゴ糖類の平均分子量は、350以上であるが、500以上であることがより好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。一方、平均分子量の上限は、好ましくは5000以下であり、より好ましくは3000以下である。このような範囲の平均分子量であると、二次カールの抑制効果より高めることができる。またインクジェットインク組成物の粘度をインクジェット法に、より適したものとしやすい。さらにインクジェットインク組成物中の色材を記録媒体の表面にとどめる作用がより良好となるので、画像の発色性をより良好にできる。なお、オリゴ糖類の平均分子量は、化学式から、又は、定法により測定することにより求めることができる。
【0018】
平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量は、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である。また、平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量は、好ましくは14質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。さらに、平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0019】
平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、この範囲であると、インクジェットインク組成物による記録物のカールをさらに抑制できる。
【0020】
1.2.標準沸点が280℃超のポリオール類
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、標準沸点が280℃超のポリオール類を含有する。
【0021】
標準沸点が280℃超のポリオール類としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0022】
標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量は、インク組成物の総質量に対し10質量%未満である。また、標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量は、好ましくは9質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。さらに、標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0023】
標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量がこの範囲であると、インクジェットインク組成物が付着した記録媒体のカールを抑制しやすいとともに、インクジェットインク組成物の吐出安定性もより良好にできる。
【0024】
1.3.色材
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、色材を含有する。色材としては、顔料、染料のいずれも用いることができ、カーボンブラック、チタンホワイトを含む無機顔料、有機顔料、油溶染料、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料、分散染料、昇華型染料等を用いることができる。
【0025】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0026】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0027】
インクジェットインク組成物に用い得る有機顔料の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0028】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0029】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物、または固溶体を例示できる。
【0030】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、及び138からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0031】
これ以外の色の顔料も使用可能である。例えば、オレンジ顔料、グリーン顔料などがあげられる。
【0032】
上記例示した顔料は、好適な顔料の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの顔料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、染料と併用しても構わない。
【0033】
また、顔料は、水溶性樹脂、水分散性樹脂、界面活性剤等から選ばれる分散剤を用いて分散して用いてもよく、あるいはオゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0034】
インクジェットインク組成物に用い得る染料としては、水溶解系として酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料、水分散系として分散染料、油溶染料、昇華型染料等を挙げることができる。
【0035】
上記例示した染料は、好適な色材の例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。これらの染料は一種又は二種以上の混合物として用いてよいし、顔料と併用しても構わない。
【0036】
本実施形態のインクジェットインク組成物では、色材は、樹脂分散顔料、自己分散顔料及び染料から選択されることがより好ましい。
【0037】
色材の含有量は、特に限定されず、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0038】
1.4.その他の成分
本実施形態のインクジェットインク組成物は、以下の成分を含有してもよい。
【0039】
1.4.1.水
インクジェットインク組成物は、水系のインクジェットインク組成物であり、水を含有する。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0040】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。また、水の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、インクジェットインク組成物の総質量に対して好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0041】
