(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172129
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】歯車伝達機構および直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20241205BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20241205BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16H25/24 J
F16H25/20 E
F16H37/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089658
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和則
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB01
3J062AB22
3J062AC01
3J062AC07
3J062BA27
3J062CD02
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD32
3J062CD75
3J062CG83
(57)【要約】
【課題】歯車伝達機構の使用者の意図に関わらず、自動的に歯車伝達機構にグリースを供給する技術を提供する。
【解決手段】歯車伝達機構は、それぞれシャフトに支持されて限定された角度範囲内を回転する複数の歯車と、歯車の1つである対象歯車が固定されたシャフトに形成された第1の送りねじと、第1の送りねじに取り付けられ、第1の送りねじの回転に伴って、第1の送りねじの軸線方向に沿って直線上を往復運動させられ、対象歯車に接近した時、対象歯車の歯面にグリースを塗布するグリース塗布部材とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれシャフトに支持されて限定された角度範囲内を回転する複数の歯車と、
前記歯車の1つである対象歯車が固定されたシャフトに形成された第1の送りねじと、
前記第1の送りねじに取り付けられ、前記第1の送りねじの回転に伴って、前記第1の送りねじの軸線方向に沿って直線上を往復運動させられ、前記対象歯車に接近した時、前記対象歯車の歯面にグリースを塗布するグリース塗布部材とを備える
ことを特徴とする歯車伝達機構。
【請求項2】
前記第1の送りねじの前記軸線方向は、前記対象歯車の端面に対して垂直であり、前記グリース塗布部材は、前記対象歯車の前記端面側から前記対象歯車の歯面にグリースを塗布する
ことを特徴とする請求項1に記載の歯車伝達機構。
【請求項3】
前記グリース塗布部材は、
前記第1の送りねじに移動可能に取り付けられる取付部と、
前記取付部の径方向外側に配置されて前記グリースを貯留し、前記グリース塗布部材が前記対象歯車に接近した時、前記対象歯車を少なくとも部分的に囲んで前記グリースを前記対象歯車の歯面に塗布する塗布壁とを有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の歯車伝達機構。
【請求項4】
請求項1または2に記載の歯車伝達機構と、
前記歯車伝達機構で回転させられる第2の送りねじと、
前記第2の送りねじの回転に伴って直進させられる直進部とを備える
ことを特徴とする直動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項3に記載の歯車伝達機構と、
前記歯車伝達機構で回転させられる第2の送りねじと、
前記第2の送りねじの回転に伴って直進させられる直進部とを備える
ことを特徴とする直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車伝達機構および直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯車伝達機構には潤滑のためにグリースが使用されている。グリースは流動性を有するので、歯車と歯車の間から逃げ出す。そのため多量のグリースを歯車伝達機構に供給しても、歯車の潤滑に役立つグリースの量はその一部に過ぎない。
【0003】
特許文献1は、歯車の回転時にその歯車の歯にグリースを塗布する塗布具を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された塗布具は、人為的にグリースを供給する時に、歯車の歯にグリースを塗布する。したがって、使用者がグリースを供給しようとしない場合には、この塗布具は使用されない。