1.4.2.界面活性剤
インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0042】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エアープロダクツジャパン株式会社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0043】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0044】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業株式会社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG014(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
上記界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
界面活性剤を含有する場合には、その含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して0.1質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
1.4.3.樹脂
インクジェットインク組成物は、樹脂を含有していてもよい。樹脂は、水溶性樹脂、又は樹脂粒子のエマルジョンとして配合され得る。このような樹脂は、記録媒体に付着させたインクの成分の密着性や耐擦過性を向上させる、いわゆる定着樹脂として機能する場合がある。
【0048】
樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン樹脂、フッ素樹脂、等からなる樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。ウレタン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 210、460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-6020、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品の中から選択して用いてもよい。
【0050】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。さらに例えば、スチレンなどのビニル系単量体との共重合体が挙げられる。アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。
【0051】
アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)、ポリゾールAT860(昭和電工株式会社製)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001(商品名、DIC社製、アクリル系樹脂エマルジョン)等の中から選択して用いてもよい。
【0052】
なお、アクリル系樹脂は、上述のようにスチレンアクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0053】
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン単量体とアクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレンアクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、631、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)などが挙げられる。
【0054】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であってもよい。
【0055】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0056】
また、樹脂は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001、5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM
-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、ビニブラン700、2586(日信化学工業社製)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、620、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、631、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0057】
これら樹脂のなかでも、アクリル系樹脂が好ましく、スチレンアクリル系樹脂がより好ましい。このような樹脂であると、耐擦性により優れる傾向にある。
【0058】
インクジェットインク組成物が樹脂を含む場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対し、固形分として、0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
1.4.4.ラクタム類
本実施形態のインクジェットインク組成物は、ラクタム類を含んでもよい。ラクタム類としては、2-ピロリドン(2P)、2-ピペリドン、ε-カプロラクタム(CPL)、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、β-プロピオラクタム、ω-ヘプタラクタムなどの環状アミド(ラクタム)などが挙げられる。
【0060】
インクジェットインク組成物がラクタム類を含む場合、その含有量は、総質量に対し、10質量%以下含むことが好ましく、8質量%以下含むことがより好ましく、5質量%以下含むことがさらに好ましい。また、下限値としては、0質量%以上であり、1質量%以上含むことが好ましく、2質量%以上含むことがより好ましく、3質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0061】
1.4.5.ベタイン、アセチレングリコール系界面活性剤、樹脂及びラクタム類
インクジェットインク組成物が、ベタインと、アセチレングリコール系界面活性剤と、樹脂と、ラクタム類と、を含有する場合には、さらに記録物のカールを低減できる。すなわち、ベタインはカール抑制効果を示すが、インクの乾燥が進んだ状態では、アセチレングリコール界面活性剤と相分離を起こす場合がある。しかし、インクにラクタム類、及び樹脂(水溶性樹脂、樹脂粒子)を含有することにより、ベタインとアセチレングリコール系界面活性剤との間の相分離を抑制でき、吐出安定性を良好にできる。
【0062】
1.4.6.有機溶剤
インクジェットインク組成物は、ラクタム類以外の有機溶剤を含有してもよい。そのような有機溶剤としては、例えば、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、アルコール類、多価アルコール類等を挙げることができる。含窒素溶剤としては、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0063】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0064】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0065】
なお、上記のアルキレングリコールは、モノエーテルよりも、ジエーテルのほうが、インク組成物中の樹脂を溶解又は膨潤させやすい傾向があり、摩擦堅牢性をより向上できる点で好ましい。
【0066】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0067】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0068】
アルコール類としては、例えば、アルカンが有する1つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物が挙げられる。該アルカンとしては、炭素数10以下のものが好ましく、6以下のものがより好ましく、3以下のものが更に好ましい。アルカンの炭素数は1以上であり、2以上であることが好ましい。アルカンは、直鎖型であってもよく、分枝型であってもよい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェノキシプロパノールなどが挙げられる。
【0069】
多価アルコール類は、分子中に2個以上の水酸基を有するものである。多価アルコール類は、例えば、アルカンジオール類とポリオール類とに分けることができる。
【0070】
アルカンジオール類とは、例えば、アルカンが2個の水酸基で置換された化合物が挙げられる。アルカンジオール類としては、例えば、エチレングリコール(別名:エタン-1,2-ジオール)、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール(別名:1,3-ブタンジオール)、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができる。
【0071】
ポリオール類としては、例えば、アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物、水酸基を3個以上有する化合物などが挙げられる。アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物をグリコール類ともいう。
【0072】
アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコールや、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のトリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0073】
水酸基を3個以上有する化合物は、アルカンやポリエーテル構造を骨格とする、3個以上の水酸基を有する化合物である。水酸基を3個以上有する化合物としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ポリオキシプロピレントリオールなどが挙げられる。
【0074】
上記有機溶剤は一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0075】
インクジェットインク組成物が有機溶剤を含有する場合、その含有量は、総質量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。この場合の有機溶剤の含有量の上限は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0076】
1.4.7.その他
インクジェットインク組成物は、必要に応じて、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤など、種々の添加剤を含有してもよい。
【0077】
1.5.用途等
本実施形態のインクジェットインク組成物は、吸収性記録媒体への記録に用いられるものであることが好ましい。インクジェットインク組成物を吸収性記録媒体へ適用すると、より発色性、吐出安定性、及びカール抑制の効果が顕著になる。
【0078】
また、インクジェットインク組成物は、記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置で用いられるものであることが好ましい。インクジェットインク組成物を、記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置に適用すると、発色性、吐出安定性、及びカール抑制の効果がより顕著になる。
【0079】
図1は、記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置の一例である。図1において示すX-Y-Z座標系はX方向が記録媒体の長さ方向、Y方向が記録装置内の搬送経路における記録媒体の幅方向、Z方向が装置高さ方向を示している。
【0080】
記録装置10は一例として、高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェットプリンターである。記録装置10は、用紙等の記録媒体Pを収納する給送部12と、搬送部14と、ベルト搬送部16と、記録部18と、「排出部」としてのFd(フェイスダウン)排出部20と、「載置部」としてのFd(フェイスダウン)載置部22と、「反転搬送機構」としての反転経路部24と、Fu(フェイスアップ)排出部26と、Fu(フェイスアップ)載置部28とを備えている。
【0081】
給送部12は、記録装置10において装置下部に配置されている。給送部12は、記録媒体Pを収納する給送トレイ30と、該給送トレイ30に収納された記録媒体Pを搬送経路11に送り出す給送ローラー32とを備えている。
【0082】