【0006】
そこで、本発明は、歯車伝達機構の使用者の意図に関わらず、自動的に歯車伝達機構にグリースを供給する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は歯車伝達機構を提供する。この歯車伝達機構は、それぞれシャフトに支持されて限定された角度範囲内を回転する複数の歯車と、前記歯車の1つである対象歯車が固定されたシャフトに形成された第1の送りねじと、前記第1の送りねじに取り付けられ、前記第1の送りねじの回転に伴って、前記第1の送りねじの軸線方向に沿って直線上を往復運動させられ、前記対象歯車に接近した時、前記対象歯車の歯面にグリースを塗布するグリース塗布部材とを備える。
【0008】
本発明の他の態様は直動アクチュエータを提供する。この直動アクチュエータは、前記歯車伝達機構と、前記歯車伝達機構で回転させられる第2の送りねじと、前記第2の送りねじの回転に伴って直進させられる直進部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様においては、グリース塗布部材は、限定された角度範囲内を回転する対象歯車とともに回転する第1の送りねじの回転に伴って、第1の送りねじの軸線方向に沿って直線上を往復運動させられる。すなわち、グリース塗布部材は、自動的に対象歯車に接近したり、離れたりする。グリース塗布部材は、対象歯車に接近した時、対象歯車の歯面にグリースを塗布する。したがって、グリース塗布部材は、歯車伝達機構の使用者の意図に関わらず、自動的に歯車伝達機構にグリースを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る歯車伝達機構を有する直動アクチュエータを示す断面図である。
【
図2】
図2は、退縮状態にある
図1の直動アクチュエータを示す断面図である。
【
図3】
図3は、伸長状態にある
図1の直動アクチュエータを示す断面図である。
【
図4】
図4は、歯車伝達機構のグリース塗布部材の正面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態の変形例に係るグリース塗布部材の正面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態の変形例に係るグリース塗布部材の正面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態の変形例に係るグリース塗布部材の正面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態の変形例に係る歯車伝達機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る歯車伝達機構1は、直動アクチュエータ20に使用されている。歯車伝達機構1は、モータ2によって駆動される。モータ2は、例えばサーボモータまたはステッピングモータである。
【0013】
モータ2は回転シャフト2aを有する。モータ2はブラケット6に固定されており、回転シャフト2aはブラケット6の端壁6aに形成された孔を通過する。ブラケット6は金属または樹脂のような剛性材料から形成されている。ブラケット6の端壁6aは、直動アクチュエータ20のハウジング21の下壁21aと中央壁21bに、ねじで固定されている。
【0014】
歯車伝達機構1は、モータ2の回転シャフト2aによって駆動される。歯車伝達機構1は第1の歯車7、第2の歯車8および第3の歯車9を有する。第1の歯車7は回転シャフト2aに固定されて、回転シャフト2aとともに回転する。例えば、第1の歯車7は回転シャフト2aにキー2bによって固定されている。
【0015】
第2の歯車8は第1の歯車7に噛み合っており、第1の歯車7によって駆動されて回転する。第2の歯車8は、回転シャフト8aに固定されて、回転シャフト8aとともに回転する。例えば、第2の歯車8は回転シャフト8aにキー8bによって固定されている。
【0016】
回転シャフト8aは、転がり軸受17,18によって回転可能に支持されている。転がり軸受17は、直動アクチュエータ20のハウジング21の中央壁21bに固定され、転がり軸受18は、カバー22に固定されている。
【0017】