給送トレイ30に収納された記録媒体Pは、給送ローラー32により搬送経路11に沿って搬送部14に給送される。搬送部14は、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36とを備えている。搬送駆動ローラー34は、図示しない駆動源により回転駆動させられる。搬送部14において、記録媒体Pは、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36との間に狭持(ニップ)されて前記搬送経路11の下流側に位置するベルト搬送部16へと搬送される。
【0083】
ベルト搬送部16は、前記搬送経路11において上流側に位置する第1ローラー38と、下流側に位置する第2ローラー40と、第1ローラー38及び第2ローラー40に回転移動可能に取り付けられた無端ベルト42と、第1ローラー38と第2ローラー40との間において無端ベルト42の上側区間42aを支持する支持体44とを備える。
【0084】
無端ベルト42は、図示しない駆動源により駆動された第1ローラー38または第2ローラー40により上側区間42aにおいて+X方向から-X方向に移動するように駆動される。このため、搬送部14から搬送された記録媒体Pは、ベルト搬送部16においてさらに前記搬送経路11の下流側に搬送される。
【0085】
記録部18は、ライン型のインクジェットヘッド48と、該インクジェットヘッド48を保持するヘッドホルダー46とを備えている。尚、該記録部18は、Y軸方向に往復移動するキャリッジにインクジェットヘッドが設けられたシリアル型のものであってもよい。インクジェットヘッド48は、支持体44に支持された無端ベルト42の上側区間42aと対向するように配置されている。インクジェットヘッド48は、無端ベルト42の上側区間42aにおいて記録媒体Pが搬送される際、記録媒体Pに向けてインクを吐出し、記録を実行する。支持体44には、図示せぬヒーターが設けられている。記録媒体Pは、記録が行われつつベルト搬送部16により前記搬送経路11の下流側に搬送される。
【0086】
なお、また、「ライン型のインクジェットヘッド」とは、記録媒体Pの搬送方向と交差する方向に形成されたノズルの領域が、前記記録媒体Pの前記交差方向全体をカバー
可能なように設けられ、ヘッド又は記録媒体Pの一方を固定し他方を移動させて画像を形成する記録装置に用いられるヘッドである。なお、ラインヘッドの前記交差する方向のノズルの領域は、記録装置が対応している全て記録媒体Pの前記交差方向全体をカバー可能でなくてもよい。
【0087】
また、ベルト搬送部16の前記搬送経路11の下流側には、第1分岐部50が設けられている。第1分岐部50は、記録媒体PをFd排出部20またはFu排出部26へ搬送する搬送経路11と、記録媒体Pの記録面を反転させて再度記録媒体Pを記録部18に搬送する反転経路部24の反転経路52とに切り替え可能に構成されている。尚、第1分岐部50により反転経路52に切り替えられて搬送される記録媒体Pは、反転経路52における搬送過程において記録面が反転され、最初の記録面と反対側の面がインクジェットヘッド48と対向するように記録部18に再度搬送される。
【0088】
前記搬送経路11に沿って第1分岐部50の下流側には、さらに第2分岐部54が設けられている。第2分岐部54は、記録媒体PをFd排出部20へ向けて搬送し、または記録媒体PをFu排出部26へ向けて搬送するように記録媒体Pの搬送方向を切り替え可能に構成されている。
【0089】
第2分岐部54においてFd排出部20へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fd排出部20から排出され、Fd載置部22に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fd載置部22に対向するように載置される。また、第2分岐部54においてFu排出部26へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fu排出部26から排出され、Fu載置部28に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fu載置部28と反対側に向くように載置される。
【0090】
Fd排出部20は、複数の排出ローラー56を備えており、前記搬送経路11において該排出ローラー56の後述するニップ位置70よりも搬送方向における上流側に第1湾曲部材58が設けられている。第1湾曲部材58は、本実施例では、第1変形部材60と第2変形部材62とを備えている。尚、第1湾曲部材58は、第1変形部材60だけで構成することも可能である。
【0091】
複数の前記排出ローラー56は、対を成す排出駆動ローラー64と排出従動ローラー66とを備えている。複数の排出駆動ローラー64は、所定の間隔をおいて駆動軸68に設けられている。排出駆動ローラー64は、ヒーターを備えており、図示しない駆動源により駆動させられる駆動軸68により回転駆動させられる。また、排出駆動ローラー64は、前記搬送方向と交差する方向すなわち搬送経路11の搬送面上を搬送される記録媒体Pの幅方向(図5におけるY軸方向)において、該記録媒体Pの中央部に対応する位置に配置されている。
【0092】
また、排出従動ローラー66は、記録媒体Pと点接触する歯付きローラーとして構成され、排出駆動ローラー64に向けて付勢されている。さらに排出駆動ローラー64と排出従動ローラー66とは、ニップ位置において記録媒体Pに接触し、該記録媒体Pに送り力を作用する。
【0093】
上述したライン型のインクジェットヘッドを備える記録装置では、印字すると、印字面が膨張するため、印字直後にカール(一次カール)が発生する場合がある。さらに、乾燥が進行すると、記録媒体の水素結合の再結合の影響で、十数秒から数分でカール(二次カール)が発生する場合がある。
【0094】
しかしながら、平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、を含む本実施形態のインクジェットインク組成物を用いることで、印字後に乾燥が進行した場合に、水素結合の再結合を抑制したり、緩やかに進行させることができるので、二次カールを低減することができる。カールのメカニズムについては、さらに後述する。
【0095】
なお、上記では、ライン型のインクジェットヘッドを用いる場合の例について説明したが、本実施形態に係る記録装置は、シリアル型のインクジェットヘッドを用いるプリンタ(シリアルプリンタ)であってもよい。シリアルプリンタでは、記録媒体を搬送方向に搬送させつつ、インクジェットヘッドを当該搬送方向と交差する方向に移動させることにより、印刷が行われる。シリアルプリンタであっても、上述したインクを用いることにより二次カールを抑制することができる。
【0096】
1.6.製造と物性
インクジェットインク組成物は、上述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0097】
インクジェットインク組成物は、インクジェットインクの画像品質をより高める観点から、20℃における表面張力(静的表面張力)が18mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましく、22mN/m以上33mN/m以下であることがさらに好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートを処理液で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0098】
同様の観点から、インクジェットインク組成物の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0099】
1.7.作用効果
本実施形態のインクジェットインク組成物によれば、得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できる。より詳細には、オリゴ糖類は、セルロースと構造が近いことと、標準沸点が280℃超のポリオール類によって記録媒体が膨潤しやすいことと、により、成分が記録媒体の深くまで侵入しにくくなるので、色材を含む場合に、その記録媒体上での発色性を高めることができる。また、オリゴ糖類を含むことにより、記録媒体が膨潤した後、乾燥する際に、水素結合が生じる位置の自由度が高まるので、乾燥した際の記録物のカールの発生を抑制できる。
【0100】
図2は、一次カールを説明する概念図である。図3は、二次カールを説明する概念図である。
【0101】
図2の左に示すように、記録媒体の繊維にインクジェットインク組成物が付着した場合、水や溶剤分子により繊維を構成するセルロース間の水素結合が切断される。水素結合が切断された部分では、繊維が膨潤し、これにより繊維を変形させる応力が発生する。このようなメカニズムで一次カールが発生すると考えられる。そして、図2の右に示すように、繊維間の水素結合の切断が飽和すると、応力の発生は収まり一次カールは収束し元に戻ると考えられる。この時点では乾燥が進んでいないため、溶剤がセルロース間の水素結合を阻害して残るので繊維は膨潤したままとなっていると考えられる。
【0102】
一方その後、図3の左に示すように、インクジェットインク組成物の乾燥が進むと、膨潤した繊維から溶剤が揮発すると、再び繊維(セルロース)間で水素結合を形成し始めると考えられる。そして、溶剤の揮発が進み、図3の左に示すように、繊維間の水素結合が再形成されるようになると、再形成される水素結合は、無秩序に生じると考えられる。このように再形成された水素結合は、インクジェットインク組成物が付着する前の元の状態とは異なる位置に形成されると考えられる。これにより記録媒体に部分的に応力がかかった状態が形成され、二次カールが生じると考えられる。
【0103】
本実施形態のインクジェットインク組成物は、揮発しない又は揮発しにくい、平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類を含んでいる。これらの分子が、セルロース間のスペーサーの役割を果たし、これにより上述の二次カールが生じる際の無秩序な水素結合の再形成が抑制される。本実施形態のインクジェットインク組成物は、このようなメカニズムにより二次カールを低減していると考えられる。
【0104】
2.記録方法
本実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【0105】
本実施形態に係る記録方法によれば、得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できる。
【0106】
吸収性記録媒体は、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m超である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0107】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の基材そのものが液体吸収性である記録媒体が挙げられる。このような記録媒体としては、例えば、繊維からなる布帛、パルプを成分とする紙などが挙げられる。紙としては、普通紙、厚紙、ライナー紙などが挙げられる。ライナー紙は、クラフトパルプ、古紙などの紙から構成されるものが挙げられる。なお、普通紙は、一般に上質紙・中性紙・コピー用紙と呼ばれるものが例として挙げられる。
【0108】
液体吸収性の記録媒体としては、記録媒体の表面に液体を吸収する受容層が設けられていることによって液体吸収性の記録媒体になっているものも挙げられる。例えば、インクジェット用紙(インクジェット専用紙)などが挙げられる。液体を吸収する受容層としては、液体吸収性の樹脂、液体吸収性の無機微粒子などから構成された層が挙げられる。
【0109】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物及び記録方法は、記録媒体の制約を受けずに使用、実施できるが、記録媒体として、吸収性記録媒体を用いることで、より顕著な効果が得られる。また、この効果は、記録媒体の基材そのものが液体吸収性である記録媒体であるほうがさらに顕著となる。
【0110】
本実施形態に係る記録方法は、インク付着工程の他に、インクジェットインク組成物が付着した記録媒体を加熱する加熱工程を備えてもよい。
【0111】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0112】
3.1.インクジェットインク組成物の調製
表1~表5の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、さらに、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルにて分散処理を行うことにより十分に混合した。1時間攪拌してから、5.0μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで、インクジェットインク(A,B)を得た。水は純水を用い、各インクの質量がそれぞれ100質量%となるように添加した。水系自己分散顔料、水系樹脂分散顔料、水系樹脂粒子は、次のように分散液を調製して、これを用いた。
【0113】
<水系自己分散顔料>