第3の歯車9は第2の歯車8に噛み合っており、第2の歯車8によって駆動されて回転する。第3の歯車9は、回転シャフト9aに固定されて、回転シャフト9aとともに回転する。例えば、第3の歯車9は回転シャフト9aにキー9bによって固定されている。
【0018】
この実施形態では、回転シャフト9aは、歯車伝達機構1の出力シャフトであり、回転シャフト9aの延長部分に直動アクチュエータ20の送りねじ24が形成されている。
【0019】
回転シャフト9aは、転がり軸受11,12によって回転可能に支持されている。転がり軸受11,12は軸受ハウジング13に支持されており、軸受ハウジング13は、直動アクチュエータ20のハウジング21の中央壁21bと上壁21cに、ねじで固定されている。転がり軸受11,12は、軸受ハウジング13と軸受カバー14で包囲されている。軸受カバー14は、軸受ハウジング13に、ねじで固定されている。
【0020】
直動アクチュエータ20は、上記の歯車伝達機構1、ハウジング21、カバー22、端部取り付け部23、送りねじ24、ナット(直進部)25、直動ロッド(直進部)26、および端部取り付け部27を有する。
【0021】
ハウジング21は、金属または樹脂のような剛性材料から形成され、上記の下壁21a、中央壁21bおよび上壁21cのほか、直動ロッド26の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブ21dを有する。案内スリーブ21dは、中央壁21bおよび上壁21cに一体に連結されている。
【0022】
カバー22は、金属または樹脂のような剛性材料から形成され、ハウジング21の下壁21aと上壁21cに、ねじで固定されており、ハウジング21および軸受カバー14とともに歯車伝達機構1を密閉する空間を画定する。
【0023】
端部取り付け部23はカバー22に一体に連結されている。
【0024】
送りねじ(第2の送りねじ)24は、第3の歯車9の回転シャフト9aの部分である。送りねじ24は案内スリーブ21dと同軸に配置されている。送りねじ24は、台形ねじでもよいし、ボールねじ(例えば、循環型ボールねじ)でもよいし、各種のローラねじでもよい。ローラねじは、例えば、遊星ローラねじ、循環型ローラねじ、またはその他のローラねじであってもよい。
【0025】
ナット25は送りねじ24に係合しており、直動ロッド26に、ねじで固定されている。直動ロッド26は、金属または樹脂のような剛性材料から形成された円筒状のパイプである。直動ロッド26は送りねじ24および案内スリーブ21dと同軸に配置されている。直動ロッド26は、案内スリーブ21dの内部空間に軸線方向に沿って往復移動可能に配置されている。直動ロッド26の内部空間には、送りねじ24が配置されている。
【0026】
直動ロッド26は、図示しない回り止め機構(例えば、キーまたはスプライン)によって、案内スリーブ21dに対して回転することが防止されている。したがって、送りねじ24に係合したナット25とナット25に固定された直動ロッド26は、送りねじ24が回転すると、送りねじ24の軸線方向に沿って直線的に移動させられる。
【0027】
図2は、直動アクチュエータ20の退縮状態(より正確には直動ロッド26の退縮状態)を示す。このように、回転シャフト9aの延長部分である送りねじ24は、歯車伝達機構1で回転させられ、ナット(直進部)25と直動ロッド(直進部)26は送りねじ24の回転に伴って直進させられる。
【0028】
歯車伝達機構1を逆転させれば、
図2とは逆に、直動ロッド26は伸長させられる。
図3は、直動アクチュエータ20の伸長状態(より正確には直動ロッド26の伸長状態)を示す。このようにして直動ロッド26は往復運動させられる。
【0029】
直動ロッド26の直動可能な範囲(ストローク)は有限であり、したがってモータ2は有限な角度範囲で回動するように、図示しないモータドライバで制御される。このように、歯車伝達機構1が直動アクチュエータ20に設けられる場合には、モータ2は有限な角度範囲で回動させられる。したがって、歯車伝達機構1の歯車7,8,9も限定された角度範囲内を回転する。
【0030】
円筒状のパイプである直動ロッド26は端壁26aを有する。端部取り付け部27は直動ロッド26の端壁26aに一体に連結されている。
【0031】
端部取り付け部23および端部取り付け部27は、直動アクチュエータ20が使用される機器または構造物に取り付けられる。例えば、直動アクチュエータ20は、鉄道車両または他の輸送機器の横方向の制振、建築物の横方向の制振のために使用されうる。この場合、端部取り付け部23,27の一方が機器または構造物の一方の側部に取り付けられ、他方が機器または構造物の他方の側部に取り付けられる。