ファーネス法で調製したカーボンブラック原末500g(一次粒子径=18nm、BET比表面積=180m2/g、DBP吸収量=186mL/100g)を、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら、50℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながらこれに、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度=12%)の水溶液5300gを50~60℃で3.5時間かけて滴下した。引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、自己分散型カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュの金網で濾過し、ジルコニアビーズ及び未反応カーボンブラックと、反応液とを分別した。分別して得た反応液に、水酸化カリウム5%水溶液を加えて、pH=7.5に調整した。液の電導度が1.5mS/cmになるまで限外濾過膜により、脱塩及び精製を行なった。電気透析装置を用いて液の電導度が1.0mS/cmになるまでさらに脱塩及び精製を行った。その液を、自己分散型カーボンブラックの濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を、遠心分離機にかけ粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過した。得られた濾液にイオン交換水を加え、自己分散型カーボンブラックの濃度が15重量%になるまで希釈し、分散させて、水系自己分散型カーボンブラック分散液を得た。
【0114】
<水系樹脂分散顔料>
顔料としてのピグメントレッド122、 15質量部に対して、分散剤としてのスチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩(重量平均分子量10000、ポリマー成分15%)30質量部及びイオン交換水55質量部を加えて十分に混合した後、この混合物をサンドミル(株式会社安川製作所製)中でガラスビーズ(直径1.7mm、混合物の1.5倍量)とともに2時間分散した。分散後、ガラスビーズを取り除き、樹脂分散ピグメントレッド122分散液を得た。
【0115】
表1~表5に、化合物名で記載された物質以外の物質は、以下のとおりである。
・水系染料:C.I.ダイレクトブルー108のリチウム塩
・水系樹脂粒子(スチレンアクリル系):QE-1042(星光PMC社製)
・PO-500:高糖化還元水飴(三菱商事ライフサイエンス株式会社、商品名)
・PO-20:高糖化還元水飴(三菱商事ライフサイエンス株式会社、商品名)
・PO-10:低糖化還元水飴(三菱商事ライフサイエンス株式会社、商品名)
・1,2-HD:1,2-ヘキサンジオール
・アセチレン系界面活性剤:オルフィンE1010(日信化学工業社製)
・水溶性樹脂(ウレタン系):
水溶性樹脂(ウレタン系)は次の方法により調製した。
【0116】
まず、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを用意した。この4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネートを41.7重量部、ポリプロピレングリコール(数平均分子量2,000)を40.1重量部、ジメチロールプロピオン酸を13.2重量部、及びメチルエチルケトン200.0重量部を入れ、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた(一次反応)。次いで、エチレンジアミンを0.6重量部、メタノールを2.0重量部、ジメチロールプロピオン酸を2.4重量部、及びメチルエチルケトン100.0重量部を添加した。FT-IRによりイソシアネート基の残存率を確認し、所望の残存率になるまで80℃で反応させて(二次反応)反応液を得た。得られた反応液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら水酸化カリウム水溶液を添加した。得られた液体からメチルエチルケトンを加熱減圧して留去し、水溶性樹脂を含む液体を得た。
【0117】
得られた水溶性樹脂について、該水溶性樹脂を含む液体に塩酸を添加して水溶性樹脂を析出させた後、40℃で1晩真空乾燥させた樹脂をテトラヒドロフランに溶解して試料を調製し、水酸化カリウム-メタノール滴定液を用いた電位差滴定により、水溶性樹脂の酸価を測定したところ、酸価は65mgKOH/gであった。
【0118】
また、得られた水溶性樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるウレタン樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は約21000であった。
【0119】
3.2.評価方法
3.2.1.記録試験
ラインプリンターLX-10050MF(セイコーエプソン株式会社製;改造機)を用意した。ヒーターと排紙トレイの直前に加熱ローラーを備えた。記録媒体としては、普通紙は、ゼロックスP紙(普通紙)A4サイズとし、コート紙は、OKトップコート+(王子製紙製をA4サイズに加工して用いた。そして、インク付着量7mg/inchでテストパターン記録した。
【0120】
3.2.2. 1次カール試験
各例のインクジェットインク組成物を用いて、記録媒体に1枚記録し、排紙トレイに排紙した。また、記録後の記録媒体が、排紙トレイから飛び出さずに正しく収まるか否かを評価した。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。
A:排紙直後にカールが全く発生しない
B:排紙直後にカールが少し発生するが排紙トレイに正しく収まる
C:排紙直後にカールが発生し排紙トレイに正しく収まらない
【0121】
3.2.3. 2次カール試験
各例のインクジェットインク組成物を用いて、記録媒体に1枚記録し、排紙トレイに排紙した。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。
A:印刷後1週間経過してもカールしていない
C:印刷後1週間経過するとカールしている
【0122】
3.2.4.吐出信頼性(間欠性)試験
ヘッドにインク充填した状態で10分間空走させた。空走後吐出試験した。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。ノズルから0.5mmの距離におけるインク滴の位置が、ノズル面の方向において、隣接ノズル間距離の50%以上の位置ずれがあった場合に、飛行曲がりとした。
A:飛行曲がりなし
B:1%以下のノズルに飛行曲がりがみられる
C:1%超のノズルに飛行曲がりがみられる
【0123】
3.2.5.吐出信頼性(目詰まり回復性)試験
インク充填したヘッドをCap開条件40℃×7日放置。放置後、吐出試験とクリーニングを実施。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。クリーニングはノズルからインクを吸引する吸引クリーニングとした。
A:クリーニング3回以内実施で全ノズルが不吐出なし