【0032】
あるいは、直動アクチュエータ20は、輸送機器または建築物の電磁サスペンションとして使用されうる。この場合、端部取り付け部23,27の一方が機器または構造物の上部に取り付けられ、他方が機器または構造物の下部に取り付けられる。
【0033】
絶対必要というわけではないが、直動ロッド26の直進運動を容易にするため、直動ロッド26の外周面と案内スリーブ21dの内周面との間には、すべり軸受28,29が介在させられている。すべり軸受28,29は、例えば円筒形のブッシュである。但し、すべり軸受28,29の各々は、複数の円弧状のピースを持つ分割型すべり軸受であってもよい。
【0034】
この実施形態では、すべり軸受28は直動ロッド26の外周面に形成された周溝内に配置されている。すべり軸受28の外周面は、案内スリーブ21dの内周面に摺動可能に接触する。すべり軸受29は案内スリーブ21dの内周面に形成された周溝内に配置されている。すべり軸受29の内周面は、直動ロッド26の外周面に摺動可能に接触する。
【0035】
絶対必要というわけではないが、送りねじ24の端部にはストッパ30が、ねじで固定されている。ストッパ30は直動ロッド26の直動可能な範囲を規制する。
図3に示すように、直動ロッド26が最大限に伸長した状態では、ストッパ30はナット25に接触し、ナット25の移動ひいては直動ロッド26のさらなる伸長を防止する。
図2に示すように、直動ロッド26が最大限に退縮した状態では、ストッパ30は直動ロッド26の端壁26aに接触し、直動ロッド26のさらなる退縮を防止する。
【0036】
歯車伝達機構1には潤滑のためにグリースが使用されている。グリースは流動性を有するので、歯車と歯車の間から逃げ出す。本実施形態において、歯車伝達機構1には、歯車と歯車の間から逃げ出したグリースを歯車7,8,9のいずれかの歯面に再び自動的に塗布する機構が設けられている。歯車7,8,9のいずれかの歯面にグリースを塗布することにより、歯車の噛み合いにより、他の歯車の歯面にもグリースが行き渡る。
【0037】
以下、第1の歯車7をグリースが再度塗布される対象歯車であると想定する。
図1から
図3に示すように、第1の歯車7は他の歯車8,9よりも厚さが大きく、外側から歯面にグリースを塗布しやすい。
【0038】
図1から
図3に示すように、第1の歯車7が固定された回転シャフト2aには、送りねじ(第1の送りねじ)50が形成されている。送りねじ50には、グリース塗布部材51が取り付けられている。グリース塗布部材51は、限定された角度範囲内を回転する回転シャフト2aひいては送りねじ50の回転に伴って、送りねじ50の軸線方向に沿って直線上を往復運動させられる。送りねじ50は、台形ねじでもよいし、ボールねじ(例えば、循環型ボールねじ)でもよいし、各種のローラねじでもよい。ローラねじは、例えば、遊星ローラねじ、循環型ローラねじ、またはその他のローラねじであってもよい。
【0039】
グリース塗布部材51には凸部52が形成されており、グリース塗布部材51の周囲のハウジング21の下壁21aまたは中央壁21bには、回転シャフト2aに平行なガイド溝53が形成されている。凸部52はガイド溝53の内部に配置されており、グリース塗布部材51が送りねじ50に対して回転することを防止する。したがって、送りねじ50に係合したグリース塗布部材51は、送りねじ50が回転すると、送りねじ50の軸線方向に沿って直線的に移動させられる。
【0040】
このようにして、グリース塗布部材51は、送りねじ50によって自動的に往復移動し、対象歯車である第1の歯車7に接近したり離れたりする。
図1および
図3に示す状態では、グリース塗布部材51は第1の歯車7から離れている。
図2に示す状態では、グリース塗布部材51は第1の歯車7に接近する。第1の歯車7に接近した時、グリース塗布部材51は、歯車7,8の間から逃げ出したグリースを第1の歯車7の歯面に再度塗布する。上記のように、歯車7,8,9の噛み合いにより、他の歯車8,9の歯面にもグリースが行き渡る。したがって、グリース塗布部材51は、歯車伝達機構1の使用者の意図に関わらず、自動的に歯車伝達機構1にグリースを供給することができる。歯車7,8,9にグリースが再供給されることにより、歯車7,8,9の寿命を長くすることが可能である。
【0041】
送りねじ50の軸線方向は、第1の歯車7の端面に対して垂直であり、グリース塗布部材51は第1の歯車7の端面に対して垂直に往復移動する。第1の歯車7に接近した時、グリース塗布部材51は、第1の歯車7の端面側から第1の歯車7の歯面にグリースを塗布する。
【0042】
図4は、グリース塗布部材51の正面図であり、
図1のIV-IV線に沿った矢視断面図である。後述する
図5~
図7も同じ断面を示す。
図4には、第1の歯車7が仮想線で示されている。また、
図4には、グリース塗布部材51に貯留されたグリースGが示されている。
【0043】
図4に示すように、グリース塗布部材51は取付部51aと塗布壁51bを有する。取付部51aは、送りねじ50に移動可能に取り付けられている。この実施形態では、取付部51aは送りねじ50と同軸の円板である。
【0044】
塗布壁51bは、取付部51aの径方向外側に配置されて、歯車7,8から逃げたグリースGを受け止めて貯留する。この実施形態では、塗布壁51bは送りねじ50および第1の歯車7と同軸の円筒である。グリース塗布部材51が第1の歯車7に接近した時、
図2に示すように、塗布壁51bは第1の歯車7を全周にわたって囲む。この時、塗布壁51bはここに貯留されたグリースGを第1の歯車7の歯面に塗布する。
【0045】
塗布壁51bの外周面には、上記のガイド溝53に嵌め入れられる凸部52が形成されている。
【0046】
回転シャフト2aへの負担を軽減するように、グリース塗布部材51の材料は軽量であることが好ましい。例えば、グリース塗布部材51は樹脂または軽金属から形成されていると好ましい。但し、送りねじ50に係合する取付部51aは、耐久性を高めるために、例えば鋼のような摩耗しにくい金属から形成されていることが好ましい。取付部51aのうち送りねじ50に接触する径方向内側部分だけを摩耗しにくい金属から形成し、取付部51aの径方向外側部分と塗布壁51bを樹脂または軽金属から形成してもよい。
【0047】
この実施形態では、グリース塗布部材51に形成された凸部52とハウジング21に形成されたガイド溝53がグリース塗布部材51の回り止め機構として機能する。しかし、
図5に示す変形例のように、回転シャフト2aに溝または切り欠き55をグリース塗布部材51に形成してもよい。この場合、回転シャフト2aに平行なガイド突起56をグリース塗布部材51の周囲のハウジング21の下壁21aまたは中央壁21bに形成してもよい。この変形例では、ガイド突起56が溝または切り欠き55に嵌め込まれ、グリース塗布部材51が送りねじ50に対して回転することを防止する。したがって、送りねじ50に係合したグリース塗布部材51は、送りねじ50が回転すると、送りねじ50の軸線方向に沿って直線的に移動させられる。グリース塗布部材51の回り止め機構としてスプラインを採用してもよい。
【0048】
また、この実施形態では、塗布壁51bは円筒であるが、回転シャフト2aが水平方向に延びる状態で歯車伝達機構1が使用される場合には、
図6または
図7に示す変形例のように、塗布壁51bは円弧形状を有していてもよく、回転シャフト2aの中心軸線の下方にのみ配置されていてもよい。好ましくは、円弧の中心軸線は送りねじ50および第1の歯車7の中心軸線と一致する。この場合も、塗布壁51bは歯車7,8から逃げたグリースGを受け止めて貯留することができ、グリース塗布部材51が第1の歯車7に接近した時、塗布壁51bは第1の歯車7を部分的に囲む。この時、塗布壁51bはここに貯留されたグリースGを第1の歯車7の歯面に塗布することができる。
【0049】
実施形態では、歯車7,8,9は平歯車であるが、本発明は、他の種類の歯車、例えば、かさ歯車、はすば歯車、ラックとピニオンにも適用することができる。
図8は、本発明の実施形態の変形例に係る歯車伝達機構を示す断面図である。この変形例では、歯車伝達機構1Aは、回転シャフト60a,61aにそれぞれ固定されたかさ歯車60,61を有する。かさ歯車60,61は限定された角度範囲内を回転する。
【0050】
回転シャフト60aには送りねじ(第1の送りねじ)62が形成されており、送りねじ62にはグリース塗布部材63が取り付けられている。グリース塗布部材63は、限定された角度範囲内を回転する回転シャフト60aひいては送りねじ62の回転に伴って、送りねじ62の軸線方向に沿って直線上を往復運動させられる。送りねじ62は、台形ねじでもよいし、ボールねじ(例えば、循環型ボールねじ)でもよいし、各種のローラねじでもよい。ローラねじは、例えば、遊星ローラねじ、循環型ローラねじ、またはその他のローラねじであってもよい。
【0051】
グリース塗布部材63は取付部63aと塗布壁63bを有する。取付部63aは、送りねじ62に移動可能に取り付けられている。この変形例では、取付部63aは送りねじ62と同軸の円板である。