B:クリーニング4~6回実施で全ノズルが不吐出なし
C:クリーニング6回実施しても不吐出ノズル有り
【0124】
3.2.6.画質(発色)試験
Xerox P紙に、5mg/inchの付着量でテストパターンを記録した。テストパターンを測色機Xrite ilで測定。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。
A:OD値が1.4以上
B:OD値が1.2以上1.4未満
C:OD値が1.0以上1.2未満
D:OD値が1.0未満
【0125】
3.2.7.転写性試験
各例のインクジェットインク組成物を用いて、60ppmの記録速度で記録し記録面を上にして排紙トレイに積層した。60枚記録後、一番下の記録媒体の記録面に積層した記録媒体を観察した。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。
A:転写なし
B:やや転写あり
C:かなり転写あり
【0126】
3.3.評価結果
表1~表5に評価結果を示した。表から、平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、を含有し、標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し10質量%未満であり、平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である、各実施例においては、得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できることが判明した。
【0127】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0128】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0129】
インクジェットインク組成物は、
平均分子量が350以上のオリゴ糖類と、標準沸点が280℃超のポリオール類と、色材と、
を含有し、
前記標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し10質量%未満であり、
前記平均分子量が350以上のオリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し15質量%未満である。
【0130】
このインクジェットインク組成物によれば、得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できる。より詳細には、オリゴ糖類は、セルロースと構造が近いことと、標準沸点が280℃超のポリオール類によって記録媒体が膨潤しやすいことと、により、成分が記録媒体の深くまで侵入しにくくなるので、色材を含む場合に、その記録媒体上での発色性を高めることができる。また、オリゴ糖類を含むことにより、記録媒体が膨潤した後、乾燥する際に、水素結合が生じる位置の自由度が高まるので、乾燥した際の記録物のカールの発生を抑制できる。
【0131】
上記インクジェットインク組成物において、
前記オリゴ糖類が、オリゴ糖アルコールであってもよい。
【0132】
このインクジェットインク組成物によれば、記録物のカールをさらに抑制できる。
【0133】
上記インクジェットインク組成物において、
前記オリゴ糖類の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.5質量%以上14質量%以下であってもよい。
【0134】
このインクジェットインク組成物によれば、記録物のカールをさらに抑制できる。
【0135】
上記インクジェットインク組成物において、
前記ポリオール類の含有量が、インク組成物の総質量に対し1質量%以上9質量%以下であってもよい。
【0136】
このインクジェットインク組成物によれば、カールを抑制しやすいとともに、吐出安定性もより良好にできる。
【0137】
上記インクジェットインク組成物において、
前記オリゴ糖類の平均分子量が1000以上3000以下であってもよい。
【0138】
このインクジェットインク組成物によれば、画像の発色性をより良好にできる。
【0139】
上記インクジェットインク組成物において、
吸収性記録媒体への記録に用いられるものであってもよい。
【0140】
このインクジェットインク組成物によれば、発色性、吐出安定性、及びカール抑制の効果がより顕著になる。
【0141】
上記インクジェットインク組成物において、
前記記録媒体を加熱する加熱機構を有する記録装置で用いられるものであってもよい。
【0142】
このインクジェットインク組成物によれば、発色性、吐出安定性、及びカール抑制の効果がより顕著になる。
【0143】
上記インクジェットインク組成物において、
ベタインと、アセチレングリコール系界面活性剤と、樹脂と、ラクタム類と、を含有してもよい。
【0144】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに記録物のカールを低減できる。すなわち、ベタインはカール抑制効果を示すが、インクの乾燥が進んだ状態では、アセチレングリコール界面活性剤と相分離を起こす場合がある。しかし、インクにラクタム類、及び樹脂(水溶性樹脂、樹脂粒子)を含有することにより、ベタインとアセチレングリコール系界面活性剤との間の相分離を抑制でき、吐出安定性を良好にできる。
【0145】
上記インクジェットインク組成物において、
前記色材が、樹脂分散顔料、自己分散顔料及び染料から選択されてもよい。
【0146】
記録方法は、
上述のインクジェットインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【0147】
この記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、得られる画像の発色性及び吐出安定性が良好で、記録物のカールも抑制できる。
【符号の説明】
【0148】
10…記録装置、12…給送部、14…搬送部、16…ベルト搬送部、18…記録部、20…Fd排出部、22…Fd載置部、24…反転経路部、26…Fu排出部、28…Fu載置部、30…給送トレイ、32…給送ローラー、34…搬送駆動ローラー、36…搬送従動ローラー、38…第1ローラー、40…第2ローラー、42…無端ベルト、42a…無端ベルトの上側区間、44…支持体、46…キャリッジ、48…インクジェットヘッド、50…第1分岐部、52…反転経路、54…第2分岐部、56…排出ローラー対、64…排出駆動ローラー、68…駆動軸、76…載置面、78…凸状部、80…第1付勢部材、82…第2付勢部材、84,86…支持軸、P…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8