【0052】
塗布壁63bは、取付部63aの径方向外側に配置されて、歯車60,61から逃げたグリースGを受け止めて貯留する。この変形例では、塗布壁63bは回転シャフト60aの中心軸線の下方にのみ配置されており、かさ歯車60の傾斜した歯面に対向する傾斜面63cを有する。塗布壁63bの傾斜面63cは、歯車60,61から逃げたグリースGを受け止めて貯留する。
【0053】
グリース塗布部材63の塗布壁63bには凸部64が形成されており、グリース塗布部材63の周囲のハウジング65には、回転シャフト60aに平行なガイド溝66が形成されている。凸部64はガイド溝66の内部に配置されており、グリース塗布部材63が送りねじ62に対して回転することを防止する。したがって、送りねじ62に係合したグリース塗布部材63は、送りねじ62が回転すると、送りねじ62の軸線方向に沿って直線的に移動させられる。
【0054】
このようにして、グリース塗布部材63は、送りねじ62によって自動的に往復移動し、対象歯車であるかさ歯車60に接近したり離れたりする。かさ歯車60に接近した時、グリース塗布部材63は、歯車60,61の間から逃げ出したグリースGをかさ歯車60の歯面に再度塗布する。歯車60,61の噛み合いにより、他のかさ歯車61の歯面にもグリースが行き渡る。したがって、グリース塗布部材63は、歯車伝達機構1Aの使用者の意図に関わらず、自動的に歯車伝達機構1Aにグリースを供給することができる。歯車60,61にグリースが再供給されることにより、歯車60,61の寿命を長くすることが可能である。
【0055】
送りねじ62の軸線方向は、かさ歯車60の端面に対して垂直であり、グリース塗布部材63はかさ歯車60の端面に対して垂直に往復移動する。かさ歯車60に接近した時、グリース塗布部材63の塗布壁63bの傾斜面63cは、かさ歯車60を部分的に囲む。この時、塗布壁63bの傾斜面63cは、ここに貯留されたグリースGをかさ歯車60の端面側からかさ歯車60の歯面に塗布する。
【0056】
他の変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0057】
例えば、本発明に係る歯車伝達機構1の用途は、直動アクチュエータに限定されず、歯車伝達機構1は、歯車が限定された角度範囲内を回転する他の様々な装置、例えばロボットアームに使用してよい。
【0058】
実施形態では、モータ2と第1の歯車7の間に送りねじ50が形成され、グリース塗布部材51がモータ2と第1の歯車7の間に配置されている。しかし、モータ2よりも第1の歯車7から遠い位置に送りねじ50が形成され、グリース塗布部材51がモータ2よりも第1の歯車7から遠い位置に配置されてもよい。
【0059】
実施形態では、グリースが再度塗布される対象歯車は第1の歯車7である。しかし、回転シャフト8aまたは9aに送りねじを設け、その送りねじにグリース塗布部材51を取り付けることによって、歯車8または9にグリースを再度塗布してもよい。上記の通り、いずれかの歯車にグリースが再供給されると、歯車の噛み合いによって、他の歯車の歯面にもグリースが行き渡る。グリースが再度塗布される対象歯車は、他の歯車よりも厚さが大きく、外側から歯面にグリースを塗布しやすいことが好ましい。
【0060】
また、各歯車が取り付けられた回転シャフトを支持する軸受の位置を変更してもよいし、軸受を追加してもよい。
【0061】
実施形態では、歯車伝達機構1は、3つの歯車7,8,9を有するが、歯車伝達機構に設けられる歯車の数は、2でもよいし、4以上でもよい。
【0062】
グリース塗布部材51または63の塗布壁51bまたは63bに、グリースを保持するブラシを取り付けてもよい。ブラシは歯車を損傷しないよう樹脂から形成されているのが好ましい。
【0063】
上記の実施形態および変形例は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,1A…歯車伝達機構、2a…回転シャフト、7…第1の歯車(対象歯車)、8…第2の歯車、8a…回転シャフト、9…第3の歯車、9a…回転シャフト、20…直動アクチュエータ、24…送りねじ(第2の送りねじ)、25…ナット(直進部)、26…直動ロッド(直進部)、50…送りねじ(第1の送りねじ)、51…グリース塗布部材、51a…取付部、51b…塗布壁、60…かさ歯車、60a…回転シャフト、61…かさ歯車、61a…回転シャフト、62…送りねじ(第1の送りねじ)、63…グリース塗布部材、63a…取付部、63b…塗布壁、G…グリース